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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】アライメント装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/50 20060101AFI20240130BHJP
   C23C 14/52 20060101ALI20240130BHJP
   H01L 21/68 20060101ALI20240130BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20240130BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20240130BHJP
【FI】
C23C14/50 F
C23C14/52
H01L21/68 F
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021143521
(22)【出願日】2021-09-02
(65)【公開番号】P2023036458
(43)【公開日】2023-03-14
【審査請求日】2022-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】三澤 啓太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 精二
(72)【発明者】
【氏名】永田 哲也
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-095633(JP,A)
【文献】特開2021-080563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/68
H05B 33/10
H10K 50/10-50/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の被成膜面に沿った平面において、前記基板とマスクの相対位置調整を行うアライメント手段と、
前記平面と交差する交差方向において、前記マスクに対する前記基板の相対位置を移動する移動手段と、
前記平面における前記基板の位置を測定する測定手段と、
前記基板を支持する基板支持手段と、
を備え
前記基板支持手段は、前記基板に代えて、前記基板よりも撓み量が少ない治具を支持することが可能であり、
前記測定手段は、
前記具を第1の高さに配置した状態において、前記治具に付された補正マークの第1の位置情報を測定し、
前記治具を前記第1の高さよりも前記マスクに近い第2の高さに配置した状態において、前記補正マークの第2の位置情報を測定し、
前記第1の位置情報および前記第2の位置情報を用いて、前記測定手段が有するカメラの光軸、または、前記移動手段の軸を調整するために前記相対位置調整に用いる補正値を算出する
ことを特徴とするアライメント装置。
【請求項2】
前記基板支持手段には、可動式の前記治具が取り付けられている
ことを特徴とする請求項1記載のアライメント装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記基板に付された基板マークと、前記マスクに付されたマスクマークを測定するものであり、
前記治具には、前記基板マークに対応する位置に、前記補正マークが付されている
ことを特徴とする請求項またはに記載のアライメント装置。
【請求項4】
前記第1の高さは、前記相対位置調整を行うときの前記基板の高さである
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のアライメント装置。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のアライメント装置と、
前記マスクを介して前記基板に成膜を行う成膜源と、
を備える成膜装置であって、
前記第2の高さは、前記成膜を行うときの高さである
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載のアライメント装置が配置されたチャンバを含む複数のチャンバがインライン型に構成されている
ことを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アライメント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイや液晶ディスプレイなどのパネルディスプレイを備える表示装置が広く用いられている。中でも有機ELディスプレイを備える有機EL表示装置は、応答速度、視野角、薄型化などの特性が優れており、モニタ、テレビ、スマートフォン等に好適である。
【0003】
このような有機ELディスプレイの製造工程では、所定のパターンで開口が形成されたマスクを介してガラス基板上に成膜することで、所定のパターンの膜を形成するマスク成膜法が知られている。マスク成膜法では、マスクとガラス基板を位置合わせ(アライメント)した後に、マスクとガラス基板を密着させて成膜を行う。マスク成膜法によって精度よく成膜するためには、マスクとガラス基板の位置合わせを高い精度で行うことが重要である。
【0004】
特許文献1では、マスクについているマスクマークとガラス基板についている基板マークを用いてマスクとガラス基板の位置合わせを行う方法を記載している。特許文献1では、ガラス基板とマスクが密着した後のアライメントマークの位置ずれ量に基づいてオフセット量を算出することで、高い精度で位置合わせを行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-105629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、上述のように、基板とマスクが密着した後のアライメントマークの位置ずれ量に基づいてオフセット量を算出していた。しかしながらアライメントマークを撮像するカメラ光学系の光軸と、キャリアのZ昇降スライダの走り(スライダに沿ってキャリアが移動する移動方向)とが相対的に傾いている場合、カメラの表示上では基板マークとマスクマークの位置が合っていたとしても、マスク面に正射影した基板マークとマスクマークの位置関係がずれてしまう。以下、この位置ずれを光軸ずれと呼ぶ。この光軸ずれの影響によりアライメント精度を低下させる場合がある。特許文献1に記載の方法では、基板とマスクの接触によるずれの影響を受けるので、装置自体が有する光軸ずれの成分と分離することが困難である。そのため、光軸ずれなど装置自体の有する誤差について、正しい補正値を取得することが困難である。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、成膜における基板とマスクのアライメント時の位置ずれを抑制し、アライメント精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
基板の被成膜面に沿った平面において、前記基板とマスクの相対位置調整を行うアライメント手段と、
前記平面と交差する交差方向において、前記マスクに対する前記基板の相対位置を移動する移動手段と、
前記平面における前記基板の位置を測定する測定手段と、
前記基板を支持する基板支持手段と、
を備え
前記基板支持手段は、前記基板に代えて、前記基板よりも撓み量が少ない治具を支持することが可能であり、
前記測定手段は、
前記具を第1の高さに配置した状態において、前記治具に付された治具マークの第1の位置情報を測定し、
前記治具を前記第1の高さよりも前記マスクに近い第2の高さに配置した状態において、前記治具マークの第2の位置情報を測定し、
前記第1の位置情報および前記第2の位置情報を用いて、前記測定手段が有するカメラの光軸、または、前記移動手段の軸を調整するために前記相対位置調整に用いる補正値を算出する
ことを特徴とするアライメント装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、成膜における基板とマスクのアライメント時の位置ずれを抑制し、アライメント精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】真空蒸着装置の真空蒸着装置全体ラインの模式図
図2】真空蒸着装置のアライメント装置の模式図
図3】アライメント装置のキャリア及びマスクの支持部の拡大模式図
図4】補正値を取得する処理のフロー図
図5】アライメント処理のフロー図
図6】補正マークのカメラ画角内におけるマーク座標変化を示す図
図7】補正マークのZ高さとX方向のずれ量と補正値を示す図
図8】基板マーク及びマスクマークの構成を示す図
図9】治具および補正マークの構成を示す図
図10】電子デバイスの製造方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。ただし、以下の記載は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲はそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成及びソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に記載がない限りは、本発明の範囲をこれに限定しようとする趣旨ではない。
【0012】
基板に所望のパターンの膜を形成する際には、膜の形状に適したマスクパターンを有するマスクを用いる。複数のマスクを用いることで、成膜される各層を任意に構成できる。基板上の所望の位置に膜を形成するために、基板等とマスクの相対位置調整(アライメント)を精度良く行う必要がある。
【0013】
本発明は、基板等の成膜対象にマスクを介して成膜材料を付着させて膜を形成する際の位置合わせ(基板とマスクの相対位置調整)を行うためのアライメント方法やアライメント装置として捉えることができる。本発明はまた、上記のアライメント方法やアライメント装置を用いた成膜方法や成膜装置としても捉えられる。蒸着法により成膜を行う場合、本発明は蒸着方法や蒸着装置としても捉えられる。本発明はまた、上記のアライメント装置を調整するための調整方法、調整装置または調整治具としても捉えられる。本発明はまた、成膜された基板を用いる電子デバイスを製造するための電子デバイスの製造方法や電子デバイスの製造装置としても捉えられる。本発明はまた、上記の各装置の制御方法としても捉えられる。
【0014】
本発明は、基板の表面にマスクを介して所望のパターンの薄膜材料層を形成する場合に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)など任意
のものを利用できる。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機ELディスプレイやそれを用いた有機EL表示装置、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサなどの有機電子デバイスに好適である。ただし本発明の適用対象はこれに限られない。
【0015】
<実施例1>
(製造ライン)
図1は、電子デバイスの製造ラインの構成を模式的に示す平面図である。このような製造ラインは、成膜装置を含む成膜システムと言える。ここでは、有機ELディスプレイの製造ラインについて説明する。有機ELディスプレイを製造する場合、製造ラインに所定のサイズの基板を搬入し、有機ELや金属層の成膜を行った後、基板のカットなどの後処理工程を実施する。
【0016】
なお本発明は、図1のようなインライン型の成膜システムにおけるアライメントに限定されるものではない。例えば、基板が搬送ロボットを中心に複数の成膜装置を並べて成膜されるクラスタ型の成膜システムにおけるアライメントにも適用できる。また、本発明は、キャリアを有しない成膜装置にも適用できる。
【0017】
本実施例の成膜装置は、蒸発源を用いて基板に蒸着材料を蒸着する、真空蒸着装置である。製造ラインは真空蒸着装置全体ラインの蒸着装置内に設置され、ガラス基板投入室101、キャリア合流室102、マスク合流室103、アライメント室104、成膜室105、ガラス基板排出室109、を少なくとも含む。本実施例では図1に示すように、搬送室106、マスク分離室107、キャリア分離室108、マスク搬送室110、キャリア搬送室111、も含まれる。
【0018】
ガラス基板投入室101には、ガラス基板が投入される。キャリア合流室102では、キャリア11とガラス基板10が合流する。マスク合流室103では、キャリア11とマスク12が合流する。アライメント室104では、キャリアとマスクが高精度にアライメントされる。成膜室105では、ガラス基板10に対する成膜処理が行われる。ガラス基板排出室109から、成膜後のガラス基板が排出される。
【0019】
ガラス基板投入室101は上流から流れてくるガラス基板10を搬送ラインへ投入し、下流工程へ搬送する。キャリア合流室102では、ガラス基板10と、ガラス基板10を搬送するためのキャリア11が合流し、キャリア11がガラス基板10をクランプして下流へ搬送する。マスク合流室103ではキャリア11とマスク12が合流し、それぞれ下流へ搬送される。アライメント室104にマスク合流室103からキャリア11とマスク12が搬入されると、ガラス基板10に取付けてある基板マークとマスク12に取り付けてあるマスクマークを用いた高精度な位置合わせが行われ、キャリア11とマスク12が当接されて、下流の成膜室105へ搬送する。このアライメント処理については後述する。成膜室105には、成膜材料を加熱して蒸発させる蒸発源(成膜源)が備えられており、マスク12を介してガラス基板10に成膜処理が行われる。
【0020】
キャリア11とマスク12は、搬送室106を経てマスク分離室107に搬入される。マスク分離室107においてマスク12がキャリア11から分離される。分離したマスク12はマスク搬送室110を経て再び循環経路に戻る。キャリア分離室108ではキャリア11とガラス基板10が分離される。分離したキャリア11はキャリア搬送室111を経て再び循環経路に戻る。成膜処理が完了したガラス基板10は、ガラス基板搬出室106から次工程へ搬出される。
【0021】
なお、製造ラインは、ガラス基板10を保持するキャリア11をマスク12に取り付け
た状態でキャリア11を上下反転させ、下方から成膜材料をガラス基板10に付着させる構成でもよい。その場合、成膜完了後に再び上下の反転を行う。また、製造ラインの各チャンバは、有機EL表示パネルの製造過程で高真空状態に維持されることが好ましい。
【0022】
(アライメント装置)
図2は、アライメント室104の構成を示す断面図である。アライメント室104では、マスク合流室103から、キャリア11とマスク12が、それぞれキャリア搬送ローラー20上とマスク搬送ローラー21上に載せて搬送されてくる。そして、ガラス基板10とマスク12の相対的な位置関係を調整するアライメント(位置合わせ)が行われ、ガラス基板10を固定したキャリア11がマスク12に当接し、キャリア11がマスク12ごと次工程の成膜室105へ搬送される、一連のプロセスが行われる。
【0023】
以下の説明においては、鉛直方向をZ方向とするXYZ直交座標系を用いる。XYZ直交座標系において、成膜時に基板が水平面(XY平面)と平行となるよう固定された場合、矩形のガラス基板10の対向する二組の辺のうち、一組の辺が延伸する方向をX方向、他の一組の辺が延伸する方向をY方向とする。また、Z軸まわりの回転角をθで表す。
【0024】
アライメント室104は、真空チャンバ22を有する。真空チャンバ22の内部は、真空雰囲気、または、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に維持されている。真空チャンバ22の内部には、マスク支持ユニット16、キャリア支持ユニット17が設けられる。
【0025】
キャリア支持ユニット17(基板支持手段)は、キャリア搬送ローラー20上に載せて搬送されたキャリア11を支持するホルダとしての機能を有する。マスク12は例えばメタルマスクであり、基板上に形成される薄膜パターンに対応する開口パターンを持つ。マスク支持ユニット16はマスク搬送ローラー21で搬入されたマスク12を支持するホルダとしての機能を有する。本実施例の構成では、マスク12上にキャリア11が位置決めされて支持されたのち、マスク搬送ローラー21に載せて搬出する。なお、キャリア11を用いない構成の場合は、基板を直接支持する基板支持手段を用いてもよい。
【0026】
図8(b)は、本実施例のマスク12の構成の一例を示す。マスク12は、枠状のマスクフレーム12aに数μm~数十μm程度の厚さのマスク箔12bが溶接固定された構造である。マスクフレーム12aは、マスク箔12bが撓まないように、マスク箔12bをその面方向に引っ張った状態で支持する。マスク箔12bは、基板の被成膜領域を区画するための境界部を含む。マスク箔12bの有する境界部はガラス基板10にマスク12を装着したときにガラス基板10に密着し、成膜材料を遮蔽する。ガラス基板10としてガラス基板またはガラス基板上にポリイミド等の樹脂製のフィルムが形成された基板を用いる場合、マスクフレーム12aおよびマスク箔12bの主要な材料としては、鉄合金を用いることができ、ニッケルを含む鉄合金を用いることが好ましい。
【0027】
真空チャンバ22の外側上部には、キャリアZ昇降ベース23とキャリアZ昇降スライダ24、キャリアクランプZスライダ25、が設けられる。各アクチュエータは例えば、モータとボールねじ、モータとリニアガイドなどで構成される。真空チャンバ22の外側上部にはさらに、アライメントステージ26が設けられている。アライメントステージ26はキャリアZ昇降ベース23に接続され、キャリア支持ユニット17をXYθ方向に駆動する。
【0028】
キャリアZ昇降スライダ24(移動手段)は、キャリア支持ユニット17全体をZ軸方向に駆動して昇降させる。これにより、ガラス基板10の被成膜面に沿った平面に交差している交差方向(典型的にはガラス基板10の被成膜面の平面に垂直な方向)において、ガラス基板10とマスク12の相対距離が変化する。キャリアクランプZスライダ25が
、キャリア支持ユニット17の押圧具を駆動してZ方向にキャリアクランプ27を駆動することでキャリアを把持する。
【0029】
(ガラス基板とマスクの相対位置ずれについての検討)
前述したように、アライメント後のキャリア11とマスク12の当接時に位置ずれが起き、その結果キャリアに固定されているガラス基板10とマスクの位置ずれが起きるため、アライメント精度に影響を及ぼす場合がある。この位置ずれの原因として、接触ずれの要因と、アライメント装置80の機械的な要因と、があることが分かっている。接触ずれの要因には、キャリア11とマスク12の接触による要因と、ガラス基板10とマスク12の接触による要因と、がある。
【0030】
接触要因による位置ずれは、キャリア11がマスク12に載る際に起こるものと、大型のガラス基板10がたわんでいるため、ガラス基板10とマスク12の接触・密着時に起こるものがあり、位置ずれの接触成分とも呼ばれる。この接触成分は、ガラス基板10とキャリア11、マスク12それぞれの個体毎にバラつく傾向にある。
【0031】
一方、機械的要因による位置ずれは、キャリア11とマスク12の相対距離接近段階で起こるアライメント装置固有のものであり、位置ずれの光軸ずれ成分とも呼ばれる。この光軸ずれ成分は、アライメント装置のアライメントカメラ毎に一定の値を取り、ガラス基板毎やキャリア毎、マスク毎の個体差は少ない。
【0032】
例えば、制御部は基板を鉛直方向に移動するよう制御したにも関わらず、実際にはわずかに鉛直方向から傾いて移動してしまうような場合、アライメント時の高さでは合っていた基板とマスクの相対位置が、密着時には、ずれが発生する。あるいは、カメラの光軸と、Z昇降スライダがZ方向に下降した際の走り(移動方向)とが、わずかに一致していない場合、アライメント高さでは位置合わせが完了したと判断したにも関わらず、密着時には相対位置でのずれが発生する。なお、カメラの光軸方向およびZ昇降スライダの移動方向は、必ずしも鉛直方向である必要はない。両者が一致してさえいれば、制御における位置ずれを防止することができる。
【0033】
従来の技術を用いた方法では、これらの接触による位置ずれ成分と光軸ずれ要因による位置ずれの成分を判別せずに、まとめてオフセット量に反映させている。基板の接触による位置ずれは、摩擦力のばらつきなどのため基板ごとに異なることが一般的である。そのため、再現性の低い接触による基板の位置ずれ成分の影響により、オフセット補正の精度が低下するおそれがあった。そこで、位置ずれの機械成分を接触成分から分離して算出する方法が求められている。特に、機械成分を高精度に補正するために、最終的にガラス基板10とマスク12が密着して接触ずれが起こるZ方向高さにおける高精度な計測が必要となる。
【0034】
そこで本願では、位置ずれの機械成分を高精度に補正するために、接触による位置ずれが起こる高さも含めて測定を行い、アライメント時のオフセット補正に利用している。なお、位置ずれの機械成分はアライメント装置80に固有のものであるため、あらかじめ専用の治具に補正マークを取り付けて算出してもよく、アライメント中に算出してもよい。また、位置ずれの機械成分のオフセット補正は接触による位置ずれのオフセット補正と併用してもいいし、単独で使用してもよい。
【0035】
図2に戻り、説明を続ける。アライメントステージ26(アライメント手段)は、キャリア11をXY方向に移動させ、またθ方向に回転させてマスク12との位置を変化させる。具体的には、アライメントステージ26は、キャリアが把持しているガラス基板10の被成膜面に沿った平面において、ガラス基板10とマスク12の相対位置を調整する。
アライメントステージ26は、真空チャンバ22に接続されて固定されるチャンバ固定部37、XYθ移動を行うためのアクチュエータ部28、キャリア支持ユニットと接続される接続部29を備える。
【0036】
なお、アライメントステージ26、キャリアZ昇降スライダ24、キャリア支持ユニット17、キャリアクランプ27、キャリア11および制御部30を合わせて、ガラス基板10とマスク12をアライメントするアライメント装置80だと考えてもよい。アライメント装置80にはさらに、後述するカメラ類を含めてもよい。
【0037】
アクチュエータ部28としては、Xアクチュエータ、Yアクチュエータおよびθアクチュエータを積み重ねられたアクチュエータを用いてもよい。また、複数のアクチュエータが協働するUVW方式のアクチュエータを用いてもよい。いずれの方式のアクチュエータ部28であっても、制御部30から送信される制御信号に従って駆動し、ガラス基板10をX方向およびY方向に移動させ、θ方向に回転させる。制御信号は、積み重ね方式のアクチュエータであればXYθ各アクチュエータの動作量を示し、UVW方式のアクチュエータであればUVW各アクチュエータの動作量を示す。
【0038】
アライメントステージ26はキャリア支持ユニット17をXYθ移動させる。なお、本実施例ではキャリア11の位置を調整する構成としたが、マスク12の位置を調整する構成や、キャリア11とマスク12両方の位置を調整する構成でもよく、ガラス基板10とマスク12を相対的に位置合わせできればよい。
【0039】
真空チャンバ22の外側上部には、光学撮像を行って画像データを生成する、複数のアライメントカメラ31(測定手段)が設けられている。アライメントカメラ31は、真空チャンバ22に設けられた、真空維持用の封止窓32を通して撮像を行う。
【0040】
複数のアライメントカメラ31は、ガラス基板10およびマスク12の隅部に取り付けてあるマークを撮像できる位置に設置される。ガラス基板10およびマスク12がアライメント高さの範囲内にあるとき、カメラ撮像領域には、ガラス基板表面の基板マーク13と、マスク表面のマスクマーク14とが含まれる。
【0041】
ここで、基板マーク13、マスクマーク14の配置について説明する。図8(a)は、ガラス基板10を上から見た図である。ガラス基板10を支持するキャリア11の外縁を、破線で示している。ガラス基板10の隅部には、基板マーク13a~13dが形成されている。この例では、真空チャンバ上部に4つのアライメントカメラ31a~31dが配置されているものとする。そのアライメントカメラ31a~31dは各々、基板マーク13a~13dを同時に撮像する。
【0042】
図8(b)は、マスク12を上面から見た図であり、マスクフレーム12aの四隅にマスクマーク14a~14dが形成されている。アライメントカメラ31a~31dは各々、マスクマーク14a~14dを同時に撮像する。なお、基板マーク13、マスクマーク14、アライメントカメラ31の位置やの数は、この例に限定されない。
【0043】
図8(c)は、アライメント中の、あるアライメントカメラ31による画角44(撮像視野)を示す。この例では、画角44内に基板マーク13とマスクマーク14が同時に撮像されているので、マーク中心同士の相対的な位置を測定することが可能である。なお、基板マーク13とマスクマーク14の形状は図示例に限られないが、中心位置を算出しやすく対称性を有する形状が好ましい。なお、大まかなアライメントを行うための低倍率で広視野なカメラと、高精細なアライメントを行うための高倍率カメラとを設け、二段階アライメントを行うことも好ましい。
【0044】
制御部30は、撮像した画像から、面方向におけるガラス基板10とマスク12の相対的な位置関係を取得する。そして制御部30は、この相対位置情報に基づくフィードバックにより、各々の画角44内における基板マーク13とマスクマーク14が所定の位置関係の範囲内に接近するまでの間、アクチュエータ部28などの駆動部の駆動量を制御する。こうしてアライメント装置80は、キャリア11上のガラス基板10と、マスク12とを、基板の被成膜面に平行な面内において位置合わせする。そして、キャリアZ昇降スライダ24が駆動してキャリア11(ガラス基板10)をマスク12上に載置する。
【0045】
キャリア11のXY面内移動においては、アライメントステージ26を用いて、キャリア11を支持するキャリア支持ユニット17を、XY方向に並進移動、またはθ方向に回転移動させる。ここでの面内とは、マスク12が配置された平面あるいはガラス基板10の被成膜面と略平行な平面内を言う。すなわち、ガラス基板10のXY移動およびθ回転のときにはガラス基板10とマスク12のZ方向の距離は変化せず、XY平面内においてガラス基板10の位置が変化する。
【0046】
(治具の構成)
以上が、通常の成膜におけるガラス基板10とマスク12のアライメント処理である。続いて、本願に特徴的な治具の構成と、治具に付されている補正マーク15について説明する。アライメント装置80のキャリアを把持しているキャリア支持ユニット17には、補正マーク15が付いている補正治具40を取り付けることが出来る。あるいは、可動式の補正治具40をキャリア支持ユニット17に常駐させておき、補正マークの測定時には、撮像可能な位置に可動式の治具を移動させ、通常のガラス基板10とマスク12のアライメント時には、アライメントに干渉しない位置に格納させてもよい。また、ガラス基板10についている基板マーク13を用いてもよい。ただしガラス基板10を用いる場合は、補正値算出の際に、ガラス基板10とマスク12が接触しないようにする必要がある。
【0047】
図9は、補正治具40(40a~40d)の上面図である。キャリア11の外縁に相当する線を、一点鎖線11fで示している。なお、キャリア支持ユニット17は、キャリア11と補正治具40の両方を同時に支持することはないため、一点鎖線11fは仮想的な外縁線である。本実施例での補正治具40の数は4つであり、それぞれがキャリア11の四隅に対応する位置においてキャリア支持ユニット17に把持される。その結果、アライメントカメラ31a~31dの画角44a~44dの中に、補正マーク15a~15dが収まるようになる。
【0048】
補正治具40のXY平面におけるサイズは、少なくとも補正マーク15を画角内に収められる程度には大きくする必要がある。また、補正治具40が大きすぎると、一部が撓んでマスク12に接触してしまう可能性があるため、撓みが無視できる程度の小ささとする。もしくは、たわみ自体を低減するために補正治具の厚みや断面2次モーメントを管理することで剛性を確保し、撓みを低減して接触を防止する方法も考えられる。
【0049】
制御部30は、アライメントカメラ31による撮像画像データを解析し、基板マーク13、マスクマーク14及び補正マーク15を検出し、位置情報として装置のXYZ座標系におけるマークの座標を取得する制御手段である。制御部30は基板とマスクのアライメントマークの位置ずれ量に基づき、キャリア11を移動させるXY方向、距離および角度θを算出する。そして、算出された移動量を、アライメントステージ26の各アクチュエータが備えるステッピングモータやサーボモータ等の駆動量に変換し、制御信号を生成する。
【0050】
詳しくは後述するが、本実施例のアライメントカメラ31は、複数の基板高さにおいて
撮像を行う。本実施例における複数の基板高さとは、具体的には、アライメント高さ(第1の高さ)と、キャリアとマスクの当接高さ(第2の高さ)である。ただし、第2の高さは、第1の高さよりもマスク12に近い高さであればよく、必ずしもキャリアとマスクが当接していなくてもよい。なお「基板高さ」とは、マスク12とガラス基板10が当接するときの高さをゼロとし、マスク12の面(またはガラス基板10の被成膜面)と交差する方向にガラス基板10が移動したときの、交差方向におけるマスク12とガラス基板10の距離のことを言う。換言すると、ガラス基板10の被成膜面に交差する方向(典型的には被成膜面に垂直な方向)において、キャリア11が、アライメント高さにあるときと、キャリアとマスクの当接高さにあるときと、の2回の撮像を行う。そして、アライメント高さでの位置情報(マークの座標情報、第1の位置情報)と、キャリアとマスクの当接高さでの位置情報(第2の位置情報)と、を取得する。本実施例では2回の高さでの撮像としているが、撮像高さと撮像回数はこの例に限定されない。
【0051】
ここで、アライメント高さと、当接高さと、で取得される情報は、通常のアライメントの場合は、基板マーク13およびマスクマーク14の座標である。また、補正治具40を用いた測定の場合は、補正マーク15およびマスクマーク14の座標である。
【0052】
制御部30はまた、アクチュエータ部28の各アクチュエータの動作制御によるアライメント制御、キャリア11およびマスク12の搬出入制御、キャリアZ昇降スライダの動作制御、その他様々な制御を行う。制御部30は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部30の機能は、記憶部34のメモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(プログラマブルロジックコントローラ)を用いてもよい。あるいは、制御部30の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、アライメント装置80ごとに制御部30が設けられていてもよいし、1つの制御部30が複数のアライメント装置80を制御してもよい。アライメントの各種オフセット補正量の算出も制御部30が行う。
【0053】
記憶部34は、制御部30が用いる実行プログラムやデータを記憶する記憶手段である。フラッシュメモリ、不揮発性メモリやSSD、HDDなど任意の記憶手段を利用できる。制御部30は、算出したオフセット量を記憶部34に保存しておき、アライメント中のオフセット補正時に利用する。
【0054】
次にアライメント装置80のキャリア支持ユニット17の詳細について説明する。図3は、キャリア11およびマスク12の保持部を拡大して示した断面図である。図3(a)は、ガラス基板10を保持したキャリア11を支持する様子を示す。図3(b)は、本発明の補正マーク15付きの補正治具40を支持する様子を示す。
【0055】
キャリア支持ユニット17は、支柱部からXY面方向に突出するキャリア受け爪41と、当該キャリア受け爪41の上面に配置されたキャリア受け面42と、キャリアクランプ27を含んで構成される。キャリア受け面42にキャリア11を載せて支持した状態で、上方からキャリアクランプ27を押しつけてクランプすることで、キャリア11を支持した状態で固定できる。この状態でアライメントステージ26を駆動することで、ガラス基板10をマスク12に対して位置合わせ可能である。
【0056】
マスク12は、マスク搬送ローラー21上に置かれた状態で真空チャンバ内に搬入されたのち、マスク搬送ローラー21からマスク支持ユニット16に受け渡される。マスク支持ユニット16はマスク昇降機構を備えており、マスク12をZ方向に上下に昇降させる。上記のアライメントは、マスク12がマスク支持ユニット16に受け渡され支持された
状態で行われる。マスク支持ユニット16を用いることは、各搬送ローラーからの振動の影響を抑制し、アライメントを高精度化する点で好ましい。しかし、マスク支持ユニット16を用いずにマスク搬送ローラー21上でアライメントすることも可能である。
【0057】
(補正値の取得)
次に、図6図7を用いて、本発明の補正値の取得方法と補正方法について説明する。図6は、アライメントカメラ31で補正マーク15(丸印「〇」で示されている)とマスクマーク14(四角印「□」で示されている)をカメラの画角44内で撮像した状態を示している。実線の丸印「〇」は、アライメントの高さにおける補正マーク15の位置関係を示しており、カメラ座標系における座標(X,Y)で示される。便宜上、基準(0,0)はマスクマーク14の中心座標とする。この時のキャリアZ昇降スライダ24の高さをhaとする。
【0058】
さらに、キャリアZ昇降スライダ24の走りの方向と、カメラ光軸33の方向との相対的な傾きを把握するため、キャリアZ昇降スライダ24を下降させた際の補正マーク15の座標を計測する。下降時の下端は、キャリア11がマスク12に着座する高さとし、この高さをh0とする。この時の補正マーク15(点線の円15’で示す)の座標は(X’,
Y’)に変動する。
【0059】
図7に、このキャリアZ昇降スライダ24がha→h0に下降した際のX方向変化を示す。このときのX方向変化は、
X-X´=δx
である。また、Y方向変化も同様に算出することが可能であり、
Y-Y´=δy
である。このように、アライメント高さと当接高さそれぞれにおける画像処理結果から、マスクマーク14と補正マーク15との相対的な位置変化を算出することが可能である。
【0060】
この算出値は、アライメント時のXY方向のオフセット補正値として用いることができる。すなわち、アライメント高さで基板マーク13をマスクマーク14に対して(ーδx,ーδy)ずれた状態にオフセットしておくことで、当接高さにおいて基板マーク13とマスクマーク14が一致する。
【0061】
また、アライメントカメラ31がチルト機構を有している場合、前記の補正値から、キャリアZ昇降スライダ24とカメラ光軸33の相対傾きを求めて光軸補正を行ってもよい。すなわち、X相対傾きとして、
θx=atan(δx/(ha-h0))
を取得し、Y相対傾きとして、
θy=atan(δy/(ha-h0))
を取得してアライメントカメラ31をチルトさせれば、相対的な傾きを低減し、下降時のオフセット量を低減できる。
【0062】
なお、キャリアZ昇降スライダ24の走りの方向と、アライメントカメラ31の光軸方向とを一致させることができれば、アライメント高さhaと当接高さh0とで画角内の各マークの相対位置を一致させることができる。そこで、光軸方向をチルト補正するかわりに、キャリアZ昇降スライダ24の走りの方向を補正してもよい。補正に当たっては、上記の走りの方向と光軸方向を、必ずしも鉛直方向とする必要はない。
【0063】
なお、上記の方法は、ha→h0への下降時の光軸の傾きが線形であることを前提で定義した。しかし、必ずしも傾きが線形でないことを想定し、図7のようにZ方向に細かい刻み
幅で各高さにおいて補正値を計測し、最小二乗法等で近似計算して補正値を導出してもよいし、また、近似式を用いずに、各高さにおける離散的な実測値を補正値として反映してもよい。
【0064】
また、上記の補正マーク15の座標(X,Y)はマスクマーク14基準とした。しかし、マスクマーク14無しでも、カメラ座標系の任意の原点を基準として、ha,h0の各高さ
に動かした際の原点からのXY方向の補正マーク位置変化を補正値として取得してもよい。
【0065】
(処理フロー)
次に、本発明を適用するアライメントの補正値取得工程のシーケンスについて、図4を参照して説明する。本フローは専用の治具を用いて行われるものであり、通常の成膜とは別に、アライメント装置の設置やメンテナンスなどのタイミングで実行することが好ましい。
【0066】
まず、キャリア支持ユニット17に、補正マーク15がついている補正治具40を取り付ける。もしくは、補正治具40を格納位置から引き出す。(ステップS1)
次に、補正マーク15がアライメントカメラ中心にくるように移動する。キャリアZ昇降スライダ24を上下に駆動する(ステップS2)。
【0067】
次に、アライメントシーケンスで必要な各計測高さにおいて、アライメントカメラ31による撮像を行い、得られた画像に基づいて補正マーク15の位置を取得する(ステップ
S3)。ここでいう「必要な各計測高さ」は、キャリア11を保持し、XYθ駆動しても
マスク12と接触しない高さを含む。これらの計測高さの範囲内には、図7に示す、実際にアライメントを実施する高さhaと、アライメントが完了してキャリア11をマスク12に接触し、着座を完了する際の当接高さh0を含むことが好ましい。これにより、キャリア11とマスク12の接触による機械的なずれの影響を除外できるので、アライメント装置において、昇降スライダ24の走りに対してカメラ光軸33との相対的な傾きの影響を正確に取得、補正することが可能となる。その結果、アライメント精度の向上が可能である。ただし、内挿や外挿などの補間処理や補外処理によって、計測していない高さにおける補正値を算出することも可能である。
【0068】
必要な計測高さでの位置情報が全て取れていなければ、ステップS2へ戻り、補正治具40の高さを変更させて、撮像を行う(ステップS4)。
そして、得られた位置情報から制御部30で補正値の演算処理を行い、記憶部34に記憶する。(ステップS5)
【0069】
前述の光軸ずれ要因による位置ずれは、アライメントカメラ31とキャリアZ昇降スライダ24による装置固有のものである。そのため、一度補正値を取得してしまえば、装置のトラブルによって光軸方向やスライダの走る方向が変わるような事態が起きない限り、再度データを取りなおす必要はない。
【0070】
なお、上記フローでは補正治具40を用いたが、通常のキャリア11とガラス基板10を使用して、補正マーク15の代わりに基板マーク13を使用してもよい。その場合は、補正値を取得するための撮像の際に、特に接触高さにおいて、ガラス基板10およびキャリア11がマスク12と接触して接触ずれ成分が発生しないようにする必要がある。
【0071】
次に、補正値を用いたアライメント工程のフローについて、図5を参照して説明する。
【0072】
まず、マスク合流室103からアライメント室104に、ガラス基板10を把持したキ
ャリア11と、マスク12がそれぞれ別に搬入される(ステップS10)。このときキャリア11はキャリア搬送ローラー20上で搬送され、マスク12はマスク搬送ローラー21上で搬送される。
次に、キャリア支持ユニット17をZ方向に上昇することで、キャリア11がキャリア搬送ローラー20からキャリア支持ユニット17に受け渡される(ステップS11)。
また、マスク支持ユニット16を上昇することで、マスク12がマスク搬送ローラー21からマスク支持ユニット16に受け渡される(ステップS12)。
【0073】
次に、キャリア搬送ローラー20を退避し、キャリア支持ユニット17をZ方向に下降してキャリア11をアライメント高さまで移動する(ステップS13)。
次に、ガラス基板10についている基板マーク13とマスク12についているマスクマーク14をアライメントカメラ31で撮像し、アライメント位置を確認する(ステップS14)。
【0074】
このアライメント位置の目標位置に、図4のフローで算出した補正値を適用する。アライメント位置が目標値内であればステップS17へ進む(ステップS15)。例えば、キャリア11がアライメント高さhaから接触高さh0に移動する間の、マスクマーク14を基準(0,0)とした基板マーク13の移動量が(δx,δy)であるとする。また、アラ
イメント高さhaでの撮像画像において取得された基板マーク13の座標を(x,y)とする。この場合、補正量をオフセット値として適用した(x-δx,y-δy)が、基準(0,0)から所定の目標値の範囲内であれば、ステップS17に進む。なお、既に補正値を用いて光軸のチルト補正を行っている場合は、このようなオフセット補正を行う必要はなく、通常のアライメント処理を行えばよい。
【0075】
一方、目標値内になければ、ステップS14に戻り、アライメントステージ26をXYθ方向に移動して再びアライメントカメラによる撮像を行う(ステップS16)。
【0076】
目標値内の場合、キャリア支持ユニット17をZ方向に下降してマスク12上にキャリア11を載せる(ステップS17)。そして、アライメントカメラ31で撮像し、アライメント位置を確認する(ステップS18)。アライメント位置が目標値内になければ、ステップS13に戻り、キャリア支持ユニット17をZ方向に上昇させる。
【0077】
一方、アライメント位置が目標値内であれば、ステップS20へ進む(ステップS19)。そして、マスク支持ユニット16をZ方向に下降してマスク12をマスク搬送ローラー21へ受渡し、成膜室105へ搬出する(ステップS20)。
【0078】
以上述べたように、本発明においては、補正マークが付された専用の治具を用いて、基板とマスクの位置ずれを補正値として取得することができる。この治具は、基板よりも小さく、撓み量が少ないため、基板であれば撓み部分がマスクに接触するような高さであっても、接触ずれを起こすことがない。したがって、位置ずれの原因のうち、接触ずれ成分の影響を排除し、光軸ずれやZ昇降スライダの走りの方向のずれなどの機械成分の影響だけを計測することができる。
【0079】
その結果、機械成分に起因する位置ずれ量を正確に把握し、オフセット補正、光軸のチルト補正、Z昇降スライダの走りの方向の補正など、様々な補正に用いることができる。よって、従来よりも高精度なアライメントが可能になり、良好な成膜を行うことができる。
【0080】
<実施例2>
(有機電子デバイスの製造方法)
本実施例では、アライメント装置を備える成膜装置を用いた有機電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、有機電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。まず、製造する有機EL表示装置について説明する。図10(a)は有機EL表示装置60の全体図、図10(b)は一つの画素の断面構造を表している。
【0081】
図10(a)に示すように、有機EL表示装置60の表示領域61には、発光素子を複数備える画素62がマトリクス状に複数配置されている。発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域61において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本図の有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子62R、第2発光素子62G、第3発光素子62Bの組合せにより画素62が構成されている。画素62は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組合せで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0082】
図10(b)は、図10(a)のA-B線における部分断面模式図である。画素62は、基板10上に、第1電極(陽極)64と、正孔輸送層65と、発光層66R,66G,66Bのいずれかと、電子輸送層67と、第2電極(陰極)68と、を備える有機EL素子を有している。これらのうち、正孔輸送層65、発光層66R,66G,66B、電子輸送層67が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層66Rは赤色を発する有機EL層、発光層66Gは緑色を発する有機EL層、発光層66Bは青色を発する有機EL層である。
【0083】
発光層66R,66G,66Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。また、第1電極64は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層65と電子輸送層67と第2電極68は、複数の発光素子62R,62G,62Bと共通で形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極64と第2電極68とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極64間に絶縁層69が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層Pが設けられている。
【0084】
次に、電子デバイスとしての有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)および第1電極64が形成された基板10を準備する。
【0085】
次に、第1電極64が形成された基板10の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極64が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層69を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0086】
次に、絶縁層69がパターニングされた基板10を第1の成膜装置に搬入し、基板支持ユニットにて基板を支持し、正孔輸送層65を、表示領域の第1電極64の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層65は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層65は表示領域61よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。ここで、本ステップでの成膜や、以下の各レイヤーの成膜において用いられる成膜装置は、上記各実施例のいずれかに記載された成膜装置である。
【0087】
次に、正孔輸送層65までが形成された基板10を第2の成膜装置に搬入し、基板支持ユニットにて支持する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置
し、基板10の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層66Rを成膜する。本例によれば、マスクと基板とを良好に重ね合わせることができ、高精度な成膜を行うことができる。
【0088】
発光層66Rの成膜と同様に、第3の成膜装置により緑色を発する発光層66Gを成膜し、さらに第4の成膜装置により青色を発する発光層66Bを成膜する。発光層66R、66G、66Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域61の全体に電子輸送層67を成膜する。電子輸送層67は、3色の発光層66R、66G、66Bに共通の層として形成される。
【0089】
電子輸送層67までが形成された基板をスパッタリング装置に移動し、第2電極68を成膜し、その後プラズマCVD装置に移動して保護層Pを成膜して、有機EL表示装置60が完成する。
【0090】
絶縁層69がパターニングされた基板10を成膜装置に搬入してから保護層Pの成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気または不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【0091】
本実施例に係るアライメント装置、成膜装置または電子デバイスの製造方法によれば、アライメントの精度を向上させた良好な成膜が可能となる。
【符号の説明】
【0092】
10:ガラス基板、12:マスク、15:補正マーク、24:キャリアZ昇降スライダ26:アライメントステージ、31:アライメントカメラ、40:補正治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10