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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】フィルム製造用ドープおよびフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20240130BHJP
   C08L 29/14 20060101ALI20240130BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240130BHJP
   B29C 41/12 20060101ALI20240130BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240130BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C08L33/06
C08L29/14
C08J5/18 CEY
B29C41/12
B32B27/30 A
G02B5/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021520882
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020420
(87)【国際公開番号】W WO2020235687
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019096225
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉井 浩晃
(72)【発明者】
【氏名】東田 昇
(72)【発明者】
【氏名】大串 眞康
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-028670(JP,A)
【文献】特開2016-094537(JP,A)
【文献】特開平02-210352(JP,A)
【文献】特開平01-315750(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108587290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/06
C08L 29/14
C08J 5/18
B32B 27/30
G02B 5/30
B29C 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル樹脂(A)と、ポリビニルアセタール樹脂(B)と、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤(C)とを含むフィルム製造用のドープであって、
前記ポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂を炭素数3以下のアルデヒドと任意で炭素数4以上のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂であり、かつ総アセタール化度が50~90モル%であり、
前記(メタ)アクリル樹脂(A)と前記ポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が、98/2~50/50であり、
前記有機溶剤(C)における、塩素系有機溶剤(S)と塩素系有機溶剤以外の他の有機溶剤(T)の質量比[S/T]が50/50~99/1である、
フィルム製造用のドープ。
【請求項2】
前記ドープ100質量%に対して、前記有機溶剤(C)の含有量が30~97質量%である請求項1に記載のドープ。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル樹脂(A)中のメタクリル酸メチル構造単位の含有量が、50質量%以上である請求項1または2に記載のドープ。
【請求項4】
溶液流延法によるアクリル系樹脂フィルムの製造方法あって、請求項1~のいずれか1項に記載のドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させる工程を有する、フィルムの製造方法。
【請求項5】
JIS7136:2000に準拠して測定したヘイズ値が2%以下であるフィルムを製造する、請求項4に記載のフィルムの製造方法。
【請求項6】
厚みが10~500μmのフィルムを製造する、請求項4に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
光学フィルム製造用である請求項1~3のいずれか1項に記載のドープ。
【請求項8】
偏光子保護フィルム製造用である請求項1~3のいずれか1項に記載のドープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリル樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂と、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤とを含むフィルム製造用のドープ、および当該ドープから製造されるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル系樹脂は透明性が高い、耐候性が高い、表面硬度が高い、加工性に優れるなどの特性を有していることから、様々な分野で使用されている。ところが、このアクリル系樹脂は用途によっては、機械的特性、特に耐衝撃性や靭性が不足することがあり、その改善が求められている。その改善を図るために、特許文献1には、メタクリル系樹脂と特定構造を有するポリビニルアセタール樹脂とを含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物が提案されている。また、特許文献2には、低複屈折性もあわせ持つフィルムとして、メタアクリル系樹脂と特定のポリビニルアセタール樹脂とを含有するアクリル系熱可塑性樹脂組成物を延伸して得られる光学フィルムが提案されている。
また、特許文献3には、熱可塑性アクリル系樹脂、グラフト共重合体、及び溶剤を含む溶液流延法によるフィルム製造用ドープが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2009/130883号
【文献】国際公開第2014/115883号
【文献】国際公開第2018/212227号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載の溶融押出法では、高温での製造となるためフィルムを長期間製造しようとするとフィッシュアイ欠点、ゲル状欠点が発生するという問題があった。一方で特許文献3では、フィルム製造用ドープ中にゴム粒子であるグラフト共重合体が含有されているため、フィルムを製造した場合に上記粒子が表面に現れ、ヘイズが発生したり、折り曲げ、成形加工した際に白化するという問題が生じるという課題があった。
特許文献3のような溶液流延法においては、使用するドープの状態が得られるフィルムの物性や性状に影響すると考えられることから、ドープのヘイズ値をある程度低く抑えるなどによって、例えば光学用途に適した透明性に優れたフィルムを得ることができると考えられる。しかし、特許文献3の溶液流延法によるフィルム製膜時に、アクリル系グラフト共重合体が凝集する、または乳化剤によりベルトが汚れるといった問題を有していた。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、透明性の高いフィルムの製造に適したフィルム製造用のドープおよび当該ドープから製造されるフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アクリルフィルムの靭性発現材料としてポリビニルアセタール樹脂に着目し、(メタ)アクリル樹脂と、ポリビニルアセタール樹脂と、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤とを含むフィルム製造用のドープが、上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[13]を提供するものである。
[1](メタ)アクリル樹脂(A)と、ポリビニルアセタール樹脂(B)と、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤(C)とを含むフィルム製造用のドープ。
[2]前記ドープ100質量%に対して、前記有機溶剤(C)の含有量が30~97質量%である上記[1]に記載のドープ。
[3]前記有機溶剤(C)における、塩素系有機溶剤(S)と塩素系有機溶剤以外の他の有機溶剤(T)の質量比[S/T]が50/50~99/1である、上記[1]または[2]に記載のドープ。
[4]前記(メタ)アクリル樹脂(A)と前記ポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]が、98/2~50/50である上記[1]~[3]のいずれかに記載のドープ。
[5]前記(メタ)アクリル樹脂(A)中のメタクリル酸メチル構造単位の含有量が、50質量%以上である上記[1]~[4]のいずれかに記載のドープ。
[6]前記ポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂を炭素数3以下のアルデヒドと任意で炭素数4以上のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂で
あり、かつ総アセタール化度が50~90モル%である上記[1]~[5]のいずれかに記載のドープ。
[7]溶液流延法によるアクリル系樹脂フィルムの製造方法あって、上記[1]~[6]のいずれかに記載のドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させる工程を有する、フィルムの製造方法。
[8]上記[1]~[6]のいずれかに記載のドープから形成されてなり、JIS 7136:2000に準拠して測定したヘイズ値が2%以下であるアクリル系樹脂フィルム。
[9]厚みが10~500μmである上記[8]に記載のアクリル系樹脂フィルム。
[10]光学用フィルムである上記[8]または[9]に記載のアクリル系樹脂フィルム。
[11]前記光学用フィルムが偏光子保護フィルムである上記[10]に記載のアクリル系樹脂フィルム。
[12]上記[11]に記載のアクリル系樹脂フィルムと偏光子とが積層された偏光板。
[13]上記[12]に記載の偏光板を含む、ディスプレイ装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透明性の高いフィルムの製造に適したフィルム製造用のドープおよび当該ドープから製造されるフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。本明細書において特定する数値は、実施形態又は実施例に開示した方法により求められる値である。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。本明細書において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル又はメタクリル」を意味する。また、(メタ)アクリル系樹脂を含むドープから形成されてなる樹脂フィルムを「アクリル系樹脂フィルム」と称することがある。
【0010】
<ドープ>
本発明のドープは、(メタ)アクリル樹脂(A)と、ポリビニルアセタール樹脂(B)と、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤(C)とを含むフィルム製造用のドープである。
本発明者らは、ポリビニルアセタール樹脂とアクリル樹脂とを溶液流延法により製膜する場合、得られるフィルムを光学フィルムなどに使用すべく、低いヘイズ値を発現するためには、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化率、各々の樹脂組成比、及び共溶媒の選定を最適化することにより、ドープの適切なヘイズ範囲を規定することができることを見出した。
上記ドープを1cm厚のセルに封入し、JIS 7136:2000に準拠して測定したヘイズ値は98%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることがさらに好ましく、50%以下であることがよりさらに好ましく、20%以下であることがよりさらに好ましく、2%以下であることが特に好ましい。前記ヘイズ値が98%以下であると、たとえば、得られるフィルムの白化を抑制することができ、透明性の高いフィルムが得られやすくなる。
ヘイズ値は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0011】
〔(メタ)アクリル樹脂(A)〕
本発明で用いられる(メタ)アクリル樹脂(A)としては、例えばメタクリル酸メチルに由来する構造単位(メタクリル酸メチル構造単位)から主としてなるものを挙げることができる。(メタ)アクリル樹脂(A)におけるメタクリル酸メチル構造単位の含有量は、耐熱性の観点から、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましく、全ての構造単位がメタクリル酸メチル構造単位であってもよい。
【0012】
(メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチル以外の他の単量体に由来する構造単位を含んでいてもよい。他の単量体としては、メタクリル酸メチルと共重合可能であれば特に制限はなく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸イソボルニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n-へキシル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸又はその酸無水物;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-オクテン等のオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセン等の共役ジエン;スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0013】
(メタ)アクリル樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000~2,000,000であり、より好ましくは50,000~1,000,000であり、さらに好ましくは60,000~200,000であり、よりさらに好ましくは70,000~150,000である。Mwが40,000以上であることで、フィルムの靭性を発現することができ、2,000,000以下であることで、有機溶剤に対して良好な溶解性を示すことができる。
【0014】
(メタ)アクリル樹脂(A)の、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.00~4.00であり、より好ましくは1.01~3.50であり、さらに好ましくは1.03~3.00であり、よりさらに好ましくは1.70~2.50である。分子量分布(Mw/Mn)がかかる範囲内にある(メタ)アクリル樹脂(A)を用いると、成形加工性と、フィルムのクリープ特性を両立させることができる。
上記MwおよびMw/Mnは、(メタ)アクリル樹脂(A)の重合方法や、製造時に使用する重合開始剤や連鎖移動剤の種類や量、重合温度を調整したり、分子量の異なる(メタ)アクリル樹脂(A)を混合すること等によって調整することができる。本明細書において、MwおよびMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したクロマトグラムを標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。本発明におけるMwおよびMw/Mnは、実施例に記載の方法で測定することができる。
(メタ)アクリル樹脂(A)は、分子量の異なる2種以上の(メタ)アクリル樹脂(A)を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
(メタ)アクリル樹脂(A)のガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある。)は、好ましくは100℃以上であり、より好ましくは105℃以上であり、さらに好ましくは110℃以上であり、よりさらに好ましくは115℃以上である。(メタ)アクリル樹脂(A)のTgの上限は、通常150℃である。
本発明におけるガラス転移温度は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0016】
(メタ)アクリル樹脂(A)の製造方法に特に制限はなく、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等により製造できる。この中でも塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法のいずれかが好ましい。中でも塊状重合法、または懸濁重合法がより好ましい。
【0017】
〔ポリビニルアセタール樹脂(B)〕
本発明で用いるポリビニルアセタール樹脂(B)は、ビニルアルコール単位(式(I))、ビニルエステル単位(式(II))およびビニルアセタール単位(2個のビニルアルコール単位がアルデヒドでアセタール化されたもの:式(III))を有する樹脂である。下記の式において、lはビニルアルコール単位のモル比であり、mはビニルエステル単位のモル比であり、k/2はビニルアセタール単位のモル比であり、kはアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比であり、Rはアセタール化に用いたアルデヒド(R-CHO)中のRである。Rはビニルエステル(RCOOCH=CH)中のRである。ただし、lおよび/またはmはゼロであってもよい。ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位およびビニルアセタール単位のみからなるポリビニルアセタール樹脂(B)においては、k+l+m=1である。各単位は、配列順序によって特に制限されず、ランダムに配列されていてもよいし、ブロック状に配列されていてもよいし、テーパー状に配列されていてもよい。また、繰り返し単位間の結合は、Head-to-Tailであってもよいし、Head-to-Headであってもよい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
【化3】
【0021】
ポリビニルアセタール樹脂(B)は、ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと表記することがある。)をアルデヒドでアセタール化することによって得ることができる。
【0022】
ポリビニルアルコール樹脂は、ビニルアルコール単位のみからなるホモポリマーであってもよいし、ビニルアルコールとこれに共重合可能なモノマーとからなるコポリマー(以下、PVAコポリマーと表記することがある。)であってもよい。さらに、分子鎖の途中、末端、または側鎖にカルボキシル基などの官能基が導入された変性ポリビニルアルコール樹脂であってもよい。これらポリビニルアルコール樹脂は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
ポリビニルアルコール樹脂は、その製法によって特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニルなどのビニルエステル系重合体をけん化することによって得られるものを用いることができる。ビニルエステル単位を形成するためのビニルエステル単量体としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でもポリビニルアルコール樹脂を良好な生産性で得ることができる点で酢酸ビニルが好ましい。
【0024】
PVAコポリマーを構成する、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ヘキセンなどのα-オレフィン類;アクリル酸およびその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸およびその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミドなどのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;エチレングリコールビニルエーテル、1,3-プロパンジオールビニルエーテル、1,4-ブタンジオールビニルエーテルなどのヒドロキシ基含有のビニルエーテル類;アリルアセテート、プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテルなどのアリルエーテル類;ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基などのオキシアルキレン基を有する単量体;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン類;酢酸イソプロペニル、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、7-オクテン-1-オール、9-デセン-1-オール、3-メチル-3-ブテン-1-オールなどのヒドロキシ基含有のα-オレフィン類またはそのエステル化物;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドンなどのN-ビニルアミド類;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸または無水イタコン酸などに由来するカルボキシル基を有する単量体;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などに由来するスルホン酸基を有する単量体;ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシブチルトリメチルアンモニウムクロライド、ビニロキシエチルジメチルアミン、ビニロキシメチルジエチルアミン、N-アクリルアミドメチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロライド、N-アクリルアミドジメチルアミン、アリルトリメチルアンモニウムクロライド、メタアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアリルアミン、アリルエチルアミンなどに由来するカチオン基を有する単量体が挙げられる。
【0025】
ビニルアルコールと共重合可能な単量体の単位(以下、コモノマー単位と表記することがある。)の含有量は、PVAコポリマーを構成する全単量体単位100モル部の中で、好ましくは20モル部以下であり、より好ましくは10モル部以下である。また、共重合されていることのメリットを発揮するためには、0.01モル部以上がコモノマー単位であることが好ましい。
【0026】
ビニルエステル系重合体の製造において使用される重合法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法が挙げられる。その中でも、無溶媒あるいはアルコールなどの溶媒中で重合する方法である、塊状重合法や溶液重合法が好ましい。溶液重合法において使用される溶媒としてのアルコールには、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールが通常用いられる。重合開始剤としては、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-バレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)などのアゾ化合物や、過酸化ベンゾイル、n-プロピルパーオキシカーボネートなどの過酸化物などが挙げられる。重合温度については特に制限はないが、通常、0~200℃である。
【0027】
ビニルエステル系重合体をけん化する際には、通常、触媒としてアルカリ性物質が使用される。アルカリ性物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。けん化触媒に使用されるアルカリ性物質のモル比は、ビニルエステル系重合体中のビニルエステル単位に対して、好ましくは0.004~0.5であり、より好ましくは0.005~0.05である。けん化触媒としてのアルカリ性物質は、けん化反応の初期に一括添加してもよいし、けん化反応の途中で追加添加してもよい。
けん化反応時に使用可能な溶媒としては、メタノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。これらの溶媒の中でもメタノールが好ましい。使用される溶媒は含水率を調整されたものが好ましい。溶媒の含水率は、好ましくは0.001~1質量%であり、より好ましくは0.003~0.9質量%であり、さらに好ましくは0.005~0.8質量%である。
【0028】
ポリビニルアルコール樹脂のけん化度は、耐熱性の観点から、好ましくは80モル%超であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることがさらに好ましい。
【0029】
けん化反応の後、生成したPVAを洗浄する。洗浄液としては、メタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ヘキサン、水などが挙げられる。これらの中でも、メタノール、酢酸メチル、水、もしくはこれらの混合液が好ましい。
洗浄液の使用量は、後述するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量を満足するように設定するのが好ましく、通常、PVA100質量部に対して、300~10,000質量部であることが好ましく、500~5,000質量部であることがより好ましい。洗浄温度としては、5~80℃が好ましく、20~70℃がより好ましい。洗浄時間としては20分間~100時間が好ましく、1~50時間がより好ましい。
【0030】
本発明で使用するPVAにおけるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量は、PVA100質量部に対して、好ましくは0.00001~1質量部である。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が0.00001質量部未満のPVAは工業的に製造が困難である。アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が1質量部以下であることで、高温下でのゲルの生成を抑制し、不要な塩などの発生を抑制することができる。
上記アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量は、原子吸光法で求めることができる。
【0031】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に用いられるポリビニルアルコール樹脂は、粘度平均重合度が、好ましくは200~3,000、より好ましくは400~2,500、さらに好ましくは600~2,000、よりさらに好ましくは800~1,300である。ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度が200以上であることで、得られるポリビニルアセタール樹脂(B)の力学物性が向上し、3,000以下であることで、有機溶剤に対し、良好な溶解性を示すことができる。なお、ポリビニルアルコール樹脂の粘度平均重合度(P)は、JIS K6726:1994に準じて実施例に記載の方法で測定することができる。すなわち、ポリビニルアルコール樹脂を完全に再けん化し、精製した後、30℃の水中で極限粘度[η](dL/g)を測定し、その値から下記式(i)によって算出される。
【0032】
【数1】
【0033】
ポリビニルアセタール樹脂(B)は、(メタ)アクリル樹脂(A)との相容性の観点および耐熱性の観点から、ポリビニルアルコール樹脂を炭素数3以下のアルデヒド、および、任意で炭素数4以上のアルデヒドを用いてアセタール化して得られる樹脂が好ましい。
【0034】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に用いられる炭素数3以下のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、グリオキザールが挙げられる。これら炭素数3以下のアルデヒドは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数3以下のアルデヒドのうち、製造の容易さの観点から、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドを主体とするものが好ましく、アセトアルデヒドがより好ましい。
【0035】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造に任意で用いられる炭素数4以上のアルデヒドとしては、ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β-フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。これら炭素数4以上のアルデヒドは1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これら炭素数4以上のアルデヒドのうち、製造の容易さの観点から、ブチルアルデヒドを主体とするものが好ましく、ブチルアルデヒドが特に好ましい。
【0036】
ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとの反応、すなわちアセタール化反応は、公知の方法で行うことができる。例えば、ポリビニルアルコール樹脂を水に溶解させ、酸触媒の存在下にアルデヒドと反応させて樹脂粒子を析出させる方法(水媒法);ポリビニルアルコール樹脂を有機溶媒に分散させ、酸触媒の存在下にアルデヒドと反応させ、得られた反応液を水などの貧溶媒に添加して樹脂粒子を析出させる方法(溶媒法)などが挙げられる。これらのうち水媒法が好ましい。
【0037】
アセタール化に用いられるアルデヒドは、すべてを同時に仕込んでもよいし、1種類ずつを別々に仕込んでもよい。アルデヒドの添加順序および酸触媒の添加順序を変えることで、ポリビニルアセタール樹脂(B)中のビニルアセタール単位のランダム性を変化させることができる。
【0038】
アセタール化反応に用いられる酸触媒は特に限定されず、例えば、酢酸、p-トルエンスルホン酸などの有機酸類;硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸類;炭酸ガスなどの水溶液にした際に酸性を示す気体、陽イオン交換体や金属酸化物などの固体酸触媒などが挙げられる。
【0039】
ポリビニルアセタール樹脂(B)の総アセタール化度は、JIS K6728:1977に記載の方法に則って、アセタール化されていないビニルアルコール単位の質量割合(l)および酢酸ビニル単位の質量割合(m)を滴定によって求め、アセタール化されたビニルアルコール単位の質量割合(k)をk=1-l-mによって求め、これからアセタール化されていないビニルアルコール単位のモル割合(l)および酢酸ビニル単位のモル割合(m)を計算し、k=1-l-mの計算式によりアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合(k)を計算し、総アセタール化度(モル%)=k/{k+l+m}×100によって求めてもよいし、ポリビニルアセタール樹脂を重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、H-NMR、または13C-NMRを測定して算出してもよい。
【0040】
また、H-NMR、または13C-NMRを測定して算出する方法を用いることにより、それぞれのアルデヒド(1)、(2)、・・・、および(n)に対するアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合を算出できる。そして、例えば、アルデヒド(n)によるアセタール化度(モル%)は、式: k(n)/{k(1)+k(2)+・・・+k(n)+l+m}×100 によって求めることができる。なお、k(1)、k(2)、・・・、およびk(n)は、それぞれ、アルデヒド(1)、(2)、・・・、および(n)でアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合である。
【0041】
ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合は特にブチラール化度と呼ばれる。また、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合は特にアセトアセタール化度と呼ばれる。さらに、ホルムアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合はホルマール化度と呼ばれる。
例えば、ポリビニルアルコール樹脂をブチルアルデヒド、アセトアルデヒドおよびホルムアルデヒドでアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂において、ブチルアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合をk(BA)、アセトアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合をk(AA)、ホルムアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル割合をk(FA)、アセタール化されていないビニルアルコール単位のモル割合をl、および酢酸ビニル単位のモル割合をmであるとしたとき、ブチラール化度(モル%)は、式:k(BA)/{k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m}×100 で求められる。アセトアセタール化度(モル%)は、式:k(AA)/{k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m}×100 で求められる。ホルマール化度(モル%)は、式:k(FA)/{k(BA)+k(AA)+k(FA)+l+m}×100 で求められる。
【0042】
ポリビニルアセタール樹脂(B)が、ポリビニルアルコール樹脂を炭素数3以下のアルデヒドと任意で炭素数4以上のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂である場合、ポリビニルアセタール樹脂(B)の総アセタール化度は、好ましくは50~90モル%であり、より好ましくは60~87モル%であり、さらに好ましくは70~85モル%である。ポリビニルアセタール樹脂(B)の総アセタール化度がかかる範囲にあることで、(メタ)アクリル樹脂(A)中にポリビニルアセタール樹脂(B)を微分散することができ、フィルムの靭性を発現することができる。
【0043】
ポリビニルアセタール樹脂(B)が、ポリビニルアルコール樹脂を炭素数3以下のアルデヒドと任意で炭素数4以上のアルデヒドとでアセタール化して得られる樹脂である場合、ポリビニルアセタール樹脂(B)は、(メタ)アクリル樹脂(A)との相容性の観点から、炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位/炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位のモル比が、好ましく10/90~100/0であり、より好ましくは20/80~100/0であり、さらに好ましくは40/60~100/0であり、よりさらに好ましくは40/60~60/40である。
【0044】
ポリビニルアセタール樹脂(B)を構成するビニルエステル単位の量は、好ましくは20モル%未満であり、より好ましくは5モル%以下である。ビニルエステル単位の量が20モル%未満であることで、耐熱性が向上し、連続生産性を高めることができる。
【0045】
なお、アセタール化することによって重合度が変化することはないため、ポリビニルアルコール樹脂と、そのポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度は同じであり、ポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度は、好ましくは200~3,000である。ポリビニルアセタール樹脂(B)の重合度が200以上であることで、フィルムの靭性を発現することができ、3,000以下であることで、有機溶剤に対し、良好な溶解性を示すことができる。
【0046】
水媒法及び溶媒法などにおいて生成したスラリーは、通常、酸触媒のために酸性を呈しているので、酸触媒を除去することが好ましい。酸触媒の除去方法として、スラリーのpHが、好ましくは5~9、より好ましくは6~9、さらに好ましくは6~8になるまで水洗を繰り返す方法、スラリーに中和剤を添加して、pHを好ましくは5~9、より好ましくは6~9、さらに好ましくは6~8にする方法や、アルキレンオキサイド類などを添加する方法が挙げられる。
【0047】
酸触媒除去のために用いられる中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属化合物;水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属化合物;アンモニア、アンモニア水溶液が挙げられる。酸触媒除去のために用いられるアルキレンオキサイド類としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド;エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類が挙げられる。
【0048】
次に、触媒残渣、中和剤残渣、中和により生成した塩、未反応のアルデヒド、アルカリ金属、アルカリ土類金属、副生物などを除去して、ポリビニルアセタール樹脂を精製する。
精製方法は特に制限されず、脱液と洗浄を繰り返すなどの方法が通常用いられる。脱液と洗浄は、2回以上行うことが好ましい。精製に用いられる液としては、水や、水とアルコール(メタノール、エタノールなど)との混合液などが挙げられる。中でも、ポリビニルアセタール樹脂を中和した後に、水とアルコール(メタノール、エタノールなど)との混合液で、pHが好ましくは5~9、より好ましくは6~9、さらに好ましくは6~8になるまで、脱液と洗浄を繰り返す方法が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を効率よく低減でき、ポリビニルアセタール樹脂を安定に製造することができる点で好ましい。水/アルコールの混合比率は、質量比で50/50~95/5であることが好ましく、60/40~90/10であることがより好ましい。水の割合が少なすぎると、ポリビニルアセタール樹脂の混合液中への溶出が多くなる傾向がある。水の割合が多すぎると、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の除去効率が低下する傾向がある。
【0049】
ポリビニルアセタール樹脂(B)に含有されるアルカリ金属またはアルカリ土類金属の量は、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは70ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。100ppm以下であることで、高温下におけるゲルの発生が抑えられ、連続生産性を高めることができる。なお、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量が0.1ppm以上のものであれば、それを得るために長時間の洗浄を要せず製造コストが安くなり、工業的な生産がしやすくなる。
【0050】
残渣などが除去された含水状態のポリビニルアセタール樹脂(B)は、必要に応じて乾燥され、必要に応じてパウダー状、顆粒状またはペレット状に加工され、成形材料として供される。パウダー状、顆粒状またはペレット状に加工する際に、減圧状態で脱気することによりアルデヒドの反応残渣や水分などを低減しておくことが好ましい。
【0051】
本発明のドープを構成する(メタ)アクリル樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との質量比[(A)/(B)]は、好ましくは98/2~50/50であり、より好ましくは95/5~60/40であり、さらに好ましくは92/8~65/35であり、よりさらに好ましくは91/9~85/15である。質量比[(A)/(B)]が98/2以下であることで、フィルムの靭性を発現することができ、50/50以上であることで、高い表面硬度(鉛筆硬度)を有することができる。
【0052】
本発明のドープを構成する(メタ)アクリル樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との合計含有量は、ドープ100質量%に対して、好ましくは3~70質量%であり、より好ましくは3~50質量%であり、さらに好ましくは4~40質量%である。(メタ)アクリル樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との合計含有量が3質量%以上であることで、フィルム中の残溶媒量を抑制することができ、寸法安定性の低下を避けることができる。一方、70質量%以下であることで、有機溶剤に対して良好な溶解性を示し、均一な厚みのフィルム製造が容易となる。
【0053】
〔有機溶剤(C)〕
溶液流延法において、フィルム中のフィッシュアイ欠点、ゲル状欠点を抑えるためには、ドープ中の沈殿物、溶け残りを抑えることが有効な手段のひとつであると考えられる。しかしながら、(メタ)アクリル樹脂(A)とポリビニルアセタール樹脂(B)との溶剤溶解性は異なるため、有機溶剤(C)の種類によっては(メタ)アクリル樹脂(A)および/またはポリビニルアセタール樹脂(B)が十分溶解していないなどの原因で、沈殿物、溶け残りなどが生じたりするおそれがある。
【0054】
本発明で用いる有機溶剤(C)は、(メタ)アクリル樹脂(A)およびポリビニルアセタール樹脂(B)の溶解性の観点から、塩素系有機溶剤を含んでいることが重要である。塩素系有機溶剤としては、例えば、クロロメタン(塩化メタン)、ジクロロメタン(塩化メチレン)、トリクロロメタン(クロロホルム)、テトラクロロメタン(四塩化炭素)、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等が挙げられる。中でも、溶解性を担保でき、かつ低沸点であるという観点から、塩化メチレンが好ましい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
有機溶剤(C)は、塩素系有機溶剤以外に併用可能な他の有機溶剤として、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール等のアルコール:炭素数が3~12のエステル、ケトン、エーテル:炭素数が1~7のハロゲン化炭化水素:を含んでいてもよい。エステル、ケトン及びエーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(すなわち、-O-、-CO-及び-COO-)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができ、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶剤の場合、その炭素数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。また、シクロヘキサノンのような飽和脂肪族炭化水素であってもよい。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、メタノール、エタノールが好ましい。
【0056】
塩素系有機溶剤と、塩素系有機溶剤以外の他の有機溶剤とを併用する場合、塩素系有機溶剤(S)と塩素系有機溶剤以外の他の有機溶剤(T)との質量比(S/T)は、好ましくは50/50~99/1であり、より好ましくは60/40~95/5である。質量比(S/T)が上記範囲内であることが、フィッシュアイ欠点やゲル状欠点をさらに効果的に抑制する点から好ましい。
【0057】
有機溶剤(C)の含有量は、ドープ100質量%に対して、好ましくは30~97質量%であり、より好ましくは50~97質量%であり、さらに好ましくは60~96質量%である。有機溶剤(C)の含有量が30質量%以上であることで、樹脂を有機溶剤に良好に溶解させることができ、97質量%以下であることで、フィルム中の残溶媒量を抑制することができ寸法安定性の低下を避けることができる。
【0058】
本発明のドープは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、艶消し剤、光拡散剤、着色剤、染料、顔料、劣化防止剤、剥離剤、光学調整剤、帯電防止剤、熱線反射材、滑剤、可塑剤、フィラー等の公知の添加剤等を含有してもよい。上記添加剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。一方で、コアシェル型グラフト共重合体等のゴム粒子は、ドープのヘイズ、さらにフィルムのヘイズを増加させる観点から含有しないことが好ましい。
【0059】
本発明のドープは、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル系多層構造粒子、アクリル系ゴムなどのアクリル系エラストマー;スチレン系エラストマー;スチレン系樹脂;カーボネート樹脂;セルロースアシレート樹脂;フッ素系樹脂;シリコーン系樹脂;オレフィン系樹脂;エチレンテレフタレート樹脂;ブチレンテレフタレート樹脂等、その他の樹脂を含有してもよい。上記樹脂は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
上記のとおり、溶液流延法によってフィルムを製造する場合、使用するドープの状態(性状)が、得られるフィルムの物性や性状に影響すると考えられることから、特に光学用フィルム等の製造においては、例えばドープのヘイズ値をある程度低く抑えることが好ましい。
ドープ中のポリビニルアセタール樹脂を含む相の光散乱法で測定される平均粒子径は、均一分散性やフィルム時の透明性の観点から、1.0μm以下が好ましく、0.7μm以下がさらに好ましく、0.5μm以下が特に好ましい。一方、前記平均粒子径の下限値は、好ましくは0.05μm、より好ましくは0.10μm、さらに好ましくは0.15μmである。
なお、ドープ中におけるポリビニルアセタール樹脂を含む相の平均粒子径は、例えば、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製、装置名「LA-950V2」)を用いて25℃で分析することができる。
溶液流延法は、支持体上にドープ膜を形成し、ドープ膜中の溶剤を蒸発させてフィルムを得る方法であるため、溶剤の種類やドープそのものの性状によっては、支持体上での加熱時間を長くしたり、支持体の温度(加熱温度)を高くしたりする必要が生じる場合がある。しかしながら、加熱時間を長くしたり、加熱温度を高くすることは、樹脂の劣化を引き起こし、フィッシュアイ欠点やゲル状欠点につながるおそれがある。
【0061】
本発明のドープは、(メタ)アクリル樹脂(A)、ポリビニルアセタール樹脂(B)、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤(C)および必要に応じて配合される添加剤、その他の樹脂を所定量配合したものを均一に分散混合することにより調製することができる。調製方法は、特に限定されないが、例えば上記各成分を所定量配合したものをミキサー等で十分に撹拌(混合)する方法等を挙げることができる。
【0062】
撹拌時間は、分散混合の具体的な方法にもよるが、例えば、8時間以上であることが好ましく、14時間以上であることがより好ましく、20時間以上であることがさらに好ましい。生産効率等の観点から、撹拌時間は通常48時間以下であることが好ましく、36時間以下であることがより好ましい。
ドープの調整は、室温(1~30℃)で行ってもよく、冷却しながら又は加温しながらでもよく、さらにはこれらの組み合わせで実施されてもよい。なお沸点以上で溶解する場合は、加圧状態で加温する。加圧は窒素ガスなどの不活性気体を圧入する方法や、加熱による溶剤の蒸気圧の上昇によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えば、ジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0063】
分散混合する時間は、1分~24時間であることが好ましく、2分~5時間であることがより好ましく、3分~1時間であることがさらに好ましい。また、温度は、大気圧下、5~40℃であることが好ましく、10~35℃であることがより好ましい。また加圧下では、使用溶剤の沸点以上で、かつ該溶剤が沸騰しない範囲の温度が好ましく、例えば60℃以上、より好ましくは70~110℃の範囲に設定するのが好適である。また、圧力は設定温度で、溶剤が沸騰しないように調整される。これらの温度範囲で溶解させることにより、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止することができる。
【0064】
本発明のドープは、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤(C)中に(メタ)アクリル樹脂(A)およびポリビニルアセタール樹脂(B)がそれぞれ溶解、膨潤、または分散しており、目視での残存樹脂が見られないことが望ましい。
【0065】
<フィルムの製造方法>
本発明のフィルムの製造方法は、溶液流延法によるアクリル系樹脂フィルムの製造方法あって、上記ドープを支持体表面に流延した後、溶剤を蒸発させる工程を有することを特徴とする。
【0066】
本発明における溶液流延法の実施態様を以下に説明するが、これに限定されるものではない。まず、上記(メタ)アクリル樹脂(A)、ポリビニルアセタール樹脂(B)、塩素系有機溶剤を含有する有機溶剤(C)および必要に応じて配合される添加剤、その他の樹脂を用いてドープを調製する。得られたドープをろ過したり、脱泡してもよい。
【0067】
次いで、上記ドープを支持体表面に流延して、ドープ膜を形成する。
流延方法としては、例えば、Tダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられ、工業的には、ダイからドープをベルト状またはドラム状の支持体に連続的に押し出す方法が一般的に用いられている。
上記支持体としては、例えば、ガラス基板、金属基板、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック基板などが挙げられる。高度に表面性、光学特性に優れた基板を工業的に連続製膜するには、支持体として表面を鏡面仕上げした金属基板が好ましく用いられる。
【0068】
形成されたドープ膜を上記支持体上で加熱し、溶剤を蒸発させてアクリル系樹脂フィルム(キャストフィルム)を形成する。加熱温度は、好ましくは0~120℃であり、より好ましくは5~100℃である。また、加熱時間は、好ましくは20秒~2時間であり、より好ましくは30秒~1時間である。このようにして得られたアクリル系樹脂フィルムは支持体表面から剥離される。その後、得られたアクリル系樹脂フィルムに、適宜、乾燥工程、加熱工程、延伸工程等を実施してもよい。
【0069】
延伸工程は、フィルムの耐熱性や機械的強度等を高めるために行われる。延伸工程における延伸方法は特に制限なく、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、チュブラー延伸法等が挙げられる。延伸処理は、予熱工程、延伸工程、熱固定工程から構成され、熱固定工程後に弛緩工程を実施してもよい。
【0070】
逐次二軸延伸法の場合、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよい。また、その延伸速度は、好ましくは100~5000%/分であり、より好ましくは100~3000%/分である。また、同時二軸延伸法の場合、延伸速度を大きくすると破れが発生しやすく生産性が著しく低下するため、その延伸速度は50~5000%/分であることが好ましく、100~3000%/分であることがより好ましい。
【0071】
延伸温度は、アクリル系樹脂フィルムのTgを基準として、逐次/同時二軸延伸法のいずれにおいても、好ましくはTg~(Tg+30℃)であり、より好ましくは(Tg+5℃)~(Tg+25℃)である。かかる範囲では、厚みムラが抑制される傾向にある。延伸温度がアクリル系樹脂フィルムのTg以上であることでフィルム破断を抑制することができ、アクリル系樹脂フィルムのTg+30℃以下であることで熱物性を向上させることができる。
【0072】
各軸方向の延伸倍率(未延伸フィルムに対する延伸フィルムの面積倍率)は、好ましくは1.01~12.25倍であり、より好ましくは1.10~9倍である。延伸倍率が上記範囲内であることでフィルムの機械的強度を向上させることができる。
【0073】
<アクリル系樹脂フィルム>
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、上記の未延伸および延伸後のものを含む。
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、前述したドープを用いて溶液流延法(溶液キャスト法)によって形成され、JIS K7136:2000に準拠して測定したヘイズ値が2%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、0.7%以下がさらに好ましく、0.4%以下がよりさらに好ましい。アクリル系樹脂フィルムのヘイズ値が2%以下であることで光学用途に適する。
【0074】
また、本発明のアクリル系樹脂フィルムは、上記アクリル樹脂(A)中で上記ポリビニルアセタール樹脂(B)が分散されてなる。フィルム中のポリビニルアセタール樹脂(B)の平均粒子径は、靭性等の観点から好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは1.2μm以下であり、よりさらに好ましくは0.8μm以下であり、特に好ましくは0.6μm以下であり、そして、好ましくは0.01μm以上であり、より好ましくは0.05μm以上であり、さらに好ましくは0.07μm以上である。上記ポリビニルアセタール樹脂(B)(粒子)の平均粒子径は、粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)観察像から粒径を評価し、これらの平均値を求めることにより算出することができ、具体的には実施例に記載の方法で求めることができる。
【0075】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの厚みは、好ましくは10~500μmであり、より好ましくは15~200μmであり、さらに好ましくは20~100μmであり、よりさらに好ましくは40~80μmである。アクリル系樹脂フィルムの厚みが10μm以上であることで、引取時のフィルム破断を抑制することができ、500μm以下であることで、ラミネート性、ハンドリング性、切断性、打抜き性などの二次加工性が向上する。
【0076】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、偏光子保護フィルム、視野角調整フィルム、位相差フィルム、および輝度向上フィルム等の光学用フィルム、液晶保護フィルム、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤまたはカーボンナノチューブを表面に塗布した透明導電フィルム、および各種ディスプレイの前面フィルム等に好適であり、偏光子保護フィルム等に特に好適である。
その他、本発明のアクリル系樹脂フィルムは、各種ディスプレイの前面フィルム、拡散フィルム、ガラス飛散防止フィルム、液晶ASFフィルム、透明導電フィルム、遮熱フィルム、各種バリアーフィルム等の光学関係の基材フィルムなどに好適である。
【0077】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、単独で用いてもよいし、積層体の内層又はその一部として用いてもよいし、積層体の最外層として用いてもよい。積層に用いられる他の樹脂は、フィルムの意匠性の観点から、メタクリル系樹脂などの透明な樹脂であることが好ましい。フィルムに傷がつきにくく、意匠性が長く持続する観点から、最外層を形成するフィルムは、表面硬度及び耐候性が高いものが好ましく、本発明のアクリル系樹脂フィルムであることが好ましい。
【0078】
本発明の偏光板は、本発明のアクリル系樹脂フィルムと、偏光子とが積層されてなる。より具体的には、本発明の偏光板は、偏光子と、その少なくとも一方の表面に積層された偏光子保護フィルムと、当該偏光子の他方の表面に必要に応じて積層された視野角調整フィルム、位相差フィルム、及び輝度向上フィルムからなる群より選ばれる少なくとも1種の光学用フィルムとを有する。積層は必要に応じて、接着剤層を介して行うことができる。
【0079】
上記態様の偏光板は、ディスプレイ装置に使用することができる。ディスプレイ装置としては、(有機)エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、プラズマディスプレイ(PD)、および電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)等の自発光型表示装置;液晶表示装置(LCD)等が挙げられる。LCDは、液晶セルと、その少なくとも片側に配置された偏光板とを有する。
【実施例
【0080】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。また、本発明は、上記特性値、形態、製法、用途などの技術的特徴を表す事項を、任意に組み合わせてなる全ての態様を包含する。なお、実施例および比較例における物性値の測定等は以下の方法によって実施した。
【0081】
〔重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)〕
測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン(THF)5mLに溶解させ、孔径0.1μmのフィルタでろ過したものを、試料溶液とした。GPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー(株)製「HLC-8320」を使用した。カラムとして、東ソー(株)製の「TSKgel Super Multipore HZM-M」2本と「Super HZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。溶離剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いた。カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35mL/分で、試料溶液20μLを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。クロマトグラムは、試料溶液と参照溶液との屈折率差に由来する電気信号値(強度Y)をリテンションタイムXに対してプロットしたチャートである。
分子量が400~5000000の範囲の標準ポリスチレン10点を用いてGPC測定し、リテンションタイムと分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、測定対象樹脂のMwおよびMw/Mnを決定した。なお、クロマトグラムのベースラインは、GPCチャートの高分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てゼロからプラスに変化する点と、低分子量側のピークの傾きが保持時間の早い方から見てマイナスからゼロに変化する点を結んだ線とした。クロマトグラムが複数のピークを示す場合は、最も高分子量側のピークの傾きがゼロからプラスに変化する点と、最も低分子量側のピークの傾きがマイナスからゼロに変化する点を結んだ線をベースラインとした。
【0082】
〔ガラス転移温度〕
JIS K7121:2012に準拠して、ガラス転移温度を測定した。示差走査熱量測定装置((株)島津製作所製「DSC-50」)を用い、いったん試料を230℃まで昇温して30℃以下まで冷却した後、再度、30℃から230℃まで10℃/分の昇温速度で昇温させる条件にてDSC曲線を測定した。得られたDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0083】
〔ポリビニルアセタール樹脂(B)の組成(アセタール化度)〕
ポリビニルアセタール樹脂(B)の組成は、13C-NMRを測定することで、炭素数4以上のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%、炭素数3以下のアルデヒドでアセタール化されたビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%、アセタール化されていないビニルアルコール単位の全繰返し単位に対するモル%、そして酢酸ビニル単位の全繰返し単位に対するモル%を算出した。
【0084】
〔アルカリ金属またはアルカリ土類金属の含有量〕
ポリビニルアセタール樹脂(B)を、白金るつぼ及びホットプレートで炭化し、次いで電気炉で炭化し、残渣を酸に溶解して、原子吸光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製、型番:Z-2000)を用いて測定した。
【0085】
〔平均粒子径〕
得られたフィルムから0.1mm×0.1mmの試料片を切り出し、ウルトラミクロトーム(RICA社製Reichert ULTRACUT-S)を用いて超薄切片を作製した後、四酸化ルテニウムで染色、その切片を透過型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製 H-800NA)を用いて観察した。観察像中にある粒子50点の粒径を評価し、これらの平均値から平均粒子径は算出した。
【0086】
〔ヘイズ(ドープ、フィルム)〕
ドープの原料を、23℃、大気圧下、の条件下で、24時間撹拌した後、当該ドープを1cm厚のセルに封入し、JIS K7136:2000に準拠して、ヘイズメータ((株)村上色彩研究所製、HM-150)を用いて測定した。
得られたフィルムから50mm×50mmの試験片を切り出し、JIS K7136:2000に準拠し、ヘイズメータ(村上色彩研究所製、HM-150)を用いて測定した。
【0087】
[製造例1](メタ)アクリル樹脂(A)の製造
メタクリル酸メチル99質量部およびアクリル酸メチル1質量部に、重合開始剤(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.1質量部および連鎖移動剤(n-オクチルメルカプタン)0.24質量部を加え、溶解させて原料液を得た。
イオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部および懸濁分散剤0.45質量部を混ぜ合わせて混合液を得た。耐圧重合槽に、当該混合液420質量部と上記原料液210質量部とを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後、3時間経過時に、温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状共重合体が分散した液を得た。なお、重合槽壁面あるいは撹拌翼にポリマーが若干付着したが、泡立ちもなく、円滑に重合反応が進んだ。
得られた共重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機により、ビーズ状共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥し、ビーズ状の(メタ)アクリル樹脂(A)を得た。
得られた(メタ)アクリル樹脂(A)は、メタクリル酸メチル単量体単位の含有量が99質量%であり、アクリル酸メチル単量体単位の含有量が1質量%であり、重量平均分子量(Mw)が95,000、Mw/Mnが2.0、ガラス転移温度が120℃であった。
【0088】
[製造例2]ポリビニルアセタール樹脂(B)の製造
粘度平均重合度1000、けん化度99モル%のポリビニルアルコール樹脂の水溶液を調整し、ブチルアルデヒド/アセトアルデヒド=50/50モル比のアルデヒドと、酸触媒としての塩酸を添加し、撹拌することによってアセタール化反応を行った。当該反応の進行に伴って樹脂が析出した。公知の方法に従ってpH=6になるまでスラリーを洗浄し、次いでアルカリ性にした水性媒体中に懸濁させて撹拌し、次いでpH=7になるまで洗浄した。その後、揮発分が1.0%になるまで乾燥することによって、ブチルアセタール単位30モル%、アセトアセタール単位51モル%、ビニルアルコール単位18モル%、ビニルアセテート単位1モル%のポリビニルアセタール樹脂(B)を得た。アルカリ金属の含有量は40ppmであった。
【0089】
[実施例1]
(メタ)アクリル樹脂(A)のペレット3.15g、ポリビニルアセタール樹脂(B)のパウダー0.35gおよび有機溶剤(C)として塩化メチレン66.5gをスクリュー管に投入し、さらにスターラーを入れて室温(23℃)で24時間撹拌し、ドープ作製を行った。1時間毎に樹脂の溶解状態を目視観察し、溶解が確認できた時間を測定した。また、24時間撹拌後の溶液を用いて、ヘイズ測定を行った。溶解時間は1時間で、ヘイズ値は0.4%であった。
【0090】
実施例1で得たドープをポリイミドフィルム基板上に滴下し、フィルムアプリケーターでドープ膜を形成した。このフィルムを乾燥機で、150℃で60分間乾燥した後、ポリイミドフィルムから剥離することでアクリル系樹脂フィルムを得た。このフィルムの厚みは、70μmであり、ヘイズ値は0.2%であった。また、TEM観察したところ、平均粒子径0.5μmのポリビニルアセタール樹脂粒子が存在するフィルムであった。
【0091】
[実施例2]
使用する有機溶剤(C)をクロロホルムに変更し、(メタ)アクリル樹脂(A)のペレット、ポリビニルアセタール樹脂(B)のパウダーおよびクロロホルムをそれぞれ表1に記載の含有量に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でドープ作製を行った。溶解時間は4時間で、ヘイズ値は0.5%であった。
【0092】
実施例1と同様の方法で厚み70μmのフィルムを作製し、ヘイズを測定した結果、0.3%であった。
【0093】
[実施例3]
使用する有機溶剤(C)を塩化メチレンとメタノールとの混合溶液に変更し、(メタ)アクリル樹脂(A)のペレット、ポリビニルアセタール樹脂(B)のパウダーおよび塩化メチレンとメタノールとの混合溶液をそれぞれ表1に記載の含有量に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でドープ作製を行った。溶解時間は1時間で、ヘイズ値は0.5%であった。
【0094】
実施例1と同様の方法で厚み70μmのフィルムを作製し、ヘイズを測定した結果、0.2%であった。
【0095】
[実施例4]
(メタ)アクリル樹脂(A)のペレット、およびポリビニルアセタール樹脂(B)のパウダーをそれぞれ表1に記載の含有量に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でドープ作製を行った。溶解時間は3時間で、ヘイズ値は1.0%であった。
【0096】
実施例1と同様の方法で厚み70μmのフィルムを作製し、ヘイズを測定した結果、0.6%であった。
【0097】
[比較例1]
使用する有機溶剤を塩化メチレンからトルエンに変更し、(メタ)アクリル樹脂(A)のペレット、ポリビニルアセタール樹脂(B)のパウダーおよびトルエンをそれぞれ表1に記載の含有量に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でドープ作製を行った。24時間では溶解せず残存樹脂が目視で観察できる状態であった。
【0098】
実施例1と同様の方法で厚み70μmのフィルムを作製し、ヘイズを測定した結果、34.5%であった。
【0099】
[比較例2]
使用する有機溶剤を塩化メチレンからアセトンに変更し、(メタ)アクリル樹脂(A)のペレット、ポリビニルアセタール樹脂(B)のパウダーおよびアセトンをそれぞれ表1に記載の含有量に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法でドープ作製を行った。24時間では溶解せず残存樹脂が目視で観察できる状態であった。
【0100】
実施例1と同様の方法で厚み70μmのフィルムを作製し、ヘイズを測定した結果、40.5%であった。
【0101】
【表1】