(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-29
(45)【発行日】2024-02-06
(54)【発明の名称】皮膚色素沈着抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20240130BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2022146136
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2018567499の分割
【原出願日】2018-02-08
【審査請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2017020921
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】新里 達也
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】保田 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】新井 秀夫
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104771330(CN,A)
【文献】特開2016-135750(JP,A)
【文献】特表2013-523721(JP,A)
【文献】特開2004-217629(JP,A)
【文献】国際公開第2019/054485(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0047914(KR,A)
【文献】Cell Metabolism,2016年,Vol. 24, No. 6,pp. 795-806
【文献】Cell Metabolism,2011年,Vol. 14, No. 4,pp. 528-536
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 17/00-17/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド若しくはその薬理学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする経口投与剤を経口投与し、且つ
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド若しくはその薬理学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする経皮投与剤を経皮投与する
(ただし、人間を治療する方法を除く)、皮膚色素沈着の抑制方法。
【請求項2】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド若しくはその薬理学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする経口投与剤と、
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド若しくはその薬理学的に許容される塩、又はそれらの溶媒和物を有効成分とする経皮投与剤と、を含む、
皮膚色素沈着抑制用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚における色素沈着を抑制する素材、当該素材を有効成分とする皮膚色素沈着抑制剤、及び当該素材を用いた皮膚における色素沈着を抑制する方法に関する。
本願は、2017年2月8日に日本に出願された特願2017-020921号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
皮膚が紫外線照射刺激を受けると、皮膚細胞を紫外線から保護するために、メラニン色素が産生される。産生されたメラニン色素が紫外線を吸収することにより、紫外線の皮膚の深奥への侵入が防止される。このようにメラニン色素は肌細胞を防御する上で重要な色素であるが、過剰に産生されると、皮膚に沈着してシミやそばかすの原因になる。美容の点からシミやそばかすは忌避される傾向にあり、消費者の美白剤への関心は高く、メラニン色素の皮膚への沈着を抑制する美白作用を有する成分の開発も盛んである。例えばニコチン酸アミドは、紫外線照射によるメラノサイトの増加を抑制する作用があり、ニコチン酸アミドを経口摂取することにより、色素沈着が予防され、シミやそばかすの紫外線照射による悪化が抑制され得ることが報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、補酵素NAD+の生合成中間代謝産物である。近年、NMNは、老化マウスにおけるインスリン分泌能の改善効果、高脂肪食や老化によってひき起こされる2型糖尿病のマウスモデルにおいてインスリン感受性や分泌を劇的に改善する効果を有すること(例えば、特許文献2参照。)、老化した筋肉のミトコンドリア機能を顕著に高める効果を有することなどが報告されている。さらに、NMNの投与により、肥満、血中脂質濃度の上昇、インシュリン感受性の低下、記憶力低下、及び黄斑変性症等の眼機能劣化といった加齢に伴う各種疾患の症状の改善や予防に有用であることも報告されている(例えば、特許文献3参照。)。さらに、NMNを含有する化粧水等の化粧料は、肌への刺激性が少なく、肌荒れの予防、改善効果(例えば、特許文献4参照。)や、コラーゲン産生促進効果(例えば、特許文献5参照。)があることも報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-174049号公報
【文献】米国特許第7737158号明細書
【文献】国際公開第2014/146044号
【文献】特開2016-135750号公報
【文献】特許第4614886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安全に摂取することができ、皮膚における色素沈着を抑制する素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(β-NMN)が皮膚における色素沈着を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の皮膚色素沈着抑制剤、健康補助食品、及び皮膚における色素沈着を抑制する方法を提供するものである。
[1] β-NMN又はその薬理学的に許容される塩、並びにそれらの溶媒和物を有効成分とすることを特徴とする、皮膚色素沈着抑制剤。
[2] 経口投与される、前記[1]の抑制剤。
[3] 前記[1]又は[2]の抑制剤を含有し、皮膚における色素沈着を抑制するために摂取される、健康補助食品。
[4] 前記[1]又は[2]の抑制剤を摂取することからなる、皮膚における色素沈着を抑制する方法。
[5] 経皮投与される、前記[1]の抑制剤。
[6] 前記[1]又は[5]の抑制剤を含有し、皮膚における色素沈着を抑制するために皮膚に接触される、化粧料。
[7] 前記[1]又は[5]の抑制剤を皮膚に接触させることからなる、皮膚における色素沈着を抑制する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る皮膚色素沈着抑制剤は、元々生体内に存在するβ-NMNを有効成分とし、紫外線やその他に皮膚刺激等に起因する皮膚におけるメラニン等の色素沈着を抑制することができる。このため、本発明に係る皮膚色素沈着抑制剤は、副作用を起こすことなく安全に摂取することができ、皮膚における色素沈着を抑制し、当該色素沈着に関連する皮膚の染みの予防や改善に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1において、β-NMNを投与した群(NMN群)と注射用水を投与した群(対照群)の各モルモットについて、紫外線照射部位のL値の変化量(ΔL値)を示したグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2において、β-NMNを経口投与のみした群(NMN経口投与群)、β-NMNを経皮投与と経口投与した群(NMN経皮&経口投与群)、及び溶媒を経皮投与した群(対照群)の各モルモットについて、紫外線照射部位のL値の変化量(ΔL値)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る皮膚色素沈着抑制剤(以下、「本発明の色素沈着抑制剤」ということがある。)は、NMN(化学式:C11H15N2O8P)を有効成分とする。NMNを摂取することにより、紫外線やその他に皮膚刺激等に起因する皮膚における色素沈着を抑制することができる。このため、本発明の色素沈着抑制剤は、メラニン色素の沈着による皮膚の黒ずみ、シミ、そばかす等の予防又は改善を目的として、特に紫外線照射による色素沈着の予防又は改善を目的として摂取される美白用組成物の有効成分として好適である。
【0011】
NMNには、光学異性体としてα、βの2種類が存在するが、本発明の色素沈着抑制剤の有効成分となるNMNは、β-NMN(CAS番号:1094-61-7)である。β-NMNの構造を下記に示す。
【0012】
【0013】
有効成分とするβ-NMNとしては、いずれの方法で調製されたものであってもよい。例えば、化学合成法、酵素法、発酵法等により、人工的に合成したβ-NMNを精製したものを、有効成分として用いることができる。また、β-NMNは広く生体に存在する成分であるため、動物、植物、微生物などの天然原料から抽出・精製することによって得られたβ-NMNを有効成分として用いることもできる。また、市販されている精製されたβ-NMNを使用してもよい。
【0014】
β-NMNを合成する化学合成法としては、例えば、ニコチンアミドとL-リボーステトラアセテートとを反応させ、得られたニコチンアミドモノヌクレオシドをリン酸化することによりβ-NMNを製造できる。また、酵素法としては、例えば、ニコチンアミドと5’-ホスホリボシル-1’-ピロリン酸(PRPP)から、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)によりβ-NMNを製造できる。発酵法としては、例えば、NAMPTを発現している微生物の代謝系を利用して、ニコチンアミドからβ-NMNを製造できる。
【0015】
本発明の色素沈着抑制剤の有効成分としては、β-NMNの薬理学的に許容される塩であってもよい。β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、無機酸塩であってもよく、アミンのような塩基性部位を有する有機酸塩であってもよい。このような酸塩を構成する酸としては、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、アルカリ塩であってもよく、カルボン酸のような酸性部位を有する有機塩であってもよい。このような酸塩を構成する塩基としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であって、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア、トリメチルアンモニア、トリエチルアンモニア、エチレンジアミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、プロカイン、ジエタノールアミン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基から誘導されるものが挙げられる。
【0016】
本発明の色素沈着抑制剤の有効成分としては、遊離のβ-NMN又はβ-NMNの薬理学的に許容される塩の溶媒和物であってもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0017】
本発明の色素沈着抑制剤は、β-NMNに加えてその他の有効成分を含有していてもよい。当該他の有効成分としては、β-NMNによる色素沈着抑制効果を損なわないものであれば特に限定されるものではない。当該他の有効成分としては、例えば、β-NMN以外の他の色素沈着抑制物質、色素沈着抑制作用以外の作用を有する機能性素材等が挙げられる。β-NMN以外の他の色素沈着抑制物質としては、例えば、ニコチン酸アミド、アスコルビン酸、コウジ酸、アルブチン、システイン、ビタミンE、エラグ酸、トラネキサム酸、リノール酸、プラセンタエキス等が挙げられる。また、色素沈着抑制作用以外の作用を有する機能性素材としては、例えば、タウリン、グルタチオン、カルニチン、クレアチン、コエンザイムQ、グルクロン酸、グルクロノラクトン、トウガラシエキス、ショウガエキス、カカオエキス、ガラナエキス、ガルシニアエキス、テアニン、γ-アミノ酪酸、カプサイシン、カプシエイト、各種有機酸、フラボノイド類、ポリフェノール類、カテキン類、キサンチン誘導体、フラクトオリゴ糖などの難消化性オリゴ糖、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0018】
本発明の色素沈着抑制剤は、有効成分のみからなるものであってもよく、その他の成分を含むものであってもよい。例えば、本発明の色素沈着抑制剤は、有効成分を医薬用無毒担体と組み合わせて、製剤上の常套手段により様々な剤型に製剤化することができる。本発明の色素沈着抑制剤の剤型のうち、経口投与剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤;溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;凍結乾燥製剤等が挙げられる。非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、経皮吸収剤、吸入剤、経鼻剤、経腸剤等が挙げられる。これらの非経口投与剤の剤型としては、特に限定されるものではなく、一般的に使用されている各種剤型を用いることができる。例えば、経皮吸収剤としては、液剤、ゲル剤、軟膏剤、噴霧剤等が好ましい。
【0019】
製剤化に使用する医薬用無毒担体・助剤としては、経口投与剤や注射剤の場合には、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、果糖、還元麦芽糖等の糖類;デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、デキストリン、β-シクロデキストリン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の炭水化物;マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール;脂肪酸グリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、エチレングリコール、アミノ酸、アルブミン、カゼイン、二酸化珪素、水、生理食塩水等が挙げられる。また、本発明の色素沈着抑制剤の製剤化においては、製剤上の必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、矯味矯臭剤、着色剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。
【0020】
また、経皮投与剤の場合に用いられる製剤化に使用する医薬用無毒担体・助剤としては、通常、経皮剤や皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、液体油脂、固体油脂、ロウ、流動パラフィンやスクワレン、ワセリン等の炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、各種界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤)、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、高分子エマルジョン、pH調製剤、ビタミン、酸化防止剤、香料、水等が挙げられる。
【0021】
本発明の色素沈着抑制剤は、ヒトやヒト以外の動物に投与されることが好ましい。ヒト以外の動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の哺乳動物が挙げられる。本発明の色素沈着抑制剤としては、ヒト、家畜、実験動物、ペットに投与・摂取されるものであることが好ましく、ヒトに投与・摂取されるものであることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の色素沈着抑制剤の投与・摂取量は、投与される動物の生物種、年齢、体重、皮膚の状態、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択・決定される。例えば、経口投与・摂取の場合には、成人1人あたりの1日量が、β-NMN量として、0.1mg~50g、好ましくは0.5mg~35g、より好ましくは10mg~25g、さらに好ましくは100mg~10gとなるように、1回又は数回に分けて投与することができる。また、経皮投与の場合には、成人の皮膚1cm2あたりの1日量が、β-NMN量として、0.01~10mg、好ましくは0.02~5mg、より好ましくは0.05~1mgとなるように、1回又は数回に分けて皮膚に接触(塗布、噴霧、浸漬等)させることができる。
【0023】
β-NMNは、生体構成成分であり、かつ食品中にも含まれている成分であることから、安全性が高く、長期間の継続的摂取に適している。そこで、本発明の色素沈着抑制剤は、皮膚における色素沈着を抑制するために摂取される健康補助食品や、同じく皮膚における色素沈着を抑制するために皮膚に接触される化粧料の有効成分として用いることができる。健康補助食品は、健康状態の維持又は改善を目的として栄養を補助するための飲食品であり、特定保健用食品、栄養機能食品、及び健康食品も含む。
【0024】
本発明に係る健康補助食品は、β-NMN等に適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、粉末状、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成することによって製造できる。本発明に係る健康補助食品は、そのまま食用に供してもよく、種々の食品や飲料に混合させた状態で食用に供してもよい。例えば、粉末状の健康補助食品を、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲料に溶解又は分散させた状態で摂取させることができる。本発明に係る飼料も、そのまま動物に摂取させてもよく、他の固形飼料や飲料水に混合させた状態で動物に摂取させてもよい。
【0025】
本発明に係る健康補助食品は、その他の食品素材や種々の添加剤を含有することができる。食品素材としては、ビタミン類、糖質、蛋白質、脂質、食物繊維、果汁等が挙げられる。具体的には、例えば、ビタミンB1誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB13、ビオチン、パントテン酸、ニコチン酸、葉酸等のビタミンB群;ビタミンE、ビタミンD又はその誘導体、ビタミンK1、ビタミンK2、βカロチン等の脂溶性ビタミン;カルシウム、カリウム、鉄、亜鉛等のミネラル;酵母、L-カルニチン、クレアチン、α-リポ酸、グルタチオン、グルクロン酸、タウリン、コラーゲン、大豆イソフラボン、レシチン、ペプチド、アミノ酸、γ-アミノ酪酸、ジアシルグリセロール、DHA、EPA、カプサイシン、コンドロイチン硫酸、アガリクス茸エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、青汁、レシチン、ローヤルゼリー、プロポリス、オクタコサノール、フラバンジェノール、ピクノジェノール、マカ、キトサン、ガルシニアエキス、コンドロイチン、グルコサミン等が挙げられる。添加剤としては、甘味料、有機酸等の酸味料、安定剤、香料、着色料等が挙げられる。
【0026】
本発明に係る化粧料は、β-NMN等に、通常、化粧品に適当な成分を添加し、慣用の手段を用いて、化粧品として適した形態、例えば、化粧水、乳液、ゲル、クリーム、スプレー等の形態にすることによって製造できる。また、β-NMNを含有する化粧料をコットン、不織布、クロスなどに含侵させた形態とすることができる。本発明に係る化粧料に添加される成分としては、例えば、保湿剤、増粘剤、各種界面活性剤、液体油脂、固体油脂、キレート剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、高分子エマルジョン、pH調製剤、酸化防止剤、防腐剤、増粘剤、紫外線吸収剤、香料、色素等が挙げられる。また、本発明に係る化粧料には、通常、化粧品に有効成分として配合される素材、例えばビタミンC及びその誘導体、ビタミンB群、ビタミンE及びその誘導体等の各種ビタミン、システイン、チロシナーゼ、ハイドロキノン、アルブチン、プラセンタ、トラネキサム酸、レチノイン酸、コウジ酸、ルシノール、エラグ酸、フラーレン、コエンザイムQ10、アスタキサンチン等を添加・配合することができる。
【実施例】
【0027】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
[褐色モルモット]
以降の実験に用いた褐色モルモット(Kwl:A-1系統、株式会社紀和実験動物研究所から供給)は、全実験期間中を通して、SPF環境下で飼育した。なお、Kwl:A-1系統の褐色モルモットは、ヒトと同様に、紫外線照射により色素沈着が生じることが知られている。
全実験期間中、固型飼料(LRC4、オリエンタル酵母工業社製)と飲料水は、自由摂取させた。
【0029】
[褐色モルモットへの紫外線照射]
褐色モルモットへの紫外線照射は以下の通りに行った。
まず、褐色モルモットを固定板に無麻酔で腹位に固定し、背部皮膚を電気バリカンで剪毛し、電気シェーバーで剃毛した。背部皮膚の剃毛した領域のうち、紫外線照射部位以外の部位に、粘着性布伸縮包帯(エラストポア No.50、ニチバン社製)に製本用テープを貼って紫外線照射部位に相当する領域を切り抜いたものを貼り、紫外線照射部位以外の領域を遮光した。また、当該モルモットの眼も、リント布を粘着性布伸縮包帯を用いて貼付することによって紫外線を遮光した。その後、紫外線照射装置(Y-798-II、オリオン電機社製)に取り付けたSEランプ(波長250~350nm、FL20S・E、東芝社製)5本を用いて40cmの距離から紫外線(UVB)照射を行った。
【0030】
[最小紅斑量の測定]
褐色モルモットの最小紅斑量(皮膚に紅斑が生じる最短の紫外線照射時間)は、以下の通りにして測定した。
まず、1匹の褐色モルモットの背部皮膚に、背部正中線を挟んで左右対称に、2cm×2cmの正方形の紫外線照射部位を各3ヵ所の計6ヵ所設け、前記の紫外線照射方法通りに紫外線照射を行った。照射時間は8、10、12、14、16、18分間とし、翌日、以下評価基準に従い照射部位の皮膚反応を観察した。
次に、別の1匹の褐色モルモットを用いて、皮膚反応がみられた最短時間と皮膚反応がみられなかった最長時間の間をさらに15秒間隔(前記褐色モルモットと同じ方法で照射部位を8ヵ所設けた。)に照射時間を設定し、同様に皮膚反応を観察し、皮膚反応がみられた最短時間を最小紅斑量とした。この結果、最小紅斑量は12分15秒間であった。
【0031】
【0032】
[経口投与]
経口投与は、β-NMN(オリエンタル酵母工業社製)を注射用水(大塚製薬工場社製)に溶解させた溶液を、カテーテル(栄養カテーテル、ジェーエムエス社製)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーサブル注射筒(テルモ社製)を用いて、強制経口投与した。なお、投与時は、タッチミキサーを用いて撹拌し、β-NMN溶液が沈殿していないことを確認した。投与量は、投与日又は投与日に近い日の体重値より算出し、5mL/kgとした。
【0033】
[実施例1]
褐色モルモットを用いて、紫外線誘発による色素沈着に対するβ-NMNの効果を調べた。
【0034】
(β-NMNの投与)
具体的には、まず、褐色モルモットを6匹ずつ、β-NMNを投与する群(NMN群)と注射用水を投与する群(対照群)とに分けた。この群分けを行った日を投与0日とし、この翌日から1日1回、42日間、各群のモルモットに対してβ-NMN溶液又は注射用液を経口投与した。β-NMN溶液は、β-NMNの体重当たりの投与量が500mg/kgとなるように投与した。
【0035】
(紫外線照射)
各群のモルモットに対して、β-NMN(対照群では注射用水)の投与後15日(初回照射日)と、その2日後及び4日後の計3回、紫外線照射を行った。モルモットへの紫外線照射は、紫外線照射の前日に剃毛したこと、紫外線照射部位を、モルモット背部正中線を挟んだ左右のいずれか1箇所の2cm×2cmの正方形の領域とした以外は、前記の紫外線照射方法通りに行った。照射時間は最小紅斑量(12分15秒間)とした。なお、紫外線照射日には、紫外線照射後にβ-NMNの投与を行った。
【0036】
(色素沈着の測定)
初回照射日と、初回照射日から14日後、21日後、及び28日後に、各モルモットの紫外線照射部位の皮膚のL値(明度)を、色彩色差計(CR-300、ミノルタ社製)を用いて測定した。測定部位は、照射部位の中心と、対角線上の角4ヵ所の計5ヵ所とし、その平均値を各個体のL値とした。L値測定は、初回照射日とその14日後と21日後では紫外線照射前に実施し、初回照射日から28日後には午前中に実施した。
なお、各モルモットは、初回投与日から3日おき又は4日おきに紫外線照射部位を電気バリカンと電気シェーバーで剃毛した。また、L値測定日には、測定前に、紫外線照射部位を電気バリカンと電気シェーバーで剃毛した。
【0037】
測定したL値から、ΔL値([初回照射日の紫外線照射前のL値]-[観察日のL値])を求めた。
【0038】
(写真撮影)
各群のうち1例について、L値の測定後にデジタルカメラを用いて写真撮影を行った。
【0039】
(体重測定)
各モルモットに対して、初回投与日から1週間に1回、午前中に体重を電子天秤にて測定した。なお、紫外線照射日には照射前に、β-NMN投与日は投与前に行った。
【0040】
(結果)
各群の測定結果におけるΔL値を
図1に、体重の測定結果を表2に、それぞれ示す。この結果、両群とも体重にはさほど違いはなかった。これに対して、NMN群では対照群に比べて紫外線照射部位のΔL値が小さいことが確認された。より詳細には、対照群のΔL値は、初回照射後14日で9.47、初回照射後21日で11.71、初回照射後28日で12.01となり、紫外線照射により初回照射後14日から急激にΔL値が低下し、色素沈着が進行した。NMN群のΔL値は、初回照射後14日で8.28、初回照射後21日で8.99、初回照射後28日で9.55となり、対照群に比して色素沈着が抑制されていた。これらの結果から、β-NMNを経口摂取することにより、紫外線照射による色素沈着を抑制できることが確認された。
【0041】
【0042】
[実施例2]
褐色モルモットを用いて、紫外線誘発による色素沈着に対するβ-NMNの効果を調べた。
【0043】
(外用剤)
エタノール(ロット番号:DSM5187、ワコーケミカル社製)、1,3-ブタンジオール(ロット番号:TWQ6672、和光純薬工業社製)、注射用水(ロット番号:K5F71、大塚製薬工場社製)を1:1:8(容量比)の割合で混合し、これを溶媒とした。この溶媒に、β-NMNを0.5質量%の濃度に溶解した溶液を、β-NMN含有外用剤とした。
【0044】
(β-NMNの投与)
具体的には、まず、褐色モルモットを6匹ずつ、β-NMNを経口投与する群と経口投与を実施しない群に分けた。β-NMNを経口投与する群では、実施例1と同じβ-NMN溶液を経口投与し、かつ各個体の塗布部位を分けることで、外用剤の溶媒のみを経皮投与する群(NMN経口投与群)、β-NMN含有外用剤を経皮投与する群(NMN経皮&経口投与群)に分けた。また、経口投与を実施しない群は、外用剤の溶媒のみを経皮投与する群(対照群)とした。経皮投与の際、β-NMN含有外用剤又は溶媒を塗布する部位は、予め設定しておき、毎回同じ部位に塗布した。この群分けを行った日を投与0日とし、この翌日から1日1回、42日間、各群のモルモットに対してβ-NMN溶液を経口投与し、さらに溶媒又はβ-NMN含有外用剤を経皮投与した。経口投与の場合には、β-NMN溶液を、体重当たりのβ-NMNの投与量が500mg/kgとなるように投与し、経皮投与の場合には、塗布部位1カ所当たりβ-NMN含有外用剤又は溶媒を0.05mL塗布した。
【0045】
(紫外線照射)
各群のモルモットに対して、投与開始後15日(初回照射日)と、その2日後及び4日後の計3回、紫外線照射を行った。モルモットへの紫外線照射は、実施例1と同様にして行った。照射時間は最小紅斑量(12分15秒間)とした。なお、紫外線照射日には、紫外線照射後にβ-NMN含有外用剤又は溶媒の投与を行った。
【0046】
(色素沈着の測定)
初回照射日と、初回照射日から28日後に、各モルモットの紫外線照射部位の皮膚のL値(明度)を、実施例1と同様にして測定した。L値測定は、初回照射日では紫外線照射前に実施し、初回照射日から28日後には午前中に実施した。
なお、各モルモットは、実施例1と同様にして剃毛した。
【0047】
測定したL値から、実施例1と同様にしてΔL値を求めた。
【0048】
(写真撮影)
各群のうち1例について、L値の測定後にデジタルカメラを用いて写真撮影を行った。
【0049】
(結果)
各群の測定結果におけるΔL値を
図2に示す。NMN経口投与群及びNMN経皮&経口投与群では対照群に比べて紫外線照射部位のΔL値が小さいことが確認された。また、さらにNMN経皮&経口投与群ではNMN経口投与群に比べて紫外線照射部位のΔL値が小さいことが確認された。より詳細には、対照群のΔL値は8.07、NMN経口投与群のΔL値は6.01、NMN経皮&経口投与群のΔL値は5.20となった。対照群に比して、NMNを経口投与することにより色素沈着が抑制されており、経口投与に経皮投与も加えることによって経口投与のみの場合よりもより一層色素沈着が抑制されていた。これらの結果から、β-NMNを経口摂取することに加え、皮膚表面に塗布することにより、紫外線照射による色素沈着をさらに抑制できることが確認された。