(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】発光装置
(51)【国際特許分類】
H01L 33/50 20100101AFI20240131BHJP
H01L 33/60 20100101ALI20240131BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
H01L33/50
H01L33/60
C09K11/64
(21)【出願番号】P 2019177776
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-08-30
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩浅 真規子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】倉田 美幸
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-107418(JP,A)
【文献】特開2018-078285(JP,A)
【文献】特開2018-022844(JP,A)
【文献】特開2019-029386(JP,A)
【文献】特表2015-529707(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0343917(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0115509(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
C09K 11/00 - 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
450nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、
波長450nmの光に対する反射率が10%以下であり、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体を含み、前記発光素子の光の出射側に配置される蛍光体層と、前記蛍光体層の光の出射側に配置される誘電体多層膜と、を含む波長変換部材と、を備え、
584nm以上780nm以下の範囲内に主波長を有する発光装置であり、
前記誘電体多層膜は、入射角度0°の反射スペクトルにおいて380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたとき、380nm以上485nm以下の範囲内の反射強度が80%以上であり、610nm以上780nm以下の範囲内の反射強度が10%以下であり、
前記誘電体多層膜の反射スペクトルにおける50%の反射強度を示す波長Wrと、前記発光装置の発光スペクトルにおいて最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す前記発光ピークの短波長側の波長Wfの波長差ΔWが20nm以上54nm以下であり、
前記蛍光体層の厚さが71μm以上129μm以下の範囲内であ
り、
色純度が98%である、発光装置。
【請求項2】
CIE1931色度図のxy色度座標系において、色度座標(x、y)が、(x=0.522、y=0.449)を第一点とし、(x=0.538、y=0.461)を第二点とし、(x=0.735、y=0.265)を第三点とし、(x=0.721、y=0.259)を第四点とし、前記第一点と前記第二点を結ぶ第一直線と、前記第二点と前記第三点を結ぶ第二直線と、前記第三点と前記第四点を結ぶ第三直線と、前記第四点と前記第一点を結ぶ第四直線とで画定された領域内の光を発する、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光装置の発光スペクトルにおいて、前記発光素子の発光ピーク強度Ieと前記発光装置の最大の発光ピークの発光強度Imの強度比Ie/Imが1/35以下である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記誘電体多層膜の光の出射側に接して配置される透光性部材を、さらに備えた、請求項1から3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記波長Wrと前記波長Wfの波長差ΔWが30nm以上である、請求項1から4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記波長Wrと前記波長Wfの波長差ΔWが40nm
以上である、請求項1から5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記蛍光体が、Caと、Euと、Siと、Alと、Nと、必要に応じてSrと、を組成に含み、前記組成1モルにおけるEuのモル比が0.01以上0.04以下であり、Siのモル比が0.8以上1.2以下であり、Nのモル比が2.5以上3.5以下である、第一窒化物蛍光体を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記第一窒化物蛍光体が、下記式(I)で表される組成を有する、請求項7に記載の発光装置。
Sr
tCa
vEu
wAl
xSi
yN
z (I)
(式(I)中、0≦t<1、0<v<1、0.01<w≦0.04、t+v+w<1、0.80≦x≦1.2、0.80≦y≦1.2、2.5≦z≦3.5を満たす数である。)
【請求項9】
CIE1931色度図におけるxy色度座標系において、指向角度0°における前記発光装置の発光色のx座標x
0と、指向角度60°における前記発光装置の発光色のx座標x
60のx座標の差分Δxの絶対値が0.010以下である、請求項1から8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】
半導体素子を備え、前記半導体素子の高さが、前記発光素子、前記蛍光体層、前記誘電体多層膜及び前記透光性部材が積層された高さよりも低い、請求項4又は請求項4を引用する請求項5か
ら9のいずれか1項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(以下「LED」とも称する。)と、蛍光体を含む波長変換部材を備えた発光装置が知られている。このような発光装置は、例えば車両のリアランプ又はストップランプなどの車両用の発光装置に用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、青色光を発光するLEDと、LEDから照射された光を吸収して赤色成分を含む光を発光する蛍光体とを含み、リアランプ又はストップランプに用いられる車両用の発光装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、指向角度の変化による色ムラを低減させることができる発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様は、380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、波長450nmの光に対する反射率が10%以下であり、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体を含み、前記発光素子の光の出射側に配置される蛍光体層と、前記蛍光体層の光の出射側に配置される誘電体多層膜と、を含む波長変換部材と、を備え、584nm以上780nm以下の範囲内に主波長を有する発光装置であり、前記誘電体多層膜は、前記誘電体多層膜の入射角度0°の反射スペクトルにおいて、380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたとき、380nm以上485nm以下の範囲内の反射強度が80%以上であり、610nm以上780nm以下の範囲内の反射強度が10%以下であり、前記誘電体多層膜の反射スペクトルにおける50%の反射強度を示す波長Wrと、前記発光装置の発光スペクトルにおいて最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す前記発光ピークの短波長側の波長Wfの波長差ΔWが20nm以上である、発光装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、指向角度の変化による色ムラを低減させることができる発光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第一の態様の発光装置の概略平面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の第一の態様の発光装置の概略断面図である。
【
図2A】
図2Aは、蛍光体-1、蛍光体-2及び蛍光体-3の相対発光スペクトルを示した図である。
【
図2B】
図2Bは、実施例及び比較例に係る発光装置に用いた蛍光体-1、蛍光体-2及び蛍光体-3の反射スペクトルを示した図である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例に係る発光装置に用いた誘電体多層膜-1(DBR-1)及び誘電体多層膜-2(DBR-2)の入射角度0°における反射スペクトルを示す図である。
【
図4】
図4は、発光装置の発光色の指向色度座標(x、y)を測定する方向を示す模式図である。
【
図5】
図5は、実施例及び比較例に係る発光装置の発光色の色度座標(x、y)と、目的とする色調範囲をCIE1931色度図に示した図である。
【
図6】
図6は、入射角度0°における誘電体多層膜-1(DBR-1)反射スペクトルと、実施例1に係る発光装置及び比較例1に係る発光装置の相対発光スペクトルを示す図である。
【
図7】
図7は、入射角度0°における誘電体多層膜-1(DBR-1)の反射スペクトルと、実施例2に係る発光装置及び実施例3に係る発光装置の相対発光スペクトルを示す図である。
【
図8】
図8は、入射角度0°における誘電体多層膜-2(DBR-2)の反射スペクトルと、実施例4及に係る発光装置及び比較例2に係る発光装置の相対発光スペクトルを示す図である。
【
図9】
図9は、実施例3に係る発光装置及び比較例2に係る発光装置の相対発光スペクトルにおいて、波長550nm以上600nm以下の範囲の部分拡大図である。
【
図10】
図10は、実施例1に係る発光装置及び比較例1に係る発光装置の指向色度特性を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例2から4に係る発光装置及び比較例2に係る発光装置の指向色度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る発光装置を一実施形態に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための例示であって、本発明は、以下の発光装置に限定されない。なお、色名と色度座標との関係、光の波長範囲と単色光の色名との関係は、JIS Z8110に従う。
【0010】
リアランプ又はストップランプは、車両の後端のコーナー部分に配置されるため、車両用の発光装置は、正面方向のみならず、様々な角度方向から同様の発光色を視認できることが求められる。LEDから発せられる光は、指向性が高く、拡散性が低い特性を有する。LEDを含む発光装置は、用途に適した発光色を得るために、蛍光体で波長変換された光を透過し、LEDから発せられた光を反射する反射膜が配置される。反射膜として、分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg reflector、「DBR」とも称する。)の構成を有し、屈折率の異なる複数の誘電体層が積層された誘電体多層膜が用いられる。誘電体多層膜は、反射特性に角度依存性を有する。そのため、誘電体多層膜を備えた発光装置は、発光装置の光軸方向、すなわち、発光装置の発光面に垂直な法線方向から発光色を視認した場合には誘電体多層膜によって反射されていた光が、見る角度によっては、反射されずに誘電体多層膜を透過し、発光装置の発光色の色度が変化し、色ムラを生じる場合がある。本明細書において、発光装置を法線方向からみた場合、すなわち、発光装置の光軸と平行な方向から見た場合は、指向角度0°といい、指向角度0°から発光装置の発光面と水平方向に傾斜する角度を指向角度θとする。また、指向角度ごとの発光色の色度を「指向色度」と称する場合がある。また、指向角度ごとの指向色度の差異を「指向色度特性」という場合がある。「指向色度特性が良い」とは、指向角度の変化による発光色の色度の差が小さく、指向角度の変化による色ムラを低減できることをいう。「指向色度特性が悪い」とは、指向角度の変化による発光色の色度の差が大きく、指向角度の変化による色ムラが生じていることをいう。
【0011】
発光装置
発光装置は、380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子と、波長450nmの光に対する反射率が10%以下であり、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体を含み、前記発光素子の光の出射側に配置される蛍光体層と、前記蛍光体層の光の出射側に配置される誘電体多層膜と、を含む波長変換部材と、を備え、584nm以上780nm以下の範囲内に主波長を有する発光装置であり、前記誘電体多層膜は、入射角度0°の前記誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて、380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたとき、380nm以上485nm以下の範囲内の反射強度が80%以上であり、610nm以上780nm以下の範囲内の反射強度が10%以下であり、前記誘電体多層膜の反射スペクトルにおける50%の反射強度を示す波長Wrと、前記発光装置の発光スペクトルにおいて最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す前記発光ピークの短波長側の波長Wfの波長差ΔWが20nm以上である。
【0012】
発光装置は、584nm以上780nm以下の範囲内の主波長を有し、アンバー色(黄赤色)から赤色の発光色を有する。主波長とは、CIE(国際照明委員会:Commission Internationale de l’Eclairage)1931色度図における白色光の色度座標(x=0.3333、y=0.3333)と、発光装置の発光色の色度座標(x、y)を直線で結び、その延長線とスペクトル軌跡が交わる点の波長をいう。
【0013】
発光装置は、入射角度0°の誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて、380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたときに、380nm以上485nm以下の範囲内の反射強度が80%以上であり、610nm以上780nm以下の範囲内の反射強度が10%以下である誘電体多層膜を備える。誘電体多層膜の表面に対して法線方向から入射する光の角度を入射角度0°という、誘電体多層膜は、発光素子から発せられる380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する青色光を反射させ、蛍光体で波長変換させた610nm以上780nm以下の範囲内に発光スペクトルを有する赤色光を透過させることができる。
【0014】
誘電体多層膜は、反射特性に角度依存性を有する。誘電体多層膜を備えた発光装置は、指向角度0°において、誘電体多層膜によって発光素子から発せられた380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する青色光が反射され、蛍光体で波長変換された610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する赤色光が透過される。誘電体多層膜を備えた発光装置は、誘電体多層膜が角度依存性を有するため、指向角度0°から発光装置の発光面に水平な方向に傾斜した指向角度θにおいて、指向角度0°における発光色から色度がずれた発光色が視認される。このように誘電体多層膜を備えた発光装置は、指向角度の変化によって色ムラが発生し、指向色度特性が悪い場合がある。発光装置の指向色度特性が悪くなるのは、誘電体多層膜が角度依存性を有するために、指向角度の変化によって、発光素子から発せられた青色光が誘電体多層膜で反射されずに透過することが原因の一つと考えられる。また、発光装置の指向色度特性が悪いのは、透過させることを目的とする蛍光体で波長変換された光も、誘電体多層膜で反射され、この反射された光が指向角度の変化によって抜け出て、発光色の色度を変化させることも原因の一つと考えられる。本発明者らは、入射角度0°の誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる、すなわち、誘電体多層膜の光が透過する波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲との重複を少なくすることによって、指向角度の変化による色ムラを低減することができ、発光装置の指向色度特性を改善できることを見出した。
【0015】
発光装置において、入射角度0°の誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたときの50%の反射強度を示す波長Wrと、発光装置の発光スペクトルにおいて最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfの波長差ΔWが20nm以上である。波長差ΔWが20nm以上であれば、誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲との重複を少なくすることができ、指向角度が変化しても発光素子から発せられる光が誘電体多層膜から抜け出ることなく、指向角度の変化による色ムラを低減できる。その結果、発光装置の指向色度特性を良くすることができる。また、波長差ΔWが20nm以上であれば、誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲との重複する範囲を少なくすることができ、透過させることを目的とする蛍光体で波長変換された光が誘電体多層膜で反射されるのを抑制することができる。波長差ΔWが20nm以上であれば、誘電体多層膜で反射された光が指向角度の変化によって発光装置から抜け出るのを抑制することができ、発光装置の指向色度特性を良くすることができる。波長差ΔWは、好ましくは30nm以上であり、より好ましくは40nm以上150nm以下の範囲内である。波長差ΔWは、大きい方がより好ましいが、波長差ΔWが大きすぎると、目的とする発光色の波長範囲からずれてしまう場合がある。そのため、誘電体多層膜が反射させる光の波長範囲と、発光装置から発せられる光の波長範囲との関係から、波長差ΔWは40nm以上150nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0016】
発光装置において、波長差ΔWが20nm以上であると、CIE1931色度図において、指向角度0°における発光装置の発光色のx座標x0と、指向角度60°における発光装置の発光色のx座標x60のx座標の差分Δxの絶対値が、0.010以下となる光を、発光装置から発することができる。指向角度0°と指向角度60°のx座標の差分Δxの絶対値が0.010以下であれば、指向角度が変化しても、発光装置の発光色の色度がほとんど変化しておらず、指向角度の変化による色ムラを低減し、指向色度特性を良くすることができる。x座標の差分Δxの絶対値は、より好ましくは0.009以下であり、さらに好ましくは0.008以下であり、よりさらに好ましくは0.007以下であり、特に好ましくは0.006以下である。
【0017】
本発明の一実施態様の発光装置の一例を図面に基づいて説明する。
図1Aは、本発明の一実施態様の発光装置100を示す概略平面図であり、
図1Bは、発光装置100の概略断面図である。
【0018】
発光装置100は、発光装置100の発光面を有する発光積層部20と、被覆部材6とを有する。
【0019】
発光積層部20は、基板10上に設けられ、発光素子2及び蛍光体層3を含む発光部20aと誘電体多層膜1とを含む。誘電体多層膜1の光の出射側に透光性部材4を備えていてもよい。透光性部材4は、誘電体多層膜1から透光性部材4を介して効率よく光を外部に出射するために、誘電体多層膜1の光の出射側に接して配置されていることが好ましい。
【0020】
発光積層部20は、光の出射面である透光性部材4の表面を除き、基板10上で被覆部材6により覆われている。発光素子2及び蛍光体層3を含む発光部20aは、その側面が例えば可視光を実質的に全て反射する被覆部材6によって覆われ、発光素子2と反対側の面が蛍光体層3に含まれる蛍光体が発する光を透過し、発光素子2が発する光を反射する誘電体多層膜1により覆われている。これにより、発光装置100は、蛍光体が発する発光ピーク波長が610nm以上780nm以下の範囲内である光と、実質的に等しい発光スペクトルを有する光が出射される。被覆部材6は、発光素子2が発する光及び蛍光体層3に含まれる蛍光体が発する光の両方を反射する。
【0021】
発光素子2は、基板10上に導電接合部材7を介して設けられ、基板10上に形成された配線を介して電圧が印加されて、380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する。
【0022】
蛍光体層3は、発光素子2の発光面上に設けられ、発光素子2から発せられた光によって励起され、発光体層3に含まれる蛍光体によって波長変換されて610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を発する。本明細書において、例えば、「発光素子2の発光面上に設けられ」のように「A部材上に設けられ」というときには、A部材に接して設けられている場合と、A部材の上に他の層を介して設けられている場合とを含む。蛍光体層3は、接着層5を介して発光素子2の発光面上に設けられている。
【0023】
誘電体多層膜1は、蛍光体層3上に設けられ、発光素子2から発せられた光を反射し、蛍光体層3から発せられた光を透過する機能を有する。誘電体多層膜1は、具体的には、発光素子2から発せられた380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を反射し、蛍光体層3に含まれる蛍光体から発せられる610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する光を透過する機能を有する。誘電体多層膜1は、例えば、互いに屈折率が異なる第1誘電体層1aと第2誘電体層1bとが交互に積層された多層膜により構成することができる。誘電体多層膜1は、発光素子2が発する光の発光スペクトル(中心波長及び波長に対する強度分布)、第1誘電体層1aの第1屈折率及び第2誘電体層1bの第2屈折率に基づいて第1誘電体層1aの膜厚及び第2誘電体層1bの膜厚を設定することにより、発光素子2が発する光を反射し、蛍光体層3に含まれる蛍光体が発する光を透過するように構成することができる。
【0024】
発光装置100は、発光素子2を過大な電圧の印加による破壊から防ぐための保護素子等の半導体素子8を含んでいてもよい。半導体素子8を含む場合は、被覆部材6は、例えば、半導体素子8を覆うように設けられる。なお、ここでいう半導体素子8とは、発光素子は含まないものとする。
【0025】
以上のように構成された発光装置100は、発光素子2と蛍光体層3を含む発光部20aが、発光素子2から発せられる光及び蛍光体層3から発せられる光の両方を反射する被覆部材6と、発光素子2から発せられる光を反射して蛍光体層3から発せられる光を透過する誘電体多層膜1とによって覆われている。これにより、発光装置100から、蛍光体層3から発せられる光の発光スペクトルと実質的に等しい発光スペクトルを有する光が出射される。
【0026】
発光装置は、380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子2から発せられる光によって、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体層3に含まれる蛍光体が励起されて、584nm以上780nm以下の範囲内に主波長を有する光を出射する。発光装置100から出射される光の主波長が584nm以上780nm以下であると、アンバー色(黄赤色)から赤色の光を出射し、車両のリアランプやストップランプなどの車両用の発光装置に好適に用いることができる。
【0027】
発光装置は、CIE1931色度図のxy色度座標系において、色度座標(x、y)が、(x=0.522、y=0.449)を第一点とし、(x=0.538、y=0.461)を第二点とし、(x=0.735、y=0.265)を第三点とし、(x=0.721、y=0.259)を第四点とし、前記第一点と前記第二点を結ぶ第一直線と、前記第二点と前記第三点を結ぶ第二直線と、前記第三点と前記第四点を結ぶ第三直線と、前記第四点と前記第一点を結ぶ第四直線で画定された領域内の光を発する。前記第一直線と、前記第二直線と、前記第三直線と、前記第四直線で囲われた領域を、目的とする色調範囲と称する場合がある。発光装置の発光色は、目的とする色調範囲内に色度座標(x、y)が存在するため、発光装置から、アンバー色(黄赤色)から赤色の光が出射される。
【0028】
発光装置は、発光装置の発光スペクトルにおいて、発光素子の発光ピーク強度Ieが、発光装置の最大の発光ピークの発光強度Imに対して1/35以下であることが好ましい。発光装置の発光スペクトルにおいて、発光素子の発光ピーク強度Ieと、発光装置の最大の発光ピークの発光強度Imの強度比Ie/Imが1/35以下であると指向角度の変化による色ムラを低減し、指向色度特性が改善された光が発せられる。発光装置の発光スペクトルにおいて、発光素子の発光ピーク強度Ieと発光装置の最大の発光ピークの発光強度Imの強度比Ie/Imは、より好ましくは0.0285以下であり、さらに好ましくは0.020以下であり、よりさらに好ましくは0.015以下であり、特に好ましくは0.010以下であり、最も好ましくは0である。強度比Ie/Imは、1/1000(0.001)以上であってもよい。
【0029】
以下、発光装置100を構成する各部材について説明する。
【0030】
基板10
基板10は、絶縁性を有し、光を透過しにくいことが好ましい。基板10の材料としては、例えば、アルミナや窒化アルミニウム等のセラミックス、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、BTレジン、ポリフタルアミド等の樹脂を挙げることができる。なかでも、セラミックスは放熱効果が高いため好ましい。なお、樹脂を用いる場合には、必要に応じて、ガラス繊維、酸化ケイ素、酸化チタン、アルミナ等の無機フィラーを樹脂に混合してもよい。これにより、機械的強度の向上や熱膨張率の低減、光反射率の向上を図ることができる。
【0031】
発光素子2
発光素子2は、蛍光体層3に含まれる蛍光体を励起するためのものである。発光素子2としては、例えば、発光ダイオード(LED)チップ又はレーザダイオード(LD)チップを用いることができ、LEDチップを用いることが好ましい。発光素子2を発光ダイオードチップとすることにより、発光素子2からの光が広がりやすくなるため、蛍光体層3に含まれる蛍光体を効率良く励起できる。発光素子2は、380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、好ましくは390nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、さらに好ましくは400nm以上475nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、特に好ましくは420nm以上470nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有し、青色成分の多い光を発光する。
【0032】
発光素子2は、例えば式:InXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)表される窒化物系半導体を用いた半導体発光素子を用いることができる。
【0033】
発光素子2の半導体積層体2aには、p電極及びn電極が設けられている。発光素子2は、p電極及びn電極は発光素子2の同じ側の面に形成されていてもよく、発光素子2は、基板10にフリップチップ実装されていてもよい。
【0034】
蛍光体層3
蛍光体層3は、発光素子2から発せられた光を吸収して異なる範囲に波長変換した光を発する。蛍光体層3は、例えば、蛍光体粒子と透光性バインダーとを含む蛍光体層用組成物を、透光性部材4の表面に誘電体多層膜1を介して印刷することにより形成してもよい。
【0035】
蛍光体層3の厚さは、好ましくは30μm以上150μm以下の範囲内であり、より好ましくは40μm以上140μm以下の範囲内であり、さらに好ましくは50μm以上130μm以下の範囲内である。蛍光体層3の厚さが30μm以上150μm以下の範囲内であれば、目的する発光強度を有し、CIE1931色度図における目的とする色調範囲内の発光色を有する発光装置を得ることができる。
【0036】
蛍光体層3を蛍光体層用組成物によって形成する場合には、蛍光体層用組成物に含まれる蛍光体粒子は、バインダー100質量部に対して、好ましくは20質量部以上280質量部以下の範囲内であり、より好ましくは50質量部以上250質量部以下の範囲内である。蛍光体層3を形成する蛍光体層用組成物中に含まれる蛍光体粒子の含有量がバインダー100質量部に対して、20質量部以上280質量部以下の範囲内であれば、目的とする発光強度を有し、CIE1931色度図における目的とする色調範囲内の発光色を有する蛍光体層3を形成することができる。
【0037】
蛍光体
蛍光体層3に含まれる蛍光体は、波長450nmの光に対する反射率が10%以下であり、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。蛍光体層3に含まれる蛍光体の波長450nmの光に対する反射率が10%以下であれば、発光素子2から発せられる光と誘電体多層膜1で反射された発光素子2から発せられた光を蛍光体が効率よく波長変換し、蛍光体で波長変換した光を誘電体多層膜1から透過させて、指向角度が変化による色ムラを低減し、目的とする色調範囲内の発光色を得ることができる。蛍光体層3に含まれる蛍光体の波長450nmの光に対する反射率が10%を超えると、発光素子2から発せられる光が誘電体多層膜1から抜け出やすくなり、指向角度の変化による色ムラが発生する場合がある。蛍光体層3に含まれる蛍光体の波長450nmの光に対する反射率は、好ましくは9%以下であり、さらに好ましくは8%以下であり、特に好ましくは7%以下である。蛍光体層3に含まれる蛍光体の波長450nmの光に対する反射率は、発光素子2から発せられる光を効率よく波長変換することができるため、低い方が好ましい。蛍光体層3に含まれる蛍光体の波長450nmの光に対する反射率は、0%であってもよく、0.5%以上であってもよい。
【0038】
蛍光体の平均粒径は、好ましくは2μm以上40μm以下の範囲内であり、より好ましくは10μm以上40μm以下の範囲内であり、さらに好ましくは15μm以上40μm以下の範囲内である。蛍光体粒子の粒径が大きくなると散乱は少なくなって光の取り出し効率は高くなるが、粒子表面積が小さくなり、蛍光体が発光する光の量が少なくなって波長変換されない光の量が増える。波長変換されない光は、誘電体多層膜1によって再度蛍光体層3側へ戻されるため、蛍光体粒子の粒径を大きくすることによって、粒子表面での散乱を抑制しつつ発光素子2から発せられた光を効率よく波長変換を行うことができる。そのため、蛍光体粒子の粒径は大きいほうが、発光素子2から発せられた光を効率よく波長変換することができ、光取り出し効率を向上させることができる。一方、蛍光体粒子が大きすぎると、取り扱い性が低下する。蛍光体粒子の平均粒径は、フィッシャーサブシーブサイザー法(Fisher Sub-Sieve Sizer)法(以下、「FSSS法」とも称する。)で測定することができる。FSSS法は、空気透過法の一種であり、空気の流通抵抗を利用して比表面積を測定し、主に一次粒子の粒径を求める方法である。FSSS法で測定された平均粒径は、フィッシャーサブシーブサイザーズナンバー(Fisher Sub-Sieve Sizer’s Number)である。
【0039】
第一窒化物蛍光体
蛍光体層3に含まれる蛍光体を以下に示す。蛍光体層3は、Caと、Euと、Siと、Alと、Nと、必要に応じてSrと、を組成に含み、前記組成1モルにおけるEuのモル比が0.01以上0.04以下であり、Siのモル比が0.8以上1.2以下であり、Nのモル比が2.5以上3.5以下である、第一窒化物蛍光体を含むことが好ましい。第一窒化物蛍光体は、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。蛍光体層3が、第一窒化物蛍光体を含むことにより、発光装置は584nm以上780nm以下の範囲内に主波長を有する光を発することができる。蛍光体層3が、第一窒化物蛍光体を含むことにより、目的する発光強度を有し、CIE1931色度図における目的とする色調範囲内の発光色を有する発光装置を得ることができる。
【0040】
第一窒化物蛍光体は、下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
SrtCavEuwAlxSiyNz (I)
(式(I)中、0≦t<1、0<v<1、0.01<w≦0.04、t+v+w<1、0.80≦x≦1.2、0.80≦y≦1.2、2.5≦z≦3.5を満たす数である。)
【0041】
第二窒化物蛍光体
蛍光体層3は、Caと、Siと、Euと、Nと、必要に応じてSrまたはBaの少なくとも一方と、を組成に含み、前記組成1モルにおけるEuのモル比が0を超えて1.0未満であり、Siのモル比が5であり、Nのモル比が5である、第二窒化物蛍光体を含んでいてもよい。第二窒化物蛍光体は、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。蛍光体層3が、第二窒化物蛍光体を含むことにより、発光装置は584nm以上780nm以下の範囲内に主波長を有する光を発することができる。蛍光体層3が、第二窒化物蛍光体を含む場合においても、目的する発光強度を有し、CIE1931色度図における目的とする色調範囲内の発光色を有する発光装置を得ることができる。
【0042】
第二窒化物蛍光体は、下記式(II)で表される組成を有することが好ましい。
(Ca1-p-q-rSrpBaqEur)2Si5N8 (II)
(式(II)中、p、q及びrは、0≦p≦1.0、0≦q≦1.0、0<r<1.0及びp+q+r≦1.0を満たす数である。)
【0043】
蛍光体層3は、目的とする発光ピーク波長を有する光を発するために、第一窒化物蛍光体及び第二窒化物蛍光体からなる群から選択される少なくとも一種の蛍光体を含んでいてもよい。蛍光体層3は、第一窒化物蛍光体及び第二窒化物蛍光体の両方を含んでいてもよい。蛍光体層3は、第一窒化物蛍光体及び第二窒化物蛍光体以外の蛍光体をさらに含んでいてもよい。蛍光体層3には、500nm以上600nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体を含んでいてもよい。
【0044】
蛍光体層3は、第一窒化物蛍光体及び第二窒化物蛍光体からなる群から選ばれる少なくも一種の蛍光体の他に、Ceを組成に含む希土類アルミン酸塩蛍光体、アルカリ金属元素及びアンモニウムイオンからなる群から選択される少なくとも一種の元素又はイオンと、第4族元素及び第14族元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を組成に有し、Mn4+で賦活されるフッ化物蛍光体、Mn4+で賦活されるフルオロジャーマネート蛍光体、及びアルカリ土類金属元素からなる群より選択される少なくとも一種の元素と、アルカリ金属元素からなる群より選択される少なくとも一種の元素と、を組成に有し、Eu2+で賦活されるアルミナイトライド蛍光体からなる群から選択される少なくとも一種の蛍光体をさらに含んでいてもよい。
【0045】
蛍光体層3は、下記式(III)で表される組成を有する希土類アルミン酸塩蛍光体、下記式(IV)で表される組成を有するフッ化物蛍光体、下記式(V)で表される組成を有するフルオロジャーマネート蛍光体、及び下記式(VI)で表される組成を有するアルミナイトライド蛍光体からなる群から選択される少なくとも一種の蛍光体をさらに含んでいてもよい。
(Ln1-yCey)3Al5O12 (III)
(式(III)中、Lnは、Y、Gd、Lu及びTbからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、yは、0<y≦0.022を満たす数である。)
A2[M1
1-gMn4+
gF6] (IV)
(式(IV)中、Aは、K、Li、Na、Rb、Cs及びNH4
+からなる群から選択される少なくとも一種であり、M1は、第4族元素及び第14族元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素であり、gは0<g<0.2を満たす数である。)
(i-j)MgO・(j/2)Sc2O3・kMgF2・mCaF2・(1-n)GeO2・(n/2)M2
2O3:zMn4+ (V)
(式(V)中、M2はAl、Ga及Inからなる群から選択される少なくとも一種であり、i、j、k、m、n及びzはそれぞれ、2≦i≦4、0≦j<0.5、0<k<1.5、0≦m<1.5、0<n<0.5、及び0<z<0.05を満たす数である。)
(CaaSr1-a-c-dBadEuc)fLibAl3Ne (VI)
(式(VI)中、a、b、c、d、e及びfは、それぞれ0≦a<1.0、0.8≦b≦1.05、0.001<c≦0.1、0≦d≦0.2、3.0≦e≦5.0、0.8≦f≦1.05を満たす数である。)
【0046】
式(III)で表される組成を有する希土類アルミン酸塩蛍光体は、500nm以上600nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。式(IV)で表される組成を有するフッ化物蛍光体は、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。式(V)で表される組成を有するフルオロジャーマネート蛍光体は、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。式(VI)で表される組成を有するアルミナイトライド蛍光体は、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する。
【0047】
蛍光体層3が、波長450nm以下の光に対する反射率が10%以下であり、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体を含むことによって、380nm以上485nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子を備えた発光装置は、赤色を発光することができる。また、蛍光体層3が、さらに610nm以上780nm以下の範囲外の蛍光体を含むことによって、発光装置はアンバー色を発光することができる。
【0048】
誘電体多層膜1
誘電体多層膜1は、屈折率の異なる2つの第1誘電体層1aと第2誘電体層1bとを、それぞれλ/4の膜厚で交互に周期的に形成してなる。λは、反射させたい波長領域のピーク波長であり、各誘電体材料における媒質内波長である。この誘電体多層膜1は、理論的には、2つの第1誘電体層1aと第2誘電体層1bの屈折率差が大きいほど、また、交互に形成する周期数が多いほど高い反射率が得られることが知られている。一方、2つの第1誘電体層1aと第2誘電体層1bの屈折率差が大き過ぎたり、周期数が大き過ぎると、反射ピーク波長λの両側で反射率が急激に減少したり(波長依存性が急峻になる)、反射率の波長依存性が大きくなったりして、所望の波長範囲で所望の反射率を安定して得ることが難しくなる。そこで、誘電体多層膜1では、屈折率の高い誘電体材料からなる第1誘電体層1aと屈折率の低い誘電体材料からなる第2誘電体層1bの各屈折率及び屈折率差、交互に形成する周期数は、所望の波長範囲で所望の反射率が安定して得られるように、適宜設定される。
【0049】
具体的には、屈折率の高い第1誘電体層1aの屈折率(第1屈折率)は、例えば、1.5以上3.0以下の範囲内に設定され、好ましくは、2.0以上2.6以下の範囲内に設定される。また、屈折率の低い第2誘電体層1bの屈折率(第2屈折率)は、例えば、1.0以上1.8以下の範囲内に設定され、好ましくは、1.2以上1.6以下の範囲内に設定される。さらに、第1誘電体層1aと第2誘電体層1bとを交互に形成する周期数は、例えば、1以上30以下の範囲内に設定され、好ましくは、1以上20以下の範囲内に設定される。
【0050】
第1誘電体層1aを構成する誘電体材料は、例えば、TiO2、Nb2O3、Ta2O5及びZr2O5から選択することができる。第2誘電体層1bを構成する誘電体材料は、例えば、SiO2、Al2O3及びSiONから選択された材料により構成することができる。
【0051】
誘電体多層膜1は、反射波長帯域における反射率が高く、透過波長帯域における透過率が高い選択性が高いものであることが好ましい。誘電体多層膜1の選択性が高いとは、反射波長帯域と透過波長帯域間において反射率又は透過率の変化が急峻であることをいう。
【0052】
透光性部材4
透光性部材4は、一方の面に誘電体多層膜1及び蛍光体層3が設けられ、誘電体多層膜1及び蛍光体層3を支持する。透光性部材4には、ガラスや樹脂のような透光性材料からなる板状体を用いることができる。ガラスとして、例えば、ホウ珪酸ガラスや石英ガラスから選択することができる。また、樹脂として、例えば、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂から選択することができる。透光性部材4の厚さは、製造工程における機械的強度が低下せず、蛍光体層3に十分な機械強度を付与することができる厚さであればよい。
【0053】
接着層5
接着層5は、発光素子2と蛍光体層3とを接着する。接着層5は、発光素子2からの出射光を極力減衰させることなく蛍光体層3へと導光できる材料が好ましい。具体例としてはエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂等の有機樹脂を挙げることができる。
【0054】
半導体素子8
半導体素子8は、発光素子2を過大な電圧印加による素子破壊や性能劣化から保護するための保護素子である。半導体素子8は、具体的には、規定電圧以上の電圧が印加されると通電状態になるツェナーダイオード(Zrner Diode)で構成される。
【0055】
なお、実装時の半導体素子8の高さは、発光素子2、蛍光体層3、誘電体多層膜1及び透光性部材4が積層された高さよりも低いことが好ましい。半導体素子8の外形を利用することにより、被覆部材6の最表面を上昇させて樹脂のひけ(樹脂の硬化時の表面の凹み)を抑制することができる。
【0056】
被覆部材6
被覆部材6の材料としては、絶縁材料を用いることが好ましい。また、強度を確保するために、例えば熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。より具体的には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BTレジン)、ポリフタルアミド(PPA)樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。また、これらの母体となる樹脂に、発光素子2からの光を吸収しにくく、かつ母体となる樹脂に対する屈折率差の大きいフィラーを分散することで、効率よく光を反射させることができる。例えば、被覆部材6に含まれる反射部材は、被覆部材6の全体量100質量%に対して、30質量%以上とすることができる。反射部材は、反射率を考慮して、例えばレーザー回折散乱法で測定される体積基準の粒度分布における累積頻度50%のメジアン径が20μm以上であることが好ましく、100μm以上であってもよい。反射部材が長軸と短軸を有する形状、例えば楕円状、針状、棒状、鱗片状である場合には、反射率を考慮して、長軸が20μm以上であることが好ましく、100μm以上であってもよい。
【0057】
被覆部材6は、例えば、固定された基板10の上側において、基板10に対して上下方向若しくは水平方向に移動(可動)させることができる樹脂吐出装置を用いて、発光素子2、蛍光体層3、誘電体多層膜1及び透光性部材4を含む発光積層部20と、半導体素子8との間に被覆部材6を充填することによって形成することができる。
【0058】
フィラー
被覆部材6には、母体となる樹脂に、発光素子2から発せられる光を吸収しにくく、かつ母体となる樹脂に対する屈折率の大きいフィラーを分散することで、効率よく光を反射させることができる。フィラーとしては、イットリウム、ジルコニウム、アルミニウム、チタン、マグネシウム及びケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の元素を含む酸化物であることが好ましい。フィラーとしては、例えばSiO2、Y2O3、TiO2、Al2O3、ZrO2、MgOが挙げられる。被覆部材6に含まれるフィラーの量は、樹脂100質量部に対して、反射性及び取り扱い性を考慮して、10質量部以上100質量部以下の範囲内であることが好ましい。
【0059】
導電部材7
導電部材7としては、バンプを用いることができ、バンプの材料としては、Auあるいはその合金、他の導電接合部材として、共晶ハンダ(Au-Sn)、Pb-Sn、鉛フリーハンダ等を用いることができる。なお、
図1Bでは、導電部材7にバンプを用いた例を示しているが、導電部材7はバンプに限定されず、例えば導電ペーストであってもよい。
【0060】
アンダーフィル
アンダーフィルは、基板上に配置された発光素子2、半導体素子8、導電部材7を、塵芥、水分、外力から保護するための部材である。必要に応じて、発光素子2及び半導体素子8と、導電部材7の間にアンダーフィルを設けてもよい。アンダーフィルの材料としては、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂が挙げられる。アンダーフィルは、これらの樹脂に、必要に応じて着色剤、光拡散剤、フィラーを含有させることができる。
【0061】
以下、発光装置の製造方法について説明する。
【0062】
発光装置の製造方法は、下記の第一から第四の工程を、第一の工程から第四の工程の順序で含む。
A.基板の上に発光素子を実装する第一の工程。
B.透光性部材の上に、誘電体多層膜及び蛍光体層を形成する第二の工程。
C.誘電体多層膜及び蛍光体層を備えた透光性部材を、発光素子上に配置して接合し発光積層部を作製する第三の工程。
D.発光面を除く発光積層部の側面を被覆部材用組成物で覆い、被覆部材を形成する第四の工程。
【0063】
第一の工程
第一の工程では、基板上に発光素子を配置し、実装する。集合基板を用いる場合には、集合基板上に複数の発光素子を配置する。また、配置された発光素子の行又は列方向のいずれか一方向で、発光素子とその隣の発光素子の間に半導体素子を配置してもよい。発光素子と半導体素子とは、例えば、基板上にフリップチップ実装される。
【0064】
第二の工程
第二の工程では、透光性部材の上に誘電体多層膜及び蛍光体層を形成する。
まず、板状の透光性部材を準備する。次に、透光性部材上に、誘電体多層膜を形成する、
例えば、互いに屈折率が異なる第1誘電体層と第2誘電体層とを交互に積層して誘電体多層膜を形成する。
【0065】
誘電体多層膜は、原子層堆積法(ALD)、スパッタ、蒸着法等により第1誘電体層と第2誘電体層とを交互に成膜することにより形成することができるが、原子層堆積法(ALD)により成膜すると、第1誘電体層と第2誘電体層とをそれぞれ均一な膜厚で成膜することができるので好ましい。
【0066】
誘電体多層膜は、入射角度0°の誘電体多層膜の反射スペクトルにおける、380nm以上780nm以下の最大の反射強度を100%としたときの50%の反射強度を有する波長Wrと、蛍光体の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を有する発光ピークの短波長側の波長Wfpとの波長差ΔWpが20nm以上となるように形成する。具体的には、まず、後述する蛍光体層に含まれる蛍光体の発光スペクトルを予め測定し、蛍光体の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfpを測定する。誘電体多層膜は、波長Wrと波長Wfpとの波長差ΔWpが20nm以上となるように、シミュレーションして、誘電体多層膜を形成する。発光装置において、発光素子から発せられる光は誘電体多層膜によって反射され、蛍光体で波長変換された光が発光装置から出射される。蛍光体層に含まれる蛍光体の発光スペクトルを予め測定し、蛍光体の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfpと、誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて、380nm以上780nm以下の範囲内の最大の反射強度を100%としたときの50%の反射強度を示す波長Wrとの波長差ΔWpが20nm以上であれば、得られる発光装置において、発光装置の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfと、波長Wrの波長差ΔWも20nm以上となる。発光装置において、発光素子から発せられる光は誘電体多層膜によって反射されるため、発光装置から発せられる光の発光スペクトルは、蛍光体層に含まれる蛍光体の発光スペクトルほぼ同じとなる。得られる誘電体多層膜の反射スペクトルにおける波長Wrが、蛍光体層に含まれる蛍光体の発光スペクトルにおける波長Wfpとの波長差ΔWpが20nm以上となるように、誘電体多層膜を形成すれば、指向角度が変化しても反射させたい波長範囲の光が誘電体多層膜から抜け出ることなく、逆に透過させたい波長範囲の光を誘電体多層膜が反射することなく、指向角度の変化による色ムラを低減でき、指向色度特性を改善した発光装置を製造することができる。波長差ΔWpは、好ましくは30nm以上であり、より好ましくは40nm以上150nm以下の範囲内である。波長差ΔWpは、大きい方がより好ましいが、波長差ΔWpが大きすぎると、目的とする発光色の波長範囲からずれてしまう場合がある。そのため、誘電体多層膜が反射させる光の波長範囲と、発光装置から発せられる光の波長範囲との関係から、波長差ΔWpは40nm以上150nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0067】
次に、誘電体多層膜上に蛍光体層を形成する。蛍光体層は、例えば、誘電体多層膜上に印刷法を用いて形成することができる。印刷法では、蛍光体、バインダー、及び必要に応じて溶剤を含む蛍光体層用組成物を調製し、その蛍光体層用組成物を誘電体多層膜の表面に塗布し、乾燥することにより蛍光体層を形成することができる。バインダーとしては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、及びポリイミド樹脂等の有機バインダーや、ガラス等の無機バインダーを用いることができる。380nm以上480nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する発光素子からの光によって励起され、610nm以上780nm以下の範囲内に発光ピーク波長を有する蛍光体が蛍光体層に含まれる。
【0068】
蛍光体層は、印刷法に代えて、圧縮成形法、蛍光体電着法、蛍光体シート法等により形成することができる。圧縮成形法は、反射膜上に、バインダーに蛍光体を含有させた蛍光体層の材料を金型で成形する方法である。蛍光体電着法は、反射膜の表面に、透光性を有する導電性の薄膜を形成しておき、電気泳動を利用して、帯電した蛍光体を、薄膜上に堆積させる方法である。蛍光体シート法は、シリコーン樹脂に蛍光体を混練し、シート状に加工した蛍光体シートを、反射膜の表面に固着させる方法であり、例えば、100μm、又はそれ以下の厚さの蛍光体シートを、反射膜の表面に圧着して一体化する方法である。
【0069】
誘電体多層膜及び蛍光体層が形成された透光性部材を、各発光素子の発光面上にそれぞれ配置できるような大きさに分割し、個片化する。以上のようにして、誘電体多層膜と蛍光体層とが一体化された透光性部材が形成される。以下、誘電体多層膜と蛍光体層を含む透光性部材を透光性積層部材という。個片化された透光性積層部材の蛍光体層の表面の形状は、実装精度を考慮して、平面積が発光素子の発光面より少し大きいことが好ましい。
【0070】
第三の工程
第三の工程では、蛍光体層を発光素子の発光面に対向させて、発光素子上に透光性積層部材を接着層により接合する。これにより、発光素子と透光性積層部を含む発光積層部が作製される。好ましい形態では、透光性積層部材の発光素子との接合面、すなわち、蛍光体層の発光素子との接合面は、発光素子の発光面より大きいので、発光素子の発光面からはみ出した接着剤は、発光素子の側面に付着して、縦断面形状が略三角形の接着層のはみ出し部分が形成される。発光素子の側面に付着した接着層のはみ出し部分は、層の厚さが発光素子の下方に向かって小さくなる三角形状を有している。
【0071】
第四の工程
第四の工程では、発光面を除く発光積層部の側面を被覆部材用組成物で覆い、発光面を除く発光積層部の側面に被覆部材を形成する。集合基板上に複数の発光素子及び半導体素子が配置され、各発光素子上に透光性積層部材が接合されて発光積層部が形成されている場合には、発光積層部間に被覆部材用組成物を充填する。この被覆部材は、発光素子から出射された光を反射させるためのものであり、発光積層部の上面を覆うことなく側面を覆いかつ半導体素子を埋設するように形成する。発光素子の側面に付着したはみ出し部は、厚さが発光素子の下方に向かって小さくなる断面三角形状を有しているので、発光素子の側面を覆う被覆部材は、上方ほど拡がる傾斜を有している。これにより、発光素子の側面から出射した光は蛍光体層方向に反射されて、蛍光体を励起することが可能になり、輝度の向上が図られる。
【0072】
集合基板上に複数の発光積層部が形成されている場合には、発光素子及び半導体素子を1つずつ含むように被覆部材及び集合基板を切断して、個々の発光装置に分離する。
【0073】
以上のようにして、
図1A及び
図1Bに示す実施形態の発光装置を製造することができる。なお、基板を用いない発光装置とする場合は、被覆部材を形成した後、又は被覆部材を形成した後基板を切断する前、あるいは切断した後で、基板を除去してもよい。
【0074】
以上の実施形態の説明では、透光性部材と蛍光体層の間に誘電体多層膜を設けた発光装置の例を説明したが、透光性部材の上に誘電体多層膜を設けてもよい。すなわち、蛍光体層と誘電体多層膜の間に透光性部材を配置してもよい。そのように構成した場合であっても、発光積層部の側面全体を反射樹脂に覆うことにより、発光素子から発せられる光を発光装置の外部に放出されるのを抑制することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
蛍光体
実施例及び比較例の各発光装置は、表1に示す蛍光体-1、蛍光体-2及び蛍光体-3を使用した。蛍光体-1、蛍光体-2及び蛍光体-3は、いずれも第一窒化物蛍光体を使用した。表1に示す蛍光体の評価の方法を以下に記載した。
【0077】
蛍光体の評価
組成分析
蛍光体-1、蛍光体-2及び蛍光体-3について、ICP-AES装置(Perkin Elmer製)、イオンクロマトグラフィーシステム(DIONEX日本製)、及び酸素・窒素分析装置(HORIBA製)を用いて組成を分析し、Alを0.9又は1として組成中の各構成元素のモル比を算出した。各蛍光体の組成を表1に示す。
【0078】
平均粒径
各蛍光体について、Fisher Sub-Sieve Sizer Model 95(Fisher Scientific社製)を用いて、FSSS法により平均粒径を測定した。具体的には、1cm3分の体積の試料を計り取り、専用の管状容器にパッキングした後、一定圧力の乾燥空気を流し、差圧から比表面積を読み取り、平均粒径(Fisher Sub-Sieve Sizer’s No)に換算した値である。
【0079】
発光特性
各蛍光体について、発光特性を測定した。蛍光体の発光特性は、量子効率測定装置(製品名:QE-2000、大塚電子株式会社製)を用いて、励起光の波長を450nmの光を各蛍光体に照射し、室温(25℃±5℃)における発光スペクトルを測定した。得られた各蛍光体の発光スペクトルから、発光ピーク波長(nm)を求めた。また、蛍光体の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfpを測定した。
図2Aに、各蛍光体の発光スペクトルを示した。
【0080】
反射スペクトル
各蛍光体について、分光光度計(製品名:F-4500、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、室温(25℃±5℃)で、励起光源(キセノンランプ)からの光を、試料となる蛍光体1から3に照射し、380nm以上780nm以下の波長範囲内の反射スペクトルを測定した。基準試料としてリン酸水素カルシウム(CaHPO
4)を用いた。励起波長450nmの励起光に対するリン酸水素カルシウムの反射率を基準として、蛍光体1から3の450nmの反射率を相対反射率として求めた。
図2Bに、各蛍光体の反射スペクトルを示した。
【0081】
【0082】
誘電体多層膜
実施例及び比較例の各発光装置は、誘電体多層膜-1(DBR-1)又は誘電体多層膜-2(DBR-2)を用いた。
【0083】
反射スペクトル
各誘電体多層膜について、誘電体多層膜の法線方向(入射角度0°)から励起光源からの光を照射し、分光光度計(製品名:V-670、日本分光株式会社製)を用いて、室温(25℃±5℃)で、380nm以上780nm以下の波長範囲内の反射スペクトルを測定した。誘電体多層膜-1(DBR-1)及び誘電体多層膜-2(DBR-2)の反射スペクトルを
図3に示す。また、入射角度0°の各誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて波長が380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたとき50%の反射強度を示す波長Wrを測定した。結果を表2に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
第一の工程
基板10は、窒化アルミニウム基板を用いた。発光素子2は、発光ピーク波長が450nmである光を発する窒化物系半導体を用いた。基板10の上に発光素子2を配置し、フリップチップ実装した。
【0087】
第二の工程
透光性部材4は、厚さが150μmのガラス板を用いた。
透光性部材4の上に、表2に示した誘電体多層膜-1(DBR-1)を作製した。具体的には、Nb
2O
5からなる第1誘電体層1aと、SiO
2からなる第2誘電体層1bを、透光性部材4上に、第2誘電体層1b、第1誘電体層1aの順に交互にスパッタ法により、15.5周期(合計31層)積層することにより製造した。第1誘電体層1aと第2誘電体層1bの積層順序は、
図1Bに示す第1誘電体層1a、第2誘電体層1bの順序とは異なる。誘電体多層膜-1(DBR-1)は、入射角度0°における反射スペクトルにおいて、380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたときの50%の発光強度を示す波長Wrが、蛍光体層3に含まれる蛍光体-2及び蛍光体-3の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfpとの波長差ΔWpが20nm以上となるように製造した。
蛍光体層3は、シリコーン樹脂と、蛍光体-2と、蛍光体-3とを含む蛍光体層用組成物を誘電体多層膜-1上に印刷法で製造した。蛍光体層組成物は、シリコーン樹脂100質量部に対して、蛍光体-2及び蛍光体-3の合計量が186質量部となるように配合した。蛍光体-2と蛍光体-3は、質量比で1:1となるように配合した。蛍光体層3の厚さ71μmであった。
透光性部材4上に誘電体多層膜-1及び蛍光体層3が積層された透光性積層部材を得た。透光性積層部材を、発光素子2上に実装可能となるように個片化した。
【0088】
第三の工程
個片化した透光性積層部材の蛍光体層3を、発光素子2の発光面に対向させて、発光素子2上に透光性積層部材を、シリコーン樹脂を含む接着層により接合し、発光積層部20を製造した。
【0089】
第四の工程
発光積層部20の発光面を除いて、発光積層部20の周囲を被覆部材用組成物で覆い、被覆部材用組成物を硬化させて、被覆部材6を形成し、発光装置100を製造した。被覆部材用組成物は、シリコーン樹脂と酸化チタン(TiO2)フィラーを含む。被覆部材用組成物中のフィラーの配合量は、シリコーン樹脂100質量部に対して、フィラーを60質量部配合した。
【0090】
実施例2
蛍光体-2及び蛍光体-3の代わりに、蛍光体-3を使用し、蛍光体層3の厚さを129μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、発光装置100を製造した。
【0091】
実施例3
蛍光体-2及び蛍光体-3の代わりに、蛍光体-3を使用し、蛍光体層3の厚さを73μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、発光装置100を製造した。
【0092】
実施例4
透光性部材4の上に、表2に示した誘電体多層膜-2(DBR-2)を作製し、蛍光体-2及び蛍光体-3の代わりに、蛍光体-3を使用し、蛍光体層3の厚さを128μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、発光装置100を製造した。誘電体多層膜-2(DBR-2)は、具体的には、Nb2O5からなる第1誘電体層1aと、SiO2からなる第2誘電体層1bを、透光性部材4上に、第2誘電体層1b、第1誘電体層1aの順に交互にスパッタ法により、14.5周期(合計29層)積層することにより製造した。
【0093】
比較例1
蛍光体-2及び蛍光体-3の代わりに、波長450nmの光に対する反射率が21.8%である蛍光体-1を使用し、蛍光体層3の厚さを67μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、発光装置100を製造した。
【0094】
比較例2
透光性部材4の上に、表2に示した誘電体多層膜-2(DBR-2)を作製した。具体的には、蛍光体-2及び蛍光体-3の代わりに、蛍光体-3を使用し、誘電体多層膜-2(DBR-2)の入射角度0°における反射スペクトルにおいて、380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたときの50%の発光強度を示す波長Wrと、蛍光体層3に含まれる蛍光体-3の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度を100%としたときの50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfpとの波長差ΔWpが16nmとなるように、誘電体多層膜-2(DBR-2)を製造し、蛍光体層3の厚さを75μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、発光装置100を製造した。
【0095】
実施例及び比較例の各発光装置に用いた蛍光体、誘電体多層膜、蛍光体層の厚さ、蛍光体層用組成物における樹脂100質量部に対する蛍光体の配合量を、表3に示した。
【0096】
発光装置の評価
実施例及び比較例の各発光装置について、以下の評価を行った。以下の評価は、発光装置に350mAの電流を流して測定した。結果を表4に示した。
【0097】
色度座標(x、y)、主波長、色純度
実施例及び比較例の各発光装置について、マルチチャンネル分光器と積分球を組み合わせた光計測システムを用いて、CIE1931色度図の色度座標系における色度座標(x、y)、主波長、色純度を求めた。各発光装置の発光色の色度座標(x、y)は、後述する指向色度座標(x、y)において、指向角度0°における色度座標(x、y)を意味する。
主波長は、CIE1931色度図における色度座標系における白色光の色度(x=0.3333、y=0.3333)と、発光装置が発光色の色度座標(x、y)を直線で結び、その延長線とスペクトル軌跡が交わる点の波長である。
色純度は、CIE1931色度図の色度座標系における白色光の色度座標(x=0.3333、y=0.3333)と、発光装置の発光色の色度座標(x、y)を結んだ直線距離を、白色光の色度から発光装置が発する光の色度を通ってスペクトル軌跡と交わる色度まで結んだ直線距離で除した値をいう。色純度の数値が高いほど、単色光に近い光が発光装置から出射されていることを意味する。
【0098】
相対光束
実施例及び比較例の各発光装置について、積分球を使用した全光束測定装置(日亜化学工業株式会社製)を用いて、全光束を測定した。比較例1の発光装置から出射される光の全光束を100%として、各発光装置の全光束を相対値で表した。
【0099】
発光ピーク波長、強度比Ie/Im、波長Wf、波長差ΔW
実施例及び比較例の各発光装置について、積分球を使用した分光測光装置(PMA-11、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて、発光スペクトルを測定した。各発光装置の発光スペクトルにおいて、最大の発光ピークの発光ピーク波長と、最大の発光ピークの発光強度を100%としたときに、50%の発光強度を示す発光ピークの短波長側の波長Wfを求めた。また、各発光装置に使用した誘電体多層膜の入射角度0°の各誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて波長が380nm以上780nm以下の範囲内における最大の反射強度を100%としたとき50%の反射強度を示す波長Wrと波長Wfの波長差ΔWを求めた。
各発光装置の発光スペクトルにおいて、発光素子の発光ピーク波長である波長450nmにおける発光強度Ieと、発光装置の発光スペクトルにおける最大の発光ピークの発光強度Imとの強度比Ie/Imを求めた。
【0100】
指向色度座標(x、y)
発光装置の発光色の指向色度座標を測定した。具体的には、実施例及び比較例の各発光装置について、350mAの電流を通電して発光させ、ゴニオメータを使用して、発光装置を回転させて指向角度を変更させながら、CIEが推奨している平均LED光度測定であるCondition Bの条件で、分光測光装置(品番:PMA-11、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて、各発光装置の発光色の指向色度座標(x、y)を測定した。
図4は、発光装置の発光色の指向色度座標(x、y)を測定する方向を示す模式図である。発光装置の光軸Cから発光装置の発光面と水平方向に傾斜する角度を指向角度θとして測定した。発光装置の光軸Cは、発光装置の発光面に対する法線方向のz軸と平行であり、発光装置の中央の点を通る軸をいい、指向角度0°である。指向色度は、具体的には、
図4に示すx-z平面内において、x-y平面に対するz軸を指向角度0°とし、z軸からx-z平面上でx-y平面方向に傾斜する角度θを指向角度θとした。CIE色度図の色度座標において指向角度0°の指向色度座標(x
0、y
0)と、指向角度θの指向色度座標(x
θ、y
θ)を測定した。また、指向角度0°のx座標x
0と指向角度60°のx座標x
60のx座標の差分Δxと、指向角度0°のy座標y
0と指向角度60°のy座標y
60のy座標の差分Δyを表4に記載した。実施例及び比較例の発光装置は、xz面の角度θ=0°から角度θ=+90°には、半導体素子が存在するため、xz面の角度θ=0°から角度θ=-90°の範囲のx座標の差分を検討した。角度θ=-80°から角度θ=-90°は、発光装置の発光面とほぼ水平方向であり、実際の用途において視認されることは殆どないと考えられる。
【0101】
【0102】
【0103】
実施例1から4の発光装置は、色純度が高く、波長差ΔWが20nm以上であり、x座標の差分Δxの絶対値が0.010以下と低くなった。この結果から、実施例1から4は、指向角度0°において視認される発光色と、指向角度60°において視認される発光色の色度のずれが少なく、指向角度の変化による色ムラを低減することができ、発光装置の指向色度特性が良好であった。
【0104】
比較例1の発光装置は、波長450nmの光に対する反射率が21.8%である蛍光体-1を使用しているため、発光素子から発せられる光を効率よく波長変換することができず、波長差ΔWが20nm以上であっても、発光素子2から発せられる光が誘電体多硬膜から抜け出てしまい、x座標の差分Δxの絶対値が0.010を超えて大きくなり、指向角度の変化によって色ムラが発生し、指向色度特性が悪くなった。
【0105】
比較例2の発光装置は、波長差ΔWが20nm未満であり、誘電体多層膜-2(DBR-2)の反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲とが一部重複し、x座標の差分Δxの絶対値が0.010を超えて大きくなった。この結果から比較例2の発光装置は、指向角度の変化によって色ムラが発生し、指向色度特性が悪くなった。比較例2の発光装置において、指向色度特性が悪くなったのは、指向角度の変化によって発光素子から発せられた光の一部が抜け出たことと、透過させることを目的とする蛍光体で波長変換された光が誘電体多層膜で反射され、この反射された光が指向角度の変化によって誘電体多層膜から抜け出てしまったことにより、指向角度によって色ムラが発生したと考えられる。
【0106】
図5は、実施例及び比較例の各発光装置の発光色の指向角度0°における色度座標(x、y)と、目的とする色調範囲を、CIE色度図上に示した図である。目的とする色調範囲は、CIE1931色度図のxy色度座標系において、色度座標(x、y)が、(x=0.522、y=0.449)を第一点とし、(x=0.538、y=0.461)を第二点とし、(x=0.735、y=0.265)を第三点とし、(x=0.721、y=0.259)を第四点とし、前記第一点と前記第二点を結ぶ第一直線と、前記第二点と前記第
三点を結ぶ第二直線と、前記第三点と前記第四点を結ぶ第三直線と、前記第四点と前記第一点を結ぶ第四直線で画定された領域内をいう。
図5に示すように、実施例及び比較例の発光装置の発光色の色度座標(x、y)は、いずれも目的する色調範囲内に存在し、各発光装置からアンバー色から赤色の光が出射される。
【0107】
図6は、入射角度0°における誘電体多層膜-1(DBR-1)における反射スペクトルと、実施例1に係る発光装置及び比較例1に係る発光装置の相対発光スペクトルを示す図である。相対発光スペクトルは、発光装置の最大の発光ピーク波長における発光強度を100%として表した発光スペクトルである。
図6に示すように、実施例1の発光装置及び比較例1の発光装置は、波長差ΔWが40nm以上であり、反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲とがほとんど重複していない。
【0108】
図7は、入射角度0°における誘電体多層膜-1(DBR-1)の反射スペクトルと、実施例2に係る発光装置及び実施例3に係る発光装置の相対発光スペクトルを示す図である。
図7に示すように、実施例2の発光装置及び実施例3の発光装置は波長差ΔWが40nm以上であり、反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲とがほとんど重複していない。
【0109】
図8は、入射角度0°における誘電体多層膜-2(DBR-2)の反射スペクトルと、実施例4に係る発光装置及び比較例2に係る発光装置の相対発光スペクトルを示す図である。実施例4の発光装置は、波長差ΔWが21nmであり、反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲とが一部重複した。また、比較例2の発光装置は、波長差ΔWが16nmであり、反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲とが実施例4よりも多くの範囲で重複した。実施例4の発光装置と、比較例2の発光装置は、両者ともに誘電体多層膜-2(DBR-2)、蛍光体-3を発光装置に含む。しかしながら、実施例4の発光装置は蛍光体層の厚さが128μmであり、比較例2の発光装置は蛍光体層の厚さが75μmであり、蛍光体層の厚さの違いによって、発光装置の発光スペクトルにおける波長Wfが異なり、実施例4の発光装置は、波長差ΔWを20nm以上とすることができる。実施例4の発光装置は、誘電体多層膜の反射スペクトルにおいて反射強度が低くなる波長範囲と、発光装置の発光スペクトルにおいて発光強度が高くなる波長範囲の重複が、比較例2の発光装置よりも少なくなり、指向角度の変化による色ムラを低減し、指向色度特性が良好となった。
【0110】
図9は、実施例3に係る発光装置及び比較例2に係る発光装置の相対発光スペクトルにおいて、550nm以上600nm以下の範囲の部分拡大図である。実施例3の発光装置と、比較例2の発光装置とは、蛍光体層の厚さがほぼ同様の厚さであるが、誘電体多層膜が異なる。550nm以上600nm以下の範囲の発光スペクトルにおいて、実施例3の発光装置の発光強度は、比較例2の発光装置の発光強度よりも高くなっている。この結果から、比較例2の発光装置は、透過させることを目的とする蛍光体で波長変換された光も誘電体多層膜によって反射されてしまい、550nm以上600nm以下の範囲の発光強度が低くなったと考えられる。この結果から、発光装置において、波長差ΔWが20nm未満と小さくなると、透過させることを目的とする蛍光体で波長変換された光も誘電体多層膜で反射されてしまい、この反射された光が指向角度の変化によって誘電体多層膜から抜け出てしましい、指向角度の変化による色ムラが発生し、指向色度特性が悪くなると考えられた。
【0111】
図10は、実施例1に係る発光装置及び比較例1に係る発光装置のxz方向における指向色度特性を示す図である。半導体素子の影響を受けない指向角度0°から-90°の範囲において、実施例1の発光装置は、指向角度0°におけるx座標x
0に対する各指向角度θにおけるx座標x
θのx座標の差分Δxが、比較例1の発光装置よりも小さくなり、比較例1の発光装置よりも、指向角度の変化による色ムラが少なく、指向色度特性が良好であった。
【0112】
図11は、実施例2から4に係る発光装置及び比較例2に係る発光装置のxz方向における指向色度特性を示す図である。実施例2から4の発光装置は、半導体素子の影響を受けない指向角度0°から-90°の範囲において、指向角度0°におけるx座標x
0に対する各指向角度θにおけるx座標x
θのx座標の差分Δxが、比較例2の発光装置よりも小さくなり、指向角度の変化による色ムラが少なく、指向色度特性が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の一態様に係る発光装置は、一般照明用の発光装置、車両用の発光装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1:誘電体多層膜、1a:第1誘電体層、1b:第2誘電体層、2:発光素子、3:蛍光体層、4:透光性部材、5:接着層、6:被覆部材、7:導電部材、8:半導体素子、10:基板、20:発光積層部、20a:発光部、100:発光装置。