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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】電荷輸送性ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/02 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
C08G73/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020080252
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172789
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】神原 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】桑原 純平
(72)【発明者】
【氏名】陳 熹
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034653(JP,A)
【文献】特開2019-069939(JP,A)
【文献】特開2019-096903(JP,A)
【文献】Paula Ruiz-Castillo et al.,Applications of Palladium-Catalyzed C-N Cross-Coupling Reactions,Chemical Reviews,2016年,Vol.116,Pages 12564-12649
【文献】Alexandre Bruneau et al.,2-Aminobiphenyl Palladacycles: The “Most Powerful” Precatalysts in C-C and C-Heteroatom Cross-Couplings,ACS Catalyst,2015年,Vol.5,Pages 1386-1396
【文献】Peter G. Gildner et al.,Reactions of the 21st Century: Two Decades of Innovative Catalyst Design for Palladium-Catalyzed Cross-Couplings,Organometallics,2015年,Vol.34,Pages 5497-5508
【文献】Hikaru Yamada et al.,Preparation and Characterization of Green Reflective Films of Polyaniline Analogs Containing Azobenzene Units,JOURNAL OF APPLIED POLYMER SCIENCE,2015年,Vol.132,Pages 41275(1-7)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73/00-73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1A)及び下式(1B)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのアミンと、下式(2)で表されるジハライドとを含むモノマー混合物を、下式(3)で表される触媒及び有機溶剤の存在下で反応させることを含み、
前記反応が、前記有機溶剤が還流する温度において実施される、電荷輸送性ポリマーの製造方法。
Ar-NH (1A)
Ar-NH-Ar-NH-Ar (1B)
Y-Ar-X-Ar-Y (2)
[式中、
Ar、Ar及びArは、それぞれ独立してアリール基を表し、
Ar及び、Ar及びArは、それぞれ独立してアリーレン基を表し、
Xは、単結合又は2価の連結基を表し、
Yはハロゲン原子を表す。]
[式中、
Rは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、
Lは、配位子を表し、
Zは、ハロゲン原子、メチルスルホニルオキシ基、トシル基、及びトリフルオロメチルスルホニルオキシ基からなる群から選択される1種の脱離基である。]
【請求項2】
前記触媒が、下式(3A)で表される触媒の少なくとも1種を含む、請求項1に記載の製造方法。
[式中、Rは、水素原子又は炭素数1~10アルキル基を表し、Zは、ハロゲン原子、又はメチルスルホニルオキシ基を表す。]
【請求項3】
前記触媒が、下式(3A-1)、(3A-2)、(3A-3)、又は(3A-4)で表される触媒の少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記反応が、大気雰囲気と連通する部位を有する反応容器内で実施される、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機エレクトロニクス材料として好適に使用できる電荷輸送性ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料を用いて電気的な動作を行う素子として、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)、有機光電変換素子、及び有機トランジスタ等の有機エレクトロニクス素子が知られている。なかでも、有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプ等の代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0003】
従来から、有機エレクトロニクス素子を構成するための有機エレクトロニクス材料に関する様々な検討が進められている。なかでも、有機EL素子の分野では、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、及びインクジェット等の無版印刷といった湿式プロセスによる簡易成膜が可能な電荷輸送性ポリマーの開発が進められている。
【0004】
電荷輸送性ポリマーの一例として、アリールアミンポリマーが広く知られており、特定の置換基を導入したポリマーの分子設計によって、有機EL素子の各種特性の向上を図ることが検討されている。アリールアミンポリマーの合成方法として、熊田カップリング、スティルカップリング、根岸カップリング、鈴木・宮浦カップリング、檜山カップリング、バックワルド・ハートウィッグ(Buchwald-Hartwig)反応等のカップリング反応を好適に用いることができる(特許文献1)。
【0005】
例えば鈴木・宮浦カップリング反応に見られるように、従来のカップリング反応の多くは、反応に先立ち、所望とする構造に対応する有機金属化合物を調製する必要があり、また、得られるアリールアミンポリマーは有機金属化合物に由来する不純物を含みやすい。これに対し、バックワルド・ハートウィッグ反応は、原料となるアリールアミン及びハロゲン化アリールの入手が容易であり、上記のような有機金属化合物に由来する不純物が生じないことから、電荷輸送性ポリマーの分子設計において有益である。
【0006】
バックワルド・ハートウィッグ反応では、代表的にパラジウム等の遷移金属を含有する触媒の存在下で、アリールアミンとハロゲン化アリールとを反応させることによって、新たなN-Ar(アリール)結合を形成することができる。そのため、アリールアミンとジハロゲン化アリールとの組合せによって、様々な構造を有するアリールアミンポリマーを容易に得ることが可能である。しかし、上記反応で使用する触媒は、酸素及び水分によって失活しやすい。そのため、上記反応を好適に実施するためには、窒素雰囲気を維持することができる装置を使用し、さらに脱気処理及び脱水処理した有機溶剤を使用する等の制約がある。
【0007】
一方、近年、直接アリール化反応による高分子化合物の製造方法が報告されている(特許文献2)。開示された製造方法によれば、窒素雰囲気下での実施、並びに脱気処理及び脱水処理した有機溶剤の使用といった制約なしに、電荷輸送性ポリマーとして好適に使用できる高分子化合物を得ることができる。
【0008】
しかし、上記直接アリール化反応では、芳香環のC-H結合を直接官能基化することでAr-Ar結合を形成する。そのため、原料として、芳香環に水素原子が結合している芳香族化合物と、芳香環にハロゲン原子が結合しているハロゲン化芳香族化合物とを使用しなければならない。したがって、使用可能な原料の観点から、上記直接アリール化反応によって製造可能なアリールアミンポリマーの構造は制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-105790号公報
【文献】特開2020-23625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機エレクトロニクス材料として好適に使用できる電荷輸送性ポリマーの開発に向けて、各種特性に優れた構造を有する電荷輸送性ポリマーを簡便に製造することができる方法が望まれている。しかし、上述のように、アリールアミンポリマーを製造する従来の方法では様々な制約がある。特に、バックワルド・ハートウィッグ反応を用いる方法は、様々な構造を有するアリールアミンポリマーの分子設計において有益であるが、触媒の種類、及び触媒の失活等によって所望とするポリマーを効率よく得ることが困難となりやすい。
【0011】
したがって、本発明の実施形態は、バックワルド・ハートウィッグ反応によって、アリールアミンポリマーを簡便かつ効率よく製造するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、バックワルド・ハートウィッグ反応を用いたアリールアミンポリマーの製造方法について鋭意検討を行い、特定のパラジウム含有触媒を使用し、有機溶剤が還流する温度において反応を実施することによって、所望とするアリールアミンポリマーを簡便かつ効率よく得ることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の実施形態は以下に関する。但し、本発明は以下の実施形態に制限されず、様々な実施形態を含む。
【0014】
一実施形態は、電荷輸送性ポリマーの製造方法に関し、製造方法は、下式(1A)及び下式(1B)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのアミンと、下式(2)で表されるジハライドとを含むモノマー混合物を、下式(3)で表される触媒及び有機溶剤の存在下で反応させることを含み、上記反応は上記有機溶剤が還流する温度において実施される。
【0015】
Ar-NH (1A)
Ar-NH-Ar-NH-Ar (1B)
Y-Ar-X-Ar-Y (2)
【0016】
【化1】
【0017】
式中、Ar、Ar及びArは、それぞれ独立してアリール基を表す。Ar及び、Ar及びArは、それぞれ独立してアリーレン基を表す。Xは、単結合又は2価の連結基を表す。Yは、ハロゲン原子を表す。
【0018】
また、式中、Rは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。Lは、配位子を表す。Zは、脱離基を表す。脱離基は、ハロゲン原子、メチルスルホニルオキシ基(-OSOCH)、トシル基(-OSOCH)、及びトリフルオロメチルスルホニルオキシ基(-OSOCF)からなる群から選択される1種である。
【0019】
上記製造方法において、上記触媒は、下式(3A)で表される触媒の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0020】
【化2】
【0021】
式中、Rは、水素原子又は炭素数1~10アルキル基を表す。Zは、ハロゲン原子、又はメチルスルホニルオキシ基を表す。
【0022】
上記製造方法において、上記触媒は、下式(3A-1)、(3A-2)、(3A-3)又は(3A-4)で表される触媒の少なくとも1種を含むことが好ましい。式中、-OMsは、メチルスルホニルオキシ基(-OSOCH)を表す。
【0023】
【化3】
【0024】
上記製造方法において、上記反応は、大気雰囲気と連通する部位を有する反応容器内で実施されることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本開示の製造方法によれば、バックワルド・ハートウィッグ反応を用い、簡便かつ効率よく、電荷輸送性ポリマーとして好適に使用できるアリールアミンポリマーを製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではない。
【0027】
一実施形態は、電荷輸送性ポリマーの製造方法に関し、触媒及び有機溶剤の存在下、有機溶剤が還流する温度において、第1級アミン又はジアミンと、ジハライドとのカップリング反応(バックワルド・ハートウィッグ反応)を実施し、アリールアミンポリマーを生成することを含む。
【0028】
より具体的には、原料として、下式(1A)及び下式(1B)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのアミンと、下式(2)で表されるジハライドとを含むモノマー混合物を使用する。
【0029】
Ar-NH (1A)
Ar-NH-Ar-NH-Ar (1B)
Y-Ar-X-Ar-Y (2)
式中、Ar、Ar及びArは、それぞれ独立してアリール基を表す。Ar及び、Ar及びArは、それぞれ独立してアリーレン基を表す。Xは、単結合又は2価の連結基を表す。Yは、ハロゲン原子を表す。
【0030】
また、触媒として、少なくとも、下式(3)で表される構造を有するパラジウム含有触媒を使用する。
【0031】
【化4】
【0032】
式中、Rは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。Lは、配位子を表す。Zは、脱離基を表す。脱離基は、ハロゲン原子、メチルスルホニルオキシ基(-OSOCH)、トシル基(-OSOCH)、及びトリフルオロメチルスルホニルオキシ基(-OSOCH)からなる群から選択される1種である。
【0033】
上記実施形態の製造方法によれば、上式(3)で表される構造を有する特定のパラジウム触媒を使用し、かつ有機溶剤が還流する温度において反応を実施することによって、上式(1A)及び上式(1B)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのアミンと、上式(2)で表されるジハライドとを含むモノマー混合物から形成される重合体を簡便かつ効率よく得ることができる。すなわち、上記実施形態の製造方法において、反応は、必ずしも窒素雰囲気下での実施を必要とせず、大気下で実施することもできる。そのため、反応時に窒素雰囲気を維持するための装置を使用する必要がなく、また脱気処理及び脱水処理した有機溶剤を使用する必要もない。一実施形態において、反応は、大気との連通部を有する反応容器を使用して実施することもできる。以下、上記実施形態の製造方法についてより具体的に説明する。
【0034】
(アミン)
上式(1A)及び(1B)において、アリール基(Ar、Ar、及びAr)は、炭素数6~30の芳香族炭化水素から水素原子を1個除いた原子団であって、後述する置換基を有してもよい。上記アリーレン基(Ar)は、炭素数6~30の芳香族炭化水素から水素原子を2個除いた原子団であって、後述する置換基を有してもよい。
【0035】
上記芳香族炭化水素は、ベンゼンのように単環であってもよく、ナフタレンのように環が互いに縮合した縮合環であってもよい。芳香族炭化水素は、例えば、ビフェニル、ターフェニル、トリフェニルベンゼンのように、独立した単環及び縮合環から選択される2個以上が結合した多環構造を有してもよい。芳香族炭化水素の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、フェナントレン、ビフェニル、ターフェニル、トリフェニルベンゼン等が挙げられる。
【0036】
一実施形態において、上記アリール基は、単環の芳香族炭化水素から水素原子を1個除いた原子団であることが好ましい。なかでも、上記アリール基は、フェニル基であることが特に好ましい。
【0037】
一実施形態において、上記アリーレン基は、単環の芳香族炭化水素、又は単環が2個以上結合した多環構造を有する芳香族炭化水素から水素原子を2個除いた原子団であることが好ましい。なかでも、上記アリーレン基は、フェニレン基、又はビフェニレン基であることが特に好ましい。
【0038】
一実施形態において、上式(1A)で表される第1級アミンは、下式(1A-1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0039】
【化5】
【0040】
式中、Rは、後述する置換基である。nは、0~5の整数であり、0~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。nが1の場合、上記置換基Rは、アミノ基が結合する部位を起点としてパラ位に存在することがより好ましい。また、nが2の場合、2つの置換基Rは、それぞれ、アミノ基が結合する部位を起点としてメタ位に存在することがより好ましい。
【0041】
一実施形態において、上式(1B)で表されるN,N-二置換のジアミンは、下式(1B-1)で表される化合物を含むことが好ましい。式中、R、nは、上式(1A-1)における先の説明と同様である。
【0042】
【化6】
【0043】
(ジハライド)
上式(2)において、アリーレン基(Ar、及びAr)は、先に式(1B)について説明したアリーレン基と同様である。
【0044】
Xは、単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基は、-C=C-、-N=N-、-O-、-S-、及び-CH-からなる群から選択される少なくとも1種である。一実施形態において、Xは、単結合、-C=C-、又は-N=N-であることが好ましい。
【0045】
ハロゲン原子(Y)は、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子であってよい。一実施形態において、ハロゲン原子は臭素原子であることが好ましい。
【0046】
一実施形態において、上記(2)で表されるジハライドは、下式(2A)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0047】
【化7】
【0048】
式中、Xは、単結合又は2価の連結基であり、2価の連結基は、-C=C-、-N=N-、-O-、-S-、及び-CH-からなる群から選択される少なくとも1種である。Yは、ハロゲン原子である。
【0049】
Rは、それぞれ独立して、後述する置換基である。nは、それぞれ独立して、0~4の整数であり、0~2であることが好ましく、0又は1であることがより好ましい。一実施形態において、上記ジハライドにおける、2つのハロゲン原子は、2つのベンゼン環の結合部位又は2価の連結基との結合部位を起点として、それぞれパラ位に位置することが好ましい。
【0050】
上記各式における置換基Rは、それぞれ独立して、炭素数1~22の直鎖、環状又は分岐のアルキル基、炭素数6~30のアリール基又は炭素数2~30のヘテロアリール基、あるいは後述する重合性官能基を表す。上記アリール基の詳細は、先に説明したとおりである。上記ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。
【0051】
置換基Rが上記アルキル基である場合、アルキル基は更に、炭素数6~20のアリール基又は炭素数2~20のヘテロアリール基により置換されていてもよい。また、置換基Rが上記アリール基又はヘテロアリール基である場合、これらは更に、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。
【0052】
一実施形態において、置換基Rは、それぞれ独立して、炭素数1~15の直鎖、環状又は分岐のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~8の直鎖、環状又は分岐のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~8の直鎖アルキル基がさらに好ましい。
【0053】
他の実施形態において、置換基Rは、上記アルキル基における少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基であってもよい。
【0054】
さらに他の実施形態において、置換基Rは、重合性官能基であることが好ましい。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、結合を形成し得る官能基を意味する。
【0055】
重合性官能基の具体例として、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、アクリレート基(アクリロイルオキシ基)、アクリロイルアミノ基、メタクリロイル基、メタクリレート基(メタクリロイルオキシ基)、メタクリロイルアミノ基、ビニルオキシ基、ビニルアミノ基等)、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。重合性官能基は、メチル基、エチル基等の置換基をさらに有してもよい。
【0056】
好ましい重合性官能基として、オキセタニル基、オキシラニル基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等が挙げられる。
【0057】
バックワルド・ハートウィッグ反応において使用するモノマー混合物において、上述のアミン及びジハライドの少なくとも一方が、上記重合性官能基を有する化合物である場合、上記反応後に得られるアリールアミンポリマーは重合可能となる。重合可能なポリマーは、湿式プロセスによる多層化が容易となる点で好ましい。
【0058】
上式(1A-1)で表される化合物の具体例として、以下が挙げられる。
【0059】
【化8】
【0060】
式中、nは、0~20の整数である。nの数は、反応後に得られるポリマーの溶解性に影響する。そのため、数が少ないと溶解性が低く、数が多いと精製溶媒への溶解性等に影響が生じやすい。このような観点から、nは、好ましくは1~15であり、より好ましくは2~12であり、さらに好ましくは4~8である。
【0061】
上式(2A)で表される化合物の具体例として以下が挙げられる。
【0062】
【化9】
【0063】
式中、Xは、先に説明した2価の連結基と同じである。一実施形態において、Xは、好ましくは-C=C-、又は-N=N-である。
【0064】
(アリールアミンポリマーの構造)
例えば、上式(1A)で表される第1級アミンと、上式(2)で表されるジハライドとを含むモノマー混合物の反応によって得られるアリールアミンポリマーは、下式(P1)で表される構造を含む。
【0065】
【化10】
【0066】
式中、nは1以上の整数である。-Arは上式(1A)で表される化合物(芳香族第1級アミン)に由来するアリール基である。-Ar-X-Ar-の部位は、上式(2)で表される化合物(芳香族ジハライド)に由来する基である。
【0067】
一実施形態において、上記反応時に使用するモノマー混合物は、上式(1A)及び上式(1B)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのアミンと、上式(2)で表されるジハライドの他に、NH末端処理剤(キャップ剤)として、下式(4)で表されるモノハライドをさらに含んでもよい。
【0068】
Ar-Y (4)
式中、Arは、アリール基を表し、Yはハロゲン原子を表し、それぞれ詳細は先に説明したとおりである。
【0069】
一実施形態において、上記モノハライドは、下式(4-1)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0070】
【化11】
【0071】
式中、Rは置換基を表し、nは0~5の整数である。置換基Rは、先に説明したとおりである。nは0~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましい。
【0072】
一実施形態において、上記バックワルド・ハートウィッグ反応におけるモノマー混合物が、上式(1A)で表される化合物と、上式(2)で表される化合物と、上式(4)で表される化合物を含む場合、ポリマーは、下式(P2)で表される構造を含む。
【0073】
【化12】
【0074】
式中、nは1以上の整数である。-Ar 及び-Ar-X-Ar-の部位は、式(P1)において説明したとおりである。-Arは、それぞれ独立して、上式(4)で表される化合物(芳香族モノハライド)に由来するアリール基である。
【0075】
上記製造方法によって得られるアリールアミンポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されない。一実施形態において、上記ポリマーのMwは、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、上記Mwは、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。上記ポリマーが上記範囲のMwを有する場合、優れた電荷輸送性を有するため、有機エレクトロニクス材料として好適に使用することができる。また、塗布液を調製するために使用する溶剤への溶解性に優れ、かつ優れた成膜性が得られる点でも好ましい。
【0076】
(触媒)
バックワルド・ハートウィッグ反応では、触媒として、代表的にパラジウムなどの遷移金属が使用される。バックワルド・ハートウィッグ反応で使用できる様々なパラジウム触媒が知られているが、本実施形態の製造方法では、少なくとも、上式(3)で表される「パラジウム含有触媒」を使用する。ここで「パラジウム含有触媒」とは、パラジウム触媒と配位子とを含む錯体化合物又は塩の形態であっても、あるいは上記錯体化合物又は塩を形成可能な、パラジウム含有触媒の前駆体と配位子又は配位子前駆体との組合せの形態であってもよい。
【0077】
上式(3)で表される「パラジウム含有触媒」は、フェニルエチルアミン又はビアリールアミン及びパラジウムによって環を形成する構造を有し、かつ嵩高い構造を有する配位子を含む。配位子の具体例として、トリアルキルホスフィン配位子、及びバックワルド配位子が挙げられる。一実施形態において、パラジウム含有触媒は、バックワルド配位子を含むことが好ましい。バックワルド配位子の具体例として、SPhos配位子、XPhos配位子、tBuXPhos配位子、BrretPhos配位子、JohnPhos配位子、DavePhos配位子などが挙げられる。バックワルド配位子は、電子が豊富であり、かさ高いジアルキルアリールホスフィン骨格を有する配位子であり、パラジウム触媒の反応性を容易に高めることができる。
【0078】
一実施形態において、パラジウム含有触媒として、下式(3A)で表される構造を有する触媒を好適に使用することができる。
【0079】
【化13】
【0080】
式中、Rは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は1~6が好ましく、1~3がより好ましい。Zは、ハロゲン原子、又はメチルスルホニルオキシド基を表す。
【0081】
一実施形態において、パラジウム含有触媒は、下式(3A-1)、(3A-2)、(3A-3)又は(3A-4)で表される触媒の少なくとも1種を含むことが好ましい。式中、-OMsは、メチルスルホニルオキシド基(-OSOCH)を表す。
【0082】
【化14】
【0083】
一実施形態において、好適に使用できるパラジウム含有触媒は、周知の方法にしたがって製造することが可能であるが、市販品として入手することも可能である。例えば、アルドリッチ株式会社製のXphosPdシリーズを使用することができ、なかでも上式(3A-1)~(3A-4)で表される触媒は、XphosPd G1、XphosPd G2、XphosPd G3、及びXphosPd G4として入手することができる。一実施形態において、上式(3A-2)及び(3A-4)で表される触媒をより好ましく使用することができ、これらは順にXphosPd G2、及びXphosPd G4として入手することができる。
【0084】
触媒の使用量は、特に限定されないが、原料として使用するアミンに対して、代表的に、0.1モル%以上、20モル%以下の範囲であってよい。触媒の使用量を上記範囲内に調整することによって、反応を効率良く進行させ、かつ副生成物の生成を抑制することが容易となる。一実施形態において、触媒の使用量は、原料として使用するアミンに対して、好ましくは0.1モル%~10モル%であってよく、より好ましくは0.1モル%~5モル%であってよく、さらに好ましくは0.2モル%~2モル%であってよい。本実施形態の製造方法によれば、触媒の使用量を少なくした場合でも、効率よく反応を進行させることが可能である。そのため、反応によって得られるポリマーにおいて、触媒に由来する不純物の量を減少することが容易となる。
【0085】
一実施形態において、パラジウム含有触媒は、さらに添加剤を含んでもよい。添加剤は、パラジウム金属に対して配位子として機能する化合物が好ましい。添加剤として使用できる化合物の具体例として、例えば、P(t-Bu)3・HBF3、PCy3・HBF3、Xphos(2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6'-トリイソプロピルビフェニル)等を使用することができる。なかでも、P(t-Bu)3・HBF3が好ましい。このような添加剤を使用した場合、パラジウム触媒の反応性がさらに向上する傾向がある。
【0086】
(塩基)
一実施形態において、パラジウム含有触媒は、塩基との組合せで使用されることが好ましい。塩基は、特に限定されず、無機塩基及び有機塩基のいずれであってもよい。特に限定されないが、一実施形態において、有機塩基が好ましく、t-ブトキシナトリウム、n-ブチルリチウム等の有機アルカリ金属化合物を好適に使用することができる。塩基の使用量は、特に限定されないが、原料として使用するアミンのモル数に対して、代表的に、1.0モル当量以上、4モル当量以下の範囲であってよい。塩基の使用量を上記範囲内に調整することによって、反応を効率良く進行させ、かつ副生成物の生成を抑制することが容易となる。
【0087】
(有機溶剤)
反応温度は、反応を進行させるのに十分な温度であれば特に限定されず、例えば、0~200℃の範囲であってよく、より好ましくは80~180℃の範囲であってよい。一方、上記実施形態の製造方法は、有機溶剤が還流する温度において反応を実施することから、好ましくは80℃~200℃、より好ましくは80~180℃の温度範囲で還流可能となる有機溶剤を使用することが好ましい。
【0088】
使用可能な有機溶剤(反応溶剤)の一例として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン及びエチルベンゼン等の芳香族炭化水素、アニソール等の芳香族エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、及びジメトキシエタン等の脂肪族エーテル、ジメチルスルホキシドが挙げられる。なかでも、一実施形態において、反応は、有機溶媒として芳香族炭化水素を使用し、芳香族炭化水素が還流する温度において実施することが好ましい。芳香族炭化水素のなかでも、溶剤のリサイクルが容易である観点から、トルエン及びキシレンが好ましく、トルエンがより好ましい。一実施形態において、反応は、有機溶剤としてトルエンを使用し、トルエンが還流する温度において実施することが好ましい。
【0089】
一般的に、パラジウム等の遷移金属を含む触媒を使用する反応は、触媒の失活を抑制するために、反応温度に関係なく、窒素雰囲気下で、脱気処理及び脱水処理した有機溶剤を使用して実施される。一方、上記実施形態の製造方法では、特定のパラジウム含有触媒を使用し、かつ有機溶剤が還流する温度において反応を実施することによって、窒素雰囲気の環境、また脱水処理及び脱気処理した有機溶剤の使用を必要とせずに、所望とするポリマーを簡便かつ効率よく得ることが可能となる。これは、理論によって拘束するものではないが、トルエン等の有機溶剤の還流下で反応を実施することで、有機溶剤中の溶存酸素のような触媒に悪影響を及ぼす成分が有機溶剤の沸騰により放出されるためと考えられる。さらに、トルエン等の蒸気が空気よりも重くなる有機溶剤では、反応容器内で反応液の液面上に有機溶剤の蒸気が滞留し、有機溶剤から放出された悪影響を及ぼす成分が有機溶剤に戻ることを抑制しているためと考えられる。
【0090】
原料として使用するモノマー混合物において、アミンとジハライドとの配合比は、特に限定されない。しかし、反応系内に未反応の原料が過剰に残存すると、望ましくない副反応が生じることがあるため、配合比は適切に調整することが好ましい。配合比は、使用するアミン及びジハライドの構造、及び所望とするアリールアミンポリマーの構造を考慮して、適切に調整することができる。
【0091】
一実施形態において、上記モノマー混合物に含まれる上式(1A)及び上式(1B)で表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つのアミンと、上式(2)で表されるジハライドとの配合比は、上記アミンのアミン当量数(分子中の活性水素当量)に対して、上記ジハライドのモル数が、0.5~1.5倍の範囲となることが好ましく、0.8~1.2倍の範囲がより好ましい。一実施形態において、上記モノマー混合物に含まれる上式(1A)で表される第1級アミンの1モルに対し、上記ジハライドの配合量は0.5~1.5モルが好ましく、0.8~1.2モルの範囲がより好ましい。一実施形態において、上記モノマー混合物に含まれる上式(1B)で表される第2級ジアミンの1モルに対し、上記ジハライドの配合量は0.5~1.5モルが好ましく、0.8~1.2モルの範囲がより好ましい。
【0092】
本実施形態の電荷輸送性ポリマーの製造方法は、上記反応で得たポリマーを分離精製する工程をさらに含んでよい。バックワルド・ハートウィッグ反応によって得られる生成物(ポリマー)には、反応時に使用した触媒及び原料モノマーなどの成分に由来する不純物が残存しやすい。そのため、ポリマーの分離精製を繰り返すことによって、電荷輸送性ポリマーとして好適に使用できる高純度のアリールアミンポリマーを得ることができる。
【0093】
ポリマーの分離精製は、当業者に周知の方法にしたがって実施することができる。例えば、ポリマーに分離精製用溶剤を加えて混合した後、ポリマーを回収することによって、ポリマー中に残存する不純物の量を効果的に低減することができる。ポリマーと分離精製用溶剤との混合後にポリマーを回収する方法は特に限定されず、当業者に周知の方法によって実施することができる。例えば、上記混合において得られる混合液を、分液、及びろ過等の方法に従い分離することによって、不純物を除去する一方で、ポリマーを回収することができる。一実施形態において、分離精製用溶剤としてクロロホルム等のハロゲン系溶剤を好適に使用することができる。他の実施形態において、分離精製用溶剤としてアニソール等の非ハロゲン系溶剤を好適に使用することもできる。
【実施例
【0094】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
【0096】
【化15】
【0097】
ジムロート冷却管、及び攪拌機能を備えた反応容器を準備し、さらに当該反応容器に対して相対的に進退自在にオイルバスを配置した。窒素置換した反応容器に、窒素を注入しながら以下の成分をそれぞれ投入し、ジムロート冷却管の先端に窒素ガス供給装置を接続し、窒素雰囲気の反応環境にした。
【0098】
原料モノマー:アミンモノマーA1(82.1mg、0.40ミリモル)、ジハライドモノマーB1(136.0mg、0.40ミリモル)
触媒:Xphos Pd G2(アルドリッチ株式会社製)、15.7mg(アミンモノマーA1を基準として5モル%の量)
有機溶剤(トルエン):窒素雰囲気下で保存した脱水トルエン、富士フイルム和光純薬株式会社製、2.0mL
塩基:NaOt-Bu(富士フイルム和光純薬株式会社製)、115.3mg(アミンモノマーA1を基準として3当量)
添加剤:P(t-Bu)3・HBF4(富士フイルム和光純薬株式会社製)、17.4mg(アミンモノマーA1を基準として15モル%の量)
次いで、反応容器内の有機溶剤が還流する温度までオイルバス(バス温度120℃)で加熱し、攪拌しながら24時間にわたってスキーム1に示す反応を実施した。
【0099】
上記反応後、反応容器内の反応混合物の温度を室温まで下げ、反応混合物中のトルエンを真空で蒸発させ、残渣の生成物(ポリマー)をクロロホルムで抽出した。次いで、抽出液をエチレンジアミン酢酸・2ナトリウム塩の水溶液(pH8)、1規定の塩酸水溶液、及び蒸留水をこの順で使用して抽出液の洗浄を行った。次いで、洗浄した抽出液をセライトろ過して不溶分を除去し、ろ過後の抽出液から溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を、クロロホルムに溶解し、メタノールを用いた再沈殿によって精製し、ヘキサンで洗浄し、減圧下乾燥を行い、ポリマー(赤色の粉体)を得た。
【0100】
ポリマーのプロトン核磁気共鳴(H-NMR)スペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は96%であり、重量平均分子量(Mw)は28,000、数平均分子量(Mn)は14,900であり、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0101】
なお、H-NMRスペクトルの測定は、Bruker社のAVANCE-600NMRスぺクトロメータを使用して実施した。また、Mnの測定は、島津製作所社製のProminence GPCシステムを使用して実施した。Mnの測定では、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法にしたがい、スチレンゲルのカラムを使用し、40℃にて標準ポリスチレンで更正した後に、溶離液としてクロロホルムを使用した。
【0102】
(実施例2)
ジムロート冷却管、及び攪拌機能を備えた反応容器を準備し、さらに当該反応容器に対して相対的に進退自在にオイルバスを配置した。窒素置換していない反応容器に、大気下で、実施例1と同様の成分を投入し、ジムロート冷却管の先端に塩化カルシウム管を取り付けた。次いで、反応容器内の有機溶剤が還流する温度までオイルバス(バス温度120℃)で加熱し、攪拌しながら24時間にわたって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で反応を実施したことを除き、全て実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0103】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(赤色の粉体)を得た。
【0104】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は95%であり、重量平均分子量(Mw)は27,100、数平均分子量(Mn)は13,600であり、分子量分布Mw/Mnは2.0であった。
【0105】
(実施例3)
実施例1で使用した添加剤(P(t-Bu)3・HBF4)をXphos(アルドリッチ株式会社製)28.6mg(アミンモノマーA1を基準として15モル%の量)に変更したことを除き、実施例1と同じ成分を使用し、実施例2と同様の方法にしたがって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で実施した。
【0106】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(赤色の粉体)を得た。
【0107】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は90%であり、重量平均分子量(Mw)は20,000、数平均分子量(Mn)は8,600であり、分子量分布Mw/Mnは2.3であった。
【0108】
(実施例4)
添加剤(P(t-Bu)3・HBF4)を使用しないことを除き、実施例1と同じ成分を使用し、実施例2と同様の方法にしたがって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で実施した。
【0109】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(赤色の粉体)を得た。ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は93% であり、重量平均分子量(Mw)は12,100、数平均分子量(Mn)は6,600であり、分子量分布Mw/Mnは1.8であった。
【0110】
(実施例5)
ジムロート冷却管、及び攪拌機能を備えた反応容器を準備し、さらに当該反応容器に対して相対的に進退自在にオイルバスを配置した。窒素置換していない反応容器に、大気下で、以下の成分を投入し、ジムロート冷却管の先端に塩化カルシウム管を取り付けた。
【0111】
原料モノマー:アミンモノマーA1(82.1mg、0.40ミリモル)、ジハライドモノマーB1(136.0mg、0.40ミリモル)
触媒:Xphos Pd G2(アルドリッチ株式会社製)、1.6mg(アミンモノマーA1を基準として0.5モル%の量)
有機溶剤(トルエン):窒素雰囲気下で保存した脱水トルエン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、2.0mL
塩基:NaOt-Bu(富士フイルム和光純薬株式会社製)、115.3mg(アミンモノマーA1を基準として3当量)
添加剤:P(t-Bu)3・HBF4(富士フイルム和光純薬株式会社製)、1.7mg(アミンモノマーA1を基準として1.5モル%の量)
次いで、反応容器内の有機溶剤が還流する温度までオイルバス(バス温度120℃)で加熱し、攪拌しながら24時間にわたって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流する温度において実施した。
【0112】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(赤色の粉体)を得た。
【0113】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は96%であり、重量平均分子量100,600、数平均分子量(Mn)は34,700であり、分子量分布Mw/Mnは2.9であった。
【0114】
(実施例6)
実施例5で使用した触媒(Xphos Pd G2)をXphos Pd G4(アルドリッチ株式会社製)1.7mg(アミンモノマーA1を基準として0.5モル%の量)に変更したことを除き、全て実施例5と同様にして、スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流する温度において実施した。
【0115】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(赤色の粉体)を得た。ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は93%であり、重量平均分子量(Mw)22,900、数平均分子量(Mn)は11,900であり、分子量分布Mw/Mnは1.9であった。
【0116】
(実施例7)
【0117】
【化16】
【0118】
ジムロート冷却管、及び攪拌機能を備えた反応容器を準備し、さらに当該反応容器に対して相対的に進退自在にオイルバスを配置した。窒素置換していない反応容器に、大気下で、以下の成分を投入し、ジムロート冷却管の先端に塩化カルシウム管を取り付けた。
【0119】
原料モノマー:アミンモノマーA2(59.7mg、0.40ミリモル)、ジハライドモノマーB2(124.0mg、0.40ミリモル)
触媒:Xphos Pd G2(アルドリッチ株式会社製)、1.6mg(アミンモノマーA2を基準として0.5モル%の量)
有機溶剤(トルエン):窒素雰囲気下で保存した脱水トルエン(富士フイルム和光純薬株式会社製)、2.0mL
塩基:NaOt-Bu(富士フイルム和光純薬株式会社製)、115.3mg(アミンモノマーA1を基準として3当量)
添加剤:P(t-Bu)3・HBF4(富士フイルム和光純薬株式会社製)、1.7mg(アミンモノマーA2を基準として1.5モル%の量)
次いで、反応容器内の有機溶剤が還流する温度までオイルバス(バス温度120℃)で加熱し、攪拌しながら24時間にわたって上記スキーム2に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流する温度において実施した。
【0120】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(淡い黄色の粉体)を得た。
【0121】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA2とジハライドモノマーB2との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は85%であり、重量平均分子量(Mw)15,800、数平均分子量(Mn)は8,700であり、分子量分布Mw/Mnは1.8であった。
【0122】
(実施例8)
窒素置換した反応容器に、窒素を注入しながら実施例7と同じ成分をそれぞれ投入し、ジムロート冷却管の先端に窒素ガス供給装置を接続し、窒素雰囲気の反応環境にした。これ以外は、実施例7と全て同様にして、上記スキーム2の反応を実施した。すなわち、反応は、窒素雰囲気下で、有機溶剤が還流する温度(バス温度120℃)において実施した。
【0123】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(淡い黄色の粉体)を得た。
【0124】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA2とジハライドモノマーB2との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は83%であり、重量平均分子量(Mw)12,400、数平均分子量(Mn)は7,100であり、分子量分布Mw/Mnは1.7であった。
【0125】
(比較例1)
実施例1で使用した触媒(Xphos Pd G2)をPd(OAc)2(東京化成工業株式会社製)4.5mg(アミンモノマーA2を基準として5モル%の量)に変更したことを除き実施例1と同じ成分を使用し、実施例1と同様の方法にしたがって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換された反応容器内で、有機溶剤が還流する温度において実施した。
【0126】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(赤色の粉体)を得た。
【0127】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA1とジハライドモノマーB1との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は23%であり、重量平均分子量4,800、数平均分子量(Mn)は3,500であり、分子量分布Mw/Mnは1.4であった。
【0128】
(比較例2)
実施例1で使用した触媒(Xphos Pd G2)をPdCl2(東京化成工業株式会社製)3.5mg(アミンモノマーA2を基準として5モル%の量)に変更したことを除き実施例1と同じ成分を使用し、実施例2と同様の方法にしたがって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流する温度において実施した。しかし、上記反応は進行せず、ポリマー収率は0%であった。
【0129】
(比較例3)
実施例1で使用した触媒(Xphos Pd G2)をPd2(dba)3(メルク株式会社製)7.3mg(アミンモノマーA2を基準として2モル%の量)に変更したことを除き実施例1と同じ成分を使用し、実施例2と同様の方法にしたがって上記スキーム1に示す反応を実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流する温度において実施した。しかし、上記反応は進行せず、ポリマー収率は0%であった。
【0130】
(比較例4)
実施例5で実施したスキーム1の反応を、有機溶剤が還流しない温度(バス温度100℃)において実施したことを除き、全て実施例5と同様にして実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流しない温度において実施した。しかし、上記反応は進行せず、ポリマー収率は0%であった。
【0131】
(比較例5)
実施例7で実施したスキーム2の反応を、有機溶剤が還流しない温度(バス温度100℃)において実施したことを除き、全て実施例7と同様にして実施した。すなわち、反応は、窒素置換を実施せず、また大気と連通する反応容器内で、有機溶剤が還流しない温度において実施した。しかし、上記反応は進行せず、ポリマー収率は0%であった。
【0132】
(参考例1)
実施例7で実施したスキーム2の反応を、窒素置換した反応容器内で、有機溶剤が還流しない温度において実施した。すなわち、窒素置換した反応容器に、窒素を注入しながら実施例7と同じ成分をそれぞれ投入し、ジムロート冷却管の先端に窒素ガス供給装置を接続し、窒素雰囲気の反応環境にした。次いで、反応容器内の有機溶剤が還流しないように温度を調整しながら(バス温度100℃)で加熱し、24時間にわたって反応を実施した。
【0133】
次いで、実施例1と同様の方法にしたがい、反応容器内の反応混合物から生成物を抽出し、さらに抽出液を洗浄、及び粗生成物を再沈殿により精製することによって、ポリマー(淡い黄色の粉体)を得た。
【0134】
ポリマーのH-NMRスペクトルを測定することによって、ポリマーはアミンモノマーA2とジハライドモノマーB2との重縮合によって得られる構造を有することを確認した。ポリマーの収率は81%であり、重量平均分子量(Mw)12,100、数平均分子量(Mn)は6,900であり、分子量分布Mw/Mnは1.8であった。
【0135】
実施例1~8、比較例1~5、及び参考例1の結果を表1に纏めて示す。
【0136】
【表1】
【0137】
表1に示した結果から、特定のパラジウム含有触媒を使用し、かつ有機溶剤が還流する温度において反応を実施した実施例1~8では、所望とするポリマーが高収率で得られることが分かる。また、例えば、実施例1と2との対比から分かるように、大気と連通する反応容器で反応を実施した場合であっても、窒素雰囲気下で実施した場合と同様の収率でポリマーが得られる。さらに、実施例5~8に見られるように、少ない触媒量であっても効率よく反応が進行することから、触媒に由来する不純物が少ないポリマーを容易に得ることが可能となる。そのため、本実施形態の製造方法は、簡便、かつ効率よく、高い純度が要求される電荷輸送性ポリマーを提供することが可能となる。