(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/18 20060101AFI20240131BHJP
G01J 5/00 20220101ALI20240131BHJP
G01N 25/02 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
G01N25/18 D
G01J5/00 101D
G01N25/02 B
(21)【出願番号】P 2020147075
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-06-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 鋳造工学第174回全国講演大会講演概要集、第74頁、公益社団法人日本鋳造工学会 令和01年09月10日発行 鋳造工学第174回全国講演大会、講演番号76番、福岡国際会議場 令和01年09月29日発表 日本銅学会第59回講演大会講演概要集、第141-142頁 一般社団法人日本伸銅協会 令和01年10月19日発行 日本銅学会第59回講演大会、関西大学千里山キャンパス100周年記念会館 令和01年10月20日発表 日本銅学会誌「銅と銅合金」第59巻、第360-364頁、一般社団法人日本伸銅協会 令和02年08月01日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】松下 彬
(72)【発明者】
【氏名】本山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】徳永 仁史
(72)【発明者】
【氏名】岡根 利光
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-323139(JP,A)
【文献】特開平07-005134(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0084517(US,A1)
【文献】特開昭61-219456(JP,A)
【文献】Hee-Soo KIM, In-Sung CHO, Je-Sik SHIN, Sang-Mok LEE, Byung-Moon MOON,Solidification Parameters Dependent on Interfacial Heat Transfer Coefficient between Aluminum Casting and Copper Mold,ISIJ International,2005年,Volume 45 Issue 2 ,192-198,https://www.jstage.jst.go.jp/article/isijinternational/45/2/45_2_192/_pdf/-char/en
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 25/18
G01J 5/00
G01N 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法であって、
モールド材からなり、測定面を有するモールド部材を準備し、
前記金属溶湯を前記モールド部材の前記測定面に一定時間接触させ、一定時間経過後に液相状態のままで排出し、
前記金属溶湯が前記測定面に一定時間接触して排出するまでの間の、前記モールド部材の測定面近傍の温度を測定し、
測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、前記金属溶湯と前記モールド材間の熱伝達率を算出することを特徴とする金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項2】
横軸に前記モールド部材の温度、縦軸に前記モールド部材の昇温速度としてグラフを作成し、前記モールド部材の温度変化と熱解析結果を比較することを特徴とする請求項1に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項3】
前記モールド部材の予熱温度を100℃以上とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項4】
前記モールド部材は溝部が形成された樋部材であり、前記樋部材を、長手方向の一方側が上方に位置するように傾斜して配置し、前記樋部材の一方側端部から前記溝部に前記金属溶湯を供給し、前記金属溶湯を凝固させずに前記溝部の長手方向の他方側から排出し、
前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に温度計を挿入して前記樋部材の温度を測定し、前記樋部材の温度変化と熱解析結果を比較することで、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を算出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項5】
前記温度計は、光ファイバー放射温度計であることを特徴とする請求項4に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項6】
前記光ファイバー放射温度計の先端の直径d1と前記測定凹部の直径d2との比d1/d2が0.3以上0.9以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項5に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項7】
前記溝部の長手方向に直交する断面において、前記溝部の側壁部の傾斜角度が3°以上20°以下の範囲内とされ、前記溝部の深さが10mm以上とされていることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項8】
前記測定凹部と前記溝部の底面との距離をg[mm]、前記モールド部材の熱伝導率をk[W/(m・K)]、測定された熱伝達率をh[W/(m
2・K)]としたとき、gh/kが5以下となるように、前記測定凹部の形状を調整して繰り返し測定を行うことを特徴とすることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれか一項に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項9】
前記金属溶湯を溶解保持したるつぼから、前記樋部材へ前記金属溶湯を供給する構成とされており、
前記るつぼの注ぎ口となる切り欠き部の幅および高さが、前記るつぼの側壁厚さの1/2倍以上前記るつぼの内径の1/4倍以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項4から請求項8のいずれか一項に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法。
【請求項10】
金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置であって、
モールド材からなり、測定面を有するモールド部材と、
このモールド部材の測定面近傍の温度を測定する温度測定手段と、
前記モールド部材の前記測定面に、前記金属溶湯を一定時間接触させ、かつ、一定時間経過後に液相状態のままで排出する金属溶湯供給手段と、
測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、前記金属溶湯と前記モールド材間の熱伝達率を算出する熱伝達率算出手段と、
を備えていることを特徴とする金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置。
【請求項11】
前記モールド部材は、溝部が形成された樋部材であり、
前記温度測定手段は、前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に挿入された温度計であることを特徴とする請求項10に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置。
【請求項12】
前記温度計は、光ファイバー放射温度計であることを特徴とする請求項11に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置。
【請求項13】
前記光ファイバー放射温度計の先端の直径d1と前記測定凹部の直径d2との比d1/d2が0.3以上0.9以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項12に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置。
【請求項14】
前記溝部の長手方向に直交する断面において、前記溝部の側壁部の傾斜角度が3°以上20°以下の範囲内とされ、前記溝部の深さが10mm以上とされていることを特徴とする請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相状態の金属溶湯とモールド材との間の熱伝達率を測定する金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の鋳造工程においては、金属溶湯の凝固状態を制御するために、溶融金属とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが求められている。
そこで、例えば、非特許文献1~4に開示されているように、溶融金属とモールド材間の熱伝達率を測定する方法が提案されている。
【0003】
非特許文献1~3においては、モールド材に金属溶湯を注湯し、モールド材の温度を熱電対によって測定し、数値解析結果と実測温度とを合わせこむことで、熱伝達率を測定している。
非特許文献4においては、断面積が小さく長さが長いモールド材に金属溶湯を鋳込み、金属溶湯の到達する長さ(流動長)を求め、Flemingsの式を用いて熱伝達率を測定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Solidification Parameters Dependent on Interfacial Heat Transfer Coefficient between Aluminum Casting and Copper Mold,ISIJ International、vol.45(2005),No.2,p192-198
【文献】A correlation to describe interfacial heat transfer coefficient during solidification of Al-Si alloy casting、Journal of Materials Processing Technology 212 (2012) p1856-1861
【文献】Thermal-Microstructural Analysis of Anodic and Electrolytic Copper Solidification: Simulation and Experimental Validation、The Minerals, Metals & Materials Society and ASM International 2011
【文献】FLUIDITY OF ALUMINUM ALLOYS、Flemings, M., Niyama, E., Taylor, H., 1961. Fluidity of aluminum alloys. AFS Trans., 69, 625-635.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非特許文献1~3に開示された熱伝達率の測定方法においては、金属溶湯の熱伝導率、僭熱、比熱、密度などの高温物性値が既知である必要があるが、これらの正確な値を入手することは非常に困難である。また、熱電対の応答性が悪いと精度良く熱伝達率を測定することができなかった。さらに、金属溶湯がモールド材内で凝固することから、液相状態での熱伝達率なのか固相状態での熱伝達率であるかを判断することができなかった。
また、非特許文献4に開示された熱伝達率の測定方法においては、柱状晶凝固する金属には適用できなかった。また、流動長は熱伝達率以外の外乱要因によって変動するため、熱伝達率を精度良く測定することができなかった。
【0006】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、液相状態の金属溶湯とモールド材との間の熱伝達率を精度良く、かつ、比較的容易に測定することが可能な金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法は、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法であって、モールド材からなり、測定面を有するモールド部材を準備し、前記金属溶湯を前記モールド部材の前記測定面に一定時間接触させ、一定時間経過後に液相状態のままで排出し、前記金属溶湯が前記測定面に一定時間接触して排出するまでの間の、前記モールド部材の測定面近傍の温度を測定し、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、前記金属溶湯と前記モールド材間の熱伝達率を算出することを特徴としている。
【0008】
この構成の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記金属溶湯を前記モールド部材の前記測定面に一定時間接触させ、一定時間経過後に液相状態のままで排出しているので、液相状態の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を測定することが可能となる。
そして、前記金属溶湯が前記測定面に一定時間接触して排出するまでの間の、前記モールド部材の測定面近傍の温度を測定し、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、前記金属溶湯と前記モールド材間の熱伝達率を算出する構成とされているので、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが可能となる。
【0009】
ここで、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、横軸に前記モールド部材の温度、縦軸に前記モールド部材の昇温速度としてグラフを作成し、前記モールド部材の温度変化と熱解析結果を比較することが好ましい。
この場合、前記モールド材の温度変化と熱解析結果を比較的容易に比較でき、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが可能となる。
【0010】
また、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記モールド部材の予熱温度を100℃以上とすることが好ましい。
この場合、前記モールド部材を100℃以上に予熱することで、水分を十分に除去することができ、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を安定して測定することができる。
【0011】
さらに、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記モールド部材は溝部が形成された樋部材であり、前記樋部材を、長手方向の一方側が上方に位置するように傾斜して配置し、前記樋部材の一方側端部から前記溝部に前記金属溶湯を供給し、前記金属溶湯を凝固させずに前記溝部の長手方向の他方側から排出し、前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に温度計を挿入して前記樋部材の温度を測定し、前記樋部材の温度変化と熱解析結果を比較することで、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を算出することが好ましい。
【0012】
この場合、樋部材を、長手方向の一方側が上方に位置するように傾斜して配置し、前記樋部材の一方側端部から前記溝部に前記金属溶湯を供給し、前記金属溶湯を凝固させずに前記溝部の長手方向の他方側から排出する構成としているので、金属溶湯が液相状態のままで樋部材を通過することになり、液相状態の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を測定することが可能となる。
また、前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に温度計を挿入して前記樋部材の温度を測定しているので、金属溶湯が通過した際の樋部材の温度変化を精度良く測定することが可能となる。
【0013】
ここで、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記温度計は、光ファイバー放射温度計であることが好ましい。
この場合、前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に光ファイバー放射温度計を挿入して前記樋部材の温度を測定しているので、金属溶湯が通過した際の樋部材の温度変化をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0014】
さらに、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記光ファイバー放射温度計の先端の直径d1と前記測定凹部の直径d2との比d1/d2が0.3以上0.9以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、光ファイバー放射温度計によって溝部の底面の温度を精度良く測定することができる。
なお、測定凹部の形状は円形に限定するものではなく、矩形その他の形状でもよい。そのときの直径d2は、その形状と同等の断面積をもつ円の直径とする。
【0015】
また、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記溝部の長手方向に直交する断面において、前記溝部の側壁部の傾斜角度が3°以上20°以下の範囲内とされ、前記溝部の深さが10mm以上とされていることが好ましい。
この場合、前記溝部の側壁部の傾斜角度が3°以上20°以下の範囲内とされ、前記溝部の深さが10mm以上とされているので、溝部内に前記金属溶湯を十分に充填させることができる。
【0016】
また、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記測定凹部と前記溝部の底面との距離をg[mm]、前記モールド部材の熱伝導率をk[W/(m・K)]、測定された熱伝達率をh[W/(m2・K)]としたとき、gh/kが5以下となるように、前記測定凹部の形状を調整して繰り返し測定を行うことが好ましい。
この場合、溝部を流れる金属溶湯による溝部の底面の温度変化を十分に測定することができ、熱伝達率が大きい場合であっても金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法においては、前記金属溶湯を溶解保持したるつぼから、前記樋部材へ前記金属溶湯を供給する構成とされており、前記るつぼの注ぎ口となる切り欠き部の幅および高さが、前記るつぼの側壁厚さの1/2倍以上前記るつぼの内径の1/4倍以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、加熱保持した高温状態の金属溶湯をるつぼから樋部材へと円滑に供給することができ、溝部内において金属溶湯を安定して流動させることができる。
【0018】
本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置は、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置であって、モールド材からなり、測定面を有するモールド部材と、このモールド部材の測定面近傍の温度を測定する温度測定手段と、前記モールド部材の前記測定面に、前記金属溶湯を一定時間接触させ、かつ、一定時間経過後に液相状態のままで排出する金属溶湯供給手段と、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、前記金属溶湯と前記モールド材間の熱伝達率を算出する熱伝達率算出手段と、を備えていることを特徴としている。
【0019】
この構成の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置によれば、モールド材からなり、測定面を有するモールド部材と、このモールド部材の測定面近傍の温度を測定する温度測定手段と、前記モールド部材の前記測定面に、前記金属溶湯を一定時間接触させ、かつ、一定時間経過後に液相状態のままで排出する金属溶湯供給手段と、を備えているので、液相状態の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を測定することが可能となる。
そして、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、前記金属溶湯と前記モールド材間の熱伝達率を算出する熱伝達率算出手段を備えているので、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが可能となる。
【0020】
ここで、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置においては、前記モールド部材は、溝部が形成された樋部材であり、前記温度測定手段は、前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に挿入された温度計であることが好ましい。
この場合、金属溶湯が液相状態のままで樋部材を通過することになり、液相状態の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を測定することが可能となる。また、温度計により、金属溶湯が通過した際の樋部材の温度変化を精度良く測定することが可能となる。
【0021】
また、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置においては、前記温度計は、光ファイバー放射温度計であることが好ましい。
この場合、前記樋部材の長手方向中央部かつ幅方向中央部において前記溝部の底面とは反対側に形成された測定凹部に光ファイバー放射温度計を挿入して前記樋部材の温度を測定しているので、金属溶湯が通過した際の樋部材の温度変化をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0022】
さらに、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置においては、前記光ファイバー放射温度計の先端の直径d1と前記測定凹部の直径d2との比d1/d2が0.3以上0.9以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、光ファイバー放射温度計によって溝部の底面の温度を精度良く測定することができる。
ここで、d1と前記測定凹部の直径d2との比d1/d2を0.9以下とする理由であるが、光ファイバーは、通常ファイバーの先端から、前方のある角度θ(開口数)の範囲で情報(この場合は輻射の信号)がインプットされる。また、本発明では、光ファイバーの先端部は、測定凹部の底面に接触するように配置、取り付けされるが、取り付けた際の状況で、若干の間隔が生じる場合がある。そのため、光ファイバーにインプットされる信号の範囲は、光ファイバーの径よりも大きくなる場合があり、穴の径が小さいと、穴の底部だけではなく、穴の側面の情報を拾ってしまう可能性があり、測定の誤差要因になる。今回の発明では、光ファイバーにインプットされる信号の範囲は、光ファイバーのおおむね、0~10%程度と算出されたので、d1/d2を0.9以下にすることが好ましい。
【0023】
また、本発明の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置においては、前記溝部の長手方向に直交する断面において、前記溝部の側壁部の傾斜角度が3°以上20°以下の範囲内とされ、前記溝部の深さが10mm以上とされていることが好ましい。
この場合、前記溝部の側壁部の傾斜角度が3°以上20°以下の範囲内とされ、前記溝部の深さが10mm以上とされているので、溝部内に前記金属溶湯を十分に充填させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、液相状態の金属溶湯とモールド材との間の熱伝達率を精度良く、かつ、比較的容易に測定することが可能な金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置の説明図である。
【
図4】樋部材の温度変化と熱解析結果を比較した結果を示すグラフである。
【
図5】るつぼの説明図である。(a)が側面断面図、(b)が上面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の一実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置について説明する。
【0027】
本実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置は、液相状態の金属溶湯とモールド材との間の熱伝達率を測定するものである。本実施形態では、金属溶湯を銅溶湯とした。
【0028】
本実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置は、モールド材からなり、測定面を有するモールド部材と、このモールド部材の測定面近傍の温度を測定する温度測定手段と、このモールド部材の測定面に、金属溶湯を一定時間接触させ、かつ、一定時間経過後に液相状態のままで排出する金属溶湯供給手段と、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を算出する熱伝達率算出手段と、を備えたものとされている。
また、本実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法は、上述の金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置を用いたものであり、金属溶湯が測定面に一定時間接触して排出するまでの間の、モールド部材の測定面近傍の温度を測定し、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を算出する構成とされている。
【0029】
本実施形態においては、
図1に示すように、モールド部材として、延在方向に直交する断面が逆台形形状となる溝部11が形成された樋部材10を準備し、この樋部材10を予熱した状態で、長手方向の一方側が上方に位置するように傾斜して配置し、金属溶湯1を溶解保持したるつぼ30から、樋部材10の一方側端部から溝部11に金属溶湯1を供給し、金属溶湯1を凝固させずに溝部11の長手方向の他方側から排出し、金属溶湯1が樋部材10を通過した際の溝部11の底面の温度変化を、樋部材10の長手方向中央部かつ幅方向中央部において溝部11の底面とは反対側に形成された測定凹部15に光ファイバー放射温度計20を挿入して測定する構成とされている。
なお、このとき、樋部材10の上方にも放射温度計40を配置しておき、金属溶湯1が測定凹部15に対応する領域を通過した時間を把握することが好ましい。
【0030】
そして、樋部材10の長手方向に直交する断面において二次元熱解析を行い、測定された樋部材10の温度変化と二次元熱解析の結果を比較して、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を算出することになる。
このとき、
図2に示すような、時間と溝部11の温度の関係を示す実測データが得られる。この実測データをもとに、
図4に示すように、横軸に樋部材10の温度、縦軸に樋部材10の昇温速度としてグラフを作成し、測定された樋部材10の温度変化と二次元熱解析の結果を比較することが好ましい。
【0031】
具体的には、金属溶湯が樋部材10を通過した際の溝部11の底面の温度測定結果から、
図2に示すようなグラフが得られる。
図2のデータをもとに、
図4に示すような横軸に溝部11の温度、縦軸に溝部11の昇温速度としてグラフを作成する。
また、
図3に示すモデルを用いて熱解析を行う。このとき、解析ソフトとして、例えば、Abaqus CAE ver. 6.16を用いることができる。なお、モールド材(樋部材10)の熱伝導率、密度、比熱は、レーザーフラッシュ法およびアルキメデス法によって600℃までの数値を取得し、熱解析に利用した。
そして、
図4に示すように、熱解析結果と実測データとを比較することにより、熱伝達率を算出する。
なお、熱伝達率を算出するための、熱解析結果と実測データとを比較する方法は、この限りにあらず、
図2に示すように、時間と溝部11の温度の関係を示す実測データと熱解析結果を比較することで、熱伝達率を算出することも可能である。また、同様に、時間と溝部11の昇温速度のグラフを作成して、熱解析結果と実測データとを比較することにより、熱伝達率を算出することも可能である。
【0032】
ここで、本実施形態において用いられるるつぼ30には、
図5に示すように、金属溶湯1を注ぎ出す切り欠き部31が形成されており、この切り欠き部31の幅Wおよび高さLが、るつぼ30の側壁厚さDの1/2倍以上、かつ、るつぼ30の内径rの1/4倍以下の範囲内とされている。
切り欠き部31の幅Wおよび高さLが、るつぼ30の側壁厚さDの1/2倍未満の場合には、金属溶湯1を円滑に注ぐことができないおそれがある。一方、切り欠き部31の幅Wおよび高さLが、るつぼ30の内径rの1/4倍を超える場合には、金属溶湯1が急激に流れ出てしまうおそれがある。このため、本実施形態では、上述のように、るつぼ30の切り欠き部31の幅Wおよび高さLを設定している。
【0033】
また、本実施形態において用いられる樋部材10は、
図6に示すように、長手方向に直交する断面において逆台形形状をなす溝部11の側壁部12の傾斜角度θを3°以上20°以下の範囲内に設定している。
長手方向に直交する断面において逆台形形状をなす溝部11の側壁部12の傾斜角度θが3°未満の場合には、溝部11内に金属溶湯1を安定して供給することができないおそれがある。一方、溝部11の側壁部12の傾斜角度θが20°を超えると溝部11の底面全体に金属溶湯1を満たすために多量の金属溶湯1が必要となる。このため、本実施形態では、上述のように、溝部11の側壁部12の傾斜角度θを設定している。
【0034】
また、本実施形態である樋部材10において、溝部11の深さvが10mm未満の場合には、金属溶湯1が溢れ出してしまうおそれがある。このため、本実施形態では、溝部11の深さvを10mm以上に設定している。
なお、溝部11の深さvの上限に特に制限はないが、金属溶湯1を供給時における湯流れの乱れを防止する観点から、溝部11の底面の幅wの3倍以下とすることが好ましい。
【0035】
また、本実施形態においては、光ファイバー放射温度計20の先端の直径d1と、溝部11の底面とは反対側に形成された測定凹部15の直径d2との比d1/d2が0.3以上0.9以下の範囲内とされている。
ここで、光ファイバー放射温度計20の先端の直径d1と、測定凹部15の直径d2との比d1/d2が0.3未満では、測定凹部15自体が温度測定に影響するおそれがある。一方、d1/d2が0.9を超えると、光ファイバー放射温度計20が測定凹部15以外の温度を測定してしまうおそれがある。このため、本実施形態では、上述のように、光ファイバー放射温度計20の先端の直径d1と、測定凹部15の直径d2との比d1/d2を設定している。
【0036】
そして、本実施形態においては、測定凹部15と溝部11の底面との距離をg[mm]、樋部材10の熱伝導率をk[W/(m・K)]、測定された熱伝達率をh[W/(m
2・K)]としたとき、gh/kが5以下となるように、測定凹部15の形状を調整して繰り返し測定を行う構成としている。具体的には、
図4のように熱伝達率hを算出した時点で、gh/kの値を確認し、gh/kが5を超えていた場合には、測定凹部15と溝部11の底面との距離gを変更した上で、再度、金属溶湯1を樋部材10に流し込み、温度測定を実施して熱伝達率hを算出する。
これにより、熱伝達率の値が大きい場合であっても、正確な測定が可能となる。
【0037】
このような測定をすることで熱伝達率hの値が大きい場合であっても、正確な測定が可能となる理由は以下のとおりである。
本実施形態では、金属溶湯1が樋部材10の測定凹部15を通過する際に、測定温度が短時間で急上昇するため、温度測定データにある一定の測定誤差が生じる。一方、測定された温度データから最初に決められる値は、溶湯モールド間の熱抵抗値とモールド(樋部材10)の熱抵抗値の合計である総括の熱伝抵抗値であり、溶湯モールド間の熱伝達率は、総括の熱伝抵抗値からモールド熱抵抗を減じた値である溶湯モールド間の熱抵抗値から求める。このとき、gh/kの値が5を超える場合、溶湯モールド間の熱抵抗がモールド熱抵抗の1/5以下となるので、溶湯モールド間の熱抵抗の値は前述した温度の測定誤差に埋没し、溶湯モールド間の熱抵抗を精度よく求めることができない。よって、測定の際にはgh/kの値は5以下であることが好ましい。
さらに、gh/kの値が1以下であれば、溶湯モールド間の熱抵抗の値とモールド熱抵抗と同等となるので、誤差の影響がほとんどなく、さらに好ましい。
なお、想定される熱伝達率hとモールド(樋部材10)の熱伝導率kに対して、最大のgの値を表1に示す。
【0038】
【0039】
ここで、本実施形態においては、溝部11の底面の幅wを5mm以上とすることが好ましい。このように溝部11の底面の幅wを広く設定することで、1次元平板伝熱として熱解析結果と容易に比較することが可能となる。
また、本実施形態においては、樋部材10の予熱温度を100℃以上とすることが好ましい。このように予熱温度を設定することで、樋部材10の水分を除去することが可能となる。
さらに、樋部材10の傾斜角度は、金属溶湯1が一定時間かけて流れるようにするために60°以下とすることが好ましい。なお、傾斜角度は、金属溶湯1の流速によって適宜選択することが好ましい。
なお、本実施形態においては、溝部11の内面において測定凹部15が形成されていない箇所については、BN等の離型剤を塗布しておくことが好ましい。これにより、金属溶湯1が樋部材10の中で凝固することを抑制することができる。
また、金属溶湯1の温度は、その金属の融点よりも200℃以上が好ましい。これにより、モールド(樋部材10)上で金属溶湯1を凝固させることなく溶湯を流し去ることが可能となる。
【0040】
さらに、本実施形態においては、光ファイバー放射温度計20の応答速度を1ms以下の範囲内とすることが好ましい。
特に、熱伝達率が大きい値をとる場合、測定温度は短時間で急激に上昇する。さらに、測定凹部15と溝部11の底面との距離gは、極力薄くする必要がある。熱伝達率を正確に測定するためには、金属溶湯1を溝部11上に通過させて温度が最高温度に到達するまでの時間(特性時間τとする)が、応答速度の最低でも100倍以上であること、すなわち、データが最低でも100点以上採取できることが精度よく熱伝達率を測定するために好ましい。例えば、最高温度として特性温度(金属溶湯1とモールド(樋部材10)の温度差が初期の1/e=27%に近づいたときの温度)とすると、特性時間は、簡便な近似解として以下の方程式を解くことで求められる。
【0041】
【0042】
ΔT(t)/ΔT0=exp(-Aτ)
A=H/c=H/ρcg
H=1/h+g/k
とすると、特性時間τeは、 Aτ=(H/ρcg) τ=-1となる時間なので
τe= ρcg/H=ρcgR=ρcg(1/h+g/k)
【0043】
ここで、g=4mmとし、想定される熱伝達率hを100kW/(m2・K)とし、モールド(樋部材10)の熱容量ρcを166kJ/mm3℃とすると、τe=0.12secとなる。すなわち、測定データ数は、120点となり、最大到達速度までのデータ数を100点以上確保する場合の応答速度は、1msが好ましいことがわかる。
【0044】
以上のような構成とされた本実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法、および、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定装置によれば、金属溶湯1をモールド部材の測定面に一定時間接触させ、一定時間経過後に液相状態のままで排出しているので、液相状態の金属溶湯1とモールド材間の熱伝達率を測定することが可能となる。
また、金属溶湯1が測定面に一定時間接触して排出するまでの間の、モールド部材の測定面近傍の温度を測定し、測定した温度変化と熱解析結果とを比較することで、金属溶湯1とモールド材間の熱伝達率を算出する構成とされているので、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが可能となる。
【0045】
そして、本実施形態においては、モールド材からなる樋部材10を予熱し、予熱した樋部材10を長手方向の一方側が上方に位置するように傾斜して配置し、樋部材10の一方側端部から溝部11に対して金属溶湯1を供給し、金属溶湯1を凝固させずに溝部11の長手方向の他方側から排出する構成としているので、金属溶湯1が液相状態のままで樋部材10を通過するため、液相状態の金属溶湯1と樋部材10(モールド材)間の熱伝達率を確実に測定することが可能となる。
【0046】
そして、金属溶湯1を溶解保持したるつぼ30の注ぎ口となる切り欠き部31の幅Wおよび高さLが、るつぼ30の側壁厚さDの1/2倍以上、かつ、るつぼ30の内径rの1/4倍以下の範囲内とされているので、加熱保持した高温状態の金属溶湯1をるつぼ30から樋部材10へと円滑に供給することができ、溝部11内において金属溶湯1を安定して流動させることができる。
【0047】
さらに、溝部11の長手方向に直交する断面において、溝部11の側壁部12の傾斜角度θが3°以上20°以下の範囲内とされ、溝部11の深さvが10mm以上とされているので、溝部11内に金属溶湯を十分に充填させることができる。
また、光ファイバー放射温度計20の先端の直径d1と測定凹部15の直径d2との比d1/d2が0.3以上0.9以下の範囲内とされているので、光ファイバー放射温度計20によって溝部11の底面の温度を精度良く測定することができる。
【0048】
そして、測定凹部15と溝部11の底面との距離をg[mm]、樋部材10の熱伝導率をk[W/(m・K)]、測定された熱伝達率をh[W/(m2・K)]としたとき、gh/kが5以下となるように、測定凹部15の形状を調整して繰り返し測定を行う構成としているので、溝部11を流れる金属溶湯1による溝部11の底面の温度変化を十分に測定することができ、熱伝達率の値が大きい場合であっても、金属溶湯とモールド材間の熱伝達率を精度良く測定することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施形態である金属溶湯とモールド材間の熱伝達率の測定方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態においては、モールド部材として溝部が形成された樋部材を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属溶湯をモールド部材の測定面に一定時間接触させ、一定時間経過後に液相状態のままで排出可能な構造であれば、他の形状のモールド部材であってもよい。
また、本実施形態では、温度計として、放射温度計を用いるものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の温度計を用いてもよい。
さらに、測定凹部15の形状は円形に限定するものではなく、矩形その他の形状でもよい。そのときの直径d2は、その形状と同等の断面積をもつ円の直径とする。
【符号の説明】
【0050】
10 樋部材(モールド部材)
11 溝部
12 側壁部
15 測定凹部
20 光ファイバー放射温度計(温度測定手段)
30 るつぼ
31 切り欠き部