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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/14 20060101AFI20240201BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20240201BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240201BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20240201BHJP
   B24B 41/04 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
B24B49/14
B23Q17/22 E
H01L21/78 F
B24B27/06 M
B24B41/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022202772
(22)【出願日】2022-12-20
(62)【分割の表示】P 2019018839の分割
【原出願日】2019-02-05
(65)【公開番号】P2023033302
(43)【公開日】2023-03-10
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】金城 裕介
【審査官】山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-128122(JP,A)
【文献】特開昭62-173147(JP,A)
【文献】特開平11-291142(JP,A)
【文献】特開2002-141307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 3/00-3/60,21/00-39/06,
41/00-51/00;
B23Q 17/22;
H01L 21/301,21/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動自在に設けられた移動部材と、
前記移動部材に支持されたスピンドルモータであって、前記移動部材の移動方向に沿って軸心が配置されたスピンドルを有し、前記スピンドルに加工手段が取り付けられるスピンドルモータと、
前記移動方向に沿って設けられたリニアスケールと、
前記移動部材と共に移動し、前記リニアスケールの値を読み取る検出器と、
前記移動方向における一端部が前記移動部材に固定され、且つ前記移動方向における前記一端部とは反対側の他端部に前記検出器が固定され、前記移動方向に熱膨張可能な熱膨張部材と、
を備え、
前記熱膨張部材は、前記スピンドルの熱膨張に伴う前記加工手段の前記移動方向の位置ずれ量に相当する分だけ前記移動方向に熱膨張可能である、加工装置。
【請求項2】
前記検出器の読み取り結果に基づいて、前記スピンドルの熱膨張に伴う前記加工手段の位置ずれ量がキャンセルされるように前記加工手段の前記移動方向の位置を制御する制御手段を備える、請求項1に記載の加工装置。
【請求項3】
前記スピンドルと前記熱膨張部材とが同一の温度となるように調整する温度調整装置を備える、請求項1又は2に記載の加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工装置に係り、特に半導体ウェーハ等のワークに対してブレードをインデックス方向に送りながらワークを切削加工するダイシング装置等の加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイシング装置は、半導体装置や電子部品が形成された半導体ウェーハ等のワークに対し、高速で回転するブレードを用いて切断又は溝入れ等の切削加工を行う。ダイシング装置では、ブレードが取り付けられたスピンドルのY軸方向のインデックス送りとZ軸方向の切込み送りと、ワークを載置したワークテーブルのX軸方向の研削送りとθ方向の回転とが実行されてワークをダイス状に切削加工する。
【0003】
このようなダイシング装置では、高精度な加工を行うためにブレードの現在位置がXYZの三次元座標として検出されている。その座標のうちY座標を検出する一例として、特許文献1には、Y軸リニアスケールと、Y軸リニアスケールの値を読み取る検出器(読み取りヘッド)とを備えたダイシング装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、スピンドルを冷却液によって冷却する冷却機能を備えたダイシング装置が開示されている。このダイシング装置によれば、エアベアリングを介してスピンドルを回転自在に保持するケーシングの内部に、前述の冷却液が供給される冷却系が配設されている。冷却液によってスピンドルを冷却することにより、加工時におけるスピンドルの昇温を抑制することができ、これによって、スピンドルの軸方向(Y軸方向)の熱膨張量を抑制することができるので、ブレードのY座標の誤差を抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-088028号公報
【文献】特開2002-141307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のダイシング装置では、スピンドルを冷却する冷却液がワークの加工時間の経過とともに昇温していくことから、スピンドルのY軸方向の熱膨張を効果的に抑制することができず、この結果、スピンドルがY軸方向に位置ずれするので、加工手段であるブレードのY座標に誤差が生じてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、スピンドルの軸方向における加工手段の位置を精度よく制御することができる加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の加工装置は、本発明の目的を達成するために、ベース部材と、ベース部材に移動自在に設けられた移動部材と、移動部材に支持されたスピンドルモータであって、移動部材の移動方向にスピンドルを有し、スピンドルに加工手段が取り付けられるスピンドルモータと、移動方向に沿って設けられたリニアスケールと、移動部材と共に移動し、リニアスケールの値を読み取る検出器と、一端部が移動部材に固定され、且つ他端部に検出器が固定され、一端部を第1基準位置として移動方向に熱膨張可能な熱膨張部材と、同一の冷却液でスピンドルと熱膨張部材とを冷却する冷却系と、を備える。
【0009】
本発明の一形態によれば、熱膨張部材は、移動方向を長手方向とする細長状の部材で構成されることが好ましい。
【0010】
本発明の一形態によれば、熱膨張部材の移動方向の長さは、スピンドルの熱膨張量に基づいて選定されることが好ましい。
【0011】
本発明の一形態によれば、熱膨張部材の材質は、スピンドルの熱膨張量に基づいて選定されることが好ましい。
【0012】
本発明の一形態によれば、熱膨張部材は、第1基準位置から検出器の固定位置までの単位温度当たりの熱膨張量が、スピンドルにおける第2基準位置から加工手段の取付位置までの単位温度当たりの熱膨張量と同等又は近似するように構成されることが好ましい。
【0013】
本発明の一形態によれば、加工手段は、ワークを研削加工するブレードであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、スピンドルの軸方向における加工手段の位置を精度よく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のダイシング装置の外観を示した斜視図
図2図1のダイシング装置の加工部の構成を示した斜視図
図3図2の加工部に設けられた位置検出装置の構造を示した説明図
図4図3に示した状態からスピンドルと熱膨張部材が熱膨張した説明図
図5】従来のダイシング装置のスピンドルが熱膨張した説明図
図6】比較例におけるY座標のブレード誤差量等の変化を示したグラフ
図7】実施形態におけるY座標のブレード誤差量等の変化を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明に係る加工装置の好ましい実施形態について説明する。なお、実施形態では、加工装置の一例であるダイシング装置を例示して説明する。
【0017】
図1は、実施形態のダイシング装置10の外観を示した斜視図である。
【0018】
図1に示すように、ダイシング装置10は、半導体ウェーハ等のワークWを加工する加工部12と、加工済みのワークWをスピン洗浄する洗浄部14と、多数枚のワークWを収納したカセットが載置されるロードポート16と、ワークWを搬送する搬送装置18とを備える。
【0019】
なお、本明細書では、3軸方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)の三次元直交座標系を用いて説明する。図1に示すX軸方向は水平方向であって、後述するXテーブル20(図2参照)の切削送り方向を指している。また、Y軸方向は、水平方向のうちX軸方向に直交する方向であって、後述するブレード22のインデックス送り方向を指している。更に、Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向であって、ブレード22の切り込み送り方向を指している。
【0020】
図2は、加工部12の構成を示した斜視図である。
【0021】
図2に示すように加工部12は、Xベース24の一対のXガイドレール26、26にガイドされたXテーブル20であって、リニアモータ28によってX軸方向に移動されるXテーブル20を有する。このXテーブル20上には、θ方向に回転する回転テーブル30を介してワークテーブル32が設けられている。
【0022】
ワークテーブル32は、一例として円盤状に構成されており、その上面には水平方向に平坦な吸着面34を備え、この吸着面34にワークW(図1参照)が真空吸着されて固定される。
【0023】
Xベース24の上方には、Xベース24を跨ぐようにYベース36が立設される。Yベース36の正面には、一対のYガイドレール38、38にガイドされた一対のYテーブル40、40であって、Y軸方向に移動自在な一対のYテーブル40、40が設けられる。このYテーブル40、40は、Yベース36に設けられた不図示のY軸駆動機構部によってY軸方向に移動される。なお、Yベース36は、本発明の構成要素であるベース部材の一例である。また、Yテーブル40は、本発明の構成要素である移動部材の一例である。
【0024】
Yテーブル40、40には、不図示のZ軸駆動機構部によってZ軸方向に駆動されるZテーブル44、44が設けられている。Zテーブル44、44には高周波モータ内蔵型のスピンドルモータ46、46がY軸方向において対向した状態で固定され、スピンドルモータ46、46のスピンドル48、48の先端にブレード22、22がY軸方向において対向した状態で固定されている。これらのスピンドルモータ46、46は、Zテーブル44、44を介してYテーブル40、40に支持されており、スピンドル48、48は、その軸心がYテーブル40、40の移動方向であるY軸方向に沿って配置されている。
【0025】
ブレード22は、一例として、ダイヤモンド砥粒又はCBN(cubic boron nitride)砥粒をニッケルで電着した電着ブレードを例示する。また、電着ブレードの他、金属粉末を混入した樹脂で結合したメタルレジンボンドのブレードも使用することができる。このブレード22は、スピンドル48によって、例えば、6000rpm~80000rpmで高速回転される。
【0026】
このように構成された加工部12によれば、ワークテーブル32はXテーブル20によってX軸方向に切削送りされるとともに回転テーブル30によってθ方向に回転される。そして、ブレード22、22は、Y軸駆動機構部によってY軸方向にインデックス送りされるとともにZ軸駆動機構部によってZ軸方向に切り込み送りされる。このような加工部12の動作によってワークWが碁盤目状に切削加工される。
【0027】
以下、ブレード22のY軸方向における現在位置(Y座標)を検出する位置検出装置50について、図3を参照して説明する。図3は、加工部12に設けられた位置検出装置50の構造を概略的に示した説明図である。
【0028】
図3に示すように、位置検出装置50は、リニアスケール52と検出器(読み取りヘッドとも言う。)54と、を備えている。リニアスケール52は、図2に示すように、Yベース36の正面にYガイドレール38、38に沿ってY軸方向に配設されている。すなわち、リニアスケール52は、スピンドルモータ46の移動方向であるY軸方向に沿って設けられている。
【0029】
図3に示すように、検出器54は、Yテーブル40の背面側にリニアスケール52に対向して設けられる。また、検出器54は、後述する熱膨張部材56を介してYテーブル40に設けられている。検出器54は、Yテーブル40のY軸方向の移動と共にリニアスケール52に沿って移動する。検出器54は、Y軸方向の移動中にリニアスケール52の値を読み取り、例えば、1μm毎に1パルスのパルス信号をダイシング装置10の不図示の制御装置に送信する。そして、制御装置は、入力したパルス信号をカウントすることにより、ブレード22の現在位置をY座標として検出する。これにより、ブレード22のY軸方向における現在位置を検出することができる。なお、リニアスケールと検出器とからなる位置検出装置は既知の構成なので、その詳細な説明は省略する。
【0030】
一方、図3に示すように、スピンドルモータ46には、冷却系60が接続されている。冷却系60は、図3の太線で簡易的に示すように、冷却液が矢印に沿って流れる管路を有し、この管路の一部がスピンドルモータ46の内部に配設されている。また、冷却系60はポンプ62を有しており、このポンプ62によって冷却液が管路を介してスピンドルモータ46に供給される。なお、冷却系60として、スピンドルモータ46の内部を冷却するための構成としては特に限定されるものではないが、例えば、特開2002-141307号公報等に開示された構成を採用することができる。
【0031】
次に、熱膨張部材56について説明する。この熱膨張部材56は、本発明の構成要素である熱膨張部材の一例である。
【0032】
熱膨張部材56は、スピンドルモータ46の移動方向であるY軸方向を長手方向Aとする細長状の部材で構成される。この熱膨張部材56は、図3の右端56Aに検出器54が固定され、左端56BがYテーブル40の背面に固定部材64によって固定されている。すなわち、熱膨張部材56は、左端56Bを第1基準位置としてY軸方向に熱膨張可能に構成される。
【0033】
ここで、実施形態における熱膨張部材56は、スピンドル48の熱膨張による影響(ブレード22のY軸方向の位置ずれ)をキャンセルするために、以下のように構成されている。
【0034】
すなわち、熱膨張部材56は、第1基準位置である左端56Bから検出器54の固定位置である右端56Aまでの単位温度当たりの熱膨張量が、スピンドル48における第2基準位置からブレード22の取付位置である右端48Bまでの単位温度当たりの熱膨張量と同等又は近似する条件(以下、「熱膨張部材条件」という。)を満たすように構成される。具体的には、熱膨張部材56におけるY軸方向の長さ(左端56Bから右端56Aまでの長さ)L及び材質が、スピンドル48の熱膨張量に基づいて選定されている。なお、スピンドル48の第2基準位置とは、スピンドル48が熱膨張する際の熱膨張量を特定するために基準となる位置である。実施形態では、一例として、スピンドル48の左端48Aが第2基準位置となっている。
【0035】
例えば、スピンドル48の特性(冷却液1℃当たりのY軸方向の熱膨張量)が10μm/℃であり、且つ、熱膨張部材56の材質として、JIS規格(G4304:2015)で規定するSUS303(線膨張係数:17.3×10-6/℃)を用いる場合には、熱膨張部材56のY軸方向の長さLは、スピンドル特性(10μm/℃)をSUS303の線膨張係数(17.3×10-6/℃)で除算した値となる。すなわち、熱膨張部材56のY軸方向の長さLは0.58mとなる。このように熱膨張部材56の材質としてSUS303を選定した場合には、熱膨張部材56のY軸方向の長さLが0.58mのものを採用することにより、熱膨張部材条件を満たすことができる。なお、熱膨張部材56の長さに制約がある場合には、熱膨張部材56の材質を変更することで熱膨張部材条件を満たすように構成することも可能である。また、熱膨張部材条件における「近似」とは、スピンドル48の熱膨張量に対する、スピンドル48の熱膨張量と熱膨張部材56の熱膨張量との差分(絶対値)の割合(以下、「熱膨張量割合」という。)が30%以内(好ましくは20%以内)であることをいう。また、熱膨張部材条件における「同等」とは、熱膨張量割合が10%以内のことをいう。
【0036】
また、実施形態では、上述した熱膨張部材56の構成に加え、更に、同一の冷却液でスピンドル48と熱膨張部材56とを冷却する冷却系60を備えている。すなわち、熱膨張部材56は、図3に示すように、冷却系60を介してスピンドルモータ46に連結されている。
【0037】
図4は、図3に示した状態から、スピンドル48と熱膨張部材56が共にY軸方向に熱膨張した状態を二点鎖線で示した説明図である。図4に示すように、実施形態においては、冷却系60によってスピンドル48と熱膨張部材56とに同一の冷却液を循環させることにより、熱膨張部材56の温度は、スピンドル48の温度と略同一の温度に保たれる。そして、実施形態では、上述したように熱膨張部材56は熱膨張部材条件を満たすように構成されている。そのため、スピンドル48と熱膨張部材56の双方の熱膨張量が略同一なものとなる。これにより、スピンドル48の熱膨張によってブレード22がY軸方向に位置ずれした場合でも、その位置ずれ量に相当する量だけ熱膨張部材56が熱膨張し、この熱膨張部材56の熱膨張によって、熱膨張部材56の先端部(右端56A)に固定された検出器54の位置もY軸方向にシフトされた状態となる。すなわち、検出器54は、スピンドル48の熱膨張に伴う検出器54の位置ずれ量に相当する分だけY軸方向にシフトした位置となる。
【0038】
したがって、実施形態においては、Y軸方向にシフトした状態の検出器54でリニアスケール52の値を読み取り、その読み取り結果に基づいてブレード22の位置を制御する。これにより、ブレード22の位置は、検出器54がY軸方向にシフトした量(すなわち、スピンドル48の熱膨張に伴うブレード22のY軸方向の位置ずれ量)に相当する分だけ位置ずれ方向とは反対側にオフセットされることになる。このように実施形態では、スピンドル48の熱膨張を積極的に利用して、スピンドル48の熱膨張に伴うブレード22のY軸方向の位置ずれ量に相当する分だけ検出器54の位置をシフトさせることにより、スピンドル48の熱膨張による影響を効果的にキャンセルすることができ、ブレード22の位置を精度良く制御することが可能となる。
【0039】
ここで、実施形態と対比する比較例について図5を参照して説明する。図5は、比較例としての加工部100の構造を概略的に示した説明図である。なお、加工部100を説明するに当たり、図3及び図4に示した加工部12の構成と同一若しくは類似の部材については同一の符号を付してその説明は省略する。
【0040】
図5に示すように、比較例における検出器54は、実施形態の熱膨張部材56に比べて短尺である直方体形状のブロック102を介してYテーブル40に固定されている。ブロック102は、実施形態の熱膨張部材56を形成する材質よりも熱膨張係数が小さい材質で形成されている。また、比較例における冷却系104は、ブロック102には冷却液を供給しておらず、スピンドル48のみに冷却液を供給する構成となっている。
【0041】
このように構成された比較例によれば、スピンドル48が熱膨張すると、その熱膨張に伴ってブレード22がY軸方向に位置ずれする。このとき、ブロック102は、スピンドル48の熱膨張の影響を受けることがないので、実施形態とは違って、検出器54の位置がY軸方向にシフトされることはない。そのため、検出器54でリニアスケール52の値を読み取り、その読み取り結果に基づいてブレード22の位置を制御しようとすると、スピンドル48の熱膨張による影響を直接受けて、上述したようなブレード22の位置ずれが発生する。そのため、比較例においては、ブレード22の位置を精度よく制御することは困難である。
【0042】
次に、図5に示した比較例の加工部100と図3に示した実施形態の加工部12の実験結果について、図6及び図7に示すグラフを参照して説明する。なお、図6のグラフが比較例の実験結果であり、図7のグラフが実施形態の加工部12の実験結果である。
【0043】
図6に示すグラフは、横軸が加工時間の経過時間(分)を示し、左側の縦軸が温度(℃)を示し、右側の縦軸がブレード誤差量(μm)を示している。このブレード誤差量とは、ブレード22の実際のY座標と、検出器54等によって検出されたブレード22のY座標との誤差量である。また、図6のグラフでは、比較例における冷却液の温度変化がラインIで示され、ブロック102の温度変化がラインIIで示され、スピンドル48の温度変化がラインIIIで示され、ブレード誤差量の変化がラインIVで示されている。
【0044】
図6のラインIIで示すように、比較例では、加工時間が経過するにつれて、スピンドル48の温度が徐々に上昇し(ラインIII)、それに追従するように冷却液の温度も徐々に上昇している(ラインI)。一方、ブロック102には冷却液が供給されていないため、ブロック102の温度は、スピンドル48及び冷却液の温度上昇の影響を受けずに略一定である(ラインII)。そのため、比較例では、スピンドル48の熱膨張による影響を直接受けてしまい、スピンドル48の熱膨張に伴ってブレード22がY軸方向に位置ずれし、その位置ずれ量に相当するブレード誤差量が加工時間の経過とともに増加していく(ラインIV)。したがって、比較例では、スピンドル48の軸方向におけるブレード22の位置を精度よく制御することが困難である。
【0045】
一方、図7のグラフでは、実施形態における冷却液の温度変化がラインVで示され、熱膨張部材56の温度変化がラインVIで示され、スピンドル48の温度変化がラインVIIで示され、ブレード誤差量の変化がラインVIIIで示されている。なお、図7のグラフの横軸、左側の縦軸及び右側の縦軸は、図6のグラフと同一である。
【0046】
実施形態では、図7に示すように、加工時間の経過につれて、スピンドル48の温度が徐々に上昇すると(ラインVII)、それに追従するように冷却液の温度も徐々に上昇し(ラインV)、さらに熱膨張部材56の温度も徐々に上昇していく(ラインVI)。すなわち、加工中においては、熱膨張部材56の温度は、スピンドル48の温度と略同一の温度に保たれている。したがって、上述したように、検出器54は、スピンドル48の熱膨張に伴うブレード22のY軸方向の位置ずれ量に相当する分だけシフトした位置となるため、スピンドル48の熱膨張による影響を受けることなく、ブレード誤差量を、上述した比較例と比較して大幅に低減することができる。したがって、実施形態では、スピンドル48の熱膨張による影響を効果的にキャンセルすることができるので、スピンドル48の軸方向におけるブレード22の位置を精度よく制御することができる。
【0047】
以上の如く、実施形態のダイシング装置10によれば、検出器54が固定される熱膨張部材56が熱膨張部材条件を満たすように構成し、且つスピンドル48と熱膨張部材56とが同一の温度となるようにした構成を備えたことにより、スピンドル48の熱膨張による影響を効果的にキャンセルすることができるので、スピンドル48の軸方向におけるブレード22の位置を精度よく制御することが可能となる。
【0048】
また、上記の構成を採用することにより、冷却液の温度を一定に制御する温調チラーを不要にすることも可能となる。この場合、温調チラーの設置スペースの確保や温調チラーのランニングコストがかさむという問題も解消することができる。なお、冷却系60は、温調チラーを備えていてもよい。
【0049】
また、実施形態では、好ましい態様として熱膨張部材56を細長状の部材で構成したが、スピンドル48の熱膨張量と同程度となる熱膨張量をもつ部材であれば特に限定されるものではない。また、熱膨張部材56の長手方向(Y軸方向)Aに直交する断面は、矩形状に限らず、円形状や多角形状であってもよい。ただし、熱膨張部材56を細長状の部材で構成することにより、温度変化に伴う熱膨張部材56の熱膨張量の制御が容易になるという利点がある。
【0050】
また、熱膨張部材56に冷却系60を備える形態としては、熱膨張部材56の内部に冷却系60を貫通させて配設する形態であってもよく、また、熱膨張部材56の外表面に冷却系60を固着する形態であってもよい。また、冷却系60としては、図3及び図4で示したように、スピンドル48と熱膨張部材56とを直列的に連結する構成に限らず、並列的に連結する構成であってもよい。
【0051】
更に、実施形態では、ブレード22のY座標を検出するリニアスケール52と検出器54を備えたダイシング装置10を例示したが、ダイシング装置10以外の加工装置であっても本発明を適用することができる。例えば、ブレードやドリル等の加工手段を備えた加工装置において、その加工手段の座標を検出する検出装置としてリニアスケール52と検出器54を備えたものであれば、本発明を適用可能である。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0053】
10…ダイシング装置、12…加工部、14…洗浄部、16…ロードポート、18…搬送装置、20…Xテーブル、22…ブレード、24…Xベース、26…Xガイドレール、28…リニアモータ、30…回転テーブル、32…ワークテーブル、34…吸着面、36…Yベース、38…Yガイドレール、40…Yテーブル、44…Zテーブル、46…スピンドルモータ、48…スピンドル、50…位置検出装置、52…リニアスケール、54…検出器、56…熱膨張部材、60…冷却系、62…ポンプ、64…固定部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7