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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 163/00 20060101AFI20240201BHJP
   C10M 159/18 20060101ALN20240201BHJP
   C10M 159/20 20060101ALN20240201BHJP
   C10M 129/70 20060101ALN20240201BHJP
   C10M 135/18 20060101ALN20240201BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240201BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240201BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20240201BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240201BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20240201BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240201BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C10M163/00
C10M159/18
C10M159/20
C10M129/70
C10M135/18
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N10:12
C10N30:00 Z
C10N30:04
C10N30:06
C10N40:25
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019168789
(22)【出願日】2019-09-17
(65)【公開番号】P2021046472
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大木 啓司
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/189057(WO,A1)
【文献】特開2013-072060(JP,A)
【文献】特開2006-328265(JP,A)
【文献】特開2010-047667(JP,A)
【文献】特開2014-152301(JP,A)
【文献】特開平07-062371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、下記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び下記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)から選択される1種以上の芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)と、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)と、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)と、を含有する潤滑油組成物であり、
【化1】

[前記一般式(I)中、x及びyは、それぞれ1≦x≦3、1≦y≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。x≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。y≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】

[前記一般式(II)中、m、n、о、及びpは、それぞれ1≦m≦2、0≦n≦2、2≦(m+n)≦4、1≦о≦3、1≦p≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。о≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。p≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
前記芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.5質量%以上であり、
前記塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%以上であり、
カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満であり、
硫酸灰分が0.3質量%以下であり、
リン原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.040質量%以下であり、
ガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を備え、過給機を搭載した、直噴の内燃機関に用いられる、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
塩基価が200mgKOH/g未満であるカルシウム系清浄剤(D2)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%未満である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記カルシウム系清浄剤(D2)由来のカルシウム原子(CaD2)と前記カルシウム系清浄剤(D1)由来のカルシウム原子(CaD1)との含有量比[CaD2/CaD1]が、質量比で、0.31未満である、請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)(C2)に由来するMo原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満である、請求項1~4のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)(C2)に由来するMo原子(MoC2)と前記塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子(MoC1)との含有量比[MoC2/MoC1]が、質量比で、1.0未満である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)(E)を更に含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ターボチャージャー等の過給機を搭載した直噴ガソリンエンジン(ダウンサイジングエンジン)の開発が急ピッチで進んでいる。ガソリンエンジンの直噴化は、燃費向上のメリットがある一方で、ディーゼルエンジンと同様に排ガス中に含まれる粒子状物質(PM)等のスーツが発生するデメリットがある。そのため、排ガス浄化触媒に加えて、さらにガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を備える排ガス処理装置を装着した直噴ガソリンエンジンが普及する傾向にある。
このような排ガス処理装置に対して、潤滑油組成物が悪影響を及ぼす可能性が懸念されている。具体的には、金属系清浄剤を含む潤滑油組成物を用いる場合、金属系清浄剤由来の金属分によって、前記フィルターが閉塞する可能性が懸念される。そのための対策として、潤滑油組成物の硫酸灰分を低減することが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硫酸灰分量が0.7質量%以下になるようにカルシウム系清浄剤を配合した内燃機関用の潤滑油組成物が開示されている。また、前記排ガス浄化触媒の被毒を抑制する観点から、潤滑油組成物には、リン分を低減することも求められている。
つまり、潤滑油組成物には、硫酸灰分の低減だけでなく、リン分の低減も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-256690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討した結果、硫酸灰分とリン分とを低減した潤滑油組成物は、過給機を搭載した直噴ガソリンエンジンにおいて、低速運転時の低速プレイグニッション(Low-Speed Pre-Ignition。以下、「LSPI」と称する。)を引き起こす懸念があることがわかった。LSPIは、低速運転状態において、設定された点火時期よりも早く着火してしまう現象であり、該着火を起因としてエンジンシリンダー内で異常燃焼が起こることがある。LSPIの発生は、燃費向上に悪影響を与える要因や、エンジンの故障を引き起こす要因となることがある。そこで、LSPIの発生を抑制することのできる潤滑油組成物を提供することが急務であると考えられる。
【0006】
また、排ガス処理装置を長寿命とする観点から、潤滑油組成物の硫酸灰分をさらに低減することも求められている。しかし、潤滑油組成物の硫酸灰分をさらに低減させると、高温清浄性の確保が難しくなる。
【0007】
さらに、潤滑油組成物には、高温清浄性だけでなく、摩擦係数の低減も求められる。しかし、本発明者が検討した結果、高温清浄性を良好なものとしながらも、摩擦係数を低減することは、困難であることがわかった。
【0008】
本発明は、低硫酸灰分及び低リン分としながらも、LSPIの発生を抑制することができ、しかも、高温清浄性を良好なものとしながらも、摩擦係数を低減することのできる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者は鋭意検討した。その結果、リン分を低減しつつも、一定量以上のリン分を含有する潤滑油組成物が、LSPIの発生を抑制することを知見するに至った。
本発明者はさらに鋭意検討した結果、特定のカルシウム系清浄剤を含有すると共に、特定の芳香族カルボン酸エステル誘導体を特定量含有する潤滑油組成物が、0.3質量%以下という低い硫酸灰分であっても、高温清浄性が良好であることを知見するに至った。加えて、特定のモリブデン化合物を特定量含有する潤滑油組成物が、高温清浄性を悪化させることなく、摩擦係数を効果的に低減し得ることを知見した。
これらの知見に基づき、本発明者はさらに鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記[1]~[10]を提供する。
[1] 基油(A)と、下記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び下記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)から選択される1種以上の芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)と、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)と、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)と、を含有する潤滑油組成物であり、
【化1】

[前記一般式(I)中、x及びyは、それぞれ1≦x≦3、1≦y≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。x≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。y≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
【化2】

[前記一般式(II)中、m、n、о、及びpは、それぞれ1≦m≦2、0≦n≦2、2≦(m+n)≦4、1≦о≦3、1≦p≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。о≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。p≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
前記芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.5質量%以上であり、
前記塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%以上であり、
カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満であり、
硫酸灰分が0.3質量%以下であり、
リン原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.040質量%以下である、潤滑油組成物。
[2] 前記カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満である、前記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 塩基価が200mgKOH/g未満であるカルシウム系清浄剤(D2)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%未満である、前記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記カルシウム系清浄剤(D2)由来のカルシウム原子(CaD2)と前記カルシウム系清浄剤(D1)由来のカルシウム原子(CaD1)との含有量比[CaD2/CaD1]が、質量比で、0.31未満である、前記[3]に記載の潤滑油組成物。
[5] ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)(C2)に由来するMo原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満である、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[6] 前記ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)(C2)に由来するMo原子(MoC2)と前記塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子(MoC1)との含有量比[MoC2/MoC1]が、質量比で、1.0未満である、前記[5]に記載の潤滑油組成物。
[7] ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)(E)を更に含む、前記[1]~[6]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[8] 内燃機関に用いられる、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[9] ガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を備える内燃機関に用いられる、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
[10] 過給機を搭載した直噴の内燃機関に用いられる、前記[9]に記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低硫酸灰分及び低リン分としながらも、LSPIの発生を抑制することができ、しかも、高温清浄性を良好なものとしながらも、摩擦係数を低減することのできる潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることができる。同様に、本明細書中において、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「未満」、「超」の数値は任意に組み合わせできる数値である。
【0013】
[潤滑油組成物]
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)と、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)と、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)と、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)と、を含有する潤滑油組成物であって、
前記芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)は、下記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び下記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)から選択される1種以上であり、
【化3】

[前記一般式(I)中、x及びyは、それぞれ1≦x≦3、1≦y≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。x≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。y≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
【化4】

[前記一般式(II)中、m、n、о、及びpは、それぞれ1≦m≦2、0≦n≦2、2≦(m+n)≦4、1≦о≦3、1≦p≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。о≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。p≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
前記芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.5質量%以上であり、
前記塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%以上であり、
カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満であり、
硫酸灰分が0.3質量%以下であり、
リン原子の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.040質量%以下である、潤滑油組成物である。
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者が鋭意検討した結果、潤滑油組成物中のリン分を低減させ過ぎるとLSPIが発生する恐れがある一方、リン原子の含有量が前記潤滑油組成物の全量基準で0.020質量%以上0.040質量%以下である潤滑油組成物は、LSPIの発生を抑制し得ることを知見するに至った。つまり、リン分を低減しつつもリン原子含有量を一定量以上確保することが、LSPIの発生の抑制に効果的であることを知見するに至った。
また、上記課題を解決すべく本発明者がさらに鋭意検討した結果、特定のカルシウム系清浄剤を含有すると共に、特定の芳香族カルボン酸エステル誘導体を特定量含有する潤滑油組成物が、0.3質量%以下という低い硫酸灰分であっても高温清浄性が良好であることを知見するに至った。
一方で、摩擦係数を低減すべく汎用的な摩擦調整剤であるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)を潤滑油組成物に添加したところ、潤滑油組成物の高温清浄性を悪化させる傾向があることを本発明者は知見するに至った。
そこで、本発明者はさらに種々検討した結果、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体を一定量以上含有する潤滑油組成物が、高温清浄性を悪化させることなく良好な状態を維持し、しかも摩擦係数も効果的に低減できることを知見するに至った。
これらの知見に基づき、本発明者はさらに鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0015】
なお、以降の説明では、基油(A)、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)、及び塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)を、それぞれ、成分(A)、成分(B)、成分(C1)、及び成分(D)ともいう。
また、以降の説明では、上記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び上記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)を、それぞれ、成分(B1)及び成分(B2)ともいう。
【0016】
本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C1)、及び成分(D)の合計含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上である。
また、本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、成分(C1)、及び成分(D)の合計含有量の上限値は、100質量%であってもよい。但し、潤滑油組成物が、成分(B)、成分(C1)、及び成分(D)以外の他の潤滑油用添加剤を含む場合には、成分(A)、成分(B)、成分(C1)、及び成分(D)の合計含有量の上限値は、当該他の潤滑油用添加剤との関係で調整すればよく、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0017】
以下、本実施形態の潤滑油組成物に含まれる各成分について説明する。
【0018】
<基油(A)>
本実施形態の潤滑油組成物は、基油(A)を含有する。基油(A)としては、従来、潤滑油の基油として用いられている鉱油及び合成油から選択される1種以上を、特に制限なく使用することができる。
【0019】
鉱油としては、例えば、パラフィン基原油、中間基原油、ナフテン基原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;前記常圧残油を減圧蒸留して得られる減圧残油;前記減圧残油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化仕上げ、水素化分解、高度水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化異性化脱ろう等の精製処理を1つ以上施して得られる鉱油等が挙げられる。
【0020】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、α-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリオールエステル及び二塩基酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス、Gas To Liquids WAX)を異性化することで得られるGTL基油等が挙げられる。
【0021】
本実施形態で用いる基油としては、API(米国石油協会)の基油カテゴリーのグループII又はIIIに分類される基油が好ましく、グループIIIに分類される基油がより好ましい。
【0022】
基油(A)は、鉱油から選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、合成油から選択される1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせ用いてもよい。さらには、1種以上の鉱油と1種以上の合成油とを組み合わせて用いてもよい。
【0023】
基油(A)の動粘度及び粘度指数については特に制限はないが、省燃費性及び耐摩耗性を良好なものとする観点から、動粘度及び粘度指数は、以下の範囲とすることが好ましい。
基油(A)の40℃における動粘度(以下、「40℃動粘度」ともいう。)は、2.0mm/s~100.0mm/sが好ましく、5.0mm/s~80.0mm/sがより好ましく、10.0mm/s~60.0mm/sが更に好ましく、15mm/s~40mm/sがより更に好ましく、15mm/s~30mm/sが更になお好ましい。
基油(A)の100℃における動粘度(以下、「100℃動粘度」ともいう。)は、2.0mm/s~20.0mm/sが好ましく、3.0mm/s~9.0mm/sがより好ましく、3.5mm/s~7.0mm/sが更に好ましく、3.5mm/s~5.0mm/sがより更に好ましい。
基油(A)の粘度指数は、80以上が好ましく、90以上がより好ましく、100以上が更に好ましく、105以上がより更に好ましい。
前記40℃動粘度、前記100℃動粘度、及び前記粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して測定又は算出することができる。
また、基油(A)が、2種以上の基油を含有する混合基油である場合、混合基油の動粘度及び粘度指数が上記範囲内にあることが好ましい。
【0024】
本実施形態の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は特に限定されないが、本発明の効果をより発揮させやすくする観点から、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、60質量%~90質量%が好ましく、65質量%~85質量%がより好ましく、70質量%~80質量%が更に好ましい。
【0025】
<芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)>
本実施形態の潤滑油組成物は、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)を含有する。潤滑油組成物が芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)を含有することにより、高温清浄性を向上させることができる。
芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)は、下記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び下記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)から選択される1種以上である。
【0026】
【化5】

[前記一般式(I)中、x及びyは、それぞれ1≦x≦3、1≦y≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。x≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。y≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
【0027】
【化6】

[前記一般式(II)中、m、n、о、及びpは、それぞれ1≦m≦2、0≦n≦2、2≦(m+n)≦4、1≦о≦3、1≦p≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。о≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。p≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
【0028】
上記一般式(I)及び(II)において、炭素数9~20のアルキル基としては、例えば、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、及びエイコシル基等の炭化水素基などを挙げることができる。炭素数9~20のアルキル基は、直鎖状のアルキル基であってもよいし、分岐状のアルキル基であってもよい。低粘度のカルボン酸エステル誘導体を所望する場合には、R及びRは、直鎖状のアルキル基であることが好ましい。また、R及びRの炭素数は、好ましくは10~20、より好ましくは10~18、更に好ましくは10~16、より更に好ましくは10~14である。
【0029】
上記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)の具体例としては、(ノニルサリチル酸)ノニルフェニルエステル、(デシルサリチル酸)デシルフェニルエステル、(ウンデシルサリチル酸)ウンデシルフェニルエステル、(ウンデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)ウンドデシルフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)トリドデシルフェニルエステル、(トリデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステル、(トリデシルサリチル酸)トリデシルフェニルエステル、(テトラデシルサリチル酸)テトラデシルフェニルエステル、(ヘプタデシルサリチル酸)ヘプタデシルフェニルエステル、(ヘキサデシルサリチル酸)ヘキサデシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸、(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ノニルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸デシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ウンデシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ドデシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸トリデシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸テトラデシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ヘプタデシルフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ヘキサデシルフェニルエステル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)の具体例としては、(ノニルサリチル酸)ノニルヒドロキシフェニルエステル、(デシルサリチル酸)デシルヒドロキシフェニルエステル、(ウンデシルサリチル酸)ウンデシルヒドロキシフェニルエステル、(ウンデシルサリチル酸)ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)ウンデシルヒドロキシフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)トリデシルヒドロキシフェニルエステル、(トリデシルサリチル酸)ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(トリデシルサリチル酸)トリデシルヒドロキシフェニルエステル、(テトラデシルサリチル酸)テトラデシルヒドロキシフェニルエステル、(ヘプタデシルサリチル酸)ヘプタデシルヒドロキシフェニルエステル、(ヘキサデシルサリチル酸)ヘキサデシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ノニルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸デシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ウンデシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸トリデシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸テトラデシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ヘプタデシルヒドロキシフェニルエステル、(混合C11~C15)アルキルサリチル酸ヘキサデシルヒドロキシフェニルエステル、(ノニルジヒドロキシ安息香酸)ノニルフェニルエステル、(デシルジヒドロキシ安息香酸)デシルフェニルエステル、(ウンドデシルジヒドロキシ安息香酸)ウンドデシルフェニルエステル、(ウンデシルジヒドロキシ安息香酸)ドデシルフェニルエステル、(ドデシルジヒドロキシ安息香酸)ウンデシルフェニルエステル、(ドデシルジヒドロキシ安息香酸)ドデシルフェニルエステル、(ドデシルジヒドロキシ安息香酸)トリデシルフェニルエステル、(トリデシルジヒドロキシ安息香酸)ドデシルフェニルエステル、(トリデシルジヒドロキシ安息香酸)トリデシルフェニルエステル、(テトラデシルジヒドロキシ安息香酸)テトラデシルフェニルエステル、(ヘプタデシルジヒドロキシ安息香酸)ヘプタフェニルエステル、(ヘキサデシルジヒドロキシ安息香酸)ヘキサデシルフェニルエステル、ノニルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、デシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、ウンドデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、ドデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、トリデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、テトラデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、ヘプタデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、ヘキサデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルフェニルエステル、(ノニルジヒドロキシ安息香酸)ノニルヒドロキシフェニルエステル、(デシルジヒドロキシ安息香酸)デシルヒドロキシフェニルエステル、(ウンドデシルジヒドロキシ安息香酸)ウンドデシルヒドロキシフェニルエステル、(ウンデシルジヒドロキシ安息香酸)ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(ドデシルジヒドロキシ安息香酸)ウンデシルヒドロキシフェニルエステル、(ドデシルジヒドロキシ安息香酸)ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(ドデシルジヒドロキシ安息香酸)トリデシルヒドロキシフェニルエステル、(トリデシルジヒドロキシ安息香酸)ドデシルヒドロキシフェニルエステル、(トリデシルジヒドロキシ安息香酸)トリデシルヒドロキシフェニルエステル、(テトラデシルジヒドロキシ安息香酸)テトラデシルヒドロキシフェニルエステル、(ヘプタデシルジヒドロキシ安息香酸)ヘプタデシルヒドロキシフェニルエステル、(ヘキサデシルジヒドロキシ安息香酸)ヘキサデシルヒドロキシフェニルエステル、ノニルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、デシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、ウンドデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、ドデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、トリデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、テトラデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、ヘプタデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル、ヘキサデシルジヒドロキシ安息香酸(混合C11~C15)アルキルヒドロキシフェニルエステル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、本実施形態の潤滑油組成物では、上記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)から選択される1種以上と、上記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)から選択される1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0032】
なお、上記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び上記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)の中でも、(デシルサリチル酸)デシルフェニルエステル、(ウンデシルサリチル酸)ウンデシルフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステル、(トリデシルサリチル酸)トリデシルフェニルエステル、(テトラデシルサリチル酸)テトラデシルフェニルエステル、(ヘプタデシルサリチル酸)ヘプタデシルフェニルエステル、及び(ヘキサデシルサリチル酸)ヘキサデシルフェニルエステルから選択される1種以上が好ましく、(デシルサリチル酸)デシルフェニルエステル、(ウンデシルサリチル酸)ウンデシルフェニルエステル、(ドデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステル、及び(トリデシルサリチル酸)トリデシルフェニルエステルから選択される1種以上がより好ましく、(ドデシルサリチル酸)ドデシルフェニルエステルが更に好ましい。
【0033】
本実施形態の潤滑油組成物において、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、1.5質量%以上である。
芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、1.5質量%未満であると、潤滑油組成物の高温清浄性を確保することが困難になる。
ここで、潤滑油組成物の高温清浄性をより良好なものとしやすくすると共に、塩基価維持性により優れる潤滑油組成物とする観点から、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量は、好ましくは1.8質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、更に好ましくは3.0質量%以上、より更に好ましくは4.0質量%以上、更になお好ましくは5.0質量%以上である。
また、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量の上限値は、通常、20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下である。
【0034】
<塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)>
本実施形態の潤滑油組成物は、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)を含有する。潤滑油組成物が塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)を含有することにより、高温清浄性を良好なものとしつつも、摩擦係数を低減させることができる。
【0035】
塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)は、酸性モリブデン化合物又はその塩と塩基性窒素化合物との反応生成物であり、反応温度を120℃以下に維持しながら、酸性モリブデン化合物又はその塩と塩基性窒素化合物とを接触させて反応させることで製造することができる。
前記酸性モリブデン化合物としては、例えば、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸アルカリ金属塩等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
塩基性窒素化合物としては、コハク酸イミド、カルボンアミド、炭化水素モノアミン、炭化水素ポリアミン、Mannich塩酸、ホスホンアミド、チオホスホンアミド、リン酸アミド等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
塩基性窒素化合物としては、コハク酸イミドを用いることが好ましい。
【0036】
塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)は、酸性モリブデン化合物又はその塩と塩基性窒素化合物との反応生成物をそのまま用いてもよいが、さらに少量の硫黄又は硫黄化合物と反応させた硫化物として用いることが好ましい。
本発明では、酸性モリブデン化合物と塩基性窒素化合物との反応生成物を、さらに少量の硫黄又は硫黄化合物と反応させた硫化物も、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に包含される。
ここで、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)は、酸性モリブデン化合物又はその塩とコハク酸イミドとの反応生成物を低温硫化した、低温硫化反応物であることが好ましい。なお、低硫黄化の観点からは、硫化物の硫黄含有量は少ないことが好ましく、硫黄含有量がモリブデン原子含有量の10%以下(質量基準)であることがより好ましい。
【0037】
また、本実施形態の潤滑油組成物において、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%以上である。
塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量が0.025質量%未満であると、摩擦係数を十分に低減することができない。
ここで、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量は、摩擦係数をより低減しやすいものとする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.030質量%以上、より好ましくは0.035質量%以上、更に好ましくは0.040質量%以上である。
また、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量の上限値は、通常、0.200質量%以下である。
【0038】
本実施形態の潤滑油組成物において、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に含まれるモリブデン原子の含有量は、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)全量基準で、好ましくは1.0質量%~10.0質量%、より好ましくは2.0質量%~7.5質量%、更に好ましくは4.5質量%~6.5質量%である。
本実施形態の潤滑油組成物において、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に含まれる硫黄原子の含有量は、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)全量基準で、好ましくは0.01質量%~2.5質量%、より好ましくは0.05質量%~1.5質量%、更に好ましくは0.1質量%~0.3質量%である。
本実施形態の潤滑油組成物において、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に含まれる窒素原子の含有量は、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)全量基準で、好ましくは0.1質量%~5.0質量%、より好ましくは0.5質量%~2.5質量%、更に好ましくは1.0質量%~2.0質量%である。
本実施形態の潤滑油組成物において、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)の塩基価は、好ましくは1mgKOH/g~200mgKOH/g、より好ましくは2mgKOH/g~50mgKOH/g、更に好ましくは3mgKOH/g~25mgKOH/gである。
【0039】
<カルシウム系清浄剤(D)>
本実施形態の潤滑油組成物は、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)を含有する。潤滑油組成物が当該カルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)を含有することにより、潤滑油組成物の高温清浄性を良好なものとできる。
カルシウム系清浄剤(D)を含有しない場合、高温清浄性を十分に確保することができない。
本実施形態の潤滑油組成物において、カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量は、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満である。
カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量が0.020質量%未満であると、潤滑油組成物の高温清浄性を確保することが困難である。また、カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量が0.080質量%以上であると、潤滑油組成物の硫酸灰分が大きくなり、GPFの閉塞等を引き起こす要因となる。
ここで、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しながらも、低硫酸灰分にしやすくする観点から、カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.020質量%~0.070質量%、好ましくは0.030質量%~0.065質量%、更に好ましくは0.035質量%~0.055質量%である。
【0040】
本実施形態の潤滑油組成物において、カルシウム系清浄剤(D)の含有量は、カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量が上記範囲を充足するように調整すればよい。カルシウム系清浄剤(D)の含有量は、具体的には、例えば、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上2.5質量%以下、更に好ましくは0.20質量%以上1.5質量%以下である。
【0041】
(塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1))
カルシウム系清浄剤(D1)としては、例えば、下記一般式(D1-1)で表されるカルシウムスルホネート、下記一般式(D1-2)で表されるカルシウムサリチレート、及び下記一般式(D1-3)で表されるカルシウムフェネート等のカルシウム塩などが挙げられる。
これらの中でも、高温清浄性をより良好なものとする点から、カルシウムスルホネートが好ましい。
カルシウム系清浄剤(D1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カルシウム系清浄剤(D1)は、カルシウム系清浄剤(D)の全量基準で、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、より更に好ましくは100質量%である。
【0042】
【化7】
【0043】
上記一般式(D1-3)中、qは、0以上の整数であり、好ましくは0以上3以下の整数である。
上記一般式(D1-1)~(D1-3)中、Rは、各々独立して、水素原子又は炭化水素基である。
Rとして選択し得る炭化水素基としては、直鎖構造であってもよいし、分岐鎖を有していてもよく、環形成していてもよい。これらの中でも、分岐鎖を有する炭化水素基が好ましい。
前記炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、分岐鎖を有するアルキル基が好ましい。
前記炭化水素基の炭素数は、3以上26以下が好ましく、7以上24以下がより好ましく、10以上20以下が更に好ましい。
前記分岐鎖を有する炭化水素基における、分岐鎖の炭素数は、1以上8以下が好ましく、2以上6以下がより好ましく、2以上5以下が更に好ましい。
【0044】
本実施形態の潤滑油組成物において、カルシウム系清浄剤(D1)の塩基価は、高温清浄性を良好なものとしながらも、析出物等の発生を抑制する観点から、好ましくは200mgKOH/g~500mgKOH/g、より好ましくは200mgKOH/g~480mgKOH/g、更に好ましくは200mgKOH/g~460mgKOH/gである。
なお、カルシウム系清浄剤(D1)が、上記一般式(D1-1)で表されるカルシウムスルホネートである場合、カルシウム系清浄剤(D1)の塩基価は、上記と同様の観点から、好ましくは300mgKOH/g~500mgKOH/g、より好ましくは350mgKOH/g~490mgKOH/g、更に好ましくは400mgKOH/g~480mgKOH/gである。
また、カルシウム系清浄剤(D1)が、上記一般式(D1-2)で表されるカルシウムサリチレートである場合、カルシウム系清浄剤(D1)の塩基価は、上記と同様の観点から、好ましくは200mgKOH/g~400mgKOH/g、より好ましくは200mgKOH/g~300mgKOH/g、更に好ましくは200mgKOH/g~250mgKOH/gである。
【0045】
なお、本明細書において、カルシウム系清浄剤(D1)の塩基価とは、JIS K 2501:2003に準拠して、過塩素酸法により測定した塩基価を意味する。
【0046】
ここで、本実施形態の潤滑油組成物において、カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.080質量%未満が好ましい。
カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量が0.020質量%未満であると、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しにくい。また、カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量が0.080質量%以上であると、潤滑油組成物の硫酸灰分が大きくなり、GPFの閉塞等を引き起こす要因となることがある。
ここで、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しながらも、低硫酸灰分にしやすくする観点から、カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.020質量%~0.070質量%、好ましくは0.030質量%~0.065質量%、更に好ましくは0.035質量%~0.055質量%である。
【0047】
本実施形態の潤滑油組成物において、カルシウム系清浄剤(D1)の含有量は、カルシウム系清浄剤(D1)に由来するカルシウム原子の含有量が上記範囲を充足するように調整すればよい。カルシウム系清浄剤(D1)の含有量は、例えば、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.01質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上2.5質量%以下、更に好ましくは0.20質量%以上1.5質量%以下である。
【0048】
(塩基価が200mgKOH/g未満であるカルシウム系清浄剤(D2))
本実施形態の潤滑油組成物において、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しやすくする観点から、カルシウム系清浄剤(D)のうち、カルシウム系清浄剤(D2)の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、カルシウム系清浄剤(D2)に由来するカルシウム原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.025質量%未満、より好ましくは0.020質量%未満、更に好ましくは0.015質量%未満、より更に好ましくは0.010質量%未満、更になお好ましくは0.005質量%未満である。
【0049】
カルシウム系清浄剤(D2)としては、上記一般式(D1-1)で表されるカルシウムスルホネート、上記一般式(D1-2)で表されるカルシウムサリチレート、及び上記一般式(D1-3)で表されるカルシウムフェネート等のカルシウム塩が挙げられる。
また、カルシウム系清浄剤(D2)の塩基価は、100mgKOH/g未満であってもよく、50mgKOH/g未満であってもよく、30mgKOH/g未満であってもよい。
また、カルシウム系清浄剤(D2)の塩基価は、通常、10mgKOH/g以上である。
【0050】
ここで、本実施形態の潤滑油組成物において、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しやすくする観点から、カルシウム系清浄剤(D2)由来のカルシウム原子(CaD2)とカルシウム系清浄剤(D1)由来のカルシウム原子(CaD1)との含有量比[CaD2/CaD1]は、質量比で、好ましくは0.31未満であり、より好ましくは0.25未満であり、更に好ましくは0.19未満であり、より更に好ましくは0.13未満であり、更になお好ましくは0.06未満である。
【0051】
<ZnDTP(E)>
本実施形態の潤滑油組成物は、ZnDTP(ジチオリン酸亜鉛)(E)を含有することが好ましい。
ZnDTP(E)としては、例えば、第1級ジアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛、第2級ジアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。
ZnDTP(E)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
ZnDTP(E)のアルキル基の炭素数は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択されるが、1以上10以下が好ましく、3以上8以下がより好ましい。なお、第2級ジアルキル基を有するジチオリン酸亜鉛等では、炭素数の異なるアルキル基を含んでいてもよい。
【0053】
本実施形態の潤滑油組成物において、ZnDTP(E)に由来するリン原子(E-P)の含有量は、リン原子排出量を低減しつつも、塩基価を一定以上に維持し、かつLSPIの発生を抑制しやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.020質量%以上0.040質量%以下であり、より好ましくは0.021質量%以上0.036質量%以下であり、更に好ましくは0.022質量%以上0.032質量%以下である。
【0054】
本実施形態の潤滑油組成物において、ZnDTP(E)の含有量は、リン原子換算での含有量が上記範囲に属するように調整されることが好ましく、具体的には、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.28質量%以上0.57質量%以下、より好ましくは0.30質量%以上0.51質量%以下、更に好ましくは0.31質量%以上0.45質量%以下である。
【0055】
<他の潤滑油用添加剤>
本実施形態の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分以外の他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
前記他の潤滑油用添加剤としては、例えば、酸化防止剤、無灰系分散剤、カルシウム系清浄剤(D1)以外の他の金属系清浄剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、防錆剤、消泡剤、金属不活性化剤、抗乳化剤等が挙げられる。
【0056】
(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ここで、酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤から選択される1種以上とフェノール系酸化防止剤から選択される1種以上とを組み合わせて用いることが好ましい。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;α-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル置換フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)等のジフェノール系酸化防止剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。
【0057】
(無灰系分散剤)
無灰系分散剤としては、ホウ素非含有アルケニルコハク酸イミド等のホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミド等のホウ素含有コハク酸イミド類、ベンジルアミン類、ホウ素含有ベンジルアミン類、コハク酸エステル類、脂肪酸あるいはコハク酸で代表される一価又は二価カルボン酸アミド類などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、ホウ素非含有アルケニルコハク酸イミド、ホウ素含有アルケニルコハク酸イミドを用いることが好ましく、ホウ素非含有アルケニルコハク酸イミド及びホウ素含有アルケニルコハク酸イミドを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0058】
(カルシウム系清浄剤(D)以外の他の金属系清浄剤)
カルシウム系清浄剤(D)以外の他の金属系清浄剤としては、例えば、カルシウム以外の金属による、金属サリチレート、金属フェネート、及び金属スルホネート等が挙げられる。
前記カルシウム以外の金属としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、ナトリウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、これらの中でも、マグネシウムが好ましく用いられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
(流動点降下剤)
流動点降下剤としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
(粘度指数向上剤)
粘度指数向上剤としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの粘度指数向上剤の質量平均分子量(Mw)としては、通常500~1,000,000、好ましくは5,000~100,000、より好ましくは10,000~50,000であるが、重合体の種類に応じて適宜設定される。
本明細書において、各成分の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0061】
(防錆剤)
防錆剤としては、例えば、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、アルキルスルホン酸塩、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
(消泡剤)
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
(金属不活性化剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(抗乳化剤)
抗乳化剤としては、例えば、ひまし油の硫酸エステル塩、石油スルフォン酸塩等のアニオン性界面活性剤;第四級アンモニウム塩、イミダゾリン類等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシアルキレンポリグリコール及びそのジカルボン酸のエステル;アルキルフェノール-ホルムアルデヒド重縮合物のアルキレンオキシド付加物;等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
前記他の潤滑油用添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、その各々について、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常は0.001質量%~15質量%であり、0.005質量%~10質量%が好ましく、0.01質量%~7質量%がより好ましく、0.03質量%~5質量%が更に好ましい。
なお、本明細書において、前記他の潤滑油用添加剤は、ハンドリング性、基油(A)への溶解性等を考慮し、上述の基油(A)の一部に希釈し溶解させた溶液の形態で、他の成分と配合してもよい。このような場合、本明細書においては、前記その他の成分としての添加剤の上述の含有量は、希釈油を除いた有効成分換算(樹脂分換算)での含有量を意味する。
【0066】
<その他の成分>
本実施形態の潤滑油組成物は、上記成分に加えて、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)以外の他のエステル誘導体、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)以外の他のモリブデン化合物(C)、カルシウム系清浄剤(D1)以外の他のカルシウム系清浄剤(D)を含んでいてもよい。
但し、以下に説明する化合物の含有量は少ないことが好ましく、以下に説明する化合物は含まないことがより好ましい。
【0067】
(ホウ酸エステル(B’))
本実施形態の潤滑油組成物において、潤滑油組成物の高温清浄性を確保する観点から、エステル誘導体のうち、ホウ酸エステル(B’)の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、ホウ酸エステル(B’)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは5.0質量%未満、より好ましくは1.0質量%未満、更に好ましくは0.1質量%未満、より更に好ましくは0.01質量%未満、更になお好ましくはホウ酸エステル(B’)を含まないことである。
ホウ酸エステル(B’)としては、例えば、ホウ酸化グリセロールモノオレート等が挙げられる。
【0068】
(ジチオカルバミン酸モリブデン(C2))
本実施形態の潤滑油組成物において、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しつつ、摩擦係数を低減する観点から、モリブデン化合物(C)のうち、ジチオカルバミン酸モリブデン(C2)の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、ジチオカルバミン酸モリブデン(C2)由来のモリブデン原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.020質量%未満、より好ましくは0.015質量%未満、更に好ましくは0.010質量%未満、より更に好ましくは0.005質量%未満、更になお好ましくはジチオカルバミン酸モリブデン(C2)に由来するモリブデン原子を含まないことである。
【0069】
ジチオカルバミン酸モリブデン(C2)としては、例えば、一分子中に2つのモリブデン原子を含む二核のジチオカルバミン酸モリブデン、及び、一分子中に3つのモリブデン原子を含む三核のジチオカルバミン酸モリブデンが挙げられる。
【0070】
二核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、下記一般式(C2-1)で表される化合物、及び、下記一般式(C2-2)で表される化合物が挙げられる。
【0071】
【化8】
【0072】
上記一般式(C2-1)及び(C2-2)中、R11~R14は、それぞれ独立に、炭化水素基を示し、これらは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
11~X18は、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を示し、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。ただし、式(C2-1)中のX11~X18の少なくとも二つは硫黄原子である。
11~R14として選択し得る炭化水素基の炭素数は6~22である。
【0073】
上記一般式(C2-1)及び(C2-2)中のR11~R14として選択し得る、当該炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等が挙げられる。
当該アルキル基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
当該アルケニル基としては、例えば、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基等が挙げられる。
当該シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、プロピルシクロヘキシル基、ブチルシクロヘキシル基、ヘプチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
当該アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基、ターフェニル基等が挙げられる。
当該アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、ジメチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基、ジメチルナフチル基等が挙げられる。
当該アリールアルキル基としては、例えば、メチルベンジル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0074】
三核のジチオカルバミン酸モリブデンとしては、下記一般式(C2-3)で表される化合物が挙げられる。
Mo (C2-3)
【0075】
前記一般式(C2-3)中、kは1以上の整数、mは0以上の整数であり、k+mは4~10の整数であり、4~7の整数であることが好ましい。nは1~4の整数、pは0以上の整数である。zは0~5の整数であって、非化学量論の値を含む。
Eは、それぞれ独立に、酸素原子又はセレン原子であり、例えば、後述するコアにおいて硫黄を置換し得るものである。
Lは、それぞれ独立に、炭素原子を含有する有機基を有するアニオン性リガンドであり、各リガンドにおける該有機基の炭素原子の合計が14個以上であり、各リガンドは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
Aは、それぞれ独立に、L以外のアニオンである。
Qは、それぞれ独立に、電子を供与する中性化合物であり、三核モリブデン化合物上における空の配位を満たすために存在する。
【0076】
ここで、本実施形態の潤滑油組成物において、潤滑油組成物の高温清浄性を確保しつつ、摩擦係数を低減する観点から、ジチオカルバミン酸モリブデン(C2)に由来するMo原子(MoC2)と塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子(MoC1)との含有量比[MoC2/MoC1]は、質量比で、好ましくは1.0未満、より好ましくは0.5未満、更に好ましくは0.1未満、より更に好ましくは0.05未満、更になお好ましくは0.01未満である。
【0077】
[潤滑油組成物の物性値]
<動粘度及び粘度指数>
本実施形態の潤滑油組成物の40℃動粘度は、5.0mm/s以上150.0mm/s以下が好ましく、10.0mm/s以上100.0mm/s以下がより好ましく、30.0mm/s以上60.0mm/s以下が更に好ましい。40℃動粘度が前記範囲内であると、省燃費性を確保しやすい。
本実施形態の潤滑油組成物の100℃動粘度は、4.0mm/s以上が好ましく、5.0mm/s以上がより好ましく、6.1mm/s以上が更に好ましく、6.9mm/s以上がより更に好ましく、6.9mm/s以上が更になお好ましい。また、本実施形態の潤滑油組成物の100℃動粘度は、22.0mm/s未満が好ましく、20.0mm/s未満がより好ましく、16.3mm/s未満が更に好ましく、12.5mm/s未満がより更に好ましく、9.3mm/s未満が更になお好ましく、8.2mm/s未満が一層好ましい。100℃動粘度が4.0mm/s以上であると、耐摩耗性を確保しやすい。また、100℃動粘度が低いと、省燃費性を確保しやすい。
本実施形態の潤滑油組成物の粘度指数は、80以上が好ましく、85以上がより好ましく、90以上が更に好ましく、95以上がより更に好ましい。粘度指数が80以上であると、温度による粘度変化が小さくなる。
前記40℃動粘度、前記100℃動粘度、及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠して、例えば、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定又は算出することができる。
【0078】
<モリブデン原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物におけるモリブデン原子の含有量は、摩擦係数を低減しやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.025質量%以上、より好ましくは0.030質量%以上、更に好ましくは0.035質量%以上、より更に好ましくは0.040質量%以上である。
また、モリブデン原子含有量の上限値は、通常、0.200質量%以下である。
なお、モリブデン原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定することができる。
【0079】
<カルシウム原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物における、カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量は、高温清浄性を良好なものとしながらも低硫酸灰分とする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.020質量%~0.070質量%、より好ましくは0.025質量%~0.065質量%、更に好ましくは0.030質量%~0.060質量%、より更に好ましくは0.035質量%~0.055質量%である。
なお、カルシウム原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定することができる。
【0080】
<リン原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物におけるリン原子の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.040質量%以下である。
リン原子の含有量が、0.020質量%未満であると、LSPIの発生を抑制できないことがある。また、0.040質量%を超えると、リン原子排出量が多くなり、排ガス浄化触媒の被毒が生じることがある。
ここで、潤滑油組成物中のリン原子の含有量は、リン原子排出量を低減しつつも、LSPIの発生を抑制しやすくする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.021質量%以上0.036質量%以下であり、より好ましくは0.022質量%以上0.032質量%以下であり、更に好ましくは0.022質量%以上0.030質量%以下である。
なお、リン原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定することができる。
【0081】
<亜鉛原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物における亜鉛原子の含有量は、耐摩耗性を良好なものとする観点から、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.020質量%~0.040質量%、より好ましくは0.022質量%~0.036質量%、更に好ましくは0.024質量%~0.032質量%である。
なお、亜鉛原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定することができる。
【0082】
<硫黄原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物における硫黄原子の含有量としては、潤滑油組成物の全量基準で、0.10質量%以上0.25質量%以下が好ましく、0.16質量%以上0.23質量%以下がより好ましく、0.15質量%以上0.21質量%以下が更に好ましい。
硫黄原子の含有量は、ASTM D2622に準拠して測定することができる。
【0083】
<ホウ素原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物におけるホウ素原子の含有量としては、潤滑油組成物の全量基準で、0.030質量%以上0.050質量%以下が好ましく、0.034質量%以上0.045質量%以下がより好ましく、0.036質量%以上0.043質量%以下が更に好ましい。
ホウ素原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定することができる。
【0084】
<窒素原子の含有量>
本実施形態の潤滑油組成物における窒素原子の含有量としては、潤滑油組成物の全量基準で、0.150質量%以上0.280質量%以下が好ましく、0.180質量%以上0.250質量%以下がより好ましく、0.200質量%以上0.230質量%以下が更に好ましい。
窒素原子の含有量は、JIS K 2609:1998に準拠して測定することができる。
【0085】
<硫酸灰分>
本実施形態の潤滑油組成物は、硫酸灰分が0.30質量%以下である。本実施形態の潤滑油組成物は、このように低い硫酸灰分であっても、高温清浄性が良好である。
本実施形態の潤滑油組成物において、硫酸灰分は、好ましくは0.29質量%以下、より好ましくは0.28質量%以下、更に好ましくは0.27質量%以下である。
また、本実施形態の潤滑油組成物において、硫酸灰分は、通常、0.01質量%以上である。
【0086】
<LSPI抑制性>
本実施形態の潤滑油組成物のLSPI抑制性は、例えば、GM社製の2.0L直列4気筒エンジン(商品名:Ecotec engine)を用いて評価することができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で評価することができる。後述する実施例に記載の方法におけるLSPIの合計発生回数としては、0回が好ましい。
【0087】
<塩基価、塩基価維持率>
本実施形態の潤滑油組成物は、塩基価を一定以上に維持する観点から、塩基価維持率が0.20以上、好ましくは0.24以上、さらに好ましくは0.35以上であることが好ましい。
本実施形態の潤滑油組成物のカルシウム系清浄剤(D)の「塩基価」は、JIS K 2501:2003に準拠して、過塩素酸法により測定することができる。
本実施形態の潤滑油組成物のカルシウム系清浄剤(D)の「塩基価維持率」は、NO吹込試験後の塩基価を、初期値の塩基価で除することにより、算出される。
【0088】
<高温清浄性>
本実施形態の潤滑油組成物の高温清浄性は、例えば、調製直後の潤滑油組成物にNOガスを吹き込んで劣化処理し、劣化処理された潤滑油組成物に対してホットチューブ試験を行うことにより評価することができる。この評価結果は、潤滑油組成物の高温清浄性の維持性を反映するものとも言える。
具体的には、後述する実施例に記載の方法で評価することができる。後述する実施例に記載の方法におけるホットチューブ試験の評点0~10のうち、2.5以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。
【0089】
<摩擦係数>
本実施形態の潤滑油組成物の摩擦係数は、例えば、SRV試験機(Optimol社製)を用いて評価することができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法で評価することができる。後述する実施例に記載の方法における摩擦係数としては、0.13以下が好ましく、0.12以下がより好ましい。
【0090】
[潤滑油組成物の用途]
本実施形態の潤滑油組成物は、低硫酸灰分及び低リン分としながらも、LSPIの発生を抑制することができ、しかも、高温清浄性を良好なものとしながらも、摩擦係数を低減することができる。
したがって、本実施形態の潤滑油組成物は、内燃機関に用いられることが好ましく、ガソリン・パーティキュレート・フィルター(GPF)を備える排ガス処理装置を装着した内燃機関に用いられることがより好ましく、過給機を搭載した直噴の内燃機関に用いられることが更に好ましい。前記内燃機関としては、ガソリンエンジンが好ましく、当該ガソリンエンジンに過給機を搭載した直噴ガソリンエンジンに用いられることがより好ましい。
【0091】
[潤滑油組成物の製造方法]
本実施形態としては、基油(A)と、下記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)及び下記一般式(II)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B2)から選択される1種以上の芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)と、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)と、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)とを混合する工程を含む、潤滑油組成物の製造方法であって、
【化9】

[前記一般式(I)中、x及びyは、それぞれ1≦x≦3、1≦y≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。x≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。y≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
【化10】

[前記一般式(II)中、m、n、о、及びpは、それぞれ1≦m≦2、0≦n≦2、2≦(m+n)≦4、1≦о≦3、1≦p≦3を満たす整数である。R及びRは、各々独立に、炭素数9~20のアルキル基を示す。о≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。p≧2である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。]
前記芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の配合量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、1.5質量%以上であり、
前記塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の配合量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.025質量%以上であり、
カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の配合量が、0.020質量%以上0.080質量%未満であり、
硫酸灰分が0.3質量%以下であり、
リン原子の配合量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%以上0.040質量%以下である、潤滑油組成物の製造方法を提供する。
【0092】
上記各成分を混合する方法としては、特に制限はないが、例えば、基油(A)に、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)と、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)と、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含むカルシウム系清浄剤(D)とを加えた後に混合する工程が挙げられる。
また、前記製造方法は、上述した前記他の潤滑油用添加剤及びその他の成分から選択される1種以上を加える工程を更に含むことができる。
各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上加えられてもよい。また、各成分が加えられた後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させる工程を含むことが好ましい。
【実施例
【0093】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた各成分及び得られた潤滑油組成物の各種性状は、下記方法によって測定した。これらの結果については、表1~表3に示す。
【0094】
[40℃動粘度、100℃動粘度、粘度指数]
JIS K2283:2000に準拠し、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定及び算出した。
【0095】
[モリブデン原子、カルシウム原子、リン原子、亜鉛原子、及びホウ素原子の含有量]
モリブデン原子、カルシウム原子、リン原子、亜鉛原子、及びホウ素原子の含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定した。
【0096】
[硫黄原子の含有量]
硫黄原子の含有量は、ASTM D2622に準拠して測定した。
【0097】
[窒素原子の含有量]
窒素原子の含有量は、JIS K 2609:1998に準拠して測定した。
【0098】
[硫酸灰分]
潤滑油組成物の硫酸灰分は、JIS K2272:1998に準拠して測定した。
【0099】
[塩基価]
塩基価は、JIS K 2501:2003に準拠して、過塩素酸法により測定した。
【0100】
[実施例1~5、及び比較例1~14]
以下に示す各成分を、表1~表3に示す含有量で加えて十分に混合し、潤滑油組成物を得た。
実施例1~5、及び比較例1~14で用いた各成分の詳細は、以下に示すとおりである。
【0101】
<基油(A)>
100N鉱油(API基油カテゴリーでの分類:グループIII、40℃動粘度:20.0mm/s、100℃動粘度:4.2mm/s、粘度指数:123)
【0102】
<エステル誘導体>
・芳香族カルボン酸エステル誘導体(B):n-ドデシルサリチル酸―ドデシルフェニルエステル。上記一般式(I)で表される芳香族カルボン酸エステル誘導体(B1)であり、x=1、y=1、Rはn-ドデシル基、Rはドデシル基である。
・ホウ酸エステル(B’):ホウ酸化グリセロールモノオレート
【0103】
<モリブデン化合物(C)>
・塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1):コハク酸イミドのオキシモリブデン錯体(硫黄含有、Mo:5.5質量%、S:0.2質量%、N:1.6質量%、塩基価:10mgKOH/g、製品名「OLOA17502」、シェブロンジャパン株式会社製。なお、オキシモリブデン錯体(C1)の塩基価は、JIS K 2501:2003に準拠して、過塩素酸法により測定した。)
・2核MoDTC(C2-1)(Mo:10.0質量%、S:11.5質量%)
・3核MoDTC(C2-3)(Mo:5.5質量%、S:9.9質量%)
【0104】
<カルシウム系清浄剤(D)>
・カルシウム系清浄剤(D1-1):過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:421mgKOH/g、カルシウム原子の含有量:15.8質量%)
・カルシウム系清浄剤(D1-2):過塩基性カルシウムサリチレート(塩基価:221mgKOH/g、カルシウム原子の含有量:7.9質量%)
・カルシウム系清浄剤(D2):中性カルシウムスルホネート(塩基価:21mgKOH/g、カルシウム原子の含有量:2.4質量%)
【0105】
<ZnDTP(E)>
・ZnDTP(E1):第1級アルキル基を有するZnDTP
・ZnDTP(E2):第2級アルキル基を有するZnDTP
【0106】
<他の潤滑油用添加剤>
粘度指数向上剤、流動点降下剤、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ホウ素非含有コハク酸イミド類、ホウ素含有コハク酸イミド類、金属不活性化剤、消泡剤等
【0107】
また、得られた各潤滑油組成物について、以下の評価を行った。
【0108】
[LSPI抑制性の評価]
GM社製の2.0L直列4気筒エンジン(商品名:Ecotec engine)を使用した。試験条件はGMW17244試験法を参考に、評価は、暖機運転(回転数:2,000rpm、トルク:100Nm、正味平均有効圧力:6バール、運転時間:30分間)の後に、低負荷条件運転(回転数:2,000rpm、トルク:32Nm、正味平均有効圧力:2バール、運転時間:5分間)と高負荷条件運転(回転数:2,000rpm、トルク:350Nm、正味平均有効圧力:22バール、運転時間:15分間)をそれぞれ9回繰り返し、高負荷条件運転中に発生するLSPIの合計発生回数を測定した。LSPI抑制性の評価としては、下記評価基準において評価結果が「A」であると、LSPI抑制性に優れる潤滑油組成物であると評価した。なお、LSPIは、最大燃焼圧力が正常値の平均値より30%以上高い場合及び燃焼開始時のクランク角度が正常値より5度以上早まった場合に発生したと定義した。
-LSPI抑制性の評価基準-
A:前記LSPIの合計発生回数が0回である
B:前記LSPIの合計発生回数が1回以上である
【0109】
[高温清浄性の維持性の評価]
まず、JIS K 2501:2003に準拠した過塩素酸法により、得られた潤滑油組成物の塩基価(初期値)を測定した。
次に、油温を150℃とし、濃度:4,000体積ppmのNOガスを潤滑油組成物に72時間吹込み、潤滑油組成物を劣化処理した。(本劣化処理により、潤滑油組成物は、約1.6万km走行後の状態に相当する。)
劣化処理された潤滑油組成物に対し、温度:260℃の条件で、ホットチューブ試験を行った。また、再度JIS K 2501:2003に準拠した過塩素酸法により、得られた潤滑油組成物の塩基価(NO吹込試験後)を測定した。
更に、NO吹込試験後の塩基価を、初期値の塩基価で除することにより、塩基価維持率を算出した。
ホットチューブ試験の評点0~10のうち、2.5以上であると、高温清浄性が長期間維持される潤滑油組成物であると評価した。
また、ホットチューブ試験後のサンプルを目視し、下記評価基準において評価結果が「A」であると、高温清浄性の維持性に優れる潤滑油組成物であると評価した。
-ホットチューブ試験の析出の評価基準-
A:白色の析出が生じなかった。
B:白色の析出が生じた。
【0110】
[摩擦係数低減効果の評価]
ASTM D5706に準拠し、SRV試験機(Optimol社製)を用い、下記の条件にて、調製した潤滑油組成物を使用した際の摩擦係数を測定した。なお、試験開始20分後から試験終了までの10分間での摩擦係数の平均値を摩擦係数とした。前記摩擦係数が0.13以下であると、摩擦係数低減効果に優れる潤滑油組成物であると評価した。
・ボール:AISI52100
・ディスク:AISI52100
・振動数:30Hz
・振幅:3.0mm
・荷重:400N
・温度:120℃
・試験時間:30分間
【0111】
表1~表3に評価結果を示す。
表1~3において、潤滑油組成物中のモリブデン原子の含有量は、モリブデン化合物(C)に由来するモリブデン原子の含有量を反映する値である。
また、表1~3において、潤滑油組成物中のカルシウム原子の含有量は、カルシウム系清浄剤(D)に由来するカルシウム原子の含有量を反映する値である。
なお、表1中、実施例4において、カルシウム系清浄剤(D1-1)由来のカルシウム原子含有量は0.026質量%であり、カルシウム系清浄剤(D2)由来のカルシウム原子含有量は0.024質量%である。
また、表1~3において、潤滑油組成物中のリン原子の含有量は、ZnDTP(E)に由来するリン原子の含有量を反映する値である。
また、表1~3において、潤滑油組成物中の亜鉛原子の含有量は、ZnDTP(E)に由来する亜鉛原子の含有量を反映する値である。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
本発明の構成を全て満たす実施例1~5の潤滑油組成物は、いずれもLSPI抑制性、高温清浄性、及び摩擦係数低減効果に優れる結果となった。
一方、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)を含有しない比較例1~2、及び芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の含有量が、潤滑油組成物の全量基準で1.5質量%以上の規定を満たさない比較例3は、ホットチューブ試験の結果が悪く、高温清浄性が劣る結果となった。また、芳香族カルボン酸エステル誘導体(B)の代わりに、ホウ酸エステル(B’)を含有する比較例4は、ホットチューブ試験にて白色の析出が生じ、高温清浄性が劣る結果となった。
モリブデン化合物(C)として、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)を含まない比較例5、及びオキシモリブデン錯体(C1)に由来するモリブデン原子の含有量が、潤滑油組成物全量基準で0.025質量%の規定を満たさない比較例5~8は、摩擦係数が高く、摩擦係数低減効果が劣る結果となった。また、塩基性窒素化合物のオキシモリブデン錯体(C1)の代わりに、2核MoDTC(C2-1)を含有する比較例9~10、及び3核MoDTC(C2-3)を含有する比較例11は、ホットチューブ試験の結果が悪く、高温清浄性が劣る結果となった。
カルシウム系清浄剤(D)として、塩基価が200mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(D1)を含有せず、塩基価が200mgKOH/g未満であるカルシウム系清浄剤(D2)を0.050質量%含有する比較例12は、ホットチューブ試験の結果が悪く、高温清浄性が劣る結果となった。
リン原子の含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.020質量%未満である比較例13~14は、LSPIが発生し、LSPI抑制性が劣る結果となった。