(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】凍結保存管理システム
(51)【国際特許分類】
A61J 3/00 20060101AFI20240201BHJP
B65D 25/20 20060101ALI20240201BHJP
G01N 1/42 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61J3/00 301
B65D25/20 P
G01N1/42
(21)【出願番号】P 2020185896
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 栞
(72)【発明者】
【氏名】藤田 守
(72)【発明者】
【氏名】吉村 滋弘
【審査官】山田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0293338(US,A1)
【文献】特開2010-094359(JP,A)
【文献】特開2005-143873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 3/00
B65D 25/20
G01N 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料が入った収納具を保持するホルダ部を有して、前記ホルダ部が高さ方向に複数段に亘って設けられた保管具と、
上部が開口した断熱容器と、前記断熱容器の上部開口部を閉塞する断熱蓋とを有して、前記断熱容器内に液体窒素が貯留された状態で、前記断熱容器の内側に前記保管具を収容するための収容空間が設けられた凍結保存容器とを用いて、
前記凍結保存容器内で凍結保存される生物学的試料の保存状態を管理する凍結保存管理システムであって、
前記ホルダ部毎又は前記収納具毎に取り付けられた識別タグと、
前記断熱容器の上部開口部の周囲に着脱自在に取り付けられると共に、前記識別タグを読み取る読取装置が設けられた設置具とを備え、
前記読取装置は、前記断熱容器の上部開口部から前記保管具が出し入れされる際に、前記上部開口部を通過する前記識別タグを読み取ることを特徴とする凍結保存管理システム。
【請求項2】
前記読取装置により読み出された前記識別タグの情報を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された情報に基づいて演算処理を行う演算部とを有する情報処理装置を備え、
前記情報処理装置は、前記演算処理によって、前記ホルダ部毎又は前記収納具毎に前記凍結保存容器の外部に取り出された時間又は回数を算出することを特徴とする請求項1に記載の凍結保存管理システム。
【請求項3】
前記情報処理装置は、前記演算処理による算出結果を前記記憶部に保存する又は外部に出力することを特徴とする請求項2に記載の凍結保存管理システム。
【請求項4】
前記識別タグは、前記ホルダ部又は前記収納具の4つの角部のうち、対角方向に位置する2つの角部に合わせて各々取り付けられ、
前記読取装置は、前記設置具の周囲のうち、前記断熱容器の上部開口部を挟んで前記保管具を出し入れする作業者が居る側とは反対側の前記ホルダ部又は前記収納具の2つの角部と対向する位置に合わせて各々取り付けられていることを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の凍結保存管理システム。
【請求項5】
前記識別タグは、非接触ICタグであり、
前記読取装置は、前記識別タグを読み取る際に、前記非接触ICタグとの間で無線通信を行うことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の凍結保存管理システム。
【請求項6】
前記設置具は、前記断熱容器の上部開口部から前記保管具が出し入れされる際に、前記断熱容器を保護する保護部材であることを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の凍結保存管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結保存管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、不妊治療や再生医療などの医療分野、新薬の開発などの研究分野では、精子や卵子、胚、血液、細胞などの生物学的試料(以下、単に「試料」という。)の劣化を防ぐため、凍結保存するのが一般的である。凍結保存には、液体窒素(沸点-196℃)を収容した凍結保存容器が、試料を安定した状態で長期間保存できるため、広く用いられている。
【0003】
また、凍結保存容器の中には、大型(例えば内容積が100L以上)の凍結保存容器がある(例えば、下記特許文献1,2を参照。)。このような大型の凍結保存容器は、上部が開口した断熱容器と、断熱容器の上部開口部を閉塞する断熱蓋とを有して、断熱容器内に液体窒素が貯留された状態で、断熱容器の内側に複数の保管具が収容可能な構造となっている。一方、保管具は、試料が入った収納具を保持するホルダ部が高さ方向に複数段(通常は7~11段)に亘って設けられたラック構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-143873号公報
【文献】特開2007-271279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した凍結保存容器内で凍結保存される試料は、凍結保存容器から保管具を出し入れする際に、高温(室温)に曝されると損傷を受けるため、その保存状態をきちんと管理する必要がある。例えば、凍結保存容器内で凍結保存される試料の管理としては、凍結保存容器内の保管温度(-150℃以下)や、保管具を凍結保存容器から取り出した際の暴露時間、保管具を凍結保存容器から取り出した暴露回数などがある。
【0006】
このうち、凍結保存容器内の保管温度は、温度センサ等を用いて管理することが可能である。一方、凍結保存容器からの試料の出し入れは、ノートやパソコン等に記録されたデータを参照しながら、作業者の目視と手作業により行われている。このとき、作業者は、凍結保存容器からの試料の出し入れを行いながら、上述した保管具の暴露時間や暴露回数等を記録する必要がある。
【0007】
しかしながら、このような作業は、自動で行うことができないため、保管具の暴露時間や暴露回数等を正確に管理することは困難である。また、保管具から試料を出し入れするのに要する作業時間は、作業者の熟練度や保管具の何段目のホルダ部に目的の試料があるかによって大きく異なる。すなわち、保管具の上段のホルダ部と下段のホルダ部との間では、試料の出し入れにかかる時間や室温に曝される時間に差が生じることになる。
【0008】
しかしながら、従来は、凍結保存容器からの試料の出し入れに伴う昇温によって試料に与える損傷が大きいにもかかわらず、きちんと管理できていないのが現状である。したがって、このような試料に損傷を与える影響が大きい暴露時間や暴露回数などの情報を含めて、凍結保存容器内で凍結保存される試料の保存状態を適切に管理することが求められている。
【0009】
本発明は、このような従来の事情に鑑みて提案されたものであり、凍結保存容器内で凍結保存される生物学的試料の保存状態を適切に管理することを可能とした凍結保存管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
〔1〕 生物学的試料が入った収納具を保持するホルダ部を有して、前記ホルダ部が高さ方向に複数段に亘って設けられた保管具と、
上部が開口した断熱容器と、前記断熱容器の上部開口部を閉塞する断熱蓋とを有して、前記断熱容器内に液体窒素が貯留された状態で、前記断熱容器の内側に前記保管具を収容するための収容空間が設けられた凍結保存容器とを用いて、
前記凍結保存容器内で凍結保存される生物学的試料の保存状態を管理する凍結保存管理システムであって、
前記ホルダ部毎又は前記収納具毎に取り付けられた識別タグと、
前記断熱容器の上部開口部の周囲に着脱自在に取り付けられると共に、前記識別タグを読み取る読取装置が設けられた設置具とを備え、
前記読取装置は、前記断熱容器の上部開口部から前記保管具が出し入れされる際に、前記上部開口部を通過する前記識別タグを読み取ることを特徴とする凍結保存管理システム。
〔2〕 前記読取装置により読み出された前記識別タグの情報を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された情報に基づいて演算処理を行う演算部とを有する情報処理装置を備え、
前記情報処理装置は、前記演算処理によって、前記ホルダ部毎又は前記収納具毎に前記凍結保存容器の外部に取り出された時間又は回数を算出することを特徴とする前記〔1〕に記載の凍結保存管理システム。
〔3〕 前記情報処理装置は、前記演算処理による算出結果を前記記憶部に保存する又は外部に出力することを特徴とする前記〔2〕に記載の凍結保存管理システム。
〔4〕 前記識別タグは、前記ホルダ部又は前記収納具の4つの角部のうち、対角方向に位置する2つの角部に合わせて各々取り付けられ、
前記読取装置は、前記設置具の周囲のうち、前記断熱容器の上部開口部を挟んで前記保管具を出し入れする作業者が居る側とは反対側の前記ホルダ部又は前記収納具の2つの角部と対向する位置に合わせて各々取り付けられていることを特徴とする前記〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の凍結保存管理システム。
〔5〕 前記識別タグは、非接触ICタグであり、
前記読取装置は、前記識別タグを読み取る際に、前記非接触ICタグとの間で無線通信を行うことを特徴とする前記〔1〕~〔4〕の何れか一項に記載の凍結保存管理システム。
〔6〕 前記設置具は、前記断熱容器の上部開口部から前記保管具が出し入れされる際に、前記断熱容器を保護する保護部材であることを特徴とする前記〔1〕~〔5〕の何れか一項に記載の凍結保存管理システム。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、凍結保存容器内で凍結保存される生物学的試料の保存状態を適切に管理することを可能とした凍結保存管理システムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る凍結保存管理システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す凍結保存管理システムで用いられる保管具の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図1に示す凍結保存管理システムで用いられる凍結保存容器の一例を示す断面図である。
【
図4】
図1に示す凍結保存管理システムが備える設置具に設けられた読取装置による識別タグの読取動作を説明するための断面模式図である。
【
図5】
図1に示す凍結保存管理システムが備える設置具に設けられた読取装置による識別タグの読取動作を説明するための平面模式図である。
【
図6】
図1に示す凍結保存管理システムを用いた凍結保存管理方法を説明するための工程図である。
【
図7】
図1に示す凍結保存管理システムが備える設置具の別の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
(凍結保存管理システム)
先ず、本発明の一実施形態に係る凍結保存管理システムの構成について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
【0015】
なお、
図1は、凍結保存管理システムの構成を示すブロック図である。
図2は、凍結保存管理システムで用いられる保管具20の一例を示す斜視図である。
図3は、凍結保存管理システムで用いられる凍結保存容器30の一例を示す断面図である。
図4は、凍結保存管理システムが備える設置具に設けられた読取装置による識別タグの読取動作を説明するための断面模式図である。
図5は、凍結保存管理システムが備える設置具に設けられた読取装置による識別タグの読取動作を説明するための平面模式図である。
【0016】
本実施形態の凍結保存管理システムは、例えば、不妊治療や再生医療などの医療分野、新薬の開発などの研究分野において、精子や卵子、胚、血液、細胞などの生物学的試料(以下、単に「試料」という。)の劣化を防ぐため、凍結保存される試料の保存状態を管理するものである。
【0017】
具体的に、この凍結保存管理システムでは、
図1に示すように、試料を保管する保管具20と、試料を凍結保存する凍結保存容器30とを用いている。
【0018】
保管具20は、
図2に示すように、試料が入った収納具50を保持するホルダ部21を有して、ホルダ部21が上下方向(高さ方向)に複数段(本実施形態では9段)に亘って設けられたラック構造を有している。
【0019】
収納具50は、例えばアルミニウムなどの熱伝導性に優れた金属や、耐低温性に優れたステンレス鋼などの金属又は樹脂などからなり、上部が開口した方形箱状のケース本体51と、ケース本体51の内側を格子状に仕切る複数の仕切壁52とを有している。
【0020】
ケース本体51の内側には、複数の仕切壁52によって区画された複数の収納部53が設けられている。収納具50では、これら複数の収納部53に試料が入った容器などを収納することが可能となっている。
【0021】
なお、上記収納具50については、ホルダ部21に保持可能な構成であればよく、上述した構成に限定されることなく、その構成について適宜変更を加えることが可能である。
【0022】
保管具20は、複数のホルダ部21を構成するラック本体22を備えている。ラック本体22は、例えばアルミニウムなどの熱伝導性に優れた金属や、耐低温性に優れたステンレス鋼などの金属などからなり、その底面を構成する底板22aと、その上面を構成する天板22bと、その側面を構成する4つの支柱22cとを有している。ラック本体22は、これら底板22a、天板22b及び4つの支柱22cを溶接等により接合することによって、全体として上下方向に延びる略直方体形状を有している。
【0023】
また、ラック本体22は、4つの支柱22cに溶接等により接合された複数の床板22dを有して、このラック本体22の内側を上下方向に区画している。これにより、ラック本体22の内側には、複数のホルダ部21が上下方向に並んで設けられている。保管具20では、これら複数のホルダ部21に対して収納具50を前後方向にスライド自在に保持することが可能となっている。
【0024】
また、ラック本体22には、各ホルダ部21を上下方向に貫通する棒状のスライドストッパ23が設けられている。保管具20では、スライドストッパ23が各ホルダ部21に保持された収納具50を上下方向に貫通することで、各ホルダ部21からの収納具50の脱落を防止している。一方、保管具20では、スライドストッパ23を上方に引き抜くことによって、各ホルダ部21に保持された収納具50を前後方向にスライドさせることが可能となっている。
【0025】
天板22bには、取手部24が設けられている。これにより、保管具20では、取手部24を把持しながら、凍結保存容器30からの出し入れが可能となっている。
【0026】
なお、上記保管具20については、収納具50を保持するホルダ部21を有して、ホルダ部21が高さ方向に複数段に亘って設けられた構成であればよく、上述した構成に限定されることなく、その構成について適宜変更を加えることが可能である。
【0027】
凍結保存容器30は、
図3に示すように、上部が開口した断熱容器31と、断熱容器31の上部開口部31aを閉塞する断熱蓋32とを備えている。
【0028】
断熱容器31は、例えばステンレス等の耐低温性に優れた金属からなる有底円筒状の外容器33と内容器34との間に断熱材35が充填された真空断熱構造を有する二重容器からなる。
【0029】
上部開口部31aは、この断熱容器31の上部を貫通した状態で取り付けられた略円筒状のネック部36により平面視で円形状に開口して設けられている。また、上部開口部31a(ネック部36)は、断熱容器31の中心軸を挟んだ一方の側にシフトした位置に設けられている。
【0030】
また、断熱容器31の下部には、複数個のキャスタ37が取り付けられている。これにより、凍結保存容器30の移動が可能となっている。
【0031】
断熱蓋32は、例えばステンレス等の耐低温性に優れた金属からなる蓋体32aの内側に断熱材32bが充填された構造を有している。断熱蓋32は、ネック部36の内側に対応した略円柱形状を有している。これにより、断熱蓋32は、ネック部36に嵌合された状態で、断熱容器31の上部開口部31aを閉塞することが可能となっている。
【0032】
また、断熱蓋32には、この断熱蓋32を貫通する排気口38が設けられている。排気口38には、必要に応じて排気管38aが接続可能となっている。
【0033】
凍結保存容器30は、複数の保管具20が載置される載置トレイ39と、載置トレイ39を断熱容器31の中心線回りに回転自在に支持する回転支持機構40と、載置トレイ39を回転操作する回転操作機構41とを備えている。
【0034】
載置トレイ39は、円板状の回転テーブル39aと、回転テーブル39aの面上から立ち上がる複数の仕切板39bとを有している。載置トレイ39では、複数の仕切板39bにより区画された回転テーブル39aの面上に複数の保管具20を載置することが可能となっている。
【0035】
回転支持機構40は、載置トレイ39(回転テーブル39a)の中心部を貫通した状態で取り付けられた有天円筒状の回転筒40aと、断熱容器31内の底面中央部から立ち上がると共に、回転筒40aに挿入された円柱状の支軸40bと、回転筒40aの天部と支軸40bの頂部との間に介在される上部ベアリング40cと、回転筒40aと支軸40bとの下側の間に介在される下部ベアリング40dとを有して、載置トレイ39を断熱容器31の中心線回りに回転自在に支持している。なお、下部ベアリング40dについては、振れ止め用のベアリングとして必要に応じて設けられるものであり、省略することも可能である。
【0036】
回転操作機構41は、回転筒40aの天部と連結されると共に、断熱容器31の上部中央部を貫通するシール部42を介して回転自在に支持された操作軸43と、操作軸43を回転駆動する回転モータ44と、回転モータ44による駆動力を操作軸43に伝達する駆動伝達機構45とを有している。
【0037】
また、駆動伝達機構45は、回転モータ44の回転軸44aに取り付けられた駆動プーリ45aと、操作軸43に取り付けられた被動プーリ45bと、駆動プーリ45aと被動プーリ45bとの間に巻き掛けられた無端ベルト45cとを有している。
【0038】
回転操作機構41では、回転モータ44の駆動を制御しながら、載置トレイ39を回転操作することが可能となっている。なお、駆動伝達機構45については、上述した構成に必ずしも限定されるものではなく、回転モータ44による駆動力を操作軸43に伝達可能な構成であればよい。
【0039】
凍結保存容器30では、断熱容器31内の底部に液体窒素Rが貯留されている。液体窒素Rの液位(液面の高さ)は、液面計(図示せず。)により断熱容器31の外から確認することができ、常に一定範囲に維持されるようになっている。
【0040】
凍結保存容器30では、断熱容器31の内側に複数(本実施形態では60個)の保管具20を収容するための収容空間Kが設けられている。このため、本実施形態では、断熱容器31の内容積が1400Lとなる凍結保存容器30が用いられている。
【0041】
各保管具20は、断熱容器31の上部開口部31aを通して出し入れされると共に、載置トレイ39の面上に載置された状態で、断熱容器31内の液体窒素Rの液面よりも上方に形成される極低温の気相中に収容される。
【0042】
また、各保管具20には、その上面(天板22b)などに互いを区別するための番号等の標識が付されている。一方、凍結保存容器30では、各保管具20に付された標識に従って、載置トレイ39を回転させながら、載置トレイ39の仕切板39bによって区画された指定のエリアに、各保管具20を載置(収容)する構成となっている。
【0043】
なお、上記凍結保存容器30については、上部が開口した断熱容器31と、断熱容器31の上部開口部31aを閉塞する断熱蓋32とを有して、断熱容器31内に液体窒素Rが貯留された状態で、断熱容器31の内側に保管具20を収容するための収容空間Kが設けられた構成であればよく、上述した構成に限定されることなく、その構成について適宜変更を加えることが可能である。また、断熱容器31の内容積についても、保管具20の収容する数に応じて、任意に変更することが可能である。
【0044】
本実施形態の凍結保存管理システムは、
図1、
図4及び
図5に示すように、保管具20のホルダ部21毎に取り付けられた識別タグ1と、断熱容器31の上部開口部31aの周囲に着脱自在に取り付けられると共に、識別タグ1を読み取る読取装置2が設けられた設置具3とを備えている。
【0045】
識別タグ1は、非接触ICタグ(RFIDタグ)であり、読取装置2は、識別タグ1を読み取る際に、この非接触ICタグとの間で無線通信を行う。
【0046】
識別タグ1は、保管具20の各ホルダ部21の位置に合わせて、保管具20の上下方向に並んで取り付けられている。また、識別タグ1は、ホルダ部21の4つの角部(支柱22c)のうち、対角方向に位置する2つの角部(支柱22c)に合わせて各々取り付けられている。
【0047】
設置具3は、断熱容器31の上部開口部31aから保管具20が出し入れされる際に、保管具20の接触等から断熱容器31のネック部36を保護するネックチューブガードと呼ばれる保護部材である。
【0048】
設置具3は、ネック部36の内側に対応した円筒状のスリーブ部3aと、スリーブ部3aの上端から拡径方向に全周に亘って突出された円板状のフランジ部3bとを有している。設置具3は、断熱容器31の上部開口部31aから保管具20を出し入れする際に、ネック部36の内側にスリーブ部3aを挿入した状態で、上部開口部31aの上端にフランジ部3bが当接された状態で設置される。
【0049】
なお、設置具3については、保管具20の接触等から断熱容器31のネック部36を保護する機能を必ずしも有している必要はなく、例えば、スリーブ部3aがフランジ部3bの外周端部からネック部36の外側に沿って延長された構成であってもよい。
【0050】
読取装置2は、設置具3の周囲(フランジ部3b)のうち、断熱容器31の上部開口部31aを挟んで保管具20を出し入れする作業者Mが居る側(前側)とは反対側(後側)のホルダ部21の2つの角部(支柱22c)と対向する位置に合わせて各々取り付けられている。
【0051】
読取装置2は、断熱容器31の上部開口部31aから保管具20が出し入れされ際に、上部開口部31aを通過する識別タグ1を読み取る。これにより、凍結保存容器30から保管具20を出し入れする際に、各保管具20のホルダ部21毎に凍結保存容器30からの出し入れの記録を識別タグ1から読み取ることが可能である。
【0052】
また、本実施形態では、
図5(A),(B)に示すように、断熱容器31の上部開口部31aから出し入れされる保管具20の向きが変わっても、ホルダ部21毎に設けられた何れ一方の識別タグ1と、何れか一方の読取装置2とが必ず向かい合った状態となる。
【0053】
これにより、読取装置2による識別タグ1の読取動作を各保管具20のホルダ21毎に適切に行うことが可能である。また、読取装置2は、作業者Mが居る側(前側)とは反対側(後側)に位置するため、凍結保存容器30から試料を出し入れする際の作業者Mの邪魔とはならない。さらに、読取装置2は、凍結保存容器30に対して着脱自在な設置具3に取り付けられているため、他の凍結保存容器30に対して設置具3を容易に脱着して使用することが可能である。
【0054】
本実施形態の凍結保存管理システムは、
図1に示すように、読取装置2により読み出された識別タグ1の情報を処理する情報処理装置10を備えている。情報処理装置10は、コンピュータ(CPU)等からなり、読取装置2により読み出された識別タグ1の情報を記憶する記憶部11と、記憶部11に記憶された情報に基づいて演算処理を行う演算部12とを有している。
【0055】
情報処理装置10は、読取装置2により読み出された識別タグ1の情報から演算処理によって、各保管具20のホルダ部21毎に凍結保存容器30の外部に取り出された暴露時間と暴露回数とを算出する。
【0056】
また、情報処理装置10は、演算処理による算出結果(暴露時間及び暴露回数)を記憶部11に保存する。さらに、情報処理装置10は、演算処理による算出結果(暴露時間及び暴露回数)を外部のモニタ13に出力(表示)することができる。
【0057】
(凍結保存管理方法)
次に、上記
図1に示す凍結保存管理システムを用いた凍結保存管理方法について、
図6を参照しながら説明する。
なお、
図6は、凍結保存管理方法を説明するための工程図である。
【0058】
本実施形態の凍結保存管理方法は、上記
図1に示す凍結保存管理システムを用いて、各保管具20のホルダ部21毎に凍結保存容器30の外部に取り出された暴露時間又は暴露回数を管理することを特徴とする。
【0059】
具体的には、
図6に示すように、凍結保存容器30から保管具20を出し入れする際に、先ず、読取装置2が各保管具20のホルダ部21毎に、凍結保存容器30からの出し入れの記録として、各識別タグ1の「入庫時刻」及び「出庫時刻」を識別タグ1から読み取った後、各識別タグ1の「入庫時刻」及び「出庫時刻」の情報を情報処理装置10の記憶部11に記憶する。
【0060】
次に、情報処理装置10において、演算部12が記憶部11に記憶された情報に基づいて演算処理を行い、各保管具20のホルダ部21毎に、凍結保存容器30の外部に取り出された「暴露時間」及び「暴露回数」を算出する。
【0061】
暴露時間は、「入庫時刻」と「出庫時刻」との差分(出庫時刻-入庫時刻)により算出される。暴露回数は、「入庫時刻」と「出庫時刻」とのカウント数から算出される。
【0062】
次に、情報処理装置10において、演算処理による算出結果(暴露時間及び暴露回数)を記憶部11に保存する。
【0063】
作業者Mは、必要に応じて各保管具20のホルダ部21毎に記録された「暴露時間」及び「暴露回数」をモニタ13により確認することが可能である。
【0064】
本実施形態では、保管具20の上段のホルダ部21と下段のホルダ部21との間で、試料(収納具50)の出し入れにかかる時間や室温に曝される時間を反映した正確な「暴露時間」及び「暴露回数」を、各保管具20のホルダ部21毎に記録することが可能である。
【0065】
したがって、本実施形態の凍結保存管理方法では、上記凍結保存管理システムを用いて、試料に損傷を与える影響が大きい暴露時間や暴露回数などの情報を各保管具20のホルダ部21毎に適切に管理することが可能である。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記設置具3については、上述したネックチューブガードに必ずしも限定されるものではなく、例えば
図7に示す治具のように、断熱容器31の上部開口部31aの周囲に読取装置2が着脱自在に取付可能なものであればよい。
【0067】
また、上記実施形態では、識別タグ1が非接触ICタグであり、読取装置2が、この非接触ICタグとの間で無線通信を行うことで、識別タグ1を読み取る構成となっているが、この非接触ICタグとの無線通信によって、識別タグ1側の記憶部に、上述した「入庫時刻」及び「出庫時刻」の情報や、「暴露時間」及び「暴露回数」を記憶したり、読み出したりすることも可能である。
【0068】
また、上記実施形態では、識別タグ1が各保管具20のホルダ部21毎に取り付けられた構成となっているが、識別タグ1が収納具50毎に取り付けられた構成であってもよい。この場合も、試料に損傷を与える影響が大きい暴露時間や暴露回数などの情報を各保管具20の収納具50毎に適切に管理することが可能である。
【0069】
なお、上記識別タグ1及び読取装置2については、上述した非接触ICタグとの間で無線通信を行う方式の他にも、識別タグ1が読取可能な方式を採用することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
1…識別タグ 2…読取装置 3…設置具 10…情報処理装置 11…記憶部 12…演算部 13…モニタ 20…保管具 21…ホルダ部 30…凍結保存容器 31…断熱容器 31a…上部開口部 32…断熱蓋 50…収納具