(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240201BHJP
B23K 9/29 20060101ALI20240201BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B23K9/095 515A
B23K9/29 L
B23K31/00 N
(21)【出願番号】P 2021129316
(22)【出願日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 勝則
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05393948(US,A)
【文献】特開平11-090635(JP,A)
【文献】特開2000-301339(JP,A)
【文献】特開2020-082184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 9/29
B23K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスシールドアーク溶接によって溶接ビードを形成させることでワーク同士を溶接する溶接装置であって、
前記ワーク同士の突合せ端部に沿うように溶接進行方向で相対移動しながら溶接アークを形成させることで、前記ワーク間に高温の溶融池を形成させる溶接トーチと、
前記溶接進行方向における前記溶接トーチの下流側に配置され、前記溶融池に向けてシールドガスを噴射するシールドガスノズルと、
前記溶接進行方向における前記シールドガスノズルの下流側に配置され、該下流側から前記溶融池の状態を撮像する監視撮像部と、
前記溶接トーチ、前記シールドガスノズル、及び前記監視撮像部を、前記溶接進行方向における上流側から下流側に向かって、この順で配置して一体に固定するアフターシールド治具と、を備え
、
前記アフターシールド治具は、前記シールドガスノズルが固定されるノズル固定部の側壁に、前記監視撮像部のレンズと相対するように配置され、前記レンズによって前記溶融池を撮像可能な位置に開口したカメラ撮像口を有することを特徴とする溶接装置。
【請求項2】
前記監視撮像部と前記アフターシールド治具とが、連結金具を介した一体構造とされていることを特徴とする請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記連結金具は、前記監視撮像部を支持する支持レバーの角度が可変とされており、前記監視撮像部の撮像方向が変更可能であることを特徴とする請求項2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記監視撮像部における前記レンズと前記カメラ撮像口との間の何れかの位置に配置され、前記レンズによって前記溶融池の撮像が可能な内部空間を有した絶縁筒を備えることを特徴とする
請求項1~3の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項5】
前記カメラ撮像口を覆うように耐熱ガラスが配置されていることを特徴とする
請求項1~4の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項6】
前記溶接トーチは、前記アフターシールド治具のトーチ固定部に対して、円筒状の絶縁アダプタを介して挿通されていることを特徴とする請求項1~請求項
5の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記シールドガスノズルは、前記シールドガスを拡散して噴射させる拡散ノズルを先端に備えることを特徴とする請求項1~請求項
6の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項8】
さらに、前記アフターシールド治具は、少なくとも、前記監視撮像部と前記溶融池との間を遮蔽するように配置される遮熱板を備えることを特徴とする請求項1~請求項
7の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項9】
前記監視撮像部は、前記レンズを備えるカメラ本体と、前記レンズの入射面側に配置され、前記レンズによって前記溶融池の撮像が可能な内部空間を有した円筒状のレンズカバーとからなり、前記カメラ本体と前記レンズカバーとが着脱可能に構成されていることを特徴とする請求項1~請求項
8の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項10】
請求項1~請求項
9の何れか一項に記載の溶接装置を用い、ガスシールドアーク溶接によって溶接ビードを形成させることでワーク同士を溶接する溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置及び溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属や非鉄金属などを母材として用いた構造物(被溶接物)を溶接する方法として、コストや汎用性の点で有利なアーク溶接が広く採用されている。このようなアーク溶接としては、例えば、非消耗電極を用いるTIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)、又はプラズマアーク溶接であるGTA溶接(Gas Tungsten Arc welding)等のようなガスシールドアーク溶接が用いられている。また、アーク溶接としては、消耗電極を用いるMIG溶接(Metal Inert Gas welding)、MAG溶接(Metal Active Gas welding)又はGMA溶接(Gas Metal Arc welding)等のようなガスシールドアーク溶接も用いられている。
【0003】
なお、ガスシールドアーク溶接は、上記のような溶接の用途には限定されず、例えば、
被加工物に対するロウ付けや、接合、切断、溶射、溶融炉等にも利用できるものであることから、本発明においては、このような用途についても溶接の一形態として取り扱うものとする。
【0004】
一般に、上記のようなガスシールドアーク溶接においては、溶接用トーチによって電極と被溶接物(母材)との間でアークを発生させ、このアークの熱によって被溶接物を溶かして溶融池を形成しながら溶接が行われる。また、溶接中は、電極の周囲をとり囲むように配置されたノズルからシールドガスを噴出することにより、このシールドガスで大気(空気)を遮断して溶融池の酸化を防止するとともに、溶接ビードを保護しながら溶接が行われる。
【0005】
上記のように、溶接中に、溶融池に対してシールドガスを噴射しながらガスシールドアーク溶接を行う装置として、例えば、シールドガスを供給するためのシールドガスノズルが溶融池の直上に配置されたものが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
また、シールドガスノズルを、溶接進行方向において溶接トーチよりも下流側に配置した、シールドガスによるアフターシールドを行う構成の溶接装置も提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0006】
ここで、従来から、例えば、溶接条件の改善を目的とした各種の調整や、溶接状態の監視を行うため、カメラを用いて溶接部分並びにその周辺の撮像を行い、溶接トーチの状態や溶接部分の状態等を観察することが行われている。
例えば、上述した特許文献1に開示された溶接装置においては、ガスシールドノズルの直上にカメラが配置された構成とされている。
また、特許文献2に開示された溶接装置においては、溶接進行方向において溶接トーチよりも上流側にカメラが設置され、この上流側から溶融池を撮像する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6524766号公報
【文献】特開2007-136461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、ガスシールドノズルの直上にカメラが配置された構成の場合、ガスシールドノズルが撮像を阻害し、溶接状態の監視等を正確に行うことが難しいという問題がある。
このため、例えば、特許文献2に開示された溶接装置のように、別途、カメラを固定するためのクランプアームやシャフト、ホルダ等を組み合わせることで、溶融池を斜め方向から観察できるようにカメラを配置・固定する必要がある。しかしながら、特許文献2のように、クランプアーム等を組み合わせた構成でカメラを配置・固定した構成を採用した場合、溶接部分を監視できる最適な撮像を行うためには、例えば、カメラ角度の調整、撮影距離の調整、さらにはレンズのピント調整や絞り調整等、熟練された技術が必要とされるという問題がある。さらに、特許文献2のように、溶接進行方向において溶接トーチよりも上流側にカメラが設置された構成の場合には、溶接トーチが撮像を阻害する可能性もあり、上記同様、溶接状態の監視等を正確に行うことが難しいという問題がある。
【0009】
一方、引用文献2に開示された溶接装置のように、溶接進行方向における下流側にシールドガスを供給する構成を採用した場合、溶接トーチよりも下流側にシールドボックス等からなる治具を配置することが必要となる。しかしながら、この場合には、溶接進行方向で下流側から撮像を行うことが難しくなり、溶融池を正確に観察することができないという問題があった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、高精度で溶接状態を監視することができ、溶融池が酸化するのを効果的に抑制しながら良好な溶接ビードを形成させてワーク同士を溶接することが可能な溶接装置及び溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
即ち、請求項1に係る発明は、ガスシールドアーク溶接によって溶接ビードを形成させることでワーク同士を溶接する溶接装置であって、前記ワーク同士の突合せ端部に沿うように溶接進行方向で相対移動しながら溶接アークを形成させることで、前記ワーク間に高温の溶融池を形成させる溶接トーチと、前記溶接進行方向における前記溶接トーチの下流側に配置され、前記溶融池に向けてシールドガスを噴射するシールドガスノズルと、前記溶接進行方向における前記シールドガスノズルの下流側に配置され、該下流側から前記溶融池の状態を撮像する監視撮像部と、前記溶接トーチ、前記シールドガスノズル、及び前記監視撮像部を、前記溶接進行方向における上流側から下流側に向かって、この順で配置して一体に固定するアフターシールド治具と、を備えることを特徴とする溶接装置である。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の溶接装置であって、前記監視撮像部と前記アフターシールド治具とが、連結金具を介した一体構造とされていることを特徴とする溶接装置である。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、請求項2に記載の溶接装置であって、前記連結金具は、前記監視撮像部を支持する支持レバーの角度が可変とされており、前記監視撮像部の撮像方向が変更可能であることを特徴とする溶接装置である。
【0014】
また、請求項4に係る発明は、請求項1~請求項3の何れかに記載の溶接装置であって、前記アフターシールド治具は、前記シールドガスノズルが固定されるノズル固定部の側壁に、前記監視撮像部のレンズと相対するように配置され、前記レンズによって前記溶融池を撮像可能な位置に開口したカメラ撮像口を有することを特徴とする溶接装置である。
【0015】
また、請求項5に係る発明は、請求項4に記載の溶接装置であって、前記監視撮像部における前記レンズと前記カメラ撮像口との間の何れかの位置に配置され、前記レンズによって前記溶融池の撮像が可能な内部空間を有した絶縁筒を備えることを特徴とする溶接装置である。
【0016】
また、請求項6に係る発明は、請求項4又は請求項5に記載の溶接装置であって、前記カメラ撮像口を覆うように耐熱ガラスが配置されていることを特徴とする溶接装置である。
【0017】
また、請求項7に係る発明は、請求項1~請求項6の何れかに記載の溶接装置であって、前記溶接トーチは、前記アフターシールド治具のトーチ固定部に対して、円筒状の絶縁アダプタを介して挿通されていることを特徴とする溶接装置である。
【0018】
また、請求項8に係る発明は、請求項1~請求項7の何れかに記載の溶接装置であって、前記シールドガスノズルは、前記シールドガスを拡散して噴射させる拡散ノズルを先端に備えることを特徴とする溶接装置である。
【0019】
また、請求項9に係る発明は、請求項1~請求項8の何れかに記載の溶接装置であって、さらに、前記アフターシールド治具は、少なくとも、前記監視撮像部と前記溶融池との間を遮蔽するように配置される遮熱板を備えることを特徴とする溶接装置である。
【0020】
また、請求項10に係る発明は、請求項1~請求項9の何れかに記載の溶接装置であって、前記監視撮像部は、前記レンズを備えるカメラ本体と、前記レンズの入射面側に配置され、前記レンズによって前記溶融池の撮像が可能な内部空間を有した円筒状のレンズカバーとからなり、前記カメラ本体と前記レンズカバーとが着脱可能に構成されていることを特徴とする溶接装置である。
【0021】
請求項11に係る発明は、請求項1~請求項10の何れかに記載の溶接装置を用い、ガスシールドアーク溶接によって溶接ビードを形成させることでワーク同士を溶接する溶接方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る溶接装置によれば、高精度で溶接状態を監視することができ、溶融池が酸化するのを効果的に抑制しながら良好な溶接ビードを形成させてワーク同士を溶接することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態である溶接装置及び溶接方法について模式的に説明する図であり、溶接装置の全体構成の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態である溶接装置及び溶接方法について模式的に説明する図であり、
図1中に示した溶接装置の要部を拡大して示す概略図で、アフターシールド治具に固定される監視撮像部を、カメラ本体とレンズカバーとに分離した状態で示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態である溶接装置及び溶接方法について模式的に説明する概略図であり、
図2中に示したアフターシールド治具に対し、さらに、遮熱板及びフィルタユニットを備えた例を示す斜視図である。
【
図4】本発明の一実施形態である溶接装置及び溶接方法について模式的に説明する概略図であり、アフターシールド治具に備えられるカメラ撮像口に耐熱ガラスを配置した例を示す斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態である溶接装置及び溶接方法について模式的に説明する概略図であり、アフターシールド治具を下面側から見た図で、シールドガスノズルの先端に設けられた拡散型ノズルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を適用した一実施形態である溶接装置及び溶接方法について、
図1~
図5の各図を適宜参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0025】
<溶接装置>
図1は、本実施形態の溶接装置1の全体構成の一例を示す概略図であり、
図2は、
図1中に示した溶接装置1の要部を拡大して示す概略図で、アフターシールド治具10に固定される監視撮像部4を、カメラ本体41とレンズカバー42とに分離した状態で示す図である。
図3は、
図2中に示したアフターシールド治具10において、さらに、遮熱板16及びフィルタユニット46を備えた例を示す斜視図である。
図4は、アフターシールド治具10に備えられるカメラ撮像口14に耐熱ガラス15を配置した例を示す斜視図である。
また、
図5は、アフターシールド治具10を下面側から見た図で、拡散型ノズルからなるシールドガスノズル3を示す概略図である。
【0026】
図1に示す溶接装置1は、ガスシールドアーク溶接によって図示略の溶接ビードを形成させることで、ワーク80(80)同士を溶接するものである。図示例の溶接装置1は、溶接ワイヤを供給しながら溶接を行う、例えば、TIG溶接やGTA溶接等のような非消耗電極を用いた方法でワーク同士を溶接するものである。一方、本実施形態で説明する溶接装置に備えられるアフターシールド治具の構成は、例えば、MIG溶接、MAG溶接、又はGMA溶接等のような消耗電極を用いた溶接装置に対しても適用可能なものである。
【0027】
即ち、
図1に示すように、本実施形態の溶接装置1は、ワーク80(80)同士の突合せ端部に沿うように溶接進行方向で相対移動しながら溶接アークを形成させることで、ワーク80(80)間に高温の溶融池(図示略)を形成させる溶接トーチ2と、溶接進行方向Yにおける溶接トーチ2の下流側に配置され、溶融池に向けてシールドガスを噴射するシールドガスノズル3と、溶接進行方向Yにおけるシールドガスノズル3の下流側に配置され、該下流側から溶融池の状態を撮像する監視撮像部4と、溶接トーチ2、シールドガスノズル3及び監視撮像部4を、溶接進行方向における上流側から下流側に向かって、この順で配置して一体に固定するアフターシールド治具10と、を備えて概略構成される。
【0028】
[ワーク(被溶接物)]
図1中に示すように、ワーク80は、本実施形態の溶接装置1によってガスシールドアーク溶接される被溶接物であり、例えば、自動車用部品や建築部材等のような、金属や非鉄金属などを母材として用いた構造物が挙げられ、より具体的には、図示例のような円筒状の鋼管からなるワーク80が挙げられる。
なお、
図1等においては詳細な図示を省略しているが、本実施形態で例示するワーク80は、例えば、円筒状の鋼管の端部(突合せ端部81)同士を突き合わせ、これら端部同士の間を溶接することにより、溶接ビードが形成されるものである。即ち、
図1中においては、互いに突き合わせられるワーク80が手前側と後ろ側とで重なった状態となることから、ワーク80を単体で想像線にて表している。
【0029】
[溶接装置の構成]
溶接装置1は、上述したような、溶接トーチ2と、シールドガスノズル3と、監視撮像部4と、溶接トーチ2、シールドガスノズル3、及び監視撮像部4を一体に固定するアフターシールド治具10と、を備える。また、図示例の溶接装置1においては、溶接トーチ2に備えられる電極22の先端近傍に向けて溶接ワイヤWを供給するワイヤ供給部5と、このワイヤ供給部5及び溶接トーチ2を支持するように設けられる筐体60とを備えている。
【0030】
さらに、
図1等においては図示を省略しているが、溶接装置1は、上述したシールドガスノズル3に向けてシールドガスを供給するためのガス供給部、並びに、溶接トーチ2及びワーク80に溶接電流を供給するための溶接電源を含んで構成される。
【0031】
本実施形態の溶接装置1に備えられる筐体60は、上述したように、溶接トーチ2及びワイヤ供給部5を支持するものである。図示例の筐体60は、ワイヤ供給部支持アーム61によってワイヤ供給部5を支持するとともに、下部60a側に溶接トーチ2が取り付けられている。また、図示例においては、ワイヤ供給部支持アーム61は、電極22の先端側に供給する溶接ワイヤWの供給角度を調整可能な構成とされている。
【0032】
さらに、図示例の筐体60には、円筒状の鋼管等からなるワーク80当接する、回転自在とされた一対のローラ62,62が備えられている。一対のローラ62,62がワーク80の表面に当接し、同期回転することにより、例えば、溶接トーチ2に備えられる電極22とワーク80との間の距離を最適範囲で保持することが可能になるとともに、溶接時のトーチ姿勢も安定する。
【0033】
ワイヤ供給部5は、
図1中に示す溶接進行方向Yにおいて、溶接トーチ2よりも上流側に設けられており、上述したように、溶接トーチ2の電極22の先端近傍に向けて、ドラム状に巻回された状態から解かれた溶接ワイヤWを所定の供給速度で供給する。
【0034】
溶接トーチ2は、上述したように、ワーク80(80)同士の突合せ端部81に沿うように、
図1中に示した溶接進行方向Yで相対移動しながら溶接アークを形成させることで、ワーク80(80)間に高温の溶融池を形成させるものである。図示例においては、鋼管からなるワーク80(80)が回転することにより、溶接トーチ2が、溶接進行方向Yで相対移動するような形態となる。
【0035】
図示例の溶接トーチ2は、先端にコンタクトチップを有する電極22を有してなり、図示略の溶接電源から供給される溶接電流が電極22を介して溶接ワイヤWに供給される。
本実施形態で説明する例の溶接装置1は非消耗電極方式を採用するものであり、電極22から供給される溶接電流によって、金属材料からなるワーク80との間でアークが形成される。
【0036】
また、詳細な図示を省略するが、溶接トーチ2のシールドケース21の内側における電極22との間の空間はシールドガス供給路とされており、上述したガス供給部から供給されるシールドガスがガス噴射口23から噴射されることで、溶接アークを大気から保護するとともに、シールドガスが溶接アークそのものとなる。
【0037】
溶接トーチ2で形成された溶接アークにより、溶接ワイヤWを溶融させることで溶接ワイヤWの先端に溶滴を形成する。そして、この溶滴が、電極22による外力を受けて溶接ワイヤWの先端から離脱し、ワーク80の母材へと移行することによって溶接が行われ、溶接ビードが形成される。
【0038】
溶接トーチ2は、例えば、図示略のロボットシステムやマニプレータによる三次元方向での操作により、ワーク80を自在に溶接可能な構成とされている。
【0039】
また、
図1中では図示を省略しているが、溶接トーチ2のみならず、ワーク80に対しても、溶接電源からアースケーブルを介して溶接電流が供給される。
【0040】
なお、溶接トーチ2は、
図1等に示す例のように、詳細を後述するアフターシールド治具10のトーチ固定部11に対して、円筒状の絶縁アダプタ18を介して挿通されていることがより好ましい。このように、溶接トーチ2が、まず、絶縁アダプタ18の内部に挿通され、この絶縁アダプタ18がアフターシールド治具10のトーチ固定部11に挿通固定された構成を採用することで、電極22に供給される高周波電流が後述の監視撮像部4に流れるのを防止できる。また、絶縁アダプタ18を備えることにより、溶接トーチ2からアフターシールド治具10への熱伝導を抑制できる。これにより、デリケートなカメラからなる監視撮像部4が、高周波電流や熱等によって破損するのを防止できる。
上記のような絶縁アダプタ18の材料としては、電気的絶縁性や耐熱性等の観点から、ベークライトを用いることができる。
【0041】
シールドガスノズル3は、上述したように、
図1中に示した溶接進行方向Yにおける溶接トーチ2の下流側に配置され、図示略の溶融池に向けてシールドガスを噴射する。即ち、シールドガスノズル3は、溶融池に向けて、溶接進行方向Yにおける下流側からアフターシールドガスを噴出するものである。
シールドガスノズル3には、詳細を後述するアフターシールド治具10に設けられたガス導入口31を介して、図示略のガス供給部からシールドガスが供給される。
【0042】
シールドガスノズル3としては、特に限定されず、この分野で一般的に用いられているガスノズルを何ら制限無く用いることができる。
一方、シールドガスノズル3としては、
図5に示す例のように、シールドガスを拡散して噴射させる拡散ノズルを先端に備えることが、シールドガスを効果的に拡散させることで溶融池のシールド性がより高められ、溶接池の酸化を確実に抑制でき、良好な溶接ビードを形成させることが可能になるという観点からより好ましい。
【0043】
図示略のガス供給部は、溶接トーチ2のシールドガス供給路、及び、シールドガスノズル3に向けてシールドガスを供給するものであり、例えば、図示略のガス供給源、減圧器、電磁弁、及び流量調整弁等を有して構成される。
図示略のガス供給源には、例えば、高圧(一例として15MPa程度)でシールドガスが充填されたボンベ等を用いることができる。
【0044】
シールドガスのガス種は、ワーク80を構成する材料に応じて適宜選択することができる。
ワーク80の材料が炭素鋼やステンレス鋼である場合には、例えば、二酸化炭素ガス、アルゴンと二酸化炭素との混合ガス、アルゴンと酸素との混合ガス、アルゴンとヘリウムと二酸化炭素との混合ガス、アルゴンとヘリウムと酸素の混合ガス等を用いることができる。
また、ワーク80の材料がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合には、ワーク80の厚さによってシールドガスを選択することができ、アルゴンガス、アルゴンとヘリウムとの混合ガス(ヘリウムリッチ又はアルゴンリッチの混合ガス)等を用いることができる。
一方、ワーク80の材料がステンレスである場合には、アルゴンと水素との混合ガス、アルゴンとヘリウムと水素の混合ガス、アルゴンと窒素の混合ガス、アルゴンとヘリウムと窒素の混合ガス等を用いることができる。
【0045】
減圧器は、例えば、高圧のシールドガスが収容されたガス供給源の導出部に設けられ、シールドガスの圧力を減圧するものであり、必要に応じて1段式減圧器又は2段式減圧器の何れかを選択して採用できる。例えば、ガス供給源内に収容されたシールドガスの圧力が15MPaである場合、減圧器は、例えば、ガス供給源から導出されるシールドガスの圧力を0.2MPa程度まで減圧する。
【0046】
電磁弁は、ガス供給源から溶接トーチ2及びシールドガスノズル3に向けてシールドガスを供給するライン上の任意の位置に設けられ、シールドガスの供給を開始あるいは停止させる。電磁弁としては、この分野で通常用いられるものを何ら制限無く採用することができる。
【0047】
流量調整弁は、ガス供給源から溶接トーチ2及びシールドガスノズル3に向けてシールドガスを供給するライン上において、図示略の電磁弁と溶接トーチ2及びシールドガスノズル3との間に配置される。流量調整弁としては、シールドガスの流量を絞ることの可能な弁であれば、何れの調整弁であっても何ら制限無く採用することができ、例えば、ニードル弁を用いることが可能である。
【0048】
本実施形態の溶接装置1においては、さらに、流量調整弁と溶接トーチ2及びシールドガスノズル3との間に位置するシールドガスの供給ライン上に設けられ、流量調整弁を通過したシールドガスの流量を計測する、図示略の流量計を備えていてもよい。
【0049】
なお、上述した電磁弁及び流量調整弁は、図示略の溶接制御部と電気的に接続され、この溶接制御部によって制御される。即ち、溶接制御部は、ワイヤ供給部5、電磁弁、流量調整弁、流量計等と電気的に接続され、溶接装置1の動作全般を制御する。溶接制御部は、例えば、図示略の記憶領域と制御領域とから構成される。記憶領域には、溶接制御部の制御を行うためのプログラム等が格納される。制御領域は、記憶領域に格納されたプログラムに基づいて溶接装置1全体を制御する。
【0050】
監視撮像部4は、上述したように、
図1中に示した溶接進行方向Yにおけるシールドガスノズル3の下流側に配置され、下流側から図示略の溶融池の状態を撮像するものである。本実施形態の溶接装置1に備えられる監視撮像部4は、
図1及び
図2に示すように、図示略の撮像素子等が組み込まれてなるとともに、レンズ鏡筒(レンズ)43を備えるカメラ本体41と、レンズ鏡筒43の入射面側に配置され、レンズ鏡筒43によって溶融池の撮像が可能な内部空間を有した円筒状のレンズカバー42とから構成される。図示例の監視撮像部4は、カメラ本体41から突出して設けられるレンズ鏡筒43が、レンズカバー42で覆われる構成とされている。溶接進行方向Yの下流側から監視撮像部4で溶融池の状態を撮像することにより、溶接状態を高精度に監視することができる。
【0051】
また、
図1等に示す例においては、監視撮像部4におけるレンズ鏡筒43と、アフターシールド治具10のカメラ撮像口14との間の何れかの位置に配置される絶縁筒7を備えている。絶縁筒7は、レンズ鏡筒43によって溶融池の撮像が可能な内部空間を有した筒状部材であり、図示例においては、レンズカバー42の先端に、カメラ連結アダプタ44を介してねじ留めされている。
【0052】
カメラ本体41は、内部に、例えば、CCDやCMOSセンサ等からなる撮像素子を有して、この撮像素子が受像した光を光電変換して電気的な撮像信号として出力する。これにより、監視撮像部4は、カメラ本体41に接続された、例えば、BNC端子やRCA端子等からなる外部接続用端子45を介して外部のモニタに画像を表示したり、外部の記憶装置に画像を記録(録画)したりすることが可能に構成されている。
また、監視撮像部4は、カメラ本体41に接続された図示略の電源(AC)アダプタを介して電力の供給が行われるとともに、有線又は無線のリモコンを介して各種の操作を行うことが可能に構成されている。
【0053】
カメラ本体41は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の非鉄金属又は金属、あるいは耐熱性及び難燃性を有した樹脂等からなる筐体内に、上述した撮像素子等が収容され、図示例では、全体として略方形箱状に構成されている。
【0054】
レンズ鏡筒(レンズ)43は、例えば、その内側に配置された図示略の複数のレンズにより構成される単焦点レンズである。レンズ鏡筒43は、詳細な図示を省略するが、例えば、複数のレンズのうち一部のレンズを光軸方向に移動させることによって、ピント(フォーカス)調整を行うことが可能とされている。また、レンズ鏡筒43では、その内部に配置された図示略の絞りによって露光調整を行うことが可能とされている。なお、レンズ鏡筒43としては、上述した単焦点レンズに限らず、一部のレンズを光軸方向に移動させることによって変倍を行うズームレンズを採用してもよい。
【0055】
レンズカバー42は、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金等の非鉄金属又は金属、あるいは耐熱性及び難燃性を有した樹脂等から構成される。レンズカバー42は、全体として略円柱状をなすレンズ鏡筒43に対応するように、全体として略円筒状に形成されている。また、レンズカバー42は、基端側、即ちカメラ本体41側が太径とされているとともに、先端側が基端側よりも細径に構成されている。
【0056】
本実施形態においては、
図2に例示した監視撮像部4のように、カメラ本体41とレンズカバー42とが着脱可能に構成されていることが好ましい。これにより、カメラ本体41の内部から撮像素子を取り出したりすることなく、レンズ鏡筒43の交換やピントの調整、絞りの調整等を行うことが可能になるので、溶接箇所からの撮影距離を一定としたままで、監視撮像部4による撮影条件の調整を容易に行うことができる。
【0057】
また、本実施形態の溶接装置1によれば、上述した構成の絶縁筒7が備えられていることにより、上述した絶縁アダプタ18の場合と同様、電極22に供給される高周波電流が監視撮像部4に流れるのを防止できる。また、絶縁筒7を備えることにより、溶接トーチ2から監視撮像部4への熱伝導を抑制できる。従って、上記同様、デリケートなカメラからなる監視撮像部4が高周波電流や熱等によって破損するのを防止できる。
上記のような絶縁筒7の材料としては、絶縁アダプタ18の場合と同様、電気的絶縁性や耐熱性等の観点から、例えば、ベークライト、セラミックス、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、超耐熱ポリイミド成形体(セプラ(登録商標))、エポキシガラス等を用いることができる。
一方、アークスタートで高周波電流が発生しないタッチスタート方式のTIG溶接、MAG溶接、及びMAG溶接の場合においては、絶縁筒7の材料として、例えば、金属、非鉄金属等を用いることができる。
【0058】
本実施形態の溶接装置1においては、
図3中に示す例のように、監視撮像部4が、さらに、フィルタユニット46を有した構成を採用してもよい。このフィルタユニット46は、例えば、NDフィルタ等から構成され、レンズ鏡筒43(レンズカバー42)の前面側に取り付けられる光学フィルタである。図示例においては、フィルタユニット46は、レンズカバー42と、カメラ連結アダプタ44との間に配置されている。なお、本実施形態においては、フィルタユニット46は必須の構成でないため、このフィルタユニット46を取り外した状態で使用することも可能である。
【0059】
なお、上記のような監視撮像部4としては、例えば、特開2020-042241号公報に開示されたようなカメラユニットを何ら制限無く採用することが可能である。
【0060】
アフターシールド治具10は、上述した溶接トーチ2、シールドガスノズル3、及び監視撮像部4を、
図1中に示した溶接進行方向Yにおける上流側から下流側に向かって、この順で配置して一体に固定するものである。
アフターシールド治具10は、溶接トーチ2が固定されるトーチ固定部11と、シールドガスノズル3が固定されるノズル固定部12(
図5を参照)と、監視撮像部4を固定する連結金具13とを備える。これら、トーチ固定部11、ノズル固定部12及び連結金具13は、溶接進行方向Yにおける上流側から下流側に向かって、この順で配置される。
また、図示例のアフターシールド治具10は、ノズル固定部12に固定された溶接トーチ2を介して、溶接装置1の筐体60に支持されている。
【0061】
また、図示例のアフターシールド治具10は、側壁10cに、監視撮像部4のレンズ鏡筒43と相対するように配置され、レンズ鏡筒43によって溶融池を撮像可能な位置に開口したカメラ撮像口14が設けられている。
【0062】
トーチ固定部11は、治具本体10Aにおける、溶接進行方向Yで上流側の位置に配置され、治具本体10Aを貫通する円筒状の孔として設けられる。
図1に示す例においては、溶接トーチ2が、円筒状の絶縁アダプタ18に挿通されており、この状態でトーチ固定部11に対して挿通・固定されている(
図2及び
図5等も参照)。
【0063】
ノズル固定部12は、治具本体10Aにおける、溶接進行方向Yでトーチ固定部11よりも下流側の位置に配置され、
図1及び
図5等においては詳細な図示を省略しているが、トーチ固定部11と同様、治具本体10Aを貫通する円筒状の孔として設けられる。また、ノズル固定部12は、治具本体10Aの下面10bに設けられた凹部10d内において、シールドガスノズル3の先端が治具本体10Aの下面10bから突出することの無い位置で設けられている。
【0064】
連結金具13は、アフターシールド治具10と、監視撮像部4とを、一体構造として固定するものであり、
図1及び
図2に示す例においては、治具本体10Aの上面10aに取り付けられたベース体13aと、このベース体13aに対して支持シャフト13cによって可動に取り付けられた支持レバー13bとから構成される。
また、図示例のアフターシールド治具10は、監視撮像部4を支持する支持レバー13bの角度が可変とされており、監視撮像部4の撮像方向を変更することが可能な構成とされている。
【0065】
また、
図3に示す例のように、本実施形態で用いられるアフターシールド治具10は、シールドガスノズル3が固定されるノズル固定部12の側壁10cに、監視撮像部4のレンズ鏡筒43と相対するように配置され、レンズ鏡筒43によって溶融池を撮像可能な位置に開口したカメラ撮像口14が設けられている。
このように、アフターシールド治具10にカメラ撮像口14を設けることで、アフターシールド治具10による阻害が生じることなく、
図5中に示した凹部10dを介して、監視撮像部4による溶融池の撮像・監視が可能となる。
【0066】
本実施形態においては、上記のように、アフターシールド治具10が、連結金具13を介して、監視撮像部4と一体構造とされていることにより、監視撮像部4による撮像条件を、一度、最適条件に調整することで、その後の再調整は不要になる。
【0067】
また、連結金具13の支持レバー13bの調整によって監視撮像部4の撮像方向(角度)変更する場合、この角度は、溶融池の液面、即ち、円筒状のワーク80の接線に対する角度で0~45°の範囲が好ましい。一方、例えば、ミラーやプリズム等を用いた屈折撮像を実施する場合には、この限りではない。
【0068】
なお、本実施形態で用いられるアフターシールド治具10における治具本体10Aの上面10aには、ノズル固定部12に固定されたシールドガスノズル3に向けてシールドガスを供給するためのガス導入口31が取り付けられている。
さらに、アフターシールド治具10における治具本体10Aの上面10aには、アフターシールド治具10全体を冷却するための冷却水が導入される冷却水導入口17a及び冷却水導出口17bが設けられている。
【0069】
アフターシールド治具10を構成する各部材の材料としては、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼等、この分野で従来から用いられている耐熱性等に優れた金属材料を何ら制限無く採用することが可能である。
【0070】
また、本実施形態の溶接装置1に備えられるアフターシールド治具10は、
図3に示す例のように、少なくとも、監視撮像部4と溶融池との間を遮蔽するように配置される遮熱板16を備えた構成を採用してもよい。このような遮熱板16の材料としても、特に限定されず、耐熱性等に優れた金属板等を何ら制限無く採用することが可能である。
上記のような遮熱板16が設けられていることで、アーク光や溶融池で生じる熱から、絶縁筒7、レンズカバー42及びカメラ連結アダプタ44等を遮熱して保護することが可能となる。
【0071】
なお、本実施形態の溶接装置1においては、
図4に示す例のように、カメラ撮像口14を覆うように耐熱ガラス15が配置されている構成を採用した場合には、下流側から供給されるシールドガスが効果的に溶融池をシールドできる効果が得られる。
一方、本実施形態においては、上述したような、シールドガスノズル3の先端に拡散ノズルを備えた構成を採用することで、上記のような耐熱ガラス15を設けない場合であっても、溶融池を効果的にシールドできる効果が得られる。
【0072】
本実施形態の溶接装置1にように、溶接進行方向Yにおける下流側(後ろ側)に監視撮像部4を設ける場合、一般に、ガスシールドノズルが撮像を阻害し、溶接状態の監視等を正確に行うことが難しくなる。これに対し、本実施形態の溶接装置1は、上記のような、溶接トーチ2、シールドガスノズル3、及び監視撮像部4を、溶接進行方向Yにおける上流側から下流側に向かって、この順で配置して一体に固定するアフターシールド治具10を備えることにより、溶融池や溶接ビードを、監視撮像部4を用いて、他の部材等に阻害されることなく高精度で撮像することが可能になる。
【0073】
また、本実施形態によれば、上記のアフターシールド治具10を備えることにより、例えば、溶接トーチ2に供給される高周波電流による影響が監視撮像部4に及ぶのを効果的に抑制できる。さらに、アフターシールド治具10を備えることにより、溶接トーチ2で発生する熱、溶融池や溶接ビードから発生する熱、さらには溶接によって発生するスパッタから生じる熱の影響が監視撮像部4に及ぶのを効果的に抑制できる。これにより、デリケートなカメラからなる監視撮像部4が、高周波電流や高温によって破損するのを防止することが可能になる。
【0074】
<溶接方法>
次に、本実施形態の溶接方法について、上記と同じ図面を適宜参照しながら説明する。
本実施形態の溶接方法は、上述した本実施形態の溶接装置1を用い、ガスシールドアーク溶接によって溶接ビードを形成させることでワーク80(80)同士を溶接する方法である。
なお、以下の説明においては、上記の溶接装置1の記述で既に説明した溶接処理については、その詳細な説明を省略する場合がある。
【0075】
本実施形態の溶接方法においては、まず、一対のワーク80(80)同士を、各々の突合せ端部81を突き合わせるようにセットする。
次いで、ワーク80(80)の表面に、ワーク80(80)を回転させながら支持する一対のローラ62,62を当接させる。
【0076】
次いで、溶接装置1における図示略のロボットシステムやマニプレータによる三次元方向での操作により、溶接トーチ2、シールドガスノズル3及び監視撮像部4の位置が、互いに突き合わせた突合せ端部81の位置に沿うように、アフターシールド治具10を移動させる。
【0077】
次いで、ワーク80(80)を、溶接進行方向Yで、所定の速度で回転させながら、ワイヤ供給部5から、溶接トーチ2の電極22の先端近傍に向けて溶接ワイヤWを供給する。この際、ワイヤ供給部支持アーム61によって溶接ワイヤWの供給角度を調整することにより、電極22の先端近傍における最適な位置に溶接ワイヤWを供給する。
【0078】
そして、溶接トーチ2に高周波電流を通電して溶接アークを形成させ、溶接ワイヤWを溶融させることで、突合せ端部81に沿うように、順次、溶融池を形成させる。これと同時に、溶接トーチ2におけるガス噴射口23からから溶融池に向けてシールドガスを噴射させるとともに、シールドガスノズル3から溶融池に向けてアフターシールドガスを噴射させる。
【0079】
この際、本実施形態の溶接方法においては、監視撮像部4により、形成される溶融池並びに溶接ビードを撮像しながら、溶接状態を監視する。
【0080】
上記のような手順により、本実施形態の溶接装置1を用いてワーク80(80)同士を溶接できる。
本実施形態の溶接方法によれば、溶接装置1を用いることで、上記同様、溶融池や溶接ビードを、監視撮像部4を用いて、他の部材等に阻害されることなく高精度で撮像でき、さらに、この撮像データを用いて溶接条件を容易に最適化することが可能となる。
また、本実施形態の溶接方法によれば、溶接装置1を用いることで、上記同様、溶接トーチ2に供給される高周波電流による影響、溶接トーチ2で発生する熱、溶融池や溶接ビードから発生する熱、さらには溶接によって発生するスパッタから生じる熱等による影響等が監視撮像部4に及ぶのを効果的に抑制できる効果が得られる。
【0081】
<その他の形態>
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明には、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の溶接装置は、高精度で溶接状態を監視することができ、溶融池が酸化するのを効果的に抑制しながら良好な溶接ビードを形成させてワーク同士を溶接することが可能となる。従って、本発明は、例えば、金属や非鉄金属などを母材として用いた構造物(被溶接物)をガスシールドアーク溶接する用途において非常に好適である。
【符号の説明】
【0083】
1…溶接装置
2…溶接トーチ
21…シールドケース
22…電極
23…ガス噴射口
3…シールドガスノズル
31…ガス導入口
4…監視撮像部
41…カメラ本体
42…レンズカバー
43…レンズ鏡筒(レンズ)
44…カメラ連結アダプタ
45…外部接続用端子
46…フィルタユニット
5…ワイヤ供給部
60…筐体
60a…下部
61…ワイヤ供給部支持アーム
7…絶縁筒
10…アフターシールド治具
10A…治具本体
10a…上面
10b…下面
10c…側壁
10d…凹部
11…トーチ固定部
12…ノズル固定部
13…連結金具
13a…ベース体
13b…支持レバー
13c…支持シャフト
14…カメラ撮像口
15…耐熱ガラス
16…遮熱板
17a…冷却水導入口
17b…冷却水導出口
18…絶縁アダプタ
80…ワーク(一対のワーク)
81…突合せ端部
W…溶接ワイヤ
Y…溶接進行方向