(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】コリオリ流量計、流量測定方法、及び、コリオリ流量計用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01F 1/84 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
G01F1/84
(21)【出願番号】P 2021545117
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2020021771
(87)【国際公開番号】W WO2021049105
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2019166042
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】糸賀 友城
(72)【発明者】
【氏名】寺阪 正訓
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-531859(JP,A)
【文献】特開平08-082543(JP,A)
【文献】特開2005-274254(JP,A)
【文献】特表2004-509330(JP,A)
【文献】米国特許第05602344(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる管路を基準振動数で加振する加振器と、
前記加振器による加振力により誘起される前記管路の強制振動を検出する第1検出機構と、
強制振動によって前記流体に発生するコリオリ力により誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構と、
前記基準振動数を有する基準周期信号が参照信号として入力され、前記第1検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第1検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
f、前記振幅の参照信号に対する直交成分Y
f、又は、前記第1検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
fの少なくともいずれか1つを出力する第1ロックインアンプと、
前記基準周期信号が参照信号として入力され、前記第2検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第2検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
c、前記振幅の参照信号に対する直交成分Y
c、又は、前記第2検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
cの少なくともいずれか1つを出力する第2ロックインアンプと、
X
fとY
cの比、Y
fとX
cの比、又は、θ
fとθ
cの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、を備えたことを特徴とするコリオリ流量計。
【請求項2】
前記流量算出部が、X
fとY
cの比又はY
fとX
cの比の絶対値、あるいは、符号反転させた値に基づいて流量を算出する請求項1記載のコリオリ流量計。
【請求項3】
前記第1ロックインアンプ、及び、前記第2ロックインアンプが2位相ロックインアンプである請求項1又は2記載のコリオリ流量計。
【請求項4】
流体が流れる管路を基準振動数で加振する加振器と、前記加振器による加振力により誘起される前記管路の強制振動を検出する第1検出機構と、強制振動によって前記流体に発生するコリオリ力により誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構と、前記基準振動数を有する基準周期信号が参照信号として入力され、前記第1検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第1検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
f、前記振幅の参照信号に対する直交成分Y
f、又は、前記第1検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
fの少なくともいずれか1つを出力する第1ロックインアンプと、前記基準周期信号が参照信号として入力され、前記第2検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第2検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
c、前記振幅の参照信号に対する直交成分Y
c、又は、前記第2検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
cの少なくともいずれか1つを出力する第2ロックインアンプと、を備えたコリオリ流量計を用いた流量測定方法であって、
X
fとY
cの比、Y
fとX
cの比、又は、θ
fとθ
cの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出することを特徴とする流量測定方法。
【請求項5】
流体が流れる管路を基準振動数で加振する加振器と、前記加振器による加振力により誘起される前記管路の強制振動を検出する第1検出機構と、強制振動によって前記流体に発生するコリオリ力により誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構と、前記基準振動数を有する基準周期信号が参照信号として入力され、前記第1検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第1検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
f、前記振幅の参照信号に対する直交成分Y
f、又は、前記第1検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
fの少なくともいずれか1つを出力する第1ロックインアンプと、前記基準周期信号が参照信号として入力され、前記第2検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第2検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
c、前記振幅の参照信号に対する直交成分Y
c、又は、前記第2検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
cの少なくともいずれか1つを出力する第2ロックインアンプと、を備えたコリオリ流量計に用いられるプログラムであって、
X
fとY
cの比、Y
fとX
cの比、又は、θ
fとθ
cの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出する流量算出部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするコリオリ流量計用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コリオリ流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管路に流れる流体の流量を非接触で高精度に測定したい場合には、コリオリ流量計が用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
コリオリ流量計には、例えば振幅比計測方式と呼ばれる原理に基づいて管路を流れる流体の流量を算出するものがある。この方式では、流体が流れる管路が外部からの加振力により誘起される強制振動の振幅Rfと、強制振動により流体に発生するコリオリ力に誘起されるコリオリ振動の振幅Rcとがそれぞれ検出機構により検出され、RfとRcの比に基づいて流量が算出される。
【0004】
このようなコリオリ流量計では流量変化に対する感度を向上させるために、
図8に示すようなオフセット調整が行われる。すなわち、検出機構で検出される振幅R
cの変化量が微小な場合には、オフセットによって変化量を増加させて検出し、信号感度を向上させている。
【0005】
しかしながら、オフセット調整や位相調整は測定状況等に応じて適切に行われないと、流量に関する情報が失われてしまう可能性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、オフセット調整や位相調整を行わなくても従来よりも高感度の流量測定が可能となるコリオリ流量計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明に係るコリオリ流量計は、従来の振幅比計測方式のように強制振動の振幅Rfとコリオリ振動の振幅Rcとの比に基づいて流量を算出するよりも、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差に基づいて流量を算出した場合には、従来のようにオフセット調整や位相調整を行わなくても流量変化に対する感度を向上させられることを本願発明者らが鋭意検討の結果見出したことにより初めてなされたものである。
【0009】
具体的に本発明に係るコリオリ流量計は、流体が流れる管路を基準振動数で加振する加振器と、前記加振器による加振力により誘起される前記管路の強制振動を検出する第1検出機構と、強制振動によって前記流体に発生するコリオリ力により誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構と、前記基準振動数を有する基準周期信号が参照信号として入力され、前記第1検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第1検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分Xf、前記振幅の参照信号に対する直交成分Yf、又は、前記第1検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθfの少なくともいずれか1つを出力する第1ロックインアンプと、前記基準周期信号が参照信号として入力され、前記第2検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第2検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分Xc、前記振幅の参照信号に対する直交成分Yc、又は、前記第2検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれの少なくともいずれか1つを出力する第2ロックインアンプと、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出する流量算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る流量測定方法は、流体が流れる管路を基準振動数で加振する加振器と、前記加振器による加振力により誘起される前記管路の強制振動を検出する第1検出機構と、強制振動によって前記流体に発生するコリオリ力により誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構と、前記基準振動数を有する基準周期信号が参照信号として入力され、前記第1検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第1検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分Xf、前記振幅の参照信号に対する直交成分Yf、又は、前記第1検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθfの少なくともいずれか1つを出力する第1ロックインアンプと、前記基準周期信号が参照信号として入力され、前記第2検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第2検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分Xc、前記振幅の参照信号に対する直交成分Yc、又は、前記第2検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθcの少なくともいずれか1つを出力する第2ロックインアンプと、を備えたコリオリ流量計を用いた流量測定方法であって、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出することを特徴とする。
【0011】
このようなものであれば、前記流量算出部が、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出することで、従来よりも流量変化に対する感度を高くすることができる。すなわち、コリオリ振動の振幅Rcのベクトル成分のように流量変化に対する変化量が微小で検出しにくい場合がある値を用いるのではなく、コリオリ振動の参照信号に対する直交成分、同相成分、参照信号からの位相のずれは、流量変化に対して変化量が大きく、感度を向上させることができる。
【0012】
したがって、従来のようにオフセット調整や位相調整を行わなくても十分に流量変化に対して高感度なコリオリ流量計を実現できる。
【0013】
加えて、各ロックインアンプによって各検出機構の出力信号に含まれる前記基準振動数を有する強制振動又はコリオリ振動のみをノイズを大幅に低減した形で選択的に抽出することができる。そして、抽出された強制振動及びコリオリ振動に基づいて各ロックインアンプから出力される振幅の直交成分、同相成分、参照信号からの位相のずれについてもノイズが低減された形で出力できる。
【0014】
流量の増減方向と前記流量算出部で算出される算出結果が一致するようにするには、前記流量算出部が、XfとYcの比又はYfとXcの比の絶対値、あるいは、符号反転させた値に基づいて流量を算出するものであればよい。
【0015】
強制振動又はコリオリ振動の振幅の直交成分及び同相成分を同時に出力できるようにしつつ、機器の構成を簡素化するには、前記第1ロックインアンプ、及び、前記第2ロックインアンプが2位相ロックインアンプであればよい。
【0016】
既存のコリオリ流量計についてプログラムを更新することにより本発明に係るコリオリ流量計と同様の効果を享受できるようにするには、流体が流れる管路を基準振動数で加振する加振器と、前記加振器による加振力により誘起される前記管路の強制振動を検出する第1検出機構と、強制振動によって前記流体に発生するコリオリ力により誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構と、前記基準振動数を有する基準周期信号が参照信号として入力され、前記第1検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第1検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分Xf、前記振幅の参照信号に対する直交成分Yf、又は、前記第1検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθfの少なくともいずれか1つを出力する第1ロックインアンプと、前記基準周期信号が参照信号として入力され、前記第2検出機構の出力信号が測定信号として入力されるものであり、前記第2検出機構の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分Xc、前記振幅の参照信号に対する直交成分Yc、又は、前記第2検出機構の出力信号の参照信号からの位相のずれθcの少なくともいずれか1つを出力する第2ロックインアンプと、を備えたコリオリ流量計に用いられるプログラムであって、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差の少なくともいずれか1つに基づいて前記管路を流れる流体の流量を算出する流量算出部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするコリオリ流量計用プログラムを用いれば良い。
【0017】
なお、コリオリ流量計用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、HDD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明に係るコリオリ流量計は、流量算出部が、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差の少なくともいずれか1つに基づいて流量を算出するように構成されているので、従来のようにオフセット調整や位相調整を行わなくても流量変化に対する感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るコリオリ流量計の外観を示す模式的斜視図。
【
図2】第1実施形態に係るコリオリ流量計の全体構成を示す模式図。
【
図3】第1実施形態に係るコリオリ流量計の管路の振動状態を示す模式図。
【
図4】第1実施形態に係るコリオリ流量計のコリオリ振動の有無による違いを示す模式図。
【
図5】第1実施形態に係るコリオリ流量計のロックインアンプの構成を示す模式図。
【
図6】第1実施形態に係る流量算出部による流量の算出結果を示すグラフ。
【
図7】第1実施形態の変形例における流量算出部による流量の算出結果を示すグラフ。
【
図8】従来のコリオリ流量計におけるオフセット調整について説明する模式図。
【符号の説明】
【0020】
100・・・コリオリ流量計
1 ・・・管路
2 ・・・加振器
4 ・・・第1検出機構
5 ・・・第2検出機構
6 ・・・第1ロックインアンプ
7 ・・・第2ロックインアンプ
8 ・・・流量算出部
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第1実施形態に係るコリオリ流量計100について
図1乃至
図6を参照しながら説明する。この実施形態のコリオリ流量計100は、ソレノイドを用いて強制振動及びコリオリ振動が検出される速度方式のものである。
【0022】
本実施形態のコリオリ流量計100は、
図1及び
図2に示すように流体として液体が流れるU字状の管路1と、管路1を加振する加振器2と、加振器2に対して正弦波状の電圧信号を入力するファンクションジェネレータ3と、加振器2による管路1の強制振動を検出する第1検出機構4と、強制振動により管路1を流れる流体に発生するコリオリ力で誘起されるコリオリ振動を検出する第2検出機構5と、第1検出機構4の出力信号が入力される第1ロックインアンプ6と、第2検出機構5の出力信号が入力される第2ロックインアンプ7と、第1ロックインアンプ6及び第2ロックインアンプ7の出力に基づいて流量を算出する流量算出部8と、を備えている。
【0023】
各部について詳述する。管路1は、垂直方向に起立する2本の支柱部分11と、支柱部分11を架橋するように延びる水平部分12とからなるキャピラリである。
図3及び
図4に示すように管路1は加振器2によって水平部分12を中心軸とする回転方向に対して振動するように構成されている。
【0024】
加振器2は、管路1の支柱部分11の側面を管路1の水平部分12に対して直交する方向に力を付与して加振するものである。本実施形態では加振器2は、管路1の各支柱部分11に設けられたマグネットM1、M2と、それぞれのマグネットM1、M2に対して対向するように設けられた一対のソレノイドコイルC1、C2とからなる。各ソレノイドコイルC1、C2にはファンクションジェネレータ3が接続されており、それぞれに逆相の正弦波の電圧信号が印加される。したがって、
図4に示すように管路1の各支柱部分11はそれぞれ逆方向に変位し、ねじれ振動が繰り返されることになる。また、管路1に液体が流れておらずコリオリ力が発生しない場合には、管路1の水平部分12の中心点は振動の節となるためほとんど変位しない。一方、コリオリ力によるコリオリ振動が誘起されている場合には、管路1の水平部分12の中心部分にもコリオリ力によるねじり振動の変位が発生する。
【0025】
ファンクションジェネレータ3は、この測定系の固有振動数と一致する基準振動数を有する正弦波の電圧信号を出力する。
【0026】
第1検出機構4は、
図1及び
図2に示すように管路1の水平部分12の両端部にそれぞれ設けられた一対のソレノイドコイルC3、C4と、マグネットM3、M4からなる。強制振動によって管路1の水平部分12が変位して、ソレノイドコイルC3、C4に対してマグネットM3、M4の位置が変化することにより誘起される誘導電流が水平部分12の両端部における変位を示す出力信号として出力される。本実施形態では水平部分12の両端部が
図4に示すようにそれぞれ互い違いに変位することになるので、強制振動の振幅が得られるように各ソレノイドコイルC3、C4の出力信号の差が第1検出機構4の出力信号として第1ロックインアンプ6に入力される。
【0027】
第2検出機構5は、
図1及び
図2に示すように管路1の水平部分12の中心点に設けられたソレノイドコイルC5とマグネットM5からなる。第2検出機構5は、コリオリ振動による管路1の水平部分12の中心点が変位して、ソレノイドコイルC5に対してマグネットM5の位置が変化することにより誘起される誘導電流が、コリオリ振動の振幅を示す出力信号として出力される。この第2検出機構5の出力信号は、第2ロックインアンプ7に入力される。
【0028】
第1ロックインアンプ6は、
図2に示すように測定信号として強制振動を検出する第1検出機構4の出力信号が入力され、参照信号としてファンクションジェネレータ3から出力されている電圧信号が基準周期信号として入力される。
図5に示すように第1ロックインアンプ6は2位相デジタルロックインアンプであって、第1検出機構4の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
f、振幅の参照信号に対する直交成分Y
f、第1検出機構4の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
f、第1検出機構4の出力信号の振幅R
fを算出する。第1ロックインアンプ6は、位相シフト回路と、第1乗算器及び第2乗算器と、第1乗算器の出力が入力される第1ローパスフィルタと、第2乗算器の出力が入力される第2ローパスフィルタと、振幅Rを算出する第1演算回路と、位相のずれθ
fを算出する第2演算回路とを備えている。
【0029】
位相シフト回路は、参照信号が入力され、第1乗算器に対して参照信号を90度位相シフトさせた信号を出力し、第2乗算器に対して参照信号をそのまま出力する。
【0030】
第1乗算器は、測定信号と90度位相シフトした参照信号との乗算演算を行う。第1乗算器の演算結果は第1ローパスフィルタへと入力される。また、第1ローパスフィルタ出力は、同相成分であるXfとなる。
【0031】
第2乗算器は、測定信号と参照信号との乗算演算を行う。第2乗算器の演算結果は第2ローパスフィルタへと入力される。また、第2ローパスフィルタの出力は、直交成分であるYfとなる。
【0032】
第1演算回路は、算出されたXf、Yfの平方の和の平方根を算出し、振幅Rを算出する。また、第2演算回路は、算出されたXf、Yfの比のアークタンジェントから位相のずれθfを算出する。
【0033】
第2ロックインアンプ7は、
図2に示すように測定信号としてコリオリ振動を検出する第2検出機構5の出力信号が入力され、参照信号としてファンクションジェネレータ3から出力されている電圧信号が基準周期信号として入力される。
図5に示すように第2ロックインアンプ7は2位相デジタルロックインアンプであって、第2検出機構5の出力信号の振幅の参照信号に対する同相成分X
c、振幅の参照信号に対する直交成分Y
c、第2検出機構5の出力信号の参照信号からの位相のずれθ
c、第2検出機構5の出力信号の振幅R
cを出力する。第2ロックインアンプ7は、第1ロックインアンプ6と同じ構成を有しており、入力される測定信号のみが異なっている。したがって、第2ロックインアンプ7の詳細な説明については省略する。
【0034】
流量算出部8は、CPU、メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、各種入出力機器等を備えたいわゆるコンピュータであって、メモリに格納されているコリオリ流量計用プログラムが実行され、各機器が協業することによりその機能が実現される。より具体的には流量算出部8は、第1ロックインアンプ6から強制振動の振幅の同相成分Xf、直交成分Yfが入力され、第2ロックインアンプ7からコリオリ振動の振幅の同相成分Xc、直交成分Ycが入力される。本実施形態では、流量算出部8は、以下の振幅比計測方式の流量算出式において強制振動の振幅Rfとコリオリ振動の振幅Rcの比に相当する部分の代わりに、XfとYcの比、又は、YfとXcの比のいずれかを用いて管路1を流れている液体の流量を算出する。
【0035】
なお、従来の振幅比計測方式の流量算出式は以下のようにして導出される。以降の説明においては、Qm:質量流量、Iθ:コリオリ振動方向の慣性モーメント、d:管路1の幅、α:固有振動数比、ωφ:強制振動方向の固有振動数、ωθ:コリオリ振動方向の固有振動数、Vθ0コリオリ振動方向の角速度振幅、Θ0:ねじれ振動方向θの振幅、Φ0:強制振動方向φの振幅とする。注意としてねじれ振動方向のうち管路1のロール角を示す記号として慣例に従いθと記載しているが、検出信号と基準信号との位相の差θc、θfとは異なる種類の物理量である。
【0036】
まず、速度方式のコリオリ流量計に用いられる流量算出式は以下のようなものである。
Qm=Kθ{(1―ωφ
2/ωθ
2)/2d2}・{dΘ0/(LωφΦ0)}
【0037】
また、コリオリ振動による管路1のθ方向のねじれ振動がθ=Θ0cos(ωφt)であるときには、速度VはV=ωφΘ0・sin(ωφt)である。したがって、検出機構1で検出されるコリオリ振動の角速度振幅はVθ0は、Vθ0=ωφΘ0となる。
【0038】
さらに上記のQmの式において分母分子にωφをかけることで以下のように変形できる。
Qm=Kθ{(1―ωφ
2/ωθ
2)/2d2}・{dωφΘ0/(LωφΦ0ωφ)}
=Kθ{(1―ωφ
2/ωθ
2)/2d2}・{dVθ0/(LVφ0ωφ)}
【0039】
ここで、ωφ=α(Kθ/Iθ)^(1/2)とすると、Qmは以下のように整理できる。
Qm={Iθ/2d2}・{(1-α2)/α2Kθ}{dVθ0/(LVφ0ωφ)}
【0040】
さらに、dVθ0はコリオリ振動の振幅Rc、LVφ0ωφは強制振動の振幅Rfに相当するので以下のようになる。
Qm=(Iθ/2d2)・{(1-α2)/α2}・(Rc/Rf)
【0041】
一方、本実施形態において流量算出部8が用いている算出式は以下のようなものである。
Qm=(Iθ/2d2)・{(1-α2)/α2}・B・absA
【0042】
ここで、AにはXc/Yf、Yc/Xfのいずれかが代入される。また、BにはAに代入される値に応じた定数が代入される。
【0043】
このように構成された本実施形態のコリオリ流量計100を用いて流量を10ステップ変化させた場合の測定結果について
図6を参照しながら説明する。
図6には、従来と同じくR
c/R
fを用いている場合と、X
c/Y
f、Y
c/X
fのそれぞれを用いた場合の測定結果を示している。また、測定された値については初期値に基づいて正規化してある。
図6からわかるように従来のようにR
c/R
fを用いた場合には、流量変化に対する感度が小さいためノイズが流量変化のステップ幅よりも大きく発生してしまい、所望の感度を実現できていない。これに対して、X
c/Y
f、Y
c/X
fのいずれの場合でも流量変化に対する感度を従来よりも向上させることができ、ステップ変化のほうがノイズよりも大きくすることができる。このため、R
c/R
fを用いる場合のようにオフセット調整や位相調整を行わなくても本実施形態のコリオリ流量計100は流量変化に対する感度を高くできる。
【0044】
このようにXc/Yf、Yc/Xfを用いた場合に感度を向上させられるのは、Rc/Rf参照信号に対する位相差を含む三角関数を残して比を取り、比較を行うようにしているからである。
【0045】
例えば
図8に示した例のようにコリオリ振動が110°から120°に変化しており、強制振動の位相が-60°で固定されている場合を考える。この場合、R
c/R
fでは変化量が微小であるのでオフセット調整や位相調整を行わないと感度を高くすることができない。
【0046】
これに対して、Xc/Yf=Rc・cosθc/Rf・sinθfであり、Yc/Xf=Rc・sinθc/Rf・cosθfであることから、位相差を含む三角関数の影響を受ける。Xc/Yfは、分子のcosθcが-0.34から-0.50に変化するに対して分母のsinθfは-0.86で固定されている。したがって、Xc/YfはRc/Rfと比較して、流量変化が生じた場合にはプラス方向に増幅させた値を出力することができる。
【0047】
同様にYc/Xfは分子のsinθcは-0.93から-0.86に変化するとともに、分母のcosθfは+0.50で固定されている。このため、Yc/XfはRc/Rfと比較して、流量変化が生じた場合にはマイナス方向に増幅させた値を出力することができる。
【0048】
このように本実施形態のコリオリ流量計100によれば、従来と比較してオフセット調整や位相調整を行わなくても流量変化に対する感度を大きくすることができる。
【0049】
加えて、各ロックインアンプによって各検出機構の出力信号に含まれる基準振動数を有する強制振動又はコリオリ振動のみをノイズを大幅に低減した形で選択的に抽出することができる。そして、抽出された強制振動及びコリオリ振動に基づいて各ロックインアンプから出力される振幅の直交成分、同相成分、参照信号からの位相のずれについてもノイズが低減された形で出力できる。
【0050】
次に第1実施形態の変形例について説明する。この変形例では流量算出部8は、X
c/Y
f、Y
c/X
fではなく、θ
fとθ
cとの差から流量を算出するように構成されている。ここで、
図8のグラフに示すようにθ
fは参照信号に対する強制振動の位相差であり、θ
cは同じ参照信号に対するコリオリ振動の位相差である。したがって、θ
f-θ
cは強制振動に対するコリオリ振動の位相差とも言える。
図7のグラフに示すように強制振動に対するコリオリ振動の位相差θ
f-θ
cと流量との間には少なくとも相関があり、R
c/R
fを用いて流量を算出する場合と比較して流量変化に対する感度を高くすることができる。
【0051】
なお、この変形例では参照信号に対する強制振動の位相差が一定となるように制御が行われておらず、位相差が変動する場合を想定しているが、強制振動の位相差が一定に保たれるように制御されている場合には、参照信号に対するコリオリ振動の位相差θcのみに基づいて流量算出部8が流量を算出するように構成してもよい。
【0052】
その他の実施形態について説明する。
【0053】
加振器、第1検出機構、第2検出機構については前記実施形態に記載したものに限られない。既知のコリオリ流量計に用いられている加振器及び検出機構を用いることもできる。また、第2検出機構は、前記実施形態の第1検出機構を構成する一対のソレノイドコイルで構成されるものであってもよい。この場合には各ソレノイドコイルの出力信号の和をコリオリ振動の振幅を示す出力信号とするように構成すればよい。このようなものであれば、ソレノイドコイルとマグネットの設置数を減らすことができる。
【0054】
第1ロックインアンプ、第2ロックインアンプについては前記実施形態のように複数の成分を同時に出力できるものに限られない。第1ロックインアンプについては同相成分Xf、直交成分Yf、位相のずれθfのいずれかのみを算出し、流量算出部に入力するものであってもよい。同様に第2ロックインアンプについても同相成分Xc、直交成分Yf、位相のずれθcのいずれかのみを算出し、流量算出部に入力するものであってもよい。例えばXc/Yfに基づいて流量が算出される場合には、第1ロックインアンプはYfのみを演算し、第2ロックインアンプはXcのみを演算するように構成すればよい。このような構成であれば、各ロックインアンプについては2位相ロックインアンプでなくてもよい。
【0055】
さらに第1ロックインアンプ、第2ロックインアンプについては物理的な機器に限られるものではなく、例えば第1検出機構及び第2検出機構の出力信号に基づいて同様の信号処理を行うように構成された電子回路であっても構わない。具体的には、FPGAによって各実施形態において説明したような第1ロックインアンプ、及び、第2ロックインアンプの信号処理機能を実現するように構成してもよい。言い換えると、請求項における第1ロックインアンプ、第2ロックインアンプは物理的な機器としての態様、物理的な信号処理回路、又は、プログラムとしての態様を含む概念である。
【0056】
各ロックインアンプに入力される参照信号は、加振器に入力される電圧信号に限られるものではない。例えば管路が加振される基準振動数を有する矩形波等の周期信号であっても構わない。流量算出部において用いられるXc/Yf、Yc/Xf、θc-θfについては、絶対値を用いたものに限られず、流れ方向と一致するように符号反転させるように構成してもよい。
【0057】
本発明のコリオリ流量計は速度方式のものに限られず、ソレノイドの代わりに変位センサを用いた変位方式として構成してもよい。また、本発明のコリオリ流量計は、加速度センサにより各振動が検出される加速度方式として構成してもよい。
【0058】
流量算出部は、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差のいずれか1つに基づいて流量を算出するものに限られない。例えば流量算出部が、XfとYcの比、YfとXcの比、又は、θfとθcの差からそれぞれ流量を算出し、その平均値を最終的な流量として出力するようにしてもよい。すなわち、XfとYcの比、YfとXcの比、θfとθcの差を全て又は所定の組み合わせで用いて流量算出部が流量を算出するようにしてもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の一部同士の組み合わせを行っても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明であれば、オフセット調整や位相調整を行わなくても従来よりも高感度の流量測定が可能となるコリオリ流量計を提供できる。