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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】半月板再生用材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/22 20060101AFI20240202BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20240202BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240202BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A61L27/22 ZNA
A61L27/54
A61K38/16
A61P19/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020550335
(86)(22)【出願日】2019-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2019037589
(87)【国際公開番号】W WO2020071208
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2018190168
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】安達 伸生
(72)【発明者】
【氏名】亀井 直輔
(72)【発明者】
【氏名】石川 正和
(72)【発明者】
【氏名】中佐 智幸
(72)【発明者】
【氏名】川端 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】山中 翼
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-508540(JP,A)
【文献】特表2014-530698(JP,A)
【文献】特開2017-186264(JP,A)
【文献】特開2013-176547(JP,A)
【文献】加納利哉, 外6名,感温性ゲル(シルクエラスチン)による次世代半月板治療術の創出,日整会誌,2018年08月,Vol.92, No.8,p.S1867,ISSN 0021-5325, 2-4-12欄、全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質(A)を含む半月板再生用材料であって、
前記タンパク質(A)が、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、
前記タンパク質(A)中の前記ポリペプチド鎖(Y)と前記ポリペプチド鎖(Y’)との合計個数が1~100個であり、
前記ポリペプチド鎖(Y)が、配列番号1に示されるアミノ酸配列であるVPGVG配列(1)、配列番号4に示されるアミノ酸配列であるGVGVP配列(4)、GPP配列、GAP配列及び配列番号3に示されるアミノ酸配列であるGAHGPAGPK配列(3)のうち少なくとも1つのアミノ酸配列(X)が2~200個連続したポリペプチド鎖であり、
前記ポリペプチド鎖(Y’)が、前記ポリペプチド鎖(Y)中の5%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたポリペプチド鎖であり、前記リシン及び前記アルギニンの合計個数が1~100個であり、
円二色性スペクトル法により求めた前記タンパク質(A)のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合が60~85%であり、
前記アミノ酸配列(X)中の60%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列をアミノ酸配列(X’)とすると、前記タンパク質(A)に含まれる前記アミノ酸配列(X)及び前記アミノ酸配列(X’)を構成するアミノ酸の合計個数が前記タンパク質(A)の全アミノ酸数を基準として50~58.8%であり、
前記タンパク質(A)が、配列番号5に示される(GAGAGS) 配列(5)と配列番号6に示される(GVGVP) GKGVP(GVGVP) 配列(6)とが交互に化学結合してなるアミノ酸配列を含む半月板再生用材料。
【請求項2】
前記タンパク質(A)が、配列番号2に示されるアミノ酸配列であるGAGAGS配列(2)が2~50個連続して結合したポリペプチド鎖(S)を有する請求項1に記載の半月板再生用材料。
【請求項3】
タンパク質(A)1分子中の、前記GAGAGS配列(2)の個数と、前記アミノ酸配列(X)及び前記アミノ酸配列(X’)の合計個数との比(GAGAGS配列(2):アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計)が、1:1.5~1:20である請求項2に記載の半月板再生用材料。
【請求項4】
前記タンパク質(A)が、前記GVGVP配列(4)が2~200個連続したアミノ酸配列中の1個のアミノ酸がリシンで置換されたポリペプチド鎖(Y’1)を有するタンパク質(A11)である請求項1~3のいずれか1項に記載の半月板再生用材料。
【請求項5】
前記タンパク質(A)のSDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法による分子質量が15~200kDaである請求項1~のいずれか1項に記載の半月板再生用材料。
【請求項6】
前記タンパク質(A)が、配列番号16に示されるアミノ酸配列、配列番号29に示されるアミノ酸配列、又は、これらのアミノ酸配列との相同性が70%以上であるアミノ酸配列を有する請求項1に記載の半月板再生用材料。
【請求項7】
更に、半月板組織片(B)を含有する請求項1~のいずれか1項に記載の半月板再生用材料。
【請求項8】
前記半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均が0.001~1,000mmである請求項に記載の半月板再生用材料。
【請求項9】
半月板再生用材料の重量を基準として、前記タンパク質(A)の重量割合が5~25重量%であり、前記半月板組織片(B)の重量割合が5~50重量%である請求項又はに記載の半月板再生用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半月板再生用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者の「関節疾患」で最も多いのは、変形性関節症(OsteoArthritis:OA)である。OAを有する人数は、2011年の統計で2,530万人とされ(非特許文献1)、その中の約800万人が痛み等の症状を有するとされている。膝OAには加齢性変化に基づいて生じる一次性OAと、外傷による軟骨欠損、半月板損傷、前十字靭帯損傷等の原疾患に続発して生じる二次性OAに分類される。特に半月板損傷は膝OAの引き金の一つと考えられており、世界的に注目が集まってきている。
【0003】
膝OAの治療は、これまで欠損した関節軟骨を再生することに焦点を置き様々な治療方法が考案・実用化されてきた(特許文献1)。一方、半月板を修復しない限り、関節軟骨を修復しても良好な状態を維持することは非常に難しくなる。そのため、膝OAの究極の根治を実現するためには、アライメント矯正に加えて半月板修復・再生の治療法確立が必須である。
【0004】
半月板は膝関節において衝撃吸収、関節の安定化に加え、関節の滑らかな動きに非常に重要な組織である。組織学的には線維軟骨で構成されており、関節軟骨同様に血管に乏しい組織であることから修復能が著しく低く、またその力学的高負荷環境のため、一度損傷されると非常に修復が困難な組織として認識されている。症状(物理的引っかかり感及び痛み等)が強い症例にはいわゆる対症療法となる関節鏡視下半月部分切除が最も行われており、損傷された組織の修復・再生は非常に難しい状況にある。しかし、膝OAの予防に向けて、“Save the Meniscus”のスローガンの元、世界中で半月板縫合術による修復が試みられている。しかし、縫合術後の再手術例は3割に及び、治癒能力が低く、変性も加わった半月板の治療には限界がある。これを克服する先進的治療法として、自家培養滑膜幹細胞を移植する再生医療やコラーゲンを用いた半月板補填材の開発研究等が進められている(特許文献2)。しかし、軟骨損傷のそれと比較すると、選択肢は非常に限られており、半月板損傷に対する新たなアプローチが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6338259号公報
【文献】特開2012-236112号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】変形性関節症治療の国内外のガイドライン 日関病誌,35(1):1~9,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、半月板再生能が高い半月板再生用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。即ち、本発明は、タンパク質(A)を含む半月板再生用材料であって、
前記タンパク質(A)が、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、
前記タンパク質(A)中の前記ポリペプチド鎖(Y)と前記ポリペプチド鎖(Y’)との合計個数が1~100個であり、
前記ポリペプチド鎖(Y)が、配列番号1に示されるアミノ酸配列であるVPGVG配列(1)、配列番号4に示されるアミノ酸配列であるGVGVP配列(4)、GPP配列、GAP配列及び配列番号3に示されるアミノ酸配列であるGAHGPAGPK配列(3)のうち少なくとも1つのアミノ酸配列(X)が2~200個連続したポリペプチド鎖であり、
前記ポリペプチド鎖(Y’)が、前記ポリペプチド鎖(Y)中の5%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたポリペプチド鎖であり、前記リシン及び前記アルギニンの合計個数が1~100個であり、
円二色性スペクトル法により求めた前記タンパク質(A)のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合が60~85%であり、
前記アミノ酸配列(X)中の60%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列をアミノ酸配列(X’)とすると、前記タンパク質(A)に含まれる前記アミノ酸配列(X)及び前記アミノ酸配列(X’)を構成するアミノ酸の合計個数が前記タンパク質(A)の全アミノ酸数を基準として50~70%である半月板再生用材料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の半月板再生用材料は、半月板再生能に優れ、正常な半月板再生を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の半月板再生用材料は、タンパク質(A)を含む半月板再生用材料であって、
前記タンパク質(A)は、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有し、
前記タンパク質(A)中の前記ポリペプチド鎖(Y)と前記ポリペプチド鎖(Y’)との合計個数が1~100個であり、
前記ポリペプチド鎖(Y)は、配列番号1に示されるアミノ酸配列であるVPGVG配列(1)、配列番号4に示されるアミノ酸配列であるGVGVP配列(4)、GPP配列、GAP配列及び配列番号3に示されるアミノ酸配列であるGAHGPAGPK配列(3)のうち少なくとも1つのアミノ酸配列(X)が2~200個連続したポリペプチド鎖であり、
前記ポリペプチド鎖(Y’)は、前記ポリペプチド鎖(Y)中の5%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたポリペプチド鎖であり、前記リシン及び前記アルギニンの合計個数が1~100個であり、
円二色性スペクトル法により求めた前記タンパク質(A)のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合が60~85%であり、
前記アミノ酸配列(X)中の60%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列をアミノ酸配列(X’)とすると、前記タンパク質(A)に含まれる前記アミノ酸配列(X)及び前記アミノ酸配列(X’)を構成するアミノ酸の合計個数が前記タンパク質(A)の全アミノ酸数を基準として50~70%である半月板再生用材料である。
【0011】
本発明の半月板再生用材料は、タンパク質(A)を含む。また、タンパク質(A)は、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)を有する。そのため、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保つことができる。
【0012】
ポリペプチド鎖(Y)を構成するアミノ酸配列(X)の種類は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0013】
アミノ酸配列(X)としては、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保ち、半月板再生能を向上させる観点から、VPGVG配列(1)及びGVGVP配列(4)が好ましい。
【0014】
ポリペプチド鎖(Y)としては、具体的には、(VPGVG)配列、(GVGVP)配列及び(GAHGPAGPK)配列等が挙げられる。なお、b~dは、それぞれ、アミノ酸配列(X)の連続する個数であり、2~200の整数である。
タンパク質(A)1分子中に、ポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、ポリペプチド鎖(Y)は同一でも異なっていても良く、(VPGVG)配列、(GVGVP)配列及び(GAHGPAGPK)配列からなる群から選ばれる1種を有してもよく、2種以上を有しても良い。
また、タンパク質(A)中にポリペプチド鎖(Y)を複数有する場合は、アミノ酸配列(X)の連続する個数は、ポリペプチド鎖(Y)ごとに同一でも異なっていてもよい。すなわち、アミノ酸配列(X)の連続する個数b~dが同じポリペプチド鎖(Y)を複数有してもよく、b~dが異なるポリペプチド鎖(Y)を複数有してもよい。
ポリペプチド鎖(Y)としては、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保つ観点から、(VPGVG)配列及び(GVGVP)配列が好ましい。
【0015】
ポリペプチド鎖(Y)は、アミノ酸配列(X)が2~200個連続した(上記b~dが2~200)ポリペプチド鎖であるが、ゲル内の適度な湿潤環境を保つ観点から、アミノ酸配列(X)が連続する個数は2~100個(上記b~dが2~100)が好ましく、更に好ましくは2~50個(上記b~dが2~50)、特に好ましくは2~40個(b~dが2~40)である。
【0016】
ポリペプチド鎖(Y’)は、ポリペプチド鎖(Y)中の5%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたポリペプチド鎖であり、置換されたリシン及びアルギニンの合計個数が1~100個である。
【0017】
ポリペプチド鎖(Y’)であるかどうかは、タンパク質(A)の配列中の全てのリシン(K)及びアルギニン(R)を、他のアミノ酸[グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、プロリン(P)又はヒスチジン(H)]に置きかえたときに、ポリペプチド鎖(Y)となるかによって判断する。
【0018】
ポリペプチド鎖(Y’)において、置換されたリシン及び/又はアルギニンの割合は、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保つ観点から、0.06%~5%であることが好ましく、0.5~5%が更に好ましく、特に好ましくは1~5%である。
【0019】
また、ポリペプチド鎖(Y’)は、アミノ酸配列(X)中の60%以下のアミノ酸がリシン及び/又はアルギニンで置換されたアミノ酸配列(X’)を含んでいてもよい。
更に、ポリペプチド鎖(Y’)を構成するアミノ酸配列(X)及び/又はアミノ酸配列(X’)の種類は、それぞれ1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
【0020】
アミノ酸配列(X’)として、具体的には、配列番号7に示されるアミノ酸配列であるGKGVP配列(7)、配列番号8に示されるアミノ酸配列であるGKGKP配列(8)、配列番号9に示されるアミノ酸配列であるGKGRP配列(9)及び配列番号10に示されるアミノ酸配列であるGRGRP配列(10)等が挙げられる。
アミノ酸配列(X’)は、半月板欠損面を適度な湿潤環境を保つ観点から、GKGVP配列(7)、GKGKP配列(8)及びGRGRP配列(10)からなる群から選ばれる少なくとも1種の配列が好ましく、更に好ましくはGKGVP配列(7)及びGKGKP配列(8)である。
【0021】
タンパク質(A)1分子中のポリペプチド鎖(Y)とポリペプチド鎖(Y’)との合計個数は、1~100個である。また、これらの合計個数は、1~80個であることが好ましく、1~60個であることがより好ましい。
タンパク質(A)1分子中のポリペプチド鎖(Y)とポリペプチド鎖(Y’)との合計個数が上記範囲であると、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保つことができる。
【0022】
なお、タンパク質(A)中に、アミノ酸配列(X)の種類及び/又は連続する個数が異なるポリペプチド鎖(Y)を有している場合は、それぞれを1個として数え、ポリペプチド鎖(Y)の個数はその合計である。ポリペプチド鎖(Y’)についても同様である。
【0023】
本発明の半月板再生用材料では、タンパク質(A)に含まれるアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)を構成するアミノ酸の合計個数がタンパク質(A)の全アミノ酸数を基準として50~70%である。
上記の割合が、50%未満の場合は、後に詳述するゲル化性能が悪化し、70%を超えると水溶性が悪化する。
上記の割合は、半月板再生能を向上させる観点から、52.5~67.5%が好ましく、更に好ましくは55~65%である。
上記の割合は、プロテインシークエンサーによって求めることができる。具体的には、下記の測定法により求めることができる。
<タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対するアミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)を構成するアミノ酸の合計個数の割合の測定法>
特定のアミノ酸残基で切断出来る切断方法から2種類以上を用いて、タンパク質(A)を30残基以下程度まで分解する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離した後、プロテインシークエンサーにてアミノ酸配列を読み取る。得られたアミノ酸配列からペプチドマッピングして、タンパク質(A)の全配列を決定する。その後、以下記載の測定式にてタンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全てのアミノ酸配列(X)中のアミノ酸数及び全てのアミノ酸配列(X’)中のアミノ酸数の合計個数の割合を算出する。
タンパク質(A)を構成する全てのアミノ酸配列(X)中のアミノ酸数及びタンパク質(A)を構成する全てのアミノ酸配列(X’)中のアミノ酸数の合計数の割合(%)=[{アミノ酸配列(X)の数}×{アミノ酸配列(X)中のアミノ酸数}+{アミノ酸配列(X’)の数}×{アミノ酸(X’)中のアミノ酸数}]/{タンパク質(A)中の全アミノ酸数}×100
【0024】
タンパク質(A)は、後に詳述するタンパク質(A)中のβターン構造とランダムコイル構造との合計の割合を所定の範囲にする観点、及び、ゲル内の適度な湿潤環境を保ち、半月板再生能を向上させる観点から、GAGAGS配列(2)が2~50個連続したポリペプチド鎖(S)を有することが好ましい。
ポリペプチド鎖(S)において、GAGAGS配列(2)が連続する個数は、ゲル内の適度な湿潤環境を保つ観点から、2~40個が好ましく、更に好ましくは2~30個であり、特に好ましくは2~10個である。
【0025】
タンパク質(A)において、タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全てのGAGAGS配列(2)中のアミノ酸数の割合[{タンパク質(A)中のGAGAGS配列(2)の数×6}/{タンパク質(A)中の全アミノ酸数}×100]は、半月板再生能を向上させる観点から、5~50%が好ましく、更に好ましくは10~47.5%であり、特に好ましくは20~45%である。
タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全てのGAGAGS配列(2)中のアミノ酸数の割合は、プロテインシークエンサーによって求めることができる。具体的には、下記の測定法により求める。
【0026】
<タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全てのGAGAGS配列(2)中のアミノ酸数の割合>
特定のアミノ酸残基で切断出来る切断方法の2種類以上を用いて、タンパク質(A)を30残基以下程度まで分解する。その後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて分離した後、プロテインシークエンサーにてアミノ酸配列を読み取る。得られたアミノ酸配列からペプチドマッピングして、タンパク質(A)の全配列を決定する。その後、以下記載の測定式にてタンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全てのGAGAGS配列(2)中のアミノ酸数の割合を算出する。
タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全てのGAGAGS配列(2)中のアミノ酸数の割合(%)=[{GAGAGS配列(2)の数×6}/{タンパク質(A)中の全アミノ酸の数}]×100
【0027】
タンパク質(A)が、ポリペプチド鎖(Y)、ポリペプチド鎖(Y’)及びポリペプチド鎖(S)からなる群より選ばれる少なくとも1種のポリペプチド鎖を合計2個以上有する場合は、これらの間に、介在アミノ酸配列(Z)を有していてもいい。介在アミノ酸配列(Z)は、アミノ酸が1個又は2個以上結合したペプチド配列であって、GAGAGS配列(2)、アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)ではないペプチド配列である。介在アミノ酸配列(Z)を構成するアミノ酸の数は、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保つ観点から、1~30個が好ましく、更に好ましくは1~15個、特に好ましくは1~10個である。介在アミノ酸配列(Z)として、具体的には、配列番号11に示されるアミノ酸配列であるVAAGY配列(11)、配列番号12に示されるアミノ酸配列であるGAAGY配列(12)及びLGP配列等が挙げられる。
タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する全ての介在アミノ酸配列(Z)中のアミノ酸数の割合[Σ{(介在アミノ酸配列(Z)中のアミノ酸の数)×(介在アミノ酸配列(Z)の数)}/{タンパク質(A)中の全アミノ酸数}×100]は、後に詳述するゲル内の適度な湿潤環境を保つ観点から、0~25%が好ましく、更に好ましくは0~22.5%であり、特に好ましくは0.01~15%である。
【0028】
タンパク質(A)は、生体内での分解性の観点から、GAGAGS配列(2)、アミノ酸配列(X)、アミノ酸配列(X’)及び介在アミノ酸配列(Z)以外にも、末端に末端アミノ酸配列(T)を有していてもよい。なお、末端アミノ酸配列(T)は、タンパク質(A)の片末端にあってもよく、両末端にあってもよい。
なお、末端アミノ酸配列(T)には、後述の精製タグは含まれない。
タンパク質(A)の末端の構造としては、ポリペプチド鎖(Y)に末端アミノ酸配列(T)が結合した構造であることが好ましい。末端アミノ酸配列(T)は、アミノ酸が1個又は2個以上結合したペプチド配列であって、GAGAGS配列(2)、アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)ではないペプチド配列である。末端アミノ酸配列(T)を構成するアミノ酸の数は、生体内での分解性の観点から、1~100個が好ましく、更に好ましくは1~50個、特に好ましくは1~40個である。末端アミノ酸配列(T)として、具体的には、配列番号13に示されるアミノ酸配列であるMDPVVLQRRDWENPGVTQLNRLAAHPPFASDPM配列(13)等が挙げられる。
【0029】
タンパク質(A)中の全アミノ酸数に対する末端アミノ酸配列(T)のアミノ酸数の割合は、生体内での分解性の観点から、0~25%が好ましく、更に好ましくは0~22.5%であり、特に好ましくは0.01~15%である。
【0030】
タンパク質(A)は、後述の通り、生物工学的手法により細菌を用いて製造することがある。このような場合、発現させたタンパク質(A)の精製又は検出を容易にするために、タンパク質(A)は末端アミノ酸配列(T)の他に、N又はC末端に特殊なアミノ酸配列を有するタンパク質又はペプチド(以下これらを「精製タグ」と称する)を有してもいい。精製タグとしては、アフィニティー精製用のタグが利用される。そのような精製タグとしては、ポリヒスチジンからなる6×Hisタグ、V5タグ、Xpressタグ、AU1タグ、T7タグ、VSV-Gタグ、DDDDKタグ、Sタグ、CruzTag09TM、CruzTag22TM、CruzTag41TM、Glu-Gluタグ、Ha.11タグ及びKT3タグ等がある。
以下に、各精製タグ(i)とそのタグを認識結合するリガンド(ii)との組み合わせの一例を示す。
(i-1)グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GTS) (ii-1)グルタチオン
(i-2)マルトース結合タンパク質(MBP) (ii-2)アミロース
(i-3)HQタグ (ii-3)ニッケル
(i-4)Mycタグ (ii-4)抗Myc抗体
(i-5)HAタグ (ii-5)抗HA抗体
(i-6)FLAGタグ (ii-6)抗FLAG抗体
(i-7)6×Hisタグ (ii-7)ニッケル又はコバルト
前記精製タグ配列の導入方法としては、発現用ベクターにおけるタンパク質(A)をコードする核酸の5’又は3’末端に精製タグをコードする核酸を挿入する方法や市販の精製タグ導入用ベクターを使用する方法等が挙げられる。
【0031】
タンパク質(A)において、タンパク質(A)を構成する全ての介在アミノ酸配列(Z)中のアミノ酸数、タンパク質(A)を構成する全ての末端アミノ酸配列(T)中のアミノ酸数及び精製タグのアミノ酸数の合計数の割合は、生体内での分解性の観点から、タンパク質(A)中の全アミノ酸数を基準として、0~25%が好ましく、更に好ましくは0~22.5%であり、特に好ましくは0.01~15%である。
【0032】
タンパク質(A)において、ポリペプチド鎖(Y)及び/又はポリペプチド鎖(Y’)並びにポリペプチド鎖(S)を含む場合、欠損面を適度な湿潤環境を保つ観点から、ポリペプチド鎖(Y)又はポリペプチド鎖(Y’)とポリペプチド鎖(S)とが交互に化学結合していることが好ましい。
【0033】
GAGAGS配列(2)の個数と、アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計個数との比(GAGAGS配列(2):アミノ酸配列(X)及びアミノ酸配列(X’)の合計)は、タンパク質(A)中のβターン構造とランダムコイル構造との合計の割合を適度にする観点から、1:1.5~1:20が好ましく、1:1.5~1:6が更に好ましく、1:2~1:5が特に好ましい。
【0034】
好ましいタンパク質(A)の一部を以下に例示する。
(A1):アミノ酸配列(X)がGVGVP配列(4)であるタンパク質
(A11):GVGVP配列(4)が2~200個連続したアミノ酸配列中の1個のアミノ酸がリシン(K)で置換されたポリペプチド鎖(Y’1)を有するタンパク質
(A11-1)ポリペプチド鎖(Y’1)とGAGAGS配列(2)が2~200個連続したポリペプチド鎖(S1)とを有するタンパク質
(A11-2):GVGVP配列(4)が8個連続した配列番号14に示されるアミノ酸配列である(GVGVP)配列(14)のポリペプチド鎖(Y11)の1個のアミノ酸がリシン(K)で置換された配列番号6に示されるアミノ酸配列である(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)(Y’11)と、GAGAGS配列(2)が2~200個連続したポリペプチド鎖(S1)を有するタンパク質
(A11-2-1):GAGAGS配列(2)が4個連続した配列番号5に示されるアミノ酸配列である(GAGAGS)配列(5)であるポリペプチド鎖(S1-1)と(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)とを有するタンパク質
具体的には、下記タンパク質が含まれる。
(i)(GAGAGS)配列(5)を12個及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)を13個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、配列番号15に示されるアミノ酸配列である(GAGAGS)配列(15)が化学結合した分子質量が約80kDaの配列番号16に示されるアミノ酸配列である配列(16)のタンパク質(SELP8K)
(ii)(GAGAGS)配列(15)及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)をそれぞれ17個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約82kDaの配列番号17に示されるアミノ酸配列である配列(17)のタンパク質(SELP0K)
(iii)(GAGAGS)配列(5)及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)をそれぞれ4個有し、これらが交互に化学結合してなる分子質量が約30kDaの配列番号29に示されるアミノ酸配列である配列(29)のタンパク質(SELP8K4)
【0035】
(A11-3):GVGVP配列(4)が12個連続したポリペプチド鎖の1個のアミノ酸がリシン(K)で置換された配列番号18に示されるアミノ酸配列である(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(18)(Y’12)と、GAGAGS配列(2)が2~200個連続したポリペプチド鎖(S1)を有するタンパク質
(A11-3-1):GAGAGS配列(2)が4個連続した配列番号19に示されるアミノ酸配列である(GAGAGS)配列(19)と(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(18)とを有するタンパク質
(i)(GAGAGS)配列(19)を12個及び(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(18)を13個有し、これらが交互に化学結合してなるものに、(GAGAGS)配列(15)が化学結合した分子質量が約105kDaの配列番号20に示されるアミノ酸配列である配列(20)のタンパク質
【0036】
(A2):アミノ酸配列(X)がVPGVG配列(1)であるタンパク質
(A21):VPGVG配列(1)が2~200個連続したポリペプチド鎖(Y2)とGAGAGS配列(2)を有するタンパク質
(i)GAGAGS配列(2)、配列番号24に示されるアミノ酸配列である(VPGVG)配列(24)及び配列番号25に示されるアミノ酸配列である(VPGVG)配列(25)をそれぞれ40個有し、これらが(VPGVG)配列(24)、GAGAGS配列(2)、(VPGVG)配列(25)の順に結合したブロックが40個化学結合してなる構造を有する分子質量約200kDaの配列番号26に示されるアミノ酸配列である配列(26)のタンパク質(ELP1.1)
【0037】
(A3):GVGVP配列(4)が2~200個連続したポリペプチド鎖(Y1)とGAGAGS配列(2)が2~200個連続したポリペプチド鎖(S1)とを有するタンパク質
具体的には、下記タンパク質が含まれる。
(i)配列番号21に示されるアミノ酸配列である(GAGAGS)配列(21)及び配列番号22に示されるアミノ酸配列である(GVGVP)40配列(22)をそれぞれ5個有し、これらが交互に化学結合してなる構造を有する分子質量が約110kDaの配列番号23に示されるアミノ酸配列である配列(23)のタンパク質(SELP6.1)
【0038】
これらの中では、配列(16)のタンパク質(SELP8K)、配列(17)のタンパク質(SELP0K)、配列(20)のタンパク質、配列(23)のタンパク質(SELP6.1)、配列(26)のタンパク質(ELP1.1)又は配列(29)のタンパク質(SELP8K4)であることが好ましい。
また、タンパク質(A)は、配列(16)のタンパク質(SELP8K)、配列(17)のタンパク質(SELP0K)、配列(20)のタンパク質、配列(23)のタンパク質(SELP6.1)、配列(26)のタンパク質(ELP1.1)又は配列(29)のタンパク質(SELP8K4)のアミノ酸配列と相同性が70%以上であるアミノ酸配列を有するタンパク質であっても良い。
また、この相同性は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。
【0039】
本発明におけるタンパク質(A)は、円二色性スペクトル法により求められるタンパク質(A)中のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合が60~85%である。タンパク質の配列が同じでも、タンパク質の作製方法、タンパク質の精製方法、タンパク質を溶解させる溶媒のpH及び溶媒の極性等により、タンパク質中のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合は異なる。
βターン構造とランダムコイル構造との合計割合が60%未満であると、水溶性が悪化する。また、85%を超えると、後に詳述するゲル化性能が悪化する。
タンパク質(A)中のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合は、欠損面を適度な湿潤環境を保ち、半月板の再生を促進させる観点から、好ましくは65~80%であり、更に好ましくは70~75%である。
上記割合を制御する方法としては特に限定されないが、以下の方法により増加又は低下させることができる。
上記割合を増加させる場合には、例えば、タンパク質(A)を例えば、単独のタンパク質(A)を過剰量の緩衝液で希釈してからリフォールディングさせる希釈リフォールディング法(大希釈法)が挙げられる。
また、上記割合を低下させる場合には、例えば、タンパク質(A)を変性剤や熱等により変性させる方法が挙げられる。
タンパク質(A)中のβターン構造とランダムコイル構造との合計割合は、下記測定法によって求める。
【0040】
<タンパク質(A)中のβターン構造とランダムコイル構造との合計の割合の測定方法>
タンパク質を0.3mg/mlとなるように脱イオン水(4℃)に溶解し、タンパク質の水溶液を作製する。作製したタンパク質の水溶液を円二色性スペクトル測定器(日本分光株式会社製、「J-820」)にて測定し(測定温度:4℃)、二次構造解析プログラム(JWSSE型:日本分光株式会社製)にてβターン構造の割合とランダムコイル構造の割合とを算出し、これらの合計をβターン構造とランダムコイル構造との合計の割合とする。
【0041】
タンパク質(A)のSDS-PAGE(SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動)法による分子質量は、生体内での分解性の観点から、15~200kDaが好ましく、更に好ましくは30~150kDaであり、特に好ましくは70~120kDaである。
【0042】
本発明において、タンパク質(A)の疎水性度は、半月板再生能を向上させる観点から、0.2~1.2であることが好ましく、更に好ましくは0.4~1.0であり、特に好ましくは0.42~0.80である。
タンパク質(A)の疎水性度は、タンパク質(A)分子の疎水性の度合いを示すものであり、タンパク質(A)分子を構成するそれぞれのアミノ酸残基の数(Mα)、それぞれのアミノ酸の疎水性度(Nα)及びタンパク質(A)1分子中のアミノ酸残基の総数(M)を、下記数式に当てはめることにより算出することができる。なお、それぞれのアミノ酸の疎水性度は、非特許文献(アルバート・L.レーニンジャー、デビット・L.ネルソン、レ-ニンジャ-の新生化学 上、廣川書店、2010年9月、p.346-347)に記載されている下記の数値を用いる。
疎水性度=Σ(Mα×Nα)/(M
α:人工タンパク質(A)1分子中のそれぞれのアミノ酸残基の数
α:各アミノ酸の疎水性度
:人工タンパク質(A)1分子中のアミノ酸残基の総数
A(アラニン):1.8
R(アルギニン):-4.5
N(アスパラギン):-3.5
D(アスパラギン酸):-3.5
C(システイン):2.5
Q(グルタミン):-3.5
E(グルタミン酸):-3.5
G(グリシン):-0.4
H(ヒスチジン):-3.2
I(イソロイシン):4.5
L(ロイシン):3.8
K(リシン):-3.9
M(メチオニン):1.9
F(フェニルアラニン):2.8
P(プロリン):-1.6
S(セリン):-0.8
T(トレオニン):-0.7
W(トリプトファン):-0.9
Y(チロシン):-1.3
V(バリン):4.2
例えば、人工タンパク質(A)が(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)である場合、人工タンパク質(A)の疎水性度={16(Gの数)×(-0.4)+15(Vの数)×4.2+8(Pの数)×(-1.6)+1(Kの数)×(-3.9)}/40(アミノ酸残基の総数)=1.0である。
【0043】
本発明の半月板再生用材料は、上記のようなアミノ酸配列からなるタンパク質(A)を含むものであることから、生体内の酵素により分解されるため、生分解性に優れている。
【0044】
本発明において、タンパク質(A)は、天然物からの抽出、有機合成法(酵素法、固相合成法及び液相合成法等)及び遺伝子組み換え法等によって得られる。有機合成法に関しては、「生化学実験講座1、タンパク質の化学IV(1981年7月1日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法、及び、「続生化学実験講座2、タンパク質の化学(下)(昭和62年5月20日、日本生化学会編、株式会社東京化学同人発行)」に記載されている方法等が適用できる。遺伝子組み換え法に関しては、特許第3338441号公報に記載されている方法等が適用できる。天然物からの抽出、有機合成法及び遺伝子組み換え法はともに、タンパク質(A)を得られるが、アミノ酸配列を簡便に変更でき、安価に大量生産できるという観点等から、遺伝子組み換え法が好ましい。
【0045】
本発明の半月板再生用材料は、半月板再生能を向上させる観点から、半月板組織片(B)を含有していることが好ましい。
前記の半月板組織片(B)としては、半月板(患者本人の半月板でも良く、患者本人ではない他人の半月板であっても良い)の一部採取して、細かく砕くことで得ることができる。
細かく砕く方法としては、メスでの裁断等の方法が挙げられる。
半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均は、半月板再生能を向上させる観点から、0.001~1,000mmであることが好ましく、更に好ましくは0.008~970mmであり、特に好ましくは1~500mmである。
【0046】
本発明の半月板再生用材料は、前記のタンパク質(A)及び半月板組織片(B)以外に水、無機塩及び/又はリン酸(塩)を含んでいても良い。
【0047】
無機塩としては、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素カルシウム及び炭酸水素マグネシウム等が挙げられる。なお、本明細書においてリン酸(塩)は無機塩に含まない。
半月板再生用材料中の無機塩の含有量(重量%)は、半月板再生能を向上させる観点から、半月板再生用材料の重量を基準として0~3重量%が好ましく、更に好ましくは0~1重量%、特に好ましくは0.001~0.5重量%である。
【0048】
リン酸(塩)は、リン酸及び/又はリン酸塩を意味する。
リン酸塩としては、リン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が挙げられ、具体的には、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等が挙げられる。
半月板再生用材料中のリン酸(塩)の含有量は、半月板再生能を向上させる観点から、半月板再生用材料の重量を基準として0.001~2重量%が好ましく、更に好ましくは0.001~0.5重量%、特に好ましくは0.001~0.05重量%である。
【0049】
本発明の半月板再生用材料が含有するタンパク質(A)の重量割合は、半月板再生能を向上させる観点から、半月板再生用材料の重量を基準として、5~25重量%であることが好ましく、10~20重量%であることが更に好ましい。
本発明の半月板再生用材料が含有する半月板組織片(B)の重量割合は、半月板再生能を向上させる観点から、半月板再生用材料の重量を基準として、5~50重量%であることが好ましく、10~40重量%であることが更に好ましい。
また、半月板再生能を更に高める観点からは、本発明の半月板再生用材料が含有するタンパク質(A)の重量と半月板組織片(B)との重量との比率[タンパク質(A)の重量/半月板組織片(B)の重量]が、0.30~0.90であることが好ましく、0.40~0.75であることが更に好ましい。
【0050】
本発明の半月板再生用材料は、半月板組織片(B)を、タンパク質(A)を溶解した水溶液に加えて、ピペッティング等で混合して調整する等の方法で製造することができる。この時、細胞活性維持の観点から、4~10℃で上述の操作を実施することが好ましい。
【0051】
本発明の半月板再生用材料の使用方法としては、以下の方法等が挙げられる。
(1)本発明の半月板再生用材料は、4~40℃(好ましくは20~40℃)にすることで、ゲル化させることができる。
このゲル化させた半月板再生用材料を、切開等により露出させた半月板損傷部位に投与することで、半月板の再生を促すことができる。なお、半月板再生用材料投与後は、コラーゲン膜や患者の渇膜等により、切開部を縫合・封鎖することができる。
(2)本発明の半月板再生用材料を、関節鏡下で半月板損傷部に投与することで、半月板再生用材料が患者の体温によりゲル化し、上記の(1)と同様に、半月板の再生を促すことができる。
これらの方法は、本発明の半月板損傷部の治療方法でもある。
【0052】
本発明の半月板再生用材料は、変形性関節症、軟骨欠損及び半月板損傷(外傷性半月板損傷等)等に用いることができる。
【0053】
また、変形性関節症、軟骨欠損及び半月板損傷(外傷性半月板損傷)からなる群から選択される少なくとも1種の疾患に対する上記半月板再生用材料の使用は、本発明の半月板再生用材料の使用でもある。
【実施例
【0054】
以下に実施例として本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
<製造例A1:SELP8K(A11-2-1(i))の作製>
○SELP8K(A11-2-1(i))の生産
特許第4088341号公報の実施例記載の方法に準じて、SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345を作製した。
作製したプラスミドを大腸菌にトランスフォーメーションし、SELP8K生産株を得た。以下、このSELP8K生産株を用いて、配列(16)を有するタンパク質(A)を生産する方法を示す。
【0056】
○SELP8K生産株の培養
30℃で生育させたSELP8K生産株の一夜培養液を使用して、250mlフラスコ中のLB培地50mlに接種した。カナマイシンを最終濃度50μg/mlとなるように加え、該培養液を30℃で攪拌しながら(200rpm)培養した。培養液が濁度OD600=0.8(吸光度計UV1700:(株)島津製作所製を使用)となった時に、40mlを42℃に前もって温めたフラスコに移し、同じ温度で約2時間培養した。培養した培養液を氷上で冷却し、培養液の濁度OD600を測定し、遠心分離にて大腸菌を集菌した。
【0057】
○SELP8K(A11-2-1(i))の精製
集菌した大腸菌を用い、下記1:菌体溶解、2:遠心分離による不溶性細片の除去、3:硫安沈殿、4:限外濾過、5:陰イオン交換クロマトグラフィー、6:限外濾過、7:凍結乾燥により大腸菌バイオマスからタンパク質を精製した。このようにして、分子質量が約80kDaの配列(16)を有するタンパク質の精製物である製造例A1に係るタンパク質(A)(SELP8K)を得た。
【0058】
1:菌体溶解
集菌した大腸菌100gに対して、脱イオン水200gを加えて、高圧ホモジナイザー(55MPa)にて菌体溶解し、溶解した菌体を含む菌体溶解液を得た。その後、菌体溶解液を氷酢酸にてpH4.0に調整した。
【0059】
2:遠心分離による不溶性細片の除去
更に菌体溶解液を遠心分離(6300rpm、4℃、30分間)して、上清を回収した。
【0060】
3:硫安沈殿
回収した上清に硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。その後、8~12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解した。溶解した液に対して、同様に硫安濃度が25重量%となるように飽和硫安溶液を投入した。その後、8~12時間静置した後、遠心分離にて沈殿物を回収した。回収した沈殿物を脱イオン水に溶解し、溶液を得た。
【0061】
4:限外濾過
「3:硫安沈殿」で得た溶液を分子質量30,000Daカットの限外濾過装置(ホロファーバー:GEヘルスケア社製)に供した。「3:硫安沈殿」で得た溶液に対して、10倍量の脱イオン水を用いて、限外濾過を実施し、限外濾過後のタンパク質を得た。
【0062】
5:陰イオン交換クロマトグラフィー
限外濾過後のタンパク質を10mM酢酸ナトリウム緩衝液に溶解して20g/Lとし、陰イオン交換カラムHiPrepSP XL16/10(GEヘルスケア社製)をセットしたAKTAPrime(GEヘルスケア社製)に供した。溶出液として500mM 10mM酢酸ナトリウム緩衝液を用いて、溶出画分を回収した。
【0063】
6:限外濾過
「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」で得た溶液を上記「4:限外濾過」と同様にして処理し、限外濾過後のタンパク質を得た。
【0064】
7:凍結乾燥
タンパク質を脱イオン水に溶解して5g/Lとし、水位が15mm以下となるようにステンレス製のバットに入れた。その後、凍結乾燥機(日本テクノサービス(株)製)に入れて、-40℃、16時間かけて凍結させた。凍結後、真空度が8Pa以下、-20℃で、90時間かけて1次乾燥、真空度が8Pa以下、20℃で、24時間かけて2次乾燥させた。このようにして、製造例A1に係るタンパク質(A)(SELP8K)を得た。
【0065】
○SELP8K(A11-2-1(i))の同定
製造例A1に係るタンパク質(A)を下記の手順で同定した。
ラビット抗SELP8K抗体及びC末端配列の6×Hisタグに対するラビット抗6×His抗体(Roland社製)を用いたウエスタンブロット法により分析した。ウエスタンブロット法の手順は下記の通りとした。見かけ分子質量80kDaの位置に、各抗体に抗体反応性を示すバンドが見られた。
また、アミノ酸分析システム(Prominence島津製作所製)を用いたアミノ酸組成分析より得られた製造例A1に係るタンパク質(A)のアミノ酸の組成物率(実測値)と、合成遺伝子配列から推測されるSELP8Kのアミノ酸の組成物率(理論値)を表1に示す。
これらから、製造例A1に係るタンパク質(A)はGVGVP配列(4)が8個連続したポリペプチド鎖(Y)中のバリン(V)のうち1個がリシン(K)に置換された(GVGVP)GKGVP(GVGVP)配列(6)のポリペプチド鎖(Y’2)を13個及びGAGAGS配列(2)が4個連続した(GAGAGS)配列(5)のポリペプチド鎖(S1-1)を12個有し、これらが交互に化学結合してなる配列(16)を有するタンパク質(SELP8K)であることを確認した。
【0066】
【表1】
【0067】
<ウエスタンブロット法>
ウエスタンブロット用サンプル20μLに3×SDS処理バッファ[150mM Tris HCl(pH6.8)、300mM ジチオスレイトール、6% ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.3% ブロモフェノールブルー、及び30% グリセロールを含む]10μLを添加して95℃で5分間加温し、泳動用試料を調製した。この泳動用試料15μLを用いてSDS-PAGEを行った。泳動後のゲルをフッ化ポリビニリデンメンブレンにトランスファー(以下、「メンブレン」と略記)し、これをブロッキングバッファ[20mM Tris(pH7.6)、137mM NaCl、0.1% Tween20、及び5% スキムミルクを含む]に浸漬して1時間室温で振蕩することによりメンブレンのブロッキング処理を行った。ブロッキング処理後、メンブレンをTBS-T[20mM Tris(pH7.6)、137mM NaCl、及び0.1% Tween20を含む]で2分間洗浄した。次に、メンブレンを一次抗体溶液(一次抗体:抗SELP8K抗体及び抗His-tag抗体(Rockland社製)をTBS-Tで500分の1に希釈した溶液)に浸漬し、4℃で一晩静置して抗体反応を行った。反応後、このメンブレンをTBS-Tで5分間、4回洗浄した後、一次抗体に結合可能であり且つ標識酵素として西洋ワサビペルオキシダーゼを結合させた二次抗体の溶液(二次抗体:ECL anti-rabbit IgG HRP linked F(ab’)2 fragment(GEヘルスケア社製)をTBS-Tで2000分の1に希釈した溶液)にメンブレンを浸漬し、30分間室温で静置して抗体反応を行った。反応後、メンブレンをTBS-Tで5分間、4回洗浄した後、ECL-Advance Western Blotting Detection Kit(GEヘルスケア社製)により酵素反応を行った。ルミノメーターForECL(GEヘルスケア社製)を用いて、高感度インスタント黒白フィルム(富士フイルム株式会社製)に感光させ、バンドを可視化した。
【0068】
○βターン構造とランダムコイル構造の合計の割合の測定
製造例A1に係るタンパク質(A)を用いて下記の手順でβターン構造とランダムコイル構造の合計の割合を測定した。
<βターン構造とランダムコイル構造の合計の割合の測定>
製造例A1に係るタンパク質(A)を0.3mg/mlとなるように脱イオン水(4℃)に溶解し、製造例A1に係るタンパク質(A)水溶液を作製した。作製した製造例A1に係るタンパク質(A)水溶液を円二色性スペクトル測定器(日本分光:J-820)にて測定し(測定温度:4℃)、二次構造解析プログラム(JWSSE型:日本分光株式会社製)を用いて、βターン構造とランダムコイル構造の合計の割合を算出した。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
<製造例A2>
製造例A1の「SELP8K(A11-2-1(i))の作製」において、「SELP8K(A11-2-1(i))の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」と「6:限外濾過」との間に、下記「5-2:リフォールディング(大希釈法)」を行う以外は同様にして、製造例A2に係るタンパク質(A)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
5-2:リフォールディング(大希釈法)
陰イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分をタンパク質変性剤である10Mウレア溶液にて、6Mウレア溶液となるように調製し、12時間、4℃で静置した。調製した溶液を透析膜(Viskase Companies,Inc.社製)に投入し、溶出画分の10倍容量の脱イオン水にて12時間、透析した。その後、脱イオン水を捨て、新たに溶出画分の10倍容量の脱イオン水にて12時間、透析した。この操作を残り3回、計5回繰り返した後、透析膜中の溶液を回収した。
【0071】
<製造例A3>
製造例A1の「SELP8K(A11-2-1(i))の作製」において、「SELP8K(A11-2-1(i))の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」と「6:限外濾過」との間に、下記「5-3:リフォールディング(大希釈法)」を行う以外は同様にして、製造例A3に係るタンパク質(A)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
5-3:リフォールディング(大希釈法)
陰イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分をタンパク質変性剤である10Mウレア溶液にて、6Mウレア溶液となるように調製し、12時間、4℃で静置した。調製した溶液を透析膜(Viskase Companies,Inc.社製)に投入し、溶出画分の10倍容量の脱イオン水にて12時間、透析した。その後、脱イオン水を捨て、新たに溶出画分の3倍容量の脱イオン水にて12時間、透析した。溶出画分の3倍容量の脱イオン水による透析を残り5回繰り返した後、透析膜中の溶液を回収した。
【0072】
<製造例A4>
製造例A1の「SELP8K(A11-2-1(i))の作製」において、「SELP8K(A11-2-1(i))の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」に代えて下記「5’:アフィニティクロマトグラフィー」とする以外は同様にして、製造例A4に係るタンパク質(A)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
5’:アフィニティクロマトグラフィー
「4:限外濾過」後のタンパク質を、His-tagを用いたアフィニティクロマトグラフィー(GEヘルスケア社製、Ni Sepharose 6 Fast Flow)にて精製し、溶出画分を回収した。
【0073】
<製造例A5>
製造例A1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SELP8K4をコードしたプラスミドpPT0345-4」を用いる以外は同様にして、分子質量が約30kDaの配列(29)の製造例A5に係るタンパク質(A)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
<比較製造例A1>
製造例A1の「SELP8K(A11-2-1(i))の作製」において、「SELP8K(A11-2-1(i))の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」に代えて下記「5’’:アフィニティクロマトグラフィー」とする以外は同様にして、比較製造例A1に係るタンパク質(A’)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
5’’:アフィニティクロマトグラフィー
「4:限外濾過」後のタンパク質を、His-tagを用いたアフィニティクロマトグラフィー(クロンテック社製、TALON(登録商標)Single Step Columns)にて精製し、溶出画分を回収した。
【0075】
<比較製造例A2>
製造例A1の「SELP8K(A11-2-1(i))の作製」において、「SELP8K(A11-2-1(i))の精製」の「3:硫安沈殿、4:限外濾過、5:陰イオン交換クロマトグラフィー」を実施せず、上記「5’:アフィニティクロマトグラフィー」行う以外は同様にして、比較製造例A2に係るタンパク質(A’)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
【0076】
<比較製造例A3>
製造例A1の「SELP8K(A11-2-1(i))の作製」において、「SELP8K(A11-2-1(i))の精製」の「5:陰イオン交換クロマトグラフィー」を実施しない以外は同様にして、比較製造例A3に係るタンパク質(A’)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
【0077】
<比較製造例A4>
製造例A1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「ELP1.2をコードしたプラスミドpPT0102-2」を用いる以外は同様にして、分子質量が約37kDaの配列番号27に示されるアミノ酸配列である配列(27)の比較製造例A4に係るタンパク質(A’)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
<比較製造例A5>
製造例A1において、「SELP8KをコードしたプラスミドpPT0345」に変えて、「SLP4.1をコードしたpSY1398-1」を用いる以外は同様にして、分子質量が約93kDaの配列番号28に示されるアミノ酸配列である配列(28)の比較製造例A5に係るタンパク質(A’)を作製し、βターン構造とランダムコイル構造との合計割合を測定した。結果を表2に示す。
【0079】
<製造例B1:半月板組織片(B)の作製>
日本白色家兎(体重:3.0kg)から採取した半月板組織を、予めオートクレーブ滅菌したステージに固定する。
その後固定化した半月板組織を、メス刃が200μm間隔で碁盤目状に配置されたメス刃ホルダーを用いて、切断した。その後、前記のメス刃ホルダーを用いて、1辺が約200μmの立方体形状となるように再度切断し、製造例B1に係る半月板組織片(B)を得た。
製造例B1に係る半月板組織片(B)の内、任意の100個の組織片について、1辺毎の長さを光学顕微鏡下で測定し、1片あたりの体積を算出した。その結果、製造例B1に係る半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均値は0.008mmであった。
【0080】
<製造例B2>
製造例B1において、メス刃の間隔を200μmから1,000μmに変更した以外は製造例B1と同様にして、1辺が約1,000μmの立方体形状となるように切断された製造例B2に係る半月板組織片(B)を得た。
製造例B2に係る半月板組織片(B)の内、任意の100個の組織片について、1辺毎の長さを光学顕微鏡下で測定し、1片あたりの体積を算出した。その結果、製造例B2に係る半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均値は1.141mmであった。
【0081】
<製造例B3>
製造例B1において、メス刃の間隔を200μmから9,900μmに変更した以外は製造例B1と同様にして、1辺が約9,900μmの立方体形状となるように細切断された製造例B3に係る半月板組織片(B)を得た。
製造例B3に係る半月板組織片(B)の内、任意の100個の組織片について、1辺毎の長さを光学顕微鏡下で測定し、1片あたりの体積を算出した。その結果、製造例B3に係る半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均値は970mmであった。
【0082】
<製造例B4>
製造例B1において、メス刃の間隔を200μmから90μmに変更した以外は製造例B1と同様にして、1辺が約90μmの立方体形状となるように細切断された製造例B4に係る半月板組織片(B)を得た。
製造例B4に係る半月板組織片(B)の内、任意の100個の組織片について、1辺毎の長さを光学顕微鏡下で測定し、1片あたりの体積を算出した。その結果、製造例B4に係る半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均値は0.0007mmであった。
【0083】
<製造例B5>
製造例B1において、メス刃の間隔を200μmから10,500μmに変更した以外は製造例B1と同様にして、1辺が約10,500μmの立方体形状となるように細切断された製造例B5に係る半月板組織片(B)を得た。
製造例B5に係る半月板組織片(B)の内、任意の100個の組織片について、1辺毎の長さを光学顕微鏡下で測定し、1片あたりの体積を算出した。その結果、製造例B5に係る半月板組織片(B)の1片あたりの体積の数平均値は1152mmであった。
【0084】
<実施例1~18及び比較例1~5:半月板再生用材料及び比較用の半月板再生用材料の作成>
表3に示す割合(重量部)で、各製造例及び各比較製造例に係るタンパク質と、リン酸緩衝生理食塩水(以降、PBSと略記することがある。pH:7.2)とを混合し、タンパク質をPBSに溶解させる。次いで、表3に示す割合(重量部)、各製造例に係る半月板組織片を、転倒混和にて混合し、各実施例に係る半月板再生用材料及び各比較例に係る半月板再生用材料を作製した。
【0085】
<半月板再生用材料を用いた半月板再生試験>
各実施例に係る半月板再生用材料、又は、各比較例に係る半月板再生用材料を、以下の方法により、ウサギを用いた半月板損傷モデルに適用した。
麻酔下の日本白色家兎(体重:3.0kg)に対して、膝を切開し、半月板の前角に、径2mmの円柱状の欠損モデルを作製した。
作製した欠損部に、各半月板再生用材料を投与し、切開した膝は縫合糸で縫合した。
4週間後に十分に深い麻酔をウサギに行った後、二酸化炭素を充満した容器内で心臓の拍動および呼吸の停止したことを確認した。その後、欠損部を含む組織を摘出した。摘出した組織は10%緩衝ホルマリン中に浸し、ホルマリン固定を実施した。
その後、組織をパラフィン包埋し、ミクロトーム[製品名:リトラトームREM-710、大和光機工業(株)製]を用いて、円柱状欠損の円となる面と垂直な方向に、厚みが約4μmの断面ができるように、スライスする操作を繰り返し、切片を採取した。
採取した切片の内、円柱状欠損の円となる面の中心を含む切片を評価用の試験片とし、ヘマトキシリンエオジン染色(評価項目1及び2)、サフラニンO染色(評価項目3)を実施した。評価は、以下の方法で実施するために、デジタルマイクロスコープ[VHX-2000,(株)キーエンス製]を用いて組織画像を撮影した。
【0086】
<評価項目1:結合した修復組織>
染色した欠損部を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。試験は3匹のウサギを用いて試験し、そのスコアの平均値を表3に示す。
各項目点数が高い程、半月板再生能が高いことを示す。
2:試験片の断面において、円柱状欠損の両端から、修復組織が再生しており、両端から再生した修復組織同士が結合している。
1:試験片の断面において、円柱状欠損の両端から、修復組織が再生しているが、両端から再生した修復組織同士は結合していない。
0:試験片の断面において、円柱状欠損の両端から、修復組織が再生していない。
<評価項目2:線維軟骨細胞の存在>
染色した欠損部を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。各項目点数が高い程、半月板再生能が高いことを示す。試験は3匹のウサギを用いて試験し、そのスコアの平均値を表3に示す。
2:試験片の断面において、線維軟骨細胞が、修復組織に広くに存在(単位面積あたりの線維軟骨細胞数:2,000cell/mm以上)。
1:試験片の断面において、線維軟骨細胞が、修復組織に部分的に存在(単位面積あたりの線維軟骨細胞数:100cell/mm以上、2,000cell/mm未満)。
0:試験片の断面において、線維軟骨細胞が、修復組織に存在しない(単位面積あたりの線維軟骨細胞数:100cell/mm未満)。
なお、「単位面積あたりの線維軟骨細胞数」は、以下の方法で算出した。蛍光顕微鏡[BIOREVO BZ-9000、(株)キーエンス製]により、試験片の欠損部を観察し、0.5mm四方の面積中に存在する繊維軟骨細胞数を計測した。欠損部内の中心と四隅の5か所について計測し、その平均値を「単位面積あたりの線維軟骨細胞数」とした。
<評価項目3:サフラニンO染色>
染色した欠損部を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。各項目点数が高い程、線維軟骨細胞からの軟骨基質産生量が多いことを示唆しており、半月板再生能が高いことを示す。試験は3匹のウサギを用いて試験し、そのスコアの平均値を表3に示す。
2:試験片の断面において、高密度に染色されている(染色強度割合:65%以上)。
1:試験片の断面において、かすかに染色されている(染色強度割合:33%以上、65%未満)。
0:試験片の断面において、染色が確認できない(染色強度割合:33%未満)。
なお、「染色強度割合」は、以下の方法で算出した。蛍光顕微鏡[BIOREVO BZ-9000、(株)キーエンス製]により、試験片の欠損部を観察し、0.5mm四方の面積についてヒストグラム解析を行い、赤、緑及び青の輝度分布を得た。得られた分布中の輝度150以上を対象とし、赤、緑及び青の輝度の合計に対する赤の輝度の割合(%)を計算した(輝度が150未満のものは輝度0として計算した)。欠損部内の中心と四隅の5か所について計算し、その平均値を「染色強度割合」とした。
【0087】
【表3】
【0088】
評価の結果、実施例の症例では、欠損部を修復組織で再生されており、かつ修復組織内に線維軟骨細胞が広く局在していた。更に、線維軟骨細胞からの産生されたものと思われる軟骨基質で染まるサフラニンO染色でも良好な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の半月板再生用材料は、半月板損傷の再生治療において、膝関節の半月板の欠損部分に充填することで、半月板の再生を促進し、かつ、良質な軟骨組織を創り出すことが出来るため、半月板再生用の基材として有用である。
【配列表】
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