(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】基肥量演算装置、基肥量演算方法および基肥量演算プログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240202BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240202BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2020077959
(22)【出願日】2020-04-27
【審査請求日】2022-10-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白土 宏之
(72)【発明者】
【氏名】古畑 昌巳
(72)【発明者】
【氏名】今須 宏美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 景子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智紀
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-128741(JP,A)
【文献】特開2013-233117(JP,A)
【文献】特開2018-143160(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111527(WO,A1)
【文献】特開2004-350623(JP,A)
【文献】特開2019-175246(JP,A)
【文献】特表2005-513931(JP,A)
【文献】特開2020-156390(JP,A)
【文献】特開2020-162490(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0019408(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G06Q 50/02
A01C 21/00
A01D 41/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場への基肥窒素量である基肥量の演算処理を行う基肥量演算装置であって、
圃場の領域と基肥量との関係を示す基肥地図の入力を行う基肥地図作成部と、
圃場における
生育結果である測定項目を測定する測定項目測定部と、
前記測定項目の目標値と実績値との比較を行う目標・実績比較部と、
前記目標・実績比較部における比較結果に基づいて、基肥補正量を演算する基肥補正量演算部と、
前記基肥補正量演算部によって求められた前記基肥補正量を反映させて前記基肥量を補正して前記基肥地図を更新する基肥地図更新部と、を有し、
前記測定項目測定部による前記測定項目
の測定、
前記目標・実績比較部による前記測定項目の目標値と実績値との比較、前記基肥補正量演算部による前記基肥補正量の演算、並びに前記基肥地図更新部による前記基肥地図の更新を繰り返すことにより適切な基肥量に収束させ
、
前記測定項目は、
上限値、下限値でない目標値を有し補正の基本となる目標項目を必須項目とし、
上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の上限を決める上限項目と、上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の下限を決める下限項目と、を任意の項目として有し、
前記目標項目に関して補正量を決める関数と前記目標項目の目標値と測定値の差に基づく補正値を、前記上限項目と前記下限項目の目標値と測定値の差に基づく上限補正量と下限補正量と比較して前記補正量を決定する
ことを特徴とする基肥量演算装置。
【請求項2】
前記上限項目と前記下限項目とが相反した場合の対立処理方法が決められている
ことを特徴とする請求項
1に記載の基肥量演算装置。
【請求項3】
作物が水稲である場合には、
前記目標項目は収量であり、
前記上限項目は、圃場における作物の倒伏程度、作物の穀粒タンパク質含有率である
請求項
1又は
2に記載の基肥量演算装置。
【請求項4】
作物が小麦である場合には、
前記目標項目は収量であり、
前記上限項目は、圃場における作物の倒伏程度であり、
前記下限項目は、作物の穀粒タンパク質含有率である
請求項
1又は
2に記載の基肥量演算装置。
【請求項5】
圃場への基肥窒素量である基肥量の演算処理を行う基肥量演算方法であって、
圃場の領域と基肥量との関係を示す基肥地図の入力を行う基肥地図入力ステップと、
圃場における
生育結果である測定項目を測定する測定項目測定ステップと、
前記測定項目の目標値と実績値との比較を行う目標・実績比較ステップと、
前記目標・実績比較ステップにおける比較結果に基づいて、基肥補正量を演算する基肥補正量演算ステップと、
前記基肥補正量演算ステップによって求められた前記基肥補正量を反映させて前記基肥量を補正して前記基肥地図を更新する基肥地図更新ステップと、を有し、
前記測定項目測定ステップ、
前記目標・実績比較ステップ、前記基肥補正量演算ステップ、及び前記基肥地図更新ステップを繰り返すことにより適切な基肥量に収束させ
、
前記測定項目は、
上限値、下限値でない目標値を有し補正の基本となる目標項目を必須項目とし、
上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の上限を決める上限項目と、上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の下限を決める下限項目と、を任意の項目として有し、
前記目標項目に関して補正量を決める関数と前記目標項目の目標値と測定値の差に基づく補正値を、前記上限項目と前記下限項目の目標値と測定値の差に基づく上限補正量と下限補正量と比較して前記補正量を決定する
ことを特徴とする基肥量演算方法。
【請求項6】
圃場への基肥量の演算処理を行う基肥量演算プログラムであって、
コンピュータに、
圃場の領域と基肥量との関係を示す基肥地図の入力を行う基肥地図入力ステップと、
圃場における
生育結果である測定項目を設定する測定項目測定ステップと、
前記測定項目の目標値と実績値との比較を行う目標・実績比較ステップと、
前記目標・実績比較ステップにおける比較結果に基づいて、基肥補正量を演算する基肥補正量演算ステップと、
前記基肥補正量演算ステップによって求められた前記基肥補正量を反映させて前記基肥量を補正して前記基肥地図を更新する基肥地図更新ステップと、を実行させ、
前記測定項目測定ステップ
、前記目標・実績比較ステップ、前記基肥補正量演算ステップ、及び前記基肥地図更新ステップを繰り返すことにより適切な基肥量に収束させ
、
前記測定項目は、
上限値、下限値でない目標値を有し補正の基本となる目標項目を必須項目とし、
上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の上限を決める上限項目と、上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の下限を決める下限項目と、を任意の項目として有し、
前記目標項目に関して補正量を決める関数と前記目標項目の目標値と測定値の差に基づく補正値を、前記上限項目と前記下限項目の目標値と測定値の差に基づく上限補正量と下限補正量と比較して前記補正量を決定する
ことを特徴とする基肥量演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物等の基肥量演算技術に関する。
【背景技術】
【0002】
作物生産においては、作物を倒伏させずに高品質で高い収量を得ることが主目標である。スマート農業技術の一つである可変施肥技術は、先端技術を利用してこのような目標の達成を目指す技術である。
例えば、特許文献1は、最大収穫量より少ない基本収穫量に合わせて播種時に基本施肥を栽培区域に施し、限られた区域に追肥を行うものである。生育初期からの所定期間に栽培区域と追肥区域とで生じた生育量をそれぞれ測定し、栽培区域でのその測定値を追肥区域での測定値と比較する。追肥区域での生育が栽培区域での生育を上回る場合に、その生育量の差に相当する肥料量を追肥する 。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基肥の可変施肥に必要な機械は実用化されているものの、得られたデータから誰でもが基肥地図を作成することができる標準的な方法に関する提案はなく、例えば、研究者が個人的技術に基づいて作成しているのが現状である。
本発明は、圃場毎の土壌分析等を必要とせず、栽培目標を達成する基肥量を精度良く求めることを目的とする。なお、基肥量とは基肥の窒素量を示すものとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一観点によれば、圃場への基肥窒素量である基肥量の演算処理を行う基肥量演算装置であって、圃場の領域と基肥量との関係を示す基肥地図の入力を行う基肥地図作成部と、圃場における測定項目を測定する測定項目測定部と、前記測定項目の目標値と実績値との比較を行う目標・実績比較部と、前記目標・実績比較部における比較結果に基づいて、基肥補正量を演算する基肥補正量演算部と、前記基肥補正量演算部によって求められた補正量を反映させて前記基肥地図を更新する基肥地図更新部と、を有し、基肥施用、生育結果である測定項目の測定、基肥量の補正の手順を繰り返すことにより適切な基肥量に収束させることを特徴とする基肥量演算装置が提供される。
【0006】
上記の手法によれば、栽培結果を利用したフィードバック制御の考え方により、品種特性、地力、気象等の条件が不明であっても、処理を繰り返すことにより、最適な基肥量に収束させることができる。また、基肥量の位置依存性を示す基肥地図を適正化することができる。
【0007】
前記測定項目は、上限値、下限値でない目標値を有し補正の基本となる目標項目を必須項目とし、上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の上限を決める上限項目と、上限値又は下限値の目標値を有し、補正量の下限を決める下限項目と、を任意の項目として有し、前記目標項目に関して補正量を決める関数と前記目標項目の目標値と測定値の差に基づく補正値を、前記上限項目と前記下限項目の目標値と測定値の差に基づく上限補正量と下限補正量と比較して前記補正量を決定することが好ましい。目標項目は一つ設定することが好ましい。
【0008】
前記上限項目と前記下限項目とが相反した場合の対立処理方法が決められているようにしても良い。対立処理方法は、優先する項目を決めておく、上限補正量と下限補正量の平均値を採用する、等が考えられる。
【0009】
作物が水稲である場合には、例えば収量を前記目標項目、圃場における作物の倒伏程度の一指標であるコンバイン標準化速度と穀粒タンパク質含有率を前記上限項目と設定することが考えられる。
作物が小麦である場合には、例えば収量を前記目標項目、圃場における作物の倒伏程度の一指標であるコンバイン標準化速度を前記上限項目、穀粒タンパク質含有率を前記下限項目と設定することが考えられる。
【0010】
本発明の他の観点によれば、圃場への基肥窒素量である基肥量の演算処理を行う基肥量演算方法であって、圃場の領域と基肥量との関係を示す基肥地図の入力を行う基肥地図作成ステップと、圃場における測定項目を測定する測定項目測定ステップと、前記測定項目の目標値と実績値との比較を行う目標・実績比較ステップと、前記目標・実績比較ステップにおける比較結果に基づいて、基肥補正量を演算する基肥補正量演算ステップと、前記基肥補正量演算ステップによって求められた補正量を反映させて前記基肥地図を更新する基肥地図更新ステップと、を有し、基肥施用、生育結果である測定項目の測定、基肥量の補正の手順を繰り返すことにより適切な基肥量に収束させることを特徴とする基肥量演算方法が提供される。
【0011】
本発明の更に他の観点によれば、圃場への基肥窒素量である基肥量の演算処理を行う基肥量演算プログラムであって、コンピュータに、圃場の領域と基肥量との関係を示す基肥地図の入力を行う基肥地図作成ステップと、圃場における測定項目を設定する測定項目作成ステップと、前記測定項目の目標値と実績値との比較を行う目標・実績比較ステップと、前記目標・実績比較ステップにおける比較結果に基づいて、基肥補正量を演算する基肥補正量演算ステップと、前記基肥補正量演算ステップによって求められた補正量を反映させて前記基肥地図を更新する基肥地図更新ステップと、を実行させ、基肥施用、生育結果である測定項目の測定、基肥量の補正の手順を繰り返すことにより適切な基肥量に収束させることを特徴とする基肥量演算プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、圃場毎の土壌分析等を必要とせず、基肥施用、生育結果である測定項目の測定、基肥量の補正を繰り返すだけで目標とする生育に結びつく基肥量を漸近的に精度良く求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施の形態による基肥量演算技術の要旨をまとめた図である。
【
図2】本実施の形態による作物の基肥量演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図3】本実施の形態による作物の基肥量演算方法の処理の流れを示すフローチャート図である。
【
図4】収量と窒素吸収量及び基肥補正量ΔNyの関係の一例を示す図である。
【
図5】コンバイン標準化速度(倒伏程度の指標)と窒素吸収量及び基肥上限補正量ΔNUvの関係の一例を示す図である。
【
図6】玄米タンパク質含有率と窒素吸収量及び基肥上限補正量ΔNUpの関係の一例を示す図である。
【
図7】生育量の一指標であるNDVI×植被率と窒素量吸収量及び基肥補正量ΔNndvixの関係の一例を示す図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態による施肥機設定値演算技術の要旨をまとめた図である。
【
図9】第2の実施の形態による作物の施肥機設定値演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図10】第2の実施の形態による作物の施肥機設定値演算方法の処理の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、従来技術は、例えば、以下のような特徴を有する。
1)品種毎に標準基肥量を決定
試験場等の限られた場所で数年間の試験を行い、標準基肥量を決定する。
2)土壌の可給態窒素を分析する。
3)標準基肥量と可給態窒素から基肥量を決定する。
【0015】
このような従来技術では、以下のような問題がある。
1)圃場毎に土壌分析が必要になり、費用や手間が掛かる。
2)標準基肥量を決めた場所との気象条件、圃場条件等の違いにより、決定された基肥量が適切ではない場合がある。
【0016】
以下、本発明による基肥量演算技術の要旨について、
図1を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態による基肥量演算技術の要旨をまとめた図である。
図1に示す基肥量演算技術は、以下のような考え方に基づく。
1)1回目(最初)の基肥地図作成NP
1(T1)
基肥地図は、圃場における位置(測定地点等)と基肥量との関係を示す地図であり、1回目の作成例としては、従来の慣行基肥量による均一施肥(全ての地点で同じ基肥量にすること)でもよい。地点iの基肥量をNP
1iとする。
2)実績基肥地図の取得N
1(T2)
実績基肥量が計画基肥量のm
1i倍であるとすると以下の式でN
1iを求めることができる。
N
1i=m
1i×NP
1i (式1)
N
1iを地図上に並べたものが実績基肥地
図N1である。
3)測定項目のデータ取得(T3)
測定項目としては、例えば、T3に示す項目が挙げられる。
4)基肥補正量ΔN
1の演算(T4)
5)基肥地図を更新(T5)
以下の式2によりNP
2iを求めることができる。
NP
2i=N
1i+ΔN
1i (式2)
NP
2iを地図上に並べたものが2回目の基肥地
図NP2である。
6)上記2)→4)→5)の処理を例えば数年(数回)にわたって続けることにより、最適な基肥量に収束させることができる。尚、測定項目は初回に設定する。
上記の手法によれば、栽培結果を利用したフィードバック制御の考え方により、品種特性、地力、気象等の条件が不明であっても、処理を繰り返すことにより、最適な基肥量に収束させることができる。
7)基肥量を計算する単位は、地域であっても、圃場であっても、1測定地点(メッシュ: 10m×10mなど)であってもよい。
尚、計算単位内の条件は均一であることが望ましい。その場合、土壌分析や栽培試験を行わなくても、計算単位毎に最適な基肥量に収束させることができる。
【0017】
(第1の実施の形態)
図2は、本実施の形態による作物の基肥量演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図3は、本実施の形態による作物の基肥量演算方法の処理の流れを示すフローチャート図である。
図2に示すように、本実施の形態による基肥量演算装置Aは、基肥地図作成部1と、実績基肥地図作成部5と、測定項目測定部7と、目標・実績比較部11と、基肥補正量演算部15と、基肥地図更新部17と、を有している。その他、図示しない記憶部などを有している。
【0018】
図3に示すように、本実施の形態による基肥量演算処理手順は、まず、処理を開始すると(Start)、測定項目の設定を行う(ステップS1)。
【0019】
1.測定項目の設定例(ステップS1)
1-1)測定項目の決定
栽培目標や利用できる機械に基づいて、基肥量補正の判断に用いる測定項目を決める。測定項目としては、収量、倒伏程度、穀粒タンパク質含有率等が考えられる。
1-2)測定項目の種類を指定する
各測定項目の種類として、目標項目、上限項目、下限項目、上下限項目のいずれかを指定する。
1-2-1)目標項目: 基本補正量(ΔNB)を決める関数と上限値、下限値でない目標値をもつ。このΔNBを補正量の基本とし、上限補正量、下限補正量、上限ΔN、下限ΔNで補正してΔNを決定する。必ず一つ指定する。目標項目は、例えば、収量などである。
1-2-2)上限項目: 上限補正量(ΔNU)の関数と上限値または下限値の目標値をもつ。例えば、作物の倒伏程度(指標としてのコンバイン標準化速度等)や玄米タンパク質含有率などである。
1-2-3)下限項目: 下限補正量(ΔNL)の関数と上限値または下限値の目標値をもつ。例えば、小麦タンパク質含有率などである。
1-2-4)上下限項目: 上限補正量関数、下限補正量関数、上限値と下限値の目標値をもつ上下限項目を設定しても良い。
ここで、目標項目は必ず1つ作る。
【0020】
2.項目毎に関数と目標値、優先順位を決める(ステップS4)。
関数は、直線、階段状、折れ線、曲線などで良い。例えば、目標未満の場合補正量=1、目標以上の場合補正量=0という関数でもよい。すなわち、必ずしも実験に基づく関数でなくてもよい。
また、上限項目と下限項目がある場合、ΔNU<ΔNLと対立した場合の対立処理を決めておくと良い。対立処理としては、優先する項目を決めておく、ΔNUとΔNLの平均値を採用する、等が考えられる。
基肥地図作成部1が最初の基肥地
図NP1を入力する(ステップS2)。
次いで、実績基肥地図作成部5が実績基肥量を考慮して基肥地
図NPnを実績基肥地
図Nnに変換する(n=1,2、3、…)。
次いで、測定項目測定部7がステップS3において、測定項目を測定する。ステップS4(S4-1,S4-2,S4-3)において、測定項目測定部7により測定された測定項目に基づいて以下のように補正量を算出する。
【0021】
3.目標・実績比較部11で比較を行い(ステップS4)、項目毎に基肥量補正量を算出する。
3-1)目標項目(ステップS4-1): 目標値-測定値を、ΔNBを決める関数に当てはめΔNBを算出する。
3-2)上限項目(ステップS4-2): 目標値-測定値を、ΔNUを決める関数に当てはめΔNUを算出する。
3-3)下限項目(ステップS4-3): 目標値-測定値を、ΔNLを決める関数に当てはめΔNLを算出する。
3-4)図示していないが、例えば、上下限項目:目標値-測定値を、ΔNUを決める関数とΔNLを決める関数に当てはめ、ΔNUとΔNLを算出するようにしても良い。
【0022】
次いで、基肥補正量演算部15が、その比較結果に基づいて栽培目標を達成する方向に基肥量の補正を行う(S6-1~4、S7,S8-1~8-3)。
以下に、上記の補正量ΔNの演算処理について説明する。
【0023】
4.基肥補正量ΔNの決定
4-1)暫定補正量ΔN(1)の決定
ΔNB、ΔNU、ΔNLを比較し(ステップS5)、暫定補正量ΔN(1)を決定する(S6-1~S6-4)
ΔNL≦ΔNB≦ΔNLの場合には、ΔNBを採用する(ステップS6-1)。
ΔNB>ΔNUの場合には、ΔNUを採用する(ステップS6-2)。
ΔNB<ΔNLの場合には、ΔNLを採用する(ステップS6-3)。
ΔNU<ΔNLの場合には、対立処理を行う(ステップS6-4)。
4-2)基肥補正量ΔNの決定(S7,ステップS8-1~S8-3)
4-1)で決定したΔN(1)を、必要に応じて、最終的な上限ΔN、下限ΔNに当てはめる。上限ΔN、下限ΔNは過剰補正を避けるためあらかじめ設定した値であり、測定項目の測定値により変動するΔNUやΔNLとは異なる。
下限ΔN≦ΔN(1)≦上限ΔNであれば、ΔN(1)を採用する。
ΔN(1)>上限ΔNであれば、上限ΔNを採用する。
ΔN(1)<下限ΔNであれば、下限ΔNを採用する。
ステップS8-1~S8-3の後の処理は、
図3では省略しているが、
図1のT5(基肥地図の更新)からT1(新たな基肥地図で処理を繰り返す)に戻る。
尚、ステップS8から戻る位置は、ステップS1(測定項目、測定項目の目標値、関数を更新する場合)又はステップS2(測定項目を変えない場合)である。
【0024】
(暫定補正量ΔN(1)の演算の具体例)
以下に、上記の手順に沿った暫定補正量ΔN(1)の演算の具体例について説明する。
適宜、
図1から3までと、上記1.測定項目の設定例から上記4.暫定補正量ΔN(1)の決定までの決定の説明を参照する。
【0025】
(1)補正量演算
1-1)測定項目は、
図1のT3において例示した項目等の組み合わせである。
1-2)後述する表などに例示させるように、測定項目毎に、種類、関数、目標値などを設定する。
測定項目の特性に応じて、目標項目、上限項目等の種類を指定する。
設定項目としての関数は、実験データに基づいて適切な関数を設定することが望ましい。但し、実験データに基づかない関数、例えば、階段状関数を設定しても良い。例えば、収量を目標項目とし、目標未満は補正量=1、目標以上は補正量=0というような簡単な関数を設定しても良い点が本発明の1つの特徴である。
1-3)測定項目毎に基肥量の補正量を演算する。
1-4)ΔNB、ΔNU、ΔNLを比較して暫定補正量ΔN(1)を決定する。
尚、ΔN(1)は、目標項目の値ΔNBを採用するのが基本であり、ΔNU、ΔNLで補正する。ステップS4~S6までのように、測定項目の種類により算出された補正値の扱いを変えている。
【0026】
(2)項目別の関数の例
2-1)測定項目
測定項目は、収量、コンバイン標準化速度(倒伏程度の一指標)、穀粒タンパク質含有率とすることができる。主食用水稲の場合は倒伏程度と穀粒タンパク質含有率とが上限以下の範囲内で目標収量を目指すのが好ましい。正規化植生指数(NDVI)等の生育量センシング項目は、この例ではΔN演算に使わないが、関数の例を示す。
【0027】
2-2)収量
収量を目標項目とする。そして、目標収量より実際の測定収量が少ない場合、収量差に相当する窒素量だけ基肥量を増やす。
図4は、収量と窒素吸収量、及び収量と基本補正量ΔNByの関係の一例を示す図である。
窒素吸収量NAは、収量Y(g/m
2)に対して以下の式3に示すように単回帰することができることがわかった。
NA(g/m
2)=0.0176×Y+0.6476 (式3)
【0028】
目標収量(下向き黒矢印参照)を570g/m
2とし、肥料効率(施用した窒素量に対する吸収される窒素量の割合)をk=1とすると、
図4のように、
Y<570の場合:
ΔNBy=0.0176×(570-Y)/k=0.0176×(570-Y) (式4)
Y≧570の場合:
ΔNBy=0
である。
【0029】
以上のように、収量による基本補正量ΔNByを回帰式を利用して求めることができる。
尚、収量のみでΔNを計算する場合や肥料削減が目的の場合には、式4の場合分けをせず、収量が目標を超えた場合は基肥量を削減して、倒伏防止や肥料削減を図ることも可能である。
【0030】
kは通常0.3程度の値である。但し、過剰補正となることを避けるためk=1~2として、数年にわたって演算を行い、最適基肥量に近づけるようにしてもよい。収量は、その年の気象条件等の影響を受けるため、目標収量は絶対値だけでなく、その年の平均値、中央値、第三四分位数等の相対的な値を用いても良い。
【0031】
2-3)コンバイン標準化速度
コンバイン標準化速度(本明細書では、倒伏していない基準圃場のコンバイン速度に対する対象箇所のコンバイン速度の相対値と定義する。)は、農作物の倒伏程度の指標として用いることができる。倒伏程度が大きいほどコンバイン速度は小さくなるからである。倒伏程度は、上限の目標を持ち、基肥補正量の上限を決める項目であるため、上限項目である。一方、コンバイン標準化速度は、倒伏程度と負の関係があるため、下限の目標を持つ上限項目である(
図5の下向き黒矢印=0.7を下限目標とする)。
図5は、コンバイン標準化速度(倒伏程度)と窒素吸収量、及びコンバイン標準化速度と上限補正量ΔNUvの関係の一例を示す図である。
図5に示すように、窒素吸収量NAはコンバイン標準化速度Vで、以下の式5に示すように単回帰することができた。
NA=-7.1321×V +17.159(式5)
【0032】
ここで、目標標準化速度を0.7、肥料効率を1とすると、ΔNUvは以下の式6で表される。
ΔNUv=-7.1321×(0.7-V) (式6)
以上のように、コンバイン標準化速度による上限補正量ΔNUvを回帰式を利用して求めることができる。
【0033】
尚、目標より収量が低い場合は増加補正となり、倒伏程度が大きくなる恐れがある。目標より標準化速度が大きい(倒伏程度が小さい)場合も、式6によりΔNUvを計算することにより、倒伏程度からみた補正量の上限を設定することができる。従って、増加補正量の過剰を防ぐことができる。また、倒伏程度の指標としてコンバイン標準化速度の代わりに、コンバイン速度そのものや作物の高さなど別の測定項目を使うことも可能である。
【0034】
2-4)穀粒タンパク質含有率補正
基肥窒素量が多いと穀粒タンパク質含有率が高くなる。
ところで、作物によって、品質上求められる穀粒タンパク質含有率に上限や下限がある場合がある。
例えば、玄米タンパク質含有率が高いと食味が落ちるため、良食味米栽培では玄米タンパク質含有率に上限が定められている場合がある。ここでは玄米タンパク質含有率を上限項目とした例を示す。
図6は、玄米タンパク質含有率と窒素吸収量、及び玄米タンパク質含有率と上限補正量ΔNUpの関係の一例を示す図である。
図6に示すように、窒素吸収量は玄米タンパク質含有率で単回帰できることがわかる。
図6より、玄米タンパク質含有率をPとすると、窒素吸収量NAは以下の式で求まる。
NA=3.1395×P-8.9885 (式7)
【0035】
また、玄米タンパク質含有率の目標値を6.0(下向き黒矢印の値を上限目標とする)、肥料効率を1とすると、式8が求まる。
ΔNUp=3.1395×(6.0-P) (式8)
以上のように、穀粒タンパク質含有率による上限補正量ΔNUpを回帰式を利用して求めることができる。
【0036】
2-5)NDVI等による補正(関数の例示)
収量コンバインを利用することができない場合に、人工衛星やドローン等により取得できる生育量の指標であるNDVI(正規化植生指数)等で基肥量を補正することも可能である。
NDVI値は、植物などの生育量を示す指標であり、(IR-R)/(IR+R)で求めることができる。
ここで、Rは可視光の反射率、IRは近赤外光の反射率、であり、NDVI値は+1~-1の間の値である。
【0037】
この場合は目標項目とする。また、収量が目標より低い原因が生育過剰による倒伏や窒素過多による病害の場合もある。その場合は、収量による補正では増加補正となるが、実際には基肥量を減らす必要がある。コンバイン標準化速度を利用しない場合は、収量とNDVI等を組み合わせることで、そのような場合も適切に基肥量を補正できる。生育過剰を防ぐ目的がある場合は、上限項目とする。生育量は気象変動の影響を受けるので、その年の平均値、中央値、第三四分位数等相対的な値でもよい。
【0038】
図7は、NDVI×植被率と窒素吸収量、及びNDVI×植被率と基本補正量ΔNBndvixの関係の一例を示す図である。NDVI×植被率はドローン等によるNDVI測定時に得られる生育量の指標の一つである。
図7に示すように、窒素吸収量は、NDVI×植被率(NDVIXと記載する)の2次関数で回帰できる。
NA=104.67×NDVIX
2-21.216×NDVIX+2.2025 (式9)
【0039】
また、NDVIXの目標値を0.3、肥料効率を1とすると、ΔNBndvixは以下のようになる。
ΔNBndvix=(104.67×(0.32-NDVIX2)-21.216×(0.3-NDVIX) (式10)
以上のように、NDVI×植被率による基本補正量ΔNBndvixを、回帰式を利用して求めることができる。
【0040】
(3)ΔN(1)の演算例
以下に、主食用水稲の場合のΔNの演算例について説明する。
【0041】
【0042】
表1は、測定項目の組み合わせ例を示す表である。
例1は、収量を目標項目としたものである。
例2は、NDVI×植被率を目標項目としたものである。
例3は、収量を目標項目とし、NDVI×植被率を上限項目としたものである。
例4は、収量を目標項目とし、コンバイン標準速度、穀粒タンパク質含率を上限項目としたものである。
以下では、表1の例4の組み合わせを用いて、様々な収量、タンパク質含有率、コンバイン標準化速度の組み合わせについて、ΔN(1)を計算した例を示す。
【0043】
【0044】
表2は、主食用水稲を想定した場合の暫定補正量ΔN(1)の演算例を示す表であり、式4,式6、式8を用いて、ΔNBy、ΔNUv、ΔNUpを計算した値を示す表である。表2は、
図3のステップS8-1~S8-3までの処理においてもPと、得られた暫定補正量ΔN(1)を求めるまでの演算処理の結果を示す。それ以降の演算処理により得られた結果は省略している。
各項目の網掛けの意味を最終行に示した。
【0045】
事例1では、収量が600であり、目標570を上回っているため、式(4)より、収量による基本補正量は0である。上限項目であるコンバイン標準化速度は1.0であるため、式(6)より、上限補正量は2.1である。上限項目であるタンパク質含有率は5.5であるため、式(8)より、上限補正量は1.6である。
ΔNByは上限補正量ΔNUvやΔNUpより小さいので、事例1における選択される補正量はΔNBy=0.0であり、ΔN(1)=0.0となる。
【0046】
事例2では、収量が500であり、目標570を下回っているため、式(4)より、収量による基本補正量は1.2である。上限項目であるコンバイン標準化速度は0.9であるため、式(6)より、上限補正量は1.4である。上限項目であるタンパク質含有率は5.5であるため、式(8)より、上限補正量は1.6である。
ΔNByは上限補正量ΔNUvやΔNUpより小さいので、事例2における選択される補正量はΔNBy=1.2であり、ΔN(1)=1.2となる。
【0047】
事例3では、収量が470であり、目標570を下回っているため、式(4)より、収量による基本補正量ΔNByは1.8である。上限項目であるコンバイン標準化速度は1.0であるため、式(6)より、上限補正量は2.1である。上限項目であるタンパク質含有率は5.5であるため、式(8)より、上限補正量ΔNUpは1.6である。
ΔNUp<ΔNBy<ΔNUvなので、事例3における選択される補正量はΔNUp=1.6であり、ΔN(1)=1.6となる。
【0048】
事例4では、収量が470であり、目標570を下回っているため、式(4)より、収量による基本補正量ΔNByは1.8である。上限項目であるコンバイン標準化速度は0.9であるため、式(6)より、上限補正量ΔNUvは1.4である。上限項目であるタンパク質含有率は5.5であるため、式(8)より、上限補正量ΔNUpは1.6である。
ΔNUv<ΔNUp<ΔNByなので、事例4における選択される補正量はΔNUv=1.4であり、ΔN(1)=1.4となる。
【0049】
事例5では、収量が600であり、目標570を上回っているため、式(4)より、収量による基本補正量ΔNByは0.0である。上限項目であるコンバイン標準化速度は0.5であるため、式(6)より、上限補正量ΔNUvは-1.4である。上限項目であるタンパク質含有率は5.5であるため、式(8)より、上限補正量ΔNUpは1.6である。
ΔNUv<ΔNBy<ΔNUpなので、事例5における選択される補正量はΔNUv=-1.4であり、ΔN(1)=-1.4となる。
【0050】
事例6では、収量が500であり、目標570を下回っているため、式(4)より、収量による基本補正値ΔNByは1.2である。上限項目であるコンバイン標準化速度は0.5であるため、式(6)より、上限補正量ΔNUvは-1.4である。上限項目であるタンパク質含有率は6.5であるため、式(8)より、上限補正量はΔNUp=-1.6である。
ΔNUp<ΔNUv<ΔNByなので、事例6における選択される補正量はΔNUp=-1.6であり、ΔN(1)=-1.6となる。
【0051】
事例7では、収量が500であり、目標570を下回っているため、式(4)より、収量による補正量ΔNByは1.2である。上限項目であるコンバイン標準化速度は0.3であるため、式(6)より、上限補正量ΔNUvは-2.9である。上限項目であるタンパク質含有率は6.5であるため、式(8)より、上限補正量ΔNUpは-1.6である。
ΔNUv<ΔNUp<ΔNByなので、事例7における選択される補正量はΔNUv=-2.9であり、ΔN(1)=-2.9となる。
【0052】
事例8では、収量が600であり、目標570を上回っているため、式(4)より、収量による基本補正量ΔNByは0.0である。上限項目であるコンバイン標準化速度は0.7であるため、式(6)より、上限補正量ΔNUvは0.0である。上限項目であるタンパク質含有率は6.5であるため、式(8)より、上限補正量ΔNUpは-1.6である。
ΔNUp<ΔNBy=ΔNUv、事例8における選択される補正量はΔNUp=-1.6であり、ΔN(1)=-1.6となる。
以上に説明したように、様々な事例において、基肥に関する適切な補正量を求めることができる。
【0053】
【0054】
表3は、麺用コムギを想定した場合の暫定補正量ΔN(1)の演算例を示す表であり、数式は水稲の係数を流用し、目標や上限、下限を設定した。また、対立処理はコンバイン標準化速度をタンパク質含有率より優先とした。
表3は、
図3のステップS8-1~S8-3までの処理においてもPと、得られた暫定補正量ΔN(1)を求めるまでの演算処理の結果を示す。それ以降の演算処理により得られた結果は省略している。
各項目の網掛けの意味を最終行に示した。
【0055】
事例1では、収量が450であり、目標400を上回っているため、収量による基本補正量ΔNByは0となる。コンバイン標準化速度は、1.0(0.7を下限目標とする)であるため、上限補正量ΔNUvは2.1となる。タンパク質含有率は11.0(10.0を下限目標とする)であるため、下限補正量ΔNLpは-3.1となる。ΔNLp<ΔNBy<ΔNUvなので、補正量はΔNBy=0となる。
【0056】
事例2では、収量が350であり、目標400を下回っているため、収量による基本補正量ΔNByは0.9となる。コンバイン標準化速度は、0.9であるため、上限補正量ΔNUvは1.4となる。タンパク質含有率は11.0であるため、下限補正量ΔNLpは-3.1となる。ΔNLp<ΔNBy<ΔNUvなので、補正量はΔNBy=0.9となる。
【0057】
事例3では、収量が300であり、目標400を下回っているため、収量による基本補正量ΔNByは1.8となる。コンバイン標準化速度は、0.9であるため、上限補正量ΔNUvは1.4となる。タンパク質含有率は11.0であるため、下限補正量ΔNLpは-3.1となる。ΔNLp<ΔNUv<ΔNByなので、補正量はΔNUv=1.4となる。
【0058】
事例4では、収量が450であり、目標400を上回っているため、収量による基本補正量ΔNByは0となる。コンバイン標準化速度は、0.6であるため、上限補正量ΔNUvは-0.7となる。タンパク質含有率は11.0であるため、下限補正量ΔNLpは-3.1となる。ΔNLp<ΔNUv<ΔNByなので、補正量はΔNUv=-0.7となる。
【0059】
事例5では、収量が350であり、目標400を下回っているため、収量による基本補正量ΔNByは0.9となる。コンバイン標準化速度は、1.0であるため、上限補正量ΔNUvは2.1となる。タンパク質含有率は9.5であるため、下限補正量ΔNLpは1.6となる。ΔNBy<ΔNLp<ΔNUvなので、補正量はΔNLp=1.6となる。
【0060】
事例6では、収量が350であり、目標400を下回っているため、収量による基本補正量ΔNByは0.9となる。コンバイン標準化速度は、1.0であるため、上限補正量ΔNUBvは2.1となる。タンパク質含有率は9.0であるため、下限補正量ΔNLpは3.1となる。ΔNBy<ΔNUv<ΔNLpで対立処理としてΔNUvを優先するため、補正量はΔNUv=2.1となる。
【0061】
事例7では、収量が250であり、目標400を下回っているため、収量による基本補正量ΔNByは2.6となる。コンバイン標準化速度は、1.0であるため、上限補正量ΔNUvは2.1となる。タンパク質含有率は9.0であるため、下限補正量ΔNLpは3.1となる。ΔNUv<ΔNBy<ΔNLpで対立処理としてΔNUvを優先するため、補正値はΔNUv=2.1となる。
【0062】
事例8では、収量が350であり、目標400を下回っているため、収量による基本補正量ΔNByは0.9となる。コンバイン標準化速度は、0.6であるため、上限補正量ΔNUvは-0.7となる。タンパク質含有率は10.5であるため、下限補正量ΔNLpは-1.6となる。ΔNLp<ΔNUv<ΔNByなので、補正値はΔNUv=-0.7となる。
【0063】
以上のようにして、主食用水稲や麺用コムギの場合のΔN(1)の演算を行うことができる。
尚、目標項目である収量は作物や品種、栽培地等に依存するが、主食用水稲などでは420kg/10aが好ましく、より好ましくは720kg/10aである。
また、上限項目であるコンバイン標準化速度は、0.5以上が好ましく、より好ましくは0.8以上が好ましい。
また、上限項目であるタンパク質含有量は、7.0%以下が好ましく、6.0%以下がより好ましい。
【0064】
本実施の形態による基肥量演算技術は、可変基肥地図の作成に利用できる。そして、圃場毎の土壌分析等を必要とせず、基肥施用、生育結果である測定項目を測定し、基肥量を補正する手順を繰り返すだけで栽培目標を達成する基肥量を漸近的に精度良く求めることができる。
可変基肥に使用する機械と測定項目データが圃場管理システム等に統合されれば、システムとして一体的に利用できる。そのシステムの中に本実施の形態による演算装置を組み込むことにより、個人的な技量などに依存せずに、基肥地図を作成することができる。
【0065】
(第2の実施の形態)
本発明は基肥量を補正するものであるが、補正を加える元になる実績基肥量の測定には手間が掛かる場合が多い。そこで、本発明の第2の実施の形態では、この課題を解決する。すなわち、第2の実施の形態では、実績基肥量を使用せずに、施肥機設定値を用いる。施肥機設定値とは施肥機の施肥量の設定値のことである。例えば施肥量を肥料の重量で50kg/10a計画する場合に施肥量を調整するつまみや開度の値を4にする機械なら、施肥機設定値は4となる。
第1の実施形態における実績基肥量と補正量を全て施肥機設定値に置き換え、施肥機設定値を補正の対象とすることができる。
【0066】
図8は、本発明の第2の実施の形態による施肥機設定値演算技術の要旨をまとめた図である。
図9は、本実施の形態による作物の基肥量演算装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
図10は、本実施の形態による作物の基肥量演算方法の処理の流れを示すフローチャート図である。
図10は、
図3に対応し、対応するステップの符号の10を加算した符号で処理の対応関係を示す。
図8に示すように、施肥機設定値地
図D1を作成し(T11)、測定項目を測定する(T13)。次いで、設定値補正量ΔD
1を演算し(T14)、D
n+1=D
n+ΔD
nを演算する(T15)。そして、次のサイクル(n+1)に進む(T11に戻る)。
図9に示すように、本実施の形態による基肥量演算装置Bは、設定値地図作成部2と、測定項目測定部8と、目標・実績比較部12と、設定値補正量演算部16と、設定値地図更新部18と、を有している。その他、図示しない記憶部などを有している。
以下において、処理の詳細について説明する。
【0067】
1)
図4~
図7を施肥機設定値で作成する方法
例えば、
図9の測定項目測定部8において、施肥機設定値を数段階設けた試験を行い、それぞれの収量、倒伏程度、穀粒タンパク質含有率、NDVI等を測定すれば、
図4~
図7の縦軸を施肥機設定値に置換した図を作成することができる。回帰分析により、式3,式5,式7、式9のNAをDに置き換えられ、式4,式6,式8,式10のΔNBy、ΔNUv、ΔNUp,ΔNBndvixをそれぞれ基本施肥機設定値補正量ΔDBy,コンバイン標準化速度による上限施肥機設定値補正量ΔDUv、穀粒タンパク質含有率による上限施肥機設定値補正量ΔDUp、NDVIXによる基本施肥機設定値補正量ΔDndivxに置き換える。
これらから、設定値補正量演算部16が、第1の実施形態と同様に
図8のT14において、
図10のS14-1~3、S15、S16-1~4により、ΔN(1)に相当する暫定施肥機設定値補正量ΔD(1)を求める。次にS17、S18-1~3で、あらかじめ定めておいた施肥機設定値補正量の上限である上限ΔD、下限である下限ΔDと比較を行い、施肥機設定値補正量ΔDを求める。ΔDを用いることで、設定値地図更新部18が、第1の実施形態の方法と同様に次回の施肥機設定値を求める。
D
n+1i=D
ni+ΔD
ni
第1の実施の形態と比較した第2の実施の形態の方法のよい点は、式3~式10の作成を含め、農家による実施が困難な作物の窒素吸収量の測定が不要になり、収量、倒伏程度、穀粒タンパク質含有率、NDVI等を測定できる機械を用いるだけで補正処理が完結することである。
【0068】
2)実績基肥量N
niを施肥機設定値D
niに、ΔN
niをΔD
niに変換する方法
例えば、
図4~
図7は第1の実施形態の処理のままにしておき、
図8のようにN
niをD
niに置き換え、ΔN
niをΔD
niに変換する方法を用いることも可能である。
ここで、Dを施肥機設定値、その設定値における取扱説明書上の施肥量をNDとし、その関数を
D=p(ND) (式11)
とする。
関数pを用いて補正量ΔNを設定値補正量ΔDに変換する場合、
q=dP/dND(微分値、または差分値)とすると、
ΔD
ni=q×ΔN
ni (式12)
となる。
D
n+1i=D
ni+ΔD
ni
この方法2)は、1)の方法のように改めて実験をしなくてもよく、既存の式4~式10があれば、実験結果を流用できる点がメリットである。
【0069】
上記の処理および制御は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)によるソフトウェア処理、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)によるハードウェア処理によって実現することができる。
また、上記の実施の形態において、図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は基肥量演算装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0071】
A 基肥量演算装置
1 基肥地図作成部
2 設定値地図作成部
5 実績基肥地図作成部
7 測定項目測定部
8 測定項目測定部
11 目標・実績比較部
12 目標・実績比較部
15 基肥補正量演算部
16 設定値補正量演算部
17 基肥地図更新部
18 設定値地図更新部