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特許7430090分散化した結晶セルロース及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】分散化した結晶セルロース及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/262 20160101AFI20240202BHJP
   A23L 23/00 20160101ALN20240202BHJP
【FI】
A23L29/262
A23L23/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020053557
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021151214
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠
(72)【発明者】
【氏名】山内 講平
(72)【発明者】
【氏名】中谷 大河
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-502409(JP,A)
【文献】特開平08-056608(JP,A)
【文献】米国特許第03573058(US,A)
【文献】特開平2-039855(JP,A)
【文献】特開平11-299435(JP,A)
【文献】特開2011-193880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散化した結晶セルロースの製造方法であって、
コロイダルグレードの結晶セルロースを動植物性タンパクとともに水に溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた水溶液を噴霧乾燥する乾燥工程と、
からなる、スープ用の分散化した結晶セルロースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散化した結晶セルロース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、市場には多くの食品が流通している。食品の中には、時間経過とともに、成分が分離しやすいものがある。特に、水分と油分の混合物である乳化物は時間経過とともに分離しやすい。そこで、乳化物については、乳化剤を用いたり、さらに機械的に強制乳化を行ったりしている。乳化剤や強制乳化を行うことによって、分離しづらく、しかも乳化状態を安定化させることができる。また、乳化状態をより安定的に保つために、セルロースを用いることもある。
【0003】
ここで、セルロースは植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分であり、分子式(C10 で表される炭水化物(多糖類)である。セルロースは、食品添加物として認可されており、増粘、ゲル化、気泡安定化、加熱調理時の型崩れ防止、食品の安定剤、医薬用のフィルムコーティング、顆粒のバインダー(結合剤)、有効成分の持続性放出用基剤等として用いられている。
【0004】
食品・医薬分野において用いられているセルロースには様々な種類のものが存在している。例えば、環状セルロース、発酵セルロース、結晶セルロース等がある。このうち、結晶セルロースは、粉体グレードやコロイダルグレード等といった形状がある。粉体グレードは、結晶セルロース単独からなる微細な空隙を有する素材で、被添加物に対して粘着性のない保水性・保油性を付与する機能を備える。一方、コロイダルグレードは、セルロースをより細かく分解したものと水溶性高分子との混合物である。比較的分子量が小さく、溶液中で強く撹拌することで結晶セルロース分子がコロイド状に分散することが知られている。また、粘度が低く、食感への影響もほとんどない。さらに、溶液中に分散した結晶セルロースが乳脂の分離を抑制することも知られている(特許文献1参照)。これは溶液中にコロイド状に分散した結晶セルロースが網目状構造を形成しているためではないかと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-313145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、結晶セルロースが溶液中で網目状構造を形成するためには、凝集している結晶セルロースを溶液中で分散化させる必要がある。結晶セルロースを分散化させるためには、溶液に添加し、かつ、激しく攪拌することが必要となる。そのため、溶液に結晶セルロースを添加しただけでは網目状構造を得ることはできない。また、結晶セルロースを一度分散させた溶液を乾燥しても、分散化した結晶セルロースとはならず、再び凝集してしまう。そのため、事前に結晶セルロースを分散させた溶液形態でないと使用できず、非常に使い勝手が悪いという問題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、溶液以外の形態で、しかも溶液中に添加しただけで網目状構造が得られる方法がないか検討を行った。そして、結晶セルロースを分散させた溶液に動植物性タンパクを添加して噴霧乾燥すると、凝集していない結晶セルロースが得られ、しかも、溶液に添加するだけで網目状構造を形成することを新たに見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、分散化した結晶セルロースの製造方法であって、結晶セルロースを動植物性タンパクとともに水に溶解させる溶解工程と、前記溶解工程で得られた水溶液を噴霧乾燥する乾燥工程と、からなる、分散化した結晶セルロースの製造方法を提供する。
【0009】
かかる構成によれば、動植物性タンパクとともに溶解した後、噴霧乾燥することで、分散した状態の結晶セルロースを得ることができる。
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、動植物性タンパク質と溶解後、噴霧乾燥させることで得られる、分散化した結晶セルロースを提供する。
【0011】
かかる構成によれば、固体の状態でも凝集していない、分散化した結晶セルロースを得ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶液以外の形態でも分散化した結晶セルロースを得ることができるため、溶液に添加しただけで結晶セルロースによる網目状構造を形成することができる。また、結晶セルロースが網目状構造を形成することで、強制乳化していなくても、溶液中に含まれる乳化物の分離を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
【0014】
本発明における結晶セルロースとは、セルロース分子鎖が緻密かつ規則的に存在する部分を取り出して精製したものであり、特に凝集しやすい結晶セルロースを意味する。なお、セルロース系物質とは、セルロースを含有する天然由来の水不溶性繊維質物質である。原料としては、木材、竹、麦藁、稲藁、コットン、ラミー、バガス、ケナフ、ビート、ホヤ、バクテリアセルロース等が挙げられる。原料として、これらのうち1種の天然セルロース系物質を使用しても、2種以上を混合したものを使用してもよい。また、必要に応じて、その他の水溶性高分子と混合してもよい。
【0015】
本実施形態において、動植物性タンパクとは、牛、豚、鶏などの畜肉類、魚類、乳、卵などに由来する動物性タンパク質やその分解ペプチド、動物性エキス、大豆、小麦、トウモロコシ、えんどう豆などに由来する植物性タンパク質やその分解ペプチドを意味する。このうち、動物性原料から抽出した動物性エキスや、植物性タンパク質が好ましい。
【0016】
さらに、本発明においては、結晶セルロース及び動植物性タンパク以外に、粉末化適性の観点から必要に応じてデキストリンなどを加えてもよい。
【0017】
<分散化した結晶セルロースの製造方法>
分散化した結晶セルロースの製造方法について説明する。まず、水に対して凝集した結晶セルロースを添加する。添加する結晶セルロースの量は、粘度に応じて適宜設定すればよい。結晶セルロースは水に対して一度に加えてもよいし、複数回に分けて加えてもよい。そして、結晶セルロースが水中に均一に分散するまでブレンダーなどの既存の方法を用いて激しく攪拌する。
【0018】
次に、動植物性タンパクを添加した。この時、添加する動植物性タンパクの量としては、最終固形分重量に対して25%程度となるように添加することが好ましい。また、動植物性タンパクは水溶液に対して一度に加えてもよいし、複数回に分けて加えてもよい。そして、動植物性タンパクが水溶液中に均一に分散するまで再度攪拌する。
【0019】
続いて、結晶セルロース及び動植物性タンパクが分散した水溶液を乾燥させる。乾燥方法としては特に制限はなく既存の乾燥方法を用いることができるが、噴霧乾燥が特に好ましい。
【実施例
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明の特性は、以下の方法により評価した。
まず、結晶セルロース(商品名『セオラスDX-3』:旭化成社製)30gを90℃の湯160mlに添加し、ブレンダーを使って8,000rpmで5分間よく攪拌した。次に、表1に基づいて動植物性タンパクを固形分換算で10g添加し、再びブレンダーを用いてよく攪拌した。次に、結晶セルロース及び動植物性タンパクを分散させた水溶液をスプレードライヤーにて、乾燥温度170℃、ブロワー65m/min、噴霧圧10×10kPaの条件下で噴霧乾燥を行うことで、各サンプルを得た。なお、動物性タンパク質としてゼラチンとポークエキスを、植物性タンパク質として分離大豆タンパクと醤油を用いた。また、動植物性タンパクを加えず噴霧乾燥した結晶セルロースに対して、動植物性タンパクを後添加したものを参考例とした。さらに、各試験例の塩分量を揃えるため、適宜塩を添加してから噴霧乾燥を行った。
【0021】
【表1】

【0022】
<噴霧乾燥後の結晶セルロースを水に添加した場合に、網目状構造を形成しているかの確認>
各サンプルを水に添加した場合に、結晶セルロースが網目状構造を形成するか否かについては、次のようにして確認を行った。噴霧乾燥したサンプルを結晶セルロースが固形分換算で1.0%以上になるようお湯に希釈し、沈殿の有無を確認した。結晶セルロースが網目状構造を形成していない場合、水に添加した結晶セルロースは時間とともに沈殿していく。一方、結晶セルロースが網目構造を形成している場合には、沈殿しない。まず、湯98ml入った容器に対して、いずれかのサンプルを2g添加した。次に、スプーンで攪拌し、各サンプルを水の中で均一分散させた。その後、室温で30分間静置し、水溶液の状況を確認した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表2に示すように、試験例1~4は30分間静置しても沈殿が生じなかった。これに対して、比較例と参考例では沈殿が生じていた。このことより、いったん水溶液中に分散させた結晶セルロースに対して動植物性タンパクを添加してから噴霧乾燥を行うことで、本来凝集するはずの結晶セルロースを動植物性タンパクが阻害し、分散した形状にすることができたものと思われる。本発明で得られる分散化した結晶セルロースは、水に加えるだけで、簡単に結晶セルロースに網目状構造をとらせることができる。つまり、粉末スープなどに混ぜて使用することも可能となる。また、分散化した結晶セルロース構造が網目状構造を取ることで、例えばスープなどに含まれる乳化物の分離を防ぐことができる。これにより、乳化物特有の風味を維持することができる。