(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 36/258 20060101AFI20240202BHJP
A61K 36/758 20060101ALI20240202BHJP
A61K 36/9068 20060101ALI20240202BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240202BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20240202BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240202BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240202BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240202BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240202BHJP
【FI】
A61K36/258
A61K36/758
A61K36/9068
A61P1/04
A61P1/16
A61P3/10
A61P11/06
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A23L33/105
(21)【出願番号】P 2021504123
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009067
(87)【国際公開番号】W WO2020179810
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2019039870
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山森 明弘
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 克典
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】Gastroenterology,2017年,Vol. 152, No. 5, Suppl. 1,p.S969
【文献】Pharmacology research & perspectives,2016年,Vol. 4,No.1,pp.1-10
【文献】The Journal of Medical Investigation,2013年,Vol.60,No.3-4,pp.221-227
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol. 9, No. 12,pp.1-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/04
A61P 1/16
A61P 3/10
A61P 11/06
A61P 43/00
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大建中湯エキスを含む、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物
であって、前記大建中湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、山椒又は花椒1に対し、人参0.2~2.0、乾姜1.0~3.0である、組成物。
【請求項2】
腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるために有効な1日分の摂取量の大建中湯エキスを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
1日分の摂取量が0.1~15 gとなる量で大建中湯エキスを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
1日分の摂取量が0.1~3.0 gとなる量で大建中湯エキスを含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記大建中湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、山椒又は花椒1に対し、人参0.4~1.4、乾姜1.4~2.4である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
非アルコール性脂肪性肝炎、2型糖尿病、又は喘息の治療、予防若しくは改善に用いられる、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
食品である、請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フィーカリバクテリウム属菌(Faecalibacterium)は、主に酪酸を代謝産物として産生する短鎖脂肪酸産生菌である。そして、酪酸は、制御性T細胞(Treg)の誘導能を示すので、抗炎症及び抗アレルギー作用が見出されている。また、フィーカリバクテリウム属菌は、ヒトの腸内菌叢における占有率が数%と高く、フィーカリバクテリウム属菌の減少が、クローン病などと関連する可能性が示唆されている(非特許文献1)。
【0003】
従来、フィーカリバクテリウム属の占有率の増加に寄与するものとして、カカオが知られており、例えば、特許文献1では、カカオ豆由来ルミナコイドを高濃度で含有する油脂加工組成物が、ヒト腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を有意に増加させることが報告されている。
【0004】
しかしながら、カカオにはテオブロミン、カフェインなどが含まれており、テオブロミン及びカフェインには気管支拡張作用、利尿作用、興奮作用等があるため、これらの成分に感受性の高い人及びテオフィリン等の医薬品を使用している人、妊婦などは高カカオ食品の摂取に注意する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】The ISME Journal (2017) 11, 841-852
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、フィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、漢方原薬である大建中湯エキスが、ヒト腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率(%)を有意に増加させることができるという知見を得た。
【0009】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物を提供するものである。
【0010】
項1.大建中湯エキスを含む、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物。
項2.腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるために有効な1日分の摂取量の大建中湯エキスを含む、項1に記載の組成物。
項3.1日分の摂取量が0.1~15 gとなる量で大建中湯エキスを含む、項1又は2に記載の組成物。
項4.1日分の摂取量が0.1~3.0 gとなる量で大建中湯エキスを含む、項1又は2に記載の組成物。
項5.前記大建中湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、山椒又は花椒1に対し、人参0.2~2.0、乾姜1.0~3.0である、項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
項6.前記大建中湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、山椒又は花椒1に対し、人参0.4~1.4、乾姜1.4~2.4である、項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
項7.腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加により治療、予防若しくは改善しうる疾患又は症状の治療、予防若しくは改善に用いられる、項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
項8.食品である、項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【0011】
また、本発明は以下も提供する。
項9.腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させる方法であって、大建中湯エキスを含む組成物を、それを必要とする哺乳動物に投与する工程を含む、方法。
項10.腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるための組成物の製造における大建中湯エキスの使用。
項11.前記組成物が、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるために有効な1日分の摂取量の大建中湯エキスを含む、項9に記載の方法、又は、項10に記載の使用。
項12.前記組成物が、1日分の摂取量が0.1~15 gとなる量で大建中湯エキスを含む、項9もしくは11に記載の方法、又は、項10もしくは11に記載の使用。
項13.前記組成物が、1日分の摂取量が0.1~3.0 gとなる量で大建中湯エキスを含む、項9もしくは11に記載の方法、又は、項10もしくは11に記載の使用。
項14.前記大建中湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、山椒又は花椒1に対し、人参0.2~2.0、乾姜1.0~3.0である、項9及び11~13のいずれか一項に記載の方法、又は、項10~13のいずれか一項に記載の使用。
項15.前記大建中湯エキスを得るための原料生薬の質量比が、山椒又は花椒1に対し、人参0.4~1.4、乾姜1.4~2.4である、項9及び11~13のいずれか一項に記載の方法、又は、項10~13のいずれか一項に記載の使用。
項16.前記組成物が食品である、項9及び11~15のいずれか一項に記載の方法、又は、項10~15のいずれか一項に記載の使用。
項17.腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加により治療、予防若しくは改善しうる疾患又は症状の治療、予防若しくは改善方法である、項9及び11~16のいずれか一項に記載の方法。
項18.前記組成物が、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加により治療、予防若しくは改善しうる疾患又は症状の治療、予防若しくは改善に用いられる、項10~16のいずれか一項に記載の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の組成物によれば、腸内菌叢において、フィーカリバクテリウム属菌の占有率を効果的に増加させることができる。特に、テオブロミン及びカフェインを含まずに、成人の体内のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させることができる。
【0013】
また、本発明の組成物により、腸内菌叢のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させることで、フィーカリバクテリウム属菌の占有率増加により治療、予防若しくは改善しうる疾患又は症状の予防及び治療に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】各被験者における試験食品摂取前後のフィーカリバクテリウム属菌の菌叢占有率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0017】
本発明の組成物は、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させるためのものであって、大建中湯エキスを含むことを特徴とする。
【0018】
フィーカリバクテリウム属菌とは、クロストリジウムクラスター(Clostridium cluster IV, C. leptum subgroup)に属し、フィーカリバクテリウム属に属する微生物である。フィーカリバクテリウム属に属する微生物としては、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)が挙げられる。
【0019】
腸内細菌叢(腸内菌叢)とは、腸内に存在する細菌の集団のことをいい、腸内フローラ及び腸内ミクロビオータとも呼ばれる。
【0020】
大建中湯は、中国宋時代の医書「金匱要略」に記載されており、腸管運動亢進作用、腸管過剰運動抑制作用、イレウス抑制作用、腸管血流増加作用、抗炎症作用などを有するとされている。大建中湯は、一般に山椒又は花椒2.0 g、人参3.0 g、乾姜5.0 gの組成の混合生薬の抽出エキスを粉末化したもの(無コウイ大建中湯と称されることもある)に、抽出エキスの8倍量程度の粉末飴(膠飴(コウイ)、マルトース)を配合したものである。大建中湯の処方構成は、通常質量比で、山椒又は花椒2.0、人参3.0、乾姜5.0、膠飴20である。
【0021】
本明細書において、大建中湯エキスは、膠飴を含まない混合生薬の抽出エキスを意味する。ただし、本発明の組成物に含まれる大建中湯エキスの使用形態としては、抽出エキスそのもの、又は抽出エキスに膠飴を配合した形態であってもよい。
【0022】
本発明の組成物は、大建中湯エキスのみからなるものとすることができ、又は大建中湯エキス以外の追加の成分を含むものとすることもできる。本発明の組成物中の大建中湯エキスの配合量は、形態、剤型、症状などに応じて適宜設定することができる。このような追加の成分を含む場合、本発明の組成物中の大建中湯エキスの割合は、特に限定されず、典型的には0.1~99.9質量%、好ましくは1~50質量%、より好ましくは4~30質量%を例示することができる。
【0023】
本発明の組成物は、その形態を特に問うものではなく、例えば、ゼリー状、粉末状、顆粒状、錠剤状、カプセル状、液状、懸濁液状、乳液状などの製剤形態を有し得る。
【0024】
本発明の組成物の投与方法としては、好ましくは、経口投与である。また、経口投与以外の投与も可能であり、例えば、本発明の組成物には、腸への効率的な輸送を目的として、基剤が配合されてもよい。当該基剤には、一般的なゲル化剤が用いられ、適度な保存安定性が求められるため、ゼラチン以外のものが好ましい。そのようなゲル化剤としては例えば、カラギーナン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、ポリアクリル酸、カロブビーンガムなどが好ましい。
【0025】
本発明において、「腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させる」とは、本発明の組成物の摂取又は投与後の腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率が、摂取又は投与前と比べて、例えば、1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上又は10%以上増加することを意味する。
【0026】
本発明の組成物は、治療的又は非治療的用途に使用することができる。また、本発明の組成物は、特に、ヒトを含む哺乳動物(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタなど、好ましくはヒト)に対して適用することができる。
【0027】
本発明の組成物は、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加が治療、予防若しくは改善に有効である疾患又は症状の治療、予防若しくは改善のために用いることができる。
【0028】
フィーカリバクテリウム属菌の占有率増加により治療、予防若しくは改善しうる疾患及び症状としては、例えば、炎症性疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患)、アレルギー性疾患(例えば、食品アレルギー、花粉症、喘息、アレルギー性鼻炎、薬物アレルギー、アトピー性皮膚炎、ダニアレルギー)、腸内菌共生バランス失調(Dysbiosis)に起因すると考えられる疾病(例えば、クローン病、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、小腸細菌異常増殖症(SIBO)、偽膜性大腸炎(クロストリジウム・ディフィシル腸炎)、大腸がん、抗菌薬起因性下痢、アルコール性脂肪性肝炎(ASH)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの肝臓疾患、2型糖尿病、肥満、アレルギー疾患、自閉症などの精神疾患、多発性硬化症)などが挙げられる。
【0029】
本発明の組成物は、食品、医薬品、医薬部外品、飼料などとして使用することができる。また、本発明の組成物は、食品、医薬品、医薬部外品、飼料などの添加剤についての意味も包含するものである。
【0030】
本明細書における食品とは、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、栄養機能食品、又は機能性表示食品)、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品などについての意味も包含する。
【0031】
食品には、大建中湯エキスをそのまま使用することもできるが、必要に応じて、追加の成分を配合することができる。
【0032】
食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。食品の種類は、特に限定されず、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、炭酸飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、日本酒、果実酒、洋酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、キャンデー、ゼリー、クッキー、ケーキ、チョコレート、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、旨味調味料、ふりかけ、スープの素等)などが挙げられる。
【0033】
食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0034】
食品をサプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤、ゼリー等が挙げられる。
【0035】
食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができ、1日当たりの大建中湯エキスの摂取量としては、例えば、下記に示すものが挙げられる。
【0036】
医薬品及び医薬部外品として調製する場合、大建中湯エキスをそのまま使用するか、又は医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、フィルムコート錠、発泡錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、ゼリー、シロップ、ペーストなどの形態に調製して、医薬用の製剤にすることが可能である。医薬品において許容される無毒性の担体としては、例えば、結合剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0037】
上記の医薬品及び医薬部外品の投与方法は特に限定されず、例えば、経口投与、直腸投与、経腸投与、口腔内投与、動脈内投与、静脈内投与、経皮投与などにより行うことができる。
【0038】
医薬品及び医薬部外品の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができ、1日当たりの大建中湯エキスの投与量としては、例えば、下記に示すものが挙げられる。
【0039】
大建中湯エキスは既に医薬品として販売されているものもあるが、入手性の観点より、本発明の組成物は食品として使用されることが好ましい。
【0040】
食品、医薬品、医薬部外品等には、例えば、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させる、腸内菌叢中の酪酸産生菌の占有率拡大等の表示が付されていてもよい。
【0041】
本発明の組成物は、他の組成物と併用することもできる。例えば、本発明の組成物をフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加効果が期待できる素材及び組成物と併用することで、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加効果を更に高めることができる。
【0042】
本発明の組成物における、大建中湯エキスの服用量は、大量であると下痢につながり、少なすぎると効能が得られないので、適正量が求められる。大建中湯エキス1日量(1日分の摂取量)としては、生薬である山椒又は花椒0.5~6 g、人参0.5~6 g、乾姜1~12 gを抽出したエキス0.1~15 gが好ましい。より好ましくは、花椒0.5~2 g、人参0.5~2 g、乾姜1~4 gを抽出したエキス0.5~6 gである。更に好ましくは、花椒1~1.5 g、人参1~1.5 g、乾姜1.5~2.5 gを抽出したエキス1~2 gである。かかる服用量は、1日1回に限らず、複数回に分割して服用することもできる。
【0043】
本発明の組成物に含まれる大建中湯エキスを得るための、原料生薬の質量比としては、山椒又は花椒1に対し、人参0.2~2.0、乾姜1.0~3.0であることが好ましい。より好ましくは山椒又は花椒1に対し、人参0.4~1.4、乾姜1.4~2.4であり、更に好ましくは山椒又は花椒1に対し、人参0.6~1.2、乾姜1.6~2.2である。
【0044】
本発明の組成物は後述する実施例の結果より、7日続けて服用することができ、7日後にはフィーカリバクテリウム属の占有率を高めることができることが確かめられている。そのため、本発明の組成物は、1週間以上継続して摂取することが好ましく、2週間以上継続して摂取することがより好ましく、3週間以上継続して摂取することが更に好ましい。
【0045】
大建中湯は腸管運動を促進することから、摂取後に腹部にゴロゴロ感をもたらしたり、おならが出る可能性があるため、摂取の時期は就寝前が好ましく、また、後述する実施例にみられるように就寝前の服用に実績がある。
【0046】
本発明の組成物は、腸内菌叢中のフィーカリバクテリウム属菌の占有率増加に有効な1日分の摂取量の大建中湯エキスを含むものとすることができる。この場合、本発明の組成物は、1日分の有効摂取量を摂取できるように包装されていてもよい。このように1日分の有効摂取量が摂取できる限り、包装形態は一包装であっても、又は複数包装であってもよい。また、1日分の有効摂取量を複数包装とする場合には、1日分の有効摂取量の複数包装をセットとすることもできる。また、当該1日分の大建中湯エキスの有効摂取量としては、例えば、0.1~15 g、好ましくは0.1~3.0 g、より好ましくは0.5~2.0 gが挙げられる。
【0047】
包装形態として、一定量を含有できる形態であれば特に限定されず、例えば、袋、包装紙、紙容器、ソフトバック、缶、ボトル、カプセルなどが挙げられる。
【0048】
本発明の組成物によれば、腸内菌叢において、フィーカリバクテリウム属菌の占有率を効果的に増加させることが可能である。特に、テオブロミン及びカフェインを含まずに、ヒトの体内のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を短期間で増加させることが可能である。また、本発明の組成物により、腸内菌叢のフィーカリバクテリウム属菌の占有率を増加させることで、フィーカリバクテリウム属菌の占有率増加により治療、予防若しくは改善しうる疾患又は症状の予防及び治療に寄与し得る。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0050】
(ヒト試験)
組成物の作製
市販される花椒、御種人参、乾姜を、質量比1:1:2で含めて公知の手法にて大建中湯エキスを抽出した。得られたエキス1.25 g、水飴2.6 g、エタノール0.085 g、精製水0.565 gを混ぜて、4.5 gとし、1日分の組成物とした。
【0051】
ヒト試験
20歳以上60歳未満の健康な被験者5人をスクリーニングにより選抜して、組成物の摂取は1~7日の就寝前に行った。組成物摂取時、水あるいは湯などを同時に摂取してもよいこととした。また、菌叢の占有率の計測を組成物摂取前日(0日目)と摂取7日後の次の日の朝(8日目)に行った。
【0052】
<試験時の生活習慣>
被験者には、試験期間中は通常通りの生活を送らせるとともに、次の制限事項を遵守するよう指導した。
・食事は、これまでの食生活(食事量、食事内容)を大きく変えず、日常範囲を大きく逸脱する過度な節食及び過食は控える。
・アルコールの摂取は、原則として制限しないが、これまでのアルコール摂取の程度を大きく変えることは控える。
・摂取1週後の採便が終了するまで、大きな生活の変化は、可能な限り控える。
【0053】
<菌叢測定手法>
糞便中のDNAを精製し、16S rRNA V1-V2領域を増幅し、次世代シーケンサーMiSeq (イルミナ)を用いて配列解析を行った。クオリティーフィルタリング後、各検体についてランダムに10,000リードを選び、97%の相同性でクラスタリングした後、OTU (operational taxonomic unit)に分類した。形成されたOTUの代表配列を完全長16S遺伝子データベースに対して照合し、菌種の特定及び構成の解析を行った。クラスタリングから菌叢組成解析は、QIIMEのパイプラインを用い、完全長16S遺伝子データベースはGeengenesを利用した。
【0054】
参考文献
QIIME:Nat Methods. 2010 May;7(5):335-6. doi: 10.1038/nmeth.f.303. Epub 2010 Apr 11.
Geengenes:Applied and Environmental Microbiology, July 2006, Vol.72, No.7, p.5069-5072, DOI: 10.1128/AEM.03006-05
【0055】
結果
結果を表1及び
図1に示す。被験者腸内菌叢(属レベル)では、腸内菌叢全菌数を100%とした場合のフィーカリバクテリウム属菌の占有率が、試験食品摂取群において、摂取前(0日目)と比較して摂取後(8日目)で5人中4人が2%以上増加した(表1、
図1)。
【0056】