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特許7430248蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/653 20140101AFI20240202BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240202BHJP
   H01M 10/6551 20140101ALI20240202BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20240202BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20240202BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240202BHJP
   H01M 10/6569 20140101ALI20240202BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20240202BHJP
【FI】
H01M10/653
H01M10/613
H01M10/6551
H01M10/651
H01M50/204 401H
H05K7/20 F
H01M10/6569
H01M50/209
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022512660
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021014015
(87)【国際公開番号】W WO2021201165
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2020067924
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020067923
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】臼井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】茨木 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】禰宜 教之
(72)【発明者】
【氏名】中井 雅子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 皓平
(72)【発明者】
【氏名】西野 晶拡
(72)【発明者】
【氏名】江藤 和也
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-108398(JP,A)
【文献】特開2019-051653(JP,A)
【文献】国際公開第2019/167689(WO,A1)
【文献】特開2013-109975(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019429(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/653
H01M 10/613
H01M 10/6551
H01M 10/651
H01M 50/204
H05K 7/20
H01M 10/6569
H01M 50/209
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
数の蓄電デバイスと、
配向した炭素強化繊維を有する炭素繊維強化プラスチック部材と、
を備え、
前記炭素繊維強化プラスチック部材は、前記複数の蓄電デバイスの少なくとも1つの面上に配置され、前記蓄電デバイスと熱的に接続されており、
前記炭素強化繊維の配向方向における前記炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも片方の端部は、当該端部の全面が雰囲気中に露出するか、又は、当該端部の少なくとも一部が、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接しており、
複数の前記蓄電デバイスが、互いに対向するように配置され、前記放熱機構に対し、前記複数の蓄電デバイスが熱的に接続されており、
前記炭素繊維強化プラスチック部材は、前記複数の蓄電デバイスの少なくとも1つ以上に対し、隣り合う他の前記蓄電デバイスと対向する少なくとも1つの面上に設けられ、かつ、前記放熱機構に対して熱的に接続されており、
前記炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している前記端部又は前記冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、前記0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、前記炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、前記炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向における前記0°方向成分が、40%以上である、蓄電デバイス構造体。
【請求項2】
前記炭素繊維強化プラスチック部材は、当該炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも一方の面に金属層が設けられている金属積層CFRP部材である、請求項1に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項3】
前記放熱機構は、アルミニウム製ヒートシンク、又は、金属製のブロックに冷媒を通す冷却機構である、請求項2に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項4】
前記蓄電デバイスの配置された前記金属積層CFRP部材が複数存在し、かつ、前記放熱機構に対して並列に接続されている、請求項2又は3に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項5】
前記蓄電デバイスは、前記金属積層CFRP部材のうち、前記炭素繊維強化プラスチック部材に対して熱的に直に接続されている、請求項2~4の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項6】
前記蓄電デバイスは、前記金属積層CFRP部材のうち、前記金属層に対して熱的に直に接続されている、請求項2~4の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項7】
前記金属層の厚みは、5.0μm~1.5mmである、請求項2~6の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項8】
前記炭素繊維強化プラスチック部材の厚みは、0.1~5.0mmである、請求項2~7の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項9】
前記金属層は、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、又は、チタンからなる金属箔もしくは金属板である、請求項2~8の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項10】
前記炭素強化繊維は、ピッチ系炭素強化繊維である、請求項~9の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項11】
前記放熱機構には、溝部が設けられており、
前記炭素繊維強化プラスチック部材は、前記溝部に嵌合されている、請求項1~10の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項12】
前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられた前記蓄電デバイスと、当該蓄電デバイスに隣り合う他の前記蓄電デバイスと、の間に、断熱部材が設けられる、請求項1~1の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項13】
隣り合う前記蓄電デバイスにおいて、他の前記蓄電デバイスに対向する側の面上には、前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられており、
前記蓄電デバイスの側には、ピッチ系炭素強化繊維を有する前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられており、前記他の蓄電デバイスの側には、ピッチ系炭素強化繊維以外の炭素強化繊維を有する前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられている、請求項1~12の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項14】
前記放熱機構は、前記蓄電デバイスから伝達された熱を冷却する冷却装置、又は、前記蓄電デバイスを収納する蓄電デバイスケースの少なくとも何れかである、請求項1~13の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項15】
前記炭素繊維強化プラスチック部材における、前記面法線方向に対して直交する方向の熱伝導率は、50~300W/m・Kである、請求項1~14の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項16】
前記炭素繊維強化プラスチック部材は、熱伝導率が0.1W/m・K以上である接着剤又はグリースの少なくとも何れかを介して、他の部材に熱的に接続される、請求項1~15の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項17】
前記蓄電デバイスは、バッテリーセルである、請求項1~16の何れか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項18】
数の蓄電デバイスの少なくとも1つの面上に対し、配向した炭素強化繊維を有する炭素繊維強化プラスチック部材を配置して、前記炭素繊維強化プラスチック部材と前記蓄電デバイスとを熱的に接続し、
前記炭素強化繊維の配向方向における前記炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも片方の端部を、当該端部の全面が雰囲気中に露出させるか、又は、当該端部の少なくとも一部を、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接触させ、
複数の前記蓄電デバイスを、互いに対向するように配置し、前記放熱機構に対し、前記複数の蓄電デバイスを熱的に接続させ、
前記炭素繊維強化プラスチック部材を、前記複数の蓄電デバイスの少なくとも1つ以上に対し、隣り合う他の前記蓄電デバイスと対向する少なくとも1つの面上に設け、かつ、前記放熱機構に対して熱的に接続させ、
前記炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している前記端部又は前記冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、前記0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、前記炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、前記炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向における前記0°方向成分が、40%以上である、蓄電デバイス構造体の放熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、開発・改良が進められている電気自動車は、各種の蓄電池(例えば、リチウムイオン2次電池等の各種バッテリーを用いたバッテリーセル)やキャパシタ等といった蓄電デバイスを大量に搭載し、充放電を繰り返す過程で大きな発熱を生じる。発熱により蓄電デバイスの劣化が促進されてしまうため、蓄電デバイスの劣化制御のためには、蓄電デバイスの周囲の温度を適切な範囲内に維持することが重要となる。そこで、蓄電デバイスの周囲の温度を適切な範囲内とするための技術が、各種提案されている。
【0003】
例えば、蓄電デバイスの一種である電池モジュールの熱損傷を抑制するために、以下の特許文献1では、角型電池が積層された電池積層体において、積層方向に隣り合う角型電池の間に電池間セパレータを設ける技術が開示されている。かかる技術において、電池間セパレータの一例として、断熱部材/熱伝導部材/断熱部材という積層構造を有するものが開示されている。
【0004】
また、以下の特許文献2では、隣り合って複数存在する電池(バッテリーセル)から発生した熱を、バッテリーケース上部に貼付された放熱部材へ伝達することで、バッテリーの放熱を制御する技術が開示されている。かかる技術において、放熱部材として、アルミニウム、鉄、ステンレス、チタン等の金属を用いた例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/167689号
【文献】特開2013-109975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に開示された技術を用いたとしても、バッテリーセルをはじめとする各種の蓄電デバイスの周囲の温度をより効率良く制御するという観点において、未だ改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、蓄電デバイスの周囲の温度をより効率良く制御することが可能な、蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、異方的な熱伝導特性を有する炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)部材(以下、単に「CFRP部材」と略記することがある。)を蓄電デバイスに対して熱的に接続させて、蓄電デバイスからの放熱を実現することに想到した。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1)1又は複数の蓄電デバイスと、配向した炭素強化繊維を有する炭素繊維強化プラスチック部材と、を備え、前記炭素繊維強化プラスチック部材は、前記1又は複数の蓄電デバイスの少なくとも1つの面上に配置され、前記蓄電デバイスと熱的に接続されており、前記炭素強化繊維の配向方向における前記炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも片方の端部は、当該端部の全面が雰囲気中に露出するか、又は、当該端部の少なくとも一部が、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接しており、前記炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している前記端部又は前記冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、前記0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、前記炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、前記炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向における前記0°方向成分が、40%以上である、蓄電デバイス構造体。
(2)前記炭素繊維強化プラスチック部材は、当該炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも一方の面に金属層が設けられている金属積層CFRP部材である、(1)に記載の蓄電デバイス構造体。
(3)前記放熱機構は、アルミニウム製ヒートシンク、又は、金属製のブロックに冷媒を通す冷却機構である、(2)に記載の蓄電デバイス構造体。
(4)前記蓄電デバイスの配置された前記金属積層CFRP部材が複数存在し、かつ、前記放熱機構に対して並列に接続されている、(2)又は(3)に記載の蓄電デバイス構造体。
(5)前記蓄電デバイスは、前記金属積層CFRP部材のうち、前記炭素繊維強化プラスチック部材に対して熱的に直に接続されている、(2)~(4)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(6)前記蓄電デバイスは、前記金属積層CFRP部材のうち、前記金属層に対して熱的に直に接続されている、(2)~(4)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(7)前記金属層の厚みは、5.0μm~1.5mmである、(2)~(6)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(8)前記炭素繊維強化プラスチック部材の厚みは、0.1~5.0mmである、(2)~(7)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(9)前記金属層は、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、又は、チタンからなる金属箔もしくは金属板である、(2)~(8)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(10)前記炭素強化繊維は、ピッチ系炭素強化繊維である、(2)~(9)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(11)複数の前記蓄電デバイスが、互いに対向するように配置され、前記放熱機構に対し、前記複数の蓄電デバイスが熱的に接続されており、前記炭素繊維強化プラスチック部材は、前記複数の蓄電デバイスの少なくとも1つ以上に対し、隣り合う他の前記蓄電デバイスと対向する少なくとも1つの面上に設けられ、かつ、前記放熱機構に対して熱的に接続されている、(1)に記載の蓄電デバイス構造体。
(12)前記炭素強化繊維は、ピッチ系炭素強化繊維である、(11)に記載の蓄電デバイス構造体。
(13)前記放熱機構には、溝部が設けられており、前記炭素繊維強化プラスチック部材は、前記溝部に嵌合されている、(11)又は(12)に記載の蓄電デバイス構造体。
(14)前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられた前記蓄電デバイスと、当該蓄電デバイスに隣り合う他の前記蓄電デバイスと、の間に、断熱部材が設けられる、(11)~(13)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(15)隣り合う前記蓄電デバイスにおいて、他の前記蓄電デバイスに対向する側の面上には、前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられており、前記蓄電デバイスの側には、ピッチ系炭素強化繊維を有する前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられており、前記他の蓄電デバイスの側には、ピッチ系炭素強化繊維以外の炭素強化繊維を有する前記炭素繊維強化プラスチック部材が設けられている、(11)~(14)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(16)前記放熱機構は、前記蓄電デバイスから伝達された熱を冷却する冷却装置、又は、前記蓄電デバイスを収納する蓄電デバイスケースの少なくとも何れかである、(11)~(15)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(17)前記炭素繊維強化プラスチック部材における、前記面法線方向に対して直交する方向の熱伝導率は、50~300W/m・Kである、(1)~(16)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(18)前記炭素繊維強化プラスチック部材は、熱伝導率が0.1W/m・K以上である接着剤又はグリースの少なくとも何れかを介して、他の部材に熱的に接続される、(1)~(17)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(19)前記蓄電デバイスは、バッテリーセルである、(1)~(18)の何れか1つに記載の蓄電デバイス構造体。
(20)1又は複数の蓄電デバイスの少なくとも1つの面上に対し、配向した炭素強化繊維を有する炭素繊維強化プラスチック部材を配置して、前記炭素繊維強化プラスチック部材と前記蓄電デバイスとを熱的に接続し、前記炭素強化繊維の配向方向における前記炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも片方の端部を、当該端部の全面が雰囲気中に露出させるか、又は、当該端部の少なくとも一部を、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接触させ、前記炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している前記端部又は前記冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、前記0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、前記炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、前記炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる前記炭素強化繊維の延伸方向における前記0°方向成分が、40%以上である、蓄電デバイス構造体の放熱方法。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本発明によれば、蓄電デバイスの周囲の温度をより効率良く制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本発明者らが得た知見について説明するための説明図である。
図1B】本発明者らが得た知見について説明するためのグラフ図である。
図2A】本発明の第1実施形態に係る金属積層CFRP部材を説明するための模式図である。
図2B】第1実施形態に係る金属積層CFRP部材を説明するための模式図である。
図3】CFRP部材における炭素強化繊維の配向方向について説明するための模式図である。
図4A】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図4B】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図4C】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図4D】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図5】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図6A】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図6B】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図6C】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図7A】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図7B】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図7C】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図7D】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図8】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図9】第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。
図10】炭素繊維強化プラスチック部材の熱伝導率の測定方法を説明するための説明図である。
図11】炭素繊維強化プラスチック部材の熱伝導率の測定方法を説明するための説明図である。
図12】接着剤及びグリースの熱伝導率の測定方法を説明するための説明図である。
図13】本発明の第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体の構成を模式的に示した説明図である。
図14】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図15】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図16】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図17A】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図17B】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体ついて説明するための模式図である。
図18A】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図18B】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図19】第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について説明するための模式図である。
図20A】実験例1における実施例及び比較例について説明するためのグラフ図である。
図20B】実験例1における実施例及び比較例について説明するためのグラフ図である。
図20C】実験例1における実施例及び比較例について説明するためのグラフ図である。
図21A】実験例2における実施例及び比較例について説明するためのグラフ図である。
図21B】実験例2における実施例及び比較例について説明するためのグラフ図である。
図21C】実験例2における実施例及び比較例について説明するためのグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
(本発明者らが得た知見について)
本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイスの放熱方法について説明するに先立ち、本発明者らが行った検証により得られた知見について、図1A及び図1Bを参照しながら簡単に説明する。
図1Aは、本発明者らが得た知見について説明するための説明図であり、図1Bは、本発明者らが得た知見について説明するためのグラフ図である。
【0014】
本発明者らは、蓄電デバイスの一例としてのバッテリーセル(より詳細には、リチウムイオン2次電池)の温度管理について検討するために、図1Aに示したような放熱機構を準備した。より詳細には、放熱機構として機能するアルミフィンの表面に、放熱シート及びプラスチック樹脂を介して、蓄電デバイスの一例としてのリチウムイオン2次電池を設置した。その後、リチウムイオン2次電池の表面に熱伝導体を設けた場合と設けない場合とで、稼働中(放電中)のリチウムイオン2次電池の温度上昇に起因してアルミフィンの温度がどのように変化するのかを、熱電対を用いて計測した。この際、熱伝導体としては、アルミニウム(Al)と、CFRP部材と、を用いた。なお、CFRP部材としては、リチウムイオン2次電池からアルミフィンに向かう方向に炭素強化繊維が配向した、一方向材を用いた。
【0015】
得られた結果を、図1Bに示した。図1Bにおいて、横軸は、測定時間(秒)であり、縦軸は、アルミフィン温度(℃)である。熱伝導体を設置しなかった場合と比較して、熱伝導体を設置した場合の方が、アルミフィン温度は高い値を示している。この結果より、リチウムイオン2次電池の表面に熱伝導体を設けた方が、リチウムイオン2次電池で発生した熱を、より多くアルミフィンに伝達できていることがわかる。
【0016】
また、Alを含む各種金属の高い熱伝導率を考えると、熱伝導体としてAlを設けた場合のアルミファン温度の方が、CFRP部材を設けた場合のアルミファン温度よりも、高い値を示すであろうことが予測された。しかしながら、得られた測定結果は、図1Bに示したように、CFRP部材を設けた場合のアルミフィン温度の方が、Alを設けた場合のアルミフィン温度よりも高い値を示した。
【0017】
この結果について本発明者らが考察したところ、Alの場合には、リチウムイオン2次電池で発生した熱がアルミフィンまで到達するまでの間にAlから放熱されてしまうと推測された。一方で、CFRP部材の場合には、良好な熱伝導体である炭素強化繊維がマトリックス樹脂中に埋没しているという構造に起因して、アルミフィンに到達するまでの間に放熱がさほど発生せずに、より多くの熱量が効率よくアルミフィンまで到達したものと推測された。
【0018】
このように、CFRP部材は、炭素強化繊維が配向している方向への熱伝導率は高い一方で、CFRP部材の厚み方向への熱伝導率は低いと考えられる。そのため、CFRP部材を適切に用いることで、リチウムイオン2次電池をはじめとする各種の蓄電デバイスの温度管理をより簡便に行うことが可能となるとの知見を得ることができた。
【0019】
また、上記のように熱伝導性に異方性を有し、熱伝導性が低い方向については、蓄電デバイスが異常発熱したときに、その熱を隣の蓄電デバイスに伝播させることを防止する効果があると考えられる。そのため、蓄電デバイスの劣化や発火を抑制して、安全性がより高まる。かかる観点は、車載の大型電池においては、特に重要な効果となる。なお、ここでいう「異常発熱」とは、蓄電デバイス内において、何らかの原因で発生した、通常運転時よりも高い温度になることを指し、例えば、蓄電デバイスに釘を突き刺して強制短絡させた際の急激な発熱や、電極や活物質の異常部分に起因する局所的な短絡や抵抗値の増大による温度上昇が挙げられる。このような異常発熱で発生した熱が、隣の蓄電デバイスに伝播すると、その隣の蓄電デバイスの温度上昇を誘発し、劣化や異常発熱の原因となる。そのため、上記のような熱伝播を防止することは、非常に重要である。
【0020】
以下では、かかる知見に基づき完成された、本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法について、詳細に説明する。
【0021】
本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している端部又は冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる炭素強化繊維の延伸方向における0°方向成分が、40%以上である。
【0022】
更に、本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体では、炭素強化繊維の配向方向におけるCFRP部材の少なくとも片方の端部は、当該端部の全面が雰囲気中に露出するか、又は、当該端部の少なくとも一部が、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接している。
【0023】
本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、上記のような特徴を有することで、CFRP部材の異方的な熱伝導特性を利用して、蓄電デバイスの周囲の温度をより効率良く制御することが可能となる。
【0024】
また、本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、以下の各実施形態に示したような特徴を更に備えることで、各実施形態において示したような更なる特徴を実現することも可能となる。
【0025】
ここで、本発明の各実施形態において、「熱的に接続された」とは、「熱伝導が可能なように接続された」という状態を表している。また、「熱伝導が可能」な状態とは、より詳細には、互いに接続される2つの部材間の熱抵抗値が1.0以下であることを意味している。
【0026】
以下では、本発明の各実施形態に係る蓄電デバイス構造体について、図面を参照しながら、より詳細に説明する。なお、以下の説明において特に断りのない限り、各実施形態に係る蓄電デバイス構造体が示す効果を損なわない範囲内で、一方の実施形態で示した蓄電デバイス構造体の構成の一部を、他方の実施形態で示した蓄電デバイス構造体の構成に適用することも可能である。
【0027】
≪第1実施形態≫
上記のように、蓄電デバイスの劣化制御のためには、蓄電デバイスの周囲の温度を適切な範囲内に維持することが重要となるが、蓄電デバイスの温度を制御するにあたって、各種の放熱機構等に熱を伝える際に、各種の金属等の熱伝導部材を併用することが考えられる。
【0028】
例えば、単純に熱伝導部材を蓄電デバイスに貼り付けることを想起した場合、銅やアルミニウム等の金属材料を単体で用いると重量が重くなり、重量を軽くしようと金属材料を薄くすると、性能や剛性が不十分となる。剛性が不足すると、水冷機構や空冷機構等の放熱機構に接続する際に不具合が生じたり、剥き出しで露出された金属材料が折れたり曲がったりしてしまう。
【0029】
また、熱伝導部材として、CFRP部材を用いることも考えられるが、CFRP部材は高価な素材であるため、CFRP部材を単独で使用すると、蓄電デバイスの高コスト化につながってしまう可能性がある。
【0030】
このような観点から、以下に示す第1実施形態では、CFRP部材の少なくとも一方の面上に金属層を積層させて金属積層CFRP部材とすることに着想し、蓄電デバイス構造体を実現するに至った。これにより、高熱伝導性と低コスト化とを両立させた蓄電デバイス構造体を実現することが可能となる。
【0031】
この際に、本発明者らが鋭意検討した結果、金属積層CFRP部材の配置の仕方等に着目することで、蓄電デバイスの周囲の温度をより効率良く制御可能なだけでなく、より優れた熱伝導性を示しつつ、剛性、軽量性及びコスト性も併せ持つ蓄電デバイス構造体を提供可能であることに想到した。以下に示す第1実施形態では、蓄電デバイスの周囲の温度をより効率良く制御可能なだけでなく、より優れた熱伝導性を示しつつ、剛性、軽量性及びコスト性も併せ持つ蓄電デバイス構造体について、詳細に説明する。
【0032】
(蓄電デバイス構造体について)
以下では、図2A図12を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体について、詳細に説明する。
図2A及び図2Bは、本実施形態に係る金属積層CFRP部材を説明するための模式図である。図3は、CFRP部材における炭素強化繊維の配向方向について説明するための模式図である。図4A図9は、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体を説明するための模式図である。図10及び図11は、炭素繊維強化プラスチック部材の熱伝導率の測定方法を説明するための説明図である。図12は、接着剤及びグリースの熱伝導率の測定方法を説明するための説明図である。
【0033】
第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、1又は複数の蓄電デバイスと、配向した炭素強化繊維を有する炭素繊維強化プラスチック部材と、を備え、炭素繊維強化プラスチック部材は、1又は複数の蓄電デバイスの少なくとも1つの面上に配置され、蓄電デバイスと熱的に接続されており、炭素強化繊維の配向方向における炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも片方の端部は、当該端部の全面が雰囲気中に露出するか、又は、当該端部の少なくとも一部が、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接しており、炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している端部又は冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる炭素強化繊維の延伸方向における0°方向成分が、40%以上である蓄電デバイス構造体において、炭素繊維強化プラスチック部材が、当該炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも一方の面に金属層が設けられている金属積層CFRP部材である形態を具体化したものである。
【0034】
<金属積層CFRP部材10>
以下では、便宜的に、図2Aに示した座標系を参照しながら、説明を行うものとする。
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、リチウムイオン2次電池等の各種のバッテリーやキャパシタ等といった蓄電デバイスと、かかる蓄電デバイスに設けられた部材と、で構成されている。この際に、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体では、図2A及び図2Bに示したような、特定のCFRP部材が採用されている。
【0035】
すなわち、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体では、図2Aに模式的に示したように、炭素強化繊維を含む炭素繊維強化プラスチック(CFRP)部材111と、CFRP部材111の一方の表面に設けられた金属層113と、を有する金属積層CFRP部材110が用いられる。
【0036】
ここで、本実施形態に係るCFRP部材111において、炭素強化繊維の配向方向は、CFRP部材111の表面法線方向に対して直交する方向となっており、例えば図2Aに示した例では、炭素強化繊維は、図2Aのx軸方向に配向している。
【0037】
なお、炭素強化繊維の配向方向とは、CFRP部材111に含まれる1本1本の炭素強化繊維の方向ではなく、CFRP部材111の全体としての炭素強化繊維の配向方向(換言すれば、平均化してマクロ的に見たときの炭素強化繊維の配向方向)である。
【0038】
より詳細には、CFRP部材111を上方(例えば、図2Aにおけるz軸方向)から平面視したときに、雰囲気中に露出している端部又は冷媒もしくは放熱機構に向かう方向(例えば、図2Aにおけるx軸方向)を0°方向と定義し、0°方向に直交する方向(例えば、図2Aにおけるy軸方向)を90°方向と定義する。その上で、炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる炭素強化繊維の延伸方向における0°方向成分は、40%以上となっている。
【0039】
本実施形態において、0°方向成分の割合が40%未満となる場合には、CFRP部材111は、所望の冷却性能を発現させることができない。0°方向成分の割合を40%以上とすることで、CFRP部材111は、所望の冷却性能を発現するようになる。0°方向成分の割合は、好ましくは通常のクロス材が使用可能な50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、その上限値は100%であってもよい。
【0040】
ここで、CFRP部材111における炭素強化繊維の延伸方向は、3次元X線顕微鏡システム(X線CTシステム)を用いて測定することが可能である。例えばZEISS社製 Xradia520を使用して、CFRP部材111のX線CT像を取得し、画像の再構築により得られる3次元画像から、炭素強化繊維の延伸方向を求めることができる。また、再構築した画像を解析し、炭素強化繊維の延伸方向の0°方向成分及び90°方向成分の割合を算出することができる。以下、0°方向成分及び90°方向成分の算出方法について、図3を参照しながら詳細に説明する。
【0041】
0°方向成分の割合は、次のように算出することとする。以下では、CFRP部材111の全体において、2種類の繊維の延伸方向が含まれている例を示す。まず、図3のような0°方向とのなす角(鋭角)θを有する第1の延伸方向と、0°方向とのなす角(鋭角)θを有する第2の延伸方向のそれぞれについて、三角関数を用いて0°方向成分と90°方向成分に分解する。これにより、CFRP部材111の各厚み位置(例えば、図2Aにおけるz方向に沿った各位置)での0°方向成分の値の絶対値と、CFRP部材111の各厚み位置での90°方向成分の値の絶対値を算出する。
【0042】
次に、CFRP部材111の厚み方向に沿って、各厚み位置での0°方向成分を合計する(積分する)ことで、CFRP部材111の全体における0°方向成分の値を算出する。同様に、CFRP部材111の厚み方向に沿って、各厚み位置での90°方向成分を合計する(積分する)ことで、CFRP部材111の全体における90°方向成分の値を算出する。そして、ここで算出されたCFRP部材111の全体における0°方向成分の値と90°方向成分の値とを更に合計し、当該合計値に対する、CFRP部材111の全体における0°方向成分の割合を算出する。
【0043】
なお、CFRP部材111が、複数のCFRPが積層された積層構造を有している場合、上記の各厚み位置での0°方向成分及び90°方向成分は、1層あたりの0°成分及び90°成分と考えることができる。
【0044】
例えば、CFRP部材111が、6層のCFRPから構成された積層構造を有しているものとする。この際に、例えば角θが30°である場合には、cos30°が0°方向成分であり、sin30°が90°方向成分である。すなわち、1層あたりの0°方向成分は約0.866であり、1層あたりの90°方向成分は、0.5である。CFRP部材111が6層構造である場合、層全体における0°方向成分は5.2であり、90°方向成分は3.0である。CFRP部材111の全体の0°方向成分の値である5.2は、CFRP部材111の全体における0°方向成分及び90°方向成分の合計値である8.2の約63%であり、これがCFRP部材111の全体における0°方向成分の割合である。なお、延伸方向が0°方向である場合の0°方向成分の値はcos0°、すなわち1であり、90°方向成分の値はsin0°、すなわち0である。また、延伸方向が90°方向である場合の0°方向成分の値はcos90°、すなわち0であり、90°方向成分の値はsin90°、すなわち1である。
【0045】
なお、積層構造を有しているCFRP部材111の各層が略同一の厚みにより形成されている場合は、上述した方法で算出することが可能であるが、各層の厚みが異なる場合には、各層の厚みを重みとして、上記割合を算出する。例えば、n層が積層したCFRP部材111のうち、一方の側からk番目の層の0°方向成分の値をx、かかる層の厚みをtとした場合、CFRP部材111の全体における0°方向成分の合計値は、x×t+・・・+x×tとなる。90°方向成分の合計値についても、同様に算出することができる。
【0046】
また、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110において、金属層113は、図2Bに示したように、CFRP部材111の両面に形成されていてもよい。
【0047】
CFRP部材111は、上述のように、良好な熱伝導体である炭素強化繊維がマトリックス樹脂中に埋没しているという構造を有している。そのため、CFRP部材111は、炭素強化繊維の配向方向に熱を良好に伝達する一方で、CFRP部材111の厚み方向(例えば、図2Aのz軸方向)には、熱を伝達させにくいという特性を発現する。ただし、CFRP部材111の厚み方向への熱伝達を完全に遮断するものではないため、ある程度の時間の経過とともに、厚み方向へ熱を伝達することができる。また、CFRP部材111の厚み方向への熱伝達効率は、アルミニウム等の各種金属の熱伝達効率よりは低いため、アルミニウム等の各種金属と比較して、伝達している熱が途中で放熱される現象は抑制される。
【0048】
ここで、本実施形態に係るCFRP部材111のx軸方向の熱伝導率は、50~300W/m・Kの範囲内であることが好ましい。図2Aに示したx軸方向の熱伝導率が上記の範囲内となることで、後述する蓄電デバイス120で発生する熱を、より確実にCFRP部材111の端部へと伝達させることができる。
【0049】
図2Aのx軸方向の熱伝導率が50W/m・K未満となる場合には、後述する蓄電デバイス120で発生する熱を、十分にCFRP部材111の端部まで伝達させることができずに、蓄電デバイス120を十分に冷却できない可能性が生じうる。CFRP部材111のx軸方向の熱伝導率は、100W/m・K以上であることがより好ましく、150W/m・K以上であることが更に好ましい。
【0050】
一方、x軸方向の熱伝導率が300W/m・Kを超えるものは、商業ベースでは殆ど製造されておらず、コスト高となることから、CFRP部材111のx軸方向の熱伝導率は、300W/m・K以下であることが好ましい。
【0051】
一般に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に用いられる炭素強化繊維は、ピッチ系の炭素強化繊維と、PAN系の炭素強化繊維と、に大別される。本実施形態にCFRP部材111は、ピッチ系の炭素強化繊維を含有していることが好ましい。ピッチ系の炭素強化繊維を用いることで、より優れた熱伝達効率を実現することが可能となる。
【0052】
また、炭素強化繊維は、連続的に延伸している炭素繊維(連続繊維とも呼ばれる。)を含むもの、例えば2~100mm程度の長さに裁断された炭素繊維(チョップド糸とも呼ばれる。)を含むもの、0.05~0.30mm程度の長さに裁断された炭素繊維(ミルドファイバーとも呼ばれる。)を含むものなど、様々なものが存在する。本実施形態では、これら繊維のいずれを用いることも可能であるし、複数種類の繊維を組み合わせて使用することも可能である。
【0053】
また、CFRP部材111に用いられるマトリックス樹脂は、熱可塑性のマトリックス樹脂であってもよいし、熱硬化性のマトリックス樹脂であってもよいが、耐熱性の高い樹脂であることが好ましい。ここでいう「耐熱性が高い」とは、蓄電デバイス120で発生しうる熱に暴露された場合であっても、CFRP部材111の形状が保持可能な程度の耐熱性を有することをいう。このような耐熱性の高い樹脂を用いることで、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体の性能が低下することを防止することが可能となる。
【0054】
上記のような耐熱性を有する熱硬化性のマトリックス樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂を挙げることができる。また、上記のような耐熱性を有する熱可塑性のマトリックス樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン12樹脂、ナイロン6樹脂、ポリカーボネート樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。上記のマトリックス樹脂のうち特に耐熱性の高いものとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、PEEK樹脂を挙げることができる。
【0055】
本実施形態に係るCFRP部材111において、強化繊維密度(VF:Volume Fraction)は、例えば、連続繊維(CFRPの一端から他端まで連続で繋がった繊維)の場合、40~65%の範囲であることが好ましい。また、チョップド糸などの不連続繊維(25~100mm長など)の場合は20~50%強化繊維密度が上記の範囲内となることがこのましい。これにより、コストの増加を抑制しながら、より効率の良い熱伝導を実現することが可能となり、後述する放熱機構140に向かう方向の熱伝導率を、より確実に上述した熱伝導率の範囲内とすることが可能となる。使用する繊維が連続繊維の場合は、強化繊維密度は、より好ましくは50~60%の範囲内である。また、使用する繊維が不連続繊維の場合は、強化繊維密度は、より好ましくは30~45%の範囲である。
【0056】
また、本実施形態に係るCFRP部材111を、炭素強化繊維が図2Aのx軸方向に配向している一方向性のCFRPで構成することで、蓄電デバイス120で発生した熱を、更に確実にCFRP部材111の端部へと伝達することが可能となる。
【0057】
一方、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体の剛性をより向上させる場合には、クロス材を用いたCFRPや、疑似等方積層材を用いたCFRPと、上記の一方向性のCFRPと、を組み合わせて、CFRP部材111を構成してもよい。
【0058】
また、CFRP部材111を構成する際に、炭素強化繊維に加えて、ガラス繊維又はアラミド繊維の少なくとも何れかを更に用いてもよい。この際、CFRP部材111を構成するマトリックス樹脂中に、炭素強化繊維に加えて、ガラス繊維やアラミド繊維を含有させてもよい。しかしながら、CFRP部材111を製造する際に、マトリックス樹脂中に炭素強化繊維が保持されたCFRPプリプレグと、マトリックス樹脂中にガラス繊維又はアラミド繊維が保持されたCFRPプリプレグと、を準備しておき、これらCFRPプリプレグを所望の積層状態となるように積層したうえでCFRP部材111とする方が簡便である。この際、ガラス繊維が用いられたCFRPプリプレグや、アラミド繊維が用いられたCFRPプリプレグは、1層程度用いるようにすることが好ましい。
【0059】
また、金属層113は、図2A及び図2Bに示したように、上記のようなCFRP部材111の少なくとも一方の表面に設けられる。かかる金属層113は、優れた熱伝導性を示し、また薄く加工することができ、実使用において容易に破損することがなく、経済的に入手が困難ではない金属で構成されることが好ましい。このような金属として、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、チタン、及び、これらの合金を挙げることができる。
【0060】
また、本実施形態に係る金属層113は、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、又は、チタンからなる金属箔もしくは金属板であることが好ましい。
【0061】
このような金属層113をCFRP部材111の少なくとも一方の表面に設けることで、コストの高いCFRPの厚みを薄くしながら、金属積層CFRP部材110全体としての剛性を担保することが可能となる。また、CFRP部材111を併用することで、上記のような金属材料を単体で用いる場合よりも金属の厚みを薄くすることができるため、蓄電デバイス構造体の軽量化を図ることも可能となる。すなわち、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を用いることで、優れた熱伝導性を示しつつ、剛性、軽量性及びコスト性をより向上させることが可能となる。
【0062】
また、近年、自動車の電動化が進み、磁場や電磁波による自動車用電子機器への悪影響が懸念されており、特に電気自動車のように大型電池を搭載した自動車では、走行中に常に大電流が流れていることもあり、電磁波シールド性が強いニーズとなっている。この点で、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110は、CFRP部材111の表面に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス、又は、チタンからなる金属層113が形成されているため、優れた電磁波シールド性を更に担保することが可能となる。すなわち、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を用いることで、熱伝導部材と電磁波シールド部材という、従来用いられている2つの部材を1つの部材で代用することが可能となり、優れた熱伝導性及び電磁波シールド性を示しつつ、剛性、軽量性及びコスト性をより向上させることが可能となる。なお、ここでいう電磁波シールド性とは、100kHz~100GHzの周波数帯に属する電磁波に対するシールド性に着目したものである。
【0063】
ここで、CFRP部材111の厚み(図2A及び図2Bにおけるz軸方向の厚み)dは、0.1~5.0mmの範囲内であることが好ましい。CFRP部材111の厚みを上記の範囲内とすることで、剛性、軽量性及びコスト性を担保しつつ、後述する蓄電デバイス120で発生した熱を、より効率よく伝達することが可能となる。CFRP部材111の厚みdは、より好ましくは0.4~2.5mmの範囲内である。
【0064】
また、金属層113の厚み(図2A及び図2Bにおけるz軸方向の厚み)dは、CFRP部材111の片面当たり、5.0μm~1.5mmの範囲内であることが好ましい。金属層113の厚みdを上記の範囲内とすることで、剛性、軽量性及びコスト性と、電磁波シールド性と、をより並立させることが可能となる。金属層113の厚みdは、より好ましくは10.0μm~0.5mmの範囲内である。厚みdが5.0μm未満である場合には、金属層とCFRPとを複合化する効果が弱まるため好ましくなく、厚みdが1.5mmを超える場合には、全体としての質量が増加し、CFRPの剛性と軽量性とを両立する特性が活かせないため好ましくない。
【0065】
<蓄電デバイス構造体11について>
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体11は、上記のような金属積層CFRP部材110を蓄電デバイスの表面に配置して、蓄電デバイス120と金属積層CFRP部材110とを熱的に接続したものである。
【0066】
かかる蓄電デバイス構造体11は、図4A図4Dに模式的に示したように、1層の金属層113を有するCFRP部材110(図4A及び図4B)の表面に対し、蓄電デバイス120を配置したものであってもよいし、2層の金属層113を有するCFRP部材110(図4C)の表面に対し、蓄電デバイス120を配置したものであってもよいし、CFRP部材110に金属層113を内挿したものに対し、蓄電デバイスを配置したもの(図4D)であってもよい。
【0067】
ここで、本実施形態に係る蓄電デバイス120は、各種の蓄電デバイスを用いることが可能である。このような蓄電デバイス120として、例えば、リチウムイオン2次電池、リチウムイオンキャパシタ、鉛蓄電池等を挙げることができる。また、蓄電デバイス120の大きさや容量については、特に限定されるものではない。
【0068】
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体11は、図4A図4Dに示したように、蓄電デバイス120で発生した熱を、金属層113からCFRP部材111へと伝達させて、更に、CFRP部材111の面内方向(図4A図4Dにおけるx軸方向)に伝達させる点に特徴がある。
【0069】
従来、熱伝導部材としてCFRP部材を用いる場合には、蓄電デバイス等で発生した熱を、CFRP部材の厚み方向(換言すれば、CFRP部材の表面法線方向)に伝達させるものであった。しかしながら、図1Bに示したように、CFRP部材は、炭素強化繊維の配向方向に異方的な熱伝導性を示すものであるため、従来のようなCFRP部材の配置は、CFRP部材の優れた熱伝導性を利用しきれていなかった。
【0070】
また、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体11では、蓄電デバイス120が配置されている側の金属積層CFRP部材110の少なくとも片方の端部の全面(全周及び端面)が雰囲気中に露出するか、又は、端部の少なくとも一部が冷媒もしくは放熱機構に接続もしくは接しているようにする。
【0071】
以下では、まず、図4A図4Dを参照しながら、金属積層CFRP部材110の少なくとも片方の端部の全面が雰囲気中に露出する場合について、詳細に説明する。
【0072】
金属積層CFRP部材110の少なくとも片方の端部の全面が雰囲気中に露出する場合、金属積層CFRP部材110では、蓄電デバイス120が配置されている側の表面であっても、例えば図4A図4Dにおいて破線で囲った領域のように、蓄電デバイス120に覆われておらずに、雰囲気中(例えば、大気中)に剥き出しとなった部分が存在するようになる。これにより、CFRP部材111による面内方向への熱伝達に加えて、金属層113の表面からの放熱も活用できるようになり、より優れた熱伝導性を実現することが可能となる。また、金属積層CFRP部材110は、CFRP部材111と金属層113とで剛性が担保されているため、金属積層CFRP部材110が剥き出しとなった部分であっても、折れや曲げ等の変形が生じることはない。
【0073】
なお、図4A図4Dでは、金属積層CFRP部材110のx軸方向の一方の端部が雰囲気中に露出するように、蓄電デバイス120が配設されているが、金属積層CFRP部材110のx軸方向の両方の端部が雰囲気中に露出するように、蓄電デバイス120が配設されていてもよい。
【0074】
また、金属積層CFRP部材110の表面において、蓄電デバイス120が占める面積率(蓄電デバイス120の被覆率)は、金属積層CFRP部材110の少なくとも片方の端部の少なくとも一部に冷媒又は放熱機構が存在しうることも考慮し、例えば、40~100%の範囲内であることが好ましい。このような面積率とすることで、熱伝導性と断熱性との両立が可能となる。金属積層CFRP部材110の表面において、蓄電デバイス120が占める面積率は、より好ましくは、75~100%の範囲内である。
【0075】
ただし、図4A図4Dで示したように、金属積層CFRP部材110のx軸方向の一方の端部が雰囲気中に露出している場合は、効率よく冷却することが可能である。そのため、蓄電デバイス120が占める面積率が40%未満であっても、その分高価なCFRPの使用量を抑えることができるようになる。この結果、コストまで含めた総合力では、面積率が40%以上であってもx軸方向の一方の端部が雰囲気中に露出していないものと比べると、優れている。
【0076】
また、金属積層CFRP部材110のx軸方向の一方の端部が冷媒又は放熱機構に接続又は接している場合には、冷却効率が高いため、放熱機構の冷却能力に応じて、好ましい面積率の下限を小さくすることもできる。
【0077】
本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を蓄電デバイス120の面上に配置する際に、金属積層CFRP部材110と蓄電デバイス120との界面に、熱伝導性に優れた熱伝導シート(図示せず。)を配置してもよい。このような熱伝導シートを介して金属積層CFRP部材110を蓄電デバイス120の面上に配置することで、蓄電デバイス120と金属積層CFRP部材110との熱接続を、より確実に確立させることが可能となる。このような熱伝導シートとして、例えば、デクセリアルズ株式会社製の高熱伝導率シートEX10000F7を挙げることができる。
【0078】
また、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を蓄電デバイス120の面上に配置する際に、例えば図5に模式的に示したように、熱伝導率が0.1W/m・K以上である接着剤又はグリース130の少なくとも何れかにより、金属積層CFRP部材110を蓄電デバイス120に対して、熱的に接続させてもよい。接着剤又はグリース130の熱伝導率は、より好ましくは3.0W/m・K以上である。このような接着剤又はグリース130を用いることで、蓄電デバイス120に対して、金属積層CFRP部材110を、より確実に熱接続させることが可能となる。ここで、上記のような熱伝導率を有する接着剤又はグリース130に関し、セメダイン株式会社製SX1008、SX1010、RH96Lのような接着剤や、信越化学工業株式会社製G-777のような熱伝導グリースを例示することができる。また、上記のような接着剤又はグリースに対して、更に各種のフィラー等を混合した上で使用してもよい。
【0079】
また、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を蓄電デバイス120の面上に配置する際に、金属積層CFRP部材110を、蓄電デバイス120以外の箇所(図示せず。)で固定した上で、金属積層CFRP部材110が蓄電デバイス120の面と接触するようにしてもよい。また、ネジや各種の固定治具(図示せず。)を用いて、本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を、蓄電デバイス120の面上に固定してもよい。
【0080】
続いて、金属積層CFRP部材110の少なくとも片方の端部の少なくとも一部が冷媒もしくは放熱機構に接続もしくは接している場合について、詳細に説明する。なお、以下で説明する態様においても、上記のような接着剤又はグリース130を適用したり、上記のような蓄電デバイス120の固定方法を適用したりすることが可能である。
【0081】
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体1は、図6Aに模式的に示したように、金属積層CFRP部材110における炭素強化繊維の配向方向側の端面(図6Aでは、x軸方向の端面)に対し、更に、放熱機構140が設けられることが好ましい。換言すれば、CFRP部材111の炭素強化繊維の延伸方向の向かう先に、放熱機構140が存在していることが好ましい。このような配置で放熱機構140を設けることで、CFRP部材111の異方的な熱伝導特性をより効率よく活用することが可能となり、蓄電デバイス120の温度をより精度よく制御することが可能となる。
【0082】
この際、図6Aに示したように、雰囲気中に露出している金属積層CFRP部材110の端面に直接放熱機構140が接していてもよいし、図6Bに示したように、冷媒150を介して放熱機構140に接続されていてもよい。また、放熱機構140や冷媒150の少なくとも何れかが金属積層CFRP部材110の端面と接続されている場合には、図6Cに一例を示したように、金属積層CFRP部材110の端部の全面が雰囲気中に露出していなくともよい。
【0083】
なお、ここでいう放熱機構とは、アルミニウム製ヒートシンク、又は、金属製のブロックに冷媒を通す冷却装置であり、具体的には、アルミブロックにフィンを取り付け、熱を逃がして冷却するヒートシンク及びそれに類するもの、金属製のブロックに冷媒を通して冷却する装置及びそれに類するもの、並びに、これらに接続されて熱を伝導するもの(例えば、アルミニウムや銅等の金属製の板やパイプ、等)が挙げられる。
【0084】
また、冷媒150が液体の場合は水冷となり、気体の場合は空冷となる。更に、上記のような熱伝導率を有する接着剤又はグリース130も、冷媒150として機能しうる。なお、冷媒は、水、油、又は、ゲル状の物質をいい、これらの冷媒が管内、又は、プール内に満たされていて、かかる状態の冷媒に直接上記端部が接している形態を含む。ゲル状物質の場合は、冷媒としてのみならず、放熱機構への熱伝達部材として用いることもできる。この場合、上記端部は、ゲル状物質のみと接してもよく、ゲル状物質及び放熱機構の両方と接してもよい。
【0085】
ここで、図6A図6Cでは、一組の金属積層CFRP部材110を介して蓄電デバイス120を、放熱機構140に対して熱的に接続させている。また、図7Aに例示したように、複数組の金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120を、隣り合う金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120の組との間に空隙を設けながら、1つの放熱機構140に熱的に接続させてもよい。換言すれば、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体11として、複数組の金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120が放熱機構140に並べて配置されたものを実現してもよい。
【0086】
更に、図7Aでは、蓄電デバイス120が放熱機構140と接していない場合を例に挙げて図示を行ったが、図7Bに示したように、蓄電デバイス120が放熱機構140と接していてもよい。
【0087】
また、図7Aでは、隣り合う金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120の組が空隙を介して配置されている場合を図示したが、図7Cに示したように、隣り合う金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120の組が接触していてもよい。
【0088】
更に、図7Dに模式的に示したように、複数組の金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120を並べて配置させる際に、隣り合う金属積層CFRP部材110及び蓄電デバイス120の間に、各種の断熱部材160又は応力緩和部材170の少なくとも何れかを設けてもよい。
【0089】
断熱部材160を設けることで、隣り合う蓄電デバイス120間での熱移動を、遮断することが可能となり、蓄電デバイス120の熱暴走を防止することが可能となる。
【0090】
このような断熱部材160は、蓄電デバイス120間の熱移動を遮断可能なものであれば、各種の素材を用いて構成することが可能である。このような素材として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂のような各種の樹脂素材、不織布、グラスウール、ロックウール、セルロースファイバー、ウレタンフォーム、エアロゲル、ガラス繊維強化樹脂、アラミド繊維強化樹脂等を挙げることができる。
【0091】
また、応力緩和部材170を設けることで、並べて配置された蓄電デバイス120同士を押し付ける応力が作用した際に、かかる応力の局所集中を緩和させることが可能となる。このような応力緩和部材170は、ゴム系材料や発泡材料により実現することができる。このような応力緩和部材170の具体例として、例えば、エチレン系、プロピレン系、ブタジエン系、イソプロピレン系、アクリル系、シリコン系、ウレタン系、スチレン系、ポリウレア系、ポリエステル系のエラストマーや合成ゴム、及び、これらの発泡体を挙げることができる。
【0092】
図8に示したように、金属積層CFRP部材110を放熱機構140に熱的に接続する際に、金属積層CFRP部材110が放熱機構140の内部に入り込んでいてもよい。図7に示したような構造は、例えば、放熱機構140に溝部を設け、かかる溝部に金属積層CFRP部材110を嵌め込むことで実現することができる。図7に示したように金属積層CFRP部材110を放熱機構140に接続することで、金属積層CFRP部材110と放熱部材140との接触面積を増やすことが可能となり、蓄電デバイス120をより確実に冷却することが可能となる。
【0093】
更に、熱伝導性をより向上させるために、金属積層CFRP部材110の端面と、溝部の形状を斜めにすることで、金属積層CFRP部材110と放熱機構140との接触面積を増加させてもよい。また、金属積層CFRP部材110の端面の粗度を上げて(端面の粗度を粗くして)、金属積層CFRP部材110と放熱機構140との接触面積を増加させてもよい。例えば、傾斜面と放熱機構140の端面とのなす角が15°~45°となるように形状を変化させることで、蓄電デバイス120をより一層確実に冷却することが可能となる。
【0094】
本実施形態に係る金属積層CFRP部材110を放熱機構140に熱的に接続する際に、図6A等に示したように、金属積層CFRP部材110を放熱機構140に直接接触させてもよいし、図9に模式的に示したように、金属積層CFRP部材110と放熱機構140との界面に、熱伝導性に優れた熱伝導シート180を配置してもよい。このような熱伝導シート180を介して金属積層CFRP部材を放熱機構140の面上に配置することで、放熱機構140と金属積層CFRP部材110との熱接続を、より確実に確立させて、蓄電デバイス120をより確実に冷却することが可能となる。このような熱伝導シート180として、例えば、デクセリアルズ株式会社製の高熱伝導率シートEX10000F7を挙げることができる。
【0095】
なお、図5図9では、図4Aに例示した積層構造を有する蓄電デバイス構造体を例に挙げながら説明を行ったが、図4B図4C及び図4Dに例示した積層構造を有する蓄電デバイス構造体についても同様に実施することが可能である。
【0096】
また、蓄電デバイス120が過度に冷却された際に蓄電デバイス120の稼働に適した温度まで蓄電デバイス120を加熱するために、上記の放熱機構140に替えて、放熱機能及び加熱機能を兼ね備えた温度制御機構を設けてもよい。これにより、より高度な蓄電デバイス120の温度制御が可能となる。
【0097】
次に、図10及び図11を参照しながら、本実施形態に係るCFRP部材111の熱伝導率の測定方法について、簡単に説明する。
本実施形態において、CFRP部材111の熱伝導率は、直線フィン温度分布フィッティング(Straight Fin Temperature Fitting:SFTF)法により測定する。
【0098】
ここで、金属積層CFRP部材110が既に蓄電デバイス120の面上に配設されている場合には、蓄電デバイス120の表面から金属積層CFRP部材110を取り外し、更に、金属層113を除去した上で、熱伝導率を測定する。具体的には、金属積層CFRP部材110が蓄電デバイス120に接着剤又はグリースを介して接触している場合には、蓄電デバイス120の垂直方向(図2Aにおけるz軸方向)に金属積層CFRP部材110をはがし、接着剤又はグリースを拭き取った上で、更に金属層113を剥離することで、測定に供することができる。また、金属積層CFRP部材110が蓄電デバイス120に接着剤により接着されている場合には、スクレーパ等の器具を用いて蓄電デバイス120から金属積層CFRP部材110をはがし、更に、金属層113をはがす。その後、金属層113が存在した面を研磨することで、CFRP部材111の表面を露出させ、表面を平滑化する。
【0099】
その後、蓄電デバイス120の表面に最も近い面を測定面とし、この測定面と、熱流を入力する部位と、を除いた部位の全てを、断熱材で被覆しておく。これにより、SFTF法に供するCFRP部材111の試験片を得ることができる。
【0100】
図10は、SFTF法の原理を説明するための説明図である。
図10の上段に示したような、長さLt[m]、断面積A[m]=H×t、周囲長さP[m]=2×(Lt+H+t)の平板試験片の一方の端部を加熱し、他方の端部を冷却したときの定常時の試験片について、熱流の入力部位における境界温度T=Tx0と、試験片の周囲空気からの温度上昇分布T(i=1~n:温度測定点数)と、を測定する。
【0101】
一方、直線フィンの温度分布に関する解析解Txiを与える直線フィンの温度分布解析式は、試験片の1端温度固定・片端面断熱の境界条件を用いて、以下の式(101)で与えられる。そこで、得られた測定値Txiと、式(101)で与えられる直線フィンの温度上昇の解析解Txとを比較して、以下の式(103)で規定される標準偏差σを算出し、この標準偏差が最小となるように、解析式中のパラメータmを決定する。
【0102】
また、着目する試料の面内方向熱伝導率(図10における長さLt方向の熱伝導率)をkと表すこととする。この場合に、式(101)で表される解析式中のパラメータmは、試験片表面から周囲空気への平均熱伝達率hを用いて、以下の式(105)のように表される。
【0103】
また、平均熱伝達率hは、垂直平板自然対流熱伝達率及び放射熱伝達率の理論式を用いて、以下の式(107)~式(111)のように表される。ここで、以下の式(107)~式(111)において、hnmは、高さHの垂直平板に対する自然対流熱伝達率であり、hrmは、放射率εの表面からの放射熱伝達率である。また、k、v、β、Prは、それぞれ、空気の熱伝導率、動粘性係数、膨張率、プラントル数である。また、gは、重力加速度であり、σ’は、ステファン・ボルツマン定数(=5.67×10-8W/m・K)である。T,Tは、それぞれ絶対温度で表した試験片の平均温度と外気温度である。ΔTmは、試験片の平均温度上昇であり、フィン効率φ(0.8)及びx=0での温度上昇ΔTを用いてΔT・φにより求めることができる。
【0104】
【数1】
【0105】
実際のCFRP部材の熱伝導率を測定する際には、対象となるCFRP部材を、幅20mm×長さ200mmの大きさに切り出した後、図11に示したような積層構造を構成して、片端にヒータを設置し、ヒータ出力を、10Vで1.6Wに設定する。その後、CFRP部材の面内の温度分布をサーモカメラで撮影し、得られた熱画像を温度分布に変換して、試験長と表面温度の関係を確認する。得られた試験長と表面温度の関係を、上記の直線フィン温度分布フィッティング法で解析することで、着目するCFRP部材の熱伝導率を得ることができる。
【0106】
また、接着剤及びグリースの熱伝導率は、以下のような、ASTM5470に準拠した熱抵抗測定法により測定することができる。
図12の上段左側の図に示したように、上部メーターバーと下部メーターバーの間に、着目する試料を挟み、上部メーターバー側のヒータに電力を加える。一方、下部メーターバー側のテストヘッドは、水冷等の方法により、一定温度に保持する。その上で、上部メーターバーと下部メーターバーの位置と温度との関係から、試料の熱抵抗を求める。具体的には、図中のT1~T4に示す位置に熱電対を装着しておき、T1~T2で得られる温度から算出される温度勾配に基づき、試料の上部メーターバー側の表面温度を算出する。また、T3~T4で得られる温度から算出される温度勾配に基づき、試料の下部メーターバー側の表面温度を算出する。これにより、試料の内部での温度差ΔTを算出する。また、ヒータからの発熱量Q[W]を用いることで、試料の熱抵抗を求めることができる。
【0107】
試料の厚みを変えながら、上記のようにして試料の熱抵抗を算出し、得られた結果を、図12の下段に示したような試料の厚みと熱抵抗とで規定される座標平面にプロットする。その後、得られたプロットの分布を最小二乗法により直線近似し、直線の傾きを算出する。得られた傾きの逆数が、着目する試料の熱伝導率となる。
【0108】
上記のような熱伝導率の測定方法は、トランジスタ法やモデルヒーター法と異なり、上部メーターバー側の印加圧力を変えることが可能であるため、印加圧力に対しての熱抵抗を再現性良く評価することが可能である。実際の測定では、厚みが0.5mm、1.0mm、1.5mmである薄膜を作製し、20mm角に切断する。その後、切断した試料を、メーターバーに挟んで測定すればよい。この際、メーターバーの材質は、SUS304(20mm角)とし、測定時の荷重を3kg/cmとする。その上で、熱抵抗と厚みの関係から傾きを算出し、傾きの逆数から熱伝導率を算出すればよい。
【0109】
また、着目する接着剤やグリースが少量しか得られなかった場合には、着目する接着剤やグリースを、適切な有機溶剤に溶解し、溶解しなかったフィラー粒子を抽出する。取出したフィラー粒子を、蛍光X線による成分分析、及び、X線回折による結晶構造解析に供することで、フィラー粒子の種類を同定する。また、マトリックス樹脂の組成に関しては、得られた樹脂溶液を、赤外分光法により観察することで、マトリックス樹脂の種類を同定する。また、取り出したフィラー量とマトリックス量から、熱伝導率を下記の式(121)により算出することができる。
【0110】
ここで、以下の式(121)において、λmatrixは、マトリックス樹脂の熱伝導率であり、λfillerは、フィラー粒子の熱伝導率であり、λcompositeは、コンポジットの熱伝導率である。また、φは、フィラーの含有量(体積分率)であり、xは、フィラーの形状因子(真球のとき、x=2で最小となる。)である。
【0111】
【数2】
【0112】
以上、図2A図12を参照しながら、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体1について、詳細に説明した。
【0113】
(蓄電デバイス構造体の製造方法について)
以上説明したような蓄電デバイス構造体は、以下のようにして製造することができる。まず、所定の炭素強化繊維及びマトリックス樹脂を含有するCFRPプリプレグを準備し、所的の枚数積層することで所望の厚みとする。その上で、得られた積層プリプレグをホットプレス成型又はオートグレーブ成型することで、CFRP部材とする。得られたCFRP部材の表面に対して、更に、先だって説明したような金属素材(例えば、金属箔や金属板)を配置することで、金属積層CFRP部材とする。
【0114】
得られた金属積層CFRP部材を、蓄電デバイスの表面に対し、必要に応じて、接着剤やグリースを用いながら配置し、更に、必要に応じて、金属積層CFRP部材の端部に、冷媒又は放熱機構を設置する。これにより、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体を製造することができる。
【0115】
以上、図2A図12を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法について、詳細に説明した。
【0116】
≪第2実施形態≫
各種の蓄電デバイスが電気自動車等に実装される場合、複数の蓄電デバイスが用いられる可能性が高い。この際、上記特許文献1及び特許文献2に開示された技術を用いたとしても、隣り合って複数存在する蓄電デバイスの周囲の温度を効率よく低下させつつ、蓄電デバイスの異常発熱時の安全性を担保するという観点において、未だ改善の余地があった。
【0117】
このような観点から、以下に示す第2実施形態では、複数の蓄電デバイスが隣り合って存在するような状況下において、隣り合って複数存在する蓄電デバイスの周囲の温度をより効率よく冷却可能な蓄電デバイス構造体とその放熱方法について着目した。以下に示す第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体により、隣り合って複数存在する蓄電デバイスの周囲の温度を、より効率よく冷却することが可能となる。
【0118】
(蓄電デバイス構造体について)
以下では、図13図19を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体について、詳細に説明する。
図13は、本実施形態に係るバッテリーセル冷却機構の構成を模式的に示した説明図である。図14図19は、本実施形態に係るバッテリーセル冷却機構について説明するための模式図である。
【0119】
第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、複数の蓄電デバイスと、配向した炭素強化繊維を有する炭素繊維強化プラスチック部材と、を備え、炭素繊維強化プラスチック部材は、複数の蓄電デバイスの少なくとも1つの面上に配置され、蓄電デバイスと熱的に接続されており、炭素強化繊維の配向方向における炭素繊維強化プラスチック部材の少なくとも片方の端部は、当該端部の全面が雰囲気中に露出するか、又は、当該端部の少なくとも一部が、冷媒もしくは放熱機構の少なくとも何れかに接しており、炭素繊維強化プラスチック部材を平面視したときに、雰囲気中に露出している端部又は冷媒もしくは放熱機構に向かう方向を0°方向と定義し、0°方向に直交する方向を90°方向と定義し、炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる炭素強化繊維の延伸方向における0°方向成分が、40%以上である蓄電デバイス構造体において、複数の蓄電デバイスが、互いに対向するように配置され、放熱機構に対し、複数の蓄電デバイスが熱的に接続されており、炭素繊維強化プラスチック部材は、複数の蓄電デバイスすくなくとも1つ以上に対し、隣り合う他の蓄電デバイスと対向する少なくとも1つの面上に設けられ、かつ、放熱機構に対して熱的に接続されている形態を具体化したものである。
【0120】
以下では、便宜的に、図13に示した座標系を参照しながら、説明を行うものとする。
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体は、複数の蓄電デバイス(例えば、バッテリーセル)を冷却するための冷却機構として機能する。この蓄電デバイス構造体21は、図13に模式的に示したように、x軸方向に沿って配設された、複数の蓄電デバイスの一例としての複数のバッテリーセル210と、複数のバッテリーセル210に熱的に接続された熱冷却機構220と、複数のバッテリーセル210の少なくとも1つ以上に対し、隣り合う他のバッテリーセル210と対向する少なくとも1つの面上に設けられており、熱冷却機構220に対して熱的に接続されている炭素繊維強化プラスチック(CFRP)部材230と、を備える。
【0121】
バッテリーセル210としては、電気エネルギーを蓄積・放出する各種のバッテリーセルを用いることが可能である。このようなバッテリーセル210として、例えば、各種のリチウムイオン2次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等を挙げることができる。かかるバッテリーセル210は、所望の蓄電量を実現するために、例えば図13のx軸方向に沿って、所定の間隙を設けながら複数配設されている。かかるバッテリーセル210は、露出した状態であってもよいし、バッテリーケース等の容器に収容された状態であってもよい。
【0122】
熱冷却機構220は、放熱機構の一例であり、熱的に接続されている各種の部材から伝達された熱を冷却する部材である。この熱冷却機構220は、例えば金属製のブロックに冷媒を通す冷却装置等のように、各種の部材から伝達された熱を、水等の各種の冷媒を用いて冷却するものであってもよい。また、例えばアルミニウム製ヒートシンク(より具体的にはアルミフィン)などのように、各種の部材から伝達された熱を、蓄電デバイス構造体21の外部に放出するものであってもよい。また、熱冷却機構220は、例えば、上記のような各種の冷却装置に熱的に接続されているバッテリーケース(バッテリーセル210を収容するもの)のように、熱冷却機能が実装されている何らかの部材であってもよい。なお、冷媒は、水、油、又は、ゲル状の物質をいい、ゲル状物質の場合は、冷媒としてのみならず熱伝達部材として用いることもできる。
【0123】
複数のバッテリーセル210で発生した熱は、バッテリーセル210から直接熱冷却機構220まで伝達されたり、詳述するCFRP部材230等を介して熱冷却機構220まで伝達されたりして、蓄電デバイス構造体21の外部へと放出される。
【0124】
CFRP部材230は、バッテリーセル210で発生した熱を熱冷却機構220まで伝達させるための熱伝導体として機能する。かかるCFRP部材230は、上述のように、良好な熱伝導体である炭素強化繊維がマトリックス樹脂中に埋没しているという構造を有している。そのため、CFRP部材230は、炭素強化繊維の配向方向に熱を良好に伝達する一方で、CFRP部材230の厚み方向には、熱を伝達させにくいという特性を発現する。ただし、CFRP部材230の厚み方向への熱伝達を完全に遮断するものではないため、ある程度の時間の経過とともに、厚み方向へ熱を伝達することができる。また、CFRP部材230の厚み方向への熱伝達効率は、アルミニウム等の各種金属の熱伝達効率よりは低いため、アルミニウム等の各種金属と比較して、伝達している熱が途中で放熱される現象は抑制される。
【0125】
ここで、本実施形態に係るCFRP部材230の熱冷却機構220に向かう方向(図13におけるz軸方向)の熱伝導率は、50~300W/m・Kの範囲内であることが好ましい。熱冷却機構220に向かう方向の熱伝導率が上記の範囲内となることで、バッテリーセル210で発生する熱を、より確実に熱冷却機構220へ伝達させることができる。
【0126】
熱冷却機構220に向かう方向の熱伝導率が50W/m・K未満となる場合には、バッテリーセル210で発生する熱を十分に熱冷却機構220に伝達させることができずに、バッテリーセル210を十分に冷却できない可能性が生じうる。CFRP部材230の熱冷却機構220に向かう方向の熱伝導率は、100W/m・K以上であることがより好ましく、150W/m・K以上であることが更に好ましい。
【0127】
一方、熱冷却機構220に向かう方向の熱伝導率が300W/m・Kを超えるものは、商業ベースでは殆ど製造されておらず、コスト高となることから、CFRP部材230の熱冷却機構220に向かう方向の熱伝導率は、300W/m・K以下であることが好ましい。
【0128】
第1実施形態においても言及したように、一般に、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に用いられる炭素強化繊維は、ピッチ系の炭素強化繊維と、PAN系の炭素強化繊維と、に大別される。本実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック部材230は、ピッチ系の炭素強化繊維を含有していることが好ましい。ピッチ系の炭素強化繊維を用いることで、より優れた熱伝達効率を実現することが可能となる。
【0129】
また、炭素強化繊維は、連続的に延伸している炭素繊維(連続繊維とも呼ばれる。)を含むもの、例えば2~100mm程度の長さに裁断された炭素繊維(チョップド糸とも呼ばれる。)を含むもの、0.05~0.30mm程度の長さに裁断された炭素繊維(ミルドファイバーとも呼ばれる。)を含むものなど、様々なものが存在する。本実施形態では、これら繊維のいずれを用いることも可能であるし、複数種類の繊維を組み合わせて使用することも可能である。
【0130】
また、CFRP部材230に用いられるマトリックス樹脂は、熱可塑性のマトリックス樹脂であってもよいし、熱硬化性のマトリックス樹脂であってもよいが、耐熱性の高い樹脂であることが好ましい。ここでいう「耐熱性が高い」とは、バッテリーセル210で発生しうる熱に暴露された場合であっても、CFRP部材230の形状が保持可能な程度の耐熱性を有することをいう。このような耐熱性の高い樹脂を用いることで、蓄電デバイス構造体21の性能が低下することを防止して、より確実なバッテリーセルの冷却を実現することが可能となる。
【0131】
上記のような耐熱性を有する熱硬化性のマトリックス樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂を挙げることができる。また、上記のような耐熱性を有する熱可塑性のマトリックス樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン12樹脂、ナイロン6樹脂、ポリカーボネート樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、フェノキシ樹脂等を挙げることができる。上記のマトリックス樹脂のうち特に耐熱性の高いものとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、PEEK樹脂を挙げることができる。
【0132】
本実施形態に係るCFRP部材230において、強化繊維密度(VF:Volume Fraction)は、例えば、連続繊維(CFRPの一端から他端まで連続で繋がった繊維)の場合は40~65%の範囲内であることが好ましく、チョップド糸などの不連続繊維(25~100mm長など)の場合は20~50%の範囲内であることが好ましい。強化繊維密度が上記の範囲内となることで、コストの増加を抑制しながら、より効率の良い熱伝導を実現することが可能となり、熱冷却機構220に向かう方向の熱伝導率を、より確実に上述した熱伝導率の範囲内とすることが可能となる。強化繊維密度は、使用する繊維が連続繊維の場合、より好ましくは50~60%の範囲内であり、不連続繊維の場合、より好ましくは30~45%の範囲内である。
【0133】
また、本実施形態に係るCFRP部材230において、炭素強化繊維は、熱冷却機構220に向かう方向(図13におけるz軸方向)に配向している。
【0134】
ここで、炭素強化繊維の配向方向とは、CFRP部材230に含まれる1本1本の炭素強化繊維の方向ではなく、CFRP部材230の全体としての炭素強化繊維の配向方向(換言すれば、平均化してマクロ的に見たときの炭素強化繊維の配向方向)である。
【0135】
より詳細には、CFRP部材230を上方(例えば、図13におけるx軸方向)から平面視したときに、雰囲気中に露出している端部又は冷媒もしくは放熱機構に向かう方向(例えば、図13におけるz軸方向)を0°方向と定義し、0°方向に直交する方向(例えば、図13におけるy軸方向)を90°方向と定義する。その上で、炭素繊維強化プラスチック部材に含まれる炭素強化繊維の延伸方向について、0°方向成分及び90°方向成分をそれぞれ算出したときに、炭素繊維強化プラスチック部材の全体に含まれる炭素強化繊維の延伸方向における0°方向成分は、40%以上となっている。
【0136】
本実施形態において、0°方向成分の割合が40%未満となる場合には、CFRP部材230は、所望の冷却性能を発現させることができない。0°方向成分の割合を40%以上とすることで、CFRP部材230は、所望の冷却性能を発現するようになる。0°方向成分の割合は、好ましくは通常のクロス材が使用可能な50%以上であり、より好ましくは60%以上であり、その上限値は100%であってもよい。
【0137】
なお、上記のような0°方向成分の割合は、第1実施形態で説明した方法と同様にして、特定することが可能である。
【0138】
これにより、バッテリーセル210で発生した熱を、より確実に熱冷却機構220へと伝達することが可能となる。また、本実施形態に係るCFRP部材230を、炭素強化繊維が熱冷却機構220に向かう方向に配向している一方向性のCFRPで構成することで、バッテリーセル210で発生した熱を、更に確実に熱冷却機構220へと伝達することが可能となる。
【0139】
一方、蓄電デバイス構造体21の剛性及びバッテリーセル210の保護をより向上させる場合には、クロス材を用いたCFRPや、疑似等方積層材を用いたCFRPを用いて、CFRP部材230を構成してもよい。
【0140】
また、CFRP部材230を構成する際に、炭素強化繊維に加えて、ガラス繊維又はアラミド繊維の少なくとも何れかを更に用いてもよい。この際、CFRP部材230を構成するマトリックス樹脂中に、炭素強化繊維に加えて、ガラス繊維やアラミド繊維を含有させてもよい。しかしながら、CFRP部材230を製造する際に、マトリックス樹脂中に炭素強化繊維が保持されたCFRPプリプレグと、マトリックス樹脂中にガラス繊維又はアラミド繊維が保持されたCFRPプリプレグと、を準備しておき、これらCFRPプリプレグを所望の積層状態となるように積層したうえでCFRP部材230とするのが簡便である。この際、ガラス繊維が用いられたCFRPプリプレグや、アラミド繊維が用いられたCFRPプリプレグは、1層程度用いるようにすることが好ましい。
【0141】
上記のようなCFRP部材230は、図13における左から2番目のバッテリーセル210に例示したように、複数のバッテリーセル210の少なくとも1つ以上に対して、隣り合う他のバッテリーセル210と対向する少なくとも1つの面上に設けられ、熱冷却機構220に対して熱的に接続されている。これにより、CFRP部材230が設けられたバッテリーセル210で発生した熱を、熱冷却機構220に伝達させて、バッテリーセル210を冷却することができる。
【0142】
また、CFRP部材230は、図13における右から2番目のバッテリーセル210に例示したように、隣り合う他のバッテリーセル210と対向する2つの面上に設けられてもよい。更に、図14に例示したように、CFRP部材230は、複数のバッテリーセル210の全てに対して設けられてもよい。
【0143】
ここで、本実施形態において、CFRP部材230の厚み(図13におけるx軸方向の厚み)は、0.1~5.0mmの範囲内であることが好ましい。CFRP部材230の厚みを上記の範囲内とすることで、バッテリーセル210で発生した熱を、より効率よく熱冷却機構220に伝達することが可能となる。バッテリーセルの面上に設けられたCFRP部材230においては、熱冷却機構220に近づくほど、バッテリーセル210からの伝熱量が加算されて、その内部の熱流束が増加する。従って、バッテリーセル210が大きくなり、その面上に設けられたCFRP部材230の長さが長くなる場合は、CFRP部材230の厚み(熱冷却機構220へ向かう方向に垂直な断面の面積)をより厚くすることが好ましい。また、自動車用のバッテリーなどで、走行時の振動等の影響に耐えて形状を維持するという剛性面をより考慮する場合は、CFRP部材230の厚みは、より好ましくは0.4~2.5mmの範囲内である。
【0144】
また、CFRP部材230は、任意の形状を取りうる。例えば、上述のように、熱冷却機構220の方向への長さが長くなると、熱冷却機構220に近づくほど、冷却能力を増強することが好ましい。そのため、熱冷却機構220に近づくほど厚みを増加させたテーパー構造など、形状を工夫することが可能である。
【0145】
また、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体21において、バッテリーセル210は、図13に示したy軸方向に奥行を有しているが、CFRP部材230は、バッテリーセル210のyz平面に平行な片側の面の全てを被覆していてもよいし、被覆していない部分が存在していてもよい。本実施形態において、CFRP部材230の被覆率は、好ましくは40%以上であり、より好ましくは50%以上である。
【0146】
本実施形態に係るCFRP部材230をバッテリーセル210の面上に配置する際に、CFRP部材230とバッテリーセル210との界面に、熱伝導性に優れた熱伝導シート(図示せず。)を配置してもよい。このような熱伝導シートを介してCFRP部材230をバッテリーセル210の面上に配置することで、バッテリーセル210とCFRP部材230との熱接続を、より確実に確立させることが可能となる。このような熱伝導シートとして、例えば、デクセリアルズ株式会社製の高熱伝導率シートEX10000F7を挙げることができる。
【0147】
本実施形態に係るCFRP部材230をバッテリーセル210の面上に配置する際に、例えば図15に模式的に示したように、熱伝導率が0.1W/m・K以上である接着剤又はグリース240の少なくとも何れかにより、CFRP部材230をバッテリーセル210に対して、熱的に接続させてもよい。接着剤又はグリース240の熱伝導率は、より好ましくは3.0W/m・K以上である。このような接着剤又はグリース240を用いることで、バッテリーセル210に対して、CFRP部材230を、より確実に熱接続させることが可能となる。ここで、上記のような熱伝導率を有する接着剤又はグリース240に関し、セメダイン株式会社製SX1008、SX1010、RH96Lのような接着剤や、信越化学工業株式会社製G-777のような熱伝導グリースを例示することができる。また、上記のような接着剤又はグリースに対して、更に各種のフィラー等を混合した上で使用してもよい。
【0148】
なお、例えば自動車のような移動体に搭載される場合には、振動に耐えうるように、適宜接着剤又はグリース240の厚みを変更することが好ましい。その際、厚みは薄すぎないことが好ましく、例えば、G-777のような熱伝導グリースを使用した場合には接着0.25mm以上の厚みとすることが好ましい。
【0149】
また、本実施形態に係るCFRP部材230をバッテリーセル210の面上に配置する際に、CFRP部材230を、バッテリーセル210以外の箇所(図示せず。)で固定した上で、CFRP部材230がバッテリーセル210の面と接触するようにしてもよい。また、ネジや各種の固定治具(図示せず。)を用いて、本実施形態に係るCFRP部材230を、バッテリーセル210の面上に固定してもよい。
【0150】
一方、本実施形態に係るCFRP部材230を熱冷却機構220に熱的に接続する際に、CFRP部材230を熱冷却機構220に直接接触させてもよい。また、図16に模式的に示したように、CFRP部材230と熱冷却機構220との界面に、熱伝導性に優れた熱伝導シート250を配置してもよい。このような熱伝導シート250を介してCFRP部材230を熱冷却機構220の面上に配置することで、熱冷却機220とCFRP部材230との熱接続をより確実に確立させて、バッテリーセル210をより確実に冷却することが可能となる。このような熱伝導シート250として、例えば、デクセリアルズ株式会社製の高熱伝導率シートEX10000F7を挙げることができる。
【0151】
また、図17Aに模式的に示したように、熱冷却機構220の表面に溝部221を設けておき、CFRP部材230を、かかる溝部221に嵌合させてもよい。このような溝部221を介した嵌合を実現することで、CFRP部材230をより確実に熱冷却機構220に熱接続させることが可能となる。
【0152】
更に、熱伝導性をより向上させるために、図17Bに模式的に示したように、CFRP部材230の端面と、溝部221の形状を斜めにすることで、CFRP部材230と熱冷却機構220との接触面積を増加させてもよい。また、CFRP部材230の端面の粗度を上げて(端面の粗度を粗くして)、CFRP部材230と熱冷却機構220との接触面積を増加させてもよい。例えば、傾斜面と熱冷却機構220の端面とのなす角が15°~45°となるように形状を変化させることで、CFRP部材230をより一層確実に熱冷却機構220に熱接続させることが可能となる。なお、このような接触面積を増加させた上での熱接続方法は、熱冷却機構220との接続のみならず、バッテリーセル210との接続にも適用することが可能である。
【0153】
なお、CFRP部材230を、バッテリーセル210や熱冷却機構220に接続する際に、図15図17Bに示したような熱接続方法を適宜組み合わせて採用してもよい。
【0154】
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体21では、図18Aに模式的に示したように、CFRP部材230が設けられたバッテリーセル210と、当該バッテリーセル210に隣り合う他のバッテリーセル210との間に、断熱部材260が設けられていてもよい。このような断熱部材260を設けることで、隣り合うバッテリーセル210間での熱移動を遮断することが可能となり、バッテリーセル210の熱暴走をより確実に防止することが可能となる。
【0155】
このような断熱部材260は、バッテリーセル210間の熱移動を遮断可能なものであれば、各種の素材を用いて構成することが可能である。このような素材として、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂のような各種の樹脂素材、不織布、グラスウール、ロックウール、セルロースファイバー、ウレタンフォーム、エアロゲル、ガラス繊維強化樹脂、アラミド繊維強化樹脂等を挙げることができる。
【0156】
また、図18Bに模式的に示したように、隣り合うバッテリーセル210の間に存在する間隙を、バッテリーセル210の面上に設けられるCFRP部材230と、断熱部材260と、を用いて充填するようにしてもよい。図18Bに示したような充填構造を実現することで、隣り合うバッテリーセル210間での熱移動を、より確実に遮断することが可能となる。
【0157】
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体21では、図19に模式的に示したように、バッテリーセル210の面上に、ピッチ系の炭素強化繊維を含むCFRPであるピッチ系CFRP部材231と、ピッチ系CFRP部材231の面上に設けられる、PAN系の炭素強化繊維を含むCFRPであるPAN系CFRP部材233と、を設けて、CFRP部材230としてもよい。この場合に、ピッチ系CFRP部材231については、ピッチ系の炭素強化繊維の配向方向を、熱冷却機構220に向かう方向とすることが好ましく、ピッチ系の炭素強化繊維の配向方向が熱冷却機構220に向かう方向である一方向材とすることが、より好ましい。また、PAN系CFRP部材233の配向方向については、特に規定するものではなく、一方向材を用いてPAN系CFRP部材233を構成してもよく、クロス材を用いてPAN系CFRP部材233を構成してもよい。更に、複数のCFRPを積層して、上記のようなCFRP部材を構成してもよい。このように、ピッチ系CFRP部材231上にPAN系CFRP部材233を積層することで、CFRP部材230の剛性を向上させることが可能となるとともに、より高価なピッチ系の炭素強化繊維の使用量を抑制して、コストダウンを図ることが可能となる。
【0158】
また、図19に示したようなCFRP部材230の表面に、図18A及び図18Bに示したような断熱部材260を設けてもよい。
【0159】
また、図19に示したようなPAN系CFRP部材233に替えて、プラスチック部材やセラミックス部材を配置してもよいし、PAN系CFRP部材233の表面に、プラスチック部材やセラミックス部材を配置してもよい。
【0160】
次に、CFRP部材230の熱伝導率の測定方法について、簡単に説明する。
本実施形態において、炭素繊維強化プラスチック部材230の熱伝導率は、直線フィン温度分布フィッティング(Straight Fin Temperature Fitting:SFTF)法により測定する。
【0161】
ここで、SFTF法によるCFRP部材230の熱伝導率の測定方法は、第1実施形態で示した測定方法と同様であるため、以下では詳細な説明は省略する。なお、かかる測定方法に関し、第1実施形態における「金属積層CFRP部材110」との記載を「CFRP部材230」と読み替え、更に、金属層113に関連した言及については無いものとして、測定を実施すればよい。
【0162】
以上、図13図19を参照しながら、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体21について、詳細に説明した。
【0163】
(蓄電デバイス構造体の製造方法について)
以上説明したような蓄電デバイス構造体は、以下のようにして製造することができる。まず、所定の炭素強化繊維及びマトリックス樹脂を含有するCFRPプリプレグを準備し、所的の枚数積層することで所望の厚みとする。その上で、得られた積層プリプレグをホットプレス成型又はオートグレーブ成型することで、CFRP部材とする。
【0164】
得られたCFRP部材を、バッテリーセルの表面に対し、必要に応じて、接着剤やグリースを用いながら配置する。一体化されたCFRP部材及びバッテリーセルを、必要な個数だけ、熱冷却機構に対して熱的に接続する。これにより、本実施形態に係る蓄電デバイス構造体を製造することができる。
【0165】
(蓄電デバイス構造体の冷却方法について)
以上説明したような蓄電デバイス構造体を利用した、放熱方法の一例としての冷却方法について、以下で簡単に説明する。
本実施形態に係る蓄電デバイス構造体の冷却方法は、複数のバッテリーセルを冷却するための冷却方法であり、隣り合うバッテリーセルが互いに対向するように設けられた、複数のバッテリーセルのそれぞれを、熱冷却機構に対して熱的に接続し、複数のバッテリーセルの少なくとも1つ以上に対し、隣り合う他のバッテリーセルと対向する少なくとも1つの面上に、CFRP部材を設け、CFRP部材を、熱冷却機構に対して熱的に接続する。これにより、バッテリーセルの周囲の温度を、より効率よく冷却することが可能となる。
【0166】
以上、図13図19を参照しながら、本発明の第2実施形態に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法について、詳細に説明した。
【実施例
【0167】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法について、具体例を挙げながら説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法の一例にすぎず、本発明に係る蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法が、下記の例に限定されるものではない。
【0168】
(実験例1)
以下に示す実験例1は、本発明の第1実施形態で示した蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法についての実験結果を示したものである。
【0169】
[車載用バッテリーセル及びモジュール]
バッテリーセルには、車載用に市販されている角形セル(長さ44mm×幅171mm×高さ115mm)を使用し、上記セル8個で構成されたモジュール(長さ190mm×幅400mm×高さ130mm)を作製した。セルの間隔は、任意に設定して配置した。なお、ここでいう「セルの間隔」は、隣り合うセルの壁面と壁面の間の距離を指す。
【0170】
[充放電試験装置]
作製したモジュールの充放電試験には、日鉄テックスエンジ株式会社製のEVT60V120Aを使用した。
【0171】
[冷却装置]
放熱機構の一例としての冷却装置には、純アルミブロックから削り出したアルミフィン(長さ190mm×幅400mm×高さ40mm、厚み7mmのフィンを10本備える。)又は、自作の水冷装置(長さ190mm×幅400mm×高さ40mm)を使用し、その上にバッテリーモジュールを載せて、バッテリーの充放電を実施した。
【0172】
[CFRPプリプレグの作製]
マトリックス樹脂となる熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂組成物を準備した。かかるエポキシ樹脂組成物を、ピッチ系炭素繊維からなる強化繊維基材(UD材:日本グラファイトファイバー社製炭素強化繊維XN80、XN90)、又は、PAN系炭素繊維からなる強化繊維基材(UD材:東レ株式会社製 M60J)に含浸し、エポキシ樹脂CFRPプリプレグを作成した。いずれのプリプレグにおいても、加熱成型後のCFRPのVFが60%となるように、樹脂を含浸した。
【0173】
[CFRPの成型]
作製したCFRPプリプレグを、所望の厚み及び繊維配向となるように積層し、剥離紙を挟んで平坦な金属板とともに真空バッグに入れて、オートクレーブにて成型した。CFRPの成型条件は、オートクレーブで4気圧をかけながら、130℃で2時間保持して成型した。
【0174】
[金属層]
金属層として、厚み0.02mmの銅箔、及び、アルミニウム箔を準備した。
【0175】
[金属層積層CFRPの成型]
作製したCFRPプリプレグと金属層を、所望の厚み、繊維配向及び構成となるように積層し、剥離紙を挟んで平坦な金属板とともに真空バッグに入れて、オートクレーブにて4気圧をかけながら、130℃で2時間保持して成型した。
【0176】
得られた金属積層CFRP部材を、信越化学社製シリコーングリース(G-777、熱伝導率3.3W/(m・K))を使用して、セルに貼付した。この時、直方体である角形セルにおいて、CFRPが貼付されるセルの側面の全面にCFRPを(すなわち面積率100%で)貼付した。また、貼付したCFRPをバッテリーモジュール下に設置されているアルミフィン及び水冷装置に信越化学社製シリコーングリース(G-777、熱伝導率3.3W/(m・K))を使用して接続した。
【0177】
なお、作製した蓄電デバイス構造体の詳細な構成は、以下の表1に示した通りであるが、以下の表1における比較例3は、アルミフィンの上に設置されているものの、熱伝導体がアルミフィンから5mm離されて接続されていない。また、以下の表1における実施例16は、いずれの冷却機構の上にも設置されておらず、熱伝導体がセルから5mmはみ出して空気中に剥き出しで露出されている。
【0178】
また、以下の表1に示す実施例1~18及び比較例1~7は、複数のセルが連なった(並べて配置された)モジュールの形態にて、それぞれ充放電及び温度測定を実施し、実施例19及び比較例8~9は、単一のセルにて、それぞれ充放電及び温度測定を実施した。
【0179】
◇冷却性能評価
熱電対を、セル表面の任意の位置にカプトンテープを使用して貼付し、充放電に伴う温度上昇を測定した。充放電条件は、電池の容量を1時間で完全充電(又は放電)させる電流の大きさを1Cと定義した際に、3Cの電流になるように設定し、充放電を実施した。
【0180】
上記のような測定条件において、熱伝導材を貼付していない状態の充放電における最高温度と初期温度の差を基準温度差とし(比較例1、2、3、8)、評価したい実施例及び比較例における最高温度と初期温度の差が、基準温度差と比べて何パーセント小さくなるか(バッテリー温度低減率)を計算して、その値が1%以上であれば温度低減効果があるとした。すなわち、基準温度差がT℃のときに、着目する実施例又は比較例と初期温度との温度差がT℃であった場合には、((T―T)/T)×100で求まる値が、バッテリー温度低減率となる。バッテリー温度低減率が1%以上であった場合をAとし、バッテリー温度低減率が1%未満であった場合をBとした。評点「A」を合格とした。
【0181】
◇異常発熱セル発生時の温度評価
セルが複数スタックされたモジュールにおける、異常発熱したセルが発生した時の温度評価として、隣接するセルの最高温度を計測し、熱伝導板がCFRP単体であるときと比較して何%の温度変化であったかによって、評価した。
【0182】
かかる評価では、まず、表2で示される実施例と比較例の組合せについて、評価を行った。上記の8つのセルが連なったモジュールを用い、26℃の環境下で中央2つのセルが500kW/hの一定発熱量で発熱した際に、加熱開始後2000秒のときの隣接するセルの最高温度を計測し、その水準の温度とした。隣接するセル温度は、当然ながら低い方が(すなわち、温度変化の値が小さい方が)好ましく、100%以下を評点「A」とし、100%よりも大きい場合を評点「B」とした。評点「A」を合格とした。得られた結果を表2にまとめて示した。
【0183】
以下の表2に示したように、異常発熱セル発生時の温度評価は、表2に示した範囲の厚みにおいては、CFRP、銅箔積層CFRPを用いた場合の方が、Al、断熱材、空気を用いた場合よりも優れた結果となることが明らかとなった。かかる知見より、異常発熱セル発生時の温度評価は、表1に示した各実施例については、表2に示した結果に基づき評点「A」と評価し、表1に示した各比較例については、評点「B」と評価した。かかる対応については、図20A図20Cを参照しながら以下で改めて詳述する。
【0184】
◇熱伝導板の電磁波シールド性評価
周波数が1GHz以下の周波数帯においては、ASTM D 4935に準拠して測定し、それ以上の周波数帯においては、キーコム社製電磁波透過減衰量測定装置DPS10-02を用いて、それぞれ電磁波の透過減衰量(すなわち、シールド性)を測定した。CFRP単体(下記、比較例2)と比較して、透過する電磁波が1/10以下に減衰した場合を、電磁波シールド性の効果があるとしてAとし、これよりも減衰しなかった場合を効果なしとしてBとした。評点「A」を合格とした。
【0185】
その上で、冷却性能、異常発熱セル発生時の温度評価、及び、電磁波シールド性の評価が全て合格であったものを、総合評価結果「A」とし、何れかが不合格であったものを総合評価結果「B」とした。得られた結果を、表1にまとめて示した。
【0186】
【表1】
【0187】
【表2】
【0188】
セルが複数並べて配置されたモジュールにおいて、異常発熱したセルに隣接するセルの最高温度を計測した代表的な結果を、図20A図20Cに示した。これは、表2で示される実施例と比較例のうち、セルとセルの間隙に対し、銅箔を積層したCFRP(銅箔積層CFRP)、CFRP、アルミニウム、断熱材、又は、空気が挿入された、セルの間隔がそれぞれ0.5mm、2.0mm、5.0mmのときの温度測定結果である。図20A図20Cにおいて、横軸が時間を示し、縦軸が温度を示している。なお、図20A及び図20Cでは、銅箔積層CFRPの温度測定結果と、CFRPの温度測定結果がほぼ同じ挙動を示したため、図面上では2つの曲線が重なって見えている。
【0189】
図20A図20Cのそれぞれにおいて、時間が経つにつれて各水準とも温度が上昇するが、そのプロファイルは大きく異なる。まず、銅箔積層CFRP、CFRP、及び、アルミニウムは、それぞれ熱伝導性が高いため、比較的短時間で隣接するセルの温度が上昇する。しかしながら、熱を逃がす方向にも伝導するため、経過時間が長くなったときは、この抜熱の効果が大きくなって、温度上昇は鈍くなる。アルミニウムよりもCFRPの方が温度の上昇を抑制出来ているのは、熱伝導に異方性があることから、隣のセルへの伝熱はアルミよりも小さくなり、放熱機構方向への伝熱は、アルミニウムと同等かそれ以上であったためである。また、銅箔のように熱伝導性の良い金属箔をCFRPに積層すると、更にその性能は向上していることがわかる。
【0190】
これに対し、断熱材や空気は、熱をほとんど伝えないために、初期の温度上昇は鈍い。しかしながら、時間が経過すると放熱機構への伝熱量や空気中への放熱量が少ないため、異常発熱セルの温度が非常に高くなる。それに伴って隣接するセルの温度も急激に高くなり、最終的には、熱を伝導する材料を貼付した場合と比較すると、より高温になってしまう。
【0191】
このように、本発明に係る積層構成では、断熱材や空気は当然ながら、熱を伝導するアルミニウムやCFRPと比較しても、隣接するセルへの熱伝播を防止しながら抜熱する、効率的な温度制御がなされていることがわかる。そしてこれは、少なくとも図20A図20Cで示されるような厚み範囲において成立しており、本質的に、そのような性質を持っていることが判る。このことから、この表2の構成に関わらず、本発明の金属箔が積層したCFRP積層構成であれば、CFRPやアルミニウムのような熱伝導材、及び、断熱材に対し、全て有意に性能が優れることがわかる。
【0192】
上記表1、表2から明らかなように、本発明の実施例に対応する蓄電デバイス構造体は、総合評価が合格となる一方で、本発明の比較例に対応する蓄電デバイス構造体は、冷却性能、電磁波シールド性の何れかの評価、又は、異常発熱セル発生時の温度評価の何れかの評価が不合格であることがわかる。
【0193】
(実験例2)
以下に示す実験例2は、本発明の第2実施形態で示した蓄電デバイス構造体及び蓄電デバイス構造体の放熱方法についての実験結果を示したものである。
【0194】
[車載用バッテリーセル及びモジュール]
バッテリーセルには、車載用に市販されている角形セル(長さ44mm×幅171mm×高さ115mm)を使用し、上記セル8個で構成されたモジュール(長さ190mm×幅400mm×高さ130mm)を作製した。セル間の隙間は、任意設定した。
【0195】
[充放電試験装置]
作製したモジュールの充放電試験には、日鉄テックスエンジ株式会社製のEVT60V120Aを使用した。
【0196】
[冷却装置]
熱冷却機構として機能する冷却装置には、自作したアルミフィン(長さ190mm×幅400mm×高さ40mm、フィン厚み7mm×10個)、又は、自作の水冷装置(長さ190mm×幅400mm×高さ40mm)を使用し、その上にバッテリーモジュールを載せて、バッテリーの充放電を実施した。このようにして実現されるバッテリーセル冷却機構は、概ね図14に例示したような構造を有している。
【0197】
[CFRPプリプレグの作製]
マトリックス樹脂となる熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂組成物を準備した。かかるエポキシ樹脂組成物を、ピッチ系炭素繊維からなる強化繊維基材(UD材:日本グラファイトファイバー社製)、又は、PAN系炭素繊維からなる強化繊維基材(UD材:サカイオーベックス株式会社製)に含浸し、エポキシ樹脂CFRPプリプレグを作成した。いずれのプリプレグにおいても、加熱成型後のCFRPのVFが60%となるように、樹脂を含浸した。
【0198】
[CFRPの成型]
作製したCFRPプリプレグを任意の厚み及び繊維配向となるように積層し、オートクレーブにて成型した。CFRPの成型条件は、オートクレーブで4気圧をかけながら、130℃で2時間保持して成型した。
【0199】
得られたCFRPを、信越化学社製シリコーングリース(G-777、熱伝導率3.3W/(m・K))を使用して、セルに貼付した。この時、直方体である角形セルにおいて、CFRPが貼付されるセルの側面の全面にCFRPを(すなわち面積率100%で)貼付した。また、貼付したCFRPをバッテリーモジュール下に設置されているアルミフィン及び水冷装置に信越化学社製シリコーングリース(G-777、熱伝導率3.3W/(m・K))を使用して接続した。
【0200】
なお、バッテリーセル間に、以下の表3に示したような条件で熱伝導材及び断熱部材を配置した後に、表3に示したような幅の空隙が存在するようにした。また、ピッチ系炭素繊維を用いたCFRPと、PAN系炭素繊維を用いたCFRPとを組み合わせて用いる際には、ピッチ系炭素繊維を用いたCFRPがバッテリーセル側に位置するようにした。
【0201】
また、以下の表3に示した実施例20~26では、熱伝導材として複数のCFRPを組み合わせて用いる場合や、断熱部材を併用する場合について検証を行っている。これらの実施例において、繊維種及び断熱部材の欄に記載されている数字は、用いた部材の厚みの比率を示している。また、以下の表4に示した実施例及び比較例では、グリースの厚みは1.0mmに固定した上で、検証を行っている。
【0202】
◇冷却性能評価
熱電対を、セル表面の任意の位置にカプトンテープを使用して貼付し、充放電に伴う温度上昇を測定した。充放電条件は、電池の容量を1時間で完全充電(または放電)させる電流の大きさを1Cと定義した際に、3Cの電流になるように設定し、充放電を実施した。
【0203】
上記のような測定条件において、充放電における最高温度と初期温度の差分をとり、貼付前の状態の最高温度と初期温度の差分との割合(単位:%)を求め、100から引いた値を評価値として採用した。その値が1.0以上であれば、温度低減効果があるとして合格(評点A)とし、1.0未満であれば、温度低減効果がないとして不合格(評点B)とした。
【0204】
◇異常発熱セル発生時の温度評価
セルが複数並べて配置されたモジュールにおける、異常発熱したセルが発生した時の影響として、隣のセルの最高温度を計測し、熱伝導板がCFRP単体であるときと比較して何%の温度変化であったかによって評価した。
【0205】
かかる評価では、まず、表4で示される実施例と比較例の組合せについて、評価を行った。上記の8つのセルが連なったモジュールを用い、26℃の環境下で中央2つのセルが500kW/hの一定発熱量で発熱した際に、加熱開始後2000秒のときの隣接するセルの最高温度を計測し、その水準の温度とした。隣接するセル温度は、当然ながら低い方が(すなわち、温度変化の値が小さい方が)好ましく、100%以下を評点「A」とし、100%よりも大きい場合を評点「B」とした。評点「A」を合格とした。得られた結果を表4にまとめて示した。
【0206】
以下の表4に示したように、異常発熱セル発生時の温度評価は、表4に示した範囲の厚みにおいては、CFRPを用いた場合の方が、Al、断熱材、空気を用いた場合よりも優れた結果となることが明らかとなった。かかる知見より、異常発熱セル発生時の温度評価は、表3に示した各実施例については、表4に示した結果に基づき評点「A」と評価し、表3に示した各比較例については、評点「B」と評価した。かかる対応については、図21A図21Cを参照しながら以下で改めて詳述する。
【0207】
その上で、冷却性能、及び、異常発熱セル発生時の温度評価が全て合格であったものを、総合評価結果Aとし、何れかが不合格であったものを総合評価結果Bとした。得られた結果を、表3にまとめて示した。
【0208】
【表3】
【0209】
【表4】
【0210】
セルが複数並べて配置されたモジュールにおいて、異常発熱したセルに隣接するセルの最高温度を計測した代表的な結果を、図21A図21Cに示した。これは、表4で示される実施例と比較例のうち、セルとセルの間隙に対し、CFRP、アルミニウム、断熱材、又は、空気が挿入された、セルの間隔がそれぞれ0.5mm、2.0mm、5.0mmのときの温度測定結果である。図21A図21Cにおいて、横軸が時間を示し、縦軸が温度を示している。
【0211】
図21A図21Cのそれぞれにおいて、時間が経つにつれて各水準とも温度が上昇するが、そのプロファイルは大きく異なる。まず、CFRP、及び、アルミニウムは、それぞれ熱伝導性が高いため、比較的短時間で隣接するセルの温度が上昇する。しかしながら、熱を逃がす方向にも伝導するため、経過時間が長くなったときは、この抜熱の効果が大きくなって、温度上昇は鈍くなる。アルミニウムよりもCFRPの方が温度の上昇を抑制出来ているのは、熱伝導に異方性があることから、隣のセルへの伝熱はアルミよりも小さくなり、冷却装置方向への伝熱は、アルミニウムと同等かそれ以上であったためである。
【0212】
これに対し、断熱材や空気は、熱をほとんど伝えないために、初期の温度上昇は鈍い。しかしながら、時間が経過すると冷却機構への伝熱量や空気中への放熱量が少ないため、異常発熱セルの温度が非常に高くなる。それに伴って隣接するセルの温度も急激に高くなり、最終的には、熱を伝導する材料を貼付した場合と比較すると、より高温になってしまう。
【0213】
このように、本発明に係る積層構成では、断熱材や空気は当然ながら、熱を伝導するアルミニウムやCFRPと比較しても、隣接するセルへの熱伝播を防止しながら抜熱する、効率的な温度制御がなされていることがわかる。そしてこれは、少なくとも図21A図21Cで示されるような厚み範囲において成立しており、本質的に、そのような性質を持っていることが判る。このことから、この表4の構成に関わらず、本発明のCFRP積層構成であれば、アルミニウムのような熱伝導材、及び、断熱材に対し、全て有意に性能が優れることがわかる。
【0214】
上記表3、表4から明らかなように、本発明の実施例に対応するバッテリーセルの冷却構造は、総合評価が合格となる一方で、本発明の比較例に対応するバッテリーセルの冷却構造は、冷却性能、異常発熱セル発生時の温度評価の何れかの評価が不合格であることがわかる。
【0215】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0216】
11、21 蓄電デバイス構造体
110 金属積層CFRP部材
111、230 CFRP部材
113 金属層
120 蓄電デバイス
130、240 接着剤又はグリース
140 放熱機構
150 冷媒
160、260 断熱部材
170 応力緩和部材
180、250 熱伝導シート
210 バッテリーセル
220 熱冷却機構
221 溝部
231 ピッチ系CFRP部材
233 PAN系CFRP部材
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18A
図18B
図19
図20A
図20B
図20C
図21A
図21B
図21C