(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】ドレッサーボード
(51)【国際特許分類】
B24B 53/12 20060101AFI20240205BHJP
B24B 53/02 20120101ALI20240205BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240205BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B24B53/12 Z
B24B53/02
B24B27/06 M
H01L21/78 F
(21)【出願番号】P 2020028977
(22)【出願日】2020-02-25
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】松本 渉
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-188626(JP,A)
【文献】特開2010-214523(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0090066(US,A1)
【文献】特開2018-118358(JP,A)
【文献】特開平10-058306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 53/12
B24B 53/02
B24B 27/06
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削ブレードをドレッシングするためのドレッサーボードであって、
結合材によって固定された砥粒を含み、第1面及び第2面を備えるドレッシング層と、
該ドレッシング層の該第1面側及び該第2面側
の全体を覆うように設けられ、該ドレッシング層からのパーティクルの飛散を防止する飛散防止膜と、を備えることを特徴とするドレッサーボード。
【請求項2】
該飛散防止膜は、非水溶性の樹脂膜であることを特徴とする請求項1記載のドレッサーボード。
【請求項3】
該結合材は、レジンボンドであることを特徴とする請求項1又は2記載のドレッサーボード。
【請求項4】
該ドレッシング層は、側面を備え、
該飛散防止膜は、該ドレッシング層の該側面を覆うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のドレッサーボード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を切削する切削ブレードをドレッシングするためのドレッサーボードに関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)等のデバイスが複数形成されたウェーハを分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。また、複数のデバイスチップを所定の基板上に実装した後、実装されたデバイスチップを樹脂でなる封止材(モールド樹脂)で被覆することにより、パッケージ基板が得られる。このパッケージ基板を分割することにより、パッケージ化された複数のデバイスチップを備えるパッケージデバイスが製造される。デバイスチップやパッケージデバイスは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に搭載される。
【0003】
上記のウェーハ、パッケージ基板等の被加工物を分割する際には、被加工物を保持する保持テーブルと、被加工物を切削する環状の切削ブレードが装着されるスピンドル(回転軸)とを備える切削装置が用いられる。切削ブレードをスピンドルに装着して回転させ、保持テーブルによって保持された被加工物に切り込ませることにより、被加工物が切削され、分割される。
【0004】
切削ブレードによって被加工物を加工する際には、切削ブレードの形状の修正や切削ブレードの切れ味の確保等を目的として、切削ブレードの先端部を意図的に摩耗させるドレッシングが実施される。例えばドレッシングは、切削ブレードをドレッシングするための部材(ドレッサーボード)を切削装置の保持テーブルによって保持し、切削ブレードをドレッサーボードに切り込ませることによって行われる(特許文献1参照)。
【0005】
切削ブレードは、砥粒と、砥粒を固定する結合材とを含んで構成される。ドレッシングを実施すると、結合材がドレッサーボードと接触して摩耗し、切削ブレードの形状がスピンドルと同心状に整えられるとともに(真円出し)、砥粒が結合材から適度に露出する(目立て)。このようにドレッシングが施された切削ブレードを用いることにより、被加工物の加工の精度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ドレッサーボードは、パーティクル(微粒子、塵等)を発生させやすい性質をもつ。具体的には、ドレッサーボードは、切削ブレードと接触して切削ブレードを摩耗させる砥粒と、砥粒を固定する結合材とを含んで構成される。そして、砥粒や結合材の一部がドレッサーボードから分離して、パーティクルとなることがある。
【0008】
例えば、ドレッサーボードの出荷の際等に、ドレッサーボードに衝撃が加わったり、ドレッサーボード同士が衝突したりすると、ドレッサーボードの表面で砥粒の脱落が生じたり、砥粒の脱落によってドレッサーボードの表面に生じた凹凸を起点として結合材の一部が剥がれたりする。この場合、ドレッサーボードから分離された砥粒や結合材の一部がパーティクルとなり、ドレッサーボードの表面に付着する。
【0009】
ドレッサーボードの表面にパーティクルが存在すると、切削ブレードのドレッシングを実施するためにドレッサーボードを切削装置に搬送する際に、パーティクルが飛散する。これにより、切削装置の内部や、切削装置が設置されているクリーンルームが汚染されるという問題がある。
【0010】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、パーティクルの飛散を防止することが可能なドレッサーボードの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、切削ブレードをドレッシングするためのドレッサーボードであって、結合材によって固定された砥粒を含み、第1面及び第2面を備えるドレッシング層と、該ドレッシング層の該第1面側及び該第2面側の全体を覆うように設けられ、該ドレッシング層からのパーティクルの飛散を防止する飛散防止膜と、を備えるドレッサーボードが提供される。
【0012】
なお、好ましくは、該飛散防止膜は、非水溶性の樹脂膜である。また、好ましくは、該結合材は、レジンボンドである。さらに、好ましくは、該ドレッシング層は、側面を備え、該飛散防止膜は、該ドレッシング層の該側面を覆う。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係るドレッサーボードは、ドレッシング層の第1面側及び第2面側にそれぞれ設けられた飛散防止膜を備える。これにより、ドレッシング層からのパーティクルの飛散が防止され、切削装置、クリーンルーム等の汚染が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(A)はドレッサーボードを示す斜視図であり、
図1(B)はドレッサーボードを示す断面図である。
【
図2】フレームによって支持されたドレッサーボードを示す斜視図である。
【
図4】切削ブレードによって切削されるドレッサーボードを示す断面図である。
【
図5】ドレッシング層の表面、裏面、側面を覆う飛散防止膜を備えるドレッサーボードを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。まず、本実施形態に係るドレッサーボードの構成例について説明する。本実施形態に係るドレッサーボードは、被加工物を切削する切削ブレードのドレッシングに用いられる。切削ブレードは、被加工物に切り込んで被加工物を切削する加工工具であり、砥粒を結合材(ボンド材)で固定することによって形成される。
【0016】
切削ブレードによって切削される被加工物の例としては、例えば、格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)によって区画された複数の領域にそれぞれIC、LSI等のデバイスを備えるシリコンウェーハが挙げられる。このシリコンウェーハを切削ブレードで切削して、分割予定ラインに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが製造される。
【0017】
ただし、切削ブレードによって加工される被加工物の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。例えば、被加工物は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなる、任意の形状及び大きさのウェーハであってもよい。また、被加工物に形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物にはデバイスが形成されていなくてもよい。さらに、被加工物は、CSP(Chip Size Package)基板、QFN(Quad Flat Non-leaded package)基板等のパッケージ基板であってもよい。
【0018】
切削ブレードで被加工物を加工する際には、まず、切削ブレードのドレッシングが実施される。ドレッシングは、スピンドルに装着された切削ブレードを回転させ、切削ブレードの先端部をドレッサーボードに切り込ませることによって行われる。これにより、切削ブレードの先端部において結合材がドレッサーボードと接触して摩耗し、切削ブレードの形状がスピンドルと同心状に整えられるとともに(真円出し)、砥粒が結合材から適度に露出する(目立て)。
【0019】
図1(A)はドレッサーボード11を示す斜視図であり、
図1(B)はドレッサーボード11を示す断面図である。ドレッサーボード11は、切削ブレードをドレッシングするための板状の部材であり、ドレッシング層13を備える。
【0020】
ドレッシング層13は、例えば平面視で矩形状に形成された板状の部材であり、互いに概ね平行な表面(第1面)13a及び裏面(第2面)13bと、表面13a及び裏面13bに接続された側面(外周面)13cとを備える。ドレッシング層13は、砥粒と、砥粒を固定する結合材(ボンド材)とを含んでいる。例えばドレッシング層13は、グリーンカーボランダム(GC)、ホワイトアランダム(WA)等でなる砥粒を、レジンボンド、ビトリファイドボンド等の結合材で固定することによって形成される。
【0021】
ただし、ドレッシング層13に含まれる砥粒及び結合材の材質に制限はなく、ドレッシングの対象となる切削ブレードの材質、厚さ、径等に応じて適宜選択される。また、ドレッシング層13に含まれる砥粒の含有量、粒径等にも制限はない。例えば砥粒は、重量比で55%以上65%以下の比率でドレッシング層13に含有される。また、砥粒の平均粒径は、例えば0.1μm以上50μm以下である。
【0022】
ドレッシング層13の形成方法にも制限はない。例えば、砥粒をフェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂に含浸させた後、この樹脂を板状に成形し、所定の温度(例えば150℃以上約200℃以下)で焼成することによって、ドレッシング層13が形成される。
【0023】
ここで、ドレッシング層13は、パーティクル(微粒子、塵等)を発生させやすい性質をもつ。具体的には、ドレッシング層13に含まれる砥粒や結合材の一部がドレッシング層13から分離して、パーティクルとなることがある。
【0024】
例えば、ドレッサーボード11の出荷の際等に、ドレッサーボード11に衝撃が加わったり、ドレッサーボード11同士が衝突したりすると、ドレッシング層13の表面13a側又は裏面13b側で砥粒の脱落が生じたり、砥粒の脱落によってドレッシング層13の表面13a又は裏面13bに生じた凹凸を起点として結合材の一部が剥がれたりする。この場合、ドレッシング層13から分離された砥粒や結合材の一部がパーティクルとなり、ドレッシング層13の表面13a側又は裏面13b側に付着する。
【0025】
ドレッシング層13の表面13a側又は裏面13b側にパーティクルが存在すると、切削ブレードのドレッシングを実施するためにドレッサーボード11を切削装置に搬送する際に、パーティクルが飛散する。これにより、切削装置の内部や、切削装置が設置されているクリーンルームが汚染されてしまう。
【0026】
そこで、本実施形態に係るドレッサーボード11では、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側にそれぞれ、パーティクルの飛散を防止する飛散防止膜15が設けられる。これにより、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側からのパーティクルの飛散が防止され、切削装置やクリーンルームの汚染が抑制される。
【0027】
図1(A)及び
図1(B)に示すように、ドレッサーボード11は、ドレッシング層13の表面13a側に設けられた飛散防止膜15(飛散防止膜15A)と、ドレッシング層13の裏面13b側に設けられた飛散防止膜15(飛散防止膜15B)とを備える。飛散防止膜15Aはドレッシング層13の表面13aの全体を覆うように形成され、飛散防止膜15Bはドレッシング層13の裏面13bの全体を覆うように形成される。
【0028】
例えば、飛散防止膜15Aと飛散防止膜15Bとはそれぞれ、ドレッシング層13の表面13aと裏面13bとの形状に対応して、平面視で矩形状に形成される。ただし、飛散防止膜15A,15Bの形状に制限はなく、ドレッシング層13の形状に応じて適宜設定される。
【0029】
飛散防止膜15の材質は、パーティクルのドレッシング層13からの飛散を飛散防止膜15によって防止可能であり、且つ、ドレッシングの対象となる切削ブレードによって飛散防止膜15を切削可能であれば、制限はない。例えば飛散防止膜15として、有機膜(樹脂膜等)又は無機膜(酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、金属膜、ガラス膜等)が用いられる。
【0030】
図1(A)及び
図1(B)に示すように、ドレッシング層13に飛散防止膜15A,15Bが設けられると、ドレッシング層13の表面13a側又は裏面13b側でパーティクルが発生しても、パーティクルはドレッシング層13と飛散防止膜15A,15Bとによって挟まれて閉じ込められる。これにより、ドレッサーボード11の周囲にパーティクルが飛散することを防止できる。例えば、ドレッシング層13に含まれる砥粒や結合材の一部がドレッシング層13から分離されて粉末状のパーティクルが生成されても、このパーティクルの飛散が飛散防止膜15A,15Bによって防止される。
【0031】
また、飛散防止膜15は、砥粒を含有しない膜によって構成される。そのため、飛散防止膜15では、砥粒の脱落や、砥粒の脱落によって生じた凹凸を起点とする膜剥がれに起因して、パーティクルが生成されることはない。従って、飛散防止膜15からパーティクルが飛散することによる切削装置やクリーンルームの汚染が問題になることはない。
【0032】
なお、後述の通り、ドレッサーボード11を用いて切削ブレードのドレッシングを実施する際には、ドレッサーボード11に純水等の切削液が供給される。そのため、飛散防止膜15は、非水溶性であることが好ましい。例えば飛散防止膜15として、ポリスチレン、ポリエチレン、アクリル、フェノール、エポキシ等の樹脂でなる非水溶性の樹脂膜が用いられる。
【0033】
飛散防止膜15が非水溶性の樹脂膜である場合、切削ブレードのドレッシングを実施しても、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側に飛散防止膜15が残存する。そのため、切削ブレードのドレッシングの実施後にドレッサーボード11を再度搬送する際にも、パーティクルの飛散が防止される。
【0034】
飛散防止膜15の成膜方法は、飛散防止膜15の材質に応じて適宜選択できる。例えば飛散防止膜15として、蒸着、スパッタリング、CVD(Chemical Vapor Deposition)等のドライプロセスや、塗布、スピンコート、スプレーコート、浸漬等のウェットプロセスを用いて形成可能な膜が、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側に形成される。なお、飛散防止膜15は、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側に直接形成されてもよいし、ドレッシング層13とは別途独立して形成された後にドレッシング層13に貼付されてもよい。
【0035】
上記のドレッサーボード11を用いて、切削ブレードのドレッシングが行われる。切削ブレードのドレッシングを行う際は、まず、ドレッサーボード11を環状のフレームによって支持する。
図2は、フレーム19によって支持されたドレッサーボード11を示す斜視図である。
【0036】
ドレッサーボード11の裏面側(飛散防止膜15B側)には、円形のテープ17が貼付される。テープ17は、ドレッサーボード11の裏面側の全体を覆うことが可能な径を有し、このテープ17の中央部にドレッサーボード11が貼付される。
【0037】
なお、テープ17の構造及び材質に制限はない。例えばテープ17は、円形の基材と、基材上に設けられた粘着層(糊層)とを備えるシート状の部材である。基材は、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂でなり、粘着層は、エポキシ系、アクリル系、又はゴム系の接着剤等でなる。また、粘着層は、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型の樹脂であってもよい。
【0038】
テープ17の外周部は、金属等でなり中央部に円形の開口19aを備える環状のフレーム19に貼付される。開口19aの直径は、ドレッサーボード11の外接円の直径よりも大きく、ドレッサーボード11は開口19aの内側に配置される。ドレッサーボード11及びフレーム19にテープ17が貼付されると、ドレッサーボード11がテープ17を介してフレーム19によって支持される。
【0039】
フレーム19によって支持されたドレッサーボード11に切削ブレードを切り込ませることにより、切削ブレードのドレッシングが行われる。切削ブレードのドレッシングには、切削装置が用いられる。
図3は、切削装置2を示す斜視図である。
【0040】
切削装置2は、被加工物又はドレッサーボード11を保持する保持テーブル(チャックテーブル)4を備える。保持テーブル4の上面は、X軸方向(加工送り方向、第1水平方向)及びY軸方向(割り出し送り方向、第2水平方向)と概ね平行に形成され、被加工物又はドレッサーボード11を保持する保持面4a(
図4参照)を構成している。保持面4aは、保持テーブル4の内部に形成された吸引路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0041】
保持テーブル4の周囲には、ドレッサーボード11を支持するフレーム19を把持して固定する複数のクランプ(不図示)が設けられている。また、保持テーブル4には、保持テーブル4をX軸方向に沿って移動させるボールねじ式の移動機構(不図示)と、保持テーブル4をZ軸方向(鉛直方向、上下方向)に概ね平行な回転軸の周りで回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)とが接続されている。
【0042】
保持テーブル4の上方には、被加工物又はドレッサーボード11を切削する切削ユニット6が配置されている。切削ユニット6は円筒状のハウジング8を備え、このハウジング8内には、円筒状のスピンドル(不図示)がY軸方向と概ね平行に配置された状態で収容されている。
【0043】
スピンドルの先端部(一端部)はハウジング8の外部に露出しており、この先端部には環状の切削ブレード10が装着される。また、スピンドルの基端部(他端部)には、モータ等の回転駆動源が接続されている。スピンドルの先端部に装着された切削ブレード10は、回転駆動源からスピンドルを介して伝達される動力によって回転する。
【0044】
切削ブレード10としては、例えば、金属等でなる環状の基台と、基台の外周縁に沿って形成された環状の切刃とが一体となって構成された、ハブタイプの切削ブレードが用いられる。ハブタイプの切削ブレードの切刃は、ダイヤモンド等でなる砥粒がニッケルめっき層等の結合材によって固定された電鋳砥石によって構成される。また、切削ブレード10として、砥粒が金属、セラミックス、樹脂等でなる結合材によって固定された環状の切刃によって構成される、ワッシャータイプの切削ブレードを用いることもできる。
【0045】
スピンドルの先端部に切削ブレード10が装着されると、切削ブレード10はハウジング8に固定されたブレードカバー12に覆われる。ブレードカバー12は、純水等の切削液が供給されるチューブ(不図示)に接続される接続部14と、接続部14に接続され切削ブレード10の両側面側(表裏面側)にそれぞれ配置される一対のノズル16とを備える。一対のノズル16にはそれぞれ、切削ブレード10に向かって開口する噴射口(不図示)が形成されている。
【0046】
接続部14に切削液が供給されると、一対のノズル16の噴射口から切削ブレード10の両側面(表裏面)に向かって切削液が噴射される。この切削液によって、切削ブレード10と、保持テーブル4によって保持された被加工物又はドレッサーボード11とが冷却されるとともに、切削加工によって生じた屑(切削屑)が洗い流される。
【0047】
切削ユニット6には、切削ユニット6を移動させるボールねじ式の移動機構(不図示)が接続されている。この移動機構は、切削ユニット6をY軸方向に沿って移動させるとともに、Z軸方向に沿って昇降させる。この移動機構により、切削ブレード10のY軸方向及びZ軸方向における位置が制御される。
【0048】
切削装置2を用いて切削ブレード10のドレッシングを行う際は、まず、切削装置2の保持テーブル4によってドレッサーボード11を保持する。例えば、ドレッサーボード11の表面側(飛散防止膜15A側)が上方に露出し、ドレッサーボード11の裏面側(飛散防止膜15B側、テープ17側)が保持テーブル4の保持面4a(
図4参照)に対向するように、ドレッサーボード11を保持テーブル4上に配置する。また、ドレッサーボード11を支持するフレーム19を、保持テーブル4の周囲に設けられた複数のクランプ(不図示)によって固定する。
【0049】
この状態で、保持テーブル4の保持面4aに吸引源の負圧を作用させると、ドレッサーボード11の裏面側がテープ17を介して保持テーブル4によって吸引される。これにより、ドレッサーボード11が保持テーブル4によって保持される。
【0050】
次に、切削ブレード10をドレッサーボード11に切り込ませ、切削ブレード10でドレッサーボード11を切削する。切削ブレード10をドレッサーボード11に切り込ませることにより、切削ブレード10の先端部(切り刃)が摩耗し、切削ブレード10のドレッシングが行われる。
【0051】
まず、保持テーブル4を回転させて、ドレッサーボード11の一辺の長さ方向をX軸方向に合わせる。また、切削ブレード10がドレッサーボード11の側方に配置されるように、保持テーブル4及び切削ユニット6の位置を調整する。
【0052】
さらに、切削ブレード10の先端部がドレッサーボード11のドレッシング層13に切り込むように、切削ユニット6のZ軸方向における位置を調整する。具体的には、切削ブレード10の下端が、ドレッシング層13の表面13aより下方で、且つ、ドレッシング層13の裏面13bよりも上方に配置されるように、切削ユニット6の高さを調整する。
【0053】
そして、切削ブレード10を回転させながら、保持テーブル4をX軸方向に沿って移動させ、ドレッサーボード11と切削ブレード10とを相対的に移動させる(加工送り)。これにより、切削ブレード10は、ドレッシング層13に至る切り込み深さでドレッサーボード11に切り込み、ドレッサーボード11を切削する。その結果、ドレッサーボード11の飛散防止膜15A側には、線状の切削溝11aが形成される。
【0054】
例えば、切削ブレード10を矢印Aで示す方向に回転させながら、保持テーブル4を矢印Bで示す方向に移動させる。この場合、切削ブレード10の下端の移動方向と保持テーブル4の移動方向とが一致するように、保持テーブル4と切削ブレード10とが相対的に移動する。そして、切削ブレード10がドレッサーボード11の表面側(飛散防止膜15A側)から裏面側(飛散防止膜15B側)に向かって切り込む、所謂ダウンカットが行われる。
【0055】
図4は、切削ブレード10によって切削されるドレッサーボード11を示す断面図である。切削ブレード10は、ドレッシング層13に達する切り込み深さで、ドレッシング層13の表面13a側に切り込む。これにより、ドレッシング層13に含まれる砥粒が切削ブレード10の先端部(切り刃)に接触し、切削ブレード10の先端部が摩耗する。
【0056】
切削ブレード10がドレッシング層13に切り込む際、ドレッシング層13の表面13a側に設けられた飛散防止膜15(飛散防止膜15A)も、ドレッシング層13とともに切削ブレード10によって切削される。ただし、飛散防止膜15は砥粒を含有しておらず、切削ブレード10の摩耗を生じさせにくい。そのため、切削ブレード10が飛散防止膜15を切削しても、切削ブレード10に意図しない過度な摩耗や変形が生じることはない。
【0057】
なお、飛散防止膜15は、ドレッシング層13による切削ブレード10のドレッシングが阻害されないように、薄く形成されることが好ましい。例えば飛散防止膜15の厚さは、100μm以下に設定される。
【0058】
ただし、飛散防止膜15の厚さは、ドレッシング層13の表面13a及び裏面13bで結合材から突出する砥粒の表面が、飛散防止膜15によって適切に覆われる程度に確保されることが好ましい。例えば、飛散防止膜15の厚さは、砥粒の結合材からの突出量の60%以上に設定される。
【0059】
その後、切削ユニット6をY軸方向に移動させ(割り出し送り)、切削ブレード10をドレッサーボード11の切削溝11aが形成されていない領域に更に切り込ませる。そして、切削ブレード10が所望の形状となり、且つ、切削ブレード10の先端部で砥粒が結合材から適度に突出するまで、同様の手順を繰り返す。これにより、切削ブレード10のドレッシングが完了する。その後、ドレッサーボード11は保持テーブル4上から所定の保管場所に搬送される。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係るドレッサーボード11は、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側に設けられた飛散防止膜15を備える。これにより、ドレッシング層13からのパーティクルの飛散が防止され、切削装置、クリーンルーム等の汚染が抑制される。
【0061】
なお、上記の実施形態では、ドレッシング層13の表面13a側及び裏面13b側に飛散防止膜15が設けられ、ドレッシング層13の側面13cが露出した状態のドレッサーボード11(
図1(A)及び
図1(B)参照)について説明した。ただし、飛散防止膜15は、ドレッシング層13の表面13a及び裏面13bに加え、更にドレッシング層13の側面13cを覆うように設けられていてもよい。
【0062】
図5は、ドレッシング層13の表面13a、裏面13b、側面13cを覆う飛散防止膜15を備えるドレッサーボード11を示す断面図である。飛散防止膜15でドレッシング層13の側面13c(4面)の全体を覆うことにより、ドレッシング層13の側面13cからのパーティクルの飛散も防止することができる。これにより、パーティクルの飛散による切削装置2やクリーンルームの汚染が更に効果的に抑制される。
【0063】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0064】
11 ドレッサーボード
11a 切削溝
13 ドレッシング層
13a 表面(第1面)
13b 裏面(第2面)
13c 側面(外周面)
15,15A,15B 飛散防止膜
17 テープ
19 フレーム
19a 開口
2 切削装置
4 保持テーブル(チャックテーブル)
4a 保持面
6 切削ユニット
8 ハウジング
10 切削ブレード
12 ブレードカバー
14 接続部
16 ノズル