IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

特許7430492水溶性金属加工油組成物、水溶性金属加工油組成物の製造方法、金属加工液及び金属加工方法
<>
  • 特許-水溶性金属加工油組成物、水溶性金属加工油組成物の製造方法、金属加工液及び金属加工方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】水溶性金属加工油組成物、水溶性金属加工油組成物の製造方法、金属加工液及び金属加工方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 173/00 20060101AFI20240205BHJP
   C10M 129/64 20060101ALN20240205BHJP
   C10M 135/20 20060101ALN20240205BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20240205BHJP
   C10M 129/40 20060101ALN20240205BHJP
   C10N 40/22 20060101ALN20240205BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240205BHJP
【FI】
C10M173/00
C10M129/64
C10M135/20
C10M133/04
C10M129/40
C10N40:22
C10N30:00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019058631
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158611
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷野 順英
(72)【発明者】
【氏名】岡野 知晃
(72)【発明者】
【氏名】杉井 秀夫
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-178500(JP,A)
【文献】特開昭63-063792(JP,A)
【文献】特開平04-050299(JP,A)
【文献】特開平04-088097(JP,A)
【文献】特開平04-202400(JP,A)
【文献】特開2016-145293(JP,A)
【文献】特開2016-153461(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141989(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/125761(WO,A1)
【文献】特開2006-335823(JP,A)
【文献】特開昭62-013495(JP,A)
【文献】松枝宏尚ほか,極圧剤としてのポリスルフィド化合物の性能と応用,トライボロジスト,2019年,第64巻第3号,第158-164頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)重合脂肪酸を含有する油性剤と、(B)硫黄系極圧剤と、水と、油溶性アミン化合物と、炭素数8~18のカルボン酸とを含み、前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)が、質量基準で、前記(A)油性剤の含有量(a)よりも多く、
目詰まり抑制剤として作用する炭素数8~18のカルボン酸の含有量(c2)に対する前記油溶性アミン化合物の含有量(c1)の割合(c1/c2)が、質量基準で、0.5~6.0である水溶性金属加工油組成物。
【請求項2】
前記含有量(b)に対する前記含有量(a)の割合(a/b)が、質量基準で、0.1~0.8である請求項1に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項3】
前記(A)重合脂肪酸を含有する油性剤の含有量(a)が、5~20質量%である請求項1又は2に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項4】
前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)が、10~50質量%である請求項1~3のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項5】
更に防錆剤を含有し、前記防錆剤の含有量が5~15質量%である請求項1~4のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項6】
更に乳化剤を含有し、前記乳化剤の含有量が5~15質量%である請求項1~5のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項7】
前記重合脂肪酸が、少なくとも1種の炭素数10~24のカルボン酸を脱水縮合させたカルボン酸脱水縮合物を含む請求項1~6のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項8】
前記硫黄系極圧剤が、-S-で表されるスルフィド結合(xは2~10)を有するポリスルフィド化合物である請求項1~7のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項9】
フェライト系ステンレス鋼の加工に用いる請求項1~8のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物。
【請求項10】
(A)重合脂肪酸を含有する油性剤と、(B)硫黄系極圧剤と、水と、油溶性アミン化合物と、炭素数8~18のカルボン酸とを、
前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)を、質量基準で、前記(A)油性剤の含有量(a)よりも多く
目詰まり抑制剤として作用する炭素数8~18のカルボン酸の配合量(c2)に対する前記油溶性アミン化合物の配合量(c1)の割合(c1/c2)を、質量基準で、0.5~6.0として配合する水溶性金属加工油組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物を水で希釈した金属加工液。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の水溶性金属加工油組成物、又は請求項11に記載の金属加工液を用いて金属を加工する金属加工方法。
【請求項13】
研削ベルトにより金属を研削加工する請求項12に記載の金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属を切削及び/又は研削する金属加工に用いられる水溶性金属加工油組成物、水溶性金属加工油組成物の製造方法、金属加工液及び金属加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、水溶性金属加工油組成物に関し、例えばステンレス鋼等の難加工材の切削及び/又は研削加工に使用される水溶性金属加工油組成物に関する。
【0003】
切削加工、研削加工等の金属加工分野では、加工効率の向上、被加工材と被加工材を加工する工具との摩擦抑制、工具の寿命延長効果、切り屑の除去等を目的として金属加工油が使用される。金属加工油には、鉱物油、動植物油、合成油等の油分を主成分したものと、油分に界面活性を持つ化合物を配合して水溶性を付与したものとがある。近年では、安全性等の理由、例えば加工時の発熱等に起因する火災の抑制に鑑みて、水溶性を付与した水溶性金属加工油が多く用いられるようになってきている。
【0004】
水溶性金属加工油としては、例えば、ステンレス鋼等の難加工材の金属加工への使用に適し、かつ不水溶性金属加工油と同等の加工性能を得ることを目的として、基材(A)を3.5~20質量%、少なくとも1種の炭素数10~24のカルボン酸を脱水縮合させたカルボン酸脱水縮合物(B1)、又は該カルボン酸脱水縮合物(B1)とカルボン酸(B’)との混合物(B2)を34~76質量%、及びアミン(C)を9~39質量%部含む、水溶性金属加工油組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、切削又は研削性能、研削ベルト等の工具の寿命、低臭気性、及び水分離性のいずれも良好にすることを目的として、組成物全量基準で、(A)潤滑油基油60~97質量%、(B)単体硫黄0.1~0.7質量%、(C)硫化油脂0.05~20質量%、及び(D)ポリサルファイド化合物0.1~7質量%を含む切削・研削加工油組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/141989号
【文献】国際公開第2016/158534号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の加工液では、有効成分が油性剤(重合脂肪酸)のみのため、オーステナイト系ステンレス鋼に対しては十分な研削量が得られるものの、フェライト系ステンレス鋼に対しては、十分な研削量が得られるかどうか示されていなかった。また、特許文献2に開示の加工液は油系であり、同様に、フェライト系ステンレス鋼に対して、十分な研削量得られるかどうか示されていなかった。
【0007】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、ステンレス鋼に対する研削性に優れる水溶性金属加工油組成物、該水溶性金属加工油組成物の製造方法、該水溶性金属加工油組成物を水で希釈した金属加工液、及びにこれらを用いた金属加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、水溶性潤滑油組成物が、(B)硫黄系極圧剤を、(A)重合脂肪酸を含有する油性剤と同じか、より多く含むことで、上記課題を解決できることを見出し、以下の発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<13>を提供する。
<1> (A)重合脂肪酸を含有する油性剤と、(B)硫黄系極圧剤と、水とを含み、前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)が、質量基準で、前記(A)油性剤の含有量(a)以上である水溶性金属加工油組成物。
【0009】
<2> 前記含有量(b)に対する前記含有量(a)の割合(a/b)が、質量基準で、0.1~0.8である<1>に記載の水溶性金属加工油組成物。
<3> 前記(A)重合脂肪酸を含有する油性剤の含有量(a)が、5~20質量%である<1>又は<2>に記載の水溶性金属加工油組成物。
<4> 前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)が、10~50質量%である<1>~<3>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物。
【0010】
<5> 更に防錆剤を含有し、前記防錆剤の含有量が5~15質量%である<1>~<4>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物。
<6> 更に乳化剤を含有し、前記乳化剤の含有量が5~15質量%である<1>~<5>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物。
【0011】
<7> 前記重合脂肪酸が、少なくとも1種の炭素数10~24のカルボン酸を脱水縮合させたカルボン酸脱水縮合物を含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物。
<8> 前記硫黄系極圧剤が、-S-で表されるスルフィド結合(xは2~10)を有するポリスルフィド化合物である<1>~<7>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物。
【0012】
<9> フェライト系ステンレス鋼の加工に用いる<1>~<8>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物。
【0013】
<10> (A)重合脂肪酸を含有する油性剤と、(B)硫黄系極圧剤と、水とを、前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)を、質量基準で、前記(A)油性剤の含有量(a)以上として配合する水溶性金属加工油組成物の製造方法。
【0014】
<11> <1>~<9>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物を水で希釈した金属加工液。
【0015】
<12> <1>~<9>のいずれか1つに記載の水溶性金属加工油組成物、又は<11>に記載の金属加工液を用いて金属を加工する金属加工方法。
<13> 研削ベルトにより金属を研削加工する<12>に記載の金属加工方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ステンレス鋼に対する研削性に優れる水溶性金属加工油組成物、該水溶性金属加工油組成物の製造方法、該水溶性金属加工油組成物を水で希釈した金属加工液、及びにこれらを用いた金属加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例及び比較例で用いた研削試験用装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も本発明に範囲に含まれる。また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0019】
<水溶性金属加工油組成物(原液)>
本発明の実施形態に係る水溶性金属加工油組成物は、(A)重合脂肪酸を含有する油性剤と、(B)硫黄系極圧剤と、水とを含み、前記(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)が、質量基準で、前記(A)油性剤の含有量(a)以上である。すなわち、a≦bである。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、更に、防錆剤、乳化剤等の他の成分を含んでいてもよい。
以下、水溶性金属加工油組成物を「原液」と称することがある。(A)重合脂肪酸を含有する油性剤を「(A)成分」と称することがある。更に、(B)硫黄系極圧剤を「(B)成分」と称することがある。
【0020】
〔(A)重合脂肪酸を含有する油性剤〕
本実施形態において、水溶性金属加工油組成物は、(A)重合脂肪酸を含有する油性剤を含む。
重合脂肪酸は、脂肪酸の重合体であれば特に制限されないが、ステンレス鋼の研削性及び乳化性を向上する観点から、少なくとも1種の炭素数10~24のカルボン酸を脱水縮合させたカルボン酸脱水縮合物を含むことが好ましく、また、更に、該カルボン酸脱水縮合物とカルボン酸との混合物を含んでいてもよい。
【0021】
(カルボン酸脱水縮合物)
本実施形態の重合脂肪酸は、少なくとも1種の炭素数10~24のカルボン酸を脱水縮合させたカルボン酸脱水縮合物を含むことが好ましい。
カルボン酸脱水縮合物の具体的な態様としては、例えば、炭素数10~24のカルボン酸(a1)の脱水縮合物、及び炭素数10~24のカルボン酸(a1)と該(a1)と異なるカルボン酸(a2)との脱水縮合物から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸脱水縮合物を挙げることができる。
炭素数10~24のカルボン酸(a1)としては、天然由来のカルボン酸を使用することができる。このような天然由来の炭素数10~24のカルボン酸として、例えば、アルコール性水酸基とカルボキシル基と二重結合とを1つずつ有する不飽和カルボン酸が挙げられ、中でも、リシノール酸(12-ヒドロキシオクタデカ-9-エノン酸)が好ましい。また、天然のひまし油に含まれ得るカルボン酸も使用することができる。
【0022】
(a1)と異なるカルボン酸(a2)は、1価以上の飽和脂肪族カルボン酸でも不飽和脂肪族カルボン酸でもよい。炭素数の小さいカルボン酸が未反応物として残留した場合、不快臭、金属腐食等の発生を抑制する観点から、炭素数4以上の脂肪族カルボン酸を用いることが好ましい。脂肪族カルボン酸の炭素数の上限は特に限定されないが、通常30である。
飽和脂肪族カルボン酸としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びリグノセリン酸等が挙げられる。不飽和脂肪族カルボン酸としては、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、及びドコサヘキサエン酸等が挙げられる。
なお、カルボン酸(a1)と異なるカルボン酸(a2)は、カルボン酸(a1)として選択したカルボン酸と異なればよく、その炭素数はカルボン酸(a1)と重複していても重複していなくてもよい。中でも、カルボン酸(a2)は、炭素数10~24の脂肪族カルボン酸が好ましく、炭素数12~20の脂肪族カルボン酸がより好ましい。
【0023】
炭素数10~24のカルボン酸(a1)の脱水縮合物は、リシノール酸等の不飽和カルボン酸を脱水縮合することにより得ることができる。例えば、不活性雰囲気下200℃程度に加熱することにより脱水縮合が始まり、脱水縮合物を得ることができる。
また、炭素数10~24のカルボン酸(a1)と該(a1)と異なるカルボン酸(a2)との脱水縮合物は、上記カルボン酸(a1)にさらにカルボン酸(a2)を加えて脱水縮合を行うことにより得ることができる。
【0024】
脱水縮合物の重合度は、上記脱水縮合の反応時間によって調整される。反応時間が長くなれば、重合度の高い縮合物が得られる。
なお、得られたカルボン酸脱水縮合物が有する遊離水酸基は、任意のカルボン酸でキャッピングされていてもよい。キャッピングに用いられるカルボン酸は特に限定されない。
【0025】
(カルボン酸脱水縮合物とカルボン酸との混合物)
本実施形態における水溶性金属加工油組成物は、カルボン酸由来の成分として、上記カルボン酸脱水縮合物(B1)とカルボン酸(B’)との混合物(B2)を含む態様も取り得る。カルボン酸(B’)は不飽和カルボン酸、飽和カルボン酸のいずれであってもよく、直鎖状構造、分岐構造又は環状構造を有していてもよい。例えば、総炭素数4~30のモノカルボン酸及びジカルボン酸であることが好ましく、トール油脂肪酸等を挙げることができる。なお、混合物(B2)におけるカルボン酸脱水縮合物(B1)とカルボン酸(B’)の混合比は、本願の効果が得られるよう任意に決定することができる。
【0026】
以上の中でも、重合脂肪酸は、炭素数10~24のカルボン酸(a1)を主成分とするカルボン酸の脱水縮合物であることが好ましい。なお、重合脂肪酸において、主成分とは、重合脂肪酸を構成するモノマーとしての全カルボン酸中の含有量が70質量%を超えることをいう。
炭素数10~24のカルボン酸(a1)を主成分とするカルボン酸の脱水縮合物には、炭素数10~24のカルボン酸(a1)の脱水縮合物;及び、炭素数10~24のカルボン酸(a1)を70質量%超と、該(a1)と異なるカルボン酸(a2)との脱水縮合物から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸脱水縮合物とが挙げられる。天然素材の脂肪酸は異種脂肪酸の混合物であることが多く、例えば、ひまし油脂肪酸(単に、ひまし油ともいう)は、通常、リシノール酸を87質量%程度、オレイン酸を7質量%程度、及びリノール酸を3質量%程度含む不飽和脂肪酸と、パルミチン酸及びステアリン酸等の飽和脂肪酸(3質量%程度)とのグリセリドである。
従って、ひまし油脂肪酸の脱水縮合物(ひまし油重合脂肪酸ともいう)は、炭素数18のリシノール酸を主成分とする脂肪酸混合物の脱水縮合物である。
【0027】
本実施形態において、重合脂肪酸は、炭素数12~22の不飽和脂肪酸を主成分とするカルボン酸の脱水縮合物であることがより好ましく、炭素数14~20の不飽和脂肪酸を主成分とするカルボン酸の脱水縮合物であることが更に好ましい。より更に好ましくは、リシノール酸を主成分とするカルボン酸の脱水縮合物であり、また、ひまし油重合脂肪酸も好適な態様の1つである。
重合脂肪酸の重合度は、特に制限されないが、2~10であることが好ましく、3~8であることがより好ましく、4~6であることが更に好ましい。
また、天然由来の脂肪酸を用いた重合脂肪酸、例えば、ひまし油重合脂肪酸においては、ひまし油から分離したリシノール酸、オレイン酸等の混合脂肪酸を単量体として、2~10量体であることが好ましく、3~8量体であることがより好ましく、4~6量体であることが更に好ましい。
【0028】
(A)重合脂肪酸を含有する油性剤は、重合脂肪酸以外の油性化合物を含んでいてもよいが、ステンレス鋼の研削性及び乳化性を向上する観点から、(A)成分は重合脂肪酸を70質量%以上含有することが好ましく、85質量%以上含有することがより好ましく、95質量%以上含有することが更に好ましく、100質量%含有することが特に好ましい。
【0029】
本実施形態における水溶性金属加工油組成物中の(A)重合脂肪酸を含有する油性剤の含有量(a)は、ステンレス鋼の研削性及び乳化性を向上する観点から、5~20質量%であることが好ましく、7~17質量%であることがより好ましく、10~15質量%であることが更に好ましい。
【0030】
〔(B)硫黄系極圧剤〕
本実施形態における水溶性金属加工油組成物は、(B)硫黄系極圧剤を含み、水溶性金属加工油組成物中の(B)成分の含有量(b)は、質量基準で、(A)成分の含有量(a)以上〔a≦b〕である。
上記構成であることで、本実施形態における水溶性金属加工油組成物は、オーステナイト系ステンレス鋼のみならず、フェライト系ステンレス鋼に対しても優れた研削性を有し、オーステナイト系ステンレス鋼と同等またはそれ以上に多くフェライト系ステンレス鋼を研削することができる。
【0031】
硫黄系極圧剤としては、例えば、-S-で表されるスルフィド結合(xは2~10)を有するポリスルフィド化合物が挙げられる。ポリスルフィド化合物は、通常、ジハイドロカルビルポリスルフィドが用いられる。ジハイドロカルビルポリスルフィドとしては、下記一般式(1)で表される化合物が用いられる。
-S-R (1)
式(1)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数3~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアルキルアリール基、炭素数7~20のアリールアルキル基、又は炭素数3~20のアルケニル基から選択される炭化水素基であって、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、xは2~10の整数を示す。また、R1及びR2におけるアルキル基及びアルケニル基は、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。
一般式(1)において、R及びRはそれぞれ好ましくは炭素数6~18であり、xは好ましくは2~8、より好ましくは3~7、更に好ましくは4~6である。
【0032】
ジハイドロカルビルポリスルフィドの詳細な具体例としては、ジアルキルポリスルフィド、オレフィンポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド等が挙げられる。なお、オレフィンポリスルフィドは、炭素数3~20のオレフィン又はその2~4量体を、硫黄、ハロゲン化硫黄等の硫化剤と反応させて得られたものが挙げられる。オレフィンとしては、例えばプロピレン、イソブテン、ジイソブテン等が好ましい。オレフィンポリスルフィドとしては、一般式(1)においてR及びRの一方がアルケニル基で、他方がアルケニル基又はアルキル基のものが挙げられる。
【0033】
上記の中でも、一般式(1)においてR及びRのいずれもがアルキル基であるジアルキルポリスルフィドが好ましく、一般式(1)においてR及びRが炭素数6~18のアルキル基であるジアルキルポリスルフィドがより好ましい。
ジアルキルポリスルフィドの具体例としては、ジヘキシルポリスルフィド、ジオクチルポリスルフィド、ジノニルポリスルフィド、ジデシルポリスルフィド、ジドデシルポリスルフィド、ジウンデシルポリスルフィド、ジテトラデシルポリスルフィド、ジヘキサデシルポリスルフィド、ジオクタデシルポリスルフィドが挙げられる。なお、これら化合物は、いずれのアルキル基も直鎖状のものであってもよいし、分岐状のものであってもよい。
なお、ポリスルフィドは単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0034】
また、ポリスルフィドは、通常、硫黄含有量が20~50質量%のものが使用され、研削性を良好にする観点から、25~45質量%のものが使用されることが好ましい。
さらに、研削性をより良好にする観点から、ポリスルフィドは、鉱油(ISOVG 100)で5質量%に希釈したものが、銅板腐食試験(JISK―2513;100℃、1時間)で「3」又は「4」を示す活性型のもの、すなわち、活性ポリスルフィドがより好適である。
【0035】
本実施形態における水溶性金属加工油組成物中の(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)は、フェライト系ステンレス鋼の研削性を向上する観点から、10~50質量%であることが好ましく、15~48質量%であることがより好ましい。
含有量(b)が10質量%以上であることで、フェライト系ステンレス鋼の研削性に優れ、含有量(b)が50質量%以下であることで、ポリスルフィド化合物に起因する臭気が弱くなり、作業環境の悪化を防止することができる。
ステンレス鋼の研削性、原液安定性、及び希釈安定性の観点からは、含有量(b)を30~48質量%とすることが好ましく、ステンレス鋼の研削性を維持しつつ、臭気性をより抑える観点からは、含有量(b)を15~30質量%とすることができる。
【0036】
本実施形態における水溶性金属加工油組成物中の(A)重合脂肪酸を含有する油性剤の含有量(a)と、(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)とは、フェライト系ステンレス鋼の研削性を向上する観点から、含有量(b)に対する含有量(a)の割合(a/b)が、質量基準で、0.1~0.8であることが好ましく、0.2~0.7であることがより好ましい。
ステンレス鋼の研削性、原液安定性、及び希釈安定性の観点からは、割合(a/b)を0.2~0.5とすることが好ましく、ステンレス鋼の研削性を維持しつつ、臭気性をより抑える観点からは、割合(a/b)を0.5~0.7とすることができる。
【0037】
〔水〕
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、水を含む。
水は特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水等いずれでもよい。なお、水溶性金属加工油組成物が含む水は、原液である水溶性金属加工油組成物の構成成分としての水を意味し、後述する希釈液としての水とは異なる。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の、水の含有量は、水溶性金属加工油組成物の引火点を無くし、取り扱い易くすると共に、(A)成分及び(B)成分の分離を抑制する観点から、5~50質量%であることが好ましく、7~40質量%であることが好ましい。
ステンレス鋼の研削性、原液安定性、及び希釈安定性の観点からは、水溶性金属加工油組成物中の水の含有量を7~20質量%とすることが好ましく、ステンレス鋼の研削性を維持しつつ、臭気性をより抑える観点からは、水溶性金属加工油組成物中の水の含有量を20~40質量%とすることができる。
【0038】
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、水に加えて、基油を含んでいてもよい。
基油としては、特に限定されず、通常切削及び/又は研削用の金属加工油に含まれるものを適宜選択して用いることができる。具体的には、鉱油及び合成油を挙げることができる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、混合系原油あるいはナフテン系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、またはこれを常法にしたがって精製することによって得られる精製油、例えば、溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油等を挙げることができる。
合成油としては、例えばポリブテン、ポリプロピレン、炭素数8~14のα-オレフィンオリゴマー及びこれらの水素化物;さらにはポリオールエステル(トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル等);二塩基酸エステル、芳香族ポリカルボン酸エステル、リン酸エステル等のエステル系化合物;アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等のアルキル芳香族化合物;ポリアルキレングリコール等のポリグリコール油;シリコーン油等が挙げられる。
これらの基油は、一種を用いてもよく、二種以上を適宜組み合せて用いてもよい。基油としては、一般に40℃における動粘度が1~1000mm2/s、好ましくは、2~500mm2/sのものが用いられる。
なお、本明細書において動粘度とは、JIS K 2283:2000に準拠して測定したものである。
【0039】
〔他の成分〕
本実施形態の水溶性金属加工油組成物には、本実施形態の目的を阻害しない範囲でさらに他の成分を配合することができる。例えば、目詰まり抑制剤、乳化剤、防錆剤、潤滑性向上剤、金属不活性化剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤等を配合することができる。
具体的には、水溶性アミン化合物;油溶性アミン化合物;炭素数8~18のカルボン酸;ポリアルキレングリコール等を含むことが好ましい。
【0040】
(水溶性アミン化合物)
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、水溶性アミン化合物を含むことが好ましい。
水溶性アミン化合物としては、アルカノールアミンが好ましい。
アルカノールアミンは、(1)モノアルカノールアミン、(2)ジアルカノールアミン、及び(3)トリアルカノールアミンが挙げられる。
【0041】
(1)モノアルカノールアミン
モノアルカノールアミンは、1つのアルカノール基を有し、炭素数は、水溶性の観点から、各々独立に、1~10であることが好ましく、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4である。アルカノール基のアルキル鎖は、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよい。
モノアルカノールアミンは、具体的には、モノイソプロパノールアミン(Monoisopropanolamine;MIPA)、モノエタノールアミン等が挙げられる。
モノアルカノールアミンは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
(2)ジアルカノールアミン
ジアルカノールアミンは、2つのアルカノール基を有する。2つのアルカノール基は同じでも異なっていてもよいが、各々の炭素数は、水溶性の観点から、各々独立に、1~10であることが好ましく、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4である。また、2つのアルカノール基の総炭素数は、水溶性および臭気低減の観点から、3~12であることが好ましく、より好ましくは4~10、さらに好ましくは4~8である。
2つのアルカノール基のアルキル鎖は、各々独立に、直鎖状でも、分岐状でも、環状でもよく、具体的には、ジエタノールアミンのような直鎖状ジアルカノールアミン、ジイソプロパノールアミンのような分岐状ジアルカノールアミン、N-シクロヘキシルジエタノールアミンのような環状のジアルカノールアミンが挙げられる。
ジアルカノールアミンは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以上中でも、環状のジアルカノールアミンは乳化剤として好適であり、特に、次式(2)で示されるシクロヘキシルジアルカノールアミンが好ましく挙げられる。
【0043】
【化1】
【0044】
式(2)式中、Rは、アルキレン基であり、qは1~10の整数である。
式(2)中、Rで表されるアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレン、ヘプチレン、オクチレン、ノニレンおよびデシレン等の直鎖または分岐のアルキレン基が好ましく挙げられる。これらの中でも、水溶性および濡れ性の観点から、エチレンまたはプロピレンが好ましく、特にエチレンが好ましい。
式(2)中、qは1~10の整数であり、1~7が好ましく、1~3がより好ましい。
シクロヘキシルジアルカノールアミンの具体例としては、N-シクロヘキシルジエタノールアミン、N-シクロヘキシルジイソプロパノールアミン等が挙げられる。この中で、N-シクロヘキシルジエタノールアミンが好ましく用いられる。
なお、シクロヘキシルジアルカノールアミンは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(3)トリアルカノールアミン
トリアルカノールアミンとしては、3つのアルカノール基は同じでも異なっていてもよいが、各々の炭素数は、水溶性の観点から、各々独立に、1~10であることが好ましく、より好ましくは1~6、さらに好ましくは1~4である。また、3つのアルカノール基の総炭素数は、水溶性および臭気低減の観点から、3~12であることが好ましく、より好ましくは4~10、さらに好ましくは4~8である。
このようなアルカノールアミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリ-n-プロパノールアミン、トリ-i-プロパノールアミン、およびトリ-n-ブタノールアミ
ンなどが挙げられる。これらの中でも、水溶性が優れている点でトリエタノールアミンが好ましい。
なお、トリアルカノールアミンは、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
以上の中でも、トリアルカノールアミンおよびシクロヘキシルジアルカノールアミンは乳化剤として好適であり、モノアルカノールアミンは防錆剤として好適である。
【0047】
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の水溶性アミン化合物の含有量は、3~20質量%であることが好ましく、4~17質量%であることが好ましく、5~15質量%であることが好ましい。当該含有量を3~20質量%とすることで、耐腐敗性、pH維持性、及び皮膚低刺激性の点で優れる。
【0048】
(油溶性アミン)
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、油溶性アミンを含むことが好ましい。
油溶性アミンとしては、モノシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N-メチルジシクロヘキシルアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、メタキシレンジアミン、モルホリン、ラウリルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。
油溶性アミンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
油溶性アミンは、金属の研削加工時に用いられる砥石の目詰まりを抑制する目詰まり抑制剤として好適である。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の油溶性アミンの含有量は、4~15質量%であることが好ましく、5~13質量%であることがより好ましい。
【0049】
(炭素数8~18のカルボン酸)
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、炭素数8~18のカルボン酸を含むことが好ましい。
炭素数8~18のカルボン酸としては、脂肪酸が好ましく、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、ここで用いられる脂肪酸は、直鎖構造のものに限定されず、分岐型異性体も含む。炭素数8~18のカルボン酸を用いることにより、水溶性金属加工油剤の水溶性および濡れ性を高めることができ、また原液安定性を高めることができる。
カルボン酸のカルボキシル基の数は特に限定されなく、モノカルボン酸でもポリカルボン酸でもよいが、取り扱い性の観点から、1~6が好ましく、1~4がより好ましく、1~2、すなわちモノカルボン酸またはジカルボン酸がさらに好ましい。
本発明で具体的に用いられるカルボン酸は、これに限定されるものではないが、例えば、オクタン酸(カプリル酸)、2-エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、ノナン酸(ペラルゴン酸)、イソノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、イソデカン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、イソウンデカン酸、ドデカン酸(ラウリン酸)、イソドデカン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、イソステアリン酸、10-ウンデセン酸、ゾーマリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸等のモノカルボン酸;
ノナン二酸、ウンデカン二酸、セバシン酸(デカン二酸)、ドデカン二酸等のジカルボン酸;
油脂より抽出された大豆油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、およびトール油脂肪酸(C18)、米ぬか脂肪酸(米ぬか油脂肪酸ともいう)等が挙げられる。
なお、トール油脂肪酸は、通常、オレイン酸を40~50質量%、リノール酸を40~45質量%、及びパルミチン酸を6質量%程度含んで構成される混合脂肪酸である。また、米ぬか脂肪酸は、通常、オレイン酸を40~50質量%、リノール酸を29~42質量%、及びパルミチン酸13~18%を含んで構成される混合脂肪酸である。
これらのカルボン酸は、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
炭素数8~18のカルボン酸は、目詰まり抑制剤、防錆剤等として好適である。
目詰まり抑制剤は、不飽和脂肪酸を含むことが好ましく、不飽和脂肪酸の炭素数は7~28であることが好ましく、13~22であることがより好ましく、15~20であることが更に好ましい。更に具体的には、トール油脂肪酸及び米ぬか脂肪酸の一方または両方を含むことが好ましい。
防錆剤は、炭素数8~16のカルボン酸を含むことが好ましく、炭素数8~14のカルボン酸を含むことがより好ましく、炭素数10~12のカルボン酸を含むことがさらに好ましい。特に、炭素数10~12の飽和脂肪酸を含むことがより好ましく、ラウリン酸、デカン酸、ネオデカン酸(オクタン酸、ノナン酸およびデカン酸の混合物)、ウンデカン二酸、セバシン酸、ドデカン二酸を含むことがさらに好ましく、ラウリン酸、ネオデカン酸、セバシン酸およびドデカン二酸を含むことが特に好ましい。
【0051】
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の炭素数8~18のカルボン酸の含有量は、4~25質量%であることが好ましく、6~20質量%であることが好ましく、7~15質量%であることが好ましい。炭素数8~18のカルボン酸の含有量が4~25質量%であることで、乳化安定性及び原液の安定性の点で優れる。
【0052】
(ポリアルキレングリコール)
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、ポリアルキレングリコールを含むことが好ましい。
ポリアルキレングリコールとしては、アルキレングリコールの重合体であれば特に限定されないが、次式(3)で示されるポリアルキレングリコールの少なくとも1種が好ましく挙げられる。
O-(R’O)-H (3)
【0053】
式(3)において、Rは、水素原子または炭素数が1~30のアルキル基である。アルキル基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~5がさらに好ましい。Rの炭素数がこの範囲であると、水溶性が良好であり、好ましい。
R’OはPOおよびEOから選択されたオキサイド単位であり混合して用いてもよい。ただし、R’OにおけるEOのPOに対するモル分率(EO/PO)は、水で希釈した際の消泡性の観点より、1未満であることが好ましく、より好ましくは0.8未満、さらに好ましくは0.6未満である。pは、取り扱い性の観点から、1~200の整数が好ましく、5~150の整数がより好ましく、10~100の整数がさらに好ましく、30~60の整数が特に好ましい。
【0054】
ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、500~10000であることが好ましく、より好ましくは1000~5000、さらに好ましくは1500~3000である。重量平均分子量が上記の範囲であると、水で希釈した際の濡れ性が良好である。
ポリアルキレングリコールは、各々単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。また、ポリアルキレングリコールは、EO構造又はPO構造の単位数等が異なる種々の構造のものを混合して用いてもよい。
【0055】
ポリアルキレングリコールは乳化剤として好適である。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中のポリアルキレングリコールの含有量は、水溶性金属加工油組成物の乳化安定性の観点から、0.5~10質量%であることが好ましく、1~8質量%であることが好ましく、1~5質量%であることが好ましい。
【0056】
(目詰まり抑制剤)
金属の研削加工時に用いられる砥石の目詰まりを抑制する観点から、本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、目詰まり抑制剤を含有することが好ましい。
目詰まり抑制剤は、油溶性アミン及び炭素数8~18のカルボン酸の少なくとも一方を含むことが好ましく、より具体的には、油溶性アミン、トール油脂肪酸及び米ぬか脂肪酸の少なくとも1つを含むことが好ましい。
油溶性アミン及び炭素数8~18のカルボン酸の詳細は既述の通りである。
【0057】
目詰まり抑制剤は、油溶性アミンを少なくとも含むことが好ましく、油溶性アミン並びにトール油脂肪酸及び米ぬか脂肪酸を含むことがより好ましい。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の目詰まり抑制剤の含有量は、5~20質量%であることが好ましく、7~17質量%であることがより好ましい。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の目詰まり抑制剤として作用する炭素数8~18のカルボン酸の含有量(c2)に対する油溶性アミンの含有量(c1)の割合(c1/c2)は、質量基準で、0.5~6.0であることが好ましく、1.5~4.5であることがより好ましく、2.0~3.5であることが更に好ましい。
【0058】
(乳化剤)
乳化剤としては、非イオン性界面活性剤(ノニオン性界面活性剤)、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の各種界面活性剤の他、水溶性アミン化合物等が挙げられる。水溶性アミン化合物の詳細は既述の通りであり、中でも、トリアルカノールアミンおよびシクロヘキシルジアルカノールアミンが好ましい。
【0059】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキレンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン重合物;脂肪酸アルカノールアミドのようなアミド等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等の四級アンモニウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、ベタイン系としてアルキルベタイン等が挙げられる。
水溶性アミンとしては、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン等が挙げられる。
乳化剤は、以上の化合物を、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の乳化剤の含有量は、水溶性金属加工油組成物の乳化安定性の観点から、5~15質量%であることが好ましく、7~13質量%であることがより好ましく、9~11質量%であることが更に好ましい。
【0061】
(防錆剤)
防錆剤としては、既述の炭素数8~18のカルボン酸、及び既述の水溶性アミン化合物が挙げられる。炭素数8~18のカルボン酸、及び既述の水溶性アミン化合物の詳細は既述の通りである。中でも、炭素数8~16のカルボン酸の飽和脂肪酸、及びモノアルカノールアミンが好ましく、デカン二酸(セバシン酸)、ドデカン二酸、ネオデカン酸、及びモノイソプロパノールアミン(MIPA)がより好ましい。
防錆剤は、以上の化合物を、1種で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の防錆剤の含有量は、水溶性金属加工油組成物の乳化安定性の観点から、5~15質量%であることが好ましく、7~13質量%であることがより好ましく、9~11質量%であることが更に好ましい。
【0062】
(潤滑性向上剤)
潤滑性向上剤としては、ひまし油、菜種油等の植物油、ラノリン等の油脂およびこれらの精製物等が挙げられる。
【0063】
(金属不活性化剤、酸化防止剤)
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、及びチアジアゾール、リン酸ナトリウム塩、リン酸エステル誘導体等が挙げられる。
酸化防止剤としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-α-ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2,6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2、6-ジ-t-ブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネイト等の硫黄系酸化防止剤;ホスファイト等のリン系酸化防止剤;さらにモリブデン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0064】
(防腐剤、消泡剤)
防腐剤としては、例えば、ヘキサヒドロトリアジン等のトリアジン系防腐剤;アルキルベンゾイミダゾール系防腐剤;ベンゾイソチアゾリン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤;ピリジン系防腐剤;フェノール系防腐剤;ピリチオンナトリウム等のピリチオン系防腐剤等が挙げられる。
消泡剤としては、ポリシロキサン等のシリコーン系化合物、ポリエーテル系化合物等を挙げることができる。
【0065】
本実施形態の水溶性金属加工油組成物は、上記他の成分を好ましくは10~50質量%、より好ましくは20~40質量%、さらに好ましくは25~35質量%含有する。なお、他の成分として複数成分を含有する場合には、各成分は独立して上記範囲で含有されるものとする。
水溶性金属加工油組成物中の他の成分の含有量が10質量%以上であると、例えば防錆性、殺菌性及び消泡性等の各成分の効果が十分に発揮される。また、水溶性金属加工油組成物中の他の成分の含有量を50質量%以下とすることで、水溶性金属加工油組成物の原液安定性を確保することができる。
なお、本実施形態の水溶性金属加工油組成物中の(A)成分、(B)成分、及び、水、並びに、適宜含有することができる防錆剤、乳化剤及び他の成分の合計含有量は、100質量%を超えないものとする。
【0066】
<水溶性金属加工油組成物の製造方法>
本実施形態の水溶性金属加工油組成物の製造方法は、(A)重合脂肪酸を含有する油性剤と、(B)硫黄系極圧剤と、水とを、(B)硫黄系極圧剤の含有量(b)を、質量基準で、(A)油性剤の含有量(a)以上として配合する方法である。
(B)硫黄系極圧剤を、(A)重合脂肪酸を含有する油性剤と同じか、より多い割合(質量基準)で、水と共に配合することで、既述の、ステンレス鋼に対する研削性に優れる水溶性金属加工油組成物を製造することができる。
本実施形態の水溶性金属加工油組成物の製造方法は、(A)成分、(B)成分、及び水に加え、既述の防錆剤及び乳化剤を配合することが好ましく、更に、既述の他の成分を配合してもよい。
(A)成分、(B)成分、及び水の具体的な好ましい配合量、並びに、防錆剤、乳化剤及び他の成分の具体的な好ましい配合量は、水溶性金属加工油組成物の説明で記載した各成分の好ましい含有量と同じである。
(A)成分、(B)成分、及び、水、並びに、適宜含有することができる防錆剤、乳化剤及び他の成分の合計配合量は、100質量%を超えないものとする。
【0067】
<金属加工液(希釈液)>
本実施形態の金属加工液は、本発明の水溶性金属加工油組成物(原液)を水で希釈することにより得られる。ここでの水は、工業用水、水道水、井戸水、イオン交換水、蒸留水等のいずれでもよく、特に限定されない。本実施形態においては、水溶性金属加工油組成物を、希釈倍率5~100倍となるように水で希釈することが好ましい。希釈倍率が上記範囲であると、金属加工液の粘度が適切となり扱いやすく、またベトツキが少ない。さらに原液組成物の(A)成分及び(B)成分等の有効成分が十分に含まれるため、加工性能、特に、研削性に優れる。上記希釈倍率は、10~90倍であることがより好ましく、15~85倍であることがさらに好ましく、20~80倍であることが特に好ましい。
【0068】
本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)及び金属加工液(希釈液)は、金属加工、例えば金属の切削加工及び研削加工に好適に用いることができ、好ましくは金属の研削加工に用いる研削加工油として使用される。被加工材料となる金属は、特に限定されないが、好ましくは、ステンレス鋼、合金鋼、炭素鋼、アルミニウム合金、銅合金等が挙げられるが、特に、ステンレス鋼について好ましい効果を得ることができる。
ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(常温で組織中にオーステナイト相とフェライト相が存在するステンレス鋼)、析出硬化系ステンレス鋼等が挙げられる。本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)及び金属加工液(希釈液)は、いずれのステンレス鋼にも好適に用いることができるが、本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)及び金属加工液(希釈液)は、中でも、オーステナイト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼に対する研削性に優れ、フェライト系ステンレス鋼に対する研削性に特に優れる。
このように、本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)及び金属加工液(希釈液)を、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼からなる群より選択される少なくとも1種のステンレス鋼の金属加工(特に、研削加工)に使用することに好適であり、オーステナイト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼からなる群より選択される少なくとも1種のステンレス鋼の金属加工(特に、研削加工)に使用することにより好適であり、特に、フェライト系ステンレス鋼の金属加工(特に、研削加工)に使用することに好適である。
なお、オーステナイト系ステンレス鋼は、例えば、18クロム-8ニッケルのSUS304が例示される。フェライト系ステンレス鋼は、例えば、SUS430の18クロム系のステンレス鋼等が挙げられる。
【0069】
<金属加工方法>
本実施形態の金属加工方法は、本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)、又は金属加工液(希釈液)を用いて金属を加工する。
金属加工の種類としては、切削加工、研削加工、打抜き加工、研磨加工、絞り加工、抽伸加工、圧延加工等の各種の金属加工分野に好適に利用することができるが、研削加工であることが好ましい。研削加工としては、例えば、研削ベルトにより金属の研削加工をする方法を挙げることができる。なお、研削ベルトとは、布、紙、プラスチック、ゴム等で形成された基体表面に、研磨材(砥粒)が接着されたエンドレス状のベルトからなる研磨工具であり、研削加工において通常使用されるものを適宜選択して使用可能である。砥粒としては、例えばアルミナを用いることができる。本方法で被加工材料となる金属は、上記したとおりである。
このように、本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)及び金属加工液(希釈液)を、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼、析出硬化系ステンレス鋼からなる群より選択される少なくとも1種のステンレス鋼の、研削ベルトによる金属加工(特に、研削加工)に使用することに好適であり、オーステナイト系ステンレス鋼及びフェライト系ステンレス鋼からなる群より選択される少なくとも1種のステンレス鋼の、研削ベルトによる金属加工(特に、研削加工)に使用することにより好適であり、特に、フェライト系ステンレス鋼の、研削ベルトによる金属加工(特に、研削加工)に使用することに好適である。
なお、本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)及び金属加工液(希釈液)は、研削性が良好で研削量を多くすることが可能であることから、いわゆる粗研削に好適に使用可能である。
【0070】
研削ベルトを用いた研削加工は、例えば図1に示すように、搬送ベルト4等で搬送される被削材5に、アイドルロール1及びコンタクトロール2のような2以上のローラ間で回転走行する研削ベルト3表面を押し付けて行う。この際、ベルトが押し付けられる被削材5の部分(研削部)に、本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)又は金属加工液(希釈液)6が供給される。本実施形態の水溶性金属加工油組成物(原液)又は金属加工液(希釈液)は、例えば、搬送ベルト4の下方に設けられた油タンク7から研削部に供給されるとともに、研削部から落下したものがタンク7に戻されることで循環しながら研削部に供給される。
【実施例
【0071】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0072】
<実施例1~5及び比較例1~2>
表1に示す配合材料及び割合で水溶性金属加工油組成物(原液)を調製し、研削性評価を行なった。結果を表1に示す。各組成物配合量の単位は「質量%」である。
【0073】
表1の配合材料は以下のとおりである。
〔(A)重合脂肪酸を含有する油性剤〕
(1)ひまし油重合脂肪酸1:ひまし油重合脂肪酸 約6量体、酸価32.9、水酸基価13.6
(2)ひまし油重合脂肪酸2:ひまし油重合脂肪酸 約6量体、酸価31.6、水酸基価9.4mgKOH/g
【0074】
〔(B)硫黄系極圧剤〕
(3)ポリスルフィド1(C12-S-C12):式(1)で表されるポリスルフィド化合物
(4)ポリスルフィド2(C8-S-C8):式(1)で表されるポリスルフィド化合物
【0075】
〔他の成分〕
(5)油溶性アミン化合物:N-メチルジシクロヘキシルアミン、目詰まり抑制剤
(6)炭素数8~18のカルボン酸1:米ぬか脂肪酸、目詰まり抑制剤
(7)炭素数8~18のカルボン酸2:トール油脂肪酸:目詰まり抑制剤
【0076】
(8)炭素数8~18のカルボン酸3:デカン二酸、防錆剤
(9)炭素数8~18のカルボン酸4:ドデカン二酸、防錆剤
(10)炭素数8~18のカルボン酸5:ネオデカン酸、防錆剤
(11)水性アミン化合物1:モノイソプロパノールアミン、防錆剤
【0077】
(12)ポリアルキレングリコール1:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、HLB 12.7、乳化剤
(13)水性アミン化合物2:N-メチルジエタノールアミン、乳化剤
(14)水性アミン化合物3:トリイソプロパノールアミン、乳化剤
(15)ポリアルキレングリコール2:ジエチレングリコールモノブチルエーテル、HLB:13、乳化剤
【0078】
(16)ベンゾトリアゾール:銅不活性化剤
(17)ヘキサヒドロトリアジン:防腐剤
(18)1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン:防腐剤
(19)ピリチオンナトリウム:防腐剤
(20)リン酸エステル:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(アルキル部分の炭素数12~15)、金属不活性化剤
(21)ポリオルガノシロキサン:シリコーン系消泡剤
【0079】
〔研削性評価〕
各水溶性金属加工油組成物(原液)を、水で、表1に示す希釈倍率で希釈して金属加工液(希釈液)とした後、以下の金属加工を行った。図1に概略図で示す研削試験用装置を用いて研削性評価を行った。すなわち、図1において、アイドルロール1とコンタクトロール2との間で回転走行する研削ベルト3に、搬送ベルト4上に載置された被削材5を押し付け、一方で、研削部に上記金属加工液(希釈液)6を油タンク7から循環供給しながら研削を行った。1試験につき5枚の被削材板を使用し、間隔を空けずに連続して通板した。評価項目及び試験条件は、以下の通りである。
(評価項目)
前記試験を、合計100パス行い、研削量を評価した。
【0080】
(試験条件)
・研削ベルト:アルミナ80番
・被研削材:SUS304、幅90mm×長さ1,000mm×厚さ約3mm、1試験毎に5枚通板
・速度:ベルト速度;1400m/min、板送り速度;10m/min
・研磨方法:ダウンカット
・金属加工液(希釈液)温度:40℃
・負荷:1.5hp/inch(ベルト押付け力を一定で評価)
・被削材:実施例1及び比較例1においては、SUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)及びSUS430(フェライト系ステンレス鋼);実施例2~5及び比較例2においては、SUS430(フェライト系ステンレス鋼)
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1と比較例1との対比からわかるように、実施例1の水溶性金属加工油組成物は、オーステナイト系ステンレス鋼に対して、比較例1の水溶性金属加工油組成物を用いた場合よりも多くの研削量が得られている。更には、比較例1の水溶性金属加工油組成物がフェライト系ステンレス鋼を十分に研削することができていないのに比べ、実施例1の水溶性金属加工油組成物は、オーステナイト系ステンレス鋼の研削量よりも多くの研削量が得られている。
実施例2~5ではオーステナイト系ステンレス鋼の研削を行ってはいないが、実施例1と同様に本発明の要件を満たす水溶性金属加工油組成物であることから、実施例2~5の水溶性金属加工油組成物も実施例1と同様に、オーステナイト系ステンレス鋼の研削にも、フェライト系ステンレス鋼の研削にも優れることが十分予想される。
【0083】
希釈倍率の異なる実施例1~3の対比から、希釈倍率が高くなっても、フェライト系ステンレス鋼に対して、比較例1よりも多くの研削量が得られていることがわかる。
実施例1と4との対比から、(B)成分の硫黄系極圧剤の質量が半分である実施例4は、実施例1に比べ研削量が減るものの、比較例1に比べ十分な量の研削量が得られている。
また、(B)成分の硫黄系極圧剤の種類が異なる実施例1及び4と、実施例5との対比から、-S-で表されるスルフィド結合のxが多いポリスルフィド2(x=5)を用いた実施例1の方が、スルフィド結合のxが少ないポリスルフィド1(x=3)を用いた実施例5よりも、研削量が多いことがわかる。更に、ポリスルフィド2(x=5)を用いた実施例4は、(B)成分の質量が実施例5の半分であるにも関わらず、実施例5よりも多くの研削量が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本実施形態によれば、オーステナイト系ステンレス鋼に対する加工と同様に、フェライト系ステンレス鋼を加工することができ、ステンレス鋼の種類に限らず、多くの難加工材の金属加工に使用し、生産性を高める加工性能を有する水溶性金属加工油組成物が得られる。本実施形態の水溶性金属加工油組成物及び該水溶性金属加工油組成物を水で希釈した金属加工液は、切削又は研削加工、中でも研削ベルトを用いた研削加工に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 アイドルロール
2 コンタクトロール
3 研削ベルト
4 搬送ベルト
5 被削材
6 水溶性金属加工油組成物(原液)又は金属加工液(希釈液)
7 油タンク
図1