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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】銅合金線材及び電子機器部品
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20240205BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20240205BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20240205BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240205BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20240205BHJP
【FI】
C22C9/06
H01B1/02 A
H01B5/02 Z
C22F1/00 622
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630F
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 684A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 692B
C22F1/00 694B
C22F1/08 B
C22F1/00 602
C22F1/00 686A
C22F1/08 P
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019170800
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021046590
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡藤 康弘
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-007174(JP,A)
【文献】特開2017-179512(JP,A)
【文献】特開2019-052343(JP,A)
【文献】特開2018-035437(JP,A)
【文献】特開2001-244398(JP,A)
【文献】特開2007-246931(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081342(WO,A1)
【文献】特開2011-117034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00~9/10
H01B 1/02
H01B 5/02
C22F 1/00
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niを1.0~4.0質量%、Siを0.2~1.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子を1000~20000個/mm2含有し、粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子を3000~150000個/mm 2 含有する銅合金線材。
【請求項2】
Coを0.0~0.5質量%含有する請求項に記載の銅合金線材。
【請求項3】
Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Al、P、Mn、Cr及びAgのうち1種以上を総量で0.005~3.0質量%含有する請求項1又は2に記載の銅合金線材。
【請求項4】
引張強さが700MPa以上、導電率が40%IACS以上であり、500℃の温度で1分間の焼鈍処理を行った場合に、前記焼鈍処理後の引張強さが、前記焼鈍処理前の引張強さに対して85%以上となる請求項1~のいずれか1項に記載の銅合金線材。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の銅合金線材を備えた電子機器部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ、端子、リレー、スイッチ等の導電性ばね材やトランジスタ、集積回路(IC)等の半導体機器のリードフレーム材として好適な、優れた強度、導電性、耐焼鈍軟化特性等を備えた銅合金、伸銅品及び電子機器部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品の小型化が進み、これら部品に使用される銅合金に良好な強度、導電率及び耐焼鈍軟化特性が要求されている。この要求に応じ、従来のりん青銅や黄銅といった固溶強化型銅合金に替わり、高い強度及び導電率を有するコルソン合金等の析出強化型銅合金の需要が増加している。コルソン合金の一つであるCu-Ni-Si系合金は、Cuマトリックス中にNiとSiとの化合物粒子を析出させた合金であり、高強度、高い導電率、耐焼鈍軟化特性を兼ね備えている。プレス加工後の歪取り焼鈍等で焼鈍前の強度を維持できるようCu-Ni-Si系合金において更に耐焼鈍軟化特性を改善することが望まれている。
【0003】
近年、Cu-Ni-Si系合金の耐焼鈍軟化特性を改善する技術として、低温焼鈍硬化量を調整する方策が提唱されている。例えば、特許文献1では、鋳塊を熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、時効処理、導電率が2~4%IACS低くなる条件の低温溶体化処理、加工率50%以上の時効後冷間圧延、200~500℃で1~1000秒間の歪取焼鈍を順次行うことにより、500℃×60秒の大気加熱による強度低下量を30~140MPaに制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-179512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明は、プレス加工前の耐焼鈍軟化特性のみを改善の対象としており、プレス加工時の変形によって生じる歪によって耐焼鈍軟化特性が低下し、プレス加工後の歪取焼鈍には耐えられない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、高強度、高導電率及び耐焼鈍軟化特性を兼備した銅合金、伸銅品及び電子機器部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意検討した結果、プレス加工後の歪取り焼鈍に耐え得る程度の耐焼鈍軟化特性を備え、高強度、高導電率であるCu-Ni-Si系合金を得るためには、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度を制御すれば改善することを見出した。
【0008】
以上の知見を背景にして完成した本発明の実施の形態に係る銅合金は一側面において、Niを1.0~4.0質量%、Siを0.2~1.5質量%含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子を1000~20000個/mm2含有する銅合金である。
【0009】
本発明の実施の形態に係る銅合金は一実施態様において、粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子を3000~150000個/mm2含有する。
【0010】
本発明の実施の形態に係る銅合金は別の一実施態様において、Coを0.0~0.5質量%含有する。
【0011】
本発明の実施の形態に係る銅合金は更に別の一実施態様において、Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Al、P、Mn、Cr及びAgのうち1種以上を総量で0.005~3.0質量%含有する。
【0012】
本発明の実施の形態に係る銅合金は更に別の一実施態様において、引張強さが700MPa以上、導電率が40%IACS以上であり、500℃の温度で1分間の焼鈍処理を行った場合に、焼鈍処理後の引張強さが、焼鈍処理前の引張強さに対して85%以上となる。
【0013】
本発明は別の一側面において、上記銅合金を備えた伸銅品である。
【0014】
本発明は更に別の一側面において、上記銅合金を備えた電子機器部品である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高強度、高導電率及び耐焼鈍軟化特性を兼備した銅合金、伸銅品及び電子機器部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(Ni及びSiの添加量)
Ni及びSiは、適当な時効処理を行うことにより、Ni2Si等の50nm以下の微細な金属間化合物として析出する。この析出物の作用により強度が向上し、析出によりCuマトリックス中に固溶したNi及びSiが減少するため導電率が向上する。しかしながら、Niが1.0質量%未満又はSiが0.2質量%未満になると所望の強度が得られず、反対にNiが4.0質量%を超えると又はSiが1.5質量%を超えると加工が難しくなる。このため、本発明に係るCu-Ni-Si系合金では、Niの添加量は1.0~4.0質量%とし、Siの添加量は0.2~1.5質量%としている。さらに、Niの添加量は1.5~3.0質量%が好ましく、Siの添加量は0.3~0.80質量%が好ましい。
【0017】
(その他の添加元素)
Coは導電率上昇に寄与する。Coが0.5質量%を超えると強度が低下する。このため、本実施形態に係るCu-Ni-Si系合金では、Coを0.0~0.5質量%、好ましくは0.005~0.5質量%含有することが好ましい。
【0018】
Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Al、P、Mn、Cr、Agは強度上昇に寄与する。さらにZnはSnめっきの耐熱剥離性の向上に、Mgは応力緩和特性の向上に、Zr、Cr、Mnは熱間加工性の向上に効果がある。Sn、Zn、Mg、Fe、Ti、Zr、Al、P、Mn、Cr、Agが総量で3.0質量%を超えると導電率が著しく低下する。このため、本発明に係るCu-Ni-Si系合金では、これらの元素のうち1種以上を総量で0.005~3.0質量%含有することが好ましく、0.01~2.0質量%含有することがより好ましい。
【0019】
(第二相粒子)
本実施形態における第二相粒子とは、銅に他の元素が含まれる場合に生成され、銅母相(マトリックス)とは異なる相を形成する粒子をいう。第二相粒子の個数密度は、機械研磨にて鏡面仕上げした後、電解研磨及び/又は酸洗エッチングをした後の銅合金の加工方向に対して直角な断面、即ち圧延加工した銅合金については圧延直角方向の断面、伸線加工した銅合金については伸線加工方向に直角な断面を任意に5箇所選択して得られた1視野の走査電子顕微鏡写真から該当する粒径範囲の粒子の個数を測定し、評価面積で除することで得られる。ここで、粒径とは、各粒子の短径と長径の平均値をいう。本実施形態に係る銅合金の第二相粒子の大部分はNi2Siであるが、他の金属間化合物も粒径が範囲内であれば個数密度の測定に含まれるものとする。第二相粒子を構成する元素は、例えば、FE-SEM(日本FEI株式会社型式XL30SFEG)に付属のEDXを使用して確認できる。
【0020】
本実施形態に係る銅合金は、銅合金の加工方向に対して直角な断面の電子顕微鏡を用いた組織観察において、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子が1000個/mm2以上、好ましくは2000個/mm2以上、更に好ましくは3000個/mm2以上含有される。粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度は、熱間加工後の冷却速度を遅くして析出させ、更に必要であれば熱間加工後に熱処理することで調整できる。粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子が1000個/mm2以上であると耐焼鈍軟化特性が向上する。一方、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子が20000個を超えると析出強化に必要な50nm以下の微細な析出物が不足するため、強度が不足する。
【0021】
本実施形態に係る銅合金は、銅合金の加工方向に対して直角な断面の電子顕微鏡を用いた組織観察において、粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子が好ましくは3000個/mm2以上、更に好ましくは5000個/mm2以上、より更に好ましくは10000個/mm2以上含有される。粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子は、熱間加工後の冷却速度を遅くして析出させ、更に必要であれば熱間加工後に熱処理することで調整できる。粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子が3000個/mm2以上であると、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子よりも効果は少ないが、耐焼鈍軟化特性を向上させる効果がある。一方、粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子が150000個/mm2を超えると析出強化に必要な50nm以下の微細な析出物が不足するため、強度が不足する。
【0022】
(引張強さ)
本実施形態に係る銅合金は、引張強さ(TS)が700MPa以上、より好ましくは750MPa以上、更に好ましくは800MPa以上である。銅合金の引張強さは、JIS Z 2241に準拠し、引張試験機を用いて圧延方向と平行な方向の引張強さを測定した結果を示す。本実施形態において、引張強さの上限値は、以下に限定されるものではないが、典型的には1600MPa以下とすることができる。
【0023】
(導電率)
本実施形態に係る銅合金は、導電率(EC)が40%IACS以上、より好ましくは45%IACS以上、更に好ましくは48%IACS以上である。銅合金の導電率は、JIS H 0505に準拠し、圧延方向と平行な方向の導電率を測定した結果を示す。本実施形態において、導電率の上限値は、以下に限定されるものではないが、典型的には70%IACS以下とすることができる。
【0024】
(軟化特性)
本実施形態に係る銅合金は、500℃の温度で1分間の焼鈍処理を行った場合に、焼鈍処理後の引張強さが、焼鈍処理前の引張強さに対して85%以上となるような軟化特性が得られる。より典型的には、本実施形態に係る銅合金の軟化特性は、より典型的には88%以上であり、更に典型的には90%以上である。
【0025】
(用途)
Cu-Ni-Si系合金は種々の伸銅品、例えば板、条、棒、線及び箔に加工することができ、更に、本発明のCu-Ni-Si系合金は、リードフレーム、コネクタ、ピン、端子、リレー、スイッチ、線材、撚線、二次電池用箔材等の電子機器部品等に使用することができる。
【0026】
(製造方法)
以下に本発明の実施の形態に係る銅合金の製造方法の一例を説明する。Cu-Ni-Si系合金の一般的な製造プロセスでは、まず溶解炉で電気銅、Ni、Si等の原料を溶解し、所望の組成の溶湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに鋳造する。その後、熱間加工、冷間加工、溶体化処理、時効処理、冷間加工の順で所望の厚み、径および特性を有する板、条、棒、線及び箔等に仕上げる。熱処理後には、熱処理で生成した表面酸化膜を除去するために、表面の酸洗や研磨等を行ってもよい。また、高強度化のために、溶体化処理と時効の間や時効後に冷間加工を行ってもよい。
【0027】
本実施形態では、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が1000~20000個/mm2である銅合金を得るために、熱間加工後の冷却速度を調整し、必要であれば熱間加工後に熱処理をする。
【0028】
熱間加工は、加熱した鋳塊を圧延や押出により加工する方法であり、好ましくは材料温度が900~1000℃となるように加熱し、700℃以上で熱間加工を終了させることを含む。熱間加工終了後の700℃から500℃までの冷却速度を平均0.01~0.1℃/sに調節することで、冷却中にNi2Si等が析出し、所望の第二相粒子の個数密度となる。熱間加工後に500~700℃で1~60分の熱処理を行うことによりNi2Si等の析出物を粗大化させて、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子と粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子の個数密度を更に増加させることができる。700℃から500℃の冷却速度が0.01℃/sを下回ると、冷却中の析出量が多くなりすぎて、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が20000個/mm2を超え、引張強さが不足し、粒径0.2μm以上1.0μm未満の第二相粒子が150000個/mm2を超え、強度が不足する。
【0029】
本実施形態に係る銅合金の板材の場合の製造方法を工程順に列記すると次のようになる。
(1)インゴットの鋳造
(2)熱間圧延(加熱温度900~1000℃、厚み5~20mm程度まで、圧延後700℃から500℃の冷却速度0.01~0.1℃/s)
(3)熱処理(500~700℃で1~60分)
(4)冷間圧延(加工度1~99%)
(5)溶体化処理(800~1050℃で5~300秒)
(6)冷間圧延(加工度1~60%)
(7)時効処理(400~600℃で2~20時間)
(8)冷間圧延(加工度1~99.9%)
(9)歪取り焼鈍(300~700℃で5秒~10時間)
【0030】
ここで、熱間圧延(2)は、900~1000℃に加熱し、700℃以上で圧延を終了させることが好ましく、加工終了後の700℃から500℃の冷却速度を平均0.01~0.1℃/sに調節することが好ましく、0.01~0.08℃/sに調節することが更に好ましい。
【0031】
熱処理(3)は第二相粒子の個数密度を更に増加させられるが、行わなくても良い。冷間圧延(4)の加工度は1~99%とすることが好ましいが行わなくても良い。冷間圧延(6)及び(8)は高強度化のために任意に行うものであり、圧延加工度の増加とともに強度が増加する反面、導電率が低下する。冷間圧延(6)及び(8)の有無およびそれぞれの加工度によらず、耐焼鈍軟化特性が向上するという本実施形態の効果は得られる。冷間圧延(6)及び(8)は行っても良いし行わなくても良い。
【0032】
歪取り焼鈍(9)は、耐焼鈍軟化特性向上のために任意に行うものである。耐焼鈍軟化特性が向上する反面、強度が低下するため必要に応じて実施するものである。第二相粒子の個数密度を制御していれば、歪取り焼鈍(9)を行わなくても所望の耐焼鈍軟化特性は得られる。
【実施例
【0033】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0034】
(銅合金の製造1)
電気銅、Ni、Siを原料とした溶湯に添加元素の量、種類を変更して添加し、厚みが30mmのインゴットを鋳造した。このインゴットを1000℃で3時間加熱し、終了温度が700℃以上となるように熱間圧延により厚み10mmの板にした。熱間圧延後の700℃から500℃の冷却速度を表1中の条件で実施した。次に、表面の酸化スケールを研削除去し、その後、冷間圧延、溶体化処理、時効、冷間圧延をこの順で行い最終厚みが0.1mmの最終製品に仕上げた。
【0035】
製品試料について、次の評価を行った。
(強度(引張強さ)測定および焼鈍軟化特性の評価)
引張試験機を用いてJIS Z 2241に準拠し圧延方向と平行に引張強さを測定した。また、この最終製品に500℃で1分焼鈍した試料を作製し、圧延方向と平行に引張強さを同様に測定した。焼鈍前のTS、焼鈍後のTSから焼鈍軟化特性(焼鈍後TS/焼鈍前TS)を求めた。
【0036】
(導電率(EC)測定)
JIS H 0505に準拠して導電率を測定した。測定での通電は圧延方向と平行に行った。
【0037】
(第二相粒子密度の測定)
第二相粒子の粒径及び密度は、最終製品の圧延直角断面を機械研磨して鏡面に仕上げた後、電解研磨及び/又は酸洗エッチングをして圧延直角断面を現出させ、走査電子顕微鏡を用いて測定した。粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子については1000倍の顕微鏡写真5枚、粒径0.2~1.0μmの第二相粒子については5000倍の顕微鏡写真5枚に対して行い、その平均値とした。表1に評価結果を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
実施例1~11は、いずれも本実施形態において規定される条件で熱間圧延後の冷却速度を制御して行ったものであり、引張強さ700MPa以上、導電率が40%IACS以上の高強度高導電率であり、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が本実施形態の範囲内となり、85%以上の軟化特性が得られた。
【0040】
比較例1は、Ni濃度が高く、熱間圧延中に割れが発生しその後の加工が困難となった。比較例2、4及び5は、熱間圧延後の冷却速度が速く、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が1000個/mm2を下回り、軟化特性が低くなった。比較例3は、Ni濃度が低く強度が低かった。比較例6は、熱間圧延後の冷却速度が遅すぎたため、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が20000個/mm2を超え強度が低下した。比較例7は、その他添加元素濃度が3%を超え、導電率が低くなった。
【0041】
(銅合金の製造2)
電気銅、Ni、Siを原料とした溶湯に添加元素の量、種類を変更して添加し、ビレットを鋳造した。このビレットを1000℃で3時間加熱し、終了温度が700℃以上となるように熱間押出により直径10mmの棒にした。熱間押出後の700℃から500℃の冷却速度を表中の条件で実施した。次に、表面の酸化スケールを研削除去し、その後、冷間伸線、溶体化処理、時効処理、冷間伸線をこの順で行い最終直径が0.1mmの最終製品に仕上げた。
【0042】
製品試料について、次の評価を行った。
(強度(TS)測定および焼鈍軟化特性の評価)
引張試験機を用いてJIS Z 2241に準拠し引張強さを測定した。また、この最終製品に500℃で1分焼鈍した試料を作製し、引張強さを同様に測定した。焼鈍前のTS、焼鈍後のTSから焼鈍軟化特性(焼鈍後TS/焼鈍前TS)を求めた。
【0043】
(導電率(EC)測定)
JIS H 0505に準拠して導電率を測定した。測定での通電は伸線方向と平行に行った。
【0044】
(第二相粒子密度の測定)
第二相粒子の粒径及び密度は、最終製品の伸線直角断面を機械研磨して鏡面に仕上げた後、電解研磨及び/又は酸洗エッチングをして伸線直角断面を現出させ、走査電子顕微鏡を用いて測定した。粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子については1000倍の顕微鏡写真5枚、粒径0.2~1.0μmの第二相粒子については5000倍の顕微鏡写真5枚に対して行い、その平均値とした。表2に評価結果を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
実施例1~11は、いずれも本実施形態において規定される条件で熱間押出後の冷却速度を制御して行ったものであり、引張強さ700MPa以上、導電率が40%IACS以上の高強度高導電率であり、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が本実施形態の範囲内となり、85%以上の軟化特性が得られた。
【0047】
比較例1は、Ni濃度が高く、熱間押出中に割れが発生しその後の加工が困難となった。比較例2、4及び5は、熱間押出後の冷却速度が速く、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が1000個/mm2を下回り、軟化特性が低くなった。比較例3は、Ni濃度が低く強度が不足した。比較例6は、熱間押出後の冷却速度が遅すぎたため、粒径1.0μm以上5.0μm未満の第二相粒子の個数密度が20000個/mm2を超え強度が不足した。比較例7は、添加元素濃度が3%を超え、導電率が低くなった。