(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】金属粒子
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20240205BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240205BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240205BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
B22F9/24 Z
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 R
B82Y30/00
C22C19/03 M
(21)【出願番号】P 2021079597
(22)【出願日】2021-05-10
(62)【分割の表示】P 2016256912の分割
【原出願日】2016-12-28
【審査請求日】2021-05-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(72)【発明者】
【氏名】岡村 一人
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-308013(JP,A)
【文献】特開2015-127448(JP,A)
【文献】特開2007-197836(JP,A)
【文献】特開平7-113107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卑金属及び/又は貴金属から選ばれる金属種を主成分として含有する金属粒子
の製造方法であって、
前記卑金属が、ニッケル、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン又はバナジウムから選ばれる1種以上であり、
前記貴金属が、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム又はレニウムから選ばれる1種以上であり、
前記金属粒子の平均粒子径が5~1000nmの範囲内であるとともに、粒子径分布の指標であるCV値が0.3以下であり、
前記金属粒子は、ICP質量分析法によるアルカリ金属
及びアルカリ土類金属の
合計の含有量が、0.1mg/kg以上、2,000mg/kg以下
であるとともに、前記アルカリ金属及び前記アルカリ土類金属が、前記金属粒子の製造過程で添加された有機金属化合物に由来するもの
を含むことを特徴とする金属粒子
の製造方法。
【請求項2】
前記金属種が、ニッケル、チタン、コバルト、銅、金、銀及び白金から選ばれる1以上の金属である、請求項1に記載の金属粒子
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式還元法を利用した金属粒子の製造方法及び金属粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子は、バルク金属とは異なる物理的・化学的特性を有することから、例えば、導電性ペーストや透明導電膜などの電極材料、高密度記録材料、触媒材料、半導体デバイス用の接合材料、インクジェット用インク材料等の様々な工業材料に利用されている。
【0003】
金属粒子は、固相反応又は液相反応によって得られることが知られている。固相反応としては、塩化ニッケルの化学気相蒸着やギ酸ニッケルの熱分解等が知られている。液相反応としては、金属塩を水素化ホウ素ナトリウム等の強力な還元剤で直接還元する方法(例えば、特許文献1)、強アルカリの存在下でヒドラジン等の還元剤を添加して前駆体を形成した後に熱分解する方法(例えば、特許文献2)、金属塩や有機配位子を含有する金属錯体を溶媒とともに圧力容器に入れて熱分解によって合成する方法(例えば、特許文献3)等が挙げられる。
【0004】
金属粒子を導電性ペーストや透明導電膜などの電極材料、高密度記録材料、触媒材料、インクジェット用インク材料等の用途に好適に供するには、均一な粒子径を有する微粒子の制御が必要である。
【0005】
しかし、固相反応のうち化学気層蒸着による方法の場合、粒子がサブミクロンからミクロンオーダーに肥大化する傾向がある。また、熱分解による方法の場合、反応温度が高いことから、粒子が凝集する傾向がある。これら固相反応による製造方法は、液相反応による製造方法に比べて製造コストが高価になりがちである。
【0006】
一方、液相反応のうち強力な還元剤を使用する方法の場合、即座に粒子が還元されることから所望の粒子を得るために反応を制御することが困難である。また、前駆体を経由させる方法の場合、前駆体がゲル状をなし、その後の還元反応が不均一となること、水素合成の場合、反応温度が高いことから、いずれも凝集を避けることができない。
【0007】
また、金属塩を1級アミン等の還元剤を添加して、マイクロ波を照射して加熱することでニッケル微粒子を得る技術が提案されている(例えば、特許文献4)。この技術によれば、脂肪族1級アミンの炭素鎖の長さの調整や錯化反応液に貴金属塩を添加することによって、金属粒子の粒子径を制御できるとされている。この方法であれば、所望の粒子径を有する金属粒子が得られるものの、塩化ニッケル-アミン錯体、硫酸ニッケル-アミン錯体等、結晶性に優れるが還元性が低いという特徴を有する金属錯体への適用が困難であり、また反応を促進させることを目的として貴金属塩を使用するため、製造コストが高価になりがちである。更に、銀などは配線材料や電池など電子機器において、マイグレーションを生じ易く、電気特性等への悪影響があるため使用用途に制限を受け易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-193118号公報
【文献】特開2008-95146号公報
【文献】特開2010-105149号公報
【文献】再公表WO2011/115213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えば、自動車等に搭載される、SiC等のパワー半導体用の接合材は、導電性、熱伝導性、機械的強度、耐久性等が要求されるが、このような要求を満たすためには、パワー半導体と電極とを接合する接合材の接合状態が極めて重要である。具体的には、接合材同士や接合材と被接合体との間の接合面積が大きい方が好ましい。しかし、接合材ペーストにおいて、接合材の分散性が悪く、凝集や沈降がある場合は、パワー半導体や電極上に接合材ペーストを均一に塗布することができず、その結果、接合面積が大きくすることが難しい、という課題があった。
【0010】
本発明の目的は、簡便な方法で、且つ低コストで金属粒子の粒子径を制御可能であり、分散性に優れ、凝集や沈降が生じにくい金属粒子の製造方法及び金属粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、金属錯体の配位子に着目し、求核性を有する有機金属化合物を使用することによって、還元性が低い金属錯体からでも金属粒子が得られるのみならず、有機金属化合物の添加量によって、粒子径が制御された金属粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の金属粒子の製造方法は、下記の工程A及びB;
A)金属塩及び還元剤を混合して金属錯化反応液を得る工程、
B)前記金属錯化反応液を加熱して、該金属錯化反応液中の金属イオンを還元し、金属粒子のスラリーを得る工程、
を含んでいる。そして、本発明の金属粒子の製造方法は、前記工程Aから、前記工程Bで前記金属錯化反応液を加熱するまでの間のいずれかのタイミングで、アルカリ金属系有機金属化合物又はアルカリ土類金属系有機金属化合物から選ばれる有機金属化合物を添加する。
【0013】
本発明の金属粒子の製造方法は、前記有機金属化合物が、求核性を有するものであってもよい。
【0014】
本発明の金属粒子の製造方法は、前記有機金属化合物が、有機マグネシウムハロゲン化物又は有機リチウムであってもよい。
【0015】
本発明の金属粒子の製造方法は、前記金属塩が、ニッケル塩、銅塩又はコバルト塩であってもよい。
【0016】
本発明の金属粒子の製造方法は、前記金属粒子の平均粒子径が、5~1000nmの範囲内であってもよい。
【0017】
本発明の金属粒子の製造方法は、前記工程Aにおいて得られた金属錯化反応液に、金属粒子を添加してもよい。
【0018】
本発明の金属粒子は、卑金属及び/又は貴金属から選ばれる金属種を主成分として含有する金属粒子であって、ICP質量分析法によるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の含有量が、0.1mg/kg以上、2,000mg/kg以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明の金属粒子は、平均粒子径が、5~1000nmの範囲内であってもよい。
【0020】
本発明の金属粒子は、前記金属種が、ニッケル、チタン、コバルト、銅、金、銀及び白金から選ばれる1以上の金属であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の金属粒子は、アルカリ金属、もしくはアルカリ土類金属を微量含むことを特徴とし、且つその製造方法によれば、金属粒子の製造において、所定量の有機金属化合物を添加することで、容易に、ペースト、スラリー又は分散液とした場合の分散性が良く、所望の粒子径を有する金属粒子を製造することができる。そして、本発明の金属粒子を、例えば接合材用途に使用した場合、分散性に優れ、凝集や沈降が生じにくいという特長によって、パワー半導体や電極等の被接合体上に、接合材ペーストを均一に塗布することが可能になる。その結果、接合材と被接合体との接合面積を大きくすることが可能になり、電子機器の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。本実施の形態の金属粒子の製造方法は、下記の工程A及び工程B;
A)金属塩及び還元剤を混合して金属錯化反応液を得る工程、
B)金属錯化反応液を加熱して、該金属錯化反応液中の金属イオンを還元し、金属粒子のスラリーを得る工程、
を含んでいる。そして、本実施の形態の金属粒子の製造方法は、工程Aから、工程Bで金属錯化反応液を加熱するまでの間のいずれかのタイミングで有機金属化合物を添加する。
【0023】
[工程A]
工程Aは、金属塩及び還元剤を混合して金属錯化反応液を得る工程である。
【0024】
<金属塩>
金属塩としては、公知の卑金属の塩又は貴金属の塩を挙げることができる。ここで、卑金属としては、例えば、ニッケル、チタン、コバルト、銅、クロム、マンガン、鉄、ジルコニウム、スズ、タングステン、モリブデン、バナジウム等を挙げることができる。貴金属としては、例えば、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ロジウム、レニウム等を挙げることができる。上記卑金属又は貴金属の中でも、導電性ペーストや透明導電膜などの電極材料、高密度記録材料、触媒材料、半導体デバイス用の接合材料、インクジェット用インク材料等の様々な工業材料への適用をしやすい、ニッケル、チタン、コバルト、銅、金、銀、白金が好ましい。金属塩は、上記の金属元素を単独で又は2種以上含有していてもよい。また、金属塩としては、例えば、カルボン酸金属塩などの有機酸金属塩や、塩化金属塩、硫酸金属塩、硝酸金属塩、炭酸金属塩などの無機金属塩を挙げることができる。これらの中でも、金属粒子の粒子径や粒子径分布を制御しやすい塩化金属塩や、COOH基を除く部分の炭素数が1~12のカルボン酸金属塩が好ましい。これらの中でも、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、酢酸銅、酢酸コバルトがより好ましい。
【0025】
<還元剤>
本実施の形態に用いられる還元剤としては、金属との錯体を形成できるものであれば特に制限はないが、例えば、1級アミン、脂肪族アルコールが好適に用いられる。特に、1級アミンは、金属との錯体を形成することができ、金属錯体に対する還元能を効果的に発揮できるため好ましい。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、金属錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンは金属の還元能を有しないため、いずれも単独では使用できないが、1級アミンを使用する上で、生成する金属粒子の形状に支障を与えない範囲でこれらを併用することは差し支えない。また、1級アミンと脂肪族アルコールを併用することもできる。
【0026】
還元剤は、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、金属錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0027】
1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、反応液におけるニッケル錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成する金属粒子の分散性を制御することができ、分散性が要求される用途において有利である。金属粒子の凝集を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6~20程度のものから選択して用いることが好適である。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミンを挙げることができる。オレイルアミン及びドデシルアミンは、金属粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液で反応を効率的に進行できるので特に好ましい。最も好ましくは、オレイルアミンである。
【0028】
脂肪族アルコールも同様に、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成する金属粒子の分散性を制御することができ、分散性が要求される用途において有利である。金属粒子の凝集を制御する観点から、脂肪族アルコールは、その炭素数が8~18程度のものから選択して用いることが好適である。このような脂肪族アルコールとして、例えば、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトタデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノールを挙げることができる。オクタノール、デカノール、ドデカノールは、金属粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液で反応を効率的に進行できるので特に好ましい。
【0029】
1級アミン及び脂肪族アルコールは、金属粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、当該1級アミン及び脂肪族アルコールの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミン及び脂肪族アルコールは、工程Bにおける還元反応後に、生成した金属粒子の固体成分と溶剤または未反応の1級アミンもしくは脂肪族アルコール等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からは室温で液体のものが好ましい。更に、1級アミン及び脂肪族アルコールは、金属錯体を還元して金属粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。1級アミン又は脂肪族アルコールの量は、金属の1molに対して、金属の価数×1倍mol以上の倍率で用いることが好ましく、価数×1.1倍mol以上用いることがより好ましく、価数×2倍mol以上用いることがさらに好ましい。1級アミン又は脂肪族アルコールの量が、金属の価数×1倍mol未満では、得られる金属粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミン又は脂肪族アルコールの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは、金属の価数×10倍mol以下とすることが好ましい。
【0030】
工程Aにおける金属錯化反応液の形成条件、すなわち、金属塩及び還元剤の混合条件は、使用する金属塩及び還元剤によって異なるので、使用する原料に応じて適切な条件を選択すればよい。ここでは、金属塩としてカルボン酸ニッケル、還元剤として1級アミンを用いる場合を例に挙げて説明する。この場合、錯形成反応は、室温に於いても進行することができるが、十分且つ、より効率の良い錯形成反応を行うために、例えば100℃~165℃の範囲内の温度に加熱して反応を行うことが好ましい。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、カルボン酸ニッケルに配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、錯体配位子としての水分子を解離させることができ、さらにその水を系外に出すことができるので、効率よくアミンとの錯体を形成させることができる。また、カルボン酸ニッケルとしてギ酸ニッケル2水和物を用いる場合は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸が存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱し、錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができる。加熱時間の上限は特にないが、不必要に長時間熱処理することはエネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。
【0031】
工程Aにおける加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射や超音波照射による加熱であってもよい。
【0032】
工程Aでは、均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、1級アミンとは別の有機溶媒を新たに添加してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒を金属塩及び還元剤と同時に混合してもよいが、金属塩及び還元剤を先ず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、還元剤が効率的に金属原子に配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、金属塩と還元剤との錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4~30のエーテル系有機溶媒、炭素数7~30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒等を使用することができる。また、加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましい。このような有機溶媒の具体例としては、テトラエチレングリコール、n-オクチルエーテル、ラウリルアルコールが挙げられる。
【0033】
[工程B]
工程Bでは、錯形成反応によって得られた金属錯化反応液を加熱し、金属錯化反応液中の金属を還元して金属粒子のスラリーを得る。工程Bにおける加熱温度は、得られる金属粒子の金属種、粒子径、粒子径分布等によって異なる。
【0034】
例えば、平均粒子径が5~100nmであるニッケル粒子を合成する場合、形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは180℃以上とすることがよい。この場合、加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。
【0035】
また、例えば、平均粒子径が300~600nmである銅粒子を合成する場合は、形状のばらつきを抑制するという観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは220℃以上とすることがよい。この場合、加熱温度の上限は特にないが、処理を能率的に行う観点からは例えば270℃以下とすることが好適である。
【0036】
工程Bにおける加熱手段としては、オイルバスなどの熱媒体、電気、マイクロ波、超音波を用いた加熱法などが挙げられる。生産コストの観点からオイルバスなどの熱媒体、電気を用いた加熱方式が好適に用いられる。
【0037】
工程Bでは、金属粒子の分散性を改善したり、酸化を防止するための防錆剤等の機能を付与したりするために、分散剤や機能付与のための添加剤を添加しても良い。
【0038】
[有機金属化合物の添加]
本実施の形態に使用される有機金属化合物は、求核試薬と同様の性質(求核性)を有し、金属錯体に作用するものであれば特に制約がない。好ましい有機金属化合物として、金属粒子の粒子径や粒子径分布の制御しやすさ、安全性、簡便さ、生産性の観点から、アルカリ金属に、アルキル基、アルコキシ基等の有機基が配位したアルカリ金属系有機金属化合物、及び、アルカリ土類金属に、前記有機基が配位したアルカリ土類金属系有機金属化合物を挙げることができる。以下、アルカリ金属系有機化合物及びアルカリ土類金属系有機化合物を総称して、「本有機金属化合物」という。本有機金属化合物は、塩素、臭素、沃素等のハロゲン化物を含有する有機金属ハロゲン化物であってもよい。この場合、それぞれ、アルカリ金属系有機金属ハロゲン化物及びアルカリ土類金属系有機金属ハロゲン化物ともいう。アルカリ金属系有機金属ハロゲン化物はアルカリ金属系有機金属化合物の一形態であり、アルカリ土類金属系有機金属ハロゲン化物はアルカリ土類金属系有機金属化合物の一形態である。
【0039】
アルカリ金属系有機金属化合物を構成するアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムを挙げることができ、反応性が高いリチウムを含有する有機リチウムが好適に用いられる。
また、アルカリ土類金属系有機金属化合物を構成するアルカリ土類金属としては、例えば、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムを挙げることができ、反応性が良いマグネシウムを含有する有機マグネシウムハロゲン化物が好適に用いられる。なお、アルミニウムにアルキル基が配位したアルキルアルミニウムは、発火性が強いため、安全性及び簡便さの観点から、アルカリ金属系、及びアルカリ土類金属系の有機金属化合物が、より好適に用いられる。
【0040】
本有機金属化合物は、例えばテトラヒドロフラン、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、ブチルエーテル、ジブチルエーテル等の有機溶媒によって希釈した希釈溶液として用いることが好ましい。希釈溶液の濃度に制限はないが、微量で粒子径に影響する場合は低濃度の方が制御し易いので好ましい。
【0041】
アルカリ金属系有機金属化合物としては、安価で汎用的なn-ブチルリチウムやフェニルリチウムが好適に用いられ、これらのトルエン溶液やn-ヘキサン溶液が、安全性及び簡便さの観点から特に好適である。
また、アルカリ土類金属系有機金属化合物として、エチルマグネシウムクロリド、エチルマグネシウムブロミド、ブチルマグネシウムクロリド、2-ブチルマグネシウムクロリド-塩化リチウム錯体、ブチルマグネシウムブロミドが好適に用いられ、これらのテトラヒドロフラン溶液が特に好適に用いられる。
【0042】
本有機金属化合物の添加量は、目的とする粒子径に応じた添加量を選定すればよいため、特に制限はない。具体的には、本有機金属化合物の添加量は、以下に例示するとおりである。
【0043】
例えば、酢酸ニッケルとオレイルアミンを混合して得られた金属錯体(金属錯化反応液)と、2N-エチレンマグネシウムクロリドテトラヒドロフラン(エチレンマグネシウムクロリド18重量%含有)溶液を用いて、ニッケル粒子を形成する場合、ニッケル100重量部に対してエチレンマグネシウムクロリドとして0.01重量部から5重量部の範囲内を添加することが好ましい。この場合、添加量が0.01重量部未満であると、ニッケル粒子が微粒子化する効果が小さく、ニッケル粒子の粒子径分布が大きくなる傾向にある。また、添加量が5重量部を超えると、ニッケル粒子の微粒子化に寄与せず不純物となるエチレンマグネシウムクロリドが、増える傾向にある。
【0044】
また、例えば、酢酸ニッケルとオレイルアミンを反応させた金属錯体に、本有機金属化合物として約1.6mol/Lフェニルリチウムのブチルエーテル溶液(フェニルリチウム16重量%含有)を用いてニッケル粒子を形成する場合、ニッケル100重量部に対してフェニルリチウムとして0.03重量部から5重量部の範囲内を添加することが好ましい。この場合、添加量が0.03重量部未満であるとニッケル粒子が微粒子化する効果が小さく、ニッケル粒子の粒子径分布が大きくなる傾向にある。また、添加量が5重量部を超えるとニッケル粒子の微粒子化に寄与せず不純物となるフェニルリチウムが、増える傾向にある。
【0045】
また、例えば、酢酸銅(無水物)とオレイルアミンを反応させた金属錯体に、本有機金属化合物として2N-エチレンマグネシウムクロリドのテトラヒドロフラン溶液(エチレンマグネシウムクロリド18重量%含有)を加えて、銅粒子を形成する場合、銅100重量部に対してエチレンマグネシウムクロリドとして5重量部以上を添加することが好ましい。この場合、添加量が5重量部未満であると600nm以下の粒子が生成せず、また不定形の粒子や繊維状の銅が含まれることがある。
【0046】
本有機金属化合物は、工程Aから、工程Bで金属錯化反応液を加熱するまでの間のいずれかのタイミングで添加すればよい。例えば、有機金属化合物は、工程Aで金属塩及び還元剤を混合して余分な水分を除去した後に添加してもよいし、金属錯化反応液を調製した後で添加してもよい。また、本有機金属化合物は、水分によって失活し効果を失い易いことから、工程Bで金属錯化反応液を加熱する直前に添加することが好ましい。本有機金属化合物を添加することによって、金属粒子の粒子径を顕著に小さくすることができる。その作用機構は未だ明らかではないが、おそらく、求核性を有する有機金属化合物が、金属錯体に作用し、金属核の生成を促すものと推測される。吸湿の影響により効果が失活することで、粒度分布の制御が困難になるため、有機金属化合物を、工程Bで金属錯化反応液を加熱する直前に添加することが好ましい。
【0047】
[金属粒子]
以上のようにして、金属粒子を含有するスラリーを得ることが出来る。なお、得られた金属粒子のスラリーを、例えば、静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、乾燥状態の金属粒子を分取してもよい。製造された金属粒子は、原料である上記金属塩と同様の金属種である卑金属及び/又は貴金属を主成分として含有し、且つ使用する有機金属化合物に含まれるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含有するものとなる。ここで、「主成分」とは、金属粒子の全重量に対して、前記金属塩に由来する卑金属及び/又は貴金属を合計で90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは97重量%以上含むことを意味する。また、金属粒子は、酸素、水素、炭素、窒素、硫黄等の金属元素以外の元素を含有していてもよいし、これらの合金であってもよい。さらに、単一の金属粒子で構成されていてもよく、2種以上の金属粒子を混合したものであってもよい。また、金属粒子は、同種の金属又は異種金属による多層構造、例えばコア-シェル構造であってもよい。
【0048】
金属粒子に含まれるアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属は、添加する有機金属化合物の量によって異なるが、高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP質量分析)法による測定値が、0.1mg/kg以上、2,000mg/kg以下の範囲で含まれることが好ましい。より好ましい下限は、0.3mg/kgであり、さらに好ましくは0.5mg/kg以上である。また、より好ましい上限は1,800mg/kg以下であり、さらに好ましくは1,000mg/kg以下であり、特に好ましくは100mg/kg以下であり、最も好ましくは10mg/kg以下である。この範囲であれば、ペースト、スラリー又は分散液とした場合に沈降や凝集が少なく分散性(以下、単に「分散性」ともいう。)に優れる金属粒子が得られる。0.1mg/kg未満だと、特に平均粒子径が100nm以下の範囲において所望する粒子径が得られない傾向にあり、一方、2,000mg/kgを超えると、分散性が損なわれる傾向にある。
【0049】
本発明の金属粒子の製造方法では、得られる金属粒子の平均粒子径に特に制限はないが、本有機金属化合物の添加によって、平均粒子径を例えば5nm~1000nmの範囲内で所望の大きさに制御することができる。例えば、ニッケル粒子の場合、平均粒子径が5~100nmの範囲内で制御することもできる。また、銅粒子の場合、平均粒子径が300~600nmの範囲内で制御することもできる。
また、工程Aにおいて得られた金属錯化反応液に、金属粒子(「種粒子」ともいう。)を添加することで、種粒子の表面にさらに金属層を形成し、種粒子よりも粒子径の大きい金属粒子を得ることができる。この場合、種粒子を構成する金属種と、前記金属層を構成する金属種とは、同じであっても異なっても良い。例えば、種粒子が20nm~40nmの範囲内の平均粒子径である場合、この種粒子を、工程Aにおいて得られた金属錯化反応液に添加し、工程Bを行うことで、平均粒子径が100nm以上の金属粒子を得ることができる。
なお、種粒子の製造方法は限定しないが、金属粒子の粒子径及び粒子径分布の制御しやすさの観点から、本発明の金属粒子の製造方法によって得られた金属粒子を使用することが好ましい。
また、本有機金属化合物の添加によって、粒子径分布の狭い金属粒子を得ることができる。具体的には、粒子径分布の指標であるCV値が0.3以下の金属粒子を得ることができる。
【0050】
また、金属粒子の分散性、耐熱性、触媒作用、電気伝導性などの機能が要求される場合に、得られた金属粒子に対し、その使用目的に応じて、分散剤や異種金属、導電性を有する無機・有機物質などの添加剤を金属粒子の生成を阻害しない範囲内で添加することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り測定、評価は下記によるものである。
【0052】
[平均粒子径の測定]
平均粒子径の測定は、SEM(走査電子顕微鏡)により試料の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出してそれぞれの面積を求め、真球に換算したときの粒子径を個数基準として一次粒子の平均粒子径を算出した。また、CV値(変動係数)は、(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。なお、CV値が小さいほど、粒子径がより均一であることを示す。
【0053】
[有機金属化合物]
有機金属化合物(1):東京化成工業株式会社製、エチルマグネシウムクロリドの約10%テトラヒドロフラン溶液(約1mol/L)
有機金属化合物(2):東京化成工業株式会社製、ブチルリチウムの約15%ヘキサン溶液(1.6mol/L)
有機金属化合物(3):東京化成工業株式会社製、フェニルリチウムの約16%ブチルエーテル溶液(約1.6mol/L)
【0054】
(合成例1)
6000gのオレイルアミンに2466gの酢酸ニッケル四水和物を加え、窒素フロー下で140℃、4時間加熱することで錯化反応液1(ニッケルイオン濃度;7.5重量%)を得た。
【0055】
(合成例2)
200gのオレイルアミンに78.7gの塩化ニッケル六水和物を加え、窒素フロー下で140℃、4時間加熱することで錯体反応液2(ニッケルイオン濃度;7.5重量%)を得た。
【0056】
(合成例3)
200gのオレイルアミンに65.7gの酢酸銅・無水物を加え、窒素フロー下で110℃、10分間加熱することで錯化反応液3(銅イオン濃度;7.5重量%)を得た。
【0057】
(合成例4)
474.4gのオレイルアミンに190.3gの酢酸コバルト・4水和物を加え、窒素フロー下で140℃、4時間加熱することで錯化反応液4(コバルトイオン濃度;7.5重量%)を得た。
【0058】
(実施例1)
600gの錯化反応液1に0.358gの有機金属化合物(1)を添加し、窒素フロー下で230℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、ニッケル粒子1(平均粒子径;51.4nm、CV値;0.21)を得た。ICP質量分析法で0.87mg/kgのMgが検出された。
【0059】
(実施例2)
600gの錯化反応液1に0.333gの有機金属化合物(2)を添加し、窒素フロー下で230℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、実施例1と同様にして、ニッケル粒子2(平均粒子径;49.8nm、CV値;0.27)を得た。ICP質量分析法で2.60mg/kgのLiが検出された。
【0060】
(実施例3)
600gの錯化反応液1に6.0gの有機金属化合物(3)を添加し、窒素フロー下で210℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、ニッケル粒子3(平均粒子径;16.1nm、CV値;0.13)を得た。ICP質量分析法で検出されたLiは1,500mg/kgであった。
【0061】
(実施例4)
600gの錯化反応液1に0.285gの有機金属化合物(3)を添加し、窒素フロー下で220℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、ニッケル粒子4(平均粒子径;50.7nm、CV値;0.20)を得た。ICP質量分析法で検出されたLiは3.3mg/kgであった。
【0062】
(実施例5)
600gの錯化反応液1に0.122gの有機金属化合物(3)を添加し、窒素フロー下で230℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、ニッケル粒子5(平均粒子径;80.4nm、CV値;0.16)を得た。ICP質量分析法で1.80mg/kgのLiが検出された。
【0063】
(比較例1)
有機金属化合物(1)を添加しなかったこと以外、実施例1と同様にして、ニッケル粒子6(平均粒子径;132.9nm、CV値;0.16)を得た。ICP質量分析法でアルカリ金属及びアルカリ土類金属は検出されなかった。比較例1で得られたニッケル粒子6は、原料の組成が実施例1と同じであるにもかかわらず、所望の粒子径(平均粒子径が50nm程度)のものを得ることができなかった。
【0064】
(実施例6)
240gの錯化反応液2に0.50gの有機金属化合物(1)を添加し、窒素フロー下で215℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、ニッケル粒子7(平均粒子径;54.5nm、CV値;0.17)を得た。ICP質量分析法で0.49mg/kgのMgが検出された。
【0065】
(比較例2)
有機金属化合物(1)を添加しなかったこと以外、実施例6と同様にして、加熱を行い、ニッケル粒子8(平均粒子径;約400nm)を得たが、収率は低く、粒子形状も角張ったものであった。
【0066】
(実施例7)
265.7gの錯化反応液3に5gの有機金属化合物(1)を添加し、窒素フロー下で220℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、銅粒子9(平均粒子径;486nm、CV値;0.15)を得た。ICP質量分析法で5.02mg/kgのMgが検出された。
【0067】
(比較例3)
265.7gの錯化反応液3を、窒素フロー下で220℃までマントルヒーターを用いて加熱し、10分間反応させることによって、少数の銅粒子10(平均粒子径;1.37μm、CV値;0.18)、並びに大半の不定形及び繊維状の塊を確認した。
【0068】
(実施例8)
600gの錯化反応液4に実施例4で得られたニッケル粒子4を22.5g添加し、窒素フロー下で210℃までマントルヒーターを用いて加熱し、20分間反応させることによって、ニッケルコア、コバルトシェルのコア-シェル構造を有する多層コバルトニッケル粒子11(平均粒子径;80.2nm、CV値;0.19)を得た。ICP質量分析法で検出されたLiは0.51mg/kgであった。
【0069】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。