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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】偏光板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240205BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022086127
(22)【出願日】2022-05-26
(62)【分割の表示】P 2019223527の分割
【原出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2022105721
(43)【公開日】2022-07-14
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】邱 怡欣
(72)【発明者】
【氏名】黄 怡菱
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-140345(JP,A)
【文献】特開2007-127892(JP,A)
【文献】特開2009-048179(JP,A)
【文献】特開2018-135426(JP,A)
【文献】特表2018-506055(JP,A)
【文献】特開2007-047536(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117659(WO,A1)
【文献】特表2016-534414(JP,A)
【文献】特開2018-025764(JP,A)
【文献】特開2017-048340(JP,A)
【文献】特開2016-138958(JP,A)
【文献】特開2016-071349(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0109852(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを繰り出しロールから巻き出し、
ヨウ素を吸着させ、
ホウ酸により架橋し、
洗浄を行って偏光子を得る偏光子の製造方法であって、
架橋した後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液をシャワーとして噴霧することにより前記洗浄を行い、
前記洗浄液の温度は、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向において、中央部において3℃以上7℃以下、両端部において15℃以上22℃以下であり、
前記洗浄後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを96℃以上100℃以下の温度で乾燥させる乾燥工程を含む、偏光子の製造方法。
【請求項2】
偏光子と、その片側に接着剤を介して貼合された第1熱可塑性樹脂フィルムとを備える偏光板の製造方法であって、
請求項1に記載の偏光子の製造方法により偏光子を得、
得られた偏光子の片側に、接着剤を介して第1熱可塑性樹脂フィルムを貼合し、
前記接着剤を85℃以上100℃以下の温度で乾燥させることを特徴とする、前記偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および2には、120℃で100時間加熱後でも色相の変化が小さい偏光フィルムが提案されている。
【0003】
特許文献3には、ヒートサイクル試験に対する耐久性に優れる偏光板を与え、かつ直交色相がニュートラルグレーとなる偏光フィルムが開示されている。
【0004】
特許文献4には、高温環境下に曝した場合でも黄変抑制効果に優れる光学積層体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-226707号公報
【文献】特開2007-304626号公報
【文献】特開2013-148806号公報
【文献】特開2018-025765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~4に記載の偏光板では、より過酷な条件である高温(例えば105℃)および長時間(例えば600時間以上)での耐久試験では変色が生じる場合があった。
【0007】
本発明の目的は、高温(105℃)および長時間(600時間以上)での耐久試験においても変色が生じない偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の偏光板およびその製造方法を提供する。
[1] 単体色相b値が2.7以上であり、および波長700nmにおける吸光度が4.5以下である偏光板。
[2] 偏光子と、その片側に接着剤を介して貼合された第1熱可塑性樹脂フィルムとを備える、[1]に記載の偏光板。
[3] 前記偏光子の前記第1熱可塑性樹脂フィルム側とは反対側に接着剤を介して貼合された第2熱可塑性樹脂フィルムをさらに備える、[2]に記載の偏光板。
[4] 前記接着剤は水系接着剤である、[2]または[3]に記載の偏光板。
[5] 前記偏光板中の亜鉛元素の含有量が150ppm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の偏光板。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の偏光板を備える車載用表示装置。
[7] [2]に記載の偏光板の製造方法であって、
前記偏光子はポリビニルアルコール系樹脂フィルムを含み、
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄液で洗浄する洗浄工程であって、22℃を超える温度の洗浄液では洗浄しない洗浄工程を含む、偏光板の製造方法。
[8] 前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを96℃以上の温度で乾燥させる乾燥工程をさらに含む、[7]に記載の偏光板の製造方法。
[9] 前記第1熱可塑性樹脂フィルムを接着剤を介して前記偏光子の片側に貼合し、前記接着剤を85℃以上の温度で乾燥する貼合工程をさらに含む、[7]または[8]に記載の偏光板の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高温(105℃)および長時間(600時間以上)での耐久試験においても変色が生じない偏光板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る偏光板の概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る偏光板の概略断面図である。
図3】偏光子製造工程に用いる装置の配置例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の全ての図面においては、各構成要素を理解し易くするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
【0012】
<偏光板>
本発明の一態様に係る偏光板は、単体色相b値が2.7以上であり、および波長700nmにおける吸光度が4.5以下である。偏光板は、単体色相b値が2.7以上であるとき、波長700nmにおける吸光度を4.5以下とすることにより、高温(105℃)および長時間(600時間以上)での耐久試験(以下、略して耐久試験ともいう)においても変色が生じにくい傾向にある。本明細書において、耐久試験は、後述の実施例の欄において説明する方法に従って行う耐久試験をいう。変色が生じないとは、後述する実施例の欄において説明する方法に従って偏光板を観察したときに黄変が視認されないことをいう。本発明の偏光板は、耐久試験において好ましくは1000時間まで、より好ましくは1400時間まで変色が生じない。
【0013】
一般に、偏光板の波長700nmにおける吸光度は高い方が赤変は生じにくい傾向にあり、偏光板の単体色相b値は低い方が黄変が生じにくい傾向にある。耐久試験では、加熱によって偏光子中のポリヨウ素錯体I の崩壊および偏光子中のポリビニルアルコールのポリエン化が生じ、波長700nmにおける吸光度の低下及び単体色相b値の上昇が起こり易くなる傾向にある。そのため、偏光板の耐久試験において変色を抑制するには、偏光板の波長700nmにおける吸光度は高く、かつ単体色相b値は低い方が有利であると考えられてきた。しかしながら、意外にも、本発明者によって、高温(105℃)および長時間(600時間以上)でのより過酷な耐久試験においては、偏光板の単体色相b値を2.7以上、かつ波長700nmにおける吸光度を4.5以下とすることにより、変色を抑制できることが見出された。2.7以上の単体色相b値および4.5以下の波長700nmにおける吸光度を有する偏光板は、特許文献1~4のいずれにも開示されていない新規なものである。
【0014】
偏光板の単体色相b値は、好ましくは2.9以上であり、より好ましくは3.1以上であり、さらに好ましくは3.3以上であり、特に好ましくは3.5以上である。偏光板の単体色相b値は、通常、4.1以下であり、例えば3.9以下であってよい。
【0015】
偏光板の単体色相b値は、偏光板単体でのLab表色系におけるb値である。b値は、JIS Z 8722:2009「色の測定方法-反射および透過物体色」に規定される三刺激値X、YおよびZから、次の式によって計算される。
b値=7.0(Y-0.847Z)/Y1/2
偏光板の単体色相b値は、後述の実施例の欄において説明する測定方法にしたがって測定することができる。
【0016】
偏光板の波長700nmにおける吸光度は、好ましくは4.4以下であり、より好ましくは4.3以下である。偏光板の波長700nmにおける吸光度は、通常、3.9以上であり、例えば4.1以上であってよく、または4.2以上であってよい。
【0017】
偏光板の波長700nmにおける吸光度は、紫外可視分光光度計などの吸光光度計を用いて測定することができ、下記式から算出される。
波長700nmにおける吸光度=-log[{波長700nmにおけるTD透過率(%)}/100]
入射光としては、偏光子の吸収軸方向と平行な偏光を使用して測定する。この式において、TD透過率とは、グラントムソンプリズムから出る偏光の向きと偏光子の透過軸とを直交させたときの透過率である。
偏光板の波長700nmにおける吸光度は、後述の実施例の欄において説明する測定方法にしたがって測定することができる。
【0018】
上記範囲内の単体色相b値および波長700nmにおける吸光度は、後述する偏光子製造工程における洗浄工程の洗浄液の温度の調節、乾燥工程における乾燥温度の調節、および偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせるための接着剤を乾燥させる温度の調節等により得ることができる。
【0019】
偏光板は、亜鉛元素を含有していてもよい。偏光板が亜鉛元素を含有する場合、亜鉛元素は好ましくは偏光子および接着剤の少なくともいずれか一方に含まれる。偏光板が亜鉛元素を含む場合、偏光板中の亜鉛元素の含有量は例えば150ppm以上であってよい。偏光板中の亜鉛元素の含有量が150ppm以上である場合、耐久試験において変色を抑制し易くなる傾向にある。偏光板中の亜鉛元素の含有量は、変色抑制の観点から好ましくは200ppm以上、より好ましくは250ppm以上である。一方、偏光板中の亜鉛元素の含有量は通常、1000ppm以下である。亜鉛元素の含有量は、後述する実施例の欄において説明する測定方法に従って測定される。偏光板中の亜鉛元素の含有量は、例えば偏光子および/または接着剤中の亜鉛濃度を調節することにより上記範囲内とすることができる。
【0020】
図1に本発明の一実施態様に係る偏光板10を示す。図1に示すように、偏光板10は、偏光子12と、その片側に接着剤を介して貼合された第1熱可塑性樹脂フィルム11とを備えることができる。図2に示すように、偏光板10は、偏光子12の第1熱可塑性樹脂フィルム11側とは反対側に接着剤を介して貼合された第2熱可塑性樹脂フィルム13をさらに備えることができる。以下、第1熱可塑性樹脂フィルムおよび第2熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂フィルムと総称することがある。偏光板は、熱可塑性樹脂フィルムの偏光子側とは反対側に、後述する粘着剤層、光学機能層およびプロテクトフィルムをさらに備えることができる。
【0021】
偏光板は、画像表示装置に用いることができる。画像表示装置は、液晶表示装置、有機EL表示装置等いかなるものであってもよいが、好ましくは液晶表示装置である。液晶表示装置は、画像表示素子としての液晶セルを備える液晶パネルと、バックライトとを備える。液晶表示装置を構築するにあたって偏光板は、視認側に配置される偏光板に用いられてもよいし、バックライト側に配置される偏光板に用いられてもよいし、視認側およびバックライト側の双方の偏光板に用いられてもよい。
【0022】
偏光板が第1熱可塑性樹脂フィルム及び第2熱可塑性樹脂フィルムを備える場合、偏光板は、第1熱可塑性樹脂フィルムが画像表示装置の外側となるように、画像表示装置に貼合することができる。偏光板が第1熱可塑性樹脂フィルム及び第2熱可塑性樹脂フィルムを備える場合、偏光板は、偏光板の第1熱可塑性樹脂フィルム側に配置された透光性部材と、偏光板の第2熱可塑性樹脂フィルム側に配置された表示装置とをこの順に備える車載用表示装置に好適である。透光性部材は、ガラス板や透光性を有する樹脂フィルム等であってよい。
【0023】
[偏光子]
偏光子は、その吸収軸に平行な振動面をもつ直線偏光を吸収し、吸収軸に直交する(透過軸と平行な)振動面をもつ直線偏光を透過する性質を有する吸収型の偏光子である。偏光子は、例えば一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素等の二色性色素を吸着配向させた偏光子であってよい。
【0024】
偏光子の厚みは、通常65μm以下であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは35μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。偏光子の厚みは、通常2μm以上であり、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である。偏光子の厚みは、例えばポリビニルアルコール系樹脂フィルムの選定、延伸倍率の調節等により制御することができる。
【0025】
偏光子製造工程の一例を、図3を参照して説明する。繰出しロール111から巻き出された原反フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルム110は、その後、水を膨潤浴とする膨潤槽113に導かれ、ここで膨潤浴(水)に浸漬され、膨潤処理が施される(膨潤工程)。膨潤処理が施されたフィルムは、ヨウ素を含む水溶液を染色浴とする染色槽115に導かれ、ここで染色され、ヨウ素が吸着される(染色工程)。その後、ホウ酸を含む水溶液を処理浴とする架橋槽117に導かれ、ヨウ素を吸着したポリビニルアルコール系樹脂が、ここでホウ酸により架橋して、ヨウ素が固定される(架橋工程)。次いでフィルムを洗浄槽119にて洗浄し(洗浄工程)、乾燥炉123にて乾燥させ(乾燥工程)、偏光子130が得られる。偏光子130は巻取りロール127に巻き取られる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、偏光子製造工程のいずれか1以上の段階、より具体的には、膨潤工程の前から架橋工程までのいずれか1以上の段階で一軸延伸処理される。
【0026】
各処理工程は、偏光子製造装置のフィルム搬送経路に沿って原反フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを連続的に搬送させることによって連続的に実施できる。フィルム搬送経路は、上記各種の処理工程を実施するための設備(処理槽や炉等)を、それらの実施順に備えている。
【0027】
フィルム搬送経路は、上記設備の他、ガイドロールやニップロール等を適宜の位置に配置することによって構築することができる。例えば、ガイドロールは、各処理槽の前後や処理槽中に配置することができ、これにより処理槽へのフィルムの導入・浸漬および処理槽からの引き出しを行うことができる。より具体的には、各処理槽中に2以上のガイドロールを設け、これらのガイドロールに沿ってフィルムを搬送させることにより、各処理槽にフィルムを浸漬させることができる。
【0028】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを構成するポリビニルアルコール系樹脂としては、例えばポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものが挙げられる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常約85モル%以上、好ましくは約90モル%以上、より好ましくは約99モル%以上である。本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよびメタクリルから選択される少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等も使用し得る。
【0030】
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、好ましくは100以上10000以下であり、より好ましくは1500以上8000以下であり、さらに好ましくは2000以上5000以下である。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。平均重合度が上記範囲内である場合、偏光性能およびフィルム加工性に優れる傾向にある。
【0031】
原反フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの厚みは、例えば10μm以上150μm以下であってよく、好ましくは15μm以上100μm以下、より好ましくは20μm以上80μm以下である。原反フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向の長さは、例えば600mm以上5000mm以下であってよい。
【0032】
原反フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、例えば、長尺の未延伸または延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムのロール(巻回品)として用意することができる。この場合、偏光子もまた、長尺物として得られる。
【0033】
(1)膨潤工程
本工程における膨潤処理は、原反フィルムであるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの異物除去、可塑剤除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化等の目的で必要に応じて実施される処理であり、具体的には、水を含有する処理液を収容する膨潤槽にポリビニルアルコール系樹脂フィルム110を浸漬させる処理であることができる。当該フィルムは、1つの膨潤槽に浸漬されてもよいし、2以上の膨潤槽に順次浸漬されてもよい。膨潤処理前、膨潤処理時、または膨潤処理前および膨潤処理時に、フィルムに対して一軸延伸処理を行ってもよい。
【0034】
膨潤槽に収容される処理液は、水(例えば純水)であることができる他、アルコール類のような水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。上述の通り、膨潤槽に収容される処理液は亜鉛塩を含有することができる。
【0035】
フィルムを浸漬するときの膨潤槽に収容される処理液の温度は、通常10℃以上70℃以下、好ましくは15℃以上50℃以下であり、フィルムの浸漬時間は、通常10秒以上600秒以下、好ましくは20秒以上300秒以下である。
【0036】
(2)染色工程
本工程における染色処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着、配向させる目的で行われる処理であり、具体的には、二色性色素を含有する処理液を収容する染色槽にポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる処理であることができる。当該フィルムは、1つの染色槽に浸漬されてもよいし、2以上の染色槽に順次浸漬されてもよい。二色性色素の染色性を高めるために、染色工程に供されるフィルムは、少なくともある程度の一軸延伸処理が施されていてもよい。染色処理前の一軸延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の一軸延伸処理に加えて、染色処理時に一軸延伸処理を行ってもよい。
【0037】
二色性色素は、ヨウ素または二色性有機染料であることができる。二色性有機染料の具体例は、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックを含む。二色性色素は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、染色槽に収容される処理液には、ヨウ素およびヨウ化カリウムを含有する水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理と区別される。上記水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100質量部あたり0.01質量部以上1質量部以下である。また、ヨウ化カリウム等のヨウ化物の含有量は通常、水100質量部あたり0.5質量部以上20質量部以下である。
【0039】
フィルムを浸漬するときの染色槽に収容される処理液の温度は、通常10℃以上45℃以下、好ましくは10℃以上40℃以下であり、より好ましくは20℃以上35℃以下であり、フィルムの浸漬時間は、例えば20秒以上600秒以下であってよく、好ましくは20秒以上300秒以下である。
【0040】
二色性色素として二色性有機染料を用いる場合、染色槽に収容される処理液には、二色性有機染料を含有する水溶液を用いることができる。当該水溶液における二色性有機染料の含有量は通常、水100質量部あたり1×10-4質量部以上10質量部以下であり、好ましくは1×10-3質量部以上1質量部以下である。染色槽には染色助剤等を共存させてもよく、例えば、硫酸ナトリウム等の無機塩や界面活性剤等を含有させてもよい。二色性有機染料は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。フィルムを浸漬するときの染色槽に収容される処理液の温度は、例えば20℃以上80℃以下、好ましくは25℃以上50℃以下であり、フィルムの浸漬時間は、通常30秒以上600秒以下、好ましくは60秒以上300秒以下である。
【0041】
(3)架橋工程
染色工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを架橋剤で処理する架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整等の目的で行う処理であり、具体的には、架橋剤を含有する架橋槽に収容される処理液に染色工程後のフィルムを浸漬させる処理であることができる。当該フィルムは、1つの架橋槽に浸漬されてもよいし、2以上の架橋槽に順次浸漬されてもよい。架橋処理時に一軸延伸処理を行ってもよい。
【0042】
架橋剤としては、ホウ酸、グリオキザール、グルタルアルデヒド等を挙げることができ、ホウ酸が好ましく用いられる。2種以上の架橋剤を併用することもできる。架橋槽に収容される処理液におけるホウ酸の含有量は通常、水100質量部あたり0.1質量部以上15質量部以下であり、好ましくは1質量部以上10質量部以下である。二色性色素がヨウ素の場合、架橋槽に収容される処理液は、ホウ酸に加えてヨウ化物を含有することが好ましい。架橋槽に収容される処理液におけるヨウ化物の含有量は通常、水100質量部あたり0.1質量部以上15質量部以下であり、好ましくは5質量部以上12質量部以下である。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等を架橋槽に共存させてもよい。
【0043】
フィルムを浸漬するときの架橋槽に収容される処理液の温度は、例えば30℃以上85℃以下であってよく、好ましくは30℃以上60℃以下であり、フィルムの浸漬時間は、例えば2秒以上600秒以下であってよく、好ましくは2秒以上300秒以下である。
【0044】
架橋工程では、架橋槽は2槽以上あってもよい。この場合、各架橋槽に収容される処理液の組成および温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。架橋槽に収容される処理液は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる目的に応じた架橋剤およびヨウ化物等の濃度や、温度を有していてもよい。架橋による耐水化のための架橋処理および色相調整(補色)のための架橋処理を、それぞれ複数の工程(例えば複数の槽)で行ってもよい。
一般に、架橋による耐水化のための架橋処理および色相調整(補色)のための架橋処理の双方を実施する場合、色相調整(補色)のための架橋処理を実施する槽(補色槽)が後段に配置される。補色槽に収容される処理液の温度は、例えば10℃以上55℃以下であり、好ましくは20℃以上50℃以下である。補色槽に収容される処理液における架橋剤の含有量は、水100質量部あたり、例えば1質量部以上5質量部以下である。補色槽に収容される処理液におけるヨウ化物の含有量は、水100質量部あたり、例えば3質量部以上30質量部以下である。
【0045】
上述のように、偏光子の製造にあたり、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは、膨潤工程の前から架橋工程までのいずれか1または2以上の段階で一軸延伸処理される(延伸工程)。二色性色素の染色性を高める観点から、染色工程に供されるフィルムは、少なくともある程度の一軸延伸処理を施したフィルムであることが好ましく、または染色処理前の一軸延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の一軸延伸処理に加えて、染色処理時に一軸延伸処理を行うことが好ましい。
【0046】
一軸延伸処理は、空中で延伸を行う乾式延伸、槽中で延伸を行う湿式延伸のいずれであってもよく、これらの双方を行ってもよい。一軸延伸処理は、2つのニップロール間に周速差をつけて縦一軸延伸を行うロール間延伸、熱ロール延伸、テンター延伸等であることができるが、好ましくはロール間延伸を含む。原反フィルムを基準とする延伸倍率(2以上の段階で延伸処理を行う場合にはそれらの累積延伸倍率)は、3倍以上8倍以下程度である。良好な偏光特性を付与するために、延伸倍率は、好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上とされる。
【0047】
(4)洗浄工程
本工程における洗浄処理は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに付着した余分な架橋剤や二色性色素等の薬剤を除去する目的で必要に応じて実施される処理であり、水を含有する洗浄液を用いて架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する処理である。具体的には、洗浄槽に収容される処理液(洗浄液)に架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる処理であることができる。当該フィルムは、1つの洗浄槽に浸漬されてもよいし、2以上の洗浄槽に順次浸漬されてもよい。あるいは、洗浄処理は、架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して洗浄液をシャワーとして噴霧する処理であってもよく、上記の浸漬させる処理と噴霧する処理とを組み合わせてもよい。
【0048】
洗浄液は、水(例えば純水)であることができる他、アルコール類のような水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。
【0049】
洗浄工程において、架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄する洗浄液の温度は、例えば2℃以上40℃以下であってよく、上述の範囲内の単体色相b値および波長700nmにおける吸光度を得る観点から好ましくは22℃を超える温度の洗浄液では洗浄しない。
【0050】
架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを洗浄槽に浸漬する場合、洗浄槽中の洗浄液の温度は、好ましくは2℃以上22℃以下、より好ましくは2℃以上10℃以下である。洗浄槽中に浸漬する時間は、例えば10秒以上100秒以下であってよく、好ましくは20秒以上80秒以下である。
【0051】
架橋工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムに洗浄液をシャワーとして噴霧する場合、洗浄液の温度は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向において中央部と両端部とにおいて同じ温度であってもよいし、異なった温度であってもよいが、単体色相b値および波長700nmにおける吸光度の観点から好ましくは異なった温度であり、より好ましくは中央部における温度が両端部の温度より低い温度である。洗浄液の温度は、単体色相b値および波長700nmにおける吸光度の観点から好ましくは中央部において2℃以上10℃以下および両端部において10℃以上22℃以下であり、より好ましくは中央部において3℃以上7℃以下および両端部において15℃以上22℃以下である。
【0052】
(5)乾燥工程
乾燥工程は、洗浄工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾燥させるためのゾーンである。洗浄工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを引き続き搬送させながら、乾燥工程に当該フィルムを導入することによって乾燥処理を施すことができ、これにより偏光子が得られる。
【0053】
乾燥処理は、フィルムの乾燥手段(加熱手段)を用いて行われる。乾燥手段の好適な一例は乾燥炉である。乾燥炉は、好ましくは炉内温度を制御可能なものである。乾燥炉は、例えば、熱風の供給等により炉内温度を高めることができる熱風オーブンである。また乾燥手段による乾燥処理は、凸曲面を有する1または2以上の加熱体に洗浄工程後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを密着させる処理や、ヒーターを用いて該フィルムを加熱する処理であってもよい。
【0054】
上記加熱体としては、熱源(例えば、温水等の熱媒や赤外線ヒーター)を内部に備え、表面温度を高めることができるロール(例えば熱ロールを兼ねたガイドロール)を挙げることができる。上記ヒーターとしては、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等を挙げることができる。
【0055】
乾燥工程において、乾燥処理の温度(例えば、乾燥炉の炉内温度、熱ロールの表面温度等)は、例えば30℃以上であってよく、上述の範囲内の単体色相b値および波長700nmにおける吸光度を得る観点から好ましくは96℃以上である。乾燥処理の温度は、通常、100℃以下である。乾燥時間は特に制限されないが、例えば30秒以上900秒以下であってよく、好ましくは30秒以上60秒以下である。
【0056】
乾燥工程は、1段階であってもよいし、多段階に分かれていてもよく、好ましくは2段階以上4段階以下に分かれている。乾燥工程が多段階に分かれている場合、少なくとも1つの段階の乾燥温度が96℃以上であることが単体色相b値および波長700nmにおける吸光度の観点から好ましい。乾燥工程が多段階に分かれている場合、乾燥処理の温度は、最初の段階に比べ後の段階の温度が高くなるように設定することが好ましい。乾燥工程が多段階に分かれている場合、各段階における乾燥時間は例えば10秒以上300秒以下であってよく、好ましくは10秒以上20秒以下である。
【0057】
偏光子製造工程において、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して処理を施す処理液の少なくとも1つが亜鉛塩を含有していてもよい。処理液を収容する処理槽としては、例えば膨潤槽、染色槽、架橋槽、洗浄槽、補色槽等が挙げられる。亜鉛塩を含有する処理液を収容する処理槽は、好ましくは染色槽後から洗浄槽前にある処理槽であり、より好ましくは架橋槽及び補色槽から選ばれる少なくとも1つであり、さらに好ましくは架橋槽が2以上ある場合には最後の架橋槽及び補色槽から選ばれる少なくとも1つである。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを亜鉛塩を含有する処理液に浸漬することにより、得られる偏光子に亜鉛元素を含有させることができる。偏光子中の亜鉛元素の含有量は、処理液中の亜鉛塩の濃度、亜鉛塩を含有する処理液中へのポリビニルアルコール系樹脂フィルムの浸漬時間、処理液の温度等を調節することにより上述の範囲の亜鉛元素の含有量とすることができる。
【0058】
処理液に含まれる亜鉛塩としては、例えば塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛や、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられる。中でも張力の変化が小さいことから好ましくは硝酸亜鉛である。亜鉛塩は、亜鉛塩溶液として処理液へ添加することができる。
【0059】
処理液中の亜鉛塩の濃度は、各処理槽ごとに異なっていてよいが、処理槽に収容される処理液100質量部に対して例えば1質量部以上10質量部以下であってよく、2質量部以上7質量部以下であることが好ましい。
【0060】
以上の工程を経て、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させた偏光子を得ることができる。
【0061】
得られた偏光子は、例えば、そのまま次の偏光板作製工程(偏光子の片側または両側に熱可塑性樹脂フィルムを貼合する工程)に搬送することができる。
【0062】
[熱可塑性樹脂フィルム]
熱可塑性樹脂フィルムとしては、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;トリアセチルセルロースやジアセチルセルロースのようなセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリメタクリル酸メチル系樹脂のような(メタ)アクリル系樹脂;またはこれらの混合物、共重合物等からなる透光性を有する樹脂フィルムであることができる。熱可塑性樹脂フィルムは、1種または2種以上の熱可塑性樹脂からなる1つの樹脂層からなる単層構造であってもよいし、1種または2種以上の熱可塑性樹脂からなる樹脂層を複数積層した多層構造であってもよい。第1熱可塑性樹脂フィルムと第2熱可塑性樹脂フィルムとは、同一または異なった種類の熱可塑性樹脂フィルムであることができる。
【0063】
鎖状ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の鎖状オレフィンの単独重合体のほか、2種以上の鎖状オレフィンからなる共重合体を挙げることができる。
【0064】
環状ポリオレフィン系樹脂は、ノルボルネンやテトラシクロドデセン(別名:ジメタノオクタヒドロナフタレン)又はそれらの誘導体を代表例とする環状オレフィンを重合単位として含む樹脂の総称である。環状ポリオレフィン系樹脂としては、環状オレフィンの開環(共)重合体及びその水素添加物、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレン等の鎖状オレフィン又はビニル基を有する芳香族化合物との共重合体、並びにこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性した変性(共)重合体等が挙げられる。
中でも、環状オレフィンとしてノルボルネンや多環ノルボルネン系単量体等のノルボルネン系単量体を用いたノルボルネン系樹脂が好ましく用いられる。
【0065】
セルロースエステル系樹脂は、セルロースにおけるヒドロキシル基の少なくとも一部が酢酸エステル化されている樹脂であり、一部が酢酸エステル化され、一部が他の酸でエステル化されている混合エステルであってもよい。セルロースエステル系樹脂は、好ましくはアセチルセルロース系樹脂である。
アセチルセルロース系樹脂としては、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。
【0066】
ポリエステル系樹脂は、エステル結合を有する、上記セルロースエステル系樹脂以外の樹脂であり、多価カルボン酸又はその誘導体と多価アルコールとの重縮合体からなるものが一般的である。
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレート等が挙げられる。
中でも、機械的性質、耐溶剤性、耐スクラッチ性、コスト等の観点からポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。ポリエチレンテレフタレートとは、繰返し単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートで構成される樹脂をいい、他の共重合成分に由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0067】
他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分やジオール成分が挙げられる。
ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、4,4’-ジカルボキシジフェニル、4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン、ビス(4-カルボキシフェニル)エタン、アジピン酸、セバシン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、1,4-ジカルボキシシクロヘキサン等が挙げられる。
ジオール成分としては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ジカルボン酸成分やジオール成分は、必要に応じてそれぞれ2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
また、上記ジカルボン酸成分やジオール成分とともに、p-ヒドロキシ安息香酸、p-ヒドロキシエトキシ安息香酸、β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸を併用することも可能である。
他の共重合成分として、アミド結合、ウレタン結合、エーテル結合、カーボネート結合等を有するジカルボン酸成分及び/又はジオール成分が少量用いられてもよい。
【0068】
ポリカーボネート系樹脂は、炭酸とグリコール又はビスフェノールとから形成されるポリエステルである。中でも、分子鎖にジフェニルアルカンを有する芳香族ポリカーボネートは、耐熱性、耐候性及び耐酸性の観点から好ましく使用される。
ポリカーボネートとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(別名ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)イソブタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のビスフェノールから誘導されるポリカーボネートが挙げられる。
【0069】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系単量体由来の構成単位を含む重合体であり、(メタ)アクリル系単量体としては、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルが挙げられる。
メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-、i-又はt-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
アクリル酸エステルとしては、アクリル酸エチル、アクリル酸n-、i-又はt-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0070】
熱可塑性樹脂フィルムは、セルロースエステル系樹脂フィルム又は環状ポリオレフィン系樹脂フィルムであることが好ましい。
【0071】
熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤、界面活性剤等を挙げることができる。
紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。
【0072】
第1熱可塑性樹脂フィルムおよび第2熱可塑性樹脂フィルムのいずれか一方または両方は、位相差フィルム、輝度向上フィルムのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであることもできる。例えば、上記材料からなる透明樹脂フィルムを延伸(一軸延伸または二軸延伸等)したり、該フィルム上に液晶層等を形成したりすることにより、任意の位相差値が付与された位相差フィルムとすることができる。
【0073】
熱可塑性樹脂フィルムにおける偏光子側とは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、防汚層のような表面処理層(コーティング層)を形成することもできる。
【0074】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、偏光板の薄型化の観点から薄いことが好ましいが、薄すぎると強度が低下して加工性に劣る傾向があることから、好ましくは5μm以上150μm以下、より好ましくは5μm以上100μm以下、さらに好ましくは10μm以上60μm以下である。
【0075】
[接着剤]
偏光子と熱仮想性樹脂フィルムとを接着するために接着剤を用いることができる。接着剤は、偏光子および熱仮想性樹脂フィルムに対して接着力を発現するものであればよく、例えば接着剤成分を水に溶解又は分散させた水系接着剤や、活性エネルギー線硬化性化合物を含有する硬化性接着剤が挙げられる。接着剤は、偏光フィルムの表面が親水性であることを考慮すると、接着剤成分を水に溶解又は分散させた水系接着剤が好ましい。水系接着剤は、硬化後の接着剤の厚みを薄くできる観点からも好ましい。水系接着剤の主成分となる接着剤成分には、ポリビニルアルコール系樹脂やウレタン樹脂などがある。
【0076】
水系接着剤の主成分としてポリビニルアルコール系樹脂を用いる場合、そのポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルの他、酢酸ビニルとそれに共重合可能な他の単量体との共重合体などが例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。接着剤に用いるポリビニルアルコール系樹脂は、適度の重合度を有していることが好ましく、例えば、4質量%濃度の水溶液としたときに、粘度が4mPa・sec以上50mPa・sec以下の範囲内、さらには6mPa・sec以上30mPa・sec以下の範囲内にあることがより好ましい。
【0077】
接着剤に用いるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、特に制限されないが、一般には80モル%以上であることが好ましく、さらには90モル%以上であることがより好ましい。接着剤に用いるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度が低いと、接着剤の耐水性が不十分になりやすい傾向にある。
【0078】
接着剤には、変性されたポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。好適な変性ポリビニルアルコール系樹脂として、アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコール系樹脂、アニオン変性されたポリビニルアルコール系樹脂、カチオン変性されたポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。このような変性されたポリビニルアルコール系樹脂を用いれば、接着剤の耐水性を向上させる効果が得られやすい。
【0079】
アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール骨格を構成する水酸基のほかに、アセトアセチル基(CHCOCHCO-)を有するものであり、その他の基、例えばアセチル基などを有していてもよい。このアセトアセチル基は、典型的にはポリビニルアルコールを構成する水酸基の水素原子が置換された状態で存在する。アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、ポリビニルアルコールをジケテンと反応させる方法により、製造することができる。アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、反応性の高い官能基であるアセトアセチル基を有することから、接着剤の耐久性を向上させる上で好ましい。
【0080】
アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコール系樹脂におけるアセトアセチル基の含有量は、0.1モル%以上であれば特に制限はない。ここでいうアセトアセチル基の含有量とは、ポリビニルアルコール系樹脂における水酸基、アセトアセチル基、及びその他のエステル基(アセチル基など)の合計量に対するアセトアセチル基のモル分率を%で表示した値であり、「アセトアセチル化度」と呼ぶことがある。ポリビニルアルコール系樹脂におけるアセトアセチル化度が0.1モル%を下回ると、接着剤の耐水性を向上させる効果が必ずしも十分でなくなる。ポリビニルアルコール系樹脂におけるアセトアセチル化度は、0.1~40モル%程度、さらには1~20モル%、とりわけ2~7モル%であることが好ましい。アセトアセチル化度が40モル%を超えると、耐水性の向上効果が小さくなる。
【0081】
アニオン変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール骨格を構成する水酸基のほかに、アニオン性基、典型的にはカルボキシル基(-COOH)又はその塩を含有するものであり、そのほかの基、例えばアセチル基などを有していてもよい。アニオン変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、アニオン性基(典型的にはカルボキシル基)を有する不飽和単量体を酢酸ビニルに共重合させ、次いでケン化する方法により、製造することができる。一方、カチオン変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、ポリビニルアルコール骨格を構成する水酸基のほかに、カチオン性基、典型的には3級アミノ基又は4級アンモニウム基を含有するものであり、そのほかの基、例えばアセチル基などを有していてもよい。カチオン変性されたポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、カチオン性基(典型的には3級アミノ基又は4級アンモニウム基)を有する不飽和単量体を酢酸ビニルに共重合させ、次いでケン化する方法により、製造することができる。
【0082】
接着剤は、上述した変性ポリビニルアルコール系樹脂を2種以上含むものであってもよく、また、未変性のポリビニルアルコール系樹脂(具体的には、ポリ酢酸ビニルの完全又は部分ケン化物)及び上述した変性ポリビニルアルコール系樹脂の両方を含むものであってもよい。
【0083】
接着剤を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、市販品の中から適宜選択して使用することができる。具体的には、例えば、高いケン化度を有するポリビニルアルコールであって、(株)クラレから販売されている“PVA-117H”や、日本合成化学工業(株)から販売されている“ゴーセノール NH-20”、アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコールであって、日本合成化学工業(株)から販売されている“ゴーセファイマーZ”シリーズ、アニオン変性されたポリビニルアルコールであって、(株)クラレから販売されている“KL-318”及び“KM-118”や、日本合成化学工業(株)から販売されている“ゴーセナール T-330”、カチオン変性されたポリビニルアルコールであって、(株)クラレから販売されている“CM-318”や、日本合成化学工業(株)から販売されている“ゴーセファイマー K-210”などを挙げることができる。
【0084】
接着剤におけるポリビニルアルコール系樹脂の濃度は、特に制限されないが、水溶液の形態で用いるので、水100質量部に対し、ポリビニルアルコール系樹脂が1質量部以上20質量部以下の範囲内となるようにするのが好ましく、なかでも1質量部以上15質量部以下、さらには1質量部以上10質量部以下、とりわけ2質量部以上10質量部以下の範囲内となるようにするのがより好ましい。水溶液におけるポリビニルアルコール系樹脂の濃度が小さすぎると、接着性が低下しやすい傾向にあり、一方でその濃度が大きすぎると、得られる偏光板の光学特性が低下しやすい傾向にある。この接着剤に用いられる水は、純水、超純水、水道水などであることができ、特に制限されないが、形成される接着剤の均一性及び透明性を保持する観点からは、純水又は超純水が好ましい。また、メタノールやエタノール等のアルコールを接着剤水溶液に加えることもできる。
【0085】
ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水系接着剤には、架橋剤を含有させることができる。架橋剤は、ポリビニルアルコール系樹脂に対して反応性を有する官能基を有する化合物であればよく、従来からポリビニルアルコール系接着剤において用いられているものを特に制限なく使用できる。架橋剤となりうる化合物を官能基別に掲げると、イソシアナト基(-NCO)を分子内に少なくとも2個有するイソシアネート化合物;エポキシ基(橋かけの-O-)を分子内に少なくとも2個有するエポキシ化合物;モノ-又はジ-アルデヒド類;有機チタン化合物;マグネシウム、カルシウム、鉄、ニッケル、亜鉛、及びアルミニウムの如き二価又は三価金属の無機塩;グリオキシル酸の金属塩;メチロールメラミンなどがある。
【0086】
架橋剤となるイソシアネート化合物の具体例としては、トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとのアダクト体、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、これらのケトオキシムブロック物又はフェノールブロック物などが挙げられる。
【0087】
架橋剤となるエポキシ化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンのジ-又はトリ-グリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン、ポリアルキレンポリアミンとジカルボン酸との反応物であるポリアミドポリアミンにエピクロロヒドリンを反応させて得られる水溶性のポリアミドエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0088】
架橋剤となるモノアルデヒド類の具体例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドなどが挙げられ、ジアルデヒド類の具体例としては、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、フタルジアルデヒドなどが挙げられる。
【0089】
架橋剤となる有機チタン化合物は、マツモトファインケミカル(株)から各種のものが販売されている。同社の有機チタン化合物に係るホームページ(インターネット<URL:http://www.m-chem.co.jp/products/products1.html>、平成22年11月18日検索)から、本発明に好適に用いられる水溶性有機チタン化合物を、その示性式、同社がいう化学名、同社の商品名の順に掲げると、次のようなものがある。
【0090】
[(CHCHO]Ti[OCHCHN(CHCHOH):同社がいう化学名「チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)」、同社の商品名“オルガチックス TC-400”、
(HO)Ti[OCH(CH)COO-](NH :同社がいう化学名「チタンラクテートアンモニウム塩」、同社の商品名“オルガチックス TC-300”、
(HO)Ti[OCH(CH)COOH]:同社がいう化学名「チタンラクテート」、同社の商品名“オルガチックス TC-310”及び“オルガチックス TC-315”。
【0091】
また、グリオキシル酸の金属塩は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であるのが好ましく、例えば、グリオキシル酸ナトリウム、グリオキシル酸カリウム、グリオキシル酸マグネシウム、グリオキシル酸カルシウムなどが挙げられる。
【0092】
これらの架橋剤のなかでも、上述した水溶性のポリアミドエポキシ樹脂をはじめとするエポキシ化合物や、アルデヒド類、メチロールメラミン、グリオキシル酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩などが好適に用いられる。
【0093】
架橋剤は、ポリビニルアルコール系樹脂とともに水に溶解して接着剤を形成していることが好ましい。ただ、以下に述べるとおり、水溶液中での架橋剤量はわずかでよいので、水に対して例えば、少なくとも0.1質量%程度の溶解度を有するものであれば、架橋剤として使用できる。もちろん、一般に水溶性と呼ばれる程度の水に対する溶解度を有する化合物のほうが、本発明に用いる架橋剤としては好適である。
【0094】
架橋剤の配合量は、ポリビニルアルコール系樹脂の種類などに応じて適宜設計されるものであるが、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、通常5質量部以上60質量部以下、好ましくは10質量部以上50質量部以下である。この範囲で架橋剤を配合すると、良好な接着性が得られる。先述のとおり、接着剤の耐久性を向上させるためには、アセトアセチル基変性されたポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられるが、この場合にも、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対して、架橋剤を5~60質量部、さらには10質量部以上50質量部以下の割合で配合することが好ましい。架橋剤の配合量が多くなりすぎると、架橋剤の反応が短時間で進行し、接着剤が早期にゲル化する傾向にあり、その結果、ポットライフが極端に短くなって工業的な使用が困難になる。
【0095】
ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水系接着剤は、架橋剤とは別に、変色抑制の観点から好ましくは亜鉛塩を含有することができる。亜鉛塩としては、例えば塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛や、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛、硝酸亜鉛等が挙げられる。中でも好ましくは硝酸亜鉛である。亜鉛塩は、亜鉛塩溶液としてポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水系接着剤へ添加することができる。
【0096】
ポリビニルアルコール系樹脂を主成分とする水系接着剤が亜鉛塩を含有する場合、亜鉛塩の含有量は、水100質量部に対し、例えば0.01質量部以上10質量部以下であってよく、接着剤の耐久性を確保する観点から好ましくは0.1質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上2.5質量部以下である。
【0097】
接着剤には、本発明の効果を阻害しない範囲で、例えば、シランカップリング剤、可塑剤、帯電防止剤、微粒子など、従来公知の適宜の添加剤を配合することもできる。
【0098】
水系接着剤の主成分としてウレタン樹脂を用いる場合、適当な接着剤の例として、ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂とグリシジルオキシ基を有する化合物との混合物を挙げることができる。ここでいうポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂は、ポリエステル骨格を有するウレタン樹脂であって、その中に少量のイオン性成分(親水成分)が導入されたものである。かかるアイオノマー型ウレタン樹脂は、乳化剤を使用せずに直接、水中で乳化してエマルジョンとなるため、水系接着剤に好適に用いられる。ポリエステル系アイオノマー型ウレタン樹脂を偏光フィルムと保護フィルムの接着剤に用いることは、例えば、特開2005-070140号公報、特許第4432487号公報及び特開2005-208456号公報に記載されて公知である。
【0099】
活性エネルギー線硬化性接着剤としては、例えば紫外線硬化性接着剤等が挙げられる。
紫外線硬化型接着剤は、ラジカル重合性の(メタ)アクリル系化合物と光ラジカル重合開始剤の混合物や、カチオン重合性のエポキシ化合物と光カチオン重合開始剤の混合物等であることができる。また、カチオン重合性のエポキシ化合物とラジカル重合性の(メタ)アクリル系化合物とを併用し、開始剤として光カチオン重合開始剤と光ラジカル重合開始剤を併用することもできる。
【0100】
偏光子の両側に熱可塑性樹脂フィルムを貼合する場合、接着剤は同種であってもよいし、異種であってもよい。例えば、偏光子の両側に熱可塑性樹脂フィルムを貼合する場合、一方は水系接着剤を用いて貼合し、他方は活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて貼合してもよい。
【0101】
偏光板中の接着剤の厚みは、例えば0.001μm以上10μm以下であってよく、密着性および薄膜化の観点から好ましくは0.01μm以上5μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上3μm以下であり、さらに好ましくは0.02μm以上2μm以下である。
【0102】
[粘着剤層]
偏光板は、透光性部材および画像表示素子との貼合のために、第1熱可塑性樹脂フィルム側および第2熱可塑性樹脂フィルム側のいずれか一方の最外面に粘着剤層を有していてもよい。粘着剤層は、(メタ)アクリル系樹脂、ゴム系重合体、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂等のポリマーを主成分とする粘着剤組成物から構成することができる。中でも、透明性、耐候性、耐熱性等に優れる(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとする粘着剤組成物が好適である。粘着剤組成物は、活性エネルギー線硬化型、熱硬化型であってもよい。
【0103】
粘着剤組成物に用いられる(メタ)アクリル系樹脂(ベースポリマー)としては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステルの1種又は2種以上をモノマーとする重合体又は共重合体が好適に用いられる。ベースポリマーには、極性モノマーを共重合させることが好ましい。極性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の、カルボキシル基、水酸基、アミド基、アミノ基、エポキシ基等を有するモノマーを挙げることができる。
【0104】
粘着剤組成物は、上記ベースポリマーのみを含むものであってもよいが、通常は架橋剤をさらに含有する。架橋剤としては、カルボキシル基との間でカルボン酸金属塩を形成する2価以上の金属イオン;カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリアミン化合物;カルボキシル基との間でエステル結合を形成するポリエポキシ化合物やポリオール;カルボキシル基との間でアミド結合を形成するポリイソシアネート化合物が例示される。中でも、ポリイソシアネート化合物が好ましい。
【0105】
粘着剤層の形成は、トルエンや酢酸エチル等の有機溶剤に粘着剤組成物を溶解又は分散させて粘着剤液を調製し、これを積層体の対象面に直接塗工して粘着剤層を形成する方式や、離型処理が施されたセパレートフィルム上に粘着剤層をシート状に形成しておき、それを偏光板の対象面に移着する方式等により行うことができる。
粘着剤層の厚みは、その接着力等に応じて決定されるが、例えば1μm以上50μm以下の範囲であってよく、好ましくは2μm以上40μm以下、より好ましくは3μm以上30μm以下、さらに好ましくは3μm以上25μm以下である。
【0106】
偏光板は、上記のセパレートフィルムを含み得る。セパレートフィルムは、ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂等からなるフィルムであることができる。中でも、ポリエチレンテレフタレートの延伸フィルムが好ましい。
【0107】
粘着剤層は、任意成分、ガラス繊維、ガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉や他の無機粉末からなる充填剤;顔料;着色剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤等を含むことができる。
【0108】
[光学機能層]
光学機能層は、所望の光学機能を付与するための、偏光子以外の他の光学機能性フィルムであってよい。光学機能性フィルムの好適な一例は位相差フィルムである。位相差フィルムとしては、例えばλ/2の位相差を与えるフィルム(λ/2波長板)、λ/4の位相差を与えるフィルム(λ/4波長板)及びポジティブCプレート等が挙げられる。光学機能性フィルムは、配向層及び基材を含んでいてよいし、液晶層、配向層及び基材をそれぞれ2以上有していてもよい。
熱可塑性樹脂フィルムが位相差フィルムを兼ねることもできるが、これらのフィルムとは別途に位相差フィルムを積層することができる。
【0109】
位相差フィルムとしては、透光性を有する熱可塑性樹脂の延伸フィルムから構成される複屈折性フィルム;ディスコティック液晶またはネマチック液晶が配向固定されたフィルム;基材フィルム上に上記の液晶層が形成されたもの等が挙げられる。
基材フィルムは通常、熱可塑性樹脂からなるフィルムであり、熱可塑性樹脂の一例は、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂である。
【0110】
偏光板に含まれ得る他の光学機能性フィルム(光学部材)の例は、集光板、輝度向上フィルム、反射層(反射フィルム)、半透過反射層(半透過反射フィルム)、光拡散層(光拡散フィルム)等である。これらは一般的に、偏光板が液晶セルの背面側(バックライト側)に配置される場合に設けられる。
【0111】
[プロテクトフィルム]
偏光板は、その表面(典型的には、偏光板の熱可塑性樹脂フィルムの表面)を保護するためのプロテクトフィルムを含むことができる。プロテクトフィルムは、例えば画像表示素子や他の光学部材に偏光板が貼合された後、それが有する粘着剤層ごと剥離除去される。
【0112】
プロテクトフィルムは、例えば、基材フィルムとその上に積層される粘着剤層とで構成される。粘着剤層については上述の記述が引用される。基材フィルムを構成する樹脂は、例えば、ポリエチレンのようなポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン等のポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂であることができる。好ましくは、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂である。
【0113】
プロテクトフィルムの厚みとしては、特に限定されないが、20μm以上200μm以下の範囲とすることが好ましい。基材フィルムの厚みが20μm以上であると、偏光板に強度が付与され易くなる傾向にある。
【0114】
<偏光板の製造方法>
本発明の別の一態様に係る偏光板の製造方法は、偏光子と、その片側に接着剤を介して貼合された第1熱可塑性樹脂フィルムとを備える偏光板の製造方法である。偏光板の製造方法は、上述の偏光子製造工程を含むことができる。偏光板の製造方法は、上述の範囲内の単体色相b値および波長700nmにおける吸光度を得る観点から好ましくはポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水で洗浄する洗浄工程であって、22℃を超える温度の洗浄液では洗浄しない洗浄工程およびポリビニルアルコール系樹脂フィルムを96℃以上の温度で乾燥させる乾燥工程の少なくともいずれか一方を含む。
【0115】
偏光子の製造方法は、第1熱可塑性樹脂フィルムを接着剤を介して偏光子の片側に貼合し、接着剤を85℃以上の温度で乾燥する貼合工程をさらに含むことができる。貼合工程において、接着剤を偏光子および第1熱可塑性樹脂フィルムの貼合面のいずれか一方又はその両方に塗工し、これにもう一方の貼合面を積層し、例えば貼合ロール等を用いて上下から押圧して貼合することができる。接着剤の塗工には、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーターなど、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子および第1熱可塑性樹脂フィルムを両者の貼合面が内側となるように連続的に供給しながら、その間に接着剤を流延させる方式であってもよい。
【0116】
偏光子と第1熱可塑性樹脂フィルムとを貼合した後、偏光子と接着剤と第1熱可塑性樹脂フィルムとを含む積層体に対して加熱処理を施すことにより、接着剤を乾燥させることができる。溶媒の蒸発、硬化、架橋は異なる温度で反応が進行するため、徐々に高くなるように連続的、又は多段階で加熱処理されることが好ましい。加熱処理の温度は、上述の範囲内の単体色相b値および波長700nmにおける吸光度を得る観点から、好ましくは85℃以上で処理される処理を含むことである。接着剤を乾燥させる加熱処理の温度の上限は、通常100℃以下であり、好ましくは90℃以下である。加熱処理によって接着剤に含まれる溶剤を除去することができる。また、接着剤が硬化性接着剤である場合には、該加熱処理によって硬化・架橋反応を進行させることができる。
【0117】
接着剤として活性エネルギー線硬化性接着剤を用いる場合、貼合後、活性エネルギー線を照射することによって接着剤を硬化させることができる。活性エネルギー線の光源は特に限定されないが、波長400nm以下に発光分布を有する活性エネルギー線(紫外線)が好ましく、具体的には、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が好ましく用いられる。
【0118】
偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの接着性を向上させるために、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの貼合に先立ち、偏光子および/または熱可塑性樹脂フィルムの貼合面に、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、プライマー塗布処理、ケン化処理等の表面処理を施してもよい。
【0119】
偏光板が第2熱可塑性樹脂フィルムを備える場合、偏光子と第2熱可塑性樹脂フィルムとの貼合は、偏光子と第1熱可塑性樹脂フィルムとの貼合と同様にして行うことができる。偏光子と第2熱可塑性樹脂フィルムとの貼合は、偏光子と第1熱可塑性樹脂フィルムとの貼合の前または後に行ってよく、偏光子と第1熱可塑性樹脂フィルムとの貼合と同時に行ってもよい。
【0120】
<偏光板の用途>
偏光板は、テレビ、パーソナルコンピューター、携帯電話やタブレット端末等のモバイル機器用途に用いることができる。また、偏光板は、高温(105℃)および長時間(600時間以上)の耐久試験後にも変色が抑制されることから、より過酷な温度条件下に曝されやすい車載用途に好適である。車載用途としては、例えば、カーナビゲーション装置、スピードメーター、エアコン用タッチパネル、バックモニターおよびリアモニター等に用いる画像表示装置等が挙げられる。
【実施例
【0121】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記のない限り、質量%及び質量部である。
【0122】
[製造例1:水系接着剤(1)の調製]
アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール〔商品名“ゴーセファイマー Z-200”、日本合成化学工業(株)製、4%水溶液の粘度=12.4mPa・sec、ケン化度=99.1モル%〕を純水に溶解し、10%濃度の水溶液を調製した。得られたアセトアセチル基変性ポリビニルアルコール水溶液と、架橋剤となるグリオキシル酸ナトリウムとを、水溶液:グリオキシル酸ナトリウムの固形分質量比が1:0.1となるように混合した。さらに水100部に対して硝酸亜鉛が1.5部、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコールが2.5部となるように硝酸亜鉛及び純水を添加して、水系接着剤組成物(1)を調製した。
【0123】
<実施例1>
幅3390mmおよび厚み60μmの長尺のポリビニルアルコール(PVA)原反フィルム(クラレ社製の商品名「M6000」、ケン化度99.9モル%以上)をロールから巻出しながら連続的に搬送し、28℃の純水からなる膨潤浴に滞留時間45秒で浸漬させた(膨潤工程)。その後、膨潤浴から引き出したフィルムを、ヨウ化カリウム/水が1.5/100(質量比)であるヨウ素を含む30℃の染色浴に滞留時間120秒で浸漬させた(染色工程)。次いで、染色浴から引き出したフィルムを、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が0.5/0.6/100(質量比)である30℃の第1架橋浴に滞留時間70秒で浸漬させ、続いて、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水が15/4.9/100(質量比)である60℃の第2架橋浴に滞留時間50秒で浸漬させた(架橋工程)。その後フィルムを7℃の純水からなる洗浄浴に滞留時間40秒で浸漬させた。さらに、中央部の温度を5.3℃、両端側の温度を22℃の水温でシャワーをかけることにより洗浄を行った(洗浄工程)。得られたPVAを、以下の3段階の温度および時間の乾燥条件(1段目:75℃15秒、2段目:85℃15秒、3段目:96℃15秒)にて連続的に乾燥させた(乾燥工程)。染色工程および架橋工程において、浴中でのロール間延伸により縦一軸延伸を行った。原反フィルムを基準とする総延伸倍率は5.8倍とした。得られた偏光子の厚みは25μmであった。
【0124】
このようにして得られた偏光子に対し、保護フィルムとしてトリセチルセルロースからなる熱可塑性樹脂フィルム(商品名「KC4CT1W」、コニカミノルタ社製)を、水系接着剤組成物(1)を介して貼合温度70℃で貼合し、次いで、以下の3段階の温度および時間の乾燥条件(1段目:60℃25秒、2段目:85℃25秒、3段目:90℃25秒)にて連続的に水系接着剤を乾燥させた(貼合工程)。なお、水系接着剤は、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面に厚み200nmで塗布した。得られた偏光板について亜鉛含有量の測定を行ったところ、280ppmであった。単体色相b値および波長700nmにおける吸光度の測定結果および耐久試験結果を表1に示す。
【0125】
<比較例1>
実施例1の洗浄工程において両端側のシャワーの水温を24℃としたこと、乾燥工程において、3段目の温度を93℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の偏光板を作製した。得られた偏光板について亜鉛含有量の測定を行ったところ、280ppmであった。単体色相b値および波長700nmにおける吸光度の測定結果および耐久試験結果を表1に示す。
【0126】
[耐久試験]
得られた偏光板をカットして耐久試験用サンプル(寸法:12cm×30cm)を作製した。この耐久試験用サンプルを1時間オートクレーブ処理[温度50℃、圧力5kg/cm(490.3kPa)]を施した後、温度23℃、相対湿度55%の環境下で24時間放置した。温度105℃の加熱環境下で加熱試験を行い、加熱前後での色の変化を目視にて確認した。色が変化するまでに要した時間を測定した。
【0127】
[単体色相b値および波長700nmにおける吸光度の測定]
耐久試験前の偏光板の単体色相b値および波長700nmにおける吸光度を分光光度計(日本分光株式会社製の「V-7100」)を用いて測定した。
【0128】
[亜鉛含有量の測定]
偏光板中の亜鉛含有量の測定は、以下のようにして行った。
精秤した偏光板に硝酸を加え、マイルストーンゼネラル製マイクロ波試料前処理装置(ETHOS D)で酸分解して得られた溶液を測定液とした。亜鉛濃度は、アジレントテクノロジー製ICP発光分光分析装置(5110 ICP-OES)で測定液の亜鉛濃度を定量し、偏光板質量に対する亜鉛質量で算出した。
【0129】
【表1】
【符号の説明】
【0130】
10 偏光板、11 第1熱可塑性樹脂フィルム、12 偏光子、13 第2熱可塑性樹脂フィルム、110 ポリビニルアルコール系樹脂の原反フィルム、111 繰出しロール、113 膨潤槽、115 染色槽、117 架橋槽、119 洗浄槽、123 乾燥炉、127 巻取ロール、130 偏光子。
図1
図2
図3