(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】酸化物半導体薄膜、半導体デバイス及びその製造方法、並びにスパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20240205BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240205BHJP
H01L 21/363 20060101ALI20240205BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240205BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240205BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 618Z
H01L21/363
C23C14/08 K
C23C14/34 A
C04B35/01
(21)【出願番号】P 2023149622
(22)【出願日】2023-09-14
【審査請求日】2023-09-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】早坂 遼一路
(72)【発明者】
【氏名】上野 充
(72)【発明者】
【氏名】半那 拓
(72)【発明者】
【氏名】谷野 健太
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084636(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/027244(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 21/363
C23C 14/08
C23C 14/34
C04B 35/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム、ガリウム、及びアルミニウムを下記組成で含む酸化物を主成分とする酸化物半導体で構成され、
前記
酸化物のX、Y及びZの組成比は、In、Ga及びAlの3成分系相図の下記A点とB点を結ぶ線分、下記B点と
E点とを結ぶ線分、下記
E点とD点とを結ぶ線分、及び下記D
点と下記A点とを結ぶ線分とで囲まれる領域の組成比である
酸化物半導体薄膜。
組成:In
XGa
YAl
Z
A点:In
10Ga
90Al
0
B点:In
30Ga
30Al
40
E点:In
40
Ga
45
Al
15
D点:In
45Ga
55Al
0
【請求項2】
300℃以上の高温処理後のキャリア濃度が1×10
18cm
-3以下である
請求項1記載の酸化物半導体薄膜。
【請求項3】
300℃以上の高温処理後の移動度が、1cm
2/Vs以上である
請求項1記載の酸化物半導体薄膜。
【請求項4】
リン酸系エッチャントでエッチングした際のエッチングレートが1nm/sec以上である
請求項1記載の酸化物半導体薄膜。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の酸化物半導体薄膜を具備する半導体デバイス。
【請求項6】
ゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極及びドレイン電極を有する半導体デバイスであり、前記酸化物半導体薄膜が前記活性層である請求項5記載の半導体デバイス。
【請求項7】
酸化物半導体薄膜を具備する半導体デバイスの製造方法であって、
前記酸化物半導体薄膜の少なくとも一部として、請求項1~4のいずれか一項に記載の酸化物半導体薄膜を成膜する工程と、
前記酸化物半導体薄膜の酸化物半導体の還元処理を含む工程と、を具備する
半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
インジウム、ガリウム、及びアルミニウムを下記組成で含む酸化物を主成分とする酸化物焼結体で構成され、
前記
酸化物のX、Y及びZの組成比は、In、Ga及びAlの3成分系相図の下記A点とB点を結ぶ線分、下記B点と
E点とを結ぶ線分、下記
E点とD点とを結ぶ線分、及び下記D
点と下記A点とを結ぶ線分とで囲まれる領域の組成比である
スパッタリングターゲット。
組成:In
XGa
YAl
Z
A点:In
10Ga
90Al
0
B点:In
30Ga
30Al
40
E点:In
40
Ga
45
Al
15
D点:In
45Ga
55Al
0
【請求項9】
スパッタリングターゲットにおいて、
相対密度が90%以上である
請求項8に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、及び酸化アルミニウム粉末を混合して成形体を形成し、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、請求項8又は9に記載の酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットを製造する
スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項11】
インジウム、ガリウム、及びアルミニウムの酸化物、水酸化物または炭酸塩を混合して1000℃~1500℃で仮焼成した前駆体粉末を成形して成形体とし、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、請求項8又は9に記載の酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットを製造する
スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体薄膜、半導体デバイス及びその製造方法、並びにスパッタリングターゲット及びスパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
In-Ga-Zn-O系酸化物半導体膜(IGZO)を活性層に用いた薄膜トランジスタ(TFT:Thin-Film Transistor)は、従来のアモルファスシリコン膜を活性層に用いたTFTと比較して、高移動度を得ることができることから、近年、種々のディスプレイに幅広く適用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ディスプレイ以外の半導体デバイスにIGZOを適用する研究が、近年活発化している。しかしながら、デバイスの信頼性試験において閾値電圧がネガティブシフト(Negative Shift)することが問題になっている(非特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A. Chasin et al., “Understanding and modelling the PBTI reliability of thin-film IGZO transistors,” vol. 1, pp. 31.1.1-31.1.4, 2022
【文献】J. Guo et al., “Compact Modeling of IGZO-based CAA-FETs with Time-zero-instability and BTI Impact on Device and Capacitor-less DRAM Retention Reliability,” Dig. Tech. Pap. - Symp. VLSI Technol., vol. 2022-June, pp. 300-301, 2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
半導体デバイスでは、ディスプレイデバイスよりもプロセス温度が高く、酸化物半導体が還元され易いことや、ディスプレイデバイスより高い信頼性が要求されるため、高温でも閾値電圧がネガティブシフト(Negative Shift)しない酸化物半導体材料が必要となる。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、キャリア濃度が低く、ホール移動度が高い酸化物半導体薄膜であり、これを活性層とした薄膜半導体デバイスは、高温でも閾値電圧がネガティブシフトしない、酸化物半導体薄膜及びそれを用いた半導体デバイス、このような酸化物半導体薄膜を形成できるスパッタリングターゲット及びその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために種々研究を重ねた結果、所定の組成比を有するインジウム、ガリウム、及びアルミニウムを含む酸化物半導体薄膜が高温プロセス後も低いキャリア濃度を維持し、閾値電圧がネガティブシフトしないことを知見し、本発明を完成させた。
かかる本発明は、以下のとおりである。
【0009】
本発明の第1の態様は、インジウム、ガリウム、及びアルミニウを下記組成で含む酸化物を主成分とする酸化物半導体で構成され、前記酸化物半導体が、In、Ga及びAlの3成分系相図の下記A点とB点を結ぶ線分、下記B点とC点とを結ぶ線分、下記C点とD点とを結ぶ線分、及び下記Dと下記A点とを結ぶ線分とで囲まれる領域の組成比である酸化物半導体薄膜である。
組成:InXGaYAlZ
A点:In10Ga90Al0
B点:In30Ga30Al40
C点:In45Ga15Al40
D点:In45Ga55Al0
本発明の第2の態様は、キャリア濃度が1×1018cm-3以下である第1の態様に記載の酸化物半導体薄膜である。
本発明の第3の態様は、ホール移動度が、1cm2/Vs以上である第1の態様に記載の酸化物半導体薄膜である。
本発明の第4の態様は、リン酸系エッチャントでエッチングした際のエッチングレートが1nm/sec以上である第1の態様に記載の酸化物半導体薄膜である。
本発明の第5の態様は、酸化物半導体薄膜を具備する半導体デバイスであって、前記酸化物半導体薄膜の少なくとも一部が、第1~4のいずれかの態様に記載の酸化物半導体薄膜である半導体デバイスである。
本発明の第6の態様は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極及びドレイン電極を有する半導体デバイスであり、前記酸化物半導体薄膜が前記活性層である第5の態様に記載の半導体デバイスである。
本発明の第7の態様は、酸化物半導体薄膜を具備する半導体デバイスの製造方法であって、前記酸化物半導体薄膜の少なくとも一部として、第1~4のいずれかの態様に記載の酸化物半導体薄膜を成膜する工程と、前記酸化物半導体薄膜の酸化物半導体の還元処理を含む工程と、を具備する半導体デバイスの製造方法である。
本発明の第8の態様は、インジウム、ガリウム、及びアルミニウムを下記組成で含む酸化物を主成分とする酸化物焼結体で構成され、前記酸化物半導体が、In、Ga及びAlの3成分系相図の下記A点とB点を結ぶ線分、下記B点とC点とを結ぶ線分、下記C点とD点とを結ぶ線分、及び下記Dと下記A点とを結ぶ線分とで囲まれる領域の組成比であるスパッタリングターゲットである。
組成:InXGaYAlZ
A点:In10Ga90Al0
B点:In30Ga30Al40
C点:In45Ga15Al40
D点:In45Ga55Al0
本発明の第9の態様は、スパッタリングターゲットにおいて、相対密度が90%以上である第8の態様に記載のスパッタリングターゲットである。
本発明の第10の態様は、酸化インジウム粉末、酸化ガリウム粉末、及び酸化アルミニウム粉末を混合して成形体を形成し、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、第8又は9の態様に記載の酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットを製造するスパッタリングターゲットの製造方法である。
本発明の第11の態様は、インジウム、ガリウム、及びアルミニウムの酸化物、水酸化物または炭酸塩を混合して1000℃~1500℃で仮焼成した前駆体粉末を成形して成形体とし、1100℃以上1650℃以下で前記成形体を焼成して、第8又は9の態様に記載の酸化物焼結体を有するスパッタリングターゲットを製造するスパッタリングターゲットの製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
かかる本発明は、インジウム、ガリウム、及びアルミニウムからなる所定の組成を有する酸化物焼結体は、キャリア濃度が1×1018cm-3以下と低く、ホール移動度が1cm2/Vs以上の酸化物半導体薄膜となり、これを半導体デバイスの活性層とすると、高温でも閾値電圧がネガティブシフトしない半導体デバイスが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の酸化物半導体の組成を示す三元系図を示す図である。
【
図2】本発明の半導体デバイスの構造の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の半導体デバイスの構造の一例を示す断面図である。
【
図4】本発明の半導体デバイスの構造の一例を示す断面図である。
【
図5】本発明の半導体デバイスの構造の一例を示す断面図である。
【
図6】本発明の半導体デバイスの構造の一例を示す断面図である。
【
図7】半導体デバイス8の伝達特性を示す図である。
【
図8】比較半導体デバイスの閾値電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
[酸化物半導体薄膜]
本発明の酸化物半導体薄膜は、インジウム、ガリウム、及びアルミニウムを下記組成で含む酸化物を主成分とする酸化物半導体で構成され、前記酸化物半導体が、In、Ga及びAlの3成分系相図の下記A点とB点を結ぶ線分、下記B点とC点とを結ぶ線分、下記C点とD点とを結ぶ線分、及び下記Dと下記A点とを結ぶ線分とで囲まれる領域の組成比であるものである。
組成:InXGaYAlZ
A点:In10Ga90Al0
B点:In30Ga30Al40
C点:In45Ga15Al40
D点:In45Ga55Al0
【0014】
この組成範囲を
図1に示す。
In含有酸化物は酸素欠損を生じやすく、Inが45%を超えると、高温でキャリア濃度が高くなりすぎるため使用不可となる。一方、Ga、Alは、酸素欠損の発生を抑制するが、Alが40%を超えると、キャリア濃度が低すぎ、導電性が得られないため使用不可となる。また、Ga及びAlの両方が多い領域では、導電性が得られ難くなるので使用不可となる。
【0015】
そして、上述したA点、B点、C点およびD点をそれぞれ結ぶ線分で囲まれた範囲の組成では、キャリア濃度が1×1018cm-3以下と低く、ホール移動度が1cm2/Vs以上の酸化物半導体薄膜となることがわかった。
【0016】
かかる酸化物半導体を用いて形成した酸化物半導体薄膜は、上述したキャリア濃度とホール移動度とを有するので、本発明の酸化物半導体薄膜を活性層とした半導体デバイス、すなわち、TFTなどのゲート電極、ゲート絶縁膜、活性層、ソース電極及びドレイン電極を有する半導体デバイスでは、キャリア濃度をあげるために還元処理が必要となるが、還元処理を施した後でも、キャリア濃度が1×1018cm-3以下を維持できることもわかった。
【0017】
かかる還元処理は、還元するために特別に行う必要はなく、酸化物半導体薄膜形成後、300℃程度又は300℃を超えるようなプロセス、例えば、CVDでのSiO成膜処理プロセスなどにより、同時に酸化物半導体薄膜の還元処理を行うことができる。
【0018】
また、本発明の酸化物半導体薄膜は、ウェットエッチングでパターニングでき、例えば、リン酸系エッチャントでエッチングした際のエッチングレートが1nm/sec以上である。ここで、リン酸系エッチャントとしては、リン酸70~80%、硝酸1~9%、および酢酸1~10%の成分を有するPAN系エッチング液を挙げることができる。
【0019】
ここで、本発明の酸化物半導体の好ましい範囲を
図1の三元系図に示す。
この三元系図に示す通り、下記P点、Q点、R点およびS点で囲まれる範囲の酸化物半導体は、ホール移動度が2cm
2/Vs以上であり、キャリア濃度が5×10
16cm
-3以下であり、比較的高移動度を維持することができ、より好ましい組成範囲となる。
P点:In
15Ga
85Al
0
Q点:In
30Ga
45Al
25
R点:In
45Ga
35Al
25
S点:In
40Ga
60Al
0
【0020】
本発明の酸化物半導体薄膜の成膜方法は、特に限定されない。例えば、成膜する組成と同じ組成のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより成膜してもよいし、原子層堆積(ALD)法や真空蒸着法などによって成膜してもよく、アモルファスな酸化物半導体薄膜が成膜できれば成膜方法は特に限定されない。
【0021】
また、本発明の酸化物半導体薄膜は、TFTなどの薄膜半導体トランジスタである薄膜半導体デバイス(単に、半導体デバイスともいう)の活性層として用いることができる。
【0022】
本発明の酸化物半導体薄膜を備える薄膜半導体デバイスは、アモルファス酸化物半導体薄膜からなる活性層と、前記活性層の一方の面にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、前記活性層に接続するソース電極及びドレイン電極と、を具備する薄膜半導体装置であって、前記活性層が上述した本発明の酸化物半導体薄膜からなるものである。
【0023】
具体的な半導体デバイスは、前記ゲート絶縁膜及び前記ゲート電極は、前記活性層の上面に設けられ、前記ソース電極及び前記ドレイン電極は、前記活性層の上面側に設けられている構造を挙げることができる。
かかる薄膜半導体装置の一例の構造を
図3に示す。
【0024】
図2に本発明に係る薄膜トランジスタの一例の概略構成を示す。
本実施形態の薄膜トランジスタ110は、基板10上に、活性層11と、ゲート絶縁膜12と、ゲート電極13と、保護膜(パッシベーション)14とを具備し、活性層11から保護膜14を介して引き出されたソース電極15S及びドレイン電極15Dを有する。
【0025】
基板10は、典型的には、Si基板やガラス基板である。ゲート電極13は、典型的には、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)などの金属単層膜あるいは多層膜、またはTiN、W、WSiなど半導体デバイスに使用される一般的なゲート電極材料で構成され、例えばスパッタリング法によって形成される。本実施形態では、ゲート電極13は、モリブデンで構成される。ゲート電極13の厚さは特に限定されず、例えば、200nmである。ゲート電極13は、例えば、スパッタリング法、ALD法、真空蒸着法等で成膜される。
【0026】
活性層11は、薄膜トランジスタ110のチャネル層として機能する。活性層11の膜厚は、例えば5nm~200nmである。活性層11は、上述した本発明の酸化物半導体薄膜で構成される。活性層11は、例えば、スパッタリング法、ALD法、真空蒸着法等で成膜される。
【0027】
ゲート絶縁膜12は、ゲート電極13と活性層11との間に形成される。ゲート絶縁膜12は、例えば、シリコン酸化膜(SiOx)、シリコン窒化膜(SiNx)又はこれらの積層膜で構成される。成膜方法は特に限定されず、CVD法でもよいし、スパッタリング法、蒸着法等であってもよい。ゲート絶縁膜12の膜厚は特に限定されず、例えば、200nm~400nmである。
【0028】
ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、保護膜14及びキャップ層13の上に相互に離間して形成される。ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、例えば、アルミニウム、モリブデン、銅、チタンなどの金属単層膜あるいはこれら金属の多層膜で構成することができる。後述するように、ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、金属膜をパターニングすることで同時に形成することができる。当該金属膜の厚さは、例えば、100nm~200nmである。ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法等で成膜される。
【0029】
薄膜トランジスタ110の活性層11の上面及び下面の少なくとも一方に、活性層11よりもキャリア密度が小さい半導体薄膜を具備するようにしてもよい。
【0030】
このような薄膜トランジスタの一例を
図3に示す。
図3の薄膜トランジスタ110Aは、活性層11の下面及び上面の両方にキャリア密度が小さい半導体薄膜11A及び11Bを有するものである。
半導体薄膜11A及び11Bとしては、例えば、InGaAl酸化物(IGA)でキャリア濃度の大きな膜を挙げることができる。また、半導体薄膜11A及び11Bは、活性層11と同様に、例えば、スパッタリング法、ALD法、真空蒸着法等で成膜される。
【0031】
本発明の薄膜トランジスタとしてはこのような構造に限定されず、
図4~
図6に示すような構造の薄膜トランジスタとしてもよい。
【0032】
図4の薄膜トランジスタ110Bは、活性層11の下面にゲート電極13が設けられた構造であり、基板10上にゲート電極13、ゲート絶縁膜12及び活性層11と積層された構造を有し、ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、ゲート絶縁膜12及び活性層11上から引き出されている。
【0033】
図5の薄膜トランジスタ110Cは、
図4の薄膜トランジスタ110Bのゲート絶縁膜12及び活性層11の上にエッチングストップ層16を設けた構造を有する。
【0034】
図6の薄膜トランジスタ110Dは、デュアルゲートタイプTFTであり、活性層11の下面側にゲート絶縁層12Aを介してボトムゲート電極13Aを有し、上面側にゲート絶縁層12Bを介してトップゲート電極13Bを具備するものであり、ソース電極15S及びドレイン電極15Dは、活性層11に連続して設けられたn-層11A、すなわち、N型不純物濃度の薄いN型層を介して引き出されている。
【0035】
なお、以上説明した具体例は横型トランジスタを例示したいが、これらに限定されず、縦型トランジスタであってもよいことは言うまでもない。
【0036】
[半導体デバイス1-16]
下記表に示す組成の各種酸化物半導体薄膜を用いて、
図6に示すエッチングストップ層(ESL)を有するESLタイプの薄膜トランジスタを製造した。酸化膜半導体薄膜は、活性層として利用した。
【0037】
下記表に示す組成の酸化物半導体薄膜は、In2O3、Ga2O3、およびAl2O3のスパッタリングターゲットを用い、マルチカソードで各種組成のIn-Ga-Al-O薄膜を成膜した。
【0038】
図5のESLタイプの半導体デバイスは、以下の手順で製造した。
まず、基板10上にゲート電極用金属としてMo層を成膜し、パターニングしてゲート電極13を形成した。
【0039】
次いで、ゲート絶縁膜13として、SiO(上)/SiN(下)の積層膜を成膜した。
【0040】
次いで、上述したとおり、各種組成の酸化物半導体薄膜(表1のサンプル1-16)からなる活性層11を成膜し、400℃でアニールして、リン酸系エッチャントを用いてウェットエッチングによりパターニングした。
【0041】
次に、ESLとして、CVDによりSiOxを成膜し、エッチングストップ層16とした。このCVD成膜プロセスでは300℃程度の加熱状態となり、この工程により、活性層11を形成する酸化物半導体は還元処理される。
【0042】
この後、エッチングストップ層16をパターニングし、ソースドレイン用金属膜としてTiを成膜し、パターニングし、次いで、保護膜(パッシベーション)14を成膜し、アニールした後、保護膜14をパターニングし、最後にソース電極15S、ドレイン電極15Dを形成した。
【0043】
(サンプル1-17)
表1の組成を有するサンプル1-17について、CVDによるSiOx成膜後のホール移動度とキャリア濃度を測定した。
【0044】
具体的には、ガラス基板に成膜した酸化物半導体膜50nm上にSiO100nmをCVDで成膜した後、7mm角にカットして、4隅をドライエッチング装置にてエッチングし、ホール効果測定用サンプルとした。
【0045】
ホール効果測定用サンプルを比抵抗/ホール測定システム(ResiTest8400AC;東陽テクニカ社製)にセットし、室温においてホール効果を評価し、キャリア密度及び移動度を測定した。
結果は表1に示す。
【0046】
この結果、サンプル1、2、5~11及び15の酸化物半導体薄膜は、キャリア濃度が1×1018cm-3以下と低く、ホール移動度が1cm2/Vs以上となることがわかった。
また、特に、サンプル1、5、7~11酸化物半導体薄膜は、特に好ましいことがわかった。
一方、サンプル3、4は絶縁体となり、サンプル12、14は、ホール移動度が1cm2/Vsより小さくなり、サンプル13は、キャリア濃度が1×1018cm-3より大きく、それぞれ好ましくなかった。
【0047】
【0048】
(半導体デバイス8)
サンプル8の酸化物半導体薄膜を活性層とする
図6の構造の半導体デバイス8について、ゲート電圧とドレイン電流との関係を示す伝達特性を測定した
活性層11の上にCVDにより設けたSiOからなるゲート絶縁層12Bの成膜温度は300℃とした。
閾値電圧(ドレイン電流が1nAとなるときのゲート電圧)はA~Dの4箇所で測定した。結果は
図7に示すとおり、何れも閾値電圧は-0.5~3Vであり、ネガティブシフトしていないことが確認された。
【0049】
(比較半導体デバイス)
活性層をIGZO111(In:Ga:Zn=33.3:33.3:33.3)と、CVDの成膜温度を270℃と低くした以外は、同様にしたデバイスを作成し、閾値電圧を測定した。結果は
図8に示すとおり、スイッチング動作しないノーマリーオン状態となり、閾値電圧が測定できなかった。
【0050】
図7,
図8の結果より、本発明の酸化物半導体を用いた半導体デバイスは、高温処理をしても閾値電圧がネガティブシフトせず、耐熱性に優れていることがわかった。
【0051】
(スパッタリングターゲット)
上記表1のサンプル8の組成となるように、酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウムを秤量し、ボールミルを用いて混合した。混合された粒末を、大気下で、1000℃で10時間保持することにより焼結し、焼結体を得た。
【0052】
実施例において酸化インジウム、酸化ガリウム、酸化アルミニウムを原料とし、大気中で焼結することで、96.4%の相対密度を持った焼結体が得られた。この焼結体は絶縁体であるが、RFスパッタリングによって本発明の酸化物半導体薄膜の成膜が可能である。
【符号の説明】
【0053】
10 基板
11 活性層
11A,B 半導体薄膜
12 ゲート絶縁膜
12A ゲート絶縁層
12B ゲート絶縁層
13 ゲート電極
13A ボトムゲート電極
13B トップゲート電極
14 保護膜
15D ドレイン電極
15S ソース電極
16 エッチングストップ層
110 薄膜トランジスタ
【要約】
【課題】キャリア濃度が低く、ホール移動度が高い酸化物半導体薄膜であり、これを活性層とした薄膜半導体デバイスは、高温でも閾値電圧がネガティブシフトしない、酸化物半導体薄膜及びそれを用いた半導体デバイス、このような酸化物半導体薄膜を形成できるスパッタリングターゲット及びその製造方法を実現する。
【解決手段】 インジウム、ガリウム、及びアルミニウムを下記組成で含む酸化物を主成分とする酸化物半導体で構成され、前記酸化物半導体のX、Y及びZの組成比は、In、Ga及びAlの3成分系相図の下記A点とB点を結ぶ線分、下記B点とC点とを結ぶ線分、下記C点とD点とを結ぶ線分、及び下記Dと下記A点とを結ぶ線分とで囲まれる領域の組成比である酸化物半導体薄膜。
組成:In
XGa
YAl
Z
A点:In
10Ga
90Al
0
B点:In
30Ga
30Al
40
C点:In
45Ga
15Al
40
D点:In
45Ga
55Al
0
【選択図】
図1