(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-02
(45)【発行日】2024-02-13
(54)【発明の名称】変性水添ブロック共重合体及び樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 8/04 20060101AFI20240205BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20240205BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240205BHJP
【FI】
C08F8/04
C08L53/02
C08L23/00
(21)【出願番号】P 2023555587
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2022046282
(87)【国際公開番号】W WO2023112996
(87)【国際公開日】2023-06-22
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2021205330
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真裕
(72)【発明者】
【氏名】千田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 遼
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/230527(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/103048(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136760(WO,A1)
【文献】特開2005-320459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00、301/00
C08L 23/00、53/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)を含むブロック共重合体の変性水素添加物であって、
前記共役ジエン化合物が、イソプレンと、イソプレン以外の共役ジエン化合物とを含有し、
前記重合体ブロック(A-2)のビニル結合量が30モル%以下であり、
アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有し、
JIS K7244-10:2005に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~+120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定した損失正接(tanδ)のピークトップ強度が0.95以下であり、
JIS K7210:2014に準拠して、温度230℃、荷重21Nの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が0.5~15g/10minである、変性水素添加物(A)。
【請求項2】
重量平均分子量が10,000~400,000である、請求項1に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項3】
重合体ブロック(A-2)の水素添加率が80モル%以上である、請求項1又は2に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項4】
前記官能基の含有量が、前記変性水素添加物(A)に対して、0.1~5.0phrである、請求項1又は2に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項5】
無水マレイン酸由来の基を有する、請求項1又は2に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項6】
前記ブロック共重合体が、イソプレン由来の構造単位を含む重合体ブロック(A-3)をさらに有し、
前記ブロック共重合体の結合形式が、重合体ブロック(A-1)をAで、重合体ブロック(A-2)をBで、重合体ブロック(A-3)をCで表したとき、A-B-A-Cで示されるテトラブロック共重合体である、請求項1又は2に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項7】
前記ブロック共重合体中の前記重合体ブロック(A-3)の比率が、前記ブロック共重合体全体の40質量%以下である、請求項6に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項8】
前記重合体ブロック(A-3)のビニル結合量が2~90モル%である、請求項6に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項9】
前記重合体ブロック(A-3)中のイソプレンに由来する構造単位の含有量は、前記重合体ブロック(A-3)の合計質量に基づいて、40質量%以上である、請求項6に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項10】
前記変性水素添加物(A)における前記重合体ブロック(A-3)の水素添加率(水添率)が80モル%以上である、請求項6に記載の変性水素添加物(A)。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の変性水素添加物(A)を含む、ペレット。
【請求項12】
請求項1又は2に記載の変性水素添加物(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物。
【請求項13】
ポリオレフィン系樹脂(B)が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合体、α-オレフィンの単独重合体又は共重合体、及び、プロピレン及び/又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂
であり、
前記α-オレフィンは、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、及び1-エイコセンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂組成物中における変性水素添加物(A)の含有量が1~30質量%である、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂(C)をさらに含む、請求項12に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記樹脂組成物中の、
前記ポリオレフィン系樹脂(B)の質量をX、
前記樹脂(C)の質量をYとするとき、X/Yが90/10~10/90である請求項15に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性水添ブロック共重合体及び樹脂組成物に関し、特に、変性水添ブロック共重合体及び該変性水添ブロック共重合体を含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックとを有するブロック共重合体又はその水素添加物を変性して反応性を有する官能基を導入した変性物は、極性樹脂と非極性樹脂とを相容化するための相容化剤として用い得ることが知られている。
例えば、特許文献1~4には、ポリオレフィン樹脂と、ポリアミド樹脂と、相容化剤とが配合された樹脂組成物において、相容化剤として、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーの変性物が用いられることが記載されている。このうち、特許文献1、2、4には、上記スチレン系エラストマーとして、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられることが記載されている。
また、特許文献5には、ポリアミド樹脂と、変性ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂との混合物を含むブロー成型用組成物が記載されており、上記ポリオレフィン樹脂がポリオレフィン樹脂と変性ポリオレフィンとを含むものでもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/169814号
【文献】特開2013-147645号公報
【文献】特開2013-147648号公報
【文献】国際公開第2017/094738号
【文献】特開平6-234897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ブロック共重合体又はその水素添加物の変性物の利用が広まるにつれて、様々な用途に適するように、極性樹脂と非極性樹脂とをより良好に相容化し、得られる樹脂組成物の特性を向上し得る、相容化剤としてのブロック共重合体又はその水素添加物の変性物が求められている。
例えば、包装容器は、一般的にバリア性や強度向上のため、ポリオレフィン系樹脂、又はポリオレフィン系樹脂と極性樹脂との積層体が用いられる場合が多い。このような包装容器は、使用後の廃棄物削減や、化石資源の使用量削減と有効活用による循環型社会を目指す視点で、リサイクル使用が望まれる。
しかしながら、ポリオレフィン系樹脂と極性樹脂とを含む樹脂組成物については、その各種物性の観点から、なお検討の余地があるのが実情である。
【0005】
そこで本発明は、添加することにより、引張強さ、引張破壊ひずみ、耐衝撃性などの機械的特性のバランスに優れた樹脂組成物を得ることができるブロック共重合体の水素添加物の変性物を提供することを課題とする。
また、本発明は、機械的特性の上記バランスに優れた上記樹脂組成物を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックを含む、特定のブロック共重合体の変性水素添加物が、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、下記[1]~[17]に関する。
[1]芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)を含むブロック共重合体の変性水素添加物であって、
前記共役ジエン化合物が、イソプレンと、イソプレン以外の共役ジエン化合物とを含有し、
前記重合体ブロック(A-2)のビニル結合量が30モル%以下であり、
アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有し、
JIS K7244-10:2005に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~+120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定した損失正接(tanδ)のピークトップ強度が0.95以下であり、
JIS K7210:2014に準拠して、温度230℃、荷重21Nの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が0.5~15g/10min以上である、変性水素添加物(A)。
[2]重量平均分子量が10,000~400,000である、上記[1]に記載の変性水素添加物(A)。
[3]重合体ブロック(A-2)の水素添加率が80モル%以上である、上記[1]又は[2]に記載の変性水素添加物(A)。
[4]前記官能基の含有量が、前記変性水素添加物(A)に対して、0.1~5.0phrである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)。
[5]無水マレイン酸由来の基を有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)。
[6]前記ブロック共重合体が、イソプレン由来の構造単位を含む重合体ブロック(A-3)をさらに有し、
前記ブロック共重合体の結合形式が、重合体ブロック(A-1)をAで、重合体ブロック(A-2)をBで、重合体ブロック(A-3)をCで表したとき、A-B-A-Cで示されるテトラブロック共重合体である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)。
[7]前記ブロック共重合体中の前記重合体ブロック(A-3)の比率が、前記ブロック共重合体全体の40質量%以下である、上記[6]に記載の変性水素添加物(A)。
[8]前記重合体ブロック(A-3)のビニル結合量が2~90モル%である、上記[6]又は[7]に記載の変性水素添加物(A)。
[9]前記重合体ブロック(A-3)中のイソプレンに由来する構造単位の含有量は、前記重合体ブロック(A-3)の合計質量に基づいて、40質量%以上である、上記[6]~[8]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)。
[10]前記変性水素添加物(A)における前記重合体ブロック(A-3)の水素添加率(水添率)が80モル%以上である、上記[6]~[9]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)を含む、ペレット。
[12]上記[1]~[10]のいずれかに記載の変性水素添加物(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)とを含む樹脂組成物。
[13]ポリオレフィン系樹脂(B)が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン酢酸ビニル共重合体、α-オレフィンの単独重合体又は共重合体、及び、プロピレン及び/又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂である、上記[12]に記載の樹脂組成物。
[14]前記樹脂組成物中における変性水素添加物(A)の含有量が1~30質量%である、上記[12]又は[13]に記載の樹脂組成物。
[15]極性樹脂(C)をさらに含む、上記[12]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16]極性樹脂(C)が、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である、上記[15]に記載の樹脂組成物。
[17]前記樹脂組成物中の、ポリオレフィン系樹脂(B)の質量をX、極性樹脂(C)の質量をYとするとき、X/Yが90/10~10/90である、上記[15]又は[16]に記載の樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、添加することにより、引張強さ、引張破壊ひずみ、耐衝撃性などの機械的特性のバランスに優れた樹脂組成物を得ることができるブロック共重合体の水素添加物の変性物及び該変性物を含む樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、例2-1の樹脂組成物1のモルフォロジーの観察のための透過型電子顕微鏡(TEM)による写真である。
【
図2】
図2は、例2-3の樹脂組成物3のモルフォロジーの観察のための透過型電子顕微鏡(TEM)による写真である。
【
図3】
図3は、例2-4の樹脂組成物4のモルフォロジーの観察のための透過型電子顕微鏡(TEM)による写真である。
【
図4】
図4は、難燃性評価を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本明細書における記載事項を任意に選択した態様又は任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
本明細書において、好ましいとする規定は任意に選択でき、好ましいとする規定同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
本明細書において、「~単位」(ここで「~」は単量体を示す)とは「~に由来する構造単位」を意味し、例えば「プロピレン単位」とは「プロピレンに由来する構造単位」を意味する。
本明細書において、「AAを主体とするBB」という場合、BBに少なくともAAが50質量%超含まれていることを意味する。
【0011】
[変性水素添加物(A)]
本発明の実施形態に係る変性水素添加物(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)及び共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)を含むブロック共重合体の変性水素添加物であって、
前記共役ジエン化合物が、イソプレンと、イソプレン以外の共役ジエン化合物とを含有し、
前記重合体ブロック(A-2)のビニル結合量が30モル%以下であり、
アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有し、
JIS K7244-10:2005に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~+120℃、昇温速度3℃/分の条件で測定した損失正接(tanδ)のピークトップ強度が0.95以下であり、
JIS K7210:2014に準拠して、温度230℃、荷重21Nの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が0.5g/10min以上である。
【0012】
なお、本明細書において、「酸無水物由来の基」とは、酸無水物が有していた2つのカルボン酸基を脱水縮合させて得られる構造を備えた基を意味しており、酸無水物が無水マレイン酸の場合、例えば、下記に示す構造を有する基である。
【0013】
【0014】
以下、上記ブロック共重合体を符号(A0)で、ブロック共重合体(A0)の水素添加物を符号(A1)で表すことがある。また、ブロック共重合体(A0)の水素添加物を「水添ブロック共重合体(A1)」ということがある。
【0015】
変性水素添加物(A)は、ブロック共重合体(A0)の水素添加物(A1)の変性物、又は、ブロック共重合体(A0)の変性物の水素添加物である。
変性水素添加物(A)の原料としてブロック共重合体(A0)を用いていることにより、耐衝撃性等の機械的特性を、後述する樹脂組成物に付与することができる。また、ブロック共重合体を水素添加していることにより、熱安定性も高めやすくなる。
更に、重合体ブロック(A-2)のビニル結合量(つまり、重合体ブロック(A-2)における3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量)が30モル%以下であることにより、引張強さ、引張破壊ひずみなどの機械的特性を高めることができる。このため、変性水素添加物(A)が有する柔軟性、耐衝撃性等の特性を、後述する樹脂組成物においても発現しやすくなる。
加えて、変性によって所定の官能基が導入されているため、後述する樹脂組成物における相容性を高めることができるとともに、金属やその他の各種材料に対して高い接着性を持つようになる。
【0016】
次に、変性水素添加物(A)を得るための、ブロック共重合体(A0)又はその水素添加物(A1)の構成成分とその使用割合、及び、特性等について説明する。なお、これらは変性前の物質であるが、ブロック共重合体(A0)や水添ブロック共重合体(A1)が有する重合体ブロック(A-1)及び重合体ブロック(A-2)を変性水素添加物(A)も有しており、変性を行ってもそれらの主骨格に変化はない。そのため、以下の重合体ブロック(A-1)及び重合体ブロック(A-2)に関する説明は、変性水素添加物(A)にも共通するものである。
【0017】
(ブロック共重合体(A0))
ブロック共重合体(A0)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有するものである。以下に、重合体ブロック(A-1)及び重合体ブロック(A-2)について説明する。
【0018】
(重合体ブロック(A-1)の構成)
ブロック共重合体(A0)を構成する重合体ブロック(A-1)は、耐熱性及び耐衝撃性等の機械的特性の観点から、モノマーとして用いられる芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。
重合体ブロック(A-1)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」と略称することがある。)を、重合体ブロック(A-1)中70モル%超含有することが好ましく、耐衝撃性等の機械的特性の観点から、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは95モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。換言すれば、重合体ブロック(A-1)中の芳香族ビニル化合物単位の含有量は、好ましくは70モル%超100モル%以下である。
【0019】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。なかでも、製造コストと物性バランスの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0020】
本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A-1)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「他の不飽和単量体単位」と略称することがある。)を含有してもよいが、重合体ブロック(A-1)中好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%未満、更に好ましくは15モル%未満、より更に好ましくは10モル%未満、より更に好ましくは5モル%未満、特に好ましくは0モル%である。換言すれば、重合体ブロック(A-1)中の他の不飽和単量体単位の含有量は、好ましくは0~30モル%である。
該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、β-ファルネセン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(A-1)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
【0021】
ブロック共重合体(A0)は、前記重合体ブロック(A-1)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体(A0)が重合体ブロック(A-1)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A-1)は、同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、重量平均分子量、立体規則性、及び複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率及び共重合の形態(ランダム、テーパー、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
ブロック共重合体(A0)は、重合体ブロック(A-1)を2つ有していることが好ましい。
【0022】
(重合体ブロック(A-1)の重量平均分子量)
重合体ブロック(A-1)の重量平均分子量(Mw)は、成形加工性及び機械的特性の観点から、好ましくは2,000~60,000、より好ましくは3,000~50,000、更に好ましくは4,000~40,000、より更に好ましくは5,000~30,000である。
重合体ブロック(A-1)の重量平均分子量(Mw)は、例えば、重合に用いる重合開始剤に対する芳香族ビニル化合物の量を調整することにより、上記範囲とすることができる。
【0023】
なお、本明細書及び特許請求の範囲に記載の「重量平均分子量(Mw)」は全て、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算のMwであり、詳細な測定方法は実施例に記載の方法に従うことができる。ブロック共重合体が有する各重合体ブロックのMwは、製造工程において各重合体ブロックの重合が終了する都度、サンプリングした液を測定することで求めることができる。また、例えば、2種類の重合体ブロック(A)を「A1」「A2」、1種類の重合体ブロック(B)を「B」で表したときに、A1-B-A2の構造を有するトリブロック共重合体の場合は、重合体ブロック「A1」及び重合体ブロック「B」のMwを上記方法により求め、ブロック共重合体のMwからそれらを引き算することにより、重合体ブロック「A2」のMwを求めることができる。また、他の方法として、上記A1-B-A2構造を有するトリブロック共重合体の場合は、重合体ブロック「A1」及び「A2」の合計のMwは、ブロック共重合体のMwと1H-NMR測定で確認する重合体ブロック「A1」及び「A2」の合計含有量から算出し、GPC測定によって、失活した最初の重合体ブロック「A1」のMwを算出し、これを引き算することによって重合体ブロック「A2」のMwを求めることもできる。
【0024】
(重合体ブロック(A-1)の含有量)
ブロック共重合体(A0)における重合体ブロック(A-1)の含有量(複数の重合体ブロック(A-1)を有する場合はそれらの合計含有量)は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
重合体ブロック(A-1)の含有量が50質量%以下であれば、適度な柔軟性を有するブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)とすることができる。また、重合体ブロック(A-1)の含有量は、好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは6質量%以上である。重合体ブロック(A-1)の含有量が4質量%以上であれば、後述する樹脂組成物の各種用途に好適な耐衝撃性等の機械的特性、成形加工性等の取扱い性を有するブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)とすることができる。換言すれば、ブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(A-1)の含有量は、好ましくは4~50質量%である。
なお、ブロック共重合体における重合体ブロック(A-1)の含有量は、1H-NMR測定により求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0025】
(重合体ブロック(A-2)の構成)
ブロック共重合体(A0)を構成する重合体ブロック(A-2)は、柔軟性等の観点から、共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン化合物単位」と称すことがある。)を有する。
重合体ブロック(A-2)は、共役ジエン化合物単位を30モル%以上含有することが好ましい。なかでも柔軟性の観点から、重合体ブロック(A-2)は、共役ジエン化合物単位を、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは65モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上、実質的に100モル%含有することが特に好ましい。
【0026】
上記共役ジエン化合物は、優れた強度を発現しやすい観点から、イソプレンと、イソプレン以外の共役ジエン化合物とを含有し、好ましくはイソプレン及びブタジエンを含有する。
イソプレンとイソプレン以外の共役ジエン化合物とを含有することによって、例えば、本発明の変性水素添加物(A)を性質の異なる複数の樹脂とともに組成物とした場合、良好な相容効果をもたらすことができる。
また共役ジエン化合物として、後述する通り、イソプレン及びブタジエン以外の共役ジエン化合物を含有してもよい。一方で、優れた強度を発現しやすい観点から、共役ジエン化合物におけるイソプレンの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは40質量%以上、より更に好ましくは45質量%以上である。
【0027】
また、共役ジエン化合物がブタジエンとイソプレンの混合物である場合、それらの混合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)は、耐衝撃性、特に低温耐衝撃性の観点から、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、更に好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、更に好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0028】
共役ジエン化合物としては、上記イソプレン及びブタジエン以外に、β-ファルネセン、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、ミルセン等を挙げることができる。共役ジエン化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0029】
また、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A-2)は共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有してもよい。この場合、重合体ブロック(A-2)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは70モル%未満、より好ましくは50モル%未満、更に好ましくは35モル%未満、特に好ましくは20モル%未満である。共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量の下限値に特に制限はないが、0モル%であってもよいし、5モル%であってもよいし、10モル%であってもよい。
【0030】
該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、N-ビニルカルバゾール、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。なかでも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0031】
また、ブロック共重合体(A0)は、重合体ブロック(A-2)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体(A0)が重合体ブロック(A-2)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A-2)は、同一であっても異なっていてもよい。重合体ブロック(A-2)が、2種以上の構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、完全交互、一部ブロック状、ブロック、又はそれらの2種以上の組み合わせからなっていてもよい。
【0032】
共役ジエン化合物の結合形態は、本発明の目的及び効果を損なわない限りにおいて、特に制限はない。例えば、重合体ブロック(A-2)を構成する構造単位がイソプレン及びブタジエンの混合物単位である場合、イソプレン及びブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合をとることができる。これらの結合形態の1種のみが存在していても、2種以上が存在していてもよい。
なお、本明細書では、重合体ブロック(A-2)におけるブタジエン単位においては、1,2-結合量をビニル結合量といい、重合体ブロック(A-2)におけるイソプレン単位においては、1,2-結合量及び3,4-結合量の合計量をビニル結合量といい、重合体ブロック(A-2)の全結合形態におけるビニル結合量の含有量を「重合体ブロック(A-2)のビニル結合量(モル%)」と称し、ブロック共重合体(A0)全体におけるビニル結合量の含有量を「ブロック共重合体(A0)のビニル結合量(モル%)」と称することもある。1,2-結合量及び3,4-結合量は、実施例と同様に、1H-NMR測定によって算出できる。
【0033】
(重合体ブロック(A-2)のビニル結合量)
ブロック共重合体(A0)においては、重合体ブロック(A-2)における3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(つまりビニル結合量)の合計は30モル%以下であり、好ましくは25モル%以下であり、より好ましくは20モル%以下であり、更に好ましくは15モル%以下である。重合体ブロック(A-2)におけるビニル結合量が30モル%以下であれば樹脂組成物の機械的特性を向上させることができるとともに、低温特性の発現に寄与することができ、更に25モル%以下であれば低温特性がより良好となり、ビニル結合量が減少するに伴い低温特性が向上する傾向がある。
また、重合体ブロック(A-2)におけるビニル結合量は、2モル%以上であってもよく、5モル%以上であってもよい。
ここで、ビニル結合量は、1H-NMR測定によって求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0034】
(重合体ブロック(A-2)の重量平均分子量)
重合体ブロック(A-2)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、水素添加前のブロック共重合体(A0)が有する重合体ブロック(A-2)の合計のMwが、好ましくは10,000~200,000、より好ましくは20,000~180,000、更に好ましくは30,000~160,000、より更に好ましくは35,000~140,000、より更に好ましくは40,000~130,000である。重合体ブロック(A-2)の合計の重量平均分子量が、上記範囲内であればより優れた柔軟性を発現しやすくなる。
【0035】
(重合体ブロック(A-2)の含有量)
ブロック共重合体(A0)における重合体ブロック(A-2)の含有量は、好ましくは96質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは94質量%以下である。重合体ブロック(A-2)の含有量が、96質量%以下であれば、各種用途に好適な機械的特性、力学物性、及び成形性を有する変性水素添加物(A)又はこれを含有する樹脂組成物とすることが容易となる。また、ブロック共重合体における重合体ブロック(A-2)の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは75質量%以上である。重合体ブロック(A-2)の含有量が、50質量%以上であれば、柔軟性に優れた変性水素添加物(A)とすることができる。
【0036】
(重合体ブロック(A-2)における他の構造単位)
重合体ブロック(A-2)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、重合体ブロック(A-2)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは50モル%未満、より好ましくは30モル%未満、更に好ましくは20モル%未満、より更に好ましくは10モル%未満、特に好ましくは0モル%である。換言すれば、重合体ブロック(A-2)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは0モル%以上50モル%未満である。
該他の重合性の単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、N-ビニルカルバゾール、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。
【0037】
変性水素添加物(A)、又は、未変性の水添ブロック共重合体である水添ブロック共重合体(A1)においては、重合体ブロック(A-2)の水素添加率は0モル%超である。つまり、重合体ブロック(A-2)が有する炭素-炭素二重結合の少なくとも一部が水素添加されている。
重合体ブロック(A-2)の水素添加率は、耐候性および耐熱性の観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは87モル%以上である。上限に特に制限はないが、例えば、99.8モル%以下とすることができる。換言すれば、重合体ブロック(A-2)の水素添加率は、好ましくは80~99.8モル%である。
重合体ブロック(A-2)の水素添加率は、例えば、水素添加触媒の量や水素添加の反応時間を制御することにより、上記範囲にすることができる。
なお、上記水素添加率は、重合体ブロック(A-2)中の共役ジエン化合物由来の構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加後の1H-NMR測定によって求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0038】
(重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)の結合様式)
ブロック共重合体(A0)は、重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)とが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。なかでも、重合体ブロック(A-1)と重合体ブロック(A-2)の結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(A-1)をAで、また重合体ブロック(A-2)をBで表したときに、A-Bで示されるジブロック共重合体、A-B-A又はB-A-Bで示されるトリブロック共重合体、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-B-A又はB-A-B-A-Bで示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nZ型共重合体(Zはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。なかでも、直鎖状のトリブロック共重合体、又はジブロック共重合体が好ましく、A-B-A型のトリブロック共重合体が、柔軟性、製造の容易性等の観点から好ましく用いられる。
A-B-A型のトリブロック共重合体として具体的には、スチレン-水添ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体が挙げられる。すなわち、ブロック共重合体として、スチレン-水添ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体を含むことが好ましい。
【0039】
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤等を介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は1つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-Z-Y(Zはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-Z-B-A(Zはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0040】
また、ブロック共重合体(A0)には、本発明の目的を損なわない範囲内で、重合体ブロック(A-1)及び重合体ブロック(A-2)以外の、重合性単量体からなる重合体ブロック(A-3)が存在していてもよい。重合体ブロック(A-3)はイソプレン(Ip)由来の構造単位を含むことが好ましく、該重合体ブロック(A-3)中のイソプレン(Ip)に由来する構造単位の含有量は、重合体ブロック(A-3)の合計質量に基づいて、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上である。また、重合体ブロック(A-3)中のイソプレン(Ip)由来の構造単位の上限については特に制限はなく、イソプレン(Ip)由来の構造単位を実質的に100質量%含む重合体ブロック(A-3)とすることもできる。
重合体ブロック(A-3)を構成する共役ジエン化合物としては、イソプレン(Ip)単位を主体とし、さらに、例えば、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
一方、重合体ブロック(A-3)がブタジエン(Bd)単位及びイソプレン(Ip)単位の両方を含む場合は、ブタジエン(Bd)単位及びイソプレン(Ip)単位の含有割合(ブタジエン単位/イソプレン単位)(モル比)としては、性能向上等の観点から、好ましくは10/90~90/10、より好ましくは30/70~70/30、特に好ましくは40/60~60/40である。
【0041】
重合体ブロック(A-3)のビニル結合量(1,2-結合単位及び3,4-結合単位の合計量)については特に制限はないが、好ましくは2~90モル%の範囲である。本発明の変性水素添加物(A)の好ましい実施態様の1つは、前記変性水素添加物(A)及びプロピレン系ポリマーを含む組成物である。前記プロピレン系ポリマーとしては、ホモポリプロピレン(ホモPP)、プロピレンとα-オレフィンコモノマーとのランダム共重合体(ランダムPP)及びブロックポリプロピレン(ブロックPP)などのポリプロピレンや、プロピレン系エラストマー(エクソンモービルケミカル社製「Vistamaxx」シリーズなど)が挙げられる。前記変性水素添加物(A)と前記プロピレン系ポリマーとの相容性の改善を特に重視する場合、(A-3)のビニル結合量(イソプレン(Ip)の1,2-結合単位及び3,4-結合単位、並びにブタジエン(Bd)の1,2-結合単位の合計量)は、好ましくは45~90モル%であり、より好ましくは50~90モル%であり、更に好ましくは55~85モル%である。
また、前記変性水素添加物(A)と前記プロピレン系ポリマーとの相容性の改善を特に重視する場合においては、重合体ブロック(A-3)はイソプレン(Ip)由来の構造単位を実質的に100質量%含む重合体ブロック、又はブタジエン(Bd)単位及びイソプレン(Ip)単位の両方を含む重合体ブロックであることが好ましく、ブタジエン(Bd)単位及びイソプレン(Ip)単位の両方を含む重合体ブロックであることがより好ましい。一方、前記変性水素添加物(A)及び前記プロピレン系ポリマーを含む組成物の耐衝撃の改善を特に重視する場合、重合体ブロック(A-3)のビニル結合量(イソプレン(Ip)の1,2-結合単位及び3,4-結合単位、並びにブタジエン(Bd)の1,2-結合単位の合計量)は、好ましくは2~30モル%、より好ましくは2~25モル%、更に好ましくは3~20モル%、より更に好ましくは4~15モル%、特に好ましくは5~10モル%である。
また、前記変性水素添加物(A)が、前記プロピレン系ポリマー以外のポリマーとともに用いられることも、本発明の好ましい実施態様の1つである。前記組成物の耐衝撃性及び/又は耐ヒートショック性を改善する観点からは、重合体ブロック(A-3)はイソプレン(Ip)由来の構造単位を実質的に100質量%含む重合体ブロック、又はブタジエン(Bd)単位及びイソプレン(Ip)単位の両方を含む重合体ブロックであることが好ましく、ブタジエン(Bd)単位及びイソプレン(Ip)単位の両方を含む重合体ブロックであることがより好ましい。かかる実施態様の場合、(A-3)のビニル結合量は、好ましくは2~30モル%、より好ましくは2~25モル%、更に好ましくは3~20モル%、より更に好ましくは4~15モル%、特に好ましくは5~10モル%である。
【0042】
また、重合体ブロック(A-3)が有する炭素-炭素二重結合は、重合体ブロック(A-2)と同様に、後述する樹脂組成物における変性水素添加物(A)とポリオレフィン系樹脂(B)との親和性の観点から、少なくとも一部が水素添加されているものが好ましい。水添ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(A-3)の水素添加率(水添率)は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは85モル%以上、更に好ましくは87モル%以上である。上限に特に制限はないが、例えば、99.8モル%以下とすることができる。換言すれば、重合体ブロック(A-3)の水素添加率は、好ましくは80~99.8モル%である。
重合体ブロック(A-3)の水素添加率は、例えば、水素添加の反応時間を制御することにより、上記範囲にすることができる。
水添ブロック共重合体(A1)における重合体ブロック(A-3)の水素添加率が上述の範囲にあることで、後述する樹脂組成物における変性水素添加物(A)がポリオレフィン系樹脂(B)との間に良好な親和性を示し、その結果、かかる樹脂組成物の耐衝撃性がより優れたものとなる傾向がある。
【0043】
重合体ブロック(A-1)をAで、重合体ブロック(A-2)をBで、そして重合体ブロック(A-3)をCで表したとき、ブロック共重合体の構造としては、A-B-Cで示されるトリブロック共重合体、A-B-C-Aで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-Cで示されるテトラブロック共重合体、などが挙げられる。この中でも、後述する、本発明の樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、A-B-A-Cで示されるテトラブロック共重合体であることが好ましい。かかる本発明の樹脂組成物において、特に成形性と耐衝撃性とのバランスを重視する場合は、ブロック共重合体(C)の結合形式としては、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体又はA-B-A-Cで示されるテトラブロック共重合体、すなわち、末端ブロックにB又はCで表される重合体ブロックを有するテトラブロック共重合体であることが好ましい。
水添ブロック共重合体(A1)が、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体又はA-B-A-Cで示されるテトラブロック共重合体の構造を有する場合の、水添ブロック共重合体(A1)中の末端ブロックB又はCの比率は、より優れた成形性と耐衝撃性とのバランスが得られる観点からは、水添ブロック共重合体(A1)全体の好ましくは40質量%以下、より好ましくは1~35質量%、更に好ましくは4~30質量%、特に好ましくは12~30質量%である。下限に特に制限はないが、例えば、1質量%でもよい。
【0044】
(ブロック共重合体(A0)及び水添ブロック共重合体(A1)の重量平均分子量)
ブロック共重合体(A0)及び水添ブロック共重合体(A1)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~400,000であり、より好ましくは30,000~300,000であり、更に好ましくは50,000~200,000、特に好ましくは70,000~150,000である。ブロック共重合体(A0)及び水添ブロック共重合体(A1)のMwが10,000以上であれば、耐熱性が高くなり、400,000以下であれば、変性水素添加物(A)を含有する、後述する樹脂組成物の取扱い性が良好となる。
【0045】
(ブロック共重合体(A0)の分子量分布)
ブロック共重合体(A0)の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.00~2.00、より好ましくは1.00~1.60、更に好ましくは1.00~1.40、より更に好ましくは1.00~1.20である。分子量分布が前記範囲内であると、ブロック共重合体(A0)の取り扱いが容易である。
【0046】
(官能基)
変性水素添加物(A)は、例えば、上記ブロック共重合体(A0)を水素添加した水添ブロック共重合体(A1)に、アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を有する化合物を反応させて官能基を導入し、水添ブロック共重合体(A1)を変性することで製造することができる。当該官能基は、好ましくはアルコキシシリル基及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基であり、より好ましくは無水マレイン酸由来の基である。なお、変性水素添加物(A)の製造方法は後述する。
水添ブロック共重合体(A1)に上記官能基を導入することにより、変性水素添加物(A)を含む樹脂組成物における相容性を高めることができるとともに、金属やその他の材料に対する高い接着性をもたらすことができる。変性水素添加物(A)は、側鎖に上記官能基を有することが好ましい。側鎖に上記官能基を有する実施態様を採用することにより、変性水素添加物(A)の分子鎖1個当たりの官能基数の導入量を3個以上にすることが容易であり、実施態様に応じた分子設計の拡大が容易になる。
【0047】
変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量は、好ましくは0.1phr以上、より好ましくは0.15phr以上、更に好ましくは0.2phr以上、より更に好ましくは0.25phr以上である。また、変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量は、好ましくは5.0phr以下、より好ましくは4.0phr以下、更に好ましくは3.0phr以下、より更に好ましくは2.0phr以下、より更に好ましくは0.95phr以下である。換言すれば、変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量は、好ましくは0.1~5.0phrである。
また、変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量は、好ましくは0.1モル%以上、より好ましくは0.15モル%以上、更に好ましくは0.2モル%以上、より更に好ましくは0.25モル%以上である。また、変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量は、好ましくは5.0モル%以下、より好ましくは4.0モル%以下、更に好ましくは3.0モル%以下、より更に好ましくは2.0モル%以下、より更に好ましくは0.95モル%以下である。換言すれば、変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量は、好ましくは0.1~5.0モル%である。
変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量が、上記範囲内であれば変性水素添加物(A)を含む樹脂組成物の接着性を優れたものとすることができる。なお、当該官能基の含有量(phr)は、変性水素添加物(A)100質量部に対する官能基の質量部を意味し、滴定や1H-NMR測定、赤外分光分析に基づく測定(IR測定)により算出することができる。
変性水素添加物(A)における変性量は、使用する変性剤の使用割合や種類等を調整することにより、調整することができる。
【0048】
(変性水素添加物(A)の特性)
変性水素添加物(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000~400,000であり、より好ましくは30,000~300,000であり、更に好ましくは50,000~200,000、特に好ましくは70,000~150,000である。
変性水素添加物(A)のMwは、例えば、重合時に用いる重合開始剤の量により調整することができる。
【0049】
変性水素添加物(A)のガラス転移温度は、低温特性の観点から、好ましくは-75~0℃、より好ましくは-70~-10℃、更に好ましくは-65~-20℃である。
なお、本明細書において、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)測定装置を用いて測定した値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
変性水素添加物(A)のガラス転移温度は、例えば、共役ジエンの3,4-結合及び1,2-結合の含有量により調整することができる。
【0050】
変性水素添加物(A)の、JIS K7210:2014に従って、温度230℃、荷重21Nの条件で測定したメルトフローレートは0.1g/min以上であり、樹脂組成物の混練の観点から、好ましくは0.3~15g/10min、より好ましくは0.5~10g/10min、更に好ましくは1~7g/10minである。
メルトフローレートが上記範囲にあることで、樹脂組成物の混練時の粘度が高くなり分散が良好となる。
【0051】
変性水素添加物(A)のtanδ(損失正接)は、動的粘弾性測定における周波数1Hzにおける損失弾性率/貯蔵弾性率の比であり、tanδのピークトップ温度及び強度は、粘弾性体の性質に大きく寄与する。ここで、tanδのピークトップ強度とは、tanδのピークが最大となるときのtanδの値のことである。また、tanδのピークトップ温度とは、tanδのピークが最大となるときの温度のことである。数値が低いほど弾性に優れ、大きいほど粘性に優れる。
本明細書においてブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)のtanδのピークトップ温度及び強度は、ブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)を、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmの単層シートを作製し、該単層シートを円板形状に切り出し、これを試験片として測定する。測定条件は、JIS K 7244-10:2005に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~+120℃、昇温速度3℃/分である。
なお、ブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)のピークトップ温度及びtanδ強度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0052】
変性水素添加物(A)は、上記測定によるtanδのピークトップ強度が0.95以下であり、好ましくは0.90以下であり、より好ましくは0.85以下である。tanδのピークトップ強度が0.95以下であると、耐衝撃性の観点から有利である。重合体ブロック(A-2)のイソプレンとイソプレン以外の共役ジエン化合物の比率やビニル結合量を制御することによって、tanδのピークトップ強度を上記範囲とすることができる。
また、変性水素添加物(A)は、tanδのピークトップ温度が、好ましくは-10℃以下、より好ましくは-20℃以下、更に好ましくは-30℃以下、より更に好ましくは-40℃以下である。上記温度範囲であれば、実使用環境下において充分な耐衝撃性を得ることができる。
【0053】
<変性水素添加物(A)の製造方法>
変性水素添加物(A)は、少なくとも芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物をモノマーとして用い、これらを重合してブロック共重合体(A0)とし、このブロック共重合体(A0)を水素化する前又は水素化した後に、変性剤を用いて変性反応する工程を経ることによって製造することができる。
【0054】
(ブロック共重合体(A0)の調製)
ブロック共重合体(A0)は、モノマーとして少なくとも芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を用い、重合反応を行うことによって、上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-1)と、上記共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロック(A-2)とを有し、必要に応じて重合体ブロック(A-3)をさらに有するブロック共重合体として得ることができる。
なお、上記芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物、重合体ブロック(A-1)、重合体ブロック(A-2)及び重合体ブロック(A-3)は、前述したものと同義である。
【0055】
上記重合反応は、例えば、溶液重合法、乳化重合法、又は固相重合法等により製造することができる。なかでも溶液重合法が好ましく、例えば、アニオン重合、カチオン重合等のイオン重合法、ラジカル重合法等の公知の方法を適用できる。なかでも、アニオン重合法が好ましい。アニオン重合法では、溶媒、アニオン重合開始剤、及び必要に応じてルイス塩基の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を逐次添加して、ブロック共重合体を得、必要に応じてカップリング剤を添加して反応させればよい。
【0056】
上記方法においてアニオン重合の重合開始剤として使用し得る有機リチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム等が挙げられる。また、重合開始剤として使用し得るジリチウム化合物としては、例えばナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼン等が挙げられる。
前記カップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン、安息香酸フェニル等が挙げられる。
これらの重合開始剤及びカップリング剤の使用量は、ブロック共重合体(A0)又は水添ブロック共重合体(A1)の所望とする重量平均分子量により適宜決定される。通常は、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の開始剤は、重合に用いる芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物等の単量体の合計100質量部当たり0.01~0.2質量部の割合で用いられるのが好ましく、カップリング剤を使用する場合は、前記単量体の合計100質量部当たり0.001~0.8質量部の割合で用いられるのが好ましい。
【0057】
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。また、重合反応は、通常0~100℃、好ましくは10~70℃の温度で、0.5~50時間、好ましくは1~30時間行う。
【0058】
また、共役ジエン化合物の重合の際に共触媒としてルイス塩基を添加する方法により、重合体ブロック(A-2)及び重合体ブロック(A-3)における3,4-結合及び1,2-結合の含有量を調整することができる。
用いることのできるルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリン等のアミン類;ナトリウムt-ブチレート、ナトリウムt-アミレート又はナトリウムイソペンチレート等の脂肪族アルコールのナトリウム又はカリウム塩、あるいは、ジアルキルナトリウムシクロヘキサノレート、例えば、ナトリウムメントレートのような脂環式アルコールのナトリウム又はカリウム塩等の金属塩;等が挙げられる。
これらのルイス塩基は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
前記重合体ブロック(A-2)のビニル結合量を30モル%以下に調整する観点から、ルイス塩基の添加量は、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物又はジリチウム化合物1モル当たり、通常1.0モル以下、好ましくは0.5モル以下で用いるのが好ましい。
また、前記重合体ブロック(A-3)が、イソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位を含む場合は、重合体ブロック(A-3)を構成するイソプレン単位及び/又はブタジエン単位のビニル結合量を2~90モル%、好ましくは30モル%以上に調整する観点から、重合体ブロック(A-3)を形成する際のルイス塩基の添加量は、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物又はジリチウム化合物1モル当たり、通常1.1~3.0モル、好ましくは1.5~2.0モルで用いるのが好ましい。
上記した方法により重合を行なった後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させることにより、ブロック共重合体を得ることができる。
【0060】
(水素添加反応)
上記の製造方法により得られたブロック共重合体(A0)を、不活性有機溶媒中で水素添加触媒の存在下に水素添加反応(水添反応)することにより、水添ブロック共重合体(A1)を作製することができる。上記水添反応により、ブロック共重合体(A0)における重合体ブロック(A-2)及び、さらに存在してもよい重合体ブロック(A-3)中の共役ジエン化合物由来の炭素-炭素二重結合が水素添加され、ブロック共重合体(A0)の水素添加物、すなわち、水添ブロック共重合体(A1)とすることができる。
なお、ブロック共重合体(A0)を後述の方法で変性した後に水素添加してもよい。
水添反応は、水素圧力を0.1~20MPa程度、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは0.5~5MPa、反応温度を20~250℃程度、好ましくは50~180℃、より好ましくは70~180℃、反応時間を通常0.1~100時間程度、好ましくは1~50時間として実施することができる。
水素添加触媒としては、例えば、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の担体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒等が挙げられる。
【0061】
このようにして得られた水添ブロック共重合体(A1)(又は、変性水素添加物(A))は、重合反応液をメタノール等に注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、重合反応液をスチームとともに熱水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得することができる。
【0062】
水素添加物とする際の上記重合体ブロック(A-2)及び、さらに存在してもよい重合体ブロック(A-3)中の炭素-炭素二重結合の水素添加率をどの程度にするかは、後述する樹脂組成物の各種用途において所望される性能に応じて特定することができる。
水素添加物の水素添加率が高い程、耐熱性や耐候性が向上した水素添加物とすることが可能であり、樹脂組成物に用いる変性水素添加物(A)においては、上述したように、重合体ブロック(A-2)及び重合体ブロック(A-3)の水素添加率は、好ましくは80~99.8モル%である。
【0063】
(変性反応)
変性水素添加物(A)は、ブロック共重合体(A0)を水素添加した後に前述の官能基を導入することにより、又は、ブロック共重合体(A0)を水素添加する前に前述の官能基を導入し、その後に水素添加することにより生成することができる。ラジカル反応による変性の場合は、反応制御の観点から、ブロック共重合体(A0)を水素添加して水添ブロック共重合体(A1)とした後、特定の官能基を導入して製造することが好ましい。
【0064】
また、水添ブロック共重合体(A1)に前述の官能基を導入して変性する反応(以下、「変性反応」と称すことがある)は、公知の方法で行うことができる。
上記変性反応は、例えば、水添ブロック共重合体(A1)を有機溶媒に溶解し、そこへ前述の官能基を付加することができる各種変性剤を添加し、50~300℃程度、0.5~10時間程度で反応させることにより行うことができる。
また上記変性反応は、例えば、水添ブロック共重合体(A1)を、溶媒を用いずに押出機等を使用して溶融状態にし、各種変性剤を添加することにより行うことができる。この場合、変性反応の温度は、通常水添ブロック共重合体(A1)の融点以上から400℃以下であり、好ましくは90~350℃、より好ましくは100~300℃であり、反応時間は通常0.5~10分間程度である。
また、溶融状態で上記変性反応を行う際にラジカル開始剤を添加することが好ましく、副反応を抑制する観点等から老化防止剤を添加してもよい。
【0065】
上記変性水素添加物(A)の製造方法において、上記変性反応は、作業性や、制振性及び熱安定性が優れやすくなる観点から、後者の溶融状態で変性する方法により行うことが好ましい。
すなわち、変性水素添加物(A)の製造方法の好ましい態様は、ブロック共重合体(A0)を水素添加して水添ブロック共重合体(A1)とした後、溶融状態の水添ブロック共重合体(A1)に、ラジカル開始剤を用いて、アルコキシシリル基、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及び酸無水物由来の基から選ばれる1種又は2種以上の官能基を導入する工程を更に有する。
【0066】
上記官能基を付加することができる変性剤としては、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ヒドロキシメチルトリエトキシシラン、ビニルベンジルジエチルアミン、ビニルベンジルジメチルアミン、1-グリシジル-4-(2-ピリジル)ピペラジン、1-グリシジル-4-フェニルピペラジン、1-グリシジル-4-メチルピペラジン、1-グリシジル-4-メチルホモピペラジン、1-グリシジルヘキサメチレンイミン、及びテトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等が挙げられ、また変性剤として、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水2,3-ジメチルマレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物も用いることができる。更に、特開2011-132298号公報に記載の変性剤から、上記官能基を付加することができる変性剤を採用してもよい。上記変性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、変性剤として無水マレイン酸を用いて、無水マレイン酸由来の基を有する変性水素添加物(A)を得るのが特に好ましい。
【0067】
変性剤の添加量は、前述した変性水素添加物(A)における上記官能基の含有量に応じて、所望する上記官能基の含有量となるように適宜決定すればよいが、水添ブロック共重合体(A1)又はブロック共重合体(A0)100質量部に対し、変性剤は通常0.01~10質量部程度、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.01~3質量部であり、更に好ましくは0.05~2質量部である。
【0068】
ラジカル開始剤としては、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、及びハイドロパーオキサイド類等の有機パーオキサイド又は有機パーエステルを用いることができ、またアゾビスイソブチロニトリル、及びジメチルアゾイソブチレート等のアゾ化合物等も用いることができる。上記ラジカル開始剤のなかでも、好ましくは有機パーオキサイドであり、より好ましくはジアルキルパーオキサイド類である。
ラジカル開始剤の添加量は、水添ブロック共重合体(A1)と変性剤との組み合わせにより適宜決定すればよいが、水添ブロック共重合体(A1)100質量部に対しラジカル開始剤は、通常0.01~10質量部程度、好ましくは0.01~5質量部、より好ましくは0.01~3質量部であり、更に好ましくは0.05~2質量部である。
【0069】
本発明の実施形態に係るペレットは、上記の変性水素添加物(A)を含むペレットである。かかるペレットは、例えば、水添ブロック共重合体(A1)を、溶媒を用いずに押出機等を使用して溶融状態にし、各種変性剤を添加した後の溶融混練直後の上記変性水素添加物(A)(混練装置からの吐出物)をカッター等で切断することによって得られる。
より詳細には、ペレット化の方法として、例えば、一軸又は二軸押出機から上記変性水素添加物(A)をストランド状に押出して、ダイ部前面に設置された回転刃により、水中で切断する方法(アンダーウォーターペレタイジング)や、カット後にペレットを水中に落とす方法(ウォーターリングホットペレタイジング);一軸又は二軸押出機から上記変性水素添加物(A)をストランド状に押出して、水冷又は空冷した後、ストランドカッターにより切断する方法;オープンロール、バンバリーミキサーにより溶融混合した後、ロールによりシート状に成形し、更に当該シートを短冊状にカットし、その後、ペレタイザーにより立方状ペレットに切断する方法;などが挙げられる。
【0070】
上記ペレットにおいては、ペレット同士の膠着(ブロッキング)を防止しやすくする観点から、ブロッキング防止剤を配合してもよい。ブロッキング防止剤を配合する場合、ペレット表面に付着した状態で配合されていることが好ましいが、ペレット内部にある程度含まれていても構わない。例えば容器に上記ペレットとブロッキング防止剤を投入して撹拌する等の方法により、ブロッキング防止剤が表面に付着したペレットが得られる。
かかるブロッキング防止剤としては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス等のポリオレフィン系ワックス;含水珪酸マグネシウム(タルク)、シリカ;エチレンビスステアリルアミド;ステアリン酸カルシウム;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム;などが挙げられる。
ブロッキング防止剤の平均粒子径に特に制限はないが、ペレットへの付着性及びペレット同士の滑り性の確保の観点から、好ましくは1~15μm、より好ましくは2~14μm、更に好ましくは3~13μmである。また、ブロッキング防止剤の配合量に特に制限はないが、耐ブロッキング性及び力学特性を確保する観点から、上記変性水素添加物(A)を含むペレット100質量部に対して、好ましくは0.1~2.0質量部、より好ましくは0.1~1.0質量部である。
【0071】
本発明の実施態様はまた、上述した変性水素添加物(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)を含む樹脂組成物(以降、本明細書において「樹脂組成物(D1)」と称することもある)である。
【0072】
<ポリオレフィン系樹脂(B)>
樹脂組成物(D1)に含まれるポリオレフィン系樹脂(B)としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、及び、これらのうち複数種類を組み合わせた樹脂が挙げられる。
上記ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、エチレン等のα-オレフィンとのブロック共重合体であるブロックポリプロピレン、エチレン等のα-オレフィンとのランダム共重合体であるランダムポリプロピレン等が挙げられる。
上記ポリエチレンとしては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン等が挙げられる。
上記ポリメチルペンテンとしては、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体や、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構造単位及び炭素原子数2~20のα-オレフィン(但し、4-メチル-1-ペンテンを除く。)から導かれる構造単位を有する共重合体等が挙げられる。
上記エチレン・酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニルをコモノマーとしてエチレンと共重合した樹脂であれば特に限定されず、種々の酢酸ビニル基含有率(VA含有率)のものを用いることができる。
また、α-オレフィンの単独重合体又は共重合体、プロピレン及び/又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体等もポリオレフィン系樹脂(B)として使用できる。
上記α-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素数20以下のα-オレフィンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0073】
<添加剤>
樹脂組成物(D1)は、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含有することができる。
添加剤としては、例えば、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラス中空球、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、ドーソナイト、ポリリン酸アンモニウム、カルシウムアルミネート、ハイドロタルサイト、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、活性炭、炭素中空球、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素等の無機フィラー;木粉、でんぷん等の有機フィラー;セルロースファイバー、セルロースナノファイバー、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、などが挙げられる。
上記添加剤としては、更に粘着付与樹脂、可塑剤、充填剤、架橋剤(イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン樹脂等)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、透光性調整剤、蛍光剤、摺動性付与剤、透明性付与剤、アンチブロッキング剤、金属不活性化剤、防菌剤、結晶核剤、亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤、防鼠剤、分散剤、増粘剤、耐光剤、耐候剤、銅害防止剤、補強剤、防かび剤、大環状分子(シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビツリル等)を挙げることができる。
上記添加剤は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
樹脂組成物(D1)における上記添加剤の含有量に制限はなく、当該添加剤の種類や樹脂組成物(D1)の用途などに応じて適宜調整することができる。樹脂組成物(D1)が上記添加剤を含有する場合、上記添加剤の含有量は樹脂組成物(D1)の全質量に対して、例えば70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、45質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよく、また、0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、5質量%以上であってもよい。換言すれば、樹脂組成物(D1)中の上記添加剤の含有量は、好ましくは0.01~70質量%である。
【0074】
<樹脂組成物(D1)中の各成分の割合>
樹脂組成物(D1)中の変性水素添加物(A)の割合は、樹脂組成物(D1)の全質量に対して、好ましくは1~50質量%である。組成物の耐衝撃性の観点から、より好ましくは3~40質量%、更に好ましくは3~30質量%、より更に好ましくは5~25質量%である。また、樹脂組成物(D1)において、変性水素添加物(A)の質量をA、ポリオレフィン系樹脂(B)の質量をBとするとき、接着性の観点から、A/Bが、好ましくは10/90~70/30、より好ましくは20/80~60/40、更に好ましくは30/70~50/50である。
【0075】
また、樹脂組成物(D1)に含まれる、変性水素添加物(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)の合計質量は、接着性を十分に発現させる等の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。上記合計質量の上限に特に制限はなく、100質量%であってもよいし、99.9質量%であってもよいし、99.5質量%であってもよい。換言すれば、樹脂組成物(D1)に含まれる、変性水素添加物(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)の合計質量は、好ましくは50~100質量%である。
【0076】
<樹脂組成物(D1)の製造方法>
樹脂組成物(D1)は、変性水素添加物(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)と、必要に応じて各種添加剤とを、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いて混合することによって製造するか、又はその後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練機を用いて80~350℃程度で溶融混練することによって製造することができる。
また、少なくとも変性水素添加物(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)が可溶な溶媒に各成分を溶解させて混合し、溶媒を除去することによって樹脂組成物を調製することもできる。
上記樹脂組成物は、ベール、クラム、及びペレット等のいずれの形状にもすることができる。また、上記樹脂組成物は、溶融混練成形機により、又は、樹脂組成物のベール、クラム、あるいはペレット等を原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により各種成形品とすることができる。
【0077】
<樹脂組成物(D1)の用途>
樹脂組成物(D1)は、自動車や建築物の窓におけるガラスとアルミニウムサッシや金属開口部などとの接合部、太陽電池モジュールなどにおけるガラスと金属製枠体との接続部などのシーラントとして好適に使用できる。また、自動車や建築物のウィンドウモールやガスケット、ガラスのシーリング材、防腐蝕材など、ガラスと接着された成形体や構造体として広い範囲の用途に有用である。更には、ノート型パソコン、携帯電話、ビデオカメラなどの各種情報端末機器や、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車などに用いられる二次電池のセパレーターなどの接着剤やコート剤として使用することができる。
また、樹脂組成物(D1)は、配電盤やモーターの口出し線、熱収縮チューブ、配線結束用のテープ等の工業用途品;TV、プロジェクター、パソコン、プリンター、スキャナー、キーボード、FAX、コピー機等のOA機器;洗濯機、乾燥機、冷蔵庫、掃除機、トースター、クーラー、エアーコンディショナー、TV、ビデオ、DVD、デジタルカメラ、携帯電話、CDプレーヤー、ラジオ、スピーカー、警報機、監視カメラ等の家電;電子レンジ、炊飯器、電子ヒーター等の電子機器;ゲーム機用制御ケーブル、LANケーブル、多心ケーブル、イヤホン、充電装置等の電気・電子機器の付属品;絶縁電線ハーネス、カーナビゲーションシステム、座椅子、天井張り、カーペット等の自動車用・船舶用・航空機用部品;吊革、日除け、連結幌等の車輌部品;壁紙、床材、内装材、外装材、ドア材、ベランダの目隠し板、ターポリン等の建材用途品;テント、発電機、照明などのレジャー用途品;などに使用することができる。
【0078】
本発明の実施態様はまた、上述した変性水素添加物(A)と、ポリオレフィン系樹脂(B)を含む樹脂組成物(すなわち樹脂組成物(D1))に、極性樹脂(C)をさらに含む樹脂組成物(以降、本明細書において「樹脂組成物(D2)」と称することもある)である。
【0079】
樹脂組成物(D1)に含まれる変性水素添加物(A)は、変性によって特定の官能基が導入され、かつ、高い割合で水素添加された重合体ブロック(A-2)を有する。このため、樹脂組成物(D1)と極性樹脂(C)とを、例えば溶融混練すると、変性水素添加物(A)がポリオレフィン系樹脂(B)と極性樹脂(C)との相容化を促進すると考えられ、ポリオレフィン系樹脂(B)及び極性樹脂(C)のうち一方にポリオレフィン系樹脂(B)及び極性樹脂(C)のうち他方が良好に分散した樹脂組成物(D2)が得られる。したがって、樹脂組成物(D2)は、ポリオレフィン系樹脂(B)単体に比べて加工性や成形性に優れている。また、変性水素添加物(A)の量を少なくすることができる。
また、極性樹脂(C)及びポリオレフィン系樹脂(B)のうち一方が極性樹脂(C)及びポリオレフィン系樹脂(B)のうち他方に分散されやすくなることにより、樹脂組成物(D2)又はその成形品は、外観が良好である。
加えて、樹脂組成物(D2)又はその成形品において、原料として用いたブロック共重合体(A0)に起因する特性が現れやすくなる。上記樹脂組成物(D2)は、重合体ブロック(A-2)のビニル結合量が30モル%以下であるブロック共重合体(A0)から得た変性水素添加物(A)を用いるので、樹脂組成物(D2)又はその成形品において、耐衝撃性等を高めることができる。また、極性樹脂(C)やポリオレフィン系樹脂(B)の種類等を適切に選択することにより、上記樹脂組成物(D2)又はその成形品の引張強度や伸び特性等の物性を優れたものとすることができる。
【0080】
変性水素添加物(A)は、上述した極性樹脂(C)と非極性樹脂とを相容化させるための相容化剤として作用すると言える。すなわち、変性水素添加物(A)を含む相容化剤も、発明の実施態様として挙げられる。
かかる相容化剤は、変性水素添加物(A)単体であってもよく、変性水素添加物(A)以外の成分、例えば、加工助剤、補強剤、充填剤、可塑剤、連通気泡剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、防菌剤、防かび剤、分散剤、着色剤、発泡剤、発泡助剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、蛍光剤、結晶核剤等を含んでいてもよい。
上記相容化剤における変性水素添加物(A)の含有量は、相容化剤の全質量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。上限は100質量%でもよい。
上記相容化剤の相容化の対象となる極性樹脂は上述の極性樹脂(C)と同様であり、一方非極性樹脂は上述のポリオレフィン系樹脂(B)のほか、スチレン系樹脂等も挙げられる。
上記相容化剤は、極性樹脂(C)及びポリオレフィン系樹脂(B)とともに混合してもよいし、極性樹脂(C)と混合してからポリオレフィン系樹脂(B)を添加してもよいし、ポリオレフィン系樹脂(B)と混合してから極性樹脂(C)を添加してもよい。
【0081】
<樹脂組成物(D2)のモルフォロジー>
樹脂組成物(D2)は、以下の(α)及び(β)のいずれかのモルフォロジーを有するものと推測される。
(α)ポリオレフィン系樹脂(B)のマトリクス中に、極性樹脂(C)を含むドメインが島状に分散した海島構造、より好ましくは、変性水素添加物(A)を主体とする成分が、極性樹脂(C)を主体とするドメインの周囲に沿って存在する構造。
(β)極性樹脂(C)のマトリクス中に、ポリオレフィン系樹脂(B)を含むドメインが島状に分散した海島構造、より好ましくは、変性水素添加物(A)を主体とする成分が、ポリオレフィン系樹脂(B)を主体とするドメインの周囲に沿って存在する構造。
上述したように、高い割合で水素添加された重合体ブロック(A-2)を有する変性水素添加物(A)が、ポリオレフィン系樹脂(B)と極性樹脂(C)との相容化を促進するため、樹脂組成物(D2)やその成形品において形成される、極性樹脂(C)を主体とするドメインの大きさやポリオレフィン系樹脂(B)を主体とするドメインの大きさが、体積平均分散径又は平均径として数百nm以下の微細なものとなりやすいと考えられる。
そのため、ポリオレフィン系樹脂(B)中の極性樹脂(C)の分散性又は極性樹脂(C)のポリオレフィン系樹脂(B)中の分散性を良好にすることができ、樹脂組成物(D2)又は樹脂組成物(D2)の成形品の引張強さ、引張破壊ひずみ及び耐衝撃性等の機械的特性をバランスよく向上させることができると推測される。
【0082】
<極性樹脂(C)>
樹脂組成物(D2)に含まれる極性樹脂(C)は、カルボキシ基、スルホン酸基、水酸基、シアノ基等の極性基を有する樹脂、樹脂中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルフィド結合等を有する樹脂、分子中に、酸素、窒素、硫黄、ハロゲンのうち少なくとも1つを含む樹脂等を指し、分子内で電子的に分極が発生する樹脂であって、熱可塑性を有するものである。
極性樹脂(C)は、好ましくは、スルホン酸基、シアノ基等の極性基を有する樹脂、樹脂中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルフィド結合等を有する樹脂、分子中に、酸素、窒素、硫黄、ハロゲンのうち少なくとも1つを含む樹脂等であり、より好ましくは、樹脂中にエーテル結合、エステル結合、及び、アミド結合のうち少なくも1つを有する樹脂を含む樹脂である。
好ましい極性樹脂は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン12、ナイロン46、非晶質ナイロン等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリアセタール系樹脂;ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、トリアセチルセルロース、ABS樹脂、AS樹脂、ACS樹脂、キシレン樹脂、アクリル樹脂、及び、ポリエステル系熱可塑性エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
より好ましくは、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、及びポリエステル系熱可塑性エラストマーから選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくは、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂である。
【0083】
極性樹脂(C)として用いられるポリエステル系熱可塑性エラストマーは、例えば、(i)炭素数2~12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、(ii)芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、(iii)ポリアルキレンエーテルグリコールと、を原料とし、エステル化反応、又は、エステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合反応させて得ることができる。
市販のポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、東レ・デュポン株式会社製ハイトレル3046(登録商標)が挙げられる。
【0084】
<添加剤>
樹脂組成物(D2)には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、樹脂組成物(D1)で述べたものと同様のものが挙げられる。
【0085】
樹脂組成物(D2)における上記添加剤の含有量に制限はなく、当該添加剤の種類や樹脂組成物(D2)の用途などに応じて適宜調整することができる。樹脂組成物(D2)が上記添加剤を含有する場合、上記添加剤の含有量は樹脂組成物(D2)の全質量に対して、例えば50質量%以下、45質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、10質量%以下であってもよく、また0.01質量%以上、0.1質量%以上、1質量%以上、5質量%以上であってもよい。換言すれば、樹脂組成物(D2)中の上記添加剤の含有量は、好ましくは0.01~50質量%である。
【0086】
<樹脂組成物(D2)中の各成分の割合>
樹脂組成物(D2)中の変性水素添加物(A)の割合は、樹脂組成物(D2)の全質量に対して、好ましくは1~30質量%である。組成物の相容性と機械的物性のバランスの観点から、より好ましくは2~20質量%、更に好ましくは3~15質量%、より更に好ましくは3~10質量%である。
【0087】
また、樹脂組成物(D2)に含まれる、変性水素添加物(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)の合計質量は、接着性を十分に発現させる等の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。上記合計質量の上限に特に制限はなく、99.9質量%であってもよいし、99.5質量%であってもよい。換言すれば、樹脂組成物(D2)に含まれる、変性水素添加物(A)及びポリオレフィン系樹脂(B)の合計質量は、好ましくは50~99.9質量%である。
【0088】
樹脂組成物(D2)中の極性樹脂(C)の割合は、樹脂組成物(D2)の全質量に対して、好ましくは10~90質量%である。組成物の柔軟性の観点から、より好ましくは10~50質量%、更に好ましくは10~45質量%、より更に好ましくは10~40質量%である。また、機械強度の観点から、樹脂組成物(D2)の全質量に対して、より好ましくは50~90質量%、更に好ましくは50~85質量%、より更に好ましくは50~80質量%である。
また、樹脂組成物(D2)中のポリオレフィン系樹脂(B)の質量をX、極性樹脂(C)の質量をYとするとき、X/Yが90/10~10/90であるのが好ましい。
より詳細には、樹脂組成物(D2)の柔軟性の観点からは、X/Yは、好ましくは90/10~50/50、より好ましくは90/10~55/45、更に好ましくは90/10~60/40、より更に好ましくは90/10~70/30、特に好ましくは90/10~75/25である。また、樹脂組成物(D2)の機械強度の観点からは、X/Yは、好ましくは50/50~10/90、より好ましくは50/50~15/85、更に好ましくは50/50~20/80である、より更に好ましくは50/50~30/70、特に好ましくは50/50~25/75である。
X/Yが上記範囲にあることで、ポリオレフィン系樹脂(B)及び極性樹脂(C)のそれぞれの物性を活かし、引張強さ、引張破壊ひずみ及び耐衝撃性等の機械的特性をバランスよく向上させることができる。
樹脂組成物(D2)中のポリオレフィン系樹脂(B)と極性樹脂(C)の合計量の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、またその上限は97質量%であっても、95質量%であっても、90質量%であってもよい。
【0089】
樹脂組成物(D2)には、変性水素添加物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、及び極性樹脂(C)に加えて、ブロック共重合体(A0)やその水素添加物(A1)が更に含まれていてもよい。ブロック共重合体(A0)及びその水素添加物(A1)の合計含有量は、力学物性の観点から、樹脂組成物(D2)の全質量に対して、好ましくは1~20質量%、より好ましくは1~10質量%、更に好ましくは1~5質量%である。一方、樹脂組成物(D2)が、ブロック共重合体(A0)及びその水素添加物(A1)を全く含まない組成物であることも、好ましい実施態様の1つである。
なお、樹脂組成物(D2)には、上記以外の樹脂成分が含まれていてもよい。例えば、ポリオレフィン系樹脂(B)以外の非極性樹脂が含まれていてもよい。
樹脂組成物(D2)の力学物性を確保する観点から、樹脂組成物(D2)において、変性水素添加物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)、極性樹脂(C)、ブロック共重合体(A0)、及び、水添ブロック共重合体(A1)以外に含まれる樹脂成分の含有量は、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%、より更に好ましくは0~20質量%、より更に好ましくは0~10質量%、最も好ましくは0~5質量%である。
【0090】
<樹脂組成物(D2)の特性>
(引張強さ)
樹脂組成物(D2)の引張強さは、機械強度の観点から、好ましくは9MPa~35MPa、より好ましくは15MPa~30MPa、更に好ましくは20MPa~30MPaである。引張強さの上限については特に制限はなく、用途に応じ適宜特定することができる。
引張強さは、後述する実施例の通り、JIS K7127:1999に準じて、長さ150mm×幅15mmの試験片を作製し、引張速度500mm/minの条件で測定することができる。引張強さが上記範囲であれば、材料強度に優れたものとなる。
【0091】
(引張破壊ひずみ)
樹脂組成物(D2)は、後述する実施例の通り、JIS K7127:1999に準じて、長さ150mm×幅15mmの試験片を作製し、引張速度500mm/minの条件で測定される引張破壊ひずみが、機械強度の観点から、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、更に好ましくは50%以上、より更に好ましくは75%以上、より更に好ましくは100%以上、より更に好ましくは150%以上、より更に好ましくは200%以上、より更に好ましくは250%以上、より更に好ましくは300%以上である。引張破壊ひずみが上記範囲であれば、柔軟で延伸性に優れたものとなる。
【0092】
(引張衝撃性)
樹脂組成物(D2)の引張衝撃性は、後述する実施例の通り、樹脂組成物(D2)から得られたフィルムより、JIS K7160-1996-A(インベース法)に準拠して、TD方向で3形の試験片を作製し、東洋精機製作所製の「衝撃試験機IT」を用いて、ハンマー荷重4Jで、TD方向の引張衝撃値(kJ/m2)を測定することにより評価することができる。
かかる測定により得られる引張衝撃値が、好ましくは650kJ/m2~2000kJ/m2、より好ましくは700kJ/m2~1900kJ/m2、更に好ましくは750kJ/m2~1800kJ/m2である。引張衝撃値が上記範囲であれば、耐衝撃性に優れたものとなる。
【0093】
(ヘイズ)
樹脂組成物(D2)のヘイズは、後述する実施例の通り、樹脂組成物(D2)から得られたフィルムについて、JIS K 7136:2000に準拠して、株式会社村上色彩技術研究所製の「HR-100」を用いて測定されるヘイズ(%)が好ましくは90%以下、より好ましくは70%以下、更に好ましくは50%以下である。ヘイズが上記範囲であれば、透明性に優れたものとなる。
【0094】
(曲げ弾性率)
樹脂組成物(D2)の曲げ弾性率は、後述する実施例の通り、ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製し、JIS K7171:2016(ISO 178:2010)に準拠して、オートグラフ AGX-V(株式会社島津製作所製)を使用し、試験速度2mm/minの条件で測定される曲げ弾性率が、好ましくは950MPa以上、より好ましくは980MPa以上、更に好ましくは1000MPa以上である。曲げ弾性率が上記範囲であれば、剛性に優れたものとなる。
【0095】
(曲げ強さ)
樹脂組成物(D2)の曲げ強さは、後述する実施例の通り、ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製し、JIS K7171:2016(ISO 178:2010)に準拠して、オートグラフ AGX-V(株式会社島津製作所製)を使用し、試験速度2mm/minの条件で測定される曲げ強さが、好ましくは20MPa以上、より好ましくは25MPa以上、更に好ましくは30MPa以上である。曲げ強さが上記範囲であれば、剛性に優れたものとなる。
【0096】
(シャルピー衝撃値)
樹脂組成物(D2)のシャルピー衝撃値は、後述する実施例の通り、ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製し、試験片中央部をノッチ加工して得た残り幅8mmの試験片を用い、JIS K7111-1:2012に準じて、デジタル衝撃試験機 IT型(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、ハンマー荷重を2Jとして測定される、23℃におけるシャルピー衝撃値が、好ましくは5kJ/m2以上、より好ましくは25kJ/m2以上である。シャルピー衝撃値が上記範囲であれば、耐衝撃性に優れたものとなる。
【0097】
<樹脂組成物(D2)の製造方法>
樹脂組成物(D2)は、変性水素添加物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)及び極性樹脂(C)を、あるいは樹脂組成物(D1)及び極性樹脂(C)を、必要に応じて各種添加剤と共に、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いて混合することによって製造するか、又はその後、一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練機を用いて80~350℃程度で溶融混練することによって製造することができる。
また、少なくとも変性水素添加物(A)、ポリオレフィン系樹脂(B)及び極性樹脂(C)が可溶な溶媒に各成分を溶解させて混合し、溶媒を除去することによって樹脂組成物(D2)を製造することもできる。
樹脂組成物(D2)は、ベール、クラム、及びペレット等のいずれの形状にもすることができる。また、樹脂組成物(D2)は、溶融混練成形機により、又は、樹脂組成物のベール、クラム、あるいはペレット等を原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により各種成形品とすることができる。
添加順序に制限はないが、分散性や、得られる樹脂組成物(D2)の物性をより向上させる観点から、変性水素添加物(A)と極性樹脂(C)を添加したのちにポリオレフィン系樹脂(B)を添加する添加順序が好ましい。
【0098】
<樹脂組成物(D2)の用途>
樹脂組成物(D2)は、各種用途に使用することができる。
本実施形態の樹脂組成物(D2)は、引張強さ、引張破壊ひずみ及び耐衝撃性等の機械的特性をバランスよく有しており、各種用途に用いることができる。そのため、本発明は、上記樹脂組成物(D2)を用いたフィルム及びシート等も提供する。
【0099】
また上記樹脂組成物(D2)は、自動車分野における各種の自動車用部材、例えばサーモスタットハウジング、ラジエータータンク、ラジエーターホース、ウォーターアウトレット、ウォーターポンプハウジング、リアジョイント等の冷却部品;インタークーラータンク、インタークーラーケース、ターボダクトパイプ、EGRクーラーケース、レゾネーター、スロットルボディ、インテークマニホールド、テールパイプ等の吸排気系部品;燃料デリバリーパイプ、ガソリンタンク、クイックコネクタ、キャニスター、ポンプモジュール、燃料配管、オイルストレーナー、ロックナット、シール材等の燃料系部品;マウントブラケット、トルクロッド、シリンダヘッドカバー等の構造部品;ベアリングリテイナー、ギアテンショナー、ヘッドランプアクチュエータギア、HVACギア、スライドドアローラー、クラッチ周辺部品等の駆動系部品;エアブレーキチューブ等のブレーキ系統部品;エンジンルーム内のワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、センサー、ABSボビン、コンビネーションスイッチ、車載スイッチ、電子制御ユニット(ECU)ボックス等の車載電装部品;スライドドアダンパー、ドアミラーステイ、ドアミラーブラケット、インナーミラーステイ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、エアクリーナーのインレートパイプ、ドアチェッカー、プラチェーン、エンブレム、クリップ、ブレーカーカバー、カップホルダー、エアバック、フェンダー、スポイラー、ラジエーターサポート、ラジエーターグリル、ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、バックドア、フューエルセンダーモジュール、フロアマット、インストルメントパネル、ダッシュボード、ダッシュインシュレーター、ダムラバー、ウェザーストリップ、タイヤ等の内外装部品等に用いることもできる。
【0100】
また、家電分野におけるテレビ、ブルーレイレコーダーやHDDレコーダー等の各種レコーダー類、プロジェクター、ゲーム機、デジタルカメラ、ホームビデオ、アンテナ、スピーカー、電子辞書、ICレコーダー、FAX、コピー機、電話機、ドアホン、炊飯器、電子レンジ、オーブンレンジ、冷蔵庫、食器洗い機、食器乾燥機、IHクッキングヒーター、ホットプレート、掃除機、洗濯機、充電器、ミシン、アイロン、乾燥機、電動自転車、空気清浄機、浄水器、電動歯ブラシ、照明器具、エアコン、エアコンの室外機、除湿機、加湿機等の各種電気製品における、シール材、接着剤、粘着剤、パッキン、Oリング、ベルト、防音材等に利用可能である。繊維として用いることもできる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
後述の製造例で得られたブロック共重合体、ブロック共重合体の水素添加物、及び、変性水素添加物の物性評価方法を以下に示す。
なお、1H-NMR測定は、特記しない限り下記の装置及び測定条件で行った。
・装置:核磁気共鳴装置「AVANCE 400 Nanobay」(Bruker社製)
・溶媒:CDCl3
・測定温度:30℃
・積算回数:1024回
・サンプル濃度:50mg/ml
【0102】
[各物性の測定方法]
<重合体ブロック(A-1)の含有量>
水添前のブロック共重合体の1H-NMR測定を行い、スチレンに由来するピーク強度とジエンに由来するピーク強度の比から重合体ブロック(A-1)の含有量を算出した。
【0103】
<重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)>
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、重合体ブロック(A-1)、重合体ブロック(A-2)、ブロック共重合体(A0)、ブロック共重合体の水素添加物、及び、変性水素添加物のポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
(GPC測定装置及び測定条件)
・装置 :GPC装置「HLC-8020」(東ソー株式会社製)
・分離カラム :東ソ-株式会社製の「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結した。
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0104】
<重合体ブロック(A-2)および(A-3)における水素添加率>
ブロック共重合体中の共役ジエン由来の構造単位における炭素-炭素二重結合の水素添加率(重合体ブロック(A-2)および(A-3)における水素添加率)は、得られたスペクトルの4.5~6.0ppmに現れる炭素-炭素二重結合が有するプロトンのピークから、下記式により算出した。
水素添加率(モル%)={1-(水添ブロック共重合体1モルあたりに含まれる炭素-炭素二重結合のモル数)/(未水添ブロック共重合体1モルあたりに含まれる炭素-炭素二重結合のモル数)}×100
【0105】
<重合体ブロック(A-2)におけるビニル結合量>
重合途中にサンプリングした重合体ブロック(A-2)の1H-NMR測定を行い、イソプレン及びブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積に対する、イソプレン構造単位における3,4-結合単位に対応するピーク面積の比、イソプレン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比、及び、ブタジエン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比から、ビニル結合量(3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。
【0106】
<重合体ブロック(A-3)におけるビニル結合量>
水添前のブロック共重合体の1H-NMR測定を行い、イソプレン及びブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積に対する、イソプレン構造単位における3,4-結合単位に対応するピーク面積の比、イソプレン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比、ブタジエン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比から、ブロック共重合体のビニル結合量(3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。次いで、重合途中にサンプリングした重合体ブロック(A-2)の1H-NMR測定を行い、イソプレン及びブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積に対する、イソプレン構造単位における3,4-結合単位に対応するピーク面積の比、イソプレン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比、ブタジエン構造単位における1,2-結合単位に対応するピーク面積の比から、重合体ブロック(A-2)におけるビニル結合量(3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。下記式を用いて重合体ブロック(A-3)におけるビニル結合量を算出した。
重合体ブロック(A-3)におけるビニル結合量=[ブロック共重合体におけるビニル結合量×{重合体ブロック(A-2)の含有量(質量部)+重合体ブロック(A-3)の含有量(質量部)}-重合体ブロック(A-2)におけるビニル結合量×重合体ブロック(A-2)の含有量(質量部)]/重合体ブロック(A-3)の含有量(質量部)
【0107】
<変性量(phr)>
後述する変性水素添加物(Y-1)~(Y-3)の無水マレイン酸変性量は、以下の手順で測定した。各変性水素添加物5gをトルエン180mlに溶解した後、エタノール20mlを加え、0.1モル/L水酸化カリウム溶液で滴定し、下記計算式を用い変性量を算出した。
無水マレイン酸変性量(phr)=滴定量×5.611/サンプル量×98×100/56.11×1000
<変性量(モル%)>
上記で算出した無水マレイン酸変性量(phr)から、下記計算式を用い変性量(モル%)を算出した。
無水マレイン酸変性量(モル%)={無水マレイン酸変性量(phr)/無水マレイン酸分子量}/{無水マレイン酸変性量(phr)/無水マレイン酸分子量+重合体ブロック(A)含有量/重合体ブロック(A)構造単位分子量+重合体ブロック(B)含有量/重合体ブロック(B)構造単位分子量}×100
【0108】
<動的粘弾性測定(tanδ)>
後述する変性水素添加物(Y-1)~(Y-3)のそれぞれについて、プレス成形装置「NF-50H」(株式会社神藤金属工業所製)により、温度230℃で1分間予熱後、同温度にてスペーサーを介して圧力10MPaで3分間加圧して、厚み1.0mmの単層シートを作製した。該単層シートを円板形状に切り出し、これを試験シートとした。
測定には、JIS K 7244-10:2005に基づいて、平行平板振動レオメータとして、円板の直径が8mmのゆがみ制御型動的粘弾性装置「ARES-G2」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いた。
上記試験シートによって2枚の平板間の隙間を完全に充填し、歪み量0.1%で、上記試験シートに1Hzの周波数で、剪断モードで振動を与え、-70℃から+200℃まで3℃/分の定速で昇温し、tanδのピーク強度の最大値(ピークトップ強度)及び該最大値が得られた温度(ピークトップ温度)を求めた。
【0109】
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210:2014に準じて、温度230℃、荷重21Nの条件で、メルトインデクサ(株式会社立山科学ハイテクノロジーズ製MELT INDEXER L241)を用いて、後述する変性水素添加物(Y-1)~(Y-3)のMFRを測定した。
【0110】
1.変性水素添加物の製造例と評価
[例1-1]
(変性水素添加物(Y-1)の製造)
(1)窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液200g(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:21g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.5kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃で、イソプレン7.2kg及びブタジエン4.8kgの混合液を5時間かけて加えた後2時間重合させ、更にスチレン(2)1.5kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
(2)該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、Y’-1と称する)を得た。
(3)Coperion社製二軸押出機「ZSK26mc」(26mmφ、L/D=56)を230℃にて使用し、上記で得られた水添ブロック共重合体Y’-1を10kg配合して溶融状態とし、ラジカル開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(開始剤1:パーヘキサ25B-40、日本油脂株式会社製)を0.02kg、変性剤として無水マレイン酸0.15kgを配合して、変性反応を行い、二軸押出機からの吐出物を、アンダーウォーターカッターでペレット化することで、変性水素添加物(Y-1)をペレットとして得た。
【0111】
[例1-2]
(変性水素添加物(Y-2)の製造)
(1)窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液210g(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:22.05g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.5kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃で、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン100gを加え、ブタジエン11.9kgを3時間かけて加えた後2時間重合させ、更にスチレン(2)1.5kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
(2)該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリブタジエン-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、Y’-2と称する)を得た。
(3)上記で得られた水添ブロック共重合体Y’-2を、無水マレイン酸を表1に示す量に変更した以外は例1-1の(3)と同様の手順にて変性反応を行い、変性水素添加物(Y-2)をペレットとして得た。
【0112】
[例1-3]
(変性水素添加物(Y-3)の製造)
(1)窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液130g(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:13.65g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.1kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃で、イソプレン4.1kg及びブタジエン3.6kgの混合液を4時間かけて加えた後2時間重合させ、更にスチレン(2)1.1kgを加えて1時間重合させ、更に容器内温度40℃で、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン300gを加え、イソプレン1.3kg及びブタジエン1.2kgの混合液を1時間かけて加えた後2時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)テトラブロック共重合体を含む反応液を得た。
(2)該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)テトラブロック共重合体の水素添加物(以下、Y’-3と称する)を得た。
(3)上記で得られた水添ブロック共重合体Y’-3を用いたこと以外は例1-1の(3)と同様の手順にて変性反応を行い、変性水素添加物(Y-3)をペレットとして得た。
【0113】
例1-1、例1-2、及び例1-3で得られた各ブロック共重合体、ブロック共重合体の水素添加物、及び変性水素添加物について、上述した測定手順に従って各種物性の測定を行った。
測定結果をその組成とともに表1に示す。
【0114】
【0115】
表1に示すように、例1-1の変性水素添加物(Y-1)の重合体ブロック(A-2)のビニル結合量及び例1-3の変性水素添加物(Y-3)の重合体ブロック(A-2)のビニル結合量は7モル%であるのに対して、例1-2の変性水素添加物(Y-2)の重合体ブロック(A-2)のビニル結合量は40モル%である。また、変性水素添加物(Y-1)は、tanδのピークトップ強度が0.57を示し、tanδのピークトップ温度は変性水素添加物(Y-2)に比べて低く、弾性に優れることが分かる。さらに、変性水素添加物(Y-3)は、tanδのピークトップ強度が0.60を示し、tanδのピークトップ温度は変性水素添加物(Y-2)に比べて低く、弾性に優れることが分かる。
さらに、変性水素添加物(Y-1)及び(Y-3)のMFRは変性水素添加物(Y-2)に比べて低いため、混練時のせん断が掛かりやすくなり、樹脂組成物(D1)、(D2)の分散が良好になる。
このため、変性水素添加物(Y-1)及び(Y-3)は、変性水素添加物(Y-2)に比べて、弾性および樹脂組成物の分散性が良好といえる。
【0116】
2.樹脂組成物の製造例及び評価
[例2-1~2-7]
表2に示す配合で、単軸押出機(主:ジーエムエンジニアリング社製「GM-30」、L/D=28)(副:ジーエムエンジニアリング社製「GM-25」、L/D=25)を経由して、樹脂組成物1~7の溶融混練物をTダイ(ハンガーコートダイ;リップ幅300mm、リップ厚み1mm)より押出し、表2に示すフィルム厚み、成形温度、及び巻取り速度にてフィルムに成形した。
【0117】
各樹脂組成物の作製に用いた成分は以下のとおりである。
[変性水素添加物(A)]
・変性水素添加物Y-1
・変性水素添加物Y-2
・変性水素添加物Y-3
[ポリオレフィン系樹脂(B)]
・ポリオレフィン1:低密度ポリエチレン(「ノバテックLD LF443」(商品名、ノバテックは登録商標)、日本ポリエチレン株式会社製、メルトインデックス(MI)=1.5g/10min)
・ポリオレフィン2:ランダムポリプロピレン(「プライムポリプロF327」(商品名)、株式会社プライムポリマー製、メルトインデックス(MI)=7g/10min)
[極性樹脂(C)]
・ポリアミド:ポリアミド6(「UBE nylon 1013B」(商品名)、宇部興産株式会社製)
[酸化防止剤]
・酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤(「アデカスタブAO-60」(商品名)、株式会社ADEKA製)
【0118】
樹脂組成物1~7より得られたフィルムについて、以下の物性を測定した。
<引張強さ及び引張破壊ひずみ>
各例の樹脂組成物から得られたフィルムより、TD方向を長さとする、長さ150mm×幅15mmの試験片を作製し、JIS K7127:1999に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を用いて、引張速度500mm/minにて、TD方向の引張強さ(MPa)及び引張破壊ひずみ(%)を測定した。
なお、表2において、引張強さは、好ましくは9.0MPa以上、より好ましくは17.0MPa以上であり、また、引張破壊ひずみは、好ましくは50%以上、より好ましくは200%以上である。
【0119】
<引張衝撃値>
各例の樹脂組成物から得られたフィルムより、JIS K7160-1996-A(インベース法)に準拠して、TD方向で3形の試験片を作製し、東洋精機製作所製の「衝撃試験機IT」を用いて、ハンマー荷重4Jで、TD方向の引張衝撃値(kJ/m2)を測定した。
なお、表2において、引張衝撃値は、好ましくは650kJ/m2以上、より好ましくは750kJ/m2以上である。
【0120】
<ヘイズ>
各例の樹脂組成物から得られたフィルムについて、JIS K 7136:2000に準拠して、株式会社村上色彩技術研究所製の「HR-100」を用いて、ヘイズ(%)を測定した。
【0121】
<透過型電子顕微鏡(TEM)による観察>
樹脂組成物1、3及び4のモルフォロジーの観察のために、ウルトラミクロトーム(商品名:Leica EM FC7、Leica Microsystem社製)で薄膜切削したのち、四酸化ルテニウム0.5%水溶液で染色してサンプルを作製し、このサンプルを透過型電子顕微鏡(TEM)(商品名:HT7700、株式会社日立ハイテク製)で観察した。それぞれの透過型電子顕微鏡(TEM)による写真を
図1~3に示す。
【0122】
樹脂組成物1~7を作製するのに用いた各成分の種類及び使用量、フィルム成形条件、物性測定結果を以下の表2に示す。
【0123】
なお、例2-1~2-2及び2-7は実施例に該当し、例2-3~2-6は比較例に該当する。
【0124】
【0125】
表2から明らかなように、樹脂組成物1~2及び7より得られたフィルムは、樹脂組成物3~6より得られたフィルムと比べて、引張強さ、引張破壊ひずみ、耐衝撃性のバランスに優れることが判る。また、ポリオレフィン系樹脂として低密度ポリエチレンを用いた樹脂組成物1及び7は、得られるフィルムの透明性にも優れることが判る。
【0126】
本発明の変性水素添加物を含む樹脂組成物1~2及び7と、変性水素添加物を含まない樹脂組成物3及び5と比較すると、引張破壊ひずみが著しく改善され、高い引張強さを有していることが判る。これは、本発明の変性水素添加物の相容化剤としての作用が良好なため、極性樹脂であるポリアミドの周囲に変性水素添加物が数nm程度の厚みで層を有するコアシェル構造を形成し、ポリオレフィン中に上記コアシェル構造のポリアミドが微分散することにより、界面強度が向上したものと推測される。
【0127】
また、本発明の変性水素添加物を含む樹脂組成物1~2及び7と、本発明の規定を満たさない変性水素添加物を含む樹脂組成物4及び6との比較から、実施例の樹脂組成物は引張衝撃値を高めやすいことが判る。これは、本発明の規定を満たさない変性水素添加物の相容性は本発明の変性水素添加物とは異なり、極性樹脂(C)の分散に偏りが存在し、かつ、その分散径も異なっているためと推測される。
【0128】
[例3-1~3-7]
表3に示す配合で、Coperion社製二軸押出機「ZSK26mc」(26mmφ、L/D=56)を用い、シリンダー温度250℃、スクリュー回転300rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、樹脂組成物8~14を作製した。得られた樹脂組成物を東芝機械株式会社製射出成形機「EC-75SX」を用い、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件でISO多目的試験片A1型の試験片を作製した。
【0129】
各樹脂組成物の作製に用いた成分は以下のとおりである。
[変性水素添加物(A)]
・変性水素添加物Y-1
・変性水素添加物Y-2
・変性水素添加物Y-3
[ポリオレフィン系樹脂(B)]
・ポリオレフィン3:ランダムポリプロピレン(「プライムポリプロ」J226T、株式会社プライムポリマー製、メルトインデックス(MI)=20g/10min)
[極性樹脂(C)]
・ポリブチレンテレフタレート:「トレコン1401」(商品名)、東レ株式会社製
・ポリカーボネート:「ユーピロンS3000」(商品名)、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製
[酸化防止剤]
・酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤(「アデカスタブAO-60」(商品名)、株式会社ADEKA製)
【0130】
樹脂組成物8~14より得られた試験片について、以下の物性を測定した。
<引張強さ及び引張破壊ひずみ>
JIS K7161-1:2014(ISO 527-1:2012)に準拠して、オートグラフ AGX-V(株式会社島津製作所製)を使用し、試験速度50mm/min、チャック間距離115mm、標線間距離50mmの条件で引張強さ(MPa)および引張破壊ひずみ(%)を測定した。測定結果を表3に示す。
なお、表3において、引張強さは、好ましくは15MPa以上、より好ましくは17MPa以上であり、また、引張破壊ひずみは、好ましくは50%以上、より好ましくは200%以上である。
【0131】
<曲げ弾性率及び曲げ強さ>
ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製し、JIS K7171:2016(ISO 178:2010)に準拠して、オートグラフ AGX-V(株式会社島津製作所製)を使用し、試験速度2mm/minの条件で曲げ弾性率(MPa)および曲げ強さ(MPa)を測定した。測定結果を表3に示す。
【0132】
<シャルピー衝撃値>
ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製し、試験片中央部にノッチ加工して残り幅8mmの試験片を得た。上記試験片を用い、JIS K7111-1:2012に準じて、デジタル衝撃試験機 IT型(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、ハンマー荷重を2Jとし、23℃におけるシャルピー衝撃値(kJ/m2)を測定した。測定結果を表3に示す。
なお、表3において、シャルピー衝撃値は、好ましくは5.0kJ/m2以上、より好ましくは25.0kJ/m2以上である。
【0133】
なお、例3-1~3-2及び3-7は実施例に該当し、例3-3~3-6は比較例に該当する。
【0134】
【0135】
極性樹脂の種類を変更した場合においても、ポリアミドを用いた場合に見られたのと同様の傾向がみられた。
【0136】
[例4-1~4-3]
表4に示す配合で、Coperion社製二軸押出機「ZSK26mc」(26mmφ、L/D=56)を用い、シリンダー温度230℃、スクリュー回転300rpm、吐出量10kg/hで溶融混練し、樹脂組成物15~17を作製した。得られた樹脂組成物を東芝機械株式会社製射出成形機「EC-75SX」を用い、シリンダー温度230℃、金型温度80℃の条件でISO多目的試験片A1型の試験片を作製した。
【0137】
各樹脂組成物の作製に用いた成分は以下のとおりである。
[変性水素添加物(A)]
・変性水素添加物Y-1
[水素添加物(A1)]
・水素添加物Y’-1
[ポリオレフィン系樹脂(B)]
・ポリオレフィン1:低密度ポリエチレン(「ノバテックLD LF443」(商品名、ノバテックは登録商標)、日本ポリエチレン株式会社製、メルトインデックス(MI)=1.5g/10min)
[水酸化マグネシウム]
・水酸化マグネシウム:水酸化マグネシウム(「キスマ5P」(商品名)、協和化学工業株式会社製)
[酸化防止剤]
・酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤(「アデカスタブAO-60」(商品名)、株式会社ADEKA製)
【0138】
樹脂組成物15~17より得られた試験片について、以下の物性を測定した。
【0139】
<引張強さ及び引張破壊ひずみ>
JIS K7161-1:2014(ISO 527-1:2012)に準拠して、オートグラフ AGX-V(株式会社島津製作所製)を使用し、試験速度50mm/min、チャック間距離115mm、標線間距離50mmの条件で引張強さ(MPa)および引張破壊ひずみ(%)を測定した。測定結果を表4に示す。
なお、表4において、引張強さは、好ましくは15MPa以上、より好ましくは17MPa以上であり、また、引張破壊ひずみは、好ましくは50%以上、より好ましくは200%以上である。
【0140】
<シャルピー衝撃値>
ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製し、試験片中央部にノッチ加工して残り幅8mmの試験片を得た。上記試験片を用い、JIS K7111-1:2012に準じて、デジタル衝撃試験機 IT型(株式会社東洋精機製作所製)を使用して、ハンマー荷重を2Jとし、23℃におけるシャルピー衝撃値(kJ/m2)を測定した。測定結果を表4に示す。
なお、表4において、シャルピー衝撃値は、好ましくは20.0kJ/m2以上、より好ましくは25.0kJ/m2以上である。
【0141】
<難燃性>
ISO多目的試験片の両端を切削し、長さ125mm、幅10mm、厚み4mmの試験片を作製した。
次に、作製した試験片を難燃性評価装置に設置した。詳細には、
図4に示すように、難燃性評価装置10は、支持部材(金属台座)100と、支持部材(金属台座)100に立設された金属棒200と、金属棒200に固定された第1クランプ300及び第2クランプ400と、第2クランプ400に保持された金属製容器500とを備える。金属製容器500には水が入っている。作製した試験片20は、第1クランプ300に保持される。なお、
図4において、Aは100±1mmを表し、Bは25±1mmを表し、Cは約30°を表す。
難燃性評価の試験手順は以下の通りである。
(1)
図4に示すように試験片20にバーナー30による炎40を10秒間接触させる。
(2)次に、試験片20から炎40を遠ざけて時間計測を開始する。
(3)次に、燃焼距離が25mmとなるまでの時間を計測した。結果を表4に示す。ここで、燃焼距離が25mmに達する前に燃焼が止まった場合は、「不燃性」とする。
評価結果を表4に示す。
なお、表4において、難燃性は、好ましくは1分30秒以上であり、より好ましくは「不燃性」である。
【0142】
なお、例4-1~4-2は実施例に該当し、例4-3は比較例に該当する。
【0143】
【0144】
本発明の変性水素添加物を含む樹脂組成物15及び16と、本発明の変性水素添加物を含まない樹脂組成物17との比較から、実施例の樹脂組成物は引張強さ、引張破壊ひずみ、耐衝撃性などの機械的特性のバランスに優れ、且つ、難燃性が向上されたことが判る。これは、変性水素添加物と水酸化マグネシウム(フィラー)との相互作用により界面強度が向上したことで引張強さが向上し、且つ、水酸化マグネシウム(フィラー)が樹脂組成物内でより分散したことで難燃性が向上したことによるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の変性水素添加物とポリオレフィン系樹脂、又はポリオレフィン系樹脂と極性樹脂とを含む樹脂組成物は、引張強さ、引張破壊ひずみ、耐衝撃性などの機械的特性のバランスに優れる。したがって、本発明の変性水素添加物は、ポリオレフィン系樹脂及び極性樹脂が用いられている各種包装容器をリサイクルする際に好適に用いることが可能である。