(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】接着剤の選定方法および接着複合体並びに接着複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 175/04 20060101AFI20240206BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20240206BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20240206BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240206BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
C09J175/04
C09J5/00
G06F30/23
G06F30/10
B29C65/48
(21)【出願番号】P 2019099678
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-04-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 接着界面科学研究会PartVI第3回例会~10周年記念シンポジウム、展示日:平成30年11月16日、開催場所:積水化学工業株式会社京都研修センター 1F大セミナー室(京都市南区上鳥羽上調子町2-2)、展示内容「接着接合性能の可視化技術の開発」
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100166637
【氏名又は名称】木内 圭
(72)【発明者】
【氏名】阿部 愛美
(72)【発明者】
【氏名】松木 裕一
(72)【発明者】
【氏名】侯 剛
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148888(JP,A)
【文献】特開2019-061601(JP,A)
【文献】MANJULA, S., et al.,Multi-Layered Structure: Adhesive Selection and Process Mechanics,Proceedings - International Symposium on Advanced Packaging Materials: Processes, Properties and Int,pp. 48-52 (1999).
【文献】FERNANDES, T. A. B., el al.,Adhesive Selection for Single Lap Bonded Joints: Experimentation and Advanced Techniques for St,The Journal of Adhesion,Vol. 91, No. 10-11,pp. 841-862 (2015).
【文献】BRETO, R., et al.,Study of the singular term in mixed adhesive joints,International Journal of Adhesion and Adhesives,Vol. 76,pp. 11-16 (2017).
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
G06F 30/23
G06F 30/10
B29C 65/48
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種材料の一方材料と他方材料とが接着剤により接合されて一体化した接着複合体に対して前記接着剤にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するせん断試験を接着破壊に至るまで行って取得した試験データに基づいて、前記接着複合体の二次元または三次元のFEM解析モデルを前記接着剤を異ならせて複数作製し、それぞれの前記解析モデルに対してその解析モデルに使用されている前記接着剤にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するシミュレーションを行う過程で前記解析モデルに発生する引張応力とその発生位置とに基づいて、それぞれの前記接着剤の内から前記一方材料と前記他方材料とを接合する接着剤を選定することを特徴とする接着剤の選定方法。
【請求項2】
前記シミュレーションを行う過程で発生する前記解析モデルの前記一方材料、前記他方材料および前記接着剤のそれぞれにおける最大引張応力と、前記一方材料、前記他方材料および前記接着剤のそれぞれの許容引張応力との比較に基づいて、それぞれの前記接着剤の内から前記一方材料と前記他方材料とを接合する接着剤を選定する請求項1に記載の接着剤の選定方法。
【請求項3】
前記シミュレーションを行う過程で発生する前記解析モデルにおける最大引張応力と、その最大引張応力が発生した位置の部材の許容引張応力との比較に基づいて、それぞれの前記接着剤の内から前記一方材料と前記他方材料とを接合する接着剤を選定する請求項1に記載の接着剤の選定方法。
【請求項4】
前記シミュレーションを行う過程で発生する前記解析モデルでの最大変形量に基づいて、それぞれの前記接着剤の内から前記一方材料と前記他方材料とを接合する接着剤を選定する請求項1~3のいずれかに記載の接着剤の選定方法。
【請求項5】
それぞれの前記解析モデルの許容変形量と、前記最大変形量との比較に基づいて、それぞれの前記接着剤の内から前記一方材料と前記他方材料とを接合する接着剤を選定する請求項4に記載の接着剤の選定方法。
【請求項6】
前記一方材料の引張弾性率を500MPa以上2000MPa以下、引張強さを10MPa以上30MPa以下、前記他方材料の引張弾性率を2000MPa以上10000MPa以下、引張強さを30MPa以上150MPa以下、前記他方材料の引張弾性率を前記一方材料の引張弾性率の2倍以上として、前記複数の接着剤の引張弾性率を1MPa以上25MPa以下、引張強さを3MPa以上25MPa以下にする請求項1~5のいずれかに記載の接着剤の選定方法。
【請求項7】
前記一方材料および前記他方材料の主成分がポリウレタンであり、前記接着剤として、ウレタンプレポリマーを含む主剤とポリオールを含む硬化剤とからなる2液型ポリウレタン系接着剤を用いる請求項1~6のいずれかに記載の接着剤の選定方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の接着剤の選定方法によって
接着剤を選定し、次いで、前記一方材料からなる一方部材と、前記他方材料からなる他方部材との間に介在させて前記一方部材と前記他方部材を一体化させる接着複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤の選定方法および接着複合体並びに接着複合体の製造方法に関し、さらに詳しくは、異種材料が接合された接着複合体の接着破壊に至るまでのプロセスを考慮して、使用する接着剤をより簡便かつ適切に選定できる接着剤の選定方法およびこの接着剤を使用した接着複合体並びに接着複合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用する接着剤を選定する場合は、接着対象の材料に対する接着剤の接合性能(接着強度や耐久性など)が考慮される。従来、接着剤の接合性能を解析する方法は種々提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
近年、接着剤により接合される材料が多様化して異種材料どうしを接合することが増加している。異種材料どうしを接合した接着複合体では、互いの材料の特性が異なるため、接着複合体が外力を受けて接着破壊に至るまでのプロセスには互いの材料の挙動が影響し易くなる。互いの材料の特性の違いが大きくなる程、このプロセスに対する影響が大きくなり易い。また、接着複合体の接合部分の耐久性を担保するには、接着破壊に至るまでのプロセスを考慮することが望ましい。それ故、異種材料どうしを接合する接着剤による接合性能を解析して適切な接着剤を選定するには従来方法に対して改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-148888号公報
【文献】特開2019-61601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、異種材料が接合された接着複合体の接着破壊に至るまでのプロセスを考慮して、使用する接着剤をより簡便かつ適切に選定できる接着剤の選定方法およびこの接着剤を使用した接着複合体並びに接着複合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の接着剤の選定方法は、異種材料の一方材料と他方材料とが接着剤により接合されて一体化した接着複合体に対して前記接着剤にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するせん断試験を接着破壊に至るまで行って取得した試験データに基づいて、前記接着複合体の二次元または三次元のFEM解析モデルを前記接着剤を異ならせて複数作製し、それぞれの前記解析モデルに対してその解析モデルに使用されている前記接着剤にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するシミュレーションを行う過程で前記解析モデルに発生する引張応力とその発生位置とに基づいて、それぞれの前記接着剤の内から前記一方材料と前記他方材料とを接合する接着剤を選定することを特徴とする。
【0007】
本発明の接着複合体は、上記の接着剤の選定方法によって選定された接着剤が、前記一方材料からなる一方部材と、前記他方材料からなる他方部材との間に介在して前記一方部材と前記他方部材とが一体化していることを特徴とする。
【0008】
本発明の接着複合体の製造方法は、上記の接着剤の選定方法によって選定された接着剤を、前記一方材料からなる一方部材と、前記他方材料からなる他方部材との間に介在させて前記一方部材と前記他方部材を一体化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の本発明の接着剤の選定方法によれば、異種材料の一方材料と他方材料とが接着剤により接合されて一体化した接着複合体に対して前記接着剤にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するせん断試験を接着破壊に至るまで行って取得した試験データに基づいて、前記接着複合体の二次元または三次元のFEM解析モデルを前記接着剤を異ならせて複数作製する。そして、それぞれの解析モデルに対して、使用している接着剤にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するシミュレーションを行う過程で前記解析モデルに発生する引張応力とその発生位置のデータを使用する。そのため、それぞれの解析モデルに引張せん断荷重を付与する簡潔なシミュレーションを行う方法でありながらも、接着複合体の接着破壊に至るまでのプロセスを考慮して接着剤を選定することができる。その結果、要求を満たす接合性能を確保できる接着剤を、シミュレーションに用いたそれぞれの接着剤の内から適切に選定することが可能になる。
【0010】
また、本発明の接着複合体および接着複合体の製造方法によれば、上記の選定方法によって選定された適切な接着剤を用いることで、使用条件により適した接着複合体を得ることができる。これに伴い、接着複合体の耐久性や耐久性に対する信頼度を向上させるには有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の接着複合体を例示する斜視図である。
【
図2】
図1の接着複合体の試験片をせん断試験機にセットした状態を側面視で例示する説明図である。
【
図3】
図2の試験片を平面視で例示する説明図である。
【
図4】せん断試験により取得された試験データを例示するグラフ図である。
【
図6】
図5の解析モデルに引張せん断荷重を付与した状態を例示する説明図である。
【
図7】シミュレーションを行う過程で解析モデルに発生する最大引張応力と引張せん断荷重の関係を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の接着剤の選定方法および接着複合体並びに接着複合体の製造方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
図1に例示する本発明の接着複合体1は、異種材料の一方材料2からなる一方部材2Aと、他方材料3からなる他方部材3Aと、一方部材2Aと他方部材3Aとの間に介在する接着剤4とを備えていて、互いの部材2A、3Aが接着剤4によって接合されて一体化している。一方部材2A、他方部材3Aの形状は平板状に限らず、種々の形状を採用することができる。即ち、一方部材2Aは一方材料2を用いて様々な形状に成形され、他方部材3Aは他方材料3を用いて様々な形状に成形される。
【0014】
ここで異種材料とは、互いが異なる材質(例えば異なる種類の樹脂)であることだけでなく、同じ材質(例えば同じ種類の樹脂)であっても、混合、埋設されている補強材の有無、補強材の仕様等が異なっている場合も含む。即ち、互いの機械的特性(引張弾性率や引張強さなど)が異なる場合は異種材料となる。
【0015】
使用される一方材料2は例えば、引張弾性率500MPa以上2000MPa以下、引張強さ10MPa以上30MPa以下である。一方材料2としては、ポリプロピレン等の各種熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の各種熱硬化性樹脂を例示できる。ポリプロピレンにタルクを混合した一方材料2の場合、引張弾性率2GPa以下、引張強さ18MPa以下、ポアソン比0.4である。
【0016】
使用される他方材料3は例えば、引張弾性率2000MPa以上10000MPa以下、引張強さ30MPa以上150MPa以下である。他方材料3としては、ポリプロピレン等の各種熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等の各種熱硬化性樹脂に補強材が混合、埋設された材料を例示できる。他方材料3の引張弾性率は例えば、一方材料2の引張弾性率の2倍以上、或いは3倍以上となる。ポリプロピレンにガラス繊維を混合した他方材料3の場合、引張弾性率2.7GPa以上7.7GPa以下、引張強さ80MPa以上180MPa以下、ポアソン比0.4である。一方材料2、他方材料3の引張弾性率、引張強さ、ポアソン比は、JIS K 7161の規定に準拠して算出される。
【0017】
使用される接着剤4は例えば、引張弾性率1MPa以上25MPa以下、引張強さ(引張接着強さ)3MPa以上25MPa以下、ポアソン比は0.4~0.5である。これら値は、接着剤4が硬化して十分な接着力を発現している時の値である。接着剤4の引張強さ、引張弾性率、ポアソン比は、JIS K 6849の規定に準拠して算出される。
【0018】
接着剤4としては、一方材料2および他方材料3に接着するものであれば採用することができる。一方材料2および他方材料3の主成分がポリウレタンの場合は例えば、ウレタンプレポリマーを含む主剤とポリオールを含む硬化剤とからなる2液型ポリウレタン系の接着剤4を用いるとよい。
【0019】
詳述すると、一方材料2および他方材料3の主成分がポリウレタンの場合は、2液型ポリウレタン系の接着剤4の主剤中のウレタンプレポリマーが重量平均分子量で1000以上10000以下の2官能型または3官能型ポリエーテルポリオールと4,4,4-ジフェニルメタンジイソシアネートをイソシアネートインデックス(NCO/OHモル比)が1.5~40で反応させて得られるウレタンプレポリマーを少なくとも含み、かつ硬化剤中のポリオールが重量平均分子量1000以下の3官能性ポリオール、または重量平均分子量400以下の2官能性ポリオールのいずれかを少なくとも含む組成物にするとよい。さらには、この接着剤4の主剤または硬化剤のどちらか一方にカーボンまたは炭酸カルシウムを少なくとも含む2液型ポリウレタン系の接着剤4にして、その主剤中のイソシアネート基と硬化剤中の水酸基の割合を示すイソシアネートインデックス(NCO/OHモル比)が1/0.1~1/0.9で主剤と硬化剤が混合されている組成物にするよい。
【0020】
この実施形態では、一方材料2としてポリプロピレンにタルクが混合された樹脂(引張弾性率1.6GPa程度)、他方材料3としてポリプロピレンにガラス繊維が混合された樹脂(引張弾性率5.4GPa程度)を用いた場合を例にして説明する。また、接着剤4として、接着剤4a(引張弾性率2MPa、引張強さ5.6MPa、破断伸び497%、JIS A硬度50)、接着剤4b(引張弾性率40MPa、引張強さ10.9MPa、破断伸び180%、JIS A硬度80)、接着剤4c(引張弾性率279MPa、引張強さ15.0MPa、破断伸び50%以下、JIS A硬度90以上)を用いた場合を例にして説明する。
【0021】
本発明の接着剤の選定方法では、
図5に例示するように、一方材料2と他方材料3とが接着剤4により接合されて一体化した接着複合体1の二次元または三次元のFEM解析モデル1Mを用いる。この解析モデル1Mは、実際の接着複合体1と同じ構成要素を備えている。図面では解析モデル1Mのそれぞれの構成要素には、実際の接着複合体1の構成要素と同じ符号を付している。解析モデル1Mは、接着剤4を異ならせて複数作製する。接着剤4の引張弾性率は接着複合体1の接合性能に大きく影響するので、上記したように引張弾性率が異なる接着剤4(4a、4b、4c)が使用された複数の解析モデル1M(1Ma、1Mb、1Mc)を作製する。解析モデル1Mに用いる接着剤4は3種類に限らず、適宜の数の種類を用いればよい。
【0022】
この解析モデル1Mは、実験データに基づいて作製される。詳述すると、
図2、
図3に例示するようにせん断試験機5を用いて、一方材料2と他方材料3とが接着剤4により接合されて一体化した接着複合体1の試験片に対してせん断試験を行う。接着複合体1において、一方部材2Aと他方部材3Aとが互いが接合されている対向面に対して平行な方向にずれる外力(せん断力)を受ける場合に接着破壊が生じ易い。そこで、接着複合体1の試験片の接着剤4にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するせん断試験を行うことで、接着破壊モードを単純化した試験でありながら接合性能を精度よく評価することが可能になる。
【0023】
せん断試験機5は、一対の保持具6a、6bと演算装置7とを備えている。一方の保持具6aは他方の保持具6bに対して近接および離反する方向に移動可能になっていて、他方の保持具6bはベースに対して移動不能に固定されている。接着複合体1の試験片の一方材料2が一方の保持具6aに挟持され、他方材料3が他方の保持具6bに挟持される。そして、一方の保持具6aを他方の保持具6bから離反させるように、矢印で示す方向に移動させて、接着剤4にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与する。せん断試験は、試験片が接着破壊に至るまで行う。即ち、このせん断試験は、接着部分およびそのその周辺(一方材料2、他方材料3、接着剤4の少なくともいずれか)が破壊するまで、或いは、実質的に破壊状態になるまで行われる。
【0024】
このせん断試験を行うことで
図4に例示するように、試験片が接着破壊に至るまで、試験片に生じる引張応力、引張変形量の試験データ(S-S曲線データ)が公知の方法で測定、取得され、演算装置7に入力、記憶される。
図4には、上記のとおり一方材料2および他方材料3を共通にして、接着剤4のみを異ならせた3種類の接着接合体1の試験片の試験データD1、D2、D3が記載されている。
【0025】
それぞれの試験片は、一方材料2および他方材料3の長さ100mm、幅25mm、厚さ3mm程度にされ、接着剤4の接着長さ10mm、接着幅25m、厚さ3mm程度にされている。接着面には所定のプラズマ処理をした後、接着剤4が塗布されている。付与した引張せん断荷重の引張せん断速度は27mm/minに設定されている。
【0026】
試験データD1は、接着剤4aを使用した解析モデル1Maのデータであり、最大引張応力4MPa、その時の引張変形量20mmになっている。最大引張応力の発生時に一方材料2および他方材料3は破壊されず、接着剤4aが大きく引張変形し、凝集破壊の発生も見られた。試験データD2は接着剤4bを使用した解析モデル1Mbのデータであり、最大引張応力3.2MPa、その時の引張変形量4.46mmになっている。最大引張応力の発生時に一方材料2は破壊されず接着剤4の凝集破壊も発生していないが、他方材料3が破壊されている。試験データD3は接着剤4cを使用した解析モデル1Mcのデータであり、最大引張応力2.8MPa、その時の引張変形量2.66mmになっている。最大引張応力の発生時に一方材料2は破壊されず接着剤4の凝集破壊も発生していないが、他方材料3が破壊されている。
【0027】
演算装置7には、この試験データの他に、シミュレーションを行う接着複合体1の一方材料2、他方材料3、接着剤4の物性データ(引張弾性率や引張強さを示すS-S曲線データ、ポアソン比など)、外形データ(長さ、厚さ、幅、接着面積など)が入力される。物性データの温度依存性データ等もあれば入力される。
【0028】
そして、演算装置7に入力されたデータに基づいて、公知の方法で解析モデル1Mを作製する。解析モデル1Mとしては、この実施形態のようにソリッドモデルを用いると扱い易くなる。
図5に例示するように解析モデル1Mの他方材料3の下端部は完全拘束にして、接着剤4にせん断変形が生じる方向に引張せん断荷重を付与するシミュレーションを行う。一方材料2の上端部を上方一方向に移動させる移動量を制御してシミュレーションを行うことも、一方材料2の上端部に対して上方一方向に付与する引張せん断荷重の大きさを制御してシミュレーションを行うこともできる。
【0029】
作製した解析モデル1Mを用いた解析結果と試験データとを比較(S-S曲線データどうしの比較等)をして、両者の乖離が少なく解析モデル1Mが実用上適用可能であることを確認しておく。尚、接着複合体1の仕様毎に実験データを取得して解析モデル1Mを作製することは必須ではない。例えば代表的な仕様の接着複合体1の試験データに基づいて作製した解析モデル1Mが実用上適用可能であることが確認できれば、その解析モデル1Mに、解析対象となる接着複合体1の物性データ等を入力して使用すればよい。
【0030】
このシミュレーションによって、
図6に例示するように解析モデル1Mを引張変形させる。このシミュレーションを行う過程でそれぞれの解析モデル1Mに発生する引張応力とその発生位置とを把握する。そして、この把握した結果に基づいて、それぞれの接着剤4a、4b、4cの内から一方材料2(一方部材2A)と他方材料3(他方部材3A)とを接合する適切な接着剤を選定する。
【0031】
それぞれの解析モデル1Mは仕様が異なるので、一方材料2、他方材料3、接着剤4に生じる引張応力や変形の具合は、それぞれの解析モデル1Mによって異なる。そこで例えば、このシミュレーションを行う過程で発生するそれぞれの解析モデル1Mの一方材料2、他方材料3および接着剤4のそれぞれにおける最大引張応力と、一方材料2、他方材料3および接着剤4のそれぞれの許容引張応力と、の比較に基づいて接着剤4を選定する。
【0032】
図6に例示する解析モデル1Mにおいて、各メッシュでの引張応力が算出されるので、それぞれの部材において最大引張応力が生じているメッシュを確認することで、それぞれの部材における最大引張応力の発生位置を特定できる。そして、このシミュレーションを行う過程で一方材料2に発生する最大引張応力が、一方材料2の許容引張応力を超える時に、解析モデル1Mに付与されている引張せん断荷重を演算装置7によって算出する。同様に、他方材料3に発生する最大引張応力が、他方材料3の許容引張応力を超える時に、解析モデル1Mに付与されている引張せん断荷重を算出する。また、接着剤4に発生する最大引張応力が、接着剤4の許容引張応力を超える時に、解析モデル1Mに付与されている引張せん断荷重を算出する。そして、それぞれの部材に対して算出された引張せん断荷重の内、最も小さい値が、その解析モデル1Mが耐え得る引張せん断荷重となる。
【0033】
次いで、それぞれの解析モデル1Mの耐え得る引張せん断荷重を比較して、その値が高い順に接着破壊が生じ難く、接合性能が優れている解析モデル1Mであると判断される。解析モデル1Ma、1Mb、1Mcの順に接合性能が優れていると判断された場合、接着剤4a、4b、4cの順で適切な接着剤4として選定される。
【0034】
或いは、このシミュレーションを行う過程で発生するそれぞれの解析モデル1Mにおける最大引張応力と、その最大引張応力が発生した位置の部材の許容引張応力との比較に基づいて、接着剤4を選定することもできる。そこで、このシミュレーションを行う過程で、最大引張応力の発生位置のデータを取得する。
図6に例示する解析モデル1Mにおいて、各メッシュでの引張応力が算出されるので、最大引応力が生じているメッシュを確認することで、この解析モデル1Mにおける最大引張応力の発生位置を特定できる。即ち、最大引張応力が一方材料2、他方材料3、接着剤4どの位置で発生するかを把握できる。この実施形態では、シミュレーションを行うすべての過程で、他方材料3の
図6に例示するA部に最大引張応力が発生すると算出されている。
【0035】
また、このシミュレーションを行う過程で、
図7に例示するように、それぞれの解析モデル1Mで発生する最大引張応力のデータを取得する。
図7には、解析モデル1Maの解析データS1、解析モデル1Mbの解析データS2、解析モデル1Mcの解析データS3が記載されている。ここで、最大引張応力が発生すると判断された他方材料3の許容引張応力が65MPaに設定されていると、解析データS1、S2、S3に対してこの許容引張応力65MPaを超える時に解析モデル1Mに付与されている引張せん断荷重が演算装置7によって算出される。
【0036】
図7に記載されている解析データS1、S2、S3から、解析モデル1Ma、1Mb、1Mcでは、他方部材3に許容引張応力65MPaを超える最大引張応力が発生するのはそれぞれ、引張せん断荷重が1000N、680N、640Nを超える時である。そこで、解析モデル1Ma、1Mb、1Mcの順に接着破壊(他方部材3の破壊)が生じ難く接合性能が優れていると判断される。その結果、一方材料2と他方材料3とを接合する適切な接着剤4として、接着剤4a、4b、4cの順で選定される。
【0037】
上述した接着剤4の選定基準に加えて、このシミュレーションを行う過程で発生するそれぞれの解析モデル1Mでの最大変形量に基づいて、それぞれの接着剤4a、4b、4cの内から適切な接着剤4を選定することもできる。この場合、解析モデル1Mに対して許容変形量(主に、引張変形量)を設定しておき、シミュレーションで解析モデル1Mが耐え得る引張せん断荷重に至るまで引張せん断荷重を付与した場合に生じる解析モデル1Mでの最大変形量(主に、引張変形量)を演算装置7によって算出する。そして、解析モデル1Mに発生する最大変形量が許容変形量を超える場合は、その解析モデル1Mに使用されている接着剤4を選定対象から除外する。
【0038】
周囲スペースの制約が厳しい条件下で使用される接着複合体1に使用される接着剤4を選定する際には、この最大変形量に基づく選定基準を利用するとよい。この最大変形量に基づく選定基準は、上述した許容引張応力に基づく選定基準を第1優先にして、その後に適用すればよい。
【0039】
解析モデル1Mを作製する際に用いる物性データとしては一般的に常温(15℃~30℃程度)でのデータを用いるが、温度依存性データも有している場合には、接着複合体1の使用条件に適合する温度条件での物性データを用いるとよい。このような温度依存性データも考慮して接着剤4を選定すると、接着複合体1の使用条件により合致した適切な接着剤4を選定し易くなる。この温度依存性データに基づく選定基準は、上述した許容引張応力に基づく選定基準を第1優先、最大変形量に基づく選定基準を第2優先として、これらの後に適用すればよい。
【0040】
上記のとおり、この接着剤の選定方法によれば、接着複合体1に対して引張せん断試験を接着破壊に至るまで行って取得した試験データに基づいて作製した解析モデル1Mに対して、引張せん断荷重を付与するシミュレーションを行う過程で解析モデル1Mに発生する引張応力とその発生位置のデータを使用するので、解析モデル1Mに引張せん断荷重を付与する簡潔なシミュレーションを行う方法でありながらも、接着複合体1の接着破壊に至るまでのプロセスを考慮して接着剤4を選定することができる。そして、接着剤4(4a、4b、4c)を異ならせた複数の解析モデル1M(1Ma、1Mb、1Mc)に対して上記のシミュレーションを行うことで、要求を満たす接合性能を確保できる接着剤4を、それぞれの接着剤4a、4b、4cの内から適切に選定することが可能になる。
【0041】
三次元の解析モデル1Mを用いると、接着複合体1の実際の接合性能をより高い精度で予測し易くなる。一方、二次元の解析モデル1Mを用いると、モデル作製に要する時間を大幅に削減できる。接着複合体1の仕様が幅方向に一様で十分に長い場合などは、二次元の解析モデル1Mであっても適切な接着剤4を選定することができる。
【0042】
本発明の接着複合体1の製造方法では、上記の選定方法によって選定された接着剤4を、一方材料2からなる一方部材2Aと、他方材料3からなる他方部材3Aとの間に介在させて圧着させる。そして、接着剤4が硬化して十分な接着力を発現するまで養生することで一方部材2Aと他方部材3Aを一体化させる。これにより
図1に例示する接着複合体1を得ることができる。
【0043】
本発明の接着複合体および接着複合体の製造方法によれば、適切な接着剤4が使用されているので、使用条件により適した接着複合体1を得ることができる。これに伴い、接着複合体1の耐久性や耐久性に対する信頼度を向上させるには有利になる。
【実施例】
【0044】
上述した実施形態で説明した接着接合体の試験サンプルの接着剤4a、4b、4cとして、主剤および硬化剤の各成分を表1に示す配合量(質量部)で配合した組成物を使用して、試験サンプルを作製し、試験データを取得した。それぞれの接着剤4a、4b、4cの物性データは上述したとおりである。この試験データに基づいて作製した解析モデルを用いてシミュレーションを行った結果は、
図7に示すとおりであった。
【0045】
【0046】
表1中の各成分の詳細は以下のとおりである。
・ウレタンプレポリマー1:ポリオキシプロピレンジオール(三洋化成工業社製サンニックスPP2000、重量平均分子量2,000)とポリオキシプロピレントリオール(三洋化成工業社製サンニックスGP3000、重量平均分子量3,000)とMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)(住化バイエルウレタン社製スミジュール44S)とをNCO/OH(モル比)が2.0となるように混合し、混合物を80℃の条件下で5時間反応させて製造した。
・ウレタンプレポリマー2:ポリテトラメチレングリコール(三菱ケミカル社製PTMG650、重量平均分子量650)とポリオキシプロピレンジオール(三洋化成工業社製サンニックスPP2000、重量平均分子量2,000)とMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)(住化バイエルウレタン社製スミジュール44S)とをNCO/OH(モル比)が2.0となるように混合し、混合物を80℃の条件下で5時間反応させて製造した。
・ウレタンプレポリマー3:ポリオキシプロピレンエチレンジオール(AGC社製エクセノール510、重量平均分子量4,000)とポリメリックMDI(東ソー社製ミリオネートMR-200)とカルボジイミド変性MDI(東ソー社製ミリオネートMTL)とをNCO/OH(モル比)が35.0となるように混合し、混合物を80℃の条件下で5時間反応させて製造した。
・イソシアヌレート体:ペンタメチレンジイソシネートのイソシアヌレート体
・カーボンブラック:親日化カーボン社製#200MP
・炭酸カルシウム1:丸尾カルシウム社製スーパーS(重質炭酸カルシウム)
・シリカ:日本アエロジル社製AEROSIL R972(表面処理フュームドシリカ)
・脱水剤:ソルベイジャパン社製ゼオシールA-4(ゼオラオイト)
・可塑剤:ジェイプラス社製DINP(ジイソノニルフタレート)
・触媒1:サンアプロ社製UCAT-660M(DMDEE(ジモルフォリノジエチルエーテル))
・ポリオール1:旭硝子社製EXCENOL450ED(ポリオキシプロピレンテトラオール(EO末端)、重量平均分子量500)
・ポリオール2:三菱ケミカル社製PTMG-2000(ポリテトラメチレングリコール(ジオール)、重量平均分子量2,000)
・ポリオール3:三菱ケミカル社製14BG(1,4-ブタンジオール、分子量90)
・ポリオール4:日油社製ユニオールD-400(ポリオキシプロピレングリコール(ジオール)、重量平均分子量400)
・ポリオール5:AGC社製エクセノール3020(ポリプロピレングリコール(ジオール)、重量平均分子量3,000)
・ポリオール6:旭硝子社製PREMINOL7001K(ポリオキシプロピレントリオール(EO末端)、重量平均分子量6,500)
・ポリオール7:AGC社製エクセノール823(ポリプロピレンエチレングリコール(トリオール)、重量平均分子量5,000)
・炭酸カルシウム2:丸尾カルシウム社製カルファイン200(脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウム)
・タルク:日本ミストロン社製ソープストンA(平均粒子径3.5~4.0μm、アスペクト比9.5)
・触媒2:日東化成社製U-810(ジオクチル-スズ-ジラウレート)
・触媒3:Sigma-Aldrich社製DABCO 33-LV(DABCO 33% プロピレングリコール溶液)
【0047】
試験サンプルは以下のとおり製造した。
・表面処理工程
それぞれの部材(樹脂基材)の表面に接着剤を塗布する前に、それぞれの部材に表面処理を施した。この表面処理(フレーム処理)は、Arcogas社製のフレーム処理装置を使用し(ガス流量:3.7L/min、空気流量100L/min)、で、処理速度:800mm/sec、部材までの距離20mm、パス回数1回で行った。
ここで、処理速度とは、フレーム処理の速度であり、具体的には、部材に対してフレーム処理装置を動かした速度(mm/sec)である。部材までの距離とは、フレーム処理装置と部材との距離(mm)である。パス回数とは、フレームを掃引した回数である。例えば、フレームを部材の一端から他端まで1回掃引した場合は、パス回数が1回となる。
・接着剤層形成工程
一方の部材の表面処理を施した表面に、上述のウレタン系接着剤(接着剤4a、4b、4c)を塗布して接着剤層を形成させた。
・貼り合わせ・養生工程
さらに、形成された接着剤層の表面に、他方の部材の表面処理を施した表面を貼り合わせて積層体を成形した。次いで、この積層体を23℃、50%RHの条件下で3日間静置することで接着剤層を硬化させて、それぞれの試験サンプルを得た。
【0048】
図7の解析結果から、接着剤の引張弾性率が低い程、解析モデルに発生する最大応力は小さくなり、その解析モデル1Mが耐え得る引張せん断荷重が高くなることが分かる。この原因は、引張弾性率が高い接着剤になると、発生する応力を緩和する機能が低下して、より剛性の高い材料に応力が集中して破壊が発生するためであると考えられる。尚、
図7の解析結果は、それぞれの試験片の試験結果と概ね一致している。
【符号の説明】
【0049】
1 接着複合体
1M(1Ma、1Mb、1Mc) 解析モデル
2 一方材料
2A 一方部材
3 他方材料
3A 他方部材
4(4a、4b、4c) 接着剤
5 せん断試験機
6a、6b 保持具
7 演算装置