(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】造血前駆細胞マーカー
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20240206BHJP
【FI】
C12N5/078
(21)【出願番号】P 2019514588
(86)(22)【出願日】2018-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2018016864
(87)【国際公開番号】W WO2018199186
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2017087723
(32)【優先日】2017-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】入口 翔一
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 雄太
(72)【発明者】
【氏名】葛西 義明
(72)【発明者】
【氏名】林 哲
(72)【発明者】
【氏名】有馬 寿来留
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-533494(JP,A)
【文献】国際公開第2011/041912(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076415(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0072295(US,A1)
【文献】TIMMERMANS, F et al.,Generation of T Cells from Human Embryonic Stem Cell-Derived Hematopoietic Zones,The Journal of Immunology,2009年05月19日,Vol. 182, No. 11,pp. 6879-6888, DATA SUPPLEMENT
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/078
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞を製造する方法。
工程1:造血前駆細胞を含む細胞集団から、CD45、CD34及びCD43を発現し、かつ、CD62L、CD143、CD263、Notch3、CD200、CD218a、CD226、CD262及びCD325からなる群より選択される1種以上の分子を発現し、かつ、CD235a及びCD14の分子を発現しない細胞を分離
・取得する工程、並びに
工程2:工程1により分離
・取得された細胞を、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞に分化させる工程
【請求項2】
前記工程1に示される群が、CD62L、CD143、CD263、Notch3、CD200及びCD218aからなる群である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程1の造血前駆細胞を含む細胞集団が、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる細胞集団である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法によ
りCD4/CD8ダブルポジティブ細胞を
製造した後、該CD4/CD8ダブルポジティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に誘導する工程を含む、CD8シングルポジティブ細胞の製造方法。
【請求項6】
前記CD8シングルポジティブ細胞が細胞傷害性T細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
CD45、CD34、CD43、かつ、CD62L、CD143、CD263、Notch3、CD200、CD218a、CD226、CD262
及びCD32
5からなる群より選択される1種以上の分子、かつ、CD235a及びCD14の各々に対する抗体を含んでなる、造血前駆細胞の分離用試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1種以上の造血前駆細胞マーカー(HPCマーカー)を用いたCD8ポジティブ細胞を製造する方法及び1種以上のHPCマーカーを発現する細胞集団などに関する。
【0002】
(発明の背景)
T細胞は、細菌やウイルスなどの外来の病原体や癌細胞などの異常な細胞に対する免疫システムにおいて中心的な役割を果たしている。なかでも、細胞傷害性T細胞(CTL)は、その細胞表面上に存在するT細胞受容体(TCR)を介して、抗原提示細胞のクラス1主要組織適合抗原と共に提示された、ウイルスや腫瘍等由来の抗原ペプチドを認識し、異物である該抗原ペプチドを提示する細胞に対して、特異的に細胞傷害活性を発揮する。
【0003】
ここで、大部分のCTLは、CD8シングルポジティブ(SP)細胞である。上記CD8SP細胞は、胸腺内において、TCRを発現しておらず、CD4もCD8も有さない未成熟な細胞(CD4/CD8ダブルネガティブ(本明細書では、ダブルネガティブをDNと表記することがある。)細胞)から、CD8及びCD4を発現する細胞(CD4/CD8ダブルポジティブ(本明細書では、ダブルポジティブをDPと表記することがある。)細胞)を経て、分化してくることが知られている。
【0004】
上述のように、T細胞は免疫システムにおいて中心的な役割を果たしているため、T細胞の補充や再生をすることができれば、腫瘍、感染症、自己免疫不全等の疾患の予防又は治療などに極めて有効な手段となる。そのため、iPS細胞から造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cell;本明細書中、HPCと称することがある。)を誘導する方法や、さらにCD4/CD8DP細胞を誘導する方法などにより、造血前駆細胞やT細胞系列の細胞を得る試みが行われている。例えば、非特許文献1には、iPS細胞をフィーダー細胞(具体的には、OP9細胞)と共培養することで、CD34/CD43DP細胞を誘導できることが記載されている。特許文献1や非特許文献2には、ヒト多能性幹細胞から誘導したHPCを含む細胞集団から、CD43と、CD34、CD31又はCD144との発現を指標としてHPCを分離する方法、分離した細胞をT細胞系列の細胞へ分化させる方法や、多能性幹細胞からHPCへ分化させる際に、誘導初期にActivin/Nodalを作用させるか否かにより、誘導される造血系細胞の性質が異なることが記載されている。特許文献2には、フィーダーフリー条件下でCD4/CD8DPを製造する方法が記載されている。また、非特許文献3には、ヒト多能性幹細胞から造血前駆細胞を含む血液系細胞を誘導する様々な方法や、in vitroで誘導した血液系細胞の臨床での使用が進まない理由として、誘導効率の低さが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/075222号
【文献】国際公開第2017/221975号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Choi K.D. et al., Stem Cells, 27 (2009);559-567
【文献】Kennedy M. et al., Cell Reports, 2 (2012);1722-1735
【文献】Liu S. et al., Cytotherapy, 17 (2015);344-358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定的に細胞治療を提供するため、T細胞系列の細胞(例えば、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞、CD8SP細胞))をより多く及び/又はより高い濃度で得ること(すなわち、該細胞の製造方法を提供すること)を課題とする。また、本発明は、上記課題を解決するための造血前駆細胞を含む細胞集団を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するCD4/CD8DP細胞を製造方法の開発を行うため、HPCの表面に発現するマーカー(HPCマーカー)を同定した。さらに、HPCを含む細胞集団から、1種以上の該マーカーを用いて分離したHPCは、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞)に分化する効率が高く、増殖能力も高いこと、即ち、1種以上のHPCマーカーを用いることで、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞)をより多く得ることができ、及び/又は細胞集団内により高い濃度で得ることができることを見出した。さらに、本発明の製法により、収率のバラツキが少なく、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞)を安定して提供することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1] 以下の工程を含む、CD4/CD8 ダブルポジティブ細胞を製造する方法。
工程1:造血前駆細胞を含む細胞集団から、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325からなる第1の群より選択される1種以上の分子を発現する細胞、及び/又はCD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cからなる第2の群より選択される1種以上の分子を発現しない細胞を分離する工程、並びに
工程2:工程1により分離された細胞を、CD4/CD8 ダブルポジティブ細胞に分化させる工程
[2] 前記工程1において選択される細胞が、CD235a及びCD14を発現しておらず、かつ、CD45、CD34及びCD43を発現している細胞である、[1]に記載の方法。
[3] 前記工程1が、造血前駆細胞を含む細胞集団から、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325からなる第1の群より選択される1種以上の分子を発現する細胞を分離する工程である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記工程1に示される第1の群が、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD200、CD218a、CD7及びCD144からなる群である、[3]に記載の方法。
[5] 前記工程1が、造血前駆細胞を含む細胞集団から、CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cからなる第2の群より選択される1種以上の分子を発現しない細胞を分離する工程である、[1]又は[2]に記載の方法。
[6] 前記工程1に示される第2の群が、CD49f、CD51及びCD102からなる群である、[5]に記載の方法。
[7] 前記工程1の造血前駆細胞を含む細胞集団が、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる細胞集団である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 前記多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、[7]に記載の方法。
[9-1] [1]~[8]のいずれかの方法により得られたCD4/CD8 ダブルポジティブ細胞をCD8 シングルポジティブ細胞に誘導する工程を含む、CD8 シングルポジティブ細胞の製造方法。
[9-2] 前記誘導する工程が、例えば、副腎皮質ホルモン剤、抗体及び/又はサイトカインの存在下でCD4/CD8ダブルポジティブ細胞を培養する工程を含む方法であって、好ましくは、該副腎皮質ホルモン剤がデキサメタゾンであり、及び/又は該抗体が抗CD3抗体であり、及び/又はサイトカインはIL-2である、[9-1]に記載の方法。
[10] 前記CD8 シングルポジティブ細胞が細胞傷害性T細胞である、[9-1]又は[9-2]に記載の方法。
[11] 造血前駆細胞を含む細胞集団から、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325からなる第1の群より選択される1種以上の分子を発現する細胞、及び/又はCD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cからなる第2の群より選択される1種以上の分子を発現しない細胞を分離して得られる細胞集団。
[12] 分離された細胞が、CD235a及びCD14を発現しておらず、かつ、CD45、CD34及びCD43を発現している細胞である、[11]に記載の細胞集団。
[13] 前記造血前駆細胞を含む細胞集団が、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる細胞集団である、[11]又は[12]に記載の細胞集団。
[14] 前記多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞である、[13]に記載の細胞集団。
[15] CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325からなる第1の群より選択される1種以上の分子を発現する造血前駆細胞、及び/又はCD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cからなる第2の群より選択される1種以上の分子を発現しない造血前駆細胞の割合(該造血前駆細胞数/細胞集団に含まれる全細胞数)が40%以上である細胞集団。
[16] 前記割合が、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD200、CD218a、CD7及びCD144からなる第1の群より選択される1種以上の分子をさらに発現する造血前駆細胞の割合である、[15]に記載の細胞集団。
[17] 前記割合が、CD49f、CD51及びCD102 からなる第2の群より選択される1種以上の分子をさらに発現しない造血前駆細胞の割合である、[15]に記載の細胞集団。
[18] CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262、CD325、CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cからなる群より選択される1種以上の分子の各々に対する抗体を含んでなる、造血前駆細胞の分離用試薬。
[19] さらにCD235a、CD14、CD45、CD34及び/又はCD43に対する抗体を1種以上含んでなる、[18]に記載の試薬。
[20] 造血前駆細胞の表面タンパク質を検出する方法であって、該造血前駆細胞と、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262、CD325、CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102、CD109又はCD156cに特異的に結合する物質とを接触させる工程を含む、方法。
[21] 前記物質が抗体又はその断片を含む、[20]に記載の方法。
[22] 前記物質がさらにフルオロフォアを含む、[20]又は[21]に記載の方法。
[23] 前記造血前駆細胞に、CD34、CD43、CD14又はCD235aに特異的に結合する物質を接触させる工程をさらに含む、[20]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24] 造血前駆細胞の表面上の複数のタンパク質を検出する方法であって、該方法は、造血前駆細胞を、複数のタンパク質の各々に特異的に結合する物質と接触させる工程を含み、該複数のタンパク質が、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262、CD325、CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102、CD109及びCD156cの2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27若しくは28つの、又は全29つの任意の組み合わせを含む、方法。
[25] 造血前駆細胞を含む細胞集団から造血前駆細胞を選択する方法であって、[20]~[24]のいずれかの方法により細胞の表面上の1種以上のタンパク質の存在又は非存在を検出する工程、並びに該1種以上のタンパク質の存在又は非存在に基づき該細胞を選択する工程であって、(i)次のタンパク質:CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325:の任意の1つ又は任意の組み合わせが該細胞の表面で検出される場合、及び/又は(ii)次のタンパク質:CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102、CD109及びCD156c:の任意の1つ若しくは任意の組み合わせが該細胞の表面で検出されない場合に、該細胞を選択する工程、を含む方法。
[26] 次のタンパク質:CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD200、CD218a、CD7及びCD144:の任意の1つ又は任意の組み合わせが細胞の表面上で検出される場合に、該細胞を選択する、[25]に記載の方法。
[27] 次のタンパク質:CD49f、CD51及びCD102:の任意の1つ若しくは任意の組み合わせが細胞の表面上で検出されない場合に、該細胞を選択する、[25]又は[26]に記載の方法。
[28] 造血前駆細胞を含む細胞集団から造血前駆細胞を選択する方法であって、[20]~[24]のいずれかの方法により細胞の表面上の1種以上のタンパク質の存在又は非存在を検出する工程、並びに該1種以上のタンパク質の存在又は非存在に基づき、(i)CD45、CD34及び/又はCD43と、次のタンパク質:CD24、CD62L、C90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325:の任意の1つ若しくは任意の組み合わせとが、該細胞の表面上で検出された場合、並びに/又は(ii)CD14及び/若しくはCD235aが該細胞の表面上で検出されず、かつ次のタンパク質:CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102、CD109及びCD156c:も検出されなかった場合に、該細胞を選択する工程を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の1種のHPCマーカーを用いた製法により、より多くのCD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞、CD8SP細胞)を提供することができ、及び/又はCD8ポジティブ細胞をより高い濃度で作製することができる。さらに、本発明の製法により、収率のバラツキが少なく、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞、CD8SP細胞)を安定して提供することができる。従って、本発明の製造方法は、細胞集団から造血前駆細胞を分離するための改良された方法を提供する。これは、CD8ポジティブ細胞を作製するための改良された細胞供給源を提供する。この新規な製造方法は、HPC由来のCD8ポジティブ細胞集団の質及び/又は量を大きく改善するために、特定のHPCポジティブマーカー及びHPCネガティブマーカーを用いることができるという本発明者らの驚くべき、そして予期できない知見に基づいている。本発明のCD8ポジティブ細胞のこの有益な供給源は、臨床応用(例えば、細胞療法、診断目的、及びインビトロでの用途)のための改良されたCD8ポジティブ細胞集団を提供する。
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明は、(工程1)造血前駆細胞を含む細胞集団から、1種以上の造血前駆細胞マーカー(本明細書中、「HPCマーカー」と略記することがある。)を発現する細胞、及び/又は1種以上のHPCマーカーを発現しない細胞を分離する工程、及び(工程2)工程1により分離された細胞を、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞(本明細書中、「CD4/CD8DP細胞」と略記することがある。)に分化させる工程を含む、CD8ポジティブ細胞(例えば、CD4/CD8DP細胞)を製造する方法(以下「本発明の製法」と略記する。)などを提供する。
【0012】
本発明において、「CD8ポジティブ細胞」とは、CD8を発現しているT細胞を意味し、該細胞としては、例えば、CD4/CD8DP細胞及びCD8シングルポジティブ細胞(本明細書中、「CD8SP細胞」と略記することがある。)が挙げられる。本発明において、「CD4/CD8DP細胞」とは、CD4及びCD8が共に発現しているT細胞を意味し、「CD8SP細胞」とは、CD4を発現せず、CD8を発現しているT細胞を意味する。CD8SP細胞としては、例えば、細胞傷害性T細胞及びその前駆細胞が挙げられる。また、本発明において、「T細胞」とは、例えば、表面にT細胞受容体(T cell receptor、TCR)と称される抗原受容体を発現している細胞、及びその前駆細胞(例:TCR(TCRαβ)を発現していないプロT細胞、TCRβとプレTCRαとが会合しているプレT細胞)を意味する。
【0013】
本発明において、「造血前駆細胞」とは、CD34陽性細胞を意味し、好ましくは、CD34/CD43DP細胞である。本発明に用いる造血前駆細胞の由来は制限されず、例えば、公知の手法(例えば、特許文献1、2、非特許文献1~3に記載の手法)により、in vitroで誘導された造血前駆細胞(例えば、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる造血前駆細胞)であってもよく、また、生体組織から、公知の手法により単離した造血前駆細胞であってもよい。
【0014】
前記多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)が挙げられるが、好ましくはiPS細胞(より好ましくはヒトiPS細胞)である。上記多能性幹細胞がES細胞又はヒト胚に由来する任意の細胞である場合、その細胞は胚を破壊して作製された細胞であっても、胚を破壊することなく作製された細胞であってもよいが、好ましくは、胚を破壊することなく作製された細胞である。
【0015】
前記iPS細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって製造することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(例えば、Takahashi K.及びYamanaka S. (2006) Cell,126;663-676:Takahashi K. et al. (2007) Cell,131;861-872:Yu J. et al. (2007) Science,318;1917-1920:Nakagawa M.et al.(2008) Nat.Biotechnol.26;101-106)。iPS細胞を用いる場合、該iPS細胞は、自体公知の方法により体細胞から作製してもよいし、既に樹立され、ストックされているiPS細胞を用いてもよい。本発明に用いるiPS細胞の由来となる体細胞に制限はないが、好ましくは末梢血由来の細胞または臍帯血由来の細胞である。多能性幹細胞の由来となる動物に制限はなく、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒトなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0016】
前記多能性幹細胞を自体公知の方法に供することにより、造血前駆細胞を製造することができる。前記多能性幹細胞がiPS細胞である場合、例えば、国際公開第2017/221975号に記載された方法により、造血前駆細胞を製造することができる。
【0017】
また、前記生体組織としては、造血前駆細胞を含有する限り制限されないが、例えば、末梢血、リンパ節、骨髄、胸腺、脾臓、臍帯血が挙げられる。これらの中では、動物に対する侵襲性が低く、調製が容易であるという観点から、末梢血、臍帯血が好ましい。
【0018】
本発明で用いる造血前駆細胞や多能性幹細胞は、治療への適用の観点からは、GMP(Good Manufacturing Practice)規格の細胞であることが好ましい。
【0019】
本発明において、「HPCマーカー」とは、造血前駆細胞の表面に発現し得る分子である、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262及びCD325のいずれかの分子(明細書中、これらのマーカーを「HPCポジティブマーカー」、「ポジティブHPC選択マーカー」、又は「ポジティブHPCマーカー」と称することがある)、あるいは、造血前駆細胞の表面に通常発現しない分子である、CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cのいずれかの分子(明細書中、これらのマーカーを「HPCネガティブマーカー」、「ネガティブHPC選択マーカー」、又は「ネガティブHPCマーカー」と称することがある)を意味する(明細書中、HPCポジティブマーカーとHPCネガティブマーカーをまとめて「本発明のHPCマーカー」と称することがある)。本発明のHPCポジティブマーカーのなかでも、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD200、CD218a、CD200、CD7又はCD144が好ましく、CD90、CD143、CD218a又はCD200がより好ましい。また別の態様では、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200又はCD218aが好ましく、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD200 又はCD218aがより好ましい。また、本発明において、前記HPCポジティブマーカーを発現する細胞を、HPCマーカー陽性細胞(又はHPCマーカーポジティブ細胞)と呼ぶことがあり、例えば、CD24分子を発現する細胞の場合、CD24陽性細胞と呼ぶことがある。本発明のHPCネガティブマーカーのなかでも、CD49f、CD51又はCD102が好ましい。本発明において、前記HPCネガティブマーカーを発現しない細胞を、HPCマーカー陰性細胞(又はHPCマーカーネガティブ細胞)と呼ぶことがある。
【0020】
典型的な実施態様において、CD8ポジティブ細胞、好ましくはCD4/CD8ダブルポジティブ細胞は、造血前駆細胞を含む細胞集団から、(a)CD34及びCD43を発現し、(b)CD62L、CD24、CD90、CD143、CD218a、CD263又はNotch3のいずれかを発現し、かつ(c)CD235a及びCD14を発現しない細胞を分離することにより製造される。
【0021】
典型的な実施態様において、CD8ポジティブ細胞、好ましくはCD4/CD8ダブルポジティブ細胞は、造血前駆細胞を含む細胞集団から、(a)CD34及びCD43を発現し、(b)CD90、CD143、CD200、CD218a又はCD263のいずれかを発現し、かつ(c)CD235a及びCD14を発現しない細胞を分離することにより製造される。
【0022】
典型的な実施態様において、CD8ポジティブ細胞、好ましくはCD4/CD8ダブルポジティブ細胞は、造血前駆細胞を含む細胞集団から、(a)CD34及びCD43を発現し、(b)CD7、CD144、CD56、CD226、CD262又はCD325のいずれかを発現し、かつ(c)CD235a及びCD14を発現しない細胞を分離することにより製造される。
【0023】
典型的な実施態様において、CD8ポジティブ細胞、好ましくはCD4/CD8ダブルポジティブ細胞は、造血前駆細胞を含む細胞集団から、(a)CD34及びCD43を発現し、(b)CD49f、CD51、CD426、CD61、CD62P、CD69又はCD156cのいずれも発現せず、かつ(c)CD235a及びCD14を発現しない細胞を分離することにより製造される。
【0024】
本発明において、「発現する」とは、細胞を分離する際に使用する方法で発現が検出できることを意味し、「発現しない」とは、細胞を分離する際に使用する方法の検出感度では検出できないことを意味する。細胞を分離する際に使用する方法としては、下述のフローサイトメトリーやマスサイトメトリーを用いた方法、磁気細胞分離法などが挙げられる。
【0025】
前記工程1により分離される細胞としては、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する細胞、1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞。本発明の一実施態様において、前記工程1により分離される細胞は、1種以上の本発明のHPCポジティブマーカーに加えて、CD34及び/又はCD43を発現する細胞、及び/又は1種以上の本発明のHPCネガティブマーカーを発現せず、かつCD34及び/又はCD43を発現する細胞である。さらに、該分離される細胞は、CD235a陰性、CD14陰性及び/又はCD45陽性であることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施態様において、前記工程1は、造血前駆細胞を含む細胞集団から、CD235a陰性、CD14陰性、CD45陽性、CD34陽性及びCD43陽性であり、かつ1種以上の本発明のHPCポジティブマーカー陽性及び/又は1種以上の本発明のHPCネガティブマーカー陰性の細胞を分離することにより行われる。
【0026】
本発明において、「細胞を分離する」には、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞を選択し、該選択した細胞を単離する態様、及び該選択した細胞を次の分化工程へ供する態様が包含される。
【0027】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」又は「含む(comprises)」のような各用語は、任意選択でに、「からなる(consisting of)」又は「からなる(consists of)」で置き換えられてもよい。
【0028】
造血前駆細胞を含む細胞集団から、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞を分離する方法としては、フローサイトメトリーやマスサイトメトリーを用いた方法、磁気細胞分離法などが挙げられ、これらの方法は、公知の方法を用いて実施することができる。例えば、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する細胞、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞は、当該細胞と各HPCマーカーに特異的に結合する物質(例えば、抗体)とを接触させる工程を含む方法により分離することができる。上記物質には、それ自体に検出可能な標識(例:GFP)が付加されているもの、およびそれ自体には標識が付加されていないものも含まれる。上記物質が、それ自体に標識が付加されていないものである場合、当該物質を直接または間接的に認識する検出可能な標識が付加された物質をさらに使用することで前記分離が可能となる。例えば、前記物質が抗体である場合には、蛍光色素、金属同位体又はビーズ(例:磁気ビーズ)を当該抗体に直接的又は間接的に担持させ、それにより細胞表面のHPCマーカーを標識することが可能であり、当該標識に基づいて細胞を分離することが可能である。この際用いる抗体は、1種類のみ、又は2種類以上の抗体であってもよい。
【0029】
造血前駆細胞を含む細胞集団から本発明の1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又はHPCネガティブマーカーを発現しない細胞として分離された細胞を、CD8ポジティブ細胞に分化させる方法としては、例えば公知の方法(例えば、国際公開第2016/076415号、Journal of Leukocyte Biology 96(2016)1165-1175、Cell Reports 2(2012)1722-1735、国際公開第2017/221975号に記載された方法)が挙げられる。
【0030】
1.CD4/CD8DP細胞の製造方法
本発明の製法の工程2で用いる細胞培養用の基礎培地としては、例えばIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)及びこれらの混合培地が挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、含有されていなくてもよい。必要に応じて、培地には、例えば、ビタミンC類(例:アスコルビン酸、リン酸ビタミンC)、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類、サイトカインなどの1つ以上の物質を含有させてもよい。
【0031】
前記培地は、サイトカインを含んでいることが好ましい。サイトカインとしては、IL-7、FLT-3L、SCF、TPO及びこれらの組合せなどが挙げられ、FLT-3L及びIL-7が好ましい。IL-7の培地中における濃度は、1 ng/ml~50 ng/ml(例:1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml)が好ましく、なかでも、5 ng/mlが好ましい。FLT-3Lの培地中における濃度は、1 ng/ml~100 ng/ml(例:1 ng/ml、2 ng/ml、3 ng/ml、4 ng/ml、5 ng/ml、6 ng/ml、7 ng/ml、8 ng/ml、9 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml)が好ましく、なかでも、10 ng/mlが好ましい。その他のサイトカインの濃度についても、当業者は、培養条件等に基づき、適宜決定することができる。また、培地は、Notchリガンド(例:Dll1、Dll4、Dll1又はDll4とFcの融合タンパク質)を含んでいることが好ましい。Notchリガンドを用いる場合は、培地に添加してもよく、培養容器にコーティングしてもよい。また、Notchリガンドを発現するフィーダー細胞を用いてもよい。
【0032】
本発明の製法においては、工程1により得られた造血前駆細胞を接着培養又は浮遊培養してもよい。接着培養の場合、培養容器をコーティングして用いてもよく、またフィーダー細胞等と共培養してもよい。治療への適用の観点からは、フィーダーフリーであることが好ましい。培養容器をコーティングする場合の基材としては、例えば、フィブロネクチン断片(例:レトロネクチン)、プロネクチン、ビトロネクチン、マトリゲル(BD)、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、ゼラチン、ラミニン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。また、共培養するフィーダー細胞として、例えば、骨髄間質細胞株のOP9細胞、マウス間葉系細胞株の10T1/2細胞、Tst-4細胞が挙げられる。フィーダー細胞を用いる場合には、該フィーダー細胞を適宜交換して培養を行うことが好ましい。フィーダー細胞の交換は、予め播種したフィーダー細胞上へ培養中の対象細胞を移すことによって行い得る。当該交換は、2日~5日毎に行うことが好ましい。
【0033】
本発明において、造血前駆細胞を培養してCD4/CD8 DP細胞を誘導する際の培養温度条件は、特に制限されないが、37℃~42℃程度が好ましく、37~39℃程度がより好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD4/CD8DP細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することができる。CD4/CD8DP細胞が得られる限り、造血前駆細胞からCD4/CD8 DP細胞を誘導する培養日数は特に限定されないが、10日間以上(例:12日、14日、16日、18日、20日又はそれ以上)が好ましく、また、60日以下が好ましい。後述の実施例で示す通り、特定の実施態様において、21日間~28日間の培養により、CD4/CD8DP細胞を大量に効率よく得ることができる。
【0034】
本発明において、得られたCD4/CD8DP細胞は、単離して用いてもよく、他の細胞種(例えば、CD8SP細胞)が含有される細胞集団として用いてもよい。単離する場合、CD4、CD8、CD3、CD45分子などを指標として、単離することができる。当該単離の方法は、当業者に周知の方法を用いることができ、例えば、指標とする分子に対する抗体により標識し、上述のフローサイトメトリーやマスサイトメトリーを用いた方法、磁気細胞分離法、又は所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製する方法が挙げられる。
【0035】
2.CD8シングルポジティブ細胞の製造方法
本発明の製法により得られたCD4/CD8DP細胞をCD8SP細胞に分化誘導する工程に付すことにより、CD8SP細胞を製造することができる(このようにCD8SP細胞を製造する方法を、「本発明のCD8SP細胞の製法」と略記することがある。)。CD4/CD8DP細胞を製造する方法については、1.に記載の通りである。
【0036】
本発明のCD8SP細胞の製法に用いる基礎培地および培地としては、1.に記載された基礎培地および培地と同様のものが挙げられる。
【0037】
前記培地は、副腎皮質ホルモン剤を含んでいてもよい。副腎皮質ホルモン剤としては、例えば、糖質コルチコイド及びその誘導体などが挙げられ、該糖質コルチコイドとしては、例えば、酢酸コルチゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸フルドロコルチゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、プロピオン酸ベクロメタゾンが挙げられる。なかでも、デキサメタゾンが好ましい。従って、一実施態様において、CD8シングルポジティブ細胞を製造する方法は、副腎皮質ホルモン剤、好ましくはデキサメタゾンの存在下で、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞を培養することにより、前記CD4/CD8ダブルポジティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に誘導する工程を含む。
【0038】
副腎皮質ホルモン剤としてデキサメタゾンを用いる場合、培養液中におけるその濃度は、1nM~100nM(例:1nM、5nM、10nM、20nM、30nM、40nM、50nM、60nM、70nM、80nM、90nM、100nM)が好ましく、なかでも、10nMが好ましい。
【0039】
前記培地は、抗体(例:抗CD3抗体、抗CD28抗体、抗CD2抗体)、サイトカイン(例:IL-7、IL-2、IL-15)などを含有していてもよい。
【0040】
本発明に用いる抗CD3抗体としては、CD3を特異的に認識する抗体であれば特に限定されないが、例えば、OKT3クローンから産生される抗体が挙げられる。抗CD3抗体は、磁気ビーズ等が結合されているものであってもよく、また、前記抗CD3抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体を表面に結合させた培養容器上で該Tリンパ球を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。抗CD3抗体の培地中における濃度は、10ng/ml~1000ng/ml(例:10 ng/ml、50 ng/ml、100 ng/ml、200ng/ml、300 ng/ml、400 ng/ml、500 ng/ml、600 ng/ml、700 ng/ml、800 ng/ml、900 ng/ml、1000 ng/ml)が好ましく、なかでも、500 ng/mlが好ましい。その他の抗体の濃度についても、当業者は、培養条件等に基づき、適宜決定することができる。従って、一実施態様において、CD8シングルポジティブ細胞を製造する方法は、抗体、好ましくは抗CD3抗体の存在下で、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞を培養することにより、前記CD4/CD8ダブルポジティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に誘導する工程を含む。
【0041】
本発明に用いるIL-2の培地中における濃度は、10 U/ml~1000 U/ml(例:10 U/ml、20 U/ml、30 U/ml、40 U/ml、50 U/ml、60 U/ml、70 U/ml、80 U/ml、90 U/ml、100 U/ml、500 U/ml、1000 U/ml)が好ましく、なかでも、100 U/mlが好ましい。本発明に用いるIL-7又はIL15の培地中における濃度は、1 ng/ml~100 ng/ml(例:1 ng/ml、5 ng/ml、10 ng/ml、20 ng/ml、30 ng/ml、40 ng/ml、50 ng/ml、60 ng/ml、70 ng/ml、80 ng/ml、90 ng/ml、100 ng/ml)が好ましく、なかでも、10 ng/mlが好ましい。従って、一実施態様において、CD8シングルポジティブ細胞を製造する方法は、サイトカイン、好ましくはIL-2の存在下で、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞を培養することにより、前記CD4/CD8ダブルポジティブ細胞をCD8シングルポジティブ細胞に誘導する工程を含む。
【0042】
本発明のCD8SP細胞の製法において、CD4/CD8DP細胞を培養する際の温度条件は、特に限定されないが、37℃~42℃程度が好ましく、37~39℃程度がより好ましい。また、培養期間については、当業者であればCD8陽性T細胞の数などをモニターしながら、適宜決定することができる。CD8SP細胞が得られる限り、日数は特に限定されないが、1日以上、3日以上、7日以上が好ましく、60日以下が好ましい。
【0043】
本発明の製法により製造されるCD8SP細胞は、CD4/CD8DP細胞から分化させて得られる細胞(例えば、上記2.により得られる細胞)に限定されない。したがって、例えば、造血前駆細胞を含む細胞集団から本発明の1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞として分離された細胞からCD4/CD8DP細胞を経ずに誘導されるCD8SP細胞も本発明の製法により製造されるCD8SP細胞に含まれる。
【0044】
3.1種以上のHPCマーカーを発現する造血前駆細胞を含有する細胞集団
本発明は、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない造血前駆細胞を高頻度で含む細胞集団(以下「本発明の細胞集団」と略記する。)を提供する。前記細胞集団は、例えば、造血前駆細胞を含む細胞集団から、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞を上記に記載の分離方法を用いて分離することで得ることができる。HPCマーカーの定義、具体的な分子、及び造血前駆細胞の定義については、上記に記載の通りである。
【0045】
本発明の細胞集団は、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない造血前駆細胞の割合(該造血前駆細胞数/細胞集団に含まれる全細胞数)が、従来法(例えば、CD34陽性、CD34陽性及びCD43陽性、あるいはCD43陽性及びCD34、CD31もしくはCD144陽性を指標に分離する方法)により得られる造血前駆細胞集団に含まれる割合よりも高い割合であれば特に制限はないが、40%以上(例:50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%)であることが好ましい。本発明の細胞集団は、本発明の製法の工程1で記載した方法により得ることができる。1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない造血前駆細胞の割合は、フローサイトメトリーにより測定することができる。
【0046】
後述の実施例で示す通り、本発明の細胞集団は、1種以上のHPCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のHPCネガティブマーカーを発現しない細胞を分離しなかった細胞集団と比較して、CD4/CD8DP細胞及びCD8SP細胞へ分化する効率が高く、増殖能にも優れている。
【0047】
4.「本発明の細胞集団」の分離用試薬
本発明はまた、本発明のHPCマーカー、即ち、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD32、CD39、CD49a、CD164、CD317、CD200、CD218a、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262、CD325、CD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156c、好ましくは、CD24、CD62L、CD90、CD143、CD263、Notch3、CD200CD218a、CD7、CD144、CD49f、CD51及びCD102からなる群より選択される1種以上のマーカーの各々に対する抗体を含んでなる、本発明の細胞集団の分離用試薬(以下、「本発明の試薬」と略記する)を提供する。本発明の試薬が2種以上のHPCマーカーに対する抗体を含む場合、該試薬は、各抗体を別個の試薬中に含む試薬キットとして提供され得る。本発明の試薬に含まれる抗体は、本発明の製法の工程1に用いられる分離手段に応じて、例えば、蛍光色素、金属同位体又はビーズ(例:磁気ビーズ)に結合した形態で提供され得る。
【0048】
また、本発明の試薬は、抗CD4抗体及び/又は抗CD8抗体、並びに、必要に応じてCD4/CD8DP細胞及び/又はCD8SP細胞で発現する又は発現しないことが既知の他の細胞表面マーカー(例えば、CD3、CD45、CD235a、CD14、CD45、CD34、CD43)に対する1種以上の抗体をさらに含むことができ、本発明の細胞集団から分化誘導されたCD4/CD8DP細胞やCD8SP細胞の分離用試薬として使用することができる。
また、本発明の試薬は、造血前駆細胞をCD4/CD8DP細胞に、さらにはCD8SP細胞に分化誘導するための試薬類(例えば、基礎培地、培地添加物など)をさらに含んでもよく、当該試薬類としては、上記1.及び上記2.で例示された物質が同様に挙げられる。
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であって本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0050】
実施例1(TKT3V1-7株を用いた検討)
造血前駆細胞(以下、HPCと称することがある)を含む細胞集団として、iPS細胞(TKT3V1-7株)を公知の方法(例えば、Cell Reports 2(2012)1722-1735や国際公開第2017/221975号に記載された方法)に準じて分化させた浮遊細胞集団を用いた。具体的には、超低接着処理された6well plateにTKT3V1-7株を3 x 105個/ウェルで播種し(Day0)、EB培地(StemPro34に10 μg/mlヒトインスリン、5. 5 μg/mlヒトトランスフェリン、5 ng/ml 亜セレン酸ナトリウム、2mM L-グルタミン、45mM α-モノチオグリセロー ル、および50 μg/mlアスコルビン酸を添加)に10 ng/ml BMP4、5ng/ml bFGF 、15ng/ml VEGF、2μM SB431542、を加えて、低酸素条件下(5% 02)にて5日間 培養を行った(Day5)。 続いて、50ng/ml SCF、30ng/ml TPO、10ng/ml Flt3Lを添加し、さらに5~9 日間培養を行い(~Day14)、浮遊細胞集団を得た。なお、培養期間中は2日または3日ごとに培地交換を行った。HPCを含む上記浮遊細胞集団を、サンプル群ごとに以下の抗体セットを用いて染色した。
【0051】
【0052】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。上記各サンプル群から取得した細胞分画を以下に示す。
【0053】
【0054】
上表において、分画A~Gは各々以下を示す。
分画A:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性
分画B:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD62L陽性
分画C:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD62L陰性
分画D:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD24陽性
分画E:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD24陰性
分画F:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD90陽性
分画G:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD90陰性
分画H:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD143陽性
分画I:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD143陰性
分画J:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD218a陽性
分画K:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD218a陰性
分画L:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD263陽性
分画M:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD263陰性
分画N:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、Notch3陽性
分画O:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、Notch3陰性
【0055】
上記分画A~Oに含まれる細胞を、公知の方法(例えば、Journal of Leukocyte Biology 96(2016)1165-1175や国際公開第2017/221975号に記載された方法)に準じて、リンパ球系細胞へ分化させた。具体的には、分画A~Oの各細胞集団を、2000 cells/wellで、Recombinat h-DLL4/Fc chimera(Sino Biological)とRetronectin(タカラバイオ)をコートした48-well-plateに播種し、5%CO2、37℃条件下に培養した。培養期間中は2日または3日ごとに培地交換を行った。なお、培地としては、50ng/ml SCF、50ng/ml IL-7、50ng/ml Flt3L、100ng/ml TPO、15μM SB203580、30 ng/ml SDF-1α を添加したOP9培地(15% FBS、2mM L-グルタミン、100Umlペニシリン、100ng /mlストレプトマイシン、55μΜ 2-メルカプトエタノール、50μg/mlアスコ ルビン酸、10 μg/mlヒトインスリン、5. 5 μg/mlヒトトランスフェリン、 5ng/ml亜セレン酸ナトリウムを含む)を用いた。培養開始から7日目および14日目に同様のコートをした48-well-plateに継代した。培養開始21日目にすべての細胞を回収し、血球板を用いて細胞数を数えた後、以下の抗体セットを用いて染色した。
【0056】
【0057】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。上記ソーティングにより取得した細胞分画を以下に示す。なお、本明細書においてリンパ球分画とは、Cytometry (Communications in Clinical Cytometry) 18(1994)199-208に記載された方法と同様に、FSC(forward scatter)およびSSC(side scatter)を指標として分離した分画をいう。
分画P:リンパ球分画
分画Q:リンパ球分画、CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性
分画R:リンパ球分画、CD3陽性、CD45陽性、CD7陽性、CD8a陽性、CD4陽性
分画S:リンパ球分画、CD3陽性、CD45陽性、CD7陽性、CD8a陽性、CD4陰性
【0058】
分画A~O由来の各サンプルにおける培養開始21日目の細胞数(分画A由来のサンプルにおける細胞数との比率)を表4に示す。
【0059】
【0060】
表4より、分画A由来のサンプルに含まれる細胞集団に比べて、分画B(CD62L陽性)、分画D(CD24陽性)、分画F(CD90陽性)、分画H(CD143陽性)、分画J(CD218a陽性)、分画L(CD263陽性)または分画N(Notch3陽性)由来のサンプルに含まれる細胞集団はいずれも増殖能に優れていることがわかった。
【0061】
培養21日目のFACS Ariaによるソーティングにより得られた細胞分画P~Sの細胞数(分画A由来のサンプルにおける細胞分画P~Sの細胞数との比率)を表5に示す。
【0062】
【0063】
この結果、分画F由来の細胞を用いることにより、分画Gまたは分画A由来の細胞を用いた場合に比して、(a) CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陽性細胞、あるいは(b) CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陰性細胞を高い割合で含む細胞集団を調製可能であることが示された。同様に、分画H由来の細胞を用いることにより、分画Iまたは分画A由来の細胞を用いた場合に比して、(a) CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陽性細胞、あるいは(b) CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陰性細胞を高い割合で含む細胞集団を調製可能であることが示された。また分画J由来の細胞を用いることにより、分画Kまたは分画A由来の細胞を用いた場合に比して、CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陽性細胞を高い割合で含む細胞集団を調製可能であることが示された。すなわち、造血前駆細胞を含む細胞集団として、CD90、CD143またはCD218aを発現する細胞を分離して、分離された細胞を分化させることにより、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞(またはCD8ポジティブ細胞)を高い割合で含む細胞集団を製造することができることが示された。
【0064】
実施例2(Ff-I01s04株を用いた検討)
造血前駆細胞(以下、HPCと称することがある)を含む細胞集団として、iPS細胞(Ff-I01s04株)を実施例1に記載された方法に供して得られた浮遊細胞集団を用いた。
HPCを含む細胞集団は、サンプル群ごとに実施例1に示した抗体セット3、4、5、6(本実施例では、それぞれ3b、4b、5b、6bと表記する)、または以下に示す抗体セット8bを用いて染色した。
【0065】
【0066】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。上記各サンプル群から取得した細胞分画を以下に示す。
【0067】
【0068】
上表において、分画f~m、tおよびuは各々以下を示す。
分画f:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD90陽性
分画g:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD90陰性
分画h:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD143陽性
分画i:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD143陰性
分画j:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD218a陽性
分画k:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD218a陰性
分画l:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD263陽性
分画m:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD263陰性
分画t:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD200陽性
分画u:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD200陰性
【0069】
上記分画f~m、tおよびuに含まれる細胞を、実施例1に記載された方法に供してリンパ球系細胞へ分化させた。培養開始28日目にすべての細胞を回収し、以下の抗体セットを用いて染色した。
【0070】
【0071】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。上記ソーティングにより取得した細胞分画を以下に示す。
分画p:リンパ球分画
分画q:リンパ球分画、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性
分画r:リンパ球分画、CD45陽性、CD7陽性、CD8a陽性、CD4陽性
分画s:リンパ球分画、CD45陽性、CD7陽性、CD8a陽性、CD4陰性
【0072】
分画f~m、tおよびu由来の各サンプルにおける培養開始28日目の細胞数(培養開始時の細胞数との比率)を表9に示す。
【0073】
【0074】
表9より、分画fは分画gに対して、分画hは分画iに対して、分画jは分画kに対して、分画lは分画mに対して、分画tは分画uに対していずれも増殖能に優れていることがわかった。すなわち、CD90陽性、CD143陽性、CD218a陽性、CD263陽性またはCD200陽性由来のサンプルに含まれる細胞集団はいずれも増殖能に優れていることがわかった。
【0075】
分画f~m、tおよびuに含まれる細胞を1000 cells/wellで播種した場合における、培養28日目のFACS Ariaによるソーティングにより得られた細胞分画p~sの細胞数を表10に示す。
【0076】
【0077】
表10に示す培養28日目のFACSによる解析により、各マーカー陽性細胞由来の細胞を用いた場合、各マーカー陰性細胞由来の細胞を用いた場合に比して、(a) CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陽性細胞、あるいは(b) CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性、CD8a陽性、及びCD4陰性細胞を高い収率で調製可能であることが示された。
これらの結果から、造血前駆細胞を含む細胞集団として、CD90、CD143、CD200、CD218aまたはCD263を発現する細胞を分離して、分離された細胞を分化させることにより、CD8ポジティブ細胞(例:CD4/CD8DP細胞、CD8SP細胞)を高い割合で含む細胞集団を製造することができることが示された。
【0078】
実施例3(Ff-I01s04株を用いた検討)
造血前駆細胞(以下、HPCと称することがある)を含む細胞集団として、iPS細胞(Ff-I01s04株)を実施例1に記載された方法に供して得られた浮遊細胞集団を用いた。HPCを含む上記浮遊細胞集団を、サンプル群ごとに以下の抗体セットを用いて染色した。
【0079】
【0080】
【0081】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。上記各サンプル群から取得した細胞分画を以下に示す。
【0082】
【0083】
上表において、分画Ac~Pcは各々以下を示す。
分画Ac:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性
分画Bc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD7陽性
分画Cc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD144陽性
分画Dc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD56陽性
分画Ec:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD226陽性
分画Fc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD262陽性
分画Gc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD325陽性
分画Hc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD49f陽性
分画Ic:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD51陽性
分画Jc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD102陽性
分画Kc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD42b陽性
分画Lc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD61陽性
分画Mc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD62P陽性
分画Nc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD69陽性
分画Oc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD102陽性
分画Pc:CD235a陰性、CD14陰性、CD34陽性、CD43陽性、CD156c陽性
【0084】
上記分画Ac~Pcに含まれる細胞を、実施例1に記載された方法に供してリンパ球系細胞へ分化させた。培養開始21日目にすべての細胞を回収し、血球板を用いて細胞数を数えた後、以下の抗体セットを用いて染色した。
【0085】
【0086】
上記染色を行った細胞集団を、FACSAriaによるソーティングに供した。上記ソーティングにより取得した細胞分画を以下に示す。
分画Qc:リンパ球分画
分画Rc:リンパ球分画、CD3陽性、CD45陽性、CD5陽性、CD7陽性
分画Sc:リンパ球分画、CD3陽性、CD45陽性、CD7陽性、CD8a陽性、CD4陽性
分画Tc:リンパ球分画、CD3陽性、CD45陽性、CD7陽性、CD8a陽性、CD4陰性
【0087】
分画Ac~Pc由来の各サンプルにおける培養開始21日目の細胞数(分画Ac由来のサンプルにおける細胞数との比率)を表14に示す。
【0088】
【0089】
表14より、分画Ac由来のサンプルに含まれる細胞集団に比べて、分画Bc(CD7陽性)、分画Cc(CD144陽性)、分画Dc(CD56陽性)、分画Ec(CD226陽性)、分画Fc(CD262陽性)および分画Gc (CD325陽性) 由来のサンプルに含まれる細胞集団はいずれも増殖能に優れていることがわかった。また、分画Hc(CD49f陽性)、分画Ic (CD51陽性)、分画Kc(CD42b陽性)、分画Lc(CD61陽性)、分画Mc (CD62P陽性)、分画Nc (CD69陽性) および分画Pc (CD156c陽性) 由来のサンプルに含まれる細胞集団はいずれも増殖能に劣っていることがわかった。
【0090】
培養21日目のFACS Ariaによるソーティングにより得られた細胞分画Qc~Tcの細胞数(分画Ac由来のサンプルにおける細胞分画Qc~Tcの細胞数との比率)を表15に示す。
【0091】
【0092】
この結果、分画Bc、分画Cc、分画Dc、分画Ec、分画Fc、または分画Gc由来の細胞を用いることにより、分画Ac由来の細胞を用いた場合に比して、CD3陽性CD45陽性CD7陽性CD8a陽性CD4陽性細胞、あるいはCD3陽性CD45陽性CD7陽性CD8a陽性CD4陰性細胞を高い割合で含む細胞集団を調製可能であることが示された。また、分画Hc、分画Ic、分画Jc、分画Kc、分画Lc、分画Mc、分画Nc、分画Oc、または分画Pc由来の細胞を用いることにより、分画Ac由来の細胞を用いた場合に比して、CD3陽性CD45陽性CD7陽性CD8a陽性CD4陽性細胞、あるいはCD3陽性CD45陽性CD7陽性CD8a陽性CD4陰性細胞を低い割合で含む細胞集団を調製可能であることが示された。すなわち、造血前駆細胞を含む細胞集団として、CD7、CD144、CD56、CD226、CD262、及びCD325のいずれか1種以上を発現する細胞、あるいはCD49f、CD51、CD102、CD42b、CD61、CD62P、CD69、CD102及びCD156cのいずれか1種以上を発現しない細胞を分離して、分離された細胞を分化させることにより、CD4/CD8ダブルポジティブ細胞(またはCD8シングルポジティブ細胞)を高い割合で含む細胞集団を製造することができることが示された。
【0093】
本出願は、日本国で出願された特願2017-087723(出願日:2017年4月26日)を基礎としており、ここで言及することにより、その内容は本明細書に全て包含される。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明により、未成熟T細胞や成熟T細胞をより多く及び/又はより高い濃度で得ることができ、このようにして得られた細胞は、腫瘍、感染症、自己免疫不全等の疾患の予防又は治療に有用である。