(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】金属加工油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 141/06 20060101AFI20240206BHJP
C10M 133/06 20060101ALN20240206BHJP
C10M 129/04 20060101ALN20240206BHJP
C10M 129/08 20060101ALN20240206BHJP
C10M 129/16 20060101ALN20240206BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20240206BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240206BHJP
C10N 40/22 20060101ALN20240206BHJP
C10N 40/24 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C10M141/06
C10M133/06
C10M129/04
C10M129/08
C10M129/16
C10N20:00 Z
C10N30:00 Z
C10N40:22
C10N40:24 A
(21)【出願番号】P 2021502351
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020007892
(87)【国際公開番号】W WO2020175595
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2019035961
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡野 知晃
(72)【発明者】
【氏名】谷野 順英
(72)【発明者】
【氏名】杉井 秀夫
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-358495(JP,A)
【文献】特開平08-176581(JP,A)
【文献】特開平08-337787(JP,A)
【文献】特開2002-088390(JP,A)
【文献】特開昭59-227987(JP,A)
【文献】特開2010-168552(JP,A)
【文献】特開2005-220170(JP,A)
【文献】特開平04-214797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表され
、HLBが10以下であるアミン化合物
と、炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールを含む摩擦調整剤と、を含む、金属加工油組成物。
【化1】
[式中、
R
1は、炭素数6~30の炭化水素基を表し、
R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3の炭化水素基を表し、
A
1およびA
2はそれぞれ独立して単結合または
-(RO)
m
-を表し、
A
3は
-(RO)
m
-を表し、
Lは炭素数1~8の炭化水素基を表し、
pは0または1の整数であ
り、
Rは出現するごとにそれぞれ独立してアルキレン基を表し、
mは1以上の整数である。]
【請求項2】
前記アミン化合物の配合量が、組成物全量基準で、0.01質量%以上3.0質量%以下である、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アミン化合物のHLBが8以下である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
鉱油および合成油から選択される少なくとも一種の基油を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
R
1は、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基であり、
R
2、R
3およびR
4は水素原子であり、
A
1およびA
2はそれぞれ独立して単結合または
-(RO)
m
-であり、
A
3は
-(RO)
m
-であり、
Lは炭素数1~8のアルキレン基であり、
pは0または1の整数であ
り、
Rは出現するごとにそれぞれ独立してアルキレン基を表し、
mは1以上の整数である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
pは0である、請求項1~
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記アミン化合物と、鉱油および合成油から選択される少なくとも一種の基油と、および必要に応じて、炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールから選択される少なくとも一種の摩擦調整剤とを混合することを含む、請求項1~
6のいずれか1項に記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物または請求項
7に記載の方法により得られた組成物を用いて金属加工が行われることを特徴とする、金属加工方法。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物または請求項
7に記載の方法により得られた組成物が付着した金属物品の表面にフラックスを接触させてろう付けすることを含む、ろう付け方法。
【請求項10】
下記工程(1)を有する、金属物品の製造方法。
工程(1):請求項1~
6のいずれか一項に記載の組成物または請求項
7に記載の方法により得られた組成物を用いて、金属材料に対して加工処理を行う、金属加工工程。
【請求項11】
さらに下記工程(2)を有する、請求項1
0に記載の方法。
工程(2):工程(1)の後、前記金属材料の表面の一部に組成物が残存している状態で、前記金属材料の表面にフラックスを接触させて、ろう付け処理を行う、ろう付け工程。
【請求項12】
前記金属物品は熱交換器用部品である、請求項1
0または1
1に記載の方法。
【請求項13】
請求項
8~1
2のいずれか一項に記載の方法を用いることを特徴とする、熱交換器の製造方法。
【請求項14】
下記一般式(I)で表され
、HLBが10以下であるアミン化合物を含む、フラックス付着向上剤。
【化2】
[式中、
R
1は、炭素数6~30の炭化水素基を表し、
R
2、R
3およびR
4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3の炭化水素基を表し、
A
1およびA
2はそれぞれ独立して単結合または
-(RO)
m
-を表し、
A
3は
-(RO)
m
-を表し、
Lは炭素数1~8の炭化水素基を表し、
pは0または1の整数であ
り、
Rは出現するごとにそれぞれ独立してアルキレン基を表し、
mは1以上の整数である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油組成物、これを用いた金属加工方法、ろう付け方法、金属物品の製造方法、および、これに用いるフラックス付着向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器や機械用部品は多数の部品を有している。例えば、熱交換器は、典型的には、冷媒が流れる伝熱管と、伝熱管の外側の空気との間で熱交換を行うためのフィンとを有している。伝熱管やフィンは、通常、アルミニウム材(アルミニウム及びアルミニウム合金を含む)などの熱伝導率が高く比重の小さい金属材料から構成されている。熱交換器の製造は、一般に、金属加工油を用いた金属材料の金属加工(切削、圧延、引抜き、プレス、鍛造など)により伝熱管やフィンなどの構成部品を製造し、次いで、製造した構成部品を組み立て、続いて、組立部品をろう付けして接合することにより行われる。
アルミニウム材等の金属材料を加工する際に用いられる金属加工油としては、例えば、特許文献1に記載されたような金属加工油組成物が挙げられる。
【0003】
金属加工後に行われる典型的なろう付け工程では、ろう付けされる部品の表面に適当なフラックスが塗布される。フラックスが塗布された部品は、酸化を防止するために、ドライ窒素等の制御された雰囲気中で加熱され、部品間が接合される。フラックス付着不良やフラックス脱落は接合不良を生じ得ることから、部品へのフラックスの付着性を良好なものとすることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
金属加工時の加工油成分が付着した表面はフラックスの付着性が悪く、均一にフラックス液を塗布することが困難な場合がある。また、良好なフラックス付着性を達成するためには、通常、aフラックスを付着させる前に部品の表面からフラックスの付着性を低下させる要因となる油分等を除去するための清浄処理を行う必要がある。
このような状況において、金属加工後にろう付け処理される金属物品のフラックス付着性を向上させる手段が求められている。
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のアミン化合物が金属物品の表面に良好なフラックス付着性を付与し得ることを見出した。しかも、当該アミン化合物を金属加工油組成物に配合することで、金属加工後に表面の洗浄処理を行わなくとも良好なフラックス付着を達成させ得ることを見出した。
【0007】
本発明は、下記の実施形態を含む。
[1] 下記一般式(I)で表されるアミン化合物を含む、金属加工油組成物。
【化1】
[式中、
R
1は、炭素数6~30の炭化水素基を表し、
R
2、R
3、およびR
4(以下「R
2~R
4」と略すこともある)はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3の炭化水素基を表し、
A
1およびA
2はそれぞれ独立して単結合またはポリオキシアルキレン基を表し、
A
3はポリオキシアルキレン基を表し、
Lは炭素数1~8の炭化水素基を表し、
pは0または1の整数である。]
[2] HLBが10以下である、[1]に記載の組成物。
[3] 前記アミン化合物の配合量が、組成物全量基準で、0.3質量%以上3.0質量%以下である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] 炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールから選択される少なくとも一種の摩擦調整剤をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5] 前記アミン化合物のHLBが8以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6] 鉱油および合成油から選択される少なくとも一種の基油を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] R
1は、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基であり、
R
2~R
4は水素原子であり、
A
1およびA
2はそれぞれ独立して単結合またはポリオキシアルキレン基であり、
A
3はポリオキシアルキレン基であり、
Lは炭素数1~8のアルキレン基であり、
pは0または1の整数である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8] pは0である、[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[9] 前記アミン化合物と、鉱油および合成油から選択される少なくとも一種の基油と、および必要に応じて、炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールから選択される少なくとも一種の摩擦調整剤とを混合することを含む、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物の製造方法。
[10] [1]~[8]のいずれかに記載の組成物または[9]に記載の方法により得られた組成物を用いて金属加工が行われることを特徴とする、金属加工方法。
[11] [1]~[8]のいずれかに記載の組成物または[9]に記載の方法により得られた組成物が付着した金属物品の表面にフラックスを接触させてろう付けすることを含む、ろう付け方法。
[12] 下記工程(1)を有する、金属物品の製造方法。
工程(1):[1]~[8]のいずれかに記載の組成物または[9]に記載の方法により得られた組成物を用いて、金属材料に対して加工処理を行う、金属加工工程。
[13] さらに下記工程(2)を有する、[12]に記載の方法。
工程(2):工程(1)の後、前記金属材料の表面の一部に組成物が残存している状態で、前記金属材料の表面にフラックスを接触させて、ろう付け処理を行う、ろう付け工程。
[14] 前記金属物品は熱交換器用部品である、[12]または[13]に記載の方法。
[15] [10]~[14]のいずれかに記載の方法を用いることを特徴とする、熱交換器の製造方法。
[16] 下記一般式(I)で表されるアミン化合物を含む、フラックス付着向上剤。
【化2】
[式中、
R
1は、炭素数6~30の炭化水素基を表し、
R
2~R
4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3の炭化水素基を表し、
A
1およびA
2はそれぞれ独立して単結合またはポリオキシアルキレン基を表し、
A
3はポリオキシアルキレン基を表し、
Lは炭素数1~8の炭化水素基を表し、
pは0または1の整数である。]
【0008】
本発明は、以下の一以上の効果を有する。
(1)良好なフラックス付着性を有する金属加工油組成物が提供される。本発明の金属加工油組成物は、例えば、熱交換器用部品などの金属物品の金属加工における金属加工油組成物として好適に用いられる。
(2)本発明の金属加工油組成物は金属加工を施した金属部品に良好なフラックス付着性を付与することができるため、フラックス塗布前の金属部品の清浄処理を省略または簡素化することができる。好ましい実施形態において、本発明の金属加工油組成物を用いた金属加工により得られた金属部品にそのままフラックスを塗布し、ろう付け処理を行うことができる。
(3)優れたフラックス付着性を付与できるフラックス付着剤が提供される。
(4)本発明の好ましい形態によれば、フラックスの付着性と金属加工性(低摩擦性)とを両立し得る金属加工油組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、「A~B」および「C~D」が記載されている場合、「A~D」および「C~B」の範囲も数値範囲として、本発明に範囲に含まれる。また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は下限値以上、上限値以下であることを意味する。
【0010】
以下に本明細書において記載する用語等の意義を説明する。
「炭化水素基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素から水素原子を1個または2個以上除いた基を意味する。具体的には、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基、アルキレン基、アルケニレン基などが挙げられる。
「アルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「シクロアルキル基」とは、指定された数の炭素原子を有する環状の1価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「アルキレン基」とは、指定された数の炭素原子を有する直鎖状、環状または分岐状の2価の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。
「アルケニル基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の1価の炭化水素基を意味する。「アルケニレン基」とは、指定された数の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する直鎖または分岐の2価の炭化水素基を意味する。「アルケニル」や「アルケニレン」としては例えば、モノエン、ジエン、トリエン及びテトラエンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
「アリール基」とは、芳香族性の炭化水素環式基を意味する。
「アルキルアリール基」とは、1以上のアルキルが結合したアリールを意味する。
「アリールアルキル基」とは、アリール環に結合したアルキルを意味する。
「ポリオキシアルキレン基」とは、アルキレンオキサイドの重合鎖から構成される2価の基を意味し、具体的には、「-(RO)m-」(Rは出現するごとにそれぞれ独立してアルキレン基を表し、mは1以上の整数である)で表される基である。
【0011】
1.金属加工油組成物
本発明の一形態は金属加工油組成物に関する。該金属加工油組成物は、以下の成分:(A)アミン化合物、ならびに必要に応じて、(B)基油、(C)摩擦調整剤、および(D)その他添加剤を含む。金属加工油組成物は、場合によって、配合された成分の少なくとも一部が変性または反応等することで生じる別の化合物を含有していてもよく、このような形態も本発明の金属加工油組成物に包含されるものとする。
以下、各成分について詳細に説明する。
【0012】
[成分(A):アミン化合物]
金属加工油組成物は、下記一般式(I)で表されるアミン化合物(以下、単に「アミン化合物」ともいう)を含む。
【化3】
【0013】
このようなアミン化合物を含むことにより、金属加工油組成物に良好なフラックス付着性を付与することができる。当該金属加工油組成物を用いて金属加工された金属物品の表面はフラックス付着性に優れるため、該金属部品にそのままフラックスを塗布し、ろう付け工程を行うことが可能である。また、フラックス塗布前の金属部品の清浄処理を行う場合であっても、その処理を従来の金属加工油を用いた場合に比べて簡素化することができる。さらに、ろう付け工程におけるフラックスの脱落が抑制され、ろう付けを行う組立部品の取り扱い性にも優れる。また、上記式(I)のアミン化合物を含む金属加工油組成物はオイルステイン性に優れる。オイルステインとは、金属加工油組成物が付着した部分が高温に曝されて、金属加工油が揮散した後に、その部分に残存するしみや汚れ(ステイン)のことであり、「オイルステイン性に優れる」とは金属表面へのこのようなオイルステインの残存が少ないことを意味する。
【0014】
アミン化合物のHLBは10以下が好ましい。かかる範囲のアミン化合物を用いることにより良好なフラックス付着性が得られる。フラックス付着性の観点から、アミン化合物のHLBは、8以下がより好ましく、7以下がさらに好ましい。アミン化合物のHLBの下限は特に制限されないが、フラックスの付着性および基油への溶解性の点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。アミン化合物のHLBは例えば、フラックスの付着性および基油への溶解性の点から、1~10が好ましく、2~8がより好ましく、3~7がさらに好ましい。
なお、本明細書において、HLBとは、Hydrophile-lipophile balance(親水親油バランス)の略称であり、界面活性剤の分子内における親水基と親油基のつり合いを示す指標である。HLBは、グリフィン法より算出される。
【0015】
式(I)において、R1は、炭素数6~30(6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30)の炭化水素基を表す。該炭化水素基の炭素数は潤滑性および溶解性の点から、好ましくは8~24、より好ましくは10~22、さらに好ましくは12~20である。
【0016】
炭化水素基は、例えば、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ベンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル(ステアリル)、ノナデシル、エイコシル、等のアルキル基;オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、オクタデセニル(オレイルなど)等のアルケニル基(二重結合の位置は任意である);ジメチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキシル、メチルシクロヘキシルメチル、シクロヘキシルエチル、プロピルシクロヘキシル、ブチルシクロヘキシル、へプチルシクロヘキシル等の、シクロアルキル基;ナフチル、アントラセニル、ビフェニル、ターフェニル等のアリール基;ジメチルフェニル、ブチルフェニル、ノニルフェニル、ジメチルナフチル等のアルキルアリール基;フェニルエチル、ジフェニルメチル等のアリールアルキル基等が挙げられる。
炭化水素基は、合成由来であっても天然由来であってもよい。例えば、炭化水素基は、ヤシアルキル、牛脂アルキル、大豆アルキルなどの天然由来の混合アルキル基またはアルケニル基であってもよい。天然由来の炭化水素基(混合アルキルまたは混合アルケニルなど)には、炭素数の異なる複数種の炭化水素基が含まれる。例えば、ヤシアルキルは、通常、炭素数12~16の範囲の飽和または不飽和の直鎖状脂肪族炭化水素基を主要成分とし、牛脂アルキルは、通常、炭素数16~18の範囲の飽和または不飽和の直鎖状脂肪族炭化水素基を主要成分とする。本発明においては、天然由来の炭化水素基の主要成分が、所定の炭素数の範囲(炭素数6~30、より好ましくは8~24、さらに好ましくは10~22、特に好ましくは12~20)を占めるものを、R1として使用できる。
【0017】
R1は、潤滑性および溶解性の点から、好ましくは炭素数6~30(より好ましくは炭素数8~24、さらに好ましくは10~22、特に好ましくは12~20)の直鎖状または分岐状の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは炭素数6~30(より好ましくは炭素数8~24、さらに好ましくは10~22、特に好ましくは12~20)のアルキル基またはアルケニル基であり、さらに好ましくは、ヤシアルキル、牛脂アルキル、ラウリル、オレイル、およびステアリルから選択され、特に好ましくはヤシアルキル、牛脂アルキル、およびステアリルから選択される。
【0018】
式(I)中、R2~R4はそれぞれ独立して水素原子または炭素数1~3の炭化水素基を表す。炭素数1~3の炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル等が挙げられる。フラックス付着性の点から、R2~R4は好ましくは水素原子である。
【0019】
式(I)中、pは、0または1の整数である。
フラックス付着性の点から、pは0の整数であることが好ましい。すなわち、一実施形態において、アミン化合物はモノアミンである。
【0020】
式(I)中、Lは、炭素数1~8(1、2、3、4、5、6、7、または8)の炭化水素基を表す。Lは、フラックス付着性の点から、好ましくは炭素数1~6(より好ましくは炭素数2~5、さらに好ましくは炭素数3~4)の直鎖状又は分岐状のアルキレン基またはアルケニレン基であり、より好ましくは炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数2~5、さらに好ましくは炭素数3~4)の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6、より好ましくは炭素数2~5、さらに好ましくは炭素数3~4)の直鎖状アルキレン基である。
【0021】
式(I)中、A1およびA2はそれぞれ独立して単結合またはポリオキシアルキレン基を表す。
なお、A1および/またはA2が単結合である場合は、R2、R3が直接窒素原子(N)に結合していることを意味する。
式(I)中、A3はポリオキシアルキレン基を表す。
A1~A3におけるポリオキシアルキレン基としては、特に制限されないが、HLBが上記範囲に含まれるものが好ましい。例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシイソプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシ1,2-ブチレン、ポリオキシ2,3-ブチレン、ポリオキシペンチレン、ポリオキシオクチレンなどが挙げられる。
A1、A2、およびA3(A1~A3)におけるポリオキシアルキレン基は、基油への溶解性および潤滑性の点から、好ましくは、炭素数1~6(より好ましくは炭素数1~4、さらに好ましくは炭素数1~3のアルキレンオキサイドの重合鎖から構成される2価数の基であり、より好ましくは炭素数2~3のアルキレンオキサイドの重合鎖から構成される基(すなわち、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)であり、さらに好ましくはポリオキシエチレンである。
A1~A3のポリオキシアルキレン基はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、A1~A3のポリオキシアルキレン基は、炭素数が異なるアルキレンオキサイドがランダムまたはブロックに結合してなるものであってもよい。例えば、A1~A3のポリオキシアルキレン基は、エチレンオキサイド(EO)基とプロピレンオキサイド(PO)基とが、ランダムまたはブロックに結合してなるものであってもよい。
【0022】
一実施形態において、式(I)中、p=1であり、A1~A3はいずれもポリオキシアルキレン基である。かかる場合には、フラックス付着性に優れる。
一実施形態において、式(I)中、p=0であり、A2は単結合であり、A3はポリオキシアルキレン基である。かかる場合には、フラックス付着性に優れる。
一実施形態において、式(I)中、p=0であり、A2およびA3はいずれもポリオキシアルキレン基である。かかる場合には、フラックス付着性に優れる。
【0023】
一実施形態において、アミン化合物は、上記一般式(I)において
R1は、炭素数6~30のアルキル基またはアルケニル基であり、
R2~R4は水素原子であり、
A1およびA2はそれぞれ独立して単結合またはポリオキシアルキレン基であり、
A3はポリオキシアルキレン基であり、
Lは炭素数1~8のアルキレン基であり、
pは0または1の整数である、化合物である。
当該実施形態において、R1、A1~A3、L、およびpの好ましい態様は上記に記載したとおりである。
【0024】
一実施形態において、アミン化合物は下記一般式(II)で表される。
【化4】
【0025】
式(II)中、R1~R4、L、およびpの定義および好ましい態様は式(I)と同様である。
式(II)中、m1およびm2はそれぞれ独立して0以上のエチレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
式(II)中、m3は、0を超えるエチレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
m1~m3の上限値は特に制限されないが、それぞれ独立して、例えば15以下、10以下、8以下、または7以下であり得る。m1~m3はアミン化合物のHLBが所定の範囲となるように設定されることが好ましい。
一例をあげると、m1およびm2は0以上15以下(好ましくは0以上6以下)の数であり、m3は0以上15以下(好ましくは0を超え6以下)の数である。
例えば、m1+m2+m3は0を超え45以下(好ましくは0を超え12以下の数)である。
【0026】
アミン化合物の含有量は、組成物全量(100質量%)基準で、フラックス付着性の点から好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上である。また、金属加工性(低摩擦性)の点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。また、アミン化合物の含有量は、フラックス付着性の点から、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~10質量%、さらに好ましくは0.3~5質量%であり、金属加工性(低摩擦性)の点から一層好ましくは0.3~3質量%であり、フラックス付着性および金属加工性(低摩擦性)に特に優れる点から、0.5~3質量%が一層好ましい。
【0027】
[成分(B):基油]
金属加工油組成物は、基油を含むことが好ましい。
基油としては、特に制限はなく、従来、金属加工油の基油として使用されている鉱油および合成油の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。また、鉱油及び合成油から選ばれる2種以上を併用した混合油であってもよい。
【0028】
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等の精製処理の一つ以上の処理を施した鉱油;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる鉱油(GTL);等が挙げられる。
これらの鉱油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン系合成油;ノルマルパラフィン、イソパラフィン等のパラフィン系合成油;ポリオールエステル、二塩基酸エステル(例えば、ジトリデシルグルタレート等)、三塩基酸エステル(例えば、トリメリット酸2-エチルヘキシル)、リン酸エステル等のエステル系合成油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系合成油;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン等が挙げられる。
これらの合成油は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
中でも、焼鈍性および乾燥性の点で、基油としてはパラフィン系合成油が好ましく、イソパラフィンがより好ましい。
【0031】
基油の40℃における動粘度としては、好ましくは0.5~10mm2/s、より好ましくは0.75~5mm2/s、更に好ましくは1~3mm2/sである。
当該動粘度が0.5mm2/s以上であれば、金属加工性をより向上させることができる。
また、当該動粘度が10mm2/s以下であれば、優れた金属加工性を維持できると共に、取扱性も良好となる。
なお、本明細書において、40℃における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定された値を意味する。
また、金属加工性を向上させた潤滑油組成物を調整する観点から、本発明の一態様で用いる基油としては、揮発性が高いために、JIS K2283:2000に準拠した測定法によって、100℃における動粘度及び粘度指数が算出が困難である基油が好ましい。
【0032】
基油の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、焼鈍性および乾燥性の点で好ましくは50.0~99.99質量%、より好ましくは70.0~99.9質量%、更に好ましくは90.0~99質量%である。
【0033】
[成分(C):摩擦調整剤]
金属加工油組成物は、焼鈍性に優れる点で、(C1)炭素数6~30のアルコールおよび(C2)アルキルグリセロールから選択される少なくとも一種の摩擦調整剤を含むことが好ましい。摩擦調整剤は、(C1)炭素数6~30のアルコールおよび(C2)アルキルグリセロールから選ばれる2種以上を併用して使用してもよい。中でも、金属加工性(低摩擦性)に優れることから、金属加工油組成物は(C1)炭素数6~30のアルコールおよび(C2)アルキルグリセロールの両方を含むことが好ましい。
(C1)炭素数6~30のアルコールおよび(C2)アルキルグリセロールの両方を含む場合、その質量比は、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましく、40:60~60:40がさらに好ましい。
【0034】
(C1)炭素数6~30のアルコール
炭素数6~30のアルコールとしては、一価の脂肪族飽和アルコール及び一価の脂肪族不飽和アルコールが好ましく、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。アルコールの炭素数は、潤滑性の点で、より好ましくは8~26、さらに好ましくは10~20、特に好ましくは12~18である。
一価の脂肪族飽和アルコールとしては、例えば、オクタノール(カプリルアルコール)、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール(ラウリルアルコール)、テトラデカノール(ミリスチルアルコール)、ヘキサデカノール(セチルアルコール)、オクタデカノール(ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール)、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
一価の脂肪族不飽和アルコールとしては、例えば、オクテノール、デセノール、ドデセノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、オクタデセノール(オレイルアルコール)、リノレイルアルコール等が挙げられる。中でも、基油への溶解性および潤滑性の点で、オレイルアルコールが好ましい。
炭素数6~30のアルコールは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(C2)アルキルグリセロール
アルキルグリセロールは、アルコールとグリセリンとのモノまたはジエーテル化合物(アルキルグリセリルエーテル)である。アルキルグリセロールとしては、炭素数6~30のアルコールとグリセリンとのモノまたはジエーテル化合物が好ましく、炭素数6~30のアルコールとグリセリンとのモノエーテル化合物がより好ましい。アルキルグリセロールを構成する炭素数6~30のアルコールの炭素数は、潤滑性およびフラックス付着性の点で、より好ましくは8~26、さらに好ましくは10~20、特に好ましくは12~18である。また、アルキルグリセロールを構成する炭素数6~30のアルコールの具体例としては、上記(C1)炭素数6~30のアルコールとして例示したものを同様に好ましく使用できる。
【0036】
一実施形態において、アルキルグリセロールは下記一般式(III)で表される。
【化5】
式(III)中、R
5は、炭素数6~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基またはアルケニル基を表す。より好ましくは、潤滑性およびフラックス付着性の点で、R
5は、炭素数8~26(より好ましくは10~20、さらに好ましくは12~18)の直鎖状のアルキル基またはアルケニル基である。
アルキルグリセロールの具体例は、グリセリルモノステアリルエーテル(バチルアルコール)、グリセリルモノセチルエーテル(キミルアルコール)、モノオレイルグリセリルエ一テル(セラキルアルコール)、モノベヘニルグリセリルエーテル、モノ2-エチルヘキシルグリセリルエーテル、モノイソステアリルグリセリルエーテル、モノカプリルグリセリルエーテル、モノイソデシルグリセリルエーテル等が挙げられる。中でも、潤滑性およびフラックス付着性の点で、モノステアリルグリセリルエーテル(バチルアルコール)、グリセリルモノセチルエーテル(キミルアルコール)、モノオレイルグリセリルエーテル(セラキルアルコール)が好ましく、モノオレイルグリセリルエーテル(セラキルアルコール)がより好ましい。
アルキルグリセロールは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
(C1)炭素数6~30のアルコールおよび(C2)アルキルグリセロールの合計含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、潤滑性およびフラックス付着性の点で、好ましくは0.001~30質量%、より好ましくは0.01~20質量%、更に好ましくは0.1~10質量%である。
【0038】
(C3)その他の摩擦調整剤
金属加工油組成物は、上記(C1)炭素数6~30のアルコールおよび(C2)アルキルグリセロール以外に、(C3)その他の摩擦調整剤を含んでもよい。
その他の摩擦調整剤としては、例えば、従来金属加工油の摩擦調整剤として使用されている公知の摩擦調整剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えば、有機ジチオリン酸塩、モリブデン系摩擦調整剤、無灰系摩擦調整剤などが挙げられる。
有機ジチオリン酸塩としては、好ましくはジアルキルジチオリン酸亜鉛であり、より好ましくは第2級ジアルキルジチオリン酸亜鉛である。有機ジチオリン酸塩の含有量は、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.05~20質量%である。
モリブデン系摩擦調整剤としては、例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、モリブテン酸のアミン塩等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。モリブデン系摩擦調整剤由来のモリブデン原子の含有量は、組成物全量基準で、好ましくは30~400質量ppmである。
無灰系摩擦調整剤としては、例えば、脂肪酸と脂肪族多価アルコールとの反応により得られる部分エステル化合物等のエステル系摩擦調整剤が挙げられる。前記脂肪酸は好ましくは炭素数6~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する脂肪酸であり、該炭化水素基の炭素数はより好ましくは8~24、さらに好ましくは10~20である。また、前記脂肪族多価アルコールは2価以上6価以下のアルコールであり、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無灰系摩擦調整剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~8.0質量%である。
【0039】
摩擦調整剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~30質量%、より好ましくは0.01~20質量%、更に好ましくは0.1~10質量%である。
【0040】
本発明の一実施形態において、金属加工油組成物における、成分(A)(アミン化合物)、成分(B)(基油)、および成分(C)(摩擦調整剤)の合計含有量は、組成物全量(100質量%)基準で、90~99.999質量%であることが好ましく、95~99.99質量%であることがより好ましく、99~99.9質量%であることが特に好ましい。
【0041】
(D)その他添加剤
金属加工油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の添加剤を含有してもよい。このようなその他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、油性剤、極圧剤、防錆剤、金属不活性化剤、消泡剤、粘度指数向上剤、帯電防止剤、濡れ性向上剤等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
酸化防止剤としては、従来金属加工油の酸化防止剤として使用されている公知の酸化防止剤の中から、任意のものを適宜選択して用いることができ、例えば、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、モリブデン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。これらの酸化防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、ジフェニルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有するアルキル化ジフェニルアミン等のジフェニルアミン系酸化防止剤;α-ナフチルアミン、フェニル-α-ナフチルアミン、炭素数3~20のアルキル基を有する置換フェニル-α-ナフチルアミン等のナフチルアミン系酸化防止剤;等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(DBPC)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、イソオクチル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)等のジフェノール系酸化防止剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネイト等が挙げられる。
モリブデン系酸化防止剤としては、例えば、三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるモリブデンアミン錯体等が挙げられる。
リン系酸化防止剤としては、例えば、ホスファイト等が挙げられる。
【0044】
酸化防止剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.005~0.8質量%、さらに好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0045】
油性剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸;ダイマー酸、水添ダイマー酸等の重合脂肪酸;リシノレイン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸;ラウリルアルコール、オレイルアルコール等の脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール;ステアリルアミン、オレイルアミン等の脂肪族飽和及び不飽和モノアミン;ラウリン酸アミド、オレイン酸アミド等の脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド;グリセリン、ソルビトール等の多価アルコールと脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸との部分エステル;等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。油性剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.01~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.1~3.0質量%である。
【0046】
極圧剤としては、例えば、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド等の硫黄系化合物、亜リン酸エステル以外のリン系化合物(例えば、リン酸エステル(例えば、トリクレジルホスフェート(TCP))、チオリン酸エステル、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩等)が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。極圧剤の含有量は、特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~10質量%であり、より好ましくは0.01~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.1~3.0質量%である。
【0047】
防錆剤としては、例えば、金属スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、有機亜リン酸エステル、有機リン酸エステル、有機スルホン酸金属塩、有機リン酸金属塩、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル、ベンゾトリアゾール系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。防錆剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.05~5.0質量%、さらに好ましくは0.1~3.0質量%である。
【0048】
金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、ピリミジン系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属不活性化剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~5.0質量%、より好ましくは0.01~3.0質量%であり、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0049】
消泡剤としては、例えば、シリコーン油、フルオロシリコーン油及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。消泡剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~0.50質量%、より好ましくは0.01~0.30質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.20質量%である。
【0050】
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体など)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン水素化共重合体など)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。粘度指数向上剤の含有量は特に制限されないが、組成物全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~5質量%であり、より好ましくは0.05~3質量%であり、さらに好ましくは0.1~2質量%である。
【0051】
濡れ性向上剤としては、例えば、炭素数が14以上で、酸素数が2以上であり、かつ、ヒドロキシル基、エーテル結合及びエステル結合のいずれか1以上を有する含酸素化合物が挙げられる。本明細書中、「酸素数」とは、分子内の酸素原子の総数をいう。好ましく用いられる含酸素化合物としては、例えば、ソルビタンカルボン酸エステル、アセチレングリコール系化合物(例えば、アセチレングリコール又はそのエチレンオキシド付加物(EO付加物))、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルなどが挙げられる。具体的な含酸素化合物としては、ソルビタンモノオレート;ソルビタンジオレート;ソルビタントリオレート;ソルビタンモノステアレート;ソルビタンジステアレート;ソルビタントリステアレート;ソルビタンモノラウレート;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール;2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールEO1.3モル付加物;3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール;トリオキシエチレン オレイルエーテルなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。濡れ性向上剤の含有量は、組成物全量(100質量%)基準で、0.01~3質量%の範囲で選定される。濡れ性向上剤の好ましい含有量は、0.03質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上である。濡れ性向上剤の好ましい含有量の上限値は、2.5質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0052】
[金属加工油組成物の各種物性]
本発明の一実施形態の金属加工油組成物を用いて、後述の実施例に記載の条件で測定された摩擦係数としては、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.14以下、更に好ましくは0.12以下、である。摩擦係数が低いほど、金属加工性(低摩擦性)に優れた金属加工油組成物であるといえる。
【0053】
[金属加工油組成物の用途]
本発明の金属加工油組成物は、金属加工後の金属物品の表面に良好なフラックス付着性を付与することができることから、フラックスを用いたろう付け工程に供される金属部品の加工に好適に用いられる。一例をあげると、アルミニウム材又はアルミニウム合金材のなどの金属材料の金属加工に用いられることがより好ましく、アルミニウムフィン材又はアルミニウム合金フィン材の金属加工に用いられることが更に好ましい。
【0054】
2.金属加工油組成物の製造方法
本発明の金属加工油組成物の製造方法としては、特に制限はない。例えば、以下の成分:(A)アミン化合物、(B)基油、(C)摩擦調整剤、および(D)その他添加剤を混合することにより製造される。一実施形態の製造方法は、アミン化合物(成分(A))と、鉱油および合成油から選択される少なくとも一種の基油(成分(B))と、および必要に応じて、炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールから選択される少なくとも一種の摩擦調整剤(成分(C))とを混合することを含む。
成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)の具体的態様は、上記「1.金属加工油組成物」において記載したものと同様である。上述の成分(A)、成分(B)、成分(C)、および成分(D)は、いかなる方法で混合されてもよく、配合の順序およびその手法は限定されない。例えば、(B)基油に、(A)アミン化合物、および必要に応じて(C)摩擦調整剤、(D)その他添加剤を配合した後、公知の方法により撹拌して、基油(B)中に各成分を均一に分散させることが好ましい。
【0055】
3.金属加工方法
本発明の一形態は、金属加工油組成物を用いて金属加工が行われることを特徴とする、金属加工方法を提供する。一実施形態の金属加工方法は、上記に記載の金属加工油組成物の存在下、金属材料を加工することを含む。
金属材料は、特に制限されず、鉄、アルミニウム又はアルミニウム合金などの非鉄金属材料を含む。本発明の方法は、好ましくはアルミニウム又はアルミニウム合金の板あるいは箔を加工するのに好適に用いられる。
金属加工の種類も特に制限されないが、例えば、鍛造加工、押出し加工、圧延加工、引抜き加工、転造加工、プレス加工(せん断加工、打ち抜き加工、ファインブランキング加工、曲げ加工、深絞り加工、コルゲート(波型)加工)、へら絞り、高エネルギー高速度加工(液中放電成形、爆発成形、電磁力成形、高速鍛造加工)等の塑性加工などの金属加工に好適に用いることができる。
【0056】
特に、本発明の金属加工油組成物は、金属材料の表面に良好なフラックス付着性を付与することができるため、金属加工後の工程においてフラックスを付着させてろう付けする工程を含む金属部品の加工に用いることが好ましい。例えば、金属物品は、熱交換器用部品であり、本形態の方法は、熱交換器用部品の加工のために用いられる。一実施形態において、金属材料は、アルミニウム材又はアルミニウム合金材が好ましく、アルミニウム材又はアルミニウム合金材がより好ましい。好ましい一実施形態において、金属加工は、アルミニウムフィン材の打ち抜き加工またはアルミニウムフィン材のコルゲート加工である。
【0057】
4.ろう付け方法
本発明の一形態は、金属加工油組成物が付着した金属物品の表面にフラックスを接触させてろう付けすることを含む、ろう付け方法を提供する。本発明の金属加工油組成物は、金属加工後の金属物品の表面に良好なフラックス付着性を付与することができるため、フラックスを用いたろう付け工程に供される金属部品(例えば、熱交換器用部品)の加工に好適に用いられる。本発明の金属加工油組成物が付着した金属物品の表面はフラックス付着性に優れており、ろう付け工程におけるフラックスの脱落に起因した部品間の接合不良が抑制される。また、本発明の金属加工油組成物を用いた金属加工後にフラックスを用いたろう付け工程を行う場合、フラックス塗布前の金属部品の清浄処理を省略または簡素化することができ、製造効率に優れる。
ろう付けは例えば、金属物品の表面にフラックスを接触させた後、部品が組み立てられ、金属部品をろう付けするのに十分な高さの温度(例えば180~700℃)まで加熱されてろう付けされることにより行われる。
フラックスは特に制限されず、従来、アルミニウム材又はアルミニウム合金材などの金属材料のろう付けにおいて使用されているフラックス材の中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。フラックスは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
一実施形態は、フラックスは、アルミニウムろう付け用フラックスである。本発明の一実施形態は、金属加工油組成物が付着した金属物品の表面にアルミニウムろう付け用フラックスを接触させてろう付けすることを含む、ろう付け方法である。アルミニウムろう付け用フラックスとしては特に限定されず公知のものを使用することができる。例えば、アルミニウムのろう付に用いられるフッ化物系フラックスが挙げられる。具体的には、例えば、テトラフルオロアルミン酸カリウム(KAlF4)単独もしくはKAlF4とヘキサフルオロアルミン酸カリウム(K3AlF6)又はペンタフルオロアルミン酸カリウム(K2AlF5)との混合物などからなるフルオロアルミン酸カリウム;フッ化カリウム;フッ化アルミニウム;フッ化リチウム;フッ化ナトリウム;フルオロアルミン酸カリウム-セシウム錯体(非反応性セシウム系フラックス);フルオロアルミン酸セシウム(非反応性セシウム系フラックス);トリフルオロ亜鉛酸カリウム(KZnF3)やテトラフルオロ亜鉛酸カリウム(K2ZnF4)などのフルオロ亜鉛酸カリウム(反応性亜鉛置換フラックス);フルオロ亜鉛酸セシウム(反応性亜鉛置換フラックス)などが挙げられる。フッ化物系フラックスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルミニウムろう付け用フラックスは、市販品を利用してもよく、例えば、森田化学工業製のFL-7、FL-7A、FL-7SS;ソルベイ(Solvay)社製のノコロック(Nocolok、登録商標)フラックス(フルオロアルミン酸カリウム)、ノコロック(登録商標)Silフラックス(フルオロアルミン酸カリウムと金属ケイ素粉末との混合物)、ノコロック(登録商標)Csフラックス(セシウム系フラックスが挙げられる。
【0059】
一実施形態において、フラックスは、必要に応じてバインダーとともに、水や有機溶媒などの溶剤に分散されたフラックス液の形態で金属物品の表面に接触させられ得る。
溶剤は、水単独、水と有機溶剤との混合物が挙げられ、好ましくは水を単独で用いる。メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(MMB)などのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトンなどのケトン類;ジエチルエーテルなどのエーテル類;ナフテン系脂環式炭化水素類;エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類が挙げられる。
バインダーとしては、例えば、メタクリル酸-メタクリル酸アルキルエステル系の共重合体などの(メタ)アクリル系樹脂;ポリビニルアルコール;ポリエチレンオキサイド;水系ポリエステル樹脂;メチルセルロース;水系エポキシ樹脂などが挙げられる。
バインダーの配合量は、特に制限されないが、フラックス液全量基準で、例えば、0~15質量%であり、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.3~4質量%である。
フラックスの配合量は、特に制限されないが、フラックス液全量基準で、例えば、2~50質量%であり、好ましくは5~50質量%であり、より好ましくは10~40質量%である。
【0060】
フラックスを接触させる方法も特に制限されず、例えば、浸漬、シャワー、スプレーなどにより行うことができる。これらは、単独もしくは複数の方式を組み合わせて使用することができる。
ろう付け方法も特に制限されず、フラックスを用いた従来公知のろう付け方法、ろう付け条件を用いることができる。
【0061】
5.金属物品の製造方法
本発明の一形態は金属物品の製造方法を提供する。本形態の金属物品の製造方法は、下記工程(1)を有する。
工程(1):上記金属加工油組成物を用いて、金属材料に対して加工処理を行う、金属加工工程。
工程(1)における金属加工の具体的態様は、上記「3.金属加工方法」で記載したとおりである。
【0062】
本形態の金属物品の製造方法は、さらに下記工程(2)を有してもよい。
工程(2):工程(1)の後、前記金属材料の表面の一部に組成物が残存している状態で、前記金属材料の表面にフラックスを接触させて、ろう付け処理を行う、ろう付け工程。
工程(1)におけるろう付け処理の具体的態様は、上記「4.ろう付け方法」で記載したとおりである。
【0063】
一実施形態において、金属物品は、熱交換器用部品である。一実施形態において、金属材料は、アルミニウム材又はアルミニウム合金材が好ましく、アルミニウム材又はアルミニウム合金材がより好ましい。好ましい一実施形態において、金属加工は、アルミニウムフィン材の打ち抜き加工またはアルミニウムフィン材のコルゲート加工である。
【0064】
6.熱交換器の製造方法
本発明の一実施形態によれば、上記方法(金属加工方法および/もしくはろう付け方法、または金属物品の製造方法)を用いた熱交換器の製造方法が提供される。
【0065】
7.フラックス付着向上剤
本発明の他の一形態によれば、上記一般式(I)で表されるアミン化合物を含む、フラックス付着向上剤が提供される。当該アミン化合物は、基油などの溶液に配合して、金属材料などの材料表面に付着させることで、材料表面に良好なフラックス付着性を付与する、フラックス付着向上剤として用いることができる。アミン化合物の具体的態様は、上記「金属加工油組成物」に配合される「成分(A):アミン化合物」として記載したとおりである。
例えば、金属加工後に、フラックス付着向上剤を、金属部品の表面に付着させ、その後にフラックスを接触させてろう付け工程を行ってもよい。一実施形態において、フラックス付着向上剤は、上記(A)アミン化合物の基油溶液である。基油としては、上記「金属加工油組成物」に配合される「成分(B):基油」と同様のものを用いることができる。フラックス付着向上剤の基油中の濃度は例えば0.2~10質量%でありうる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を参照して詳述するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。本明細書において「室温」は通常約10℃から約35℃を示す。%は特記しない限り質量パーセントを示す。
実施例および比較例で用いた各原料の物性の測定は、以下に示す要領に従って求めたものである。
【0067】
(40℃動粘度)
JIS K2283:2000に準じて、40℃における動粘度を測定した。
【0068】
[実施例1~31、比較例1~2]
基油に下記表1~4に示す各成分を配合して、実施例および比較例の金属加工油組成物を調製した。
【0069】
[評価]
調製した金属加工油組成物を試験油として用いて、以下の評価を行った。結果を表1~4に示す。
(1)フラックス付着性
試験油をテストピースの両方の表面に十分量塗油後、攪拌中のフラックス溶液に約10秒間浸漬させた。フラックス溶液から取り出した後のテストピース表面のフラックス被覆率を測定した。試験は室温にて実施した。
テストピースとしては、A3003-H24(10cm×10cm×厚さ0.40mm)を使用した。フラックス溶液としては、フラックス(森田化学工業製「FL-7」)をフラックス濃度が20質量%となるようにイオン交換水に溶解させたものを使用した。
フラックス被覆率の測定結果に基づき、以下の基準で評価した。
A:被覆率が90%以上である
B:被覆率が60%以上90%未満である
C:被覆率が20%以上60%未満である
D:被覆率が20%未満である
【0070】
(2)摩擦係数
テストピースに試験油を塗布し、下記に示す往復動摩擦試験により摩擦係数を測定した。摩擦係数は、摺動30回目の値を用い、N=3の平均値を使用した。摩擦係数が小さいほど金属加工性(低摩擦性)に優れるといえる。 (往復動摩擦試験)
試験機:往復動摩擦試験機(株式会社オリエンテック社製)
テストピース:アルミニウム板 A1050-P(厚さ1.0mm)
ボール材:SUJ2(直径:1/2インチ)
試験条件 荷重: 1kg
速度: 4mm/s
摺動距離: 15mm
摺動回数: 30回
温度: 35℃
N数: 3
(3)アルミステイン性
アルミカップ(A1050)の上に試験油を約30mg計り取り、280℃に昇温した恒温槽で5分保持し、試験油蒸発後のアルミカップ表面におけるステインの有無を、以下の基準で評価した。
A:ステインなし
B:ステインあり
【0071】
【0072】
表1~4中の「摩擦係数」の上段は、実施例および比較例の各試験油の摩擦係数の測定値(N=3の平均値)を示し、下段は、比較例1の試験油の摩擦係数の値(100%)を基準とした相対値(%)を示す。
表1~表4で使用した成分は、以下のとおりである。
1.成分(A):アミン化合物
a1:ポリオキシエチレンラウリルアミン(HLB 6.3)
a2:ポリオキシエチレンラウリルアミン(HLB 9.8)
a3:ポリオキシエチレンラウリルアミン(HLB 3.8)
a4:ポリオキシエチレンラウリルアミン(HLB 6.4)
a5:ポリオキシエチレン(ヤシ)アルキルアミン(HLB 6.1)
a6:ポリオキシエチレン(牛脂)アルキルアミン(HLB 6.1)
a7:ポリオキシエチレンステアリルアミン(HLB 5.0)
a8:ポリオキシエチレンステアリルアミン(HLB 8.0)
a9:ポリオキシエチレンオレイルアミン(HLB 9.0)
a10:ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン(HLB 6.0)
a11:オレイルアミン(HLB 9.3)
a12:ジメチルステアリルアミン
以下にアミン化合物の構造を示す。
2.成分(B):基油
b1:イソパラフィン系炭化水素(40℃動粘度: 2.5mm
2/s)
3.成分(C):摩擦調整剤
c1:オレイルアルコール
c2:セラキルアルコールとオレイルアルコールとの混合物
4.成分(D)
d1:酸化防止剤 DBPC(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)
【0073】
表1~4より、一般式(I)で表されるアミン化合物を含む実施例の金属加工油組成物はフラックス付着性に優れることが確認された。
一方、アミン化合物を含まない比較例1および比較例2の金属加工油組成物はフラックス付着性に劣っていた。
表1~4より、一般式(I)で表されるアミン化合物を含む実施例では、ステインが観察されず、オイルステイン性に優れることが確認された。一方、一般式(I)で表されるアミン化合物とは異なるアミン化合物を用いた比較例3および比較例4では、ステインが発生し、オイルステイン性に劣っていた。
【0074】
アミン化合物の含有量が3質量%以下である実施例1~4(表1)は摩擦係数が低く、金属加工性(低摩擦性)に優れることが確認された。
炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールの両方を含む実施例6~11(表2)および実施例22~31(表4)は金属加工性(低摩擦性)に一層優れていた。表2および表4から、炭素数6~30のアルコールおよびアルキルグリセロールの両方を含む実施例6~11(表2)および実施例22~31(表4)は金属加工性(低摩擦性)に優れていた。
表3および表4から、HLBが8以下のアミン化合物を配合することにより、フラックス付着性が一層向上することが確認された(実施例12,14~19,21と実施例13,20との比較;実施例22,24~29,31と実施例23,30との比較)。
モノアミン(一般式(I)においてp=0の化合物)を配合した場合には、同等のHLBを有するジアミン(一般式(I)においてp=1の化合物)を配合した場合と比較して、フラックス付着性が一層向上した(実施例16,17と実施例21との比較;実施例26,27と実施例31との比較)。
【0075】
本発明の範囲は以上の説明に拘束されることはなく、上記例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書に記載した全ての文献及び刊行物は、その目的にかかわらず参照によりその全体を本明細書に組み込むものとする。また、本明細書は、本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願である特願2019-035961号(2019年2月28日出願)の特許請求の範囲、明細書の開示内容を包含する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の金属加工油組成物は、金属加工後の金属物品の表面に良好なフラックス付着性を付与することができることから、フラックスを用いたろう付け工程に供される金属部品の加工に好適に用いられる。