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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】金属加工油
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20240206BHJP
   C10M 129/76 20060101ALN20240206BHJP
   C10M 137/04 20060101ALN20240206BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240206BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20240206BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240206BHJP
【FI】
C10M141/10
C10M129/76
C10M137/04
C10N40:20 Z
C10N40:24 A
C10N30:00 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021527720
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020024963
(87)【国際公開番号】W WO2020262518
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2019121032
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡野 知晃
(72)【発明者】
【氏名】谷野 順英
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-192677(JP,A)
【文献】特開2002-146380(JP,A)
【文献】特開平07-018284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)、
ヒドロキシ不飽和脂肪酸の重合体(B)、
リン酸エステル、亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩から選ばれる1種以上のリン系化合物(C)を含む金属加工油であって、
成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、9.0以下であり、
成分(C)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、1.5質量%以下であり、
前記金属加工油の40℃における動粘度が、80~300mm /sである、
金属加工油。
【請求項2】
前記金属加工油が、油剤のまま用いられる金属加工油である、請求項1に記載の金属加工油。
【請求項3】
前記金属加工油の40℃における動粘度が、100~200mm/sである、請求項1又は2に記載の金属加工油。
【請求項4】
成分(C)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、0.01質量%以上1.5質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項5】
成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、0.1以上9.0以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項6】
成分(B)が、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の脱水重縮合物である縮合脂肪酸(B1)、及び、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の脱水重縮合物のアルコール性水酸基とモノカルボン酸とを脱水縮合した縮合脂肪酸(B2)から選ばれる1種以上を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項7】
成分(B)が、リシノール酸の脱水重縮合物である縮合脂肪酸(B11)、及び、リシノール酸の脱水重縮合物のアルコール性水酸基とモノカルボン酸とを脱水縮合した縮合脂肪酸(B21)から選ばれる1種以上を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項8】
成分(C)が、酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルから選ばれる1種以上を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項9】
水の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、1.0質量%未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項10】
前記金属加工油が、水で希釈しないで用いられる金属加工油である、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項11】
前記金属加工油は、界面活性剤を0.5~15重量%添加して調製された組成物を除く、請求項1~10のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項12】
アルミ又はアルミ合金の加工に用いられる、請求項1~11のいずれか一項に記載の金属加工油。
【請求項13】
被加工材であるアルミ又はアルミ合金の加工を行う際に、請求項1~12のいずれか一項に記載の金属加工油を前記被加工材に接触させて適用する、金属加工油の使用。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載の金属加工油を被加工材であるアルミ又はアルミ合金に接触させて前記被加工材の加工を行う工程を含む、金属加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油に関する。
【背景技術】
【0002】
金属又は金属合金からなる金属材に対して、絞り加工、打抜き加工、引抜き加工、冷間鍛造加工等の塑性加工を行う際に、塑性加工用の金属加工油が用いられる。塑性加工用の金属加工油には、それぞれの塑性加工に適した、優れた加工性が要求される。このような加工性の要求に対応し得る金属加工油が検討されている。
例えば、特許文献1には、アルミニウムやその合金等の非鉄金属を深絞り加工する際の加工性に優れた金属加工用潤滑油組成物の提供を目的として、特定の動粘度の基油と、所定の構造を有するグリセリン誘導体を0.01~10質量%含むことを特徴とする金属加工用潤滑油組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-173957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況において、新規な金属加工油が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、基油と共に、特定の重合体及びリン系化合物を、それぞれ所定の含有量で含有する金属加工油を提供する。
即ち、本発明は、下記[1]~[12]を提供する。
[1]基油(A)、
ヒドロキシ不飽和脂肪酸の重合体(B)、
リン酸エステル、亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩から選ばれる1種以上のリン系化合物(C)を含む金属加工油であって、
成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、9.0以下であり、
成分(C)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、5.0質量%未満である、
金属加工油。
[2]前記金属加工油の40℃における動粘度が、80~300mm/sである、上記[1]に記載の金属加工油。
[3]前記金属加工油の40℃における動粘度が、100~200mm/sである、上記[1]に記載の金属加工油。
[4]成分(C)の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、0.01質量%以上5.0質量%未満である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[5]成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、0.1以上9.0以下である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[6]成分(B)が、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の脱水重縮合物である縮合脂肪酸(B1)、及び、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の脱水重縮合物のアルコール性水酸基とモノカルボン酸との脱水縮合した縮合脂肪酸(B2)から選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[7]成分(B)が、リシノール酸の脱水重縮合物である縮合脂肪酸(B11)、及び、リシノール酸の脱水重縮合物のアルコール性水酸基とモノカルボン酸とを脱水縮合した縮合脂肪酸(B21)から選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[8]成分(C)が、酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルから選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[9]水の含有量が、前記金属加工油の全量基準で、1.0質量%未満である、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[10]アルミ又はアルミ合金の加工に用いられる、上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の金属加工油。
[11]被加工材であるアルミ又はアルミ合金の加工を行う際に、上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の金属加工油を前記被加工材に接触させて適用する、金属加工油の使用。
[12]上記[1]~[10]のいずれか一項に記載の金属加工油を被加工材であるアルミ又はアルミ合金に接触させて前記被加工材の加工を行う工程を含む、金属加工方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の金属加工油は、金属材に対する加工性及び洗浄性に優れており、特に、金属材の絞り加工に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
【0008】
〔金属加工油の構成〕
本発明の金属加工油は、基油(A)、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の重合体(B)、リン酸エステル、亜リン酸エステル、及びこれらのアミン塩から選ばれる1種以上のリン系化合物(C)を含み、下記要件(I)及び(II)を満たす。
・要件(I):成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、9.0以下である。
・要件(II):成分(C)の含有量が、前記金属加工油の全量(100質量%)基準で、5.0質量%未満である。
【0009】
金属材の塑性加工に用いられる金属加工油には、優れた加工性が求められており、特に実機での良好な加工性が求められる。しかしながら、実機で連続して金属材を加工して加工品を製造する過程で、従来の金属加工油を用いた場合に、加工品に表面疵が見られる場合があり、歩留まりの低下が問題となることがある。また、加工後の加工品に対しては、表面に付着している油を除去するために洗浄工程に経るが、用いる金属加工油によっては油を除去し難く、洗浄性に問題を有する場合もある。
このような問題に対して、本発明では、上述の要件(I)及び(II)を満たすように成分(B)及び(C)の含有量を調製した金属加工油とすることで、上記問題の解決を図っている。
【0010】
要件(I)を満たす金属加工油とすることで、特に、実機での加工性が向上し、上述のような実機で連続して加工品を製造する過程で、加工品に生じ得る表面疵を効果的に抑制することができる。その結果、加工品の歩留まりの高め、生産性の向上に寄与する。
一方で、要件(II)を満たす金属加工油とすることで、洗浄性が向上し、加工後に加工品に付着している油を容易に除去することができるため、生産性の向上に寄与する。
【0011】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕は、質量比で、上記要件(I)のとおり、9.0以下であるが、実機での加工性をより向上させた金属加工油とする観点から、好ましくは8.0以下、より好ましくは7.5以下、更に好ましくは7.0以下、より更に好ましくは6.5以下、特に好ましくは6.0以下である。
また、洗浄性が良好な金属加工油とする観点から、成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕は、質量比で、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.5以上、更に好ましくは1.0以上、より更に好ましくは1.5以上、特に好ましくは2.1以上、特により好ましくは2.5以上である。
つまり、以上の観点から、成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕は、質量比で、0.1~9.0、0.5~9.0、1.0~9.0、1.5~9.0、2.1~9.0、2.5~9.0、0.1~8.0、0.5~8.0、1.0~8.0、1.5~8.0、2.1~8.0、2.5~8.0、0.1~7.5、0.5~7.5、1.0~7.5、1.5~7.5、2.1~7.5、2.5~7.5、0.1~7.0、0.5~7.0、1.0~7.0、1.5~7.0、2.1~7.0、2.5~7.0、0.1~6.5、0.5~6.5、1.0~6.5、1.5~6.5、2.1~6.5、2.5~6.5、0.1~6.0、0.5~6.0、1.0~6.0、1.5~6.0、2.1~6.0、又は、2.5~6.0としてもよい。
【0012】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(C)の含有量は、前記金属加工油の全量(100質量%)基準で、上記要件(II)のとおり、5.0質量%未満であるが、洗浄性をより向上させた金属加工油とする観点から、好ましくは4.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下、より更に好ましくは1.0質量%以下、特に好ましくは0.9質量%以下である。
また、加工性が良好な金属加工油とする観点から、成分(C)の含有量は、前記金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.4質量%以上である。
つまり、以上の観点から、成分(C)の含有量は、前記金属加工油の全量(100質量%)基準で、0.01質量%以上5.0質量%未満、0.05質量%以上5.0質量%未満、0.1質量%以上5.0質量%未満、0.2質量%以上5.0質量%未満、0.4質量%以上5.0質量%未満、0.01~4.0質量%、0.05~4.0質量%、0.1~4.0質量%、0.2~4.0質量%、0.4~4.0質量%、0.01~3.0質量%、0.05~3.0質量%、0.1~3.0質量%、0.2~3.0質量%、0.4~3.0質量%、0.01~2.0質量%、0.05~2.0質量%、0.1~2.0質量%、0.2~2.0質量%、0.4~2.0質量%、0.01~1.5質量%、0.05~1.5質量%、0.1~1.5質量%、0.2~1.5質量%、0.4~1.5質量%、0.01~1.0質量%、0.05~1.0質量%、0.1~1.0質量%、0.2~1.0質量%、0.4~1.0質量%、0.01~0.9質量%、0.05~0.9質量%、0.1~0.9質量%、0.2~0.9質量%、又は、0.4~0.9質量%としてもよい。
【0013】
なお、本発明の一態様の金属加工油は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記成分(A)~(C)以外の他の成分を含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の金属加工油において、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、通常50~100質量%、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは85~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
以下、本発明の一態様の金属加工油に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0014】
<成分(A):基油>
本発明の金属加工油は、基油(A)を含有する。
本発明の一態様の金属加工油において、成分(A)の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは45~99.9質量%、より好ましくは55~99.5質量%、更に好ましくは65~99.0質量%、より更に好ましくは75~98.5質量%、特に好ましくは83~98.0質量%である。
【0015】
本発明の一態様で用いる基油(A)としては、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
なお、本発明の一態様で用いる鉱油としては、パラフィン系原油、中間基系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留又は減圧蒸留して得られる蒸留塔の塔底に蓄積する残渣油を、上述の精製処理を施して得られる、高粘度の鉱油であるブライトストックを用いてもよい。
【0016】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、又はα-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0017】
本発明の一態様で用いる基油(A)の40℃における動粘度は、加工性に優れた金属加工油とする観点から、好ましくは80~300mm/s、より好ましくは80~280mm/s、更に好ましくは80~260mm/sである。
なお、本発明の一態様の金属加工油において、当該金属加工油を用いる実機の種類に応じて、基油(A)の40℃における動粘度は、100~250mm/s、100~220mm/s、又は、100~200mm/sとしてもよい。
【0018】
本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数としては、好ましくは60以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは80以上、より更に好ましくは90以上である。
【0019】
なお、本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定又は算出した値を意味する。
また、本発明の一態様において、基油(A)は、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
特に、基油(A)の動粘度及び粘度指数を上記範囲に調整する観点から、基油(A)は、ブライトストックを含むことが好ましい。
【0020】
<成分(B):ヒドロキシ不飽和脂肪酸の重合体>
本発明の金属加工油は、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の重合体(B)を含有する。
成分(B)を含有することで、加工性を向上させた金属加工油とすることができる。
【0021】
本発明の一態様の金属加工油において、成分(B)の含有量は、上述の要件(I)を満たすように調製されていればよいが、加工性及び洗浄性をより向上させた金属加工油とする観点から、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10.0質量%、より好ましくは0.1~8.0質量%、更に好ましくは0.3~6.5質量%、より更に好ましくは0.5~5.0質量%、特に好ましくは1.0~4.0質量%である。
【0022】
本発明の一態様で用いるヒドロキシ不飽和脂肪酸の重合体(B)としては、例えば、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の脱水重縮合物である縮合脂肪酸(B1)、及び、ヒドロキシ不飽和脂肪酸の脱水重縮合物のアルコール性水酸基とモノカルボン酸とを脱水縮合した縮合脂肪酸(B2)が挙げられる。
前記ヒドロキシ不飽和脂肪酸としては、アルコール性水酸基、カルボキシ基及び二重結合をそれぞれ少なくとも1つ有する、炭素数14~20のヒドロキシ不飽和脂肪酸が挙げられるが、リシノール酸(12-ヒドロキシオクタデカ-9-エノン酸)が好ましい。
【0023】
また、前記モノカルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸であってもよく、芳香族モノカルボン酸であってもよいが、不快臭の発生及び被加工材である金属材の腐食を抑制する観点から、炭素数4以上の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
当該脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、上記観点から、好ましくは4以上であるが、好ましくは4~30、より好ましくは6~26、更に好ましくは10~24、より更に好ましくは12~20である。
【0024】
当該脂肪族モノカルボン酸は、飽和脂肪族モノカルボン酸であってもよく、不飽和脂肪族モノカルボン酸であってもよい。
飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、及びリグノセリン酸等が挙げられる。
不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、ステアリドン酸、エイコサペンタエン酸、及びドコサヘキサエン酸等が挙げられる。
【0025】
また、前記芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
【0026】
なお、成分(B)としては、縮合脂肪酸(B1)又は縮合脂肪酸(B2)の一方のみを用いてもよく、縮合脂肪酸(B1)及び(B2)を併用してもよい。また、縮合脂肪酸(B1)及び縮合脂肪酸(B2)は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
成分(B)の平均重合度としては、好ましくは2.0~20.0、より好ましくは3.0~16.0、更に好ましくは3.5~12.0、より更に好ましくは4.0~10.0、特に好ましくは4.5~7.5である。
【0028】
本発明の一態様の金属加工油において、加工性をより向上させた金属加工油とする観点から、成分(B)が、リシノール酸の脱水重縮合物である縮合脂肪酸(B11)、及び、リシノール酸の脱水重縮合物のアルコール性水酸基とモノカルボン酸との脱水縮合した縮合脂肪酸(B21)から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。成分(B21)を構成するモノカルボン酸としては、成分(B2)を構成するモノカルボン酸と同じものが挙げられる。
なお、成分(B)中の縮合脂肪酸(B11)及び(B21)の合計含有割合としては、金属加工油に含まれる成分(B)の全量(100質量%)に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは60~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
【0029】
成分(B)の40℃における動粘度は、好ましくは100~1500mm/s、より好ましくは200~1200mm/s、更に好ましくは300~1000mm/s、より更に好ましくは600~800mm/sである。
【0030】
成分(B)の酸価は、好ましくは10~110mgKOH/g、より好ましくは20~100mgKOH/g、更に好ましくは30~90mgKOH/gである。
成分(B)の水酸基価は、好ましくは0~80mgKOH/g、より好ましくは0~60mgKOH/g、更に好ましくは0~40mgKOH/gである。
成分(B)の酸価と水酸基価との比〔酸価/水酸基価〕は、好ましくは1.0~15、より好ましくは1.1~10、更に好ましくは1.2~5である。
成分(B)のけん化価は、好ましくは180~220mgKOH/g、より好ましくは190~210mgKOH/g、更に好ましくは195~205mgKOH/gである。
なお、本明細書において、酸価は、JIS K2501:2003(指示薬法)に準拠して測定された値であり、水酸基価は、JIS K0070:1992に準拠して測定された値であり、けん化価は、JIS K2503:1996に準拠して測定された値を意味する。
【0031】
<成分(C):リン系化合物>
本発明の金属加工油は、リン酸エステル、亜リン酸エステル、及びこれらのアミン塩から選ばれる1種以上のリン系化合物(C)を、上記要件(I)及び(II)を満たすようにして含有する。
成分(C)を含有することで、加工性、特に実機での加工性を向上させた金属加工油とすることができる。
【0032】
本発明の一態様において、成分(C)として用いるリン酸エステルは、中性リン酸エステルであってもよく、酸性リン酸エステルであってもよい。また、成分(C)として用いる亜リン酸エステルは、中性亜リン酸エステルであってもよく、酸性亜リン酸エステルであってもよい。
【0033】
中性リン酸エステルとしては、例えば、下記一般式(c-11)で表される化合物が挙げられ、酸性リン酸エステルとしては、例えば、下記一般式(c-12)又は(c-13)で表される化合物が挙げられる。
また、中性亜リン酸エステルとしては、例えば、下記一般式(c-21)で表される化合物が挙げられ、酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、下記一般式(c-22)又は(c-23)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化1】
【0035】
上記一般式中、Rは、それぞれ独立に、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、又は、炭素数1~4のアルキル基で置換されてもよい環形成炭素数6~24のアリール基である。
なお、各式において、Rが複数存在する場合、複数のRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0036】
Rとして選択し得る、炭素数1~30のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基)、ペンチル基、ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコセシル基等が挙げられる。
当該アルキル基は、直鎖アルキル基であってもよく、分岐鎖アルキル基であってもよい。
また、当該アルキル基の炭素数としては、好ましくは3~26、より好ましくは6~24、更に好ましくは8~20である。
【0037】
Rとして選択し得る、炭素数2~30のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ペンタジエニル基、ヘキセニル基、ヘキサジエニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、オクタジエニル基、2-エチルヘキセニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基(オレイル基)、ノナデセニル基、エイコセニル基等が挙げられる。
当該アルケニル基は、直鎖アルケニル基であってもよく、分岐鎖アルケニル基であってもよい。
また、当該アルケニル基の炭素数としては、好ましくは3~26、より好ましくは6~24、更に好ましくは8~20である。
【0038】
Rとして選択し得る、環形成炭素数6~24のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フェニルナフチル基等が挙げられ、フェニル基が好ましい。
当該アリール基の環形成炭素数としては、好ましくは6~18、より好ましくは6~15、更に好ましくは6~12である。
なお、「環形成炭素数」とは、原子が環状に結合した構造の化合物(例えば、単環化合物、縮合環化合物、架橋化合物、炭素環化合物、複素環化合物)の当該環自体を構成する原子のうちの炭素原子の数を意味する。つまり、当該環が置換基によって置換される場合、置換基に含まれる炭素は環形成炭素数には含まない。
【0039】

また、Rとして選択し得る、「炭素数1~4のアルキル基で置換されたアリール基」としては、上述のアリール基の環形成炭素原子と結合している水素原子の少なくとも1つが、炭素数1~4のアルキル基(メチル基、エチル基、上述のプロピル基、上述のブチル基)によって置換された基が挙げられる。
【0040】
具体的な中性リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、ベンジルジフェニルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、エチルジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、トリデシルホスフェート、トリラウリルホスフェート、トリミリスチルホスフェート、トリパルミチルホスフェート、トリステアリルホスフェート、及びトリオレイルホスフェートが挙げられる。
【0041】
具体的な酸性リン酸エステルとしては、例えば、モノエチルアシッドホスフェート、モノn-プロピルアシッドホスフェート、モノ2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、モノブチルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、モノテトラコシルアシッドホスフェート、モノイソデシルアシッドホスフェート、モノラウリルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノステアリルアシッドホスフェート、モノイソステアリルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジn-プロピルアシッドホスフェート、ジn-ブチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェート、ジテトラコシルアシッドホスフェート、ジイソデシルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、及びジイソステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0042】
具体的な中性亜リン酸エステルとしては、例えば、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、及びトリオレイルホスファイト等が挙げられる。
【0043】
具体的な酸性亜リン酸エステルとしては、例えば、モノエチルハイドロジェンホスファイト、モノn-プロピルハイドロジェンホスファイト、モノn-ブチルハイドロジェンホスファイト、モノ-2-エチルヘキシルハイドロジェンホスファイト、モノラウリルハイドロゲンホスファイト、モノオレイルハイドロゲンホスファイト、モノステアリルハイドロゲンホスファイト、モノフェニルハイドロゲンホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジヘキシルハイドロジェンホスファイト、ジヘプチルハイドロジェンホスファイト、ジn-オクチルハイドロジェンホスファイト、ジ-2-エチルヘキシルハイドロジェンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、ジステアリルハイドロゲンホスファイト、及びジフェニルハイドロゲンホスファイト等が挙げられる。
【0044】
また、成分(C)として用いるリン酸エステルは、酸性リン酸エステルのアミン塩であってもよい。同様に、成分(C)として用いる亜リン酸エステルは、酸性亜リン酸エステルのアミン塩であってもよい。
これらのアミン塩を形成するアミンとしては、例えば、下記一般式(c-3)で表される化合物が挙げられる。当該アミンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
【化2】
【0046】
上記一般式(c-3)中、qは、1~3の整数を示し、1であることが好ましい。
は、それぞれ独立に、炭素数6~18のアルキル基、炭素数6~18のアルケニル基、炭素数1~4のアルキル基で置換されてもよい環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基、又は炭素数6~18のヒドロキシアルキル基であり、炭素数6~18のアルキル基が好ましい。
なお、Rが複数存在する場合、複数のRは、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
【0047】
として選択し得る、上記アルキル基、上記アルケニル基、及び上記アリール基は、上述の式(c-11)等中のRとして選択し得るアルキル基、アルケニル基、及びアリール基のうち、上記規定の炭素数である基と同じものが挙げられる。
また、上記アリールアルキル基としては、Rとして選択し得るアルキル基が有する1つ以上の水素原子が、アリール基(フェニル基やナフチル基等)に置換された基が挙げられ、具体的には、フェニルメチル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
さらに、上記ヒドロキシアルキル基としては、上述の式(c-11)等中の又は(c-2)中のRとして選択し得るアルキル基が有する1つ以上の水素原子が、ヒドロキシ基に置換された基が挙げられ、具体的には、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシトリデシル基等が挙げられる。
【0048】
本発明の一態様の金属加工油において、加工性、特に実機での加工性を向上させた金属加工油とする観点から、成分(C)が、酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルから選ばれる1種以上を含むことが好ましく、少なくとも酸性リン酸エステルを含むことがより好ましい。
【0049】
なお、成分(C)中の酸性リン酸エステル及び酸性亜リン酸エステルの合計含有割合としては、金属加工油に含まれる成分(C)の全量(100質量%)に対して、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
【0050】
また、成分(C)中の酸性リン酸エステルの含有割合としては、金属加工油に含まれる成分(C)の全量(100質量%)に対して、好ましくは20~100質量%、より好ましくは40~100質量%、更に好ましくは60~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
【0051】
また、本発明の一態様の金属加工油において、加工性、特に実機での加工性を向上させた金属加工油とする観点から、成分(C)が、アルケニル基を有する酸性リン酸エステル及びアルケニル基を有する酸性亜リン酸エステルから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
当該アルケニル基としては、上述のとおりであるが、炭素数2~30のアルケニル基が好ましく、炭素数3~26のアルケニル基がより好ましく、炭素数6~24のアルケニル基が更に好ましく、炭素数8~20のアルケニル基がより更に好ましい。
【0052】
成分(C)中の酸アルケニル基を有する酸性リン酸エステル及びアルケニル基を有する酸性亜リン酸エステルの合計含有割合としては、金属加工油に含まれる成分(C)の全量(100質量%)に対して、好ましくは30~100質量%、より好ましくは50~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%、特に好ましくは90~100質量%である。
【0053】
<他の成分>
本発明の一態様の金属加工油は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分(A)~(C)以外の他の成分をさらに含有してもよい。
そのような他の成分としては、例えば、酸化防止剤、成分(C)以外の極圧剤、油性向上剤、摩耗防止剤、防錆剤、腐食防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、帯電防止剤、脱脂剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの他の成分のそれぞれの含有量は、添加剤の種類に応じて適宜設定されるが、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.005~5質量%、更に好ましくは0.001~2質量%である。
【0054】
これらの中でも、本発明の一態様の金属加工油は、さらに酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2、6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;等が挙げられる。
本発明の一態様の金属加工油において、酸化防止剤の含有量は、当該金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.05~5質量%、更に好ましくは0.1~2質量%である。
【0055】
<金属加工油の製造方法>
本発明の一態様の金属加工油の製造方法としては、特に制限はなく、成分(A)~(C)、及び、必要に応じて他の成分を配合する工程を有する、方法であることが好ましい。各成分の配合の順序は適宜設定することができる。
【0056】
<金属加工油の各種性状>
本発明の一態様の金属加工油の40℃における動粘度は、加工性に優れた金属加工油とする観点から、好ましくは80~300mm/s、より好ましくは80~280mm/s、更に好ましくは80~260mm/sであり、また、当該金属加工油を用いる実機の種類に応じて、100~250mm/s、100~220mm/s、又は100~200mm/sであってもよい。
【0057】
本発明の一態様の金属加工油の粘度指数は、好ましくは60以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは80以上、より更に好ましくは90以上である。
【0058】
本発明の一態様の金属加工油は、油剤のまま用いられることが好ましく、その点で、水で希釈して用いる水溶性金属加工油剤とは区別される。
そのため、本発明の一態様の金属加工油において、水の含有量は、安定性及び加工対象である金属材の腐食を抑制する観点から、少ないほど好ましく、具体的には、前記金属加工油の全量(100質量%)基準で、好ましくは1.0質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満、より更に好ましくは0.001質量%未満である。
【0059】
本発明の一態様の金属加工油について、後述の実施例の方法に準拠した平面摺動試験によって測定された引抜き荷重の値は、好ましくは70kgf以下、より好ましくは68.5kgf以下、更に好ましくは65kgf以下である。
【0060】
また、本発明の一態様の金属加工油について、後述の実施例の方法に準拠した往復動摩擦試験によって測定された摩擦係数の値は、好ましくは0.070未満、より好ましくは0.068以下、より好ましくは0.065以下、更に好ましくは0.062以下、より更に好ましくは0.060以下、特に好ましくは0.058以下である。
【0061】
〔金属加工油の用途、金属加工方法〕
本発明の一態様の金属加工油は、金属材に対する加工性及び洗浄性に優れている。そのため、当該金属加工油は、金属材の塑性加工に適している。
本発明の一態様の金属加工油を用いて加工する金属材としては、特に制限は無いが、例えば、鋼、ステンレス鋼、合金鋼、表面処理鋼等の鉄合金や、アルミ、アルミ合金、銅、チタン、チタン合金、ニッケル基合金、ニオブ合金、タンタル合金、モリブデン合金、タングステン合金等の非鉄合金が挙げられる。
これらの中でも、本発明の一態様の金属加工油は、アルミ又はアルミ合金の加工用に用いられることが好ましい。
【0062】
本発明の一態様の金属加工油は、上述の金属材に対する塑性加工に用いられるが、具体的には、絞り加工、打抜き加工、引抜き加工、冷間鍛造加工等に好適に用いることができ、特に、絞り加工に用いられることがより好ましい。
【0063】
そのため、本発明は、次の態様も提供する。
〔1〕被加工材であるアルミ又はアルミ合金の加工を行う際に、上述の本発明の一態様の金属加工油を前記被加工材に接触させて適用する、金属加工油の使用。
〔2〕上述の本発明の一態様の金属加工油を被加工材であるアルミ又はアルミ合金に接触させて前記被加工材の加工を行う工程を含む、金属加工方法。
【0064】
上記〔1〕及び〔2〕に記載の金属材、及び、金属加工油の詳細は、上述のとおりであり、特に、絞り加工に適している。
なお、上記〔1〕の使用、及び、上記〔2〕の金属加工方法において、前記金属加工油は、特に、被加工材の絞り加工に用いられることが好ましい。
【実施例
【0065】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、各種物性値は、以下の方法に準拠して測定又は算出した。
(1)動粘度、粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)酸価
JIS K2501:2003(指示薬法)に準拠して測定した。
(3)水酸基価
JIS K0070:1992に準拠して測定した。
(4)けん化価
JIS K2503:1996に準拠して測定した。
【0066】
実施例1~7、比較例1~5
表1及び表2に示す種類及び配合量にて、成分(A)~(C)及び他の添加剤を配合して、金属加工油をそれぞれ調製した。
なお、これらの金属加工油の調製に使用した各成分の詳細は以下のとおりである。
[成分(A):基油]
・500N基油:40℃動粘度=88.65mm/s、粘度指数=96のパラフィン系鉱油。
・ブライトストック:40℃動粘度=498.0mm/s、粘度指数=96のブライトストック。
[成分(B):縮合脂肪酸]
・縮合脂肪酸(i):リシノール酸を窒素気流下、200℃で加熱脱水重縮合することにより得られた縮合脂肪酸。平均重合度=5.5、酸価=31.6mgKOH/g、水酸基価=9.4mgKOH/g、酸価/水酸基価=9.4、けん化価=196mgKOH/g、40℃動粘度=726.1mm/s。
・縮合脂肪酸(ii):リシノール酸を窒素気流下、200℃で加熱脱水重縮合することにより得られた縮合脂肪酸。平均重合度=3.9、酸価=34.0mgKOH/g、水酸基価=28.0mgKOH/g、酸価/水酸基価=1.2、けん化価=198mgKOH/g、40℃動粘度=730.0mm/s。
[成分(C):リン系化合物]
・酸性リン酸エステル:オレイルアシッドホスフェート(モノオレイルアシッドホスフェートとジオレイルアシッドホスフェートの混合物)
・亜リン酸エステル:ジオレイルハイドロゲンホスファイト
[他の添加剤]
・酸化防止剤:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
・アルコール:グリセリンモノオレイルエーテル/オレイルアルコール=1/1(質量比)の混合物。
【0067】
調製した金属加工油について、40℃及び100℃における動粘度及び粘度指数を測定及び算出すると共に、以下に示す各種試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0068】
(1)平面摺動試験
実施例及び比較例で調製した金属加工油を用いて、平面摺動試験機にて、下記の測定条件で、被加工材を2つの平面のダイで両面から挟んで押さえながら、被加工材を引抜き、その引抜き荷重(単位:kgf)を測定した。当該引抜き荷重の値が小さいほど、加工性に優れた金属加工油であるといえる。なお、本実施例においては、当該引抜き荷重の値が70kgf以下である場合に合格と判断した。
(試験条件)
・被加工材:材質A3003-H24、形状2mm×15mm×300mm
・平面ダイ:材質SKD-11、硬度HRC58、形状2R
・押え荷重:200kgf
・引抜き速度:4mm/s
・試料油量:潤沢に塗布
【0069】
(2)往復動摩擦試験
実施例及び比較例で調製した金属加工油を用いて、往復動摩擦摩耗試験機(株式会社A&D製、製品名「AFT-15M-A」)にて、下記の測定条件で、摺動20回目の摩擦係数を測定した。当該摩擦係数の値が小さいほど、加工性に優れた金属加工油であるといえる。なお、本実施例においては、当該摩擦係数の値が0.070未満である場合に合格と判断した。
(試験条件)
・摺動材:A3003-H14
・球材:SUJ2、直径1/2インチ
・荷重:2kgf
・摺動距離:20mm
・摺動速度:4mm/s
・摺動回数:20回
・試料油量:潤沢に塗布
【0070】
(3)実機での加工試験
実施例及び比較例で調製した金属加工油を用いて、300tプレス機(YANGLI製)にてA3003系アルミ材料の連続深絞り加工(コイル材から加工、加工後のサイズ100×200×30mm)を行い、連続して最大100個の製品を製造した。連続して得られる各製品については、表面疵の有無を確認し、表面疵が見られた製品が発見されたところで、製品の製造を中止した。そして、表面疵が見られた製品が発見されるまでに製造した製品の個数に基づき、以下の基準で、金属加工油の実機での加工性を評価した。なお、本実施例においては、Aの評価である場合に合格と判断した。
(実機での加工性の評価基準)
・A:100個の製品の製造過程で、表面疵が見られた製品は発見されなかった。
・F:100個の製品の製造過程の途中で表面疵が見られた製品が発見されたため、製造を中止した。
【0071】
(4)洗浄性試験
実施例及び比較例で調製した金属加工油に、A3003-H24の試験板を1週間浸漬した後、当該金属加工油から取り出し、試験板の油切りを1週間行った。油切り後の試験板を、室温(25℃)にて、脱脂液であるアルカリ洗浄液(pH=12~13)中に振動を与えながら90秒間浸漬し、次いで、引き上げた試験板を、水中に90秒間浸漬して水洗した後、試験板を水中から引き上げ、試験板の表面において、油のはじきが生じている面積(油はじき面積)を確認した。そして、油はじき面積の値から、以下の基準にて、金属加工油の洗浄性を評価した。なお、本実施例においては、A又はBの評価である場合に合格と判断した。
(洗浄性の評価基準)
・A:油はじき面積が10%未満である。
・B:油はじき面積が10%以上20%未満である。
・C:油はじき面積が20%以上である。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
表1より、実施例1~7で調製した金属加工油は、金属材に対する加工性及び洗浄性に優れており、実機における加工性も良好であった。
一方で、表2より、比較例1~4で調製した金属加工油は、特に実機における加工性が劣る結果となった。また、比較例5で調製した金属加工油は、加工性は良好であるものの、洗浄性が劣る結果となった。