IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェンの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-05
(45)【発行日】2024-02-14
(54)【発明の名称】水性ポリマー分散液及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20240206BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C09K3/10 D
C09K3/10 Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022537080
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-07
(86)【国際出願番号】 CN2019125906
(87)【国際公開番号】W WO2021119986
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
【住所又は居所原語表記】Henkelstrasse 67,D-40589 Duesseldorf,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100162710
【弁理士】
【氏名又は名称】梶田 真理奈
(72)【発明者】
【氏名】シエ,シュアン
(72)【発明者】
【氏名】ウ,ジュンジュン
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-105270(JP,A)
【文献】特表2017-521519(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107474187(CN,A)
【文献】特開2011-046546(JP,A)
【文献】特開平02-187487(JP,A)
【文献】特開昭63-041519(JP,A)
【文献】特表平02-501144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基、及び場合によりヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート基及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する少なくとも1つのポリマーを含む、真空含浸プロセスに用いる水性ポリマー分散液であって、
前記ポリマーは、-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有し、
前記水性ポリマー分散液は、50重量%超の固形分を有する、水性ポリマー分散液。
【請求項2】
前記水性ポリマー分散液は、55重量%以上の固形分を有する、請求項1に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項3】
前記ポリマーは、-30℃~20℃のガラス転移温度を有する、請求項1又は2に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項4】
前記ポリマーは、0.2~8.0μmの粒子径(D50)を有する、請求項1~3のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
【請求項5】
前記ポリマーは、8,000~300,000g/molの数平均分子量を有する、請求項1~4のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
【請求項6】
前記ポリマーは、ポリ(メタ)アクリレート(PA)、ポリウレタン(PUD)、酢酸ビニル/エチレンコポリマー(VAE)、アクリル変性VAE、ポリ酢酸ビニル(PVAc)又はアクリル変性PVAc及びそれらの組み合わせから選択される、請求項1~5のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
【請求項7】
前記水性ポリマー分散液は、中和剤、スキンタイム延長剤(skin time extender)、接着促進剤、増粘剤、消泡剤及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、請求項1~6のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
【請求項8】
前記接着促進剤は、少なくとも1つのシラン基を含む、請求項7に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項9】
前記添加剤は、前記分散液の総重量に基づいて、0.1重量%~1.5重量%の量である、請求項7に記載の水性ポリマー分散液。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の水性ポリマー分散液の固化生成物。
【請求項11】
ATSM D1002の試験方法を使用した陽極アルミニウム(anodic aluminum)及びポリブチレンテレフタレートに対する結合強度が、0.3MPa超である、請求項10に記載の固化生成物。
【請求項12】
ステンレス鋼に対して毎分0.1mL未満の平均空気漏れ量(average air leakage amount)を有する、請求項10又は11に記載の固化生成物。
【請求項13】
アルミニウムに対して毎分0.1mL未満の平均空気漏れ量を有する、請求項10~12のいずれかに記載の固化生成物。
【請求項14】
請求項10~13のいずれかに記載の固化生成物を含む部品。
【請求項15】
請求項14に記載の部品を含む電子デバイス。
【請求項16】
a)請求項1~8のいずれかに記載の水性ポリマー分散液を部品に真空含浸すること、及びb)水性ポリマー分散液を50℃~100℃の範囲の温度で固化させることを含む、部品の多孔質をシーリングする方法。
【請求項17】
多孔質シーリングにおける請求項1~9のいずれかに記載の水性ポリマー分散液の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ポリマー分散液に関連しており、特に真空含浸のための含浸組成物として使用される水性ポリマー分散液及びその使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの鋳造及び鋳鉄などの金属鋳造及び金属とプラスチックによる共成形電子部品(electronic parts co-moulded by metal and plastic)において、通常、多くの細孔が存在する。これらの細孔は漏れの問題を引き起こし得、これは、特にそのような多孔質部品が流体動力システム及びその他の液体処理用途で使用される場合に、商業的有用性に重大な障害を提示する。
【0003】
この問題を解決する1つの方法は、分散機によって部品の細孔にシーラントを分散させることである。この固定点分散法(fixed-point dispersing way)には多くの欠点があり、部品の寸法を変更し得、部品の外観に影響を与える可能性があり、形成されたシーラントは部品の外側にあり、衝撃のために故障しやすい可能性がある。故障後、シーラントを再分散する必要があるが、これは費用及び時間がかかる。
【0004】
真空含浸(VI)技術は、寸法又は機能的特性を変えることなく多孔質部品を密封する効果的な方法である。真空含浸技術は真空圧力プロセスによって、含浸剤を金属部品又は金属とプラスチックにより共成形された構成部品の細孔に浸透させることである。真空含浸プロセスが終了すると、シーリングと漏れを防止する目的及び高圧に耐えそれによって部品の漏れの問題を解決するという目的を達成するために、部品は次のプロセス、つまり洗浄プロセス、乾燥プロセス、又は含浸剤がシーラントを形成して孔を埋める乾燥プロセス又は固化プロセスに移される。
【0005】
当技術における真空含浸シーラントとして使用される含浸組成物の主な3つのカテゴリ、すなわち無機ケイ酸ナトリウムシーラント、不飽和ポリエステル及び官能性アクリレート樹脂がある。ケイ酸ナトリウムシーラントは、業界で使用されている最も初期のカテゴリであったが、粘度が高く、濡れ性が低く、不満足な多孔性パフォーマンスをもたらし、これまでに使用されなくなっていた。不飽和ポリエステルの粘度が高いため、含浸組成物として使用されるために、不飽和ポリエステルは通常希釈剤と一緒に使用する必要がある。しかしながら、ほとんどの希釈剤は毒性及び高揮発性有機化合物(VOC)放出を示す。したがって、環境保護の理由のために、不飽和ポリエステルは含浸組成物として使用する際に、徐々に官能性ポリアクリレート樹脂に置き換えられている。ポリアクリレート樹脂は、主に官能性アクリレートモノマーを含む。乳化剤、キレート剤、蛍光剤などの添加剤が通常、真空含浸に使用するために追加される。
【0006】
多孔質部品を密封するために以前に開発された含浸組成物の中には、以下で特定及び議論する特許に開示された組成物がある。
【0007】
米国特許第3,672,942号は、フリーラジカル重合アクリレートエステルモノマー及びフリーラジカル重合開始剤、例えばヒドロペルオキシドを含む含浸組成物を開示している。
【0008】
米国特許第3,969,552号には、硬化性アクリル樹脂及び過酸化物開始剤を含む含浸組成物が記載されている。洗浄液は特定の式の界面活性剤の水溶液である。この特許はさらに、界面活性剤水溶液が洗浄される含浸部品の表面領域において嫌気性シーラントの重合をもたらすための促進剤を含んでよいことを開示している。
【0009】
米国特許第32,240号には、嫌気的硬化モノマー、例えばアクリルエステル、ペルオキシ開始剤、例えばヒドロペルオキシド又はパーエステル、組成物に溶解し水と混合した際に自己乳化するアニオン性又はノニオン性界面活性剤及び場合により嫌気性重合のための促進剤を含む自己乳化嫌気性組成物が記載されている。
【0010】
米国特許第4,632,945号は、(メタ)アクリレートモノマー、ヒドロペルオキシド又はパーエステル開始剤、-SONCO-官能性を有する促進剤及び銅鉄及び鉄塩又はフェロセニル化合物の供給源を含む遷移金属共促進剤を含む含浸組成物を開示している。
【0011】
米国特許第5,656,710号は、高温及び耐薬品性を有し含浸された電子部品の電気的特性を阻害しない、反応性すなわち低粘度の加硫可能なシーラント組成物を提供する。この加硫可能なケイ素は、(i)第1ケイ素の白金触媒の存在下で、少なくとも2つのエチレン性不飽和官能基を含み、分子量が2000未満である第2のケイ素との反応生成物として形成される熱硬化性シリコーン組成物、及び(ii)少なくとも2つのSiOH官能基を含み、分子量が2000未満のシリコーン流体と特定式のシラン架橋剤の反応生成物として形成される室温加硫性シリコーン組成物からなる群から選択される。
【0012】
中国特許出願公開第1356365号は、メチルアクリレートモノマー、促進剤、重合阻害剤及びベンゼン環が1個のジエニル化合物と3官能又は4官能のメタクリレートからなる架橋剤から調製した、低粘度と高い熱性能を有する含浸組成物を提供する。
【0013】
中国特許出願公開第104357010号は、体積収縮の問題を改善するために無機エンフォースメント粒子を導入したポリアクリレートベースの含浸組成物を提供する。しかし、硬化可能なアクリル樹脂ベースの含浸組成物は先天的な欠陥が存在する。例えば部品の接着性及び外観に影響を与える、含浸処理後に部品の表面に付着した含浸組成物の残留物を除去することが困難であり、したがってそれを繰り返し洗浄するために多量の溶剤又は洗浄剤が必要となり、それゆえに公害が発生するが、この方法でも残留物を完全に除去できない。追加の欠陥には硬化前後の収縮の問題が含まれ、密封性が低下する。含浸組成物に無機エンフォースメント粒子を導入することで改善できることが開示されているが、硬化剤の固形分が減少するため密封性が限定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第3,672,942号
【文献】米国特許第3,969,552号
【文献】米国特許第32,240号
【文献】米国特許第4,632,945号
【文献】米国特許第5,656,710号
【文献】中国特許出願公開第1356365号
【文献】中国特許出願公開第104357010号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そのため、真空含浸プロセスで使用される既存の含浸組成物の多孔質シーリング特性を改善する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことに、水性分散液が真空含浸プロセスにおける含浸組成物の新たなカテゴリとして使用できることを見出した。
【0017】
本発明の一態様において、提供されるものは含浸剤として使用することができる
カルボキシル基、及び場合によりヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート基及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する少なくとも1つのポリマー
を含む水性分散液であって、
前記ポリマーは、-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有し、
前記水性ポリマー分散液は、50重量%超の固形分を有する。
【0018】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、本発明による水性分散液の固化生成物である。
【0019】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、本発明による固化生成物を含む部品である。
【0020】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、本発明による部品を含む電子デバイスである。
【0021】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、部品内の細孔を密封するための、部品内の細孔を密封するための方法である。
【0022】
本発明の水性分散液は、特に多孔質材料、鋳造金属又は金属とプラスチックによって共成形された部品の空所に浸透及び充満する。真空プロセスを用いることにより、含浸させる部品の細孔から空気を除去し、分散液中の成分と置換される。その後、水性分散液を洗浄し、含浸部品を固化させてもよい。
【0023】
本発明のさらに別の態様において、提供されるものは、多孔質シーリングにおける本発明による水性ポリマー分散液の使用である。
【0024】
含浸組成物として使用される本発明の水性分散液は、鋳造金属又は金属とプラスチックによって共成形された部品に対する優れた多孔質シーリング性能及び良好な結合強度を特徴とする。さらに、アクリル樹脂ベースの含浸組成物と比較して、本発明の水性分散液を含浸組成物として使用することにより、含浸部品は水、界面活性剤、アルカリ溶液又はアルコール及びそれらの組み合わせから選択される洗浄剤による単純な洗浄のみを必要とし、これは環境にやさしい技術である。加えて、本発明の分散液の調製及びそれを使用する真空含浸の技術並びにその後処理は、防水電子デバイスなどの商業的使用のために簡単である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は例示的な態様の説明にすぎず、本発明のより広い態様を限定することを意図するものではないことは、当業者によって理解されるべきである。そのように記述された各態様は、明確に反対に示されない限り、他の態様と組み合わせてよい。特に、好ましい又は有利であると示される任意の特徴は、好ましい又は有利であると示される任意の他の特徴又は複数の特徴と組み合わせてよい。
【0026】
特に明記しない限り、本発明の文脈において使用される用語は以下の定義に従って解釈されるべきである。
【0027】
特に明記しない限り、本明細書で使用される場合、用語「a」、「an」及び「the」は、単数形及び複数形の両方の指示対象を含む。
【0028】
本明細書で使用される「含む(comprising)」及び「含む(comprises)」という用語は、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含む(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の引用されていないメンバー、要素又はプロセスステップを除外しない。
【0029】
特に明記しない限り、数値のエンドポイントの列挙には、それぞれの範囲内に含まれる全ての数値及び分数、並びに列挙されたエンドポイントが含まれる。
【0030】
分子量は、特に明記しない限り、数平均分子量(Mn)を指す。全ての分子量データは特に明記しない限り、例えばDIN55672に準拠する、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって得られた値を指す。
【0031】
本明細書で引用されているすべての参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0032】
別段の定義がない限り、技術用語及び科学用語を含む本発明で使用される全ての用語は、本発明が属する当技術分野の通常の当業者によって一般的に理解される意味を有する。
【0033】
本発明は、
カルボキシル基、及び場合によりヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート基及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する少なくとも1つのポリマー
を含む水性ポリマー分散液に関し、
前記ポリマーは-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有し、
前記水性ポリマー分散液は、50重量%超の固形分を有する。
【0034】
ポリマー
ポリマーの他の特性が要件を満たしている限り、水性ポリマー分散液に使用されるポリマーに制限はない。典型的には、前記ポリマーは、ポリ(メタ)アクリル(PA)、ポリウレタン(PUD)、酢酸ビニル/エチレンコポリマー(VAE)、アクリル変性VAE、ポリ酢酸ビニル(PVAc)又はアクリル変性PVAc、及びそれらの組み合わせから選択することができる。
【0035】
ガラス転移温度(Tg)
本発明によれば、前記水性ポリマー分散液は、-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有する少なくとも1つのポリマーを含む。Tgが低すぎるとポリマーの凝集力が低下するため、シーラントが変形及び表面収縮、並びに接着不良を起こしやすくなり、多孔質密封性が低下する。
【0036】
ここで、ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(TA DSC Q2000)を使用して、以下のプロセスに従って決定される。サンプルを40℃に平衡化し、2分間-50℃に冷却し、次いで、毎分10℃(℃/分)の速度で-50℃から120℃に加熱する。そして、20℃/分の速度で120℃から室温まで冷却する。-50℃から120℃への加熱中のステップの増加の存在は、ガラス転移が起こったことを示している。ガラス転移温度は、熱流がステップ変化の中間点にある温度として定義される。
【0037】
好ましい態様において、前記水性ポリマー分散液は、-30℃~20℃、好ましくは-30℃~0℃、より好ましくは-20℃~-5℃のガラス転移温度を有する少なくとも1つのポリマーを含む。
【0038】
粒子径
好ましい態様において、前記ポリマーは、0.2~8.0μm、好ましくは0.2~3.0μm、より好ましくは0.2~1.5μm、さらにより好ましくは0.3~1.2μmのD50粒子径を有する。
【0039】
本明細書において、分散液の「D50粒子径」は、レーザー回折粒子径分析器での測定により得られた体積ベースの粒子径分布曲線における中位径(a median diameter)を表す。
【0040】
分子量
好ましい態様において、前記ポリマーは、8,000~300,000g/mol、好ましくは50,000~300,000g/mol、より好ましくは100,000~300,000g/molの数平均分子量を有する。
【0041】
官能基
発明者らは、驚くべきことに、カルボキシル基及び場合によりヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート基から選択される追加の官能基を含むポリマーが、様々なメカニズムにより優れた多孔質シーリング及び良好な結合強度の複合特性を生み出すことを発見した。具体的には、(i)カルボキシル基は、金属の表面をわずかに侵食して、分散液の粒子を収容するための特定のミクロ多孔質を生成するのを助けることができ、したがって固化後、シーラントは良好な結合強度を示す;(ii)ホスフェート基は、キレート効果が発生するため金属表面への結合を増加させる;(iii)ヒドロキシ基は、金属表面の遊離水素とファンデルワールス力を形成する;(iv)通常、ポリマーは分子量が大きいため金属表面への低い濡れ性を示すが、ヒドラジド基とアセトアセテート基は水性分散液中に安定して存在することができ、分散液が固化するとケトヒドラジド架橋反応が起こり、したがってヒドラジド基及びアセトアセテート基のこの後架橋は、部品の多孔質シーリングに大いに役立つ;(v)イソシアネート基は分散液の凝集力を効果的に改善する;及び(vi)フルオロ基は、優れた防水性と防錆性を示す。
【0042】
いくつかの態様において、前記水性ポリマー分散液は、カルボキシル基を有する少なくとも1つのポリマーを含み、少なくとも1つのポリマーは、-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有する。このようなポリマーの適切な例には、BASFのBasf 7104及びShanghai Baolijia Chemical Co., LtdのBLJ-4122が含まれる。
【0043】
好ましい態様において、前記水性ポリマー分散液は、カルボキシル基及びヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する少なくとも1つのポリマー含み、少なくとも1つのポリマーは-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有する。そのようなポリマーの適切な例には、Wanhua Chemical Co., LtdのDEシリーズ製品が含まれる。
【0044】
好ましい態様において、前記水性ポリマー分散液は、カルボキシル基を有する第1のポリマー及びカルボキシル基とヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する第2のポリマーを含み、少なくとも1つのポリマーは-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有する。第1のポリマーの適切な例には、BASFのAcronal(登録商標)V215、Shanghai Baolijia Chemical Co., LtdのBLJ-4122が含まれる。第2のポリマーの適切な例は、AGC ChemicalsのLUMIFLON(登録商標)FE-4300、Wanhua Chemical Co., LtdのDEシリーズである。
【0045】
好ましい態様において、前記水性ポリマー分散液は、カルボキシル基及びヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する少なくとも2つの異なるポリマーの混合物を含み、少なくとも1つのポリマーは、-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有する。そのようなポリマーの適切な例には、Wanhua Chemical Co., LtdのDE-G、Guangzhou Lushan New Materials Co., LtdのEM-123、WackerのVINNAPAS(登録商標)EAF 68及びWanhua Chemical Co., LtdのTekspro-7610が含まれる。
【0046】
水性ポリマー分散液
本発明によれば、前記水性ポリマー分散液は50重量%超の固形分を有する。固形分が低すぎる場合、形成されたシーラントは商業的用途での空気圧又は水圧に耐えるのに十分な厚さではない。
【0047】
ここで、固形分は一般的な炉内で1グラムの分散液を80℃の温度で30分間乾燥させ、次に精密スケールで秤量して固形分をパーセンテージで計算することによって決定する。
【0048】
好ましくは、前記水性ポリマー分散液は55重量%以上、好ましくは60重量%以上の固形分を有する。
【0049】
添加剤
好ましくは、分散液の安定性を改善し、異なる機械的及びレオロジー的要求を満たすために、添加剤が加えられてよい。
【0050】
例えば、アンモニア水及びエタノールアミンなどの中和物質を加えることができる。このような中和剤は、Sinopharm Groupから入手できる。存在する場合、好ましい量は、水性分散液の総重量に基づいて、0.1~1.5重量%である。
【0051】
別の添加剤は、セルロース系増粘剤及びポリアクリレート増粘剤である。好ましくは、これらの増粘剤は、ヒドロキシメチルセルロース(HEA)、ヒドロキシエチルセルロース(CMC)、BASF VISCALEX AT88、OMG Borch Gel ALA、Centex COAPUR(登録商標)2025等から選択される。存在する場合、好ましい量は、水性分散液の総重量に基づいて、0.1~1.5重量%である。
【0052】
流動性を改善し長いスキンタイムを維持するために、皮張り防止剤(anti-skinning agent)、例えばポリヒドロキシアルコールを加えることができる。好ましい皮張り防止剤は、マルチトール、ベタイン、Sinopharm Groupから入手可能な乳酸ナトリウム、BYK groupから入手可能なBYK-348から選択することができる。好ましくは、良好な湿潤挙動(及び真空下での長いスキンタイム)を得るために、添加量は水性分散液の総重量に基づいて0.1~1.5重量%である。
【0053】
無機材料、例えばプラスチックと有機ポリマーの間の接着性を改善させるために、接着促進剤、例えば多官能性オルガノシラン又はイソシアネート架橋剤を添加することができる。好ましくは、接着促進剤は少なくとも1つのシラン基を含み、促進剤に含まれるシラン基は、分散液の凝集を効果的に改善することができる。好ましい例は、EvonikのDynasylan(登録商標)GLYEO及びDynasylan(登録商標)HYDROSIL 2926、Asahi KaseiのWM44-L70G及びTCI groupから入手可能なTCI-E0327である。存在する場合、好ましい量は水性分散液の総重量に基づいて、0.1~1.5重量%である。
【0054】
添加剤のさらなる例は消泡剤である。油ベースの消泡剤、例えばパラフィン油、鉱油、シリコーンベースの消泡剤、又はポリエーテルと鉱油の混合物を加えてよい。このような消泡剤は、BYKのBYK-024、BASFのFoamaster(登録商標)MO 2134、Foamaster(登録商標)MO 2150、Foamaster(登録商標)NO 2335及びFoamStar(登録商標)ST 2438、SAN NOPCOのSN-DEFOAMER 470及びSN-DEFOAMER 485から選択してよい。存在する場合、好ましい量は水性分散液の総重量に基づいて、0.1~1.5重量%である。
【0055】
特定のポリマータイプ又は本明細書に記載のTg範囲及び固形分範囲のモノマーに限定されず、単純で、工業的に適した、再現性のある方法で入手可能な水性ポリマー分散液を利用可能にすることが本発明の目的であり、それは優れた多孔質シーリング特性及び良好な接着強度を示す。
【0056】
本発明の別の態様において、提供されるものは、本発明による水性ポリマー分散液の固化生成物である。
【0057】
好ましい態様において、水性ポリマー分散液の固化生成物は、試験材料が陽極アルミニウム(anodic aluminum)(AnAl)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)又はPBTで強化されたガラス繊維において、ATSM D1002の試験法を使用して、0.3MPa超、好ましくは0.35MPa超の結合強度を有する。
【0058】
好ましい態様において、前記水性ポリマー分散液の固化生成物は、ステンレス鋼に対して毎分0.1mL未満の平均空気漏れ量(an average air leakage amount)を有する。
【0059】
好ましい態様において、前記水性ポリマー分散液の固化生成物は、アルミニウムに対して毎分0.1mL未満の平均空気漏れ量を有する。
【0060】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、本発明による固化生成物を含む部品である。
【0061】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、本発明による部品を含む電子デバイスである。
【0062】
本発明の目的のために、本明細書に記載の「固化」は、分散液に含まれる固形分が含浸プロセス後の乾燥中に、多孔性を有する部品の細孔に入りシーラントになることを意味することを意図している。この変化は本発明では「固化プロセス」として記述され、これはヒドラジド及びアセトアセテート基が存在する場合、純粋に物理的な変化又は後架橋の化学反応であり得る。典型的には、固化プロセスの間、含浸部品は約50℃~約100℃の範囲で加熱されるが、適切な場合にはこの範囲外の温度を使用してよい。
【0063】
本発明の追加の態様において、提供されるものは、部品の多孔質を密封するための部品の多孔質を密封する方法である。基本的に、本発明の水性分散液は、多孔質材料、特に鋳造金属又は金属とプラスチックによって共成形された部品の空隙に浸透して充満する。真空プロセスを使用することにより、含浸される部品の多孔から空気が除去され、分散液中の剤に置き換わる。次に、含浸部品が洗浄され、水性ポリマー分散液が固化される。
【0064】
具体的には、真空含浸プロセスでは、通常、含浸部品を配置するための含浸チャンバーがある。本発明の水性分散液の、部品の多孔への浸透は、場合により圧縮空気を使用して含浸チャンバーを加圧することによって促進してよい。含浸チャンバーに導入されるバスケットに含まれる多孔質部品の含浸に関して、本発明の水性分散液を使用する典型的なプロセス。これは、部品が適切に小さいサイズの場合の一般的な方法である。より大きな部品の場合、同じものは通常、ホイスト又はキャリアに取り付けられるか、吊り下げられる。湿式真空含浸プロセスにおいて、多孔質部品のバスケットは、本発明の水性分散液で満たされた真空タンクに沈められる。短時間、例えば10~12分の真空サイクルにより、部品の多孔から空気が除去される。次に、チャンバーは周囲圧力に戻され、分散液は排出された多孔に浸透する。
【0065】
湿式真空含浸プロセスも同様に実施されるが、真空サイクルの終わりに含浸チャンバーが加圧されて、含浸組成物をさらに小さな多孔路に駆動する。乾式真空含浸法では、多孔質部品のバスケットを直接乾式真空チャンバーに配置する。空気は、選択された長さの時間、例えば10分間、部品の多孔から排出される。次に、移送弁が開き、本発明の水性分散液が貯蔵リザーバーから真空チャンバーに入ることが可能になる。チャンバーは自動的に加圧されて、本発明の水性分散液を部品に押し入れる。含浸後、前記分散液がリザーバーに戻されている間、自由落下によりバスケットが吊り下げられ、過剰な表面分散液が除去される。前述の方法の中で、湿式真空含浸技術は、一般に乾式真空含浸プロセスよりも広く使用されているが、いずれのプロセスも本発明での使用に適している。
【0066】
最初の含浸ステップに続いて、含浸された部品は、含浸された部品の溝又はねじ穴に溜まった残留分散液を除去するために、場合により撹拌された水リンスゾーンに移される。水リンスゾーンの撹拌は、そのようなゾーン内のバスケット又は吊り下げられた部品の動き及び/又はその中の水の循環をもたらすための機械的手段によって影響を受け得る。水又は界面活性剤又はアルカリ溶液及びごくわずかなアルコールをリンスのために使用することができる。バスケットに含まれる小さな多孔質部品の場合、洗浄効果を高めるために、水リンスゾーンを「タンブリングバスケット」モードで操作することがしばしば望ましい。その後、含浸部品の固化のための加温をするために50℃~100℃の温度の固化ゾーンに移してよく、ヒドラジド、アセトアセテート基が水性分散液中に存在する場合、この時点で自己架橋反応が起こり得る。室温が使用される含浸システムでは、含浸プロセスの後、部品を乾燥のために炉に移し、次に室温で一晩冷却することができる。使用において、含浸組成物は、典型的な構成の含浸チャンバーで従来的に使用されてよく、ここで「湿式」又は「乾式」真空が、含浸される多孔質部分に加えられ、排気された多孔質部品は、より高い、例えば周囲圧力で含浸組成物と接触し、それにより含浸組成物は多孔質部品の多孔に入り、その含浸をもたらす。
【0067】
本発明のさらに別の態様において、提供されるものは、多孔質シーリング(porosity sealing)における本発明による水性ポリマー分散液の使用である。
【0068】
含浸組成物として使用される本発明の水性分散液は、鋳造金属又は金属とプラスチックによって共成形された部品に対する優れた多孔質シーリング性能、及び良好な結合強度を特徴とする。さらに、アクリル樹脂ベースの含浸組成物と比較して、本発明の水性分散液を含浸組成物として使用することにより、含浸部品は、水、界面活性剤、アルカリ溶液又はアルコール及びそれらの組み合わせから選択される洗浄剤による単純な洗浄のみを必要とし、それは環境にやさしい技術である。加えて、本発明の分散液の調製及びそれを使用する真空含浸の技術ならびにその後処理の両方は、商業的使用のために簡便である。
【実施例
【0069】
実施例
以下の実施例は、当業者が本発明をよりよく理解し、実践することを支援することを意図している。本発明の範囲は実施例によって限定されず、添付の特許請求の範囲で定義される。特に明記されていない限り、全ての部とパーセンテージは重量に基づく。
実施例では、略語は以下のように使用される。
AnAl: 陽極アルミニウム
PBT: ポリブチレンテレフタレート
HDI: ヘキサメチレンジイソシアネート
PAEK: フタラゾンエーテルケトン(phthalazone ether ketone)
PA: ポリ(メタ)アクリレート
PUD: ポリウレタン
VAE: 酢酸ビニル/エチレン
【0070】
原材料
Acronal(登録商標)V 215は、カルボキシル基を含むアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、アクリレートコポリマーのTgは-43℃で、BASFから入手できる。
【0071】
LUMIFLON(登録商標)FE-4300は、フルオロエチレンとアルキルビニルエーテルセグメントを交互に含むポリマーを含むPA水性分散液であり、PAポリマーのTgは30℃で、AGC Chemicalsから入手できる。
【0072】
VINNAPAS(登録商標)EAF 68は、水性VAE分散液であり、VAEポリマーのTgは-35℃で、Wackerから入手できる。
【0073】
Basf 7104は、カルボキシルを含み、Tgが-40℃のアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、BASFから入手できる。
【0074】
EM-123は、カルボキシル基、ヒドロキシメチル基及びアミド基を含み、Tgが-23℃のアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Guangzhou Lushan New Materials Co., Ltdから入手できる。
【0075】
BLJ-4122は、カルボキシル基を含み、Tgが-15℃のアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Shanghai Baolijia Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0076】
BLJ-3209は、カルボキシル基及びアミド基を含み、Tgが-35℃のアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Shanghai Baolijia Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0077】
Tekspro-7610は、カルボキシル基、ヒドラジド基、アセトアセテート基を含み、Tgが-13℃のアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Wanhua Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0078】
DE-Bは、カルボキシル基、ヒドラジド基、アセトアセテート基、ホスフェート基を含み、Tgが-12℃であるアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Wanhua Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0079】
DE-Cは、カルボキシル基、ヒドラジド基、アセトアセテート基、ホスフェート基を含み、Tgが-20℃であるアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Wanhua Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0080】
DE-Dは、カルボキシル基、ヒドラジド基、アセトアセテート基、ホスフェート基を含み、Tgが-5℃であるアクリレートコポリマーの水性PA分散液であり、Wanhua Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0081】
DE-F-BLJは、カルボキシル基を含み、Tgが-30℃であるポリマーの水性PA分散液であり、Baolijia Chemical Co., Ltdから入手できる。
【0082】
DE-Gは、カルボキシル基を含み、Tgが-10℃であるアクリレートコポリマーの水性PUD分散液であり、Wanhua Chemical Co., Ltdによって入手できる。
【0083】
濃度が約25%~28%のアンモニア水は、Sinopharm Groupから入手できる。
【0084】
エタノールアミンは、Sinopharm Groupから入手できる。
【0085】
D-ソルビトールは、Sinopharm Groupから入手できる。
【0086】
マルチトールは、Sinopharm Groupから入手できる。
【0087】
ベタインは、Sinopharm Groupから入手できる。
【0088】
濃度が約60%の乳酸ナトリウムは、Sinopharm Groupから入手できる。
【0089】
BYK-348は、BYKから入手可能なポリエーテル変性シロキサンを含む水性分散液用のシリコーン界面活性剤である。
【0090】
H-1400は、Guangzhou Hensic New Material Co., Ltdから入手できる。
【0091】
WM44-L70Gは、Asahi Kaseiから入手可能なHDIに基づくブロックされたポリイソシアネートである。
【0092】
Dynasylan(登録商標)HYDROSIL 2926は、水に基づく有機ケイ素化合物であり、Evonikから入手できる。
【0093】
TCI-E0327は2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランであり、TCI groupから入手できる。
【0094】
TCI-T3585は2-(3,4-エポキシコヘキシル)エチルトリエトキシシランであり、TCI groupから入手できる。
【0095】
H-592は多官能性ポリシリコン化合物であり、Guangzhou Hensic New Material Co., Ltdから入手できる。
【0096】
COAPUR(登録商標)2025は、水ベースの調製物用に設計された、溶剤及びAPEを含まない会合性ポリウレタン増粘剤であり、Contexから入手できる。
【0097】
BYK-024は、泡を消滅させるポリシロキサン及びポリグリコール中の疎水性固体の混合物であり、BYKから入手できる。
【0098】
S-8370は、ポリエーテル及び鉱油を含む消泡剤で、SAN NOPCOから入手できる。
【0099】
FoamStar(登録商標)ST 2437は、BASFから入手できる水性分散液用の消泡剤である。
【0100】
Foamaster(登録商標)MO 2134は、BASFから入手できる水性分散液用の消泡剤である。
【0101】
SN-DEFOAMER 475-Lは、SAN NOPCOから入手できる疎水性シリカタイプの消泡剤である。
【0102】
試験法
重ね剪断強度(Lap Shear Strength)
重ねせん断強度は、試験材料をAnAl及びPBTに置き換えたATSM D1002に基づいて決定した。具体的には、幅2cm、厚さ2mmの寸法を有するPBTラミネートを準備し、実施例の分散液でブラシをかけ、次に直径0.127mmの金属スペーサーを配置してシーラントの厚さを制御した。その後、AnAlを張り付けて、有効シーリング面積が20100.127mmのサンドイッチラミネートを形成した。次に、サンドイッチラミネートを100℃の温度の炉で2時間固化させ、次に室温に一晩置いた。シーラント層の破断時の引張強度を測定するために、サンプルの重ねせん断強度を、5mm/分の試験速度でINSTRON引張試験機によって測定した。適宜破壊時の荷重が記録された。0.3MPaを超えるものが、許容可能な接着強度と見なされた。
【0103】
漏れ防止性能(Leakproof Performance)
試験部品はアルミラミネートで作製され、ラミネートはPBTで成形された中央においてH字型にくり抜かれた。別の試験部品は、ステンレス鋼SUS301及びPAEKで共成形された同じ形状であった。2種類の部品は両方とも金属とプラスチックの間に微細細孔があった。真空含浸は、本発明に記載された実施例の分散液を使用して処理された。すなわち、試験部品を真空含浸タンクに配置した。真空ステージを数分間維持した後、真空を解除して部品の微細細孔に分散液を含浸させた。含浸ステージでは、5バールの圧縮空気がタンクカバーから導入され、真空含浸タンクを加圧した。気泡の抜けが見られる場合、1分間の漏れ空気量(mL)を測定し、漏れ防止性能を評価した。含浸ステージ後、真空含浸タンクを開放し、試験部品を取り出した。
【0104】
2つの試験部品を使用して、各例で5つのサンプルを試験した。ある場合、それぞれの空気漏れ量を記録し、平均空気漏れ量を算術平均で計算して、漏れ特性を次の尺度で評価した。
【0105】
【表1】
【0106】
実施例1~8(Ex.1~Ex.8)及び比較例1~5(CE.1~CE.5)
表1に記載の量(重量部)の成分を用いて以下の方法で分散液を調製し、上記の方法を用いて特性を試験し、評価結果を表1に示す。
【0107】
水性分散液を調製する方法は、以下の工程を含む:
(1)室温でエマルションが複数ある場合は、エマルションを混合する;
(2)次の順序で添加剤を追加する:中和剤、皮張り防止剤、促進剤、増粘剤及び消泡剤(ある場合)を均一に混合する。
【0108】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0109】
【表3-1】
【表3-2】
【0110】
表1から分かるように、本発明の実施例の分散液は、固化すると、様々な材料に対して優れた漏れ防止特性を示し、比較例と比較して高い重ね剪断強度を維持した。
【0111】
いくつかの好ましい態様が記載されてきたが、上記の教示に照らしてそれらに多くの修正及び変形を行ってよい。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、具体的に記載されている以外の方法で実施することができることを理解されたい。
本発明の好ましい態様は、以下を包含する。
[1] カルボキシル基、及び場合によりヒドロキシ、イソシアネート、フルオロ、ホスフェート、ヒドラジド、アセトアセテート基及びそれらの組み合わせから選択される追加の官能基を有する少なくとも1つのポリマーを含む水性ポリマー分散液であって、
前記ポリマーは、-40℃超35℃未満のガラス転移温度を有し、
前記水性ポリマー分散液は、50重量%超の固形分を有する、水性ポリマー分散液。
[2] 前記水性ポリマー分散液は、55重量%以上、好ましくは60重量%以上の固形分を有する、[1]に記載の水性ポリマー分散液。
[3] 前記ポリマーは、-30℃~20℃、好ましくは-30℃~0℃、より好ましくは-20℃~-5℃のガラス転移温度を有する、[1]又は[2]に記載の水性ポリマー分散液。
[4] 前記ポリマーは、0.2~8.0μm、好ましくは0.2~3.0μm、より好ましくは0.2~1.5μm、さらに好ましくは0.3~1.2μmの粒子径(D50)を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
[5] 前記ポリマーは、8,000~300,000g/mol、好ましくは50,000~300,000g/mol、より好ましくは100,000~300,000g/molの数平均分子量を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
[6] 前記ポリマーは、ポリ(メタ)アクリレート(PA)、ポリウレタン(PUD)、酢酸ビニル/エチレンコポリマー(VAE)、アクリル変性VAE、ポリ酢酸ビニル(PVAc)又はアクリル変性PVAc及びそれらの組み合わせから選択される、[1]~[5]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
[7] 前記水性ポリマー分散液は、中和剤、スキンタイム延長剤(skin time extender)、接着促進剤、増粘剤、消泡剤及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1つの添加剤をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液。
[8] 前記接着促進剤は、少なくとも1つのシラン基を含む、[7]に記載の水性ポリマー分散液。
[9] 前記添加剤は、前記分散液の総重量に基づいて、0.1重量%~1.5重量%の量である、[7]に記載の水性ポリマー分散液。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液の固化生成物。
[11] ATSM D1002の試験方法を使用した陽極アルミニウム(anodic aluminum)及びポリブチレンテレフタレートに対する結合強度が、0.3MPa超、好ましくは0.35MPa超である、[10]に記載の固化生成物。
[12] ステンレス鋼に対して毎分0.1mL未満の平均空気漏れ量(average air leakage amount)を有する、[10]又は[11]に記載の固化生成物。
[13] アルミニウムに対して毎分0.1mL未満の平均空気漏れ量を有する、[10]~[12]のいずれかに記載の固化生成物。
[14] [10]~[13]のいずれかに記載の固化生成物を含む部品。
[15] [14]に記載の部品を含む電子デバイス。
[16] a)[1]~[8]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液を部品に真空含浸すること、及びb)水性ポリマー分散液を50℃~100℃の範囲の温度で固化させることを含む、部品の多孔質をシーリングする方法。
[17] 多孔質シーリングにおける[1]~[9]のいずれかに記載の水性ポリマー分散液の使用。