(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末、樹脂組成物、樹脂シートおよび六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20240207BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240207BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
C01B21/064 H
C08L101/00
C08K3/38
(21)【出願番号】P 2021504045
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008288
(87)【国際公開番号】W WO2020179662
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2019037541
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019168462
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】池田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】藤波 恭一
(72)【発明者】
【氏名】縄田 輝彦
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/145869(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123571(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/041300(WO,A1)
【文献】特開2018-165241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C08L 101/00
C08K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含み、
比表面積が0.5m
2/g以上、5.0m
2/g以下であり、
前記六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径が0.6μm以上、4.0μm以下、かつ、アスペクト比が1.5以上、
4.0以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
タップ嵩密度が0.40g/cm
3以上である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
粒度分布測定により測定されたD95が5~15μmである、請求項1または2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末および樹脂を含む、樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂組成物を含み、
XRD測定による、前記六方晶窒化ホウ素一次粒子由来の(002)面と(100)面とのピーク比A=(002)/(100)から算出される面配向指数B=log(A/6.67)が0.95以下である、樹脂シート。
【請求項6】
ホウ素酸化物と、窒素を含む有機化合物と、炭酸リチウムとを含む混合粉末を加熱する
ことにより六方晶窒化ホウ素粉末を得る加熱工程を含み、
前記混合粉末における窒素原子に対するホウ素原子の重量比は、0.2以上、0.4以下であり、
前記混合粉末における炭酸リチウムに対するホウ素原子の重量比は、0.22以上、0.98以下であり、
前記加熱工程において、前記混合粉末を、最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程は、加熱工程中にガス交換が起こらない反応容器の内部に前記混合粉末を配置して行われる、請求項6に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は六方晶窒化ホウ素粉末、樹脂組成物、樹脂シートおよび六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品において、絶縁耐力および熱伝導性を備えた素材として、六方晶窒化ホウ素が用いられる。六方晶窒化ホウ素の単結晶の製造方法として、例えば、特許文献1に開示されているフラックス法が知られている。また、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法として、例えば、特許文献2および3に開示されているメラミン法、特許文献4に開示されている気相法等が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-141600号公報
【文献】特開平10-059702号公報
【文献】特開2006-188411号公報
【文献】国際公開第2015/122378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術では、高熱伝導性および高絶縁耐力を示す樹脂シートを実現する観点から改善の余地があった。本発明の一態様は、高熱伝導性および高絶縁耐力を備えた樹脂シートを実現し得る六方晶窒化ホウ素粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明者が鋭意研究を行った結果、特定の形状の六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した凝集粒子を含む粉末を用いることにより、高熱伝導性および高絶縁耐力を備えた樹脂シートを作製できることを見出した。即ち、本発明は以下の構成を含む。
【0006】
六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含み、比表面積が0.5m2/g以上、5.0m2/g以下であり、前記六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径が0.6μm以上、4.0μm以下、かつ、アスペクト比が1.5以上、5.0以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【0007】
ホウ素酸化物と、窒素を含む有機化合物と、炭酸リチウムとを含む混合粉末を加熱する加熱工程を含み、前記混合粉末における窒素原子に対するホウ素原子の重量比は、0.2以上、0.4以下であり、前記混合粉末における炭酸リチウムに対するホウ素原子の重量比は、0.22以上、0.98以下であり、前記加熱工程において、前記混合粉末を、最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、高熱伝導性および高絶縁耐力を備えた樹脂シートを実現し得る六方晶窒化ホウ素粉末を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係る六方晶窒化ホウ素粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図2】実施例2に係る六方晶窒化ホウ素粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図3】比較例7に係る六方晶窒化ホウ素粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図4】比較例8に係る六方晶窒化ホウ素粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【
図5】実施例1および2、並びに比較例7および8に係る六方晶窒化ホウ素粉末の粒度分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0011】
<1.六方晶窒化ホウ素粉末>
本発明の一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含み、比表面積が0.5m2/g以上、5.0m2/g以下であり、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径が0.6μm以上、4.0μm以下、かつ、アスペクト比が1.5以上、5.0以下である。
【0012】
前記六方晶窒化ホウ素粉末は、小粒径かつ肉厚の板状の六方晶窒化ホウ素一次粒子が高密度に凝集することにより構成された六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含む。このため、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて作製した樹脂シートでは、異方性が改善され、かつ、六方晶窒化ホウ素粉末が密に充填されることにより、高熱伝導性および高絶縁耐力を示す。
【0013】
また、前記六方晶窒化ホウ素粉末は、微粉の含有量が少ないため、樹脂へ混練する際、粘度の上昇を効果的に抑制することができる。これにより、該六方晶窒化ホウ素粉末は樹脂への充填性に優れるため、六方晶窒化ホウ素粉末を用いて作製した樹脂シートはさらに高熱伝導性および高絶縁耐力を示す。
【0014】
本明細書において、六方晶窒化ホウ素一次粒子は、六方晶窒化ホウ素の単粒子を意味する。以下では、六方晶窒化ホウ素一次粒子をh-BN一次粒子とも称する。h-BN一次粒子は、通常、板状粒子である。本明細書では、この板状粒子の板面において最大となる径を長径と称する。また、この板面に垂直な長さを厚さと称する。そして、この長径を厚さで除した値をアスペクト比と称する。
【0015】
h-BN一次粒子の長径は、0.6μm以上、4.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以上、3.5μm以下であることがより好ましく、1.5μm以上、3.5μm以下であることがさらに好ましい。h-BN一次粒子のアスペクト比は、1.5以上、5.0以下であることが好ましく、2.0以上、4.5以下であることがより好ましく、2.5以上、4.0以下であることがさらに好ましい。h-BN一次粒子の長径およびアスペクト比が上記の範囲であることは、h-BN一次粒子が小粒径、かつ、肉厚の板状粒子であることを表す。また、h-BN一次粒子の長径およびアスペクト比が上記の範囲であれば、得られる凝集粒子は略球形であるため、凝集粒子に間隙が生じにくく、樹脂組成物の粘度の上昇を抑制できる。なお、本明細書において、h-BN一次粒子の長径およびアスペクト比は、後述の実施例に記載の測定方法によって測定された平均値を表す。
【0016】
本明細書において、六方晶窒化ホウ素凝集粒子は、h-BN一次粒子が凝集した粒子を意味する。六方晶窒化ホウ素凝集粒子の長径は、通常、5~40μmである。以下では、六方晶窒化ホウ素凝集粒子をh-BN凝集粒子とも称する。h-BN凝集粒子の形状は、
図1および
図2に示される形状を有し、例えば、少なくとも2個以上のh-BN一次粒子が厚さ方向に連なって成る略球形、該略球形の粒子が数珠状に繋がった形状、または、大小のh-BN一次粒子が多方向を向いて凝集した形状である。
【0017】
六方晶窒化ホウ素粉末は、h-BN凝集粒子を含んでなる。以下では、六方晶窒化ホウ素粉末をh-BN粉末とも称する。h-BN粉末はさらに、h-BN一次粒子を含んでもよい。すなわち、h-BN粉末は、h-BN一次粒子とh-BN凝集粒子との混合物であり得る。
【0018】
h-BN粉末は、比表面積が0.5m2/g以上、5.0m2/g以下であることが好ましく、1.0m2/g以上、4.5m2/g以下であることがより好ましく、1.5m2/g以上、4.0m2/g以下であることがさらに好ましい。h-BN一次粒子が比較的肉厚である場合に、h-BN粉末の比表面積が上記範囲となる傾向がある。また、h-BN粉末の比表面積が0.5m2/g以上であることは、h-BN粉末において比較的小さなh-BN一次粒子が適度に凝集していることを表す。その結果、本発明の一実施形態に係るh-BN粉末を用いて作製した樹脂シートでは、異方性が改善され、良好な熱伝導性が得られる。
【0019】
また、h-BN粉末の比表面積が、5.0m2/g以下であることは、h-BN粉末に含まれる微粉の含有量が少なく、肉厚のh-BN一次粒子が多いことを表す。微粉の含有量が少なければh-BN粉末を樹脂に混練する際、樹脂組成物の粘度の上昇が抑制される。このため、h-BN粉末を樹脂へ充填しやすい。その結果、本発明の一実施形態に係るh-BN粉末を用いて作製した樹脂シートでは、良好な熱伝導性および良好な絶縁耐力を示す。
【0020】
本発明の一実施形態に係るh-BN粉末のタップ嵩密度は、0.40g/cm3以上であることが好ましく、0.45g/cm3以上であることがより好ましく、0.50g/cm3以上であることがさらに好ましい。タップ嵩密度が0.40g/cm3以上であることは、特定の形状を有するh-BN一次粒子が適度に凝集し、充填性の高い粒度分布を有するh-BN粉末が形成されていることを表す。すなわち、タップ嵩密度が0.40g/cm3以上であれば、h-BN凝集粒子が粗でない、かつ/または、h-BN凝集粒子の樹脂組成物への充填性が良好である。その結果、本発明の一実施形態に係るh-BN粉末を用いて作製した樹脂シートでは、空隙が生じにくく、均一な熱伝導性を示す。なお、充填性の高い粒度分布とは、様々な粒子径を有するh-BN一次粒子およびh-BN凝集粒子が適度に含まれていることを表す。例えば、h-BN粉末が、単一の粒子径を有するh-BN一次粒子またはh-BN凝集粒子のみを含む場合、h-BN一次粒子またはh-BN凝集粒子の間に空隙が生じやすいため、密に充填することは難しい。
【0021】
本発明の一実施形態に係るh-BN粉末の、D95は、5~15μmであることが好ましく、5~12μmであることがより好ましく、5~10μmであることがさらに好ましい。なお、D95は、粒度分布曲線における累積体積頻度が95%の粒子径を表す。D95が15μm以下であれば、本発明の一実施形態に係るh-BN粉末は、粒子径の大きな粒子を含まないため、当該h-BN粉末を用いて薄い樹脂シートを形成した場合であっても、樹脂シート表面の平滑性が得られる。換言すれば、本発明の一実施形態に係るh-BN粉末を用いることにより、薄い樹脂シートが作製しやすくなる。さらに、h-BN粉末のD95が5μm以上であれば、h-BN一次粒子の平均粒子径以上であるため、h-BN一次粒子が単分散しておらず、十分に凝集していることがわかる。
【0022】
また、本発明の一実施形態に係るh-BN粉末の、D10は、1.5μm以上であることが好ましく、1.8μm以上であることがより好ましく、2.0μm以上であることがさらに好ましい。なお、D10は、粒度分布曲線における累積体積頻度が10%の粒子径を表す。D10が1.5μm以上であることにより、h-BN粉末に含まれる微粉が少ないことがわかる。
【0023】
h-BN粉末を樹脂に充填した際の樹脂の粘度(樹脂充填粘度)は、低い方が好ましく、例えば、シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製CY52-276A)にh-BN粉末を20体積%充填した場合における樹脂充填粘度が、130Pa・S以下であることが好ましく、125Pa・S以下であることがより好ましい。樹脂充填粘度が130Pa・S以下であることにより、h-BN粉末を高密度に樹脂へ充填することができる。さらに、樹脂の流動性がよいため、樹脂シートの作製が容易となる。
【0024】
h-BN粉末は、JIS-K-6217-4に準拠して測定した横軸:DBP滴下量(mL)、縦軸:トルク(Nm)、の曲線から算出されるDBP吸収量(mL/100g)において、70mL/100g以下であることが好ましく、65mL/100g以下であることがより好ましく、60mL/100g以下であることがさらに好ましい。DBP吸収量が70mL/100g以下であることにより、比表面積が同じであってDBP吸収量が70mL/100gを超えるh-BN粉末に比べて樹脂充填粘度の上昇を抑制できる。
【0025】
<2.樹脂組成物>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、上述のh-BN粉末および樹脂を含む。樹脂組成物の作製方法は特に限定されず、公知の作製方法により樹脂組成物を作製できる。
【0026】
(2-1.樹脂)
樹脂は、特に制限されず、例えばシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂であってよい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型の水素添加エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂、およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物型のエポキシ樹脂等が挙げられる。これらエポキシ樹脂の1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。また、硬化剤としてアミン系樹脂、酸無水物系樹脂、フェノール系樹脂、イミダゾール類等を用いてもよい。これら硬化剤も1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。これら、硬化剤のエポキシ樹脂に対する配合量は、エポキシ樹脂に対する当量比で、0.5~1.5当量比、好ましくは0.7~1.3当量比である。本明細書において、これらの硬化剤も樹脂に包含される。
【0027】
また、シリコーン系樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂とシリコーン系架橋剤との混合物である公知の硬化性シリコーン樹脂を制限なく使用することができる。付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、分子中にビニル基またはヘキセニル基等のアルケニル基を官能基としてもつポリジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系架橋剤としては、例えば、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキサン基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジェンシロキサン)、ポリ(ハイドロジェンシルセスキオキサン)等のケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサン等が挙げられる。また、硬化触媒には、シリコーン樹脂の硬化に用いられる公知の白金系触媒等を制限なく使用することができる。例えば、微粒子状白金、炭素粉末に担持した微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム触媒等が挙げられる。
【0028】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物における樹脂とh-BN粉末との配合比は、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば、全樹脂組成物中に上述のh-BN粉末を好ましくは30~90体積%、より好ましくは40~80体積%、さらに好ましくは50~70体積%配合することができる。
【0029】
(2-2.その他の成分)
樹脂組成物は、六方晶窒化ホウ素および樹脂以外の成分を含んでいてもよい。このような成分を本明細書において「その他の成分」と称する。
【0030】
例えば、樹脂組成物は前記h-BN粉末の一部を無機フィラーに置き換えてもよい。無機フィラーとしては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭化ケイ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク等が挙げられる。
【0031】
さらに、樹脂組成物は、硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤、分散剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、粘度調整剤、抗菌剤などを本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜含んでいてもよい。
【0032】
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物の用途は、例えば、接着フィルム、プリプレグ等のシート状積層材料(樹脂シート)、回路基板(積層板用途、多層プリント配線板用途)、ソルダーレジスト、アンダ-フィル材、熱接着剤、ダイボンディング材、半導体封止材、穴埋め樹脂、部品埋め込み樹脂、熱インターフェース材(シート、ゲル、グリース等)、パワーモジュール用基板、電子部品用放熱部材等を挙げることができる。
【0033】
<3.樹脂シート>
本発明の一実施形態に係る樹脂シートは、上述の樹脂組成物を含む。樹脂シートは、樹脂組成物から形成されたシートとも言える。樹脂シートの厚さは用途に応じて適宜設定でき、例えば、20~200μmであってもよく、20~100μmであってもよく、20~50μmであってもよい。通常、薄い樹脂シートは熱伝導性には優れるが、絶縁耐力に劣る傾向がある。本発明の一実施形態に係る樹脂シートは、上述のh-BN粉末を含んでいるため、比較的薄い場合にも優れた熱伝導性と絶縁耐力とを兼ね備えることができる。樹脂組成物をシート状に形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0034】
樹脂シートは、面配向指数Bが0.95以下であることが好ましい。面配向指数Bは下記式より算出される。
面配向指数B=log(A/6.67)
式中、Aは、XRD測定による、h-BN一次粒子由来の(002)面と(100)面とのピーク比を表し、下記式より算出される。なお、下記式では、(002)面由来のピークの値を単に(002)と表し、(100)面由来のピークの値を単に(100)と表している。
ピーク比A=(002)/(100)
樹脂シートにおける、面配向指数Bが0.95以下であることにより、作製した樹脂シートでは、異方性が改善され、良好な熱伝導性を示す。面配向指数Bは0に近いほど、h-BN一次粒子の熱伝導性の高い面が樹脂シートの面方向に対して垂直に近い状態で配向していることを表す。本明細書において、「異方性」とは、例えば、樹脂シートの面方向の熱伝導性が良好である一方で、厚さ方向の熱伝導性が劣ることを意図する。そして、「異方性の改善」とは、樹脂シートにおける厚さ方向の熱伝導性が改善されたことを示す。
【0035】
樹脂シートは、温度波熱分析法(ISO22007-3)に準拠して測定した熱伝導率が、3.5W/m・K以上であることが好ましく、4.5W/m・K以上であることがより好ましい。熱伝導率が3.5W/m・K以上であれば、樹脂シートは良好な熱伝導性を有する。
【0036】
樹脂シートの絶縁耐力の指標として耐電圧を用いることができる。樹脂シートは、JIS K6911:2006の熱硬化性プラスチック一般試験方法の「5.8 耐電圧(成形材料)」に準拠して測定した耐電圧が、30kV/mm以上であることが好ましく、35kV/mm以上であることがより好ましい。耐電圧が30kV/mm以上であれば、樹脂シートは良好な絶縁性を有する。
【0037】
さらに、熱伝導率が3.5W/m・K以上、かつ、耐電圧が30kV/mm以上であれば、樹脂シートは、高熱伝導性と高絶縁耐力とを兼ね備える。
【0038】
<4.六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法>
本発明の一実施形態に係るh-BN粉末の製造方法は、ホウ素酸化物と、窒素を含む有機化合物と、炭酸リチウムと、を含む混合粉末を加熱する加熱工程を含む。当該製造方法により、上述の高熱伝導性および高絶縁耐力を示す樹脂シートの作製に用いられるh-BN粉末を得ることができる。
【0039】
(4-1.混合粉末)
混合粉末に含まれるホウ素酸化物としては、三酸化二ホウ素(酸化ホウ素)、二酸化二ホウ素、三酸化四ホウ素、五酸化四ホウ素、硼砂、または無水硼砂等を例示でき、なかでも三酸化二ホウ素を用いることが好ましい。ホウ素酸化物として三酸化二ホウ素を用いることにより、安価な原料を使用するので工業的に有益である。なお、ホウ素酸化物として、二種以上を併用してもよい。
【0040】
混合粉末に含まれる窒素を含む有機化合物としては、メラミン、アンメリン、アンメリド、メラム、メロン、ジシアンジアミド、および尿素等を例示でき、なかでもメラミンを用いることが好ましい。窒素を含む有機化合物としてメラミンを用いることにより、安価な原料を使用するので工業的に有益である。なお、窒素を含む有機化合物として、二種以上を併用してもよい。
【0041】
炭酸リチウムは、溶融することにより、h-BN一次粒子を成長させるための助剤として作用するフラックスとなる。また、炭酸リチウムを用いた場合、上述のような特定の形状を有するh-BN一次粒子を得やすい傾向がある。
【0042】
混合粉末は、ホウ素酸化物、窒素を含む有機化合物および炭酸リチウム以外に炭酸カルシウム、または炭酸ナトリウム等のアルカリ炭酸塩を含んでいてもよい。
【0043】
混合粉末における窒素原子に対するホウ素原子の重量比(B/N)は、0.2以上、0.4以下であることが好ましく、0.25以上、0.35以下であることがより好ましい。B/Nが0.2以上であることにより、B源を確保し、十分な収率を確保することができる。また、B/Nが0.4以下であることにより、窒化に十分なN源を確保することができる。なお、加熱工程において加熱する混合粉末における窒素原子は、窒素を含む有機化合物由来であり、過熱工程において加熱する混合粉末におけるホウ素原子は、ホウ素酸化物由来である。
【0044】
混合粉末における炭酸リチウムに対するホウ素原子の重量比(B/Li2CO3)は、0.22以上、0.98以下であることが好ましく、0.30以上、0.80以下であることがより好ましい。B/Li2CO3が0.22以上であることにより、フラックスの量を適度に抑制できるため、h-BN一次粒子を適度に凝集させることができる。また、B/Li2CO3が0.98以下であることにより、十分な量のフラックスを形成することができるため、特定の形状を有するh-BN一次粒子を均一に得ることができる。
【0045】
(4-2.加熱工程)
加熱工程では、混合粉末を最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱することが好ましい。1200℃以上の温度で混合粉末を加熱することにより、h-BN一次粒子の粒子径が過度に小さくなることを防ぎ、かつ、アスペクト比が大きくなることを抑制できる。最高温度は、1250℃以上であることがより好ましく、1300℃以上であることがさらに好ましい。また、1500℃以下の温度で混合粉末を加熱することにより、炭酸リチウムの揮発を防ぐことができるとともに、h-BN一次粒子の粒子径およびアスペクト比が大きくなることを抑制できる。最高温度は1450℃以下であることがより好ましい。
【0046】
加熱工程では、不活性ガス雰囲気下であって、常圧または減圧環境下において、混合粉末を加熱することが好ましい。上記環境において加熱することにより、加熱炉体の損傷を抑制できる。なお、本明細書において、不活性ガス雰囲気下とは、混合粉末を加熱する容器に不活性ガスを流入させ、当該容器内部の気体を不活性ガスで置換した状態である。不活性ガスの流入量は、特に限定されないが、不活性ガスの流入量が5L/min.以上であってよい。また、不活性ガスは、例えば窒素ガス、炭酸ガスまたはアルゴンガス等であってよい。
【0047】
加熱工程では、当該加熱工程中にガス交換が起こらない反応容器の内部に混合粉末を配置して行うことも、好ましい手法として例示できる。加熱工程において、混合粉末に含まれるホウ素酸化物はh-BN粉末の生成反応に使用されるが、一部は加熱により揮発するためh-BN粉末の生成反応に使用されない。ここで、加熱工程中にガス交換が起こらない反応容器の内部に混合粉末を配置することにより、混合粉末からのホウ素酸化物の揮発を抑制できる。これにより、h-BN粉末の生成反応に使用されるホウ素酸化物の量を増加させることができ、h-BN粉末の収率を向上させることができる。
【0048】
なお、本明細書において「ガス交換が起こらない」とは、反応容器内部の気体と反応容器外部の気体とが交換されないことを意味する。なお、加熱工程では、h-BN粉末の生成反応の進行、および混合粉末の揮発または分解により反応容器内部で気体が発生する。そのため、意図的に反応容器内部に外部から気体を取り入れなければよく、反応容器内部の気体を完全に反応容器外部に放出されないようにする必要はない。
【0049】
反応容器の構造、大きさ、形状、材質などは特に限定されず、加熱温度または原料などの製造条件を考慮して、十分な耐久性、耐熱性、耐圧性、耐腐食性などを有するように決定され得る。
【0050】
ガス交換が起こらないようにする機構としては、例えば反応容器として蓋付きの反応容器を使用することが挙げられる。蓋付きの反応容器であれば、蓋により外部と区切られているため、反応容器外部からの気体の流入を抑制することができ、ガス交換が起こらない。
【0051】
また、反応容器が完全に密閉されていると、h-BN粉末の生成反応の進行、および混合粉末の揮発または分解による気体の発生、または加熱による反応容器内の気体の膨張などにより、容器内部の圧力が高くなる。このような場合、反応容器が破損する虞があったり、反応容器を耐圧構造とするために反応容器の材質および形状に制限が発生したりする。そのため、h-BN粉末の収率に大きな影響を与えない範囲で、過剰な反応容器内部の気体を適宜放出させることが好ましい。
【0052】
過剰な反応容器内部の気体を放出する方法としては、例えば、反応容器に圧力調節弁を取り付ける方法、または反応容器に小さな穴を空けておく方法などが挙げられる。また、反応容器が蓋付き容器である場合は、蓋を反応容器上部に配置し、特に固定をせずに乗せ置くことで、内部圧力が低い時は蓋の自重により反応容器は密閉されるが、内部圧力が高くなれば蓋が持ち上げられて、反応容器内部の気体が外部に排出される。そのため、蓋付き容器とすることで簡便にガス交換が起こらないようにしつつ、過剰な反応容器内部の気体を放出することが可能であり、好ましい形態として挙げられる。この場合、単位面積当たりの蓋の重量は、5kg/m2~20kg/m2の範囲であることが好ましい。なお、単位面積当たりの蓋の重量は、蓋の重量を反応容器の内部空間に面する蓋の面積で除した値である。
【0053】
反応容器の形状は特に制限されず、円筒状または方形状など任意の形状を使用可能である。反応容器の形状は、加熱および冷却の繰り返しによる反応容器の破損を防止する観点からは円筒状であることが好ましく、加熱炉内に設置する際にスペースを有効活用して生産効率を向上させる観点からは方形状が好ましい。
【0054】
反応容器の材質は、加熱工程における加熱温度である1200℃以上1500℃以下に耐えられるものであれば特に制限されず、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ、マグネシアおよびカルシア、並びにシリカおよびアルミナを主成分とするコージライト、ムライト等の各種セラミックス焼結体が挙げられる。また、反応生成物であるh-BN粉末の汚染防止の観点からは、反応容器の材質を窒化ホウ素とすることも好ましい態様であり、窒化ホウ素以外の材料で製造した反応容器の内面(混合粉末および生成したh-BN粉末が接触する面)を窒化ホウ素で被覆することも好ましい様態として挙げることができる。
【0055】
反応容器の内部に配置する混合粉末の量は特に限定されないが、少なすぎると反応容器内の気相部が多いため、ホウ素酸化物の揮発が十分に抑制されず、収率の向上効果が限定的になってしまう。一方、混合粉末の量が多すぎると、気相部が少ないため反応容器内の圧力が上がりやすくなる。そのため、反応容器内で混合粉末が占める容積は、反応容器の容積の50%~90%の範囲内であることが好ましく、60%~80%であることがさらに好ましい。なお、本明細書において混合粉末が占める容積とは、反応容器に入れた際に混合粉末の粒子間の空隙も含んだ混合粉末が占める部分の容積である。
【0056】
ガス交換が起こらない反応容器の内部に配置した混合粉末を加熱する方法は特に限定されないが、加熱炉中に当該反応容器を設置して所望の温度に加熱することが、簡便に実施できるため好ましい形態である。
【0057】
(4-3.その他の工程)
h-BN粉末の製造方法では、加熱工程以外の工程を含んでよい。このような工程を本明細書において「その他の工程」と称する。h-BN粉末の製造方法に含まれるその他の工程としては、例えば、混合工程、酸洗浄工程、水洗浄工程、乾燥工程、および分級工程が挙げられる。
【0058】
混合工程は、ホウ素酸化物、窒素を含む有機化合物、および炭酸リチウム等を加熱工程前に混合する工程である。事前に混合粉末を混合することにより、反応が略均一に進むため、作製されたh-BN一次粒子の粒子径等の変動が抑制される。
【0059】
酸洗浄工程は、酸を用いてh-BN粉末を洗浄することにより、h-BN粉末に付着した炭酸リチウム、酸化ホウ素、または炭酸リチウムおよび酸化ホウ素の複合酸化物等を除去する工程である。酸洗浄工程では、塩酸等の希酸を用いることが好ましい。酸洗浄方法は特に限定されず、シャワリングによる酸洗浄であってもよく、漬け置きによる酸洗浄、または撹拌による酸洗浄であってもよい。
【0060】
水洗浄工程は、酸洗浄工程でh-BN粉末に付着した酸を除去するために、h-BN粉末を水洗浄する工程である。水洗浄方法は特に限定されず、h-BN粉末を濾別後、シャワリングによる水洗浄であってもよく、漬け置きによる水洗浄であってもよい。
【0061】
乾燥工程は、作製したh-BN粉末を乾燥させる工程である。乾燥方法は、高温乾燥、または減圧乾燥など、特に限定されない。
【0062】
分級工程は、h-BN粉末を粒子の大きさおよび/または粒子の形状等に応じて分ける工程である。分級操作は、篩分けであってもよく、湿式分級または気流分級であってよい。
【0063】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
〔まとめ〕
〔1〕六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集した六方晶窒化ホウ素凝集粒子を含み、比表面積が0.5m2/g以上、5.0m2/g以下であり、前記六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径が0.6μm以上、4.0μm以下、かつ、アスペクト比が1.5以上、5.0以下である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【0065】
〔2〕タップ嵩密度が0.40g/cm3以上である、〔1〕に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【0066】
〔3〕粒度分布測定により測定されたD95が5~15μmである、〔1〕または〔2〕に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【0067】
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の六方晶窒化ホウ素粉末および樹脂を含む、樹脂組成物。
【0068】
〔5〕〔4〕に記載の樹脂組成物を含み、XRD測定による、前記六方晶窒化ホウ素一次粒子由来の(002)面と(100)面とのピーク比A=(002)/(100)から算出される面配向指数B=log(A/6.67)が0.95以下である、樹脂シート。
【0069】
〔6〕ホウ素酸化物と、窒素を含む有機化合物と、炭酸リチウムとを含む混合粉末を加熱する加熱工程を含み、前記混合粉末における窒素原子に対するホウ素原子の重量比は、0.2以上、0.4以下であり、前記混合粉末における炭酸リチウムに対するホウ素原子の重量比は、0.22以上、0.98以下であり、前記加熱工程において、前記混合粉末を、最高温度1200℃以上、1500℃以下で加熱する、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【0070】
〔7〕前記加熱工程は、加熱工程中にガス交換が起こらない反応容器の内部に前記混合粉末を配置して行われる、〔6〕に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【実施例】
【0071】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0072】
〔h-BN一次粒子の評価方法〕
<長径・アスペクト比>
h-BN一次粒子の長径およびアスペクト比はFE-SEM(日立ハイテクノロジーズ株式会社製:S5500)を用いて測定した。倍率5000倍の走査電子顕微鏡観察像から異なるh-BN一次粒子100個を無作為に選び、h-BN一次粒子の長径の長さ、厚みを測定してそれぞれのアスペクト比(長径の長さ/厚みの長さ)を算出し、その平均値をアスペクト比とした。また、長径の長さは、測定された値の平均値を算出して求めた。
【0073】
〔h-BN粉末の評価方法〕
<比表面積>
h-BN粉末の比表面積は、マウンテック社製:Macsorb HM model-1201を使用して測定した。
【0074】
<熱伝導率>
樹脂シートの熱伝導率(W/m・K)は、熱拡散率(m2/秒)×密度(kg/m3)×比熱(J/kg・K)で求めた。
【0075】
熱拡散率は温度波熱分析法(アイフェイズ社製:ai-Phase Mobile u、ISO22007-3)、密度はアルキメデス法(メトラー・トレド社製:XS204V)、比熱は示差走査熱量計(DSC)法(リガク社製:Thermo Plus Evo DSC8230)を使用して測定した。
【0076】
<耐電圧>
樹脂シートの耐電圧(kV/mm)は、京南電機社製:耐電圧試験器YPAD-0225を使用し、JIS K6911:2006の熱硬化性プラスチック一般試験方法の「5.8 耐電圧(成形材料)」に準じて測定した。
【0077】
<面配向指数>
樹脂シートの面配向指数は、XRDを用いて測定した。測定装置としては、Rigaku社製全自動水平型多目的X線回折装置 SmartLabを用いた。測定条件はスキャンスピード20度/分、ステップ幅0.02度、スキャン範囲10~90度とした。
【0078】
<粒度分布>
h-BN粉末の粒度分布は、日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を使用して測定した。なお、測定サンプルは、以下に示す方法により調製した。まず、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中にh-BN粉末1gを分散させた。次いでBRANSON社製:超音波ホモジナイザー(SONIFIER SFX250)を用いて、チップ先端をスクリュー管底面から10mmに設置し、振幅40%、20分間の超音波処理を行った。そして、超音波処理を行った測定サンプルの粒度分布測定を行った。
【0079】
<タップ嵩密度>
h-BN粉末のタップ嵩密度は、株式会社セイシン企業製:タップデンサーKYT-5000を使用して測定した。100mLの試料セルを用い、測定条件は、タップ速度120回/分、タップ高さ5cm、タップ回数500回とした。
【0080】
<樹脂充填粘度>
シリコーン樹脂(ダウ・東レ株式会社製CY52-276A)にh-BN粉末を20体積%充填することにより作製した樹脂組成物について、レオメーター(TA Instruments社AR2000ex)で測定温度25℃、せん断速度1/S時の粘度を測定した。この粘度を、樹脂充填粘度とした。
【0081】
<DBP吸収量>
h-BN粉末についてJIS-K-6217-4に準拠して測定した横軸:DBP滴下量(mL)、縦軸:トルク(Nm)、の曲線から算出されるDBP吸収量(mL/100g)を求めた。測定装置としては、株式会社あさひ総研製:S-500を用いた。測定条件は、DBP滴下速度4mL/min、撹拌翼回転数125rpm、試料投入量15~25g、最大トルクの70%の滴下量を用いてDBP吸収量とした。DBP(Dibutyl Phthalate)としては和光純薬工業株式会社製:特級試薬(販売元コード021-06936)を用いた。
【0082】
〔実施例1〕
まず、ホウ素酸化物として酸化ホウ素14.6g、窒素を含む有機化合物としてメラミン24g、炭酸リチウム10.4g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末において、B/Nは、0.28であり、B/Li2CO3は0.44であった。
【0083】
作製した混合粉末に対してバッチ式焼成炉を用い、加熱工程において、窒素雰囲気下で最高温度1400℃にて1時間加熱することによりh-BN粉末を作製した。作製したh-BN粉末を5%塩酸水溶液で酸洗浄した後、濾別、水洗浄、および乾燥させた。
図1は、実施例1に係るh-BN粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【0084】
基剤樹脂として、エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製JER806)100重量部と硬化剤(脂環式ポリアミン系硬化剤、三菱化学株式会社製JERキュア113)28重量部との混合物を準備した。
【0085】
次に、各基材樹脂40体積%と、作製したh-BN粉末60体積%とをメチルエチルケトンを溶媒として混合した後、溶媒を乾固させて樹脂組成物を得た。
【0086】
乾固させた樹脂組成物を金型体に注型し、熱プレスを使用し、温度:150℃、圧力:5MPa、保持時間:1時間の条件で硬化させ、直径10mm、厚さ0.15mmのシートを作製した。
【0087】
〔実施例2〕
加熱工程における最高温度が1500℃であること以外は実施例1と同様の方法で、h-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
図2は、実施例2に係るh-BN粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【0088】
〔実施例3〕
加熱工程において、作製した混合粉末を、上部に蓋のある、ガス交換が起こらない蓋付き反応容器に入れた。蓋付き反応容器は、内寸170mm×170mm×高さ30mm(容積867000mm3)であり、蓋の重量が300g(単位面積当たりの蓋の重量:0.0104g/mm2)である。そして、混合粉末を入れた蓋付き反応容器をバッチ式焼成炉内に配置して加熱した以外は、実施例1と同様の方法でh-BN粉末を作製した。なお、蓋付き反応容器内における混合粉末の容積は、578000mm3であり、蓋付き反応容器内で混合粉末が占める容積は67%であった。
【0089】
〔比較例1〕
比較例1として、ホウ素酸化物として酸化ホウ素14.6g、窒素を含む有機化合物としてメラミン40g、炭酸リチウム10.4g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末は、B/Nが0.17であり、B/Li2CO3が0.44であった。メラミンの量が多いこと以外は実施例2と同じ方法によりh-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
【0090】
〔比較例2〕
比較例2として、ホウ素酸化物として酸化ホウ素14.6g、窒素を含む有機化合物としてメラミン12.3g、炭酸リチウム10.4g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末は、B/Nが0.55であり、B/Li2CO3が0.44であった。メラミンの量が少ないこと以外は実施例2と同じ方法によりh-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
【0091】
〔比較例3〕
比較例3として、ホウ素酸化物として酸化ホウ素14.6g、窒素を含む有機化合物としてメラミン24g、炭酸リチウム3.76g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末は、B/Nが0.28であり、B/Li2CO3が1.22であった。炭酸リチウムの量が少ないこと以外は実施例2と同じ方法によりh-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
【0092】
〔比較例4〕
比較例4として、ホウ素酸化物として酸化ホウ素14.6g、窒素を含む有機化合物としてメラミン24g、炭酸リチウム25g、を混合することによって混合粉末を作製した。作製した混合粉末は、B/Nが0.28であり、B/Li2CO3が0.18であった。炭酸リチウムの量が多いこと以外は実施例2と同じ方法によりh-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
【0093】
〔比較例5〕
比較例5として、加熱工程における最高温度を1100℃へ変更したこと以外は実施例1と同じ方法によりh-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
【0094】
〔比較例6〕
比較例6として、加熱工程における最高温度を1600℃へ変更したこと以外は実施例1と同じ方法によりh-BN粉末、樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
【0095】
〔比較例7〕
h-BN粉末を株式会社MARUKA製AP-10Sへ変更したこと以外は、実施例1と同じ方法により樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
図3は、比較例7に係るh-BN粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【0096】
〔比較例8〕
h-BN粉末を日新リフラテック株式会社製RBNへ変更したこと以外は、実施例1と同じ方法により樹脂組成物および樹脂シートを作製した。
図4は、比較例8に係る六方晶窒化ホウ素粉末の走査電子顕微鏡画像を示す図であり、(a)は2000倍、(b)は5000倍、(c)は10000倍に拡大して撮影した図である。
【0097】
〔結果〕
表1~3に、h-BN粉末および樹脂シートの作製条件および物性等を示す。また、表4にh-BN粉末の収率を示す。収率は、原料の混合粉末中のホウ素原子の量から計算されるh-BNの作製量に対する実際に得られたh-BN粉末の量として算出した。
【表1】
【表2】
【表3】
【0098】
【表4】
実施例1~3では、長径およびアスペクト比が特定の範囲であるh-BN一次粒子、並びに比表面積が特定の範囲であるh-BN粉末が得られた。また、実施例1および実施例2にて作製したh-BN粉末はいずれも樹脂充填粘度が低いため、樹脂に対してh-BN粉末を高密度に充填できると考えられる。さらに、樹脂シートの面配向指数も0.95以下を示し、異方性が改善されていた。そして、実施例1および実施例2にて作製した樹脂シートは、熱伝導性および絶縁耐力ともに良好であった。以上のことより、長径およびアスペクト比が特定の範囲であるh-BN一次粒子を凝集させたh-BN凝集粒子を含み、かつ比表面積が特定の範囲であるh-BN粉末を用いることにより、高熱伝導性および高絶縁耐力を示す樹脂シートが得られることがわかる。
【0099】
また、実施例1と実施例3とを比較すると、加熱工程において、ガス交換が起こらない反応容器の内部に前記混合粉末を配置した実施例3は、ガス交換が起こらない反応容器を使用していない実施例1と比較して高い収率でh-BNを製造することができた。
【0100】
実施例2に比べてB/Nが低い比較例1の作製方法では、h-BN一次粒子の長径が長くなった。また、h-BN粉末は、タップ嵩密度が小さいため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いて得られた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、熱伝導性に劣った。
【0101】
実施例2に比べB/Nが高い比較例2の作製方法では、h-BN一次粒子のアスペクト比が大きくなった。また、h-BN粉末は、樹脂充填密度が大きいため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いて得られた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、絶縁耐力に劣った。
【0102】
実施例2に比べB/Li2CO3が高い比較例3の作製方法では、h-BN一次粒子のアスペクト比が大きくなった。また、h-BN粉末は、比表面積および樹脂充填密度が大きいため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いて得られた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、絶縁耐力に劣った。
【0103】
実施例2に比べB/Li2CO3が低い比較例4の作製方法では、h-BN一次粒子の長径が長くなった。また、h-BN粉末は、タップ嵩密度が小さいため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いて得られた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、熱伝導性に劣った。
【0104】
実施例2に比べ加熱工程における最高温度が低い比較例5の作製方法では、h-BN一次粒子の長径が小さくなり、アスペクト比が大きくなった。また、h-BN粉末は、比表面積、D95および樹脂充填密度が大きいため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いて得られた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、熱伝導性に劣った。
【0105】
実施例2に比べ加熱工程における最高温度が高い比較例6の作製方法では、h-BN一次粒子の長径およびアスペクト比が大きくなった。また、h-BN粉末は、タップ嵩密度が小さく、かつ、D95が大きいため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いて得られた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、熱伝導性に劣った。
【0106】
比較例7において、アスペクト比および比表面積が大きいMARUKA社製AP-10Sは、樹脂充填粘度が高いため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、熱伝導性および絶縁耐力に劣った。
【0107】
比較例8において、比表面積が大きく、タップ嵩密度が小さい日新リフラ社製のRBNは、樹脂充填粘度が高いため、充填性に劣ると考えられる。このh-BN粉末を用いた樹脂シートは、面配向指数も0.95を超え、異方性があった。そして、この樹脂シートは、熱伝導性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、熱伝導性および絶縁耐力に優れた電子部品に利用することができる。