IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の特許一覧 ▶ 独立行政法人家畜改良センターの特許一覧

特許7431420ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体
<>
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図1
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図2
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図3
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図4
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図5
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図6
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図7
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図8
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図9
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図10
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図11
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図12
  • 特許-ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20240207BHJP
【FI】
A01K29/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021575741
(86)(22)【出願日】2021-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2021002612
(87)【国際公開番号】W WO2021157428
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2020016409
(32)【優先日】2020-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】301029403
【氏名又は名称】独立行政法人家畜改良センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青木 真理
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 綾
(72)【発明者】
【氏名】西浦 明子
(72)【発明者】
【氏名】大井 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】青野 晃
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】永長顕親、中尾敏彦、森好政晴、河田啓一郎、中尾茂,ホルスタイン種乳牛における骨盤サイズと分娩難易度との関係,北海道獣医師会雑誌,日本,社団法人北海道獣医師会,1994年07月01日,Vol. 38, No. 6,pp. 114 - 120
【文献】Zenon Nogalski and Wladyslaw Mordas,Pelvic Parameters in Holstein-Friesian and Jersey Heifers in Relation to Their calving,Pakistan Veterinary Journal,2012年,Vol. 32, No. 4,pp. 507 - 510
【文献】Xiangyuan Li, Cheng Cai (Ph.D.), Ruifei Zhang, Lie Ju, and Jinrong He,Deep cascaded convolutional models for cattle pose estimation,Computers and Electronics in Agriculture,2019年09月,Vol. 164
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
G06T 7/00
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験ウシを含む撮影画像を取得する取得部と、
前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出部と、
前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点を表す骨格情報を生成する生成部と、
前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定部と
を備え
前記特徴点は、ウシの骨盤周囲及び下肢の関節及び骨の端部の位置に対応する点、並びに、左後乳腺始端、右後乳腺始端、左後乳頭付根、右後乳頭付根、き甲、胸底、および、十字部に対応する点の少なくともいずれか1つを含む、ウシの分娩困難性推定装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記骨格情報から算出した隣接する特徴点間の位置関係を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する、請求項1に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項3】
前記抽出部が抽出した前記ウシ画像から前記被験ウシの品種を識別する識別部をさらに備え、
前記生成部は、前記ウシ画像及び前記被験ウシの品種を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する、請求項1から2のいずれか1項に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項4】
前記被験ウシは、ホルスタイン種を含む乳牛である、請求項1から3のいずれか1項に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項5】
教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定するための推定モデルを学習させる学習部をさらに備えた、請求項1から4のいずれか1項に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項6】
前記学習部は、ウシ画像を表す学習用データと、ウシの特徴点の位置を表す学習用ラベルとを含む教師データを用いて、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する骨格モデルを学習させる、請求項5に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項7】
前記学習部は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む教師データを用いて、前記推定モデルを学習させる、請求項5に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項8】
前記学習部は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、当該ウシの実際の分娩時の分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む再学習用教師データを用いて、前記推定モデルを再学習させる、請求項7に記載のウシの分娩困難性推定装置。
【請求項9】
ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む第1教師データを取得するデータ取得部と、
前記第1教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定する推定モデルを学習させる第1学習部と
を備え
前記特徴点は、ウシの骨盤周囲及び下肢の関節及び骨の端部の位置に対応する点、並びに、左後乳腺始端、右後乳腺始端、左後乳頭付根、右後乳頭付根、き甲、胸底、および、十字部に対応する点の少なくともいずれか1つを含む、学習装置。
【請求項10】
前記データ取得部は、ウシ画像を表す学習用データと、ウシの特徴点の位置を表す学習用ラベルとを含む第2教師データをさらに取得し、
前記第2教師データを用いて、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する骨格モデルを学習させる第2学習部をさらに備えた、請求項9に記載の学習装置。
【請求項11】
被験ウシを含む撮影画像を取得する取得ステップと、
前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出ステップと、
前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する生成ステップと、
前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定ステップと
を包含し
前記特徴点は、ウシの骨盤周囲及び下肢の関節及び骨の端部の位置に対応する点、並びに、左後乳腺始端、右後乳腺始端、左後乳頭付根、右後乳頭付根、き甲、胸底、および、十字部に対応する点の少なくともいずれか1つを含む、推定方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれか1項に記載のウシの分娩困難性推定装置としてコンピュータを機能させるための推定プログラムであって、上記抽出部、上記生成部、及び上記推定部としてコンピュータを機能させるための推定プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシは骨格の特徴から、ウマやヒツジのような他の家畜と比較して、物理的に難産を引き起こし易いことが知られている。難産のウシは、分娩後の予後不良がその後の子ウシの生産に大きく影響し、供用年数を短縮させる一因となっている。そのため、ウシの分娩困難性を表す難産リスクが予め予測できれば、難産リスクに応じた対応が可能であり有益である。
【0003】
ウシの難産リスクを予測する技術として、特許文献1及び非特許文献1~3に記載された技術が知られている。特許文献1には、遺伝子マーカーを利用して出産時に難産であったウシの出産特性を確定する技術が記載されている。非特許文献1~3には、骨盤腔の大きさや形状、骨盤の傾き等の計測値からウシの難産リスクを予測する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特表2009-525734号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Management of reproduction of beef-cattle, sheep and pigs., Dziuk PJ and Bellows RA., Journal of Animal Science. 57(suppl.2), 355-379.1983.
【文献】Effect of selected factors on the course of parturition in Holstein-Friesian heifers. Nogalski, Z., 2002. Electronic, Journal of Polish Agricultural Universities., 5(2) .
【文献】Pelvic parameters in Holstein-Friesian and Jersey heifers in relation to their calving.Nogalski, Z. et al.,2012. Pakistan Veterinary Journal., 32(4):507-510.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、分娩後に現象としてウシの難産リスクを記録及び解析するものであり、分娩前にウシの難産リスクを予測することはできない。また、非特許文献1~3に記載された技術では、骨盤腔や骨盤を実際に計測する必要がある。骨盤腔や骨盤は、ウシの直腸に測定機器を挿入し、直腸内部から直腸壁越しに測定する必要がある。したがって、作業者のみならず、ウシにも、時間的及び労力的に相当な負荷がかかる。また、骨盤腔の計測は、基本的に妊娠中は計測できないため、分娩直前に難産リスクを推定することが困難である。
【0007】
本発明の一態様は、分娩前に容易に分娩困難性を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るウシの分娩困難性推定装置は、被験ウシを含む撮影画像を取得する取得部と、前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出部と、前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点を表す骨格情報を生成する生成部と、前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定部とを備えている。
本発明の一態様に係る学習装置は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む第1教師データを取得するデータ取得部と、前記第1教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定する推定モデルを学習させる第1学習部とを備えている。
本発明の一態様に係る推定方法は、被験ウシを含む撮影画像を取得する取得ステップと、前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出ステップと、前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する生成ステップと、前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定ステップとを包含する。
本発明の一態様に係るウシの分娩困難性推定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記ウシの分娩困難性推定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記ウシの分娩困難性推定装置をコンピュータにて実現させるウシの分娩困難性推定装置の推定プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、被験ウシを含む撮影画像を参照して、分娩前に容易に分娩困難性を推定することできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態に係るウシの分娩困難性推定装置の要部構成を示すブロック図である。
図2図1のウシの分娩困難性推定装置において利用するウシの特徴点を説明する説明図である。
図3図1のウシの分娩困難性推定装置による推定処理を示すフローチャートである。
図4図1のウシの分娩困難性推定装置による推定処理を説明する説明図である。
図5図1のウシの分娩困難性推定装置による推定結果の表示例を示す図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るウシの分娩困難性推定装置の要部構成を示すブロック図である。
図7図6のウシの分娩困難性推定装置による学習処理を示すフローチャートである。
図8図6のウシの分娩困難性推定装置による学習処理を説明する説明図である。
図9】本発明の一実施形態に係る学習装置及びウシの分娩困難性推定装置の要部構成を示すブロック図である。
図10図1のウシの分娩困難性推定装置において利用するウシの特徴点の他の例を説明する説明図である。
図11図1のウシの分娩困難性推定装置による推定結果の他の表示例を示す図である。
図12】実施例において使用したウシの側面における説明変数の一部を説明する図である。
図13】実施例において使用したウシの後面における説明変数の一部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体の実施の形態を説明する。ただし、以下に説明するウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体は、本発明に係るウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体の一態様である。したがって、本発明に係るウシの分娩困難性推定装置、学習装置、推定方法、推定プログラム、及び記録媒体は以下の態様に限定されない。なお、以下では、「ウシの分娩困難性推定装置」を、単に「推定装置」とも称する。
【0012】
[推定装置]
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る推定装置は、ウシの画像から、そのウシの分娩困難性を推定する装置である。第1実施形態に係る推定装置によれば、分娩前にウシの分娩困難性を容易に推定することができるので、ウシの分娩困難性に応じてウシの飼育管理を適切に行うことができる。その結果、ウシの分娩事故の発生を抑え、新生子牛死亡に伴う損失(一例として、1頭当たり約14万円)と母牛の損耗を防ぐと共に、種雄牛の選定や周産期飼養管理の効率化が見込まれる。
【0013】
推定装置による推定処理の対象は、ウシである。推定装置による推定処理の対象となるウシは、肉牛及び乳牛であり、乳牛には、ホルスタイン種、ジャージー種、ブラウンスイス種、ガーンジー種、エアーシャー種、ディリーショートホーン種、デボン種、デクスター種、イラワラ種、レイクベルダー種、モンベリアード種、ノルマンディ種、ノルウェジアンレッド種、ノーフォークレッド種、サフォークダン種、ダニッシュレッド種、アイリッシュモールド種、草原紅牛、三河牛、新疆褐牛、Bos primigenius taurusに属する種、コブウシ(Bos primigenius indicus)に属する種、バンテン(Bos javanicus)に属する種、水牛(Bubalus arnee)に属する種、及びこれらの交雑種が含まれる。ホルスタイン種の乳牛は、その体表模様から、撮影画像中のウシの画像の識別が容易であるため、推定装置による推定処理により適している。
【0014】
推定装置による推定処理の対象となるウシは、分娩適正年齢に達し、骨盤を含む体が成長した成牛であることが好ましいが、成長段階にある子牛であってもよい。また推定処理の対象となるウシは、受胎したウシであってもよいし、未受胎のウシであってもよい。推定装置による推定処理の対象となるウシを、被験ウシと称する。
【0015】
(推定装置の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る推定装置(ウシの分娩困難性推定装置)100の要部構成を示すブロック図である。図1に示すように、推定装置100は、取得部11、抽出部12、生成部13、及び推定部14を備えている。本実施形態において、取得部11、抽出部12、生成部13、及び推定部14は、推定装置100が備える制御部10に含まれる。推定装置100は、さらに、入出力部20及び記憶部30を備えている。また、制御部10は、識別部16をさらに備えている。そして、推定装置100は、カメラ40及び表示装置50と、データの送受信可能に接続されている。
【0016】
制御部10は、記憶部30に予め記憶された、推定装置100が行う動作に必要な一連の処理を示すプログラムを実行する。制御部10は、入出力部20を介して入力されたデータを演算し、演算結果を記憶部30に送るか、又は、入出力部20を介して表示装置50に送る。
【0017】
取得部11は、被験ウシを含む撮影画像を取得する。取得部11は、入出力部20を介して、カメラ40が被験ウシを撮影した撮影画像を取得する。取得部11は、カメラ40により被験ウシを撮影する度毎に撮影画像を取得してもよいし、所定時間毎に撮影画像を取得してもよい。取得部11は、被験ウシの左側部及び右側部の両側部、並びに、後部を撮影した撮影画像をそれぞれ取得することが好ましい。また、取得部11が取得する撮影画像は、被験ウシ以外のウシが含まれない撮影画像であることが好ましいが、例えば、被験ウシ以外にもウシが含まれる撮影画像であってもよい。取得部11は、取得した撮影画像を抽出部12に送る。
【0018】
抽出部12は、撮影画像から被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する。カメラ40が撮影した画像には、被験ウシの画像以外にも、被験ウシの画像の背景画像、他のウシの画像等が含まれる。そのため、抽出部12は、撮影画像から背景画像等の推定処理に不要な画像を取り除き、被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する。ウシ画像は、撮影画像から被験ウシ部分を切り出した被験ウシの画像である。抽出部12は、抽出したウシ画像を生成部13に送る。
【0019】
抽出部12における撮影画像からのウシ画像の抽出は、例えば、従来公知の物体検出アルゴリズムを利用して、撮影画像中のウシ画像を認識することにより行うことができる。このような物体検出アルゴリズムとして、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Networks)を応用したYOLO、Faster R-CNN、SSD等が挙げられる。また、抽出部12は、機械学習を行わない、特徴点マッチングやパターンマッチング等の方法によりウシ画像を抽出してもよい。
【0020】
生成部13は、ウシ画像を参照して、被験ウシの特徴点を表す骨格情報を生成する。被験ウシの骨格情報には、被験ウシの骨格の姿勢、位置及び形状に関する情報が含まれる。一例として、骨格情報における被験ウシの特徴点は、ウシの骨盤周囲及び下肢の関節及び骨の端部の位置に対応する点である。他の例として、被験ウシの特徴点は、被験ウシの下半身骨格の特徴点である。骨格情報には、ウシ画像における特徴点の座標が含まれる。ここで、骨盤周囲には、寛骨と仙骨とで囲まれた腔所である骨盤腔が含まれる。骨格情報に含まれる複数の特徴点間の位置関係により、被験ウシの下半身骨格の姿勢、位置、形状等を表す。
【0021】
図2は、図1の推定装置100において利用するウシの特徴点を説明する説明図である。被験ウシの特徴点は、例えば、図2に示す31点である。図2において、側面図1001はウシの左側部を示し、後面図1002はウシの後部を示し、側面図1003はウシの右側部を示している。
【0022】
図2に示すように、被験ウシの特徴点は、例えば、ウシにおける、1.背線、2.仙骨稜、3.尾根、4.左腰角、5.右腰角、6.左寛(Left thurl)、7.右寛(Right thurl)、8.左坐骨端、9.右坐骨端、10.左膝、11.右膝、12.左足根、13.右足根、14.左飛節、15.右飛節、16.左球節、17.右球節、18.左つなぎ、19.右つなぎ、20.左蹄冠、21.右蹄冠、22.左爪先、23.右爪先、24.左踵、25.右踵、26.左蹄球、27.右蹄球、28.左副蹄/外、29.左副蹄/内、30.右副蹄/内、31.右副蹄/外から選択される。
【0023】
骨格情報には、上述した1~31の全ての特徴点の座標が含まれることが好ましいが、これに限定されない。骨格情報には、上述した1~31より少ない特徴点の座標が含まれていてもよいし、他の特徴点を含めてより多い特徴点の座標が含まれていてもよい。
【0024】
図2に示すような被験ウシの特徴点の座標は、ウシ画像における被験ウシの頭及び背骨の向きから予測される被験ウシの姿勢に応じて補正することが好ましい。骨格情報を生成する場合に参照するウシ画像としては、地面に並行であり、且つ、被験ウシの脊柱に対し垂直(骨盤側面)あるいは平行(骨盤後景)な方向から撮影された画像が適している。したがって、ウシ画像がこのような画像ではない場合には、生成された骨格情報に含まれる特徴点の座標を補正することが好ましい。特徴点の座標の補正は、従来公知の方法により行うことができる。
【0025】
生成部13による骨格情報の生成は、例えば、赤外線等による深度センサを有するカメラを用いて被験ウシを撮影することで取得した骨格画像を参照して、抽出部12が抽出したウシ画像に被験ウシの骨格の特徴点をラベリングすることで生成することができる。被験ウシの骨格画像については、予め記憶部30に記憶されていてもよい。
【0026】
推定部14は、骨格情報を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定する。推定部14は、骨格情報のうち、特に被験ウシの骨盤の形態を表す特徴点を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定する。非特許文献1~3に記載されているように、骨盤腔の大きさや形状、骨盤の傾き等は、ウシの分娩困難性に大きく影響する。したがって、推定部14が、被験ウシの骨盤の形態を表す特徴点を参照することで、骨盤の形態に応じて被験ウシの分娩困難性を推定することができる。
【0027】
推定部14は、骨格情報から算出した隣接する特徴点間の位置関係を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定する。推定部14は、例えば、以下に示す骨格情報に含まれる特徴点間の位置関係を参照する。推定部14は、以下に示す位置関係のうちの1つを参照してもよいし、複数併せて参照してもよい。以下に示す位置関係は、骨盤の形態判別に寄与すると考えられる:(i)1.背線、2.仙骨稜、及び3.尾根を繋いだ線の傾き、(ii)8.左坐骨端と9.右坐骨端との間の距離、(iii)6.左寛と7.右寛との間の距離、(iv)4.左腰角と5.右腰角との間の距離、(v)4.左腰角及び6.左寛を繋いだ線と6.左寛及び8.左坐骨端を繋いだ線とが成す角度、(vi)5.右腰角及び7.右寛を繋いだ線と7.右寛及び9.右坐骨端を繋いだ線とが成す角度、(vii)4.左腰角と6.左寛との間の距離、(viii)6.左寛と8.左坐骨端との間の距離、(viiii)5.右腰角と7.右寛との間の距離、(x)7.右寛と9.右坐骨端との間の距離、(xi)1.背線、2.仙骨稜及び3.尾根をそれぞれ繋いだ線と、4.左腰角、5.右腰角、6.左寛、7.右寛、8.左坐骨端、及び9.右坐骨端をそれぞれ繋いだ線とが成す角度、(xii)1.背線及び3.尾根を繋いだ線から下した垂線が、4.左腰角又は5.右腰角及び8.左坐骨端又は9.右坐骨端にぶつかる足のそれぞれの距離の比、(xiii)3.尾根から下した線が、8.左坐骨端又は9.右坐骨端、6.左寛又は7.右寛、あるいは、8.左坐骨端又は9.右坐骨端と6.左寛又は7.右寛とを結んだ線と垂直に交わる点と3.尾根との間の距離。
【0028】
なお、上述した各特徴点間の距離については、大腿骨の長さ(左後足であれば6.左寛と10.左膝との間の距離)、脛骨の長さ(10.左膝と12.左足根との間の距離)、中足骨の長さ(12.左足根と16.左球節との間の距離)等との相対比で表してもよい。
【0029】
推定部14は、記憶部30に予め記憶された、各特徴点間の位置関係と分娩困難性とを関連付けた情報を取得し、被験ウシの骨格情報から算出した各特徴点間の位置関係に応じた分娩困難性を推定する。各特徴点間の位置関係と分娩困難性との関連付けは、分娩困難性の診断に習熟した専門家によって行われる。例えば、専門家は、各特徴点間の位置関係毎に、当該位置関係の場合の分娩困難性を関連付ける。
【0030】
推定部14は、被験ウシの骨格情報を参照して、被験ウシの骨盤又は骨盤腔の大きさ又は形状、骨盤の傾き等の骨盤情報を算出し、算出した骨盤情報に基づいて被験ウシの分娩困難性を推定してもよい。
【0031】
推定部14は、例えば、表1に示す分娩難易コードに基づく指標である、コード1及び2の「難産リスク小」、並びに、コード3から5の「難産リスク大」のいずれかを、ウシの分娩困難性として推定する。
【0032】
【表1】
【0033】
推定部14は、被験ウシの年齢、体重、経産か否か、分娩回数等の情報に基づき、推定結果を補正してもよい。また、推定部14は、被験ウシが妊娠中である場合、超音波検査等により推定した胎子の大きさ、妊娠週数、父牛の大きさ等の情報に基づき、推定結果を補正してもよい。
【0034】
識別部15は、ウシ画像から被験ウシの品種を識別する。識別部15は、抽出部12が抽出したウシ画像を参照して被験ウシの品種を識別し、識別結果を生成部13に送る。生成部13は、ウシ画像及び前記被験ウシの品種を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成してもよい。
【0035】
ウシの骨格情報や、骨格情報に含まれる各特徴点間の位置関係と分娩困難性との関連は、ウシの品種により異なり得る。識別部15において被験ウシの品種を識別し、生成部13においてウシ画像及び被験ウシの品種を参照して骨格情報を生成することで、より適切に骨格情報を生成することができると共に、ウシの品種に応じてより適切に分娩困難性を推定することができる。
【0036】
入出力部20は、他の装置から推定装置100へのデータの入力を受け付け、また、推定装置100から他の装置へデータを出力する。入出力部20は、有線又は無線のネットワークを介して、他の装置からのデータの入力を受け付け、また、他の装置にデータを出力する。入出力部20は、カメラ40から撮影画像の入力を受け付ける。入出力部20は、推定装置100による推定結果を表示装置50に出力する。また、入出力部20は、例えば、ユーザによる推定処理の開始を表す操作入力を受け付ける。
【0037】
記憶部30には、推定装置100が行う動作に必要な一連の処理を示すプログラムが記憶されている。また、記憶部30には、取得部11が取得した撮影画像データ、抽出部12が抽出したウシ画像データ、骨格情報に含まれる特徴点間の位置関係と分娩困難性とを関連付けた情報、被験ウシの骨格画像データ等が記憶されていてもよい。
【0038】
カメラ40は、被験ウシを含む画像を撮影する。カメラ40が撮影した撮影画像データは、入出力部20を介して取得部11に送られる。カメラ40は、所定のタイミングで撮影するように制御されてもよいし、推定装置100からの入力に基づき撮影するように制御されてもよい。カメラ40は、デジタルカメラやスマートフォンカメラのような可視光カメラである。可視光カメラは、レンズ等の光学系や光検出素子等を含み、被写体から光を検出して可視光画像データを生成する。
【0039】
カメラ40は、被験ウシを複数の方向から撮影するように、複数用いられてもよい。カメラ40は、被験ウシの両側部及び後部を撮影するように設けられていることが好ましい。
【0040】
表示装置50は、推定装置100による推定結果をユーザに表示する。推定装置100による推定結果を表すデータは、入出力部20を介して表示装置50に送られる。表示装置50は、例えば、コンピュータディスプレイ、スマートフォン等の携帯端末のディスプレイ等である。
【0041】
(推定装置の動作)
図3は、図1の推定装置100による推定処理を示すフローチャートである。
【0042】
まず、入出力部20がユーザによる推定処理の開始を表す操作入力を受け付け、推定処理が開始されると、取得部11は、カメラ40が撮影した被験ウシを含む撮影画像を取得する(ステップS1)。なお、推定装置100による推定処理は、入出力部20がカメラ40から撮影画像データの入力を受け付けることにより開始してもよい。
【0043】
次に、抽出部12は、取得部11が取得した撮影画像から被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する(ステップS2)。続いて、生成部13は、抽出部12が抽出したウシ画像を参照して、被験ウシの特徴点を表す骨格情報を生成する(ステップS3)。そして、推定部14は、生成部13が生成した骨格情報を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定する(ステップS4)。以上により、推定装置100は、推定処理を終了する。このように、推定装置100は、被験ウシを撮影した撮影画像を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定することができる。
【0044】
上述した推定処理の各ステップにおいて用いられるデータの具体例について、図4を参照して説明する。図4は、図1の推定装置100による推定処理を説明する説明図である。まず、取得部11は、被験ウシの画像と共に背景画像等が含まれた撮影画像41を取得する。次に、抽出部12は、撮影画像41中の被験ウシの画像を認識し、認識した被験ウシを囲む枠囲み(バウンディングボックス)付きの画像である枠囲み画像42を生成する。そして、抽出部12は、枠囲みした被験ウシ部分を切り出すことによってウシ画像43を抽出する。
【0045】
そして、生成部13は、ウシ画像43を参照して、被験ウシの特徴点を表す骨格情報44を生成する。次に、推定部14は、骨格情報44を参照して、「難産リスク 大」又は「難産リスク 小」の被験ウシの分娩困難性を推定する。推定部14による推定結果は、入出力部20を介して表示装置50に送られる。
【0046】
表示装置50は、例えば、図5に示すような携帯端末51である。図5は、図1の推定装置100による推定結果の表示例を示す図である。図5に示すように、携帯端末51のディスプレイ52には、被験ウシの画像53と共に、当該被験ウシの分娩困難性を表すテキストデータ54とを表示させる。被験ウシの分娩困難性が「難産リスク 大」である場合には、テキストデータ54にユーザへの警告メッセージを含めてもよい。また、携帯端末51に設けられたカメラにより被験ウシを撮影した撮影画像を推定装置100に送り、分娩困難性の推定に用いてもよい。
【0047】
推定装置100は、被験ウシの撮影画像に基づいて、分娩前に被験ウシの分娩困難性を推定することができる。推定装置100は、被験ウシの撮影画像に基づいて分娩困難性を推定するので、被験ウシに対して非侵襲的であり、作業者のみならず、被験ウシにも、時間的及び労力的な負荷が軽減される。また、推定装置100によれば、妊娠中の被験ウシの分娩困難性の推定も可能であるので、分娩直前に分娩困難性を確認することもできる。推定装置100によれば、分娩前に容易に分娩困難性を推定することができる。
【0048】
〔第2実施形態〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態は、制御部が学習部を有する以外は、前述の第1実施形態と同様である。
【0049】
図6は、本発明の第2実施形態に係る推定装置(ウシの分娩困難性推定装置)110の要部構成を示すブロック図である。図6に示すように、推定装置110は、学習部61を有する制御部60を備えている。
【0050】
学習部61は、教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定するための推定モデルを学習させる。推定モデルを学習させる学習アルゴリズムには、サポートベクタマシン、ランダムフォレストのような公知の機械学習アルゴリズムを適用すればよい。学習部61において学習済みの推定モデルは記憶部30に記憶される。
【0051】
学習部61において、推定モデルを学習させるために用いる教師データは、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む。一例として、学習部61が用いる教師データは、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報毎に、分娩困難性の分類が付されたラベル付きの教師データである。
【0052】
図7は、図6の推定装置110による学習処理を示すフローチャートである。まず、入出力部20が教師データを受け付け、学習処理が開始されると、学習部61は、教師データを取得する(ステップS71)。学習部61が取得する教師データは、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報毎に、「難産リスク 大」又は「難産リスク 小」の分娩困難性の分類が付されている。
【0053】
次に、ステップS72において、学習部61は、取得した教師データを用いて、推定モデルを学習させる。以上により、推定装置110における学習処理を終了する。
【0054】
また、学習部61は、推定モデルとは別の学習モデルを学習させてもよい。一例として、学習部61は、ウシ画像を表す学習用データと、ウシの特徴点の位置を表す学習用ラベルとを含む教師データを用いて、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する骨格モデルを学習させる構成としてもよい。なお、骨格モデルの学習は、学習部61とは別の学習部(図示せず)により行われてもよい。学習部61において学習済みの骨格モデルは記憶部30に記憶される。
【0055】
骨格モデルの学習アルゴリズムとして、例えば、Convolutional Pose Estimationが挙げられる。Convolutional Pose Estimationを用いてウシの骨格モデルを学習させる技術は、以下の参考文献1に記載されている:
参考文献1:Deep cascaded convolutional models for cattle pose estimation. Li, X. et al., 2019. Conputers and Electronics in Agriculture. 164:104885.
ここで、参考文献1の全体を、参照として本明細書に組み込む。
【0056】
図8は、図6の推定装置110による骨格モデルの学習処理を説明する説明図である。学習部61は、ウシ画像毎に当該ウシの特徴点の位置が付されたラベル付きのデータを複数含む教師データセット81を用いて、骨格モデルを学習させることで、骨格情報を生成する学習済み骨格モデル82を得る。
【0057】
本実施形態において、推定部14は、記憶部30に記憶された推定モデルに、被験ウシの骨格情報を入力することにより、当該被験ウシの分娩困難性を推定する。また、生成部13は、記憶部30に記憶された骨格モデルに、ウシ画像を入力することにより、被験ウシの特徴点を表す骨格情報を生成する。
【0058】
また、学習部61は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、当該ウシの実際の分娩時の分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む再学習用教師データを用いて、推定モデルを再学習させる構成としてもよい。一例として、入出力部20が、表示装置50を介して、ユーザから、被験ウシの実際の分娩時の分娩困難性に関する情報を受け付け、学習部61は、当該被験ウシの実際の分娩時の分娩困難性に関する情報を取得する。そして、学習部61は、当該ウシの骨格情報に、実際の分娩時の分娩困難性の分類が付された再学習用教師データを用いて、推定モデルを再学習させる。
【0059】
なお、表示装置50を介した、被験ウシの実際の分娩時の分娩困難性に関する情報の受け付けの仕方は、本実施形態を限定するものではない。一例として、図5に示した表示画面に、「実際の分娩困難性」に関する受付ボタンを表示し、ユーザが当該受付ボタンを介して実際の分娩困難性を入力する構成とすることができる。
【0060】
学習部61における再学習は、推定装置により推定した分娩困難性と、実際の分娩時の分娩困難性とが異なっていた場合に有益である。推定モデルを再学習させることにより、推定モデルを用いた分娩困難性の推定精度が向上する。
【0061】
推定装置110は、学習済み推定モデルを用いて被験ウシの分娩困難性を推定することができる。また、推定装置110は、学習済み骨格モデルを用いて被験ウシの骨格情報を生成することができる。その結果、推定装置110は、ウシの分娩困難性の推定精度が向上する。
【0062】
〔第3実施形態〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。本実施形態は、被験ウシの特徴点を追加した点、骨格情報から算出した隣接する特徴点間の位置関係を追加した点、及び、表示装置の表示例以外は、前述の第1実施形態と同様である。
【0063】
生成部13が生成する骨格情報における被験ウシの特徴点は、第1実施形態の図2に示す特徴点に加えて、図10に示す特徴点が選択されてもよい。図10は、図1の推定装置100において利用するウシの特徴点の他の例を説明する説明図である。図10において、側面図1011はウシの左側部を示し、後面図1012はウシの後部を示し、側面図1013はウシの右側部を示している。図10に示す特徴点は、32.左後乳腺始端 、33.右後乳腺始端、34.左後乳頭付根、35.右後乳頭付根、36.き甲、37.胸底、38.十字部である。これらの特徴点は、骨盤の形態や分娩困難性に関連する特徴点である。
【0064】
推定部14は、第1実施形態における骨格情報に含まれる特徴点間の位置関係に加えて、以下に示す位置関係を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定してもよい:(xiv)32.左後乳腺始端から33.右後乳腺始端までの長さは後ろ乳房の幅、(xv)8.左坐骨端から34.左後乳頭付根又は9.右坐骨端から35.右後乳頭付根までの距離(後乳房深さ)、(xvi)36.き甲から地面までの垂線の長さと胸深(36.き甲から37.胸底に下した垂線の長さ)との比、(xvii)38.十字部から地面までの垂線の長さ(十字部高)、(xviii)14.左飛節から15.右飛節までの長さに対する26.左蹄球から27.右蹄球までの長さ、又は8.左坐骨端から9.右坐骨端までの長さの比。
【0065】
表示装置50は、例えば、図11に示すようなコンピュータ等に接続されたディスプレイ111であってもよい。図11は、図1の推定装置100による推定結果の他の表示例を示す図である。図11に示すように、ディスプレイ111には、複数読み込まれて一括処理される被験ウシの画像が示された領域112、対象の被験ウシの画像とその骨格の推定結果が示された領域113、対象の被験ウシの分娩困難性の推定結果が示された領域114等を表示させてもよい。
【0066】
推定装置100は、これらの被験ウシの特徴点及びこれらの特徴点間の位置関係を参照して、被験ウシの分娩困難性を推定することができ、推定結果を表示装置50に表示してユーザに通知することができる。
【0067】
[学習装置]
本発明の一実施形態に係る学習装置は、ウシの分娩困難性の推定に用いられる学習モデルを学習させる装置である。図9は、本発明の一実施形態に係る学習装置90及び推定装置100の要部構成を示すブロック図である。図9の推定装置100は、図1の推定装置100と同様であるため、その詳細な説明は省略する。図9のカメラ40及び表示装置50についても図1のカメラ40及び表示装置5と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0068】
学習装置90は、データ取得部91、第1学習部92、及び第2学習部93を備えている。学習装置90は、学習済みモデルを、入出力部20を介して推定装置100に送る。
【0069】
データ取得部91は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む第1教師データを取得する。一例として、データ取得部91は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報毎に、分娩困難性の分類が付されたラベル付きの第1教師データを取得する。データ取得部91は、取得した第1教師データを第1学習部92に送る。
【0070】
また、データ取得部91は、ウシ画像を表す学習用データと、ウシの特徴点の位置を表す学習用ラベルとを含む第2教師データをさらに取得する。一例として、データ取得部91は、ウシの画像毎に当該ウシの特徴点の位置が付されたラベル付きの第2教師データを取得する。データ取得部91は、取得した第2教師データを第2学習部93に送る。
【0071】
データ取得部91が取得する各教師データは、学習装置90が備える学習データ生成部(図示せず)において生成されたものであってもよいし、外部の学習データ生成装置(図示せず)から取得したものであってもよい。
【0072】
第1学習部92は、第1教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定する推定モデルを学習させる。第1学習部92は、教師データを利用する公知の学習アルゴリズムを適用して推定モデルを学習させる。推定モデルの学習アルゴリズムとして、例えば、サポートベクタマシン、ランダムフォレストのような公知の機械学習アルゴリズムを適用すればよい。第1学習部92において学習済みの推定モデルは、推定装置100に送られ、推定装置100における分娩困難性の推定に用いられる。
【0073】
第2学習部93は、第2教師データを用いて、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する骨格モデルを学習させる。第2学習部93は、教師データを利用する公知の学習アルゴリズムを適用して骨格モデルを学習させる。骨格モデルの学習アルゴリズムとして、例えば、Convolutional Pose Estimationが挙げられる。第2学習部93において学習済みの骨格モデルは、推定装置100に送られ、推定装置100における骨格情報の生成に用いられる。
【0074】
学習装置90は、図7を参照して説明した推定装置110による学習処理と同様に動作するため、学習装置90による学習処理の詳細な説明は省略する。
【0075】
学習装置90は、ウシの分娩困難性の推定に用いられる推定モデルを学習させる。また、学習装置90は、ウシの骨格情報の生成に用いられる骨格モデルを学習させる。したがって、ウシの分娩困難性の推定に、学習装置90が学習させた学習モデルを用いることで、ウシの分娩困難性の推定精度が向上する。
【0076】
[推定方法]
本発明の一態様に係る推定方法は、被験ウシを含む撮影画像を取得する取得ステップと、前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出ステップと、前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する生成ステップと、前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定ステップとを包含する。一例として、本発明の一態様に係る推定方法は、上述した本発明の一態様に係る推定装置により実現されるものである。したがって、本発明の一態様に係る推定方法の説明は、上述した本発明の一態様に係る推定装置の説明に準じる。
【0077】
[推定プログラム及び記録媒体]
本発明の一実施形態に係る推定プログラムは、上述したいずれかの推定装置としてコンピュータを機能させるための推定プログラムであって、上記抽出部、上記生成部、及び上記推定部としてコンピュータを機能させるための推定プログラムである。また本発明の一実施形態に係る記録媒体は、上記推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
推定装置100の制御部10は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0078】
後者の場合、推定装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0079】
[実施例]
公知の機械学習アルゴリズムを用いて、実施形態2に示すような推定モデルを生成し、ウシの分娩困難性の推定精度を評価した。
【0080】
推定モデルとして、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を入力することにより、安産又は難産の2値を出力するモデルを生成した。機械学習アルゴリズムとして、サポートベクタマシン、ランダムフォレスト、線形判別、ロジスティック回帰、決定木、及びアダブーストを用いて推定モデルを生成し、それぞれの推定モデルの推定精度を評価した。
【0081】
ウシの側面の特徴点の位置を表す骨格情報として、以下の17の骨格情報を説明変数として用いた:(1)背線、仙骨稜、及び尾根を繋いだ線の傾き、(2)腰角、寛、及び坐骨端を繋いだ線の傾き、(3)尾根と腰角とを繋いだ線と、坐骨端と寛とを繋いだ線とが成す角度、(4)腰角と寛とを繋いだ線と、尾根と坐骨端とを繋いだ線とが成す角度、(5)腰角と寛との間の距離と、膝と足根との間の距離との比、(6)寛と坐骨端との間の距離と、膝と足根との間の距離との比、(7)尾根と寛との間の距離と、膝と足根との間の距離との比、(8)尾根と坐骨端との間の距離と、膝と足根との間の距離との比、(9)坐骨端と寛とを結んだ線と尾根との間の距離と、膝と足根との間の距離との比、(10)背線と尾根とを結んだ線から下した垂線が、腰角及び坐骨端にぶつかる足のそれぞれの距離の比、(11)尾根と腰角との間の距離と、坐骨端と寛との間の距離との比、(12)腰角と寛との間の距離と、尾根と坐骨端との間の距離との比、(13)腰角と寛との間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(14)寛と坐骨端との間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(15)尾根と寛との間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(16)尾根と坐骨端との間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(17)坐骨端と寛とを結んだ線と尾根との間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比。
【0082】
ウシの側面における説明変数の例の一部を図12に示す。図12は、実施例において使用したウシの側面における説明変数の一部を説明する図である。図12に示すように、線a1は、背線、仙骨稜、及び尾根を繋いだ線の傾きを表している。また、線a2は、尾根と寛との間の距離を表し、線a3は、尾根と坐骨端との間の距離を表し、線a4は、坐骨端と球節との間の距離を表している。
【0083】
ウシの後面の特徴点の位置を表す骨格情報として、以下の8の骨格情報を説明変数として用いた:(18)腰角間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(19)寛間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(20)坐骨端間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(21)左腰角、尾根、及び右腰角を繋いだ線の傾き、(22)左寛、尾根、及び右寛を繋いだ線の傾き、(23)左坐骨端、尾根、及び右坐骨端を繋いだ線の傾き、(24)後乳腺始端間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比、(25)坐骨端と後乳頭付根との間の距離と、坐骨端と球節との間の距離との比。
【0084】
ウシの後面における説明変数の例の一部を図13に示す。図13は、実施例において使用したウシの後面における説明変数の一部を説明する図である。図13に示すように、線b1は、後乳腺始端間の距離を表しており、線b2は、坐骨端と後乳頭付根との間の距離を表している。
【0085】
使用した学習データ数を表2に示す。安産のウシのデータ及び難産のウシのデータのそれぞれについて、ウシの側面の画像及び後面の画像を学習データとして用いた。
【表2】
【0086】
これらのデータを、8:2の学習データとテストデータとに分割した。学習データをさらに5分割して交差検証し、学習モデルのハイパーパラメータを決定した。生成した推定モデルの精度をテストデータで検証した。結果を表3に示す。表3における数値は、テストデータでの推定精度(Accuracy)を示している。
【表3】
【0087】
表3に示すように、いずれのアルゴリズムを用いた場合にも、良好な精度で推定できた。サポートベクタマシンを用いた場合は80%以上の推定精度が得られており、推定モデルとしてより適していた。
[まとめ]
本発明を、以下のように表現することもできる。
1) 被験ウシを含む撮影画像を取得する取得部と、前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出部と、前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点を表す骨格情報を生成する生成部と、前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定部とを備えた、ウシの分娩困難性推定装置。
2) 前記特徴点は、ウシの骨盤周囲及び下肢の関節及び骨の端部の位置に対応する点を含む、1)に記載のウシの分娩困難性推定装置。
3) 前記推定部は、前記骨格情報から算出した隣接する特徴点間の位置関係を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する、1)又は2)に記載のウシの分娩困難性推定装置。
4) 前記抽出部が抽出した前記ウシ画像から前記被験ウシの品種を識別する識別部をさらに備え、前記生成部は、前記ウシ画像及び前記被験ウシの品種を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する、1)から3)のいずれかに記載のウシの分娩困難性推定装置。
5) 前記被験ウシは、ホルスタイン種を含む乳牛である、請求項1から4のいずれか1項に記載のウシの分娩困難性推定装置。
6) 教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定するための推定モデルを学習させる学習部をさらに備えた、1)から5)のいずれかに記載のウシの分娩困難性推定装置。
7) 前記学習部は、ウシ画像を表す学習用データと、ウシの特徴点の位置を表す学習用ラベルとを含む教師データを用いて、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する骨格モデルを学習させる、6)に記載のウシの分娩困難性推定装置。
8) 前記学習部は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む教師データを用いて、前記推定モデルを学習させる、6)に記載のウシの分娩困難性推定装置。
9) 前記学習部は、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、当該ウシの実際の分娩時の分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む再学習用教師データを用いて、前記推定モデルを再学習させる、8)に記載のウシの分娩困難性推定装置。
10) ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を表す学習用データと、ウシの分娩困難性を表す学習用ラベルとを含む第1教師データを取得するデータ取得部と、前記第1教師データを用いて、ウシの分娩困難性を推定する推定モデルを学習させる第1学習部とを備えた学習装置。
11) 前記データ取得部は、ウシ画像を表す学習用データと、ウシの特徴点の位置を表す学習用ラベルとを含む第2教師データをさらに取得し、前記第2教師データを用いて、ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する骨格モデルを学習させる第2学習部をさらに備えた、10)に記載の学習装置。
12) 被験ウシを含む撮影画像を取得する取得ステップと、前記撮影画像から前記被験ウシの画像であるウシ画像を抽出する抽出ステップと、前記ウシ画像を参照して、前記被験ウシの特徴点の位置を表す骨格情報を生成する生成ステップと、前記骨格情報を参照して、前記被験ウシの分娩困難性を推定する推定ステップとを包含する、推定方法。
13) 1)から9)のいずれかに記載のウシの分娩困難性推定装置としてコンピュータを機能させるための推定プログラムであって、上記抽出部、上記生成部、及び上記推定部としてコンピュータを機能させるための推定プログラム。
14) 13)に記載の推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【0088】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
10 制御部
11 取得部
12 抽出部
13 生成部
14 推定部
15 識別部
61 学習部
90 学習装置
91 データ取得部
92 第1学習部
93 第2学習部
100、110 推定装置(ウシの分娩困難性推定装置)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13