(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】水中観測システム及び水中観測方法
(51)【国際特許分類】
B63C 11/00 20060101AFI20240207BHJP
B63C 11/34 20060101ALI20240207BHJP
B63C 11/48 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
B63C11/00 C
B63C11/34 A
B63C11/48 D
(21)【出願番号】P 2020090766
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】西田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】田中 良樹
(72)【発明者】
【氏名】石井 和男
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04996673(US,A)
【文献】特開2017-178253(JP,A)
【文献】特開昭62-059193(JP,A)
【文献】特開2003-021684(JP,A)
【文献】米国特許第5373925(US,A)
【文献】米国特許第5067920(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00 - 11/52
B65H 75/34 - 75/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中を推進しながらセンサからの情報を収集する水中推進装置と、
水底に固定して立設され、前記水中推進装置が駆動するための電力を供給する電力供給手段を含む水中基地局と、
前記水中推進装置と前記電力供給手段とを連結する電力ケーブルとを備え、
前記水中推進装置の推進方向に応じて前記水中基地局に配設されたリールに前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされ
、
前記リールが、前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされる中心軸と、当該中心軸の両端部にそれぞれ接合され、前記電力ケーブルを前記リール内に留めるための一対の端部部材とを備え、
前記一対の端部部材が、前記電力ケーブルが収容されるとともに、当該端部部材間の空隙距離をD、前記電力ケーブルの直径をdとしたとき、d≦D<2dを満たす領域と、当該領域の径方向外側に、前記電力ケーブルが巻回される内側方向に向かってテーパ状に形成された領域とを有することを特徴とする水中観測システム。
【請求項2】
水中を推進しながらセンサからの情報を収集する水中推進装置と、
水底に固定して立設され、前記水中推進装置が駆動するための電力を供給する電力供給手段を含む水中基地局と、
前記水中推進装置と前記電力供給手段とを連結する電力ケーブルとを備え、
前記水中推進装置の推進方向に応じて前記水中基地局に配設されたリールに前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされ、
前記リールが、前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされる中心軸と、当該中心軸の両端部にそれぞれ接合され、前記電力ケーブルを前記リール内に留めるための一対の端部部材とを備え、
前記一対の端部部材が、前記電力ケーブルが収容されるとともに、当該端部部材間の空隙距離をD、前記電力ケーブルの直径をdとしたとき、d≦D<2dを満たす領域と、当該領域の径方向外側に、前記電力ケーブルが巻回される内側方向に向かってテーパ状に形成された領域とを有し、
前記水中推進装置の航行軌道が、前記中心軸の直径及び前記電力ケーブルの直径に応じたインボリュート曲線で描かれる軌跡に基づいて設定されることを特徴とする水中観測システム。
【請求項3】
水中を推進しながらセンサからの情報を収集する水中推進装置と、
水底に固定して立設され、前記水中推進装置が駆動するための電力を供給する電力供給手段を含む水中基地局と、
前記水中推進装置と前記電力供給手段とを連結する電力ケーブルとを備え、
前記水中推進装置の推進方向に応じて前記水中基地局に配設されたリールに前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされ、
前記リールが、その中心軸を同軸としつつ、前記水中基地局に異なる高さで複数配設されており、
各前記リールごとに複数の水中推進装置が当該リールの軸を中心に複数の前記水中推進装置間の間隔を維持しながら周回運動がなされていることを特徴とする水中観測システム。
【請求項4】
請求項
1ないし3のいずれかに記載の水中観測システムにおいて、
前記リールが前記水中基地局の立設方向を軸として固定されており、
前記水中推進装置が前記リールの軸を中心とした円の遠心力方向に推進を発生すると共に、円の接線方向に推進を発生する水中観測システム。
【請求項5】
請求項
4に記載の水中観測システムにおいて、
前記水中推進装置が方位及び姿勢角を制御すると共に、高度を制御する制御手段を備え、
前記制御手段の制御により前記リールと同じ高さを維持した状態で当該リールの軸を中心に周回運動がなされる水中観測システム。
【請求項6】
水底に固定して立設される水中基地局に配設されたリールに電力ケーブルが巻回されており、
前記リールが、前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされる中心軸と、当該中心軸の両端部にそれぞれ接合され、前記電力ケーブルを前記リール内に留めるための一対の端部部材とを備え、前記一対の端部部材が、前記電力ケーブルが収容されるとともに、当該端部部材間の空隙距離をD、前記電力ケーブルの直径をdとしたとき、d≦D<2dを満たす領域と、当該領域の径方向外側に、前記電力ケーブルが巻回される内側方向に向かってテーパ状に形成された領域とを有し、前記電力ケーブルの先端には水中推進装置が連結され、前記水中基地局の電力供給手段からの電力で前記水中推進装置を駆動し、当該水中推進装置が前記リールの周りを、
前記中心軸の直径及び前記電力ケーブルの直径に応じたインボリュート曲線で描かれる軌跡に基づいて設定された航行軌道上を周回して前記電力ケーブルの巻き付き又は巻き出しを行いながら前記水中推進装置に配設されたセンサからの情報を収集する水中観測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中を観測する水中観測システムに関し、特に水中基地局を中心に電力ケーブルで水中推進装置を拘束しながら観測を行う水中観測システム等に関する。
【背景技術】
【0002】
国内の排他的経済水域内には、熱水鉱床などの鉱物資源、メタンハイドレートなどのエネルギー資源、魚類などの生物資源が豊富に存在していることが知られおり、陸上資源が枯渇する中、早急な海洋資源の開発が望まれている。これらの海洋資源を持続的に利用するためには、資源の賦存量や分布を調査するだけではなく、資源生成や減少のメカニズムを正しく把握する必要があるが、いまだ解明されていない資源の方が多い。その問題の原因の一つとして、海洋資源や周辺環境の経時的な変化を時系列データで計測できていないことが挙げられる。
【0003】
海底調査方法の1つとして、フリーフォール型無人探査機のように海底に留まり定点カメラで周囲を撮影する技術が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。この技術を用いることで数日から数か月に渡って対象を観測することが可能となるが、観測範囲(2~3m2)が非常に狭く局所的な変化しか観測できないため資源の長期観測には不向きである。
【0004】
一方、他の海底調査方法として自立型海中ロボット(Autonomous Underwater Vehicle: AUV)が知られている(例えば、非特許文献2、3を参照)。このAUVは、低高度(すなわち高解像度)で広範囲(音響計測で10km2,画像観測で1000m2)に渡って資源を計測することが可能である。しかしながら、自己完結型であるAUVはスペースや電力に制約があり、予期せぬトラブルによって自動航行が停止する可能性があるため、調査海域までの運搬や展開・回収には支援船が必要不可欠である。支援船を必要とする既存のAUVは調査コストが高く、AUVを用いた海底調査は頻繁に行われていないため、季節変動による環境の変化といった長期間の時系列データは不足している。そこで、長期間の観測を実現するために海底に基地局となる海底ステーションを設置し、AUVのバッテリ充電やデータ転送を実施するシステムの開発が行われている(例えば、非特許文献4を参照)。海底ステーションによりAUVを充電することで長期間の海底観測を行うことが可能となっている。
【0005】
また、上記に技術に関連して特許文献1、2に示すような技術も開示されている。特許文献1に示す技術は、大深度の海域を長期にわたって観測するに当たり、水中基地の小型化が可能である海底探査装置に関するものであり、海底に設置され、かつ、探査機器を装備した水中基地と、発信器及び動力源を装備した動力ステーションと、前記水中基地と前記動力ステーションの動力源とを連結するケーブルと、前記動力ステーションの動力源に動力を補給する動力補給用の自律型無人航走体とから構成するものである。
【0006】
特許文献2に示す技術は、自律型無人航走体が容易に出入りできる水中ステーションを用いた海底探査方式に関するものであり、母船から下げた水中ステーションと、海底の第2トランスポンダと、第3トランスポンダ及び第3受波器を有する自律型無人航走体とから成り、水中ステーションは、収納部と、動力源格納部と、第1トランスポンダと、第1,第2の受波器と、複数のスラスタとを有し、第2トランスポンダの信号を航走体の第3受波器で受信して航走体を制御すると共に第1受波器で受信して水中ステーションのスラスタを制御し、航走体の第3トランスポンダの信号を水中ステーションの第2受波器により受信してスラスタの制御を補正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-21684号公報
【文献】特開2003-26090号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】清水悦郎,「深海探査機“江戸っ子1号”を使った富山湾調査」,マリンエンジニアリング,Vol.54,No.4,pp.627-630,2019
【文献】西田祐也,浦環,坂巻隆,小島淳一,伊藤譲,金岡秀,「ホバリング型AUV“Tuna-Sand”による伊豆・小笠原海域スミスカルデラの潜航調査」,ロボティクス・メカトロニクス講演会2013,2A2-O03,2013
【文献】中西正男,「9000mより深い水域におけるマルチナロビーム音響測深機による測深の信頼性評価」,海洋調査技術,Vol.23,pp.11-23,2011
【文献】巻俊宏,佐藤芳紀,水島隼人,松田匠未,増田殊大,岡田宣義,坂巻隆,「海底ステーションを基地とするホバリング型AUVの展開手法-海底環境の長期モニタリングに向けて-」,ロボティクス・メカトロニクス講演会2016,1A1-17b4,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したような従来技術においては、海底ステーションによりAUVを充電することで長期間の海底観測を行うことは可能であるが、自己位置推定、軌道計画、位置制御といった高度な処理や制御を行う必要があり、潮流などの周辺環境の変化によってドッキングに失敗したり、また海底やステーションに接触し機器を故障してしまうといったリスクが生じやすい。また、ケーブルが繋がっていない自走式のAUVは、機器の故障や電力がなくなった場合にその地点に留まることができず紛失する危険性があり、AUVによる長期間観測は非常にリスクが高い手法となってしまう。
【0010】
さらに、観測地点からステーションが設置された地点に帰還するためには高精度なナビゲーションが必要で、慣性航法装置(INS:Inertial Navigation System)やドップラー式対地速度計(DVL:Dopplar Velocity Log)などの数百万~数千万円の高価なセンサをAUVに搭載する必要があり開発コストが非常に高くなってしまう。
【0011】
本発明は、自己位置推定、軌道計画、位置制御といったAUVに必要不可欠なプロセスを行うことなく、推力の制御だけで低リスク(紛失するリスクが少なく、紛失しても開発コストの損害を最小限に抑えられる)且つ広範囲に渡り水中を長期間観測することを可能とする水中観測装置及び水中観測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に係る水中観測システムは、水中を推進しながらセンサからの情報を収集する水中推進装置と、水底に固定して立設され、前記水中推進装置が駆動するための電力を供給する電力供給手段を含む水中基地局と、前記水中推進装置と前記電力供給手段とを連結する電力ケーブルとを備え、前記水中推進装置の推進方向に応じて前記水中基地局に配設されたリールに前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされるものである。
【0013】
このように、本発明に係る水中観測システムにおいては、水中を推進しながらセンサからの情報を収集する水中推進装置と、水底に固定して立設され、前記水中推進装置が駆動するための電力を供給する電力供給手段を含む水中基地局と、前記水中推進装置と前記電力供給手段とを連結する電力ケーブルとを備え、前記水中推進装置の推進方向に応じて前記水中基地局に配設されたリールに前記電力ケーブルが巻き付き又は巻き出しされるため、水中推進装置が電力ケーブルに拘束されることとなり、自己位置推定、軌道計画、位置制御といった高度な制御を行うことなく、推力の制御だけで低リスク且つ広範囲に渡り水中を長期間観測することができるという効果を奏する。
【0014】
本願に係る水中観測システムは、前記リールが前記水中基地局の立設方向を軸として固定されており、前記水中推進装置が前記リールの軸を中心とした円の遠心力方向に推進を発生すると共に、円の接線方向に推進を発生するものである。
【0015】
このように、本発明に係る水中観測システムにおいては、前記リールが前記水中基地局の立設方向を軸として固定されており、前記水中推進装置が前記リールの軸を中心とした円の遠心力方向に推進を発生すると共に、円の接線方向に推進を発生するため、水中推進装置は2方向の推進力を発生させるだけで電力ケーブルの拘束を利用して毎回同じ軌道を航行可能になるという効果を奏する。
【0016】
本願に係る水中観測システムは、前記水中推進装置が方位及び姿勢角を制御すると共に、高度を制御する制御手段を備え、前記制御手段の制御により前記リールと同じ高さを維持した状態で当該リールの軸を中心に周回運動がなされるものである。
【0017】
このように、本発明に係る水中観測システムにおいては、前記水中推進装置が方位及び姿勢角を制御すると共に、高度を制御する制御手段を備え、前記制御手段の制御により前記リールと同じ高さを維持した状態で当該リールの軸を中心に周回運動がなされるため、リールが配置された高さにおける二次元平面上で順回転と逆回転のインボリュート曲線の軌道を描きながら安定した同軌道で観測を行うことが可能となり、同じ位置を広範囲に渡って長期に観測することができるという効果を奏する。
【0018】
本願に係る水中観測システムは、前記制御手段が、観測領域に応じて前記水中推進装置の高度を変化させるものである。
【0019】
このように、本発明に係る水中観測システムにおいては、前記制御手段が、観測領域に応じて前記水中推進装置の高度を変化させるため、例えば水中推進装置の底部に設置されたカメラで撮像できる範囲等を高度変化で調整し、必要としている情報をより適正に取得することが可能になるという効果を奏する。
【0020】
本願に係る水中観測システムは、前記リールが前記水中基地局に異なる高さで複数配設されており、各リールごとに複数の水中推進装置が当該リールの軸を中心に周回運動がなされているものである。
【0021】
このように、本発明に係る水中観測システムにおいては、前記リールが前記水中基地局に異なる高さで複数配設されており、各リールごとに複数の水中推進装置が当該リールの軸を中心に周回運動がなされているため、複数の異なる高さからの情報を収集することが可能となり、多角的な情報を取得することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1の実施形態に係る水中観測システムの概略図である。
【
図2】第1の実施形態に係る水中観測システムにおける基地局の構造の一例を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る水中観測システムにおけるドラム型リールとCUVとの接続構造を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る水中観測システムにおけるCUVの航行軌道を示す図である。
【
図5】第1の実施形態に係る水中観測システムにおけるCUVの航行軌道のシミュレーション結果を示す第1の図である。
【
図6】第1の実施形態に係る水中観測システムにおけるCUVの航行軌道のシミュレーション結果を示す第2の図である。
【
図7】第1の実施形態に係る水中観測システムにおけるCUVの航行軌道のシミュレーション結果を示す第3の図である。
【
図8】その他の実施形態に係る水中観測システムにおけるCUVの高度を観測領域に応じて制御する場合を示す図である。
【
図9】その他の実施形態に係る水中観測システムにおいてCUVごとに異なる高度で情報を取得する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る水中観測システムについて、
図1ないし
図7を用いて説明する。本実施形態に係る水中観測システムは、水中の状態を観測して調査する場合に用いられるものであり、特に海中における鉱物資源、エネルギー資源、生物資源などの海洋鉱物資源の調査を行うのに適したものである。本実施形態に係る水中観測システムは、海、湖、池、河川、水処理施設等における水中の観測に用いることが可能であるが、以下の説明においては海中の観測について説明する。具体的には例えば、浅海域においては藻場やサンゴ礁の海域に本システムを展開して海洋植物やサンゴの育成状況などのデータを計測し、深海域においては熱水地帯、熱水鉱床地帯、メタンハイドレート地帯、マンガン団塊などに本システムを展開して資源の蓄積や減少などの時系列変動を計測することが可能である。
【0024】
図1は、本実施形態に係る水中観測システムの概略図である。本実施形態に係る水中観測システム1は、観測対象となる領域の海底に固定して立設される基地局2と、航行しながら海底を観測する水中推進装置3(以下、CUV3(Cable restraining Underwater Vehicle)という)と、基地局2とCUV3とを連結する電力ケーブル4とを備える。基地局2は水中重量を非常に大きく且つ重心を低くすることで海流などの外力により傾いたり移動したりしない構造となっている。詳細は後述するが、例えば重心を低くするために基地局2の下方に大容量バッテリなどを搭載するようにしてもよい。基地局2の上方は電力ケーブル4を巻回するためのドラム型リール5が配設されており、基地局2の立設方向を中心軸として固定されている。すなわち、電力ケーブル4は水平方向にドラム型リール5の中心軸に巻き付き、巻き出しがなされる。
【0025】
CUV3は推力を発生するための1つ又は複数のスラスタ3aを有しており、このスラスタ3aによりドラム型リール5の中心軸を中心とする円の遠心力方向に推力を発生させつつ、この円の一方の接線方向に推力を発生する。CUV3の移動に合わせて、電力ケーブル4がドラム型リール5に巻き付いたり巻き出されたりしながら観測が行われる。
【0026】
基地局2が比較的陸上に近い位置に配置される場合は、管理施設6にある外部電源(図示しない)と基地局2とを送電ケーブル7で接続してCUV3に電力を供給することが可能である。また、送電ケーブル7に通信線を併存して接続することで、CUV3で観測されたデータを随時管理施設6に送信できるようにしてもよい。なお、CUV3の駆動電力については、陸上からの外部電源、数ヶ月以上の航行を可能とする大容量バッテリ、熱水等を利用した海中発電装置、海底ケーブルとの接続等により得ることが可能となっており、基地局2に搭載される電力変換器等の電力供給手段を介してCUV3の駆動用電力として供給される。また、大容量バッテリについては二次電池とし、外部電源から二次電池に充電可能に構成されてもよい。
【0027】
図2は、基地局2の構造の一例を示す図である。基地局2は海底に固定され重量が大きい支持体10とドラム型リール5とが支柱8で接合され、支柱8と支持体10とは補助部材9で補強して接合されている。支持体10は複数の柱で矩形体として形成され、内部に大容量バッテリ11が設置されている。この大容量バッテリ11は上述したようにCUV3を数カ月以上に渡って駆動できる容量であることが望ましい。電力ケーブル4は大容量バッテリ11とCUV3とを電気的に接続しており、大容量バッテリ11からドラム型リール5を介してCUV3に接続されている。
【0028】
なお、電源が外部から供給される場合は必ずしも大容量バッテリ11を有する必要はなく、外部からの送電ケーブル7と接続できるようにしておけばよい。このとき、基地局2の重心を下方に持っていくために支持体10の内部には重量物が積載されることが好ましい。
【0029】
図3は、ドラム型リールとCUVとの接続構造を示す図である。ドラム型リール5は基地局2の立設方向(支柱8の起立方向)を中心軸5aとして支柱8に接合されている。ドラム型リール5は固定された状態で支柱8に接合されることで、中心軸5aが支柱8に対して相対的に動かないようになっている。ドラム型リール5の端面、すなわち中心軸5aの両端部に接合して電力ケーブル4をドラム型リール5内に留めるための端部部材5b,5cは、ドラム型リール5の内側方向(電力ケーブル4が巻回される箇所)に向かってテーパ状に形成されており、電力ケーブル4の巻き付き及び巻き出しをスムーズにしている。
【0030】
端部部材5b及び5c間の空隙距離Dは、電力ケーブル4の直径をdとするとd≦D<2dとなっており、電力ケーブル4が一重に巻回される構造となっている。こうすることで電力ケーブル4が絡まってしまうことを防止することができる。電力ケーブル4の終端部分はCUV3に接続されており、大容量バッテリ11からの電力をCUV3に供給すると共に、CUV3の移動を電力ケーブル4が伸びる範囲内に拘束している。
【0031】
CUV3は自身の移動用として1又は複数のスラスタを有しており、ドラム型リール5の中心軸5aを中心とする円の遠心力方向に電力ケーブル4が伸び切る程度以上の張力となる推進力を発生させると共に、その円の接線方向にも推力を発生させる。すなわち、ドラム型リール5の中心軸5aを中心とする円の遠心力方向、この円の一方の接線方向、及び180度反転した他方の接線方向のそれぞれの方向に航行するためのスラスタを制御しながら航行する。また、CUV3には資源等を観測するために下方を撮像するカメラやソナー等の観測用センサ3bを備えると共に、真方位と姿勢角を計測できるIMUや高度センサ等の制御用センサ3cを備えている。CUV3は制御用センサ3cでドラム型リール5と同じ高度で安定姿勢を維持しつつ、スラスタ制御を行ってドラム型リール5の中心軸5aの周りを周回運動をしながら観測用センサ3bを用いて観測情報を収集する。収集された情報はCUV3内に保存されて本体と共に回収してもよいし、通信線が接続されている場合はリアルタイムに管理者に送信されるようにしてもよい。
【0032】
CUV3は、ドラム型リール5の中心軸5aを中心とする円の遠心力方向と接線方向とに推力を発生させることで
図4に示すようなインボリュート曲線に近い軌道を描きながら航行し、それに伴って電力ケーブル4がドラム型リール5の中心軸5aに巻き付いたり、巻き出されたりする。一方の接線方向に航行する場合は電力ケーブル4が中心軸5aに巻き付き、180度反転する他方の接線方向に航行する場合は電力ケーブル4が中心軸5aから巻き出される。すなわち、電力ケーブル4が中心軸5aに巻き取られた状態からCUV3が中心軸5a付近から航行を開始し、
図4に示すインボリュート曲線を描いて電力ケーブル4を巻き出しながら中心軸5aから次第に遠ざかり、全ての電力ケーブル4が巻き出された後はCUV3が逆方向に航行を開始し、再び
図4に示すインボリュート曲線を描いて電力ケーブル4を中心軸5aに巻き付けながら中心軸5aに次第に近づき、全ての電力ケーブル4が中心軸5aに巻き付けられると再度同様の動作を繰り返して行う。このような動作を繰り返すことでCUV3はほぼ同じ軌道を長期に渡って周回運動することが可能となり、時系列のデータを安定して収集することが可能となる。
【0033】
なお、上述したようにCUV3は電力ケーブル4が伸び切った拘束状態を維持するため常に遠心力方向に推力を発生させる必要があるが、遠心力方向の推力はCUV3の移動にほとんど寄与しないため、その推力が大きいほど無駄に電力を消費することになる。また、CUV3に接続される電力ケーブル4の位置や接続方法によっては航行中にCUV3が揺動したり蛇行したりすることが考えられる。そのため、CUV3が発生させなければならない推力のベクトル及び大きさを海域の環境に応じて演算し、スラスタの向きや推力を適正に制御する制御手段を備えるようにしてもよい。また、電力ケーブル4はねじれや硬さの影響(動特性)を除外するため、例えば撚りにくく柔軟な金剛打ちの高密度ポリエチレンファイバー(HDPE)を用いるようにしてもよい。
【0034】
上記に説明したCUV3の動作軌道についてシミュレーションを行った。電力ケーブル4の拘束を利用した軌道をシミュレーションするため、以下の式(1)に示すインボリュート曲線によって描かれる軌跡をベースとした。
【0035】
【0036】
シミュレーションの条件を以下の表1に示す。
【0037】
【0038】
それぞれの条件に対するシミュレーションの結果を
図5、
図6及び
図7に示す。
図5が条件1の場合、
図6が条件2の場合、
図7が条件3の場合のそれぞれの電力ケーブル4におけるシミュレーション結果である。
図5から
図7は中心軸5aに電力ケーブル4が巻き付けられた状態を初期位置とし、電力ケーブル4を巻き出しながらCUV3が移動した時の軌跡を図示したものであり、電力ケーブル4が太くなるに連れてインボリュート曲線の径が広がっており、各条件において軌道の間隔が略均等になっていることがわかる。
【0039】
なお、本実施形態においては
図3に示すように電力ケーブル4を1つの層に一重のケーブルが巻回される構造としたが、1つの層に複数並列に巻回される構成であってもよい。その場合は、電力ケーブル4が絡まずに正しく巻き付けるためのガイドなどが必要となるものの、電力ケーブル4の太さによる軌道への影響が小さくなり解析等の処理がやりやすくなる。
【0040】
このように、本実施形態に係る水中観測システムにおいては、CUV3が電力ケーブル4による拘束状態を維持し、且つ前進又は後進するように推力を発生させることで、センサを用いた高度な自己位置推定や運動制御がなくても電力ケーブル4とドラム型リール5の運動学に従い同じ軌道を航行し続けることが可能であり、基地局2を中心としドラム型リール5に巻回された電力ケーブル4の長さと同じ半径の円内の海底領域を隈なく観測することが可能となる。
【0041】
また、電力ケーブル4とドラム型リール5の運動学が分かれば、高価なセンサがなくとも非常に単純な運動制御で電力ケーブル4の巻き数からCUV3の自己位置を推定可能となり、フリーフォール型無人探査機よりも数十倍~数百倍もの広範囲を観測することが可能となる。すなわち、本実施形態に係る水中観測システムは海洋資源の長期観測にとって非常に効果的なシステムであり、これまでに計測できなかった海洋資源や周辺環境の時系列データを取得することができ、海洋資源開発を促進することが可能となる。
【0042】
(その他の実施形態)
本実施形態に係る水中観測装置について、
図8及び
図9を用いて説明する。本実施形態に係る水中観測装置は、CUV3の高度を異ならせることで必要性に応じた情報を取得可能とするものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0043】
図8は、CUVの高度を観測領域に応じて制御する場合を示す図、
図9は、異なる高度に複数のCUVを設け、各CUVごとに異なる高度で情報を取得する場合を示す図である。
図8(A)は基地局2及びCUV3を側面から見た場合の模式図、
図8(B)は観測領域ごとの高度の情報を示す図である。
図8(B)の領域Aに示すように、例えば観測対象領域の全体のうち一部領域については海底近くで観測を行いたいような場合(例えば、拡大して詳細な画像を撮像したいような場合)に、その一部領域を通過するときだけ
図8(A)の破線に示すようにCUV3の高度を下げる制御を行う。逆に
図8(B)の領域Bに示すように、例えば岩などの障害物を避けるためにその領域だけ
図8(A)の一点鎖線に示すようにCUV3の高度を上げる制御を行う。
【0044】
なお、CUV3の高度の制御は、例えば上下方向に移動可能なスラスタを設けることで簡単に行うことができる。
【0045】
図9の場合は支柱8の異なる高さに複数のドラム型リール5を備え、各ドラム型リール5に対応するCUV3が電力ケーブル4で連結されており、各CUV3は一定の高さを維持しながら観測を行う。こうすることで、同じ領域(同一面積)であっても異なる解像度で観測することが可能になるため、多角的な分析等を行うことが可能となる。なお、このとき、各CUV3の移動のタイミングをずらすことで、できるだけ時間的な間隔を空けずに連続的な観測が行えるように制御することが望ましい。
【0046】
このように、本実施形態に係る水中観測システムにおいては、観測領域に応じてCUV3の高度を変化させるため、例えばCUV3の底部に設置されたカメラで撮像できる範囲等を高度変化で調整し、必要としている情報をより適正に取得することが可能になる。
【0047】
また、ドラム型リール5が支柱8に異なる高さで複数配設されており、各ドラム型リール5ごとに複数のCUV3が当該トラム型リール5の中心軸5aを中心に周回運動がなされているため、複数の異なる高さからの情報を収集することが可能となり、多角的な情報を取得することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 水中観測システム
2 基地局
3 CUV
3a スラスタ
3b 観測用センサ
3c 制御用センサ
4 電力ケーブル
5 ドラム型リール
5a 中心軸
5b,5c 端部部材
6 管理施設
7 送電ケーブル
8 支柱
9 補助部材
10 支持部
11 大容量バッテリ