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特許7431451網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬ならびに網膜および/または光受容に関連する症状を改善または予防する物質のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬ならびに網膜および/または光受容に関連する症状を改善または予防する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/13 20060101AFI20240207BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240207BHJP
   C12Q 1/42 20060101ALI20240207BHJP
   C12Q 1/48 20060101ALI20240207BHJP
【FI】
A61K38/13
A61K31/436
A61P27/02
A61P43/00 111
C12Q1/42
C12Q1/48 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020553143
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040177
(87)【国際公開番号】W WO2020080275
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2018194648
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】古川 貴久
(72)【発明者】
【氏名】茶屋 太郎
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-542150(JP,A)
【文献】特開2011-001380(JP,A)
【文献】国際公開第2007/019427(WO,A1)
【文献】特表2010-540682(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0121968(US,A1)
【文献】国際公開第2014/114557(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/120838(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/169090(WO,A1)
【文献】American Journal of Pathology,2006年,Vol.168(5),pp.1722-1736
【文献】Experimental Eye Research,2007年,Vol.84,pp.473-485
【文献】Investigative Ophthalmology & Visual Science,2000年,Vol.41,pp.3268-3277
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 38/00
A61K 31/00
C12Q 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬であって、Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質が、シクロスポリンまたはタクロリムスであり、網膜および/または光受容に関連する症状が、光曝露による錐体視細胞の構造破壊、桿体視細胞の構造破壊および視細胞層の厚み減少から選択される少なくとも1つの視細胞変性を伴う症状であり、前記視細胞変性を伴う症状が、加齢黄斑変性、網膜色素変性症またはスタルガルト病である、医薬
【請求項2】
カルシニューリンを阻害する物質を選択する工程を含む、網膜変性を抑制する物質のスクリーニング方法であって、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程と、Unc119のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む、方法。
【請求項3】
カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程が、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞に被験物質を接触させる工程である、請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
カルシニューリンを阻害する物質を選択する工程を含む、網膜変性を抑制する物質のスクリーニング方法であって、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程と、カルシニューリンとUnc119との相互作用を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のカルシニューリンとUnc119との相互作用と比較して両者の相互作用を減少させる被験物質を選択する工程とを含む、方法。
【請求項5】
カゼインキナーゼ2を活性化する物質を選択する工程を含む、網膜変性を抑制する物質のスクリーニング方法であって、カゼインキナーゼ2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程と、Unc119のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む、方法。
【請求項6】
カゼインキナーゼ2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程が、カゼインキナーゼ2とUnc119を発現する細胞に被験物質をATP存在下で接触させる工程である、請求項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
シクロスポリンまたはタクロリムスを有効成分として含有する、網膜変性抑制剤であって、網膜変性が、光曝露による錐体視細胞の構造破壊、桿体視細胞の構造破壊および視細胞層の厚み減少から選択される少なくとも1つの視細胞変性を伴う症状であり、前記視細胞変性を伴う症状が、加齢黄斑変性、網膜色素変性症またはスタルガルト病である、網膜変性抑制剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬ならびに網膜および/または光受容に関連する症状を改善または予防する物質のスクリーニング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
網膜は外界からの光情報を受容する中枢神経組織であり、ヒトでは外界から得る情報の8割以上を視覚から得ると言われている。現在に至るまで治療法がない代表的な視覚障害原因疾患として、網膜変性疾患が挙げられる。網膜変性は視細胞の脱落による不可逆的な視機能の喪失を特徴とするが、その原因疾患である網膜色素変性症はわが国の中途失明原因の第3位、黄斑変性(萎縮型)は第4位と、いずれも上位を占めており、患者数の多さや視覚障害の重症度から予防法・治療法の開発が望まれている。世界全体においても、網膜色素変性症や加齢黄斑変性は失明原因の上位を占めている。このような網膜変性疾患の病態進行の機序は遺伝、加齢、環境等複数あるが、視細胞死という共通の表現型を持つ。光の長期曝露は、代謝老廃物や細胞ストレスの蓄積を誘導し、視細胞や網膜色素上皮の老化や細胞死などを引き起こし、加齢黄斑変性症や網膜色素変性を含む網膜変性疾患の発症や増悪につながると考えられている。この現象は光障害として良く知られており、特に最近、コンピューターディスプレイなどから発せられる青色光による光障害が注目されている。光の長期曝露による光障害を減弱することは網膜保護や変性進行抑制の観点から重要である。
【0003】
本発明者らは、網膜に優位に発現しているユビキチン化酵素を同定し、この酵素のノックアウトマウスの解析から、この酵素が網膜視細胞の明暗順応(光応答感度)を制御していることを新たに見出した(特許文献1)。視細胞における明暗順応の分子機構は、ほとんど未解明であるが、網膜ユビキチン化酵素の機能解析から、視細胞におけるタンパク質ユビキチン化を介した明暗順応調節の新たな分子機構が明らかになれば、全く新しい分子メカニズムに基づく網膜色素変性症や加齢黄斑変性の進行抑制薬などの開発に繋がる可能性が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開WO2018/169090号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬を提供することを課題とする。また、本発明は、網膜および/または光受容に関連する症状を改善又は予防する物質のスクリーニング方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、光曝露による網膜変性抑制剤および網膜保護剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために以下の各発明を包含する。
[1]Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬。
[2]Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質が、カルシニューリン阻害剤またはカゼインキナーゼ2活性化剤である前記[1]に記載の医薬。
[3]カルシニューリン阻害剤が、シクロスポリンまたはタクロリムスである前記[2]に記載の医薬。
[4]網膜および/または光受容に関連する症状が、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、レーベル黒内障、スタルガルト病、錐体桿体ジストロフィー、糖尿病網膜症、黄斑浮腫、網膜虚血、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、光過敏性発作、光感受性てんかん、精神疾患、光線黄斑症、眼精疲労、網膜機能低下、睡眠障害、片頭痛及び光障害からなる群より選択される少なくとも1つの疾患である、前記[3]に記載の医薬。
[5]網膜および/または光受容に関連する症状が、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、レーベル黒内障、スタルガルト病、錐体桿体ジストロフィー、糖尿病網膜症、黄斑浮腫、網膜虚血、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、光線黄斑症、眼精疲労、網膜機能低下および光障害からなる群より選択される少なくとも1つの疾患である、前記[4]に記載の医薬。
[6]カルシニューリンを阻害する物質を選択する工程を含む、網膜および/または光受容に関連する症状を改善又は予防する物質のスクリーニング方法。
[7]カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程と、Unc119のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む、前記[6]に記載のスクリーニング方法。
[8]カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程が、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞に被験物質を接触させる工程である、前記[7]に記載のスクリーニング方法。
[9]カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程と、カルシニューリンとUnc119との相互作用を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のカルシニューリンとUnc119との相互作用と比較して両者の相互作用を減少させる被験物質を選択する工程とを含む、前記[6]に記載のスクリーニング方法。
[10]カゼインキナーゼ2を活性化する物質を選択する工程を含む、網膜および/または光受容に関連する症状を改善又は予防する物質のスクリーニング方法。
[11]カゼインキナーゼ2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程と、Unc119のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む、前記[10]に記載のスクリーニング方法。
[12]カゼインキナーゼ2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程が、カゼインキナーゼ2とUnc119を発現する細胞に被験物質をATP存在下で接触させる工程である、前記[11]に記載のスクリーニング方法。
[13]Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜変性抑制剤。
[14]網膜変性が、光曝露による錐体視細胞の構造破壊、桿体視細胞の構造破壊および視細胞層の厚み減少から選択される少なくとも1つを伴う、前記[13]に記載の網膜変性抑制剤。
[15]Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜保護剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬を提供することができる。有効成分として既に臨床使用されているカルシニューリン阻害剤を用いることができるので、安全性の高い医薬を提供することができる。また、本発明のスクリーニング方法により、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防に有用な物質を取得することができ、新規な網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬を提供することができる。さらに、本発明は、光曝露による網膜変性抑制剤および網膜保護剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】タクロリムス投与光障害誘発マウスの網膜における桿体視細胞の外節を蛍光免疫染色により観察した結果を示す図である。
図2】タクロリムス投与光障害誘発マウスの網膜における錐体視細胞を蛍光免疫染色により観察した結果を示す図である。
図3】タクロリムス投与光障害誘発マウスにおける網膜視細胞層の厚さを測定した結果を示す図である。
図4】シクロスポリン投与光障害誘発マウスの網膜における桿体視細胞の外節を蛍光免疫染色により観察した結果を示す図である。
図5】シクロスポリン投与光障害誘発マウスの網膜における錐体視細胞を蛍光免疫染色により観察した結果を示す図である。
図6】シクロスポリン投与光障害誘発マウスにおける網膜視細胞層の厚さを測定した結果を示す図である。
図7】試験管内キナーゼアッセイにより、カゼインキナーゼ2によるUnc119のリン酸化を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者らは、網膜に優位に発現しているユビキチン化酵素Klhl18を同定し、Klhl18のノックアウトマウスの解析から、Klhl18が網膜視細胞の明暗順応(光応答感度)を制御していることを見出した(特許文献1)。さらに、本発明者らは、Klhl18の標的タンパク質がUnc119であることを見出し、標的タンパク質のリン酸化および脱リン酸化によって標的タンパク質の分解が制御されていることを見出した。さらに、Unc119のリン酸化を触媒する酵素がカゼインキナーゼ2(Casein kinase 2、以下「CK2」とも表記する)であり、脱リン酸化を触媒する酵素がカルシニューリン(Calcineurin)であることを同定した。
【0010】
〔医薬〕
本発明は、Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬を提供する。なお、本発明において、「症状」には疾患等も含まれる。また、本発明において、「改善」には治療等も含まれ、その改善の程度は特に限定されず、症状の寛解、完治等も含む。「予防」も、その程度は特に限定されるものではなく、発症の阻止、進行の抑制を含む意味に用いる。
【0011】
Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質は、リン酸化Unc119の脱リン酸化を阻害する物質であってもよく、Unc119のリン酸化を亢進する物質であってもよい。Unc119の脱リン酸化を触媒する酵素はカルシニューリンであるので、リン酸化Unc119の脱リン酸化を阻害する物質は、カルシニューリン阻害剤であってもよい。カルシニューリン阻害剤としては、公知のカルシニューリン阻害剤を好適に用いることができる。公知のカルシニューリン阻害剤は、シクロスポリンまたはタクロリムスであってもよい。また、Unc119のリン酸化を触媒する酵素はCK2であるので、Unc119のリン酸化を亢進する物質は、CK2活性化剤であってもよい。
【0012】
シクロスポリン(Ciclosporin)は免疫抑制剤の有効成分として周知であり、日本においても医療用医薬品として承認され、薬価収載されている。シクロスポリンは、サイクロスポリン(Cyclosporin)、シクロスポリンA、サイクロスポリンA、CsAなどとも称される。シクロスポリンは日本薬局方収載医薬品であり、日本薬局方には以下のとおり記載されている。
【0013】
一般名:シクロスポリン(Ciclosporin)、別名:サイクロスポリンA
化学名:cyclo{-[(2S,3R,4R,6E)-3-Hydroxy-4-methyl-2-methylaminooct-6-enoyl]-L-2-aminobutanoyl-N-methylglycyl-N-methyl-L-leucyl-L-valyl-N-methyl-L-leucyl-L-alanyl-D-alanyl-N-methyl-L-leucyl-N-methyl-L-leucyl-N-methyl-L-valyl-}
分子式:C62H111N11O12
分子量:1202.61
構造式:
【0014】
【化1】
【0015】
タクロリムス(tacrolimus)は免疫抑制剤の有効成分として周知であり、日本においても医療用医薬品として承認され、薬価収載されている。タクロリムスは、FK506とも称される。日本薬局方にはタクロリムス水和物として収載されており、本発明に使用するタクロリムスはタクロリムス水和物であってもよい。日本薬局方には以下のとおり記載されている。
【0016】
一般名:タクロリムス水和物(Tacrolimus Hydrate)
化学名:(3S,4R,5S,8R,9E,12S,14S,15R,16S,18R,19R,26aS)-5,19-Dihydroxy-3-{(1E)-2-[(1R,3R,4R)-4-hydroxy-3-methoxycyclohexyl]-1-methylethenyl}-14,16-dimethoxy-4,10,12,18-tetramethyl-8-(prop-2-en-1-yl)-15,19-epoxy-5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26ahexadecahydro-3H-pyrido[2,1-c][1,4]oxaazacyclotricosine-1,7,20,21(4H,23H)-tetrone monohydrate
分子式:C44H69NO12・H2O
分子量:822.03
構造式:
【0017】
【化2】
【0018】
網膜および/または光受容に関連する症状は、網膜に発現する症状でもよく、網膜以外の臓器や組織に発現する症状でもよい。網膜に発現する症状は、網膜に起因して網膜に発現する症状でもよく、網膜以外の臓器や組織に起因して網膜に発現する症状でもよい。網膜以外の臓器や組織に発現する症状は、網膜に起因するものに限られる。網膜に起因する症状は、例えば、日常生活において受ける光刺激または光ストレスが原因となる症状であってもよく、強い光を浴びることが原因となる症状等であってもよい。
【0019】
網膜および/または光受容に関連する症状としては、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、レーベル黒内障、スタルガルト病(若年性黄斑変性)、錐体桿体ジストロフィー、糖尿病網膜症、黄斑浮腫、網膜虚血、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、光過敏性発作、光感受性てんかん、精神疾患、光線黄斑症、眼精疲労、網膜機能低下(例えば、老化によるもの等)、睡眠障害、片頭痛、光障害(例えば、屋外明所での活動、スポーツ、登山、コンピューターディスプレイ等から発せられる青色光等による光障害)、感覚過敏、視覚認知障害を伴う精神疾患(例えば、鬱病、抑鬱状態、双極障害(躁鬱病)、自閉症、精神発達障害、統合失調症等)などが挙げられる。網膜に発現する症状としては、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、レーベル黒内障、スタルガルト病、錐体桿体ジストロフィー、糖尿病網膜症、黄斑浮腫、網膜虚血、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、光線黄斑症、眼精疲労、網膜機能低下、光障害などが挙げられる。
【0020】
本発明の網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬は、網膜保護用医薬、網膜変性抑制用医薬、網膜老化抑制用医薬、感覚過敏の改善または抑制用医薬、光誘発性疾患の改善または予防用医薬、光誘発性障害の改善または予防用医薬と称してもよい。
【0021】
本発明の医薬は、上記の有効成分に薬学的に許容される担体、さらに添加剤を適宜配合して製剤化することができる。具体的には錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、輸液、坐剤、軟膏、パッチ剤等の非経口剤とすることができる。担体または添加剤の配合割合については、医薬品分野において通常採用されている範囲に基づいて適宜設定すればよい。配合できる担体または添加剤は特に制限されないが、例えば、水、生理食塩水、その他の水性溶媒、水性または油性基剤等の各種担体;賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の各種添加剤が挙げられる。
【0022】
賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸が挙げられ、結合剤としては、例えば、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の高分子化合物等が挙げられ、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられ、崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等が挙げられ、湿潤剤としては、例えば、グリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、トリアセチン等が挙げられるが、これらに限られない。必要に応じて、コーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。
【0023】
注射剤の場合、有効成分を生理食塩水等の水性基剤または注射用に許容される油性基剤に溶解または分散させて、静脈内投与用、筋肉内投与用または皮下投与用の注射剤とすればよい。必要に応じて、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、溶解補助剤、懸濁化剤、安定化剤等の添加剤を適宜加えることができる。
【0024】
注射剤の場合、水性基剤としては、例えば、生理食塩水、注射用水、リンゲル液等の輸液が挙げられる。油性基剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、綿実油、オリーブ油、プロピレングリコール脂肪酸エステル等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、グルタミン酸塩、イプシロンアミノカプロン酸塩、トリス緩衝液等の緩衝液等が挙げられる。pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、硫酸、炭酸等の無機酸、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸、水酸化ナトリウム等の無機塩基、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等の有機塩基が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム等の無機塩類、D-マンニトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール、フルクトース、グルコース、ガラストース、リボース、キシロース、マンノース、マルトトリオース、マルトテトラオース等の糖類、グリシン、アルギニン等のアミノ酸が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、レシチンや、ポリソルベート80等の非イオン界面活性剤が挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、アルブミン、グロブリン、ゼラチン、ソルビトール、エチレングルコール、プロピレングリコール、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0025】
本発明の医薬の有効成分であるシクロスポリンおよびタクロリムスは、既に長年にわたり臨床で使用されているので、本発明の医薬は、ヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、安全に投与することができる。
【0026】
有効成分としてシクロスポリンまたはタクロリムスを用いる場合、本発明の医薬の1日当たりの投与量は、臨床使用されているシクロスポリンまたはタクロリムスの1日当たりの投与量に準じて設定することができる。
【0027】
〔網膜変性抑制剤、網膜保護剤〕
本発明は、Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜変性抑制剤を提供する。また、本発明は、Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質を有効成分として含有する、網膜保護剤を提供する。本発明者らは、タクロリムスまたはシクロスポリンを投与したマウスに光障害を誘導し、網膜の凍結切片を作製して網膜視細胞層を共焦点レーザスキャン顕微鏡で観察したところ、錐体視細胞および桿体視細胞の構造が破壊されずに保持されており、視細胞層の厚みも減少せずに保持されていることを確認した(実施例1参照)。したがって、本発明の網膜変性抑制剤および網膜保護剤は、光障害の予防または治療に有効である。
【0028】
本発明の網膜変性抑制剤および網膜保護剤は、上記医薬の実施形態において説明した物質を有効成分とすることができる。また、本発明の網膜変性抑制剤および網膜保護剤は、上記医薬の実施形態において説明したように、各種剤形に製剤化することができ、ヒトや他の哺乳動物(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して、安全に投与することができる。
【0029】
〔スクリーニング方法〕
本発明は、網膜および/または光受容に関連する症状を改善又は予防する物質のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、カルシニューリンを阻害する物質を選択する方法であってもよく、CK2を活性化する物質を選択する方法であってもよい。カルシニューリンを阻害する物質は、カルシニューリンの基質の脱リン酸化を阻害する物質を選択する方法であってもよい。CK2を活性化する物質は、CK2の基質のリン酸化を亢進させる物質を選択する方法であってもよい。
【0030】
本発明のスクリーニング方法において、網膜および/または光受容に関連する症状は、網膜に発現する症状でもよく、網膜以外の臓器や組織に発現する症状でもよい。網膜に発現する症状は、網膜に起因して網膜に発現する症状でもよく、網膜以外の臓器や組織に起因して網膜に発現する症状でもよい。網膜以外の臓器や組織に発現する症状は、網膜に起因するものに限られる。網膜および/または光受容に関連する症状の具体例としては、上記で例示した各症状が挙げられる。
【0031】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は特に限定されず、核酸、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞培養上清、植物抽出液、哺乳動物の組織抽出液、血漿等であってもよい。被験物質は、新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。これら被験物質は塩を形成していてもよい。被験物質の塩としては、生理学的に許容される酸や塩基との塩が好ましい。
【0032】
本発明のスクリーニング方法は、カルシニューリンを阻害する物質を選択する工程を含むものであればよい。カルシニューリンを阻害する物質がカルシニューリンの基質の脱リン酸化を阻害する物質である場合、本発明のスクリーニング方法は、例えば、カルシニューリンとカルモジュリン(Calmodulin)と基質と被験物質を接触させる工程と、基質のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合の基質のリン酸化状態と比較して基質のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む方法であってもよい。また、例えば、カルシニューリンとカルモジュリンと基質と被験物質を接触させる工程と、カルシニューリンと基質との相互作用を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のカルシニューリンと基質との相互作用と比較して両者の相互作用を減少させる被験物質を選択する工程とを含む方法であってもよい。
【0033】
カルシニューリンの基質は、公知のカルシニューリンの基質から選択すればよい。カルシニューリンの基質としては、例えば、NFATC1(nuclear factor of activated T cells 1)、DNM1(dynamin 1)などが挙げられるが、これに限定されない。好ましくは、網膜に優位に発現しているユビキチン化酵素Klhl18の標的タンパク質であるUnc119である。以下、本発明のスクリーニング方法において、カルシニューリンの基質がUnc119である場合について詳細に説明するが、Unc119以外の基質を用いる場合も同様に実施することができる。
【0034】
本発明のスクリーニング方法は、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程と、Unc119のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む方法であってもよい。カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程は、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を含む溶液を調製し、その溶液に被験物質を添加する方法であってもよく、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞を培養し、その培養液に被験物質を添加する方法であってもよい。
【0035】
本発明のスクリーニング方法に用いるカルシニューリンは、どのような生物由来のカルシニューリンでもよく、哺乳動物のカルシニューリンであってもよい。哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモットなどが挙げられ、好ましくはヒトのカルシニューリンである。カルシニューリンは試薬として市販されている組換えカルシニューリンや、市販のキット(例えば、Enzo Life Sciences社製「カルシニューリン活性測定キット」)に含まれる組換えカルシニューリンを使用してもよく、公知の遺伝子組換え技術を用いて組換えカルシニューリンを製造して使用してもよい。
【0036】
カルシニューリン(Protein phosphatase 2B (PP2B)、Protein phosphatase 3 (ppp3)とも称される)は、触媒サブユニットであるカルシニューリンAと制御サブユニットであるカルシニューリンBから構成されるヘテロ二量体であり、カルモジュリンが結合することで活性化される。したがって、カルシニューリンAをコードする遺伝子とカルシニューリンBをコードする遺伝子を適当な宿主細胞に導入してカルシニューリン発現細胞を作製することができる。作製したカルシニューリン発現細胞を培養し、その培養上清または細胞抽出物から公知の方法(例えば、アフィニティーカラム)を用いて、組換えカルシニューリンを取得することができる。
【0037】
ヒトのカルシニューリンAおよびカルシニューリンBのアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号を表1に示す。表1に記載のPPP3CA、PPP3CB、PPP3CCのいずれか1つと、PPP3R1、PPP3R2いずれか1つを選択して宿主細胞に導入することにより、カルシニューリン発現細胞を作製することができる。ヒト以外の生物のカルシニューリンAおよびカルシニューリンBの塩基配列情報およびアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。
【0038】
【表1】
【0039】
本発明のスクリーニング方法に用いるカルモジュリンは、どのような生物由来のカルモジュリンでもよく、哺乳動物のカルモジュリンであってもよい。哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモットなどが挙げられ、好ましくはヒトのカルモジュリンである。カルモジュリンは試薬として市販されている組換えカルモジュリンや、市販のキット(例えば、Enzo Life Sciences社製「カルシニューリン活性測定キット」)に含まれる組換えカルモジュリンを使用してもよく、公知の遺伝子組換え技術を用いて組換えカルモジュリンを製造して使用してもよい。
【0040】
ヒトのカルモジュリンには、カルモジュリン1、カルモジュリン2およびカルモジュリン3の3種類があり、これらのいずれか1つをコードする遺伝子を宿主細胞に導入することにより、カルモジュリン発現細胞を作製することができる。カルモジュリン発現細胞を培養し、その培養上清または細胞抽出物から公知の方法(例えば、アフィニティーカラム)を用いて、組換えカルモジュリンを取得することができる。ヒトのカルモジュリン1、2、3のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号を表2に示す。ヒト以外の生物のカルモジュリンの塩基配列情報およびアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。
【0041】
【表2】
【0042】
本発明のスクリーニング方法に用いるUnc119は、どのような生物由来のUnc119でもよく、哺乳動物のUnc119であってもよい。哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモットなどが挙げられ、好ましくはヒトのUnc119である。Unc119は、公知の遺伝子組換え技術を用いて組換えUnc119を製造して使用すればよい。Unc119発現細胞は、Unc119をコードする遺伝子を宿主細胞に導入することにより作製することができ、作製したUnc119発現細胞を培養して、その培養上清または細胞抽出物から公知の方法(例えば、アフィニティーカラム)を用いて、組換えUnc119を取得することができる。
【0043】
ヒトUnc119のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号は、それぞれNM_005148およびNP_005139である。ヒト以外の生物のUnc119の塩基配列情報およびアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。
【0044】
本発明のスクリーニング方法に用いるカルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞は、内因性のカルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞でもよく、導入された遺伝子由来の組換えカルシニューリンと組換えカルモジュリンと組換えUnc119を発現する細胞でもよく、内因性タンパク質と組換えタンパク質を組み合わせてカルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞でもよい。好ましくは、組換えカルシニューリンと組換えカルモジュリンと組換えUnc119を発現する細胞である。当該細胞は、宿主細胞にカルシニューリンAをコードする遺伝子、カルシニューリンBをコードする遺伝子、カルモジュリンをコードする遺伝子、Unc119をコードする遺伝子を共導入することにより作製することができる。各遺伝子の塩基配列情報は上記のとおりである。宿主細胞は導入した各遺伝子産物を発現できる細胞であればよく、特に限定されない。例えば、HEK293T細胞、Neuro2a細胞、NIH3T3細胞などが挙げられる。上記の組換えカルシニューリン発現細胞、組換えカルモジュリン発現細胞、組換えUnc119発現細胞に使用する宿主細胞にも、これらの細胞を好適に使用することができる。
【0045】
カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程において、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を含む溶液を調製し、その溶液に被験物質を添加する方法で行う場合、溶液に添加するカルシニューリン、カルモジュリンおよびUnc119の量は特に限定されないが、モル比として約1:1:1であってもよい。被験物質の添加量は、次の工程でUnc119のリン酸化状態を確認できる限り特に限定されない。被験物質は、濃度範囲を設定して複数の濃度で添加してもよい。
【0046】
使用する溶液は特に限定されず、タンパク質のリン酸化反応に使用可能な公知の緩衝液を好適に使用することができる。例えば、1 mM CaCl2、100 mM NaCl、1 mg/ml BSA、0.025% NP-40、1 mM DTTを含有する50 mM Tris-HCl (pH 7.5)緩衝液が挙げられる。溶液の温度および接触時間は、カルシニューリンとカルモジュリンが複合体を形成し、Unc119の脱リン酸化を触媒できる条件であればよく。例えば、溶液温度37℃、接触時間30分であってもよい。
【0047】
カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程において、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞を培養し、その培養液に被験物質を添加する方法で行う場合、被験物質の添加量は、細胞の増殖および組み換えタンパク質の発現を著しく阻害しない量であればよい。被験物質は、濃度範囲を設定して複数の濃度で添加してもよい。被験物質の添加時間は特に限定されず、約0.5時間~約48時間であってもよい。
【0048】
カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を発現する細胞を用いた場合、Unc119のリン酸化量を測定するための細胞溶解液を調製して、次工程に供する。細胞溶解液の調製方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。具体的には、例えば以下の方法で調製してもよい。
培養液を除き、細胞をTBS(Tris-buffered saline:20mM Tris-HCl pH 7.4, 150mM NaCl)で2回洗浄し、Lysis buffer(20mM Tris-HCl pH 7.4, 150mM NaCl, 1% NP-40, phosphatase inhibitor cocktail (Roche社))でピペッティングにより溶解させ、氷上に10分間静置する。遠心分離(14,000rpm、半径5.4cm、10分間、4℃)した後、上清を回収し、等量の2×サンプルバッファー(0.1M Tris-HCl pH6.8, 1%SDS, 5% βメルカプトエタノール, 10%グリセロール, 0.02%BPB)を加え、室温で30分間静置する。
【0049】
Unc119のリン酸化状態を確認する工程では、公知の方法でUnc119のリン酸化量を測定すればよい。例えば、リン酸化/非リン酸化フォームを分離可能な電気泳動法、リン酸が標識されたATPを溶液に添加する方法、リン酸化を認識する抗体を用いる方法などであってもよい。具体的には、Phos-tag SDS-PAGE(商品名、富士フィルム和光純薬社)、32P標識ATP(パーキンエルマー社、他)、抗リン酸化セリン抗体(abcam社、製品コード:ab9332)などを使用することができる。
【0050】
被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程では、被験物質を接触させないサンプル(コントロール群)のUnc119のリン酸化量と、被験物質を接触させたサンプル(被験物質群)のUnc119のリン酸化量を比較して、リン酸化量が増加している被験物質を選択すればよい。被験物質がUnc119のリン酸化量を増加させる程度は特に限定されないが、例えば、被験物質を接触させないサンプルと比較して、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%以上増加させる被験物質を選択してもよい。
【0051】
本発明のスクリーニング方法は、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程と、カルシニューリンとUnc119との相互作用を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のカルシニューリンとUnc119との相互作用と比較して両者の相互作用を減少させる被験物質を選択する工程とを含む方法であってもよい。
【0052】
本実施形態では、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119と被験物質を接触させる工程は、カルシニューリンとカルモジュリンとUnc119を含む溶液を調製し、その溶液に被験物質を添加する方法で行ってもよく、Unc119を固相化し、そこにカルシニューリンとカルモジュリンと被験物質を添加する方法で行ってもよい。カルシニューリン、カルモジュリンおよびUnc119の使用量、被験物質の添加量、溶液、溶液温度、接触時間については上記のとおりである。
【0053】
カルシニューリンとUnc119との相互作用を確認する工程では、公知の方法でカルシニューリンとUnc119の相互作用を測定すればよい。具体的には、例えば、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動:Fluorescence Resonance Energy Transfer)、Alpha screen(化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイ:Amplified Luminescence Proximity Homogeneous Assay)、免疫沈降法、ELISA法などであってもよい。
【0054】
被験物質を接触させない場合のカルシニューリンとUnc119との相互作用と比較して両者の相互作用を減少させる被験物質を選択する工程では、被験物質を接触させないサンプル(コントロール群)のUnc119のリン酸化量と、被験物質を接触させたサンプル(被験物質群)のカルシニューリンとUnc119との相互作用量を比較して、相互作用量が減少している被験物質を選択すればよい。カルシニューリンとUnc119との相互作用量を減少させる程度は特に限定されないが、例えば、被験物質を接触させないサンプルと比較して、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下に減少させる被験物質を選択してもよい。
【0055】
本発明のスクリーニング方法は、CK2を活性化する物質を選択する工程を含むものであればよい。CK2を活性化する物質がCK2の基質のリン酸化を亢進させる物質である場合、本発明のスクリーニング方法は、例えば、CK2と基質と被験物質をATP存在下で接触させる工程と、基質のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合の基質のリン酸化状態と比較して基質のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む方法であってもよい。
【0056】
CK2の基質は、公知のCK2の基質から選択すればよい。CK2の基質としては、例えば、BRD4(bromodomain containing 4)、KBTBD8(kelch repeat and BTB domain containing 8)などが挙げられるが、これに限定されない。好ましくは、網膜に優位に発現しているユビキチン化酵素Klhl18の標的タンパク質であるUnc119である。以下、本発明のスクリーニング方法において、CK2の基質がUnc119である場合について詳細に説明するが、Unc119以外の基質を用いる場合も同様に実施することができる。
【0057】
本発明のスクリーニング方法は、CK2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程と、Unc119のリン酸化状態を確認する工程と、被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程とを含む方法であってもよい。CK2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程は、CK2とUnc119とATPを含む溶液を調製し、その溶液に被験物質を添加する方法であってもよく、CK2とUnc119を発現する細胞をATPを含む培養液で培養し、その培養液に被験物質を添加する方法であってもよい。
【0058】
本発明のスクリーニング方法に用いるUnc119は、上記と同様に、公知の遺伝子組換え技術を用いて製造した組換えUnc119を好適に使用することができる。
【0059】
本発明のスクリーニング方法に用いるCK2は、どのような生物由来のCK2でもよく、哺乳動物のCK2であってもよい。哺乳動物としては、ヒト、チンパンジー、サル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、モルモットなどが挙げられ、好ましくはヒトのCK2である。CK2は試薬として市販されている組換えCK2を使用してもよく、公知の遺伝子組換え技術を用いて組換えCK2を製造して使用してもよい。
【0060】
CK2は触媒サブユニットであるアルファ(αまたはα’)と制御サブユニットであるベータ(β)がヘテロ四量体を形成して活性を発現する。ヘテロ四量体は、ααββ、αα’ββ、α’α’ββのいずれであってもよい。したがって、CK2発現細胞は、宿主細胞に、αをコードする遺伝子とβをコードする遺伝子の2種類の遺伝子を導入することにより、または、α’をコードする遺伝子とβをコードする遺伝子の2種類の遺伝子を導入することにより、または、αをコードする遺伝子とα’をコードする遺伝子とβをコードする遺伝子の3種類の遺伝子を導入することにより、作製することができる。作製したCK2発現細胞を培養し、その培養上清または細胞抽出物から公知の方法(例えば、アフィニティーカラム)を用いて、組換えCK2を取得することができる。
【0061】
ヒトのCK2アルファサブユニット(α)、アルファサブユニット(α’)およびベータサブユニット(β)のアミノ酸配列およびそれをコードする遺伝子の塩基配列のアクセッション番号を表3に示す。ヒト以外の生物のCK2の塩基配列情報およびアミノ酸配列情報は、公知のデータベース(DDBJ/GenBank/EMBL等)から取得することができる。
【0062】
【表3】
【0063】
本発明のスクリーニング方法に用いるCK2とUnc119を発現する細胞は、内因性のCK2とUnc119を発現する細胞でもよく、導入された遺伝子由来の組換えCK2と組換えUnc119を発現する細胞でもよく、内因性タンパク質と組換えタンパク質を組み合わせてCK2とUnc119を発現する細胞でもよい。好ましくは、組換えCK2と組換えUnc119を発現する細胞である。当該細胞は、宿主細胞にCK2をコードする遺伝子、Unc119をコードする遺伝子を共導入することにより作製することができる。具体的には、CK2アルファサブユニット(α)をコードする遺伝子、CK2ベータサブユニット(β)をコードする遺伝子、Unc119をコードする遺伝子を共導入する、または、CK2アルファサブユニット(α’)をコードする遺伝子、CK2ベータサブユニット(β)をコードする遺伝子、Unc119をコードする遺伝子を共導入する、または、CK2アルファサブユニット(α)をコードする遺伝子、CK2アルファサブユニット(α’)をコードする遺伝子、CK2ベータサブユニット(β)をコードする遺伝子、Unc119をコードする遺伝子を共導入することにより作製することができる。宿主細胞として使用できる細胞は上記の通りである。
【0064】
CK2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程において、CK2とUnc119とATPを含む溶液を調製し、その溶液に被験物質を添加する方法で行う場合、溶液に添加するCK2およびUnc119の量は特に限定されないが、モル比として約1:1であってもよい。ATPの添加量は特に限定されないが、10μM~1000μMであってもよい。被験物質の添加量は、次の工程でUnc119のリン酸化状態を確認できる限り特に限定されない。被験物質は、濃度範囲を設定して複数の濃度で添加してもよい。
【0065】
使用する溶液は特に限定されず、タンパク質のリン酸化反応に使用可能な公知の緩衝液を好適に使用することができる。例えば、40μMのATPを添加した「1×NEBuffer for Protein Kinase」(NEB社)が挙げられる。溶液の温度および接触時間は、CK2がUnc119のリン酸化を触媒できる条件であればよく。例えば、溶液温度30℃、接触時間30分であってもよい。
【0066】
CK2とUnc119と被験物質をATP存在下で接触させる工程において、CK2とUnc119を発現する細胞を、ATPを含む培養液で培養し、その培養液に被験物質を添加する方法で行う場合、ATPの添加量は特に限定されないが、10μM~1000μMであってもよい。被験物質の添加量は、細胞の増殖および組み換えタンパク質の発現を著しく阻害しない量であればよい。被験物質は、濃度範囲を設定して複数の濃度で添加してもよい。被験物質の添加時間は特に限定されず、約0.5時間~約48時間であってもよい。
【0067】
CK2とUnc119を発現する細胞を用いた場合、Unc119のリン酸化量を測定するための細胞溶解液を調製して、次工程に供する。細胞溶解液の調製方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択すればよい。具体的には、上記に例示した方法で細胞溶解液を調製してもよい。
【0068】
Unc119のリン酸化状態を確認する工程では、公知の方法でUnc119のリン酸化量を測定すればよい。例えば、リン酸化/非リン酸化フォームを分離可能な電気泳動法、リン酸が標識されたATPを溶液に添加する方法、リン酸化を認識する抗体を用いる方法などであってもよい。具体的には、Phos-tag SDS-PAGE(商品名、富士フィルム和光純薬社)、32P標識ATP(パーキンエルマー社、他)、抗リン酸化セリン抗体(abcam社、製品コード:ab9332)などを使用することができる。
【0069】
被験物質を接触させない場合のUnc119のリン酸化状態と比較してUnc119のリン酸化状態を増強させる被験物質を選択する工程では、被験物質を接触させないサンプル(コントロール群)のUnc119のリン酸化量と、被験物質を接触させたサンプル(被験物質群)のUnc119のリン酸化量を比較して、リン酸化量が増加している被験物質を選択すればよい。被験物質がUnc119のリン酸化量を増加させる程度は特に限定されないが、例えば、被験物質を接触させないサンプルと比較して、120%以上、130%以上、140%以上、150%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%以上増加させる被験物質を選択してもよい。
【0070】
本発明には、以下の各発明が含まれる。
(a)哺乳動物に対して、Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質の有効量を投与することを含む網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防方法。
(b)網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防に使用するためのUnc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質。
(c)網膜および/または光受容に関連する症状の改善または予防用医薬を製造するためのUnc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質の使用。
発明(a)、(b)または(c)において、Unc119のリン酸化状態を維持または亢進させる物質はカルシニューリン阻害剤またはカゼインキナーゼ2活性化剤であってもよく、カルシニューリン阻害剤はシクロスポリンまたはタクロリムスであってもよい。
発明(a)、(b)または(c)において、網膜および/または光受容に関連する症状は、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、レーベル黒内障、スタルガルト病、錐体桿体ジストロフィー、糖尿病網膜症、黄斑浮腫、網膜虚血、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、光過敏性発作、光感受性てんかん、精神疾患、光線黄斑症、眼精疲労、網膜機能低下、睡眠障害、片頭痛および光障害からなる群より選択される少なくとも1つの疾患であってもよい。
【実施例
【0071】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
[実施例1:カルシニューリン活性阻害物質を投与したマウスに対する光障害実験]
(1)光障害実験方法
4週齢のBALB/cマウス(日本SLC社)を暗黒下で12時間飼育し暗順応させた。暗順応開始から8時間後に、暗黒下でタクロリムス(FK506、abcam社)(投与量10mg/kg)またはシクロスポリン(Cyclosporine A、abcam社)(投与量100mg/kg)を背中部に皮下注射した。コントロールマウスには、DMSOを投与した。暗順応終了30分前に暗黒下で散瞳剤サイプレジン(参天製薬株式会社)を点眼した。次に、周囲の4面と床が鏡張りの箱の中にマウスを入れてブルーLEDライトから青色光を照射した。ブルーLEDライトの波長は約450nmで、マウスに到達する光は約7000ルクスである。3時間青色光を照射したのち通常の明環境(蛍光灯が点灯している約30ルクスの環境)で9時間飼育した。これを1サイクルとし、6日間繰り返した。すなわち、6日間毎日薬剤投与と青色光照射(3時間)を行い、光障害を誘導した。
【0073】
(2)組織学的分析
(a)免疫蛍光染色
最終の青色光照射の翌日に、マウスを安楽死させ、眼球を摘出した。4%パラホルムアルデヒド/PBS(Phosphate Buffer Saline)を用いて室温で5分間固定した。固定後の眼球をPBSで洗浄し、O.C.T.コンパウンド(Sakura Finetek社製)を用いて、眼球を包埋した。クライオスタットにより20μmの厚さの網膜凍結切片を作製し、スライドグラス上に貼り付け、凍結切片を室温にて乾燥させた。切片をPBSで2回洗浄した後、ブロッキングバッファー(5% Normal donkey serum/0.1%TritonX-100/PBS)で、室温1時間ブロッキングした。その後、一次抗体を4℃で一晩反応させた。切片をPBSで3回洗浄した後、二次抗体を室温で2時間反応させた。一次抗体には、抗Rhodopsin抗体(ロドプシン、ウサギポリクローナル、Santa Cruz社製、1:500希釈)、抗S-opsin抗体(S-オプシン(青色錐体オプシン)、ヤギポリクローナル、Santa Cruz社製、1:500希釈)および抗M-opsin抗体(M-オプシン(緑色錐体オプシン、ウサギポリクローナル、Millipore社製、1:500希釈)を用い、二次抗体には、Alexa Flour 488標識抗体(Thermo Fisher Scientific社製、1:500希釈)およびCy3標識抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社、1:500希釈)を使用した。二次抗体の反応終了後、PBSで3回洗浄し、封入剤を用いて封入した。また、いずれのサンプルについてもDAPIを用いて細胞核の染色を行った。全ての蛍光画像は、共焦点レーザスキャン顕微鏡(LSM700、Carl Zeiss社製)を用いて取得した。
【0074】
(b)視細胞層の厚みの計測
上記と同様にして作製したマウスの網膜切片をPBSで2回洗浄した後、DAPIを用いて細胞核の染色を行い、視細胞層の厚みを視神経の距離に応じて計測した。具体的には、共焦点レーザスキャン顕微鏡(LSM700、Carl Zeiss社製)で画像を取得し、画像解析ソフトMetamorph(Molecular Devices社)を用いて視細胞層の厚みを計測した。
【0075】
(3)タクロリムス投与の結果
(a)免疫蛍光染色
タクロリムスを投与したマウスの網膜視細胞層を観察した結果を図1および2に示した。図1は、抗Rhodopsin抗体を用いて桿体視細胞外節を染色した結果であり、図2は、抗S-opsin抗体および抗M-opsin抗体を用いて錐体視細胞を染色した結果である。図1から明らかなように、光障害誘発コントロールマウス(DMSO投与)では、桿体視細胞外節がダメージを受けていたが、光障害誘発タクロリムス投与マウスでは、光障害非誘発コントロールおよび光障害非誘発タクロリムス投与マウスと同程度に桿体視細胞外節の構造が保たれていることが観察された。また、図2から明らかなように、光障害誘発コントロールマウス(DMSO投与)では、錐体視細胞がダメージを受けていたが、光障害誘発タクロリムス投与マウスでは、光障害非誘発コントロールおよび光障害非誘発タクロリムス投与マウスと同程度に錐体視細胞の構造が保たれていることが観察された。
【0076】
(b)視細胞層の厚みの計測
タクロリムスを投与したマウスの網膜視細胞層の厚みを測定した結果を図3に示した。図3から明らかなように、光障害誘発コントロールマウス(DMSO投与)では、視細胞層の厚みが顕著に薄くなっていたが、光障害誘発タクロリムス投与マウスでは、光障害非誘発コントロールおよび光障害非誘発タクロリムス投与マウスと同程度に視細胞層の厚みが保持されていることが観察された。
これらの結果から、タクロリムス投与により、光曝露による視細胞の変性が阻害され、視細胞の構造が維持されていることが明らかになった。
【0077】
(4)シクロスポリン投与の結果
(a)免疫蛍光染色
シクロスポリンを投与したマウスの網膜視細胞層を観察した結果を図4および5に示した。図4は、抗Rhodopsin抗体を用いて桿体視細胞外節を染色した結果であり、図5は、抗S-opsin抗体および抗M-opsin抗体を用いて錐体視細胞を染色した結果である。図4から明らかなように、光障害誘発コントロールマウス(DMSO投与)では、桿体視細胞外節がダメージを受けていたが、光障害誘発シクロスポリン投与マウスでは、光障害非誘発コントロールおよび光障害非誘発シクロスポリン投与マウスと同程度に桿体視細胞外節の構造が保たれていることが観察された。また、図5から明らかなように、光障害誘発コントロールマウス(DMSO投与)では、錐体視細胞がダメージを受けていたが、光障害誘発シクロスポリン投与マウスでは、光障害非誘発コントロールおよび光障害非誘発シクロスポリン投与マウスと同程度に錐体視細胞の構造が保たれていることが観察された。
【0078】
(b)視細胞層の厚みの計測
シクロスポリンを投与したマウスの網膜視細胞層の厚みを測定した結果を図6に示した。図6から明らかなように、光障害誘発コントロールマウス(DMSO投与)では、視細胞層の厚みが顕著に薄くなっていたが、光障害誘発シクロスポリン投与マウスでは、光障害非誘発コントロールおよび光障害非誘発シクロスポリン投与マウスと同程度に視細胞層の厚みが保持されていることが観察された。
これらの結果から、シクロスポリン投与により、光曝露による視細胞の変性が阻害され、視細胞の構造が維持されていることが明らかになった。
【0079】
[実施例2:CK2によるUnc119のリン酸化]
(1)Unc119発現プラスミドの作製
N末端に6×His(6×ヒスチジン)タグが付加されたUnc119を発現するプラスミドを作製するために、ヒトUnc119の全長cDNAフラグメントをPlasmIDから購入したヒトUnc119クローン(HsCD00330844)をテンプレートとしてPCRで増幅し、pET-28bベクター(Novagen)に組み込んだ。
【0080】
(2)6×Hisタグ付加Unc119の発現と精製
6×Hisタグ付加Unc119タンパク質は大腸菌(BL21(DE3))で発現させ、精製した。pET-28b-Unc119を導入した大腸菌をLB培地でOD600nmが0.6となるまで増殖させ、1mMのIPTGで処理したのち25℃で3時間30分培養して遠心により菌体を回収した。集菌した大腸菌はsonication buffer(20mM Tris-HCl pH 7.4, 1mM EDTA, 150mM NaCl, 1%TritonX-100, 1mM DTT, 50mM imidazole, 1mM PMSF, 2μg/ml leupeptin, 5μg/ml aprotinin, 3μg/ml pepstatinA)を用いて溶解した後、遠心した。上清はNi-NTA Agarose(QIAGEN)と4℃で2時間混和した。ビーズはwash buffer(20mM Tris-HCl pH 7.4, 1%NP-40, 150mM NaCl, 5mM EDTA)で洗い、elution buffer(200mM imidazole, 150mM NaCl, 20mM Tris-HCl, pH7.4, 0.1% TritonX-100, 1mM DTT)で溶出した。
【0081】
(3)試験管内キナーゼアッセイ
2μgの精製した6×Hisタグ付加Unc119タンパク質を50ユニットのCK2(NEB)と40μMのATPを含む1×NEBuffer for Protein Kinase(NEB社)中において30℃で30分反応させた。反応は等量の2×サンプルバッファー(0.1M Tris-HCl pH6.8, 1%SDS, 5% βメルカプトエタノール, 10%グリセロール, 0.02%BPB)を加え、室温で30分間静置することによって終了した。
【0082】
(4)Phos-tag SDS-PAGE
試験管内キナーゼアッセイ後のサンプルは製品説明書に基づきPhos-tagアクリルアミド(Wako)を用いたSDS-PAGEによって検出した(参考文献1:Mol. Cell. Proteomics. 5(4):749-757(2006)、参考文献2:Proteomics 11 (2):319-323(2011))。
【0083】
(5)結果
SDS-PAGEの結果を図7に示した。Phos-tag SDS-PAGEによって、CK2と反応させていないサンプルでは1本の6×Hisタグ付加Unc119タンパク質のバンド(黒矢頭)が観察された一方で、CK2と反応させたサンプルでは黒矢頭のバンドに加え、シフトアップしたバンド(白矢頭)も観察され、CK2によるUnc119のリン酸化が確認された。
【0084】
なお本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7