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特許7431660面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子
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  • 特許-面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-06
(45)【発行日】2024-02-15
(54)【発明の名称】面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子
(51)【国際特許分類】
   H10N 50/85 20230101AFI20240207BHJP
   G11B 5/39 20060101ALI20240207BHJP
   H01F 1/047 20060101ALI20240207BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20240207BHJP
   H01F 10/30 20060101ALI20240207BHJP
   H01F 10/32 20060101ALI20240207BHJP
   H10N 50/01 20230101ALI20240207BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240207BHJP
【FI】
H10N50/85
G11B5/39
H01F1/047
H01F10/16
H01F10/30
H01F10/32
H10N50/01
H10N50/10 U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020081598
(22)【出願日】2020-05-01
(65)【公開番号】P2021176183
(43)【公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 崇
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 了輔
(72)【発明者】
【氏名】タム キム コング
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 知成
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185183(JP,A)
【文献】特開2008-047737(JP,A)
【文献】特開2012-113808(JP,A)
【文献】米国特許第9384763(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 50/85
G11B 5/39
H01F 1/047
H01F 10/16
H01F 10/30
H01F 10/32
H10N 50/01
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Coおよび金属Ptを含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは30nm以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項2】
磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、
複数の面内磁化膜と、
非磁性中間層と、
を有してなり、
前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、
前記面内磁化膜は、
金属Coおよび金属Ptを含有してなり、
当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、
前記面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造。
【請求項3】
前記面内磁化膜は、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、ホウ素を0.5at%以上3.5at%以下含有していることを特徴とする請求項1または2に記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項4】
前記非磁性中間層の厚さは、0.3nm以上3nm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項5】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項6】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層。
【請求項8】
請求項7に記載のハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子に関し、詳細には、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板を加熱して行う成膜(以下、加熱成膜と記すことがある。)を行わずに実現することができるCoPt系の面内磁化膜多層構造、該面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層、および前記ハードバイアス層を有してなる磁気抵抗効果素子に関する。前記CoPt系の面内磁化膜多層構造は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層に用いることができる。
【0002】
保磁力Hcが2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるハードバイアス層であれば、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層と比べて同等程度以上の保磁力および残留磁化を有していると考えられる。
【0003】
なお、本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(以下、フリー磁性層と記すことがある。)にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【0004】
また、本願では、金属Coを単にCoと記載し、金属Ptを単にPtと記載し、金属Ruを単にRuと記載することがある。また、他の金属元素についても同様に記載することがある。
【0005】
また、本願において、ホウ素(B)は金属元素の範疇に含める。
【背景技術】
【0006】
現在多くの分野で磁気センサが用いられているが、汎用的に用いられている磁気センサの1つに磁気抵抗効果素子がある。
【0007】
磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果を発揮する磁性層(フリー磁性層)と、該磁性層(フリー磁性層)にバイアス磁界を加えるハードバイアス層と、を有してなり、ハードバイアス層には、所定以上の大きさの磁界を安定的にフリー磁性層に印加できることが求められている。
【0008】
したがって、ハードバイアス層には、高い保磁力および残留磁化が求められる。
【0009】
しかしながら、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力は、2kOe程度であり(例えば、特許文献1の図7)、これ以上の保磁力の実現が望まれている。
【0010】
また、単位面積当たりの残留磁化は、2memu/cm2程度以上であることが望まれている(例えば、特許文献2の段落0007)。
【0011】
これらに対応できる可能性のある技術として、例えば特許文献3に記載の技術がある。特許文献3に記載の技術は、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)とハードバイアス層との間に設けたシード層(Ta層と、そのTa層の上に形成され、面心立方(111)結晶構造または六方最密(001)結晶構造を有する金属層とを含む複合シード層)により、長手方向に容易軸を向かせるように磁性材料を配向させ、ハードバイアス層の保磁力の向上を試みた手法である。しかしながら、ハードバイアス層に望まれる前記磁気特性を満たしていない。また、この手法では、保磁力向上のため、センサ積層体とハードバイアス層との間に設けたシード層を厚くする必要がある。このため、センサ積層体中のフリー磁性層への印加磁場が弱くなるという問題も抱える構造である。
【0012】
また、特許文献4には、ハードバイアス層に用いる磁性材にFePtを用いることや、Pt又はFeシード層を有するFePtハードバイアス層、及びPt又はFeのキャッピング層が記載されており、この特許文献4では、焼なまし温度が約250~350℃である焼なましの間に、シード層及びキャッピング層内のPt又はFe、ならびにハードバイアス層内のFePtが互いに混ざり合う構造が提案されている。しかしながら、このハードバイアス層の形成に必要な加熱工程においては、既に積層されている他の膜への影響を考慮する必要があり、この加熱工程は可能な限り避けるべき工程である。
【0013】
特許文献5では、焼なまし温度の最適化が行われて、焼なまし温度を200℃程度まで下げることが可能であることが示され、ハードバイアス層の保磁力が3.5kOe以上であることが示されているが、単位面積当たりの残留磁化は1.2memu/cm2程度であり、ハードバイアス層に望まれている前記磁気特性を満たしていない。
【0014】
特許文献6には、長手記録用磁気記録媒体が記載されており、その磁性層は、六方最密充填構造を有する強磁性結晶粒と、それを取り巻く主に酸化物からなる非磁性粒界とからなるグラニュラ構造であるが、このようなグラニュラ構造が磁気抵抗効果素子のハードバイアス層へ用いられた事例は無い。また、特許文献6に記載の技術は、磁気記録媒体の課題である信号対雑音比の低減を目的としており、磁性層の層間に非磁性層を用いて磁性層を多層化させているが、その上下の磁性層同士は反強磁性結合を有しており、磁性層の保磁力の向上には適さない構造となっている。
【0015】
非特許文献1、2においては、長手記録用磁気記録媒体の記録再生特性の向上を目的とした取り組みがなされており、具体的には、高Arガス圧(6Pa)下で成膜したRu下地上に厚さ15nmのCoPt合金膜を形成した場合の保磁力Hcについて記載されており、Pt含有量が30~40at%のCoPt合金膜においては、長手方向つまり面内方向の保磁力が8kOeを示すということが記載されている。しかしながら、残留磁化については記載されておらず、磁気抵抗効果素子向けハードバイアス層として望まれている単位面積当たりの残留磁化(2.00memu/cm2以上)の条件を満たしているかどうか不明である。そこで、同様の条件で本発明者が確認のための実験を行ったところ、後に説明する比較例20~29に示すように、非特許文献1、2に示される厚さ15nmのCoPt合金膜では、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2未満であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2008-283016号公報
【文献】特表2008-547150号公報
【文献】特開2011-008907号公報
【文献】米国特許出願公開第2009/027493A1号公報
【文献】特開2012-216275号公報
【文献】特開2003-178423号公報
【非特許文献】
【0017】
【文献】日本磁気学会誌、Vol.25、No.4-2、607-610頁、2001年
【文献】日本磁気学会誌、Vol.26、No.4、269-273頁、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
実際の磁気抵抗効果素子への適用を視野に入れた場合、センサ積層体(フリー磁性層を備えた積層体)およびハードバイアス層は、できるだけ薄くすることが好ましく、また、加熱成膜は行わないことが好ましい。
【0019】
この条件を満たした上で、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力(2kOe程度)および単位面積当たりの残留磁化(2memu/cm2程度)を上回るハードバイアス層を得るためには、現状のハードバイアス層に用いられている元素や化合物とは異なる元素や化合物を探索していく必要があると本発明者は考え、また、ハードバイアス層の層構成も工夫することが必要であるのではないかと本発明者は考えた。具体的には、CoPt系の面内磁化膜を、非磁性中間層を用いて多層化することが有望であるのではないかと本発明者は考えた。
【0020】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜多層構造を提供することを課題とし、併せて、前記面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層、および前記ハードバイアス層を有してなる磁気抵抗効果素子を提供することも補足的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、以下の面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子により、前記課題を解決したものである。
【0022】
即ち、本発明に係る面内磁化膜多層構造の第1の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Coおよび金属Ptを含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記複数の面内磁化膜の合計の厚さは30nm以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0023】
本発明に係る面内磁化膜多層構造の第2の態様は、磁気抵抗効果素子のハードバイアス層として用いられる面内磁化膜多層構造であって、複数の面内磁化膜と、非磁性中間層と、を有してなり、前記非磁性中間層は、前記面内磁化膜同士の間に配置されており、かつ、前記非磁性中間層を挟んで隣り合う前記面内磁化膜同士は強磁性結合をしており、前記面内磁化膜は、金属Coおよび金属Ptを含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有し、前記面内磁化膜多層構造は、保磁力が2.00kOe以上であり、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上であることを特徴とする面内磁化膜多層構造である。
【0024】
本願において、ハードバイアス層とは、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層にバイアス磁界を加える薄膜磁石のことである。
【0025】
本願において、非磁性中間層とは、面内磁化膜同士の間に配置される非磁性層のことである。
【0026】
本願において、強磁性結合とは、非磁性中間層を挟んで隣り合う磁性層(ここでは、前記面内磁化膜)のスピンが平行(同じ向き)になっているときに働く交換相互作用に基づく結合のことである。
【0027】
また、本願において、面内磁化膜の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜の厚さを乗じた値のことであり、面内磁化膜多層構造の「単位面積あたりの残留磁化」とは、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の単位体積当たりの残留磁化に、当該面内磁化膜多層構造に含まれる面内磁化膜の厚さの合計の値を乗じた値のことである。
【0028】
前記面内磁化膜は、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、ホウ素を0.5at%以上3.5at%以下含有していてもよい。
【0029】
前記非磁性中間層の厚さは、0.3nm以上3nm以下であることが標準的である。
【0030】
前記非磁性中間層は、RuまたはRu合金からなることが好ましい。
【0031】
前記面内磁化膜の1層あたりの厚さは、5nm以上30nm以下であることが標準的である。
【0032】
本発明に係るハードバイアス層は、前記面内磁化膜多層構造を有してなることを特徴とするハードバイアス層である。
【0033】
本発明に係る磁気抵抗効果素子は、前記ハードバイアス層を有してなることを特徴とする磁気抵抗効果素子である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに達成することができる面内磁化膜多層構造、該面内磁化膜多層構造を有してなるハードバイアス層、および前記ハードバイアス層を有してなる磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の実施形態に係る面内磁化膜多層構造10を、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層22に適用している状態を模式的に示す断面図。
図2】薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を模式的に示す斜視図。
図3】走査透過電子顕微鏡を用いて撮像して取得した観察像の一例(実施例10の観察像)。
図4】実施例10の面内磁化膜の厚さ方向に行った(図3中の黒線に沿って行った)線分析(元素分析)の結果。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(1)本発明に係る実施形態の概要
図1は、本発明の実施形態に係る面内磁化膜多層構造10を、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層22に適用している状態を模式的に示す断面図である。なお、図1においては、下地層(面内磁化膜多層構造10は下地層の上に形成される)の記載は省略している。
【0037】
ここでは、磁気抵抗効果素子20としてトンネル型磁気抵抗効果素子を念頭に置いて図1に示す構成の説明を行うが、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10は、トンネル型磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用に限定されるわけではなく、例えば巨大磁気抵抗効果素子、異方性磁気抵抗効果素子のハードバイアス層への適用も可能である。
【0038】
磁気抵抗効果素子20(ここでは、トンネル型磁気抵抗効果素子)は、非常に薄い非磁性トンネル障壁層(以下、バリア層54)によって分離された2つの強磁性層(フリー磁性層24、ピン層52)を有する。ピン層52は、隣接する反強磁性層(図示せず)との交換結合により固定されることなどによって、その磁化方向が固定されている。フリー磁性層24は、外部磁界が存在する状態で、その磁化方向を、ピン層52の磁化方向に対して自由に回転させることができる。フリー磁性層24が外部磁界によってピン層52の磁化方向に対して回転すると、電気抵抗が変化するため、この電気抵抗の変化を検出することで、外部磁界を検出することができる。
【0039】
ハードバイアス層22は、フリー磁性層24にバイアス磁界を加えて、フリー磁性層24の磁化方向軸を安定させる役割を有する。絶縁層50は電気的な絶縁材料で形成されており、センサ積層体(フリー磁性層24、バリア層54、ピン層52)を垂直方向に流れるセンサ電流が、センサ積層体(フリー磁性層24、バリア層54、ピン層52)の両側のハードバイアス層22に分流するのを抑制する役割を有する。
【0040】
(2)面内磁化膜多層構造
図1に示すように、本発明の実施形態に係る面内磁化膜多層構造10は、面内磁化膜12を複数備え、さらに、その複数の面内磁化膜12同士の間に、非磁性中間層14を備えており、面内磁化膜12が非磁性中間層14を介して複数積み重ねられた構造になっている。面内磁化膜多層構造10は、現状の磁気抵抗効果素子のハードバイアス層の保磁力と比べて同等程度以上の保磁力(2.00kOe以上の保磁力)および単位面積当たりの残留磁化(2.00memu/cm2以上)を有する。本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10は、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層22として用いることができ、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層24にバイアス磁界を加えることができる。
【0041】
本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の各面内磁化膜12は、磁気抵抗効果を発揮するフリー磁性層24にバイアス磁界を加える。面内磁化膜12は、CoPt系の面内磁化膜であり、金属Coおよび金属Ptを含有してなり、当該面内磁化膜の金属成分の合計に対して、金属Coを45at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上55at%以下含有する。
【0042】
面内磁化膜多層構造10において、面内磁化膜12の1層当たりの厚さは、標準的には5nm以上30nm以下である。また、面内磁化膜12の総厚(合計の厚さ)は、残留磁化Mrtを2.00meum/cm2以上にする観点から、30nm以上にすることが好ましい。また、面内磁化膜12の総厚(合計の厚さ)の上限に関しては、後述するように、非磁性中間層14が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜12同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜12の総厚(合計の厚さ)が大きくなっても、理論上は保磁力Hcは小さくならず、上限はない。実際に、後述する実施例によって、少なくとも総厚(合計の厚さ)が90nmまでは、保磁力Hcが2.00kOe以上となることを確認している。また、面内磁化膜多層構造10における面内磁化膜12の1層当たりの厚さに関しては、保磁力Hcをより大きくする観点から、5nm以上15nm以下であることが好ましく、10nm以上15nm以下であることがより好ましい。
【0043】
(3)面内磁化膜
本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12は、「(2)面内磁化膜多層構造」で前述したように、金属成分としてCoおよびPtを含有し、面内磁化膜12の1層当たりの厚さは、標準的には5nm以上30nm以下である。
【0044】
金属Coおよび金属Ptは、スパッタリングによって形成される面内磁化膜12において、磁性結晶粒(微小な磁石)の構成成分となる。
【0045】
Coは強磁性金属元素であり、面内磁化膜中の磁性結晶粒(微小な磁石)の形成において中心的な役割を果たす。スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を維持するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜12中の金属成分の合計に対して45at%以上80at%以下としている。また、同様の点から、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12中のCoの含有割合は、当該面内磁化膜12中の金属成分の合計に対して45at%以上75at%以下であることが好ましく、45at%以上70at%以下であることがより好ましい。
【0046】
Ptは、所定の組成範囲でCoと合金化することにより合金の磁気モーメントを低減させる機能を有し、磁性結晶粒の磁性の強さを調整する役割を有する。一方、スパッタリングによって得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の結晶磁気異方性定数Kuを大きくして、面内磁化膜の保磁力を大きくするという機能を有する。面内磁化膜の保磁力を大きくするという観点および得られる面内磁化膜中のCoPt合金結晶粒(磁性結晶粒)の磁性を調整するという観点から、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜12中の金属成分の合計に対して20at%以上55at%以下としている。また、同様の点から、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12中のPtの含有割合は、当該面内磁化膜12中の金属成分の合計に対して25at%以上55at%以下であることが好ましく、30at%以上55at%以下であることがより好ましい。
【0047】
また、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12の金属成分として、CoおよびPt以外に、ホウ素Bを0.5at%以上3.5at%以下含有させてもよい。後述する実施例で実証しているように、ホウ素Bを0.5at%以上3.5at%以下含有させることにより、面内磁化膜多層構造10の保磁力Hcをさらに向上させる効果がある。
【0048】
(4)非磁性中間層
非磁性中間層14は、面内磁化膜12同士の間に介在して、面内磁化膜12を分離し、面内磁化膜12を多層化する役割を有する。面内磁化膜12に非磁性中間層14を介在させて多層化することにより、残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させることができる。
【0049】
非磁性中間層14が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜12同士は、スピンが平行(同じ向き)になるように配置する。このように配置することにより、非磁性中間層14が介在することによって分離された隣り合う面内磁化膜12同士は強磁性結合を行うため、面内磁化膜12は、単位面積当たりの残留磁化Mrtの値を維持したまま、保磁力Hcをさらに向上させることができる。
【0050】
したがって、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10は良好な保磁力Hcを発現することができる。
【0051】
非磁性中間層14に用いる金属は、CoPt合金磁性結晶粒の結晶構造を損なわないようにする観点から、CoPt合金磁性結晶粒と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)の金属にすることが好ましい。具体的には、非磁性中間層14としては、面内磁化膜12中のCoPt合金磁性結晶粒の結晶構造と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金を好適に用いることができる。
【0052】
非磁性中間層14に用いる金属がRu合金の場合の添加元素としては、具体的には例えば、Cr、Pt、Coを用いることができ、それらの金属の添加量の範囲は、Ru合金が六方最密充填構造hcpとなる範囲とするのがよい。
【0053】
アーク溶解を行ってRu合金のバルクサンプルを作製し、X線回折装置(XRD:(株)リガク製 SmartLab)によってX線回折のピーク解析を行ったところ、RuCr合金においては、Crの添加量が50at%のときに、六方最密充填構造hcpとRuCr2の混相が確認されたので、非磁性中間層14にRuCr合金を用いる場合、Crの添加量は50at%未満とするのが適当であり、40at%未満とすることが好ましく、30at%未満とすることがより好ましい。また、RuPt合金においては、Ptの添加量が15at%のときに、六方最密充填構造hcpとPt由来の面心立方構造fccの混相が確認されたので、非磁性中間層14にRuPt合金を用いる場合、Ptの添加量は15at%未満とするのが適当であり、12.5at%未満とすることが好ましく、10at%未満とすることがより好ましい。また、RuCo合金においては、Coの添加量に関わらず六方最密充填構造hcpを形成するが、Coを40at%以上添加すると磁性体となるため、Coの添加量は40at%未満とするのが適当であり、30at%未満とすることが好ましく、20at%未満とすることがより好ましい。
【0054】
また、非磁性中間層14の厚さは、面内磁化膜多層構造10の保磁力Hcを向上させる観点から、0.3nm以上3nm以下が標準的である。ただし、後述する実施例14~17および比較例14で実証しているように、金属RuまたはRu合金からなる厚さ0.5nm以上2nm以下の非磁性中間層を用いてCoPt面内磁化膜を多層化することにより、CoPt面内磁化膜単層構造(比較例14)よりも、保磁力Hcを9~22%程度向上させることができ、厚さ1nm以上2nm以下の非磁性中間層を用いて多層化することにより、CoPt面内磁化膜単層構造(比較例14)よりも、保磁力Hcを16~22%程度向上させることができ、厚さ1.5nm以上2nm以下の非磁性中間層を用いて多層化することにより、CoPt面内磁化膜単層構造(比較例14)よりも、保磁力Hcを21~22%程度向上させることができるので、非磁性中間層14の厚さは、1nm以上2nm以下がより好ましく、1.5nm以上2nm以下が特に好ましい。
【0055】
(5)下地膜
本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12を形成する際に用いる下地膜としては、面内磁化膜12の磁性粒子(CoPt合金粒子)と同じ結晶構造(六方最密充填構造hcp)である金属RuまたはRu合金からなる下地膜が適している。
【0056】
積層する面内磁化膜(CoPt-酸化物)12の磁性結晶粒(CoPt合金粒子)を整然と面内配向させるため、用いるRu下地膜またはRu合金下地膜の表面には、(10.0)面または(11.0)面が多く配置されるようにすることが好ましい。
【0057】
なお、本発明に係る面内磁化膜多層構造の面内磁化膜を形成する際に用いる下地膜は、Ru下地膜またはRu合金下地膜に限定されるわけではなく、得られる面内磁化膜のCoPt磁性結晶粒を面内配向させ、かつ、CoPt磁性結晶粒同士の磁気的な分離を促進させることができる下地膜であれば使用可能である。
【0058】
(6)スパッタリングターゲット
本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12を作製する際に用いるスパッタリングターゲットは、磁気抵抗効果素子20のハードバイアス層22の少なくとも一部として用いられる面内磁化膜12を室温成膜で形成する際に用いるスパッタリングターゲットであって、金属Coおよび金属Ptを含有してなり、当該スパッタリングターゲットの金属成分の合計に対して、金属Coを55at%以上80at%以下含有し、金属Ptを20at%以上45at%以下含有し、形成する面内磁化膜は、保磁力が2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化が2.00memu/cm2以上とすることができる。後述する「(G)面内磁化膜の組成分析(実施例10、11、12、13)」に記載しているように、作製したCoPt系の面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt系の面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成とはずれが生じるので、前記したスパッタリングターゲットに含まれる各元素の組成範囲は、そのずれを考慮して設定した組成範囲であり、面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12に含まれる各元素の組成範囲とは一致していない。
【0059】
ここで、室温成膜とは、基板加熱をせずに成膜することを意味する。
【0060】
このスパッタリングターゲットの構成成分(金属Coおよび金属Pt)についての説明は、前記「(3)面内磁化膜」に記載した面内磁化膜12の構成成分についての説明と同様であるので、説明は省略する。
【0061】
(7)面内磁化膜多層構造の形成方法
本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10は、前記「(5)下地膜」に記載した下地膜の上に1層目の面内磁化膜12を、前記「(6)スパッタリングターゲット」に記載したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って形成させ、形成した1層目の面内磁化膜12の上に、前記「(4)非磁性中間層」に記載した非磁性中間層14をスパッタリングによって形成させる。そして、形成した非磁性中間層14の上に、前記「(6)スパッタリングターゲット」に記載したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、2層目の面内磁化膜12を形成させる。面内磁化膜多層構造10の面内磁化膜12の層数が3層以上の場合には、2層目の面内磁化膜12の上に、非磁性中間層14をスパッタリングにより形成させ、形成した非磁性中間層14の上に、前記「(6)スパッタリングターゲット」に記載したスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行って、3層目の面内磁化膜12を形成させる。以降、この操作を必要な回数繰り返して、所望の層数の面内磁化膜多層構造10を形成する。
【0062】
なお、「(7)面内磁化膜多層構造の形成方法」に記載したいずれの成膜過程においても加熱することは不要であり、本実施形態に係る面内磁化膜多層構造10は、室温成膜で形成することが可能である。
【実施例
【0063】
以下、CoPt面内磁化膜を用いた面内磁化膜多層構造について、本発明を裏付けるための実施例、比較例および参考例について記載する。以下の(A)では、面内磁化膜多層構造を構成するCoPt面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成比およびCoPt面内磁化膜の多層化の効果(総厚が30nmの場合)について検討しており、以下の(B)では、面内磁化膜多層構造を構成するCoPt面内磁化膜の総厚が60nmの場合の多層化の効果について検討しており、以下の(C)では、面内磁化膜多層構造を構成するCoPt面内磁化膜の総厚が90nmの場合の多層化の効果について検討しており、以下の(D)では、面内磁化膜多層構造を構成する非磁性中間層の厚さについて検討しており、以下の(E)では、CoPt面内磁化膜多層構造(総厚が60nmの場合)へホウ素(B)を添加する効果について検討している。また、以下の(F)では、非特許文献1、2に記載のCoPt合金膜と同一の厚さ(15nm)の単層のCoPt面内磁化膜をPt組成を変化させて作製して磁気特性を測定している。
【0064】
また、以下の(G)では、作製したCoPt面内磁化膜の実際の組成(組成分析によって得られた組成)と、当該CoPt面内磁化膜の作製に用いたスパッタリングターゲットの組成とのずれの程度を確認するために、実施例10、11、12、13のCoPt面内磁化膜を取り上げて、組成分析を行った。その結果、面内磁化膜の組成と当該面内磁化膜を作製するのに用いたスパッタリングターゲットの組成との間にずれが生じることが判明した。そのため、実際に組成分析を行った実施例10、11、12、13以外のCoPt面内磁化膜の組成については、実施例10、11、12、13の組成分析結果から判明した組成のずれを考慮して、作製に用いたスパッタリングターゲットの組成から算出し、各実施例におけるCoPt面内磁化膜の組成とした。
【0065】
<(A)面内磁化膜多層構造を構成するCoPt面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成比およびCoPt面内磁化膜の多層化の効果(総厚が30nmの場合)についての検討(実施例1~6、比較例1~11)>
実施例1~6および比較例1で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を間に挟んで2層積み重ねた多層構造である。そして、実施例1~6および比較例1においては、この面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成を変化させて(CoPt面内磁化膜のPt組成を22.0at%から56.9at%まで変化させて)実験データを取得した。
【0066】
比較例2~11は、厚さ30nmの単層のCoPt面内磁化膜を、Pt組成を22.0at%から74.4at%まで変化させて作製して、実験データを取得した実験例である。以下、具体的に説明する。
【0067】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wを用いてスパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0068】
そして、実施例1~6および比較例1では、形成したRu下地膜の上に、厚さ15nmとなるように所定の組成のCoPt面内磁化膜を、前記装置ES-3100Wを用いてスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt面内磁化膜の上に、前記装置ES-3100Wを用いてスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2.0nmとなるように形成し、形成した厚さ2.0nmのRu非磁性中間層の上に、前記装置ES-3100Wを用いてスパッタリング法により所定の組成のCoPt面内磁化膜を厚さ15nmとなるように形成した。比較例2~11では、形成した前記Ru下地膜の上に、厚さ30nmとなるように所定の組成のCoPt面内磁化膜を、前記装置ES-3100Wを用いてスパッタリング法により形成した。
【0069】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。なお、本願の実施例および比較例においてスパッタリングの際に用いたスパッタリング装置は、いずれの成膜においても株式会社エイコーエンジニアリング製ES-3100Wであるが、以下では装置名の記載は省略する。
【0070】
作製した実施例1~6および比較例1の面内磁化膜多層構造および比較例2~11のCoPt面内磁化膜単層構造のヒステリシスループを振動型磁力計(VSM:(株)玉川製作所製 TM-VSM211483-HGC型)(以下、振動型磁力計と記す。)により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。実施例1~6および比較例1~11の結果を、次の表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
厚さ15nmのCoPt面内磁化膜2層の間に厚さ2.0nmの非磁性中間層を挟んで構成された面内磁化膜多層構造であって、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が22.0~51.1at%であり、本発明の範囲に含まれる実施例1~6は、表1からわかるように、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0073】
一方、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜2層の間に厚さ2.0nmの非磁性中間層を挟んで構成された面内磁化膜多層構造であるが、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が56.9at%であり、本発明の範囲に含まれない比較例1は、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.89memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。
【0074】
また、厚さ30nmのCoPt面内磁化膜単層構造であって、本発明の範囲に含まれない比較例2~11のうち、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が22.0~39.5at%である比較例2~5は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現しているが、CoPt面内磁化膜のPt含有量が同一の実施例1~4とそれぞれ比較して、保磁力Hcが10~27%程度小さくなっている。厚さ30nmのCoPt面内磁化膜単層構造であって、本発明の範囲に含まれない比較例2~11のうち、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が45.3~74.4at%である比較例6~11は、単位面積当たりの残留磁化Mrtが1.38~1.91memu/cm2であり、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2未満である。
【0075】
<(B)CoPt面内磁化膜の多層化の効果(総厚が60nmの場合)についての検討(実施例7、8、17、9、比較例12~15)>
実施例7、8、17、9で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた多層構造であり、実施例7、8、17、9は、前記構成の面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成を変化させて(CoPt面内磁化膜のPt組成を33.7~51.1at%と変化させて)実験データを取得した実験例である。
【0076】
比較例12~15は、厚さ60nmの単層のCoPt面内磁化膜を、Pt組成を33.7at%から51.1at%まで変化させて作製して、実験データを取得した実験例である。以下、具体的に説明する。
【0077】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0078】
そして、実施例7、8、17、9では、形成したRu下地膜の上に、厚さ15nmとなるように所定の組成のCoPt面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2.0nmとなるように形成し、形成した厚さ2.0nmのRu非磁性中間層の上にスパッタリング法により所定の組成のCoPt面内磁化膜を厚さ15nmとなるように形成し、これを繰り返して所定の組成のCoPt面内磁化膜が4層積み重ねられた面内磁化膜多層構造を作製した。比較例12~15では、形成した前記Ru下地膜の上に、厚さ60nmとなるように所定の組成の単層のCoPt面内磁化膜を、スパッタリング法により形成した。
【0079】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0080】
作製した実施例7、8、17、9の面内磁化膜多層構造および比較例12~15のCoPt面内磁化膜単層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。実施例7、8、17、9および比較例12~15の結果を、次の表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
表2からわかるように、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた面内磁化膜多層構造であって、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が33.7~51.1at%であり、本発明の範囲に含まれる実施例7、8、17、9は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0083】
一方、本発明の範囲に含まれない厚さ60nmのCoPt面内磁化膜単層構造であって、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が33.7~51.1at%である比較例12~15は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現しているが、CoPt面内磁化膜のPt含有量が同一の実施例7、8、17、9とそれぞれ比較して、保磁力Hcが18~27%程度小さくなっている。
【0084】
<(C)CoPt面内磁化膜の多層化の効果(総厚が90nmの場合)についての検討(実施例10~13、比較例16~19)>
実施例10~13で形成した面内磁化膜多層構造は、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を間に挟んで6層積み重ねた多層構造であり、実施例10~13は、前記構成の面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜の金属成分であるCo、Ptの組成を変化させて(CoPt面内磁化膜のPt組成を33.7at%から51.1at%まで変化させて)実験データを取得した実験例である。
【0085】
比較例16~19は、厚さ90nmの単層のCoPt面内磁化膜を、Pt組成を33.7at%から51.1at%まで振って作製して、実験データを取得した実験例である。以下、具体的に説明する。
【0086】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0087】
そして、実施例10~13では、形成したRu下地膜の上に、厚さ15nmとなるように所定の組成のCoPt面内磁化膜をスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を厚さ2.0nmとなるように形成し、形成した厚さ2.0nmのRu非磁性中間層の上にスパッタリング法により所定の組成のCoPt面内磁化膜を厚さ15nmとなるように形成し、これを繰り返して所定の組成のCoPt面内磁化膜が6層積み重ねられた面内磁化膜多層構造を作製した。比較例16~19では、形成した前記Ru下地膜の上に、厚さ90nmとなるように所定の組成のCoPt面内磁化膜を、スパッタリング法により形成した。
【0088】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0089】
作製した実施例10~13の面内磁化膜多層構造および比較例16~19のCoPt面内磁化膜単層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。実施例10~13および比較例16~19の結果を、次の表3に示す。
【0090】
【表3】
【0091】
表3からわかるように、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を間に挟んで6層積み重ねた面内磁化膜多層構造であって、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が33.7~51.1at%であり、本発明の範囲に含まれる実施例10~13は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現している。
【0092】
一方、本発明の範囲に含まれない厚さ90nmのCoPt面内磁化膜単層構造であって、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が33.7~51.1at%である比較例16~19は、保磁力Hcが1.71~1.73kOeであり、保磁力Hcが2.00kOe未満である。
【0093】
<(D)Ru非磁性中間層の厚さについての検討(実施例14~17)>
実施例14~17は、厚さ15nmのCoPt面内磁化膜を、Ru非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた面内磁化膜多層構造において、Ru非磁性中間層の厚さを、0.5nmから2.0nmまで0.5nm刻みで変化させて実験データを取得した実験例である。以下、具体的に説明する。
【0094】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0095】
そして、形成したRu下地膜の上に、CoPt面内磁化膜を、Pt含有量が45.3at%、厚さが15nmとなるようにスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)によりRu非磁性中間層を形成し、形成したRu非磁性中間層の上に、CoPt面内磁化膜を、Pt含有量が45.3at%、厚さが15nmとなるようにスパッタリング法により形成し、これを繰り返して、Pt含有量が45.3at%で厚さが15nmのCoPt面内磁化膜が4層積み重ねられた面内磁化膜多層構造を作製した。Ru非磁性中間層の厚さは、0.5nm(実施例14)、1.0nm(実施例15)、1.5nm(実施例16)、2.0nm(実施例17)とした。
【0096】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPt面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0097】
作製した実施例14~17の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。実施例14~17の結果を、前記(B)に記載した比較例14の結果とともに、次の表4に示す。比較例14は、Ru非磁性中間層を設けていない実験例であり、Pt含有量が45.3%で、厚さが60nmであるCoPt面内磁化膜単層構造の実験例である。
【0098】
【表4】
【0099】
表4からわかるように、厚さ0.5~2.0nmのRu非磁性中間層を設けてCoPt面内磁化膜の多層化を行った実施例14~17は、非磁性中間層を設けておらずCoPt面内磁化膜が単層の比較例14と比べて、保磁力Hcが9~22%程度向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、比較例14とほぼ同等である。
【0100】
したがって、CoPt面内磁化膜を、厚さ0.5~2.0nmのRu非磁性中間層によって多層化することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持したまま、保磁力Hcを9~22%程度向上させることができる。したがって、CoPt面内磁化膜を多層化するためのRu非磁性中間層の厚さは0.5~2.0nmであることが好ましいと考えられる。
【0101】
また、Ru非磁性中間層を設けてCoPt面内磁化膜の多層化を行った実施例14~17においては、Ru非磁性中間層の厚さを0.5~2.0nmの範囲で変化させているが、Ru非磁性中間層の厚さが0.5nmである実施例14と比べて、Ru非磁性中間層の厚さが1.0~2.0nmである実施例15~17は、保磁力Hcが7~12%程度向上しており、Ru非磁性中間層の厚さが1.5nm、2.0nmである実施例16、17は、保磁力Hcが11~12%程度向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)については、実施例14~17における差異は最大でも4%程度である。したがって、CoPt面内磁化膜を多層化するためのRu非磁性中間層の厚さは1.0~2.0nmであることがより好ましく、1.5~2.0nmであることが特に好ましいと考えられる。
【0102】
<(E)CoPt面内磁化膜多層構造(総厚が60nmの場合)へホウ素(B)を添加する効果についての検討(実施例18~20)>
実施例18~20は、厚さ15nmのCoPtB面内磁化膜を、Ru非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねた面内磁化膜多層構造において、CoPtB面内磁化膜の金属成分の合計(Co、Pt、Bの合計)に対するBの含有量を、1.0at%、2.0at%、3.0at%と変化させて実験データを取得した実験例である。以下、具体的に説明する。
【0103】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0104】
そして、形成したRu下地膜の上に、CoPtB面内磁化膜を、Pt含有量が45.3at%、厚さが15nmとなるようにスパッタリング法により形成し、形成した厚さ15nmのCoPt面内磁化膜の上にスパッタリング法(Ru100at%のスパッタリングターゲットを使用)により厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を形成し、形成したRu非磁性中間層の上に、CoPtB面内磁化膜を、Pt含有量が45.3at%、厚さが15nmとなるようにスパッタリング法により形成し、これを繰り返して、Pt含有量が45.3at%で厚さが15nmのCoPtB面内磁化膜が4層積み重ねられた面内磁化膜多層構造を作製した。CoPtB面内磁化膜の金属成分の合計(Co、Pt、Bの合計)に対するBの含有量は、1.0at%(実施例18)、2.0at%(実施例19)、3.0at%(実施例20)とした。
【0105】
これらの成膜過程(Ru下地膜、CoPtB面内磁化膜およびRu非磁性中間層の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0106】
作製した実施例18~20の面内磁化膜多層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。実施例18~20の結果を、前記(D)に記載した実施例17の結果とともに、次の表5に示す。実施例17は、面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜にBを添加していない実験例であり、厚さ15nmのCo-45.3Pt面内磁化膜を厚さ2.0nmのRu非磁性中間層を間に挟んで4層積み重ねたCoPt面内磁化膜多層構造の実験例である。
【0107】
【表5】
【0108】
表5からわかるように、CoPt面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜にホウ素Bを添加した実施例18~20は、CoPt面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜にホウ素Bを添加していない実施例17と比べて、保磁力Hcが2.5%~5.3%程度向上している。一方、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)は、実施例17とほぼ同等である。
【0109】
したがって、CoPt面内磁化膜多層構造のCoPt面内磁化膜にホウ素Bを添加することにより、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を維持したまま、保磁力Hcを2.5%~5.3%程度向上させることができる。
【0110】
<(F)厚さ15nmの単層のCoPt面内磁化膜の検討(比較例20~29)>
非特許文献1、2に記載のCoPt合金膜と同一の厚さ(15nm)の単層のCoPt面内磁化膜を、Pt組成を22.0at%から74.4at%まで変化させて作製して実験データを取得した。以下、具体的に説明する。
【0111】
まず、Si基板上に、Ru下地膜を、スパッタリング法により厚さ60nmとなるように形成した。
【0112】
そして、形成した前記Ru下地膜の上に、厚さ15nmとなるように所定の組成の単層のCoPt面内磁化膜を、スパッタリング法により形成した。
【0113】
これらの成膜過程(Ru下地膜およびCoPt面内磁化膜の成膜過程)では、いずれも基板加熱を行っておらず、室温成膜で行った。
【0114】
作製した比較例20~29の厚さ15nmのCoPt面内磁化膜単層構造のヒステリシスループを振動型磁力計により測定した。測定したヒステリシスループから、保磁力Hc(kOe)および残留磁化Mr(memu/cm3)を読み取った。そして、読み取った残留磁化Mr(memu/cm3)に、作製したCoPt面内磁化膜の合計厚さを乗じて、単位面積当たりの残留磁化Mrt(memu/cm2)を算出した。比較例20~29の結果を、次の表6に示す。
【0115】
【表6】
【0116】
表6からわかるように、本発明の範囲に含まれない厚さ15nmのCoPt面内磁化膜単層構造であって、CoPt面内磁化膜の金属成分(Co、Pt)の合計に対するPtの含有量が22.0~74.4at%である比較例20~29のうち、Ptの含有量が22.0~68.6at%である比較例20~28は、保磁力Hcが2.00kOe以上という磁気的性能を、基板加熱をしない室温成膜で実現しているが、単位面積当たりの残留磁化Mrtは2.00memu/cm2未満であり、また、Ptの含有量が74.4at%である比較例29は、単位面積当たりの残留磁化Mrtは2.00memu/cm2未満であるだけでなく、保磁力Hcも2.00kOe未満である。
【0117】
したがって、非特許文献1、2に示される厚さ15nmのCoPt合金膜は、保磁力Hcについては、Pt含有量によっては2.00kOe以上という磁気的性能を満たすが、残留磁化についてはPt含有量によらず2.00memu/cm2未満であると考えられる。
【0118】
<(G)面内磁化膜の組成分析(実施例10、11、12、13)>
実施例10、11、12、13の面内磁化膜多層構造の面内磁化膜の組成分析を行った。実施例10、11、12、13の面内磁化膜多層構造は厚さ15nmの面内磁化膜を厚さ2nmの非磁性中間層を間に挟んで6層積み重ねた面内磁化膜多層構造である。以下、行った組成分析の手法の手順について概要を説明した後、各手順の内容を具体的に説明する。
【0119】
[手順の概要]面内磁化膜の厚さ方向に組成分析のための線分析を行い、面内磁化膜の厚さ方向断面の線分析実施箇所から、組成の変動の少ない箇所を選び出す(手順1~4)。そして、その組成の変動の少ない箇所に含まれる任意の測定点を含むように、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向に左右に補助線を引き、その補助線上の100nmの直線領域(測定点は167点)について、組成分析のための線分析を行う(手順5)。そして、検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度の平均値を算出して、面内磁化膜の組成を決定する(手順6)。以下、手順1~6の内容を具体的に説明する。
【0120】
[手順1]組成分析の対象となる面内磁化膜を面内方向と直交する方向(面内磁化膜の厚さ方向)に、平行な2面で切断するとともに、得られた2つの平行な切断面の間の距離が60nm程度となるまで、FIB法(μ-サンプリング法)により薄片化処理を行う。この薄片化処理を行った後の薄片化サンプル80の形状を、図2に模式的に示す。図2に示すように、薄片化サンプル80の形状は概ね直方体形状である。前記2つの平行な切断面の間の距離が60nm程度であり、直方体形状の薄片化サンプル80の面内方向の1辺の長さは60nm程度であるが、他の2辺の長さは、走査透過電子顕微鏡による観察が可能であれば、適宜に定めてよい。
【0121】
[手順2]手順1で得られた薄片化サンプル80の切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)を、100nmの長さを2cmまで拡大観察可能な(20万倍まで拡大観察可能な)走査透過電子顕微鏡を用いて撮像し、観察像を取得する。得られる観察像は長方形であるが、観察対象の面内磁化膜の最上面と切断面(面内磁化膜の厚さ方向の切断面)とが交わる部位の線が、長方形の観察像の長手方向になるように撮像する。得られた観察像の一例(実施例10の観察像)を図3に示す。面内磁化膜の観察像の取得においては、株式会社日立ハイテクノロジーズ製H-9500を用いた。
【0122】
[手順3]手順2で得られた観察像から、面内磁化膜に含まれる任意の点を選び(図3において黒丸82で示す)、その点から、観察像の長手方向に左右10nmの位置に点をそれぞれ付す(図3において白丸84で示す)。そして、黒丸82の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行うとともに、白丸84の点を通るように面内磁化膜の厚さ方向に、元素分析のための線分析を行って、3つの直線(黒丸82の点を通る厚さ方向の1つの直線および白丸84の点を通る厚さ方向の2つの直線)について、面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のための線分析(上から下に向かって走査)を行う。この元素分析のための線分析を行うに際し、前記3直線の線分析の走査範囲を、原則として面内磁化膜の厚さ方向の全範囲(組成分析の対象が面内磁化膜多層構造の場合は、最上層の面内磁化膜から最下層の面内磁化膜までの全範囲)とすることができるように、1つの黒丸82の点および2つの白丸84の点を選び出すことが必要である。
【0123】
面内磁化膜の組成分析においては、元素分析手法としてエネルギー分散型X線分析法(EDX)を採用し、元素分析装置として日本電子株式会社製JEM-ARM200Fを用いた。そして、具体的な分析条件を次のようにした。即ち、X線検出器をSiドリフト検出器とし、X線取出角を21.9°とし、立体角を約0.98srとし、各元素に応じ一般的に適切な分光結晶を用い、測定時間1秒/点とし、走査点間隔を0.6nmとし、照射ビーム径を約0.2nmφとした。以下、本段落に記載の条件を、「手順3の分析条件」と記すことがある。
【0124】
図3(実施例10の観察像)中の黒線(黒丸82の点を通る面内磁化膜の厚さ方向の線)に沿って行った線分析(元素分析)の結果を図4に示す。図4において、縦軸は各元素についての検出強度を示すカウント数であり、横軸は走査位置である。図4内の凡例に示す各元素は、十分な検出強度を確認できた元素であり、この実施例10の場合、十分な検出強度を確認できた元素は、Co、Pt、Ruであった。また、この実施例10の組成分析においては、Coの検出にはKα1線を選択し、Pt、Ruの検出にはLα1線を選択した。また、各検出強度においては、事前に測定したブランク測定における検出強度を差し引く補正を施した。図3の線分析の最終端(最下端)は、Si基板である。この箇所は理論上Siおよび表面酸化によるO以外は検出されない。そのため、この箇所で検出されたSi、O以外の検出値は当該装置における不可避な検出誤差値と考えられるので、この値より検出強度が大きな値を示した場合にのみ、当該元素の存在を示すものとした。また、手順3にて用いた装置における組成分析範囲では、Si基板から面内磁化膜の上に設けた酸化保護層までの全範囲を対象とする線分析を一回の線分析で行うことはできないため、6層積層した面内磁化膜の下から4層目付近より測定を開始して下に向かって走査した結果のみを図4に示しているが、6層積層した面内磁化膜の作製過程はいずれも同様であるため、6層積層した面内磁化膜のうちのいずれの面内磁化膜においても同様の組成であると考えられる。そのため、ここで示した測定箇所よりも上方に位置する面内磁化膜の部位についての線分析は省略している。
【0125】
実施例10は面内磁化膜多層構造であり、実施例10では、組成がCo-30Ptであるスパッタリングターゲットを用いて、1層あたりの厚さが15nmである面内磁化膜(組成はCo-33.7Pt)を成膜するとともに、その面内磁化膜の間に位置するように、金属Ru非磁性中間層を、面内磁化膜の層間に2nmずつ設ける成膜を行った。金属Ru非磁性中間層の成膜に際しては、組成が100at%Ruであるスパッタリングターゲットを用いた。
【0126】
図4に示す線分析の結果からわかるように、面内磁化膜においては主にCo、Ptが確認され、非磁性中間層においては主にRuが確認された。金属Ru非磁性中間層においては面内磁化膜の構成元素に基づく検出強度が一部確認されるが、これは、成膜中におけるスパッタ熱によって、上下に隣り合う各層の元素が僅かに拡散しているためである。しかしながら、面内磁化膜および非磁性中間層の各主要元素の分布をみる限り、おおよそ設計した通りの成膜が行われていることが確認できた。
【0127】
[手順4]手順3で行った線分析(面内磁化膜の厚さ方向に元素分析のために行った線分析)の結果から、組成の変動の少ない測定点の集合箇所を選び出す。組成の変動の少ない測定点の集合箇所は、次の条件a~cを満たす測定点の集合箇所のことである。
【0128】
条件a)手順3で行った3つの直線の線分析のうちのいずれかについての測定点であって、CoおよびPtの検出強度の合計が600カウントを超える測定点であること。
【0129】
条件b)当該測定点でのCoおよびPtの検出強度の合計をXカウント、当該測定点での測定を行った後の次の測定点(当該測定点から0.6nm下方に離れて隣り合う測定点)でのCoおよびPtの検出強度の合計をYカウントとしたとき、
Y/X-1<0.05
を満たすこと。
【0130】
条件c)条件aおよびbを満たす5点以上の連続する測定点であること。
【0131】
条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、5点以上の連続する測定点であるので、0.6nm×4=2.4nm以上の直線領域となる。したがって、条件a~cを満たす測定点の集合箇所は、2.4nm以上の範囲で、安定してCoおよびPtのうちの少なくともいずれか一方が検出される直線領域である。
【0132】
[手順5]手順4で選び出した測定点の集合から任意の1つの測定点を選択して、面内磁化膜の組成分析のための基準点とする(図3において二重白丸86で示す。)。そして、その基準点を含むように、組成分析を行う面内磁化膜の面内方向(図3の観察像の長手方向)に左右に補助線(図3において黒破線88で示す。)を引き、その補助線上の100nmの直線領域(図3において白破線90で示す。)について、手順3の分析条件と同様の分析条件で、組成分析を行う。組成分析の対象部位となる白破線90は、先に行った厚さ方向の線分析によって生じたコンタミネーションを避ける観点から、厚さ方向の線分析の箇所(図4において白線84A)に対し10nm以上離れた距離(図3において両端に矢印を付した白線92で示す。)となるように設定した。この組成分析では、100nmの直線領域について、線分析を、走査点間隔0.6nmで行うので、合計で167点の測定点における分析結果が得られる。
【0133】
[手順6]検出された元素ごとに、167点の測定点についての検出強度(カウント数)の平均値を算出する。検出された各元素の検出強度(カウント数)の平均値の比が、当該面内磁化膜の各元素の組成比となる。
【0134】
また、実施例18、19、20では面内磁化膜にホウ素(B)を添加しているが、ホウ素(B)は原子番号の小さい軽元素であるため、EDXにおける分析では検出することができない。このため、実施例18、19、20における面内磁化膜の組成は、CoおよびPtの組成比は確定できるが、Bの含有量は確定できない。
【0135】
なお、図3において、符号82、84、84A、86、88、90、92で示す丸印や直線等は、組成分析の方法を説明するために便宜的に付したものであり、実際に測定を行った箇所と対応しているわけではない。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明に係る面内磁化膜多層構造、ハードバイアス層、および磁気抵抗効果素子は、保磁力Hcが2.00kOe以上で、かつ、単位面積当たりの残留磁化Mrtが2.00memu/cm2以上であるという磁気的性能を、加熱成膜を行わずに実現することができ、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0137】
10…面内磁化膜多層構造
12…面内磁化膜
14…非磁性中間層
20…磁気抵抗効果素子
22…ハードバイアス層
24…フリー磁性層
50…絶縁層
52…ピン層
54…バリア層
80…薄片化サンプル
82…黒丸(面内磁化膜に含まれる任意の点)
84…白丸(黒丸82から観察像の長手方向に左右10nmの位置の点)
84A…白線
86…二重白丸(面内磁化膜の組成分析のための基準点)
88…黒破線(二重白丸86(基準点)から観察像の長手方向に引いた補助線)
90…白破線(黒破線88(補助線)上の100nmの直線領域)
92…両端に矢印を付した白線(白線84Aに対し10nm以上離れた距離を示す)
図1
図2
図3
図4