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特許7432208高分子化合物及びそれを用いた細胞内化合物導入促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】高分子化合物及びそれを用いた細胞内化合物導入促進剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20240208BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240208BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240208BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240208BHJP
   C08G 69/10 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08F8/30
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/34
C08G69/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020530251
(86)(22)【出願日】2019-07-11
(86)【国際出願番号】 JP2019027455
(87)【国際公開番号】W WO2020013265
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2018131529
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 信至
(72)【発明者】
【氏名】鵜川 真実
(72)【発明者】
【氏名】高日 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 一範
(72)【発明者】
【氏名】武藤 美音
(72)【発明者】
【氏名】宮田 康平
(72)【発明者】
【氏名】田崎 晃子
(72)【発明者】
【氏名】松本 蛍
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102093489(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101759812(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103360531(CN,A)
【文献】特表2015-512372(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102120781(CN,A)
【文献】国際公開第2016/136708(WO,A1)
【文献】特開2004-261024(JP,A)
【文献】K. MOHRI et al.,Effects of the Chemical Structures of Oligoarginines Conjugated to Biocompatible Polymers as a Mucos,Chemical and Pharmaceutical Bulletin,2018年04月01日,Vol.66, No.4,Pages 375-381
【文献】A. MANSUR et al.,Design and Development of Polysaccharide-Doxorubicin-Peptide Bioconjugates for Dual Synergistic Effe,Bioconjugate Chemistry,米国,2018年05月23日,Vol.29,Pages 1973-2000
【文献】XIAO B. et al.,Preparation and characterization of antimicrobial chitosan-N-arginine with different degrees of substitution,Carbohydrate Polymers,2010年07月24日,Vol. 83,Pages 144-150
【文献】LIU W. G. et al.,A chitosan-arginine conjugate as a novel anticoagulation biomaterial,JOURNAL OF MATERIALS SCIENCE: MATERIALS IN MEDICINE,2004年,Vol. 15,Pages 1199-1203
【文献】MOHY ELDIN MOHAMED S. et al.,L-Arginine grafted alginate hydrogel beads: A novel pH-sensitive system for specific protein delivery,Arabian Journal of Chemistry,2014年01月15日,Vol. 8,Pages 355-365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/42
A61K47/34
C08G69/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量1000以上の高分子化合物であって、
個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを側鎖の末端に有し、そしてアルギニンに由来するグアニジノ基を0.5~20mmol/g含む前記高分子化合物。
【請求項2】
前記高分子化合物の主鎖が、親水性高分子、アニオン性高分子、及び多糖誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせである、請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
記塩基性ペプチドの末端が-CONH基である、請求項1又は2に記載の高分子化合物。
【請求項4】
前記塩基性ペプチドが、アルギニン及びグリシンからなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の、高分子化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の高分子化合物を含む細胞への化合物導入促進剤。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の高分子化合物及び薬物を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物及びそれを用いた細胞内化合物導入促進剤に関する。本発明によれば、薬物などの化合物を効率的に細胞内に導入することができる。
【背景技術】
【0002】
ペプチド、タンパク質、抗体、及び核酸などのバイオ医薬品は、疾患の原因となる標的分子に対する特異性が極めて高く、疾患の治療に有効だと考えられている。2015年に上市された新薬の約半数がバイオ医薬品であり、今後更に増加するものと考えられる。前記バイオ医薬品の薬物動態学的な特性として、低膜透過性が挙げられる。高い水溶性、及び高分子量に起因する前記の特性のために、多くのバイオ医薬品は侵襲性の高い注射剤として開発されている。従って、患者の苦痛を伴うばかりでなく、医師による投薬管理及び高い生産コストなどの問題があり、バイオ医薬品の注射剤化は医療費高騰の一因になっている。
【0003】
一方、局所の投与部位における薬物の膜透過を促進し、全身血中に移行させ、標的部位へ効率的に到達させる吸収促進の技術開発は、DDS研究の1つの主要な分野である。脂溶性改善、又はトランスポーターによる認識などに基づくプロドラッグが典型的な技術として挙げられるが、低分子有機化合物が主であり、バイオ医薬品での成功例はない。クラシカルな吸収促進剤として、カプリン酸ナトリウムがアンピシリン坐剤の添加剤として用いられた例があるが、極めて限定的である。バイオ医薬品の吸収性を改善し、経口投与又は経鼻投与などの患者による投薬管理を可能とし、そして医療費を抑制できるDDS技術の開発が求められている。
【0004】
HIVウイルスの感染機構の研究において、高い細胞膜透過性を有するタンパク質が見出され、このタンパク質を用いた膜透過促進技術が研究されている。具体的には、前記HIVウイルスタンパク質の一次構造をもとに、膜透過ペプチドが開発され、DDSキャリアとして精力的に研究されている。膜透過ペプチドは、アルギニン及びリジンなどの塩基性アミノ酸に富む10残基程度の側鎖オリゴペプチドであり、代表的なものとしてオリゴアルギニン、又はペネトラチンなどが知られている。
【0005】
本発明者らは、膜透過ペプチドの技術を応用し、核酸若しくはタンパク質等の水溶性高分子量物質、又は薬物を、簡便且つ高い効率で、細胞内や粘膜内へ導入できる高分子化合物及び多糖誘導体について開示した(特許文献1及び2)。これらの高分子化合物及び多糖誘導体を用いることにより、煩雑な前処理を行わなくとも低膜透過性化合物を高い効率で細胞内や粘膜内へ導入が可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/136707号
【文献】国際公開第2016/136708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1及び2に記載の高分子化合物及び多糖誘導体が利用している8アミノ酸鎖長を中心とする膜透過ペプチドやそれよりも長鎖の膜透過ペプチドは、価格が高く、そのコストダウンを実現しない限り、医薬品添加剤として開発することは困難であった。
また、依然として若干の細胞毒性があるため、更に細胞に安全な薬物の膜透過促進技術の開発が望まれていた。
本発明の目的は、汎用性が高く、より安全性の高い薬物の膜透過促進技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、安全性の高い薬物の膜透過促進技術について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、6アミノ酸鎖長以下の塩基性ペプチドを側鎖の末端に含む高分子化合物によって、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]分子量1000以上の高分子化合物であって、1個のアルギニン、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを側鎖の末端に有し、そしてアルギニンに由来するグアニジノ基を0.5~20mmol/g含む前記高分子化合物、
[2]前記高分子化合物の主鎖が、親水性高分子、アニオン性高分子、及び多糖誘導体からなる群から選択される1種又は2種以上の組み合わせである、[1]に記載の高分子化合物、
[3]前記1個のアルギニン、又は塩基性ペプチドの末端が-CONH基である、[1]又は[2]に記載の高分子化合物、
[4]前記塩基性ペプチドが、アルギニン及びグリシンからなる、[1]~[3]のいずれかに記載の、高分子化合物、
[5][1]~[]のいずれかに記載の高分子化合物を含む細胞への化合物導入促進剤、及び
[6][1]~[]のいずれかに記載の高分子化合物及び薬物を含む医薬組成物、
に関する。
本明細書は、
[7][1]~[4]のいずれかに記載の高分子化合物及び薬物(特には、低膜透過性薬物)を混合する工程、及び薬物の有効量を治療対象に投与する工程を含む、薬物の投与方法、
[8]薬物(特には、低膜透過性薬物)の投与における使用のための[1]~[4]のいずれかに記載の高分子化合物、及び
[9][1]~[4]のいずれかに記載の高分子化合物の医薬組成物の製造のための使用、
を開示する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高分子化合物によれば、側鎖の塩基性ペプチドは、6アミノ酸鎖長以下であり、例えば1個のアルギニンでも本発明の効果が得られることから、従来のオクタアルギニンなどの長鎖の膜透過性ペプチドと比較すると、低コストで化合物導入促進剤を製造することができる。また、本発明の高分子化合物によれば、効率的に薬物などの化合物を細胞内に導入でき、且つ細胞毒性が低いため、安全に薬物などを導入することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1]高分子化合物
本発明の高分子化合物は、分子量1000以上の高分子化合物であって、1個のアルギニン、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを側鎖の末端に有し、そしてアルギニンに由来するグアニジノ基を0.5~20mmol/g含む。
【0011】
《分子量》
高分子化合物の分子量は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば下限は1000以上であり、好ましくは5000以上であり、より好ましくは1万以上であり、より好ましくは5万以上であり、より好ましくは10万以上であり、より好ましくは20万以上であり、より好ましくは30万以上である。分子量の上限は、例えば5000万以下であり、好ましくは4000万以下であり、より好ましくは3000万以下であり、より好ましくは2000万以下であり、更に好ましくは1000万以下である。前記分子量の上限値と下限値とは、任意の組み合わせの範囲で実施することができる。高分子化合物の分子量が小さすぎる場合や高分子化合物の分子量が大きすぎる場合には、本発明の効果が十分に得られない場合がある。
本明細書において、分子量は重量平均分子量である。重量平均分子量とは、水系溶媒を用いてGPC分析を行った場合の重量平均分子量であって、プルラン、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリエチレンオキシド(PEO)換算の重量平均分子量を意味する。
【0012】
《1個のアルギニン又は塩基性ペプチド》
本発明の高分子化合物は、1個のアルギニンを側鎖の末端に有するか、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを側鎖の末端に有する。1個のアルギニン又は塩基性ペプチドを有することにより、本発明の高分子化合物は、薬物などの化合物を効率的に細胞内に導入することができる。
前記2~6鎖長の塩基性ペプチドは、少なくとも1つのアルギニンを含むが、アルギニンの個数の下限は好ましくは2個以上であり、より好ましくは3個以上である。上限は6個以下であり、好ましくは5個以下であり、より好ましくは4個以下である。塩基性ペプチドに含まれる2個以上のアルギニンは、塩基性ペプチドに連続して含まれてもよく、不連続に含まれてもよい。前記塩基性ペプチドに含まれるアルギニンの上限値と下限値とは、本発明の効果が得られる限りにおいて、任意の組み合わせの範囲で実施することができる。
前記2~6鎖長の塩基性ペプチドの鎖長は、2~6鎖長である限りにおいて、特に限定されるものではないが、ある態様では2~6鎖長であり、ある態様では2~5鎖長であり、ある態様では2~4鎖長であり、ある態様では2~3鎖長であり、ある態様では3~6鎖長であり、ある態様では3~5鎖長であり、ある態様では3~4鎖長であり、ある態様では4~6鎖長であり、ある態様では4~5鎖長である。これらの塩基性ペプチドにおいて、すべてのアミノ酸がアルギニンでもよく、1個以上のアルギニン以外のアミノ酸(例えばグリシン)を含んでもよい。
【0013】
塩基性ペプチドは、全体として塩基性ペプチドである限りにおいて、アルギニン以外のアミノ酸を含んでもよい。アルギニン以外のアミノ酸としては、塩基性アミノ酸(例えば、オルニチン、リジン、ヒドロキシリジン又はヒスチジン)、中性アミノ酸(例えば、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、又はバリン)、酸性アミノ酸(アスパラギン酸、又はグルタミン酸)が挙げられるが、好ましくは塩基性アミノ酸又は中性アミノ酸であり、より好ましくは塩基性アミノ酸である。アルギニン以外のアミノ酸の数は、好ましくは5個以下であり、より好ましくは4個以下であり、更に好ましくは3個以下であり、更に好ましくは2個以下であり、更に好ましくは1個以下であり、最も好ましくは0個である。
塩基性ペプチドに含まれるアミノ酸は、L体又はD体のいずれであってもよく、細胞及び導入しようとする水溶性高分子量物質に応じて適宜選択される。なお、本明細書中でアミノ酸と記載する場合、特に断らない限り、α-アミノ酸を意味する。
例えば、2~6鎖長の塩基性ペプチドとしては、RR(Rはアルギニンを表す。以下同様)、RRR、RRRR、RRRRR、若しくはRRRRRRのペプチド、又は1個のアルギニンと1個のグリシンの組み合わせの2鎖長の塩基性ペプチド、2個のアルギニンと1個のグリシンとの3鎖長の塩基性ペプチド、3個のアルギニンと1個のグリシンとの4鎖長の塩基性ペプチド、2個のアルギニンと2個のグリシンとの4鎖長の塩基性ペプチド、4個のアルギニンと1個のグリシンとの5鎖長の塩基性ペプチド、3個のアルギニンと2個のグリシンとの5鎖長の塩基性ペプチド、5個のアルギニンと1個のグリシンとの6鎖長の塩基性ペプチド、4個のアルギニンと2個のグリシンとの6鎖長の塩基性ペプチド、又は3個のアルギニンと3個のグリシンとの6鎖長のペプチドが挙げられる。グリシンとアルギニンの並びは限定されるものではないが、アルギニンが側鎖の末端に位置するものが好ましい。
【0014】
塩基性ペプチドは、下記一般式(1):
【化1】
(式中、Xは、アルギニン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸、又は酸性アミノ酸から末端アミノ基及び末端カルボキシル基を除いた残基を表し、そしてXの少なくとも1つはアルギニン残基であり、aは2~6の整数である)、又は
下記一般式(2):
【化2】
(式中、Xは、アルギニン、塩基性アミノ酸、中性アミノ酸、又は酸性アミノ酸から末端アミノ基及び末端カルボキシル基を除いた残基を表し、そしてXの少なくとも1つはアルギニン残基であり、aは2~6の整数である)
で表すことができる。
前記式(1)で表される塩基性ペプチドの末端は-CONH基である。塩基性ペプチドの末端は-COOH(カルボキシル基)であってもよいが、末端が-CONH基(又はNH基)であることにより、得られる細胞内化合物導入促進剤又は医薬組成物の分散性が向上することがある。
【0015】
《主鎖》
本明細書における高分子化合物の主鎖は、1個のアルギニンを含む側鎖以外の部分、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖以外の部分を意味する。具体的には、主鎖は、1本鎖の主鎖でもよく、グラフト重合した主鎖でもよい。主鎖は、一般的には化合物内で最も長い炭素鎖を意味し、部分的にヘテロ原子で置換されていてもよい。主鎖は環構造を有してもよく、最も長くなる経路を主鎖とする。
本発明の高分子化合物は、例えば一本鎖の高分子化合物又はグラフト重合体(以下、まとめて主鎖高分子と称することがある)に、末端に1個のアルギニンを含む側鎖、又は末端に1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖を結合させることによって製造することができる。
前記主鎖高分子は、特に限定されるものではなく、親水性高分子、アニオン性高分子、又は多糖誘導体を挙げることができるが、親水性高分子又は多糖誘導体が好ましい。本明細書において、親水性高分子とは、水溶性高分子、または水中で膨潤する高分子を意味する。水溶性高分子は常圧下で25℃の水に0.1質量%以上の量で均一に溶解する高分子をいう。
【0016】
親水性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、グアーガム、アガロース、マンナン、グルコマンナン、ポリデキストロース、リグニン、キチン、キトサン、カラギーナン、プルラン、コンドロイチン硫酸、セルロース、ヘミセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、カチオンデンプン、デキストリンの多糖類又は多糖類の変性物;アルブミン、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸(ポリ-γ-グルタミン酸又はポリ-α-グルタミン酸)、ポリリジン等の水溶性タンパク質又は水溶性ポリペプチド;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(アクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリN-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(2-アミノエチルアクリレート)、ポリ(2-アミノエチルメタクリレート)、アクリル酸/アクリルアミド共重合物、メタクリル酸/アクリルアミド共重合物、アクリル酸/N-イソプロピルアクリルアミド共重合物、メタクリル酸/N-イソプロピルアクリルアミド共重合物、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合物、メタクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合物、アクリル酸/マレイン酸共重合物、メタクリル酸/マレイン酸共重合物、アクリル酸/フマル酸共重合物、メタクリル酸/フマル酸共重合物、エチレン/マレイン酸共重合物、イソブチレン/マレイン酸共重合物、スチレン/マレイン酸共重合物、アルキルビニルエーテル/マレイン酸共重合物、アルキルビニルエーテル/フマル酸共重合物等のビニル系親水性高分子;水溶性ポリウレタン等が挙げられる。
【0017】
多糖誘導体としては、特に限定されるものではないが、例えばカルボキシメチル化デンプン、カルボキシメチル化セルロース、カルボキシメチル化βグルコース等のカルボキシメチル化多糖誘導体、ペクチン、ペクチン酸、ヒアルロン酸、又はアルギン酸が挙げられる。
アニオン性高分子は、側鎖にアニオン性基を有する高分子である。アニオン性高分子中の「アニオン性基」は、両性高分子に関して上述したアニオン性基から適宜選択しうる。
アニオン性基は一態様として、カルボキシル基、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ボロン酸基を含む。アニオン性高分子の具体的な例としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグルタミン酸、カルボキシルメチル化ポリヒスチジン、ヒアルロン酸、アルギン酸、又はポリアスパラギン酸等が挙げられる。
主鎖高分子は、前記の親水性高分子、アニオン性高分子、及び多糖誘導体の中の1種又は2種以上の組み合わせを、適宜用いることができる。
【0018】
前記主鎖高分子は、アルギニン又は塩基性ペプチド(又はアルギニンを含む側鎖、又は塩基性ペプチドを含む側鎖)を容易に結合させるために、カルボキシル基、又はアミノ基を有する主鎖高分子が好ましい。カルボキシル基を有することにより、アルギニンなどのアミノ酸のアミノ基と容易に結合することができる。また、アミノ基を有することにより、アルギニンなどのアミノ酸のカルボキシル基と容易に結合することができる。
【0019】
前記主鎖高分子は、限定されるものではないが、膜透過性を有さないものが好ましく、グアニジノ基を有さないものが好ましい。主鎖高分子がグアニジノ基を有さない、又は膜透過性を有さないことにより、本発明の高分子化合物自体は、細胞に取り込まれにくく、非共有結合で緩く共存している薬物などの化合物のみが細胞に取り込まれやすいものと考えられる。
【0020】
《側鎖》
本発明の高分子化合物の側鎖は、末端側に1個のアルギニン、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む限りにおいて、特に限定されるものではない。すなわち、本明細書において、側鎖とは末端側に1個のアルギニンを含む鎖、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む鎖を意味する。また、側鎖の末端とは、主鎖から分岐して再び主鎖に結合しない分岐鎖の末端部分を意味する。
末端側に1個のアルギニンを含む側鎖、及び1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖は、そのアルギニン又は塩基性ペプチドの主鎖側に、任意の鎖を含むことができる。任意の鎖は、特に限定されるものではないが、例えばリンカーペプチドが挙げられる。
【0021】
リンカーペプチドを構成するアミノ酸としては、中性アミノ酸又はω-アミノアルカン酸が挙げられる。中性アミノ酸としては、例えば、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、及びヒドロキシプロリン等が挙げられ、ω-アミノアルカン酸としては、3-アミノプロパン酸、4-アミノブタン酸、5-アミノペンタン酸、6-アミノヘキサン酸、7-アミノヘプタン酸、8-アミノオクタン酸、9-アミノノナン酸、10-アミノデカン酸、及び11-アミノウンデカン酸等が挙げられ、これらの任意の組み合わせでもよい。細胞に導入される化合物の導入効率が上がることから、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンが好ましく、グリシン、アラニン、セリンが更に好ましく、グリシンが最も好ましい。
リンカーペプチドの鎖長は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば1~30であり、好ましくは1~20であり、より好ましくは1~10であり、更に好ましくは1~5である。
【0022】
《グアニジノ基》
本発明の高分子化合物は、アルギニンに由来する下記式(3):
【化3】
で表されるグアニジノ基を0.5~20.0mmol/g含むが、好ましくは1.0~10.0mmol/gであり、より好ましくは1.0~8.0mmol/gであり、更に好ましくは1.5~8.0mmol/gである。0.5mmol/gよりも小さいと本発明の効果が得られず、20.0mmol/gよりも大きいと導入する対象によっては毒性が強く生じてしまう。グアニジノ基の含有量が、前記範囲であることにより、効率的に薬物などの化合物を細胞内に導入できる。
発明の高分子化合物のグアニジノ基の含有量は、限定されるものではないが、例えば高分子化合物のH-NMRを測定して、高分子の主鎖由来の水素原子及びアルギニン由来の水素原子を測定し、アルギニン由来の基の含量を計算する。この結果から、高分子化合物当たりのグアニジノ基の密度を算出することができる。具体的な測定方法は、実施例に示す。
【0023】
《高分子化合物の製造方法》
本発明の高分子化合物の製造方法は特に限定されず、例えば1個のアルギニンを含む側鎖を有する重合性モノマー、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖を有する重合性モノマーを重合して製造してもよい。また、前記主鎖高分子に、前記1個のアルギニンを含む側鎖(例えば、1個のアルギニン)又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖(例えば、1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチド)を導入して製造してもよい。しかしながら、製造の容易さの点から、前記主鎖高分子に、1個のアルギニンを含む側鎖(例えば、1個のアルギニン)又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖(例えば、1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチド)を導入して製造することが好ましい。
主鎖高分子がカルボキシル基を有する場合は、カルボキシル基にアルギニン又は塩基性ペプチドのアミノ基をペプチド反応させることにより、高分子化合物を製造することができる。カルボキシル基とアミノ基との反応は、公知の方法を用いればよく、例えば、カルボキル基をN-ヒドロキシコハク酸イミドによりスクシイミドエステル化した後、アミノ基を反応させる方法等が挙げられる。
一方、主鎖高分子がアミノ基を有する場合は、アミノ基にアルギニン又は塩基性ペプチドのカルボキシル基をペプチド反応させることにより得ることができる。アルギニンを含む側鎖又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖の固定法は、本法に限るものではなく、一般的に知られている化学反応を用いて、固定化できる。
また、前記主鎖高分子が、カルボキシル基又はアミノ基を末端に有する側鎖を有する主鎖高分子である場合は、それらのカルボキシル基又はアミノ基に1個のアルギニン、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを結合させることによっても、本発明の高分子化合物を製造することができる。
【0024】
本発明の高分子化合物は、後述の化合物導入促進剤、又は医薬組成物の製造のために用いることができる。従って、本発明の使用は、化合物導入促進剤、又は疾患の治療又は予防用医薬の製造のための使用である。
【0025】
[2]化合物導入促進剤
本発明の化合物導入促進剤は、本発明の高分子化合物を含む。前記高分子化合物を含むことにより、薬物などの化合物を細胞内に効率的に導入することができる。
【0026】
《細胞へ導入される化合物》
本発明の化合物導入促進剤によって、細胞へ導入される化合物は、特に限定されるものではなく、タンパク質(ペプチド)、DNA、RNA、脂質、糖質、又は低分子化合物が挙げられる。特には、細胞への導入効率の低い低膜透過性化合物を、細胞内に導入するために使用できる。
低膜透過性化合物としては、例えば、インスリン及びインスリン分泌促進剤(例えば、エキセンディン-4、GLP-1)などのペプチド・タンパク性医薬品、ステロイドホルモン、非ステロイド系鎮痛抗炎症剤、精神安定剤、抗高血圧薬、虚血性心疾患治療薬、抗ヒスタミン薬、抗喘息薬、抗パーキンソン薬、脳循環改善薬、制吐剤、抗うつ薬、抗不整脈薬、抗凝固薬、抗痛風薬、抗真菌薬、抗痴呆薬、シェーングレン症候群治療薬、麻薬性鎮痛薬、ベータ遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、副交感神経作動薬、抗腫瘍薬、利尿薬、抗血栓薬、ヒスタミンH1レセプター拮抗薬、ヒスタミンH2レセプター拮抗薬、抗アレルギー薬、禁煙補助薬、ビタミン等の医薬品;デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びこれらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)等の核酸化合物;酵素、抗体、糖タンパク質、転写因子等のペプチド化合物;プルラン、アミロペクチン、アミロース、グリコーゲン、シクロデキストリン、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、セルロース、デンプン、アルギン酸、キチン、キトサン、ヒアルロン酸等の多糖誘導体およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0027】
本発明の化合物導入促進剤が、適用される細胞は、動物、植物、又は細菌等のいずれの細胞でもよいが、低膜透過性化合物の導入効率の点から、乳動物(例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、フェレット、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ハムスター、スナネズミ、マウス、又はラット)の細胞が好ましい。細胞への化合物の導入は、in vivoで行われてもよく、in vitroで行われてもよい。
【0028】
本発明の化合物導入促進剤は、前記高分子化合物以外に希釈剤又は添加剤などを含むことができる。希釈剤としては、精製水、アルコール類(例えば、エタノール)、注射用蒸留水、生理用食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、又はポリソルベート80が挙げられる。また、希釈剤以外の添加剤としては、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解剤、又は溶解補助剤などを含むことができる。
【0029】
本発明の化合物導入促進剤は、化合物(特には、低膜透過性化合物)の細胞への導入に用いることができる。すなわち、本発明の使用は、化合物導入促進剤の化合物(特には、低膜透過性化合物)の細胞へ導入のための使用である。
【0030】
[3]医薬組成物
本発明の医薬組成物は、薬物及び本発明の高分子化合物を含む。前記高分子化合物を含むことにより、薬物を細胞内に効率的に導入することができる。
【0031】
《薬物》
本発明の医薬組成物に含まれる薬物は、特に限定されるものではないが、例えばインスリン及びインスリン分泌促進剤(例えば、エキセンディン-4、GLP-1)などのペプチド・タンパク性医薬品、ステロイドホルモン、非ステロイド系鎮痛抗炎症剤、精神安定剤、抗高血圧薬、虚血性心疾患治療薬、抗ヒスタミン薬、抗喘息薬、抗パーキンソン薬、脳循環改善薬、制吐剤、抗うつ薬、抗不整脈薬、抗凝固薬、抗痛風薬、抗真菌薬、抗痴呆薬、シェーングレン症候群治療薬、麻薬性鎮痛薬、ベータ遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、副交感神経作動薬、抗腫瘍薬、利尿薬、抗血栓薬、ヒスタミンH1レセプター拮抗薬、ヒスタミンH2レセプター拮抗薬、抗アレルギー薬、禁煙補助薬、ビタミン等の医薬品、抗体医薬等が挙げられる。
【0032】
本発明の医薬組成物は、薬剤及び高分子化合物以外に希釈剤又は添加剤などを含むことができる。希釈剤としては、精製水、アルコール類(例えば、エタノール)、注射用蒸留水、生理用食塩水、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、又はポリソルベート80が挙げられる。また、希釈剤以外の添加剤としては、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解剤、又は溶解補助剤などを含むことができる。
【0033】
本発明の医薬組成物の投与量は、有効成分の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1~100mg、好ましくは0.1~50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01~50mg、好ましくは0.01~10mgである。
【0034】
《薬物の投与方法》
本発明の薬物の投与方法は、前記高分子化合物及び薬物(特には、低膜透過性薬物)を混合する工程、及び薬物の有効量を治療対象に投与する工程を含む。本発明の薬物の投与方法においては、前記高分子化合物を限定することなく用いることができ、投与される薬物も特に限定されるものではない。更に、本発明の薬物の投与方法によれば、薬物を効率的に細胞に導入することができる。
【0035】
《薬物投与用高分子化合物》
本発明の高分子化合物は、薬物(特には、低膜透過性薬物)の投与における使用のための高分子化合物である。すなわち、薬物投与用の高分子化合物であり、前記高分子化合物及び薬物を限定することなく、用いることができる。本発明の高分子化合物は、薬物を効率よく細胞に投与することができる。
【0036】
《医薬組成物の製造への使用》
本発明の使用は、前記高分子化合物の医薬組成物の製造のための使用である。医薬組成物の製造においては、高分子化合物及び薬物を含む医薬組成物を製造する。医薬組成物の製造においては、本発明の高分子化合物を用いることを除いては、公知の医薬組成物の製造方法に従って、医薬組成物を製造することができる。
【0037】
《作用》
本発明の高分子化合物が、効率的に薬物などの化合物を細胞内に導入できる機構は、詳細に解明されたわけではない。しかしながら、以下のように推定することができる。しかしながら、本発明は以下の推定によって限定されるものではない。
本発明の高分子化合物は、1個のアルギニンを含む側鎖、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖を有している。この側鎖に含まれるアルギニンはグアニジノ基を有しており、本発明の高分子化合物はグアニジノ基を0.5~20mmol/g含んでいる。前記の範囲のグアニジノ基を有していることにより、高分子化合物が細胞膜に近づいた時に、細胞のマクロピノサイトーシスが誘発されると考えられる。細胞は、アルギニン等を含む高分子化合物を、マクロピノサイトーシスにより取り込もうとするが、巨大分子である高分子化合物を取り込むことが困難である。一方、高分子化合物に共存する薬物などの化合物は、高分子化合物と比較して分子量が小さいために、細胞内に取り込まれると考えられる。すなわち、本発明の高分子化合物はグアニジノ基を0.5~20mmol/g含んでいることにより、細胞のマクロピノサイトーシスを誘発することが可能であり、それによって共存する薬物などの化合物が、細胞内に取り込まれると推定される。一方、高分子化合物の主鎖高分子は、1個のアルギニンを含む側鎖、又は1個以上のアルギニンを含む2~6鎖長の塩基性ペプチドを含む側鎖を結合できれば、マクロピノサイトーシスを誘発でき、本発明の効果を発揮できると推定される。従って、本発明の高分子化合物において、前記主鎖高分子は特定の主鎖高分子に限定されるものではない。
【実施例
【0038】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。なお、特に限定のない限り、実施例中の「部」や「%」は質量基準によるものである。
【0039】
《実施例1》
本実施例では、主鎖高分子として、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体を用いて、1個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
【0040】
(アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体のスクシンイミド体の合成)
特開平08-081428の実施例14を参考に、アクリル酸ナトリウム30.0g及びN-ビニルアセトアミド70.0gを原料として、常法に従って共重合体(NVA-AANaポリマー)を合成した。
続いて、カラム管に陽イオン交換樹脂(IR120B,オルガノ製)を充填し、5.0wt%NVA-AANaポリマー水溶液130.0gを2.6mL/minにて通液することで、NVA-AAポリマー水溶液を得た。得られたNVA-AAポリマー水溶液を凍結乾燥し、NVA-AAポリマーを5.7g得た。
300mLの5つ口フラスコに、NVA-AAポリマー(5.0g)及びDMF(142.0g)を仕込み、氷浴にて10℃以下に冷却した。この溶液に、N-ヒドロキシコハク酸イミドのDMF溶液58.2g(0.2g/mL)を、2.0mL/minで滴下した。更に、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドのDMF溶液66.2g(0.4g/mL)を、1.0mL/minで滴下した。氷浴下1時間攪拌した後、室温に昇温し24時間撹拌した。反応溶液を吸引濾過して濾液を回収し、アセトニトリル2Lを用いて再沈殿した。その後、沈殿をアセトン2Lにて洗浄し吸引濾過により固体を回収した。得られた固体を減圧乾燥することでスクシンイミドエステル化されたNVA-AAポリマー(NVA-AAポリマーOSu体)5.4gを得た。
【0041】
(塩基性ペプチドの導入)
NVA-AAポリマーOSu体10.0mgをDMF1.0mLに溶解した。この溶液に、モノ-L-アルギニン(NH-R1/L、メルク製)のDMF溶液(77.5mg/mL)0.2mLとトリエチルアミン(TCI製)0.02mLを混合し、50℃で24時間撹拌した。その後イオン交換水1.0mLで希釈し、セルロース透析チューブ(シームレスセルロースチューブ、スペクトラム製)に入れ、チューブの両端を縛った後、イオン交換水を用いて5日間透析を行った。精製後チューブ内液を凍結乾燥し、モノ-L-アルギニンが導入された高分子化合物(以下、NVA-AA-R1/Lと称することがある)を11.5mg得た。GPC測定により、分子量375000(PEG/PEO換算)であった。
【0042】
(グアニジノ基の測定)
得られた高分子化合物について、H-NMRを測定することによりアルギニン由来の基の含量を求め、この結果から、高分子化合物あたりのグアニジノ基の密度を算出した。
H-NMR(400MHz,DO):δ=4.16-3.75(br,1H),3.50-3.31(br,0.67H)
具体的には以下の手順で行った。まず、アルギニンが導入される前のNVA-AAポリマーのH-NMRを測定することにより、下記構造式(4)の「繰り返しユニット」のx/(y+z)比を算出する。
続いて、下記式(4)の(*1)の1つの水素原子と、(*2)の2つの水素原子の積分値からx/zを算出する。これらの結果からx/y/z比が得られる。(実施例1では14/1.32/4.68)
なお、ここでいう「繰り返しユニット」とは、高分子化合物の主鎖を構成するモノマー単位(実施例1ではN-ビニルアセトアミド由来部分、アクリル酸由来部分及びペプチド鎖の結合したアクリル酸由来部分)の構成比に基づく繰り返し構造をいう。主鎖がランダム共重合体の場合は、便宜上、構成比に基づくブロック状の配列が繰り返されるものとして「繰り返しユニット」として扱う。
1つの繰り返しユニット(実施例1ではx/y/z=14/1.32/4.68から成る)に含まれるグアニジノ基のモル数は、塩基性ペプチドに含まれるアルギニンの繰り返し数とzを掛け合わせることによって、単位構造式中に含まれるグアニジノ基のモル数を算出することができる(なお、本実施例においては、アルギニンが1個であるため、アルギニンの繰り返し数は1である)。
得られた「グアニジノ基のモル数」を、上記x/y/z比を有する単位構造式の分子量(便宜上の重量)で除することによって、高分子化合物のグアニジノ基の密度を算出した。結果を表1に示す。
【化4】
【0043】
《実施例2》
本実施例では、主鎖高分子として、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体を用いて、2個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、2個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-R2/L)を使用したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、2個のアルギニンが導入された高分子化合物(以下、NVA-AA-R2/Lと称することがある)を16.5mg得た。GPC測定により、分子量482000(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例1と同様に算出した。結果を表1に示す。
【0044】
《実施例3》
本実施例では、主鎖高分子として、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体を用いて、4個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、4個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-R4/L)を使用したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、4個のアルギニンが導入された高分子化合物(以下、NVA-AA-R4/Lと称することがある)を20.3mg得た。GPC測定により、分子量531000(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例1と同様に算出した。結果を表1に示す。
【0045】
《比較例1》
本比較例では、主鎖高分子として、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体を用いて、8個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、8個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-R8/L)を使用したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、8個のL-アルギニンが導入された高分子化合物(以下、NVA-AA-R8/Lと称することがある)を17.8mg得た。GPC測定により、分子量671000(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例1と同様に算出した。結果を表1に示す。
【0046】
《比較例2》
本比較例では、主鎖高分子として、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体を用いて、8個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、8個のD-アルギニンからなる塩基性ペプチドを使用したことを除いては、実施例1の操作を繰り返して、8個のD-アルギニンが導入された高分子化合物(以下、NVA-AA-R8/Dと称することがある)を17.8mg得た。GPC測定により、分子量611000(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例1と同様に算出した。結果を表1に示す。
【0047】
《細胞への取り込みの評価》
前記実施例1~3、及び比較例1~2で得られた高分子化合物を用いて、細胞へのFITC-OVAの取り込みを測定した。
24穴プレートの各ウエルに、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO細胞)のHam’sF12培地懸濁液(2×10cells/mL)500μLを播種し、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO)で24時間、前培養した。上清を除去しリン酸緩衝生理食塩水500μLで2回洗浄した後、フルオレセイン標識-オボアルブミン(FITC-OVA;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)のHam’s F12培地溶液(終濃度5μg/mL)250μLを添加した。次に、実施例1~3及び比較例1~2で得られた高分子化合物を、Ham’s F12培地溶液に溶解した溶液(終濃度1μg/mL)250μL添加して、炭酸ガスインキュベーターで2時間培養した。上清の培地溶液を除去し、リン酸緩衝生理食塩水500μLで2回洗浄した後、トリプシンEDTA溶液(Life Technologies社製)100μLを添加して、培養したCHO細胞をプレートから剥離、分散させた。次にトリパンブルー溶液400μLを添加して細胞を懸濁させ、マイクロチューブに回収した。回収した細胞懸濁液を、セルストレーナーを通過させ、フローサイトメトリーによりMFI(平均蛍光強度)を測定した。コントロールとして、アクリル酸/N-ビニルアセトアミド共重合体のみを添加したもの(主鎖高分子)、4個のアルギニンからなる塩基性ペプチドのみを添加したもの(R4/L)、FITC-OVAのみを添加したもの(FITC-OVA)、細胞のみのもの(細胞)を実施した。結果を表1に示す。
細胞外のFITC-OVAはトリパンブルーにより消光して蛍光を発せず、細胞内に導入されたFITC-OVAのみが蛍光を発する。MFIは細胞1個当たりの蛍光強度の平均値を示すことから、MFIの値が大きい程、水溶性高分子化合物であるFITC-OVAが細胞内に取り込まれたことを表している。
また、フローサイトメトリー解析によりFITC-OVAの「取り込み効率」を算出した。「取り込み効率」とは、細胞のみ測定した場合の自家蛍光強度の最大値を基準とし、FITC-OVAを細胞に取り込ませた際、基準値よりも大きい細胞数の割合を測定したものである。
結果を表1に示す。
【0048】
《細胞毒性の評価》
Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学)を用いて、細胞毒性を測定した。
96穴プレートの各ウエルにCHO細胞のHam’sF12培地懸濁液(2×10cells/mL)100μLを播種し、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO)で24時間、前培養した。実施例1~3および比較例1~2で得られた高分子化合物をHam’s F12培地溶液に溶解した溶液(終濃度5μg/mL)を220μL、Ham’s F12培地を低コントロールウエルにHam’s F12培地を220μL、高コントロールウエルに200μL、バックグラウンドウエル(細胞のいないウエル)に220μL添加して、炭酸ガスインキュベーターで1.5時間培養した。その後、高コントロールウエルにLysis Buffer20μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内で更に30分間培養した。各ウエルから上清100μLを取り、測定用96穴マイクロプレートに移した。すべてのウエルにWorking Solution 100μL加え、遮光下、室温で30分間呈色反応を実施し、その後すべてのウエルにStop Solution 50μLを加えた。プレートリーダーを用いて490nmの吸光度を測定し、細胞毒性(%)を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
実施例1~3で得られた高分子化合物を用いた場合、コントロールの4.04~4.36のMFIと比較して、30.13~166.70の高いMFIを示した。また、細胞への取り込み効率についても、実施例2及び3の高分子化合物は、比較例1のものとほぼ同等の取り込み効率を示し、実施例1の高分子化合物も76%の細胞に取り込まれていた。一方、細胞毒性については、比較例1-1及び1-2の8.7%及び8.9%と比較して、実施例1~3の高分子化合物は、1.5%~6.9%の低い細胞毒性を示した。
【0050】
《実施例4》
本実施例では、主鎖高分子として、ヒアルロン酸(分子量30,000)を用いて、2個のグリシン及び2個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
ヒアルロン酸(TCI製、平均分子量:30,000)20.0mgを、ジメチルスルホキシド(DMSO)0.8mLに60℃にて攪拌することで溶解させた。この溶液に、0.15mLのDMSOに溶解した18mgのN-ヒドロキシコハク酸イミドを添加し、更に0.15mLのDMSOに溶解した34.0mgのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を添加して、室温24時間撹拌した。析出した固体を濾過により濾別し、スクシンイミドエステル化されたヒアルロン酸のDMSO溶液を得た。このスクシンイミドエステル化されたヒアルロン酸のDMSO溶液へ、2個のグリシン及び2個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-G2R2/L、SIGMA製)のDMSO溶液(116mg/mL)0.40mLとトリエチルアミン(TCI製)0.04mLを混合し、室温にて24時間撹拌した。反応後、反応溶液をイオン交換水1mLで希釈し、セルロース透析チューブ(シームレスセルロースチューブ、スペクトラム社製)に入れ、チューブ両端を縛った後、イオン交換水を用いて5日間透析を実施した。その後、チューブ内液を凍結乾燥し、2個のアルギニンが導入された高分子化合物(以下、HA(30k)-G2R2/Lと称することがある)を14.0mg得た。
【0051】
(グアニジノ基の測定)
得られた高分子化合物(HA-G2R2/L)について、H-NMRを測定することによりアルギニン由来の基の含量を求め、この結果から、高分子化合物あたりのグアニジノ基の密度を算出した。
H-NMR(400MHz,DO):δ=3.45-3.34(br,1.64H),2.26-2.12(br,3H)
具体的には以下の手順で行った。
まず、下記式(5)の(*3)の3つの水素原子と、(*4)の2つの水素原子の積分値から、l/m比を算出する。(実施例4では0.41/0.59)
1つの繰り返しユニット(実施例4ではl/m=0.41/0.59から成る)に含まれるグアニジノ基のモル数は、塩基性ペプチドに含まれるアルギニンの繰り返し数とlを掛け合わせることによって、単位構造式中に含まれるグアニジノ基のモル数を算出することができる(なお、本実施例4においては、アルギニンが2個であるため、アルギニンの繰り返し数は2である)。
得られた「グアニジノ基のモル数」を、下記l/m比を有する単位構造式の分子量(便宜上の重量)で除することによって、高分子化合物のグアニジノ基の密度を算出した。結果を表2に示す。
【化5】
【0052】
《実施例5》
本実施例では、主鎖高分子として、分子量22万のヒアルロン酸を用いて、2個のグリシン及び2個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
分子量3万のヒアルロン酸に代えて分子量22万のヒアルロン酸を用いたことを除いては、実施例4の操作を繰り返して、2個のグリシン及び2個のL-アルギニンが導入された高分子化合物(以下、HA(220k)-G2R2と称することがある)を21.0mg得た。
本実施例では、グアニジノ基濃度の異なる2種類のHA(220k)-G2R2/Lを得た。表2においては、それぞれ実施例5-1、及び実施例5-2と記載する。グアニジノ基の密度は実施例4と同様に算出した。結果を表2に示す。
【0053】
《細胞への取り込みの評価》
前記実施例4~5で得られた高分子化合物を用いて、細胞へのFITC-BSAの取り込みを測定した。FITC-OVAに代えて、フルオレセイン標識-牛血清アルブミン(FITC-BSA;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、実施例4~5で得られた高分子化合物、主鎖高分子、G2R2を添加する際の濃度、およびFITC-BSAの濃度を変更したことを除いては、前記実施例1~3、及び比較例1~2の細胞への取り込みの評価の操作を繰り返した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
実施例4~5で得られた高分子化合物を用いた場合、コントロールの4.26~5.05のMFIと比較して、42.71~1761.48の高いMFIを示した。
【0055】
≪実施例6≫
本実施例では、主鎖高分子として、γ-ポリグルタミン酸(以下、γ-PGAと略記する)を用いて、1個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調整した。
【0056】
(γ-PGAのスクシンイミド体の合成)
γ-PGA(和光純薬工業製、平均分子量200,000~500,000)10mg及びDMSO1.0mLを仕込み、70℃で撹拌溶解した後、室温まで冷却した。この溶液にN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミドのDMSO溶液248.8mg(0.12g/mL)及び、N-ヒドロキシコハク酸イミドのDMSO溶液236.3mg(0.067g/mL)を混合し、室温で24時間撹拌した。続いて、反応溶液を吸引濾過し濾液を回収することで、スクシンイミド化されたγ-PGA(γ-PGA-OSu体)のDMSO溶液を得た。
【0057】
(塩基性ペプチドの導入)
γ-PGA-OSu体のDMSO溶液に、モノ-L-アルギニン(NH-R1/L、メルク製)のDMSO溶液(72.3mg/mL)428.9mgとトリエチルアミン(TCI製)0.02mLを混合し、室温で24時間撹拌した。その後イオン交換水2.0mLで希釈し、セルロース透析チューブ(シームレスセルロースチューブ、スペクトラム製)に入れ、チューブの両端を縛った後、イオン交換水を用いて5日間透析を行った。精製後チューブ内液を凍結乾燥し、モノ-L-アルギニンが導入された高分子化合物(以下、γ-PGA-R/Lと称することがある)を8.8mg得た。GPC測定により、分子量7,180(PEG/PEO換算)であった。
【0058】
(グアニジノ基の測定)
得られた高分子化合物(γ-PGA-R1/L)について、H-NMRを測定することによりアルギニン由来の基の含量を求め、この結果から、高分子化合物あたりのグアニジノ基の密度を算出した。
H-NMR(400MHz,DO):δ=3.20-3.05(br,0.67H),2.49-2.19(br,1H)
具体的には以下の手順で行った。
まず、下記式(6)の(*5)の2つの水素原子と、(*6)の2つの水素原子の積分値から、p/q比を算出する。(実施例6では0.33/0.67)
1つの繰り返しユニット(実施例6ではp/q=0.33/0.67から成る)に含まれるグアニジノ基のモル数は、塩基性ペプチドに含まれるアルギニンの繰り返し数とqを掛け合わせることによって、単位構造式中に含まれるグアニジノ基のモル数を算出することができる(なお、本実施例6においては、アルギニンが1個であるため、アルギニンの繰り返し数は1である)。
得られた「グアニジノ基のモル数」を、下記p/q比を有する単位構造式の分子量(便宜上の重量)で除することによって、高分子化合物のグアニジノ基の密度を算出した。結果を表3に示す。
【化6】
【0059】
《実施例7》
本実施例では、主鎖高分子として、γ-PGAを用いて、2個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、2個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-R2/L)を使用したことを除いては、実施例6の操作を繰り返して、2個のアルギニンが導入された高分子化合物(以下、γ-PGA-R2/Lと称することがある)を20.2mg得た。GPC測定により、分子量13,900(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例6と同様に算出した。結果を表3に示す。
【0060】
《実施例8》
本実施例では、主鎖高分子として、γ-PGAを用いて、4個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、4個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-R4/L)を使用したことを除いては、実施例6の操作を繰り返して、4個のアルギニンが導入された高分子化合物(以下、γ-PGA-R4/Lと称することがある)を21.1mg得た。GPC測定により、分子量7,630(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例6と同様に算出した。結果を表3に示す。
【0061】
《実施例9》
本実施例では、主鎖高分子として、γ-PGAを用いて、1個のグリシン及び2個のアルギニンを側鎖に有する高分子化合物を調製した。
モノ-L-アルギニンに代えて、1個のグリシン及び2個のL-アルギニンからなる塩基性ペプチド(NH-G1R2/L)を使用したことを除いては、実施例6の操作を繰り返して、1個のグリシン及び2個のアルギニンが導入された高分子化合物(以下、γ-PGA-G1R2/Lと称することがある)を29.3mg得た。GPC測定により、分子量14,000(PEG/PEO換算)であった。グアニジノ基の密度は実施例6と同様に算出した。結果を表3に示す。
【0062】
《細胞への取り込みの評価》
前記実施例6~で得られた高分子化合物を用いて、細胞へのFITC-OVAの取り込みを測定した。
24穴プレートの各ウエルに、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞(CHO細胞)のHam’sF12培地懸濁液(2×10cells/mL)500μLを播種し、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO)で24時間、前培養した。上清を除去しリン酸緩衝生理食塩水500μLで2回洗浄した後、フルオレセイン標識-オボアルブミン(FITC-OVA;サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)のHam’s F12培地溶液(終濃度1μg/mL)250μLを添加した。次に、実施例6~で得られた高分子化合物を、Ham’s F12培地溶液に溶解した溶液(終濃度5μg/mL)250μL添加して、炭酸ガスインキュベーターで2時間培養した。上清の培地溶液を除去し、リン酸緩衝生理食塩水500μLで2回洗浄した後、トリプシンEDTA溶液(Life Technologies社製)100μLを添加して、培養したCHO細胞をプレートから剥離、分散させた。次にトリパンブルー溶液400μLを添加して細胞を懸濁させ、マイクロチューブに回収した。回収した細胞懸濁液を、セルストレーナーを通過させ、フローサイトメトリーによりMFI(平均蛍光強度)を測定した。コントロールとして、γ-PGAのみを添加したもの(主鎖高分子)、4個のアルギニンからなる塩基性ペプチドのみを添加したもの(R4/L)、FITC-OVAのみを添加したもの(FITC-OVA)、細胞のみのもの(細胞)を実施した。結果を表3に示す。
細胞外のFITC-OVAはトリパンブルーにより消光して蛍光を発せず、細胞内に導入されたFITC-OVAのみが蛍光を発する。MFIは細胞1個当たりの蛍光強度の平均値を示すことから、MFIの値が大きい程、水溶性高分子化合物であるFITC-OVAが細胞内に取り込まれたことを表している。
また、フローサイトメトリー解析によりFITC-OVAの「取り込み効率」を算出した。「取り込み効率」とは、細胞のみ測定した場合の自家蛍光強度の最大値を基準とし、FITC-OVAを細胞に取り込ませた際、基準値よりも大きい細胞数の割合を測定したものである。
結果を表3に示す。
【0063】
《細胞毒性の評価》
Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学)を用いて、細胞毒性を測定した。
96穴プレートの各ウエルにCHO細胞のHam’sF12培地懸濁液(2×10cells/mL)100μLを播種し、炭酸ガスインキュベーター(37℃、5%CO)で24時間、前培養した。実施例6~で得られた高分子化合物をHam’s F12培地溶液に溶解した溶液(終濃度5μg/mL)を220μL、Ham’s F12培地を低コントロールウエルにHam’s F12培地を220μL、高コントロールウエルに200μL、バックグラウンドウエル(細胞のいないウエル)に220μL添加して、炭酸ガスインキュベーターで1.5時間培養した。その後、高コントロールウエルにLysis Buffer20μLを加え、炭酸ガスインキュベーター内でさらに30分間培養した。各ウエルから上清100μLを取り、測定用96穴マイクロプレートに移した。すべてのウエルにWorking Solution 100μL加え、遮光下、室温で30分間呈色反応を実施し、その後すべてのウエルにStop Solution 50μLを加えた。プレートリーダーを用いて490nmの吸光度を測定し、細胞毒性(%)を算出した。結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
実施例6~9で得られた高分子化合物を用いた場合、コントロールの3.2~4.4のMFIと比較して、13~36の高いMFIを示した。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の高分子化合物は、低膜透過性の薬剤などの細胞への導入に用いることができる。