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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】熱電変換モジュール
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/17 20230101AFI20240208BHJP
   H10N 10/856 20230101ALI20240208BHJP
   H10N 10/01 20230101ALI20240208BHJP
   H10K 10/00 20230101ALI20240208BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20240208BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H10N10/17 A
H10N10/856
H10N10/01
H10K10/00
H10K85/10
H02N11/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019140792
(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公開番号】P2021027061
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-02-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発/小規模研究開発/ワイヤレスセンサネットワーク用電源用高性能有機系熱電材料・素子の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】向田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】衛 慶碩
(72)【発明者】
【氏名】桐原 和大
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-010981(JP,A)
【文献】特開2018-046275(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/17
H10N 10/856
H10N 10/01
H10K 10/00
H10K 85/10
H02N 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L1×L2のサイズの矩形表面を有しp型の熱電特性を有する導電性高分子層と、2つの離間したa×L2のサイズの第1矩形部及び当該2つの第1矩形部に接続する幅bを有する第2矩形部からなるI型表面を有する金属層が交互に隙間なく積層され、
前記導電性高分子層の両面に絶縁層と電極層が接合しており、
前記電極層が、前記導電性高分子層の矩形表面の第1端部と、裏面の第1端部とは反対側の第2端部とに位置し、それぞれ前記第1矩形部の表面を覆ってa×L2のサイズで与えられて、前記導電性高分子層と前記金属層とを電気的接続し、
bが設定された場合に、前記I型表面の2つの前記第1矩形部の間の温度差を大きく、前記第1矩形部と前記電極層との接触抵抗を小さくするようにaが設定され、
aが設定された場合に、前記第2矩形部を流れる熱流の熱抵抗を大きく、前記第2矩形部を流れる電流の電気抵抗を小さくなるようにbが設定され、
設定されたa及びbに対応した熱電変換効率を有することを特徴とする熱電変換モジュール。
【請求項2】
前記導電性高分子層はPEDOT/PSS膜を含み、前記金属層はNiを含み、前記電極層はAu、Pt、Ag、Cu、及びCの中から選択された1つまたは2以上を含み、前記絶縁層は絶縁性高分子層を含む、請求項1記載の熱電変換モジュール。
【請求項3】
発電時に、前記導電性高分子層を第1方向に流れる電流が、接合する前記電極層を介して隣の前記金属層へ流れ込み、当該金属層を前記第1方向とは逆向きの第2方向に流れる、請求項1又は2に記載の熱電変換モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換モジュールに関し、より具体的には、熱電材料として導電性高分子を用いた熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換とは、固体の熱電変換モジュールを用いて熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換する技術である。このうち熱エネルギーを電気エネルギーに変換する技術は、熱電発電と呼ばれ、熱電効果の1つであるゼーベック効果に基づく。熱電発電では、熱電変換モジュールの両端間の温度差が電気エネルギーに直接変換される。
【0003】
有機材料を用いた熱電変換は、その軽さと製造法のシンプルさから低温排熱回収によるエネルギーハーベスティング技術の一つとして注目を集めている。中でも導電性高分子は、材料として軽量、フレキシビリティ、無毒性安価等のメリットがあり、さらに製造プロセスにおいては大量生産、大面積生産、安価等のメリットがあるので、電気・電子部材への応用が見込まれる材料である。
【0004】
導電性高分子の1つであるPEDOT/PSSは、電気伝導度の大きさと熱伝導率の小ささから有望視されている。本出願の発明者は、PEDOT/PSSを用いた熱電材料の製造方法を提案している(特許文献1)。さらに、本出願の発明者は、PEDOT/PSSを用いた熱電材料ではp型材料のみが安定であるため、PEDOT/PSSと、n型として作用する金属とを積層した熱電変換モジュールを提案している(特許文献2)。
【0005】
特許文献2に開示されるように、PEDOT/PSSを用いた熱電変換モジュールでは、n型として作用するあるいは電気的接合用材料として用いる金属材料が必須である。しかし、金属は熱伝導率が大きいため、金属材料を用いるとモジュール全体で利用できる温度差が小さくなってしまう傾向がある。熱電変換によって得られる電力は温度差の2乗に比例するため、実用化の上では、同じ熱源(同じ温度)でどれだけ温度差を大きくとれるかが課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5967676号公報
【文献】特開2018-10981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、p型の導電性高分子材料を用いた、モジュールの両端間の温度差が大きく取れて熱電出力が大きく、コンパクトな熱電変換モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様では、矩形表面を有しp型の熱電特性を有する導電性高分子層と、I型表面を有する金属層が交互に隙間なく積層され、導電性高分子層の両面に絶縁層と電極層が接合しており、電極層が、導電性高分子層の矩形表面の第1端部と、裏面の第1端部とは反対側の第2端部とに位置し、導電性高分子層と金属層とが前記電極層を介して電気的接続する、熱電変換モジュールを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱電変換モジュールによれば、強制冷却を用いず自然空冷で大きな温度差が生じ大きな電力を発生できる熱電変換モジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の熱電変換モジュールの構成を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態の熱電変換モジュールの金属層の構成と熱流及び電流の流れを示す図である。
図3】本発明の一実施形態の熱電変換モジュールのパラメータaとbと各特性との関係を示す図である。
図4】本発明の一実施例の熱電変換モジュールに関するシミュレーション模式図を示す図である。
図5図4のシミュレーション(計算)結果を示す図である。
図6】本発明の一実施例の熱電変換モジュールのパラメータaとbの設計例を示す図である。
図7】本発明の一実施例の熱電変換モジュールの金属層(Ni)の形状と熱伝導率、熱抵抗の関係を示す図である。
図8】本発明の一実施例の熱電変換モジュールの熱電出力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態の熱電変換モジュール100の構成を示す断面図である。(a)に示すように、熱電変換モジュール100は、導電性高分子層1と金属層2が交互に積層された構造を備える。その際に、モジュールの両端に導電性高分子層1が配置するように構成される。なお、モジュールの両端は、導電性高分子層以外の絶縁層(一端部は電極層)または金属層でもよい。外部に電流を取り出せることが必要なので、全体の熱抵抗を高める上では導電性高分子または絶縁層(一端部は電極層)が好ましい。導電性高分子層1は矩形表面を有しp型の熱電特性を有する材料からなる。金属層2は電気的接続用の金属からなる。したがって、本発明の一実施形態の熱電変換モジュールは、p型の熱電材料(導電性高分子層)と電気的接続材料(金属層)が交互に積層された構成を有する。
【0012】
導電性高分子層1は、例えばPEDOT/PSS膜からなる。PEDOT/PSSは、poly(3,4-ethylenedioxythiophen)(PEDOT)とpoly(styrenesulfonate)(PSS)とから構成される電荷移動複合体(charge transfer complex)である。PEDOT/PSSは、p型の熱電特性を有する。PEDOT/PSSでは、ドーパントとして働くPSSからキャリアがPEDOTに供給され、これによりPEDOTに良好な導電性が生じる。また、エチレングリコール(EG)をPEDOT/PSS膜の製膜時に添加する事により結晶方向がそろい製膜後のPEDOT/PSS膜の電気伝導度を向上させることができる。
【0013】
金属層2は、例えばニッケル(Ni)膜からなる。一般的な金属は、熱電特性的にn型であるため、金属層2はモジュール構成上電気的接続のみでなくn型としての熱電特性が大きい金属が望ましい。Niはn型の熱電特性を有し、20mV/Kのゼーベック係数を有する。ただし、詳細は後述するように、Ni膜とPEDOT/PSS膜との接触抵抗が大きいので、本発明では以下に述べる電極層を用いる。
【0014】
図1(b)は(a)の楕円で囲まれた領域、すなわち2つの導電性高分子層1の間の金属層2を含む構成の詳細を示す。金属層2の両面に絶縁層3と電極層4、5が接合している。電極層4が、金属層2の表面の一方の端部に位置し、電極層5は裏面の一方の端部とは反対側の他方の端部に位置する。絶縁層3としては、例えば絶縁性高分子を用いることができる。絶縁性高分子としては、例えば絶縁性ポリイミドフィルムを用いることができる。電極層4、5としては、Au、Pt、Ag、C、またはCuを用いることができる。より好ましくは、接触抵抗が低く酸化しにくい金属であるAuまたはPtを電極層4、5として用いることができる。
【0015】
なお、図1(b)では絶縁層3及び電極層4、5と導電性高分子層1との間にスペースがあるが、これは構成をわかりやすく見せるために空けたものであり、実際には絶縁層3及び電極層4、5は隣り合う導電性高分子層1にも接合している。したがって、(b)の2つの導電性高分子層1の内側の表面から観ると、電極層4が一方の導電性高分子層1の表面の一方の端部に位置し、電極層5は他方の導電性高分子層1の表面の一方の端部とは反対側の他方の端部に位置する。その結果、導電性高分子層1と金属層2は電極層4、5を介して電気的に直列接続することになる。
【0016】
図1(c)は(b)の構成(積層構造)が複数接合された状態(多段)の熱電変換モジュール100が熱電変換により発電する様子を示すイメージ図である。熱電変換モジュールの下側に熱源があって加熱されており、ゼーベック効果によりモジュール内で発生する電流が矢印6で示すように順次流れて外部回路へ出力されると共に、その上側から放熱する。モジュールの上側は特に冷却されず自然放熱する。モジュール内では、導電性高分子層1内で発生し上側へ流れる電流が、接合する電極層4を介して隣の金属層2へ流れ込む。電流は金属層2内を下側へ向けて流れ、接合する電極層5を介して隣の導電性高分子層1へ流れ込む。以下、同様な電流の流れ6が繰り返される。
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施形態の熱電変換モジュールにおいて、導電性高分子層1と金属層2を直接接合して電気的な直列接続、言い換えれば両者間の電流経路を形成せずに、両者に接合する電極層4、5を介して両者間の電流経路を形成するのは、導電性高分子層1にPEDOT/PSSを用い、金属層2にNiを用いた場合のように、導電性高分子層1と内側金属層2との接合界面における接触抵抗が大きい場合を想定しているからである。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態の熱電モジュ変換モジュールの金属層2の構成と熱流及び電流の流れを示す図である。(a)は、金属層2の平面、すなわち図1の横方向から見た平面での構成を示す。金属層2はI型形状を有する。そのI型形状は、上下の2つの離間したa×Lのサイズの第1矩形部2-1と、2つの第1矩形部に接続する幅bと長さ(L-2a)を有する第2矩形部2-2を含む。I型形状にするのは、金属層2は最も熱伝導が良いため、導電性高分子層1との接触電気抵抗を低く抑えつつ、同時に上下方向での温度差を大きくするために熱伝導を低く抑えるためである。そこで、図2(a)に示すように、電気的接触のための第1矩形部2-1は幅Lをそのまま長くし、それ以外の部分(長さaおよび第2矩形部2-2の幅b)は細くするI型形状を採用している。
【0019】
図2(b)は、金属層2のI型形状の寸法aとbに関する電流と熱流のシミュレーションのための模式図を示す。熱抵抗をRtで、電気抵抗をReでそれぞれ示す。簡単のために絶縁層3の寸法は省略している。金属層2(例えばNi)と導電性高分子層1(例えばPEDOT/PSS)の接触部では、aが大きいほど電気抵抗Reは小さくなり良好であるが、同時に金属の熱抵抗Rtも小さくなるため、実際の温度差(T-T)より小さい有効温度差(T-T)となってしまう。接続部以外では、導電性高分子層1の形状は変えないため、熱抵抗および電気抵抗に関しては金属層2についてのみ考慮すればよい。bが小さいほど熱抵抗Rtが大きくなり熱伝導上では良好となるが、逆に電気抵抗Reが増大してしまう。
【0020】
図3は、本発明の一実施形態の熱電変換モジュールの図2(a)のパラメータ(長さ)aとbと各特性との関係を示す図である。図3(a)において、aが小さくなると有効温度差を大きくできるが接触抵抗の増大により接触部の導電性が低下する。図3(b)において、bを小さくすると金属層2(Ni)の熱抵抗を大きくできるが電気伝導度は低下してしまう。したがって、aおよびbには、図3に示すような適切な値(極大値)が存在することになる。別言すると、aは、金属層2の2つの第1矩形部2-1の間の温度差が大きく、かつ第1矩形部2-1と電極層4、5との接触抵抗が小さくなるように設定する必要がある。bは、第2矩形部2-2を流れる熱流の熱抵抗が大きく、かつ第2矩形部2-2を流れる電流の電気抵抗が小さくなるように設定する必要がある。
【0021】
図4は、本発明の一実施例の熱電変換モジュールに関するシミュレーション模式図を示す図である。図4は、実際に作製した22×22mm×50μmの導電性高分子層1(PEDOT/PSS)と、厚さ5μmのI型の金属層2(Ni)と、厚さ7μmの絶縁層3(絶縁性ポリイミドフィルム)を用いた場合のシミュレーション模式図である。この模式図を用いた熱電材料の効率Z´を表すための式(1)を下記に示す。式(1)の熱電材料の効率Z´は、熱電材料の性能指数Z=S/(ρ・k)=A・S/(R・K)から導いた式である。
【0022】
【数1】
上記の各式中の各パラメータの意味は以下の通りである。なお、下記のΔTは、既出の有効温度差(T-T)を意味する。
S: ゼーベック係数(=ΔV/ΔT)
ρ: 電気抵抗率
k: 熱伝導率
A: 寸法因子(断面積と長さ)
R: 電気抵抗(=V/I)
K: 熱抵抗
p: p型(材料はPEDOT/PSS)
n: n型(材料はNi)
i: 絶縁層(ポリイミドフィルム)
c: 接触部(contact)
【0023】
図5は、図4のシミュレーション(計算)結果を示す図である。図5は、式(1)中の各電気抵抗(Rp等)及び各熱抵抗(Kp等)を図4の熱電変換モジュールの変数aとbを含む各寸法を用いて表し、変数aとbの関数とした上で計算し、Z´を最大にするaとbを求めた結果である。図5において、bが5mmより小さくゼロに近づく範囲でかつaが2mmから増加し4mm当たり最大の効率Z´(2.5×10-5に最も近い値)が得られることがわかる。
【0024】
図6は、本発明の一実施例の熱電変換モジュールのパラメータaとbの設計例を示す図である。aとbは互いに影響を及ぼし合うため両方を変数して計算する必要があり、図5では計算結果も3次元的に表している。よりわかりやすくするために、b=2mmと固定した時のaについて、またa=2mmに固定した時のbについての効率Z´を示したのが図6である。図6から、22mm×22mmの矩形サイズの場合、aは3~4mmにおいて、bは1~2mmにおいて最も効率Z´が大きいことがわかる。
【0025】
図7は、本発明の一実施例の熱電変換モジュールの金属層(Ni)の形状(Size)と熱伝導率(Thermal Conductivity)、熱抵抗(Thermal Resistance)の関係を示す図である。図7では、PEDOT/PSS膜のみ、矩形のNi(全面)、及び本発明のNi(I型)について記載している。Ni(I型)のSizeは、順番に厚さ(5μm)、b(2mm)、L(22mm)である。矩形(5μm×22mm×22mm)のNiでは、同じ形状のPEDOT/PSSに比べて熱抵抗が一桁小さいが(中段)、I型(5μm×2mm×22mm)にすることで、熱抵抗がPEDOT/PSSと同程度と大きくなることがわかる(下段)。
【0026】
ここで、図1の本発明の一実施形態の熱電変換モジュール100の製造方法の概要を以下に説明する。以下の方法では、導電性高分子層1としてPEDOT/PSS膜、金属層2としてI型のNi、絶縁層3として絶縁性ポリイミドフィルム、電極層4、5として金(Au)を用いた場合を例にとり説明している。
(a)所定サイズのPEDOT/PSS膜、絶縁性ポリイミドフィルム(Auサイズ分長さを短くする)、I型Ni膜をそれぞれ用意する。
(b)I型Ni膜の表裏のそれぞれの所定箇所(端部)に接触抵抗低減用のAuを塗布する(真空蒸着でもペースト等の塗布でもよい)。
(c)凹部を有する金属板と凸部を有する金属板を含む専用治具の凹部に(a)と(b)で準備した各部材を所定枚数重ねて入れる。重ねる順番は図1(a)、(b)に示す通りである。ポリイミドフィルムは、PEDOT/PSSとNiとがAuを介して接触するように互い違いに積層する。
(d)専用治具の2つの金属板を凹部に凸部が挿入するように整合させて、積層体を加熱しながら加圧する(60~120℃、80~150kgf、30~180分程度)。
(e)専用治具の2つの金属板を離間して凹部から積層体を取り出す。
【実施例
【0027】
上述した製造方法を用いて実際に熱電変換モジュールを作製した。作製したモジュール本体は、22mm×22mm×約5mmの大きさで、重さは約3gである。図8にその熱電変換モジュールの熱電出力を示す図である。AがNi矩形のまま、BがI型Ni幅b=5mm、CがI型Ni幅b=2mmの場合の結果である。幅bを2mmにすることで、同じ熱源でも出力が増大することと、同じ出力を得るには熱源温度がより低くできることがわかる。さらに、矩形のAでは低温側を強制冷却して温度差を作っているが、I型のBとCでは、低温側はフリーであり、自然放熱である。すなわち、実際の効率は、この図以上にその差は大きい。実際に使用することを考えた場合、特別な冷却方法を必要としない本発明の方式が大きなアドバンテージを有している。
【0028】
なお、Cのb=2mm幅のモジュールでは、70度の温度差で92μW/cmの出力密度であった。Bluetooth(登録商標)信号用電源に必要な出力は、おおよそ100μWである。この本発明のモジュールを用いれば、約1cmの面積の熱源(温度差70度以上)でBluetoothを用いることが可能であることがわかる。また、Niが矩形のままでは、強制冷却した場合でも最大温度差が50度で頭打ちとなった。本発明のモジュールが、より実用化しやすいモジュールであることがわかる。単純比較すると、矩形Ni使用のモジュールで得られる最大温度差50度での出力密度が約20μW/cmであるのに対し、本発明の幅b=2mmのI型Ni使用のモジュールでの出力密度は約40μW/cmである。同じ温度差で本発明のモジュールでは約2倍の出力が得られることがわかる。
【0029】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明をした。しかし、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。さらに、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変形を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の熱電変換モジュールは、小型、軽量、低コストで製造可能であるため、Bluetooth信号用電源、自動車等の移動体に用いる各種センサー用電源、あるいは人や動物の健康モニターや位置情報発信機用電源等、各種IoT用電源として利用が可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 導電性高分子層(PEDOT/PSS膜)
2 金属層(Ni)
2-1 金属層の第1矩形部
2-2 金属層の第2矩形部
3 絶縁層(絶縁性ポリイミドフィルム)
4、5 電極層(Au)
6 電流経路
100 熱電変換モジュール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8