(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】位相イメージング装置、位相イメージング方法
(51)【国際特許分類】
G03H 1/04 20060101AFI20240208BHJP
G03H 1/12 20060101ALI20240208BHJP
G03H 1/16 20060101ALI20240208BHJP
G01J 9/00 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
G03H1/04
G03H1/12
G03H1/16
G01J9/00
(21)【出願番号】P 2020032168
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、研究タイプ「個人型研究(さきがけ)」、研究領域「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」、研究題目「超高感度ラベルフリーイメージング法の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】井手口 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】戸田 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】玉光 未侑
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104567659(CN,A)
【文献】特開2018-008040(JP,A)
【文献】特開2015-118290(JP,A)
【文献】国際公開第2018/070451(WO,A1)
【文献】DUBOIS D , et al.,Dark-field digital holographic microscopy to investigate objects that are nanosized or smaller than,OPTICS LETTERS,2008年11月10日,Vol. 33, No. 22,pp.2605-2607,https://doi.org/10.1364/OL.33.002605
【文献】TODA K , et al.,Adaptive dynamic range shift (ADRIFT) quantitative phase imaging,Light: Science & Applications,2021年01月01日,Vol.10, No.1,pp.1-10,https://doi.org/10.1038/s41377-020-00435-z
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 9/00 - G01J 9/04
G03H 1/04
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01B 9/00 - G01B 9/10
G01B 11/00 - G01B 11/30
G02B 19/00 - G02B 21/00
G02B 21/06 - G02B 21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの置かれるサンプル面に対して共役な面に設けられ、前記サンプルに照射する照明光または前記サンプルを透過または反射した物体光を空間的に変調可能な空間光変調器と、
前記空間光変調器の影響を受けた第1物体光に含まれる非散乱光成分を除去し、第2物体光を生成する暗視野光学系と、
前記第2物体光に関するホログラムを記録するイメージセンサと、
前記空間光変調器に与えた変調パターンにもとづく複素振幅情報と、前記第2物体光に関するホログラムにもとづく複素振幅情報とを合成し、前記サンプルに由来する位相分布を取得する演算処理装置と、
を備え、
前記空間光変調器は、前記サンプルの位相分布がキャンセルされるように、位相変調を行うことを特徴とする位相イメージング装置。
【請求項2】
前記変調パターンは、前記暗視野光学系を無効とし、前記空間光変調器にフラットなパターンを与えた状態で前記イメージセンサが記録する第3物体光に関するホログラムにもとづいて生成されることを特徴とする請求項1に記載の位相イメージング装置。
【請求項3】
前記変調パターンは、前記暗視野光学系を有効とした状態で、前記イメージセンサに入射する光の強度が最小化されるように最適化されることを特徴とする請求項1に記載の位相イメージング装置。
【請求項4】
前記変調パターンは、前記第2物体光の非散乱光成分が最大となるように最適化されることを特徴とする請求項1に記載の位相イメージング装置。
【請求項5】
前記暗視野光学系は、集光光学系と、前記集光光学系のフーリエ面に設けられたマスクと、を含むことを特徴とする請求項1に記載の位相イメージング装置。
【請求項6】
前記イメージセンサに形成される前記物体光と参照光の干渉縞を測定するデジタルホログラフィー装置であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の位相イメージング装置。
【請求項7】
前記イメージセンサの位置をシフトするインライン型のデジタルホログラフィー装置であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の位相イメージング装置。
【請求項8】
前記位相イメージング装置は、パターニングした照明光を、照射角を替えながら照射する光回折トモグラフィーまたは合成瞳関数イメージング装置であり、
前記空間光変調器は、前記照明光のパターニングデバイスと兼用されることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の位相イメージング装置。
【請求項9】
前記暗視野光学系は、集光光学系と、前記集光光学系の焦点面に設けられたDMD(Digital Micromirror Device)または可動マスクと、を含むことを特徴とする請求項8に記載の位相イメージング装置。
【請求項10】
サンプルの置かれるサンプル面に対して共役な面に設けられ、前記サンプルに起因する位相遅れをキャンセルする第1空間光変調器と、
前記サンプルに由来する位相情報を含む物体光の非散乱光成分の強度を減衰させ、かつ前記非散乱光成分の位相をシフトさせる第2空間光変調器と、
前記物体光に関するホログラムを記録するイメージセンサと、
前記
第1空間光変調器に与えた変調パターンにもとづく複素振幅情報と、前記物体光に関するホログラムにもとづく複素振幅情報とを合成し、前記サンプルに由来する位相分布を取得する演算処理装置と、
を備えることを特徴とするSLIM(Spatial Light Interference Microscopy)型の位相イメージング装置。
【請求項11】
サンプルが置かれるサンプル面と共役な面に、前記サンプルに照射する照明光または前記サンプル由来の位相情報を含む物体光を空間的に
位相変調可能な空間光変調器を挿入するステップと、
前記物体光の非散乱光成分を除去するステップと、
前記物体光にもとづくホログラムを記録するイメージセンサと、
前記空間光変調器に所定の変調パターンを与えた状態で、イメージセンサにより、前記物体光にもとづくホログラムを記録するステップと、
前記所定の変調パターンにもとづく複素振幅情報と、前記イメージセンサが記録した前記ホログラムにもとづく複素振幅情報を合成し、前記位相情報を取得するステップと、
を備
え、
前記所定の変調パターンは、前記サンプルの位相分布がキャンセルされるように定められることを特徴とする位相イメージング方法。
【請求項12】
前記所定の変調パターンは、前記空間光変調器にフラットなパターンを与え、前記非散乱光成分を除去しない状態で得られる前記ホログラムにもとづいて生成されることを特徴とする請求項11に記載の位相イメージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相イメージングに関する。
【背景技術】
【0002】
透明物体を高コントラストで可視化するために、位相イメージング(Phase Imaging)が用いられる。その中でも定量位相イメージング(QPI:Quantitative Phase Imaging)は、従来の位相差、暗視野、微分干渉顕微鏡とは異なり、物体によって変調された光の複素振幅分布を取得できる(非特許文献1)。QPIは、その定量性を生かして、細胞内の乾燥質量密度を調べたり、半導体ウェハの欠陥を調べるために利用されている。
【0003】
QPIにおいて、広いダイナミックレンジは非常に重要である。たとえばレーザ加工のように破壊されてしまうサンプルや、フローサイトメトリーのような動く物体を観測したい場合、細胞内の細胞内ダイナミクスによる微小な変化などを観察したい場合には、シングルショットかつ積算なしでSN比の高いイメージを取得する必要がある。デジタルホログラフィー(DH:Digital Holography)は、シングルショットQPIの代表的な手法である。現行のデジタルホログラフィー技術では、干渉計を安定させることでショットノイズ限界での計測ができるようになっており、ピクセル飽和電荷量~10000e-1程度の通常のCMOSイメージセンサで、位相10mrad程度の検出感度が実現できている。
【0004】
デジタルホログラフィー技術を用いたQPIについて説明する。
図1は、デジタルホログラフィーを説明する図である。位相物体であるサンプル2に対して、平面波の照明光S
ILLを照射する。照明光S
ILLは、サンプル2を透過(あるいは反射)する際に、その内部の屈折率分布の奥行き方向の積分(あるいは凹凸)にもとづいて空間的に位相変調され、その波面が変化し、位相情報を含む物体光S
OBJが生成される。物体光S
OBJと平面波の参照光S
REFが形成する干渉縞の強度分布を、ホログラムとしてイメージセンサ4が記録する。ホログラムを演算処理することにより、物体光S
OBJの位相分布が再構成される。この位相分布は、サンプル2により生ずる定量的な位相変化の分布を表す。
【0005】
現在、QPIの検出感度はショットノイズによって制限される。弱位相物体では、サンプル情報を含む散乱光成分(1次回折光)の強度が、サンプル情報を含まない非散乱光成分(0次回折光)に対して非常に小さくなるため、現行の技術では、非散乱光成分のショットノイズが原因でダイナミックレンジが制限される。この問題を解決するためには、サンプル由来の情報を含む散乱光成分を、1フレームあたり、より多くイメージセンサに取り込むことが重要である。
【0006】
非散乱光成分を弱めるために、暗視野デジタルホログラフィーが提案されている(非特許文献2)。なお、この手法を公知技術と認定してはならない。
図2(a)、(b)は、暗視野イメージングの手法を取り入れたデジタルホログラフィーを説明する図である。
【0007】
図2(a)には、暗視野(DF)イメージングとデジタルホログラフィーの組み合わせ(DFDHという)が示される。物体光S
OBJは、反射型対物レンズのような暗視野光学系6によって、位相変化を受けていない平面波の成分(バックグラウンド光)である非散乱光成分(0次回折光)と、サンプル情報を含む散乱光成分(1次回折光)とに分離され、非散乱光成分は遮蔽され、サンプル情報を含む散乱光成分S
OBJ’のみがイメージセンサに入射し、参照光S
REFと干渉縞を形成する。
【0008】
このようにDFDHの手法によれば、非散乱光成分に対する散乱光成分の強度比を高めることができる。したがってサンプル2に照射する照明光の光量を増やすことで、サンプル由来の位相情報を、1フレーム当たり、より多くイメージセンサに取り込むことが可能となる。
図2(b)は、
図2(a)と同じ光学系で、照明光S
ILLの強さを増やした様子を示す。
【0009】
図3(a)は、
図2の技術によるダイナミックレンジのシフトを示す図である。
図3(a)の左は、サンプル由来の位相変化の分布(1次元)を示しており、通常のデジタルホログラフィーで検出可能なレベルより小さい位相成分を含んでいる。DFDHによれば、
図3(a)の右に示すように、小さい位相成分を拡大して測定することができる。たとえば、視野内の最大位相が0.1radであった場合、
図2の技術では、ダイナミックレンジの上限を0.1radにシフトすることができ、単一計測で、微小位相イメージングが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】E. Cuche et. al, "Digital holography for quantitative phase-contrast imaging", Optics Letters 24(5), 291-293 (1999)
【文献】F. Verpillat et. al, "Dark-field digital holographic microscopy for 3D-tracking of gold nanoparticles", Optics Express 19(27), 26044-26055 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3(b)は、サンプル由来の位相変化の分布の別の例を示す図である。このサンプルは、視野内の部分Aに、弱位相ではない物体を含んでいる。DFDHの手法では、部分Aに対応するイメージセンサの画素が飽和するため、サンプルに照射する照明光S
ILLを増やすことができず、ダイナミックレンジをシフトすることができない。
【0012】
つまりDFDHによる非散乱光成分の強度操作は、たとえばカバーガラス状の微小粒子を可視化する場合など、ほとんどが人工的に作成したサンプルを観測する限られたアプリケーションに対してのみ有効である。また、非散乱光成分を弱めて、定量位相イメージングする手法は確立されていない。
【0013】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、ダイナミックレンジを拡大したイメージング装置およびイメージング方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施の形態に係るイメージング装置/方法では、光路内に空間光変調器が挿入される。そして、この空間光変調器に与える変調パターンを最適化することにより、物体光の大きな位相成分をキャンセルする。そして、強い照明を用いて微小な位相シフトの分布のみを、より高い感度で測定する。そして、微小な位相シフトの分布と、キャンセルした大きな位相分布を合成することにより、広いダイナミックレンジの位相画像を生成する。
【0015】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、定量位相イメージングのダイナミックレンジを拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】デジタルホログラフィーを説明する図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、暗視野イメージングの手法を取り入れたデジタルホログラフィーを説明する図である。
【
図3】
図3(a)は、
図2の技術によるダイナミックレンジのシフトを示す図であり、
図3(b)は、サンプル由来の位相変化分布の別の例を示す図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、実施の形態に係る定量位相イメージング装置を示す図である。
【
図5】実施の形態に係る定量位相イメージング装置の処理を説明する図である。
【
図6】実施例1に係る位相イメージング装置を示す図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、実験結果を示す図である。
【
図8】
図8(a)~(d)は、実験結果を示す図である。
【
図9】
図9(a)~(c)は、実験結果を示す図である。
【
図10】実施例2に係る位相イメージング装置を示す図である。
【
図11】実施例3に係る位相イメージング装置を示す図である。
【
図12】実施例4に係る位相イメージング装置を示す図である。
【
図13】実施例5に係る位相イメージング装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態の概要)
一実施の形態に係る位相イメージング装置は、空間光変調器、暗視野光学系、イメージセンサ、演算処理装置を備える。空間光変調器は、サンプル面に対して共役な面に設けられ、サンプルに照射する照明光またはサンプルを透過または反射した物体光を空間的に変調可能に構成される。暗視野光学系は、空間光変調器の影響を受けた第1物体光に含まれる非散乱光成分を除去し、第2物体光を生成する。イメージセンサは、第2物体光に関するホログラムを記録する。演算処理装置は、空間光変調器に与えた変調パターンにもとづく複素振幅情報と、第2物体光に関するホログラムにもとづく複素振幅情報とを合成し、サンプルの位相情報を再構成(reconstruct)する。
【0019】
この構成によれば、変調パターンを最適化することで、サンプル由来の位相変化を粗い精度でキャンセルすることができる(位相キャンセル、PC:Phase Canceling)。位相キャンセルした状態では、小さな位相成分のみが残留しているため、位相キャンセルしない状態に比べて、後続の暗視野測定において、強い照明光を照射することが可能となる。このときに得られたホログラムからは、残留した微小な位相の空間分布を計算することができる。また、位相キャンセルによってキャンセルした大きな位相の空間分布は、変調パターンから計算することができる。最終的に、2つの位相成分を合成することにより、サンプル由来の定量的な位相変化の分布を得ることができる。この装置によれば、広いダイナミックレンジと高感度を両立できる。なお、「非散乱光成分を除去する」ことは、完全に除去する場合のみでなく、減衰させる場合も含む。
【0020】
イメージセンサは、暗視野光学系を無効とし、空間光変調器にフラットなパターンを与えた状態で得られる第3物体光に関するホログラムを記録してもよい。変調パターンは、第3物体光に関するホログラムにもとづいて生成されてもよい。
【0021】
変調パターンは、暗視野光学系を有効とした状態で、イメージセンサに入射する光の強度が最小化されるように最適化されてもよい。
【0022】
変調パターンは、第1物体光の非散乱光成分が最大となるように最適化されてもよい。
【0023】
暗視野光学系は、集光光学系と、集光光学系のフーリエ面に設けられたマスクと、を含んでもよい。サンプルによる位相変調を受けない成分である非散乱光成分は、平面波であるから、集光光学系により焦点に集光される。したがって焦点の光を除去することで、非散乱光成分を除去できる。
【0024】
位相イメージング装置は、単発測定可能な位相イメージング技術であってもよい。たとえば、イメージセンサに形成される物体光と参照光の干渉縞を測定するオフアクシズ型のデジタルホログラフィーや、回折イメージングが含まれる。
【0025】
位相イメージング装置は、位相シフト法を用いた位相イメージング技術であってもよい。たとえば、イメージセンサへ同軸で入射する物体光と参照光によって形成される干渉縞を、参照光の位相をシフトさせながら記録する位相シフト型のデジタルホログラフィー装置であってもよい。または、SLIM(Spatial Light Interference Microscopy)型の自己参照型位相シフト法であってもよい。SLIMを用いる場合は、サンプル面に対して共役な面に設けられ、サンプルによる位相遅れをキャンセルすることができる第1空間光変調器と、サンプルの位相情報を含む物体光の非散乱光の強度を減衰し且つ位相をシフトさせる第2空間光変調器と、物体光にもとづくホログラムを記録するイメージセンサと、空間光変調器に与えた変調パターンにもとづく複素振幅情報と、イメージセンサが記録したホログラムにもとづく複素振幅情報を合成し、サンプルの位相情報を取得する演算処理装置と、を備える。なお、この場合は、DFの様に非散乱光を遮蔽するのではなく、減衰するような実装となる。
【0026】
位相イメージングは、位相回復法を用いた位相イメージング技術であってもよい。たとえば、イメージセンサ上での対象の焦点位置や対象への照明光の角度を掃引し、各条件下での回折強度パターンを取得後、電磁波面の位相を回復するような装置であってもよい。
【0027】
位相イメージング装置は、上述の位相イメージング技術にもとづく光回折トモグラフィーまたは合成瞳関数イメージング装置であってもよい。たとえば、パターニングした照明光を、照射角を替えながら照射する機構に基づいた、光回折トモグラフィーあるいは合成瞳関数イメージング装置であってもよい。空間光変調器は、照明光のパターニングデバイスと兼用されてもよい。暗視野光学系は、レンズと、レンズの焦点面に設けられたDMD(Digital Micromirror Device)または可動マスクと、を含んでもよい。光回折トモグラフィーあるいは合成瞳関数イメージング装置では、照明光の照射角に応じて、非散乱光の焦点位置がシフトするため、それに追従して、遮光位置をシフトさせることができる。
【0028】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0029】
(原理)
図4(a)~(c)および
図5を参照して、実施の形態に係る定量位相イメージングの原理を説明する。
図4(a)~(c)は、実施の形態に係る定量位相イメージング装置を示す図である。
図5は、実施の形態に係る定量位相イメージング装置の処理を説明する図である。
【0030】
図4(a)~(c)に示すように、定量位相イメージング装置は、主として、イメージセンサ4、暗視野光学系6、空間光変調器8および図示しない演算処理装置(コンピュータ)を備える。空間光変調器8は、物体光の光路内に挿入されている。また暗視野光学系6は、空間光変調器8の影響を受けた物体光S
OBJの非散乱光成分を除去可能に構成される。
【0031】
このイメージングでは、2回の測定が行われる。1回目は、
図4(a)に示す通常のデジタルホログラフィーによる測定であり、これにより、物体光S
OBJの位相分布が、粗い精度で測定される。2回目は、
図4(c)に示す位相キャンセルを伴う強い照明光を利用したDFDHである。
【0032】
図4(a)は、1回目の通常のデジタルホログラフィー(DH)の撮影を示す図である。この工程では、空間光変調器8には均一なパターンが与えられており、その動作が無効化される。また暗視野光学系6も非散乱光成分が透過できるように無効化されている。
【0033】
サンプル2に、コヒーレントな照明光S
ILLが照射される。照明光S
ILLが、サンプル2を透過(もしくは反射)すると、サンプル2由来の位相変化の分布を含む物体光S
OBJ0が生成される。物体光S
OBJ0と平面波の参照光(不図示)が、イメージセンサ4上に干渉縞を形成する。この干渉縞の強度分布は、ホログラムとしてイメージセンサ4により記録される。ホログラムを演算処理することにより、
図5に示すサンプル2由来の定量的な位相変化の分布Bが再構成される。この位相分布Bは、微小な位相成分がノイズに埋もれており、サンプル2の粗い位相変化の分布を示している。
【0034】
図4(b)に示すように、1回目の測定で得られた位相分布Bがキャンセルされるように、空間光変調器8に変調パターンPTNを与える。この変調パターンPTNは、位相分布Bの位相の進み/遅れを反転して得ることができる。この測定を、PC-DFDH(Phase Canceling-Dark Field Digital Holography)測定と表記する。
図5には、空間光変調器8により与えられる位相分布B’が示される。位相分布B’は、空間光変調器8の階調により離散化され、位相分布Bを量子化したものと把握できる。
【0035】
空間光変調器8による位相キャンセルを受けた物体光(第1物体光あるいは位相キャンセル物体光ともいう)SOBJ1は、平面波に近づいており、非散乱光成分の成分が支配的となる。この物体光SOBJ1が、暗視野光学系6に入射すると、非散乱光成分が除去され、散乱光成分を支配的に含む物体光(第2物体光あるいは微小位相物体光ともいう)SOBJ2がイメージセンサ4に入射する。この第2物体光SOBJ2にもとづくホログラムは、サンプル由来の本来の位相分布Aから空間光変調器8が与えた位相分布B’を減じた位相分布A-B’を表すが、このときの散乱光成分の強度は弱いため、イメージセンサ4では有意な干渉縞を測定することはできない。
【0036】
そこで、2回目の測定では、
図4(c)に示すように、照明光S
ILLの強度を高めて、PC-DFDH測定が行われる。これにより、イメージセンサ4に入射する第2物体光S
OBJ2’の散乱光成分の振幅が大きくなるため、イメージセンサ4によって干渉縞(ホログラム)を測定することが可能となり、微小な位相分布A-B’を得ることができる。
【0037】
2回目の測定で得られたホログラムにもとづく位相分布A-B’は、サンプル2に由来する位相分布Aのうち、キャンセルされずに残った微細な位相成分の分布となる。
図5に示すように、空間光変調器8が導入する位相分布B’と、2回目の測定で得られた位相分布A-B’を合成することにより、サンプル2に由来する正しい位相分布Aを得ることができる。
【0038】
この手法によれば、ダイナミックレンジを広げるとともに、それに含まれる微小な位相変化を検出することが可能となる。
【0039】
上の説明では、空間光変調器8として位相空間光変調器(Phase only SLM)を用いてサンプル由来の位相をキャンセルしたが、振幅変調が可能な空間光変調器を追加してもよい。実際に様々なサンプルを計測すると、回折やサンプルの光吸収の影響で光波面の位相のみならず振幅も変調を受ける場合が存在する。そのような場合は、位相だけキャンセルしても波面が平面波に戻らず、暗視野でのダイナミックレンジシフトを十分達成できない場合がある。そこで振幅変調可能なSLMを追加で実装することで、この問題を解決できる。位相空間光変調器と振幅空間光変調器は一体構成されたもの(複素振幅変調器)を用いてもよい。
【0040】
上の説明では、位相キャンセルのための変調パターンPTNを生成するために、通常のDH測定(
図4(a))を行い、演算により変調パターンPTN(B’)を取得したがその限りでない。
【0041】
変調パターンPTNを生成するための1回目の測定は、
図4(b)に示すように、暗視野光学系6を有効とした状態で行い、イメージセンサ4に入射する光の強度が最小化されるように、変調パターンPTNを最適化してもよい。別の観点から見ると、変調パターンPTNは、第1物体光S
OBJ1の非散乱光成分が最大となるように最適化してもよい。
【0042】
またサンプル2が工業製品のような場合、すなわち、サンプル2に由来する物体光の位相分布が既知である場合には、変調パターンPTNを生成するための1回目の測定は省略することができる。
【0043】
本発明は、上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。すなわち位相イメージング装置は、公知のさまざまなデジタルホログラフィー装置のアーキテクチャを用いて構成することができる。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0044】
(実施例1)
図6は、実施例1に係る位相イメージング装置100Aを示す図である。この位相イメージング装置100Aは、軸外し(Off-axis)型のデジタルホログラフィー装置であり、光源102、イメージセンサ104、暗視野光学系106、空間光変調器108、演算処理装置110、ビームスプリッタBS1~BS3、ミラーM1、レンズL1,L2を備える。
【0045】
光源102の出射光は、ビームスプリッタBS1によって、参照光SREFと照明光SILLに分けられる。参照光SREFは、ミラーM1およびビームスプリッタBS3を経由して、イメージセンサ104に入射する。
【0046】
照明光SILLは、サンプル2に照射される。サンプル2とビームスプリッタBS1の間には、可変ND(Neutral Density)フィルタ109を挿入することができる。この可変NDフィルタ109によって、照明光SILLの強度を調節することができる。
【0047】
サンプル2を通過した物体光SOBJは、対物レンズL1およびレンズL2を通過する。空間光変調器108は、波面整形(位相キャンセリング)のために設けられた位相空間光変調器(Phase only SLM)であり、サンプル2と共役な面に挿入され、物体光SOBJを変調パターンPTNにもとづいて空間的に変調可能に構成される。変調された物体光SOBJ_PCは、暗視野光学系106に入射する。空間光変調器108は、透過型であると反射型であるとを問わない。
【0048】
暗視野光学系106の構成は特に限定されないが、たとえば集光光学系およびマスクを含みうる。この例では集光光学系はレンズL3,L4およびマスク107を含んでおり、マスク107は、レンズL3のフーリエ面に設けられる。レンズL3によって、平面波である非散乱光成分は集光され、マスク107によって除去され、残りの散乱光成分は暗視野光学系106を通過する。マスク107は光軸と垂直方向に移動可能であり、光軸から外すことで、暗視野光学系106を無効化することができる。なお、集光光学系としては、凹面ミラーなどを用いることができる。
【0049】
暗視野光学系106を通過した第2物体光SOBJ2は、ビームスプリッタBS3によって反射し、イメージセンサ104に導かれる。イメージセンサ104に対する第2物体光SOBJ2の入射角と、参照光SREFの入射角は、わずかにずれている。
【0050】
1回目は、マスク107が光軸から外され、通常のDHセットアップで測定が行われる。2回目は、マスク107が光軸に配置され、DFDHセットアップとされる。このとき可変NDフィルタ109の透過率を大きくして、照明光SILLの強度を高める。
【0051】
1回目の測定では、イメージセンサ104は、撮像面に形成される物体光SOBJと参照光SREFの干渉縞の強度分布を、ホログラムとして記録する。
【0052】
演算処理装置110は、空間光変調器108に与えた変調パターンPTNにもとづく複素振幅情報と、イメージセンサ104が記録したホログラムにもとづく複素振幅情報を合成し、サンプル2の位相情報を取得する。
【0053】
この構成では、参照光SREFを、イメージセンサ104に入射しているため、DFDH測定のみでなく、暗視野型のイメージング法においてヘテロダイン検出が可能となっている。これにより、位相キャンセル後において、検出器(イメージセンサ104)に入射する光が減少しても、検出器のノイズリミットを避けることができ従来の暗視野イメージングに比べて、位相の検出感度を高めることができる。
【0054】
また十分な参照光をイメージセンサ104に入射することで、ショットノイズ限界での測定が可能となる。物体光と参照光の干渉は、原理的に干渉散乱顕微鏡(iSCAT:Interferometric scattering microscopy)と同様に測定でき、この手法は、ナノスケールのダイナミクスを、高感度で可視化することができる。
【0055】
遅く移動する大きな位相構造を有するサンプルでは、空間光変調器108に与える位相(変調パターン)は、毎回、更新する必要がなく、しばらくの間、同じ変調パターンを使用することができる。
【0056】
(位相検出感度について)
実施の形態に係る位相イメージング装置100における位相検出感度について説明する。ここではレイリー散乱を考慮すべき状況は無視する。ただし、実施の形態に係るイメージング装置/方法は、レイリー散乱の影響が及ぶような用途にも有用である。
【0057】
均一な振幅分布の照明光を仮定し、それをU0とする。サンプルにより引き起こされる位相遅延マップをθmn(m∈[0,M-1],n∈[0,N-1])と表記するとき、イメージセンサにおける複素振幅は、U0eiθmnと表される。M,Nは、イメージセンサの水平方向、垂直方向のピクセル数に相当する。
【0058】
DFイメージングにおいて、イメージセンサ104における強度は、|U
0(e
iθmn-1)|
2と表される。位相キャンセルにより、視野(FOV)内の最大位相がθ
max≪1となっているとき、最大DF強度は式(1)で表される。
【数1】
【0059】
また、2回目の測定(PC-DFDH測定)では、サンプルに照射する照明光SILL’の強度を、通常のDH測定で用いる照明光SILLの強度の1/θmax
2倍まで増やすことができる。なぜなら、サンプルアームから供給されるDH強度は、|U0eiθmn|=U0
2であるからである。
【0060】
PC-DFDH測定とDH測定の位相検出感度を比較する。軸ずらし干渉法では、2つのアームの振幅が同一であるときに、最高の検出感度を得ることができる。イメージセンサにおけるDH強度I
mn
DH、PC-DFDH強度をI
mn
PC-DFDHはそれぞれ、式(2)、(3)で表される。
【数2】
【数3】
【0061】
ここでU0は参照光の複素振幅であり、軸ずらし光学系に起因して追加される位相項は、kMm+kNnである。
【0062】
式(2)において、DH測定に比べてα倍(1≦1/θ
max
2)強い光の照射を仮定する。このとき、PC-DFDH測定における位相検出感度δθ
PC-DFDH
mnと、DH測定における位相検出感度δθ
DH
mnの関係は、式(4)で表される。ここでθ
mn/θ
max≒0と近似している。
【数4】
【0063】
PC-DFDH測定では、位相検出感度は、2つの要因によって増加する。ひとつは、DF測定を導入したことによるイメージセンサにおける強度の低下であり、これにより、ショットノイズが減少し、θmn/θmax≒0の場合、感度は√2倍程度改善される。もうひとつは、ダイナミックレンジのシフトであり、これにより検出感度は、√α倍、改善される。なぜなら、ショットノイズはDH測定に比べて、√α倍小さくなるからである。
【0064】
(実験結果)
位相イメージング装置100Aに関する実験結果を説明する。なお、この実験は、暗視野手法を取り入れた定量位相イメージングを初めて実証したものである。サンプルとして、5μmのシリカマイクロビーズを用いた。
【0065】
はじめに、位相キャンセルの効果を検証した。
図7(a)~(c)は、実験結果を示す図である。
図7(a)は、DH測定で得られる位相画像を、
図7(b)は、DF測定で得られる強度画像を示す図である。
図7(c)は、サンプルアームのDH強度である。上段は位相キャンセル前、下段は位相キャンセル後の画像を示す。なお、
図7(b)、(c)では参照光は入れていない。
【0066】
シリカビーズは、1radを超える大きな位相シフトを有し、弱位相物体とはいえないため、シリカビーズが存在する箇所において、
図7(b)の上図と、
図7(c)とでは、強度はそれほど変わらない。つまり、DF測定を行ったとしても、サンプルに照射する光を増やすことはできない。
【0067】
これに対して、位相キャンセルを行うと、マイクロビーズ由来の位相分布をキャンセルすることができ、視野内の最大位相を0.1rad以下に抑えることができている。これにより、
図7(b)の下段に示すように、DF画像の強度は、1/30倍以下に小さくなっていることがわかる。したがって、照明光の強度を30倍以上に増やすことが可能である。
【0068】
続いて、位相イメージングの定量性について検討した。
図8(a)~(d)は、実験結果を示す図である。
図8(a)および(b)は、DFDH測定およびDH測定で得られる位相分布を示す。両者は良く一致していることがわかる。QPIの再構成は、DFDHで測定したサンプル由来の物体光の情報と、サンプルなしでDH手法で測定した非散乱光成分の情報を組み合わせることで実現できる。
【0069】
視野内の最大位相に応じて、イメージセンサを飽和させずに、サンプルに照射するできる光の強度が変化することを確かめた。空間光変調器108に、視野内の最大位相に相当する位相値(0.16,0.33,0.56)を有する~3μm程度の位相物体を入力し、その値によってサンプルに照射できる光量の変化を測定した。
図8(c)は、視野内の最大位相と、照明光として許容される最大強度の関係を示す図である。この結果から、サンプルに照射できる光の量は、DH測定に比べて、1/θ
max
2に増やせることがわかる。
【0070】
続いて、DFDH法の検出感度のθ
maxに対する依存性を調べた。
図8(d)は、サンプルに照射する光強度と、位相の検出感度の関係を示す図である。検出感度は、25フレームの隣接する位相イメージの差分をとり、その時間標準偏差の視野内の平均値をノイズとして計算したものである。DH法ではサンプルが存在することで、干渉縞の位置がずれるだけなので、視野内の最大位相値によってサンプルに照射できる光強度はかわらず、検出感度は6.01mradで一定である。一方、PC-DFDH法の検出感度は、式(3)に、δθ
DH
mn=6.01mradを代入した曲線と一致しており、強度の増加に伴って検出感度が改善されることが分かる。
【0071】
続いて、ダイナミックレンジの拡大について検討した結果を説明する。この検証のために、中赤外(MIR:Mid Infrared)フォトサーマル位相イメージングの実験を行った。
図9(a)~(c)は、実験結果を示す図である。フォトサーマル位相イメージングでは、励起光の吸収によるサンプルの温度変化、それに伴う屈折率変化、つまり検出光の位相変化を捉える。よって励起光のON/OFFの位相イメージの差分をとることで、励起光の吸収量の情報を得ることができる。ここでは5μmのシリカビーズをマッチングオイルに浸し、励起光としてはSi-O伸縮振動に共鳴する波長(1045cm
-1)の赤外パルスレーザを入射した。
図9(a)は、PC-DFDHによる復元位相イメージと、DHによる位相イメージを示す。位相キャンセルにより、最大位相を0.1rad程度まで減らすことができ、DFDHではDHの38倍の光をサンプルに照射した。
図9(b)、(c)は、励起光の吸収による位相イメージの変化(すなわちON/OFFの差分)を示しており、DHでは位相変化がノイズに埋もれているが、PC-DFDHでは、位相変化が検出できている。ノイズフロアは6.6倍低くなっており、元の位相分布(
図9(a))と、微小位相変化(
図9(b))の両方を捉えられており、位相イメージングのダイナミックレンジが拡大できていることがわかる。
【0072】
(実施例2)
図10は、実施例2に係る位相イメージング装置100Bを示す図である。この位相イメージング装置100Bは、実施例1の空間光変調器108の位置を、サンプル2より前の共役面に配置したものである。
【0073】
(実施例3)
図11は、実施例3に係る位相イメージング装置100Cを示す図である。この位相イメージング装置100Cは、位相回復法を用いたインライン型のデジタルホログラフィー装置である。この実施例では、参照光を照射する代わりに、イメージセンサ104の位置をシフトさせながら、複数回、物体光を測定する。
【0074】
あるいは位相シフト法を用いたインライン型のデジタルホログラフィー装置にも、本発明は適用可能である。この場合は、イメージセンサに対して物体光と同軸に参照光を入射し、参照光の位相をシフトさせながら、複数個のホログラムを記録後、それらの画像を演算処理することによって、光の複素振幅画像を求めることができる。
【0075】
(実施例4)
図12は、実施例4に係る位相イメージング装置100Dを示す図である。この位相イメージング装置100Dは、パターニングした照明光S
ILLを、照射角を替えながらサンプルに照射する光回折トモグラフィーおよび合成瞳関数イメージング装置である。空間光変調器108に、回折格子のような位相パターンを与え、サンプル2に斜め方向から照明光を照射し、いくつかの角度で位相情報を測定することで、3次元情報(屈折率情報)あるいは高空間分解能な定量位相画像を得ることができる。なお、これらの技術において参照光の有無は問わない。
【0076】
この装置において、空間光変調器108に、位相キャンセルのためのパターンを同時に入れておくことで、本発明を適用することができる。
【0077】
なお、この手法では、暗視野光学系106のフーリエ面の非散乱光成分の位置が、照明角度に応じて変化する。したがって、マスク107を、非散乱光成分の位置に追従する可動式のものとするとよい。あるいはマスク107の代わりにDMD(Digital Micromirror Device)を用い、非散乱光成分の位置に応じて、各画素のオン、オフを制御してもよい。
【0078】
(実施例5)
図13は、実施例5に係る位相イメージング装置100Eを示す図である。この位相イメージング装置100Eは、SLIM(Spatial Light Interference Microscopy)型である。第1空間光変調器108は、サンプル面と共役な面に設けられ、サンプル2による位相遅れをキャンセル可能である。第2空間光変調器112は、サンプル2由来の位相情報を含む物体光S
OBJの非散乱光成分の強度を減衰させ、かつ位相をシフトさせる。イメージセンサ104は、物体光S
OBJにもとづくホログラムを記録する。
【0079】
たとえば、第2空間光変調器112を、複素振幅変調SLMとして構成し、物体光の非散乱光成分の強度操作と位相操作の両方を行うようにしてもよい。つまりこの場合は、位相変調器112が、SLIMイメージングにおける位相変調器と、暗視野光学系106の機能を兼ねることとなる。
【0080】
あるいは、第2空間光変調器112を、位相操作のためのデバイスと、強度操作のためのデバイスに分割して構成してもよい。この場合、
図13の第2空間光変調器112の一に、位相変調器を置いて、位相操作のみを行うようにし、その後ろに、二枚のレンズを追加して、位相変調器と共役面をつくり、そこに非散乱光成分の強度操作を行うデバイスを挿入してもよい。
【0081】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0082】
2 サンプル
4 イメージセンサ
6 暗視野光学系
8 空間光変調器
100 位相イメージング装置
102 光源
104 イメージセンサ
106 暗視野光学系
107 マスク
108 空間光変調器
110 演算処理装置
112 空間光変調器