(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】野菜スープの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20240208BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240208BHJP
【FI】
A23L23/00
A23L19/00 A
(21)【出願番号】P 2020011434
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】中出 敦子
(72)【発明者】
【氏名】水野 隆志
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-284132(JP,A)
【文献】特開平06-105661(JP,A)
【文献】特開2018-000119(JP,A)
【文献】特開2018-161124(JP,A)
【文献】特開2019-110866(JP,A)
【文献】特開2009-011287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/
A23L 19/
A23L 2/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理する工程、
前記加熱処理した野菜原料を破砕処理する工程及び
前記破砕処理した野菜原料に
少なくともαアミラーゼ及びセルラーゼを添加し、20℃未満で
、8時間を超える時間反応させる工程を含む工程により得た野菜ペーストを使用して野菜スープを得る工程を含む、野菜スープの製造方法。
【請求項2】
更に野菜ペーストを冷凍する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
過熱水蒸気温度が100℃を超え、且つ200℃未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜スープの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、口当たりの良いなめらかな野菜スープを製造するためには、裏ごし工程が必要であった。裏ごし工程は、歩留まりが低下し、機械・器具の洗浄等手間がかかりコストのかかるものであった。
また、ニンジンなど不溶性食物繊維を含む野菜では、カッターミキサー等で粉砕し、ペーストを製造後スープの原材料とするが、そのままではなめらかさに限界があった。
さらに、野菜の風味を生かしたスープを製造するためには、野菜原料の配合量を多くしたり、調味料やフレーバーを加えるなどコストのかかるものであった。しかも調味料、フレーバーの添加により野菜本来の風味を損なうことがあった。
野菜の風味を損なわず、滑らかな野菜ペーストを得るための方法として、例えば特許文献1では野菜原料を過熱水蒸気処理し、破砕処理したものを酵素処理(アミラーゼ酵素、50~55℃、10~180分間)することにより、色合いや柔らかさを維持し、味や風味、食感の良好な野菜ペーストの製造方法を提供することが開示されている。また、特許文献2ではケールやニラなどの植物組織を酵素処理(αアミラーゼ、ペクチナーゼ、セルラーゼなどの植物組織・繊維分解混合酵素、40~60℃、60~90分間)と機械的微粉砕処理の組み合わせにより植物の機能性を保持したまま低分子化したペーストを得る方法が開示されている。しかしながら、特許文献1の方法では、さらなる口当たりの良さのために裏ごし工程が必要であることが開示されており、特許文献2の方法では機械的な低分子化工程、具体的にはメッシュパスが必須であり、なめらかさについて十分なものでは無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-296890
【文献】特開2011-139697
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歩留まりが低下し、機械・器具の洗浄等手間がかかりコストのかかる裏ごし工程を行うことなく、口当たりの良いなめらかな野菜スープを製造することを課題とする。
また、調味料やフレーバーを加えることなく野菜の風味を生かしたスープを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理して破砕処理し、前記破砕処理した野菜原料に細胞成分の分解酵素を添加、撹拌し、20℃未満の温度で反応させることにより得られる野菜ペーストを使用することにより、裏ごし工程を行うことなく、口当たりの良いなめらかな野菜スープを製造すること、調味料やフレーバーを加えることなく野菜の風味を生かしたスープを製造することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1]野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理する工程、前記加熱処理した野菜原料を破砕処理する工程及び前記破砕処理した野菜原料に細胞成分の分解酵素を少なくとも1種添加し、20℃未満で反応させる工程を含む工程により得た野菜ペーストを使用して野菜スープを得る工程を含む、野菜スープの製造方法。
[2]更に野菜ペーストを冷凍する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
[3]過熱水蒸気温度が100℃を超え、且つ200℃未満である、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]前記細胞成分の分解酵素がセルラーゼ、ヘミセルラーゼ、アミラーゼ及びプロテアーゼ、リパーゼからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の野菜スープの製造方法により、歩留まりが低下し、機械・器具の洗浄等手間がかかりコストのかかる裏ごし工程を行うことなく、口当たりの良いなめらかな野菜スープを製造することができる。
また、調味料やフレーバーを加えることなく野菜の風味を生かしたスープを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の野菜スープの製造方法は、野菜原料を過熱水蒸気により加熱処理する工程、前記加熱処理した野菜原料を破砕処理する工程及び前記破砕処理した野菜原料に細胞成分の分解酵素を少なくとも1種添加し、20℃未満で反応させる工程を含む工程により得た野菜ペーストを使用して野菜スープを得る工程を含む。
本発明において「野菜原料」は特に限定されず、ニンジンやダイコン等の根菜類、タマネギやジャガイモ等の土物類、ケールやほうれん草等の葉茎菜類、カボチャやトマト等の果菜類、グリンピースやサヤエンドウ等のマメ科野菜類、トウモロコシやベビーコーン等のイネ科野菜類が上げられる。好ましくは、ニンジン、カボチャ、じゃがいも、たまねぎ、コーンが使用できる。より好ましくはニンジン、カボチャであり、最も好ましくはニンジンである。野菜原料は好ましくは破砕処理の前に洗浄、皮をむく、不要な根や葉を除去するなどの前処理を行う。
【0008】
本発明において、「過熱水蒸気」とは、飽和水蒸気を飽和水蒸気点(1気圧のとき100℃)を超えて加熱した気体の水であり、乾き蒸気とも呼ばれる。それに対して、水蒸気は、沸点以上飽和水蒸気点未満において、気体状の水が部分的に凝縮した微小水滴と気体状の水とが混合している状態の水であり、湿り蒸気とも呼ばれる。
過熱水蒸気温度は、好ましくは100℃超200℃未満であり、より好ましくは、105℃~160℃であり、さらに好ましく120℃~150℃である。
100℃未満では湿り蒸気であるため、過熱水蒸気処理の効果が得られない。また200℃以上では、野菜片表面のコゲや乾燥が生じる傾向にある。
過熱水蒸気処理時間は、処理する野菜片の大きさや形状により適宜設定することができる。例えば、皮を剥き、2~3等分にカットしたニンジンであれば100~170℃で10分~1時間処理する事が出来る。
過熱水蒸気処理の為の装置としては、バッチ式、コンベア式等何れの型式の過熱水蒸気噴射装置を使用してもよい。
【0009】
本発明において「破砕処理」は破砕処理装置を用いて行う。破砕処理装置は野菜を破砕処理(剪断処理、磨砕処理を含む)できる公知の装置であれば制限無く使用可能である。磨石式(砥石式)、切刃式、胴搗式、媒体攪拌式、圧縮式、衝撃式、すり潰式等の装置及びそれらの組合せを例示することができる。好ましくは磨石式又は切刃式装置であり、最も好ましくは切刃式装置である。切刃式装置としては、市販されているカッターミキサーを使用することができる。破砕処理の条件は野菜原料や破砕処理装置によって適宜変更することが可能である。例えばニンジンをカッターミキサーで処理する場合1000~2500rpmで30秒~3分間処理する事により破砕処理することが出来る。
【0010】
本発明において「細胞成分の分解酵素」とは繊維質、糖質、タンパク質、脂質等の細胞成分の分解酵素であれば特に限定されず、単独又は1種以上を組み合わせて使用することが出来る。
好ましくは、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼから選ばれる1種以上を使用することが出来、より好ましくはセルラーゼ、アミラーゼから選ばれる1種以上である。用いる細胞成分の分解酵素の種類及び量は、野菜の種別によって最適な組合せを適宜選択することができる。例えばセルラーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、ヘミセルラーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、アミラーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、プロテアーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2質量%、リパーゼ酵素の場合は野菜ペーストの質量に対し、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.02~0.2%添加する。具体的には、ニンジンであれば、そのペーストに対してセルラーゼAアマノ3(天野エンザイム社製、セルラーゼ)及びビオザイムA(天野エンザイム社製、αアミラーゼ)を選択し、各々0.01~0.8質量%添加することができる。
【0011】
上述のような細胞成分の分解酵素の至適温度は通常約40~60℃であるが、本発明では、酵素反応温度は20℃未満である。好ましくは0℃以上20℃未満であり、より好ましくは0℃以上15℃以下であり、最も好ましくは5℃以上10℃以下である。
【0012】
本発明では、酵素反応時間は野菜の種類や使用する酵素の種類によって適宜変更可能であるが、好ましくは4時間を超え、さらに好ましくは8時間を超え、より好ましくは10時間を超え、最も好ましくは15時間以上である。
【0013】
本発明において、酵素反応後に、酵素失活処理を行う。酵素失活処理は酵素反応終了後に加熱して酵素を失活させる処理である。例えば90~100℃で10~30分間加熱処理することにより行うことができる。
【0014】
野菜ペーストは、更に冷凍されても良い。冷凍することにより、より滑らかさが優れた野菜スープを得ることができる。冷凍方法は特に限定されず、常法により行うことができる。例えば野菜ペーストをナイロン製のポリ袋などに入れて密封し、-15~-25℃の冷凍庫内で12~24時間保存することにより行うことができる。
【0015】
本発明の野菜スープの製造方法は、上述のような野菜ペーストを使用して野菜スープを得る工程を含む。好ましくは、野菜スープの全量に対して上述のような野菜ペーストを20~40質量%使用して野菜スープを製造する工程を含む。より好ましくは野菜スープの全量に対して野菜ペーストを25~35質量%使用する。
本発明の野菜スープの製造方法は所定の工程を含む工程により得た野菜ペーストを使用する以外は通常の方法で製造することにより行うことが出来る。例えば野菜ペーストに粉末コンソメ、水、ケチャップなどの調味料を添加し、鍋などで加熱することにより製造することができる。
【0016】
本発明の野菜スープは、野菜ペーストの他に、コンソメ、ブイヨン、肉類、魚介類、野菜等の出汁、肉類、魚介類、野菜等の具材、肉エキス、水産物エキス、酵母エキス等のエキス類、酒、醤油、砂糖、酢、味噌、塩、ソース、ケチャップ、香辛料等の調味料、ごま油、ラー油、ネギ油、ガーリックオイル、バジルオイル等の香味油、増粘多糖類、デキストリン、酸化防止剤等の添加剤等、通常野菜スープに使用される副原料を含んでいてもよい。
【実施例】
【0017】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[製造例1 野菜ペースト(ニンジンペースト)の製造]
(1)ニンジンを洗浄し、皮を剥き、2~3等分にカットする。
(2)過熱水蒸気コンベヤーオーブン(東研工業社製)を用いて過熱水蒸気処理(135℃、0.5時間)を行った。
(3)冷却後、カッターミキサー(AC-50S、愛工舎製作所製)を用いて1500rpmで2分30秒間処理して破砕処理した。
(4)破砕処理したニンジン100質量部に対してセルラーゼAアマノ3(天野エンザイム社製)を0.04質量部及びビオザイムA(天野エンザイム社製)を0.02質量部添加し、十分に混合攪拌した。
(5)5℃で17時間酵素反応させた。
(6)樹脂製の包装袋に1kgずつ充填して密封した。
(7)90~100℃で10~30分間加熱し、殺菌・酵素失活を行った。
【0018】
[製造例2 冷凍野菜ペーストの製造]
製造例1で得られた野菜ペーストをナイロンポリ袋に入れ密閉し、-18℃の冷凍庫内で17時間保存した。
【0019】
[製造例3 野菜スープの製造]
(1)冷凍したニンジンペーストを流水解凍した。または、非冷凍のニンジンペーストはそのまま使用した。
(2)ニンジンペースト28.2質量部(160g)、粉末コンソメ0.7質量部(4g)、トマトケチャップ0.7質量部(4g)、水70.4質量部(400g)を鍋に投入し、混合した。
(3)攪拌しながら90℃まで加熱し、90℃達温後5分間保持した。
(4)収量を調整し、ニンジンスープを得た(製造前の質量になるように加水し全体が均一になるように混ぜた)。
【0020】
[試験例1 酵素反応条件の検討]
酵素処理の有無、酵素反応温度と反応時間を表1のように変えた以外は製造例1~3にしたがってニンジンスープを製造し、10人のパネラーにより評価基準表に従い官能評価した。なお、製造例1において野菜原料を過熱水蒸気による加熱処理後破砕処理した後、酵素処理を行わなかったニンジンペーストを使用して製造したニンジンスープの風味及び滑らかさを2点、酵素処理を行わず裏ごししたニンジンペーストを使用して製造したニンジンスープの滑らかさを5点とした。
なお、55℃で酵素反応を行った場合、ニンジンペーストの性状変化は2時間でプラトーに達し、それ以上反応させても変化しない。この反応条件(55℃、2時間、比較例3)を基準とし、セルラーゼの各反応温度における相対活性から各温度における反応がプラトーとなる反応時間を設定した。なお、比較例4(反応温度70℃)ではビオザイムA(αアミラーゼ主成分、プロテアーゼ副成分)が熱失活するため、酵素反応が不十分な例として示している。
【0021】
【0022】
【0023】
裏ごしを行った対照例2は、非常になめらかな食感であった。酵素処理温度が20℃未満である実施例はいずれも、良好な風味となめらかさになった。特に実施例2は、非常になめらかな食感で、甘味が強く、酸味もありバランスが良かった。その一方で、対照例1は、繊維感が強くザラツキを感じ、ニンジンの風味を有するが甘味が弱かった。
また、ペーストを冷凍することにより実施例、比較例いずれにおいてもなめらかさが改善された。
【0024】
[試験例2 過熱水蒸気処理条件の検討]
過熱水蒸気の温度を表2のようにした以外は、製造例1~3に従いニンジンスープを作製し、10人のパネラーにより評価基準表に従い評価した。
【0025】
表2
加熱水蒸気処理温度が100℃を超え、200℃未満である実施例6~10のニンジンスープはいずれも良好な風味となめらかさとなった。過熱水蒸気処理を行わなかった比較例5および加熱水蒸気処理温度が100℃である比較例6、過熱水蒸気処理温度が200℃以上である比較例7では低い評価であった。また、ペーストを冷凍することにより実施例、比較例いずれにおいてもなめらかさが改善された。
【0026】
[試験例3 野菜の種類の検討]
野菜原料を表3のように変えた以外は製造例1~3にしたがって野菜スープを製造し、10人のパネラーにより評価基準表に従い評価した。
【0027】
表3
実施例11から14のいずれにおいても風味となめらかさ共に良好な結果が得られ、原料野菜の種類にかかわらず良好な結果が得られることが示された。また、ペーストを冷凍することによりなめらかさが改善された。