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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】気相成長装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20240208BHJP
   C23C 16/458 20060101ALI20240208BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20240208BHJP
   C30B 25/14 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/458
C23C16/455
C30B25/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020131010
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022028996
(43)【公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】山岡 優哉
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-216885(JP,A)
【文献】特開2009-170868(JP,A)
【文献】特開2006-287256(JP,A)
【文献】特開2002-261021(JP,A)
【文献】特開2011-192946(JP,A)
【文献】特開平11-312650(JP,A)
【文献】特開2009-130043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/458
C23C 16/455
C30B 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、
該サセプタの中心部に配置されて、該サセプタの径方向に向けて基板の表面に平行な方向に複数の層となる原料ガスを噴射する原料ガス導入ノズルと、
前記サセプタにおける基板保持部以外を覆うサセプタ上面カバーと、
該サセプタ上面カバーとの間に所定の間隔を離して対向配置されて、前記原料ガスの流路を形成する円盤状の対向面部材とを備えた気相成長装置であって、
前記対向面部材は、径方向内側に当該対向面部材と前記サセプタ上面カバー表面との距離が一定になるように平行に形成される平行部と、前記平行部よりも径方向外側に、該対向面部材と前記サセプタ上面カバー表面との間隔が狭くなるように形成されたテーパー部とを有し、
前記平行部は、前記原料ガス導入ノズルのノズル下流端部から基板上流端部までの区間であることを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記テーパー部は、径方向外側に向かって漸次厚さが増加することで、該対向面部材と前記サセプタ上面カバー表面の間隔が狭くなるように形成され、当該テーパー部が水平面に対してなす角度θは、0°<θ≦3°である、請求項1記載の気相成長装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置に関し、詳しくは、原料ガス流路を形成する対向面部材(天井板)を備える自公転サセプタを有するフェースアップ型気相成長装置(自公転型気相成長装置)に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶成長法の1つに気相成長法が挙げられる。当該気相成長法は、原料にガスを使用し、加熱された基板(半導体ウエハ)の表面に原料ガスを流し、当該基板上に半導体結晶の薄膜を成長するというものである。ここで、気相成長法を用いる化合物半導体成長装置の課題として、生産性の向上が挙げられる。当該生産性の向上のために、例えば、特許文献1に示されるような自公転型の気相成長装置によって、量産可能にしている。この自公転型気相成長装置による基板上の薄膜成長に関する課題として、リアクタ上流側での気相反応の抑制およびリアクタ下流側での原料濃度低下が挙げられる。
【0003】
自公転型気相成長装置では、そのリアクタ形状から、下流側では原料ガス流路の容積が増加してしまうため、リアクタ上流側では原料濃度が濃く、下流側になるほど薄くなってしまう。また、気相反応に関して、上流側で気相反応が発生しやすく、下流側に到達できる原料が少なくなるので、下流側の原料濃度が低下する。このような形状や反応原理の影響を回避すること、すなわちリアクタ上流側では気相反応を抑制し、下流側では原料濃度を増加させることが求められている。
【0004】
気相反応を抑制する技術として、例えば、特許文献2に示される技術が知られている。当該特許文献2においては、原料のガス流路を形成する天井板の材質を、中心部分(上流側)と外周部(下流側)とで変更している。天井板の材質を変更することによって上流側のガス温度が変わり気相反応の状態も変化するものと考えられる。また、前記特許文献2の技術は、上流側の天井板をグラファイトから石英に変更していることにより、上流側の気相反応を抑制するものでもある。上記技術の効果としては、パーティクルの発生による基板汚染の問題や原料ガスの早期の熱分解の問題が生じないことが挙げられている。しかし、基板に形成される薄膜の面内分布については何ら開示されていない。
【0005】
その一方で、特許文献3には、基板とサセプタの対面の間隙を、基板の上流側よりも下流側の位置で狭くすることが開示されている。このような方法は、他の過去の特許文献からも周知技術となっているが、実際には流路の上流側から下流側へと単純に狭くするだけでは、基板到達前の段階で原料ガス濃度が増加してしまい、むしろ上流側において気相反応を増加させてしまう恐れがあり、十分な効果が得られるものとはいえない。
【0006】
化合物半導体でデバイスを作成する際には、三元混晶や異種材料の半導体膜がよく用いられている。例えば、現在実用化さているGaN(窒化ガリウム)ではIn(インジウム)を添加するInGaN(窒化インジウムガリウム)や、Al(アルミニウム)を添加するAlGaN(窒化アルミニウムガリウム)の三元混晶が用いられる。その他にAlN(窒化アルミニウム)などの異種材料が用いられ、各種材料の膜を積層することによって、デバイス構造を形成している。そのため化合物半導体成長用自公転型気相成長装置において、多種の膜を均一に積層できる制御性が同時に求められる。特にGaNとAlNについて、それぞれの原料であるTMG(トリメチルガリウム)とTMAl(トリメチルアルミニウム)とでは反応性がまったく異なり、TMAlはTMGに比べてより激しい気相反応が発生することがよく知られている。
【0007】
これらの気相反応を制御する方法として、非特許文献1に記載の方法が挙げられる。当該非特許文献1に記載の方法においては、原料であるNH3およびTMGやTMAlなどの有機金属をリアクタの直前まで別々に供給することで気相反応を抑制している。また、これらのガスの供給系統とは別に、キャリアガスのみを供給する系統を有している。これらの各系統から流れる3層のガスの流量割合を制御することによって、ノズルから噴射された後のNH3と有機金属の反応が開始する地点(ミキシングポイント)を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-183365号公報
【文献】特開2016-39225号公報
【文献】特開2010-232624号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Control of Thickness and Composition Variation of AlGaN/GaN on 6- and 8-in. Substrates Using Multiwafer High-Growth-Rate Metal Organic Chemical Vapor Deposition Tool Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 08JB06
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、非特許文献1に記載された方法において、ミキシングポイントを制御するためには、基板よりも上流側にある程度のガス流路容積が必要となってくる。自公転型の気相成長装置ではその形状から、ノズル下流端部から基板上流端部までの容積が、基板上部、基板より下流側と比べて小さくなってしまう。その一方で、極端に基板上流端部までの容積を小さくしてしまうと、ミキシングポイントの制御が困難になってしまう。そこで、ノズル下流端部から基板上流端部までの間の容量をガスの流量や成分に応じて最適化しなければならないという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、ミキシングポイントを制御することなく、基板上流側において気相反応を抑制し、かつ基板下流側での原料濃度減少を低減し、その結果として、基板上に気相成長させた薄膜の面内分布を制御しつつ、成長速度を増加させることができる気相成長装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の気相成長装置は、チャンバー内に回転可能に設けられた円盤状のサセプタと、該サセプタの中心部に配置されて、該サセプタの径方向に向けて基板の表面に平行な方向に複数の層となる原料ガスを噴射する原料ガス導入ノズルと、前記サセプタにおける基板保持部以外を覆うサセプタ上面カバーと、該サセプタ上面カバーとの間に所定の間隔を離して対向配置されて、前記原料ガスの流路を形成する円盤状の対向面部材とを備えた気相成長装置であって、前記対向面部材は、径方向内側に当該対向面部材と前記サセプタ上面カバー表面との距離が一定になるように平行に形成される平行部と、前記平行部よりも径方向外側に、該対向面部材と前記サセプタ上面カバー表面との間隔が狭くなるように形成されたテーパー部とを有し、前記平行部は、前記原料ガス導入ノズルのノズル下流端部から基板上流端部までの区間であることを特徴としている。
【0013】
また、前記テーパー部は、径方向外側に向かって漸次厚さが増加することで、該対向面部材と前記サセプタ上面カバー表面の間隔が狭くなるように形成され、当該テーパー部が水平面に対してなす角度θは、0°<θ≦3°であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の気相成長装置によれば、対向面部材の径方向外側にテーパー部を設けることにより、基板下流側でのガス流路部分の容積が減少することで、基板上流側において気相反応を抑制し、かつ基板下流側での原料濃度減少を低減することができる。その結果、基板に気相成長させた薄膜の面内分布を制御しつつ、成長速度を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1(a)】本発明の気相成長装置の一形態例の内部構造を示す概略平面図である。
図1(b)】本発明の気相成長装置の一形態例の内部構造を示す部分断面図である。
図2】各容積比におけるAlN成長速度の面内分布の比較を示す図である。
図3】積層成長したHEMT(高電子移動度トランジスタ)構造の断面図である。
図4】(a)PL(フォトルミネッセンス)にて測定した、従来技術の対向面部材(容積比1:6)を使用して積層成長したHEMT構造の総膜厚分布を示す図である。(b)PL(フォトルミネッセンス)にて測定した、本発明の対向面部材(容積比1:4.5)を使用して積層成長したHEMT構造の総膜厚分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示される本形態の気相成長装置1は、自公転機構を備えた自公転型気相成長装置であって、密閉された反応炉内に設置された自公転型の円盤状サセプタ11と、該サセプタの中心部に配置されて、該サセプタ11の径方向に向けて基板(半導体ウエハ)12の表面に平行な方向に複数の層となる原料ガスを噴射する原料ガス導入ノズル13と、該サセプタ11における基板保持部以外を覆うサセプタ上面カバー14と、該サセプタ上面カバー14との間に所定の間隔を離して対向配置されて、前記原料ガスの流路を形成する円盤状の対向面部材(天井板)15と、を備えて概略構成されている。本形態における気相成長装置1は、サセプタ11の基板保持部に6枚の基板12を載置可能としている。
【0017】
基板保持部の外周下部には、外歯車部材が設けられており、サセプタ11の外周位置には、基板保持部の外歯車部材に歯合する内歯車を有するリング状の固定歯車部材が設けられている。また、サセプタ上面カバー14と基板12の上面が面一になるようにしている。
【0018】
この気相成長装置1を使用して基板12の表面に薄膜を形成する際には、基板保持部に基板12を保持した状態とし、ヒーター(図示せず)によりサセプタ11を介して基板12をあらかじめ設定された温度に加熱しながら、原料ガス導入ノズル13から反応炉内に原料ガスを導入し、排気ガスをガス排出部を通して排出する。このとき、回転軸と一体にサセプタ11が回転し、このサセプタ11の回転に伴って固定歯車部材を除く各部材が回転し、基板12は、サセプタ11の軸線を中心として回転、即ち公転する状態となる。そして、固定歯車部材の内歯車に外歯車部材が歯合することにより、基板保持部は、該基板保持部の軸線を中心として回転、即ち自転する状態となる。これにより、基板保持部に保持された基板12が、サセプタ11の軸線を中心として自公転することになる。
【0019】
ここで、対向面部材15は、原料ガス導入ノズル13のノズル下流端部から基板12上流端部までの区間において、当該対向面部材15と前記サセプタ上面カバー14表面(基板12表面)との距離が一定になるように平行に形成される平行部Aと、平行部Aよりもさらに対向面部材15の径方向外側の区間において、該対向面部材15と前記サセプタ上面カバー14表面(基板12表面)との間隔が漸次狭くなるように形成されたテーパー部Bから構成されている。
【0020】
テーパー部Bは、平行部Aよりもさらに対向面部材15の径方向外側の区間において厚さが増加することで、該対向面部材15と前記サセプタ上面カバー14表面(基板12表面)との間隔が漸次狭くなるように形成され、当該テーパー部Bが水平面に対してなす角度θは、0°<θ≦3°となるように構成されている。
【0021】
[実験例1]
図2に、テーパー部Bを設けて、対向面部材15の厚さを基板上流端部から基板下流端部へむかって増加させることによって基板12上部のガス流路部分の容積を減少させ、容積比(平行部Aにおけるガス流路部分の容積:テーパー部Bにおけるガス流路部分の容積)を1:4.5とした場合で成長したAlN層の基板面内における成長速度分布、および前記テーパー部を設けずに、対向面部材の厚さを一定として前記容積比を1:6とした場合で成長したAlN層の基板面内における成長速度分布の比較を示す。AlNの成長条件は、両者とも同一のものとした。図2から、AlNの成長速度は、基板面内全域において、容積比が1:4.5の場合に、1:6の場合と比べて増加していることがわかる。また、基板上の面内分布は両者ともほぼ一定であることも図2から読み取れる。これらの点から、本発明によって、基板上の面内分布を一定としながら成長速度のみが増加することが示された。
【0022】
[実験例2]
図3に、Si基板上に成長したHEMT(高電子移動度トランジスタ)構造の断面図を示す。HEMT構造は、AlN, AlGaN, GaN等からなる多種のエピタキシャル膜で構成されている。上記実験例1と同様に、容積比を1:4.5とした場合及び1:6とした場合のそれぞれで、同一成長条件にて積層したエピタキシャル膜の総膜厚をPL(フォトルミネッセンス)にて測定した。その結果を図4(a)(b)に示す。同一成長条件にて積層したにも関わらず、容積比1:4.5の場合(図4(b))に、1:6の場合(図4(a))と比べて総膜厚が1μm程度増加していることがわかる。また、面内膜厚均一性(標準偏差)はそれぞれ、0.050μm(容積比 1:4.5の場合)、0.051μm(容積比 1:6の場合)であり、両者の値はほぼ同等であった。これらの事項から、容積比を変化させることで、基板の面内膜厚均一性はほぼ同等にも関わらず、膜の成長速度のみが増加することが示された。
【0023】
実験例1,2から分かるように、本発明によれば、対向面部材にテーパー部を設けたために基板下流側でのガス流路部分の容積が減少することで、基板上流側での気相反応を抑制しつつ基板下流側での原料濃度低下が低減され、膜種にかかわらず、成長速度を増加することができる。
【0024】
本形態例において、平行部Aとテーパー部Bとの境界は、基板12の上流端部の位置と一致するようにしているが、平行部Aを径方向外側に多少延伸したり、テーパー部Bを径方向内側に多少延伸したりするなどして、平行部Aとテーパー部Bとの境界が基板12の上流端部と前後する位置となるようにしてもよい。
【0025】
なお、本発明に関する気相成長装置の各部の構造や形状は、基板の大きさ、気相成長させる薄膜の種類や原料ガスの流量等の各種条件に応じて設計することができ、上記形態例に示した構造、形状に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0026】
1・・・気相成長装置、11・・・サセプタ、12・・・基板(半導体ウエハ)、13・・・原料ガス導入ノズル、14・・・サセプタ上面カバー、15・・・対向面部材(天井板)、A・・・平行部、B・・・テーパー部
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3
図4