(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】耐寒性に優れる硬化性オルガノポリシロキサン組成物、パターン形成方法および電子部品等
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240208BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240208BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240208BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240208BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
B05D1/26 Z
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303A
(21)【出願番号】P 2020553168
(86)(22)【出願日】2019-10-15
(86)【国際出願番号】 JP2019040371
(87)【国際公開番号】W WO2020080326
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018196615
(32)【優先日】2018-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 能乃
(72)【発明者】
【氏名】須藤 学
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-179038(JP,A)
【文献】特開2013-100516(JP,A)
【文献】特表2014-506263(JP,A)
【文献】特表2014-503680(JP,A)
【文献】特開2013-253210(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050318(WO,A1)
【文献】特開2015-091576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターン形成用途に用いられる一液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物であって、
(A)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒、
(D)レーザー回折・散乱法により測定される平均粒子径が0.01~10μmの機能性充填剤 2.5~20.0質量部、
(E)1種類以上の接着促進剤、および
(F)ヒドロシリル化反応抑制剤
を含有してなり、
(A)成分または(B)成分の少なくとも一部がケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノポリシロキサンであり、
ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が2.0Pa・s以下であり、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度の50.0倍以上の値となることを特徴とし、かつ、
組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が1.5~5.0質量%の範囲である硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が1.5Pa・s以下であり、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、50Pa・s以上の値となることを特徴とする、請求項1に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(A1)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであり、ケイ素原子結合芳香族官能基を2.0~25.0質量%の範囲で含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを少なくとも含む、請求項1
または請求項2に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
前記の成分(D)が、(D1)平均一次粒子径が0.01~0.5μmの範囲にある補強性充填剤を少なくとも有する、請求項
1~請求項3のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
前記の成分(F)が、(F1)アセチレン系のヒドロシリル化反応抑制剤および(F2)シクロアルケニルシロキサン系のヒドロシリル化反応抑制剤の混合物である、請求項
1~請求項4のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
パターンが、縦横の長さが1000μmの枠内に収まる塗布領域または線幅1000μm以下の線状の領域である硬化性オルガノポリシロキサン組成物の塗布領域の組み合わせを少なくとも含む、請求項
1~請求項5のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項7】
微細液滴塗布装置
を用いたパターン形成用途に用いられる、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を微細液滴塗布装置を用いて基材上に適用することを特徴とする、パターンの形成方法。
【請求項9】
前記のパターンが、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、ノズル径が1000μm以下の微細液滴塗布装置を用いて、縦横の長さが1000μmの枠内に収まる塗布領域または線幅1000μm以下の線状の領域に適用してなる塗布領域、またはそれらの組み合わせを少なくとも含む、請求項
8に記載のパターンの形成方法。
【請求項10】
少なくとも一部の領域に、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物が適用された構造を備える、電子部品またはその前駆体。
【請求項11】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、微細液滴塗布装置を用いて適用された構造を備える、請求項
10の電子部品またはその前駆体。
【請求項12】
電子部品が半導体装置である、請求項
10または請求項
11に記載の電子部品またはその前駆体。
【請求項13】
電子部品が、MEMS(micro electro mechanical systems)デバイスである、請求項
10または請求項
11に記載の電子部品またはその前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に硬化物の耐寒性に優れ、ジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置による精密塗布および微細パターン形成に適したレオロジー特性を有する硬化性オルガノポリシロキサン組成物、それを用いたパターン形成方法およびジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置により適用された硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を備えた電子部品(MEMSデバイスを含む)またはその前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、電気・電子部品の保護剤または接着剤組成物として、あるいは携帯電話やタッチパネル等の画像表示装置の間隙の充填とシーリング等に広く使用されており、その信頼性の向上および耐久性の改善等に貢献している。特に、ヒドロシリル化反応を用いて硬化する一液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、取扱作業性および硬化速度に優れ、硬化物の耐熱性に優れ、基材への接着性や硬化物の硬さを所望によりコントロールできる点で他の材料に比べて利点がある。
【0003】
一方、近年の電気・電子部品等の小型化、高精密化を反映して、電子材料等の基板や画像表示装置等に、微細な硬化性オルガノポリシロキサン組成物のパターンを形成してなる、電子部品等が求められている。このようなパターンは、一つ一つの塗布領域が直径1mm以下の実質的に点状、あるいは幅が1mm以下の線状の領域であり、これらの塗布領域を無数かつ高精度で配置した設計を有することから、工業生産上、インクジェット方式やディスペンサー塗布方式等の微細液滴塗布装置を用いて塗布することが好ましい。
【0004】
しかしながら、これらの既存の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は液状であり、微細液滴塗布装置を用いて塗布した場合、例え、1000μm以下の微細なノズルを備えた微細液滴塗布装置を用いた場合であっても、目的とする塗布領域を超える範囲に飛散や広がり(流出)を生じてしまい、微細なパターンを形成することが困難である。一方、上記のような液滴の飛散防止または流動性低下による精密塗布を目的として、同組成物等の塗布対象が高粘度を呈するように設計することが可能であるが、液滴の飛散防止が可能な程度に高粘度の組成物を設計した場合、その粘度が高いためにノズル詰まりやドットあたりの塗布量増加を生じやすく、ジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置による塗布が困難になるという問題がある。また、ノズル内での硬化反応が進行しやすくなり、同じくノズル詰まりを生じやすいという問題がある。
【0005】
かかる課題を解決すべく、特許文献1には、混合により反応する二種の硬化性オルガノポリシロキサンを、異なる二つのノズルから別々に塗布して基材上で混合することにより、速硬化性に優れた硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を用いた、簡便なパターンの製造方法が提案されている。しかしながら、当該方法では、2液分のノズルに対応した微細液滴塗布装置が必要であるほか、実質的に基材上での2液の物理的接触に依存した多成分塗布、分液塗布となるため、作業効率や精密塗布性が十分ではなく、特に硬化特性について、両液の完全な混合を前提とした硬化性乃至硬化物の特性が実現できない場合があり、作業効率と精密塗布および硬化物の特性の見地から、一液型かつジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置による精密塗布および微細パターン形成に適した硬化性オルガノポリシロキサンが強く求められている。
【0006】
これに加えて、近年、半導体装置の分野では、MEMS(micro electro mechanical systems)技術を用いて、小型かつ高集積されたセンサ等のMEMSデバイスの普及が進んできており、従来に比較して、半導体基材であるリードフレームの小型化、ダイシングにより得られた半導体チップの超小型化、軽量化が進んでおり、硬化性オルガノポリシロキサンまたはその硬化物により精密塗布および微細パターンを形成してなる電子部品またはその前駆体が強く求められているが、特に、MEMS(micro electro mechanical systems)デバイスは、-70℃程度の低温~室温を含む幅広い温度領域で利用されるため、低温で使用された場合であっても、硬化物の弾性率の変化等に起因して、デバイスの信頼性が低下しないことが強く求められる。すなわち、電子部品用途において、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の精密塗布性および微細パターン形成性に加えて、塗布後の硬化物により高い耐寒性が求められている。
【0007】
組成物の耐寒性を向上する技術として、特許文献2~5に記載の技術が知られている。特許文献2においては、ゲル型のヒドロシリル化反応硬化物においてオルガノハイドロジェンシラン化合物および分子鎖末端のみにケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを一定の比率で併用することで、-75℃~25℃に於ける弾性率変化の抑制が可能であることを提案している。しかしながら、当該組成物はゲル状であり、精密塗布/微細パターンの形成に適さず、ダイアタッチ剤として十分な硬さを実現できない。一方、特許文献3および特許文献4においては、レジン構造のオルガノポリシロキサンまたは分岐状オルガノポリシロキサンを大量に使用することで、耐寒性を実現するものであるが、-70℃における耐寒性が不十分であることに加えて、精密塗布および微細パターン形成に適用できないという問題があった。
【0008】
特許文献5には、シリコーン接着シートの耐寒性改善を目的として、フェニル基を1モル%以上含むオルガノポリシロキサンの使用が提案されているが、当該文献はシート形成を目的としたものであり、精密塗布および微細パターン形成に関する課題は記載も示唆もされておらず、当該実施例等に記載の組成物は精密塗布および微細パターン形成に適用できないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2015-091576号公報
【文献】特開2018-009127号公報
【文献】特開2001-002922号公報
【文献】国際特許公開WO2012/050105号公報
【文献】特開平10-012546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、一液系でジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置による精密塗布および微細パターン形成が可能であり、その硬化性および取扱作業性に優れ、特に硬化物の耐寒性に優れ、幅広い温度領域で使用可能な硬化性オルガノポリシロキサン組成物、およびそれを用いたパターン形成方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該組成物またはその硬化物を備えた電子部品またはその前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
鋭意検討の結果、本発明者らは、組成物のレオロジー特性に着目し、高シェア領域から低シェア領域で、その粘度および流動性が大きく変化する硬化性オルガノポリシロキサン組成物であって、その組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が一定の範囲内にある組成物を使用することで、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明に到達した。すなわち、微細液滴塗布装置等からの吐出のためにシェアがかけられると組成物の流動性が上昇し、ノズル等からのスムーズな吐出が可能であるが、一旦ノズル等から吐出され、当該組成物が吐出時のシェアから開放されると、その流動性が大きく低下し、高粘度であり、ピンポイントの塗布領域からの飛散や広がり(流出)を生じない組成物であり、かつ、ケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が一定の範囲内にある組成物中の設計することにより、上記課題を解決可能である。また、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物により精密塗布および微細パターンを形成してなる電子部品またはその前駆体を得ることができ、上記課題を解決可能である。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が2.0Pa・s以下であり、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度の50.0倍以上の値となることを特徴とし、かつ、組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が1.0~6.0質量%の範囲である硬化性オルガノポリシロキサン組成物により解決される。当該組成物にあって、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が1.5Pa・s以下であり、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、50Pa・s以上の値であることが好ましい。また、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度の75.0倍以上の値であってよく、100.0倍以上であってもよい。また、組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量の範囲は、1.5~5.0質量%の範囲であってよく、好適には、2.0~4.0質量%の範囲であってよい。
【0013】
ここで、各ひずみ速度における粘度の測定方法としては、公知の方法を用いることができ、例えばアントンパール社製レオメータMCR-102を用いて、以下のような測定条件で測定する事ができる。
ジオメトリ:直径20mm、2度コーン型
プレシェア:10 (1/s)、60s
温度:25℃一定
平衡化時間(プレシェア後停止時間):60s
ひずみ速度分散:0.05 (1/s)から5000 (1/s)まで
ひずみ速度増加率:120s/decade
【0014】
また、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、その硬化系において限定されるものではないが、少なくともヒドロシリル化反応性のオルガノポリシロキサンを含むことが好ましく、 (A)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒、
(D)レーザー回折・散乱法により測定される平均粒子径が0.01~10μmの機能性充填剤 2.5~20.0質量部、
(E)1種類以上の接着促進剤、および
(F)ヒドロシリル化反応抑制剤
を含有してなり、(A)成分または(B)成分の少なくとも一部がケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノポリシロキサンである硬化性オルガノポリシロキサン組成物であってよい。特に、(A)成分の一部が、(A1)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであり、ケイ素原子結合芳香族官能基を2.0~25.0質量%の範囲で含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであることが好ましい。また、低ひずみ速度領域での高粘度および低い流動性の観点から、前記の成分(D)が、(D1)平均一次粒子径が0.01~0.5μmの範囲にある補強性充填剤を少なくとも有してもよい。また、特に、ノズル詰まりを防止する見地から、前記の成分(F)が、(F1)アセチレン系のヒドロシリル化反応抑制剤および(F2)シクロアルケニルシロキサン系のヒドロシリル化反応抑制剤の混合物であってもよい。
【0015】
また、本発明の目的は、一液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物により好適に達成され、特に、パターン形成用途に用いられる、上記のいずれかの一液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物により好適に達成される。ここで、パターンは、いわゆる微細パターンであることが好ましく、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の塗布領域であって、その形状が、縦横の長さが1000μmの枠内に収まる塗布領域または線幅1000μm以下の線状の領域、またはこれらの組み合わせであってよく、特に、これらの実質的に点状または線状の塗布領域が複数形成されてなる微細パターンであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の目的は、微細液滴塗布装置により適用される 一液型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物により好適に達成される。ここで、微細液滴塗布装置は、インクジェット塗布方式や、ディスペンサー塗布方式によるものがあるが、最も好適には、ジェットディスペンサーである。
【0017】
同様に、本発明の目的は、上記のいずれかの硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、微細液滴塗布装置により基材上に適用することを特徴とする、パターンの形成方法により達成される。ここで、前記のパターンは、当該組成物を、ノズル径が1000μm以下の微細液滴塗布装置を用いて、縦横の長さが1000μmの枠内に収まる塗布領域または線幅1000μm以下の線状の領域、またはこれらの組み合わせを少なくとも含むことが好ましく、実質的に点状の塗布領域が複数形成されてなる微細パターンであることが好ましい。また、上記のパターン形成方法は、微細液滴塗布装置として、ジェットディスペンサーを用いることが特に好ましい。
【0018】
また、本発明の目的は、少なくとも一部の領域に、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物が適用された構造を備える、電子部品またはその前駆体により解決される。上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物が適用された領域は、電子部品またはその前駆体の保護、封止、シールおよび被覆から選ばれる1種類以上の目的で形成されていることが好ましい。例えば、半導体チップ、電極または配線の保護、半導体チップや電極の封止、電子部品の間隙やギャップのシール、これらの被覆等が具体的な用途であり、上記の細密なパターンを用いた保護、封止、シールおよび被覆を意図していることが好ましい。
【0019】
上記の電子部品またはその前駆体は、電子部品が半導体装置であってよく、特に、電子部品がMEMSデバイスであってよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、一液系でジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置による精密塗布および微細パターン形成が可能であり、その硬化性および取扱作業性に優れ、特に硬化物の耐寒性に優れ、幅広い温度領域で使用可能な硬化性オルガノポリシロキサン組成物、およびそれを用いたパターン形成方法を提供することができる。さらに、当該組成物またはその硬化物を備えた電子部品またはその前駆体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を20mm×20mmのシリコンチップにジェットディスペンサーで塗布した結果であり、少量かつ精密な塗布径を実現している。
【
図2】実施例2にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を20mm×20mmのシリコンチップにジェットディスペンサーで塗布した結果であり、少量かつ精密な塗布径を実現している。
【
図3】比較例1にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を20mm×20mmのシリコンチップにジェットディスペンサーで塗布した結果であり、少量かつ精密な塗布径を実現している。しかしながら、当該塗布物の硬化物は耐寒性が不十分である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物]
本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、微細液滴塗布装置等からの吐出のためにシェアがかけられると組成物の流動性が上昇し、ノズル等からスムーズな吐出が可能であるが、一旦ノズル等から吐出され、当該組成物が吐出時のシェアから開放されると、その流動性が大きく低下し、高粘度になるという巨視的なレオロジー特性を有する。すなわち、本組成物は、微細液滴塗布装置等によるスムーズな吐出が可能でありながら、吐出から基材への適用までに流動性を急激に失って高粘度の液滴となり、目的とする点状の塗布領域から飛散ないし広がり(流出)が抑制されるものである。さらに、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、組成物中にケイ素原子結合芳香族官能基を一定量含有するため、硬化物中に芳香族官能基に由来する異種の分子配列がランダムに導入される。この結果、ケイ素原子結合芳香族官能基をほとんど含まない場合や、大量に含む結果として、硬化物の主たる分子構造がケイ素原子結合芳香族官能基である場合に比べ、-70℃等の低温においても硬化物の弾性率の変化が抑制され、耐寒性が改善されるとともに、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を備える電子部品の信頼性および低温耐久性が改善される。
【0023】
具体的には、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物の粘度は、そのひずみ速度(1/s)に依存して変化し、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が2.0Pa・s以下であり、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度の50.0倍以上の値となることを特徴とする。この粘度変化が大きいことは、組成物の高シェア領域から低シェア領域における流動性の変化が大きいことに対応しており、好適には、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度の75.0倍以上の値であり、100.0倍以上であることが好ましい。
【0024】
特に、ジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置等からの吐出性および精密塗布の見地から、当該組成物にあって、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が1.5Pa・s以下であり、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、50Pa・s以上の値であることが好ましい。ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が小さいほど、ジェットディスペンサー等から容易に吐出され、ノズル詰まり等の問題を生じないので、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度は、0.30~1.50Pa・sの範囲、0.50~1.40Pa・sの範囲であってよい。一方、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が高いほど、目的とする点状の塗布領域から飛散ないし広がり(流出)が抑制されるので、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度は、上記のひずみ速度1,000(1/s)における粘度の50倍以上であることを前提として、50.0~500.0Pa・sの範囲、55.0~300.0Pa・sの範囲、または55.0~275.0の範囲であってよい。
【0025】
上記の性質は、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物がチキソトロピー性を有することを反映している。なお、このような特性のうち、組成物の高シェア領域における粘度は、主としてポリマー成分(オルガノポリシロキサン)の選択により設計可能であり、組成物の低シェア領域における粘度は、主として充填剤の選択によりその設計が可能である。ただし、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の特性を満たす限り、特にその構成成分、硬化系、オルガノポリシロキサンおよびその充填剤等の種類に制限されるものではなく、硬化物の特性や利用目的に応じ、所望の組成設計が可能である。
【0026】
さらに、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、組成物中に一定量のケイ素原子結合芳香族官能基を含有することを特徴とする。ケイ素原子結合芳香族官能基は、上記のとおり、硬化時にシロキサン分子配列にランダムに導入されることで、主としてジメチルポリシロキサン基等からなる配列中に一定の割合でケイ素原子結合芳香族官能基を含むシロキサン配列が形成される。このため、分子の配列が適度に不均質になり、-70℃等の低温においても硬化物の弾性率の変化が抑制され、耐寒性が改善されるとともに、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を備える電子部品の信頼性および低温耐久性が改善される。ここで、組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量は1.0~6.0質量%の範囲であり、特に有機溶媒等を除いた、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物形成成分(後述する(A)~(F)成分)の総量に対して、ケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が1.0~6.0質量%の範囲であることが好ましく、組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が1.5~5.0質量%の範囲であることがより好ましく、2.0~4.0質量%の範囲が特に好ましい。組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が前記下限未満では、硬化物の耐寒性を十分に改善できず、特に-70℃等の低温下において、急激に弾性が変化し、当該硬化物を用いる電子部品の信頼性および低温耐久性が低下する原因となる。
【0027】
ケイ素原子結合芳香族官能基は、ケイ素原子に結合したアリール基またはアラルキル基である芳香族官能基であって、フェニル基、トリル基、キシリル基、およびナフチル基から選ばれる1種類以上のアリール基であることが好ましく、工業生産上の見地から、フェニル基が特に好ましい。組成物中に、ケイ素原子結合芳香族官能基を導入する手段は任意であるが、硬化反応性オルガノポリシロキサンの一部がケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましく、その場合、ケイ素原子結合芳香族官能基を2.0~25.0質量%の範囲で含有する硬化反応性オルガノポリシロキサンを使用することが好ましい。
【0028】
上記のとおり、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化系において特に制限されるものではなく、ヒドロシリル化反応、縮合反応、ラジカル反応、高エネルギー線反応等の硬化反応性の官能基を少なくとも1種類以上、組成物中に含有することが好ましい。ここで、取扱作業性および速やかな硬化が可能であることから、本組成物は、ヒドロシリル化反応性の官能基を有することが好ましく、所望により、縮合反応性の官能基や高エネルギー線反応性の官能基をさらに有してもよく、過酸化物等によるラジカル反応を併用してもよい。
【0029】
好適には、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、
(A)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン 100質量部、
(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン:成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が0.2~5モルとなる量、
(C)触媒量のヒドロシリル化反応用触媒、
(D)レーザー回折・散乱法により測定される平均粒子径が0.01~10μmの機能性充填剤 2.5~20.0質量部、
(E)1種類以上の接着促進剤、および
(F)ヒドロシリル化反応抑制剤
を含有してなり、(A)成分または(B)成分の少なくとも一部がケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノポリシロキサンである硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。当該組成物は、さらに、(G)耐熱性付与剤を含有してもよい
【0030】
[(A)アルケニル基含有オルガノポリシロキサン]
成分(A)であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、本組成物の主剤であり、25℃における粘度が10~100,000mPa・sの範囲内である。ここで、「25℃における粘度」とは、回転粘時計等により成分(A)単独で測定される動粘度である。また、成分(A)の少なくとも一部は、(A1)25℃における粘度が10~100,000mPa・sであり、ケイ素原子結合芳香族官能基を2.0~25.0質量%の範囲で含有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0031】
成分(A)の25℃における粘度は、10~100,00mPa・sの範囲内であることが好ましく、10~10,000mPa・sの範囲内であることがより好ましい。成分(A)の粘度が10mPa・s未満であると、特に組成物のひずみ速度0.1(1/s)における粘度が過度に低下し、上記のレオロジー特性を実現できない場合がある。一方、成分(A)の25℃における粘度100,000mPa・sを超えると、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が2.0Pa・s以下の組成物を設計することが困難となり、また、取扱作業性およびギャップフィル性が低下する傾向がある。
【0032】
成分(A)は、1種又は2種以上のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンで構成される。こうしたアルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子構造は、特に限定されず、例えば、直鎖状、分枝鎖状、環状、三次元網状構造、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。成分(A)は、直鎖状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのみからなっていてもよく、分枝構造を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのみからなっていてもよく、または、直鎖状のオルガノポリシロキサンと分枝構造を有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとの混合物からなっていてもよい。また、分子内のアルケニル基として、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が例示される。また、成分(A)中のアルケニル基以外の有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等のアルケニル基を除く一価炭化水素基が例示される。成分(A)の少なくとも一部は、アルケニル基に加えて、ケイ素原子結合芳香族官能基を有するものであり、特に、フェニル基、トリル基、キシリル基、およびナフチル基から選ばれる1種類以上のアリール基をさらに有する。
【0033】
特に好適には、成分(A)は、直鎖状のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンである。この場合、アルケニル基の結合部位は特に制限されず、分子鎖の末端でもよく、主鎖を構成するポリシロキサン上のケイ素原子を介してその側鎖に結合した形態であってもよい。また、分子鎖両末端にアルケニル基を含有してもよく、分子鎖両末端のみにアルケニル基を含有していてもよい。
【0034】
こうした成分(A)としては、特に限定されないが、例えば、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、これらの重合体のメチル基の一部がエチル基、プロピル基等のメチル基以外のアルキル基や3,3,3-トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基で置換された重合体、これらの重合体のビニル基がアリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のビニル基以外のアルケニル基で置換された重合体、およびこれらの重合体の2種以上の混合物が挙げられる。なお、これらのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5))が低減ないし除去されていることが好ましい。
【0035】
成分(A1)であるケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノポリシロキサンは、成分(A)全体の5~50質量%の範囲内で配合してよく、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、および、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体から選ばれる1種類以上であって、分子内のケイ素原子結合フェニル基の含有量が2.0~25.0質量%の範囲、より好適には3.0~15.0質量%の範囲であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを成分(A1)の少なくとも一部として使用することが好ましい。
【0036】
本発明の成分(A)は、さらに、ケイ素原子に結合した一般式:
【化1】
(式中、R
1は同じかまたは異なる、脂肪族不飽和結合を有さない一価炭化水素基であり、R
2はアルキル基であり、R
3は同じかまたは異なるアルキレン基であり、aは0~2の整数であり、pは1~50の整数である。)
で表されるアルコキシシリル含有基を有しても良い。これらの官能基を有するオルガノポリシロキサンは、未硬化状態における組成物の増粘を抑制し、かつ分子中にアルコキシシリル基を有するため、成分(D)の表面処理剤としても機能する。このため、得られる組成物の増粘やオイルブリードが抑制され、取扱作業性が損なわれないという恩恵を得られる場合がある。
【0037】
成分(A)は、単独で組成物に配合してもよく、後述する成分(D)と共に混練し、マスターバッチ等の形態で組成物に配合してもよい。成分(A)の一部である成分(A1)についても、同様である。
【0038】
[(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン]
成分(B)は、本発明の組成物の主たる架橋剤であり、好適には分子内に2個以上のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが特に制限なく利用できる。なお、本発明組成物を硬化して得られる硬化物の柔軟性の見地から、オルガノハイドロジェンポリシロキサンの構造および分子中のケイ素原子結合水素原子の個数(平均値)を設計してよい。例えば、得られるオルガノポリシロキサン硬化物の柔軟性や部材からの剥離性に優れ、修繕・再利用等のリペア性を改善する見地から、少なくとも2個を分子鎖側鎖に有する直鎖状のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを鎖長延長剤として利用してもよく、硬度の高い硬化物を得る目的で、側鎖に多数のケイ素原子結合水素原子オルガノハイドロジェンポリシロキサンを架橋剤として用いてもよく、これらを併用してもよい。また、成分(B)の一部は、分子内に2個以上のケイ素原子結合水素原子を有し、かつ、ケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであってよい。特に、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物が上記の成分(A)~(F)からなる組成物であって、成分(A)中に十分なケイ素原子結合芳香族官能基が含まれない場合には、成分(B)が十分なケイ素原子結合芳香族官能基を有することが、耐寒性の改善のために必要になる。ただし、成分(A)中に十分なケイ素原子結合芳香族官能基を含む場合、成分(B)は、ケイ素原子結合芳香族官能基を含まないオルガノハイドロジェンポリシロキサンであってよい。
【0039】
[組成物中のオルガノハイドロジェンポリシロキサン(架橋剤)の量]
本発明の組成物は、成分(B)について、少なくとも成分(A)に含まれるアルケニル基1モルに対して、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子が0.2~50モルの範囲でよく、0.2~30モルの範囲でよく、0.2~10、0.2~5モルとなる量の範囲であってよい。
【0040】
このような成分(B)は、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンシロキシ基含有シロキサンレジン、環状メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、環状メチルハイドロジェンポリシロキサンが例示される。なお、これらの例示は非限定的であり、メチル基の一部はC2以上のアルキル基、フェニル基、水酸基、アルコキシ基、ハロゲン原子置換アルキル基等で置換されていてもよい。
【0041】
成分(B1)の25℃における粘度は特に限定されないが、好ましくは、1~500mPa・sの範囲内であり、さらに、接点障害防止等の見地から、低分子量のシロキサンオリゴマー(オクタメチルテトラシロキサン(D4)、デカメチルペンタシロキサン(D5))が低減ないし除去されていることが好ましい。
【0042】
[(C)ヒドロシリル化反応用触媒]
ヒドロシリル化反応用触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が例示され、本組成物の硬化を著しく促進できることから白金系触媒が好ましい。この白金系触媒としては、白金微粉末、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体、およびこれらの白金系触媒を、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した触媒が例示され、特に、白金-アルケニルシロキサン錯体が好ましい。このアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示される。特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。加えて、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、熱可塑性樹脂で分散あるいはカプセル化した微粒子状の白金含有ヒドロシリル化反応触媒を用いてもよい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0043】
ヒドロシリル化反応用触媒の添加量は触媒量であり、成分(A)に対して、金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量、0.01~100ppmの範囲内となる量、あるいは、0.01~50ppmの範囲内となる量であることが好ましい。
【0044】
[(D)機能性充填剤]
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、さらに、(D)機能性充填剤を含有することが好ましい。当該機能性充填剤は補強性充填剤、熱伝導性充填剤および導電性充填剤から選ばれる1種類以上であることが好ましく、特に、本発明組成物を保護剤または接着剤用途で使用する場合には、補強性充填剤を含有することが好ましい。また、これらの機能性充填剤の微粉末の粒子径は、特に限定されないが、例えばレーザー回折散乱式粒度分布測定によるメジアン径(以下、単に「平均粒子径」)で0.01μm~10μmの範囲内であることが好ましい。本発明組成物は直径1000μm以下の領域に精密塗布することに適することから、大粒子径の機能性充填剤を含まないことが好ましい。なお、平均粒子径は機能性充填剤の種類に応じて平均一次粒子径と二次粒子径のいずれかの概念を包摂するものであるが、特に補強性充填剤においては、平均一次粒子径が上記範囲にあることが好ましい。
【0045】
補強性充填剤は、本組成物を硬化して得られるシリコーンゴム硬化物に機械的強度を付与し、保護剤または接着剤としての性能を向上させるための成分である。このような補強性フィラーとしては、例えば、ヒュームドシリカ微粉末、沈降性シリカ微粉末、焼成シリカ微粉末、ヒュームド二酸化チタン微粉末、石英微粉末、炭酸カルシウム微粉末、ケイ藻土微粉末、酸化アルミニウム微粉末、水酸化アルミニウム微粉末、酸化亜鉛微粉末、炭酸亜鉛微粉末、カーボンブラック等の無機質充填剤を挙げることができ、これらの無機質充填剤をメチルトリメトキシシラン等のオルガノアルコキシシラン、トリメチルクロロシラン等のオルガノハロシラン、ヘキサメチルジシラザン等のオルガノシラザン、α,ω-シラノール基封鎖ジメチルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルフェニルシロキサンオリゴマー、α,ω-シラノール基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマー等のシロキサンオリゴマー等の処理剤により表面処理した無機質充填剤を含有してもよい。特に、分子鎖両末端にシラノール基を有する低重合度のオルガノポリシロキサン、好適には、分子中に当該末端シラノール基以外の反応性官能基を有しないα,ω-シラノール基封鎖ジメチルポリシロキサンにより成分(D)の表面を予め処理することにより、低温かつ短時間で優れた初期接着性、接着耐久性および接着強度を実現でき、さらに十分な使用可能時間(保存期間および取り扱い作業時間)を確保できる場合がある。特に、本発明の技術的硬化の見地から、上記のいずれかの表面処理行った、(D1)平均一次粒子径が0.01~0.5μmの範囲にある補強性充填剤、特に、オルガノシラザン等で処理されたシリカ微粉末であって、平均一次粒子径が0.01~0.30μmの範囲にあるものが好適である。
【0046】
補強性充填剤の含有量は、限定されないが、前記のオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~20.0質量部の範囲内であることが好ましく、1.0~15.0質量部、2.0~10.0質量部の範囲であることが、特に、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度を改善する効果から好ましい。また、成分(D)の配合性の見地から、成分(D)の一部又は全部は、前記の成分(A)と事前に混練し、成分(D)、成分(A)および成分(D)の表面処理剤を含むマスターバッチの形態で組成物に配合してもよい。なお、成分(A)の少なくとも一部は、成分(A1)である、ケイ素原子結合芳香族官能基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0047】
熱伝導性充填剤または導電性充填剤は、所望により、本組成物を硬化して得られるシリコーンゴム硬化物に熱伝導性または電気伝導性を付与する成分であり、金、銀、ニッケル、銅等の金属微粉末;セラミック、ガラス、石英、有機樹脂等の微粉末表面に金、銀、ニッケル、銅等の金属を蒸着またはメッキした微粉末;酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属化合物、およびこれらの2種以上の混合物が例示される。特に好適には、銀粉末、アルミニウム粉末、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、窒化アルミニウム粉末またはグラファイトである。また、本組成物に、電気絶縁性が求められる場合には、金属酸化物系粉末、または金属窒化物系粉末であることが好ましく、特に、酸化アルミニウム粉末、酸化亜鉛粉末、または窒化アルミニウム粉末であることが好ましい。
【0048】
[(E)接着促進剤]
本発明に係る組成物は、(E)1種類以上の接着促進剤を含むことが好ましく、具体的には、以下の成分成分(e1)~(e4)から選ばれる1種類以上の接着促進剤を含むことが好ましい。これらの成分を含有することで、未洗浄のアルミダイキャストや樹脂材料への初期接着性に優れ、過酷な環境下で使用した場合であっても、接着耐久性と接着強度にさらに改善され、電気・電子部品の信頼性・耐久性を長期間に渡って維持することを可能とするものである。
(e1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物
(e2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(e3) 一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物
(e4) ビニル基含有シロキサンオリゴマー(鎖状または環状構造のものを含む)とエポキシ基含有トリアルコキシシランとの反応混合物
【0049】
成分(e1)は、アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物である。このような成分(e1)は、硬化途上で接触している各種基材に対する初期接着性、特に未洗浄被着体に対しても低温接着性を付与するための成分である。また、本接着促進剤を配合した硬化性組成物の硬化系によっては、架橋剤としても作用する場合もある。このような反応混合物は、特公昭52-8854号公報や特開平10-195085号公報に開示されている。
【0050】
このような成分(e1)を構成するアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとしては、アミノメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)アミノメチルトリブトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アニリノプロピルトリエトキシシランが例示される。
【0051】
また、エポキシ基含有オルガノアルコキシシランとしては、3-グリシドキシプロリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランが例示される。
【0052】
これらアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとの比率はモル比で、(1:1.5)~(1:5)の範囲内にあることが好ましく、(1:2)~(1:4)の範囲内にあることが特に好ましい。この成分(e1)は、上記のようなアミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとを混合して、室温下あるいは加熱下で反応させることによって容易に合成することができる。
【0053】
特に、本発明においては、特開平10-195085号公報に記載の方法により、アミノ基含有有機基を有するアルコキシシランとエポキシ基含有有機基を有するアルコキシシランとを反応させる際、特に、アルコール交換反応により環化させてなる、一般式:
【化2】
{式中、R
1はアルキル基またはアルコキシ基であり、R
2は同じかまたは異なる一般式:
【化3】
(式中、R
4はアルキレン基またはアルキレンオキシアルキレン基であり、R
5は一価炭化水素基であり、R
6はアルキル基であり、R
7はアルキレン基であり、R
8はアルキル基、アルケニル基、またはアシル基であり、aは0、1、または2である。)
で表される基からなる群から選択される基であり、R
3は同じかまたは異なる水素原子もしくはアルキル基である。}
で表されるカルバシラトラン誘導体を含有することが特に好ましい。このようなカルバシラトラン誘導体として、以下の構造で表される1分子中にアルケニル基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシラトラン誘導体が例示される。
【化4】
【0054】
成分(e2)は一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し、かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物であり、単独でも初期接着性を改善するほか、特に前記の成分(e1)および成分(e3)と併用することにより本接着促進剤を含んでなる硬化物に苛酷な条件下での接着耐久性を向上させる働きをする。
【0055】
特に、成分(e2)は、下記の一般式:
【化5】
(式中、R
Cは置換または非置換の炭素原子数2~20のアルキレン基であり、R
Dは各々独立にアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、R
Eは各々独立に一価炭化水素基であり、bは各々独立に0または1である。)で示されるジシラアルカン化合物が好適である。かかる成分(e2)は各種化合物が試薬や製品として市販されており,また必要ならグリニャール反応やヒドロシリル化反応等,公知の方法を用いて合成することができる。例えば、ジエンとトリアルコキシシランまたはオルガノジアルコキシシランとをヒドロシリル化反応させるという周知の方法により合成することができる。
【0056】
式中、REはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基等のアリール基で例示される一価炭化水素基であり、低級アルキル基が好ましい。RDはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基であり、その炭素原子数が4以下のものが好ましい。RCは置換または非置換のアルキレン基であり、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基が制限なく用いられ、これらの混合物であっても良い。接着性改善の見地から、炭素数は2~20の直鎖および/または分岐鎖状のアルキレン基が好ましく、炭素原子数5~10の直鎖および/または分岐鎖状のアルキレン、特に炭素原子数6のヘキシレンが好ましい。非置換アルキレン基はブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基またはこれらの分岐鎖状体であり、その水素原子がメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基によって置換されていても構わない。
【0057】
成分(e2)の具体例としては、ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2-ビス(メチルジメトキシシリル)エタン、1,2-ビス(メチルジエトキシシリル)エタン、1,1-ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ブタン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ブタン、1-メチルジメトキシシリル-4-トリメトキシシリルブタン、1-メチルジエトキシシリル-4-トリエトキシシリルブタン、1,4-ビス(メチルジメトキシシリル)ブタン、1,4-ビス(メチルジエトキシシリル)ブタン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,5-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ペンタン、1,4-ビス(トリエトキシシリル)ペンタン、1-メチルジメトキシシリル-5-トリメトキシシリルペンタン、1-メチルジエトキシシリル-5-トリエトキシシリルペンタン、1,5-ビス(メチルジメトキシシリル)ペンタン、1,5-ビス(メチルジエトキシシリル)ペンタン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1-メチルジメトキシシリル-6-トリメトキシシリルヘキサン、1-フェニルジエトキシシリル-6-トリエトキシシリルヘキサン、1,6-ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサン、1,7-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、2,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘプタン、1,8-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、2,7-ビス(トリメトキシシリル)オクタン、1,9-ビス(トリメトキシシリル)ノナン、2,7-ビス(トリメトキシシリル)ノナン、1,10-ビス(トリメトキシシリル)デカン、3,8-ビス(トリメトキシシリル)デカンが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を混合しても良い。本発明において、好適には、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,6-ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,4-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、2,5-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1-メチルジメトキシシリル-6-トリメトキシシリルヘキサン、1-フェニルジエトキシシリル-6-トリエトキシシリルヘキサン、1,6-ビス(メチルジメトキシシリル)ヘキサンが例示できる。
【0058】
成分(e3)は、一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物であり、単独でも初期接着性を改善するほか、特に前記の成分(e1)および成分(e2)と併用することにより本接着促進剤を含んでなる硬化物に塩水浸漬などの苛酷な条件下での接着耐久性を向上させる働きをする。なお、成分(e3)は、成分(e1)の構成成分の一つであるが、反応物である成分(e1)(典型的には、環化した反応物であるカルバシラトラン誘導体)との質量比が特定の範囲にあることが発明の技術的効果の点から必要であり、成分(e1)とは別個の成分として添加されることが必要である。
【0059】
このようなエポキシ基含有シランとしては、3-グリシドキシプロリルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランが例示される。
【0060】
成分(e4)は、R1 SiO3/2(R1はエポキシ基)で表されるエポキシシロキシ単位とビニルシロキシ単位を分子内に有する接着促進剤であり、特開平01-085224号公報に記載の成分である。かかる接着促進剤は、3-グリシドキシプロリルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有トリアルコキシシランと、水酸基(シラノール基)を分子鎖両末端に有する鎖状ビニル基含有シロキサンオリゴマーまたはテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等の環状ビニル基含有シロキサンオリゴマーをアルカリ化合物の存在下で加水分解反応させることで得ることができる(上記特許文献参照)。
【0061】
(E)接着促進剤はの配合量は限定されないが、好適には、上記の成分(e1)~(e4)の和である(E)接着促進剤の質量が、硬化性オルガノポリシロキサン組成物中に0.1~20質量%の範囲であってよく、0.3~10質量%、特に、0.5~5.0質量%含有していることが好ましい。
【0062】
[(F)ヒドロシリル化反応抑制剤]
本発明の組成物には、その取扱作業性の見地から、さらにヒドロシリル化反応抑制剤を含むことが好ましい。ヒドロシリル化反応抑制剤は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物のヒドロシリル化反応を抑制するための成分であって、具体的には、例えば、エチニルシクロヘキサノールのようなアセチレン系、アミン系、カルボン酸エステル系、亜リン酸エステル系等の反応抑制剤が挙げられる。反応抑制剤の添加量は、通常、シリコーン組成物全体の0.001~5質量%である。特に、シリコーン組成物の取扱作業性を向上させる目的では、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-フェニル-1-ブチン-3-オール等のアセチレン系化合物;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のシクロアルケニルシロキサン;ベンゾトリアゾール等のトリアゾール化合物等が特に制限なく使用することができる。
【0063】
特に、本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、ジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置により、直径1000μm以下のノズルから精密塗布により適用される形態での使用に適する。かかる高シェア条件下でも硬化反応をコントロールし、ノズル詰まり等を抑制する見地から、成分(F)は、(F1)アセチレン系のヒドロシリル化反応抑制剤および(F2)シクロアルケニルシロキサン系のヒドロシリル化反応抑制剤の混合物であってよく、特に、エチニルシクロヘキサノール、および1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサンの組み合わせが好ましい。
【0064】
[(G)耐熱性付与剤]
本発明組成物は、前記の成分(A)~(F)、任意で他の架橋剤およびヒドロシリル化反応抑制剤を含んでなるものであるが、硬化性オルガノポリシロキサン組成物およびその硬化物の耐熱性改善の見地から、さらに、(G)耐熱性付与剤を含有することが好ましい。成分(G)として、本発明の組成物およびその硬化物に耐熱性を付与できるものならば特に限定されないが、例えば、酸化鉄、酸化チタン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物、水酸化セリウム等の金属水酸化物、フタロシアニン化合物、カーボンブラック、セリウムシラノレ-ト、セリウム脂肪酸塩、オルガノポリシロキサンとセリウムのカルボン酸塩との反応生成物等が挙げられる。特に好適には、フタロシアニン化合物であり、例えば、特表2014-503680号公報に開示された無金属フタロシアニン化合物及び金属含有フタロシアニン化合物からなる群より選択される添加剤が好適に用いられ、金属含有フタロシアニン化合物のうち、銅フタロシアニン化合物が特に好適である。最も好適かつ非限定的な耐熱性付与剤の一例は、29H,31H-フタロシアニナト(2-)-N29,N30,N31,N32銅である。このようなフタロシアニン化合物は市販されており、例えば、PolyOne Corporation(Avon Lake,Ohio,USA)のStan-tone(商標)40SP03がある。
【0065】
このような成分(G)の配合量は、組成物全体の0.01~5.0質量%の範囲内とするであってよく、0.05~0.2質量%、0.07~0.1質量%の範囲であってもよい。
【0066】
[その他の添加剤]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記した成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で任意成分を配合することができる。この任意成分としては、例えば、任意の架橋剤成分として、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン等の3官能性アルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等の4官能性アルコキシシラン;およびこれらの部分加水分解縮合物を含んでも良い。さらに、本組成物は、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ヘキサン、ヘプタン等の有機溶剤;ケイ素原子結合水素原子およびケイ素原子結合アルケニル基を含有しないオルガノポリシロキサン、耐寒性付与剤、難燃性付与剤、顔料、染料等が挙げられる。また、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、所望により、その他の公知の接着性付与剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、または非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;誘電性フィラー;電気伝導性フィラー;離型性成分;チクソ性付与剤;防カビ剤などを含むことができる。
【0067】
[組成物の製造方法]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の各成分を均一に混合することにより調製でき、例えば、事前に成分(A)の一部と成分(D)を混合してマスターバッチを形成した後、残りの成分(A)~(C)、成分(E)、成分(F)並びに成分(G)等の他の任意の成分を混合することにより調製できる。ただし、本組成物の製造時における添加の順序はこれに限定されるものではない。
【0068】
各成分の混合方法は、従来公知の方法でよく特に限定されないが、通常、単純な攪拌により均一な混合物となることから、混合装置を用いた混合が好ましい。こうした混合装置としては特に限定がなく、一軸または二軸の連続混合機、二本ロール、ロスミキサー、ホバートミキサー、デンタルミキサー、プラネタリミキサー、ニーダーミキサー、ヘンシェルミキサー等が例示される。
【0069】
[組成物の形態およびパッケージ]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、一成分型(一液型を含む)の組成物として用いることが好ましく、組成物の各構成成分を単一の保存容器に入れて、ジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置により使用することができる。なお、これらのパッケージは、後述する硬化方法や塗布手段、適用対象に応じて所望により選択することができ、特に制限されない。
【0070】
[塗布およびパターン形成]
パターンの製造方法は、基材を準備する工程を含む。基材は略平坦または回路配置等に伴う起伏/凹凸を備えた固体基板であってよく、その材質は特に限定されないが、アルミニウム、鉄、亜鉛、銅、マグネシウム合金等の金属、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ABS、PA、PBT、PC、PPS、SPS等のプラスチック、及びガラスが挙げられる。なお、基材の厚みは特に制限されないが、0.1~10mmであってよい。
【0071】
[適用方法]
硬化性ポリオルガノシロキサン組成物を適用する方法は、特に限定されないが、本発明の利点を活用するためには、微細液滴塗布装置を用いて上記基材上に適用することが好ましい。
【0072】
本発明に利用できる微細液滴塗布装置としては、インクジェット塗布方式や、ディスペンサー塗布方式によるものがあるが、本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、ディスペンサー塗布方式による微細液滴塗布装置による塗布に特に好ましく用いることが出来る。ディスペンサー塗布方法には、エアー方式、バルブ方式、スクリュー方式、容積方式、ジェット方式のディスペンサーがあるが、微細パターン塗布の観点から、ジェットディスペンサーが好ましい。さらに、ジェットディスペンサーには、エアーバルブ方式、ソレノイド方式、ピエゾ方式があり、そのうちより微細パターン塗布の観点から、ピエゾ方式が好ましい。微細液滴吐出装置で吐出する硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の液滴の大きさおよびワンショットの液滴重量は、微細液滴塗布装置および吐出条件の選択により設計可能であるが、液滴重量が50μg以下、30μg以下、25μg以下とすることができ、装置によっては、より微少量である10μgの液滴重量であっても設計可能である。
【0073】
これらの微細液滴塗布装置を用いることにより、硬化性部分の塗布量、硬化性部分の液滴の着弾位置を精密に制御することができ、高密度なパターン(すなわち、硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の硬化物)を形成することができる。
【0074】
これらの微細液滴塗布装置は、液滴状で組成物を吐出するためのノズルを備えることが一般的である。その塗布ノズル径は、特に限定されないが、精密な点状の塗布を行う目的では、そのノズル径が1000μm以下であることが必要であり、50~200μmであるのが好ましく、100~150μmであるのが特に好ましい。本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、高シェア時に流動性が改善されるため、塗布ノズル径が50μm以上であれば、安定して、液滴塗布を行うことができ、塗布ノズル径が200μm以下であれば、短時間でより多量の液滴塗布を行うことができる利点があり、かつ、液滴は見かけ上、吐出の瞬間から流動性が急激に低下して増粘するために、精密塗布を可能にする。
【0075】
ディスペンシング頻度は、特に限定されないが、1ms/ショット~10s/ショットが好ましく、1ms/ショット~10ms/ショットが好ましい。また、ノズルの移動速度は、特に限定されないが、1~300mm/secが好ましく、50~100mm/secがより好ましい。ただし、これらのディスペンシング頻度及びノズルの移動速度は、装置及び目的に応じて適宜設定できる。
【0076】
[パターン形成]
本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、上記の微細液滴塗布装置を用いて基材上に適用することにより、基材上に微細な点状または線状の塗布領域を含むパターンを形成可能である。
【0077】
パターンを構成する各々の塗布領域は、点状または線状であり、微細領域であることから、縦横の長さが1000μmの枠内に収まる塗布領域(特に、直径1000μm以下の枠内に収まる略円状の領域)または線幅1000μm以下の線状の領域であることが好ましい。本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、精密なパターンを形成することに特に適するため、各々の塗布領域は、微細液滴塗布装置および吐出条件の選択により、直径800μm以下の枠内に収まる略円状の領域、線幅800μm以下の線状の領域またはこれらの組み合わせから構成されたパターンであってよい。また、当該塗布領域は、5~500μmの枠内に収まる略円状の領域、線幅5~500μmの線状の領域またはこれらの組み合わせから構成されたパターンとなるように設計することも可能である。また、パターンを構成するこれらの微細な塗布領域は同一基材上に2以上あることが好ましく、複数の微細な塗布領域が基材上に一定の間隔で分布したパターンを形成していてもよい。なお、塗布領域の間隔は任意に設計可能であるが、5.0mm以下の間隔であってよく、0.5~4.5mmの範囲の間隔に設計してもよい。
【0078】
パターンを構成する各々の塗布領域は微細液滴塗布装置から吐出される液滴から形成されるものであり、その厚みは、特に限定されず、ジェットディスペンサー等の微細液滴塗布装置の種類および用途に応じ、適宜設計可能である。例えば、液滴一滴(ワンショット)あたりの塗布厚みは、1~1000μmの範囲であってよく、1~500μmであるのがより好ましく、1~300μmであるのが特に好ましい。
【0079】
さらに、本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、見かけ上、吐出された液滴が流動性を急激に失って増粘するような挙動を見せるので、同一の塗布領域に多層的に精密塗布しても飛散や流出(広がり)が起き難く、多層化により組成物の塗布厚を調整しやすいという利点がある。たとえば、一点の塗布領域に連続的にショットすることで、硬化性オルガノポリシロキサンが多層的に塗布された箇所(外見としては、物理的に盛り上がった塗布領域となる)を精度よく形成することも可能である。
【0080】
[本組成物およびパターンの用途]
本組成物は、上記のパターンを備えた電子部品、画像表示装置等の製造に有用であり、例えば、電子部品等の製造において、ダム材を形成するための方法に用いることができる。ダム材は、電子部品や画像表示装置の表示部又は保護部に枠を形成するために用いられ、この枠内に封止剤を適用することにより、封止剤が、表示部等からはみ出したりすることを防止することができる。ここで、本発明の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物は、一液型の組成物であり、ヒドロシリル化反応を含む硬化系を選択した組成にすることによって、短時間かつ容易に硬化物を形成することから、これらの電子部品、画像表示装置等の工業的生産における歩留まりと生産効率を改善できる利点がある。
【0081】
[電気・電子機器]
前記の領域に塗布された硬化性オルガノポリシロキサン組成物は加熱等の手段により硬化して硬化物を形成する。当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物またはその硬化物を適用する目的は任意であるが、半導体部材においては、電子部品またはその前駆体の保護、封止、シールおよび被覆から選ばれる1種類以上の目的で形成されていることが好ましい。例えば、半導体チップ、電極または配線の保護、半導体チップや電極の封止、電子部品の間隙やギャップのシール、これらの被覆等が具体的な用途であり、上記の細密なパターンを用いた保護、封止、シールおよび被覆を意図していることが好ましい。基材上の当該硬化物からなる微細なパターンは、電子部品、画像表示装置、MEMSデバイス等の工業的生産に広く利用可能である。また、当該硬化物は、-70℃~室温の幅広い温度範囲で使用することができ、特に-70℃等の低温で使用しても硬化物の弾性が大きく変化しないことから耐寒性に優れ、これらの電子部品等に使用した場合に、その信頼性および低温耐久性をさらに改善できる利点がある。
【0082】
[硬化性]
本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、好適にはヒドロシリル化反応により硬化して、オルガノポリシロキサン硬化物を形成する。このヒドロシリル化反応硬化型のシリコーン組成物を硬化するための温度条件は、特に限定されないが、通常20℃~200℃の範囲内であり、より好ましくは20~180℃の範囲内である。所望により、高温短時間で硬化させてもよく、短時間かつ容易に硬化物を形成することから、これらの電子部品、画像表示装置、MEMSデバイス等の工業的生産における歩留まりと生産効率を改善できる利点がある。ただし、所望により、上記組成物を室温等の低温で長時間(例えば数時間~数日)かけて硬化させてもよく、特に制限されるものではない。
【0083】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は基材上にパターンを形成した後、所望の硬化条件で硬化することにより、基材上に当該硬化物からなる微細なパターンを形成することができ、電子部品、画像表示装置等の工業的生産に広く利用可能である。
【0084】
[電子部品またはその前駆体への適用]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、少なくとも一部の領域に適用することで、当該組成物またはその硬化物が適用された構造を備える電子部品またはその前駆体を提供することができる。すなわち、本発明にかかる電子部品またはその前駆体は、上記の硬化性ポリオルガノシロキサン組成物がその少なくとも一部の領域に適用されていればよく、適用された領域が前記のパターンを形成することが特に好ましい。
【0085】
電子部品またはその前駆体は、ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、モノリシックIC、ハイブリッドIC、LSI、VLSI等の公知の半導体装置またはその前駆体であってよく、特に、MEMSデバイスまたはその前駆体であってよい。ここで、MEMSデバイスとは、一般的にMicro Electro Mechanical Systemsと呼ばれる半導体微細加工技術を用いて形成された半導体装置の総称であり、MEMSチップを備えた加速度センサや角速度センサなどの慣性センサ、画像表示装置等であってよい。また、半導体装置等の前駆体とは、その後の配線やチップの配置、加熱等によるチップ等のダイボンディングにより半導体装置として完成する以前の未完成の電子部品の総称であり、配線やチップの搭載といった仕上げ前の状態で流通し、輸出入される電子部品用部材一般を含む概念である。
【0086】
[電子部品またはその前駆体の製造方法]
本発明にかかる電子部品またはその前駆体は、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、微細液滴塗布装置を用いて適用する工程を少なくとも備える、電子部品またはその前駆体の製造方法により得ることができる。その適用条件や適用領域等は前記のとおりであり、特に、当該硬化性オルガノポリシロキサンを適用する領域が、直径500μm以下の枠内に収まる略円状の領域、線幅500μm以下の線状の領域またはこれらの組み合わせから構成されたパターン組成物を前記のパターンであってよく、微細液滴塗布装置はノズル径50~200μmの吐出口を備えたジェットディスペンサーであることが特に好ましい。また、本発明の電子部品またはその前駆体の製造方法は、上記の工程に加えて、所望により、ウェハの保護膜形成工程や半導体基材への配線処理工程、チップと電極の接続工程、研磨処理工程や一部又は全部の封止工程などを所望のタイミングで含めてよいことはいうまでもない。
【0087】
[電気・電子機器の具体例]
本発明にかかる電子部品またはその前駆体は、ダイオード、トランジスタ、サイリスタ、モノリシックIC、ハイブリッドIC、LSI、VLSI等の公知の半導体装置またはその前駆体であってよく、特に、MEMSデバイスまたはその前駆体であってよい。ここで、MEMSデバイスとは、一般的にMicro Electro Mechanical Systemsと呼ばれる半導体微細加工技術を用いて形成された半導体装置の総称であり、MEMSチップを備えた加速度センサや角速度センサなどの慣性センサ、磁気センサ、圧力センサ、マイクロフォン、ガス、湿度、パーティクルなどの環境センサ、画像センサ、またMEMS技術を用いたアクチュエータ類、例えばオートフォーカスやマイクロミラー等の光学系アクチュエータ、無線通信用部品、マイクロスピーカー、画像表示装置等であってよい。また、半導体装置等の前駆体とは、その後の配線やチップの配置、加熱等によるチップ等のダイボンディングにより半導体装置として完成する以前の未完成の電子部品の総称であり、配線やチップの搭載といった仕上げ前の状態で流通し、輸出入される電子部品用部材一般を含む概念である。本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる硬化物は、-70℃~室温の幅広い温度範囲で使用することができ、特に-70℃等の低温で使用しても硬化物の弾性が大きく変化しないことから耐寒性に優れ、これらの電気。電子機器に使用した場合に、その信頼性および低温耐久性をさらに改善できる利点がある。
【実施例】
【0088】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。以下に示す実施例1~2および比較例1~2では下記の化合物ないし組成物を原料に用いた。
<硬化性オルガノポリシロキサン組成物の成分>
A1: 20℃における粘度が粘度60mPasである、両末端ジメチルビニル基封鎖した直鎖状ポリジメチルシロキサン(ビニル基の含有量=1.5質量%)
A2: 20℃における粘度が粘度400mPasである、両末端ジメチルビニル基封鎖した直鎖状ポリジメチルシロキサン(ビニル基の含有量=0.44質量%)
A3: 20℃における粘度が粘度2000mPasである、両末端ジメチルビニル基封鎖した直鎖状ポリジメチルシロキサン(ビニル基の含有量=0.23質量%)
A4: 粘度2,000mPasの分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン(ビニル基の含有量=0.23質量%)65質量%、SiO4/2 単位と(CH3 )3 SiO1/2 単位と(CH3 )2(CH2 =CH)SiO1/2 単位からなるオルガノポリシロキサンレジン(ビニル基の含有量=2.5質量%)35質量%からなるシリコーンレジンポリシロキサン混合物
A5: 粘度190mPasのSiO4/2 単位と(CH3 )3 SiO1/2 単位と(CH3 )2(CH2 =CH)SiO1/2 単位からなるオルガノポリシロキサンレジン(ビニル基の含有量=5.1質量%)
A6: 20℃における粘度が粘度2,000mPasである、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン・メチルフェニルポリシロキサン共重合体(ビニル基の含有量=0.26質量%、フェニル基の含有量=8.9質量%)
B1: 20℃における粘度が60mPasである、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.7質量%)
B2: 20℃における粘度が30mPasである、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.13質量%)
B3:20℃における粘度が20mPa・sである、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン(ケイ素原子結合水素原子の含有量=1.55質量%)
C1: 白金濃度が0.6質量%である白金と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの錯体
D1: 上記のA3成分80質量%とシラザン処理乾式シリカ(レーザー回折・散乱法で測定された平均一次粒子径:0.1~0.2μm)20質量%のマスターバッチ
D2: 上記のA6成分70質量%とシラザン処理乾式シリカ(レーザー回折・散乱法で測定された平均一次粒子径:0.1~0.2μm)30質量%のマスターバッチ
E1: 粘度30mPa・sの分子鎖両末端水酸基封鎖メチルビニルシロキサンオリゴマーと3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランとの質量比1:1の縮合反応物
F1:エチニルシクロヘキサノール
F2:1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン
【0089】
[硬化性オルガノポリシロキサン組成物の調製]
前記の各成分を下の表1に記載の質量比(質量部)で、成分(C1)以外の各成分を均一に混合し、最後に成分(C1)を表1に記載の質量比(質量部)で混合し、真空脱泡後にムサシエンジニアリング製10ccシリンジに充填して、実施例1~2および比較例1~2の組成物を得た。
【0090】
【0091】
本発明の技術的効果に関する試験は次のように行った。
[粘度]
組成物の25℃における粘度(Pa・s)を、アントンパール社製レオメータMCR-102を用いて測定した。ジオメトリは直径20mm、2度コーン型を用い、プレシェア:10 (1/s)、60s、平衡化時間(プレシェア後停止時間):60sを経て、ひずみ速度を0.05 (1/s)から5000 (1/s)まで、ひずみ速度増加率を120s/decadeで上昇させて測定した。各組成物の粘度の測定結果および、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度をひずみ速度1,000(1/s)における粘度を除した値を「チクソ指数」として、表1に併せて示す。
【0092】
[硬化物の硬さ]
組成物の硬化物の硬さは、JIS K 6253に規定されたタイプAデュロメータを用いて測定した。
【0093】
[複素せん断弾性率]
組成物を150℃で60分間加熱硬化させて得た硬化物を、アントンパール社製レオメータMCR-302を用いて測定した。-100℃から100℃まで3℃/分で昇温しながら弾性率を測定し、-70℃と25℃における複素せん断弾性率(以下、G*と略す)の値を得た。ここで、[(-70℃におけるG*(G*1))/(25℃におけるG*(G*2))]が10以下である場合に耐寒性合格と判定し、-70℃と25℃におけるG*の値と併せて、表1に示す。
【0094】
[ジェットディスペンス試験]
各組成物のジェットディスペンサーによる塗布試験は、武蔵エンジニアリング製の下表2の装置構成を有する装置を用いて、基材は20mm x 20mmのシリコンチップに1.4mmの間隔で7X7ドット(実施例1~2)のパターンで塗布を行った。同様に、6X6ドット(比較例1)のパターンで塗布を行った。塗布時の平均塗布径(μm)および1ショットあたりの平均塗布量(質量、μg)を表1に示す。なお、上記の「チクソ指数」が50未満では、ジェットディスペンサーによる塗布試験を行うことができなかったので、「ディスペンス不可」とした。
【表2】
【0095】
[総括]
表1に示すとおり、実施例1および2の組成物は本発明の要件を満たすものである。すなわちひずみ速度1,000(1/s)における粘度が2.0Pa・s以下と十分に低く、かつ、ひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度の50.0倍以上の値(=チクソ指数)となり、ディスペンス後の流動性が低く制御された硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。当該実施例1および2の組成物は、表1および
図1、
図2に示したとおり、微細液滴塗布装置であるジェットディスペンサーを用いて、平均塗布径800μm以下の範囲に精密な塗布が可能である。さらに、当該組成物は原料のA6およびD1成分に由来するケイ素原子結合芳香族官能基(フェニル基)の含有量が本願所定の範囲内にあり、該硬化物の-70℃におけるG*が25℃におけるG*の10倍以下であり、すなわち超低温領域から室温においても急激な弾性率変化が認められないことから、硬化物の耐寒性は良好であり、幅広い温度領域で使用可能であることが確認できた。
【0096】
一方、比較例1の組成物は、組成物中のケイ素原子結合芳香族官能基の含有量が0質量%であり、微細液滴塗布装置であるジェットディスペンサーを用いた際、平均塗布径800μm以下の範囲に精密な塗布が可能(
図3)であるが、該硬化物の-70℃におけるG*が25℃におけるG*の100倍以上であり、実施例1または実施例2と異なり、硬化物の耐寒性を実現することができないものであった。なお、アントンパール社製レオメータMCR-302を用いて前記の条件で測定を行った場合、比較例1の硬化物は、-50℃付近でのG*の変化が急激であるため、特に-50℃以下での耐寒性が不十分であることが確認できた。
【0097】
また、比較例2の組成物は、原料のA6およびD1成分に由来するケイ素原子結合芳香族官能基(フェニル基)の含有量が過剰であり、一定の耐寒性を実現することができたが、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度が2.0Pa・s以上であり、かつひずみ速度0.1(1/s)における粘度が、ひずみ速度1,000(1/s)における粘度の50.0倍未満であることから、微細液滴塗布装置であるジェットディスペンサーを用いた際、安定したジェット吐出が出来ず、精密な塗布を行うことができなかった。