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特許7432733訓練データ作成方法、機械学習方法、消耗品管理装置及びコンピュータ可読媒体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-07
(45)【発行日】2024-02-16
(54)【発明の名称】訓練データ作成方法、機械学習方法、消耗品管理装置及びコンピュータ可読媒体
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/00 20060101AFI20240208BHJP
【FI】
H01S3/00 G
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2022538504
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028095
(87)【国際公開番号】W WO2022018795
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】300073919
【氏名又は名称】ギガフォトン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】阿部 邦彦
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-253383(JP,A)
【文献】特開2000-306813(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置の消耗品の寿命を予測するための学習モデルの機械学習に使用する訓練データの作成方法であって、
前記消耗品の使用が開始されてから交換されるまでの期間中の異なる発振パルス数に対応して記録された前記消耗品の少なくとも1つの寿命関連パラメータのデータを含む第1の寿命関連情報を取得することと、
前記発振パルス数に基づき前記消耗品の第1の劣化度を定めることと、
前記少なくとも1つの前記寿命関連パラメータに基づき前記消耗品の第2の劣化度を定めることと、
前記第1の劣化度と前記第2の劣化度とに基づき前記消耗品の第3の劣化度を定めることと、
前記第1の寿命関連情報と前記第3の劣化度とを対応付けた訓練データを作成することと、
を含む訓練データ作成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記第1の劣化度と前記第2の劣化度のうち、劣化のレベルが高い方の劣化度を前記第3の劣化度として決定する、
訓練データの作成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記寿命関連パラメータは、レーザチャンバに配置された放電電極に印加する電圧を含む、
訓練データ作成方法。
【請求項4】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記寿命関連パラメータは、レーザチャンバのレーザガスを交換した後の初期ガス圧を含む、
訓練データ作成方法。
【請求項5】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記第1の寿命関連情報は、複数の前記寿命関連パラメータのデータを含み、
前記複数の前記寿命関連パラメータのそれぞれに基づき前記寿命関連パラメータごとに前記第2の劣化度が定められ、
前記寿命関連パラメータごとに定められた複数の前記第2の劣化度と前記第1の劣化度のうち、劣化のレベルが最も高い劣化度を前記第3の劣化度として決定する、
訓練データ作成方法。
【請求項6】
請求項5に記載の訓練データ作成方法であって、
前記複数の寿命関連パラメータは、
レーザチャンバに配置された放電電極に印加する電圧と、
前記レーザチャンバのレーザガスを交換した後の初期ガス圧とを含む、
訓練データ作成方法。
【請求項7】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記第1の寿命関連情報は、複数の前記寿命関連パラメータのデータを含み、
前記複数の前記寿命関連パラメータの組み合わせに基づき前記第2の劣化度が定められる、訓練データ作成方法。
【請求項8】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記第1の寿命関連情報は、複数の前記寿命関連パラメータのデータを含み、
前記複数の前記寿命関連パラメータに基づき異なる種類のパラメータごとに前記第2の劣化度が定められ、
前記異なる種類のパラメータごとに定められた複数の前記第2の劣化度と前記第1の劣化度のうち、劣化のレベルが最も高い劣化度を前記第3の劣化度として決定する、
訓練データ作成方法。
【請求項9】
請求項1に記載の訓練データ作成方法であって、
前記第1の劣化度は、前記発振パルス数に応じて複数段階にレベル分けされており、前記発振パルス数が大きくなるにつれて前記消耗品の劣化のレベルが高くなるように定められる、
訓練データ作成方法。
【請求項10】
請求項9に記載の訓練データ作成方法であって、
前記複数段階が10段階である、訓練データ作成方法。
【請求項11】
請求項9に記載の訓練データ作成方法であって、
前記第2の劣化度の最大レベル値は、前記第1の劣化度の最大レベル値に等しい、
訓練データ作成方法。
【請求項12】
請求項9に記載の訓練データ作成方法であって、
前記少なくとも1つの寿命関連パラメータの値が所定の閾値よりも小さい値である場合の前記第2の劣化度が、前記第1の劣化度の最小レベル値以下の値となるように前記第2の劣化度が定義される、
訓練データ作成方法。
【請求項13】
レーザ装置の消耗品の寿命を予測するための学習モデルを作成する機械学習方法であって、
前記消耗品の使用が開始されてから交換されるまでの期間中の異なる発振パルス数に対応して記録された前記消耗品の少なくとも1つの寿命関連パラメータのデータを含む第1の寿命関連情報を取得することと、
前記発振パルス数に基づき前記消耗品の第1の劣化度を定めることと、
前記少なくとも1つの前記寿命関連パラメータに基づき前記消耗品の第2の劣化度を定めることと、
前記第1の劣化度と前記第2の劣化度とに基づき前記消耗品の第3の劣化度を定めることと、
前記第1の寿命関連情報と前記第3の劣化度とを対応付けた訓練データを作成することと、
前記訓練データを用いて機械学習を行うことにより、前記第1の寿命関連情報に含まれる前記寿命関連パラメータのデータから前記消耗品の劣化度を予測する前記学習モデルを作成することと、
前記作成された前記学習モデルを保存することと、
を含む機械学習方法。
【請求項14】
請求項13に記載の機械学習方法であって、
前記学習モデルは、ニューラルネットワークモデルである機械学習方法。
【請求項15】
請求項13に記載の機械学習方法を実施することによって作成された前記学習モデルを保存しておく記憶装置と、プロセッサと、を備え、
前記プロセッサは、
前記レーザ装置における交換予定の消耗品についての寿命予測処理の要求信号を受信して、前記交換予定の消耗品に関する現在の第2の寿命関連情報を取得し、
前記交換予定の消耗品の前記学習モデルと前記第2の寿命関連情報とに基づいて、前記交換予定の消耗品の寿命と余寿命とを計算し、
前記計算によって得られた前記交換予定の消耗品の寿命と余寿命とのうち少なくとも一方の情報を外部装置に通知する、
消耗品管理装置。
【請求項16】
請求項15に記載の消耗品管理装置であって、
前記プロセッサは、前記学習モデルに前記第2の寿命関連情報を入力し、
前記学習モデルから前記第2の寿命関連情報に対応する前記消耗品の劣化度のレベルの確からしさを示すスコアを取得し、
前記第2の寿命関連情報に含まれる現在の発振パルス数と前記スコアとを基に、前記交換予定の消耗品の寿命と余寿命とを算出する、
消耗品管理装置。
【請求項17】
プログラムが記録された非一過性のコンピュータ可読媒体であって、
前記プログラムは、コンピュータにより実行された場合に、前記コンピュータに、レーザ装置の消耗品の寿命を予測するための学習モデルの機械学習に使用する訓練データの作成機能を実現させるプログラムであり、
前記消耗品の使用が開始されてから交換されるまでの期間中の異なる発振パルス数に対応して記録された前記消耗品の少なくとも1つの寿命関連パラメータのデータを含む第1の寿命関連情報を取得する機能と、
前記発振パルス数に基づき前記消耗品の第1の劣化度を定める機能と、
前記少なくとも1つの前記寿命関連パラメータに基づき前記消耗品の第2の劣化度を定める機能と、
前記第1の劣化度と前記第2の劣化度とに基づき前記消耗品の第3の劣化度を定める機能と、
前記第1の寿命関連情報と前記第3の劣化度とを対応付けた訓練データを作成する機能と、を前記コンピュータに実現させるための命令を含む、
コンピュータ可読媒体。
【請求項18】
請求項17に記載のコンピュータ可読媒体であって、
前記プログラムは、さらに、前記訓練データを用いて機械学習を行うことにより、前記第1の寿命関連情報に含まれるデータから前記消耗品の劣化度を予測する前記学習モデルを作成する機能と、
前記作成された前記学習モデルを保存する機能と、を前記コンピュータに実現させるための命令を含む、
コンピュータ可読媒体。
【請求項19】
請求項18に記載のコンピュータ可読媒体に記録されたプログラムを実行することによって作成された前記学習モデルを保存する機能と、
前記レーザ装置における交換予定の消耗品についての寿命予測処理の要求信号を受信する機能と、
前記要求信号の受信に応じて、前記交換予定の消耗品に関する現在の第2の寿命関連情報を取得する機能と、
前記交換予定の消耗品の前記学習モデルと前記第2の寿命関連情報とに基づいて、前記交換予定の消耗品の寿命と余寿命とを計算する機能と、
前記計算によって得られた前記交換予定の消耗品の寿命と余寿命との情報を外部装置に通知する機能と、
をコンピュータに実現させるためのプログラムが記録された非一過性のコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、訓練データ作成方法、機械学習方法、消耗品管理装置及びコンピュータ可読媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、半導体露光装置においては解像力の向上が要請されている。半導体露光装置を以下、単に「露光装置」という。このため露光用光源から出力される光の短波長化が進められている。露光用光源には、従来の水銀ランプに代わってガスレーザ装置が用いられている。現在、露光用のガスレーザ装置としては、波長248nmの紫外線を出力するKrFエキシマレーザ装置ならびに、波長193nmの紫外線を出力するArFエキシマレーザ装置が用いられている。
【0003】
現在の露光技術としては、露光装置側の投影レンズとウエハ間の間隙を液体で満たして、当該間隙の屈折率を変えることによって、露光用光源の見かけの波長を短波長化する液浸露光が実用化されている。ArFエキシマレーザ装置を露光用光源として用いて液浸露光が行われた場合は、ウエハには等価における波長134nmの紫外光が照射される。この技術をArF液浸露光という。ArF液浸露光はArF液浸リソグラフィとも呼ばれる。
【0004】
KrF、ArFエキシマレーザ装置の自然発振におけるスペクトル線幅は約350~400pmと広いため、露光装置側の投影レンズによってウエハ上に縮小投影されるレーザ光(紫外線光)の色収差が発生して解像力が低下する。そこで色収差が無視できる程度となるまでガスレーザ装置から出力されるレーザ光のスペクトル線幅を狭帯域化する必要がある。スペクトル線幅はスペクトル幅とも呼ばれる。このためガスレーザ装置のレーザ共振器内には狭帯域化素子を有する狭帯域化部(Line Narrow Module)が設けられ、この狭帯域化部によりスペクトル幅の狭帯域化が実現されている。なお、狭帯域化素子はエタロンやグレーティング等であってもよい。このようにスペクトル幅が狭帯域化されたレーザ装置を狭帯域化レーザ装置という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2018/0246494号
【文献】米国特許第6219367号
【文献】米国特許第6697695号
【概要】
【0006】
本開示の1つの観点に係る訓練データ作成方法は、レーザ装置の消耗品の寿命を予測するための学習モデルの機械学習に使用する訓練データの作成方法であって、消耗品の使用が開始されてから交換されるまでの期間中の異なる発振パルス数に対応して記録された消耗品の少なくとも1つの寿命関連パラメータのデータを含む第1の寿命関連情報を取得することと、発振パルス数に基づき消耗品の第1の劣化度を定めることと、少なくとも1つの寿命関連パラメータに基づき消耗品の第2の劣化度を定めることと、第1の劣化度と第2の劣化度とに基づき消耗品の第3の劣化度を定めることと、第1の寿命関連情報と第3の劣化度とを対応付けた訓練データを作成することとを含む。
【0007】
本開示の他の1つの観点に係る機械学習方法は、レーザ装置の消耗品の寿命を予測するための学習モデルを作成する機械学習方法であって、消耗品の使用が開始されてから交換されるまでの期間中の異なる発振パルス数に対応して記録された消耗品の少なくとも1つの寿命関連パラメータのデータを含む第1の寿命関連情報を取得することと、発振パルス数に基づき消耗品の第1の劣化度を定めることと、少なくとも1つの寿命関連パラメータに基づき消耗品の第2の劣化度を定めることと、第1の劣化度と第2の劣化度とに基づき消耗品の第3の劣化度を定めることと、第1の寿命関連情報と第3の劣化度とを対応付けた訓練データを作成することと、訓練データを用いて機械学習を行うことにより、第1の寿命関連情報に含まれる寿命関連パラメータのデータから消耗品の劣化度を予測する学習モデルを作成することと、作成された学習モデルを保存することとを含む。
【0008】
本開示の他の1つの観点に係るコンピュータ可読媒体は、プログラムが記録された非一過性のコンピュータ可読媒体であって、プログラムは、コンピュータにより実行された場合に、レーザ装置の消耗品の寿命を予測するための学習モデルの機械学習に使用する訓練データの作成機能を実現させるプログラムであり、消耗品の使用が開始されてから交換されるまでの期間中の異なる発振パルス数に対応して記録された消耗品の少なくとも1つの寿命関連パラメータのデータを含む第1の寿命関連情報を取得する機能と、発振パルス数に基づき消耗品の第1の劣化度を定める機能と、少なくとも1つの寿命関連パラメータに基づき消耗品の第2の劣化度を定める機能と、第1の劣化度と第2の劣化度とに基づき消耗品の第3の劣化度を定める機能と、第1の寿命関連情報と第3の劣化度とを対応付けた訓練データを作成する機能と、をコンピュータに実現させるための命令を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本開示のいくつかの実施形態を、単なる例として、添付の図面を参照して以下に説明する。
図1図1は、例示的なレーザ装置の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、半導体工場のレーザ管理システムの構成例を概略的に示す図である。
図3図3は、典型的なレーザチャンバのガス圧と発振パルス数との関係の例を示すグラフである。
図4図4は、実施形態1に係る半導体工場のレーザ管理システムの構成を示す図である。
図5図5は、消耗品管理サーバの機能を示すブロック図である。
図6図6は、データ取得部における処理内容の例を示すフローチャートである。
図7図7は、学習モデル作成部における処理内容の例を示すフローチャートである。
図8図8は、レーザチャンバの電圧と発振パルス数との関係の例を示すグラフであり、発振パルス数と電圧とに基づきレーザチャンバの寿命までの劣化度を付与する例を示す。
図9図9は、レーザチャンバの電圧と発振パルス数との関係の例を示すグラフであり、発振パルス数と電圧とに基づきレーザチャンバの寿命までの劣化度を付与する他の例を示す。
図10図10は、レーザチャンバのガス圧と発振パルス数との関係の例を示すグラフであり、発振パルス数とガス圧と電圧とに基づきレーザチャンバの寿命までの劣化度を付与する例を示す。
図11図11は、図7のステップS48に適用される処理内容の例1を示すフローチャートである。
図12図12は、図11のステップS104に適用される処理内容の例1を示すフローチャートである。
図13図13は、図11のステップS104に適用される処理内容の例2を示すフローチャートである。
図14図14は、図11のステップS104に適用される処理内容の例3を示すフローチャートである。
図15図15は、電圧とガス圧の2つの値から導き出される特徴量に基づいて劣化度を付与する例を示す図である。
図16図16は、電圧とガス圧の2つの値から導き出される特徴量に基づいて劣化度を付与する他の例を示す図である。
図17図17は、発振パルス数でレベル分けされた1つの劣化度の区間に複数のデータが含まれるイメージを示すグラフである。
図18図18は、図7のステップS48に適用される処理内容の例2を示すフローチャートである。
図19図19は、図18のステップS104に適用される処理内容の例を示すフローチャートである。
図20図20は、ニューラルネットワークモデルの例を示す模式図である。
図21図21は、学習モデルを作成する際のニューラルネットワークのモデルの例である。
図22図22は、消耗品の寿命予測部における処理内容の例を示すフローチャートである。
図23図23は、図22のステップS70に適用される処理内容の例を示すフローチャートである。
図24図24は、作成した学習モデルを使用してレーザチャンバの寿命及び余寿命を計算する例を示すグラフである。
図25図25は、10段階にレベル分けされた劣化度毎の確率の例を示す図表である。
図26図26は、学習済みのニューラルネットワークモデルによって消耗品の寿命を予測する処理の例を示す図である。
図27図27は、データ出力部における処理内容の例を示すフローチャートである。
図28図28は、レーザチャンバの寿命関連情報の例を示す図表である。
図29図29は、レーザチャンバの寿命関連情報の例を示す図表である。
図30図30は、レーザチャンバの寿命関連情報の例を示す図表である。
図31図31は、モニタモジュールの寿命関連情報の例を示す図表である。
図32図32は、狭帯域化モジュールの寿命関連情報の例を示す図表である。
【実施形態】
【0010】
-目次-
1.用語の説明
2.レーザ装置の説明
2.1 構成
2.2 動作
2.3 レーザ装置の主要な消耗品のメインテナンス
2.4 その他
3.半導体工場のレーザ管理システムの例
3.1 構成
3.2 動作
4.課題
5.実施形態1
5.1 構成
5.2 動作
5.2.1 消耗品管理サーバにおける機械学習の動作の概要
5.2.2 消耗品管理サーバにおける消耗品の寿命予測の動作の概要
5.2.3 データ取得部の処理例
5.2.4 学習モデル作成部の処理例
5.2.5 レーザチャンバの寿命予測に用いる学習モデルの作成例1
5.2.6 レーザチャンバの寿命予測に用いる学習モデルの作成例2
5.2.7 複数のパラメータを組み合わせて1つのパラメータに変換する例
5.2.8 データD(s)が複数のデータ件数を含む場合の説明
5.2.9 ニューラルネットワークモデルの例
5.2.10 ニューラルネットワークモデルの学習モード
5.2.11 消耗品の寿命予測部の処理例
5.2.12 学習モデルを使って消耗品の寿命を計算する処理の例
5.2.13 ニューラルネットワークモデルの寿命予測モード
5.2.14 その他
5.2.15 データ出力部の処理例
5.3 レーザチャンバの寿命関連情報
5.4 モニタモジュールの寿命関連情報の例
5.5 狭帯域化モジュールの寿命関連情報の例
5.6 作用・効果
5.7 その他
6.変形例
7.プログラムを記録したコンピュータ可読媒体について
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。以下に説明される実施形態は、本開示のいくつかの例を示すものであって、本開示の内容を限定するものではない。また、各実施形態で説明される構成及び動作の全てが本開示の構成及び動作として必須であるとは限らない。なお、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明を省略する。
【0011】
1.用語の説明
「消耗品」は、定期的なメインテナンスが必要になる部品やモジュールなどの物品を包括的に表す用語として用いる。交換部品及び交換モジュールは「消耗品」の概念に含まれる。モジュールは、部品の一形態と理解してもよい。本明細書では「消耗品」という用語を「交換モジュール又は交換部品」と同義に用いる場合がある。メインテナンスには、消耗品の交換が含まれる。「交換」の概念には、消耗品を新しいものに置き換えることの他、消耗品を洗浄するなどして部品の機能の維持及び/又は回復を図り、同じ消耗品を再配置することも含まれる。
【0012】
「バースト運転」とは、露光に合わせて狭帯域化したパルスレーザ光を連続して発振するバースト期間と、ステージの移動に合わせて発振休止する発振休止期間とを交互に繰り返す運転のことを意味する。
【0013】
2.レーザ装置の説明
2.1 構成
図1に、例示的なレーザ装置10の構成を概略的に示す。レーザ装置10は、例えば、KrFエキシマレーザ装置であって、レーザ制御部90と、レーザチャンバ100と、インバータ102と、出力結合ミラー104と、狭帯域化モジュール(Line Narrow Module:LNM)106と、モニタモジュール108と、充電器110と、パルスパワーモジュール(PPM)112と、ガス供給装置114と、ガス排気装置116と、出射口シャッタ118とを含む。
【0014】
レーザチャンバ100は、第1ウインドウ121と、第2ウインドウ122と、クロスフローファン(CFF)123と、CFF123を回転させるモータ124と、1対の電極125、126と、電気絶縁物127と、圧力センサ128と、図示しない熱交換器とを含む。
【0015】
インバータ102は、モータ124の電源供給装置である。インバータ102は、モータ124に供給する電力の周波数を特定する指令信号をレーザ制御部90から受信する。
【0016】
PPM112は、レーザチャンバ100の電気絶縁物127中のフィードスルーを介して電極125と接続される。PPM112は、半導体スイッチ129と、いずれも図示しない、充電コンデンサと、パルストランスと、パルス圧縮回路とを含む。
【0017】
出力結合ミラー104は部分反射ミラーであって、狭帯域化モジュール106とともに光共振器を構成するように配置される。レーザチャンバ100は、この光共振器の光路上に配置される。
【0018】
狭帯域化モジュール106は、第1プリズム131及び第2プリズム132を用いたビームエキスパンダと、回転ステージ134と、グレーティング136とを含む。第1プリズム131及び第2プリズム132は、レーザチャンバ100の第2ウインドウ122から出射された光のビームを拡大し、グレーティング136に入射するように配置される。
【0019】
ここで、グレーティング136はレーザ光の入射角と回折角とが一致するようにリトロー配置される。第2プリズム132は、回転ステージ134が回転したときに、レーザ光のグレーティング136への入射角と回折角とが変化するように回転ステージ134上に配置される。
【0020】
モニタモジュール108は、第1ビームスプリッタ141及び第2ビームスプリッタ142と、パルスエネルギ検出器144と、スペクトル検出器146とを含む。第1ビームスプリッタ141は、出力結合ミラー104から出力されたレーザ光の光路上に配置され、レーザ光の一部が反射されて第2ビームスプリッタ142に入射するように配置される。
【0021】
パルスエネルギ検出器144は、第2ビームスプリッタ142を透過したレーザ光が入射するように配置される。パルスエネルギ検出器144は、例えば、紫外線の光強度を計測するフォトダイオードであってもよい。第2ビームスプリッタ142は、レーザ光の一部が反射されてスペクトル検出器146に入射するように配置される。
【0022】
スペクトル検出器146は、例えば、エタロンによって生成された干渉縞をイメージセンサで計測するモニタエタロン計測装置である。生成された干渉縞に基づいて、レーザ光の中心波長とスペクトル線幅とが計測される。
【0023】
KrFエキシマレーザ装置の場合におけるガス供給装置114は、不活性なレーザガスの供給源である不活性ガス供給源152と、ハロゲンを含むレーザガスの供給源であるハロゲンガス供給源153の各々と配管を介して接続される。不活性なレーザガスとは、KrガスとNeガスの混合ガスである。ハロゲンを含むレーザガスとは、FガスとKrガスとNeガスの混合ガスである。ガス供給装置114は、レーザチャンバ100と配管を介して接続される。
【0024】
ガス供給装置114は、不活性なレーザガス又はハロゲンを含むレーザガスをそれぞれレーザチャンバ100に所定量供給するための、図示しない自動バルブ及びマスフローコントローラをそれぞれ含む。
【0025】
ガス排気装置116は、レーザチャンバ100と配管を介して接続される。ガス排気装置116は、ハロゲンを除去する図示しないハロゲンフィルタ及び排気ポンプを含み、ハロゲンを除去したレーザガスが外部に排気されるように構成される。
【0026】
出射口シャッタ118は、レーザ装置10から外部に出力されるレーザ光の光路上に配置される。
【0027】
出射口シャッタ118を介してレーザ装置10から出力されたレーザ光が露光装置14に入射するようにレーザ装置10が配置される。
【0028】
2.2 動作
レーザ装置10の動作について説明する。レーザ制御部90は、ガス排気装置116を介してレーザチャンバ100内にあるガスを排気した後、ガス供給装置114を介してレーザチャンバ100内に不活性なレーザガスとハロゲンを含むレーザガスとを所望のガス組成及び全ガス圧となるように充填する。
【0029】
レーザ制御部90は、インバータ102を介してモータ124を所定の回転数で回転させてCFF123を回転させる。これにより、電極125、126間にレーザガスが流れる。
【0030】
レーザ制御部90は、露光装置14の露光制御部50から目標パルスエネルギEtを受信し、パルスエネルギがEtとなるように充電電圧Vhvのデータを充電器110に送信する。
【0031】
充電器110は、PPM112の充電コンデンサが充電電圧Vhvとなるように充電する。露光装置14から発光トリガ信号Tr1が出力されると、発光トリガ信号Tr1に同期してレーザ制御部90からトリガ信号Tr2がPPM112の半導体スイッチ129に入力される。この半導体スイッチ129が動作するとPPM112の磁気圧縮回路によって電流パルスが圧縮され、高電圧が電極125、126間に印加される。その結果、電極125、126間で放電が発生し、放電空間においてレーザガスが励起される。電極125、126は本開示における「放電電極」の一例である。
【0032】
放電空間の励起されたレーザガスが基底状態となるときに、エキシマ光が発生する。このエキシマ光は出力結合ミラー104と狭帯域化モジュール106との間を往復して増幅されることによって、レーザ発振する。その結果、出力結合ミラー104から狭帯域化されたパルスレーザ光が出力される。
【0033】
出力結合ミラー104から出力されたパルスレーザ光はモニタモジュール108に入射する。モニタモジュール108では、第1ビームスプリッタ141によってレーザ光の一部がサンプルされ、第2ビームスプリッタ142に入射する。第2ビームスプリッタ142は、入射したレーザ光の一部を透過してパルスエネルギ検出器144に入射させ、他の一部を反射してスペクトル検出器146に入射させる。
【0034】
レーザ装置10から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギEがパルスエネルギ検出器144によって計測され、計測されたパルスエネルギEのデータがパルスエネルギ検出器144からレーザ制御部90に送信される。
【0035】
また、スペクトル検出器146によって中心波長λとスペクトル線幅Δλとが計測され、計測された中心波長λとスペクトル線幅Δλとのデータがスペクトル検出器146からレーザ制御部90に送信される。
【0036】
レーザ制御部90は、露光装置14から目標パルスエネルギEtと目標波長λtとのデータを受信する。レーザ制御部90は、パルスエネルギ検出器144によって計測されたパルスエネルギEと目標パルスエネルギEtとを基に、パルスエネルギの制御を行う。パルスエネルギの制御は、パルスエネルギ検出器144によって計測されたパルスエネルギEと目標パルスエネルギEtとの差ΔE=E-Etが0に近づくように充電電圧Vhvを制御することを含む。
【0037】
レーザ制御部90は、スペクトル検出器146によって計測された中心波長λと目標波長λtとを基に、波長の制御を行う。波長の制御は、スペクトル検出器146によって計測された中心波長λと目標波長λtとの差δλ=λ-λtが0に近づくように回転ステージ134の回転角を制御することを含む。
【0038】
以上のようにレーザ制御部90は、露光装置14から目標パルスエネルギEtと目標波長λtとを受信して、発光トリガ信号Tr1が入力される毎に、発光トリガ信号Tr1に同期してレーザ装置10にパルスレーザ光を出力させる。
【0039】
レーザ装置10は放電を繰り返すと、電極125、126が消耗し、レーザガス中のハロゲンガスが消費されるとともに、不純物ガスが生成される。レーザチャンバ100内のハロゲンガス濃度の低下や不純物ガスの増加は、パルスレーザ光のパルスエネルギの低下やパルスエネルギの安定性に悪影響を及ぼす。レーザ制御部90は、これらの悪影響を抑制するために例えば、以下のガス制御を実行する。
【0040】
[1]ハロゲン注入制御
ハロゲン注入制御とは、レーザ発振中に、レーザチャンバ100内で主に放電によって消費された分のハロゲンガスを、レーザチャンバ100内のハロゲンガスよりも高い濃度にハロゲンを含むガスを注入することによってレーザチャンバ100に補充するガス制御である。
【0041】
[2]部分ガス交換制御
部分ガス交換制御とは、レーザ発振中に、レーザチャンバ100内の不純物ガスの濃度の増加を抑制するように、レーザチャンバ100内のレーザガスの一部を新しいレーザガスに交換するガス制御である。
【0042】
[3]ガス圧制御
ガス圧制御とは、レーザチャンバ100内にレーザガスを注入してレーザガスのガス圧Pを変化させることによって、パルスエネルギを制御するガス制御である。パルスエネルギの制御は、通常、充電電圧Vhvを制御することで行われるが、レーザ装置10から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギの低下を、充電電圧Vhvの制御範囲では補うことが不可能な場合に、ガス圧制御が実行される。
【0043】
レーザチャンバ100からレーザガスを排気する場合に、レーザ制御部90はガス排気装置116を制御する。レーザチャンバ100から排気されたレーザガスは図示しないハロゲンフィルタによってハロゲンガスが除去され、レーザ装置10の外部に排気される。
【0044】
レーザ制御部90は、発振パルス数、充電電圧Vhv、レーザチャンバ100内のガス圧P、レーザ光のパルスエネルギE、スペクトル線幅Δλ等の各パラメータのデータを、図示しないローカルエリアネットワークを介してレーザ装置用管理システム206(図2参照)に送信する。
【0045】
2.3 レーザ装置の主要な消耗品のメインテナンス
フィールドサービスエンジニア(FSE)が行う主要な消耗品の交換作業は、レーザチャンバ100と、狭帯域化モジュール106と、モニタモジュール108との交換作業である。
【0046】
これらの主要な消耗品の交換時期は、一般的には、時間で管理するのではなく、レーザ装置10の発振パルス数で管理している。これらの主要な消耗品の交換作業には、3時間から10時間の交換時間を要することがある。これらの主要な消耗品の中で、交換時間が最も長い消耗品はレーザチャンバ100である。
【0047】
2.4 その他
図1に示す例では、レーザ装置10として、KrFエキシマレーザ装置の例を示したが、この例に限定されることなく、他のレーザ装置に適用してもよい。例えば、レーザ装置10は、ArFエキシマレーザ装置やXeClエキシマレーザ装置であってもよい。
【0048】
図1に示す例では、レーザ装置10のガス制御は、ハロゲン注入制御と、部分ガス交換制御と、ガス圧制御とを実施する場合を示したが、この例に限定されることなく、例えば、必ずしもガス圧制御を実施しなくてもよい。
【0049】
3.半導体工場のレーザ管理システムの例
3.1 構成
図2に、半導体工場のレーザ管理システム200の構成例を概略的に示す。レーザ管理システム200は、複数のレーザ装置10と、レーザ装置用管理システム206と、半導体工場管理システム208とを含む。
【0050】
レーザ装置用管理システム206及び半導体工場管理システム208の各々は、コンピュータを用いて構成される。レーザ装置用管理システム206及び半導体工場管理システム208の各々は、複数のコンピュータを用いて構成されるコンピュータシステムであってもよい。半導体工場管理システム208は、ネットワーク210を介して、レーザ装置用管理システム206と接続される。
【0051】
ネットワーク210は、有線若しくは無線又はこれらの組み合わせによる情報伝達が可能な通信回線である。ネットワーク210は、ワイドエリアネットワークであってもよいし、ローカルエリアネットワークであってもよい。
【0052】
複数のレーザ装置10の各々を識別するために、ここではレーザ装置識別符号#1,#2,・・・#k,・・・#wを用いる。wは半導体工場内のレーザ管理システム200に含まれるレーザ装置10の数である。wは1以上の整数である。kは1以上w以下の範囲の整数である。以下、説明の便宜上、レーザ装置#kと表記する場合がある。なお、レーザ装置#1~#wは同一の装置構成であってもよいし、レーザ装置#1~#wの一部又は全部は、互いに異なる装置構成であってもよい。
【0053】
レーザ装置#1~#wとレーザ装置用管理システム206との各々は、ローカルエリアネットワーク213に接続される。図2において、ローカルエリアネットワーク213を「LAN」と表示する。
【0054】
3.2 動作
レーザ装置用管理システム206は、それぞれのレーザ装置#1~#wの主要な消耗品の交換時期を、主にレーザ発振したパルス数(発振パルス数)Npで管理する。
【0055】
レーザ装置用管理システム206は、メインテナンスの管理情報を表示端末に表示してもよいし、ネットワーク210を介して半導体工場管理システム208に送信してもよい。
【0056】
レーザ装置用管理システム206によってレーザ装置#1~#wを管理する管理ラインは、それぞれの管理ラインが独立しており、各レーザ装置#1~#wから出力されたメインテナンス管理の情報に基づいて、半導体工場の管理者が各レーザ装置#1~#wの主要な消耗品の交換時期を決定する。
【0057】
図3は、典型的なレーザチャンバ100のガス圧Pと発振パルス数Npとの関係の例を示すグラフである。エキシマレーザ装置は放電を繰り返すと、電極125、126が消耗し、レーザガス中のハロゲンガスが消費されるとともに、不純物ガスが生成される。レーザチャンバ100内のハロゲンガス濃度の低下や不純物ガスの増加は、パルスレーザ光のパルスエネルギの低下やパルスエネルギ安定性に悪影響を及ぼす。
【0058】
そこで、エキシマレーザ装置の性能を維持するために、状況に応じて、ハロゲン注入制御、部分ガス交換制御、ガス圧制御、又は全ガス交換を行う。図3においてレーザチャンバ100の交換タイミングを上向き矢印で示す。レーザチャンバ100を交換した後の動作は次の通りである。
【0059】
[ステップ1]レーザチャンバ100を交換した直後のガス圧Pは、初期ガス圧Pchでレーザ性能が維持される。
【0060】
[ステップ2]レーザ発振を継続すると、放電電極の消耗や不純物ガスの発生により、レーザ性能を維持するために、ガス圧制御によってガス圧Pが上昇する。図3において太線で示すグラフは、このステップ2におけるガス圧Pの推移を表す。
【0061】
[ステップ3]しかし、やがてガス圧制御によってもレーザ性能が維持できなくなると、レーザ発振を停止し、全ガス交換を行う。図3において全ガス交換のタイミングを下向き矢印で示す。
【0062】
[ステップ4]全ガス交換後に調整発振を行う。レーザ性能を回復させるために、ガス圧制御を行う。レーザ性能が回復したときのガス圧Pを「全ガス交換後の初期ガス圧」といい、Piniとする。
【0063】
[ステップ5]その後、ステップ2からステップ4を複数回繰り返す。全ガス交換後の初期ガス圧Piniは、発振パルス数Npの増加に伴い次第に大きくなっていく。図3において細線で示すグラフは初期ガス圧Piniの推移を表す。
【0064】
[ステップ6]やがて、ガス圧Pが最大許容ガス圧Pmaxに到達したときにレーザチャンバ寿命Nchlifeとなる。
【0065】
図3に示す例では、簡単のためにレーザチャンバ100の寿命について、レーザ装置10の発振パルス数Npに対するガス圧Pの変化から寿命に到達するまでの経緯を説明した。しかし、他のレーザ性能、例えば、パルスエネルギ安定性、及びスペクトル線幅等の性能も満足する必要がある。したがって、単純には、レーザチャンバ100の寿命を予測できないことがある。
【0066】
4.課題
[課題1]レーザ装置の主要な消耗品毎に標準寿命としての発振パルス数の値が定められている場合がある。しかし、消耗品の個体差があるために、寿命に到達する発振パルス数は一定ではなく、ばらつきがある。消耗品の寿命が標準寿命より長い場合であっても、標準寿命の時期に、定期メインテナンスとして消耗品の交換を行う場合がある。また、消耗品の寿命が標準寿命より短い場合には、計画的な消耗品交換ができず、生産ラインを停止させることがある。
【0067】
[課題2]現状ではFSEが、例えば図3のような発振パルス数に対するガス圧の推移とその他の寿命に関連するパラメータのログデータを見て、経験的に各消耗品の寿命を予測して対応している。そのため、消耗品の寿命の予測及び消耗品の交換までの対応は、FSE個人の能力に依存する場合がある。
【0068】
5.実施形態1
5.1 構成
図4は、実施形態1に係る半導体工場のレーザ管理システム300の構成を示す図である。図4に示す構成について図2との相違点を説明する。図4に示す半導体工場のレーザ管理システム300は、図2のレーザ管理システム200の構成に、消耗品管理サーバ310を追加した構成となっている。消耗品管理サーバ310はネットワーク210を介して、レーザ装置用管理システム206及び半導体工場管理システム208と接続される。
【0069】
消耗品管理サーバ310は、レーザ装置用管理システム206及び半導体工場管理システム208の各々に対してデータや信号の送受信が可能な構成である。
【0070】
図5は、消耗品管理サーバ310の機能を示すブロック図である。消耗品管理サーバ310は、データ取得部320と、消耗品の寿命関連情報保存部330と、機械学習による学習モデル作成部340と、学習モデル保存部350と、消耗品の寿命予測部360と、データ出力部370とを含む。
【0071】
消耗品の寿命関連情報は、ファイルA、ファイルB及びファイルCを含む。ファイルAは、レーザチャンバ100の寿命関連ログデータが保存されるファイルである。ファイルBは、モニタモジュール108の寿命関連ログデータが保存されるファイルである。ファイルCは、狭帯域化モジュール106の寿命関連ログデータが保存されるファイルである。
【0072】
消耗品の寿命関連情報保存部330は、ファイルAを記憶しておく記憶部332と、ファイルBを記憶しておく記憶部334と、ファイルCを記憶しておく記憶部336とを含む。
【0073】
学習モデル作成部340は、機械学習によって学習モデルを作成する処理部である。消耗品の学習モデル保存部350は、学習モデル作成部340によって作成された学習モデルを保存する。消耗品の学習モデル保存部350は、ファイルAmを記憶しておく記憶部352と、ファイルBmを記憶しておく記憶部354と、ファイルCmを記憶しておく記憶部356とを含む。
【0074】
ファイルAmは、レーザチャンバ100の寿命を予測する処理を行う第1学習モデルが保存されるファイルである。ファイルBmは、モニタモジュール108の寿命を予測する処理を行う第2学習モデルが保存されるファイルである。ファイルCmは、狭帯域化モジュール106の寿命を予測する処理を行う第3学習モデルが保存されるファイルである。
【0075】
記憶部332、334、336、352、354、356は、ハードディスク装置及び/又は半導体メモリ等の記憶デバイスを用いて構成される。記憶部332、334、336、352、354、356は、それぞれ別々の記憶装置を用いて構成されてもよいし、1つ又は複数の記憶装置における記憶領域の一部として構成されてもよい。
【0076】
本開示において、レーザ制御部90、露光制御部50、レーザ装置用管理システム206、半導体工場管理システム208、及び消耗品管理サーバ310の各々は、1台又は複数台のコンピュータのハードウェア及びソフトウェアの組み合わせによって実現することが可能である。ソフトウェアはプログラムと同義である。プログラマブルコントローラはコンピュータの概念に含まれる。
【0077】
コンピュータは、例えば、CPU(Central Processing Unit)及び記憶装置を含んで構成され得る。プログラマブルコントローラはコンピュータの概念に含まれる。コンピュータはGPU(Graphics Processing Unit)を含んでもよい。コンピュータに含まれるCPUやGPUはプロセッサの一例である。記憶装置は、有体物たる非一時的なコンピュータ可読媒体であり、例えば、主記憶装置であるメモリ及び補助記憶装置であるストレージを含む。コンピュータ可読媒体は、例えば、半導体メモリ、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive:HDD)装置、若しくはソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)装置又はこれらの複数の組み合わせであってよい。プロセッサが実行するプログラムはコンピュータ可読媒体に記憶されている。プロセッサはコンピュータ可読媒体を含む構成であってもよい。
【0078】
また、レーザ制御部90、露光制御部50、レーザ装置用管理システム206、半導体工場管理システム208及び消耗品管理サーバ310などの各種の制御装置や処理装置の機能の一部又は全部は、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)に代表される集積回路を用いて実現してもよい。
【0079】
また、複数の制御装置や処理装置の機能を1台の装置で実現することも可能である。さらに本開示において、複数の制御装置や処理装置は、ローカルエリアネットワークやインターネット回線といった通信ネットワークを介して互いに接続されてもよい。分散コンピューティング環境において、プログラムユニットは、ローカル及びリモート両方のメモリストレージデバイスに保存されてもよい。レーザ制御部90、露光制御部50、レーザ装置用管理システム206、半導体工場管理システム208、及び消耗品管理サーバ310などに適用されるプロセッサは、本開示に含まれる各種処理を実行するために特別に構成又はプログラムされている。
【0080】
5.2 動作
5.2.1 消耗品管理サーバにおける機械学習の動作の概要
図5に示す消耗品管理サーバ310は、レーザ装置10の消耗品の寿命を予測する処理に用いる学習モデルを作成するための機械学習を行う機能と、作成した学習モデルを用いて消耗品の寿命を予測する処理を行う機能とを備える。消耗品管理サーバ310は本開示における「消耗品管理装置」の一例である。まず、消耗品管理サーバ310において消耗品の寿命の予測に用いる学習モデルを作成するための機械学習方法及びその機械学習に使用する訓練データの作成方法を説明する。
【0081】
データ取得部320は、各レーザ装置10で消耗品が交換された場合に、レーザ装置用管理システム206から、交換された消耗品の使用期間中の全期間にわたって発振パルス数Npと対応付けて継続的に記録された寿命関連パラメータの全データを含む寿命関連情報を取得する。データ取得部320は、レーザ装置用管理システム206から取得したデータを、消耗品の寿命関連情報保存部330に書き込む。
【0082】
データ取得部320は、交換された消耗品の種類に応じて書き込むファイルを特定してデータを書き込む。交換された消耗品がレーザチャンバ100である場合、データ取得部320はファイルAにレーザチャンバ100の寿命関連情報である寿命関連ログデータを書き込む。交換された消耗品がモニタモジュール108である場合、データ取得部320はファイルBにモニタモジュール108の寿命関連情報である寿命関連ログデータを書き込む。交換された消耗品が狭帯域化モジュール106である場合、データ取得部320はファイルCに狭帯域化モジュール106の寿命関連情報である寿命関連ログデータを書き込む。ファイルA、ファイルB、及びファイルCの各々に書き込まれるログデータは本開示における「第1の寿命関連情報」の一例である。データ取得部320は本開示における「情報取得部」の一例である。
【0083】
学習モデル作成部340は、消耗品の寿命関連情報保存部330に、交換された消耗品に関する新しい寿命関連情報のデータが保存されると、この新しく保存された寿命関連情報のデータを取得する。また、学習モデル作成部340は、交換された消耗品に対応した学習モデルを消耗品の学習モデル保存部350から呼び出す。
【0084】
例えば、交換された消耗品がレーザチャンバ100である場合、学習モデル作成部340はファイルAmを呼び出す。交換された消耗品がモニタモジュール108である場合、学習モデル作成部340はファイルBmを呼び出す。交換された消耗品が狭帯域化モジュール106である場合、学習モデル作成部340はファイルCmを呼び出す。
【0085】
学習モデル作成部340は、交換された消耗品の使用開始から交換までの期間中に記録された寿命関連パラメータのデータに基づいて機械学習を行い、新しい学習モデルを作成する。具体的な機械学習方法の内容については後述する。学習モデル作成部340によって作成された新しい学習モデルは、消耗品の学習モデル保存部350に保存される。機械学習の実施によって新しい学習モデルが作成されると、学習モデル保存部350のファイルが更新され、学習モデル保存部350に最新の学習モデルのファイルが書き込まれる。
【0086】
5.2.2 消耗品管理サーバにおける消耗品の寿命予測の動作の概要
次に、消耗品管理サーバ310における消耗品の寿命予測の動作を説明する。データ取得部320は、外部装置から交換予定の消耗品の寿命予測処理の要求信号を受信することができる。ここでの外部装置は、半導体工場管理システム208であってもよいし、図示しない端末装置などであってもよい。「交換予定の消耗品」とは、レーザ装置10に現在搭載されている使用中の消耗品であって、今後交換する予定が検討される候補対象の消耗品である。
【0087】
データ取得部320は、交換予定の消耗品の寿命予測処理の要求を受けると、レーザ装置用管理システム206から、交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報のデータと、1日当りの発振予定パルス数Ndayのデータとを取得する。
【0088】
データ取得部320は、交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報のデータと、1日当りの発振予定パルス数Ndayのデータとを、消耗品の寿命予測部360に送信する。
【0089】
消耗品の寿命予測部360は、交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報のデータと、1日当りの発振予定パルス数Ndayのデータとを取得し、交換予定の消耗品に対応した学習モデルを消耗品の学習モデル保存部350から呼び出す。
【0090】
例えば、交換予定の消耗品がレーザチャンバ100である場合、消耗品の寿命予測部360は消耗品の学習モデル保存部350からファイルAmを読み込む。
【0091】
消耗品の寿命予測部360は、現在の寿命関連情報のデータに基づいて学習モデルを使用することによって消耗品の寿命を予測する。
【0092】
消耗品の寿命予測部360は、予測された交換予定の消耗品の寿命Nlifeと余命Nreの発振パルス数のデータと、推奨メインテナンス日Drecとを計算し、これらのデータをデータ出力部370に送信する。
【0093】
推奨メインテナンス日Drecは、例えば、次式を用いて計算することができる。
【0094】
Drec=Dpre+Nre/Nday
Dpre:消耗品の現在の寿命関連データの取得日
データ出力部370は、予測された交換予定の消耗品の寿命Nlifeと余命Nreの発振パルス数のデータと、推奨メインテナンス日Drecを表すデータとを、ネットワーク210を介してレーザ装置用管理システム206に送信する。データ出力部370は本開示における「情報出力部」の一例である。
【0095】
レーザ装置用管理システム206は、予測された交換予定の消耗品の寿命Nlifeと余命Nreの発振パルス数と推奨メインテナンス日Drecの情報を半導体工場管理システム208やオペレータやFSEにディスプレーやメール等で通知してもよい。
【0096】
この通知は、消耗品管理サーバ310からネットワーク210を介して、通知されてもよい。
【0097】
5.2.3 データ取得部の処理例
図6は、データ取得部320における処理内容の例を示すフローチャートである。図6のフローチャートに示す処理及び動作は、例えば、データ取得部320として機能するプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0098】
ステップS12において、データ取得部320は消耗品が交換されたか否かを判定する。ステップS12の判定結果がYes判定である場合、データ取得部320はステップS14に進む。ステップS14及びステップS16は学習モデルを作成する場合の処理フローである。
【0099】
ステップS14において、データ取得部320は交換された消耗品の使用期間中の全寿命関連情報を受信する。すなわち、レーザ装置10の消耗品の交換が行われると、データ取得部320はレーザ装置用管理システム206から、その交換された消耗品の使用期間中の全寿命関連情報を受信する。
【0100】
次に、ステップS16において、データ取得部320は交換された消耗品の使用期間中の全寿命関連情報を寿命関連情報保存部330に書き込む。すなわち、データ取得部320は、交換された消耗品に対応したファイルにデータを書き込む。ここでは、交換された消耗品はレーザチャンバ100、モニタモジュール108、又は狭帯域化モジュール106であり、データ取得部320は消耗品の種類に応じてファイルA、ファイルB、又はファイルCにデータを書き込む。
【0101】
ステップS16の後、データ取得部320はステップS30に進む。ステップS30において、データ取得部320は情報の受信を停止するか否かを判定する。ステップS30の判定結果がNo判定である場合、データ取得部320はステップS12に戻る。
【0102】
ステップS12の判定結果がNo判定である場合、データ取得部320はステップS20に進む。ステップS20において、データ取得部320は交換予定の消耗品の寿命を計算するか否かを判定する。例えば、図示しない入力装置からユーザによって、交換予定の消耗品についての寿命予測の要求が入力された場合に、ステップS20の判定結果がYes判定となる。
【0103】
ステップS20の判定結果がYes判定である場合、データ取得部320はステップS22に進む。ステップS22、ステップS24及びステップS26は交換予定の消耗品の予測寿命を計算する場合の処理フローである。消耗品の予測寿命を計算することは、消耗品の寿命を予測することを意味する。
【0104】
ステップS22において、データ取得部320はレーザ装置用管理システム206から交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報を受信する。
【0105】
ステップS24において、データ取得部320はレーザ装置用管理システム206からレーザ装置10の稼動関連情報を受信する。レーザ装置10の稼動関連情報とは、1日当りの発振予定パルス数Ndayである。具体的には、過去の稼動データから把握される1日当りの発振予定パルス数Ndayであってよい。若しくは、半導体工場管理システム208から今後の稼動予定情報を取得して、1日当りの発振予定パルス数Ndayを計算してもよい。
【0106】
その後、ステップS26において、データ取得部320は消耗品の寿命予測部360に現在の寿命関連情報とレーザ装置10の稼動関連情報とを送信する。
【0107】
ステップS26の後、データ取得部320はステップS30に進む。また、ステップS20の判定結果がNo判定である場合、データ取得部320はステップS22~ステップS26をスキップしてステップS30に進む。
【0108】
ステップS30の判定結果がYes判定である場合、データ取得部320は図6のフローチャートを終了する。
【0109】
5.2.4 学習モデル作成部の処理例
図7は、学習モデル作成部340における処理内容の例を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示す処理及び動作は、例えば、学習モデル作成部340として機能するプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0110】
ステップS42において、学習モデル作成部340は消耗品の寿命関連情報保存部330に新しいデータが書き込まれたか否かを判定する。ステップS42の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS42を繰り返す。ステップS42の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340はステップS44に進む。
【0111】
ステップS44において、学習モデル作成部340は交換された消耗品の使用期間中の全寿命関連情報を取得する。学習モデル作成部340は、交換された消耗品(レーザチャンバ100、モニタモジュール108、又は狭帯域化モジュール106)に対応したファイル(ファイルA、ファイルB、又はファイルC)に書き込まれたデータを取得する。
【0112】
ステップS46において、学習モデル作成部340は交換された消耗品の学習モデルを呼び出す。すなわち、学習モデル作成部340は、交換された消耗品に対応したファイル(ファイルAm、ファイルBm、又はファイルCm)に保存された学習モデルを呼び出す。
【0113】
ステップS48において、学習モデル作成部340は学習モデルの作成サブルーチンの処理を実行する。学習モデル作成部340は、交換された消耗品に対応した学習モデルと寿命関連情報とに基づいて機械学習を行い、新しい学習モデルを作成する。
【0114】
ステップS50において、学習モデル作成部340は新しく作成された学習モデルを消耗品の学習モデル保存部350に保存する。学習モデル作成部340は、新しく作成された学習モデルを交換された消耗品に対応したファイル(ファイルAm、ファイルBm、又はファイルCm)に保存する。次回からは、この新しい学習モデルを使用するように、学習モデル保存部350には最新の学習モデルが保存される。
【0115】
ステップS52において、学習モデル作成部340は学習モデルの作成を中止するか否かを判定する。ステップS52の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS42に戻り、ステップS42からステップS52を繰り返す。ステップS52の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340は図7のフローチャートを終了する。
【0116】
なお、図7のフローチャートにおいて、各消耗品の学習モデルを最初に作成するときは、学習モデル保存部350に保存されているそれぞれの初期の学習モデルのパラメータは、学習前の任意の値に設定されたものであってよい。後述する機械学習を実施することによって、学習モデルのパラメータが適切な値に変更され、消耗品の寿命予測の処理機能を獲得した学習モデルが作成されることになる。
【0117】
もちろん、初期の学習モデルは、予め本実施形態の機械学習方法と同様の方法を実施してパラメータがある程度調整された暫定的な学習モデルであってもよい。
【0118】
5.2.5 レーザチャンバの寿命予測に用いる学習モデルの作成例1
学習モデル作成部340が作成する学習モデルは、寿命関連情報の入力を受けて、消耗品の劣化度を予測(推論)結果として出力するように学習される。学習モデル作成部340によって行われる処理には、機械学習に用いる訓練データを作成する処理と、作成した訓練データを用いて機械学習を実施する処理とが含まれる。まず、学習モデル作成部340が実施する訓練データ作成方法の例を説明する。なお、訓練データは「学習用データ」あるいは「学習データ」と同義である。
【0119】
図8は、レーザチャンバ100の電圧Vと発振パルス数Npとの関係の例を示すグラフであり、発振パルス数Npと電圧Vとによってレーザチャンバ100の寿命までの劣化度を付与する例を示す。図8の横軸は発振パルス数Npを表し、縦軸は電極125、126間に印加される電圧Vを表す。ファイルAに保存されているレーザチャンバ100の寿命関連ログデータから、図8のような発振パルス数Npと関連付けされた電圧Vのデータを読み出すことができる。
【0120】
消耗品交換1サイクルを消耗品毎の寿命とし、発振パルス数Npによる劣化度DLnを段階的(例えば10段階)に定義する。劣化度DLnは、レーザチャンバ100の劣化のレベルを発振パルス数Npによって評価したものであり、発振パルス数Npが大きくなるにつれて劣化度DLnのレベルを示す値が大きい値となる。劣化度DLnのレベルが高いほど、つまり劣化度DLnのレベルを示す値が大きいほど、劣化が進んだ状態であることを示す。発振パルス数Npに応じて10段階の劣化度DLnを定義する場合、最小レベル値は1、最大レベル値は10としてよい。
【0121】
ここで電極125、126に印加する電圧Vは、ガスの不純物濃度が増加するのに伴うエネルギ低下を補うために、徐々に増加する傾向にある。そこで、最大許容電圧Vmaxを寿命とし、電圧Vによる劣化度DLvを段階的(例えば10段階)に定義する。最大許容電圧Vmaxは、例えば17.5kV~20.0kVの範囲の値である。劣化度DLvは、レーザチャンバ100の劣化レベルを電圧Vによって評価したものであり、電圧Vが大きくなるにつれて劣化度DLvのレベルを示す値が大きい値となる。電圧Vに応じて10段階の劣化度DLvを定義する場合、最小レベル値は1、最大レベル値は10としてよい。電圧Vによる劣化度DLvの上限(最大レベル値)と発振パルス数Npによる劣化度DLnの上限とは一致させておくことが好ましく、それぞれのパラメータによる劣化度の上限に対する相対的な劣化具合は、概ね揃えておくことが好ましい。電圧Vによる劣化度DLvのレベル分けについては、予め試験結果又はフィールドデータなどから電圧値とレベル値との対応関係を定めておいてよい。
【0122】
発振パルス数Npと電圧Vとのパラメータの組み合わせ(Np,V)によって表されるレーザチャンバ100の状態に対して、実際に寿命までの劣化の度合いを示すラベルとして付与する劣化度DLは、発振パルス数Npによる劣化度DLn(Np)と、電圧Vによる劣化度DLv(V)とのうち、より劣化のレベルが高い方(レベル値が大きい方)の劣化度とする。図8の例によれば、例えば、発振パルス数Npによる劣化度DLnのレベルが「2」である領域において、電圧Vによる劣化度DLvのレベルは「4」であるため、当該領域に対して実際に付与する劣化度DLは「4」となる。なお、電圧Vは、取得時のばらつきが大きい場合があるため、ある期間(例えば1週間)の移動平均値を使用してもよい。
【0123】
図8では、電圧Vのデータによる劣化度DLvの定義について、レーザチャンバ100交換後の初期電圧Vchから最大許容電圧Vmaxまでの範囲をレベル1~10の10段階に等分しているが、電圧Vによる劣化度DLvのレベル分けはこの例に限らない。例えば、図9に示すように、電圧Vに関して閾値電圧Vthを定め、この閾値電圧Vthにおける劣化度DLvをレベル6などのように定め、閾値電圧Vthから最大許容電圧Vmaxまでを等分してレベル6~10を設定してよい。最大許容電圧Vmaxが例えば19kVである場合、閾値電圧Vthは例えば17.5kVであってもよい。この場合、閾値電圧Vthに満たない低い電圧Vによる劣化度DLvについてはレベル0としてよい。レベル0とは、劣化度を評価しないこと(無評価)を意味する。閾値電圧Vthは本開示における「所定の閾値」の一例である。
【0124】
図9の例によれば、例えば、発振パルス数Npによる劣化度DLnのレベルが「3」である領域における電圧Vの値は閾値電圧Vthよりも低いため、この領域内での電圧Vによる劣化度DLvのレベルは「0」である。したがって、発振パルス数Npによる劣化度DLnの評価が優先され、当該領域に対して実際に付与する劣化度DLは「3」となる。一方、発振パルス数Npによる劣化度のレベルDLnが「4」である領域において、電圧Vによる劣化度DLvのレベルは「7」であるため、当該領域に対して実際に付与する劣化度DLは、より大きな値の「7」となる。
【0125】
このような劣化度の設定によれば、電圧Vが閾値電圧Vthよりも低い場合には、発振パルス数Npによる劣化度DLnが、実際に付与する劣化度DLとして維持される。一方で、電圧Vが閾値電圧Vth以上に高い場合に、電圧Vによる劣化度DLvが劣化レベルの後半(レベル6~10)のレベル値として評価される。
【0126】
電圧Vに関しては、ある一定の電圧値よりも高い電圧となった場合に劣化状態が問題となるという知見から、注意すべき電圧Vの値(閾値電圧Vth)よりも高い領域について電圧Vによる劣化度DLvのラベルを与えるという構成を採用してよい。
【0127】
図9のような劣化度の付与方法を採用することにより、電圧Vが閾値電圧Vthよりも低い領域において、電圧Vによる劣化度DLvの評価の影響を相対的に低減して、発振パルス数Npによる劣化度DLnの評価の影響を相対的に高めることができる。そして、電圧Vが閾値電圧Vthよりも高い領域において、電圧Vによる劣化度DLvの評価と発振パルス数Npによる劣化度DLnの評価とを概ね同程度に重視して両者を比較し、実際に付与する劣化度DLを決定することができる。この場合に、実際に付与する劣化度DLは、両パラメータによるそれぞれの劣化度のうち、劣化度のレベルがより高い方の劣化度となる。
【0128】
図9では、閾値電圧Vthに満たない低い電圧Vによる劣化度DLvについては「レベル0」と定めたが、「レベル0」の代わりに「レベル1」と定めても同様の結果が得られる。つまり、閾値電圧Vthよりも低い電圧Vである場合の電圧Vによる劣化度DLvは、発振パルス数Npによる劣化度DLnの最小レベル値(レベル1)以下の値としてよい。
【0129】
図8又は図9で例示したように、発振パルス数Np及び電圧Vの組み合わせ(Np,V)に対して劣化度DLが付与される。こうして作成された発振パルス数Np及び電圧Vの組み合わせ(Np,V)のパラメータセットと劣化度DLとを対応付けたデータは、機械学習のための訓練データとして用いられる。すなわち、発振パルス数Npと寿命関連パラメータとの組み合わせデータが学習モデルへの入力データとなり、劣化度DLを表すレベルの値がその入力データに対する劣化度の正解のラベル(教師データ)に相当する。
【0130】
図8に示す例の場合、発振パルス数Np及び電圧Vの組み合わせ(Np,V)のパラメータセットのデータが学習モデルへの入力データであり、これに対応する劣化度DLのデータが正解のラベルである。学習モデル作成部340は、作成された教師ありデータを用いて機械学習を行い、発振パルス数Np及び電圧Vの組み合わせの入力に対して、劣化度の予測値を出力する学習モデルを作成する。すなわち、学習モデル作成部340は、複数のパラメータの組み合わせによる入力データに対して、10段階の劣化度(レベル1~10)のうちどのレベルに相当するかを予測(推論)する10クラス分類のタスクを行う学習モデルを作成する。なお、ここでは、10段階の劣化度を定義する例を示しているが、劣化度の段階数は10段階に限らず、2以上の適宜の段階とすることができる。
【0131】
発振パルス数Npによる劣化度DLnは本開示における「第1の劣化度」の一例である。電圧Vによる劣化度DLvは本開示における「第2の劣化度」の一例である。実際に付与される劣化度DLは本開示における「第3の劣化度」の一例である。
【0132】
5.2.6 レーザチャンバの寿命予測に用いる学習モデルの作成例2
図8及び図9では、発振パルス数Npと電圧Vとに基づいて劣化度DLを付与する例を説明したが、レーザチャンバ100の寿命を評価するために用いるパラメータは、発振パルス数Npと電圧Vとに限らない。図3で説明したように、全ガス交換後の初期ガス圧Piniも電圧Vと同様に、発振パルス数Npが増加すると増加する(図3参照)。以下、全ガス交換後の初期ガス圧Piniを「ガス圧Pini」と表記する。そこで、電圧Vによる劣化度DLvの代わりに、ガス圧Piniによって劣化度DLpを判断してもよい。
【0133】
また、電圧Vとガス圧Piniとの両方を使用して劣化度を判断することがより望ましい。その場合、実際に付与する劣化度DLは、発振パルス数Npによる劣化度DLn、電圧Vによる劣化度DLv、及びガス圧Piniによる劣化度DLpのうち、最も大きい値の劣化度を付与してよい。なお、電圧Vと同様に、ガス圧Piniは、取得時のばらつきが大きい場合があるため、ある期間(例えば1週間)の移動平均値を使用してもよい。
【0134】
図10は、レーザチャンバ100のガス圧Piniと発振パルス数Npとの関係の例を示すグラフであり、発振パルス数Npとガス圧Piniと電圧Vとに基づきレーザチャンバ100の寿命までの劣化度を定義する例を示す。図10の縦軸はガス圧Piniを表し、単位は[Pa]である。最大許容ガス圧Pmaxを寿命とし、ガス圧Piniによる劣化度DLpを段階的(例えば10段階)に定義する。
【0135】
図10では、ガス圧Piniによる劣化度DLpの定義について、レーザチャンバ100交換後の初期ガス圧Pchから最大許容ガス圧Pmaxまでの範囲をレベル1~10の10段階に等分しているが、ガス圧Piniによる劣化度DLpのレベル分けの設定はこの例に限らない。
【0136】
例えば、ガス圧Piniに関して閾値となる閾値ガス圧を定め、この閾値ガス圧での劣化度を例えばレベル3とし、最大許容ガス圧Pmaxのレベル10までを等分してレベル3~10などと設定してよい。例えば、Pmaxが3300[Pa]である場合、閾値ガス圧は2400[Pa]であってもよい。この場合、レベル3よりも低いガス圧に対応する劣化度についてはレベル0又はレベル1などとしてよい。
【0137】
発振パルス数Npとガス圧Piniとのパラメータの組み合わせ(Np,Pini)による劣化度DLnpは、発振パルス数Npによる劣化度DLn(Np)と、ガス圧Piniによる劣化度DLp(Pini)とのうち、より劣化のレベルが高い方の劣化度とする。
【0138】
さらに、電圧Vとガス圧Piniとの両方を使用して劣化度を判断する形態の場合、発振パルス数Np、電圧V及びガス圧Pの組み合わせ(Np,V,Pini)に対して、実際に付与する劣化度DLnvpは、発振パルス数Npによる劣化度DLn(Np)、電圧Vによる劣化度DLv(V)及びガス圧Piniによる劣化度DLp(Pini)のうちの最も劣化のレベルが高い劣化度とする。
【0139】
図10の例によれば、発振パルス数Npによる劣化度DLnのレベルが「5」である領域において、ガス圧Piniによる劣化度DLpのレベルは「6」であるため、当該領域に対して、発振パルス数Npとガス圧Piniとの総合判断による劣化度DLnpは「6」となる。また、図10の発振パルス数Npによる劣化度DLnのレベルが「5」である領域において、電圧Vによる劣化度DLvのレベルは「7」であるため(図8参照)、当該領域に対して、発振パルス数Npと電圧Vとガス圧Piniとの総合判断による劣化度DLnvpは「7」となる。
【0140】
図10で例示したように、発振パルス数Np、電圧V及びガス圧Piniの組み合わせ(Np,V,Pini)によって表される消耗品の状態に対して、各パラメータによる劣化度DLn、DLv、DLpに基づき、劣化度DLnvpが付与される。こうして作成された発振パルス数Np,電圧V及びガス圧Pの組み合わせ(Np,V,Pini)と劣化度DLnvpとを対応付けたデータは、機械学習のための訓練データとして用いられる。
【0141】
このような訓練データを用いて機械学習を行い、発振パルス数Np,電圧V及びガス圧Pの組み合わせ(Np,V,Pini)の入力に対して、消耗品の劣化度を示すレベル(すなわち、劣化度のクラス分類ラベル)を予測結果として出力する学習モデルを作成する。電圧V及びガス圧Piniは本開示における「複数の寿命関連パラメータ」の一例である。電圧Vによる劣化度DLvとガス圧Piniによる劣化度DLpとのそれぞれは本開示における「第2の劣化度」の一例である。発振パルス数Npと電圧Vとガス圧Piniとによる総合的な劣化度DLnvpは本開示における「第3の劣化度」の一例である。
【0142】
レーザチャンバ100に限らず、モニタモジュール108や狭帯域化モジュール106など他の消耗品についても同様に、消耗品毎にその消耗品の使用開始から交換までの1サイクルの全期間における寿命関連情報のデータを複数段階の劣化度のレベルに分割し、寿命関連パラメータのデータと劣化度を示すレベルとを対応付けた訓練データを作成する。
【0143】
そして、消耗品の種類毎に、それぞれの訓練データを用いて機械学習を行い、それぞれの学習モデルを作成する。
【0144】
図11は、図7のステップS48に適用される処理内容の例1を示すフローチャートである。すなわち、図11は、学習モデルの作成サブルーチンの例1を示す。
【0145】
図11のステップS102において、学習モデル作成部340は交換された消耗品の使用期間中の全寿命関連情報を劣化度のレベルによってSmax段階に分割する。Smaxは、例えば、図8で例示したように、10であってよい。
【0146】
ステップS104において、学習モデル作成部340はSmax段階に分割された各段階の寿命関連情報のデータD(s)を作成する。ここでsは、劣化度のレベルを表す整数である。sは1からSmaxまでの値をとり得る。図8の例では、レーザチャンバ100に関して10段階にレベル分けされた劣化度DLの各段階の寿命関連情報のデータD(s)が作成される。データD(s)は、寿命関連情報と劣化度DLのレベルsとが関連付けされたデータであり、訓練データとして用いられる。ステップS102及びステップS104を実施して訓練データを作成する方法は本開示における「訓練データ作成方法」の一例である。
【0147】
次に、ステップS106において、学習モデル作成部340は、劣化度のレベルを表す変数sの値を初期値の「1」に設定する。その後、ステップS108において、学習モデル作成部340はD(s)のデータを、図7のステップS46で呼び出した学習モデルに入力する。
【0148】
次に、図11のステップS110において、学習モデル作成部340は、データD(s)の入力に対する学習モデルの出力がレベルsとなるように学習モデルのパラメータを変更する。
【0149】
学習モデルは、例えば、ニューラルネットワークモデルであってよい。学習モデル作成部340は、教師ありデータを用いた機械学習によってこの学習モデルのパラメータを変更し、新しい学習モデルを作成する。
【0150】
ステップS112において、学習モデル作成部340は変数sがSmax以上であるか否かを判定する。ステップS112の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS114に進み、変数sの値をインクリメントしてステップS108に戻る。ステップS112の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340は図11のフローチャートを終了して、図7のフローチャートに復帰する。つまり、ステップS112の判定結果がYes判定になると、学習モデルは、今回の交換された消耗品の結果を反映した新しい学習モデルに更新される。
【0151】
なお、図11のステップS106~S112の処理では、劣化度のレベルごとに学習を行う例を説明したが、学習モデルへの訓練データの入力に関して、学習単位はレベルごとではなく、ランダムなサンプルを任意の件数ごと(例えば1000件ずつ)に学習する方が好ましい。レベルごとに学習させてしまうと、学習モデルの内部のパラメータが、最後に学習したレベルのデータに寄ってしまう可能性があるため、学習単位となる学習データ群はなるべくランダムサンプリングした方がよい。
【0152】
学習モデル作成部340は本開示における「訓練データ作成方法」及び「機械学習方法」を実施する処理部の一例である。
【0153】
図12は、図11のステップS104に適用される処理内容の例1を示すフローチャートである。図12のフローチャートは、図8及び図9に例示したように、電圧Vによる劣化度DLvを考慮して、発振パルス数Npによる劣化度DLnを書き換える(上書きする)場合の「各段階の寿命関連情報のデータD(s)を作成する処理」の例である。
【0154】
ステップS201において、学習モデル作成部340は変数sの値を初期値の「1」に設定する。ここでの変数sは、発振パルス数NpをSmax段階に分割して定義した区間を表し、発振パルス数Npによる劣化度DLnのレベルに相当する。
【0155】
ステップS202において、学習モデル作成部340は区間sのデータを読み出す。ここでは区間sにおける電圧Vのデータが読み出される。
【0156】
ステップS204において、学習モデル作成部340は電圧Vの値から劣化度DLvを算出して変数Lに保存する。例えば、電圧Vの値が19kVである場合、劣化度DLvは「6」と算出される(図8参照)。
【0157】
次いで、ステップS210において、学習モデル作成部340は発振パルス数Npによる劣化度「s」と電圧Vによる劣化度「L」とを比較し、「s」よりも「L」が大きいか否かを判定する。
【0158】
ステップS210の判定結果がYes判定である場合(L>s)、学習モデル作成部340はステップS211に進む。ステップS211において、学習モデル作成部340は区間sの寿命関連情報のデータを劣化度「L」のD(L)として保存する。
【0159】
一方、ステップS210の判定結果がNo判定である場合(L≦s)、学習モデル作成部340はステップS212に進む。ステップS212において、学習モデル作成部340は区間sの寿命関連情報のデータを劣化度「s」のD(s)として保存する。
【0160】
ステップS211又はS212の後、学習モデル作成部340はステップS213に進む。
【0161】
ステップS213において、学習モデル作成部340は変数sがSmax以上であるか否かを判定する。ステップS112の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS214に進み、変数sの値をインクリメントしてステップS202に戻る。ステップS213の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340は図12のフローチャートを終了して、図11のフローチャートに復帰する。
【0162】
図13は、図11のステップS104に適用される処理内容の例2を示すフローチャートである。図13のフローチャートは、電圧Vによる劣化度DLvとガス圧Piniによる劣化度DLpとを考慮して、発振パルス数Npによる劣化度DLnを書き換える場合の「各段階の寿命関連情報のデータD(s)を作成する処理」の例である。図13において、図12と共通する処理のステップには同一のステップ番号を付し、重複する説明は省略する。
【0163】
ステップS202の後、ステップS204Aにおいて、学習モデル作成部340は電圧Vの値から劣化度DLvを算出して変数L1に保存する。
【0164】
ステップS204Bにおいて、学習モデル作成部340はガス圧Piniから劣化度DLpを算出して変数L2に保存する。
【0165】
ステップS206において、学習モデル作成部340はL1とL2の最大値をLとする。
【0166】
ステップS209において、学習モデル作成部340は「s」と「L」を比較し、「L」が大きいか否かを判定する。
【0167】
ステップS209の判定結果がYes判定である場合(L>s)、学習モデル作成部340はステップS211に進む。例えば、s=1の場合にL=6であればステップS210にてYes判定となり、ステップS211に進む。一方、ステップS209の判定結果がNo判定である場合(L≦s)、学習モデル作成部340はステップS212に進む。以後のステップS211~ステップS214は図12と同様である。
【0168】
図14は、図11のステップS104に適用される処理内容の例3を示すフローチャートである。図14のフローチャートは、電圧Vとガス圧Piniとを含む合計n個の劣化パラメータを考慮して、発振パルス数Npによる劣化度DLnを書き換える場合の「各段階の寿命関連情報のデータD(s)を作成する処理」の例である。図14において、図13と共通する処理のステップには同一のステップ番号を付し、重複する説明は省略する。
【0169】
図14におけるステップS204Bの後のステップS205において、任意の単一パラメータの値又はパラメータの組み合わせにより、n個のラベルを作成し、ラベルLnを付与する。ステップS205の処理は、劣化度を評価する単一パラメータ又はパラメータの組み合わせの種類数に応じて任意の回数繰り返し実施される。なお、ステップS204AとステップS204Bは、ステップS205の中で実施されてもよい。電圧Vやガス圧Piniは劣化度を評価する単一パラメータの例である。
【0170】
ステップS205の後、ステップS207において、学習モデル作成部340はL1~Lnのうちの最大値をLとする。その後のステップS209、ステップS211~214は図13と同様である。
【0171】
5.2.7 複数のパラメータを組み合わせて1つのパラメータに変換する例
電圧Vやガス圧Piniなどの寿命関連パラメータは、それぞれ単独で(単一パラメータとして)劣化度の評価に用いてもよいが、複数のパラメータを組み合わせて新たな(別の)パラメータを定義して、この新たなパラメータの値に基づいて劣化度を評価してもよい。
【0172】
複数のr個の値(r次元)を組み合わせて1つのパラメータを導き出すことができる。複数のパラメータから1つのパラメータに変換する方法としては、例えば、r個の値から四則演算によって1つの値を求める変換式を用いる方法、演算に係数を使う方法、次元削減など、様々な方法を適用し得る。
【0173】
例えば、電圧Vとガス圧Piniという2つの値から新しい特徴量を表す値1~100へ変換する。この時、変換後の値1~100を10段階に区切り、各々に劣化度1~10を付与することが考えられる。2つの値と10段階のラベルとの関係の例を図15及び図16に示す。
【0174】
図15は、電圧Vとガス圧Piniの2つの値とラベルとの相関性が直線的な場合の例である。図15における横軸は発振パルス数Np又はガス圧Piniによる劣化度を表し、縦軸は電圧Vによる劣化度を表す。図15に示す10行×10列のマトリクスの各セルに表示された数値は、2つのパラメータの値の組み合わせから導き出される新しい特徴量に対して付与される10段階のラベルを表している。
【0175】
図16は、電圧Vがラベルに与える影響は少なく、ガス圧Piniの影響が多い場合の例である。図16のように、電圧Vによる劣化度よりもガス圧Piniによる劣化度の評価を重視して、これら2つのパラメータの組み合わせによる劣化度のラベルを付与するように新しい特徴量を定義してもよい。
【0176】
5.2.8 データD(s)が複数のデータ件数を含む場合の説明
学習に使用するデータの取得条件として、例えば、下記のような場合を想定する。
【0177】
[条件1]学習に使用するデータ一式を1日に1回取得する。ここでいう「データ一式」とは、レーザ装置10の発振パルス数Np、電圧V、ガス圧Piniなどの各種のパラメータのデータを含む。
【0178】
[条件2]毎日同じ発振パルス数でレーザ装置10を使用した。
【0179】
[条件3]レーザチャンバ100が使用開始から500日で交換された。
【0180】
[条件4]交換までの500日間稼働したレーザチャンバ100について、発振パルス数Npで稼働期間を10等分して、区間ごとに発振パルス数Npによる劣化度のラベルを付与するものとする。
【0181】
条件1~4を満たす場合のデータ件数の数え方は、次のようになる。すなわち、データD全体のデータ件数は500件である。
【0182】
条件2及び条件4から劣化度1~10のそれぞれのラベルs(s=1~10)に含まれるデータ件数は50件である。D(1)、D(2)・・・D(10)のそれぞれにはデータ件数50件が含まれ、D(s)の全体、つまりデータD全体で500件となる。
【0183】
図17は、1つの劣化度の区間に複数のデータが含まれるイメージを示すグラフである。図17の横軸は発振パルス数を表し、縦軸は寿命に関連する何かしらのパラメータのデータである。横軸は、発振パルス数に応じて10段階に等分割され、劣化度1~10の区間が定められている。図17には、図示を簡略化するために、1つの劣化度の区間に10件のデータが含まれる例を示すが、1つの区間に含まれるデータ件数はこの例に限らない。
【0184】
上述の条件1~4を満たす想定例の場合には、既述のように1つの区間に50件のデータが含まれる。なお、1つの区間に100件、あるいは1000件など、さらに多数のデータ件数が含まれてもよい。
【0185】
学習時において、全データDから任意の件数をランダムサンプリングして学習してもよい。例えば、総データ件数が500件である場合に、1つの劣化度ごとに順番に学習するのではなく、全データDの中から様々な劣化度のデータをランダムに所定件数(例えば、50件)を重複なく抜き出して、10回学習する。
【0186】
また、劣化度のラベルの書き換えに際しては、同じ区間内の複数のデータを一斉に同じラベルに書き換えるのではなく、区間内の個々のデータについて、つまり、全データDに対してそれぞれ、電圧Vやガス圧Piniを基に劣化度を書き換えることが好ましい。
【0187】
図18は、図7のステップS48に適用される処理内容の例2を示すフローチャートである。図18は、学習モデルの作成サブルーチンの例2を示す。図11で説明したフローチャートの代わりに、図18に示すフローチャートを適用することができる。
【0188】
図18に示すステップS102及びステップS104は、図11と同様である。なお、図18のステップS104におけるデータD(s)は、sが1からSmaxまでの全てのデータを含む。
【0189】
ステップS104の後のステップS116において、学習モデル作成部340は変数nを初期値としての「1」に設定し、変数mを「1000」に設定する。ここでの変数nは後述する処理のループ回数を示す。変数mは全データDの中から学習単位として抜き出すデータ件数を表す。m=1000の場合は、1000件毎にまとめて学習することを意味する。つまり、mはミニバッチのバッチサイズと理解してよい。mは総データ件数よりも少ない任意の数であってよい。ここでは、全データDの中からランダムに学習用のサンプル(データ)を1000件ずつ抜き出して、1000件のミニバッチの単位で学習を進める例を説明する。
【0190】
ステップS117において、学習モデル作成部340はデータDからm件をランダムに抜き出す。このとき、一度抜き出したものは重複して抜き出さないものとする。m件の中には、様々な劣化度のデータが混在し得る。なお、ここでのデータDとは、D(1)、D(2)・・・D(Smax)を含む全てのデータの集合である。
【0191】
ステップS118において、学習モデル作成部340は各D(s)のデータを呼び出して学習モデルに入力する。
【0192】
ステップS120において、学習モデル作成部340は学習モデルの出力がレベルsとなる確率が上がるように学習モデルのパラメータを変更する。学習モデルは、後述するニューラルネットワークモデルであって、教師ありデータによって、このモデルのパラメータを変更し、新しい学習モデルを作成する。
【0193】
ステップS122において、学習モデル作成部340はnとmの積がN以上であるか否かを判定する。NはデータDの総データ件数である。ステップS122の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS124に進み、nの値をインクリメントしてステップS117に戻る。ステップS122の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340は図18のフローチャートを終了して、図7のフローチャートに復帰する。つまり、ステップS112の判定結果がYes判定になると、学習モデルは、今回の交換された消耗品の結果を反映した新しい学習モデルに更新される。
【0194】
なお、図18のフローチャートでは、1エポックで学習を終了するフローチャートとなっているが、エポック数を2以上の値に設定するなどして、ステップS116~ステップS122をさらに複数回繰り返してもよい。
【0195】
図19は、図18のステップS104に適用される処理内容の例を示すフローチャートである。図19のフローチャートは、図8及び図9に例示したように、電圧Vによる劣化度DLvを考慮して、発振パルス数Npによる劣化度DLnを書き換える場合の「各段階の寿命関連情報のデータD(s)を作成する処理」の例である。
【0196】
図19のステップS251において、学習モデル作成部340はデータ番号を表すインデックスkを初期値の「1」に設定する。ステップS252以降の処理はデータDのデータセットの全データに対してループする。
【0197】
ステップS252において、学習モデル作成部340はデータ番号「k」のデータを読み出す。
【0198】
ステップS253において、学習モデル作成部340は発振パルス数Npによる劣化度sを算出する。
【0199】
ステップS254において、学習モデル作成部340は電圧Vの値から劣化度DLvを算出して変数Lに保存する。
【0200】
ステップS260において、学習モデル作成部340は「s」と「L」を比較し、「s」よりも「L」が大きいか否かを判定する。ステップS260の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340はステップS261に進む。ステップS261において、学習モデル作成部340はデータ番号「k」の寿命関連情報のデータを劣化度「L」のデータD(L)として保存する。
【0201】
一方、ステップS260の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS262に進む。ステップS262において、学習モデル作成部340はデータ番号「k」の寿命関連情報のデータを劣化度「s」のデータD(s)として保存する。
【0202】
ステップS261又はS262の後、学習モデル作成部340はステップS263に進む。
【0203】
ステップS263において、学習モデル作成部340はkの値がデータDの総データ件数N以上であるか否かを判定する。ステップS263の判定結果がNo判定である場合、学習モデル作成部340はステップS264に進み、インデックスkの値をインクリメントしてステップS252に戻る。ステップS263の判定結果がYes判定である場合、学習モデル作成部340は図19のフローチャートを終了して、図18のフローチャートに復帰する。
【0204】
図19の代わりに、図13又は図14で説明したようなフローチャートに対応するフローチャートを適用してもよい。
【0205】
5.2.9 ニューラルネットワークモデルの例
図20は、ニューラルネットワークモデルの例を示す模式図である。図20において円はニューロンを表し、矢印の付いた直線は信号の流れを表す。図20の左から入力層402のニューロンN11、N12、N13、隠れ層404のニューロンN21、及び出力層406のニューロンN31である。層構造を有するニューラルネットワークの層番号をi、ニューロン番号をjとして、ニューロンNijから出力される信号の強さをXijとし、信号Xijと表記する。i層と(i+1)層との間のニューロン同士の結合の重みをWijとする。
【0206】
入力層402のニューロンN11、N12、N13は、それぞれ信号の強さがX11、X12、X13の信号を出力する。隠れ層404のニューロンN21は、入力される信号X11、X12、X13の重み付き信号和(W11×X11+W12×X12+W13×X13)が閾値よりも大きい場合に、信号X21を出力する。ここでの閾値をb21とすると、ニューロンN21はW11×X11+W12×X12+W13×X13-b21>0の場合に、信号X21を出力する。「-b21」をニューロンN21のバイアスという。
【0207】
ニューラルネットワークモデルのパラメータは、ニューロン間の結合の重みとバイアスを含む。
【0208】
5.2.10 ニューラルネットワークモデルの学習モード
図21は、学習モデルを作成する際のニューラルネットワークのモデルの例である。ニューラルネットワークモデル400は、入力層402と、隠れ層404と、出力層406とを含む。
【0209】
入力層402はn個のニューロンN11~N1nを含み、それぞれのニューロンN11~N1nに、交換した消耗品の寿命関連情報の中で劣化度sの時のログデータが入力される。
【0210】
隠れ層404は、m個のニューロンN21~N2mを含み、隠れ層404におけるそれぞれのニューロンに対して入力層402のニューロンN11~N1nから出力された信号が入力される。これらの入力信号それぞれに異なる重みのパラメータW1が設定可能である。ここで、重みのパラメータW1とは、隠れ層404の各ニューロンN21~N2mに入力される信号に対するそれぞれの重みをまとめて「重みのパラメータW1」と表記する。
【0211】
出力層406は、p個のニューロンN31~N3Pを含み、出力層406のそれぞれのニューロンに対して隠れ層404のニューロンN21~N2mから出力された信号が入力される。出力層406のニューロンの個数pは、劣化度のレベルの段階数(Smax)と同数であってよい。これらの入力信号それぞれに異なる重みのパラメータW2が設定可能である。ここで、重みのパラメータW2は、出力層406の各ニューロンN31~N3pに入力される信号に対するそれぞれの重みをまとめて「重みのパラメータW2」と表記する。
【0212】
出力層406のニューロンN31~N3Pからは、劣化度Lv(1)~Lv(s)~Lv(Smax)の確率が出力される。ここでの劣化度の確率とは、各劣化度のレベルに該当する確からしさを示すスコアを意味する。
【0213】
劣化度sが1からSmaxのSmax段階に定義されている場合、交換した消耗品の寿命関連情報(ログデータ)D1(s)、D2(s)・・・Dn(s)を入力層402にそれぞれ入力する。
【0214】
それぞれの劣化度sの入力に対して、出力層406からの出力が、Lv(s)の確率は1に近づき、その他の劣化度の確率は0に近づく結果となるように、ニューロン間のそれぞれの重みとバイアスを調整する。
【0215】
以上のようにして、教師あり機械学習によって消耗品の寿命予測を行う学習モデルが作成される。実施形態1による機械学習方法は、消耗品の寿命関連情報の入力に対して、消耗品の劣化度の予測値を出力するように学習された予測モデル(学習済みモデル)を生産する方法と理解される。
【0216】
5.2.11 消耗品の寿命予測部の処理例
図22は、消耗品の寿命予測部360における処理内容の例を示すフローチャートである。図22のフローチャートに示す処理及び動作は、例えば、消耗品の寿命予測部360として機能するプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0217】
図22のステップS62において、消耗品の寿命予測部360は交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報を受信したか否かを判定する。ステップS62の判定結果がNo判定である場合、消耗品の寿命予測部360はステップS62を繰り返す。ステップS62の判定結果がYes判定である場合、消耗品の寿命予測部360はステップS64に進む。
【0218】
ステップS64において、消耗品の寿命予測部360は交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報を取得する。ステップS64にて取得する現在の寿命関連情報は本開示における「第2の寿命関連情報」の一例である。
【0219】
ステップS66において、消耗品の寿命予測部360はレーザ装置10の稼動関連情報を取得する。次に、ステップS68において、消耗品の寿命予測部360は交換予定の消耗品の学習モデルを呼び出す。ここでは交換予定の消耗品(レーザチャンバ100、モニタモジュール108、又は狭帯域化モジュール106)に対応したファイル(ファイルAm、ファイルBm、又はファイルCm)に保存された学習モデルを呼び出す。
【0220】
そして、ステップS70において、消耗品の寿命予測部360は学習モデルを使って寿命計算を行う。すなわち、消耗品の寿命予測部360は、交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報に基づき、学習モデルを使って寿命と、余寿命と、推奨メインテナンス日とを計算する。
【0221】
ステップS72において、消耗品の寿命予測部360は交換予定の消耗品の寿命と、余寿命と、推奨メインテナンス日の各データをデータ出力部370に送信する。
【0222】
ステップS74において、消耗品の寿命予測部360は消耗品の予測寿命の計算を中止するか否かを判定する。ステップS74の判定結果がNo判定である場合、消耗品の寿命予測部360はステップS62に戻り、ステップS62からステップS74を繰り返す。ステップS74の判定結果がYes判定である場合、消耗品の寿命予測部360は図22のフローチャートを終了する。
【0223】
図23は、学習モデルを使って寿命計算を行う処理のサブルーチンの例を示すフローチャートである。すなわち、図23は、図22のステップS70の処理内容の例を示すフローチャートである。
【0224】
図23のステップS132において、消耗品の寿命予測部360は交換予定の消耗品の現在の寿命関連情報を学習モデルに入力する。
【0225】
ステップS134において、消耗品の寿命予測部360は学習モデルから各劣化度Lv(1)~Lv(Smax)の確率を出力する。
【0226】
ステップS136において、消耗品の寿命予測部360は劣化度の確率分布から現在の消耗品の劣化度sを判定する。劣化度sの判定方法の第1例として、例えば、確率が一番高い劣化度を抽出してもよい。また劣化度sの判定方法の第2例として、劣化度の確率分布から近似曲線を求めて、一番高い確率分布の劣化度sを求めてもよい。第2例の場合は劣化度sは整数ではなく、少数点以下の数値まで求める。第2例の場合は第1例の場合に比べて一層高精度に、消耗品の寿命と余寿命とを予測することができる。
【0227】
ステップS138において、消耗品の寿命予測部360はステップS136で求めた劣化度からさらに消耗品の寿命Nchesを計算する。消耗品の寿命Nchesは現在の発振パルス数Nchを用いて、Nches=Nch・Smax/sから計算される。なお、式中の「・」は乗算を表す。
【0228】
ステップS140において、消耗品の寿命予測部360はステップS136で求めた劣化度からさらに消耗品の余寿命Nchreを計算する。消耗品の余寿命Nchreは現在の発振パルス数Nchを用いて、Nchre=Nches-Nchから計算される。
【0229】
ステップS142において、消耗品の寿命予測部360は消耗品の推奨メインテナンス日Drecを計算する。推奨メインテナンス日Drecは、Drec=Dpre+Nchre/Ndayから計算される。
【0230】
ステップS142の後、消耗品の寿命予測部360は図23のフローチャートを終了し、図22のフローチャートに復帰する。
【0231】
5.2.12 学習モデルを使って消耗品の寿命を計算する処理の例
図24は、作成した学習モデルを使用してレーザチャンバ100の寿命及び余寿命を計算する例を示す。現在運転中のレーザチャンバ100の予測寿命を計算する場合に、消耗品の寿命予測部360は現在のレーザチャンバ100の寿命関連情報を取得する。ここでは、現在のレーザチャンバ100の発振パルス数Nchのデータを取得する。
【0232】
次に、作成された学習モデルに、現在のレーザチャンバ100の寿命関連情報を入力すると、複数段階の各劣化度Lv(1)~Lv(10)である確率が計算される。図25に、10段階の劣化度毎の確率の例を示す。図25の例では劣化度7である確率が一番高いと判定される。
【0233】
この場合、現在運転中のレーザチャンバ100の予測寿命Nchesは以下の式1で求められる。
【0234】
Nches=Nch・10/7 (式1)
余寿命Nchreは、以下の式2で求められる。
【0235】
Nchre=Nches-Nch=Nch・3/7(式2)
5.2.13 ニューラルネットワークモデルの寿命予測モード
図26は、学習済みのニューラルネットワークモデル400によって消耗品の寿命を予測する処理の例である。ニューラルネットワークモデル400のネットワーク構造は、図21と同じ構成である。図26において、ニューロン間の重みのパラメータW1及びW2は、図21で説明した学習モードによって適正化された値が設定されている。
【0236】
現在の消耗品について寿命予測を行う場合、現在の消耗品の寿命関連情報(ログデータ)D1,D2・・・Dnを入力層402にそれぞれ入力する。その結果、出力層406からの劣化度Lv(1)~Lv(Smax)のそれぞれの確率が出力される(図25参照)。
【0237】
5.2.14 その他
図21及び図26ではニューラルネットワークモデル400の隠れ層404が1層であるの場合の例を示したが、これに限定されることなく、隠れ層404が複数層あってもよい。
【0238】
本実施形態では、教師あり学習による機械学習の例を示したがこの例に限定されることなく、教師なし学習による機械学習を行ってもよい。例えば、入力データを次元削減して、それらのデータセットにある特徴を似たもの同士にクラスタリングすることができる。この結果を使って、何らかの基準を設けてそれを最適にするような出力の割り当てを行うことで、出力の予測を実現することできる。
【0239】
5.2.15 データ出力部の処理例
図27は、データ出力部370における処理内容の例を示すフローチャートである。図27のフローチャートに示す処理及び動作は、例えば、データ出力部370として機能するプロセッサがプログラムを実行することによって実現される。
【0240】
ステップS82において、データ出力部370は交換予定の消耗品の寿命データを受信したか否かを判定する。ステップS82の判定結果がNo判定である場合、データ出力部370はステップS82を繰り返す。ステップS82の判定結果がYes判定である場合、データ出力部370はステップS84に進む。
【0241】
ステップS84において、データ出力部370は交換予定の消耗品の寿命と、余寿命と、推奨メインテナンス日の各データを読み込む。
【0242】
ステップS86において、データ出力部370は交換予定の消耗品の寿命と、余寿命と、推奨メインテナンス日の各データを送信する。データの送信先は、レーザ装置用管理システム206及び/又は半導体工場管理システム208であってよい。また、データの送信先は、ネットワーク210に接続されている図示しない端末装置などであってもよい。
【0243】
ステップS88において、データ出力部370はデータの送信を中止するか否かを判定する。ステップS88の判定結果がNo判定である場合、データ出力部370はステップS82に戻り、ステップS82からステップS88を繰り返す。ステップS88の判定結果がYes判定である場合、データ出力部370は図27のフローチャートを終了する。
【0244】
5.3 レーザチャンバの寿命関連情報
図28図30に、レーザチャンバ100の寿命関連情報の例を示す。レーザチャンバ100の寿命関連情報は、例えば、電極劣化パラメータと、パルスエネルギ安定性パラメータと、ガス制御パラメータと、運転負荷パラメータと、レーザ共振器の光学素子の劣化パラメータとを含む。なお、図30に示す図表の「OC」の表記は出力結合ミラーを表す。
【0245】
これらの寿命関連パラメータのうちで、レーザチャンバ100の寿命予測を精度よく行うために少なくとも必要な寿命関連パラメータは、電極劣化パラメータと、パルスエネルギ安定性パラメータと、ガス制御パラメータとである。好ましくは、さらに、運転負荷パラメータを使用することによって、寿命予測の精度が改善する可能性がある。運転負荷が高い場合、レーザチャンバ100の寿命が短くなる場合があるためである。
【0246】
さらに、好ましくは、レーザ共振器の損失の指標となる狭帯域化モジュール106の劣化パラメータやレーザチャンバ100のウインドウの劣化パラメータを使用することによって、寿命予測の精度が一層改善する可能性がある。
【0247】
電極劣化パラメータは、少なくとも放電回数を含む。放電回数は、概ねレーザチャンバ100の交換後からの発振パルス数Npと等しい値である。電極劣化パラメータとして、好ましくは、投入エネルギの積算値をさらに追加してもよい。
【0248】
図1に示すようなシングルチャンバ方式のレーザ装置10の場合、スペクトル線幅と放電幅との間に相関があるので、電極劣化パラメータの1つとしてスペクトル線幅を使用してもよい。
【0249】
パルスエネルギ安定性パラメータは、少なくともパルスエネルギのばらつきを含む。さらに、パルスエネルギ安定性パラメータとして、パルスエネルギの積算値(露光量)のばらつきを追加してもよい。
【0250】
ガス制御パラメータについては、充電電圧が所定の範囲となるようにレーザチャンバ100のガス圧を制御する場合は、レーザチャンバ100のガス圧と、全ガス交換して調整発振後のレーザチャンバ100のガス圧とを少なくとも含む。
【0251】
レーザチャンバ100のガスが一定制御で、充電電圧を制御する場合は、ガス制御パラメータとして、充電電圧と、全ガス交換して調整発振後の充電電圧とを少なくとも含む。好ましくは、レーザチャンバ100を交換してからのハロゲンを含むガスの注入量の積算値、又は、レーザガスの注入の積算値を追加してもよい。これにより、寿命予測精度が一層改善する可能性がある。
【0252】
また、好ましくは、単位発振パルス当りのハロゲンガスを含むガスの注入量、又は、レーザガスの注入量を追加してもよい。
【0253】
運転負荷パラメータは、レーザ装置10から出力されるレーザ光の平均出力、又は、目標パルスエネルギがほとんど変化しない場合は、バースト運転のデューティで代用してもよい。
【0254】
特に、露光運転中の運転負荷パラメータを使用するのがよい。半導体を作る工場では、メモリ素子を作成する場合には運転負荷が高く、ロジック関連の素子を作成する場合には運転負荷が低くなることがある。
【0255】
レーザ共振器の光学素子の劣化パラメータは、ウインドウの劣化パラメータと狭帯域化モジュール106の劣化パラメータと出力結合ミラー104の劣化パラメータと、を含み、それぞれの光学素子の交換後の発振パルス数Npを少なくとも含む。レーザ装置10から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギが大きく変わる場合は、2光吸収による光学素子の劣化のパラメータである、パルスエネルギの積算値やパルスエネルギの二乗の積算値を使用してもよい。
【0256】
5.4 モニタモジュールの寿命関連情報の例
図31は、モニタモジュール108の寿命関連情報の例を示す。モニタモジュール108の寿命は、光学素子の劣化と光センサの劣化とで決まることが多い。モニタモジュール108の寿命関連情報は、モニタモジュール108の中に配置された光学素子の劣化パラメータと、光センサの劣化パラメータと、の少なくとも1つを含む。
【0257】
モニタモジュール108の光学素子の劣化パラメータは、モニタモジュール108の交換後の発振パルス数Npを少なくとも含む。レーザ装置10から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギが大きく変わる場合は、2光吸収による光学素子の劣化のパラメータである、パルスエネルギの積算値やパルスエネルギの二乗の積算値を使用してもよい。
【0258】
光センサの劣化パラメータは、光センサとしてのイメージセンサの検出光強度と、スペクトル線幅と、パルスエネルギとその積算値と、を含む。
【0259】
モニタモジュール108の寿命予測を行うために少なくとも必要な劣化パラメータは、イメージセンサの検出光強度である。イメージセンサに入射する光強度は、スペクトル線幅と、パルスエネルギとによって変化するので、補助的にスペクトル線幅とパルスエネルギの値を使用してもよい。パルスエネルギの積算値は、イメージセンサに露光される光量に近い値となるのでこの値を使用してもよい。
【0260】
[その他]
図31に示す例では、モニタモジュール108のパルスエネルギ検出器144に含まれる光センサは、例えば、フォトダイオードや焦電素子である。これらセンサの劣化も、モニタモジュール108を交換してからのパルスエネルギの積算値で評価可能となる。目標パルスエネルギが大きく変化しない場合は、モニタモジュール交換後の発振パルス数Npで代用できる。
【0261】
5.5 狭帯域化モジュールの寿命関連情報の例
図32は、狭帯域化モジュール106の寿命関連情報の例を示す。狭帯域化モジュール106の寿命は、光学素子の劣化と波長アクチュエータの劣化とで決まることが多い。狭帯域化モジュール106の寿命関連情報は、狭帯域化モジュール106の中に配置された光学素子(複数のプリズムとグレーティング)の劣化パラメータと、波長アクチュエータの劣化パラメータと、波面の劣化のパラメータと、の少なくとも1つを含む。
【0262】
狭帯域化モジュール106の寿命予測にとって少なくとも必要な劣化パラメータは、狭帯域化モジュール106の光学素子の劣化パラメータである。好ましくは、波長アクチュエータの劣化パラメータと、波面の劣化のパラメータを追加してもよい。
【0263】
狭帯域化モジュール106の光学素子の劣化パラメータは、狭帯域化モジュール106の交換後の発振パルス数を少なくとも含む。レーザ装置10から出力されるパルスレーザ光のパルスエネルギが大きく変わる場合は、2光吸収による光学素子の劣化のパラメータである、パルスエネルギの積算値やパルスエネルギの二乗の積算値を使用してもよい。
【0264】
波長アクチュエータの劣化パラメータは、波長安定性を含む。
【0265】
波長アクチュエータが劣化して動作が悪化すると、波長制御が不安定となるため、波長安定性を使用することによって、寿命を評価できる可能性がある。
【0266】
波面の劣化のパラメータは、スペクトル線幅を含む。レーザ装置10から出力されるパルスレーザ光のスペクトル線幅は、狭帯域化モジュール106の波面が歪むことによって太くなるので、スペクトル線幅を使用することによって、寿命を評価できる可能性がある。例えば、プリズムに合成石英を使用している場合、コンパクションによって、プリズムの透過波面が歪みスペクトル線幅が太くなる場合がある。
【0267】
5.6 作用・効果
電圧Vやガス圧Piniなどのパラメータの値はレーザチャンバ100の劣化に対して明確な相関性がある。仮に、発振パルス数Npのみでレーザチャンバ100の劣化度を評価して、発振パルス数Npに対して段階的に増加する劣化度のラベルを付与しただけでは、上記の電圧Vやガス圧Piniとの関連性を学習させることができない。このため、発振パルス数Npのみによって劣化度のラベルを付与した場合、例えば、初期からの劣化、急激な劣化、又は一時的な劣化などに対して、適切な劣化度を予測する学習モデルを作ることが困難である。
【0268】
この点、実施形態1によれば、電圧V及び/又はガス圧Piniなどの寿命関連パラメータを使用して、発振パルス数Npによる劣化度DLnをより適切な劣化度のラベルに書き換えることにより、パラメータの値と劣化度のラベルとが正しい相関性を持つ学習モデルを作ることができる。実施形態1に係る訓練データ作成方法によれば、予測精度の高い学習モデルの作成を可能にする訓練データのデータセットを得ることできる。
【0269】
実施形態1に係る消耗品管理サーバ310によれば、レーザ装置10における交換予定の消耗品の各々に対して、その消耗品の寿命関連情報に基づいて、対応する学習モデルを使用することによって、交換予定の消耗品の各々の寿命を精度よく予測できる。
【0270】
5.7 その他
実施形態1では、電圧V及び/又はガス圧Piniなどの寿命関連パラメータを使用して、発振パルス数Npによる劣化度DLnをより適切な劣化度のラベルに書き換える方法として、劣化のレベルが最も高い劣化度を付与する例を説明したが、異なる評価指標による複数の劣化度から1つの劣化度を決める方法はこの例に限らない。例えば、複数の劣化度の平均値を算出し、その平均値を実際に付与する劣化度のラベルとしてもよい。具体例として、発振パルス数Npによる劣化度DLnが2、電圧Vによる劣化度DLvが6である場合に、これらの平均値である「4」を実際に付与する劣化度のラベルとしてもよい。
【0271】
また、消耗品の寿命と関連する複数のパラメータに関して重み付けを行い、それぞれのパラメータによる劣化度の加重平均を算出して、その値を実際に付与する劣化度のラベルとしてもよい。
【0272】
実施形態1では、半導体工場の露光装置用KrFエキシマレーザの場合の例を示したが、これに限定されることなく、例えば、フラットパネルのアニール用エキシマレーザや加工用のエキシマレーザに適用してもよい。これらの場合は、狭帯域化モジュール106の代わりに、リアミラーが配置され、モニタモジュール108のスペクトル検出器146はなくてもよい。
【0273】
6.変形例
実施形態1で説明した消耗品管理サーバ310における訓練データの作成機能と、作成した訓練データを用いた機械学習による学習モデルの作成機能と、作成した学習モデルを用いて消耗品の寿命予測の処理を行う機能とは、それぞれ別々の装置(サーバなど)で実現してもよい。
【0274】
また、訓練データの作成処理と訓練データを用いた学習処理とは、一連の処理フローの中で実施してもよいし、それぞれの処理を独立に実施してもよい。
【0275】
7.プログラムを記録したコンピュータ可読媒体について
上述の各実施形態で説明した消耗品管理サーバ310として、コンピュータを機能させるための命令を含むプログラムを光ディスクや磁気ディスクその他のコンピュータ可読媒体(有体物たる非一過性の情報記憶媒体)に記録し、この情報記憶媒体を通じてプログラムを提供することが可能である。このプログラムをコンピュータに組み込み、プロセッサがプログラムの命令を実行することにより、コンピュータに消耗品管理サーバ310の機能を実現させることができる。
【0276】
上記の説明は、制限ではなく単なる例示を意図している。したがって、添付の特許請求の範囲を逸脱することなく本開示の実施形態に変更を加えることができることは、当業者には明らかであろう。
【0277】
本明細書及び添付の特許請求の範囲全体で使用される用語は、「限定的でない」用語と解釈されるべきである。例えば、「含む」又は「含まれる」という用語は、「含まれるものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。「有する」という用語は、「有するものとして記載されたものに限定されない」と解釈されるべきである。また、本明細書、及び添付の特許請求の範囲に記載される不定冠詞「1つの」は、「少なくとも1つ」又は「1又はそれ以上」を意味すると解釈されるべきである。また、「A、B及びCの少なくとも1つ」という用語は、「A」「B」「C」「A+B」「A+C」「B+C」又は「A+B+C」と解釈されるべきである。さらに、それらと「A」「B」「C」以外のものとの組み合わせも含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32