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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】細胞分化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240209BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240209BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C12N5/0775
C12N1/02
C12M3/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019093574
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020184969
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平床 聖也
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174919(JP,A)
【文献】特開2018-019703(JP,A)
【文献】特開2010-117350(JP,A)
【文献】特開2012-231788(JP,A)
【文献】特開2019-033742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12M 3/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を、下限臨界溶解温度(LCST)を示す培養器材上で未分化状態を維持しながら前培養する工程と、
前記培養器材をLCST以下に冷却して前培養後の幹細胞を剥離・回収する工程と、
回収した前記前培養後の幹細胞を、分化誘導培地を用いて培養する工程と、
を含んでなる幹細胞の分化方法であって、
前記培養器材の器材表面に、LCSTを示す温度応答性ブロック共重合体が被覆されてあり、
前記温度応答性ブロック共重合体が2-メトキシエチルアクリレートの繰返し単位と、n-ブチルアクリレートの繰返し単位と、N-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記幹細胞が間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞が骨髄由来間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記幹細胞が軟骨細胞に分化することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は自己をほぼ際限なく増やすことのできる自己複製能と様々な細胞に分化することのできる多分化能を持つことから再生医療分野への応用が期待されている。幹細胞を移植などの再生医療に応用するためには、一般的に体内に存在する幹細胞、又は体外で作製した幹細胞を細胞培養容器等で拡大培養し、培養容器上で目的細胞へ分化させる必要がある。培養容器上での幹細胞の分化は、従来、目的細胞への分化に適した分化誘導因子を添加した分化誘導培地で培養する方法で行われている(例えば、特許文献1参照)。しかし、分化誘導培地による分化誘導のみでは分化にかかる日数が長く、再生医療に必要な目的の分化細胞を十分量得るのが困難な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-287680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、細胞分化効率の優れた細胞分化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、以上の点を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
すなわち本発明の一態様は、
幹細胞を、下限臨界溶解温度(LCST)を示す培養器材上で培養する工程と、前記培養器材をLCST以下に冷却して前記幹細胞を剥離・回収する工程と、回収した前記幹細胞を、分化誘導培地を用いて培養する工程と、を含んでなる幹細胞の分化方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、従来の幹細胞の分化方法に比べ、分化を促進できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明するが、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0008】
幹細胞とは、未分化状態で増殖できる自己複製能と別の種類の細胞に分化する能力を持っていれば特に限定はされず、誘導多能性(iPS)細胞、胚性幹(ES)細胞、胚性生殖(EG)細胞、胚性癌(EC)細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、筋幹細胞、生殖幹細胞又は各組織の前駆細胞などが挙げられ、間葉系幹細胞は特に好適に用いられる。
【0009】
間葉系幹細胞とは、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞等の間葉系の細胞全て又はいくつかへの分化が可能な幹細胞並びにその前駆細胞の集団を意味する。間葉系幹細胞の由来として特に限定は無いが、骨髄、脂肪、歯髄、臍帯血、胎盤、滑膜などの組織由来やES細胞、iPS細胞などの多能性幹細胞由来が挙げられ、特に骨髄由来間葉系幹細胞が好ましい。また、間葉系幹細胞の由来種にも特に限定は無く、ヒト、動物、植物であってもよい。
【0010】
幹細胞の分化誘導とは、幹細胞を未分化状態から分化を開始させることであり、未分化状態から、未分化状態では検出されない分化細胞特異的な分化マーカーが検出され得る状態とすることを含む。上述した分化マーカー及びその検出方法は適宜選択すればよいが、例えば、細胞膜に存在する糖、タンパク質などの細胞表面マーカー、細胞内に存在するmRNA、タンパク質、酵素などの細胞内マーカー、細胞外に分泌されるペプチド、タンパク質、酵素、化合物などの細胞外マーカーなどが分化マーカーとして挙げられ、標識抗体を用いる方法(染色法、フローサイトメトリー、ELISAなど)、酵素活性を利用した染色法、RT-PCR法などが検出方法として挙げられる。例えば、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化では、分化誘導により形成された軟骨細胞より分泌される細胞外基質を、アルシアンブルーを用いて染色することにより確認できる。
【0011】
下限臨界溶解温度(LCST;Lower Critical Solution Temperature)とは、この温度よりも低い温度では高分子が水に溶解して透明の溶液になるが、この温度よりも高い温度では不溶化して白濁するか沈殿が生じ、相分離する温度である。本願明細書ではLCSTを示すことを、温度応答性を有するということがある。LCSTは20℃~40℃の範囲にあることが好ましく、30℃~40℃の範囲にあることがさらに好ましい。LCSTを示す繰返し単位とその水に対するLCSTは、例えば、N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=22℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST=28℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(LCST=35℃)、N,N-ジエチルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=28℃)、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST=35℃)、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=23℃)、又はN-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=20℃)等が例示できる。LCSTは水溶液の濃度で発現する温度が前後するが、N-イソプロピルアクリルアミドはLCST発現の濃度依存性が低いため好ましい。本発明におけるLCSTを示す培養器材に用いる繰返し単位は、1種類のみでもよく、2種類以上を組み合わせてあってもよい。また温度応答性を有するのであれば、LCSTを示す繰返し単位の他に、異なる繰返し単位を含んでも良い。
【0012】
培養器材は、その製造方法に特に限定は無く、例えばLCSTを示す繰返し単位を電子線照射で重合して器材表面に被覆する方法、LCSTを示す繰返し単位を含有する重合体を溶媒に溶解させた表面処理剤を器材に塗布して、膜を被覆する方法が挙げられる。前記重合体は特に限定は無いがその合成方法としては、株式会社エヌ・ティー・エス発行、“ラジカル重合ハンドブック”、p.161~225(2010)に記載のリビングラジカル重合技術を用いて、共重合する方法を用いることができる。培養器材を用いて培養・増殖した細胞は、一般的にトリプシンのようなタンパク質分解酵素により処理することで容器表面から剥離・回収する必要があるが、LCSTを示す培養器材を用いることで周囲環境の温度降下による温度応答性重合体のゾル転移で器材表面の接着力を弱めて、タンパク質分解酵素を使わずに細胞を剥離させ、回収することができる。
【0013】
LCSTを示す繰返し単位を含有する重合体の膜を用いる場合は、膜を構成する重合体の成分として、LCSTを示す繰返し単位の他に膜を器材に固定するための繰返し単位を含むことが好ましい。例えばスチレンやその誘導体、2-メトキシエチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート等を例示でき、2-メトキシエチルアクリレートの繰返し単位とn-ブチルアクリレートの繰返し単位とN-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位とを含んでなるブロック共重合体が特に好ましい。
【0014】
培養器材の形状は特に限定は無く、ディッシュ、フラスコ、マイクロウエルプレート、培養バッグ、チューブ、トレイ、培養槽などが挙げられる。これらの器材の材質も、特に限定されず、ガラスやポリプロピレン、ポリスチレン、ステンレスなどやそれらの組み合わせが挙げられる。
【0015】
培養器材表面には細胞外マトリックスを被覆してもよい。細胞外マトリックスの種類は特に限定は無く、例えば、コラーゲン、アテロコラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、プロテオグリカン、グルコサミノグリカン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、ゼラチン、又はラミニン、コラーゲンIV、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、エンタクチン/ニドジェン1,2等を主成分として含有するマトリゲルを用いてもよく、これらを1種類のみでもよく、2種類以上を組み合わせてあってもよい。また、これら細胞外マトリックスのセグメントであってもよい。
【0016】
本発明の分化方法は以下の工程を含むことを特徴とする。
幹細胞を、下限臨界溶解温度(LCST)を示す培養器材上で培養する工程(以下、(A)工程という。)
前記培養器材をLCST以下に冷却して前記幹細胞を剥離・回収する工程(以下、(B)工程という。)
回収した幹細胞を、分化誘導培地を用いて培養する工程(以下、(C)工程という。)
【0017】
1.(A)工程について
使用される培地の組成については、幹細胞が目的細胞への分化能を維持したまま接着・増殖すれば特に限定は無く、基礎培地と血清からなり、抗生物質が含まれていても良い。基礎培地の種類は特に限定はなく、例えば、MEM、αMEM、DMEM、EMEM、GMEM、DMEM/Ham’sF-12、Ham’sF-12、Ham’sF-10、Medium199、RPMI1640などを用いることができる。血清の種類は特に限定はなく、例えば、牛胎児血清(Fetal Bovine Serum:FBS)、児牛血清、成牛血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、ブタ血清、ニワトリ血清、ウサギ血清、ヒト血清が使用されるが、入手の容易さから一般的にFBSがよく用いられる。培地中の血清濃度は特に限定はない。費用体効果から一般的には20vol%以下の濃度で用いられることが多いが、20vol%超の濃度であっても良い。また、未処理又は未精製の血清をいずれも含まず、精製された血液由来成分又は動物組織由来成分(増殖因子など)を含有する無血清培地であってもよい。
細胞培養は、培養器材の表面に被覆された温度応答性重合体のLCSTよりも高い温度で行われるが、ヒト由来細胞を用いる場合は、高い培養効率を得ることを目的に体温付近で行うことが好ましく、35~39℃の温度範囲で行うことがより好ましく、36~38℃の温度範囲で行うことがさらに好ましい。
幹細胞の培養密度は、幹細胞が目的細胞への分化能を維持したまま接着・増殖すれば特に限定は無いが、間葉系幹細胞の場合では、例えば1.0×10~1.0×10cells/cmが好ましく、1.0×10~1.0×10cells/cmがより好ましい。その他の培養条件は特に限定されず、当分野において通常行われる条件下で培養を行ってよい。
【0018】
2.(B)工程について
培養器材から幹細胞を剥離・回収する方法は、周囲の温度を培養器材のLCSTよりも低い温度に変化させた後、細胞の自然剥離を待つ方法、タッピングや振盪による方法、細胞に局所的に衝撃を与える方法、セルスクレーパーを用いた方法、ピペッティング等を用いることができる。培養器材の冷却時の温度はLCSTから1℃以上低温であることが好ましい。温度を降下させる方法としては冷所保管、温かい培地を抜き取った後に冷却した液体を注ぐ方法が例示される。冷却した液体に特に限定はなく、培養液やその他の培地溶液、等張液など目的に応じて選択することができる。また、冷却時間は、5分以上60分以下が好ましい。
【0019】
3.(C)工程について
用いる培養器材は特に限定は無く、培養器材表面に温度応答性重合体を被覆していてもよいし、していなくてもよい。
分化誘導培地の組成は特に限定は無く、基礎培地と血清に加え、幹細胞を目的細胞へ分化させる、分化誘導因子からなり、抗生物質が含まれていても良い。基礎培地の種類は特に限定はなく、上述した(A)工程で用いられるような培地を用いることができる。培養細胞を目的細胞へ分化させる分化誘導因子としては繊維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、血小板由来増殖因子(PDFG)、上皮増殖因子(EGF)、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、神経増殖因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、アクチビン、骨形成因子(BMP)などがあるが、幹細胞の目的細胞への分化方法に応じて適宜選択すればよい。間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の場合では、例えばTGF-β、IGF、IL、デキサメサゾン、BMPなどが挙げられる。また、目的細胞に分化させるための市販の分化誘導培地を用いてもよい。市販の分化誘導培地は、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の場合では、例えば Mesenchymal Stem Cell Chondrogenic Differentiation Medium Ready-to-use(Promocell(株)製)が挙げられる。
分化方法は(B)工程で剥離・回収した幹細胞を用いれば特に限定は無く、当分野において通常行われる条件下で分化誘導を行ってよい。また、接着培養、浮遊培養、アテロコラーゲンなどのスキャホールドを用いた3次元培養など目的に応じて選択することができる。
分化誘導培地で細胞の分化を誘導する前に、幹細胞を培養し増殖させる工程を含んでいてもよい。当該工程で用いる培地は(A)工程で用いる培地と同様に幹細胞が目的細胞への分化能を維持したまま接着・増殖すれば特に限定は無く、基礎培地と血清からなり、抗生物質が含まれていても良い。
幹細胞の培養密度は、幹細胞が目的細胞への分化を阻害しなければよく、間葉系幹細胞の軟骨細胞への分化の場合では、例えば、1.0×10~1.0×10cells/cmが好ましく、1.0×10~1.0×10cells/cmがより好ましい。
分化誘導を行った細胞の分化状態の評価方法は特に限定は無いが、例えば間葉系幹細胞の軟骨細胞へ分化では、分化誘導により形成された軟骨細胞が分泌した細胞外基質を、アルシアンブルーを用いて染色することにより確認できる。
【実施例
【0020】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0021】
<ブロック共重合体の組成>
核磁気共鳴測定装置(日本電子(株)製、商品名:JNM-ECZ400S/L1)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析より求めた。
【0022】
<ブロック共重合体の分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー製TSKgelSuperAWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(ポリマーラボラトリーズ製)を用いた。
【0023】
<ブロック共重合体の合成例>
200mL2口フラスコに2-メトキシエチルアクリレート(MEA)0.650g(5mmol)を加え、さらにシアノメチルドデシルトリチオカルボナトを31.8mg(100μmol)とアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)とtert-ブチルアルコール10mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
1回目の加熱撹拌後、n-ブチルアクリレート(BA)3.845g(30mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)とtert-ブチルアルコール5mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
2回目の加熱撹拌後、上記にN-イソプロピルアクリルアミド(IPAAm LCST=32℃)7.355g(65mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)とtert-ブチルアルコール85mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
3回目の加熱撹拌後、反応液を水で再沈精製し、減圧乾燥することで黄色固体を得た。得られた黄色固体をクロロホルムに溶解し、分液ロートを用いクロロホルム相を回収した。回収したクロロホルム相をエバポレーターで濃縮し、ヘプタンで再沈精製した。沈殿物をろ過で回収し、減圧乾燥することで、ブロック共重合体poly(MEA-BA-IPAAm)を8.295g得た。得られたブロック共重合体の組成はMEA:BA:IPAAm=5:30:65(mol%)、Mnは11.8×10、Mw/Mnは1.45であった。
【0024】
<表面処理剤の調製>
ブロック共重合体90mgに2-メトキシエタノールを19.910g添加し、撹拌で全て溶解させ、ブロック共重合体の0.45wt%表面処理剤を調製した。
【0025】
<培養器材の調製>
IWAKI組織培養用ディッシュ(φ6cm)の中央に表面処理剤を100μL加え、スピンコータ―(ミカサ製、商品名MS-B200)を用いて、回転数3,000rpm、回転時間60秒の条件でスピンコートすることでブロック共重合体をコートした培養器材を調製した。この器材表面のブロック共重合体の被覆量を全反射型フーリエ変換型赤外分光(ATR/FT-IR)法により測定した所、温度応答性ブロック分として0.55μg/cmであった。
【0026】
実施例1
培養器材に、骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(ロンザジャパン(株)製、Product Code:PT-2501、Lot Number:0000603525)を1.0×10cells/dish播種し、37℃、CO濃度5%で培養した。培養液にはウシ胎児血清(コロンビア産)を10vol%含むダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地(10vol% FBS/DMEM)を用いた。
7日間培養後、培養液を抜き、新たに4℃に冷却した培養液を加え、室温で10分間冷却した。10分後、ピペッターを用いて培養器材の培養面の全面に培養液を当てるようにピペッティングした後、細胞ごと培養液を回収した。回収した培養液を、160rcf、25℃、5分の条件で遠心後、上清を除き、培養液を500μL加え懸濁した。得られた細胞懸濁液中から10μLを細胞数測定用スライド(Thermo Fisher Scientific(株)製、商品名:Countess(登録商標) Cell Counting Chamber Slid)に添加し、自動セルカウンター(Thermo Fisher Scientific(株)製、商品名:Countess(登録商標) II)を用いて、細胞数を測定した。
上記のように冷却によって剥離・回収した間葉系幹細胞を、10vol%FBS/DMEMを200μL加えた浮遊培養用の96wellプレート(コーニング製、商品名Corning(登録商標) 96-well Black Round Bottom Ultra-Low Attachment Spheroid Microplate)に1.0×10cells/wellずつ播種し、37℃、CO濃度5%で2日間培養した。その後、培地をMesenchymal Stem Cell Chondrogenic Differentiation Medium Ready-to-use(Promo Cell(株)製)に交換し軟骨細胞への分化誘導を行った。
【0027】
3日毎に該培地を交換しながら25日間培養したところ球状の細胞凝集塊が観察された。細胞凝集塊をアルシアンブルー染色し、染色陽性の軟骨組織の直径を測定した。測定後、150μLの6Mグアニジン塩酸塩でアルシアンブルーの色素を溶出させ細胞外基質量をプレートリーダー(コロナ電気(株)製、商品名:吸光グレーティングマイクロプレートリーダ SH-1300 Lab)を用いて630nmの吸光度で測定した。その結果、軟骨組織の直径は1.75mm、630nmの吸光度は0.912であった。
【0028】
比較例1
培養器材から間葉系幹細胞を剥離・回収する際に4℃に冷却した培養液を加える代わりに、PBSで洗浄後、タンパク質分解酵素(Thermo Fisher Scientific(株)製、商品名:TrypLE Express)を1mL加え、37℃で10分間静置した以外は実施例1と同様の方法で、骨髄由来ヒト間葉系幹細胞から軟骨細胞への分化誘導を行った。
【0029】
細胞凝集塊をアルシアンブルー染色し、染色陽性の軟骨組織の直径を測定した。測定後、150μLの6Mグアニジン塩酸塩でアルシアンブルーの色素を溶出させ細胞外基質量を630nmの吸光度で測定した。その結果、軟骨組織の直径は1.22mm、630nmの吸光度は0.314であった。
【0030】
【表1】