(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】免疫グロブリン結合性タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/315 20060101AFI20240209BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20240209BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240209BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240209BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240209BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
C07K14/315 ZNA
C12N15/31
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02 C
C07K1/22
(21)【出願番号】P 2020001882
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019164399
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 瑛大
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-508118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/029157(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093439(WO,A1)
【文献】特開2006-304633(JP,A)
【文献】特表2016-523959(JP,A)
【文献】特表2016-525100(JP,A)
【文献】特表2017-536819(JP,A)
【文献】特表2017-533924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0144496(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(c)から選択される、免疫グロブリン結合性タンパク質。
(a)配列番号18から20、22、23、48から51、54および56のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、免疫グロブリン結合性タンパク質。
(b)配列番号18から20、22、23、48から51、54および56のいずれかに記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下(1)から(19)のアミノ酸置換以外に1から5個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、ならびに/または付加を含み、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質よりもアルカリ耐性が向上していて、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質。
(1)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(2)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がシステインに置換
(3)配列番号1の47番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(4)配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(5)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(15)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がトレオニンに置換
(16)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がグリシンに置換
(6)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(7)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(8)配列番号1の6番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換
(9)配列番号1の11番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がリジンに置換
(10)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(11)配列番号1の21番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がチロシンに置換
(12)配列番号1の29番目のグリシンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(13)配列番号1の40番目のバリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換。
(14)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がヒスチジンに置換
(17)配列番号1の42番目のリジンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換。
(18)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がグルタミン酸に置換。
(19)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換。
(c)配列番号18から20、22、23、48から51、54および56に記載のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、ただし前記(1)から(19)のアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、配列番号2に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質よりもアルカリ耐性が向上していて、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質。
【請求項2】
請求項
1に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項4】
請求項
2に記載のポリヌクレオチドまたは請求項
3に記載の発現ベクターを含む、遺伝子組換え宿主。
【請求項5】
宿主が大腸菌である、請求項
4に記載の遺伝子組換え宿主。
【請求項6】
請求項
4または
5に記載の遺伝子組換え宿主を培養し請求項1または2に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現させる工程と、発現した前記タンパク質を回収する工程とを含む、免疫グロブリン結合性タンパク質の製造方法。
【請求項7】
不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した請求項
1に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質とを含む、免疫グロブリン吸着剤。
【請求項8】
請求項
7に記載の吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加し当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、前記溶液中に含まれる免疫グロブリンの分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリンに特異的に結合するタンパク質に関する。より詳しくは、本発明は、アルカリに対する安定性に優れた免疫グロブリン結合性タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬は生体内の免疫機能を担う分子である抗体(免疫グロブリン)を利用した医薬である。抗体医薬は抗体が有する可変領域の多様性により標的分子に対し高い特異性と親和性をもって結合する。そのため抗体医薬は副作用が少なく、また、近年では適応疾患が広がってきていることもあり市場が急速に拡大している。
【0003】
抗体医薬の製造は培養工程と精製工程を含み、培養工程では生産性を向上させるために抗体産生細胞の改質や培養条件の最適化が図られている。また、精製工程では粗精製としてアフィニティークロマトグラフィーが採用され、その後の中間精製、最終精製、およびウイルス除去を経て製剤化される。
【0004】
精製工程では抗体分子を特異的に認識するアフィニティー担体が用いられる。前記担体で用いられるリガンドタンパク質として、抗体(免疫グロブリン)に結合する性質を有した、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpAと略)や連鎖球菌(Streptococcus)属細菌由来Protein Gなどが多く用いられている。抗体医薬を製造する際は、その生産コストを低く保つため、これらアフィニティー担体は複数回使用され、使用後は当該担体に残存した不純物を除去する工程を行なう。前記不純物を除去する工程では、通常、水酸化ナトリウムを用いた定置洗浄を行ない、アフィニティー担体を再生させる。従って前記リガンドタンパク質は、前記再生工程を行なっても、抗体への結合性が維持されるだけの化学的安定性を有する必要がある。
【0005】
化学的安定性を有する、アフィニティー担体で用いられるリガンドタンパク質の一例として、SpAのドメインCのアミノ酸配列を利用したアルカリ安定クロマトグラフィーリガンド(特許文献1)や、前記プロテインAのドメインB、ドメインC、ドメインZのうち、いずれかのドメインの一部のアミノ酸配列が欠失したアミノ酸配列から構成されるアフィニティークロマトリガンド(特許文献2)が挙げられる。また、ドメインZにおいて29番目のグリシンをアラニンに置換することで、構造が安定化することが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2010-504754号公報
【文献】特開2012-254981号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bjorn Nilsson他,Protein Engineering,1(2),107-113,1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題はアルカリに対する安定性が向上した免疫グロブリン結合性タンパク質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(SpA)のドメインCにおける安定性向上に関与したアミノ酸残基を特定し、当該アミノ酸残基を他の特定のアミノ酸残基に置換することでアルカリに対して優れた安定性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0011】
[1]ブドウ球菌属細菌由来Protein Aの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、少なくとも以下の(1)から(5)および(14)から(17)より選択される1以上のアミノ酸置換を有する、免疫グロブリン結合性タンパク質:
(1)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(2)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がシステインに置換
(3)配列番号1の47番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(4)配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(5)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(14)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がヒスチジンに置換
(15)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がトレオニンに置換
(16)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がグリシンに置換
(17)配列番号1の42番目のリジンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換。
【0012】
[2]以下の(a)から(d)のいずれかに記載のタンパク質である、[1]に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質:
(a)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(1)から(5)および(14)から(17)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有するタンパク質:
(1)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(2)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がシステインに置換
(3)配列番号1の47番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(4)配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(5)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(14)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がヒスチジンに置換
(15)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がトレオニンに置換
(16)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がグリシンに置換
(17)配列番号1の42番目のリジンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換。
(b)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、前記(1)から(5)および(14)から(17)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、さらに前記(1)から(5)および(14)から(17)以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、ならびに/または付加を含み、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質
(c)配列番号1に記載のアミノ酸配列またはその部分配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、ただし前記(1)から(5)および(14)から(17)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質
(d)前記(a)、(b)または(c)に記載のタンパク質のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、さらに以下の(6)から(13)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有するタンパク質:
(6)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(7)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(8)配列番号1の6番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換
(9)配列番号1の11番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がリジンに置換
(10)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(11)配列番号1の21番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がチロシンに置換
(12)配列番号1の29番目のグリシンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(13)配列番号1の40番目のバリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換。
【0013】
[3]以下の(e)から(h)のいずれかに記載のタンパク質である、[2]に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質:
(e)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、少なくとも以下の(1)のアミノ酸置換を有するタンパク質
(1)配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基のバリンへの置換、
(f)配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、少なくとも前記(1)のアミノ酸置換を有し、さらに前記アミノ酸置換の位置以外の1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含み、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質
(g)配列番号1に記載のアミノ酸配列またはその部分配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、ただし少なくとも前記(1)のアミノ酸置換を有し、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質
(h)前記(e)、(f)または(g)に記載のタンパク質のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、さらに以下の(2)から(17)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有するタンパク質:
(2)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がシステインに置換
(3)配列番号1の47番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がバリンに置換
(4)配列番号1の50番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(5)配列番号1の58番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアスパラギンに置換
(6)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がイソロイシンに置換
(7)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がアルギニンに置換
(8)配列番号1の6番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がアスパラギン酸に置換
(9)配列番号1の11番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がリジンに置換
(10)配列番号1の15番目のグルタミン酸に相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(11)配列番号1の21番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がチロシンに置換
(12)配列番号1の29番目のグリシンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(13)配列番号1の40番目のバリンに相当するアミノ酸残基がアラニンに置換
(14)配列番号1の3番目のアスパラギンに相当するアミノ酸残基がヒスチジンに置換
(15)配列番号1の4番目のリジンに相当するアミノ酸残基がトレオニンに置換
(16)配列番号1の39番目のセリンに相当するアミノ酸残基がグリシンに置換
(17)配列番号1の42番目のリジンに相当するアミノ酸残基がロイシンに置換。
【0014】
[4]配列番号10に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(i)から(v)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、[2]に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質:
(i)配列番号10の7番目のリジンがバリンに置換
(ii)配列番号10の39番目のセリンがシステインに置換
(iii)配列番号10の47番目のグルタミン酸がバリンに置換
(iv)配列番号10の50番目のリジンがアスパラギンに置換
(v)配列番号10の58番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換。
【0015】
[5]配列番号18から20、22および23のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、[4]に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質。
【0016】
[6]配列番号18に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、以下の(I)から(IV)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、[2]に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質:
(I)配列番号18の3番目のイソロイシンがヒスチジンに置換
(II)配列番号18の4番目のアルギニンがトレオニンに置換
(III)配列番号18の39番目のセリンがグリシンに置換
(IV)配列番号18の42番目のリジンがロイシンに置換
[7]配列番号48から51、54および56のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む、[6]に記載の免疫グロブリン結合性タンパク質。
【0017】
[8][1]から[7]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0018】
[9][8]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0019】
[10][8]に記載のポリヌクレオチドまたは[9]に記載の発現ベクターを含む、遺伝子組換え宿主。
【0020】
[11]宿主が大腸菌である、[10]に記載の遺伝子組換え宿主。
【0021】
[12][10]または[11]に記載の遺伝子組換え宿主を培養し[1]から[7]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現させる工程と、発現した前記タンパク質を回収する工程とを含む、免疫グロブリン結合性タンパク質の製造方法。
【0022】
[13]不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化した[1]から[7]のいずれかに記載の免疫グロブリン結合性タンパク質とを含む、免疫グロブリン吸着剤。
【0023】
[14][13]に記載の吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加し当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、前記溶液中に含まれる免疫グロブリンの分離方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質はブドウ球菌属細菌由来Protein AのドメインCの特定位置におけるアミノ酸残基を他の特定のアミノ酸残基に置換したポリペプチドである。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質はアルカリに対する安定性が向上しており、抗体(免疫グロブリン)を分離するための吸着剤におけるリガンドタンパク質として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、特定の免疫グロブリン結合性タンパク質である。本明細書において「免疫グロブリン結合性タンパク質」とは、免疫グロブリンに対する結合性を有するタンパク質を意味する。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、免疫グロブリンに対する結合性を有する。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、具体的には、免疫グロブリンのFc領域に対する結合性を有するものであってもよい。本明細書では、免疫グロブリンに対する結合性を、「免疫グロブリン結合活性」または「抗体結合活性」ともいう。免疫グロブリン結合活性は、例えば、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法で測定できる。ELISA法は、例えば、実施例に記載の条件で実施できる。
【0027】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、ブドウ球菌(Staphylococcus)属細菌由来Protein A(以下、SpAと略)の免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、特定位置におけるアミノ酸置換を有するタンパク質が挙げられる。本明細書において、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列であって、特定位置におけるアミノ酸置換を有さないものを、「非改変型アミノ酸配列」ともいい、SpAの免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列であって、特定位置におけるアミノ酸置換を有するものを、「改変型アミノ酸配列」ともいう。すなわち、改変型アミノ酸配列は、特定位置におけるアミノ酸置換を有すること以外は非改変型アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列であってよい。また、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、特定位置におけるアミノ酸置換を有すること以外は非改変型アミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。また、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、改変型アミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。非改変型アミノ酸配列は、天然に見出されるアミノ酸配列であってもよく、そうでなくてもよい。非改変型アミノ酸配列は、例えば、所望の性質を有するように改変されていてもよい。非改変型アミノ酸配列は、例えば、特定位置におけるアミノ酸置換以外のアミノ酸置換を有していてもよい。
【0028】
SpAの由来であるブドウ球菌属細菌としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が挙げられる。免疫グロブリン結合ドメインとしては、ドメインC、ドメインE、ドメインD、ドメインA、ドメインBが挙げられる。免疫グロブリン結合ドメインとしては、特に、ドメインCが挙げられる。黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインCとしては、GenBank No.AAA26676の270番目から327番目までのアミノ酸残基が挙げられる。当該ドメインCのアミノ酸配列を配列番号1に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインEとしては、GenBank No.AAA26676の37番目から92番目までのアミノ酸残基が挙げられる。当該ドメインEのアミノ酸配列を配列番号24に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインDとしては、GenBank No.AAA26676の93番目から153番目までのアミノ酸残基が挙げられる。当該ドメインDのアミノ酸配列を配列番号25に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインAとしては、GenBank No.AAA26676の154番目から211番目までのアミノ酸残基が挙げられる。当該ドメインAのアミノ酸配列を配列番号26に示す。また黄色ブドウ球菌由来Protein AのドメインBとしては、GenBank No.AAA26676の212番目から269番目までのアミノ酸残基が挙げられる。当該ドメインBのアミノ酸配列を配列番号27に示す。すなわち非改変型アミノ酸配列として、具体的には、配列番号1、24、25、26、および27に記載のアミノ酸配列等の上記例示した免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列が挙げられる。
【0029】
また改変型アミノ酸配列として、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列等の上記例示した免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列において特定位置におけるアミノ酸置換を有するアミノ酸配列が挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質として、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列等の上記例示した免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、特定位置におけるアミノ酸置換を有するタンパク質が挙げられる。言い換えると、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、特定位置におけるアミノ酸置換を有すること以外は配列番号1に記載のアミノ酸配列等の上記例示した免疫グロブリン結合ドメインのアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質であってよい。
【0030】
本明細書において、タンパク質がアミノ酸配列を含むことを、「タンパク質がアミノ酸配列からなるアミノ酸残基を含む」ともいい、タンパク質またはアミノ酸配列がアミノ酸置換を有することを、「タンパク質またはアミノ酸配列においてアミノ酸置換が生じる」ともいう。またタンパク質またはアミノ酸配列を構成するアミノ酸を、「アミノ酸残基」ともいう。
【0031】
前記特定位置におけるアミノ酸置換は、具体的には、Lys7Val(この表記は配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基がバリンに置換されていることを表す、以下同じ)、Ser39Cys、Glu47Val、Lys50Asn、Lys58Asn、Asn3His、Lys4Thr、Ser39GlyおよびLys42Leuから選択される少なくとも一つのアミノ酸置換である。言い換えると、前記特定位置におけるアミノ酸置換は、具体的には、(1)Lys7Val、(2)Ser39Cys、(3)Glu47Val、(4)Lys50Asn、(5)Lys58Asn、(14)Asn3His、(15)Lys4Thr、(16)Ser39Glyおよび(17)Lys42Leuから選択される少なくとも一つのアミノ酸置換である。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、これらのアミノ酸置換から選択される1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つまたは8つのアミノ酸置換を有してよい。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、少なくとも、Lys7Val、Ser39Cys、Glu47Val、Lys50Asn、Lys58Asn、Asn3His、Lys4Thr、Ser39GlyおよびLys42Leuから選択される少なくとも一つのアミノ酸置換を有してもよい。中でもLys7Valは、アルカリに対する安定性が特に向上したアミノ酸置換である。そのため、Lys7Valのアミノ酸置換を少なくとも有する免疫グロブリン結合性タンパク質は、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の好ましい例である。
【0032】
なお、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、少なくとも1つのその他のアミノ酸置換をさらに有してもよい。他のアミノ酸置換としては、構造安定性が増すことが知られているGly29Alaのアミノ酸置換(Bjorn Nilsson他、Protein Engineering,1(2),107-113,1987)が挙げられる。また、Gly29Ala以外の他のアミノ酸置換としては、Asn3Ile、Lys4Arg、Asn6Asp、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Val40Alaのアミノ酸置換が挙げられる。すなわち、改変型アミノ酸配列としては、上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)において前記特定位置におけるアミノ酸置換およびGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列も挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)を含み、ただし当該アミノ酸配列において、前記特定位置におけるアミノ酸置換およびGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有するタンパク質も挙げられる。言い換えると、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、前記特定位置におけるアミノ酸置換およびGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有すること以外は上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。
【0033】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が2つまたはそれ以上のアミノ酸置換を有する場合、それらアミノ酸置換の組み合わせは特に制限されない。
【0034】
アミノ酸置換の組み合わせとして、具体的には、例えば、
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Glu47ValおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Lys50AsnおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Cys、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Asnのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Gly、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3Ile、Lys4Thr、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
Asn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換;
が挙げられる。
【0035】
すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質として、より具体的には、下記の免疫グロブリン結合性タンパク質が挙げられる。これらの免疫グロブリン結合性タンパク質はアルカリに対する安定性が向上する点で好ましい。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号18に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Glu47ValおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号19に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Lys50AsnおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号20に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Cys、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号22に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Asnのアミノ酸置換のアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号23に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号48に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号49に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Gly、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号50に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Thr、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号51に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号54に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列においてAsn3His、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Ser39Gly、Val40Ala、Lys42LeuおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号56に記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質)。
【0036】
またアミノ酸置換の組み合わせとして、具体的には、例えば、Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspと、以下の(i)から(v)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換との組み合わせが挙げられる:
(i)Lys7Val
(ii)Ser39Cys
(iii)Glu47Val
(iv)Lys50Asn
(v)Lys58Asn
すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質として、より具体的には、配列番号10に記載のアミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列)を含み、ただし当該アミノ酸配列において、前記(i)から(v)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有するタンパク質も挙げられる。そのようなタンパク質としては、特に、上述した配列番号18から20、22および23のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質が挙げられる。
【0037】
またアミノ酸置換の組み合わせの別の具体例として、Asn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspと、以下の(I)から(IV)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換との組み合わせが挙げられる:
(I)Asn3His
(II)Lys4Thr
(III)Ser39Gly
(IV)Lys42Leu
すなわち、発明の免疫グロブリン結合性タンパク質として、より具体的には、配列番号18に記載のアミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列においてAsn3Ile、Lys4Arg、Lys7Val、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、Gly29Ala、Val40AlaおよびLys58Aspのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列)を含み、ただし当該アミノ酸配列において、前記(I)から(IV)より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有するタンパク質も挙げられる。そのようなタンパク質としては、特に、上述した配列番号48から51、54および56のいずれかに記載のアミノ酸配列を含む免疫グロブリン結合性タンパク質が挙げられる。
【0038】
なお、ここで(i)または(v)を選択した場合、配列番号10に含まれるLys7GluまたはLys58Aspのアミノ酸置換はLys7ValまたはLys58Asnのアミノ酸置換で上書きされるため、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質はLys7GluまたはLys58Aspのアミノ酸置換を有さない。そして(I)または(II)を選択した場合も同様、配列番号18に含まれるAsn3IleまたはLys4Argのアミノ酸置換はAsn3HisまたはLys4Thrのアミノ酸置換で上書きされるため、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質はAsn3IleまたはLys4Argのアミノ酸置換を有さない。
【0039】
前記(i)から(v)のアミノ酸置換は、いずれも、配列番号10を参照配列として適宜読み替えできる。また前記(I)から(IV)のアミノ酸置換は、いずれも、配列番号18を参照配列として適宜読み替えできる。すなわち、例えば、ここでいう「Lys58Asn」は、配列番号10の58番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換されるアミノ酸置換として、「Asn3His」は、配列番号18の3番目のアスパラギン酸がヒスチジンに置換されるアミノ酸置換として、それぞれ読み替えできる。他のアミノ酸配列を参照配列とする場合も同様である。
【0040】
本明細書では、配列番号1に記載のアミノ酸配列において上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列を、「配列番号1由来置換アミノ酸配列」ともいう。配列番号1由来置換アミノ酸配列は、言い換えると、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)が生じた配列番号1に記載のアミノ酸配列である。また、配列番号1由来置換アミノ酸配列は、言い換えると、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有すること以外は配列番号1に記載のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列である。
【0041】
また、改変型アミノ酸配列としては、上記例示した改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1由来置換アミノ酸配列)のバリアント(variant)配列も挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、上記例示した改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1由来置換アミノ酸配列)のバリアント配列を含み、かつ、免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質も挙げられる。以下、配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列の場合を例示して説明するが、当該説明は任意の改変型アミノ酸配列のバリアント配列にも準用できる。
【0042】
配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列は、前記特定位置におけるアミノ酸置換が残存するように(すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が前記特定位置におけるアミノ酸置換を有するように)設定されるものとする。また、配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列は、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換が残存するように(すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質がGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有するように)設定されてもよい。また、配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列は、例えば、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)から選択される、配列番号1由来置換アミノ酸配列が有さない1つ以上のアミノ酸置換を追加的に有していてもよい。例えば、配列番号1由来置換アミノ酸配列がGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有さない場合に、配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列がGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有していてもよい。
【0043】
配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列としては、配列番号1由来置換アミノ酸配列において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列が挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、免疫グロブリン結合活性を有する限り、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)に加えて、さらに、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含んでいてもよい。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有し、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含み、かつ、免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質も挙げられる。言い換えると、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有し、さらに1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むこと以外は配列番号1と同一のアミノ酸配列を含み、かつ、免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質であってもよい。なお、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、前記特定位置におけるアミノ酸置換が残存するように選択されるものとする。すなわち、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、例えば、前記特定位置以外の位置に生じてよい。また、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換が残存するように選択されてもよい。すなわち、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、例えば、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換以外の位置に生じてもよい。また、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、例えば、上記例示したアミノ酸置換から選択される、配列番号1由来置換アミノ酸配列が有さない1つ以上のアミノ酸置換を含んでいてもよい。前記「1もしくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1から30個、1から20個、1から10個、1から9個、1から8個、1から7個、1から6個、1から5個、1から4個、1から3個、1から2個、1個のいずれかを意味する。上記のアミノ酸残基の置換の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加には、例えば、タンパク質またはそれをコードする遺伝子が由来する微生物の個体差や種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(ミュータント(mutant)またはバリアント(variant))によって生じるものも含まれる。
【0044】
また、配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列としては、配列番号1由来置換アミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列も挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列において上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質も挙げられる。なお、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化は、前記特定位置におけるアミノ酸置換が残存するように選択されるものとする。すなわち、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化は、例えば、前記特定位置以外の位置に生じてよい。また、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化は、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換が残存するように選択されてもよい。すなわち、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化は、例えば、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換以外の位置に生じてもよい。また、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化は、例えば、上記例示したアミノ酸置換から選択される、配列番号1由来置換アミノ酸配列が有さない1つ以上のアミノ酸置換を含んでいてもよい。前記「相同性」とは、類似性(Similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列に対する相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。前記「高い相同性」とは、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の相同性を意味してよい。アミノ酸配列間の「同一性(identity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性(similarity)」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。側鎖の性質が類似したアミノ酸残基については上述の通りである。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラムを利用して決定できる。
【0045】
また改変型アミノ酸配列としては、上記例示したバリアント配列において、さらに、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)から選択される1つ以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列も挙げられる。例えば、改変型アミノ酸配列は、少なくとも前記特定位置におけるアミノ酸置換を有するバリアント配列において、さらにGly29Ala等の他のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列であってよい。
【0046】
また非改変型アミノ酸配列としては、上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)のバリアント配列も挙げられる。すなわち、改変型アミノ酸配列としては、上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)のバリアント配列において、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有するアミノ酸配列も挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)のバリアント配列を含み、ただし当該バリアント配列において、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有し、かつ免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質も挙げられる。言い換えると本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、上記例示したアミノ酸置換を有すること以外は上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列)のバリアント配列と同一のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。以下、配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列の場合を例示して説明するが、当該説明は任意の非改変型アミノ酸配列のバリアント配列にも準用できる。
【0047】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列が挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含み、さらに上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有し、かつ、免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質も挙げられる。上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、例えば、前記特定位置以外の位置に生じてよい。また、上記のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加は、例えば、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換以外の位置に生じてもよい。
【0048】
配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列も挙げられる。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質としては、配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列を含み、ただし当該アミノ酸配列(配列番号1に記載のアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列)において、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有し、かつ、免疫グロブリン結合活性を有するタンパク質も挙げられる。上記のような相同性の範囲でのアミノ酸残基の変化は、例えば、前記特定位置以外の位置に生じてよい。また、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸残基の変化は、例えば、Gly29Ala等の他のアミノ酸置換以外の位置に生じてもよい。
【0049】
その他、配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列については、配列番号1由来置換アミノ酸配列のバリアント配列についての記載を準用できる。
【0050】
「配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列のN末端から数えてX位の位置に存在するアミノ酸を意味する。あるアミノ酸配列における「配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、当該あるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該あるアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアライメント(alignment)において配列番号1に示すアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸と同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。例えば、Lys7Valのアミノ酸置換の場合、あるアミノ酸配列における「配列番号1の7番目のリジンに相当するアミノ酸残基」とは、当該あるアミノ酸配列におけるアミノ酸残基であって、当該あるアミノ酸配列と配列番号1のアミノ酸配列とのアライメントにおいて配列番号1に示すアミノ酸配列における7番目のリジンと同一の位置に配列されるアミノ酸残基を意味する。なお、配列番号1に記載のアミノ酸配列における「配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸に相当するアミノ酸残基」とは、配列番号1に記載のアミノ酸配列におけるX番目のアミノ酸そのものを意味する。すなわち、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)の位置は、必ずしも本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質における絶対的な位置を示すものではなく、配列番号1に記載のアミノ酸配列に基づく相対的な位置を示すものである。すなわち、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が、上記例示したアミノ酸置換の位置よりもN末端側にアミノ酸残基の挿入、欠失、または付加を含む場合、それに応じて当該アミノ酸置換の絶対的な位置は変動し得る。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質における上記例示したアミノ酸置換の位置は、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質のアミノ酸配列と配列番号1に記載のアミノ酸配列とのアライメント特定できる。前記アライメントは、例えば、BLASTやFASTA等のアライメントプログラムを利用して実施できる。配列番号1に記載のアミノ酸配列のバリアント配列等の任意のアミノ酸配列における上記例示したアミノ酸置換の位置についても同様である。また、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)の置換前のアミノ酸残基は、配列番号1に記載のアミノ酸配列における置換前のアミノ酸残基の種類を示すものであって、配列番号1に記載のアミノ酸配列以外の非改変型アミノ酸配列においては保存されていてもよく、いなくてもよい。
【0051】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、改変型アミノ酸配列を1個のみ含んでいてもよく、改変型アミノ酸配列を複数個含んでいてもよい。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、改変型アミノ酸配列を2個以上、3個以上、4個以上、または5個以上含んでいてもよく、10個以下、7個以下、5個以下、4個以下、3個以下、または2個以下含んでいてもよく、それらの矛盾しない組み合わせの個数含んでいてもよい。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が複数個の改変型アミノ酸配列を含む場合、それら複数個の改変型アミノ酸配列のアミノ酸配列は同一であってもよく、そうでなくてもよい。それら複数個の改変型アミノ酸配列は、例えば、適切なリンカーを介して互いに連結されていてよい。
【0052】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、改変型アミノ酸配列からなるものであってもよく、他のアミノ酸配列(例えばオリゴペプチド)をさらに含んでいてもよい。すなわち、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、そのN末端側またはC末端側に他のアミノ酸配列をさらに含んでいてもよい。言い換えると、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質においては、例えば、改変型アミノ酸配列のN末端側またはC末端側に他のアミノ酸配列が付加されていてもよい。他のアミノ酸配列は、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の免疫グロブリン結合性や安定性を損なわない限り、特に制限されない。例えば、他のアミノ酸配列の種類や長さは、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の免疫グロブリン結合性や安定性を損なわない限り、特に制限されない。
【0053】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、選択した免疫グロブリン結合ドメインに加えて、他の免疫グロブリン結合ドメインの一部を含んでいてもよい。例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質がドメインCの改変型アミノ酸配列を含む場合、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、さらに、SpAのドメインCのN末端側領域(ドメインE、ドメインD、ドメインA、ドメインB/Z)の一部を含んでいてもよく、SpAのドメインCのC末端側領域の一部を含んでいてもよい。
【0054】
また本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、そのN末端側またはC末端側に、目的物を特異的に検出または分離する目的で有用なオリゴペプチドを含んでいてもよい。そのようなオリゴペプチドとしては、ポリヒスチジンやポリアルギニンが挙げられる。
【0055】
また本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、そのN末端側またはC末端側に、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する際に有用なオリゴペプチドを含んでいてもよい。そのようなオリゴペプチドとしては、リジンやシステインを含むオリゴペプチドが挙げられる。
【0056】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が上記のような他のアミノ酸配列を含む場合、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、予め他のアミノ酸配列を含む形態で製造されてもよいし、別途製造された上記のような他のアミノ酸配列が付加されてもよい。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が上記のような他のアミノ酸配列を含む場合、典型的には、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、上記のような他のアミノ酸配列を含む本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の全長アミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドから発現させることで製造できる。すなわち、例えば、他のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質(例えば他のアミノ酸配列を含まないもの)をコードするポリヌクレオチドとを、他のアミノ酸配列が本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加されるように連結し、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現させてもよい。また例えば、化学的に合成した他のアミノ酸配列を本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質(例えば他のアミノ酸配列を含まないもの)のN末端側またはC末端側に化学的に結合させてもよい。
【0057】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドから発現させることで製造できる。本明細書では、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、「本発明のポリヌクレオチド」ともいう。本発明のポリヌクレオチドは、具体的には、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドであってよい。
【0058】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法、またはPCR法等のDNA増幅法により取得できる。DNA増幅法は、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするヌクレオチド配列等の増幅すべきヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを鋳型として実施できる。鋳型とするポリヌクレオチドとしては、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現する生物のゲノムDNA、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質のcDNA、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターが挙げられる。本発明のポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質のアミノ酸配列からの変換により設計できる。アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際には、標準のコドンテーブルを使用できるが、本発明のポリヌクレオチドで形質転換する宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。一例として、宿主が大腸菌(Escherichia coli)の場合は、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドン(rare codon)であるため)、それらのコドンを避けるように変換してよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
【0059】
また本発明のポリヌクレオチドは、例えば、上記例示したアミノ酸置換(すなわち前記特定位置におけるアミノ酸置換および任意でGly29Ala等の他のアミノ酸置換)を有さない免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに、コードされるタンパク質が上記例示したアミノ酸置換を有するように変異を導入することによっても、取得できる。上記例示したアミノ酸置換を有さない免疫グロブリン結合性タンパク質としては、上記例示した非改変型アミノ酸配列(例えば配列番号1に記載のアミノ酸配列またはそのバリアント配列)を含むタンパク質が挙げられる。上記例示したアミノ酸置換を有さない免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、例えば、化学合成法、またはPCR法等のDNA増幅法で取得できる。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が2つ以上のアミノ酸置換を有する場合、それらのアミノ酸置換は、例えば、同時に、または順次、導入されてよい。例えば、上記例示したアミノ酸置換から選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに、コードされるタンパク質が上記例示したアミノ酸置換から選択される別の少なくとも1つのアミノ酸置換を有するように変異を導入してもよい。また、ある位置のアミノ酸残基を2回以上改変してもよい。例えば、既にLys58Aspのアミノ酸置換を有する免疫グロブリン結合性タンパク質をさらにLys58Asnのアミノ酸置換を導入してもよい。
【0060】
またポリヌクレオチドは、上記例示したアミノ酸置換を生じる変異に限られず、バリアント配列の構築のための変異等の任意の変異を導入して、本発明のポリヌクレオチドまたはそれを取得するための材料として利用してよい。
【0061】
ポリヌクレオチドへ変異を導入する方法としては、エラープローンPCR法が挙げられる。エラープローンPCR法における反応条件は、ポリヌクレオチドに所望の変異を導入できる条件であれば特に制限されない。例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnCl2を0.01から10mM(好ましくは0.1から1mM)の濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことで、ポリヌクレオチドに変異を導入できる。
【0062】
また、ポリヌクレオチドへ変異を導入する方法としては、インバースPCR法も挙げられる。インバースPCR法は、まず目的とする遺伝子を挿入したポリヌクレオチドを変性させた後、変異プライマーをアニーリングさせ、DNAポリメラーゼを用いて伸長反応を行なう。伸長したポリヌクレオチドを制限酵素DpnIを用いて選択的に切断し、新たに合成された遺伝子をリン酸化、ライゲーションを実施し、環化させることでポリヌクレオチドに変異を導入できる。
【0063】
さらにポリヌクレオチドへ変異を導入する方法としては、前述したエラープローンPCR法やインバースPCR法以外にも、ポリヌクレオチドに変異原となる薬剤を作用させること、または、ポリヌクレオチドに紫外線を照射すること、ポリヌクレオチドに変異を導入する方法が挙げられる。変異原となる薬剤としては、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン等の、当業者が通常用いる変異原性薬剤が挙げられる。このようなポリヌクレオチドへ変異を導入する方法は、上記例示したアミノ酸置換の導入に限られず、バリアント配列の構築(例えば、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加の導入や、上記のような相同性の範囲でのアミノ酸配列の変化)にも利用できる。
【0064】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば、その全長配列を一括して取得してもよく、その部分配列をそれぞれ取得して連結すること取得してもよい。上記のような本発明のポリヌクレオチドを取得する手法についての説明は、その全長配列を一括して取得する場合に限られず、その部分配列を取得する場合にも準用できる。
【0065】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、具体的には、例えば、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子組換え宿主に本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現させることで製造できる。本明細書では、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子組換え宿主を、「本発明の遺伝子組換え宿主」ともいう。本発明の遺伝子組換え宿主は、本発明のポリヌクレオチドを含むことに依拠して、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現できる。すなわち、本発明の遺伝子組換え宿主は、言い換えると、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現可能な宿主である。
【0066】
本発明の遺伝子組換え宿主は、例えば、本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主を形質転換することで得られる。すなわち、本発明の遺伝子組換え宿主は、例えば、本発明のポリヌクレオチドで遺伝子組換え(形質転換)された宿主であってよく、本発明のポリヌクレオチドを含む宿主であってよく、また本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現可能な宿主であってよい。遺伝子組換えに用いる宿主は、本発明のポリヌクレオチドで形質転換されることで本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現可能な宿主であれば特に制限されない。宿主としては、動物細胞、昆虫細胞、微生物が挙げられる。動物細胞としては、COS細胞、CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、Hela細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞が挙げられる。昆虫細胞としては、Sf9細胞、BTI-TN-5B1-4細胞が挙げられる。微生物としては、酵母や細菌が挙げられる。酵母としては、Saccharomyces cerevisiae等のSaccharomyces属酵母、Pichia pastoris等のPichia属酵母、Schizosaccharomyces pombe等のSchizosaccharomyces属酵母が挙げられる。細菌としては、大腸菌(Escherichia coli)等のEscherichia属細菌が挙げられる。大腸菌としては、JM109株、BL21(DE3)株が挙げられる。なお、酵母や大腸菌を宿主として用いると生産性の面で好ましく、大腸菌を宿主として用いるとさらに好ましい。
【0067】
本発明のポリヌクレオチドは、発現可能に本発明の遺伝子組換え宿主に保持されていればよい。本発明のポリヌクレオチドは、具体的には、宿主で機能するプロモーターの制御下で発現するように保持されていればよい。宿主で機能するプロモーターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、recAプロモーター、lppプロモーターが挙げられる。
【0068】
本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、ゲノムDNA外で自律複製するベクター上に存在していてよい。すなわち、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターとして宿主に導入できる。すなわち、本発明の遺伝子組換え宿主は、一態様において、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを含む宿主であってよい。本明細書では、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを、「本発明の発現ベクター」ともいう。本発明の発現ベクターは、例えば、発現ベクターの適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入することで得られる。なお発現ベクターは、形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限されない。発現ベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主とする場合は、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクターを例示できる。発現ベクターは、抗生物質耐性遺伝子等の選択マーカーを備えていてよい。また前記適切な位置とは、発現ベクター複製機能、選択マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモーター等の機能性ポリヌクレオチドに連結された状態で挿入すると好ましい。
【0069】
また本発明の遺伝子組換え宿主において、本発明のポリヌクレオチドは、例えば、ゲノムDNA上に導入されていてもよい。ゲノムDNAへの本発明のポリヌクレオチドの導入は、例えば、相同組み換えによる遺伝子導入法を利用して実施できる。相同組み換えによる遺伝子導入法としては、Red-driven integration法(Datsenko,K.A,and Wanner,B.L.Proc.NatI.Acad.Sci.USA.97:6640-6645(2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むベクターを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。
【0070】
本発明の発現ベクター等のポリヌクレオチドを用いた宿主の形質転換は、例えば、当業者が通常用いる方法で行なえる。例えば、宿主として大腸菌を選択する場合には、コンピテントセル法、ヒートショック法、エレクトロポレーション法等形質転換できる。形質転換後に適切な方法でスクリーニングすることで、本発明の遺伝子組換え宿主を取得できる。
【0071】
各種微生物において利用可能な発現ベクターやプロモーター等の遺伝子工学的手法に関する情報については、例えば、「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用できる。
【0072】
本発明の遺伝子組換え宿主が本発明の発現ベクターを含む場合、本発明の遺伝子組換え宿主から本発明の発現ベクターを調製できる。例えば、本発明の遺伝子組換え宿主を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)等の市販の抽出キットを用いて本発明の発現ベクターを調製できる。
【0073】
本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現できる。また本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現させ、当該発現したタンパク質を回収することで、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を製造できる。すなわち本発明は、例えば、本発明の遺伝子組換え宿主を培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現させる工程と、発現させた前記タンパク質を回収する工程とを含む、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の製造方法を提供する。培地組成や培養条件は、宿主の種類や本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の特性等の諸条件に応じて適宜設定できる。培地組成や培養条件は、例えば、宿主が増殖でき、かつ本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を発現できるように設定できる。培地としては、例えば、炭素源、窒素源、無機塩、その他の各種有機成分や無機成分を適宜含有する培地を用いることができる。例えば、宿主が大腸菌の場合、必要な栄養源を補ったLB(Luria-Bertani)培地(トリプトン 1%(w/v)、酵母エキス 0.5%(w/v)、塩化ナトリウム 1%(w/v))が好ましい培地の一例として挙げられる。なお、本発明の発現ベクターの導入の有無に基づき、本発明の遺伝子組換え宿主を選択的に増殖させるために、培地に当該発現ベクターに含まれる抗生物質耐性遺伝子に対応した抗生物質を添加して培養すると好ましい。例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は培地にカナマイシンを添加すればよい。本発明のポリヌクレオチドがゲノムDNA上に導入されている場合も同様である。また培地は、グルタチオン、システイン、シスタチン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含有していてもよい。また、培地は、グリシン等の前記遺伝子組換え宿主から培養液へのタンパク質分泌を促す試薬を含有していてもよい。例えば、宿主が大腸菌の場合、培地に対してグリシンを2%(w/v)以下で添加すると好ましい。培養温度は、例えば、宿主が大腸菌の場合、一般に10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃、より好ましくは25℃前後であってよい。培地のpHは、例えば、宿主が大腸菌の場合、pH6.8からpH7.4、好ましくはpH7.0前後であってよい。また、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を誘導性のプロモーターの制御下で発現する場合は、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が良好に発現できるように誘導をかけると好ましい。発現誘導には、例えば、プロモーターの種類に応じた誘導剤を用いることができる。誘導剤としては、IPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を例示できる。例えば、宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)が約0.5から1.0となったときに適当量のIPTGを添加し、引き続き培養することで、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の発現を誘導できる。IPTGの添加濃度は、例えば、0.005から1.0mM、好ましくは0.01から0.5mMであってよい。IPTG誘導等の発現誘導は、例えば、当該技術分野において周知の条件で行なえる。
【0074】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、その発現形態に適した方法で培養物から分離して回収できる。なお、本明細書において「培養物」とは、培養で得られた培養液の全体またはその一部を意味する。当該一部は、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を含有する部分であれば特に制限されない。当該一部としては、培養された本発明の遺伝子組換え宿主の細胞や培養後の培地(すなわち培養上清)が挙げられる。例えば、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が培養上清に蓄積する場合、細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を回収できる。また、本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質が細胞内(ペリプラズムを含む)に蓄積する場合、細胞を遠心分離操作回収した後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することで細胞を破砕して、破砕物から本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質を回収できる。培養上清や細胞破砕物からの本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の回収は、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法で行なえる。そのような方法としては、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。
【0075】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、免疫グロブリン(抗体)の分離または分析に使用できる。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、不溶性担体に固定化して使用できる。すなわち、免疫グロブリン(抗体)の分離または分析は、具体的には、例えば、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質とを含む、免疫グロブリン吸着剤を用いて実施できる。本明細書では、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質とを含む、免疫グロブリン吸着剤を、「本発明の免疫グロブリン吸着剤」ともいう。なお「免疫グロブリンの分離」とは、夾雑物質共存化の溶液からの免疫グロブリンの分離に限らず、構造、性質または活性等に基づく免疫グロブリン間の分離も含まれる。不溶性担体は特に制限されない。不溶性担体としては、アガロース、アルギネート(アルギン酸塩)、カラゲナン、キチン、セルロース、デキストリン、デキストラン、デンプン等の多糖質を原料とした担体や、ポリビニルアルコール、ポリメタクレート、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリウレタン等の合成高分子を原料とした担体や、シリカ等のセラミックスを原料とした担体が例示できる。中でも、多糖質を原料とした担体や合成高分子を原料とした担体が不溶性担体として好ましい。前記好ましい担体の一例として、トヨパール(東ソー社製)等のヒドロキシ基を導入したポリメタクリレートゲル、Sepharose(GEヘルスケア社製)等のアガロースゲル、セルファイン(JNC社製)等のセルロースゲルが挙げられる。不溶性担体の形状は特に制限されない。不溶性担体は、例えば、カラムに充填できる形状であってよい。不溶性担体は、例えば、粒状物または非粒状物であってよい。また、不溶性担体は、例えば、多孔性または非多孔性であってもよい。
【0076】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、例えば、共有結合を介して不溶性担体に固定化できる。本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質は、具体的には、例えば、不溶性担体が有する活性基を介して本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで、不溶性担体に固定化できる。すなわち、不溶性担体は、活性基を有していてよい。不溶性担体は、例えば、その表面に活性基を有していてよい。活性基としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)活性化エステル基、エポキシ基、カルボキシ基、マレイミド基、ハロアセチル基、トレシル基、ホルミル基、ハロアセトアミドが挙げられる。活性基を有する不溶性担体としては、例えば、活性基を有する市販の不溶性担体をそのまま用いてもよいし、不溶性担体に活性基を導入して用いてもよい。活性基を有する市販の担体としては、TOYOPEARL AF-Epoxy-650M、TOYOPEARL AF-Tresyl-650M(いずれも東ソー社製)、HiTrap NHS-activated HP Columns、NHS-activated Sepharose 4 Fast Flow、Epoxy-activated Sepharose 6B(いずれもGEヘルスケア社製)、SulfoLink Coupling Resin(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)が例示できる。
【0077】
担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基等に対して2個以上の活性部位を有する化合物の一方を反応させる方法が例示できる。
【0078】
担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にエポキシ基を導入する化合物としては、エピクロロヒドリン、エタンジオールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテルが例示できる。
【0079】
また担体表面に存在するエポキシ基にカルボキシ基を導入する化合物としては、2-メルカプト酢酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸、6-メルカプト酪酸、グリシン、3-アミノプロピオン酸、4-アミノ酪酸、6-アミノヘキサン酸を例示できる。
【0080】
また担体表面に存在するヒドロキシ基、エポキシ基、カルボキシ基、アミノ基にマレイミド基を導入する化合物としては、N-(ε-マレイミドカプロン酸)ヒドラジド、N-(ε-マレイミドプロピオン酸)ヒドラジド、4-(4-N-マレイミドフェニル)酢酸ヒドラジド、2-アミノマレイミド、3-アミノマレイミド、4-アミノマレイミド、6-アミノマレイミド、1-(4-アミノフェニル)マレイミド、1-(3-アミノフェニル)マレイミド、4-(マレイミド)フェニルイソシアナート、2-マレイミド酢酸、3-マレイミドプロピオン酸、4-マレイミド酪酸、6-マレイミドヘキサン酸、N-(α-マレイミドアセトキシ)スクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボニル-(6-アミノヘキサン酸)、スクシンイミジル-4-(マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボン酸、(p-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、(m-マレイミドベンゾイル)N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0081】
また担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にハロアセチル基を導入する化合物としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、クロロ酢酸クロリド、ブロモ酢酸クロリド、ブロモ酢酸ブロミド、クロロ酢酸無水物、ブロモ酢酸無水物、ヨード酢酸無水物、2-(ヨードアセトアミド)酢酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、4-(ヨードアセチル)アミノ安息香酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステルを例示できる。
【0082】
また担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するヒドロキシ基やアミノ基にω-アルケニルアルカングリシジルエーテルを反応させた後、ハロゲン化剤でω-アルケニル部位をハロゲン化することで活性化する方法も例示できる。ω-アルケニルアルカングリシジルエーテルとしては、アリルグリシジルエーテル、3-ブテニルグリシジルエーテル、4-ペンテニルグリシジルエーテルを例示できる。ハロゲン化剤としては、N-クロロスクシンイミド、N-ブロモスクシンイミド、N-ヨードスクシンイミドを例示できる。
【0083】
また担体表面に活性基を導入する方法としては、担体表面に存在するカルボキシ基に対して縮合剤と添加剤を用いて活性基を導入する方法も例示できる。縮合剤としては1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、ジシクロヘキシルカルボジアミド、カルボニルジイミダゾールを例示できる。添加剤としては、N-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)、4-ニトロフェノール、1-ヒドロキシベンズトリアゾールを例示できる。
【0084】
本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、緩衝液中で実施できる。緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、MES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)緩衝液、HEPES(4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)緩衝液、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)緩衝液、ホウ酸緩衝液を例示できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、活性基の反応性や免疫グロブリン結合性タンパク質の安定性等の諸条件に応じて適宜設定できる。固定化させるときの反応温度は、例えば、5℃から50℃であってよく、好ましくは10℃から35℃であってよい。
【0085】
本発明の免疫グロブリン吸着剤は、例えば、カラムに充填して免疫グロブリン(抗体)の分離に使用できる。具体的には、例えば、本発明の免疫グロブリン吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加して当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させ、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させることで、免疫グロブリンを分離できる。すなわち、本発明は、例えば、本発明の免疫グロブリン吸着剤を充填したカラムに免疫グロブリンを含む溶液を添加して当該免疫グロブリンを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出させる工程とを含む、免疫グロブリンの分離方法を提供する。免疫グロブリンを含む溶液は、例えば、ポンプ等の送液手段を用いてカラムに添加できる。なお本明細書では、液体をカラムに添加することを、「液体をカラムに送液する」ともいう。なお免疫グロブリンを含む溶液は、カラムに添加する前に予め適切な緩衝液を用いて溶媒置換してよい。また、免疫グロブリンを含む溶液をカラムに添加する前に、適切な緩衝液を用いてカラムを平衡化してよい。前記平衡化により、例えば、免疫グロブリンをより高純度に分離できると期待される。溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液としては、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、MES緩衝液が例示できる。そのような緩衝液には、例えば、さらに、10mMから100mMの塩化ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。溶媒置換に用いる緩衝液と平衡化に用いる緩衝液は、同一であってもよく、同一でなくてもよい。また、免疫グロブリンを含む溶液のカラムへの通液後に夾雑物質等の免疫グロブリン以外の成分がカラムに残存している場合、免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンを溶出する前に、そのような成分をカラムから除去してよい。免疫グロブリン以外の成分は、例えば、適切な緩衝液を用いてカラムから除去できる。免疫グロブリン以外の成分の除去に用いる緩衝液については、例えば、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液についての記載を準用できる。免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンは、例えば、免疫グロブリンとリガンド(本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質)との相互作用を弱めることで、溶出できる。免疫グロブリンとリガンド(本発明の免疫グロブリン結合性タンパク質)との相互作用を弱める手段としては、緩衝液によるpHの低下、カウンターペプチドの添加、温度上昇、塩濃度変化が例示できる。免疫グロブリン吸着剤に吸着した免疫グロブリンは、具体的には、例えば、適切な溶出液を用いて溶出できる。溶出液としては、溶媒置換や平衡化に用いる緩衝液よりも酸性側の緩衝液が挙げられる。そのような緩衝液としては、クエン酸緩衝液、グリシン塩酸緩衝液、酢酸緩衝液を例示できる。溶出液のpHは、例えば、免疫グロブリンの機能(抗原への結合性等)を損なわない範囲で設定できる。
【0086】
このようにして免疫グロブリン(抗体)の分離を実施することで、例えば、分離された免疫グロブリンが得られる。すなわち、免疫グロブリンの分離方法は、一態様において、免疫グロブリンの製造方法であってよく、具体的には、分離された免疫グロブリンの製造方法であってよい。免疫グロブリンは、例えば、免疫グロブリンを含有する溶出画分として得られる。すなわち、溶出された免疫グロブリンを含有する画分を分取できる。画分の分取は、例えば、常法で行なえる。画分を分取する方法としては、一定の時間ごとや、一定の容量ごとに回収容器を交換する方法や、溶出液のクロマトグラムの形状に合わせて回収容器を換える方法や、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等画分の分取をする方法が挙げられる。さらに、免疫グロブリンを含有する画分から免疫グロブリンを回収することもできる。免疫グロブリンを含有する画分からの免疫グロブリンの回収は、例えば、タンパク質の分離精製に用いられる公知の方法で行なえる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例に限定されるものではない。また参考例および実施例4に記載のSpA9c(配列番号21)は、本発明を構成するものではない。
【0088】
実施例1 アミノ酸置換免疫グロブリン結合性タンパク質の作製
(1)WO2019/093439号記載の方法に基づき、天然型免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号1)に対し、構造安定化に寄与するGly29Alaのアミノ酸置換(Bjorn Nilsson他,Protein Engineering,1(2),107-113,1987)およびアルカリ安定性向上に関与するLys4Arg、Lys7Glu、Asn11Lys、Glu15Ala、Asn21Tyr、およびLys58Gluのアミノ酸置換を導入したタンパク質SpA6aを発現可能なベクターpET-SpA6aを作製した。SpA6aのアミノ酸配列を配列番号2に、SpA6aをコードするヌクレオチド配列を配列番号3に、それぞれ示す。
【0089】
(2)WO2019/093439号で明らかになった、免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn3Ile、Val40AlaおよびLys(Glu)58Asp(この表記はSpA6a作製時に配列番号1の58番目のリジンが一度グルタミン酸に置換されたが、さらにアスパラギン酸に置換されたことを表す、以下同じ)を選択し、これら置換をSpA6a(配列番号2)に対し集積したタンパク質(SpA8cと命名)を設計した。
【0090】
(3)(2)で設計したSpA8cをコードするポリヌクレオチドを合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成したポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号12(5’-TAGCCATGGGCGCCGATATTCGCTTTA-3’)および配列番号17(5’-CTACTCGAGATCCGGTGCTTGAGCATC-3’)に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、表1に示す組成からなる反応液を調製後、当該反応液を98℃で30秒間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、55℃で5秒間の第2ステップ、72℃で60秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で2分間熱処理することで行なった。
【0091】
【0092】
(4)得られたポリヌクレオチドを精製し、制限酵素NcoIとXhoIとで消化後、予め制限酵素NcoIとXhoIで消化した発現ベクターpET-28aにライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌BL21(DE3)株(ニッポンジーン社製)を形質転換した。
【0093】
(5)得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)を50μg/mLのカナマイシンを含むLB培地にて培養後、QIAprep Spin Miniprep kitを用いて発現ベクター(pET-SpA8cと命名)を抽出した。
【0094】
(6)得られた抽出物のうち、免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびその周辺領域について、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing ready Reaction kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(Thermo Fisher Scientific社製)にてヌクレオチド配列を解析した。なお当該解析の際、配列番号14(5’-TAATACGACTCACTATAGGG-3’)または配列番号15(5’-TATGCTAGTTATTGCTCAG-3’)に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0095】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA8cにSpA8cをコードするポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。SpA8cのアミノ酸配列を配列番号10に、前記SpA8cをコードするヌクレオチド配列を配列番号11に、それぞれ示す。
【0096】
参考例1
WO2019/093439号で明らかになった、免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換Asn3Ile、Val40Ala、Lys(Glu)58AspおよびLys(Glu)58ValをSpA6a(配列番号2)に対し集積することで、更なる安定性の向上を図った。具体的には、以下の(a)から(c)に示す3種類の免疫グロブリン結合性タンパク質を設計し、作製した。
(a)SpA6aに対し、さらにAsn3IleおよびVal40Alaのアミノ酸置換を導入したタンパク質(SpA8aと命名)
(b)SpA6aに対し、さらにAsn3IleおよびLys(Glu)58Valのアミノ酸置換を導入したタンパク質(SpA7cと命名)
(c)SpA6aに対し、さらにAsn3IleおよびLys(Glu)58Aspのアミノ酸置換を導入したタンパク質(SpA7dと命名)
以下、(a)から(c)に示す3種類の免疫グロブリン結合性タンパク質の作製方法について説明する。
【0097】
(a)SpA8a
(a-1)WO2019/093439号で明らかになった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn3IleおよびVal40Alaを選択し、それらのアミノ酸置換をSpA6a(配列番号2)に対し集積したタンパク質SpA8aを設計した。
【0098】
(a-2)(a-1)で設計したSpA8aをコードするヌクレオチド配列を合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成したポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号12および配列番号13(5’-CTACTCGAGTTCCGGTGCTTGAGCATCG-3’)に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例1(3)と同様な方法で行なった。
【0099】
(a-3)得られたポリヌクレオチドを精製し、実施例1(4)と同様な方法で形質転換後、得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)から実施例1(5)と同様な方法で発現ベクター(pET-SpA8aと命名)を抽出した。
【0100】
(a-4)pET-SpA8aのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(6)と同様な方法で行なった。
【0101】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA8aにSpA8aをコードするポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。SpA8aのアミノ酸配列を配列番号4に、SpA8aをコードするヌクレオチド配列を配列番号5に、それぞれ示す。
【0102】
(b)SpA7c
(b-1)WO2019/093439号で明らかになった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn3IleおよびLys(Glu)58Valを選択し、それらのアミノ酸置換をSpA6a(配列番号2)に対し集積したタンパク質SpA7cを設計した。
【0103】
(b-2)(b-1)で設計したSpA7cをコードするポリヌクレオチドを合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成したポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号12および配列番号16(5’-CTACTCGAGAACCGGTGCTTGAGCATCG-3’)に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例1(3)と同様の方法で行なった。
【0104】
(b-3)得られたポリヌクレオチドを精製し、実施例1(4)と同様な方法で形質転換後、得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)から実施例1(5)と同様な方法で発現ベクター(pET-SpA7cと命名)を抽出した。
【0105】
(b-4)pET-SpA7cのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(6)と同様の方法で行なった。
【0106】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA7cにSpA7cをコードするポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。SpA7cのアミノ酸配列を配列番号6に、SpA7cをコードするヌクレオチド配列を配列番号7に、それぞれ示す。
【0107】
(c)SpA7d
(c-1)WO2019/093439号で明らかになった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn3IleおよびLys(Glu)58Aspを選択し、それらのアミノ酸置換をSpA6a(配列番号2)に対し集積したタンパク質SpA7dを設計した。
【0108】
(c-2)(c-1)で設計したSpA7dをコードするポリヌクレオチドを合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成したポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号12および配列番号17に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例1(3)と同様の方法で行なった。
【0109】
(c-3)得られたポリヌクレオチドを精製し、実施例1(4)と同様な方法で形質転換後、得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)から実施例1(5)と同様な方法で発現ベクター(pET-SpA7dと命名)を抽出した。
【0110】
(c-4)pET-SpA7dのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(6)と同様の方法で行なった。
【0111】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA7dにSpA7dをコードするポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。SpA7dのアミノ酸配列を配列番号8に、SpA7dをコードするヌクレオチド配列を配列番号9に、それぞれ示す。
【0112】
実施例2 アミノ酸置換免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性評価(その1)
(1)SpA6a(配列番号2)、実施例1で作製したSpA8c(配列番号10)ならびに参考例1で作製したSpA8a(配列番号4)、SpA7c(配列番号6)およびSpA7d(配列番号8)を発現する形質転換体を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含む2mLの2×YT液体培地(トリプトン1.6%(w/v)、酵母エキス1%(w/v)、塩化ナトリウム0.5%(w/v))に接種し、37℃で終夜、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
【0113】
(2)50μg/mLのカナマイシンを添加した20mLの2×YT液体培地に前培養液を200μL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0114】
(3)培養開始から2から3時間後、培養温度を20℃に変更し、終濃度0.1mMとなるようIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加し、20℃で終夜、好気的に振とう培養した。
【0115】
(4)培養終了後、遠心分離で集菌し、BugBuster Protein Extraction Reagent(メルク社製)を用いてタンパク質抽出液を調製した。
【0116】
(5)(4)で調製したタンパク質抽出液中の変異型免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号2、4、6、8および10)の濃度が等しくなるようTris-Buffered Saline(TBS)を用いて希釈した。希釈したタンパク質溶液の一部を採取し、一方には2M NaOHを、もう一方にはTBSを、それぞれ前記採取したタンパク質溶液に対し等量添加し混合後、35℃で15時間静置した。
【0117】
(6)15時間静置後、1M Tris緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、アルカリ処理(2M NaOHを混合)およびアルカリ未処理(TBSを混合)のタンパク質溶液の抗体結合活性を、下記ELISA法にて測定した。アルカリ安定性はアルカリ処理したときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理をしなかった(未処理)ときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで残存活性を算出し、評価した。
(6-1)TBSを用いて10μg/mLに調製したヒト抗体であるガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所製)を96ウェルマイクロプレートのウェルに分注し固定化した(4℃、16時間)。固定化後、TBSを用いて1%(w/v)に調製したBovine Serum Albumin(メルク社製)を用いてブロッキングした。
(6-2)洗浄緩衝液(0.05M Tris、0.15M NaCl、0.05%(w/v)Tween 20(商品名))で96ウェルマイクロプレートのウェルを洗浄後、抗体結合活性を評価する免疫グロブリン結合性タンパク質を含む溶液を添加し、免疫グロブリン結合性タンパク質と固定化ガンマグロブリンとを反応させた(30℃、1時間)。
(6-3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したAnti-6-His Antibody(BETHYL LABORATORIES社製)を100μL/well添加し反応させた(30℃、1時間)。
(6-4)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を50μL/wellで添加した。次に1M リン酸を50μL/well添加することで反応を停止し、マイクロプレートリーダー(テカン社製)にて450nmの吸光度を測定した。
【0118】
結果を表2に示す。SpA8a(配列番号4)、SpA7c(配列番号6)、SpA7d(配列番号8)およびSpA8c(配列番号10)は、いずれもSpA6a(配列番号2)と比較し、残存活性が高くなっており、免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性が向上していることが確認された。
【0119】
【0120】
実施例3 アルカリ安定性向上免疫グロブリン結合性タンパク質へのランダム変異導入およびライブラリーの作製(その1)
以下に示す方法で、実施例1で作製した免疫グロブリン結合性タンパク質SpA8c(配列番号10)をコードするポリヌクレオチド部分(配列番号11)に対し、エラープローンPCRによりランダムに変異を導入した。
【0121】
(1)実施例1で作製した発現ベクターpET-SpA8cを鋳型DNAとして用い、エラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。前記エラープローンPCRで変異型の免疫グロブリン結合性タンパク質(SpA8c)をコードするポリヌクレオチド(配列番号16)に良好に変異が導入され、その平均変異導入率は2.16%であった。
【0122】
【0123】
(2)得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとXhoIで消化し、予め制限酵素NcoIとXhoIで消化した発現ベクターpET-28aにライゲーションした。
【0124】
(3)ライゲーション反応終了後、反応液を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃、16時間)した後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリーとした。
【0125】
実施例4 アルカリ安定化免疫グロブリン結合性タンパク質のスクリーニング(その1)
(1)実施例3で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体[遺伝子組換え大腸菌])約3400株を50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地250μLに接種し、96ウェルディープウェルプレートを用いて37℃で終夜振とう培養した。
【0126】
(2)培養後、50μg/mLのカナマイシン、0.3%(w/v)のグリシン、0.05mMのIPTGを含む2×YT液体培地500μLに5μLの培養液を植え継ぎ、96ウェルディープウェルプレートを用いて、さらに20℃で終夜振とう培養した。
【0127】
(3)培養後、遠心操作によって得られた免疫グロブリン結合性タンパク質を含む培養上清を純水で25倍または40倍に希釈した。希釈した溶液を2M NaOHと等量混合し、63℃または71℃で30分間アルカリ処理を行なった。アルカリ処理後は4倍量の1M Tris緩衝液(pH7.0)で中和した。
【0128】
(4)アルカリ処理したときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性とアルカリ処理をしなかったときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(6)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。
【0129】
(5)アルカリ処理したときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理をしなかったときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで残存活性を算出し、SpA8cと比較してアルカリ安定性が向上した(残存活性が向上した)免疫グロブリン結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。
【0130】
(6)選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0131】
(7)得られた発現ベクターに挿入された免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域のヌクレオチド配列を実施例1(6)に記載の方法で解析し、アミノ酸置換箇所を特定した。
【0132】
(5)で選択した形質転換体が発現する免疫グロブリン結合性タンパク質のSpA8c(配列番号10)に対するアミノ酸置換位置および1.0M NaOHを用いて35℃、15時間アルカリ処理したときの残存活性[%]をまとめた結果を表4、表5および表6に示す。配列番号10に記載のアミノ酸配列において、Asn6Asp、Lys(Glu)7Val、Ser39Cys、Glu47Val、Lys50AsnおよびLys(Asp)58Asnのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じた免疫グロブリン結合性タンパク質は、SpA8c(配列番号10)と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
配列番号10に記載のアミノ酸配列において、
Glu710Val(この表記は配列番号10の7番目のグルタミン酸がバリンに置換されていることを表す、以下同じ)のアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA8dと命名)のアミノ酸配列を配列番号18に、
Glu4710Valのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA9aと命名)のアミノ酸配列を配列番号19に、
Lys5010Asnのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA9bと命名)のアミノ酸配列を配列番号20に、
Asn610Aspのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA9cと命名、本タンパク質は本発明を構成しない)のアミノ酸配列を配列番号21に、
Ser3910Cysのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA9dと命名)のアミノ酸配列を配列番号22に、
Asp5810Asnのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA8eと命名)のアミノ酸配列を配列番号23に、それぞれ示す。
【0137】
参考例2 アミノ酸置換免疫グロブリン結合性タンパク質の親和性評価
(1)センサーチップCM5(GEヘルスケア社製)に、非改変型免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号1)、SpA6a(配列番号2)またはSpA8c(配列番号10)を固定化した。当該固定化はカルボキシ基をNHS(N-ヒドロキシスクシンイミド)で活性化し、10mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)を用いて1μg/mLに調製したアミノ酸置換免疫グロブリン結合性タンパク質を添加して行なった。なお固定化反応後の残存したNHS基はエタノールアミンでブロッキングした。
【0138】
(2)ランニング緩衝液HBS-EP+(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.05%(v/v) Surfactant P20、pH7.4)(GEヘルスケア社製)を用いてヒト血漿由来IgG1(メルク社製)を3.1nMから200nMの濃度に希釈し、30μL/minの流速で(1)で固定化したセンサーチップに添加した。測定ごとにセンサーチップ表面を10mMグリシン塩酸緩衝液で再生し、ランニング緩衝液HBS-EP+で平衡化した。
【0139】
(3)Biacore T200 Evaluationソフトウェアを用いて解析し、1:1 Bindingモデルでフィッティングした。
【0140】
表7に、ヒトIgG1に対する非改変型免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号1)ならびにSpA6a(配列番号2)およびSpA8c(配列番号10)の解離定数KDを示す。SpA6a(配列番号2)およびSpA8c(配列番号10)のヒトIgG1に対する親和性は、非改変型免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号1)とほぼ同等であることがわかる。
【0141】
【0142】
実施例5 アルカリ安定性向上免疫グロブリン結合性タンパク質へのランダム変異導入およびライブラリーの作製(その2)
実施例4で評価した変異型免疫グロブリン結合性タンパク質のうち、SpA8d(配列番号18)を選択し、SpA8dをコードするポリヌクレオチド部分(配列番号29)にエラープローンPCRによりランダムに変異を導入した。
【0143】
(1)SpA8dをコードするポリヌクレオチド(配列番号29)をpET-28aに挿入し得られた発現ベクターpET-SpA8dを鋳型DNAとして用い、エラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、表3に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を95℃で2分間熱処理し、95℃で30秒間の第1ステップ、50℃で30秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。前記エラープローンPCRで変異型の免疫グロブリン結合性タンパク質(SpA8d)をコードするポリヌクレオチド(配列番号29)に良好に変異が導入され、その平均変異導入率は2.18%であった。
【0144】
(2)得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとXhoIで消化し、予め制限酵素NcoIとXhoIで消化した発現ベクターpET-28aにライゲーションした。
【0145】
(3)ライゲーション反応終了後、反応液を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃、16時間)した後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリーとした。
【0146】
実施例6 アルカリ安定性向上免疫グロブリン結合性タンパク質への部位特異的変異導入およびライブラリーの作製
以下に示す方法で、実施例3で作製した免疫グロブリン結合性タンパク質SpA8d(配列番号18)をコードするポリヌクレオチド部分(配列番号29)に対し、インバースPCRにより部位特異的にランダムな変異を導入した。変異導入箇所は、これまでの検討で安定性に有効な変異が多く取れた箇所を選択した。具体的には、配列番号1の3番目のアスパラギン、4番目のリジンまたは42番目のリジンに対して実施した。
【0147】
(1)発現ベクターpET-SpA8dを鋳型DNAとして用い、インバースPCRを行なった。インバースPCRは、表8に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で2分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップ、60℃で5秒間の第2ステップ、72℃で60秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で7分間熱処理することで行なった。なお各primer mixtureの組成を表9に、各変異導入箇所への変異導入に用いたプライマーの組合せを表10に、それぞれ示す。
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
(2)得られたPCR産物を制限酵素DpnIで処理し、鋳型としたプラスミドのみを選択的に切断した。
【0152】
(3)制限酵素での処理後、反応液を用いて大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLBプレート培地で培養(37℃、16時間)した後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリーとした。前記インバースPCRにより、変異型の免疫グロブリン結合性タンパク質(SpA8d)をコードするポリヌクレオチド(配列番号29)に良好に変異が導入された。形成したコロニーの中から100株選択し、任意の箇所に約17種の変異が導入されたライブラリーを取得した。
【0153】
実施例7 アルカリ安定化免疫グロブリン結合性タンパク質のスクリーニング(その2)
(1)実施例5および6で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体[遺伝子組換え大腸菌])約1800株を50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地250μLに接種し、96ウェルディープウェルプレートを用いて37℃で終夜振とう培養した。
【0154】
(2)培養後、50μg/mLのカナマイシン、0.3%(w/v)のグリシン、0.05mMのIPTGを含む2×YT液体培地500μLに5μLの培養液を植え継ぎ、96ウェルディープウェルプレートを用いて、さらに20℃で終夜振とう培養した。
【0155】
(3)培養後、遠心操作によって得られた免疫グロブリン結合性タンパク質を含む培養上清を純水で50倍に希釈した。希釈した溶液を2M NaOHと等量混合し、64℃で30分間アルカリ処理を行なった。アルカリ処理後は4倍量の1M Tris緩衝液(pH7.0)で中和した。
【0156】
(4)アルカリ処理したときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性とアルカリ処理をしなかったときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性を、実施例2(6)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。
【0157】
(5)アルカリ処理したときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性を、アルカリ処理をしなかったときの免疫グロブリン結合性タンパク質の抗体結合活性で除することで残存活性を算出し、SpA8dと比較してアルカリ安定性が向上した(残存活性が向上した)免疫グロブリン結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。
【0158】
(6)選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(QIAGEN社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0159】
(7)得られた発現ベクターに挿入された免疫グロブリン結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域のヌクレオチド配列を実施例1(6)に記載の方法で解析し、アミノ酸置換箇所を特定した。
【0160】
(5)で選択した形質転換体が発現する免疫グロブリン結合性タンパク質のSpA8d(配列番号18)に対するアミノ酸置換位置、および1M NaOHを用いて35℃で15時間アルカリ処理したときの残存活性[%]をまとめた結果を表11に示す。配列番号18に記載のアミノ酸配列において、Asn(Ile)3His、Lys(Arg)4Thr、Ser39GlyおよびLys42Leuのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じた免疫グロブリン結合性タンパク質は、SpA8d(配列番号18)と比較しアルカリ安定性が向上しているといえる。
【0161】
【0162】
配列番号18に記載のアミノ酸配列において、Ile318His(この表記は配列番号18の3番目のイソロイシンがヒスチジンに置換されていることを表す、以下同じ)のアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA8fと命名)のアミノ酸配列を配列番号49に、
Arg418Thrのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA8gと命名)のアミノ酸配列を配列番号51に、
Ser3918Glyのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA9fと命名)のアミノ酸配列を配列番号50に、
Lys4218Leuのアミノ酸置換が生じたタンパク質(SpA9eと命名)のアミノ酸配列を配列番号48に、それぞれ示す。なお、SpA9fは実施例5(ランダム変異導入)で選択した株であり、SpA9e、SpA8fおよびSpA8gは実施例6(部位特異的変異導入)で選択した株である。
【0163】
実施例8 アミノ酸置換の集積
実施例7で明らかになった、免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換をSpA8d(配列番号18)に対し集積することで、更なる安定性の向上を図った。具体的には、以下の(a)および(b)に示す2種類の免疫グロブリン結合性タンパク質を設計し、作製した。
(a)SpA8dに対し、さらにAsn(Ile)3HisおよびLys42Leuのアミノ酸置換を導入したタンパク質(SpA9gと命名)
(b)SpA8dに対し、さらにAsn(Ile)3His 、Ser39GlyおよびLys42Leuのアミノ酸置換を導入したタンパク質(SpA10aと命名)
以下、(a)および(b)に示す2種類の免疫グロプリン結合性タンパク質の作製方法について説明する。
【0164】
(a)SpA9g
(a-1)実施例7で明らかになった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn(Ile)3HisおよびLys42Leuを選択し、それらのアミノ酸置換をSpA8d(配列番号18)に対し集積したタンパク質SpA9gを設計した。
【0165】
(a-2)(a-1)で設計したSpA9gをコードするヌクレオチド配列を合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成したポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号52(5’-AAAACCATGGGCGCGGACCATCGC-3’)および配列番号53(5’-AAACTCGAGATCCGGAGCTTGAGC-3’)に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例1(3)と同様な方法で行なった。
【0166】
(a-3)得られたポリヌクレオチドを精製し、実施例1(4)と同様な方法で形質転換後、得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)から実施例1(5)と同様な方法で発現ベクター(pET-SpA9gと命名)を抽出した。
【0167】
(a-4)pET-SpA9gのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(6)と同様の方法で行なった。
【0168】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA9gにSpA9gをコードするポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。SpA9gのアミノ酸配列を配列番号54に、SpA9gをコードするヌクレオチド配列を配列番号55に、それぞれ示す。
【0169】
(b)SpA10a
(b-1)実施例7で明らかになった、アルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中から、Asn(Ile)3His、Ser39GlyおよびLys42Leuを選択し、それらのアミノ酸置換をSpA8d(配列番号18)に対し集積したタンパク質SpA10aを設計した。
【0170】
(b-2)(b-1)で設計したSpA10aをコードするヌクレオチド配列を合成した後、PCRを用いて前記ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを作製した。PCRは、前記合成したポリヌクレオチドを鋳型DNAとし、配列番号52および配列番号53に記載のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例1(3)と同様な方法で行なった。
【0171】
(b-3)得られたポリヌクレオチドを精製し、実施例1(4)と同様な方法で形質転換後、得られた形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)から実施例1(5)と同様な方法で発現ベクター(pET-SpA10aと命名)を抽出した。
【0172】
(b-4)pET-SpA10aのヌクレオチド配列の解析を、実施例1(6)と同様の方法で行なった。
【0173】
配列解析の結果、発現ベクターpET-SpA10aにSpA10aをコードするポリヌクレオチドが挿入されていることを確認した。SpA10aのアミノ酸配列を配列番号56に、SpA10aをコードするヌクレオチド配列を配列番号57に、それぞれ示す。
【0174】
実施例9 アミノ酸置換免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性評価(その2)
(1)SpA8d(配列番号18)ならびに実施例8で作製したSpA9g(配列番号54)およびSpA10a(配列番号56)を発現する形質転換体を、実施例2(1)から(3)と同様な方法で培養した。
【0175】
(2)培養終了後、遠心分離で集菌し、BugBuster Protein Extraction Reagent(メルク社製)を用いてタンパク質抽出液を調製した。
【0176】
(3)(2)で調製したタンパク質抽出液中の変異型免疫グロブリン結合性タンパク質(配列番号18、54および56)の濃度が等しくなるようTris-Buffered Saline(TBS)を用いて希釈した。希釈したタンパク質溶液の一部を採取し、一方には2M NaOHを、もう一方にはTBSを、それぞれ前記採取したタンパク質溶液に対し等量添加し混合後、35℃で15時間静置した。
【0177】
(6)15時間静置後、1M Tris緩衝液(pH7.0)を4倍量加えることで中和し、アルカリ処理(2M NaOHを混合)およびアルカリ未処理(TBSを混合)のタンパク質溶液の抗体結合活性を、実施例2(6)に記載のELISA法にてそれぞれ測定した。
【0178】
結果を表12に示す。SpA9g(配列番号54)およびSpA10a(配列番号56)は、いずれもSpA8d(配列番号18)と比較し、残存活性が高くなっており、免疫グロブリン結合性タンパク質のアルカリ安定性が向上していることが確認された。
【0179】
【配列表】