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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20240209BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240209BHJP
   C08L 15/02 20060101ALI20240209BHJP
【FI】
B32B25/08
C08K3/34
C08L15/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020045467
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021146518
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】山縣 義春
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-268942(JP,A)
【文献】特開2004-189919(JP,A)
【文献】特開2004-189920(JP,A)
【文献】特開平08-113769(JP,A)
【文献】特開2008-231248(JP,A)
【文献】特開平02-074339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレンゴム加硫物層と、これと隣接するクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層を有する積層体であって、クロロプレンゴム加硫物がケイ素化合物をクロロプレンゴム100重量部に対し30~100重量部含むことを特徴とする積層体。
【請求項2】
クロロスルホン化ポリオレフィン加硫物が、過酸化物で架橋されたものであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
ケイ素化合物を含むクロロプレンゴム未加硫物と、クロロスルホン化ポリエチレン未加硫物を各々シート状に成型した後、これらを重ね合わせた状態で加熱し、加硫することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクロロプレンゴム加硫物層とこれに隣接するクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層を有する積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンゴム(CR)は、加工性、機械的強度、耐候性、耐油性、難燃性、耐オゾン性、接着性などにおいてバランスがとれているため、自動車部品をはじめとするその他工業部品の素材として幅広く用いられている。
【0003】
クロロスルホン化ポリオレフィンとしては、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)やアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)が市販されている。クロロスルホン化ポリオレフィンは、柔軟性や低温での特性はクロロプレンゴムに劣るものの、加工性、機械的強度、対候性、耐油性などがクロロプレンゴムよりも優れており、耐摩耗性や明色性にも優れるゴムである。
【0004】
そのため、クロロプレンゴムの外装にクロロスルホン化ポリオレフィンを積層することができれば、優れた柔軟性と保護性能を有する2層ホースなどを作成することができるが、クロロプレンゴムとクロロスルホン化ポリオレフィンでは加硫系が異なるため、一般的には加硫接着が困難である。
【0005】
これまでに、耐油性に優れるニトリルゴム(NBR)とクロロプレンゴムの接着の際にハイドロタルサイト化合物およびケイ素含有化合物を配合したクロロスルホン化ポリオレフィン組成物を接着用組成物として介在させ、ニトリルゴム組成物とクロロプレンゴム組成物を加硫接着させる技術が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
これを用いることでクロロプレンゴムクロロプレンゴムとクロロスルホン化ポリオレフィンを加硫接着することが可能であるが、しかしながら、この方法では外装となるクロロスルホン化ポリオレフィンの配合にハイドロタルサイト化合物やケイ素化合物が必須となり、配合が限定されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平8-113769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的はクロロプレンゴム加硫物層とクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層が強固に積層された積層体およびその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する為に鋭意検討した結果、ケイ素含有化合物を含むクロロプレンゴムを用いることでハイドロタルサイト化合物やクレーを含まないクロロスルホン化ポリエチレン加硫物層とクロロプレンゴム加硫物層を強固に接着可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明の各態様は、以下の[1]~[3]である。
[1] クロロプレンゴム加硫物層と、これと隣接するクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層を有する積層体であって、クロロプレンゴム加硫物がケイ素化合物をクロロプレンゴム100重量部に対し30~100重量部含むことを特徴とする積層体。
[2] クロロスルホン化ポリオレフィン加硫物が、過酸化物で架橋されたものであることを特徴とする上記[1]に記載の積層体。
[3] ケイ素化合物を含むクロロプレンゴム未加硫物と、クロロスルホン化ポリエチレン未加硫物を各々シート状に成型した後、これらを重ね合わせた状態で加熱し、加硫することを特徴とする上記[1]または[2]に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クロロプレンゴムにハイドロタルサイト化合物を配合することなく、クロロプレンゴム加硫物層とクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層が強固に接着した積層体を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を更に詳細に説明する。
【0013】
クロロプレンゴムは、2-クロロ-1,3ブタジエンの単量体、または、2-クロロ-1,3ブタジエンの単量体と、2-クロロ-1,3ブタジエンの単量体と共重合可能な他の単量体を1種類以上共重合したものをいい、各社から市販されている。例えば、東ソー(株)製のスカイプレンなどが挙げられる。また、クロロプレンゴムには、硫黄を共重合した硫黄変性クロロプレンゴムと非硫黄変性クロロプレンゴムが存在するが、本発明ではどちらのクロロプレンゴムでも用いることが可能である。
【0014】
クロロスルホン化ポリオレフィンとは、各種ポリオレフィンを塩素化およびクロロスルホン化したものをいう。原料となるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの単独重合体や、エチレンとプロピレン、エチレンとブテン、エチレンと酢酸ビニルの共重合体(EVA)などが挙げられるが、ポリエチレンを原料としたクロロスルホン化ポリエチレンが代表的である。クロロスルホン化ポリエチレンとしては、東ソー(株)製 TOSO-CSM(登録商標)やextos(登録商標)などが挙げられる。
【0015】
本発明の一態様である積層体は、クロロプレンゴム加硫物層と、これと隣接するクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層を有するものである。クロロプレンゴム加硫物層は、クロロプレンゴムが加硫剤により加硫されたものであり、ケイ素化合物を含むものである。ケイ素化合物としては、ホワイトカーボンや、シリカ、ケイ酸アルミニウム、および各種クレーなどが挙げられ、補強効果の面ではシリカが好ましく、また、補強効果は無いが安価で低コスト化が可能な点では各種クレー化合物が好ましい。クロロプレンゴム加硫物層はクロロプレンゴム100重量部に対しケイ素化合物30~100重量部、好ましくは40~80重量部添加したものを加硫したものである。ケイ素化合物を30重量部以上とすることで優れた接着強度を得ることができ、100重量部以下とすることで、優れた加硫ゴム物性を得ることができる。
【0016】
加硫物を得るためには、加硫剤や加硫促進剤、過酸化物、金属酸化物などの配合剤が用いられる。本発明のクロロプレンゴム加硫物層では特に限定するものではなく、クロロプレンゴムに一般的に用いられる配合剤が使用可能である。本発明のクロロスルホン化ポリオレフィン加硫物層では、加硫剤や加硫促進剤、過酸化物、金属酸化物などの配合剤が用いられる。配合剤は特に限定するものではなく、例えばチウラム系化合物を用いた硫黄系加硫、マレイミド系化合物を用いたマレイミド加硫、過酸化物を用いた過酸化物加硫など、一般的にクロロスルホン化ポリオレフィンに用いるものが使用可能である。なかでも、過酸化物で架橋されたものは硫黄系加硫より耐熱性および接着強度が高くなり、ホース外層などに用いるには好適である。
【0017】
本発明の一態様である積層体の製造方法は、ケイ素化合物を含むクロロプレンゴム未加硫物と、クロロスルホン化ポリオレフィン未加硫物を重ね合わせた状態に成型し、加熱等により加硫することで作製される。
【0018】
ケイ素化合物を含むクロロプレンゴム未加硫物は、クロロプレンゴムにケイ素含有化合物およびその他各種の配合剤を混合・混錬することにより得られる。
【0019】
クロロプレンゴムに各種の配合剤を混合・混錬する手法については特に限定するものではなく、通常知られているゴムの混錬と同様の方法にておこなうことができる。例えば、受酸剤、補強剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、過酸化物、金属酸化物等をロール、ニーダーバンバリー等の混練機またはオープンロールによってクロロプレンゴムと混合することができる。
【0020】
クロロスルホン化ポリオレフィン未加硫物は、各種の配合剤を混合・混錬することにより得られる。クロロスルホン化ポリオレフィンに各種の配合剤を混合・混錬する手法については特に限定するものではなく、通常知られているゴムの混錬と同様の方法にておこなうことができる。例えば、受酸剤、補強剤、充填剤、可塑剤、老化防止剤等をロール、ニーダーバンバリー等の混練機またはオープンロールによってクロロスルホン化ポリオレフィンと混合することができる。
【0021】
クロロプレンゴム未加硫物およびクロロスルホン化ポリオレフィン未加硫物を成型する方法は特に限定するものではないが、例えば、それぞれの未加硫物を押出機により重ねて押出成形する二層成形や、それぞれをシート状に成型した後に重ねる手法が挙げられる。シート状に成型する方法は特に限定するものではないが、それぞれの混合物をオープンロールまたはカレンダーロール等で圧延し作製することが可能である。押出成形体やシート状成形体の形状、大きさ、厚みについては特に限定するものではなく、本発明では接着することが可能である。
【0022】
加硫方法については、特に限定するものではなく、通常のゴムの加硫方法にて実施することが可能であり、例えば、得られた未加硫物成形体を、熱プレスや加硫釜内部で加熱することで行うことができる。加硫温度については、120~200℃にて実施可能であるが、加硫速度や加硫時のゴムの熱分解抑制の観点から、一般的には140~180℃で行われる。また、加硫時間は加硫温度が低いほど、また、形状が大きく内部まで熱が伝わりにくいものほど長くなるが、一般的2時間以内であり、小さいものは160℃であれば20分程度で加硫することが可能である。
【実施例
【0023】
本発明を以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
本実施例における積層体の作製およびその接着強度の測定は以下のように実施した。
<積層体の作製>
クロロプレンゴムおよびクロロスルホン化ポリエチレンと、表1に示す所定の割合の配合剤とを3L加圧型ニーダーにて混錬後、8インチオープンロールにて間隙1.4mmでシート状に成型した。シート状のそれぞれの混合物を20cm×20cmのサイズで切り出し、重ねて、20cm×20cm、厚み2mmの金型に入れ、加熱圧縮成型機を用いて160℃にて20分間150kg/mにて圧縮成形し、20cm×20cm、厚み2mm積層体を得た。なお、シートを重ねる際、一部に2mm幅PETフィルムを挟むことで接着しないようにして、接着強度測定の際の掴みしろとした。
【0025】
【表1】
【0026】
<接着強度の測定>
積層体を25℃にて1日養生した後、25mm幅に打抜き、剥離試験機にて、180度剥離を行い、25℃における剥離強度の測定と剥離状態を観察した。剥離試験機に装着する際にはPETフィルムを剥がし、治具の掴みしろとし、剥離速度は200mm/minとした。
剥離状態は、クロロプレンゴムとクロロスルホン化ポリエチレンの界面が明確に判定できるものを界面剥離、界面が判別できないものをゴム破壊、およびそれらの混在とし、そのどれに該当するかを目視で確認した。ゴム破壊が最も良好で、界面剥離の割合が増えるほど接着状態が劣ると判断した。
【0027】
実施例1
表2に示すように、ケイ素化合物としてデキシクレーを用い、クロロプレンゴムおよびクロロスルホン化ポリエチレンの混錬を実施し、積層体を作製した。クロロプレンゴムは東ソー(株)製の硫黄変性クロロプレンゴムであるスカイプレンR-22を、クロロスルホン化ポリエチレンは東ソー(株)製のTOSO-CSM TS-530を用いた。
【0028】
剥離強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0029】
実施例2
表2に示すようにケイ素化合物の量を変更した以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0030】
実施例3
表2に示すようにクロロスルホン化ポリエチレンの加硫系を硫黄系から過酸化物へと変更した以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0031】
実施例4
表2に示すようにクロロスルホン化ポリエチレンの加硫系を硫黄系から過酸化物へと変更し、クロロスルホン化ポリエチレンにケイ素化合物を配合しなかった以外は、実施例1と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0032】
実施例5
表2に示すように使用するケイ素化合物をデキシクレーからシリカに変更し量を変更した以外は実施例1と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0033】
実施例6
表2に示すようにクロロスルホン化ポリエチレンにケイ素化合物を配合しなかった以外は、実施例5と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0034】
実施例7
表2に示すようにクロロスルホン化ポリエチレンの加硫系を過酸化物に変更した以外は、実施例5と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0035】
実施例8
表2に示すようにクロロプレンゴムを硫黄変性からメルカプタン変性に変更した以外は実施例5と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0036】
実施例9
表2に示すようにクロロプレンゴムを硫黄変性からメルカプタン変性に変更した以外は実施例5と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。強度は大きく、剥離状態はゴム破壊であった。
【0037】
比較例1
クロロプレンゴムに配合するデキシクレーの量を20重量部とした以外は実施例1と同様に積層体を作製し、剥離強度と剥離状態を確認した。結果を表3に示す。強度は小さく、剥離状態は界面破壊であった。
【0038】
比較例2
表3に示すように、クロロプレンゴムにはケイ素化合物を配合しなかったこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、積層体の剥離強度と剥離状態を確認した。強度は小さく、剥離状態は界面破壊であった。
【0039】
比較例3
表3に示すように、クロロプレンゴムにはケイ素化合物を配合せず、クロロスルホン化ポリエチレンに配合するケイ素化合物を80重量部とした以外は実施例1と同様に積層体を作製し、積層体の剥離強度と剥離状態を確認した。強度は小さく、剥離状態は界面破壊であった。
【0040】
比較例4
表3に示すように、クロロプレンゴムにはケイ素化合物を配合せず、クロロスルホン化ポリエチレンの加硫系を過酸化物としたこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、積層体の剥離強度と剥離状態を確認した。強度は小さく、剥離状態は界面破壊であった。
【0041】
比較例5
表3に示すように、クロロプレンゴムにはケイ素化合物を配合せず、クロロスルホン化ポリエチレンに配合するケイ素化合物をシリカとし量を変更したこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、積層体の剥離強度と剥離状態を確認した。強度は小さく、剥離状態は界面破壊であった。
【0042】
比較例6
表3に示すように、クロロプレンゴムにはケイ素化合物を配合せず、クロロスルホン化ポリエチレンに配合するケイ素化合物をシリカとし、クロロスルホン化ポリエチレンの加硫系を過酸化物としたこと以外は実施例1と同様に積層体を作製し、積層体の剥離強度と剥離状態を確認した。強度は小さく、剥離状態は界面破壊であった。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のクロロプレンゴムとクロロスルホン化ポリオレフィンが強固に接着した積層体、およびその製造方法は、クロロプレンゴムの優れた柔軟性とクロロスルホン化ポリオレフィンの優れた保護性能を有する2層ホース作成などに利用することができる。