(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】LI二次電池における固体電解質相間界面
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20240209BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240209BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240209BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240209BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20240209BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240209BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240209BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240209BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M4/66 A
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022537742
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2020087386
(87)【国際公開番号】W WO2021123409
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-17
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン・マイ
(72)【発明者】
【氏名】スヴェトロザル-ディミトロフ・イヴァノフ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ブント
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0125970(KR,A)
【文献】国際公開第2012/029551(WO,A1)
【文献】特開2012-018801(JP,A)
【文献】特開2017-228513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-4/62
H01M 10/0566-10/0569
H01M 10/052
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極及び電解質組成物を含む電池セルであって、前記負極が、負極材料と前記負極材料の表面上の固体電解質相間界面組成物とを含み、前記固体電解質相間界面組成物が、XPSスペクトルにおいて685.5eVの結合エネルギーのF及び689eVの結合エネルギーのCF
3に対応するXPSのそれぞれのピーク強度によって決定される0.00<x≦12.00のF:CF
3のモル比(x)を有し、前記電解質組成物が、0<y≦15.0体積%の量(y)のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含む、電池セル。
【請求項2】
前記XPSで決定されるF:CF
3のモル比(x)が、0.00<x≦8.00である、請求項1に記載の電池セル。
【請求項3】
前記XPSで決定されるF:CF
3のモル比(x)が、2.0より高
い、請求項1又は2に記載の電池セル。
【請求項4】
固体電解質界面が、アノードに直接取り付けられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項5】
Fの相対量をLiFから導くことができ、CF
3の相対量をSEI中のLiTFSIからの分解生成物から導くことができる、請求項1~4のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項6】
前記電解質組成物が、スルホラン及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)をスルホランのLiTFSIに対するモル比(z)で2.0<z<4.
0で含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項7】
前記電解質組成物の総体積に対して、前記量(y)が、10.0≦y≦15.0体積%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項8】
前記スルホランのLiTFSIに対するモル比(z)が3である、請求項
6に記載の電池セル。
【請求項9】
前記電解質組成物が、39.2体積%≦a≦47.5体積%の量(a)のLiTFSI、0.0<y≦15.0体積%の量(y)のフルオロエチレンカーボネート(FEC)、及びスルホラン(SL)を含み、SL/LiTFSIが、2.0≦z≦3.5のモル比(z)で構成される、請求項7又は8に記載の電池セル。
【請求項10】
前記電解質組成物が、2.5<z<3.
5のモル比(z)のSL/LiTFSIを含む、請求項9に記載の電池セル。
【請求項11】
銅箔を含むカソードを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項12】
前記負極がリチウム箔を含
む、請求項1~11のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項13】
少なくとも4.4Vの作動電圧を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項14】
最大で4.5Vの作動電圧を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の電池セル。
【請求項15】
前記XPSが、XPS-SAGE HR150 SPECS X線光電子分光計で測定される、請求項1~
14のいずれか一
項に記載の電池セル。
【請求項16】
XPSが0.05eVの分解能で3回のスペクトル掃引を用いて1486.7eVの光子エネルギーのAl-kaアノードで測定され、ピーク面積が70%ガウシアンと30%ローレンチアンのモデル曲線プロトコルを実験データに適用し、CASA XPSソフトウェアを使用して、重み付き最小二乗フィッティングによって決定される、請求項1~
15のいずれか一
項に記載の電池セル。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか一項に記載の電池セルを含む
、携帯型電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.00<x≦12.00のF:CF3のモル比(x)を有する固体電解質相間界面(SEI)組成物、及びそのLi金属系電池、特にリチウム二次又はリチウムイオン電池セルにおけるその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池の3つの主要な機能的構成要素は、アノード、カソード、及び電解質である。従来のリチウムイオンセルのアノードは炭素から作製され、カソードはコバルト、ニッケル、マンガンなどの遷移金属の酸化物及びそれらの混合物であり、また電解質はリチウム塩を含有する非水性溶媒である。例えばリチウム鉄リン酸塩カソードに基づく他のリチウムイオン電池も、市場に存在する。
【0003】
電解質は、電池が電流を外部回路に通すときに、カソードとアノードとの間のキャリアとして作用するリチウムイオンを伝導する必要がある。先行技術の電解質溶媒は最初の充電で部分的に分解して固体電解質相間界面(SEI)層を形成し、それは電気的に絶縁性であるが、十分なイオン伝導性を提供する。この相間界面は、その後の充電/放電サイクルにおける電解質のさらなる分解を防止し、したがって、不動態層とも呼ばれる。
【0004】
このような電解質溶媒は一般的に、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びプロピレンカーボネート(PC)などの有機カーボネートの混合物からなり、リチウム塩は通常、ヘキサフルオロホスフェート、LiPF6からなる。例えば、Camelia Matei Ghimbeuらの2013年のJ.Electrochem.Soc.160,A1907には、PVdFバインダーを含むグラファイト電極上に形成された固体電解質相間界面のXPS分析が記載されている。電解質は、LiPF6若しくはLiTFSIのいずれか、又はそれらの混合物を含有するエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1:1v/v)若しくはエチレンカーボネート/プロピレンカーボネート/ジメチルカーボネート(1:1:3v/v)の混合物からなっていた。Liping Zhengらの2016年のElectrochimica Acta 196,169には、リチウム(フルオロスルホニル)(n-ノナフルオロブタン-スルホニル)イミド(LiFNFSI)が、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート溶媒中の従来使用されているLiPF6に代わる導電性塩として記載されている。
【0005】
リチウム二次電池の市場が急速に拡大するにつれて、携帯型電子デバイスに適し、エネルギー密度が非常に高いより小型かつより軽量の電池に対する需要が大きくなってきている。このため、より高い容量を有して高い作動電圧で動作することができる安全かつ安定した電池を実現するために集中的な開発が試みられている。
【0006】
携帯型電子デバイス用の電池の容量は現在停滞状態に達しており、携帯型電子デバイスに適した市販の電池の作動電圧は現在、4.2Vから最大4.4Vまで様々である。最先端の携帯電話などの最高性能の携帯型電子デバイスでは、少なくとも4.4V(かつ、好ましくは4.5V以下)の作動電圧を印加する電池が要求される。更に、二次リチウムイオン電池セル用のいくつかの電解質組成物には、安全性、すなわち、可燃性であるという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、好ましくは従来のカットオフ又は動作電圧(4.4Vに限定される)に対してより高い電圧範囲、すなわち4.4Vより高い電圧で、高いクーロン効率(すなわち、少なくとも93%、好ましくは少なくとも98%)によって可能になる良好なサイクル寿命(例えば、高い又は優れたサイクル寿命であり得る)を示す、安定した安全で高エネルギー密度の電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、その表面上に固体電解質相間界面を有するアノードを提供することによって解決され、当該固体電解質相間界面は、0.00<x≦12.00のF:CF3のモル比(x)を有し、並びにリチウム二次電池セルにおけるその用途を有する。
【0009】
そのような電池がリチウムアノードと電解質との間の界面に本発明の組成物を有するSEIを含む場合、リチウムアノードのクーロン効率が、コインセル電池環境において80%よりも高いことが実際に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】様々な体積%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、X線光電子分光分析(XPS)で測定して、スルホラン(SL)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)とのモル比が3対1である電解質組成物を使用した場合の負極における固体電解質相間界面組成物の元素分布。
【
図2】LiF及びCF
3に基づくF元素の分布の相対フッ素分布。
【
図3】固体電解質相間界面のF/CF
3のモル比と電解質組成物のフルオロエチレンカーボネート(FEC)の体積%との相関関係。
【
図4】クーロン効率と固体電解質相間界面におけるモルF/CF
3のモル比の相関関係。
【
図5】実施例のセクション4に記載の手順の電圧プロファイル。
【
図6】リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、フッ化リチウム(LiF)及びフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含む組成物のXPSスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、0.00<x≦12.00、好ましくは0.00<x≦8.00、より好ましくは0.10≦x≦8.00、さらにより好ましくは0.25≦x≦8.00のF:CF3のモル比(x)を有する固体電解質相間界面組成物に関する。より好ましい実施形態では、F:CF3のモル比(x)は、1.35≦x≦8.0である。
【0012】
本発明はまた、本発明の固体電解質相間界面組成物を含む負極に関する。より具体的には、本発明は、負極材料と当該負極材料の表面上の固体電解質相間界面組成物とを含む負極に関し、ここで、当該固体電解質相間界面組成物は、0.00<x≦12.00、好ましくは0.00<x≦8.00、より好ましくは0.10≦x≦8.00、さらにより好ましくは0.25≦x≦8.00のF:CF3のモル比(x)を有する。当該比は、下に記載するようにXPSによって決定される。好ましくは、F:CF3の当該モル比(x)は1.35≦x≦8.00であり、より好ましくは当該比は2.0より高く、3.0より高く、又はさらには4.0より高い。
【0013】
本発明者らは、
図4に示すように、F:CF
3のモル比がより高い場合にクーロン効率が著しく向上することを発見した。
【0014】
固体電解質相間界面は、電解質の分解生成物から電極表面上に形成される不動態層である。SEIは、電極-電解質界面の間の界面に配置される。リチウム二次電池セルにおいて、SEIはLiを通すことはできるが電子を遮断して、さらなる電解質の分解を防止し、継続的な電気化学反応を保証する。SEIは電極に対する様々な効果を有することができる。一方で、高密度で完全なままのSEIは電子トンネリングを抑制し、したがって電解質のさらなる還元を妨げることができ、このことは電池の化学的及び電気化学的安定性にきわめて重要である。他方では、SEIの形成と成長によって活性リチウムと電解質材料が消費され、容量の低下、電池の抵抗の増大、及び電力密度の減衰をもたらし得る。
【0015】
明確にするために記すと、当業者は、標準的な測定方法によって、F:CF
3のモル比Fを決定することができる。F:CF
3のモル比は、(i)F(LiFに対応)、すなわち、XPSスペクトルにおける685.5eVの結合エネルギーの位置、及び(ii)CF
3(LiTFSIに対応)、すなわち、XPSスペクトルにおける689eVの結合エネルギーの位置に対応するそれぞれのピークの強度の決定によって容易に導くことができる。これを
図6に示し、実施例のセクション3で完全に詳細に説明する。Fの相対量はLiFから導くことができ、CF
3の相対量はSEI中のLiTFSIからの分解生成物から導くことができる。固体電解質相間界面組成物のF:CF
3のモル比は、下の本明細書に記載の実施例に従ってX線光電子分光法(XPS)によって決定することができる。
【0016】
明確にするために記すと、本明細書において、負極という用語はアノードという用語と交換可能に使用される。
【0017】
アノードの材料は、リチウムを挿入及び抽出可能な材料である限り、特に限定されない。例えば、リチウム金属、金属銅、Sn-Cu、Sn-Co、Sn-Fe又はSn-Anの-Niなどの合金、Li4Ti5O12又はLi5Fe2O3などの金属酸化物、天然グラファイト、人工グラファイト、ホウ素添加グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維グラファイト化材料などの炭素材料、炭素-Si複合体、又はカーボンナノチューブである。
【0018】
アノードは、電極材料の箔又は粉末であってもよい。粉末の場合、銅ペーストを、既知の導電性助剤及びバインダーを用いた圧縮成形によって形成するか、又は既知の導電性助剤及びバインダーと共にピロリドン及び他の有機溶媒と混合する。それは、箔などの集電体をコーティングし、次いで乾燥させることによって得ることができる。
【0019】
好ましい実施形態では、アノードはリチウム箔である。
【0020】
本発明の固体電解質界面は、好ましくは、アノードに直接取り付けられる。本発明の固体電解質界面は、好ましくは、不動態化によってアノードに直接取り付けられる。
【0021】
本発明による固体電解質相間界面組成物は、リチウム二次電池に適した電解質組成物を使用して、すなわち、充電と放電によって負極上に得ることができ、電解質組成物は、電解質組成物の総体積、それぞれの重量に対して、39.0体積%≦a≦47.5体積%の量(a)のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、0<y≦14.0重量%の量に等しい0<y≦15.0体積%の量(y)のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、ここで、電解質の残りの体積はスルホラン(SL)などの適切な溶媒で構成され、SL/LiTFSIは2.0≦z≦3.5のモル比(z)で構成され、体積%は、特定の成分の体積を、LiTFSI(M:287.08g/mol、p:1.33g/cm3)、FEC(M:106.05g/mol、p:1.45g/cm3)及びSL(M:120.17g/mol、p:1.26g/cm3)の総体積で割ったものとして定義される。
【0022】
LiTFSI(CAS:90076-65-6)、FEC(CAS:114435-02-8)及びSL(CAS:126-33-0)は公知の化学化合物である。
【0023】
更により好ましい実施形態では、電解質組成物は2.5<z<3.5のモル比(z)のSL/LiTFSIを含む。更により好ましい実施形態では、SL/LiTFSIは2.5≦z≦3.0のモル比(z)で構成され、好ましくは、SL/LiTFSIは3.0のモル比(z)である。
【0024】
好ましい実施形態では、電解質組成物は、9.8≦y≦14.0重量%の量と等しい10.0≦y≦15.0体積%の量(y)のFECを含む。特に好ましい実施形態では、電解質組成物は、9.8≦y≦14.0重量%の量に等しい10.0≦y≦15.0体積%の量のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、SL/LiTFSIは3.0のモル比(z)である。
【0025】
電解質組成物を調製する方法は、特に限定されず、すなわち、例えば成分を混合することによって調製することができる。
【0026】
本発明はまた、本発明の負極を含む、すなわち本発明のSEIを含むリチウム二次電池セルに関する。
【0027】
明確にするために記すと、リチウム二次電池セルは、カソードと電解質、及び任意でセパレータをさらに含む。
【0028】
電解質は、好ましくは、39.2体積%≦a≦47.5体積%の量(a)のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、0.0<y≦14.0重量%の量に等しい0.0<y≦15.0体積%の量(y)のフルオロエチレンカーボネート(FEC)、及びスルホラン(SL)を含むリチウム二次電池に適した電解質組成物であり、ここで、SL/LiTFSIは2.0≦z≦3.5のモル比(z)で構成される。
【0029】
更により好ましい実施形態では、電解質組成物は2.5<z<3.5のモル比(z)のSL/LiTFSIを含む。更により好ましい実施形態では、SL/LiTFSIは2.5<z≦3.0のモル比(z)で構成され、好ましくは、SL/LiTFSIは3.0のモル比(z)である。
【0030】
好ましい実施形態では、電解質組成物は、9.8≦y≦14.0重量%の量と等しい10.0≦y≦15.0体積%の量(y)のFECを含む。特に好ましい実施形態では、電解質組成物は、9.8≦y≦14.0重量%の量に等しい10.0≦y≦15.0体積%の量のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、SL/LiTFSIは3.0のモル比(z)である。
【0031】
カソードの材料は特に限定されず、その例としては、リチウムイオンを拡散可能な構造を有する遷移金属化合物、又はその特化した金属化合物、及びリチウムの酸化物が挙げられる。具体的には、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiFePO4などを挙げることができる。
【0032】
カソードは、既知の伝導性補助剤若しくはバインダーと共に上記に列挙されたカソード材料を、又は既知の伝導性補助剤若しくはバインダーと共に正極活物質を、ピロリドンなどの有機溶媒中にプレス成形することによって形成することができる。これは、混合物を適用し、それをアルミニウム箔などの電流コレクタに塗布し、続いて乾燥させることによって得ることができる。
【0033】
好ましい実施形態では、カソードは銅箔を含み、好ましくは本質的にそれからなる。
【0034】
アノードの材料は、上記のようにリチウムの挿入及び抽出可能な材料である限り、特に限定されない。
【0035】
カソードとアノードとの間の短絡を防止するために、通常、カソードとアノードとの間にセパレータが差し挟まれる。セパレータの材料及び形状は特に限定されないが、電解質組成物が容易にそれを通過することができ、それが絶縁体であって化学的に安定な材料であることが好ましい。その例としては、様々なポリマー材料で作製された微多孔質フィルム及びシートが挙げられる。ポリマー材料の具体例としては、ポリオレフィンポリマー、ニトロセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、及びポリプロピレンが挙げられる。電気化学的安定性及び化学的安定性の観点から、ポリオレフィンポリマーが好ましい。
【0036】
好ましい実施形態では、セパレータは、40μmの厚さ及び48%の多孔率を有するポリプロピレンセパレータ(例えば、Cellguard2075-1500M)である。このようなセパレータは、以下の論文文献に記載されている:International Journal of Electrochemistry,Volume 2018,Article ID 1925708,7pages,https://doi.Org/10.1155/2018/1925708。
【0037】
本発明のリチウム二次電池の最適な作動電圧は、正極と負極との組合せによって特に制限はされないが、2.4~4.5Vの平均放電電圧で使用することができる。好ましくは、リチウム二次電池セルは、高い作動電圧、すなわち、4.4V以上、好ましくは4.5V以下の作動電圧を有する。
【実施例】
【0038】
1.コインセル調製の説明
試験したセルは、コインセルの型CR2025であった。正極用ケーシング、正極(電解質中に予浸)、Cellguard-セパレータ、50μLの電解質液滴、負極、スペーサ、波形バネ、及び負極用ケーシングをその順序で積み重ねて、セルを調製した。MTI社製のハンドプレス式圧接機を用いて、80kg/cm2の圧力で圧接を行った。
【0039】
電解質組成物は、SL/LiTFSIのモル比(z)3対1のスルホラン(SL)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)に、電解質組成物の総体積に対して0<y≦15体積%の量のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を添加することにより得る。
【0040】
2.不動態化プロトコル
リチウム試料の不動態化を、2ステップで行った。最初に、上記セクション1に記載のセルを、セルが対称である(Li金属がアノード及びカソードの両方に対して選択される)ように構築した。次に、セルを、電流密度0.60mA/cm2で5回、半サイクル当たり2時間でサイクリングし、1.20mAh/cm2の容量を得た。その後、セルを12時間静置した後、取り出し、SEIを含む不動態化Li電極を、リチウムセルから引き抜く。
【0041】
3.X線光電子分光法(XPS)を使用した固体電解質相間界面の測定方法の説明
リチウム電極上の本発明の固体電解質相間界面をXPSを使用して分析する。不動態化の後、リチウムをジメトキシエタン(DME)で洗浄して、SEI上に残る残留(未反応)電解質を洗い流す。
【0042】
試料を、10-2mPaの圧力及び室温で約8時間保存して乾燥させる。
【0043】
その後、試料をアルゴン雰囲気下の移送チャンバ内に置き、次いで移送チャンバをXPS-SAGE HR150 SPECS X線光電子分光計のアンティチャンバに移す(ベース圧力<10-8mBar)。
【0044】
測定は、0.05eVの分解能で3回のスペクトル掃引を用いて、Al-kaアノード(1486.7eVの光子エネルギー)で行う。エネルギーレベルは、285eVのC-C信号で較正した。
【0045】
R-CF
3(689eV)、RH-F(687eV)、及びLiF(685.5eV)のエネルギーレベルは、
図6に見ることができるように容易に区別することができ、文献、すなわち、M.Agostiniらの2015年のChemistry of Materials,27,4604~4611;D.Aurbachらの2009年のJournal of the Electrochemical Society,156,A694~A702;J.Conderらの2017年のElectrochimica Acta,244,61~68に報告されているエネルギーレベルに対応する。
【0046】
ピーク面積を、モデル曲線プロトコル(70%ガウシアン、30%ローレンチアン)を実験データに適用し、CASA XPSソフトウェア(バージョン23.16,Casa software Ltd.-http://www.casaxps.com/)を使用して、重み付き最小二乗フィッティング(weighed least-square fitting)によって決定した。原子のパーセンテージの定量化は、Casa XPSのビルトイン関数(built in function)を使用して、Yeh及びLindauの光イオン化断面と非対称パラメータに基づいて計算した。J.J.Yeh及びI.Lindau,1985,Atomic Data and Nuclea Data Tables,32,1~155。F対CF3のモル比を、以下の式によって計算した。
【0047】
【0048】
3個のF原子が1モルのCF3に存在するため、CF3のシグナルフィットの面積(A)を係数3で割り、一方、LiFの係数は1である(1モルのF=LiFのF原子)である。
【0049】
F対CF3のシグナルから導かれた比(A-係数)とF対CF3のモル比との間の当量を以下の表に示す。
【0050】
【0051】
4.クーロン効率を測定するための方法の説明
不動態化リチウム電極を含むコインセルを、以下の条件下で数回充電及び放電し、その充電-放電サイクル性能を決定する:カソードとして銅箔及びアノードとしてリチウム箔からなるセル構成を使用して、クーロン効率をBiologic VMP-3ポテンショスタットで測定する。初めに、特定量のリチウム金属(3.80mAhの容量に相当する約1mg/50μLの電解質)で、0.38mA/cm
2の定電流を使用して銅箔上を覆い、その後、逆電流を最大0.50Vの電位まで印加して完全に除去してQ
cleanを得て、これを使用して、CE
1st=Q
clean/Q
initialにより
図1及び
図2中の1サイクル目の効率を計算する。
【0052】
続いて、3.80mAhの容量(2ndQinitial)に相当する別のリチウム金属の約1mg/50μLの電解質で、同じ電流密度を使用して銅箔上を覆う。
【0053】
この後、0.380mA/cm2の電流密度、及び各サイクルのサイクリングが合計(3.80mAh、Qinitial)容量の12.5%(本発明者らの設定における0.475mAh)で、50サイクル(n)を行った。
【0054】
50番目のサイクルの完了後、残りのリチウムを、0.380mA/cm2の電流密度を0.5Vのカットオフ電圧に印加する(Qfinalを得る)ことによって銅電極から剥がした。
【0055】
図5は、上記の手順の典型的な電圧プロファイルを示す。
【0056】
CEを、以下の一般式を使用して計算した。
【0057】
【0058】
Qcycle、Qinitial及びnが既知(上の実験の説明を参照)であることから、式は以下のように簡略化することができる。
【0059】
【0060】
5.実験的試験及び結果
図1に、様々な体積%のフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含み、スルホラン(SL)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)との間のモル比が3:1である電解質組成物を使用した場合の負極における固体電解質相間界面組成物のX線光電子分光分析によって測定される元素分布を示す。
【0061】
図2に、LiF、フルオロエチレンカーボネート(FEC)及びCF
3に基づくF元素の分布の相対フッ素分布を示す。
【0062】
図2は、電解質組成物中のFECの量が増加すると、固体電解質相間界面のLiFの量が増加し、検出可能なCF
3が減少することを示している。
【0063】
図3に、固体電解質相間界面のF/CF
3のモル比と電解質組成物のフルオロエチレンカーボネート(FEC)の体積%との間のプロットを示す。
【0064】
図3は、固体電解質相間界面のF/CF
3のモル比と(FEC)の体積%との間に線形相関があることを示している。
【0065】
図4に、クーロン効率と固体電解質相間界面のF/CF
3のモル比との間のプロットを示す。
【0066】
図4は、CEと固体電解質相間界面のF/CF
3のモル比との間の漸近相関があることを示している。CE対F/CF
3のモル比において、飽和が3の方向で生じるように思われ、それはクーロン効率もまた3で最適であることを示していると結論付けることができる。