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  • 特許-イオン源およびこれを備えた質量分析計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-08
(45)【発行日】2024-02-19
(54)【発明の名称】イオン源およびこれを備えた質量分析計
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/14 20060101AFI20240209BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240209BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240209BHJP
【FI】
H01J49/14
H01J49/04 450
H01J49/04 680
H01J49/14 500
H01J49/04 040
G01N27/62 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022569883
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2021044797
(87)【国際公開番号】W WO2022131061
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020208212
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】照井 康
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 幹太郎
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-516140(JP,A)
【文献】特表2013-541130(JP,A)
【文献】特表2017-527078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/14
H01J 49/04
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に約数~1000μL/min.の液体試料を導入し、当該液体試料を霧化する霧化器と、
霧化した前記液体試料を気化する加熱混合チャンバと、
気化した前記液体試料をイオン化するための電荷供給部と、を備え、
前記電荷供給部は前記加熱混合チャンバより陽圧であり、
気化した前記液体試料と前記電荷供給部から供給される気体状の種イオンとが前記加熱混合チャンバにて混合され、
前記加熱混合チャンバには当該加熱混合チャンバ内のガス流量調整用の補助ガスが導入可能であり、
前記加熱混合チャンバはイオン化した前記液体試料を質量分析計に導入するためのチャンバ出口を有し、
前記チャンバ出口は、質量分析計の第1細孔に接続され、
前記第1細孔は、大気側と真空側とを隔てるインターフェースである
イオン源。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン源を備え、
前記加熱混合チャンバと前記第1細孔とが接し、前記加熱混合チャンバと前記第1細孔とで伝熱可能である
質量分析計。
【請求項3】
請求項2に記載の質量分析計であって、
制御部を備え、
前記制御部は、前記補助ガスの流量を、前記霧化器に導入される前記液体試料の流量と前記電荷供給部に供給される種イオンガスの流量との和と、前記第1細孔を通過するガス流量との差分に基づいて決定する
質量分析計。
【請求項4】
請求項2に記載の質量分析計であって、
制御部と、
前記第1細孔を有する真空室の圧力を検出する圧力センサと、を備え、
前記制御部は、前記真空室の圧力に基づいて前記補助ガスの流量を制御する
質量分析計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン源およびこれを備えた質量分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法において液体試料を分析する代表的な分析装置には、液体クロマトグラフ質量分析計がある。液体クロマトグラフから送出された液体試料をイオン化し質量分析計に導入することで定性、定量測定を行う。代表的なイオン化法には大気圧イオン化法(以下APCI法)(非特許文献1)やエレクトロスプレーイオン化法(以下ESI法)(非特許文献2)がある。
【0003】
APCI法では初めに測定試料を霧化する。測定試料は数~1000μL/min.程度の溶媒とともに液体クロマトグラフから連続的に送液されるため、霧化には窒素ガス等を用いた気流支援によるスプレーを用いることが多い。その後、霧化試料を加熱することで気化し、前記気化した試料を針形状の電極で生成するコロナ放電中に導入しイオン化する。
【0004】
ESI法では、前記APCI法と同様に液体試料を気流支援によるスプレーによって霧化し、霧化器に高電圧を印加、霧を帯電液滴とする。もしくは測定試料自身に高電圧を印加し霧化、帯電液滴とする。帯電液滴を加熱乾燥させ帯電液滴を小型化、帯電液滴の小型化により過剰となった電荷がクーロン斥力によって、イオンが液滴から脱離しイオン化する。
【0005】
APCI法ではコロナ放電の生成に針形状電極が用いられることが多く、イオン化効率は針の先端形状や表面状態に依存する。またESIでは霧化器(液体の出口)もしくは液体試料自身に高電圧を印加することから、イオン化の状態は液体を噴出する霧化器出口の形状に依存する。そのため安定したイオン化には、APCIの針電極やESI霧化器の洗浄や交換等のメンテナンスが必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Atmospheric pressure ionization mass spectrometry. Corona discharge ion source for use in a liquid chromatograph-mass spectrometer-computer analytical system”, D. I. Carroll, I. Dzidic, R. N. Stillwell, K. D. Haegele, and E. C. Horning, Anal. Chem., 47, 2369 (1975).
【文献】“Electrospray ionization for mass spectrometry of large biomolecules” JB Fenn, M Mann, CK Meng, SF Wong, CM Whitehouse, Science, 06 Oct 1989: Vol. 246, Issue 4926, pp. 64-71
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液体クロマトグラフ質量分析計では測定のため、液体試料の霧化、霧化流体の気化、電荷の印加、質量分析計への導入が必要となる。現状ESI、APCI法では液体の霧化には気流支援によるスプレーが多く用いられている。気流支援によるスプレーとは試料液体の流れる細管の周囲に高速のガスを流し、細管の出口で液体と高速ガスを接触させることで霧化する手法である。ここではこの高速ガスを霧化ガスと呼ぶ。
【0008】
液体クロマトグラフの代表的な送液量は数~1000μL/min.であり、かつ連続的に送液される。連続送液された液体を霧化するためには、霧化ガスの流量も数L/min.程度を必要とする。また霧化後の気化では霧化流体と高温のガスを混合し測定試料および溶媒を乾燥させていた。この高温のガスも数L/min.から20L/min.程度を流しており、前記の霧化ガスと合わせて約10L/min.程度のガスが、測定試料の霧化、気化には必要となっていた。
【0009】
液体試料の気化後の流量が約1mL/minとすると、霧化ガス量は10L/min.であることから約10,000倍の体積の気体と混合する状態になる。そのため試料液体の霧化時、測定試料自身が霧化ガスによって希釈される課題があった。
【0010】
さらに数~1000μL/min.で連続送液される液体試料を、気流支援によるスプレーで霧化する場合、液体試料の流れる細管の周囲に流す霧化ガス速度は、音速に近い値となっており、測定試料も同様な初速度で移動していた。質量分析計では測定試料自身をイオン化し装置内に導入、電場磁場を利用してイオンを検出器まで導き検出する。液体試料の代表的なイオン化法であるESI、APCI法ではイオン化時に測定試料が希釈され、非常に高速な流体を装置導入する必要があった。結果、測定試料のごく一部が装置内に導入されることになり、感度ロスが発生していた。
【0011】
本発明の目的は、液体の測定試料から生成するイオンの装置内への導入量を安定化することが可能なイオン源およびこれを備えた質量分析計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、例えば特許請求の範囲に記載の構成を採用する。本願は上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、連続的に約数~1000μL/min.の液体試料を導入し、当該液体試料を霧化する霧化器と、霧化した前記液体試料を気化する加熱混合チャンバと、気化した前記液体試料をイオン化するための電荷供給部と、を備え、前記電荷供給部は前記加熱混合チャンバより陽圧であり、気化した前記液体試料と前記電荷供給部から供給される気体状の種イオンとが前記加熱混合チャンバにて混合され、前記加熱混合チャンバには当該加熱混合チャンバ内のガス流量調整用の補助ガスが導入可能であり、前記加熱混合チャンバはイオン化した前記液体試料を質量分析計に導入するためのチャンバ出口を有し、前記チャンバ出口は、質量分析計の第1細孔に接続され、前記第1細孔は、大気側と真空側とを隔てるインターフェースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、液体の測定試料から生成するイオンの装置内への導入量を安定化することが可能なイオン源およびこれを備えた質量分析計を提供することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例の要部に係る構成図。
図2】実施例の全体に係る概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【0016】
図1は本実施例の要部に係る構成図、図2は本実施例の全体に係る概略図である。
【0017】
液体試料を分析する代表的な分析装置には、液体クロマトグラフ質量分析計がある。測定試料は液体クロマトグラフ300によって約数~1000μL/min.の連続送液によって、霧化器100に送液される。
【0018】
霧化器100は液体試料を霧化する。代表的な霧化器としては、液体試料の流れる細管の周囲に高速ガスを流し、細管の出口で液体試料と高速ガスを接触させることで霧化する気体支援によるスプレーがある。高速ガスとしては、一般的に窒素ガスや空気が用いられる。気体支援によるスプレーに代えて、加湿器に用いられているような超音波霧化器を用いてもよい。
【0019】
霧化した測定試料流体(霧化流体)を気化するために、霧化流体を加熱混合チャンバ110に導入する。加熱混合チャンバ110は、それ自体がヒータ等により加熱されており、導入された霧化流体が加熱混合チャンバ110からの伝熱によって気化が促進される。その他の加熱方法として、加熱混合チャンバ110内に高周波加熱の電場を生成し霧化流体を加熱してもよく、赤外線を発生する光源により加熱してもよい。
【0020】
電荷供給部120は加熱混合チャンバ110内で気化した測定試料流体(気化流体)に電荷を印加するための種イオンを生成する。電荷供給部120は、気化流体が流入しないように加熱混合チャンバ110より陽圧(高圧)とする。具体的には電荷供給部120に種イオン生成を行う種イオンガス122を供給し、電荷供給部120から加熱混合チャンバ110へのガス流れを発生させる。
【0021】
種イオンガス122は、空気,窒素,He,Ne,Ar,Xeもしくはそれらの混合ガスである。電荷供給部120は、APCIの針電極によるコロナ放電中に種イオンガス122を導入する手段や、種イオンガス122を用いたプラズマ放電により種イオンを生成する。
【0022】
気化試料と種イオンが加熱混合チャンバ110内で混合されることで、測定試料がイオン化される。電荷供給部120は加熱混合チャンバ110より陽圧となっているため、測定試料由来の流体が電荷供給部120に流入することが無く、測定試料由来の汚染を防ぐことができる。また、霧化器100は霧化のみの機能となり、電荷供給部120は電荷供給のみの機能となることから、測定安定性が向上する。
【0023】
イオン化した測定試料は第1細孔140と呼ばれる孔を通り、質量分析計内に導入される。加熱混合チャンバ110は第1細孔140と接しており、伝熱により第1細孔140との温度差を低減する。
【0024】
質量分析計では第1細孔140が大気と真空とを隔てるインターフェースとなっている。第1細孔140のある質量分析計内の部屋(第1細孔140を有する真空室)は、真空ポンプ310に接続されており、第1細孔140の面積、長さと、真空ポンプ310の排気速度とによって、質量分析計へのガス導入150の量が決定する。そのため、霧化器100からのガス供給量と電荷供給部120からのガス供給量との総和による測定気体の質量分析計へのガス供給量と、真空ポンプ310による質量分析計へのガス導入150の量とが異なる場合がある。
【0025】
測定気体の質量分析計へのガス供給量と、質量分析計へのガス導入150の量とを調整するために、補助ガス130を加熱混合チャンバに供給する。補助ガス130は空気,窒素,He,Ne,Ar,Xeもしくはそれらの混合ガスである。補助ガス130の流量は、導入している液体流量と種イオンガス122の流量との和と、第1細孔140を通過するガス流量との差分から決定してもよいし、第1細孔140を有する真空室の圧力に基づいて決定してもよい。第1細孔140を有する真空室の圧力は、例えばその真空室に設けた圧力計160にて検出する。補助ガス130を供給することにより、装置環境条件に影響されにくいイオン化が実現する。
【0026】
このように、霧化器100、加熱混合チャンバ110、電荷供給部120を備えるイオン源200によってイオン化した測定試料を質量分析計に導入し、質量分析計の検出部によって測定する。上述の各制御は単一の制御部400によって行われてもよいし、各々担当する機構の異なる複数の制御部によって行われてもよい。また、制御部は質量分析計に組み込まれていてもよいし、外部の制御装置であってもよい。
【0027】
上述のごとく、従来、液体試料の代表的なイオン化法であるESI、APCI法ではイオン化時に測定試料が希釈され、非常に高速な流体を装置導入する必要があった。結果、測定試料のごく一部が装置内に導入されることになり、感度ロスが発生していた。
【0028】
また、APCI法は霧化した測定試料を加熱乾燥後、針形状の電極にて生成するコロナ放電中に導入しイオン化する。コロナ放電の状態は針電極の先端の形状、汚れに大きく依存する。またコロナ放電が針電極の先端近傍に発生することから、霧化した測定試料を、針電極に衝突させてイオン化していた。そのため測定試料自身によって針電極先端が汚れ、ユーザーは頻繁に針電極の洗浄、もしくは交換をする必要があった。
【0029】
ESI法では液体試料に電荷を印加するために、液体試料自身もしくは霧化器に数kV程度の高電圧を印加していた。そのため霧化器出口において、測定試料の霧化と高電圧印加が行われていた。そのため例えば測定試料中の塩等が原因で、霧化器先端探形状が変化すると測定試料への高電圧の印加状態が変わり、イオン強度が変化する場合があった。前記の塩が霧化器先端から外れるとイオン強度が戻る場合もあり、測定再現性の低下の原因になっていた。
【0030】
本発明は、連続的に液体試料を導入し、液体試料を霧化する霧化器と、霧化した液体試料を気化する加熱混合チャンバを具備し、気化した試料をイオン化するための電荷供給部を陽圧にすることで前記液体試料から発生する流体と接することなく、前記気化した試料と電荷供給部から供給される気体状の種イオンを前記加熱混合チャンバにて混合し、加熱混合チャンバには加熱混合チャンバ内のガス流量調整用の補助ガスが導入可能であり、加熱混合チャンバはイオン化した試料を質量分析計に導入するチャンバ出口を持ち、チャンバ出口は、質量分析計の第1細孔に接続することによってイオン化した試料液滴を質量分析に導入する。
【0031】
これにより、イオン化するための電荷供給部を、液体試料を霧化後に気化した流体のガス圧力より陽圧とすることで、測定試料由来の塩や残存液体等が電荷供給部に接触しないため、イオン化に必要となる種イオンが安定的に供給可能となる。結果として、霧化器と電荷供給部が分離されることで、霧化器では液体試料の霧化機能のみ、電荷供給部では測定試料への電荷供給のみの機能となり、試料由来の流体による電荷供給部への影響が低減され、部品の洗浄や交換等のメンテナンス頻度を下げることができる。また、補助ガスの導入により、装置環境条件による測定試料のイオン化影響が低減され、目的とする測定種のイオン化を安定させることができる。
【0032】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0033】
100:霧化器、110:加熱混合チャンバ、120:電荷供給部、122:種イオンガス、130:補助ガス、140:第1細孔、150:質量分析計へのガス導入、160:圧力計、200:イオン源、300:液体クロマトグラフ、310:ポンプ、400:制御部
図1
図2