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特許7433663異材固相接合方法、異材固相接合構造物及び異材固相接合装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】異材固相接合方法、異材固相接合構造物及び異材固相接合装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20240213BHJP
   B23K 20/12 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B23K20/00 310A
B23K20/00 310B
B23K20/00 310M
B23K20/00 310P
B23K20/00 310G
B23K20/00 310H
B23K20/00 310K
B23K20/12 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021555996
(86)(22)【出願日】2020-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2020040395
(87)【国際公開番号】W WO2021095528
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019204361
(32)【優先日】2019-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構革新的新構造材料等研究開発のうち摩擦接合共通基盤研究に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】青木 祥宏
(72)【発明者】
【氏名】釜井 正善
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-166089(JP,A)
【文献】特開2012-200744(JP,A)
【文献】特開平05-318144(JP,A)
【文献】特開平11-176268(JP,A)
【文献】特開2018-122344(JP,A)
【文献】特開2014-46803(JP,A)
【文献】特開2012-25179(JP,A)
【文献】特開昭61-147980(JP,A)
【文献】特開昭60-87986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材と他方の部材とを接合する固相接合方法であって、
前記一方の部材と前記他方の部材とは組成が異なり、
前記一方の部材と前記他方の部材とをインサート材を介して当接させ、前記一方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(1)と、前記他方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(2)と、を形成し、
前記一方の部材及び前記他方の部材と前記インサート材との摺動による摩擦熱、及び/又は通電加熱によって、前記被接合界面(1)及び前記被接合界面(2)を昇温し、
前記被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、
前記被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、
前記接合圧力(1)と前記接合圧力(2)を異なる値に設定すること、
を特徴とする異材固相接合方法。
【請求項2】
前記インサート材と前記一方の部材とが略同一の強度となる温度(1)が存在し、
前記インサート材と前記他方の部材とが略同一の強度となる温度(2)が存在し、
前記温度(1)と前記温度(2)とが異なる値であること、
を特徴とする請求項1に記載の異材固相接合方法。
【請求項3】
前記接合圧力(1)を前記温度(1)における前記インサート材及び前記一方の部材の降伏応力以上引張強度以下の値とし、
前記接合圧力(2)を前記温度(2)における前記インサート材及び前記他方の部材の降伏強度以上引張強度以下の値とすること、
を特徴とする請求項に記載の異材固相接合方法。
【請求項4】
前記インサート材の直線移動又は回転によって前記摩擦熱を発生させること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の異材固相接合方法。
【請求項5】
前記一方の部材をアルミニウム合金部材とし、
前記他方の部材を鉄系金属部材、銅系金属部材又はチタン系部材とすること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の異材固相接合方法。
【請求項6】
一方の部材と他方の部材とを接合する固相接合装置であって、
前記一方の部材と前記他方の部材とをインサート材を介して当接させ、前記一方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(1)と、前記他方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(2)と、を形成する把持機構と、
前記一方の部材と前記他方の部材との間で前記インサート材を直線移動又は回転させる摺動機構、及び/又は前記インサート材に当接した状態で前記一方の部材及び前記他方の部材を直線移動又は回転させる摺動機構、及び/又は前記被接合界面(1)及び前記被接合界面(2)を通電加熱する通電加熱機構と、
前記被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、前記被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、前記接合圧力(1)と前記接合圧力(2)を異なる値に設定することが可能な押圧機構と、を具備すること、
を特徴とする異材固相接合装置。
【請求項7】
前記インサート材と前記一方の部材とが略同一の強度となる温度(1)が存在し、前記インサート材と前記他方の部材とが略同一の強度となる温度(2)が存在する場合において、
前記温度(1)における前記インサート材及び前記一方の部材の降伏応力以上引張強度以下の値を、前記接合圧力(1)として前記被接合界面(1)に印加することができ、
前記温度(2)における前記インサート材及び前記他方の部材の降伏強度以上引張強度以下の値を、前記接合圧力(2)として前記被接合界面(2)に印加することができること、
を特徴とする請求項に記載の異材固相接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材同士を固相接合する異材固相接合方法、当該異材固相接合方法によって得られる異材固相接合構造物及び当該異材固相接合方法に用いる異材固相接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼やアルミニウム合金等の金属材料の高強度化に伴い、接合構造物の機械的特性を決定する接合部での強度低下が深刻な問題となっている。これに対し、近年、接合中の最高到達温度が被接合材の融点に達せず、接合部における強度低下が従来の溶融溶接と比較して小さい固相接合法が注目され、急速に実用化が進んでいる。
【0003】
特に、回転する円柱状の被接合材を固定された被接合材に押し当てて接合する「摩擦圧接」及び被接合材を当接させた状態で往復運動させて接合する「線形摩擦接合」は、摩擦攪拌接合のように被接合材に圧入するツールを必要としないことから、鋼やチタンのような高融点・高強度金属に対しても容易に適用することができる。
【0004】
加えて、本発明者は接合時の印加圧力で接合温度を正確に制御できる接合方法を提案し、接合温度の大幅な低温化にも成功している。例えば、特許文献1(国際公開第2017/022184号)では、2つの金属製被接合材の被接合面同士を当接させた状態で摺動させる摩擦接合方法であって、前記金属製被接合材の少なくとも一方を鉄系材とし、接合中の最高到達温度を前記鉄系材のA3点以下又はAcm点以下とすること、を特徴とする摩擦接合方法、を開示している。
【0005】
従来の摩擦接合は摩擦熱を利用した接合方法であるが、上記特許文献1に記載の摩擦接合方法においては、金属製被接合材の塑性変形に起因する加工発熱を積極的に活用することで、低い接合温度においても良好な継手を得ることができる。
【0006】
また、特許文献2(特開2018-122344号公報)では、一方の部材を他方の部材に当接させて被接合界面を形成する第一工程と、被接合界面に対して略垂直に圧力を印加した状態で、一方の部材と他方の部材とを同一軌跡上で繰り返し摺動させ、被接合界面からバリを排出させる第二工程と、摺動を停止して接合面を形成する第三工程と、を有し、圧力を、所望する接合温度における一方の部材及び/又は他方の部材の降伏応力以上かつ引張強度以下に設定すること、を特徴とする線形摩擦接合方法、を開示している。
【0007】
上記特許文献2に記載の線形摩擦接合方法においては、降伏強度と温度の関係は材料によって略一定であることを利用し、被接合界面からバリを排出させるための印加圧力によって、極めて正確に接合温度を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2017/022184号
【文献】特開2018-122344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、各種物性が異なることに加えて接合界面に脆弱な金属間化合物を形成する場合が多い異材接合については適当な接合方法が確立されておらず、接合温度の制御及び低温化が可能な固相接合方法のメリットを十分に享受できていない。また、接合界面に金属間化合物を形成しない場合であっても、例えば、異なる組成の鋼材を接合する場合のように、固相接合中における被接合界面近傍の変形挙動が異なる場合は、固相接合によって良好な継手を得ることが困難である。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、組成の異なる金属材の強固な接合部を効率的に形成することができる異材固相接合を提供することにある。また、本発明は、組成の異なる金属材が強固に接合された異材固相接合部を有する異材固相接合構造物及び当該異材固相接合構造物を得るための異材固相接合装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく、異材固相接合中の被接合界面近傍における被接合材の変形挙動等について鋭意研究を重ねた結果、被接合界面にインサート材を配置し、接合圧力の設定によって、インサート材と一方の被接合材の界面及びインサート材と他方の被接合材の界面において、個別の接合圧力を設定することで接合温度をそれぞれ制御し、インサート材を介して組成の異なる被接合材を強固に接合することが極めて重要であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
一方の部材と他方の部材とを接合する固相接合方法であって、
前記一方の部材と前記他方の部材とは組成が異なり、
前記一方の部材と前記他方の部材とをインサート材を介して当接させ、前記一方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(1)と、前記他方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(2)と、を形成し、
前記一方の部材及び前記他方の部材と前記インサート材との摺動による摩擦熱、及び/又は通電加熱によって、前記被接合界面(1)及び前記被接合界面(2)を昇温し、
前記被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、
前記被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、
前記接合圧力(1)と前記接合圧力(2)を異なる値に設定すること、
を特徴とする異材固相接合方法、を提供する。
【0013】
本発明の異材固相接合方法では、組成が異なる一方の部材と他方の部材とを接合するが、例えば、鋼部材とチタン合金部材のように主元素が異なる場合だけでなく、異なる組成の鋼部材のように、主元素が同一で添加元素が異なる組合せにも適用することができる。
【0014】
本発明の異材固相接合方法は、組成の異なる部材を、インサート材を介して接合する方法であり、インサート材が一方の部材及び他方の部材と「略同一の強度となる温度」を有することが好ましい。金属材料の強度は温度に依存するところ、インサート材と一方の部材の強度、及びインサート材と他方の部材の強度が略同一となる温度において固相接合を施すことによって、被接合界面(1)及び被接合界面(2)でインサート材と各部材を変形させることで、インサート材と各部材の被接合面に新生面が形成され、当該新生面同士が当接することによる良好な接合部を得ることができる。なお、略同一の強度とは、完全に強度を同一とすることを意味するものではなく、被接合界面における新生面の形成が同程度に進行する強度範囲であればよい。よって、「略同一の強度」は、数十MPa程度の差は許容される。
【0015】
本発明の異材固相接合方法では接合温度を正確に制御する必要があるが、被接合界面に対して略垂直に印加される接合荷重を適当に設定することで、当該目的を達成することができる。例えば、線形摩擦接合の場合では、線形摩擦接合の印加圧力を増加させると当該摩擦熱は増加するが、軟化した材料はバリとなって連続的に排出されるため、軟化した材料に印加される圧力(バリを排出する力)によって「接合温度」が決定される。つまり、印加圧力を高く設定した場合、より高い強度(降伏強度が高い状態)の被接合材をバリとして排出することができる。ここで、「より降伏強度が高い状態」とは、「より低温の状態」を意味していることから、印加圧力の増加によって「接合温度」が低下することになる。降伏強度と温度の関係は材料によって略一定であることから、極めて正確に接合温度を制御することができる。
【0016】
通電加熱によって被接合界面(1)及び被接合界面(2)を昇温する場合であっても、接合圧力による接合温度の制御は同様に達成することができ、印加される接合圧力によって軟化した材料はバリとなって連続的に排出されるため、軟化した材料に印加される圧力(バリを排出する力)によって「接合温度」が決定される。なお、通電加熱を用いる場合、金属の電気抵抗に影響されるため、必ずしも同じ温度でなくてもよい。
【0017】
ここで、本発明の効果を損なわない限り被接合界面近傍を昇温する方法は特に限定されず、従来公知の種々の昇温方法(接合方法)を用いることができる。例えば、回転する円柱状の被接合材を固定された被接合材に押し当てて接合する「摩擦圧接」及び被接合材を当接させた状態で往復運動させて接合する「線形摩擦接合」に加えて、通電加熱、高周波加熱、レーザ加熱及び火炎加熱等あるいはこれらの組合せを用いてもよい。また、一方の部材と他方の部材とをインサート材を介して当接させた状態で、インサート材を移動(摺動)させてもよく、一方の部材及び他方の部材を移動(摺動)させてもよい。更に、摩擦圧接を用いて一方の部材と他方の部材とを回転させる場合、当該一方の部材と当該他方の部材を逆方向に回転させてもよい。
【0018】
また、本発明の異材固相接合方法においては、前記インサート材と前記一方の部材とが略同一の強度となる温度(1)が存在し、前記インサート材と前記他方の部材とが略同一の強度となる温度(2)が存在し、前記温度(1)と前記温度(2)とが異なる値であること、が好ましい。一方の部材と他方の部材の組成が異なる場合、インサート材と各部材の強度が略同一となる温度は異なることから、接合圧力(1)と接合圧力(2)は異なる値に設定することになる。ここで、接合温度を温度(1)及び/又は温度(2)とすることが好ましいが、必ずしも同一の値とする必要はなく、被接合界面にインサート材と被接合材の新生面が形成されれば、接合を達成することができる。また、接合温度に及ぼす被接合材とインサート材の大きさの影響についても留意することが好ましい。
【0019】
本発明の異材固相接合方法の最大の特徴は、一方の部材とインサート材とが当接した被接合界面(1)及び、他方の部材とインサート材とが当接した被接合界面(2)のそれぞれに対して略垂直に接合圧力(接合圧力(1)及び接合圧力(2))を印加し、接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる値に設定することにある。接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる圧力に設定することで、各被接合界面において新生面同士の接合に適した接合温度をそれぞれ実現することができる。
【0020】
また、本発明の異材固相接合方法においては、前記接合圧力(1)を前記温度(1)における前記インサート材及び前記一方の部材の降伏応力以上引張強度以下の値とし、前記接合圧力(2)を前記温度(2)における前記インサート材及び前記他方の部材の降伏強度以上引張強度以下の値とすること、が好ましい。固相接合時の圧力を被接合材の降伏応力以上とすることで被接合界面からのバリの排出が開始され、引張強度までの間で当該圧力を増加させると、バリの排出が加速されることになる。降伏応力と同様に、特定の温度における引張強度も被接合材によって略一定であることから、設定した圧力に対応する接合温度を実現することができる。
【0021】
また、本発明の異材固相接合においては、一方の部材、他方の部材及びインサート材の組合せによって、基本的に接合温度が決定されるが、被接合材として鉄系金属を用いる場合、接合温度は当該鉄系金属のA点以下とすることが好ましい。鉄系金属では相変態によって脆いマルテンサイトが形成し、接合が困難な場合及び接合部が脆化してしまう場合が存在する。これに対し、接合温度をA点以下とすることで、相変態が生じないことから、脆いマルテンサイトの形成を完全に抑制することができる。また、被接合材としてチタン合金を用いる場合は、接合温度を当該チタン合金のβトランザス温度以下とすることが好ましい。接合温度をβトランザス温度以下とすることで、等軸状の微細な再結晶粒組織からなる良好な接合部を得ることができる。更に、被接合材としてニッケル基超合金を用いる場合は、継手の強度低下を抑制することができる。
【0022】
また、本発明の異材固相接合においては、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材に外部冷却及び/又は外部加熱を施すことで、前記接合温度を調節してもよい。外部冷却及び/又は外部加熱を用いることで、被接合界面近傍における一方の部材と他方の部材の変形及び/又はバリの排出を制御することができる。
【0023】
また、本発明の異材固相接合方法においては、前記一方の部材をアルミニウム合金部材とし、前記他方の部材を鉄系金属部材、銅系金属部材又はチタン系金属部材とすること、が好ましい。アルミニウム合金とこれらの金属部材の接合界面には脆弱な金属間化合物層が形成されやすく、高い機械的性質を有する継手を得ることは極めて困難である。また、被接合材に強度差が存在する場合、強度の弱い被接合材が一方的に変形し、強度の強い被接合材の新生面を形成することが困難である。これに対し、本発明の異材固相接合方法ではアルミニウム合金とインサート材、及び鉄系金属(銅系金属、チタン系金属)とインサート材を、それぞれ新生面同士の当接によって固相接合できることから、新生面同士の接合が達成されるだけでなく、金属間化合物の形成が抑制された良好な継手を得ることができる。なお、本発明において鉄系金属とは、組成において鉄を主とする金属を意味し、例えば、種々の鋼や鋳鉄等が含まれる。また、本発明において銅系金属とは、組成において銅を主とする金属を意味し、チタン系金属とは、組成においてチタンを主とする金属を意味する。
【0024】
また、本発明は、
一方の部材と他方の部材がインサート材を介して一体となった固相接合部を有し、
前記一方の部材と前記他方の部材の少なくとも一方が、前記インサート材とは異なる組成を有し、
前記一方の部材と前記インサート材とが当接した接合界面(1)において、前記一方の部材と前記インサート材とが共に変形し、
前記他方の部材と前記インサート材とが当接した接合界面(2)において、前記他方の部材と前記インサート材とが共に変形していること、
を特徴とする異材固相接合構造物、も提供する。
【0025】
本発明の異材固相接合構造物においては、一方の部材とインサート材とが当接した接合界面(1)において、一方の部材とインサート材とが共に変形し、他方の部材とインサート材とが当接した接合界面(2)において、他方の部材とインサート材とが共に変形している。これは、接合界面(1)及び接合界面(2)において、変形によって生成するインサート材の新生面と各部材の新生面が当接し、良好な接合界面が形成されていることを意味している。ここで、「変形」にはバリの形成や塑性変形等が含まれるが、本発明における「変形」は、接合界面において新生面の形成を伴うものを意味する。
【0026】
一方の部材、他方の部材及びインサート材の変形の程度は、新生面同士の当接による接合が達成される限りにおいて特に限定されないが、新生面同士の当接による接合が被接合面の全域において達成されることが好ましい。新生面同士の当接による接合を被接合面の全域において達成するためには、バリとして排出される部分を含めて、変形後の被接合面の面積が元の面積の2倍以上となるようにすることが好ましい。
【0027】
また、本発明の異材固相接合構造物においては、前記一方の部材がアルミニウム合金部材であり、前記他方の部材が鉄系金属部材、銅系金属部材又はチタン系部材であること、が好ましい。アルミニウム合金とこれらの金属の接合界面には脆弱な金属間化合物層が形成されやすく、高い機械的性質を有する継手を得ることは極めて困難である。これに対し、本発明の異材固相接合方法ではアルミニウム合金とインサート材、及び各種金属とインサート材を、それぞれ新生面同士の当接によって固相接合できることから、金属間化合物の形成が抑制された良好な継手を得ることができる。
【0028】
また、本発明の異材固相接合構造物においては、前記接合界面(1)及び前記接合界面(2)における金属間化合物層の厚さが1μm未満であること、が好ましい。接合界面に厚い金属間化合物層が形成される場合は、引張強度や靭性等の継手の機械的性質が著しく低下することが知られているが、本発明の異材固相接合構造物においては、接合界面(1)及び接合界面(2)の両方において、金属間化合物層の厚さが1μm未満となっていることから、高い機械的性質を担保することができる。
【0029】
ここで、接合界面(1)及び接合界面(2)における金属間化合物層の厚さは、固相接合界面の全域において500nm未満となっていることが好ましく、300nm未満となっていることがより好ましく、100nm未満となっていることが最も好ましい。固相接合界面の全域において薄い金属間化合物層が形成する結果、固相接合界面は高い強度を有し、接合部は優れた機械的性質(強度及び靭性等)を示すことができる。
【0030】
また、本発明の異材接合構造物においては、固相接合界面に再結晶粒が含まれることが好ましい。接合界面近傍の組織が微細等軸の再結晶粒となることで、強度、靱性、信頼性等の機械的特性に優れた接合部とすることができる。
【0031】
本発明の異材固相接合構造物は、本発明の異材固相接合方法を用いて好適に得ることができる。
【0032】
更に、本発明は、
一方の部材と他方の部材とを接合する固相接合装置であって、
前記一方の部材と前記他方の部材とをインサート材を介して当接させ、前記一方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(1)と、前記他方の部材と前記インサート材とが当接した被接合界面(2)と、を形成する把持機構と、
前記一方の部材と前記他方の部材との間で前記インサート材を直線移動又は回転させる摺動機構、及び/又は前記インサート材に当接した状態で前記一方の部材及び前記他方の部材を直線移動又は回転させる摺動機構、及び/又は前記被接合界面(1)及び前記被接合界面(2)を通電加熱する通電加熱機構と、
前記被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、前記被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、前記接合圧力(1)と前記接合圧力(2)を異なる値に設定することが可能な押圧機構と、を具備すること、
を特徴とする異材固相接合装置、も提供する。
【0033】
本発明の異材固相接合装置は、本発明の異材固相接合方法によって本発明の異材固相接合構造物を得るために、好適に用いることができる装置である。本発明の異材固相接合装置においては、「把持機構」、「摺動機構及び/又は通電加熱機構」及び「押圧機構」が必須であるが、押圧機構において接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる値に設定できることを最大の特徴としている。
【0034】
接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる値に設定する具体的な方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、インサート材を被接合材(一方の部材及び他方の部材)とは異なる基準部位に固定し、独立に固定されたインサート材の両面から異なる接合圧力を印加すればよい。また、インサート材を固定した部位に別途押圧機構を設けてもよい。
【0035】
より具体的には、例えば、従来一般的な線形摩擦接合装置においては、一方の部材を固定し、当該一方の部材に他方の部材を当接させ、接合圧力を印加すると共に他方の部材を加振する単純な構造となっている。これに対し、本発明の異材固相接合装置においては、例えば、インサート材を加振部に連結し、インサート材の左右から異なる接合圧力を印加すればよい。
【0036】
また、本発明の異材固相接合装置においては、
前記インサート材と前記一方の部材とが略同一の強度となる温度(1)が存在し、前記インサート材と前記他方の部材とが略同一の強度となる温度(2)が存在する場合において、
前記温度(1)における前記インサート材及び前記一方の部材の降伏応力以上引張強度以下の値を、前記接合圧力(1)として前記被接合界面(1)に印加することができ、
前記温度(2)における前記インサート材及び前記他方の部材の降伏強度以上引張強度以下の値を、前記接合圧力(2)として前記被接合界面(2)に印加することができること、
が好ましい。
【0037】
固相接合時の圧力を被接合材の降伏応力以上とすることで被接合界面からのバリの排出が開始され、引張強度までの間で当該圧力を増加させると、バリの排出が加速されることになる。降伏応力と同様に、特定の温度における引張強度も被接合材によって略一定であることから、設定した圧力に対応する接合温度を実現することができる。本発明の効果を損なわない限りにおいて、接合圧力の印加方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができる。
【0038】
更に、本発明の異材固相接合装置においては、接合中の被接合界面(1)近傍及び被接合界面(2)近傍の温度、及び接合荷重を計測し、得られた実測温度と接合条件から予測される接合温度を比較し、実測温度が予測接合温度よりも高い場合は接合荷重を増加させ、実測温度が接合温度よりも低い場合は接合荷重を低下させること、が好ましい。当該フィードバック機構を有することで、より正確に接合温度を制御することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、組成の異なる金属材の強固な接合部を効率的に形成することができる異材固相接合を提供することができる。また、本発明によれば、組成の異なる金属材が強固に接合された異材固相接合部を有する異材固相接合構造物及び当該異材固相接合構造物を得るための異材固相接合装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】一般的な線形摩擦接合中の状況を示す模式図である。
図2】本発明の異材固相接合方法の接合中の状況及び接合温度の関係を示す模式図である。
図3】被接合材及びインサート材の強度の温度依存性の一例である。
図4】異材固相接合方法(線形摩擦接合を用いた場合)の接合工程を示す模式図である。
図5】本発明の異材接合構造物の一例を示す概略断面図である。
図6】線形摩擦接合の原理を用いた異材固相接合装置の概略図である。
図7】摩擦圧接の原理を用いた異材固相接合装置の概略図である。
図8】実施例で用いた異材固相接合装置の外観写真である。
図9】実施例で用いた被接合材とインサート材の強度の温度依存性を示す模式図である。
図10】アルミニウム合金材/純ニッケル材界面近傍の外観写真である。
図11】炭素鋼材/純ニッケル材界面近傍の外観写真である。
図12】アルミニウム合金材/純ニッケル材界面のSEM写真である。
図13】炭素鋼材/純ニッケル材界面のSEM写真である。
図14】チタン合金材/ステンレス鋼材接合界面のSEM写真である。
図15】引張試験後の引張試験片の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を参照しながら本発明の異材固相接合方法、異材固相接合構造物及び異材固相接合装置の代表的な実施形態について、主として線形摩擦接合を代表例として詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0042】
(1)異材固相接合方法
図1に一般的な線形摩擦接合中の状況を示す模式図を示す。線形摩擦接合は被接合材同士を線形運動で擦りあわせた際に生じる摩擦熱を主な熱源とする固相接合である。従来の線形摩擦接合においては、昇温によって軟化した材料を被接合界面からバリとして排出することで、被接合界面に形成していた酸化被膜を除去し、新生面同士を当接させることで接合部が得られるとされている。
【0043】
本発明の異材固相接合方法の接合中の状況及び接合温度の関係を模式的に図2に示す。本発明の異材固相接合方法においては、組成が異なる一方の部材2と他方の部材4とをインサート材6を介して当接させ、一方の部材2とインサート材6とが当接した被接合界面(1)と、他方の部材4とインサート材6とが当接した被接合界面(2)と、が形成されている。
【0044】
当該状態において、線形摩擦接合の原理を用いる場合は、インサート材6を上下に繰り返し摺動させることによって、被接合界面(1)及び被接合界面(2)に摩擦熱を発生させる。なお、摩擦圧接の原理を用いる場合はインサート材6を回転させて摩擦熱を発生させ、通電加熱の原理を用いる場合は被接合界面(1)及び被接合界面(2)に略垂直方向に通電し、ジュール熱を発生させればよい。
【0045】
ここで、被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる値に設定する。図2の上側に示されたグラフは、一方の部材2、他方の部材4及びインサート材6の強度の温度依存性を模式的に示したものである。一方の部材2及び他方の部材4が図2に示すような強度の温度依存性を有する場合、一方の部材2及び他方の部材4の強度が同一となる温度は存在しないことから、被接合界面において一方の部材2及び他方の部材4を同程度変形させることはできない。これに対し、図2に示すような強度の温度依存性を有するインサート材6を用いることで、被接合界面(1)及び被接合界面(2)において、新生面同士が当接することによる良好な継手を得ることができる。
【0046】
より具体的には、インサート材6の強度の温度依存性を示す線は、一方の部材2の強度の温度依存性を示す線及び他方の部材4の強度の温度依存性を示す線と共に交点を有している。ここで、被接合界面(1)においては一方の部材2とインサート材6との交点に対応する接合圧力(1)を、被接合界面(2)においては他方の部材4とインサート材6の交点に対応する接合圧力(2)を設定すればよい。
【0047】
なお、図2に示す強度の温度依存性の関係は一例であり、例えば、図3に示すような強度の温度依存性を有する被接合材及びインサート材6の組合せを用いてもよい。インサート材6は一方の部材2及び他方の部材4と「交点」を有していればよく、従来公知の種々の金属材から選定することができる。なお、この限りではないが、一般的にはbcc結晶構造を有する金属は強度の温度依存性が小さいものが多く、fcc結晶構造を有する金属同士を接合する際のインサート材の候補となる。一方で、bcc結晶構造を有する金属同士を接合する場合は、fcc結晶構造を有する金属がインサート材の候補となる。
【0048】
また、インサート材6の形状及びサイズは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、接合装置への固定のし易さ、摺動のし易さ(摩擦発熱を活用する場合)、継手の特性、及び材料コスト等を勘案して、適宜決定すればよい。ここで、インサート材6は薄い方が継手特性に対するインサート材6の影響を低減することができるが、薄過ぎると接合行程において変形する場合があることから、これらのバランスを考慮することが好ましい。また、インサート材6の強度が一方の部材2及び/又は他方の部材4よりも低い場合であっても、インサート材6の厚さを調整することにより、塑性拘束現象を利用して接合部の強度低下を抑制することができる。
【0049】
図4は異材固相接合方法(線形摩擦接合を用いた場合)の接合工程を示す模式図である。線形摩擦接合を用いる場合は、一方の部材2と他方の部材4とをインサート材6を介して当接させ、一方の部材2とインサート材6とが当接した被接合界面(1)と、他方の部材4とインサート材6とが当接した被接合界面(2)と、を形成する第一工程と、被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる値に設定し、一方の部材2及び他方の部材4とインサート材6との摺動によって摩擦熱を発生させ、被接合界面(1)及び被接合界面(2)を昇温し、摺動の方向と略平行及び略垂直に被接合界面からバリ8を排出させる第二工程と、摺動を停止して接合面を形成する第三工程と、を有している。接合温度は、被接合界面に対して略垂直に印加する接合荷重によって正確に制御することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0050】
(1-1)第一工程
第一工程は、一方の部材2と他方の部材4とをインサート材6を介して当接させ、一方の部材2とインサート材6とが当接した被接合界面(1)と、他方の部材4とインサート材6とが当接した被接合界面(2)と、を形成する工程である。接合部の形成を所望する箇所に一方の部材2及び/又は他方の部材4を移動させ、インサート材6を介して被接合面を当接させ、被接合界面10を形成する。
【0051】
一方の部材2及び他方の部材4の形状及びサイズは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、インサート材6の摺動や通電加熱等によって、被接合界面10近傍を昇温できるものであればよい。ここで、線形摩擦接合を用いる場合は、被接合界面10を正方形又は長方形とすることが好ましい。被接合界面10を正方形又は長方形とすることで、バリ8の排出状況を指標にして接合(摺動)を停止するタイミングを決定することができる。
【0052】
(1-2)第二工程
第二工程は、被接合界面(1)に対して略垂直に接合圧力(1)を印加し、被接合界面(2)に対して略垂直に接合圧力(2)を印加し、接合圧力(1)と接合圧力(2)を異なる値に設定し、一方の部材2及び他方の部材4とインサート材6との摺動によって摩擦熱を発生させ、被接合界面(1)及び被接合界面(2)を昇温し、摺動の方向と略平行及び略垂直に被接合界面からバリ8を排出させる工程である。
【0053】
一方の部材2と他方の部材4との間でインサート材6を同一軌跡上で繰り返し摺動させる方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができる。ここで、インサート材6を線形に摺動させる場合は、従来公知の種々の線形摩擦接合方法を用いればよく、インサート材6を回転させて摺動させる場合は、従来公知の種々の摩擦圧接方法を用いればよい。
【0054】
ここで、本発明の異材固相接合方法においては、インサート材6と一方の部材2とが略同一の強度となる温度(1)が存在し、インサート材6と他方の部材4とが略同一の強度となる温度(2)が存在し、温度(1)と温度(2)とが異なる値であること、が好ましい。一方の部材2と他方の部材4の組成が異なる場合、インサート材6と各部材の強度が略同一となる温度は異なることから、接合圧力(1)と接合圧力(2)は異なる値に設定することになる。
【0055】
また、接合圧力(1)を温度(1)におけるインサート材6及び一方の部材2の降伏応力以上引張強度以下の値とし、接合圧力(2)を温度(2)におけるインサート材6及び他方の部材4の降伏強度以上引張強度以下の値とすること、が好ましい。固相接合時の圧力を被接合材の降伏応力以上とすることで被接合界面10からのバリ8の排出が開始され、引張強度までの間で当該圧力を増加させると、バリ8の排出が加速されることになる。降伏応力と同様に、特定の温度における引張強度も被接合材によって略一定であることから、設定した圧力に対応する接合温度を実現することができる。
【0056】
被接合界面6で両方の部材が変形し、両方の部材の被接合面に新生面が形成されることで、当該新生面同士が当接することによる良好な接合部を得ることができる。ここで、一方の部材2と他方の部材4では強度の温度依存性が異なることから、被接合界面10近傍での変形挙動及びバリ8の排出状況も異なるが、当該変形及びバリの排出によって、被接合界面10に新生面が形成されればよい。
【0057】
本発明の異材固相接合方法においては、圧力以外の接合パラメータも設定する必要があるが、本発明の効果を損なわない限りにおいてこれらの値は制限されず、被接合材の材質、形状及びサイズ等によって適宜設定すればよい。圧力以外の代表的な接合パラメータとしては、線形摩擦接合の場合はインサート材6を加振する周波数及び振幅、接合時間及び寄り代等、摩擦圧接の場合はインサート材6の回転速度、接合時間及び寄り代等、通電加熱を用いる場合は電流値、接合時間及び寄り代等を挙げることができる。
【0058】
(1-3)第三工程
第三工程は、第二工程における摺動を停止して接合面を形成する工程である。被接合界面10の全面からバリ8が排出された後に摺動を停止させることで、良好な接合体を得ることができる。なお、第二工程において各被接合材に印加した接合圧力(1)と接合圧力(2)はそのまま維持してもよく、バリ8を排出すると共に新生面をより強く当接させる目的で、より高い値としてもよい。
【0059】
ここで、被接合界面10の全面からバリ8が排出された後であれば摺動を停止するタイミングは限定されないが、被接合界面(1)及び被接合界面(2)において、これらの接合界面の略全域に新生面が形成されるように、一方の部材2及び他方の部材4の寄り代を設定することが好ましく、一方の部材2及び他方の部材4の両方において、被接合界面10の全域に新生面が形成されることがより好ましい。一方の部材2及び他方の部材4の新生面がインサート材6の新生面に当接することで、強固な接合部を得ることができる。ここで、両方の部材における被接合界面10の全域に新生面が形成されたタイミングで、寄り代の増加を停止することがより好ましい。当該タイミングで接合行程を終了させることで、最も効率的に被接合界面10の全域が新生面同士の当接で接合された良好な継手を得ることができる。排出されたバリ8の表面積と被接合材の変形によって増加した被接合界面10の増加分の合計が、接合前の被接合界面10の面積の略2倍となるようにすることで、被接合界面10全域に新生面を形成させることができる。
【0060】
(2)異材接合構造物
図5は、本発明の異材接合構造物の一例を示す概略断面図である。異材接合構造物20は、組成が異なる一方の部材2と他方の部材4とがインサート材6を介して一体に固相接合されたものである。接合界面(1)において一方の部材2とインサート材6が共に変形し、接合界面(2)において他方の部材4とインサート材6が共に変形していることを特徴としている。これは、接合界面(1)及び接合界面(2)において、変形によって生成するインサート材6の新生面と各部材の新生面が当接し、良好な接合界面が形成されていることを意味している。
【0061】
一方の部材2、他方の部材4及びインサート材6の変形の程度は、新生面同士の当接による接合が達成される限りにおいて特に限定されないが、新生面同士の当接による接合が被接合面の全域において達成されることが好ましい。新生面同士の当接による接合を被接合面の全域において達成するためには、バリ8として排出される部分を含めて、変形後の被接合面の面積が元の面積の2倍以上となるようにすることが好ましい。
【0062】
一方の部材2とインサート材6は固相接合界面22を介して冶金的に接合されており、他方の部材4とインサート材6は固相接合界面24を介して冶金的に接合されている。また、接合界面(1)及び接合界面(2)における金属間化合物層の厚さは1μm未満であることが好ましい。接合界面に厚い金属間化合物層が形成される場合は、引張強度や疲労強度等の継手の機械的性質が著しく低下することが知られているが、異材固相接合構造物20においては、接合界面(1)及び接合界面(2)の両方において、金属間化合物層の厚さが1μm未満となっていることから、高い機械的性質を担保することができる。
【0063】
接合界面(1)及び接合界面(2)における金属間化合物層の厚さは、固相接合界面の全域において500nm未満となっていることが好ましく、300nm未満となっていることがより好ましく、100nm未満となっていることが最も好ましい。固相接合界面(22,24)の全域において薄い金属間化合物層が形成する結果、固相接合界面(22,24)は高い強度を有し、接合部は優れた機械的性質(強度及び靭性等)を示すことができる。ここで、金属間化合物層は必ずしも観察される必要はなく、明瞭に観察されない場合は厚さが500nm未満であることを示している。
【0064】
また、異材接合構造物20においては、固相接合界面(22,24)に再結晶粒が含まれることが好ましい。接合界面近傍の組織が微細等軸の再結晶粒となることで、強度、靱性、信頼性等の機械的特性に優れた接合部とすることができる。
【0065】
また、一方の部材2はアルミニウム合金部材であり、他方の部材4は鉄系金属部材、銅系金属部材又はチタン系金属部材であることが好ましい。アルミニウム合金とこれらの金属の接合界面には脆弱な金属間化合物層が形成されやすく、高い機械的性質を有する継手を得ることは極めて困難である。これに対し、本発明の異材固相接合方法ではアルミニウム合金とインサート材6、及び各種金属とインサート材6を、それぞれ新生面同士の当接によって固相接合できることから、金属間化合物の形成が抑制された良好な継手を得ることができる。
【0066】
また、異材接合構造物20においては、一方の部材2及び/又は他方の部材4の幅(円柱の場合は直径)が10mm以上であることが好ましい。被接合材の幅が大きくなると、被接合界面における接合温度の制御が困難となり、従来の接合方法では均質な接合界面を形成させることができない。これに対し、異材接合構造物20では、幅が10mm以上(円柱の場合は直径が10mm以上)となる場合であっても、固相接合界面(22,24)の全域において金属間化合物層の厚さが1μm未満となっている。ここで、一方の部材2及び/又は他方の部材4の幅(円柱の場合は直径)は15mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましい。
【0067】
(3)異材固相接合装置
線形摩擦接合の原理を用いた異材固相接合装置の概略図を図6、摩擦圧接の原理を用いた異材固相接合装置の概略図を図7にそれぞれ示す。
【0068】
従来の線形摩擦接合装置では、固定した被接合材に振動する被接合材を当接させ、接合圧力を印加する単純な構成となっている。これに対し、図6に示す異材固相接合装置では、インサート材6が振動部に把持(固定)されており、インサート材6の左右から一方の部材2及び他方の部材4を当接させ、異なる接合圧力を印加しつつ、インサート材6を摺動させることができる機構となっている。インサート材6は一方の部材2及び他方の部材4とは異なる基準部位に独立して固定されており、インサート材6が変形等しない限りにおいて、左右からの接合圧力は容易に制御することができる。
【0069】
また、図7に示す異材固相接合装置ではインサート材6が回転軸に把持(固定)されており、インサート材6の左右から一方の部材2及び他方の部材4を当接させ、異なる接合圧力を印加しつつ、インサート材6を回転させることができる機構となっている。
【0070】
通電発熱を用いる異材固相接合装置においても、インサート材6は一方の部材2及び他方の部材4とは異なる基準部位に独立して固定されるが、インサート材6を摺動又は回転させる必要がない。一方で、被接合界面に略垂直方向に通電し、ジュール発熱によって被接合界面を昇温する機構を備える必要がある。
【0071】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0072】
≪実施例1≫
被接合材として、アルミニウム合金(A7075-T6)材及び炭素鋼(S45C)材を用いた。被接合材の寸法は共に65mmL×15mmW×3mmTであり、15mmW×3mmT面を被接合面とした。アルミニウム合金(A7075-T6)材と炭素鋼(S45C)材は強度が同一となる温度を有さない組み合わせである。
【0073】
インサート材には、寸法が30mmL×15mmW×3mmTの純ニッケル材を用い、15mmW×3mmT面をアルミニウム合金(A7075-T6)材及び炭素鋼(S45C)材に当接させた。純ニッケル材は、アルミニウム合金(A7075-T6)材及び炭素鋼(S45C)材と強度が同一となる温度を有している。
【0074】
図8に示す線形摩擦接合の原理を用いた異材固相接合装置によって、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面、及び炭素鋼材/純ニッケル材界面にそれぞれ接合圧力を印加した状態で、純ニッケル材を摺動させて異材固相接合を施した。ここで、接合圧力はアルミニウム合金材/純ニッケル材界面と炭素鋼材/純ニッケル材界面で異なる値となるように、50~300MPaの範囲で適宜設定し、振幅を1mm、周波数を25Hz、寄り代を4mm又は5mmとした。
【0075】
アルミニウム合金(A7075-T6)材、炭素鋼(S45C)材及び純ニッケル材の強度の温度依存性を模式的に図9に示す。アルミニウム合金(A7075-T6)材と純ニッケル材の強度が同一となる温度は炭素鋼(S45C)材と純ニッケル材の強度が同一となる温度よりも低い。当該関係は、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面に印加する接合圧力は、炭素鋼材/純ニッケル材界面に印加する接合圧力よりも高い値に設定する必要があることを意味している。
【0076】
図9に示す関係から、接合圧力を検討した結果、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面に印加する接合圧力を200MPa、炭素鋼材/純ニッケル材界面に印加する接合圧力を50MPaとした場合において、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面においてアルミニウム合金材と純ニッケル材が共に変形し、炭素鋼材/純ニッケル材界面において炭素鋼材と純ニッケル材が共に変形した良好な異材固相接合継手が得られた。当該異材固相接合継手のアルミニウム合金材/純ニッケル材界面近傍の外観写真を図10に、炭素鋼材/純ニッケル材界面近傍の外観写真を図11に、それぞれ示す。
【0077】
図10及び図11から、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面においてアルミニウム合金材と純ニッケル材が共に変形し、炭素鋼材/純ニッケル材界面において炭素鋼材と純ニッケル材が共に変形していることが分かる。なお、変形の状況(比較的薄いバリの排出や板材自体の変形)に関する差異は、被接合材における強度の温度依存性や熱伝導率が異なることに起因しているが、バリの排出及び/又は被接合界面近傍における変形によって形成される新生面の面積を考慮し、当該新生面同士が当接するように接合条件を設定すればよい。ここで、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面における寄り代は5mm、炭素鋼材/純ニッケル材界面における寄り代は4mmとしている。
【0078】
得られた異材固相接合継手に関して断面試料(「接合圧力印加方向-摺動方向」面)を調整し、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面及び炭素鋼材/純ニッケル材界面の走査電子顕微鏡観察(SEM観察)を行った。アルミニウム合金材/純ニッケル材界面のSEM写真を図12に、炭素鋼材/純ニッケル材界面のSEM写真を図13に、それぞれ示す。
【0079】
アルミニウム合金材/純ニッケル材界面及び炭素鋼材/純ニッケル材界面の全域において、欠陥のない良好な接合界面が形成されている。また、金属間化合物層であると思われる領域が存在するが、膜厚は極めて薄く(1μm未満)、明瞭には観察できない領域も存在する。
【0080】
以上の結果より、本発明の異材固相接合方法によって、アルミニウム合金材/純ニッケル材界面においてアルミニウム合金材と純ニッケル材が共に変形し、炭素鋼材/純ニッケル材界面において炭素鋼材と純ニッケル材が共に変形し、新生面同士の当接による良好な異材固相接合継手が得られ、当該異材固相接合継手においては、接合界面の全域において、極めて薄い金属間化合物層が形成された無欠陥な状態が実現されていることが確認された。
【0081】
≪実施例2≫
被接合材として、チタン合金(Ti6Al4V)材及び炭素鋼(S45C)材を用いた。被接合材の寸法は共に65mmL×25mmW×5mmTであり、25mmW×5mmT面を被接合面とした。インサート材には、寸法が30mmL×25mmW×5mmTのステンレス鋼(SUS304)材を用い、25mmW×5mmT面をチタン合金(Ti6Al4V)材及び炭素鋼(S45C)材に当接させた。
【0082】
実施例1と同様にして、図8に示す線形摩擦接合の原理を用いた異材固相接合装置によって、チタン合金材/ステンレス鋼材界面、及び炭素鋼材/ステンレス鋼材界面にそれぞれ接合圧力を印加した状態で、ステンレス鋼材を摺動させて異材固相接合を施した。ここで、接合圧力はチタン合金材/ステンレス鋼材界面と炭素鋼材/ステンレス鋼材界面で異なる値となるように、50~400MPaの範囲で適宜設定し、振幅を1mm、周波数を25Hz、寄り代を4mm又は5mmとした。
【0083】
チタン合金材/ステンレス鋼材界面に着目すると、接合時の印加圧力を400MPaとした場合に、チタン合金材とステンレス鋼材が共に変形し、良好な固相接合部が形成された。得られたチタン合金材/ステンレス鋼材接合界面の断面のSEM写真を図14に示す。
【0084】
チタン合金材/ステンレス鋼材接合界面の全域において、欠陥のない良好な接合界面が形成されている。また、金属間化合物層であると思われる領域が存在するが、膜厚は極めて薄く(1μm未満)、明瞭には観察できない領域も存在する。
【0085】
得られたチタン合金材/ステンレス鋼材接合界面が平行部の中心となるように引張試験片を切り出して、引張試験を行った。引張試験片の平行部のサイズは板厚5mm、幅6mm、長さ25mmである。当該引張試験片を用いて引張試験を行ったところ、図15に示すようにステンレス鋼材側で破断し、極めて良好な接合部が形成されていることが分かる。
【符号の説明】
【0086】
2・・・一方の部材、
4・・・他方の部材、
6・・・インサート材、
8・・・バリ、
10・・・被接合界面、
20・・・異材接合構造物、
22,24・・・固相接合界面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15