(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240213BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240213BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20240213BHJP
【FI】
H01L21/78 V
B23K26/53
B23K26/364
(21)【出願番号】P 2020110547
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】田中 圭
【審査官】宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-259846(JP,A)
【文献】特開2004-165227(JP,A)
【文献】特開2007-149820(JP,A)
【文献】特開2015-133435(JP,A)
【文献】特開2020-021791(JP,A)
【文献】特開2012-089709(JP,A)
【文献】特開2016-187014(JP,A)
【文献】特開2011-165767(JP,A)
【文献】特開2015-146406(JP,A)
【文献】特開2018-006653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
B23K 26/364
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に機能層が形成され、格子状に配列された複数のストリートによって区画された複数の領域のそれぞれにデバイスが形成されたウエーハを、該複数のストリートに沿って分割してチップを形成するチップの製造方法であって、
該ウエーハの表面側に形成された該機能層のうち該複数のストリートの交差点位置を含む概略十文字の領域のみを分断する機能層分断ステップと、
該ウエーハの該基板を透過する波長のレーザービームを該ウエーハの裏面側から該複数のストリートに沿って照射し、該基板に改質層を形成する改質層形成ステップと、
該機能層分断ステップおよび該改質層形成ステップの後、該ウエーハに対して外力を付与し、該ウエーハを該複数のストリートに沿って個々のチップに分割する分割ステップと、
を含む、チップの製造方法。
【請求項2】
該機能層分断ステップは、該ウエーハに形成された該複数のストリートに対して該ウエーハの表面側から該ウエーハによって吸収される波長のレーザービームを照射し、該機能層の厚さより深いレーザー加工溝を形成する、請求項1に記載のチップの製造方法。
【請求項3】
該機能層分断ステップは、該ウエーハに形成された該複数のストリートに対してスクライブ加工を施し、該機能層の厚さより深いスクライブ加工溝を形成する、請求項1に記載のチップの製造方法。
【請求項4】
該分割ステップは、
該ウエーハの裏面側から研削ユニットにより該ウエーハを研削し、チップの仕上げ厚みへと薄化するとともに、該ウエーハを個々のチップへと分割する裏面研削ステップである、請求項1乃至3のいずれかに記載のチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハを分割してチップを形成するチップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスを備えるチップは、表面に機能層を有するウエーハを交差する複数のストリートに沿って分割することによって形成される。該機能層は、例えば、シリコン等の半導体からなる基板の表面に不純物がドーピングされた不純物領域並びに該不純物領域上に成膜される絶縁膜及び導電膜等によって構成される。また、該複数のストリートは、平面方向におけるチップの境界を画定するものであり、格子状に配列されるのが一般的である。
【0003】
特許文献1には、SDBG(Stealth Dicing Before Grinding)とも呼ばれるレーザービームを利用してウエーハを分割する技術が開示されている。
【0004】
具体的には、特許文献1に記載の発明においては、レーザービームをウエーハ表面に走査して基板に改質層を形成した後に該ウエーハを裏面から研削することで、該改質層が分割起点となってウエーハが割断される。すなわち、特許文献1に記載の発明においては、チップの境界を画定するストリートに改質層を形成するためにレーザービームが利用されている。
【0005】
ところで、チップに含まれる機能層の膜厚は、近年の半導体デバイスの品質(例えば、DRAM及びNAND型フラッシュメモリ等の半導体メモリの大容量化)に対する要求の高まりから増大する傾向にある。そのため、特許文献1に記載の発明のように基板に改質層を形成する場合には、該改質層が形成されない部分が厚くなる傾向にある。
【0006】
その結果、ウエーハの機能層がストリートに沿って分割されないことがある。具体的には、基板に形成された改質層を分割起点とする割れ目が該機能層において垂直方向に対して傾いた方向に延在するといった問題が生じることがある。
【0007】
特許文献2には、このような問題を解決するための方法が開示されている。具体的には、特許文献2に記載の発明においては、予めストリートにレーザー光線を照射して又はスクライブ加工を施して機能層の厚さより深い溝を形成することで、改質層を分割起点とする割れ目を垂直方向に延在させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-111428号公報
【文献】特開2007-173475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ただし、特許文献2に記載の発明においては、ストリートに形成される溝が機能層を貫通して基板にまで及んでいる。そのため、基板が損傷してチップの抗折強度が低下することがある。
【0010】
そこで、本発明は、レーザービームによって形成される改質層を分割起点とする方法を利用してウエーハを分割する際にストリート以外において該ウエーハが分断されることを抑制するとともに得られるチップの抗折強度の低下を抑制することが出来るチップの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、基板の表面に機能層が形成され、格子状に配列された複数のストリートによって区画された複数の領域のそれぞれにデバイスが形成されたウエーハを、該複数のストリートに沿って分割してチップを形成するチップの製造方法であって、該ウエーハの表面側に形成された該機能層のうち該複数のストリートの交差点位置を含む概略十文字の領域のみを分断する機能層分断ステップと、該ウエーハの該基板を透過する波長のレーザービームを該ウエーハの裏面側から該複数のストリートに沿って照射し、該基板に改質層を形成する改質層形成ステップと、該機能層分断ステップおよび該改質層形成ステップの後、該ウエーハに対して外力を付与し、該ウエーハを該複数のストリートに沿って個々のチップに分割する分割ステップと、を含む、チップの製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、該機能層分断ステップは、該ウエーハに形成された該複数のストリートに対して該ウエーハの表面側から該ウエーハによって吸収される波長のレーザービームを照射し、該機能層の厚さより深いレーザー加工溝を形成する。
【0013】
好ましくは、該機能層分断ステップは、該ウエーハに形成された該複数のストリートに対してスクライブ加工を施し、該機能層の厚さより深いスクライブ加工溝を形成する。
【0014】
好ましくは、該分割ステップは、該ウエーハの裏面側から研削ユニットにより該ウエーハを研削し、チップの仕上げ厚みへと薄化するとともに、該ウエーハを個々のチップへと分割する裏面研削ステップである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、レーザービームによって形成される改質層を分割起点とする方法を利用してウエーハを分割してチップを形成する前に複数のストリートに存在する機能層の一部が分断されている。そのため、改質層を分割起点とする亀裂が複数のストリートの機能層が分断された領域に進展する蓋然性が高くなる。これにより、複数のストリート以外においてウエーハが分割される蓋然性を低減することが可能である。
【0016】
また、本発明においては、複数のストリートに存在する機能層の残部が分断されないため、その下方に位置する基板が損傷することがない。これにより、得られるチップの抗折強度の低下を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、ウエーハの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、機能層分断ステップの一例を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、機能層分断ステップ後のウエーハの一部を拡大した一例を示す上面図である。
【
図4】
図4は、改質層形成ステップの一例を示す縦断面図である。
【
図5】
図5は、分割ステップの一例を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、分割ステップのその他の例を示す縦断面図である。
【
図7】
図7は、分割ステップのその他の例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の特徴は、レーザービームによって形成される改質層を分割起点とする方法を利用してウエーハを分割してチップを形成する際に、該チップの境界を画定する複数のストリートに存在する機能層の全てを分断するのではなく、該機能層のうち該複数のストリートの交差点位置を含む概略十文字(すなわち、上面視において、特定の方向に延在する長方形と、該特定の方向と直交する方向に延在する長方形を両者の中心部が重なるように配置させたような形状)の領域のみを分断する。
【0019】
以下では、このような発明の一例を
図1~5を参照して詳述する。なお、後述するチップの製造方法は、本発明の実施形態に過ぎず、本発明が後述の発明に限定されないことは言うまでもない。
【0020】
図1は、チップの製造に用いられるウエーハの一例を示す図である。
図1に示されるウエーハ11は、シリコン等の半導体からなる円柱状のインゴットから切り出された薄い基板に対して結晶方位を示すためのノッチ又はオリフラを形成することによって得られる概略円盤状の基板15を備える。そして、基板15の表面には、不純物がドーピングされた不純物領域並びに該不純物領域上に成膜される複数の絶縁膜及び複数の導電膜を含む機能層19が形成されている。
【0021】
なお、本明細書では、便宜上、ウエーハ11において基板15が存在する側を裏面13側と称し、また、機能層19が存在する側を表面17側と称する。
【0022】
機能層19においては、複数の領域が格子状に配列された複数のストリート21によって区画されている。複数の領域23のそれぞれに位置する機能層19は独立した半導体デバイスを構成しており、ウエーハ11を複数のストリート21に沿って分割することで半導体デバイスを備えるチップが製造される。
【0023】
なお、ウエーハ11としては、種々のものを適用することが可能である。例えば、ウエーハ11として、そのサイズが8~12インチであり、その厚みが725~775μmであるウエーハを適用することが可能である。
【0024】
また、本明細書においては、シリコン等の半導体からなる円盤状のウエーハ11を加工する場合について説明するが、加工の対象となるウエーハの材質、形状、構造及び大きさ等に制限はない。例えば、他の半導体、セラミックス、樹脂及び金属等の材料を用いて形成される任意の形状のウエーハに対して本明細書で開示される加工を施してもよい。同様に、ウエーハに形成されるデバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ及び配置等にも制限はない。
【0025】
図2は、
図1に示される複数のストリート21に存在する機能層19の一部を分断する機能層分断ステップの一例を示す斜視図である。
【0026】
図2に示される機能層分断ステップは、チャックテーブル10と、レーザー加工ユニット12と、撮像ユニット14とを備えるレーザー加工装置を用いて行われる。
【0027】
チャックテーブル10は、被加工物を保持する概略水平な保持面を備える。また、チャックテーブル10は、該保持面に該被加工物を保持した状態で、図示しない移動機構によって
図2に示されるXの矢印方向及びYの矢印方向に移動可能である。なお、両矢印方向は共に該保持面と概略平行な方向であり、また、両矢印方向は互いに概略直交する方向である。
【0028】
レーザー加工ユニット12は、チャックテーブル10の上方に配置され、かつ、チャックテーブル10の保持面側にウエーハ11によって吸収される波長(例えば、355nm)のパルスレーザービームを照射可能である。該パルスレーザービームは、基板15及び機能層19の少なくとも一つに吸収される。
【0029】
撮像ユニット14は、レーザー加工ユニット12に併設されるようにチャックテーブル10の上方に配置され、かつ、チャックテーブル10の保持面側を撮像可能である。
【0030】
該機能層分断ステップにおいては、まず、円盤状の粘着テープ18の上面の周辺領域に環状のフレーム16を貼付し、また、その中央領域にウエーハ11の裏面を貼付する。次いで、ウエーハ11の裏面側をチャックテーブル10の保持面に設置する。
【0031】
次いで、撮像ユニット14がウエーハ11に形成されている複数のストリート21の位置情報を検出する。次いで、検出された複数のストリート21の位置情報に基づいてレーザー加工ユニット12から照射されるレーザービームが複数のストリート21に沿って走査されるようにチャックテーブル10が移動する。
【0032】
具体的には、まず、格子状に配列された複数のストリート21のうち第1の方向に沿って平行して配列されている複数のストリート21のいずれかに沿ってレーザービームが照射されるようにチャックテーブル10が移動する。この時、レーザー加工ユニット12は、該第1の方向に沿った複数のストリート21の交差点位置の近傍のみにパルス状のレーザービームを照射する。
【0033】
該レーザービームは、ウエーハ11によって吸収される波長のレーザービームである。そのため、該レーザービームが照射された領域ではレーザーアブレーションが生じて溝が形成される。
【0034】
このようなレーザービームの照射を繰り返すことによって、上面視において、互いに離隔し、かつ、その長辺が第1の方向に沿った長方形状のレーザー加工溝が該ストリートの交差点位置に形成される。また、該ストリート21と同様に該第1の方向に沿って平行に配列されている残りのストリート21に対しても順番にレーザービームの照射を行う。
【0035】
次いで、チャックテーブル10を90°回転した後、格子状に配列された複数のストリート21のうち既にレーザー加工溝が形成された複数のストリート21と直交して配列されている複数のストリート21に対しても順番にレーザービームの照射を行う。換言すると、該第1の方向と概略直交する第2の方向に沿って平行して配列されている複数のストリート21に対しても順番にレーザービームの照射を行う。
【0036】
その結果、
図3に示されるように、複数の領域23を区画する複数のストリート21の交差点位置を含む概略十文字の領域のみにレーザー加工溝25が複数形成される。なお、レーザー加工溝25は、複数のストリート21に存在する機能層19の厚さよりも深い。すなわち、レーザー加工溝25は、その底面が基板15に位置するように機能層19を貫通している。
【0037】
そのため、レーザー加工溝25の底面においては、基板15が露出する。また、複数のストリート21のレーザー加工溝25が形成された領域においては、機能層19が分断される。
【0038】
また、複数のレーザー加工溝25のそれぞれは、互いに離隔され、また、複数の交差点位置のいずれかを含み、かつ、該交差点位置以外の交差点位置を含まない領域に位置する。
【0039】
なお、レーザー加工ユニット12としては、種々のものを適用することが可能である。例えば、レーザー加工ユニット12として、YAGレーザー発振器、YVO4レーザー発振器及びCO2レーザー発振器等を備えるものを適用することが可能である。また、レーザー加工ユニット12としては、照射されるレーザービームの波長が266~10600nmであり、その平均出力が0.1~50.0Wであり、その繰り返し周波数が10kHz~50MHzであるものを適用することが可能である。
【0040】
また、半導体デバイスの性能を評価するためのTEG(Test Element Group)は、一般に、ウエーハ11の有効活用の観点から複数のストリート21に設けられる。他方、複数のストリート21にTEGが残存している場合、後述の分割ステップにおいてウエーハ11を複数のストリート21に沿って分割することが困難になり得る。
【0041】
そのため、このようなTEGは、複数のストリート21の交差点位置を含む概略十文字の領域に形成され、機能層分断ステップにおけるレーザー加工溝25の形成によって除去されることが好ましい。
【0042】
換言すると、レーザー加工溝25は、このようなTEGを完全に除去できるサイズの大きさを備えることが好ましい。例えば、レーザー加工溝25は、上面視において、概略直交する2本のストリートの一方が延在する方向に沿った長さ50μmの長辺を備える長方形と、該2本のストリートの他方が延在する方向に沿った長さ50μmの長辺を備える長方形を両者の中心部が重なるように配置させたような形状よりも大きいサイズであることが好ましい。
【0043】
他方、ウエーハ11を分割して得られる個々のチップの抗折強度の低下を抑制するという観点からは、レーザー加工溝25のサイズは小さい方が好ましい。例えば、特定のストリートを介して隣接する一対の領域23の間に位置するレーザー加工溝25の一部における該ストリートが延在する方向における長さ(例えば、
図3に示される「L1」)が該方向における領域23の長さ(例えば、
図3に示される「L2」)の1/4であることが好ましく、1/8以下であることがより好ましく、1/12以下であることが最も好ましい。
【0044】
本発明の実施形態における機能層分断ステップは、上述のように実施される。
【0045】
図4は、機能層分断ステップ後になされる改質層形成ステップの一例を示す縦断面図である。
図4に示される改質層形成ステップは、チャックテーブル20と、レーザー照射ユニット22とを備えるレーザー照射装置を用いて行われる。
【0046】
チャックテーブル20は、被加工物を保持する概略水平な保持面を備える。また、チャックテーブル20は、該保持面に被加工物を保持した状態で、図示しない移動機構によって
図4に示されるXの矢印方向に移動可能である。なお、該方向は、該保持面と概略平行な方向である。
【0047】
レーザー照射ユニット22は、チャックテーブル20の上方に配置され、かつ、チャックテーブル20の保持面側にレーザービームを照射可能である。
【0048】
該改質層形成ステップにおいては、まず、ウエーハ11と概ね同じ径を有する円盤状の粘着テープ26の上面にウエーハ11の表面17を貼付する。次いで、機能層分断ステップにおいてウエーハ11の裏面13に貼付された粘着テープ18を取り外す(
図2参照)。
【0049】
次いで、粘着テープ26を介してウエーハ11の表面17側をチャックテーブル20の保持面に設置する。次いで、レーザー照射ユニット22から照射される、基板15を透過する波長(例えば、1064nm)のパルスレーザービームの集光点が基板15内に位置するように設定する。
【0050】
次いで、レーザー照射ユニット22から照射されるレーザービームが複数のストリート21に沿って走査されるようにチャックテーブル20が移動し、かつ、レーザー照射ユニット22からウエーハ11の基板15を透過する波長のパルスレーザービームを照射する。
【0051】
具体的には、まず、格子状に配列された複数のストリート21のうち第1の方向に沿って平行して配列されている複数のストリート21に対して順番にレーザービームの照射を行う。
【0052】
次いで、チャックテーブル20を90°回転した後、格子状に配列された複数のストリート21のうち既にレーザービームが照射された複数のストリート21と直交して配列されている複数のストリート21に対しても順番にレーザービームの照射を行う。換言すると、該第1の方向と概略直交する第2の方向に沿って平行して配列されている複数のストリート21に対しても順番にレーザービームの照射を行う。
【0053】
その結果、
図4に示されるように、複数のストリート21(具体的には、互いに離隔された複数のレーザー加工溝25と重畳する領域及び隣接するレーザー加工溝25の間に位置する機能層19と重畳する領域)に存在する基板15内に改質層27が形成される。
【0054】
なお、レーザー照射ユニット22としては、種々のものを適用することが可能である。例えば、レーザー照射ユニット22として、YAGレーザー発振器及びYVO4レーザー発振器等を備えるものを適用することが可能である。また、レーザー照射ユニット22としては、照射されるレーザービームの波長が1099~1400nmであり、その平均出力が0.5~3.0Wであり、その繰り返し周波数が80~150kHzであることが可能である。
【0055】
本発明の実施形態における改質層形成ステップは、上述のように実施される。
【0056】
図5は、改質層形成ステップ後になされる分割ステップの一例を示す斜視図である。
図5に示される分割ステップは、チャックテーブル28と、研削ユニット30とを備える研削装置を用いて行われる。
【0057】
チャックテーブル28は、被加工物を保持する概略水平な保持面を備える。また、チャックテーブル28は、該保持面に該被加工物が保持された状態で、図示しない回転機構によって軸心32を中心として回転可能である。
【0058】
研削ユニット30は、チャックテーブル28の上方に配置され、かつ、図示しない回転機構によって軸心34を中心として回転して研削砥石36によってチャックテーブル28の保持面に設置された被加工物を研削可能である。
【0059】
該分割ステップにおいては、まず、粘着テープ26を介してウエーハ11の表面側をチャックテーブル28の保持面に設置する。
【0060】
次いで、チャックテーブル28及び研削ユニット30を共に回転させた状態で、研削ユニット30を下降させながらウエーハ11の裏面と研削砥石36を接触させることでウエーハ11を研削する。
【0061】
これにより、ウエーハ11が研削ユニット30の下降量に応じた所定の仕上げ厚みへと薄化されるとともに、当該研削によってウエーハ11に外力が加えられる。その結果、ウエーハ11の基板15に内在する改質層27が分割起点となって、ウエーハ11が複数のストリート21に沿って個々のチップに分割される。
【0062】
本発明の実施形態における分割ステップは、上述のように実施される。これにより、複数のチップが形成される。
【0063】
上述したチップの製造方法においては、レーザービームによって形成される改質層27を分割起点とする方法を利用してウエーハ11を分割してチップを形成する前に複数のストリート21に存在する機能層19の一部が分断されている。そのため、改質層27を分割起点とする亀裂が複数のストリート21の機能層19が分断された領域に進展する蓋然性が高くなる。これにより、複数のストリート21以外においてウエーハ11が分割される蓋然性を低減することが可能である。
【0064】
また、上述したチップの製造方法においては、複数のストリート21に存在する機能層19の残部が分断されないため、その下方に位置する基板15が損傷することがない。これにより、得られるチップの抗折強度の低下を抑制することが可能である。
【0065】
上述したチップの製造方法は、本発明の一態様であって、当該方法と異なるステップを用いるチップの製造方法も本発明には含まれる。例えば、上述したチップの製造方法におけるステップの少なくとも一は、後述のステップに置換されてもよい。
【0066】
まず、上述したチップの製造方法においては、機能層分断ステップ後に改質層形成ステップを行う例を示したが、両ステップの順番は特に限定されず、改質層形成ステップ後に機能層分断ステップを行ってもよい。
【0067】
また、上述したチップの製造方法においては、本発明における機能層分断ステップとして、ウエーハ11が粘着テープ18に貼付された状態でレーザー加工溝25を形成するステップを示したが、本発明のおける機能層分断ステップは、ウエーハ11が粘着テープ18に貼付されていない状態で行われてもよい。
【0068】
ウエーハ11が粘着テープ18に貼付されていない状態で機能層分断ステップが行われる場合、粘着テープ18をウエーハ11から取り外す手間がなくなる点で好ましい。他方、ウエーハ11が粘着テープ18に貼付された状態で機能層分断ステップが行われる場合、粘着テープ18にフレーム16を貼付して、チャックテーブル10の保持面にウエーハ11を設置する際及び取り外す際の利便性(ハンドリング性)を向上させることができる点で好ましい。
【0069】
また、上述したチップの製造方法においては、本発明における機能層分断ステップとして、複数のストリート21にレーザービームを照射して、機能層19の厚さより深いレーザー加工溝25を形成するステップを示したが(
図2及び3参照)、本発明における機能層分断ステップは、レーザービームを用いたものに限定されない。
【0070】
例えば、本発明における機能層分断ステップとして、複数のストリート21に対してスクライブ加工を施し、機能層19の厚さより深いスクライブ加工溝を形成するステップを採用してもよい。該スクライブ加工は、例えば、ダイヤモンドスクライバ等を用いて実施すればよい。
【0071】
また、上述したチップの製造方法においては、本発明における分割ステップとして、研削装置によってウエーハ11の裏面を研削してウエーハ11を個々のチップへと分割する裏面研削ステップを示したが(
図5参照)、本発明における分割ステップは、研削装置を用いたものに限定されない。
【0072】
例えば、
図6及び7に示されるエキスパンドテープ38を拡張してウエーハ11を分割するステップを本発明の分割ステップとして採用してもよい。具体的には、
図6に示されるステップは、円筒形のドラム40と、支持ユニット42とを備える拡張装置を用いて行われる。
【0073】
支持ユニット42は、ドラム40の上端部を囲むように設けられている環状の支持台44を備える。支持台44は、被拡張物の周辺領域を支持可能である。
【0074】
また、支持ユニット42は、支持台44上においてその周方向に沿って概ね等間隔で配置された複数のクランプ46を備える。複数のクランプ46は、支持台44とともに被拡張物の周辺領域を把持して固定可能である。
【0075】
また、支持ユニット42は、支持台44下においてその周方向に沿って概ね等間隔で配置された複数のロッド48を備える。複数のロッド48は、支持台44及び複数のクランプ46を支持し、かつ、図示しない昇降機構によって支持台44及び複数のクランプ46とともに昇降可能である。
【0076】
該分割ステップにおいては、まず、円盤状のエキスパンドテープ38の上面の周辺領域に環状のフレーム50を貼付し、また、その中央領域にウエーハ11の裏面13を貼付する。次いで、改質層形成ステップにおいてウエーハ11の表面17に貼付された粘着テープ26を取り外す(
図4参照)。
【0077】
次いで、支持台44の上面がドラム40の上端と同一平面上に位置するように複数のロッド48を昇降させる。次いで、
図6に示されるようにウエーハ11の裏面13が下向きになるようにエキスパンドテープ38の周辺領域及びフレーム50をクランプ46によって固定する。次いで、
図7に示されるように複数のロッド48を支持台44及び複数のクランプ46とともに降下させる。
【0078】
これにより、ドラム40の上端と支持台44が離隔した分だけ、エキスパンドテープ38の中央領域がウエーハ11の平面方向へと拡張される。この時、エキスパンドテープ38に貼付されているウエーハ11に該平面方向へと拡張させるような力が作用する。その結果、ウエーハ11の基板15に内在する改質層27が分割起点となって、ウエーハ11が複数のストリート21に沿って個々のチップに分割される。
【実施例】
【0079】
12インチのシリコンからなる基板の表面側に機能層が形成された厚さが約700μmのウエーハを用意した。該ウエーハは、最終的に得られるチップのサイズが12.73mm×12.44mmになるように格子状に配列された複数のストリートによって区画されていた。
【0080】
次いで、該ウエーハの表面側に対して、平均出力が1.1Wとなるレーザービームを照射して複数のレーザー加工溝を形成したサンプル1と、平均出力が2.0Wとなるレーザービームを照射して複数のレーザー加工溝を形成したサンプル2とを用意した(機能層分断ステップ)。
【0081】
サンプル1及び2における複数のレーザー加工溝のそれぞれは、複数のストリートの交差点位置を含む概略十文字の領域のみに形成され、その底面が基板に位置するように機能層を貫通していた。
【0082】
また、サンプル1及び2における複数のレーザー加工溝のそれぞれは、上面視において、概略直交する2本のストリートの一方が延在する方向に沿った長さ1.5mmの長辺を備える長方形と、該2本のストリートの他方が延在する方向に沿った長さ1.5mmの長辺を備える長方形とを両者の中心部が重なるように配置させたような形状であった。
【0083】
なお、サンプル1及び2を用意するために利用されたレーザービームは、その波長が355nmであり、その繰り返し周波数が600kHzのパルスレーザービームであった。
【0084】
また、該機能層分断ステップにおいては、送り速度が250mm/sとなるようにウエーハを保持するチャックテーブルを移動させながらウエーハに対するレーザービームの照射を行った。
【0085】
また、該機能層分断ステップにおいては、まず、格子状に配列された複数のストリートのうち平行して配列されている複数のストリートに対して順番にレーザービームを照射し、次いで、チャックテーブルを90°回転した後、これらのストリートと直交して配列されている複数のストリートに対して順番にレーザービームを照射した。
【0086】
次いで、サンプル1及び2のそれぞれに対して裏面側から複数のストリートにレーザービームを照射して、基板に改質層を形成した(改質層形成ステップ)。
【0087】
なお、該改質層形成ステップにおいてサンプル1及び2に照射されたレーザービームは、その波長が1099nmであり、その繰り返し周波数が120kHzのパルスレーザービームであった。該パルスレーザービームの集光点は、基板内の高さが異なる2つの地点に設定された。また、両地点を集光点とするレーザービームの平均出力は、共に1.5Wであった。
【0088】
また、該改質層形成ステップにおいては、送り速度が1000mm/sとなるように各サンプルを保持するチャックテーブルを移動させながら各サンプルに対するレーザービームの照射を行った。
【0089】
また、該改質層形成ステップにおいては、まず、格子状に配列された複数のストリートのうち平行して配列されている複数のストリートに対して順番にレーザービームを照射し、次いで、チャックテーブルを90°回転した後、これらのストリートと直交して配列されている複数のストリートに対して順番にレーザービームを照射した。
【0090】
最後に、各サンプルの裏面を研削して所定の厚みに薄化することで複数のストリートに沿って分割して個々のチップを製造した(分割ステップ)。この際、両サンプルは、ともに複数のストリートにおいて分割され、割れ目が改質層を分割起点として垂直方向に対して傾いた方向に延在するといった問題は生じなかった。
【0091】
上述した実施例のサンプル1及び2から得られたチップと比較するための比較例として、後述のサンプルを用意した。まず、上述の機能層分断ステップを行わなかった点を除き、実施例と同様の方法によって個々のチップを製造した(比較例1)。
【0092】
また、上述の機能層分断ステップにおいて複数のストリートの全体に機能層の厚さよりも深い複数のレーザー加工溝を形成した点を除き、実施例と同様の方法によって個々のチップを製造した(比較例2)。
【0093】
実施例並びに比較例1及び2において製造されたチップの抗折強度試験を行った。具体的には、支点間距離が3mmとなるように該チップを支持した状態で、該支点間において該チップと接触するロッドを送り速度1mm/minで移動させることで各チップの抗折強度を得た。
【0094】
上述の抗折強度試験によって得られた各チップの抗折強度は、表1に記載のとおりである。
【0095】
【0096】
表1に記載のとおり、実施例によって製造されたチップは、機能層分断ステップにおいて機能層の厚さよりも深いレーザー加工溝が複数のストリートの全体に形成される比較例2のように大幅に抗折強度が低下することなく、機能層分断ステップを行わない比較例1と同等の抗折強度を備えることが分かった。
【符号の説明】
【0097】
11 :ウエーハ
13 :裏面
15 :基板
17 :表面
19 :機能層
21 :ストリート
23 :領域(半導体デバイス)
25 :レーザー加工溝
27 :改質層
10 :チャックテーブル
12 :レーザー加工ユニット
14 :撮像ユニット
16 :フレーム
18 :粘着テープ
20 :チャックテーブル
22 :レーザー照射ユニット
26 :粘着テープ
28 :チャックテーブル
30 :研削ユニット
32 :軸心
34 :軸心
36 :研削砥石
38 :エキスパンドテープ
40 :ドラム
42 :支持ユニット
44 :支持台
46 :クランプ
48 :ロッド
50 :フレーム