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特許7433751ファインバブルの製造装置、及びファインバブルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】ファインバブルの製造装置、及びファインバブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/234 20220101AFI20240213BHJP
   B01F 27/80 20220101ALI20240213BHJP
   B01F 31/80 20220101ALI20240213BHJP
【FI】
B01F23/234
B01F27/80
B01F31/80
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018126954
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020006289
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-02-01
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 浩史
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】金 公彦
【審判官】松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】特表平5-500632(JP,A)
【文献】特開2012-20233(JP,A)
【文献】特開2009-131827(JP,A)
【文献】特開2015-199309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F21/00-25/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
通液孔が穿設された円筒状のカバー体と、
前記カバー体の内部に設けられて、前記カバー体の中心側から径方向に沿って延在し、かつ、先端が前記カバー体の内周面に非接触で近接する回転翼と、
前記カバー体の一端側に設けられ、前記回転翼が固定された回転軸が回転可能に挿通される天板と
を有する液流せん断モジュールと、
前記液流せん断モジュールによって誘起された液流に超音波を印加する超音波発生モジュールと
を備えることを特徴とするファインバブルの製造装置(ただし、前記液流中にオゾンガスを噴出するためのオゾンガス供給手段を有するものを除く)
【請求項2】
前記天板が、前記カバー体の一端側を封止する請求項1に記載のファインバブルの製造装置。
【請求項3】
前記回転翼の先端が、前記カバー体の内周面に0.1~0.5mmの間隙を以て近接する請求項1又は2に記載のファインバブルの製造装置。
【請求項4】
前記通液孔の直径が、前記回転翼の高さの0.01~25%である請求項1~3のいずれか一項に記載のファインバブルの製造装置。
【請求項5】
前記通液孔が、規則的な配列で多数穿設され、隣接する前記通液孔の中心間距離が、前記通液孔の直径の1.0~5.0倍である請求項1~4のいずれか一項に記載のファインバブルの製造装置。
【請求項6】
前記通液孔の面積の総和が、前記カバー体の内周面の面積の12~36%である請求項1~5のいずれか一項に記載のファインバブルの製造装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のファインバブルの製造装置を用いたファインバブルの製造方法。
【請求項8】
前記回転翼の前記天板側の端縁が、処理容器に収容された液体の液面の鉛直方向上位10mm以内、又は鉛直方向下位10mm以内の位置にあるように、前記液流せん断モジュールを前記液体に浸漬させて、前記液流せん断モジュールと前記超音波発生モジュールとを動作させることを特徴とする請求項7に記載のファインバブルの製造方法。
【請求項9】
密閉環境下で、ファインバブルの発生源としての気体を前記液体と気液界面で接触させた状態で、前記液体に液流を誘起する請求項7又は8に記載のファインバブルの製造方法。
【請求項10】
前記気体が、オゾン、酸素、二酸化炭素、アンモニア含有ガス、フッ素含有ガス、又は窒素である請求項9に記載のファインバブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインバブル、特に、ウルトラファインバブルを効率良く製造することができるファインバブルの製造装置、及びファインバブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液中の微細な気泡を利用した、いわゆる、ファインバブル技術が注目されており、食品・飲料水分野、洗浄分野、医療・薬品分野、化粧品分野、農業・植物栽培分野、水処理分野、化学分野、液晶・半導体・太陽電池製造分野、新機能材料製造分野等の幅広い技術分野で、その活用が試みられている。
【0003】
このようなファインバブル技術において、液中の微細な気泡は、その大きさによって、マイクロバブル、ウルトラファインバブル(ナノバブルとも呼ばれていた)等に区別されており、国際標準化機構(ISO)は、気泡径(体積等価直径:volume equivalent diameter)が100μm未満の気泡をファインバブル、気泡径が1μm未満の気泡をウルトラファインバブル、気泡径が100μm未満1μm以上の気泡をマイクロバブルと定義している(ISO 20480-1:2017)。
【0004】
また、ファインバブルの発生方式としては、容器内に液体を高速で圧入して高速旋回液流を発生させ、容器内に供給された気体を破砕してファインバブルを発生させる高速旋回液流方式(例えば、特許文献1参照)と、流路内に供給された気体を加圧して液中に過飽和で溶解させた後に、急速に減圧してファインバブルを発生させる加圧溶解方式(例えば、特許文献2参照)とが、代表的な発生方式として知られている。
【0005】
一方、特許文献3には、気体を供給することなく、液中に含まれている気体を微細化させてウルトラファインバブルを発生させるために、円柱形状部材の外周面に複数の三角柱状突起を螺旋状に配置し、円柱状部材の周りを旋回しながら通過する液体が、三角形状突起の先端に位置する角に衝突するように構成されたウルトラファインバブル発生用具が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2000/69550号パンフレット
【文献】特開2015-181976号公報
【文献】特開2017-80721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した代表的なファインバブルの発生方式のうち、一般には、加圧溶解方式の方が、ファインバブル(特に、ウルトラファインバブル)を高濃度で発生させるのに適していると言われている。
【0008】
例えば、特許文献2では、気体を液体に加圧溶解させた加圧液をノズルから低圧下に噴出させて、ウルトラファインバブルを主として含む液を生成し、これを循環させて繰り返し処理することによって、ファインバブル(ウルトラファインバブル)を高濃度で含むファインバブル液を連続的に生成できるとしている。
【0009】
しかしながら、液体の流動を伴う発生方式では、送液ポンプからの異物混入の虞があるだけでなく、粘度の高い液体に適用するのは困難であり、適用可能な液体が制限されてしまう。さらに、装置構成が大がかりになってしまうのは避けられず、供給ラインも含めて液体の流路を確保したり、送液ポンプを含む制御機構を備えたりしなければならない等の理由から、装置構成をよりコンパクトなものとするには限界があった。
【0010】
また、特許文献3には、円柱形状部材を容器内の液体に沈めて、モータを駆動源として円柱形状部材を回転させることによって、ウルトラファインバブルを発生させる例が記載されている。
【0011】
しかしながら、そのような例によれば、コンパクトな装置構成でウルトラファインバブルを発生させることが可能ではあるが、それほど多くのウルトラファインバブルを発生させることはできなかった。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、よりコンパクトで、かつ、簡易な装置構成で、ファインバブル、特に、ウルトラファインバブルを効率良く製造することができるファインバブルの製造装置、及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下のファインバブルの製造装置等が提供される。
1.通液孔が穿設された円筒状のカバー体と、
前記カバー体の内部に設けられて、前記カバー体の中心側から径方向に沿って延在し、かつ、先端が前記カバー体の内周面に非接触で近接する回転翼と、
前記カバー体の一端側に設けられ、前記回転翼が固定された回転軸が回転可能に挿通される天板と
を有する液流せん断モジュールと、
前記液流せん断モジュールによって誘起された液流に超音波を印加する超音波発生モジュールと
を備えることを特徴とするファインバブルの製造装置。
2.前記天板が、前記カバー体の一端側を封止する1に記載のファインバブルの製造装置。
3.前記回転翼の先端が、前記カバー体の内周面に0.1~0.5mmの間隙を以て近接する1又は2に記載のファインバブルの製造装置。
4.前記通液孔の直径が、前記回転翼の高さの0.01~25%である1~3のいずれかに記載のファインバブルの製造装置。
5.前記通液孔が、規則的な配列で多数穿設され、隣接する前記通液孔の中心間距離が、前記通液孔の直径の1.0~5.0倍である1~4のいずれかに記載のファインバブルの製造装置。
6.前記通液孔の面積の総和が、前記カバー体の内周面の面積の12~36%である1~5のいずれかに記載のファインバブルの製造装置。
7.1~6のいずれかに記載のファインバブルの製造装置を用いたファインバブルの製造方法。
8.前記回転翼の前記天板側の端縁が、処理容器に収容された液体の液面の鉛直方向上位10mm以内、又は鉛直方向下位10mm以内の位置にあるように、前記液流せん断モジュールを前記液体に浸漬させて、前記液流せん断モジュールと前記超音波発生モジュールとを動作させることを特徴とする7に記載のファインバブルの製造方法。
9.密閉環境下で、ファインバブルの発生源としての気体を前記液体と気液界面で接触させた状態で、前記液体に液流を誘起する7又は8に記載のファインバブルの製造方法。
10.前記気体が、オゾン、酸素、二酸化炭素、アンモニア含有ガス、フッ素含有ガス、又は窒素である9に記載のファインバブルの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、よりコンパクトで、かつ、簡易な装置構成で、ファインバブル、特に、ウルトラファインバブルを効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るファインバブルの製造装置の概略を示す説明図である。
図2】回転翼の一例の概略を示す斜視図である。
図3】回転翼の他の例の概略を示す斜視図である。
図4】実施例1の結果を示すグラフである。
図5】比較例1で使用した装置のモータ以外の部分である。
図6】比較例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
[ファインバブルの製造装置]
まず、本実施形態に係るファインバブルの製造装置について説明する。
本実施形態に係るファインバブルの製造装置の一例として図1に示す装置1は、処理容器Cに収容された液体Liqに浸漬されて、当該液体Liqに液流を誘起するとともに、誘起された液流にせん断力を作用させる液流せん断モジュール2と、液流せん断モジュール2によって誘起された液流に超音波を印加する超音波発生モジュール3とを備えている。
なお、図1では、説明のために要部を切り欠いて示している。
【0018】
本実施形態において、液流せん断モジュール2は、通液孔20が穿設された円筒状のカバー体21を有している。このカバー体21の内部には、カバー体21の中心側から径方向に沿って延在し、かつ、先端がカバー体21の内周面に非接触で近接する回転翼22が、回転軸23を中心に回転するように設けられている。そして、カバー体21の一端側(上端側)は、図示しないモータ等の駆動源に取り付けられるとともに、カバー体21の一端側(上端側)には、回転翼22が固定された回転軸23が回転可能に挿通された天板24が設けられている。
【0019】
このように構成された液流せん断モジュール2を、図1に示すように、処理容器Cに収容された液体Liqに浸漬させて、回転翼22を高速で回転(例えば、800~8000rpm)させると、その吸引作用によって、処理容器C中の液体Liqは、カバー体21の他端側(下端側)から、その内部に引き込まれていく。そして、カバー体21の内部に引き込まれた液体Liqは、カバー体21の内部で回転する回転翼22によって、カバー体21に穿設された通液孔20から噴出するようにして、カバー体21の外側に押し出されていくが、このような吸引と噴出の繰り返しによる液流が、液流せん断モジュール2によって誘起される。
【0020】
また、カバー体21の内部で回転する回転翼22は、その先端が、カバー体21の内周面に非接触で近接するように形成されており、カバー体21の内周面との間に狭い間隙dを以て回転翼22が回転するようにしている。
これにより、カバー体21の内部に引き込まれた液体Liqは、カバー体21の内周面と、回転翼22の先端との間でせん断されながら、通液孔20を通ってカバー体21の外側に噴出するように押し出され、さらに、通液孔20を通過する際にもせん断されることになり、誘起された液流に、連続的にせん断力を作用させることを可能にしている。従って、前述のような吸引と噴出とを繰り返す液流には、このようなせん断力が繰り返し作用する。
なお、回転翼22の先端とは、回転軸23の中心から最も離れた部分をいう。
【0021】
ここで、回転翼22の先端は、カバー体21の内周面との間で液体Liqをせん断できる程度に、カバー体21の内周面に近接していればよく、「近接」の語は、そのような意味で用いるものとする。より強いせん断力が得られるように、回転翼22の先端は、カバー体21の内周面に、好ましくは0.1~1.0mm、より好ましくは0.1~0.5mmの間隙dを以て近接させるが、回転翼22が回転する際に、カバー体21と接触してしまうことがないように、部材の加工精度、組み立て精度等を考慮して、より強いせん断力が得られるように適宜設計することができる。
なお、図1における「d」は、回転翼22とカバー体21の内周面との最短距離を示すものとする。
【0022】
また、回転翼22の数は特に限定されないが、回転が安定するように、三つ以上の回転翼22を等角度間隔で設けるのが好ましい。図1及び図2に示す例では、矩形状に形成された四つの回転翼22が、それぞれ回転軸23に直交する面に対して垂直となるように、十字状に組み合わされて回転軸23に固定されている。
【0023】
また、カバー体21の内部の限られた空間で、回転翼22の面積をできるだけ大きくして、より多くの液体Liqを押し出せるように、回転翼22は、矩形状に形成するのが好ましいが、その厚みは一定でなくてもよい。例えば、図3に示すように、回転翼22は、先端側を先細り状とし、回転軸23側(根元側)に向かって徐々に厚みが増していくように形成してもよい。
【0024】
回転翼22については、このような設計変更が可能であるが、隣接する回転翼22の間の容積が大きいほど、回転翼22によって押し出される液体Liqが、通液孔20を通過する際に受けるせん断力が強くなるので、これとのバランスを考慮して適宜設計するのが好ましい。
【0025】
回転翼22の高さ(回転軸23の方向に沿った下端から上端までの長さ)は、特に制限はないが、例えば10~50mmである。
回転翼22の回転直径は、特に制限はないが、例えば10~100mmである。
【0026】
カバー体21の形状は、回転翼22の大きさに鑑みて設定すればよく、例えば、直径(外径)は、回転翼の回転直径よりも1.2~12.0mm大きい値であり、内径は、回転翼の回転直径よりも0.2~2.0mm大きい値であり、高さ(回転軸23の方向に沿った下端から上端までの長さ)は回転翼の高さの1.0~1.5倍であり、厚さは0.5~5.0mmの円筒状の部材として構成することができる。
液流せん断モジュール2を構成する各部材は、ステンレス鋼等の耐食性に優れた金属素材を用いて形成することができる。
【0027】
また、カバー体21に穿設する通液孔20の直径は、回転翼22によって押し出される液体Liqが、通液孔20を通過する際に十分なせん断力を受けるように適宜設計することができる。例えば、回転翼22の高さの0.01~25%であるのが好ましく、より好ましくは、5~15%である。
通液孔20の直径は、特に制限はないが、例えば0.01mm~12.5mmである。
【0028】
また、通液孔20は、加工性を考慮すると、図1に示すような円形状とするのが好ましいが、楕円状、又は三角形、四角形等の多角形状としてもよい。通液孔20を楕円状、又は多角形状に形成する場合は、それと面積が等しい円の直径を以て通液孔20の直径とする。
【0029】
また、図1に示す例において、通液孔20は、千鳥状の配列で多数穿設されているが、これに限定されない。規則的に配列されていれば、例えば、格子状に配列させてもよい。
【0030】
通液孔20を多数穿設するにあたり、隣接する通液孔20の中心間距離は、通液孔20の直径の1.0~5.0倍が好ましく、より好ましくは、1.5~5.0倍である。隣接する通液孔20の中心間距離が短く、通液孔20の配列が密になりすぎると、回転翼22の先端との間で液体Liqをせん断する面が十分に確保できなくなってしまう。これを考慮すると、通液孔20の面積の総和は、カバー体21の内周面の面積の12~36%であるのが好ましい。
【0031】
なお、天板24は、回転軸23を挿通させるための孔以外に開口部を設けない構成、すなわちカバー体21の一端側(上端側)を封止する構成としてもよいし、回転軸23用の孔以外に一又は二以上の開口部(孔)を設けた構成としてもよい。後者の場合、当該開口部の総面積は、通常、天板24の面積の1~10%である。
【0032】
このような本実施形態によれば、液流せん断モジュール2によって誘起され、せん断力を繰り返し作用させた液流に、超音波発生モジュール3から、好ましくは、10~100kHzの超音波を印加することで、これらの相乗効果によって、液中に発生する気泡をより微細化させることを可能とし、ファインバブル、特に、ウルトラファインバブルを効率良く製造することができる。
【0033】
図1に示す例において、超音波発生モジュール3は、処理容器Cが載置される載置台Tの内部に設置しているが、処理容器C内に誘起された液流に、所望の周波数帯域の超音波を印加することができれば、これに限定されない。超音波発生モジュール3の具体的な構成も、所望の周波数帯域の超音波を発振することができれば、特に限定されない。
【0034】
このように、本実施形態に係るファインバブルの製造装置は、液流せん断モジュール2と、超音波発生モジュール3とを備えた簡易な装置構成とされている。
このため、本実施形態によれば、よりコンパクトで、かつ、簡易な装置構成で、ファインバブル、特に、ウルトラファインバブルを効率良く製造することができる。さらに、本実施形態にあっては、送液ポンプによる液体の流動を伴わないため、送液ポンプからの異物混入の虞もなく、粘度の高い液体にも適用可能であることに加え、液流せん断モジュール2を構成する各部材をステンレス鋼等の耐食性に優れた金属素材を用いて形成することで、より多くの種類の液体Liqに適用することが可能になる。
【0035】
また、スケールアップの要求に対しても、装置1を大型化するのではなく、液流せん断モジュール2と、これと対になって超音波を印加する超音波発生モジュール3とを必要な数だけ並べて配置することで、簡便に対応することができる。
【0036】
[ファインバブルの製造方法]
次に、本実施形態に係るファインバブルの製造方法について、図1に示す装置1を用いた例を挙げて説明する。換言すれば、以下に説明する方法は、図1に示す装置1の好ましい使用例である。
【0037】
本実施形態にあっては、まず、ファインバブルを発生させる液体Liqを収容した処理容器Cを載置台T上に静置して、処理容器Cの上方から、液流せん断モジュール2をゆっくりと下降させる。そして、処理容器Cに収容された液体Liqに、液流せん断モジュール2を静かに浸漬させながら、回転翼22の天板24側の端縁(上端縁)22aが、液面Levの鉛直方向上位10mm以内、又は鉛直方向下位10mm以内の位置にあるように、液流せん断モジュール2の浸漬深さを調整する。
【0038】
このようにして、液流せん断モジュール2の浸漬深さを調整し、液面Levが静まるのを待って、回転翼22の上端縁22aが所定の位置にあることが確認できたら、そのままの状態で、液流せん断モジュール2と超音波発生モジュール3とを動作させる。
【0039】
これにより、処理容器C中の液体Liqには、液流せん断モジュール2によって、前述したような液流が誘起されるが、上記した位置に上端縁22aがある状態で回転翼22が回転することによって、液面Levがうねりだして、波打ったり、渦を巻いたりするようになる。これにより、その気液界面に存在する気体が液中に取り込まれていき、取り込まれた気体は液流に乗って、前述のような吸引と噴出とを繰り返す。
【0040】
その結果、繰り返し受けるせん断力と超音波とによって、気液界面から取り込まれた気体を微細化し、当該気体によって形成されたファインバブル(特に、ウルトラファインバブル)を効率良く製造することができる。従って、上記の操作を大気開放下で行うと、大気中の空気を取り込んで、空気によって形成されたファインバブルが製造されるが、密閉環境下で操作すれば、所望の気体によって形成されたファインバブルを製造することができる。
【0041】
密閉環境を形成するには、液流せん断モジュール2を液体Liqに浸漬可能な状態としつつ、例えば、回転軸23が回転可能に挿通された密閉容器に処理容器Cを格納したり、回転軸23が回転可能に挿通された蓋材で処理容器C内を密閉したり、装置全体を処理容器Cとともに密閉容器に格納したりする等すればよい。このようにして形成された密閉環境中に、オゾン、酸素、二酸化炭素、アンモニア含有ガス、フッ素含有ガス、又は窒素等の所望の気体をファインバブルの発生源として充填し、ファインバブルを発生させる液体Liqと気液界面で接触させた状態で液流を誘起することによって、所望の気体によって形成されたファインバブルを製造することができる。
【0042】
このように、本実施形態によれば、大気中の空気に限らず、所望の気体によって形成されたファインバブルを製造することが可能であるが、回転翼22の上端縁22aが、液面Levの鉛直方向上位10mmを超えた上位の位置にあると、液面Levが激しく波打って、液中に取り込まれる気体が多過ぎて大きな気泡となり易く、大きな気泡に小さな気泡が取り込まれてしまう等の理由から、気泡の微細化が妨げられてしまい、ウルトラファインバブルの生成に不利になってしまう。
また、回転翼22の上端縁22aが、液面Levの鉛直方向下位10mmを超えた下位の位置にあると、液面Levの変動が乏しく、液中に取り込まれる気体が少な過ぎて、気泡が発生し難くなってしまう。
【0043】
従って、本実施形態にあっては、回転翼22の上端縁22aが、処理容器Cに収容された液体Liqの液面Levの鉛直方向上位10mm以内、又は鉛直方向下位10mm以内の位置にあるように、液流せん断モジュール2を液体Liqに浸漬させて、液流せん断モジュール2と超音波発生モジュール3とを動作させることによって、ファインバブル、特に、ウルトラファインバブルを効率良く製造することができる。
【実施例
【0044】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0045】
[実施例1]
図1に示す装置1を用いて、300mLビーカーに収容された水(135mL)に、その液面Levの鉛直方向下位5mmに回転翼22の上端縁22aが位置するように、液流せん断モジュール2を浸漬させて、回転翼22を4000rpmで回転させるとともに、超音波発生モジュール3を動作させて、ビーカー内に誘起された液流に40kHzの超音波を印加した。
装置1の詳細は、以下の通りである。
・カバー体21:直径(外径)33.6mm、内径:31.6mm、高さ17.7mm、厚さ1.0mm
・回転翼22の高さ:12.7mm
・回転翼22の回転直径:31.2mm
・カバー体21の内周面と回転翼22の先端との間隙d:0.2mm
・通液孔20の直径:1.5mm
・隣接する通液孔20の中心間距離:2.9mm
・カバー体21の内周面の面積に対する通液孔20の面積の総和の割合:24%
【0046】
10分経過後に装置1を停止して、液中に生成したファインバブルの粒径分布を計測した。その結果を図4に示す。計測には、ナノサイトNS300(マルバーン・パナリティカル社製:「ナノサイト」は登録商標)を使用した。
実施例1より、本発明によれば、よりコンパクトで、かつ、簡易な装置構成で、ファインバブル(ウルトラファインバブル)が大量に製造できることが分かる。
【0047】
[比較例1]
UFB三誠コーポ株式会社製ウルトラファインバブル発生装置「モータ回転式 UFB Generator」(型番Δ1.5VC、当該装置のモータ以外の部分を図5に示す)を用いて、当該装置用の容器に330mLの水を入れ、液面が回転翼上部より0.2cm下の位置になる所定の位置に浸漬させ、当該装置を2540rpmで回転させた。8分経過後に装置を停止して、実施例1と同じ方法で液中に生成したファインバブルの粒径分布を計測した。結果を図6に示す。
【0048】
実施例1(図4)と比較例1(図6)の対比により、本発明のファインバブルの製造装置及び製造方法によれば、より粒径の小さいファインバブル(ウルトラファインバブル)がより大量に製造できることが分かる。
【0049】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、食品・飲料水分野、洗浄分野、医療・薬品分野、化粧品分野、農業・植物栽培分野、水処理分野、化学分野、液晶・半導体・太陽電池製造分野、新機能材料製造分野等の幅広い技術分野で利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 装置(ファインバブルの製造装置)
2 液流せん断モジュール
20 通液孔
21 カバー体
22 回転翼
22a 回転翼の天板側の端縁(上端縁)
23 回転軸
24 天板
3 超音波発生モジュール
C 処理容器
T 載置台
Liq 液体
Lev 液面
図1
図2
図3
図4
図5
図6