IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-熱輸送装置および熱交換ユニット 図1
  • 特許-熱輸送装置および熱交換ユニット 図2
  • 特許-熱輸送装置および熱交換ユニット 図3
  • 特許-熱輸送装置および熱交換ユニット 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】熱輸送装置および熱交換ユニット
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
F28D15/02 104A
F28D15/02 M
F28D15/02 102C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020035087
(22)【出願日】2020-03-02
(65)【公開番号】P2021139513
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】高田 早紀
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-050370(JP,U)
【文献】特許第6647439(JP,B1)
【文献】特開2013-130379(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1593892(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D15/02
H01M10/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相の作動流体が充填された内部空間をもつ密閉容器に、
前記液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から供給される前記気相の作動流体を凝縮して液相の作動流体に相変化させる凝縮部と
を有し、前記蒸発部と前記凝縮部との間を、前記作動流体が相変化して移動することによって熱輸送するように構成される熱輸送装置において、
前記内部空間に充填された前記液相の作動流体は、
水からなる第1冷媒と、
前記第1冷媒には難溶または不溶であり、前記第1冷媒よりも融点が低くかつ前記第1冷媒よりも比重が小さい第2冷媒と
を含
前記第2冷媒は、アルカン、シクロアルカンおよび芳香族炭化水素のうち少なくともいずれかである、熱輸送装置。
【請求項2】
前記第1冷媒および前記第2冷媒は、相分離している、請求項1に記載の熱輸送装置。
【請求項3】
前記第2冷媒は、シクロペンタンである、請求項1または2に記載の熱輸送装置。
【請求項4】
前記第2冷媒の沸点は、200℃未満である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項5】
前記第2冷媒の沸点は、0℃より高い、請求項1からまでのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項6】
前記第2冷媒の融点は、-40℃以下である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項7】
前記液相の作動流体を構成する、液相の前記第2冷媒の体積割合(%)は、全液相の5%未満の範囲である、請求項1から6までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の熱輸送装置を備え、
前記密閉容器は、
前記蒸発部に、前記液相の作動流体を加熱して蒸発させる加熱手段を有し、
前記凝縮部に、前記気相の作動流体を冷却して凝縮させる冷却手段を有する、熱交換ユニット。
【請求項9】
前記加熱手段が熱的に接続されるベースブロックであり、
前記冷却手段が、前記密閉容器の前記凝縮部に複数並列して設けられる冷却フィンである、請求項8に記載の熱交換ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送装置および熱交換ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車や電気自動車などの次世代自動車や高速鉄道車両などの各種車両に搭載される電力変換装置(インバータ)およびリチウムイオン電池の放熱・均熱化を図るため、密閉のコンテナに封入された作動流体が相変化する際の潜熱を利用して発熱体を冷却し、そこから離隔した位置に熱輸送を行う熱輸送装置が用いられている。
【0003】
ここで、熱輸送装置は、作動流体が封入された内部空間を有する密閉容器(コンテナ)を備える。密閉容器は、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを有する。蒸発部で液相から気相に相変化させた作動流体は、蒸発部から凝縮部に流れる。凝縮部で気相から液相に相変化させた作動流体は、凝縮部から蒸発部に流れる。このようにして、密閉容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体が循環することによって、密閉容器内の蒸発部と凝縮部の間で熱輸送を行っている。このような熱輸送装置の作動流体としては、潜熱(特に蒸発熱)が大きい水を用いるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、このような水を作動流体とする熱輸送装置を、寒冷地、例えば-40℃以下になるような低温環境下で使用される各種車両に搭載する場合、熱輸送装置の凝縮部で気相から液相へ相変化した作動流体が凍結することで、熱輸送装置の熱輸送機能が低下する傾向があり、最悪の場合には、熱輸送装置が起動しなくなるという問題がある。
【0005】
寒冷地でも熱輸送機能を有する熱輸送装置としては、例えば特許文献1に記載されている。特許文献1の熱輸送装置(沸騰冷却装置)は、作動流体として、水とエタノールの混合液を用い、この作動流体を内部空間に充填する構成を有する。エタノールは、水よりも蒸発熱が小さいものの、他のアルコール類と比べると大きいため、混合液としての蒸発熱は比較的大きくなり、また、作動流体の融点が0℃よりも低くなるため、特許文献1には、上記混合液を作動流体として用いることによって、バーンアウト(膜沸騰)を防止しつつ、作動流体の凍結を防止することができる熱輸送装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2010/055621号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水とエタノールの混合液からなる作動流体を、常温(例えば5~40℃)環境下で使用した場合には、水のみからなる作動流体と比べると、蒸発熱が小さくなって、熱輸送性能が劣るという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、例えば5~40℃の常温環境下から低温環境下までを含む広い温度範囲での使用環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能を維持することができる熱輸送装置と、それを備えた熱交換ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱輸送装置の内部空間に充填する作動流体として、水からなる第1冷媒と、この第1冷媒には難溶または不溶であり、第1冷媒よりも融点が低くかつ第1冷媒よりも比重が小さい第2冷媒とを併用して、相分離した状態の冷媒を作動流体として用いることで、常温環境下および低温環境下の両方を含む広い温度範囲での使用環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能を維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)液相の作動流体が充填された内部空間をもつ密閉容器に、前記液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、前記蒸発部から供給される前記気相の作動流体を凝縮して液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを有し、前記蒸発部と前記凝縮部との間を、前記作動流体が相変化して移動することによって熱輸送するように構成される熱輸送装置において、前記内部空間に充填された前記液相の作動流体は、水からなる第1冷媒と、前記第1冷媒には難溶または不溶であり、前記第1冷媒よりも融点が低くかつ前記第1冷媒よりも比重が小さい第2冷媒とを含む、熱輸送装置。
(2)前記第1冷媒および前記第2冷媒は、相分離している、上記(1)に記載の熱輸送装置。
(3)前記第2冷媒は、アルカン、シクロアルカンおよび芳香族炭化水素のうち少なくともいずれかである、上記(1)または(2)に記載の熱輸送装置。
(4)前記第2冷媒は、シクロペンタンである、上記(1)から(3)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
(5)前記第2冷媒の沸点は、200℃未満である、上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
(6)前記第2冷媒の沸点は、0℃より高い、上記(1)から(5)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
(7)前記第2冷媒の融点は、-40℃以下である、上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置。
(8)上記(1)から(7)までのいずれか1項に記載の熱輸送装置を備え、前記密閉容器は、前記蒸発部に、前記液相の作動流体を加熱して蒸発させる加熱手段を有し、前記凝縮部に、前記気相の作動流体を冷却して凝縮させる冷却手段を有する、熱交換ユニット。
(9)前記加熱手段が熱的に接続されるベースブロックであり、前記冷却手段が、前記密閉容器の前記凝縮部に複数並列して設けられる冷却フィンである、上記(8)に記載の熱交換ユニット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば5~40℃の常温環境下から低温環境下までを含む広い温度範囲での使用環境下であっても、安定した良好な熱輸送機能を維持することができる熱輸送装置と、それを備えた熱交換ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明に従う熱輸送装置を備えた熱交換ユニットの概略断面図であって、熱輸送装置の内部に充填された作動流体の常温環境下での状態を示す。
図2図2は、本発明に従う熱輸送装置を備えた熱交換ユニットの概略断面図であって、熱輸送装置の内部に充填された作動流体の低温環境下での状態を示す。
図3図3は、図1の常温環境下での熱輸送装置の内部で生じる作動流体の流れを説明するための概念図である。
図4図4は、図2の低温環境下での熱輸送装置の内部で生じる作動流体の流れを説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施形態について、以下で説明する。
【0014】
<熱輸送装置の実施形態>
図1は、本発明に従う熱輸送装置を備えた熱交換ユニットの概略断面図であって、熱輸送装置の内部に充填された作動流体の常温環境下での状態を示す。また、図2は、本発明に従う熱輸送装置を備えた熱交換ユニットの概略断面図であって、熱輸送装置の内部に充填された作動流体の低温環境下での状態を示す。さらに、図3は、図1の常温環境下の熱輸送装置の内部で生じる作動流体の流れを説明するための概念図である。また、図4は、図2の低温環境下の熱輸送装置の内部で生じる作動流体の流れを説明するための概念図である。
【0015】
(密閉容器)
図1図4に示す熱輸送装置1は、液相の作動流体Fが充填された内部空間Sを有する密閉容器2を備えている。
【0016】
密閉容器2は、所要量の液相の作動流体F(L)を保持できるものであれば特に限定されない。例えば、密閉容器2は、図1および図2に構造を示すように、液相の作動流体F(L)が充填される筒状の収容部2aと、収容部2aの上部の離隔した位置からそれぞれ上方に向かって延出する筒状の延設部2b、2cによって構成される。また、密閉容器2は、コンテナなどの単一の部材によって構成されていてもよい。
【0017】
密閉容器2の肉厚は、特に限定されないが、例えば0.05~1mmである。また、密閉容器2を構成する延設部2b、2cは、延出方向に対して直交方向に切断したときの外面輪郭形状が、略円形状の他、扁平形状、四角形などの多角形状などであってもよく、特に限定されない。また、密閉容器2を構成する延設部2b、2cの外径寸法は、特に限定されないが、例えば5~20mmの範囲にすることができる。
【0018】
密閉容器2の材質は、特に限定されない。本実施形態では、密閉容器2の外周に設けられた蒸発部3や凝縮部4を介して、密閉容器2の内部に保持された液相の作動流体F(L)と熱のやり取りを行うため、金属材料を使用することが好ましい。特に、優れた熱伝導率を有する点から、密閉容器2には、例えば、銅、銅合金などを使用することができる。また、軽量化の点から、密閉容器2には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金などを使用することができる。また、高強度を有する点から、密閉容器2には、例えば、ステンレス鋼などを使用することができる。また、その他、使用状況に応じて、密閉容器2には、例えば、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などを用いてもよい。
【0019】
(蒸発部および凝縮部)
密閉容器2は、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相に相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から供給される気相の作動流体Fを凝縮させて液相に相変化させる凝縮部4とを有する。図1図4に示す熱輸送装置1の密閉容器2は、液相の作動流体F(L)が収容される収容部2aに蒸発部3を、収容部2aの上側に構成される延設部2b、2cに凝縮部4を有し、密閉容器2の全体を密閉して構成している。
【0020】
このうち、蒸発部3は、図1では、密閉容器2の収容部2aに形成されており、発熱体など(図示せず)に熱的に接続されたベースブロック5などの加熱手段から受熱(吸熱)して、液相の作動流体F(L)を気相に相変化する機能を有する。より具体的には、蒸発部3は、図3に記載されるように、液相の作動流体F(L)として、後述する液相の第1冷媒F1(L)や液相の第2冷媒F2(L)を蒸発させて、気相の第1冷媒F1(g)や気相の第2冷媒F2(g)に相変化させることで、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0021】
また、凝縮部4は、蒸発部3から上部の離隔した位置に配設されることが好ましく、例えば図1では延設部2b、2cに配設されることが好ましい。この凝縮部4は、蒸発部3で気相に相変化して輸送されてきた気相の作動流体を、熱交換手段(図示せず)によって放熱する機能を有している。より具体的には、凝縮部4は、図3に記載されるように、気相の作動流体である、気相の第1冷媒F1(g)や気相の第2冷媒F2(g)を凝縮させて、液相の第1冷媒F1(L)や液相の第2冷媒F2(L)に相変化させ、それにより凝縮潜熱として作動流体によって輸送された熱を、熱輸送装置1の外部に放出する。
【0022】
このように、熱輸送装置1の蒸発部3と凝縮部4は、液相の作動流体F(L)が相変化して移動することによって、蒸発部3と凝縮部4との間を熱輸送するように構成される。
【0023】
なお、密閉容器2を作製する方法は、特に限定されないが、延設部2b、2cのうち一方の端部を封入口として残して密閉し、この封入口から、液相の第1冷媒F1(L)および液相の第2冷媒F2(L)を注入し、密閉容器2の内部を脱気して減圧状態とし、その後、封入口を封止することで熱輸送装置1を作製することができる。
【0024】
(作動流体)
本実施形態に係る熱輸送装置1において、密閉容器2の内部空間Sに充填される液相の作動流体F(L)は、水からなる第1冷媒と、この第1冷媒には難溶または不溶であり、第1冷媒よりも融点が低く、かつ第1冷媒よりも比重が小さい第2冷媒とを含む。この液相の作動流体F(L)は、作動前の熱輸送装置1における密閉容器2の収容部2aに液体の状態で充填されているとき、第1冷媒が下側、第2冷媒が上側になるように存在している。このとき、第1冷媒と第2冷媒は、混合されずに、独立した相としてそれぞれ存在することが好ましい。すなわち、第1冷媒と第2冷媒は、相分離していることが好ましい。したがって、例えば図2および図4に示すように、凝縮部4で液相の第1冷媒F1(L)が凍結して固相の第1冷媒F1(S)を形成し、それにより液相の第1冷媒F1(L)が収容部2aに戻らなくなるような低温環境下(例えば-40℃以下の環境下)であっても、第1冷媒よりも融点が低い第2冷媒が、蒸発部3と凝縮部4との間を相変化して移動できる結果、熱輸送性能を維持することが可能になる。その結果、本実施形態に係る熱輸送装置1は、特に低温環境下で用いる場合であっても、安定した良好な熱輸送機能を得ることができる。
【0025】
密閉容器2の内部空間Sに充填される液相の作動流体F(L)を構成する、液相の第2冷媒F2(L)の体積割合(%)は、特に限定されないが、常温環境下における熱輸送機能を高める観点から、全液相の5%未満の範囲であることが好ましい。
【0026】
また、第1冷媒が液体の状態になる常温環境下では、例えば図1および図3に示すように、第1冷媒と第2冷媒がそれぞれ独立して、蒸発と凝縮を繰り返す。その結果、本実施形態に係る熱輸送装置1は、常温環境下では、作動流体として第1冷媒のみを用いる場合と同程度の、安定した良好な熱輸送機能を奏することができる。
【0027】
(第1冷媒)
このうち、第1冷媒としては、水を用いる。これにより、非水系の第2冷媒と組み合わせたときに、相分離させ易くすることができ、かつ密閉容器2などとの化学反応を抑えることができる。
【0028】
本発明における「相分離」は、液体の状態で、冷媒である第1冷媒および第2冷媒が、少なくとも2層に分かれていることをいう。ここで、相分離しているか否かの判断は、目視による観察により行う。より具体的には、熱輸送装置1の中の冷媒を透明な容器に移し換え、色の変化が全くなくなった後に、この容器の中にある冷媒を目視により観察する。この観察により、冷媒が相分離しているか否かを判断する。このとき、色の異なる相や、界面の有無を判断基準にして、冷媒が相分離しているか否かを判断する。ただし、色の違いが判別しにくく、界面が明確に表れない冷媒の場合には、異なる深さで冷媒の成分を分析して、分離しているか否かを判断することもできる。なお、第1冷媒の相と第2冷媒の相が存在すれば、それらの間に第1冷媒と第2冷媒が分離しきれていない中間層ができている場合でも、第1冷媒と第2冷媒に相分離している、と判断してもよい。
【0029】
(第2冷媒)
第2冷媒としては、第1冷媒には難溶または不溶であり、第1冷媒よりも融点が低く、かつ第1冷媒よりも比重が小さいものを用いる。これにより、第1冷媒と第2冷媒を、融点の低い第2冷媒が上側になるように分離させることができる。
【0030】
ここで、第2冷媒は、融点が0℃未満である化合物である。特に、第2冷媒の融点は、-20℃以下であることが好ましく、-40℃以下であることがより好ましい。このように融点の低い第2冷媒を用いることで、低温環境下で第1冷媒である水が凍結した場合であっても、第2冷媒が凍結しない温度範囲では、第2冷媒を液相の作動流体F(L)として作動させることができる。そのため、より低温でも動作させることが可能な熱輸送装置1を得ることができる。特に、第2冷媒の融点が-40℃以下であることで、従来は凍結のために用いることが困難であった-40℃以下の低温環境下でも、熱輸送装置1を安定して動作させることができる。
【0031】
また、第2冷媒の沸点は、特に限定されず、例えば沸点が200℃未満のものを用いることができる。その中でも、第1冷媒である水よりも先に第2冷媒を蒸発させ、それにより第1冷媒のみが蒸発部3にある状態により近づける観点では、第2冷媒の沸点は、100℃未満であることが好ましい。他方で、第1冷媒である水を、第2冷媒より優先的に蒸発させる観点では、第2冷媒の沸点は、100℃以上であってもよい。加えて、熱輸送装置1が動作しない温度域が生じないようにする観点では、第2冷媒の沸点は、0℃より高いことが好ましい。
【0032】
第2冷媒は、第1冷媒である水に対して難溶または不溶の化合物である。より具体的に、第2冷媒は、水に対する溶解度が0.1g/L以下であることが好ましく、水に対して不溶であることがより好ましい。これにより、第1冷媒である水と組み合わせたときに、2相に分離させることができる。
【0033】
また、第2冷媒の比重は、第1冷媒である水の比重よりも小さい。より具体的には、第2冷媒は、比重が1未満であることが好ましい。他方で、第2冷媒の比重は、0.5以上であることが好ましい。これにより、低温環境下で液相の作動流体F(L)に含まれる第1冷媒が凍結したときに、凍結した第1冷媒が第2冷媒の下側に位置するため、第2冷媒の蒸発をより円滑に行うことができる。
【0034】
また、第2冷媒の蒸発潜熱は、高いことが好ましい。より具体的には、第2冷媒は、蒸発潜熱が100[kJ/kg]以上であることが好ましい。これにより、第2冷媒の蒸発および凝縮によって移動する熱量を増加させることができる。
【0035】
第2冷媒の化学構造は、特に限定されず、密閉容器2や第1冷媒である水との反応性を有さず、水に対して難溶または不溶であり、水よりも融点が低く、かつ水よりも比重が小さい化合物の中から適宜選択することができる。その中でも、第1冷媒への第2冷媒の混入を防ぐ観点では、第2冷媒が、アルカン、シクロアルカンおよび芳香族炭化水素のうち少なくともいずれかを含むことが好ましい。
【0036】
第2冷媒の具体例としては、例えばシクロペンタン(融点:-94℃、沸点:49℃、比重:0.751、蒸発潜熱:389kJ/kg、水に不溶)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0037】
<熱交換ユニットの実施形態>
図1図4に示す熱交換ユニット10は、上述の熱輸送装置1を備えるとともに、熱輸送装置1の密閉容器2の外周面のうち、蒸発部3に液相の作動流体F(L)を加熱して蒸発させる加熱手段を有し、凝縮部4に気相の作動流体(気相の第1冷媒F1(g)や気相の第2冷媒F2(g))を冷却して凝縮させる冷却手段を有する。
【0038】
(加熱手段)
このうち、液相の作動流体F(L)を加熱して蒸発させる加熱手段としては、発熱体などに熱的に接続されたベースブロック5が挙げられる。
【0039】
ベースブロック5は、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金などの金属材料で構成された板体である。このベースブロック5は、図1および図2に示すように、蒸発部3がある熱輸送装置1の下側の部位に固定される。このようなベースブロック5を設けることで、発熱体における熱が、ベースブロック5を介して蒸発部3に速やかに伝えられるため、熱交換ユニット10を用いて発熱体を効率よく冷却することができる。
【0040】
(冷却手段)
また、凝縮部4に気相の作動流体を冷却して凝縮させる冷却手段としては、冷却フィン6が挙げられる。
【0041】
冷却フィン6は、例えば薄い平板形状を有するアルミニウムなどの金属材料からなる単数または複数の板体によって構成され、凝縮部4に複数並列して設けられる。この冷却フィン6は、図1および図2に示すように、凝縮部4がある熱輸送装置1の上側の部位に固定される。このような冷却フィン6を設けることで、より多くの熱が、凝縮部4から冷却フィン6を介して熱交換ユニット10の外部に放出されるため、凝縮部4における作動流体の気相から液相への相変化を促進することができる。
【0042】
このほか、熱交換ユニット10は、冷却フィン6に向けて空気を流通させるダクト部材(図示せず)を設けてもよい。
【0043】
<熱輸送装置における熱輸送のメカニズム>
次に、本発明の熱輸送装置1の熱輸送のメカニズムを、図1図4を用いて以下で説明する。
【0044】
(常温環境下における熱輸送)
本発明の熱輸送装置1は、作動前の常温環境下においては、液相の作動流体F(L)として、液相の第1冷媒F1(L)である水と、この第1冷媒と相分離する液相の第2冷媒F2(L)が保持されている。
【0045】
ここで、熱輸送装置1の蒸発部3が、発熱体に熱的に接続されたベースブロック5などの加熱手段から受熱すると、蒸発部3に保持されている液相の第1冷媒F1(L)および液相の第2冷媒F2(L)を蒸発させて気相の作動流体(気相の第1冷媒F1(g)および気相の第2冷媒F2(g))に相変化することによって、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0046】
蒸発部3で熱を吸収した気相の第1冷媒F1(g)および気相の第2冷媒F2(g)は、密閉容器2の内部空間Sである蒸気流路を通って、密閉容器2の蒸発部3から凝縮部4に流れることで、加熱手段(ベースブロック5)で受けた熱が、蒸発部3から凝縮部4へと輸送される。
【0047】
その後、凝縮部4へ輸送された気相の第1冷媒F1(g)および気相の第2冷媒F2(g)は、凝縮部4にて、冷却フィン6などの冷却手段によって冷却されて、液相に相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱として熱輸送装置1の外部に放出される。そして、凝縮部4で熱を放出して液相に相変化した液相の第1冷媒F1(L)および液相の第2冷媒F2(L)が、密閉容器2の内周面に沿って、凝縮部4から蒸発部3に流れることで、蒸発部3と凝縮部4の間で作動流体を循環することができる。
【0048】
(低温環境下における熱輸送)
また、本発明の熱輸送装置1は、低温環境下においては、液相の作動流体F(L)として、融点の低い液相の第2冷媒F2(L)は液相状態を維持している。一方、液相の第1冷媒F1(L)は、凝縮部4において冷却されると凍結することで、固相の第1冷媒F1(S)を生成して密閉容器2の凝縮部4の内壁面に付着した状態で留まってしまう可能性がある。その場合、固相の第1冷媒F1(S)が、液相の状態に相変化し難くなり、かつ蒸発部3に移動し難くなることで、熱輸送性能が低下する可能性がある。
【0049】
ここで、熱輸送装置1の蒸発部3が、発熱体に熱的に接続されたベースブロック5などの加熱手段から受熱すると、蒸発部3に保持されている液相の第2冷媒F2(L)を蒸発させて気相の作動流体(気相の第2冷媒F2(g))に相変化することによって、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0050】
蒸発部3で熱を吸収した気相の第2冷媒F2(g)は、密閉容器2の内部空間Sである蒸気流路を通って、密閉容器2の蒸発部3から凝縮部4に流れることで、加熱手段(ベースブロック5)で受けた熱が、蒸発部3から凝縮部4へと輸送される。
【0051】
その後、凝縮部4へ輸送された気相の第2冷媒F2(g)は、凝縮部4にて、冷却フィン6などの冷却手段によって冷却されて、液相に相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱として熱輸送装置1の外部に放出される。そして、凝縮部4で熱を放出して液相に相変化した液相の第2冷媒F2(L)が、密閉容器2の内周面(または固相の第1冷媒F1(S)の内周面)に沿って、凝縮部4から蒸発部3に流れることで、蒸発部3と凝縮部4の間で作動流体を循環することができる。それとともに、固相の第1冷媒F1(S)を融解して液相の第1冷媒F1(L)に相変化させることで、第1冷媒を蒸発部3に流すこともできる。
【0052】
このようにして、本発明の熱輸送装置1では、低温環境下で用いる場合と常温環境下で用いる場合の両方において、安定した良好な熱輸送機能をもたらすことができる。特に、常温環境下で用いる場合には、液相の第1冷媒F1(L)と液相の第2冷媒F2(L)とを相分離させることで、液相の第1冷媒F1(L)の特性が損なわれ難くなるため、より優れた熱輸送機能をもたらすことができる。
【0053】
さらに、低温環境下では、第1冷媒F1が凝縮部4で凍結して固相の第1冷媒F1(S)になっていても、気相の第2冷媒F2(g)によって固相の第1冷媒F1(S)が溶解される場合がある。このとき、溶解された第1冷媒F1は、液相の第1冷媒F1(L)に相変化して、蒸発部3に移動することで、熱輸送に供される。すなわち、低温環境下では、固相の第1冷媒F1(S)が気相の第2冷媒F2(g)によって溶解されることでも、熱輸送に寄与することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0055】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0056】
(本発明例)
本発明例の熱輸送装置は、図1に示す構造を有する、密閉容器2が収容部2aおよび延設部2b、2cを有する熱輸送装置1である。密閉容器2の収容部2aの上面に、円筒形状の延設部2b、2cを設けた。そして、延設部2b、2cのうち一方の端部を封入口として残して封止し、この封入口から、液相の作動流体F(L)として、7gの第1冷媒である水と、0.4gの第2冷媒であるシクロペンタンを注入した。次いで、密閉容器2の内部を脱気して減圧状態とし、その後、封入口を封止することで熱輸送装置1を作製した。本発明例の熱輸送装置1は、-40℃の低温環境下でも熱輸送装置として動作した。
【0057】
(比較例)
比較例の熱輸送装置は、液相の作動流体F(L)として低融点化合物を用いることなく、封入口から液相の作動流体F(L)として水のみを注入した。それ以外は、本発明例1の熱輸送装置と同様な構成になるようにして作製した。比較例の熱輸送装置では、-40℃の低温環境下では熱輸送装置として動作しなかった。
【符号の説明】
【0058】
1 熱輸送装置
2 密閉容器(またはコンテナ)
2a 収容部
2b、2c 延設部
3 蒸発部
4 凝縮部
5 ベースブロック
6 冷却フィン
10 熱交換ユニット
F(L) 液相の作動流体
F1(S) 固相の第1冷媒
F1(L) 液相の第1冷媒
F1(g) 気相の第1冷媒
F2(L) 液相の第2冷媒
F2(g) 気相の第2冷媒
S 内部空間
図1
図2
図3
図4