(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】距離計算装置、距離測定システム、距離計算プログラム及び距離計算方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/38 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
G01S13/38
(21)【出願番号】P 2020043792
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】菅 良太
(72)【発明者】
【氏名】西巻 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】菊池 陽太
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第01/55745(WO,A1)
【文献】特開2001-246962(JP,A)
【文献】特開平06-150195(JP,A)
【文献】国際公開第2004/095059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/42
G01S 13/00 - G01S 13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の各周波数の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する周波数変換部と、
前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択するピーク選択部と、
前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算する距離計算部と、
前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離
(ただし、当該最も近い距離は、前記所望の距離範囲に含まれることもあり、前記所望の距離範囲に含まれないこともある。)を選択する距離選択部と、
前記距離選択部が選択した距離の出力の可否を判定する距離出力部と、を備え
、
前記距離出力部は、(1)前記距離選択部が最新に選択した距離が、前記距離出力部が直近に出力した距離と比べて、所定の変動範囲内であるときに、前記距離選択部が最新に選択した距離を出力し、(2)前記距離選択部が最新に選択した距離が、前記距離出力部が直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、所定の期間も未だ継続しないときに、前記距離選択部が最新に選択した距離に代えて、前記距離出力部が直近に出力した距離を出力し、(3)前記距離選択部が最新に選択した距離が、前記距離出力部が直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、前記所定の期間以上も継続するときに、前記距離選択部が最新に選択した距離を出力する
ことを特徴とする距離計算装置。
【請求項2】
前記ピーク選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で前記複数の振幅ピークを選択し、
前記距離計算部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算し、
前記距離選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、前記所望の距離範囲に含まれる前記所望の距離に最も近い距離
(ただし、当該最も近い距離は、前記所望の距離範囲に含まれることもあり、前記所望の距離範囲に含まれないこともある。)を選択する
ことを特徴とする、請求項
1に記載の距離計算装置。
【請求項3】
前記ピーク選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が最も大きい単数の振幅ピークを選択し、
前記距離計算部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記単数の振幅ピークにおいて位相の差分を計算したうえで、前記単数の振幅ピークにおいて距離を計算し、
前記距離選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記単数の振幅ピークにおいて計算された距離をそのまま選択する
ことを特徴とする、請求項
1又は
2に記載の距離計算装置。
【請求項4】
前記距離出力部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記所定の変動範囲を前記所望の距離範囲より狭い範囲に設定する
ことを特徴とする、請求項
1から
3のいずれかに記載の距離計算装置。
【請求項5】
前記距離出力部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときと比べて、前記所定の変動範囲をより広い範囲に設定する
ことを特徴とする、請求項
1から
4のいずれかに記載の距離計算装置。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれかに記載の距離計算装置と、
前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記送信波を送信し、前記受信波を受信し、前記ドップラー信号を生成するビーム送受信装置と、
を備えることを特徴とする距離測定システム。
【請求項7】
複数の各周波数の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する周波数変換ステップと、
前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択するピーク選択ステップと、
前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算する距離計算ステップと、
前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離
(ただし、当該最も近い距離は、前記所望の距離範囲に含まれることもあり、前記所望の距離範囲に含まれないこともある。)を選択する距離選択ステップと、
前記距離選択ステップが選択した距離の出力の可否を判定する距離出力ステップと、
を順にコンピュータに実行させ
、
前記距離出力ステップは、(1)前記距離選択ステップが最新に選択した距離が、前記距離出力ステップが直近に出力した距離と比べて、所定の変動範囲内であるときに、前記距離選択ステップが最新に選択した距離を出力し、(2)前記距離選択ステップが最新に選択した距離が、前記距離出力ステップが直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、所定の期間も未だ継続しないときに、前記距離選択ステップが最新に選択した距離に代えて、前記距離出力ステップが直近に出力した距離を出力し、(3)前記距離選択ステップが最新に選択した距離が、前記距離出力ステップが直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、前記所定の期間以上も継続するときに、前記距離選択ステップが最新に選択した距離を出力する
ことを特徴とする距離計算プログラム。
【請求項8】
複数の各周波数の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する周波数変換ステップと、
前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択するピーク選択ステップと、
前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算する距離計算ステップと、
前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離
(ただし、当該最も近い距離は、前記所望の距離範囲に含まれることもあり、前記所望の距離範囲に含まれないこともある。)を選択する距離選択ステップと、
前記距離選択ステップが選択した距離の出力の可否を判定する距離出力ステップと、
を順に備え
、
前記距離出力ステップは、(1)前記距離選択ステップが最新に選択した距離が、前記距離出力ステップが直近に出力した距離と比べて、所定の変動範囲内であるときに、前記距離選択ステップが最新に選択した距離を出力し、(2)前記距離選択ステップが最新に選択した距離が、前記距離出力ステップが直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、所定の期間も未だ継続しないときに、前記距離選択ステップが最新に選択した距離に代えて、前記距離出力ステップが直近に出力した距離を出力し、(3)前記距離選択ステップが最新に選択した距離が、前記距離出力ステップが直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、前記所定の期間以上も継続するときに、前記距離選択ステップが最新に選択した距離を出力する
ことを特徴とする距離計算方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FSKドップラーセンサを用いて距離を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FSKドップラーセンサを用いて距離を測定する技術が、特許文献1等に開示されている。FMCWセンサは、広範に周波数を掃引する必要があるため、構成上高コストでありかつ消費電力が大きいが、FSKドップラーセンサは、数個の周波数を切り換えるのみでよく、構成上低コストでありかつ消費電力が小さい。
【0003】
従来技術の理想条件下の距離計算処理を
図1に示す。理想条件下では、例えば、対象物Tのみが、空間内に存在しており、一定の運動をしている。よって、
図3で後述する対象物Tの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外である可能性が低く、マルチパス及び他の対象物の存在の可能性も低い。
【0004】
図1の左上欄から左下欄では、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する。すると、各周波数変換結果は、単数の振幅ピークを有する。
図1の右下欄では、各周波数F
1、F
2の測距用ビームの間について、単数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1)において、位相の差分φ
11-φ
12を計算したうえで、単数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1)において、距離R={c(φ
11-φ
12)}/{4π(F
1-F
2)}を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
FSKドップラーセンサは、電化製品の省エネルギー(電源のオン/オフ)及びセキュリティの確保(警報の出力/非出力)等のために、電化製品の使用者及び立入禁止領域の侵入者等が、所望の距離範囲内に存在するかどうかを検出することができる。
【0007】
従来技術の実際条件下の距離計算処理を
図2及び
図3に示す。実際条件下では、例えば、使用者Uが、個室P内に存在しており、不規則な運動をしており、歩行者Wが、個室P外に存在しており、測距用ビームを横切っている。よって、
図3で後述する使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外である可能性が高く、マルチパス及び他の対象物の存在の可能性も高い。
【0008】
図3では、使用者Uが、基本的には一定の運動をしているものの、測距用ビームの反射部位のばらつき等に応じて、一時的にはほぼ停止をしているように見える。
【0009】
期間t1、t3、t5では、使用者Uが一定の運動をしているように見える。よって、各周波数F1、F2の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー周波数は、十分に高い。そして、各周波数F1、F2の測距用ビームの間について、位相の差分φ11-φ12を高精度に計算することができ、距離Rも高精度に計算することができる。
【0010】
期間t2、t4では、使用者Uがほぼ停止をしているように見える。よって、各周波数F1、F2の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー周波数は、ほぼ0である。そして、各周波数F1、F2の測距用ビームの間について、位相の差分φ11-φ12を高精度に計算できず又はほぼ0とし、距離Rも高精度に計算できず又はほぼ0とする。
【0011】
図2の左上欄から左下欄では、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する。すると、各周波数変換結果は、マルチパス及び他の対象物の存在のため、複数の振幅ピークを有する可能性がある。たとえ、各周波数変換結果が、単数の振幅ピークしか有さないとしても、使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外である可能性がある。よって、振幅ピークの選択では、使用者Uまでの正確な距離検出が困難である。
【0012】
図2の右下欄では、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、各周波数変換結果からとりあえず単数の最大ピーク(ドップラー周波数f
1)を選択する。そして、各周波数F
1、F
2の測距用ビームの間について、単数の最大ピーク(ドップラー周波数f
1)において、位相の差分φ
11-φ
12を計算したうえで、単数の最大ピーク(ドップラー周波数f
1)において、距離R={c(φ
11-φ
12)}/{4π(F
1-F
2)}を計算する。
【0013】
ここで、
図2と異なり、個室P内の使用者Uの速度が遅い可能性が高いことを考慮して、単数の最低周波ピークを選択することも考えられる。しかし、個室P内の使用者Uの速度が速い可能性もあり、個室P外の歩行者Wの速度が(ドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であるため)遅く見える可能性もあり、個室P外の歩行者Wの速度が遅い可能性もあり、個室Pの天井、壁面及び床面でマルチパスが生じる可能性もあり、最低周波ピークの選択では、使用者Uまでの正確な距離検出が困難である。
【0014】
そこで、
図2のように、個室P内の使用者Uの距離が短い可能性が高いことを考慮して、単数の最大振幅ピークを選択することを考えている。しかし、個室P内の使用者Uの反射が弱い可能性もあり、個室P外の歩行者Wの反射が(ドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であるため)強く見える可能性もあり、個室P外の歩行者Wの反射が強い可能性もあり、個室Pの天井、壁面及び床面でマルチパスが生じる可能性もあり、最大振幅ピークの選択では、使用者Uまでの正確な距離検出が困難である。
【0015】
従来技術の実際条件下の距離計算結果を
図4に示す。
図4では、使用者Uが、個室P内に存在しており、不規則な運動をしており、歩行者Wが、個室P外に存在しており、測距用ビームを横切っている。すると、個室Pの大きさを約2mとして、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されるべきであるが、個室P外の歩行者Wの距離(約9m)、使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離(約3m及び約0m)及びマルチパスによる距離(約10m)が、瞬時に出力されている。そして、FSKドップラーセンサが失報又は誤報する可能性があり、電化製品及びセキュリティ等が誤作動する可能性がある。
【0016】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、FSKドップラーセンサを用いて対象物の距離を測定するにあたり、対象物の速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外である可能性があるとともに、マルチパス及び他の対象物の存在の可能性もあるとしても、対象物が所望の距離範囲内に存在するかどうかを瞬時の失報又は誤報もなく安定にかつ高精度に検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために、複数の各周波数の測距用ビームについて、ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択することとした。そして、複数の各周波数の測距用ビームの間について、複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択することとした。
【0018】
具体的には、本開示は、複数の各周波数の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する周波数変換部と、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択するピーク選択部と、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算する距離計算部と、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択する距離選択部と、を備えることを特徴とする距離計算装置である。
【0019】
また、本開示は、複数の各周波数の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する周波数変換ステップと、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択するピーク選択ステップと、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算する距離計算ステップと、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択する距離選択ステップと、を順にコンピュータに実行させるための距離計算プログラムである。
【0020】
また、本開示は、複数の各周波数の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する周波数変換ステップと、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピークを選択するピーク選択ステップと、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算する距離計算ステップと、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択する距離選択ステップと、を順に備えることを特徴とする距離計算方法である。
【0021】
これらの構成によれば、対象物の速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離、マルチパスによる距離及び他の対象物の距離を高精度に除外したうえで、目的の対象物の距離を高精度に選択することができる。よって、目的の対象物が所望の距離範囲内に存在するかどうかを、瞬時の失報又は誤報もなく、安定にかつ高精度に検出することができる。
【0022】
また、本開示は、前記距離選択部が選択した距離の出力の可否を判定する距離出力部をさらに備え、前記距離出力部は、(1)前記距離選択部が最新に選択した距離が、前記距離出力部が直近に出力した距離と比べて、所定の変動範囲内であるときに、前記距離選択部が最新に選択した距離を出力し、(2)前記距離選択部が最新に選択した距離が、前記距離出力部が直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、所定の期間も未だ継続しないときに、前記距離選択部が最新に選択した距離に代えて、前記距離出力部が直近に出力した距離を出力し、(3)前記距離選択部が最新に選択した距離が、前記距離出力部が直近に出力した距離と比べて、前記所定の変動範囲外である状態が、前記所定の期間以上も継続するときに、前記距離選択部が最新に選択した距離を出力することを特徴とする距離計算装置である。
【0023】
この構成によれば、対象物の速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離、マルチパスによる距離及び他の対象物の距離をより高精度に除外したうえで、目的の対象物の距離をより高精度に出力することができる。よって、目的の対象物が所望の距離範囲内に存在するかどうかを、瞬時の失報又は誤報もなく、より安定にかつより高精度に検出することができる。
【0024】
つまり、最新に選択した距離が直近に出力した距離と比べて大きく変動する状態が、瞬時的にしか継続しないときは、直近に出力した距離を再び出力することにより、出力する距離の安定を優先させることができる。一方で、最新に選択した距離が直近に出力した距離と比べて大きく変動する状態が、長期にわたり継続するときは、最新に選択した距離を新たに出力することにより、出力する距離の更新を優先させることができる。
【0025】
また、本開示は、前記ピーク選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で前記複数の振幅ピークを選択し、前記距離計算部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に位相の差分を計算したうえで、前記複数の振幅ピーク毎に距離を計算し、前記距離選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記複数の振幅ピーク毎に計算された距離から、前記所望の距離範囲に含まれる前記所望の距離に最も近い距離を選択することを特徴とする距離計算装置である。
【0026】
この構成によれば、直近に出力した距離が所望の距離範囲内であるときは、最新に選択する距離も所望の距離範囲内である可能性が高いところ、関心度が高い所望の距離範囲内での距離の選択について、本開示の高精度な方法を採用することができる。
【0027】
また、本開示は、前記ピーク選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が最も大きい単数の振幅ピークを選択し、前記距離計算部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記単数の振幅ピークにおいて位相の差分を計算したうえで、前記単数の振幅ピークにおいて距離を計算し、前記距離選択部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記複数の各周波数の測距用ビームの間について、前記単数の振幅ピークにおいて計算された距離をそのまま選択することを特徴とする距離計算装置である。
【0028】
この構成によれば、直近に出力した距離が所望の距離範囲外であるときは、最新に選択する距離も所望の距離範囲外である可能性が高いところ、関心度が低い所望の距離範囲外での距離の選択について、従来技術の簡便な方法を採用することができる。
【0029】
また、本開示は、前記距離出力部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときに、前記所定の変動範囲を前記所望の距離範囲より狭い範囲に設定することを特徴とする距離計算装置である。
【0030】
この構成によれば、直近に出力した距離が所望の距離範囲内であるときは、最新に選択する距離も所望の距離範囲内である可能性が高いところ、関心度が高く対象物が静止する所望の距離範囲内での距離の出力について、ばらつきをほぼ許容しないことができる。
【0031】
また、本開示は、前記距離出力部は、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲外であるときに、前記距離出力部が直近に出力した距離が、前記所望の距離範囲内であるときと比べて、前記所定の変動範囲をより広い範囲に設定することを特徴とする距離計算装置である。
【0032】
この構成によれば、直近に出力した距離が所望の距離範囲外であるときは、最新に選択する距離も所望の距離範囲外である可能性が高いところ、関心度が低く対象物が移動する所望の距離範囲外での距離の出力について、ばらつきをある程度許容することができる。
【0033】
また、本開示は、以上の距離計算装置と、前記複数の各周波数の測距用ビームについて、前記送信波を送信し、前記受信波を受信し、前記ドップラー信号を生成するビーム送受信装置と、を備えることを特徴とする距離測定システムである。
【0034】
この構成によれば、以上の効果を有する距離測定システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0035】
このように、本開示は、FSKドップラーセンサを用いて対象物の距離を測定するにあたり、対象物の速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外である可能性があるとともに、マルチパス及び他の対象物の存在の可能性もあるとしても、対象物が所望の距離範囲内に存在するかどうかを瞬時の失報又は誤報もなく安定にかつ高精度に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】従来技術の理想条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図2】従来技術の実際条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図3】従来技術の実際条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図4】従来技術の実際条件下の距離計算結果を示す図である。
【
図5】本開示の距離測定システムの構成を示す図である。
【
図6】本開示の距離計算装置の処理を示す図である。
【
図7】本開示の距離計算装置の処理を示す図である。
【
図8】本開示の実際条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図9】本開示の実際条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図10】本開示の実際条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図11】本開示の実際条件下の距離計算処理を示す図である。
【
図12】従来技術及び本開示の距離計算結果を示す図である。
【
図13】従来技術及び本開示の距離計算結果を示す図である。
【
図14】従来技術及び本開示の距離計算結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0038】
本開示の距離測定システムの構成を
図5に示す。本開示の距離計算装置の処理を
図6及び
図7に示す。距離測定システムSは、ビーム送受信装置1及び距離計算装置2を備える。ビーム送受信装置1は、発振部11、送信部12、受信部13及びミキサ部14を備え、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、送信波を送信し、受信波を受信し、ドップラー信号を生成する。距離計算装置2は、周波数変換部21、ピーク選択部22、距離計算部23、距離選択部24及び距離出力部25を備え、
図6及び
図7に示した距離計算プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0039】
図8及び
図9では、使用者Uが、個室P内に存在しており、不規則な運動をしている一方で、歩行者Wが、個室P外に存在しており、測距用ビームを横切っている状態について、本開示の実際条件下の距離計算処理を示す。
図5から
図7までも用いて説明する。
【0040】
図8の左上欄から左下欄では、周波数変換部21は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する(ステップS1)。すると、周波数変換結果は、複数の振幅ピークを有する。
【0041】
図9の右欄では、後述のように、距離出力部25が直近に出力した距離Rが、所望の距離範囲内である(ステップS2においてYES)。ここで、所望の距離範囲は、個室P内の使用者Uの有無を判定するために、個室Pの大きさに基づいて設定することができる。
【0042】
図8の右下欄では、まず、ピーク選択部22は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が大きい順序で複数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1、f
2、f
3)を選択する(ステップS3)。
【0043】
図8の右下欄では、次に、距離計算部23は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームの間について、複数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1、f
2、f
3)毎に、位相の差分φ
11-φ
12、φ
21-φ
22、φ
31-φ
32を計算したうえで、距離R
1={c(φ
11-φ
12)}/{4π(F
1-F
2)}、R
2={c(φ
21-φ
22)}/{4π(F
1-F
2)}、R
3={c(φ
31-φ
32)}/{4π(F
1-F
2)}を計算する(ステップS4)。
【0044】
図8の右下欄では、次に、距離選択部24は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームの間について、複数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1、f
2、f
3)毎に計算された距離R
1、R
2、R
3から、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離Rを選択する(ステップS5)。つまり、ピーク振幅の大きさではなく、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に基づいて、距離Rを選択する。例えば、所望の距離範囲に含まれる所望の距離は、所望の距離範囲の中心の距離つまり個室Pの中心の位置の距離に設定することができる。
【0045】
図9の右欄では、時刻t
1からt
5まで、使用者Uは、個室P内に存在しているところ、距離選択部24が選択した使用者Uの距離Rは、個室P内の距離に安定している。そして、時刻t
6からt
8まで、使用者Uは、個室P外に出る所であるところ、距離選択部24が選択した使用者Uの距離Rは、個室P内の距離から徐々に増加している。ただし、時刻t
3では、距離選択部24が選択した使用者Uの距離Rは、使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離であり、個室P内の距離より長く、直近の時刻t
2と比べてばらついている。そこで、距離出力部25は、距離選択部24が選択した距離Rの出力の可否を判定する。
【0046】
図9の右欄の時刻t
1、t
2、t
4、t
5では、距離出力部25は、距離選択部24が最新に選択した距離Rが、距離出力部25が直近に出力した距離Rと比べて、所定の変動範囲内であるため(ステップS7においてYES)、距離選択部24が最新に選択した距離Rを出力する(ステップS8)。ここで、距離出力部25は、所定の変動範囲(ステップS7)を所望の距離範囲(ステップS2)より狭い範囲に設定し、例えば、測距用ビームの反射部位のばらつき等に応じた、個室P内の使用者Uの変動範囲に設定する(ステップS6)。そして、距離出力部25が直近に出力した距離Rは、直近の複数回で出力した距離Rの平均値又は中央値であってもよく、直近の1回で出力した距離Rであってもよい。さらに、距離出力部25は、出力した距離Rの保持回数を0回に保つ(ステップS9)。
【0047】
図9の右欄の時刻t
3、t
6、t
7では、距離出力部25は、距離選択部24が最新に選択した距離Rが、距離出力部25が直近に出力した距離Rと比べて、所定の変動範囲外である状態が(ステップS7においてNO)、所定の期間も未だ継続しないため(ステップS10においてNO)、距離選択部24が最新に選択した距離Rに代えて、距離出力部25が直近に出力した距離Rを出力する(ステップS11)。具体的には、距離出力部25は、個室Pの環境に応じて、選択された距離Rの連続飛び回数を2回程度と考慮し、出力した距離Rの保持回数上限を2回と設定する。そして、距離出力部25は、出力した距離Rの保持回数を0回又は1回と判定し(ステップS10においてNO)、ステップS11を実行し、出力した距離Rの保持回数に1回を加える(ステップS12)。
【0048】
図9の右欄の時刻t
8では、距離出力部25は、距離選択部24が最新に選択した距離Rが、距離出力部25が直近に出力した距離Rと比べて、所定の変動範囲外である状態が(ステップS7においてNO)、所定の期間以上も継続するため(ステップS10においてYES)、距離選択部24が最新に選択した距離Rを出力する(ステップS8)。具体的には、距離出力部25は、個室Pの環境に応じて、選択された距離Rの連続飛び回数を2回程度と考慮し、出力した距離Rの保持回数上限を2回と設定する。そして、距離出力部25は、出力した距離Rの保持回数を2回と判定し(ステップS10においてYES)、ステップS8を実行し、出力した距離Rの保持回数に0回に戻す(ステップS9)。
【0049】
以上に説明したように、対象物の速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離、マルチパスによる距離及び他の対象物の距離を高精度に除外したうえで、個室P内の使用者Uの距離を高精度に選択することができる。よって、個室P内の使用者Uが所望の距離範囲内に存在することを、瞬時の失報又は誤報もなく、安定にかつ高精度に検出することができる。
【0050】
そして、最新に選択した距離が直近に出力した距離と比べて大きく変動する状態が、瞬時的にしか継続しないときは、直近に出力した距離を再び出力することにより、出力する距離の安定を優先させることができる。一方で、最新に選択した距離が直近に出力した距離と比べて大きく変動する状態が、長期にわたり継続するときは、最新に選択した距離を新たに出力することにより、出力する距離の更新を優先させることができる。
【0051】
さらに、直近に出力した距離が所望の距離範囲内であるときは、最新に選択する距離も所望の距離範囲内である可能性が高いところ、関心度が高い所望の距離範囲内での距離の選択について、本開示の高精度な方法を採用することができ、使用者Uが静止する所望の距離範囲内での距離の出力について、ばらつきをほぼ許容しないことができる。
【0052】
図10及び
図11では、使用者Uが、個室P外に出た後であり、不規則な運動をしている一方で、歩行者Wが、個室P外に存在しており、測距用ビームを横切っている状態について、本開示の実際条件下の距離計算処理を示す。
図5から
図7までも用いて説明する。
【0053】
図10の左上欄から左下欄では、周波数変換部21は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、送信波と受信波との間のドップラー信号を、時間領域から周波数領域へと周波数変換する(ステップS1)。すると、周波数変換結果は、複数の振幅ピークを有する。
【0054】
図10の右欄では、後述のように、距離出力部25が直近に出力した距離Rが、所望の距離範囲外である(ステップS2においてNO)。ここで、所望の距離範囲は、個室P内の使用者Uの有無を判定するために、個室Pの大きさに基づいて設定することができる。
【0055】
図10の右下欄では、まず、ピーク選択部22は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームについて、ドップラー信号の周波数変換結果から、振幅が最も大きい単数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1)を選択する(ステップS13)。
【0056】
図10の右下欄では、次に、距離計算部23は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームの間について、単数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1)において、位相の差分φ
11-φ
12を計算したうえで、単数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1)において、距離R={c(φ
11-φ
12)}/{4π(F
1-F
2)}を計算する(ステップS14)。
【0057】
図10の右下欄では、次に、距離選択部24は、各周波数F
1、F
2の測距用ビームの間について、単数の振幅ピーク(ドップラー周波数f
1)において計算された距離Rをそのまま選択する(ステップS15)。ここで、個室P内の使用者Uの有無によらず、距離測定システムSの起動において、ピーク振幅の大きさに基づいて、距離Rを選択してもよい。
【0058】
図11の右欄では、時刻t
9からt
16まで、使用者Uは、個室P外に出た後であるところ、距離選択部24が選択した使用者Uの距離Rは、個室P内の距離からさらに増加している。ただし、時刻t
11では、距離選択部24が選択した使用者Uの距離Rは、使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離であり、使用者Uの実際の距離より短く、直近の時刻t
10と比べてばらついている。そして、時刻t
14では、距離選択部24が選択した使用者Uの距離Rは、個室P外の歩行者Wの距離又は個室Pのマルチパスによる距離であり、使用者Uの実際の距離より短く、直近の時刻t
13と比べてばらついている。そこで、距離出力部25は、距離選択部24が選択した距離Rの出力の可否を判定する。
【0059】
図11の右欄の時刻t
11、t
14以外では、距離出力部25は、距離選択部24が最新に選択した距離Rが、距離出力部25が直近に出力した距離Rと比べて、所定の変動範囲内であるため(ステップS17においてYES)、距離選択部24が最新に選択した距離Rを出力する(ステップS18)。ここで、距離出力部25は、所定の変動範囲(ステップS17)を所定の変動範囲(ステップS7)より広い範囲に設定し、例えば、個室P外の使用者Uの移動速度等に応じた、個室P外の使用者Uの移動範囲に設定する(ステップS16)。そして、距離出力部25が直近に出力した距離Rは、直近の複数回で出力した距離Rの平均値又は中央値であってもよく、直近の1回で出力した距離Rであってもよい。さらに、距離出力部25は、出力した距離Rの保持回数を0回に保つ(ステップS19)。
【0060】
図11の右欄の時刻t
11、t
14では、距離出力部25は、距離選択部24が最新に選択した距離Rが、距離出力部25が直近に出力した距離Rと比べて、所定の変動範囲外である状態が(ステップS17においてNO)、所定の期間も未だ継続しないため(ステップS20においてNO)、距離選択部24が最新に選択した距離Rに代えて、距離出力部25が直近に出力した距離Rを出力する(ステップS21)。具体的には、距離出力部25は、個室Pの環境に応じて、選択された距離Rの連続飛び回数を2回程度と考慮し、出力した距離Rの保持回数上限を2回と設定する。そして、距離出力部25は、出力した距離Rの保持回数を0回又は1回と判定し(ステップS20においてNO)、ステップS21を実行し、出力した距離Rの保持回数に1回を加える(ステップS22)。
【0061】
図9の右欄に不図示だが、距離出力部25は、距離選択部24が最新に選択した距離Rが、距離出力部25が直近に出力した距離Rと比べて、所定の変動範囲外である状態が(ステップS17においてNO)、所定の期間以上も継続するとき(ステップS20においてYES)、距離選択部24が最新に選択した距離Rを出力する(ステップS18)。具体的には、距離出力部25は、個室Pの環境に応じて、選択された距離Rの連続飛び回数を2回程度と考慮し、出力した距離Rの保持回数上限を2回と設定する。そして、距離出力部25は、出力した距離Rの保持回数を2回と判定し(ステップS20においてYES)、ステップS18を実行し、出力した距離Rの保持回数に0回に戻す(ステップS19)。
【0062】
以上に説明したように、対象物の速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離、マルチパスによる距離及び他の対象物の距離を高精度に除外したうえで、個室P外の使用者Uの距離を高精度に選択することができる。よって、個室P外の使用者Uが所望の距離範囲内に存在しないことを、瞬時の失報又は誤報もなく、安定にかつ高精度に検出することができる。
【0063】
そして、最新に選択した距離が直近に出力した距離と比べて大きく変動する状態が、瞬時的にしか継続しないときは、直近に出力した距離を再び出力することにより、出力する距離の安定を優先させることができる。一方で、最新に選択した距離が直近に出力した距離と比べて大きく変動する状態が、長期にわたり継続するときは、最新に選択した距離を新たに出力することにより、出力する距離の更新を優先させることができる。
【0064】
さらに、直近に出力した距離が所望の距離範囲外であるときは、最新に選択する距離も所望の距離範囲外である可能性が高いところ、関心度が低い所望の距離範囲外での距離の選択について、従来技術の簡便な方法を採用することができ、使用者Uが移動する所望の距離範囲外での距離の出力について、ばらつきをある程度許容することができる。
【0065】
直近に出力した距離が所望の距離範囲外であるときであっても、直近に出力した距離が所望の距離範囲内であるときと同様に、本開示の高精度な方法を採用してもよい。
【0066】
従来技術及び本開示の実際条件下の距離計算結果を
図12に示す。
図12では、使用者Uが、個室P内に存在しており、不規則な運動をしており、歩行者Wが、個室P外に存在しており、測距用ビームを横切っている。すると、従来技術では、個室Pの大きさを約2mとして、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されるべきであるが、マルチパスによる距離(約4m)及び個室P外の歩行者Wの距離(約2m)が、瞬時に出力されている。しかし、本開示では、選択した距離の出力の可否を判定していないものの、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択しているため、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されており、FSKドップラーセンサが失報又は誤報する可能性が低く、電化製品及びセキュリティ等が誤作動する可能性が低い。
【0067】
従来技術及び本開示の実際条件下の距離計算結果を
図13に示す。
図13では、使用者Uが、個室P内に存在しており、不規則な運動をしている。すると、従来技術では、個室Pの大きさを約2mとして、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されるべきであるが、マルチパスによる距離(約9m)及び使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離(約3m)が、瞬時に出力されている。しかし、本開示では、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択しているとともに、選択した距離の出力の可否を判定しているため、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されており、FSKドップラーセンサが失報又は誤報する可能性が低く、電化製品及びセキュリティ等が誤作動する可能性が低い。
【0068】
従来技術及び本開示の実際条件下の距離計算結果を
図14に示す。
図14では、使用者Uが、個室P内に存在しており、不規則な運動をしており、歩行者Wが、個室P外に存在しており、測距用ビームを横切っている。すると、従来技術では、個室Pの大きさを約2mとして、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されるべきであるが、個室P外の歩行者Wの距離(約9m)、使用者Uの速度に応じたドップラー信号の周波数がセンサ回路の帯域外であることによる距離(約3m)及びマルチパスによる距離(約10m)が、瞬時に出力されている。しかし、本開示では、所望の距離範囲に含まれる所望の距離に最も近い距離を選択しているとともに、選択した距離の出力の可否を判定しているため、個室P内の使用者Uの距離(約1m)が、安定に出力されており、FSKドップラーセンサが失報又は誤報する可能性が低く、電化製品及びセキュリティ等が誤作動する可能性が低い。
【0069】
本実施形態では、距離選択部24が設定する所望の距離範囲として、近い距離範囲を設定しており、使用者Uの距離に応じて、個室の扉の開/閉及びテレビの電源のオン/オフ等を制御することができる。変形例として、距離選択部24が設定する所望の距離範囲として、近い距離範囲及び遠い距離範囲を設定してもよく、使用者Uの距離に応じて、エアコンの風向及びテレビの音量等を変化させることができる。
【0070】
本実施形態では、ビーム送受信装置1が送受信するビームとして、マイクロ波ビームを適用している。変形例として、ビーム送受信装置1が送受信するビームとして、超音波ビームを適用してもよい。本実施形態では、ビーム送受信装置1が切り替える周波数として、2種類の周波数を適用している。変形例として、ビーム送受信装置1が切り替える周波数として、3種類以上の周波数を適用してもよい。ビーム送受信装置1が切り替える周波数として、3種類の周波数F1、F2、F3を適用するときは、各周波数の組み合わせ(F1、F2)、(F1、F3)、(F2、F3)毎に、距離Rを計算したうえで、全周波数の組み合わせ(F1、F2)、(F1、F3)、(F2、F3)において、距離Rを平均すればよく、距離Rを高精度に計算することができる。ある周波数の組み合わせにおいて、弱め合う干渉が起きたとしても、他の周波数の組み合わせにおいて、距離Rを計算すればよく、弱め合う干渉への耐性が向上する。ある周波数において、家電との干渉が起きたとしても、他の周波数の組み合わせにおいて、距離Rを計算すればよく、家電との干渉への耐性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本開示の距離計算装置、距離測定システム、距離計算プログラム及び距離計算方法は、使用者の距離に応じて、個室の扉の開/閉及びテレビの電源のオン/オフ等を制御するとともに、エアコンの風向及びテレビの音量等を変化させる用途に、適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
S:距離測定システム
T:対象物
P:個室
U:使用者
W:歩行者
1:ビーム送受信装置
2:距離計算装置
11:発振部
12:送信部
13:受信部
14:ミキサ部
21:周波数変換部
22:ピーク選択部
23:距離計算部
24:距離選択部
25:距離出力部